説明

クリーンルーム用容器

芳香族ビニル単量体と共重合可能な他の単量体との共重合体からなるマトリックス樹脂中に、ジエン単量体を主成分として重合してなるジエン系ゴム粒子が分散している熱可塑性樹脂からなり、該熱可塑性樹脂の灰分が0.2重量%以下であるクリーンルーム用容器である。半導体基板、ディスプレイ基板及び記録媒体基板から選択される板状体が収納される容器であることが好適である。これにより、ABSやそれに類する樹脂からなり、しかも灰分が少なくて金属汚染源となりにくいクリーンルーム用容器が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、クリーンルーム用容器に関する。より詳しくは、芳香族ビニル単量体と共重合可能な他の単量体との共重合体からなるマトリックス樹脂中に、ジエン単量体を主成分として重合してなるジエン系ゴム粒子が分散している熱可塑性樹脂からなり、該熱可塑性樹脂の灰分が0.2重量%以下であるクリーンルーム用容器に関する。
【背景技術】
半導体製造プロセスにおけるシリコンウエハ、液晶パネル製造プロセスにおけるガラス基板、ハードディスク製造プロセスにおける金属ディスクなどは汚染を防止するためクリーンルーム中で取り扱われる。これらの製造プロセスにおいては、これらの基板を効率良くハンドリングするための容器が各種使用されている。例えば、複数枚の基板を同時に収容して、クリーンルーム内で特定のプロセスから次のプロセスに輸送する場合の容器として使用される場合もあるし、容器に収容したまま各種の処理を施す場合もある。
容器の材質として使用される樹脂は、その目的に応じて様々である。例えば、ポリプロピレンは安価であるが、透明性、成形時の寸法精度、剛性などが要求される用途には使用できない。ポリカーボネートは透明で耐衝撃性に優れているが、透明性を保ったまま永久帯電防止処理をすることは困難であるし、樹脂コストが高い。また、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)やメタクリル酸メチル−スチレン共重合体(MS樹脂)は、透明であるが、耐衝撃性が劣る上に、摺動摩擦による磨耗が生じやすく、パーティクル汚染が嫌われるクリーンルーム内では使用しにくい。また、ポリブチレンテレフタレート(PBT)やポリエーテルエーテルケトン(PEEK)は、耐熱性が良好であるが、不透明であって樹脂コストも高い。
アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(以下、ABSということがある)や、それに類する樹脂は、成形時の寸法精度、成形品表面の平滑性、剛性、耐衝撃性などのバランスに優れ、しかも比較的樹脂コストの低い汎用樹脂である。以下にも示すように、永久帯電防止性と透明性を付与することも可能である。
例えば、特開平9−92714号公報には、特定の形状の半導体ウエハ収納用帯電防止容器が記載されている。当該公報の実施例には、ABS系永久帯電防止樹脂を用いて230℃ないし240℃で射出成形した容器の例が記載されている(実施例1、3及び4)。実施例に記載された容器は良好な帯電防止性を有し、しかも銘柄によっては透明性にも優れている(実施例3)。
特開昭62−119256号公報には、ゴム質重合体の存在下に(メタ)アクリル酸エステル単量体及びこれと共重合可能な他のビニル系単量体からなる共重合体混合物をグラフト重合させた重合体にポリエーテルエステルアミドを配合した熱可塑性樹脂組成物が記載されている。この樹脂組成物は、永久帯電防止性、耐衝撃性及び透明性に優れているとされており、静電気による障害を防止したい用途、例えばICキャリーケースに使用できることが記載されている。
また、特開平9−59462号公報には、残留スチレン系単量体及び残留4−ビニルシクロヘキセンがいずれも一定量以下であり、ゴム粒子の数平均粒子径とその分布が一定範囲にあるABS樹脂組成物が記載されている。この樹脂組成物を用いれば衝撃強度及び引張強度に優れ、良好な光沢を備えた無臭成形品を作れることが記載されている。当該公報には、ABS樹脂は家電製品のハウジングや車両成形品に使用されていると記載されている。
特開平9−92714号公報や特開昭62−119256号公報に記載されているように、ABS樹脂からなる半導体ウエハ収納用帯電防止容器は既に知られている。しかしながら、クリーンルーム用容器に使用される樹脂として、ABSやそれに類する樹脂は、現実には、ほとんど使用されていないのが実態である。その大きな理由の一つが以下に説明する汚染源の問題である。
クリーンルーム内で使用される容器においては、収納される物品が汚染を極度に嫌う場合が多いことから、容器そのものが汚染源にならないことが非常に重要である。汚染のうちでも金属イオンによる汚染は特に注意が必要なものであり、例えば、半導体製造プロセスにおいては熱拡散操作において、当該金属イオンが不純物として回路内に拡散して不良品率を向上させるおそれがある。また同時に、金属イオン以外の有機物による汚染も防止する必要がある。
しかしながら、ABS樹脂を製造する際の代表的な方法は、乳化重合によって得られるジエン系ゴム粒子をエマルジョン中でグララト変性するプロセスを含むものである。エマルジョン中での重合反応を円滑に進行させるためには多量の乳化剤を必要とするが、多くの場合それは金属塩からなる界面活性剤である。また、得られたグラフト化ゴム粒子を凝固させてエマルジョン液から分離する必要があるが、このとき塩析させる場合も多く、その場合には凝固物中にさらに多量の塩を含有することになる。結果として、現在市販されているABS樹脂の多くは相当量の金属塩成分を残存するものになっているのである。その結果、汚染源となる可能性のあるものが敬遠されるクリーンルーム用容器の素材として、ABSやそれに類する樹脂はほとんど採用されていないのが現状である。
また、特開平9−59462号公報には、残留有機物の少ないABS樹脂が記載されているが、家電製品のハウジングや車両成形品での悪臭を問題にしているだけであり、クリーンルーム内の汚染源として捉えられているわけではない。
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、ABSやそれに類する熱可塑性樹脂からなり、該熱可塑性樹脂の灰分が少なく、金属イオンによる汚染の可能性が低いクリーンルーム用容器を提供することを目的とするものである。
【発明の開示】
