説明

クラッチレリーズ軸受

【課題】軸受のフロント側の外側に部品を設置することなく、トルクが増大することなく、かつ、水が軸受内部に侵入しにくいシール構造としたクラッチレリーズ軸受を提供する。
【解決手段】クラッチレリーズ軸受10は、外輪20と、内輪30と、外輪20と内輪30の間に転動可能に配置された複数の転動体14と、転動体14を回動自在に保持する保持器16を備えている。そして、外輪20の一側端部には径方向内方に延びる外輪鍔部22が形成され、外輪鍔部22が形成された一側と同じ側に外輪鍔部22から軸受内方に所定の間隔をおいて内輪30の一側端部38が形成されている。そして、外輪鍔部22の軸受内方には外輪20の内径面に固定され径方向内方へ延設された遮蔽部材40が配設されており、遮蔽部材40は内輪30と非接触とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はクラッチレリーズ軸受に関する。具体的には、クラッチ機構の回転部材と接触して外輪が回転するタイプのクラッチレリーズ軸受の密封構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジンとトランスミッションとの間に配設されるクラッチ装置にはクラッチレリーズ軸受が組み込まれている。このクラッチレリーズ軸受の内部に泥水等の異物が入ってしまうと、軸受内部に封入されたグリース等の潤滑油が劣化し、軸受内部に錆が発生して、軸受の寿命低下を引き起こす。
そこで、従来のクラッチレリーズ軸受には、軸受外部から軸受内部への泥水等の異物の侵入を防ぎ、軸受内部に封入されているグリース等の潤滑油の軸受外部への流出を防ぐために、内輪又は外輪のいずれか一方に固定され他方に摺接する接触タイプのシールを内輪と外輪の間に配置した構成の密封構造を採用しているものがある。
【0003】
先行技術文献として、特開2001−311437号公報(特許文献1)には、外輪回転タイプのクラッチレリーズ軸受について、内輪に固定されたシール部材が外輪に摺接する構成の密封構造が記載されている。また、特開2006−9826号公報(特許文献2)には、外輪回転タイプのクラッチレリーズ軸受について、外輪に固定されたシール部材が内輪に摺接する構成の密封構造が記載されている。
【0004】
図4に、特許文献1に記載されたクラッチレリーズ軸受とほぼ同一の構成のクラッチレリーズ軸受110の部分断面図を示す。図4に示すように、クラッチレリーズ軸受110は、外輪120の一端部に径方向内方に延びる鍔部122が形成され、ダイヤフラムスプリング(クラッチ機構の回転部材)112と外輪120の鍔部122の接触により外輪120が回転するタイプのクラッチレリーズ軸受である。
そして、外輪120との間に複数の玉(転動体)114が転動可能に配置される内輪130の内周には自動調心用の弾性スリーブ140が固着されており、内輪130の一端部において弾性スリーブ140からシール部材142が突設形成されている。そして、シール部材142の先端を外輪120の鍔部122の軸受内方の側面に摺接させて外輪120と内輪130の間の隙間を塞ぐ構造となっている。また、軸方向の他端では、内輪130にスリンガ150を外嵌め固定し、外輪120に外嵌め固定されたオイルシール152の先端を軸受外方からスリンガ150に摺接させて、外輪120と内輪130の間の隙間を塞ぐ構造となっている。よって、クラッチレリーズ軸受110は、潤滑油が漏れにくく泥水が侵入しにくい構造であるため、良好な潤滑性と耐水性を維持できると考えられる。
【特許文献1】特開2001−311437号公報
【特許文献2】特開2006−9826号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、クラッチレリーズ軸受は低トルク化の要請がある。そして、図4に示したクラッチレリーズ軸受110では、シール部材142が外輪120の鍔部122に接触する構造であるため、外輪120の回転による鍔部122とシール部材142との接触摩擦によりトルクが増大するという問題がある。
