説明

クロック信号出力回路

【課題】逓倍クロック信号の基準クロック信号に対する同期ずれを補正することができるクロック信号出力回路を提供する。
【解決手段】位相誤差補正回路12は、基準クロック信号PREFと逓倍クロック信号POUTとの位相差を検出し、その位相差に応じて、逓倍クロック信号POURの出力位相を基準クロック信号PREFに同期させる補正を、1制御周期の間に複数回実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リングオシレータによって生成されるクロック信号に基づき、基準クロック信号の周波数をデジタル的な演算処理により逓倍した逓倍クロック信号を生成して出力するクロック信号出力回路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロコンピュータなどの集積回路においては動作クロック周波数が上昇しているため、集積回路にPLL回路を利用して構成されるクロック信号出力回路を内蔵しておき、外部より供給されるクロック信号を内部で逓倍してCPUなどに供給する構成を採用するものが多い。また、そのようなクロック信号出力回路には、リングオシレータによって生成される高速なクロック信号により低速な基準クロック信号の周期を測定し、デジタル的なデータ処理により逓倍クロック信号を生成して出力するように構成されるものがある(一般に、デジタルPLL,DPLLと称される)。
【0003】
図8には、クロック信号出力回路の一構成例を示す。尚、詳細な構成については、特許文献1に開示されている。リングオシレータ1は、複数個の遅延ゲート、例えばINV(インバータ)ゲートをリング状に接続して構成され、デジタル的な発振動作により高速なクロック信号を発生させるものである。例えば、2段の伝搬遅延時間が153psである論理反転ゲートを32個接続すれば、153ps×16=2.45ns周期でハイ,ロウのレベルが反転する。従って、生成される高速クロック信号RCKの周期は、2.45ns×2=4.9nsとなる。
【0004】
基準クロック信号PREFは、基準発振回路2より出力される例えば周波数4MHzのクロックを、分周回路3により例えば(M=)128分周した31.25kHz(周期32μs)を用いる。尚、分周回路3における分周比は、設定変更可能となっている。その基準クロック信号PREFの周期を、カウンタ・データラッチ回路4に内蔵される周期カウンタにより、リングオシレータ1の高速クロック信号RCKでカウントする。周期カウンタのカウントデータは、逓倍設定レジスタ5に設定される逓倍値に応じて除算(右ビットシフト)される。
【0005】
ここで、リングオシレータ1においては、論理反転ゲートの1個おきの出力端子より、高速クロック信号RCKの周期に対して1/16の位相差を有する16個のパルスエッジを取り出すことができる。それらのパルスエッジを選択して逓倍クロック信号の出力タイミングを設定することで、高速クロック信号RCKに対して4ビット分の分解能が実現される。従って、512逓倍する場合、カウントデータを5(=9−4)ビット右シフトする。そのシフト結果がCD1〜12としてDCO6に出力される。
DCO(Digital Controlled Oscillator)6はダウンカウンタを内蔵しており、外部よりカウント許可信号が与えられるとダウンカウントを開始し、そのカウント値が「2」になった時点から、下位4ビットの値に応じて選択された16個の位相差(パルスの内何れか1つの立上がりエッジのタイミングに応じて、逓倍クロック信号POUTを出力する。
【0006】
以上の制御は、制御回路7における、基準クロック信号PREFの8周期(256μs)を一制御周期とするステートカウンタに基づいて行われる。基準クロック信号PREFの周期測定は制御周期の第4ステートで行われて第5ステートで確定し、第6ステートで演算処理対象として信号DLCによりラッチされる。ラッチされたデータは第8ステートで信号CLRによりクリアされる。
尚、512逓倍された周波数16MHzのクロック信号は、最終段において波形整形のため2分周され、8MHzの逓倍クロック信号POUTとして出力される。以上がクロック信号出力回路8を構成している。
【特許文献1】特開平8−265111号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
クロック信号出力回路8において、基準クロック信号PREFの周期を測定する場合の量子化誤差(カウント誤差)を低減するには、その周期はより長い方が好ましい。そのため、上述のように発振回路2からの4MHzクロックを128分周し、基準クロック信号PREFの周期を32μsとしている。また、制御周期が信号PREFの8周期であるから、周期の計測時間が長くなり、図9に示すように、リングオシレータ1の電源にノイズが載った場合などには、ピリオドジッタが大きくなってしまう。
