説明

クライオポンプおよびクライオポンプの再生処理方法

【課題】安全で信頼性の高いクライオポンプの再生処理方法を提供する。
【解決手段】ポンプ室内に設置されたクライオパネルを有するクライオポンプの再生処理方法であって、クライオポンプは、前記ポンプ室内にパージガスを供給する手段、前記クライオパネルの温度を計測する手段、時間計測手段を有し、当該再生処理方法は、A)前記ポンプ室内にパージガスを供給して、前記クライオパネルの温度を上昇させるステップと、B)前記クライオパネルの温度が第1の設定温度に到達した際に、パージガスの導入を停止するステップと、C)前記時間計測手段により、パージガスの導入を停止した時点からの供給停止期間を測定するステップと、D)前記供給停止期間が、設定時間に達した際に、再度パージガスの供給を開始するステップと、を有することを特徴とするクライオポンプの再生処理方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クライオポンプおよびクライオポンプの再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体を製造する際等に必要となる高真空排気処理には、小型ヘリウム冷凍機(例えばGM(ギフォード・マクマホン)冷凍機)等によって冷却される2段式の冷却ステージを備えたクライオポンプが使用されている。このクライオポンプ10は、図1に示すように、筒型のポンプ容器2を、第1冷却ステージ15および第2冷却ステージ16を有するヘリウム冷凍機3に取り付け、ポンプ容器2のポンプ室7内に第1の(高温側)クライオパネル4を設け、この内方に第2の(低温側)クライオパネル5を設けた構造となっている。また、第2のクライオパネル5には、活性炭等の吸着剤6が設置されている。この他、クライオポンプは、以降に示す再生処理の際に、ポンプ室内の気体を排出させるための排出管およびこれに接続された排出バルブ(いずれも図示されていない)を有する。クライオポンプ10の使用時には、このポンプ容器2は、真空装置の真空室9を形成する真空容器8と連結される。
【0003】
このようなクライオポンプの構成において、稼働時には、第1のクライオパネル4は、例えば約80K(ケルビン)程度に冷却され、真空室9内の水蒸気、炭酸ガス等の、比較的沸点の高いガスを捕獲し、固定化する。第2のクライオパネル5は、例えば約10K(ケルビン)程度に冷却され、より沸点の低い、例えばアルゴン等のガスを捕獲し、固定化する。なお水素、ヘリウム等の固定化できない希ガス成分は、吸着剤6に捕獲される。このように、クライオポンプでは、第1および第2のクライオパネル4、5で、真空室9中の各種ガス成分を捕獲、固定化することにより、真空室9内に高真空を形成する。
【0004】
しかしながら、各クライオパネル4、5に固定化されるガス成分の量が多くなってくると、クライオポンプの排気量が減少し、目標の到達圧力が得られなくなる。従って、通常クライオポンプには、適当な期間運転を行った後に、ポンプ室7内に捕獲、固定化されたガス成分をポンプ室外に排出する、いわゆる再生処理が行われる。
【0005】
再生処理の際には、クライオポンプ10のポンプ室7と真空容器8の真空室9との間(図5の破線位置)にゲートバルブが介在され、両空間での流体の連通を完全に分離させた後に、冷凍機3が停止される。その後、ポンプ室7内に、パージガス導入管(図示されていない)を介して、窒素等の室温の不活性パージガスが導入される。このパージガスの導入によって、ポンプ室7内が加熱、昇温され、これにより、クライオパネル4、5の温度が上昇する。両クライオパネル4、5の温度が、固定化されている各ガス成分の融点に到達した際に、これらのガス成分が液化され、さらにガス成分の沸点に到達した際に、これらのガス成分が気化される(ただし通常の場合、ガス成分の融点と沸点は接近しているため、実質的には、ガス成分が溶融し始めると同時に気化が生じる)。