上記課題は、芳香族ビニル単量体と共重合可能な他の単量体との共重合体からなるマトリックス樹脂中に、ジエン単量体を重合してなるジエン系ゴム粒子が分散している熱可塑性樹脂からなり、該熱可塑性樹脂の灰分が0.2重量%以下であるクリーンルーム用容器を提供することによって達成される。
このとき、前記共重合可能な他の単量体が、シアン化ビニル単量体及び不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体から選択される1種以上であることが好適である。また、前記熱可塑性樹脂がジエン系ゴム5〜50重量%、芳香族ビニル単量体10〜90重量%及び前記共重合可能な他の単量体10〜90重量%を重合してなるものであることも好適である。
前記熱可塑性樹脂が、ジエン単量体を重合してなるジエン系ゴム粒子が分散しているエマルジョン中で、芳香族ビニル単量体と共重合可能な他の単量体とを共重合させてなるグラフト共重合樹脂粒子と、別途芳香族ビニル単量体と共重合可能な他の単量体とを共重合してなる樹脂とを溶融混合して得られたものであることが好適な実施態様である。そして、このとき、グラフト共重合樹脂粒子を、少なくとも酸を使用して凝固させ、洗浄してから溶融混合に供してなることがより好適である。
また、前記熱可塑性樹脂が、ジエン単量体を重合してなるジエン系ゴムを芳香族ビニル単量体及び共重合可能な他の単量体に溶解させてから、前記芳香族ビニル単量体及びこれと共重合可能な他の単量体を重合させて得られたものであることも好適な実施態様である。
前記ジエン単量体が1,3−ブタジエンであり、かつ前記熱可塑性樹脂の4−ビニルジクロヘキセン含有量が100ppm以下であることが好適である。前記熱可塑性樹脂が、ポリエーテルエステルアミドからなる帯電防止剤あるいは導電性カーボンからなる帯電防止剤を含有することも好適である。成形品から削り出した試料を150℃で10分間保持した後、10分以内に発生する有機ガス量がスチレン換算値で600ppm以下であることも好適である。前記熱可塑性樹脂が、厚さ3mmの射出成形品にしたときのヘイズが20%以下の樹脂であることも好適である。また、射出成形時のシリンダー設定温度を220℃以下にして射出成形されてなるものであることも好適である。
本発明の好適な実施態様は、半導体基板、ディスプレイ基板及び記録媒体基板から選択される板状体が収納される上記クリーンルーム用容器である。
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明のクリーンルーム用容器は、芳香族ビニル単量体と共重合可能な他の単量体との共重合体からなるマトリックス樹脂中に、ジエン単量体を重合してなるジエン系ゴム粒子が分散している熱可塑性樹脂からなるものである。
本発明で使用する熱可塑性樹脂は、芳香族ビニル単量体と共重合可能な他の単量体との共重合体がマトリックス樹脂を形成しているものである。芳香族ビニル単量体のみからなる重合体でなく、他の単量体との共重合体とすることによって、必要に応じて耐衝撃性、透明性、耐熱性、耐薬品性などに優れた樹脂とすることが容易である。当該共重合体は、通常ランダム共重合体である。
ここで使用される芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン等が挙げられ、これらを1種又は2種以上用いることができる。特に好適にはスチレンが用いられる。共重合可能な他の単量体は、芳香族ビニル単量体と共重合することが可能であれば、特に限定されるものではなく、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの(メタ)アクリロニトリルに代表されるシアン化ビニル単量体;メチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステル単量体に代表される不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、マレイン酸無水物、シトラコン酸無水物などの不飽和カルボン酸又は不飽和ジカルボン酸無水物単量体;マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、O−クロル−N−フェニルマレイミドなどのマレイミド系単量体などを例示することができる。これらの共重合可能な他の単量体も、1種又は2種以上を用いることができる。
これらのうちでも、前記共重合可能な他の単量体が、シアン化ビニル単量体及び不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体から選択される1種以上であることが好適である。シアン化ビニル単量体を共重合することによって、耐熱性、耐薬品性、剛性及び寸法安定性が向上する。また、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体を共重合することによって、透明性、硬度、及び剛性が向上する。これらの両者を共重合することも好ましい。
本発明で使用する熱可塑性樹脂は、前記マトリックス樹脂中に、ジエン単量体を重合してなるジエン系ゴム粒子が分散しているものである。このとき、ゴム粒子中のジエン単量体成分の割合は、50重量%以上であることが好ましく、80重量%以上であることがより好ましい。使用されるジエン単量体としては、1,3−ブタジエン、イソプレンなどが例示され、その1種又は2種以上を用いることができる。なかでも性能的にも優れて低コストである1,3−ブタジエンが好適に使用される。具体的な重合体としては、ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、ポリイソプレンゴムなどが例示され、特にポリブタジエンゴムが低温耐衝撃性などに優れた樹脂を提供できて、しかも低コストであり好適である。上記ゴム粒子の平均粒子径についても特に制限はないが、好ましくは0.05〜10μm、好ましくは0.08〜5μmである。
本発明で使用する熱可塑性樹脂の組成割合については特に制限はないが、ジエン系ゴム5〜50重量%、芳香族ビニル単量体10〜90重量%及び前記共重合可能な他の単量体10〜90重量%を重合してなることが好適である。この組成割合は、最終的に成形品にされる熱可塑性樹脂中の各成分の割合を示すものであり、例えば、予めジエン系ゴムを、所定量の芳香族ビニル単量体及び共重合可能な他の単量体でグラフト変性した後で、さらに別途重合した芳香族ビニル単量体及び共重合可能な他の単量体からなる共重合体と溶融混合するような場合には、混合された全量での組成割合を示すものである。