【0008】
そして、逓倍クロック信号POUTは、クロック信号のパルス幅を逓倍率に応じて調整する(周波数補正)ことで生成されており、基準クロック信号PREFの位相に対しては非同期である。その結果、制御を継続するとロングタームジッタも次第に大きくなって行く。このような状態は、逓倍クロック信号POUTのみを使用することが目的であれば何等問題はないが、例えば通信などのアプリケーションにおいて、基準クロック信号と逓倍クロック信号POUTとを同期させて使用する場合には問題となる。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、逓倍クロック信号の基準クロック信号に対する同期ずれを補正することができるクロック信号出力回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載のクロック信号出力回路によれば、位相補正手段は、基準クロック信号と逓倍クロック信号との位相差を検出し、その位相差に応じて、逓倍クロック信号の出力位相を基準クロック信号に同期させる補正を、基準クロック信号周期をカウントする間隔(制御周期に相当する)の間に1回以上実行する。従って、双方のクロック信号の位相差を制御周期よりも短い間隔で補正することで、両者の同期を維持することが可能となる。
【0011】
請求項2記載のクロック信号出力回路によれば、位相補正手段は、前記位相差に応じて、リングオシレータに供給される電源の電圧レベルを変化させる。即ち、リングオシレータの電源電圧を変化させると、遅延ゲートの伝搬遅延時間が変化して高速クロック信号の周期が変化するので、その結果、基準クロック信号周期のカウント値が変化して位相差を調整することができる。
【0012】
請求項3記載のクロック信号出力回路によれば、位相補正手段は、前記位相差に応じて、リングオシレータの遅延ゲートを構成する半導体素子の閾値レベルを変化させる。即ち、半導体素子の閾値レベルを変化させることによっても、遅延ゲートの伝搬遅延時間を変化させることができるので、請求項2と同様にして位相差を調整することができる。
【0013】
請求項4記載のクロック信号出力回路によれば、半導体素子がMOSFETである場合に、位相補正手段は、MOSFETのバックゲートに印加する電圧レベルを変化させる。
すなわち、MOSFETのバックゲート電圧を変化させれば、ソース電位との差に応じてFETの閾値を変化させることができる。
【0014】
請求項5記載のクロック信号出力回路によれば、位相補正手段において、第1,第2フリップフロップは、基準クロック信号,逓倍クロック信号の同一側エッジを検出し、チャージポンプ回路は、双方のエッジの検出状態に応じてコンデンサの充電,放電を行う。すなわち、両クロック信号の間に位相差が生じている状態では双方のエッジが検出されるタイミングが相違するので、その相違に応じてコンデンサの端子電圧を変化させれば、リングオシレータの電源電圧やMOSFETのバックゲート電圧を変化させることができる。そして、何れか一方のエッジが検出された時点から他方のエッジが検出されるまでの期間が位相差に相当するので、その時点で両フリップフロップをリセットさせれば、コンデンサは充放電されなくなり、端子電圧が維持される。したがって、チャージポンプ回路の作用により、両クロック信号の間の位相差がなくなるように調整することができる。
【0015】
請求項6記載のクロック信号出力回路によれば、位相補正手段は、位相差データ検出手段により、リングオシレータにおいて周回する信号エッジの到達位置を示すデータ及び前記周回の回数を示すデータに基づいて、基準クロック信号の1周期間に、逓倍クロック信号について生じる位相差のデータを検出する。そして、前記位相差データを基準クロック信号の周期で積分し、その積分結果データを、逓倍クロック信号の生成用データに加算する。この場合、上記加算を行う周期は、逓倍クロック信号を生成する演算を行う周期に一致させる。
すなわち、前記位相差データは、逓倍クロック信号について基準クロック周期の間に生じる位相差を示すので、その位相差を積分すれば位相差(誤差)を周期的に累積することになる。そして、その積分結果を、逓倍クロック信号を生成する演算を行う毎に当該信号の生成用データに加えれば、基準クロック信号に対する位相差が縮小されるように作用する。
【0016】
請求項7記載のクロック信号出力回路によれば、位相補正手段は、リングオシレータにおいて周回する信号エッジの到達位置を示すデータと、同信号エッジの周回回数のカウントデータとを、基準クロック信号に同期して順次ラッチする。そして、到達位置のラッチデータはバイナリデータにエンコードして、そのエンコードデータの上位側に周回回数のラッチデータを付加し、前回のラッチデータには、逓倍クロック信号の生成用データに逓倍率を乗じた結果を加える。すると、その加算結果より、今回のラッチデータを減じた結果は、基準クロック信号の1周期間に、逓倍クロック信号について生じた位相差データとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(第1実施例)