従って、気化したガスをポンプ室7外に排出させることにより、固定化したガス成分が除去され、クライオポンプ10が再生される(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開平9−14133号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、クライオポンプの再生処理の際には、パージガスの導入によるポンプ室内の温度上昇のため、各クライオパネル5、6に捕獲、固定化されているガス成分が一度に気化し始める。従って、前述の排出バルブを開いた状態であっても、これらの気化したガス、およびポンプ室7内に導入されたパージガスにより、ポンプ室7の内圧が一時的に急激に上昇する場合がある。例えば、真空装置としてスパッタ装置を使用している場合、再生処理の開始時点では、クライオパネル5に大量のアルゴンガス(例えば、ガス状態で1000L相当のアルゴン)が固定化されている。従って、ポンプ室7内の温度がアルゴンの融点(あるいは液化温度)近傍に達すると、ポンプ室内では、一度に大量のアルゴンガスが気化し始め、圧力の急激な増加が起こりやすい。
【0007】
このような圧力の急上昇が生じた場合、ポンプ室内の各部品には大きな圧力負荷が加わることになるが、これは安全上およびクライオポンプの信頼性の観点からは、好ましいものではない。例えば、再生処理時にゲートバルブに耐圧限界を超える圧力負荷が加わった場合には、ゲートバルブが損壊し、クライオポンプに接続された真空装置の真空室9側に、気化したガスが混入して、真空室9が汚染される危険性がある。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みなされたものであり、安全で信頼性の高いクライオポンプおよびそのようなクライオポンプの再生処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、ポンプ室内に設置されたクライオパネルを有するクライオポンプであって、
前記ポンプ室にパージガスを供給、停止することが可能な手段と、
前記クライオパネルの温度を計測する手段と、
前記パージガスの供給停止期間を計測する手段と、
を有することを特徴とするクライオポンプが提供される。
【0010】
また本発明では、ポンプ室内に設置されたクライオパネルを有するクライオポンプの再生処理方法であって、
クライオポンプは、前記ポンプ室内にパージガスを供給する手段、前記クライオパネルの温度を計測する手段、時間計測手段を有し、
当該再生処理方法は、
A)前記ポンプ室内にパージガスを供給して、前記ポンプ室内の温度を上昇させるステップと、
B)前記クライオパネルの温度が第1の設定温度に到達した際に、パージガスの導入を停止するステップと、
C)前記時間計測手段により、パージガスの導入を停止した時点からの供給停止期間を測定するステップと、
D)前記供給停止期間が、設定時間に達した際に、再度パージガスの供給を開始するステップと、
を有することを特徴とするクライオポンプの再生処理方法が提供される。
【0011】
ここで、前記設定時間は、前記ポンプ室内に固定化された量の最も多いガス成分が実質的に気化するのに必要な時間であっても良い。
【0012】
また、本発明のクライオポンプの再生処理方法では、ステップA)とB)との間に、さらに、
B’)前記クライオパネルの温度を第2の設定温度と比較するステップを有し、
前記クライオパネルの温度が前記第2の設定温度を超えていない場合にのみ、ステップB)以降の工程が実施されても良い。
【0013】
また、前記クライオポンプは、到達温度の異なる複数のクライオパネルを有し、
前記クライオパネルの温度は、最も低温側のクライオパネルの温度であっても良い。
【0014】
この場合、前記第1の設定温度は、前記最も低温側のクライオパネルに固定化された少なくとも一つのガス成分の融点に比べて、10K(ケルビン)〜20K(ケルビン)だけ低い温度であっても良い。
【0015】
また、前記第2の設定温度は、前記最も低温側のクライオパネルに固定化された少なくとも一つのガス成分の融点に比べて、50K(ケルビン)〜100K(ケルビン)だけ高い温度であっても良い。
【0016】
あるいは、前記最も低温側のクライオパネルには、アルゴンガスが固定化され、前記第1の設定温度は、70Kであり、前記第2の設定温度は、160Kあっても良い。
【0017】