ジエン系ゴムの含有量は5〜50重量%であることが好ましい。5重量%未満の場合には、耐衝撃性が十分でない場合があり、より好適には10重量%以上である。逆に50重量%を超えると、剛性あるいは成形性が低下するおそれがあり、より好適には30重量%以下、さらに好適には20重量%以下である。また、芳香族ビニル単量体由来成分の含有量は10〜90重量%であることが好ましい。10重量%未満の場合には剛性あるいは成形性が低下するおそれがあり、より好適には20重量%以上である。90重量%を超える場合には耐衝撃性が低下するおそれがあり、より好適には80重量%以下である。特に透明性が要求される場合には、50重量%以下であることが好ましく、30重量%以下であることがより好ましい。
共重合可能な他の単量体に由来する成分の含有量は10〜90重量%であることが好ましい。より好適には20重量%以上であり、また、80重量%以下である。特に透明性が要求される場合には、共重合可能な他の単量体として、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体由来成分を含有することが好ましく、その含有量が40〜80重量%であることがより好ましい。こうすることによって、マトリックス樹脂とゴム粒子との屈折率差を小さくできて、樹脂全体を透明にすることができる。
本発明で使用する熱可塑性樹脂の製造方法は特に限定されず、乳化重合、懸濁重合、塊状重合、溶液重合、又はこれらを組み合わせた重合方法により製造することができる。なかでも、ジエン系ゴムに対して、芳香族ビニル単量体と共重合可能な他の単量体とをグラフト共重合させる工程を含むものが、ゴム粒子の分散性や、ゴム粒子とマトリックス樹脂と界面の強度などの点から好ましい。ジエン系ゴムをグラフト変性するに際しては、ゴムを含有するエマルジョン(ラテックス)中でグラフト変性しても良いし、ゴムが溶解した溶液中でグラフト変性しても良い。
好適な製造方法の一つは、ジエン単量体を重合してなるジエン系ゴム粒子が分散しているエマルジョン中で、芳香族ビニル単量体と共重合可能な他の単量体とを共重合させてなるグラフト共重合樹脂粒子と、別途芳香族ビニル単量体と共重合可能な他の単量体とを共重合してなる樹脂とを溶融混合する方法である。エマルジョン中でグラフト共重合する場合には、ゴムの組成、粒径、ゲル含有率などのコントロールが容易であり、透明性、耐衝撃性及び成形性に優れた高性能の樹脂が得られやすい。また、エマルジョン中で合成されたグラフト共重合樹脂粒子を、別途塊状(あるいは溶液)重合した共重合体で希釈することによって、エマルジョン由来の金属塩成分の量を減らすことができる。
上記製造方法においては、乳化重合工程において乳化剤、重合開始剤、塩析剤などの各種の添加剤が使用されるが、多くの場合これらは金属塩であり、その最終製品への混入が問題になりやすい。乳化重合においては、乳化剤を相当量使用する必要があるが、これには高級脂肪酸のアルカリ金属塩やスルホン酸のアルカリ金属塩などが使用されることが多い。また、乳化重合での重合開始剤としては、過酸化物などが使用できるが、有機ハイドロパーオキシドを用いたレドックス系開始剤が使用されることもあり、この場合には鉄塩などが使用されることが多い。さらに、乳化重合後に得られたグラフト共重合樹脂粒子を凝固させる際に、高濃度のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩を添加して塩析させる場合も多い。
したがって、最終製品中での金属イオン含有量すなわち灰分を低下させるためには、上記乳化重合後の凝固工程において、酸を使用して凝固させることが好ましい。使用できる酸としては、塩酸や硫酸が例示される。このとき、補助的に塩を併用しても構わないが、塩を使用せず、酸のみで凝固させることが好ましい。こうすることによって、凝固工程における金属塩の混入を避けることができる。また、凝固後の洗浄条件を強化するために、洗浄水の量を増加させたり、洗浄回数を増加させたりすることも好ましい。特に洗浄水を、洗浄に供するグラフト共重合樹脂粒子の見掛け体積に対して同体積以上、好ましくは2倍以上、より好ましくは3倍以上の体積使用することが好ましく、また洗浄−脱水の工程を2回以上、さらには3回以上繰り返して洗浄することが好ましい。通常のABS樹脂の製造プロセスにおいては、洗浄−脱水工程はその経済性の観点から複数回繰り返すことはないのが一般的である。
このように、乳化重合後のグラフト共重合樹脂粒子を、少なくとも酸を使用して凝固させ、十分に洗浄してから、別途塊状(あるいは溶液)重合した共重合体と溶融混合することによって、効率的に灰分を低下させることができる。溶融混合する方法は特に限定されず、押出機、バンバリーミキサー、ロール、ニーダー等の公知の混練装置を用いて混合することができる。このとき、同時に帯電防止剤などの他の成分と混合しても良い。
好適な製造方法の他の一つは、ジエン単量体を重合してなるジエン系ゴムを芳香族ビニル単量体及び共重合可能な他の単量体に溶解させてから、前記芳香族ビニル単量体及びこれと共重合可能な他の単量体を重合させる方法である。このとき、他の溶媒を含有しない状態で重合させるのが塊状重合方法であり、他の溶媒、例えばエチルベンゼンの存在する状態で重合させるのが溶液重合方法であり、いずれを採用しても良い。
この方法によれば、乳化重合工程を経ることなく本発明で使用する熱可塑性樹脂を製造することができ、乳化剤や塩析剤に由来する金属塩の残存を少なくできる。この製造方法は、ゴム粒子の粒径や組成のコントロールが容易でないために、乳化重合工程を有する製造方法に比べて透明性や耐衝撃性などが不十分になる場合が多く、現在必ずしも広く実施されている製造方法ではない。しかしながら、残存金属塩の量を少なくできることから本発明の用途に対しては好ましい製造方法である。
本発明で使用する熱可塑性樹脂の灰分は0.2重量%以下である。該灰分が0.2重量%を超えると、クリーンルーム内で金属イオンの汚染源となりやすくて好ましくない。例えば、半導体製造工程において、ウエハキャリアなどのようにウエハが直接触れる容器であればウエハを直接金属汚染する場合があるし、処理水などに金属イオンが溶出することもある。また、キャリアを内包するケースのようにウエハと直接接触することがない容器の場合であっても、磨耗した粉塵がウエハやキャリアに付着して同様に悪影響を及ぼすおそれがある。特に、半導体製造プロセスにおいては、加熱による物質拡散操作等において、当該金属イオンが不純物として回路内に拡散して不良品率を上昇させるおそれがある。当該熱可塑性樹脂の灰分は好ましくは0.18重量%以下であり、より好ましくは0.15重量%以下である。