以下、本発明の第1実施例について図1乃至図3を参照して説明する。尚、図8と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、以下異なる部分について説明する。図1(a)に示すように、本実施例のクロック信号出力回路11は、クロック信号出力回路8に位相誤差補正回路(位相補正手段)12を付加して構成されており、その位相誤差補正回路12は、位相比較器13,チャージポンプ回路14,FB(フィードバック)分周器15と、DCO6の内部において、電源とリングオシレータ1の電源端子との間に挿入されたNチャネルMOSFET16とを備えている。この場合、FET16は、電源側がドレイン,リングオシレータ1側がソースとなるように接続されている。
【0018】
位相比較器13には、基準発振回路2より出力される分周前の基準クロック信号REF_INと、逓倍クロック信号POUTを分周器15でN分周した信号DCO_INとが入力されている。位相比較器13は、図1(b)に示すように、2つのDフリップフロップ17,18と、NANDゲート19とで構成されている。フリップフロップ17,18のクロック入力端子には、上記のクロック信号REF_IN,DCO_INがそれぞれ与えられており、D入力端子は、何れもハイレベル(データ“1”)に固定されている。
そして、フリップフロップ17,18のQ出力端子からは、信号DCO_UP,DCO_DOWNがチャージポンプ回路14に出力される。また、上記の各信号は、NANDゲート19の入力端子にそれぞれ与えられており、出力端子は、フリップフロップ17,18の負論理のリセット端子Rに接続されている。
【0019】
チャージポンプ回路14は、図1(c)に示すように、電源とグランドとの間に接続される定電流源20,スイッチ回路21及び22,定電流源23の直列回路と、コンデンサ24とで構成されている。コンデンサ24は、スイッチ回路21及び22の共通接続点とグランドとの間に接続されており、また上記共通接続点は、FET16のゲートに接続されている。そして、位相比較器13より与えられる信号DCO_UP,DCO_DOWNは、スイッチ回路21,22の開閉を制御するようになっており、これらは、上記信号がハイレベルになると閉じる常開型である。
【0020】
次に、本実施例の作用について図2及び図3も参照して説明する。図2は、位相比較器13並びにチャージポンプ回路14の動作を示すタイミングチャートである。尚、図8の具体数値例に沿えば逓倍率Nは「4」になるが、ここでは説明の都合上、8MHz/4MHz=2とする。したがって、分周クロック信号DCO_INの周波数は、基準クロック信号REF_INと同じとなっている。
【0021】
図2(a),(b)に示すように、クロック信号DCO_INの位相がクロック信号REF_INに対して遅れている場合、その位相差Φ0に応じて信号DCO_UPがハイレベルとなる(図2(c)参照)。すると、そのハイレベル期間にチャージポンプ回路14のスイッチ回路21が閉じて、コンデンサ24は定電流源20により充電されるため、端子電圧CP_OUTは上昇する(図2(e)参照)。その後、分周クロック信号DCO_INの立上がりエッジが検出されれば、フリップフロップ17,18は何れもリセットされて、信号DCO_UPはロウレベルとなる。
ここで、クロック信号周期がT0であり、定電流源20が流す電流がIcp,コンデンサ24の容量がCcpであれば、端子電圧CP_OUTの上昇分 ΔCP_OUTは、
ΔCP_OUT=T0・(Φ0/2π)・Icp/Ccp
となる。
【0022】
端子電圧CP_OUTが上昇すれば、FET16のゲート電位VGが上昇するので、FET16を介してリングオシレータ1に供給される電源電圧(VG−VT)が上昇する。すると、リングオシレータ1を構成するINVゲートの伝搬遅延時間が短くなるため、クロック信号RCKの周波数が高くなることで、逓倍クロック信号POUTの位相は進み側にシフトして、遅れ位相差が減少するように作用する。
【0023】
一方、クロック信号DCO_INの位相がクロック信号REF_INに対して進んでいる場合は、上記と逆の作用となり、進み位相差に応じて信号DCO_DOWNがハイレベルとなり、そのハイレベル期間にチャージポンプ回路14のスイッチ回路22が閉じて、コンデンサ24は定電流源23により充電され、端子電圧CP_OUTは低下する。したがって、FET16のゲート電位が低下し、リングオシレータ1に供給される電源電圧が低下することで、逓倍クロック信号POUTの位相は遅れ側にシフトし、進み位相差が減少するように作用する。