また、前記クライオポンプは、稼働時には、前記ポンプ室がスパッタ装置の真空室と接続されても良い。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、再生処理の際にポンプ室内の急激な圧力上昇が抑制されるため、安全で信頼性の高いクライオポンプが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面により本発明のクライオポンプの一構成例を説明する。
【0020】
図2には、本発明のクライオポンプの概略構成図を示す。図2に示すように、本発明のクライオポンプ100は、ヘリウム圧縮機210と、ガス配管230を介してこのヘリウム圧縮機210に接続された極低温冷凍機130とを備え、この冷凍機130には、ポンプ室170を定形するポンプ容器120が接続されている。クライオポンプ100の稼働時には、ポンプ容器120は、スパッタ装置等、高真空が必要な装置の真空容器180と連結される。冷凍機130は、第1冷却ステージ250と、第2冷却ステージ260とを有し、これらの冷却ステージは、ポンプ容器120内に収容されている。
【0021】
ガス配管230は、ヘリウム圧縮機210において圧縮されたヘリウムガスを冷凍機130に供給するためのガス配管230aと、冷凍機130のガスを再度圧縮機に送るためのガス配管230bとを有する。
【0022】
ポンプ容器120内には、前述の2つの冷却ステージ250、260によって熱伝導により冷却される、第1および第2のクライオパネル140、150が設けられている。第1のクライオパネル140は、カップ状に形成され、開口部が下向きとなるようにして、第1冷凍ステージ250に配設されている。また、第2のクライオパネル150は、カップ状に形成され、開口部が上向きとなるようにして、その底部が第2冷凍ステージ260に配設されている。第2のクライオパネル150は、第1のクライオパネル140の内方に位置する。また、第2のクライオパネル150の内方には、活性炭またはモレキュラーシーブス等の吸着剤160が設けられている。
【0023】
ポンプ容器120の側部には、ポンプ室170にパージガスを導入するためのパージガス導入管310の一端が設置されている。パージガス導入管310は、他端がパージバルブ320の一端に接続されており、パージバルブ320の他端は、配管を介してパージガス源(図示されていない)と接続されている。また、ポンプ容器120の側部には、排出バルブ330が接続された排出管340が設置されており、排出バルブ330が開いた状態の場合、排出管340を介してポンプ室170のガスが排出されるようになっている。
【0024】
ポンプ室170内には、第2のクライオパネル150の温度を測定することが可能な温度センサ(図示されていない)が設置されている。さらに、このクライオポンプ100は、タイマ等の時間測定器(図示されていない)を備えている。
【0025】
なお、図2には、クライオポンプのポンプ容器120と真空装置の真空容器180の界面に、ゲートバルブ270が示されているが、通常のクライオポンプの稼働時には、ゲートバルブ270は、ポンプ室170と真空室190の間の流体の流通を妨害しないように、別の箇所に収容されている。
【0026】
次に、このクライオポンプを稼働させる方法について説明する。
【0027】
別の真空ポンプ(図示されていない)等により、クライオポンプ100に連結された真空装置の真空室190内を、所定の圧力まで減圧させた(粗引き工程)後、クライオポンプ100の冷凍サイクルを起動させる。具体的には、ヘリウム圧縮機210を駆動させ、該ヘリウム圧縮ユニット210において圧縮されたヘリウムガスを冷凍機130に供給し、ヘリウムガスを膨張させた後、膨張したガスを再度圧縮機の方に流通させる。このようなヘリウムガスの循環を繰り返すことにより、冷凍機の第1冷却ステージ250と第2冷却ステージ260の内部空間で、ヘリウムガスの断熱膨張が生じる。これにより、第1冷却ステージ250および第2冷却ステージ260が冷却されるとともに、第1および第2のクライオパネル140、150がそれぞれの所定の温度に冷却される。通常の場合、第1のクライオパネル140は、40K(ケルビン)〜80K(ケルビン)程度の温度に冷却され、第2のクライオパネル150の温度は、約10K〜20K程度に冷却される。