また、本発明で使用する熱可塑性樹脂において、そこで使用されるジエン単量体が1,3−ブタジエンであることが好ましいことは前述したとおりである。このとき、当該熱可塑性樹脂の4−ビニルシクロヘキセン含有量が100ppm以下であることが好ましい。4−ビニルシクロヘキセンは、主にジエン単量体を重合する際に副生されるもので、1,3−ブタジエンの環状二量体である。異臭を有することから、発生が望ましくないものであり、特にクリーンルーム内のような閉鎖空間で作業する場合には、その異臭が特に問題になりやすい。また、クリーンルームのような閉鎖空間では、揮発性有機物が滞留しやすいので、汚染源としても好ましくないものである。4−ビニルシクロヘキセン含有量は、より好適には80ppm以下であり、さらに好適には60ppm以下である。
乳化重合工程を有する場合には、1,3−ブタジエンの含有量を低下させるために、乳化重合後にエマルジョンを加熱して未反応のジエン単量体とともに、副生した4−ビニルシクロヘキセンを揮発除去させることが好ましい。加熱方法としては、水蒸気蒸留が好適に採用され、60℃以上、より好適には70℃以上の温度で、10分以上、より好適には30分以上の時間、水蒸気蒸留操作を行うのが好ましい。また、乳化重合後に凝固させた後の洗浄条件を強化することも好ましい。このときの好ましい洗浄条件については、前述したとおりである。
また、塊状重合や溶液重合においては脱揮工程を強化することにより4−ビニルシクロヘキセン含有量を低減することが好ましい。具体的には、重合が終了した後で、180℃以上、好適には200℃以上の温度で、100Torr以下、好適には50Torr以下に減圧して、未反応の単量体などとともに4−ビニルシクロヘキセンを除去することが好ましい。重合時に溶媒を使用している場合には、溶媒とともに4−ビニルシクロヘキセンを除去することが、効率良く4−ビニルシクロヘキセンを除去できて好ましい。
本発明で使用する熱可塑性樹脂は、各種の添加剤を含んでいても良い。本明細書中では、添加剤を含んだ組成物も含めて、熱可塑性樹脂という。各種の添加剤のなかでも、帯電防止剤を含んでいることが、半導体ウエハの静電破壊を防止できる点や、微粒子の付着を防止できる点から好ましい。
このような帯電防止剤としては、例えば、アルキルアミン塩等の陽イオン界面活性剤、高級アルコールの硫酸塩、高級アルコールの酸化エチレン付加体の硫酸エステル塩、アルキルフェノールの酸化エチレン付加体の硫酸エステル塩、アルカンスルフォン酸塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルスルホコハク酸エステル塩、ナフタリンスルフォン酸ホルマリン縮合体の塩、高級アルコールの酸化エチレン付加体の燐酸エステル塩、アルキルフェノールの酸化エチレン付加体の燐酸エステル塩等のアニオン界面活性剤、高級脂肪酸のソルビタンエステル、高級脂肪酸のモノグリセリンエステル、高級脂肪酸のモノグリセリンエステルの酸化エチレン付加体、高級アルコールの酸化エチレン付加体、高級脂肪酸の酸化エチレン付加体、アルキルフェノール酸化エチレン付加体、アミド酸化エチレン付加体、アルキルアミンの酸化エチレン付加体等の非イオン界面活性剤、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコール系共重合体、ポリエーテルエステルアミド、導電性カーボン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
これらのうち、ポリエーテルエステルアミドを使用することが好ましい。ポリエーテルエステルアミドは塩を形成していないので、塩が溶出する心配がない。また、比較的高分子量であって、本発明で使用する熱可塑性樹脂との相容性も良好であることから、ブリードアウトすることなく、長期間に亘って帯電防止効果が発揮されるからである。ポリエーテルエステルアミドの具体例としては、炭素数6以上のアミノカルボン酸、炭素数6以上のラクタム及びジアミンとジカルボン酸とから得られる炭素数6以上のナイロン塩からなる群より選ばれる少なくとも1種のポリアミド系化合物(A1)及びジカルボン酸(A2)から誘導される両末端カルボキシル基を含有するポリアミド(A)とポリオキシアルキレングリコール及び/又はビスフェノール類のエチレンオキシド付加物からなるポリエーテルジオール(B)とを重縮合させて得られる化合物等が挙げられる。
さらに、透明性が要求される場合には、ポリエーテルエステルアミドは、本発明で使用する熱可塑性樹脂と屈折率を揃えることが望ましい。ポリブタジエンの屈折率が1.52であり、透明性が要求されるときにはマトリックス樹脂の屈折率はその屈折率に揃えられるから、ポリエーテルエステルアミドの屈折率が、室温において1.48〜1.56であることが好ましく、1.50〜1.54であることがより好ましく、1.51〜1.53であることが最適である。
また、透明性が要求されない用途であれば、帯電防止剤として導電性カーボンを使用することも好ましい。後述するように、帯電防止剤として有機化合物を用いる場合には、僅かとは言えそれが成形時に熱分解するおそれがある。これに対し、グラファイト粉末、カーボンブラック、炭素繊維、カーボンナノチューブなどの導電性カーボンは、熱可塑性樹脂の溶融成形時の温度ではほとんど分解することがない。したがって、クリーンルーム用容器のように、揮発性の有機物による汚染が嫌われる用途においては、帯電防止剤として導電性カーボン粒子を使用することも好適である。
また、上記帯電防止剤の使用割合については特に制限はないが、その物性バランス面より、本発明の熱可塑性樹脂中に1〜30重量%含まれることが好ましい。
また、本発明で使用する熱可塑性樹脂は、本発明の効果を妨げない範囲内で、公知の添加剤、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、着色剤、充填剤などを必要に応じて添加することも可能である。但し、汚染物質を発生しにくいという、本発明のクリーンルーム用容器に要求される性能を考慮すると、このような添加剤の使用は最低限に留めることが好ましい。