そして、低トルク化のために、シール部材142を外輪120の鍔部122に対して軽接触または非接触とすると、雨の日のような、クラッチレリーズ軸受110に大量の水がかかる環境では、シール部材142と外輪120の鍔部122の間を通って、水が軸受の内部に侵入することを、抑止することが困難となる。
なお、クラッチ機構の回転部材が配設されるクラッチレリーズ軸受のフロント側では、クラッチ機構の回転部材が外輪に接触する構造のため、クラッチレリーズ軸受の軸受外部に軸受を密封構造とするための部品を設置するスペースを確保することが困難であることに留意しなければならない。
【0006】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、軸受のフロント側の外側に部品を設置することなく、トルクが増大することなく、かつ、水が軸受内部に侵入しにくいシール構造としたクラッチレリーズ軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、上記課題を解決するため、本発明に係るクラッチレリーズ軸受は次の手段をとる。
まず、本発明の第1の発明は、外輪と、内輪と、外輪と内輪の間に転動可能に配置された複数の転動体と、転動体を回動自在に保持する保持器を備え、
前記外輪の一側端部には径方向内方に延びる外輪鍔部が形成されると共に、該外輪鍔部の軸受外部の側面はクラッチ機構の回転部材が接触する接触面とされ、該外輪鍔部が形成された一側と同じ側に該外輪鍔部から軸受内方に所定の間隔をおいて前記内輪の一側端部が形成された、クラッチレリーズ軸受であって、
前記外輪鍔部の軸受内方には外輪の内径面に固定され径方向内方へ延設された遮蔽部材が配設されており、該遮蔽部材は前記内輪と非接触とされていることを特徴とする。
この第1の発明によれば、遮蔽部材は外輪鍔部の軸受内側に配設されている。そして、軸受のフロント側外輪の内径面に固定された遮蔽部材は内輪と非接触であるため、トルクが増大することはない。
また、遮蔽部材が外輪鍔部の軸受内方で外輪の内径面に固定されているので、外輪鍔部と内輪の一側端部の間から泥水等の異物が軸受の内部に侵入した場合でも、異物は外輪および遮蔽部材の回転による遠心力により軸受内部の径方向外方へ導かれ、外輪の内径側の外輪鍔部と遮蔽部材の間で行き止まりとなる。よって、泥水等の異物が遮蔽部材の軸方向内方まで侵入することがないので、遮蔽部材の軸方向内方に封入されているグリース等の潤滑油と泥水の混合によるグリースの劣化、錆びの発生等による軸受の寿命の低下が抑止される。
よって、軸受のフロント側の外側に部品を設置することなく、トルクが増大することなく、かつ、水が軸受内部に侵入しにくいシール構造としたクラッチレリーズ軸受を提供することができる。
【0008】
次に、本発明の第2の発明は、前記第1の発明に係るクラッチレリーズ軸受であって、前記外輪鍔部と前記内輪の一側端部の間には、該内輪の一側端部に固定され、該外輪鍔部とは非接触の近接状態とされたシール部材が配設されており、前記シール部材は前記遮蔽部材と非接触とされていることを特徴とする。
この第2の発明によれば、シール部材は外輪鍔部と内輪の一側端部の間に配設されており、軸受の外部には部品を配置していない。そして、内輪の一側端部に固定されたシール部材が外輪鍔部と非接触の近接状態でラビリンスを形成するので、外輪鍔部とシール部材の隙間からの泥水等の異物の軸受内部への侵入が抑止される。また、泥水等の異物が外輪鍔部とシール部材の隙間から軸受内部に侵入した場合でも、異物は外輪および遮蔽部材の回転による遠心力により軸受内部の径方向外方へ導かれ、外輪の内径側の外輪鍔部と遮蔽部材の間で行き止まりとなるため、グリース等の潤滑油が封入された部位への異物の侵入が抑止される。なお、シール部材は外輪鍔部及び遮蔽部材と非接触であるため、トルクが増大することはない。
【0009】
次に、本発明の第3の発明は、前記第2の発明に係るクラッチレリーズ軸受であって、前記遮蔽部材の径方向内方の先端は軸線方向で所定の幅を有し、該遮蔽部材の径方向内方の先端が前記シール部材と非接触の近接状態とされていることを特徴とする。