【0028】
このようなクライオポンプ100の駆動によって、ポンプ容器120と連結された真空容器180の真空空間190から、ポンプ室170に気体成分が流入される。流入気体のうち、凝縮温度の高い水蒸気のような気体は、第1のクライオパネル140に凝縮、固定化され、より凝縮温度の低い酸素、窒素、アルゴン等のガスは、第2のクライオパネル150に凝縮、固定化される。また、第2のクライオパネル150で固定化することのできない水素やヘリウム等の希ガスは、吸着剤160に吸着される。
【0029】
このように、クライオポンプを作動させて、真空容器180の真空室190側から、各クライオパネル140、150および吸着剤160に気体を捕獲、固定化させることにより、真空室190内が排気され、真空室190が高真空空間となる。
【0030】
しかしながら、クライオポンプ100の稼働が継続され、クライオパネル140、150に多くのガス成分が固定化されるようになると、気体の排出速度が低下し、真空室190が所定の圧力まで減圧されなくなる場合がある。そのような場合には、クライオポンプの再生処理が必要となる。
【0031】
以下、クライオポンプの再生処理の方法について説明する。
【0032】
まず、再生処理を行う前に、真空室190とポンプ室170とを分離するため、図2に示すように、ポンプ容器120と真空容器180の間に、ゲートバルブ270が配置される。次に、クライオポンプの昇温(逆転)運転が開始される。なお、クライオポンプの昇温運転に代えて、冷凍機に装着されたヒータによる昇温でも良い。次に、ポンプ容器120に接続されたパージガス導入管310に設置されたパージバルブ320が開かれ、ほぼ真空状態となっているポンプ室170内に、室温の不活性パージガス(例えば窒素ガス)が導入される。
【0033】
このパージガスの導入により、ポンプ室170内の温度が上昇し、これに伴って、両クライオパネル140、150の温度が上昇する。両クライオパネルの温度上昇によって、これらに固定化されていたガス成分が溶融し始め、これらの凝集物がポンプ容器120の底部に落下する。
【0034】
例えば、真空装置がスパッタ装置の場合、装置の真空容器180側から排気されるガスの主成分は、アルゴンであり、この場合、再生処理を開始する直前には、第2のクライオパネル150には、アルゴンが捕獲、固定化されている。アルゴンの融点は、83.8Kであるので、再生処理の過程で、第2のクライオパネル150の温度がこの温度以上に上昇すれば、固定化されたアルゴンを液化させることができる。
【0035】
なお、固定化されている気体の沸点は、通常その融点と極めて近接している場合が多い(例えば、アルゴンの沸点は、87.3K)ため、実際には、固定化されたガス成分がポンプ容器120の底部に落下した直後から、これが急激に気化され始める。従って、従来のクライオポンプのように特別な措置を講じなければ、たとえ圧力が所定値(通常は大気圧)となった際に排出バルブ330を開いたとしても、ポンプ容器120のポンプ室170内は、気化されたガスおよび導入されたパージガスによって圧力が急激に上昇する。
【0036】
図3には、従来のクライオポンプの再生処理時のポンプ室内の圧力変化の状態をモニタしたグラフを示す。図には、第2のクライオパネルの温度変化が同時に示されている。この結果は、パージガスとして窒素(圧力500kPa)を使用し、500Lのアルゴンガスが固定化されたクライオポンプを再生処理する際に得られたものである。なお通常の場合、クライオポンプの排出管340の出口側には、排ガス処理装置等の多くのユーティリティが接続されており、クライオポンプの排出側の圧力損失は、比較的大きくなっている。そこで、本測定では、排出管340として、直径が12.7mmで全長が3mの金属管を使用し、この圧力損失状態を模擬している。
【0037】