帯電防止剤など、上記添加剤の配合方法には特に制限はなく、押出機、バンバリーミキサー、ロール、ニーダー等を用いて混合することができる。前述のように、グラフト共重合樹脂粒子と、別途共重合してなる樹脂とを溶融混合する場合には、そのときに同時に混合することが好ましい。また、溶融混合するのと同時に揮発成分を除去するための脱揮処理を施すことも好ましい。こうすることによって、樹脂中の揮発成分を効率的に減少させることができる。脱揮処理方法としては、溶融状態で減圧することが好適な方法として例示される。
具体的には、減圧ベントを有する押出機を使用して溶融混練することが好ましい。押出機は一軸押出機であっても二軸押出機であってもよい。また、ベントは一箇所だけでなく複数箇所に設置してもよい。このときの好適な溶融混練温度は、160〜220℃である。また、このような脱揮処理を複数回繰り返すことによって、樹脂中の揮発成分の含有量をさらに減少させることができる。例えば、減圧ベントを有する押出機を使用して溶融混練するのであれば、溶融混練してペレット化したものを再度溶融混練する操作を繰り返すことが好ましい。
本発明で使用される熱可塑性樹脂のメルトフローレイト(220℃、10kg荷重)は特に限定されないが、通常1〜100g/10minである。成形性の点からは5g/10min以上であることが好ましく、強度の点からは50g/10min以下であることが好ましい。
また、本発明において内部の視認性が要求される用途に使用される場合には、熱可塑性樹脂が透明なものであることが好ましい。例えば、シリコンウエハキャリアなどを内包するケースに使用するような場合がそうである。この場合には、当該熱可塑性樹脂が、厚さ3mmの射出成形品にしたときのヘイズが20%以下の樹脂であることが好ましい。当該ヘイズが20%以下であることによって、容器外部から内部を容易に視認することができるし、外観が美麗である。また、例えばキャリアに貼付したバーコードタグなどを外部から読取装置で読み取って生産管理を行うことも可能である。また、全光線透過率で表現すれば、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。
こうして得られた熱可塑性樹脂を用いて、本発明のクリーンルーム用容器が成形される。成形方法は特に限定されず、射出成形、押出成形、ブロー成形などの各種の溶融成形方法を採用することができる。また、一旦押出成形したシートなどに対して熱成形などの二次加工を施して成形しても良い。これらのうちでも、クリーンルーム用容器は、比較的複雑で寸法精度が要求されるものが多いことから、射出成形で成形することが好ましい。
射出成形時の成形条件も特に限定されるものではないが、シリンダー設定温度を220℃以下にして成形することが好ましい。通常ABS樹脂を射出成形する際には、230℃以上の樹脂温度で射出成形することが多いが、本発明では220℃以下にすることによって、樹脂の分解を最低限に抑えることが望ましい。射出成形における樹脂の溶融時間は通常それほど長いものではなく、普通の用途向けには、成形性や成形速度を考慮して十分に高温にして成形することが好ましいが、クリーンルーム内で使用するためには、溶融時の熱分解によって発生する有機物の量をできるだけ低減することが重要である。したがって、成形可能な温度ぎりぎりまで成形温度を下げることが好ましい。成形の可能な温度は、樹脂の組成やメルトフローレイトなどにより異なり、それらを考慮して設定される。例えば、樹脂中の不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体由来成分の割合が増加すれば、より低温での成形が可能になりやすい。射出成形時のシリンダー設定温度はより好適には210℃以下であり、さらに好適には200℃以下である。また、通常160℃以上である。
また、射出成形時の溶融樹脂温度は、樹脂中に配合される添加剤の熱分解挙動にも影響を与える。例えば、本発明のクリーンルーム用容器に使用される熱可塑性樹脂中には帯電防止剤が含有されることが好ましく、そのなかでもポリエーテルエステルアミドが好適なものであることは、既に述べたとおりである。溶融成形時には、微量ではあるが、この帯電防止剤も熱分解する。このとき、高温で成形したのでは、熱分解によって発生する低分子量のアミンやアミド(ラクタムを含む)の量が増加する。アミンやアミドは水中に溶出し処理液を介して半導体ウエハを汚染しやすく、しかも、このような窒素元素を含有する化合物は、熱拡散処理などの半導体製造プロセスにおいて、アンモニアやアミンなどの塩基性物質を発生させる可能性があるため、通常の炭素、水素、酸素のみからなる有機化合物よりも汚染源として嫌われているものである。したがって、特にこのような窒素元素を含有する帯電防止剤を使用する際には、できるだけ低温で成形することが好ましいものである。
こうして成形された本発明のクリーンルーム用容器に含まれる分解有機物の量はできるだけ少ないことが好ましい。具体的には、成形品から削り出した試料を150℃で10分間保持した後、10分以内に発生する有機ガス量がスチレン換算値で600ppm以下であることが好ましい。より好適には400ppm以下であり、さらに好適には300ppm以下である。このように分解有機物の量を低減するには、前述のように樹脂を製造する際に揮発成分を低減させることが有効であるとともに、できるだけ低温で成形することも有効である。
本発明のクリーンルーム用容器は、クリーンルーム内で使用される容器であって、原料、中間製品あるいは製品を収容するための容器であれば特に限定されない。好適なものとして、半導体基板、ディスプレイ基板及び記録媒体基板から選択される板状体が収納される容器が例示される。
半導体基板としては、集積回路製造用の基板、太陽電池製造用の基板などが例示される。その材料はシリコンに代表されるが特に限定されるものではない。また、その形態もシリコンウエハのような円形であっても良いし、太陽電池セルのような四角形であっても良い。また、シリコンウエハを切断したチップの形態であっても構わない。