この第3の発明によれば、遮蔽部材の径方向内方の先端とシール部材により、遠心力が働く方向と垂直な軸線方向のラビリンスが形成されており、遮蔽部材の回転によって異物が軸受内部に導かれる構造ではない。よって、外輪鍔部とシール部材の隙間から泥水等の異物が軸受内部へ侵入し、異物が遮蔽部材の先端とシール部材の隙間に達した場合でも、遮蔽部材の先端とシール部材によって形成されるラビリンスにより、異物の軸受内方への侵入が抑止される。
【0010】
次に、本発明の第4の発明は、前記第2の発明または第3の発明に係るクラッチレリーズ軸受であって、
前記シール部材には前記外輪鍔部と前記遮蔽部材の間隙に延設され、該外輪鍔部とは非接触とされ、該遮蔽部材とは非接触の近接状態とされたシールリップが形成されていることを特徴とする。
この第4の発明によれば、シールリップが遮蔽部材とシール部材の径方向の隙間を軸受外方から覆う。そのため、外輪鍔部とシール部材の隙間から泥水等の異物が軸受内部に侵入した場合でも、シールリップにより、遮蔽部材とシール部材の径方向の隙間から軸受内部への異物の侵入が抑止される。
また、異物がシールリップの先端に達した場合でも、シールリップの先端よりも径方向外方では、外輪の内径面に固定された遮蔽部材により異物の軸受内方への侵入が抑止され、シールリップの先端よりも径方向内方では、シールリップと遮蔽部材によって形成されるラビリンスにより異物の軸受内方への侵入が抑止される。
【発明の効果】
【0011】
上述の本発明の各発明によれば、次の効果が得られる。
まず、上述の第1の発明によれば、遮蔽部材は外輪鍔部の軸受内側に配設されている。また、外輪の内径面に固定された遮蔽部材は内輪と非接触であるため、トルクが増大することはない。また、外輪鍔部と内輪の一側端部の間から泥水等の異物が軸受内部に侵入した場合でも、外輪の内径側の外輪鍔部と遮蔽部材の間で行き止まりとなり、異物が遮蔽部材の軸方向内方まで侵入することがない。よって、グリース等の潤滑油と泥水の混合によるグリースの劣化、錆びの発生等による軸受の寿命が低下が抑止される。よって、軸受のフロント側の外側に部品を設置することなく、トルクが増大することなく、かつ、水が軸受内部に侵入しにくいシール構造としたクラッチレリーズ軸受を提供することができる。
次に、上述の第2の発明によれば、シール部材は外輪鍔部と内輪の一側端部の間に配設されており、軸受の外部には部品を配置していない。そして、外輪鍔部とシール部材がラビリンスを形成し、泥水等の異物の軸受内部への侵入が抑止される。また、泥水等の異物が外輪鍔部とシール部材の隙間から軸受内部に侵入した場合でも、異物は外輪および遮蔽部材の回転による遠心力により軸受内部の径方向外方へ導かれ、外輪の内径側の外輪鍔部と遮蔽部材の間で行き止まりとなるため、グリース等の潤滑油が封入された部位への異物の侵入が抑止される。また、シール部材は外輪鍔部と非接触であるため、トルクが増大することはない。
次に、上述の第3の発明によれば、外輪鍔部とシール部材の隙間からの泥水等の異物が軸受内部へ侵入し、異物が遮蔽部材の先端とシール部材の隙間に達した場合でも、遮蔽部材の先端とシール部材によって形成されるラビリンスにより、異物の軸受内方への侵入が抑止される。
次に、上述の第4の発明によれば、外輪鍔部とシール部材の隙間から泥水等の異物が軸受内部に侵入した場合でも、シールリップが遮蔽部材とシール部材の径方向の隙間を軸受外方から覆うので、遮蔽部材とシール部材の径方向の隙間から軸受内部への異物の侵入が抑止される。また、異物がシールリップの先端に達した場合でも、シールリップの先端よりも径方向外方では、外輪の内径面に固定された遮蔽部材により異物の軸受内方への侵入が抑止され、シールリップの先端よりも径方向内方では、シールリップと遮蔽部材によって形成されるラビリンスにより異物の軸受内方への侵入が抑止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態について実施例にしたがって説明する。
【実施例1】
【0013】