この図に示すように、従来の再生処理では、パージガスの導入直後から、ポンプ室の内圧が急激に上昇し、約1.4分後には、圧力は、86kPaにまで達している。(なお、パージガスの導入を開始してから、約1分後に、一度ポンプ室の圧力が低下する減少が観測されている。これは、ポンプ室内に導入された窒素ガスが、未だそれ程温度が上昇していないクライオパネルに冷却固定化されて、ポンプ室の圧力が減少したことによるものである。)
通常、クライオポンプのポンプ室と真空装置の真空室とを分離するために使用されるゲートバルブは、耐圧限界が約60kPaで、比較的破損しやすい部品である。従って、このような再生処理では、ポンプ室内の急激な圧力上昇によって、ゲートバルブに加わる圧力負荷が耐圧限界を超え、ゲートバルブが破損する危険性が生じる。
【0038】
これに対して、本発明の再生方法では、このようなポンプ室内の内圧の上昇が抑制される。
【0039】
以下、本発明の再生処理の方法を詳しく説明する。なお、以下の説明では、本発明の効果をより明確に示すため、真空装置としてスパッタ装置を想定し、このスパッタ装置の真空室内を高真空処理するクライオポンプを再生する場合を例に説明する。この場合、スパッタ装置側からクライオポンプのポンプ室側には、主としてアルゴンガスが取り込まれ、従ってガス成分は、大部分が第2のクライオパネル上に固定化されている。ただし、本発明は、このような使用態様に限られるものではないことは、当業者には明らかであろう。
【0040】
図4には、本発明によるクライオポンプの再生処理のフロー図を示す。この図に示すように、再生処理は、まずステップ10において、ゲートバルブを閉じ、クライオポンプ側のポンプ室と、別の装置側の真空室とを分離してから開始される。
【0041】
次にステップ20では、冷凍機の稼働を停止させて、クライオポンプの作動が停止される。
【0042】
次にステップ30では、パージガス導入管に設置されたパージバルブが開かれ、ポンプ室内にパージガス(窒素ガス)が導入される。これにより、ポンプ室内の温度が上昇し始める。同様に、第1および第2のクライオパネルの温度が上昇する。
【0043】
次にステップ40では、アルゴンガスが固定化された第2のクライオパネルの温度が測定され、この温度が設定温度を超えているかどうかが判定される。なお、設定温度は、原理的には、固定化されたガスの融点未満の温度であればいかなる温度であってもよいが、再生処理の効率化の観点、および圧力上昇を確実に抑制するという観点からは、設定温度は、固定化されたガスの融点よりも10K〜20K程度低い温度に設定されることが好ましい。例えば、固定化されたガスがアルゴンの場合は、アルゴンの融点は、83.8Kであるため、設定温度は、64K〜74K程度にされ、例えば、約70Kであることが好ましい。なお、第2のクライオパネルに複数のガス成分が固定化されている場合には、最も融点の低いガス成分、または最も固定化された量の多いガス成分の融点を基準として、前述のように、設定温度が定められる。
【0044】
判定の結果、第2のクライオパネルの温度が設定温度よりも低い場合は、引き続き、パージガスの供給が継続される。しかしながら、測定温度が設定温度以上になったと判断された場合には、ステップ50において、パージバルブが閉じられ、パージガスの供給が停止される。これにより、その後、第2のクライオパネルの温度が、アルゴンガスの融点、さらには沸点を超え、固定化されたアルゴンガスが溶融、気化する温度に到達した際に、ポンプ室の圧力を最小限に抑制することが可能になる。なお、第2のクライオパネルの温度が上昇する過程のいずれかの時点において(通常は、ポンプ室が大気圧以上となった場合)、排出バルブが開かれるが、この動作は、通常の再生処理の場合と同じであり、ここではこれ以上説明しない。また、パージガスの供給が停止されると同時に、クライオポンプに備えられたタイマの設定がゼロにされ、パージガスの供給停止期間の測定が開始される(ステップ60)。
【0045】