なかでも代表的な実施態様がシリコンウエハ用の容器である。近年では、シリコンウエハの大口径化が進行しており、それに対応してシリコンウエハ用容器の寸法も大きくなってきている。したがって、寸法の大きい容器であっても形態を保持できて損傷されないように、剛性及び耐衝撃性に優れた樹脂の使用が望まれている。この点で、本発明のクリーンルーム容器は好適である。また、寸法が大きくなるにしたがって、成形品全体としての寸法精度の要求レベルも厳しくなることから、寸法精度良く成形できる本発明のクリーンルーム容器が好適である。したがって、本発明のクリーンルーム用容器は、好適には6インチ以上のシリコンウエハ用に、より好適には8インチ以上のシリコンウエハ用に、さらに好適には300mm以上のシリコンウエハ用に使用される。
このとき、シリコンウエハが直接配列されるキャリアと称される容器である場合には、シリコンウエハが直接キャリアに接触するので、特に金属汚染が問題になりやすいし、処理液等を介してクロスコンタミネーションを生じやすい。したがって、このようなキャリアに対して本発明のクリーンルーム用容器を使用することが好ましい。また、前記キャリアが内部に収容される、ケースと称される容器である場合にも、金属汚染が嫌われるので本発明のクリーンルーム用容器を使用することが好ましい。この場合には、内部が視認できるように透明な樹脂を使用することが特に好ましい。また、ケースの中に揮発成分がこもりやすいことから、臭気成分などの揮発成分による汚染が少ない事も好ましい。このようなことから、キャリアとケースの役割を同時に果たす一体型の容器に対しても、本発明のクリーンルーム用容器は好適に使用される。
ディスプレイ基板としては、液晶ディスプレイ製造用の基板、プラズマディスプレイ製造用の基板、エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ製造用の基板などが例示される。これらの基板の材料は代表的にはガラスであるが、その他のもの、例えば透明樹脂などであっても構わない。これらのディスプレイ基板の場合にも、画素駆動用の回路が存在し、金属による汚染が嫌われるから、本発明のクリーンルーム容器を採用することが好適である。また、ディスプレイ基板は特に大型のものが多いことから、前述の大口径シリコンウエハと同様に本発明のクリーンルーム用容器を使用することが好ましい。
また、記録媒体基板としては、ハードディスク基板や光ディスク基板が例示される。ハードディスク基板の場合の素材は、金属やガラスなどが代表的に使用されるが、それに限定されるものではない。また、光ディスク基板の場合の素材はポリカーボネートに代表される透明プラスチックが代表的であるが、それに限定されるものではない。これらの記録媒体については、その記録形式によって記録膜の組成は異なるが、近年では記録密度の飛躍的向上によって、僅かな汚染物質がその性能に与える影響が大きくなってきており、本発明のクリーンルーム容器が好適に使用される。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明の実施例で成形した容器の全体構造を示す分解斜視図である。図中、1は容器を、2は上ケースを、3は下ケースをそれぞれ示す。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、実施例を使用して本発明をさらに詳細に説明する。
合成例1
窒素置換した重合反応器にポリブタジエンラテックス(重量平均粒子径0.30μ、ゲル含有量85%)50部(固形分)、水150部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.1部、硫酸第2鉄0.001部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.3部を入れ、60℃に加熱後、アクリロニトリル3部、スチレン12部、メタクリル酸メチル35部及びキュメンハイドロパーオキサイド0.2部からなる混合物を3時間に亘り連続的に添加し、更に60℃で2時間重合し、グラフト共重合体ラテックスを得た。その後、該ラテックス100重量部(固形分)に対し塩析剤として硫酸マグネシウム3.0重量部を使用して塩析した後、グラフト共重合樹脂粒子の1.5倍体積の水を加えて撹拌してから脱水して洗浄した後、乾燥し、グラフト共重合樹脂粒子(1)を得た。
合成例2
合成例1において、重合後に水蒸気蒸留を施した点と、凝固及び洗浄工程を変更した点を除いて、合成例1と同様にしてグラフト共重合体樹脂粒子を得た。すなわち、重合後に得られたグラフト共重合体ラテックスに水蒸気を吹き込んで1時間水蒸気蒸留した。このときのラテックスの温度は80℃であった。水蒸気蒸留後、凝固剤として硫酸1.0重量部を使用して凝固させ、さらにグラフト共重合樹脂粒子の2.5倍体積の水を加えて撹拌してから脱水する洗浄操作を3回繰り返した。以上の点以外は合成例1と同様にして、グラフト共重合樹脂粒子(2)を得た。
合成例3
窒素置換した重合反応器に、純水130部及び過硫酸カリウム0.3部を仕込んだ後、攪拌下に65℃に昇温した。その後、アクリロニトリル10部、スチレン30部、メタクリル酸メチル60部及びt−ドデシルメルカプタン0.35部からなる混合モノマー溶液及び不均化ロジン酸カリウム2部を含む乳化剤水溶液30部を各々4時間に亘って連続添加した。その後重合系を70℃に昇温し、2時間熟成を行いスチレン系重合体ラテックスを得た。その後、該ラテックス100重量部(固形分)に対し塩析剤として硫酸マグネシウム2.5重量部を使用して塩析した後、スチレン系重合体の1.5倍体積の水を加えて撹拌してから脱水して洗浄した後、乾燥し、スチレン系重合体(3)を得た。
合成例4
容量が20リットルの完全混合型反応槽1基からなる連続的重合装置を用い、スチレン30重量部、メタクリル酸メチル70重量部、エチルベンゼン10重量部、t−ドデシルメルカプタン0.05重量部、重合開始剤としてt−ブチルパーオキシ(2−エチルヘキサノエート)0.015重量部から成る重合原料をプランジャーポンプを用いて13kg/hで連続的に該反応槽に供給して、重合温度を調節して重合を行った。このときの重合温度は150℃であり、また反応槽の撹拌回転数は150rpmに調整した。重合に続いて、反応槽から連続的に抜き出された重合液を脱揮発分装置に供給した後、押出機を経てスチレン系重合体(4)を得た。
合成例5
容量が15リットルのプラグフロー塔型反応槽(「新ポリマー製造プロセス」(工業調査会、佐伯康治/尾見信三著)185頁、図7.5(b)記載の三井東圧タイプと同種の反応槽で、10段に仕切られたC1/C0=0.955を示すもの)に10リットルの完全混合槽2基を直列に接続した連続的重合装置を用いて熱可塑性樹脂を製造した。プラグフロー塔型反応槽が粒子形成工程を、第2の反応槽である1基目の完全混合槽が粒子径調整工程を、第3の反応槽が後重合工程を構成する。