図1に本発明の実施例1におけるクラッチレリーズ軸受10の部分断面図を示す。クラッチレリーズ軸受10は外輪20と、内輪30と、外輪20と内輪30の間に転動可能に配置された複数の玉(転動体)14と、保持器16とを備えた外輪回転タイプのクラッチレリーズ軸受である。
そして、外輪20の一端部には径方向内方に延びる外輪鍔部22が形成されると共に、外輪鍔部22の軸受外方の側面はダイヤフラムスプリング12が接触する接触面24とされている。ダイヤフラムスプリング12が本発明のクラッチ機構の回転部材である。そして、外輪鍔部22が形成された一側と同じ側の内輪30の端部が外輪鍔部22の軸受内方に対向して、内輪30の一側端部38とされている。なお、外輪20および内輪30はプレス加工により形成される。
【0014】
そして、外輪鍔部22の軸受内方には外輪20の内径面28に固定され径方向内方へ延設された遮蔽部材40が配設されている。遮蔽部材40は金属製であって、外輪20の内径面に圧入され固定されている。そして、遮蔽部材40の内径側先端42は内輪30とは非接触とされている。なお、遮蔽部材40は樹脂製とすることもできる。
【0015】
そして、クラッチレリーズ軸受10の他端部には、外輪20に外嵌めされた第2シール部材60が装着されており、第2シール部材60の先端に形成されたシールリップ62が内輪30の外周面に摺接する構成とされている。そして、第2シール部材60の軸受外方には、内輪30に内嵌めされたスリンガ64が、第2シール部材60に近接して配設されている。
【0016】
この実施例1によれば、遮蔽部材40は外輪鍔部22の軸受内側に配設されており、クラッチレリーズ軸受10のフロント側の外側に部品を設置することはない。そして、外輪20の内径面28に固定された遮蔽部材40は内輪30と非接触であるため、トルクが増大することはない。また、遮蔽部材40が外輪鍔部22の軸受内方で外輪20の内径面28に固定されているので、外輪鍔部22と内輪30の一側端部38の間から泥水等の異物が軸受内部に侵入した場合でも、異物は外輪20および遮蔽部材40の回転による遠心力により軸受内部の径方向外方へ導かれ、外輪20の内径側の外輪鍔部22と遮蔽部材40の間で行き止まりとなる。よって、泥水等の異物が遮蔽部材40の軸方向内方まで侵入することがないので、遮蔽部材40の軸方向内方に封入されているグリース等の潤滑油と泥水の混合によるグリースの劣化、錆びの発生等を抑止することができ、軸受の寿命の低下を抑止することができる。
よって、軸受のフロント側の外側に部品を設置することなく、トルクが増大することなく、かつ、水が軸受内部に侵入しにくいシール構造としたクラッチレリーズ軸受を提供することができる。
【0017】
なお、実施例1では、遮蔽部材40の内径側先端42の向きを軸線方向に垂直としているが、内径側先端42を軸受内方に傾斜させる構成としてもよい。遮蔽部材40の内径側先端42を軸受内方に傾斜させれば、遮蔽部材40の回転による遠心力により、遮蔽部材40の内径側先端42の付近に介在する泥水等の異物を、遮蔽部材40と外輪鍔部22の間の径方向外方へ導くことができる。よって、遮蔽部材40の内径側先端42と内輪30の隙間から異物が軸受内方に侵入するのを抑止することができる。また、遮蔽部材40の内径側先端42を軸受内方に傾斜させ、さらに、遮蔽部材40の内径側先端42を内輪30の外径面に近接させた状態で軸受内方へ軸線方向に延設してもよい。
【実施例2】
【0018】
図2に本発明の実施例2におけるクラッチレリーズ軸受10Aの部分断面図を示す。クラッチレリーズ軸受10Aは外輪20と、内輪30と、外輪20と内輪30の間に転動可能に配置された複数の玉(転動体)14と、保持器16とを備えた外輪回転タイプのクラッチレリーズ軸受である。
そして、外輪20の一端部には径方向内方に延びる外輪鍔部22が形成されると共に、外輪鍔部22の軸受外方の側面はダイヤフラムスプリング12が接触する接触面24とされている。そして、外輪鍔部22が形成された一側と同じ側の内輪30の一端部には、径方向内方に延びる内輪鍔部34が外輪鍔部22と所定の間隔をおいて形成されている。この内輪鍔部34の外輪鍔部22側の側面が、本発明の内輪30の一側端部38である。そして、内輪30には、内輪鍔部34から軸受内方に、軸線方向に円筒形の筒状部32が形成されている。なお、外輪20および内輪30は実施例1と同様に、プレス加工により形成される。