次にステップ70では、タイマの経過時間が設定値と比較される。その結果、パージバルブを閉じて、ポンプ室内へのパージガスの供給を遮断してからの時間が、設定時間よりも短い場合には、パージガスの供給停止が継続される。一方、パージガスの供給を停止してからの時間が、設定時間に達した場合には、ステップ80において、パージバルブが開かれ、ポンプ室へのパージガスの導入が再開される。なお、設定時間は、再生処理開始の直前までに第2のクライオパネルに固定化されていた主要ガス成分(すなわち、最も固定化された量の多いガス成分)が、ほぼ全体的に気化し得るような時間に設定される。この設定時間は、経験的に、あるいは計算により実験的に定めても良い。例えば、スパッタ装置の場合、第2のクライオパネルに固定化される主要ガス成分は、アルゴンであり、クライオポンプの第2のクライオパネルには、最大で約1000L程度のアルゴンガスが固定化される場合がある。この場合、固定化されたアルゴンは、パージガスの導入を停止してから約3分程度で、ほぼ液化および気化することが経験的におよび実験的に確認されている。従って、このような場合には、タイマの設定時間は、3分程度に設定される。
【0046】
ステップ80において、パージガスの導入が再開された後、ステップ90では、固定化されたガスがポンプ室から完全に排出されたことを確認するため、ポンプ室内の温度が閾値と比較される。すなわち、ポンプ室内の温度が閾値(例えば、室温+5〜20℃であって、40℃前後が好ましい)よりも低い場合には、固定化されたガスがまだポンプ室内に残留していることが予想されるため、パージガスの導入が継続される。これに対して、ポンプ室内の温度が閾値以上となった場合には、固定化されていたガスは、ほぼ完全にポンプ室外に排出されたと判断できるため、次のステップ100に移行する。なお、ポンプ室内の温度の代わりに、第1もしくは第2のクライオパネルの温度、または第1もしくは第2冷却ステージの温度を使用しても良い。
【0047】
ステップ100では、パージバルブが閉止され、パージガスの導入が停止され、クライオポンプの再生処理が完了する。
【0048】
このような本発明の再生処理方法では、ポンプ室内に固定化されたガス成分の気化が生じる前にパージガスの導入が停止されるため、従来のクライオポンプの再生処理の際に生じるような、ポンプ室内の急激な圧力上昇が抑制される。
【0049】
なお、通常、再生処理の段階では、クライオポンプに接続されている装置は使用することができない。従って、装置稼働率の観点からは、クライオポンプの再生処理は、できるだけ短時間で完了させることが好ましい。本発明の再生処理方法では、パージガスの停止期間がタイマにより測定され、パージガスの停止期間を、内圧の急激な上昇を抑制することが可能となる範囲で、できる限り短くするように調節することができるため、再生処理の時間が長期化して、真空装置の稼働率が低下するという問題が生じることを回避することができる。
【0050】
図5には、本発明の再生処理を実施するための別のフロー図を示す。この方法は、前述の図4のフロー図に示す方法とほぼ同様であるが、この方法では、ステップ30’(図4のステップ30に相当)とステップ40’(図4のステップ40に相当)の間に、ステップ35’が設けられている点が異なっている。すなわち、本方法では、ステップ35’において、第2のクライオパネルの温度が、第2の設定温度(この温度は、ステップ40’での設定温度よりも高い)と比較される。第2の設定温度は、固定化されているガス成分の融点よりも50K〜100Kだけ高い温度に設定される。例えば、固定化されているガスがアルゴンの場合は、130K〜180Kの範囲の温度であって、例えば160K程度に設定される。
【0051】
ステップ35’において、第2のクライオパネルの温度が、第2の設定温度以下であった場合には、ステップ40’に移行する。その後の工程は、前述の図4において説明したもの(ステップ40以降の工程)と同様である。しかしながら、第2のクライオパネルの温度が、第2の設定温度よりも高い場合には、ステップ90’(図4のステップ90に相当)に移行し、ステップ40’〜ステップ80’の工程は実施されない。
【0052】