前記プラグフロー塔型反応槽にスチレン65重量部、アクリロニトリル22重量部、エチルベンゼン25重量部、スチレン−ブタジエンゴム(日本ゼオン株式会社製NS310S)を13重量部、t−ドデシルメルカプタン0.2重量部、1、1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3、3、5−トリメチルシクロヘキサン0.05重量部からなる原料を調整し、この原料を3段の攪拌式重合槽列反応器に10kg/hで連続的に供給して単量体の重合を行った。なお、第1のプラグフロー塔型反応槽は88℃、第2の反応槽は125℃、第3の反応槽は140℃に設定した。第3の反応槽より重合液を予熱器(210〜250℃)と減圧室(40Torr)より成る脱揮発分装置に供給した後、押出機を経てゴム粒子が分散した熱可塑性樹脂(5)を得た。得られたゴム分散相の重量平均粒子径は0.5μmであった。
実施例1〜5、比較例1〜4
合成例1〜5で得られた樹脂と、下記の帯電防止剤を、表1に示された配合割合で混合し、ベント付き40mm二軸押出機(株式会社日本製鋼所製「TEX−44」)を用いて200℃で溶融混練して切断し、ペレットを得た。すなわち、本ペレットは1回の脱揮処理が施されたものである。ここで使用した帯電防止剤は、三洋化成工業株式会社製「ペレスタットNC6321」(ポリエーテルエステルアミド、屈折率1.516)及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムである。得られたペレットについて、下記の方法にしたがって、メルトフローレイト、灰分及び4−ビニルシクロヘキセン含有量を測定した。測定結果を表1に示す。
得られたペレットを使用し、東芝機械製IS−90B射出成形機を用い、シリンダー設定温度200℃にて射出成形して試験片を作成し、下記の方法にしたがって全光線透過率、ヘイズ、耐衝撃性及び帯電防止性の各評価を行った。評価結果を表1に示す。
また、得られたペレットを使用し、株式会社日本製鋼所製J450E−C5射出成形機を用い、樹脂温度200℃、金型温度50℃、射出スピード45mm/sec、射出圧力1600kg/cm、で射出成形して、第1図に示す容器を作製した。実施例1〜5及び比較例1〜4のいずれについても外観の良好な成形品を得ることができた。ただし、実施例4及び5については白濁していて内部を視認することが困難であった。また、下記の方法にしたがって臭気の官能評価を行った。評価結果を表2に示す。
(1)メルトフローレイト
ASTM D−1238に準じてメルトフローレイト(g/10min)を測定した。測定温度は220℃で、荷重は10kgである。
(2)灰分
試料のペレット約10gを乾燥重量を測定した白金るつぼに正確に量り取り、ドラフトチャンバー内に設置した電気こんろ上で灰化した後、800℃に温度設定した電気炉内に白金るつぼを移し4時間放置する。その後白金るつぼを取り出しデシケーター中で放冷後その重量を量り、その重量差から灰分(%)を算出した。
(3)4−ビニルシクロヘキセン含有量
試料のペレットをジメチルホルムアミドに溶かし、フレームイオン検出器(FID)を付けてあるHewlett Packard社製5890II型ガスクロマトグラフィーを用いて、試料溶液中の4−ビニルシクロヘキセン含有量を分析した。定量に際しては、既知の濃度の4−ビニルシクロヘキセンのジメチルホルムアミド溶液で作製した検量線を使用した。
(4)全光線透過率
厚さ3mmの試験片を用いて、株式会社村上色彩技術研究所製反射・透過率計HR−100で測定した。
(5)ヘイズ
全光線透過率測定と同一試験片を用いて、株式会社村上色彩技術研究所製反射・透過率計HR−100で測定した。
(6)耐衝撃性
ASTM D−256に準じてノッチ付アイゾット衝撃強度(MPa)を測定した。
(7)帯電防止性
厚さ3mmの試験片を用い、1ヶ月間23℃、湿度50%RH下で状態調整し、水洗処理前後の表面固有抵抗値(Ω)を東亜電子工業株式会社製ウルトラメガームメーターSN8210にて測定した。
(8)臭気官能評価
射出成形して得られた容器は開放状態で24時間常温放置した後、上ケースと下ケースを嵌合密封し常温で1時間放置した。その後、5名の臭覚敏感なテストパネラーにより上ケースを開けてその臭気の程度を嗅ぎ、臭気官能評価を行った。評点は次の基準にしたがった。
5点:臭いが明らかに強い
4点:かなり臭いを感じる
3点:臭いを感じる
2点:わずかに臭いを感じる
1点:臭いを感じない


以上の結果から明らかなように、グラフト共重合樹脂粒子を製造する際に酸を用いて凝固させた上で洗浄操作を強化し、そうして得られた樹脂粒子を、溶液重合したスチレン系重合体と混合して熱可塑性樹脂を製造した実施例1〜3では、低い灰分を示している。また、乳化重合工程を有さずにゴム粒子が分散した熱可塑性樹脂を合成した実施例4及び5でも低い灰分を示している。これに対し、金属塩を用いて塩析し、通常の洗浄操作を施しただけの乳化重合工程を有する比較例1及び2では、灰分量が高くなっている。
また、グラフト共重合樹脂粒子を製造する際に水蒸気蒸留操作を施し、そうして得られた樹脂粒子を、溶液重合したスチレン系重合体と混合して熱可塑性樹脂を製造した実施例1〜3では、4−ビニルシクロヘキセン含有量が低く、臭気の官能評価の結果も良好であった。また、乳化重合工程を有さずにゴム粒子が分散した熱可塑性樹脂を合成し、所定条件の減圧加熱脱揮操作を施した実施例4及び5では、4−ビニルシクロヘキセン含有量がさらに低く、臭気の官能評価の結果もさらに良好であった。
また、帯電防止剤としてポリエーテルエステルアミドを使用した実施例1及び5では、洗浄前後ともに良好な帯電防止効果が得られているが、帯電防止剤を使用しなかった実施例2及び4では、洗浄前後ともに表面固有抵抗値が高く、帯電防止性が十分でない。帯電防止剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを使用した実施例3では、洗浄前の表面固有抵抗値は低いものの、洗浄後の表面固有抵抗値は高くなり、帯電防止効果の持続性の点で十分でない。また、ジエン系ゴム粒子を含有しない比較例3及び4では、耐衝撃性に劣っていた。