【0019】
そして、内輪30の筒状部32から内輪鍔部34に跨って、第1シール部材50が配設されている。この第1シール部材50が本発明のシール部材に相当する。この第1シール部材50は、金属製の芯金52にゴム製の被覆部54を装着した円環状の部材であって、軸受の組立時に内輪30に対して内輪鍔部34が形成された側から圧入され、内輪30の筒状部32に形成された係合溝36に係合して内輪30に固定されている。そして、第1シール部材50は、被覆部54と一体で形成されたゴム製のアキシアルリップ56を備えている。
そして、アキシアルリップ56は、外輪鍔部22の先端26と狭小な間隔で近接し外輪20と非接触とされている。なお、実施例2では被覆部54およびアキシアルリップ56をゴム製としているが、これらは、軟質樹脂製としても良い。
なお、クラッチレリーズ軸受10Aの他端部は実施例1と同様の構成であるので、同一の符号を付して説明を省略する。
【0020】
そして、外輪鍔部22の軸受内方には外輪20の内径面28に固定され径方向内方へ延設された遮蔽部材40が配設されている。遮蔽部材40は金属製であって、外輪20の内径面に圧入され固定されている。そして、遮蔽部材40の内径側先端42は第1シール部材50とは非接触とされている。なお、遮蔽部材40は樹脂製とすることもできる。
【0021】
この実施例2によれば、第1シール部材50は外輪鍔部22と内輪30の一側端部38の間に配設され、クラッチレリーズ軸受10Aのフロント側の外側に部品を設置することはない。そして、内輪30の一側端部38に固定された第1シール部材50が外輪鍔部22と非接触の近接状態でラビリンスを形成するので、外輪鍔部22と第1シール部材50の隙間からの泥水等の異物の軸受内部への侵入が抑止される。また、遮蔽部材40が外輪鍔部22の軸受内方で外輪20の内径面28に固定されているので、泥水等の異物が外輪鍔部22とシール部材40の隙間から軸受内部に侵入した場合でも、異物は外輪20と遮蔽部材40の回転による遠心力により軸受内部の径方向外方へ導かれ、外輪20の内径側の外輪鍔部22と遮蔽部材40の間で行き止まりとなる。よって、泥水等の異物が遮蔽部材40の軸方向内方まで侵入することがない。よって、グリース等の潤滑油が封入された部位への異物の侵入が抑止される。なお、第1シール部材50は外輪鍔部22及び遮蔽部材40と非接触のため、トルクが増大することはない。
【実施例3】
【0022】
図3に本発明の実施例3におけるクラッチレリーズ軸受10Bの部分断面図を示す。クラッチレリーズ軸受10Bは、遮蔽部材40の径方向内方の内径側の先端部が軸受内方に折り曲げられ、軸線方向で所定の幅を有する内径側先端42が形成されて、断面がコの字型の円環状とされていること、および、遮蔽部材40の内径側先端42が第1シール部材50と非接触の近接状態とされていることを特徴とする。
また、第1シール部材50には外輪鍔部22と遮蔽部材40の間隙に延設され、外輪鍔部22とは非接触とされ、遮蔽部材40とは非接触の近接状態とされたシールリップ58が形成されていることを特徴とする。
なお、実施例3のクラッチレリーズ軸受10Bの他の構成は実施例2のクラッチレリーズ軸受10Aと同様であるので、同じ符号を付して、詳細な説明は省略する。
【0023】
この実施例3によれば、第1シール部材50のシールリップ58が蓋の役割をして、遮蔽部材40と第1シール部材50の径方向の隙間を軸受外方から覆う。そのため、外輪鍔部22と第1シール部材50の隙間から泥水等の異物が軸受内部に侵入した場合でも、シールリップ58により塞がれた遮蔽部材40と第1シール部材50の径方向の隙間に異物は侵入することができない。
また、異物がシールリップ58の先端に達した場合でも、シールリップ58の先端よりも径方向外方では、外輪20の内径面28に固定された遮蔽部材40により異物の軸受内方への侵入が抑止され、シールリップ58の先端よりも径方向内方では、シールリップ58と遮蔽部材40によって形成されるラビリンスにより異物の軸受内方への侵入が抑止される。