このステップ35’の目的は、対象とするクライオポンプにおいて、本発明の再生処理を実施することが妥当であるかどうかを判断することである。すなわち、再生処理の開始直後に、第2のクライオパネルの温度が捕獲された主要ガス成分の沸点を大きく超えている場合には、捕獲されたガスは、既に気化して排出されているものと考えられる。従って、このような場合に、以降のステップでパージガスの導入を停止させても、ポンプ室の圧力上昇抑制という点では、あまり効果はないと考えられる。むしろ、パージガスの導入停止によって、再生処理時間が長期化することも考えられる。この方法では、ステップ35’の判定工程を設けることにより、第2のクライオパネルが第2の設定温度を上回っている場合に、ステップ40’以降の処理を回避することができるようになっている。従って、パージガスの停止ステップを実施せずに、パージガスの供給を継続することで、再生時間の短縮を図ることができるという効果が得られる。
【0053】
図6には、本発明の方法(図5のフロー)でクライオポンプの再生処理を行った際の、ポンプ室内の圧力変化および第2のクライオパネルの温度変化をモニタしたグラフ(模式図)を示す。この測定の実験条件は、前述の図3の測定に使用したものと同様である。
【0054】
この図に示すように、ポンプ室内の圧力は、O点、すなわち再生処理の開始(窒素パージガスの導入)直後から上昇し始める。なお、初期の圧力上昇過程において、S点以降、一度圧力が低下する挙動が認められるが、これは、前述のような窒素ガスの固定化によるものである。
【0055】
本発明の再生方法では、第2のクライオパネルの温度がモニタされており、この温度が70Kに到達した時点(図のP点)で、窒素ガスの供給が停止される。このため、窒素ガスの停止以降のポンプ室内の圧力は、ポンプ室内に固定化されているガス成分(アルゴン)の気化による寄与のみによって上昇することとなり、前述の図3に示すような急激な圧力上昇は生じなくなる。この結果、ポンプ室内の圧力は、最大でも33kPaに抑制される(T点)。従って、本発明の再生処理方法では、ポンプ内に設置されている各部品が再生処理時の圧力負荷によって破損したり、損壊したりする危険性が解消される。例えば、本発明の再生処理方法では、ゲートバルブ(耐圧限界圧力66kPa)が加圧によって破損する危険性が回避される。
【0056】
窒素ガスの供給を停止してから3分後(図のQ点)に、再度、窒素ガスによるパージが開始され、ポンプ室内の圧力は、再上昇する(図のU点)。ただし、この段階では、ポンプ室内には、あまり多くのアルゴンガスが含有されてはいないため、ポンプ室の温度が上昇しても、ポンプ室内の圧力は、あまり上昇せず(圧力は、最大でも16kPa程度)、この圧力上昇によるクライオポンプの部品への影響は、ほとんど生じないことは明らかである。
【0057】
このように本発明のクライオポンプの再生方法では、より安全で信頼性の高い再生処理が可能となる。
【0058】
なお、本発明は、上記の構成に限られるものではないことは、当業者には明らかである。例えば、図4の場合、再生処理のステップ40では、第2のクライオパネルの温度と第1の設定温度とが比較される。しかしながら、このステップは、例えば、第2冷却ステージの温度と第1の設定温度とを比較しても良い。また、上記記載では、再生処理によって、第2のクライオパネルに固定化されたガス成分(アルゴン)をポンプ室外へ排出する場合を例に説明した。しかしながら、第1のクライオパネルに固定化されたガス成分をポンプ室外へ排出する再生処理の際にも、本発明を適用することが可能であることは、当業者には明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、半導体製造装置の真空室を高真空に処理するクライオポンプおよびその再生方法に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】真空装置の真空室に接続された、従来のクライオポンプの概略構成図である。
【図2】真空装置の真空室に接続された、本発明のクライオポンプの概略構成図である。
【図3】従来のクライオポンプの再生処理の際の、ポンプ室内の圧力変化と、第2のクライオパネルの温度変化を示したグラフである。
【図4】本発明によるクライオポンプの再生処理のフロー図である。
【図5】本発明によるクライオポンプの別の再生処理のフロー図である。
【図6】本発明によるクライオポンプの再生処理の際の、ポンプ室内の圧力変化と、第2のクライオパネルの温度変化を示したグラフである。
【符号の説明】
【0061】
2 ポンプ容器
3 ヘリウム冷凍機