実施例6〜9(成形温度の影響)
実施例1で使用したのと同じ熱可塑性樹脂ペレットを使用し、株式会社日本製鋼所製J450E−C5射出成形機にて表3に示すようにシリンダー設定温度を変化させ、金型温度50℃、射出スピード45mm/sec、射出圧力1600kg/cmで射出成形し、第1図に示す容器を製造した。この容器について、以下に示す方法にしたがって成形性と分解有機物量を評価した。その結果を表3にまとめて示す。
実施例10及び11(脱揮回数の影響)
実施例1で得られた熱可塑性樹脂ペレットを、再度ベント付き40mm二軸押出機(株式会社日本製鋼所製「TEX−44」)に投入し、200℃で溶融混練してから切断して、合計2回の脱揮処理が施されたペレット(実施例10)を製造した。また、この脱揮処理操作をさらに繰り返して、合計4回の脱揮処理が施されたペレット(実施例11)も製造した。これらのペレットを使用し、上記実施例8と同じ条件で射出成形し、第1図に示す容器を製造した。この容器について、以下に示す方法にしたがって成形性と分解有機物量を評価した。その結果を表3にまとめて示す。
(9)成形性
樹脂の充填性を観察し、樹脂が容器形状に完全充填できた場合を○、樹脂が容器形状に完全充填できなかった場合を×とした。
(10)分解有機物量
成形後の製品より10mgのサンプルを採取し、150℃で10分間保持した後10分以内に発生する有機ガス量を測定した。測定装置は、Hewlett Packard社のG−1800A型のガスクロマトグラフィーを用いた。有機ガス量は、スチレン換算にて算出した。

以上の結果から明らかなように、成形温度を低下させるにしたがって、脱ガスの総量が減少することがわかる。このことは、射出成形時の有機化合物の分解量が、射出温度の上昇にしたがって増加することを示しているものである。今回成形に供した熱可塑性樹脂では、射出成形時の溶融樹脂温度が180℃の時には成形性の低下が認められたが、200℃では良好な成形品を得ることができた。また、コンパウンド後に脱揮操作を繰り返すことによって、成形品中の有機揮発成分の量が大幅に減少させられることがわかる。
【産業上の利用可能性】
本発明のクリーンルーム用容器は、成形時の寸法精度、成形品表面の平滑性、剛性、耐衝撃性などのバランスに優れ、比較的樹脂コストが低く、しかも灰分が少なく金属イオンによる汚染源となる可能性が低いために、クリーンルーム内で使用される容器として優れた性能を有する。したがって、半導体基板、ディスプレイ基板及び記録媒体基板などの容器として特に有用である。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ビニル単量体と共重合可能な他の単量体との共重合体からなるマトリックス樹脂中に、ジエン単量体を重合してなるジエン系ゴム粒子が分散している熱可塑性樹脂からなり、該熱可塑性樹脂の灰分が0.2重量%以下であるクリーンルーム用容器。
【請求項2】
前記共重合可能な他の単量体が、シアン化ビニル単量体及び不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体から選択される1種以上である請求項1記載のクリーンルーム用容器。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂がジエン系ゴム5〜50重量%、芳香族ビニル単量体10〜90重量%及び前記共重合可能な他の単量体10〜90重量%を重合してなる請求項1記載のクリーンルーム用容器。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂が、ジエン単量体を重合してなるジエン系ゴム粒子が分散しているエマルジョン中で、芳香族ビニル単量体と共重合可能な他の単量体とを共重合させてなるグラフト共重合樹脂粒子と、別途芳香族ビニル単量体と共重合可能な他の単量体とを共重合してなる樹脂とを溶融混合して得られたものである請求項1記載のクリーンルーム用容器。
【請求項5】
前記グラフト共重合樹脂粒子を、少なくとも酸を使用して凝固させ、洗浄してから溶融混合に供してなる請求項4記載のクリーンルーム用容器。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂が、ジエン単量体を重合してなるジエン系ゴムを芳香族ビニル単量体及び共重合可能な他の単量体に溶解させてから、前記芳香族ビニル単量体及びこれと共重合可能な他の単量体を重合させて得られたものである請求項1記載のクリーンルーム用容器。
【請求項7】
ジエン単量体が1,3−ブタジエンであり、かつ前記熱可塑性樹脂の4−ビニルシクロヘキセン含有量が100ppm以下である請求項1記載のクリーンルーム用容器。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂が、ポリエーテルエステルアミドからなる帯電防止剤を含有する請求項1記載のクリーンルーム用容器。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂が、導電性カーボンからなる帯電防止剤を含有する請求項1記載のクリーンルーム用容器。
【請求項10】
成形品から削り出した試料を150℃で10分間保持した後、10分以内に発生する有機ガス量がスチレン換算値で600ppm以下である請求項1記載のクリーンルーム容器。
【請求項11】
前記熱可塑性樹脂が、厚さ3mmの射出成形品にしたときのヘイズが20%以下の樹脂である請求項1記載のクリーンルーム用容器。
【請求項12】
射出成形時のシリンダー設定温度を220℃以下にして射出成形されてなる請求項1記載のクリーンルーム用容器。
【請求項13】
半導体基板、ディスプレイ基板及び記録媒体基板から選択される板状体が収納される請求項1記載のクリーンルーム用容器。

【国際公開番号】WO2004/041678
【国際公開日】平成16年5月21日(2004.5.21)
【発行日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−549572(P2004−549572)
【国際出願番号】PCT/JP2003/013359
【国際出願日】平成15年10月20日(2003.10.20)
【出願人】(396019974)冨士ベークライト株式会社 (6)
【出願人】(399034220)日本エイアンドエル株式会社 (186)
【Fターム(参考)】