【0024】
また、この実施例3によれば、遮蔽部材40の内径側先端42と第1シール部材50により、遠心力が働く方向と垂直な軸線方向のラビリンスが形成されるが、ラビリンスは遮蔽部材40の回転によって異物が軸受内部に導かれる構造ではない。よって、外輪鍔部22と第1シール部材50の隙間からの泥水等の異物が軸受内部へ侵入し、異物が遮蔽部材40の内径側先端42と第1シール部材50の隙間に達した場合でも、遮蔽部材40の内径側先端42と第1シール部材50によって形成されるラビリンスにより、異物の軸受内方への侵入が抑止される。
【0025】
上記の各実施例では、外輪の内径面に固定される遮蔽部材は、外輪に圧入される構成としているが、遮蔽部材をCリング構造とし、外輪の内径面に溝を形成して、溝に嵌め込む構成としてもよい。その他、本発明に係るクラッチレリーズ軸受はその発明の思想の範囲で、各種の形態で実施できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施例1におけるクラッチレリーズ軸受の部分断面図である。
【図2】実施例2におけるクラッチレリーズ軸受の部分断面図である。
【図3】実施例3におけるクラッチレリーズ軸受の部分断面図である。
【図4】従来技術によるクラッチレリーズ軸受の部分断面図である。
【符号の説明】
【0027】
10、10A、10B クラッチレリーズ軸受
12 ダイヤフラムスプリング
14 玉(転動体)
16 保持器
20 外輪
22 外輪鍔部
24 接触面
26 先端
30 内輪
32 筒状部
34 内輪鍔部
36 係合溝
38 一側端部
40 遮蔽部材
42 内径側先端
50 第1シール部材
52 芯金
54 被覆部
56 アキシアルリップ
58 シールリップ
60 第2シール部材
62 シールリップ
64 スリンガ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と、内輪と、外輪と内輪の間に転動可能に配置された複数の転動体と、転動体を回動自在に保持する保持器を備え、
前記外輪の一側端部には径方向内方に延びる外輪鍔部が形成されると共に、該外輪鍔部の軸受外部の側面はクラッチ機構の回転部材が接触する接触面とされ、該外輪鍔部が形成された一側と同じ側に該外輪鍔部から軸受内方に所定の間隔をおいて前記内輪の一側端部が形成された、クラッチレリーズ軸受であって、
前記外輪鍔部の軸受内方には外輪の内径面に固定され径方向内方へ延設された遮蔽部材が配設されており、該遮蔽部材は前記内輪と非接触とされていることを特徴とするクラッチレリーズ軸受。
【請求項2】
請求項1に記載のクラッチレリーズ軸受であって、
前記外輪鍔部と前記内輪の一側端部の間には、該内輪の一側端部に固定され、該外輪鍔部とは非接触の近接状態とされたシール部材が配設されており、
前記シール部材は前記遮蔽部材と非接触とされていることを特徴とするクラッチレリーズ軸受。
【請求項3】
請求項2に記載のクラッチレリーズ軸受であって、
前記遮蔽部材の径方向内方の先端は軸線方向で所定の幅を有し、該遮蔽部材の径方向内方の先端が前記シール部材と非接触の近接状態とされていることを特徴とするクラッチレリーズ軸受。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載のクラッチレリーズ軸受であって、
前記シール部材には前記外輪鍔部と前記遮蔽部材の間隙に延設され、該外輪鍔部とは非接触とされ、該遮蔽部材とは非接触の近接状態とされたシールリップが形成されていることを特徴とするクラッチレリーズ軸受。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−287602(P2009−287602A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137942(P2008−137942)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】