4 第1のクライオパネル
5 第2のクライオパネル
6 吸着剤
7 ポンプ室
8 真空容器
9 真空室
10 クライオポンプ
11 ゲートバルブ
15 第1冷却ステージ
16 第2冷却ステージ
100 クライオポンプ
120 ポンプ容器
130 冷凍機
140 第1のクライオパネル
150 第2のクライオパネル
160 吸着剤
170 ポンプ室
180 真空容器
190 真空室
210 ヘリウム冷凍機
230 配管
250 第1冷却ステージ
260 第2冷却ステージ
270 ゲートバルブ
310 パージガス導入管
320 パージバルブ
330 排出管
340 排出バルブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ室内に設置されたクライオパネルを有するクライオポンプであって、
前記ポンプ室にパージガスを供給、停止することが可能な手段と、
前記クライオパネルの温度を計測する手段と、
前記パージガスの供給停止期間を計測する手段と、
を有することを特徴とするクライオポンプ。
【請求項2】
ポンプ室内に設置されたクライオパネルを有するクライオポンプの再生処理方法であって、
クライオポンプは、前記ポンプ室内にパージガスを供給する手段、前記クライオパネルの温度を計測する手段、時間計測手段を有し、
当該再生処理方法は、
A)前記ポンプ室内にパージガスを供給して、前記ポンプ室内の温度を上昇させるステップと、
B)前記クライオパネルの温度が第1の設定温度に到達した際に、パージガスの導入を停止するステップと、
C)前記時間計測手段により、パージガスの導入を停止した時点からの供給停止期間を測定するステップと、
D)前記供給停止期間が、設定時間に達した際に、再度パージガスの供給を開始するステップと、
を有することを特徴とするクライオポンプの再生処理方法。
【請求項3】
前記設定時間は、前記ポンプ室内に固定化された量の最も多いガス成分が実質的に気化するのに必要な時間であることを特徴とする請求項2に記載のクライオポンプの再生処理方法。
【請求項4】
さらに、ステップA)とB)との間に、
B’)前記クライオパネルの温度を第2の設定温度と比較するステップを有し、
前記クライオパネルの温度が前記第2の設定温度を超えていない場合にのみ、ステップB)以降の工程が実施されることを特徴とする請求項2または3に記載のクライオポンプの再生処理方法。
【請求項5】
前記クライオポンプは、到達温度の異なる複数のクライオパネルを有し、
前記クライオパネルの温度は、最も低温側のクライオパネルの温度であることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか一つに記載のクライオポンプの再生処理方法。
【請求項6】
前記第1の設定温度は、前記最も低温側のクライオパネルに固定化された少なくとも一つのガス成分の融点に比べて、10K(ケルビン)〜20K(ケルビン)だけ低い温度であることを特徴とする請求項5に記載のクライオポンプの再生処理方法。
【請求項7】
前記第2の設定温度は、前記最も低温側のクライオパネルに固定化された少なくとも一つのガス成分の融点に比べて、50K(ケルビン)〜100K(ケルビン)だけ高い温度であることを特徴とする請求項5または6に記載のクライオポンプの再生処理方法。
【請求項8】
前記最も低温側のクライオパネルには、アルゴンガスが固定化され、前記第1の設定温度は、70Kであり、前記第2の設定温度は、160Kであることを特徴とする請求項5に記載のクライオポンプの再生処理方法。
【請求項9】
前記クライオポンプは、稼働時には、前記ポンプ室がスパッタ装置の真空室と接続されることを特徴とする請求項2乃至8のいずれか一つに記載のクライオポンプの再生処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−215177(P2008−215177A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−53257(P2007−53257)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】