【0024】
すなわち、図3に示すように、基準クロック信号PREFと逓倍クロック信号POUTとの位相差は、0.25μs周期で補正されることになり、従来構成のようにロングタームジッタやピリオッドジッタが発生することはなくなる。
【0025】
以上のように本実施例によれば、位相誤差補正回路12は、基準クロック信号PREFと逓倍クロック信号POUTとの位相差を検出し、その位相差に応じて、逓倍クロック信号POUTの出力位相を基準クロック信号PREFに同期させる補正を、1制御周期の間に複数回実行するので、双方のクロック信号の位相差を制御周期よりも短い間隔で補正して両者の同期を維持することが可能となる。そして、位相誤差補正回路12は、前記位相差Φ0に応じて、リングオシレータ1に供給される電源電圧レベルを変化させるので、高速クロック信号RCKの周期を変化させることで基準クロック信号周期のカウント値を変化させ、位相差を調整することができる。
【0026】
また、位相誤差補正回路12において、フリップフロップ17,18は、基準クロック信号PREF,逓倍クロック信号POUTの立上りエッジを検出し、チャージポンプ回路14は、双方のエッジの検出状態に応じてコンデンサ24の充電,放電を行い、そのコンデンサ24の端子電圧によりFET16のゲートを制御するので、そのゲート電位の変化に応じてリングオシレータ1の電源電圧が変化する。したがって、チャージポンプ回路14の作用により、両クロック信号間の位相差がなくなるように調整することができる。
【0027】
(第2実施例)
図4は本発明の第2実施例を示すものであり、第1実施例と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、以下異なる部分について説明する。第2実施例のクロック信号出力回路31は、位相誤差補正回路(位相補正手段)32が、第1実施例の構成よりFET16を削除し、チャージポンプ回路14をチャージポンプ回路33に置き換えて構成されたものである。
【0028】
図4(b)に示すように、チャージポンプ回路33は、通常電源VDDよりも電圧が高い高電圧電源と、通常グランド(0V)よりも電位が低い負グランドとの間に、第1実施例と同様の構成を2組備えており、定電流源20(P,N),スイッチ回路21(P,N)及び22(P,N),定電流源23(P,N)の直列回路と、コンデンサ24(P,N)とで構成されている。そして、信号DCO_UPはスイッチ回路22P,21N側に与えられており、信号DCO_DOWNはスイッチ回路21P,22N側に与えられている。
【0029】
図4(c)には、リングオシレータ1の構成をFET(半導体素子)レベルで示している。初段のNANDゲート34は、2つのPチャネルMOSFETと2つのNチャネルMOSFETとで構成され、次段以降のINVゲート35〜37は、1組のCMOSゲートで構成されている。この場合、各ゲートを構成する電源側のPチャネルFETのバックゲートと、グランド側のNチャネルFETのバックゲート(但しNANDゲートのグランド側1個のみを除く)とは、各FETのソースに接続されることなくそれぞれ共通に接続されており、Pチャネル側バックゲートBG_Pはコンデンサ24Pに接続され、Nチャネル側バックゲートBG_Nはコンデンサ24Nに接続されている。
【0030】
次に、第2実施例の作用について説明する。第2実施例では、チャージポンプ回路33が、Pチャネル側バックゲートBG_Pの電位と、Nチャネル側バックゲートBG_Nの電位とを逆方向に連動させて制御する。そして、FETは、バックゲート電圧が変化すると閾値電圧VTが変化し、バックゲート電圧が上がると、PチャネルFETの閾値電圧は大きくなり、NチャネルFETの閾値電圧は小さくなる。バックゲート電圧が下がった場合は、閾値電圧の大小の関係が逆になる。
【0031】
位相比較器13より出力されるDCO_UP側がハイレベルの場合は、スイッチ回路22P,21Nがオンするので、バックゲートBG_Pの電位が下降し、バックゲートBG_Nの電位が上昇する。すると、P,NチャネルFETの閾値電圧は何れも小さくなるので、INVゲート35〜37等を構成する各FETのスイッチングスピードが速くなり、結果として各ゲートの伝搬遅延時間が短くなり、リンクオシレータ1より出力されるクロック信号RCKの周期は短くなる。
【0032】
逆に、DCO_DOWN側がハイレベルの場合は、スイッチ回路21P,22Nがオンするので、バックゲートBG_Pの電位が上昇し、バックゲートBG_Nの電位が下降する。すると、P,NチャネルFETの閾値電圧は何れも大きくなるので、INVゲート35〜37等を構成する各FETのスイッチングスピードが遅くなり、結果として各ゲートの伝搬遅延時間が長くなり、リングオシレータ1より出力されるクロック信号RCKの周期も長くなる。その結果、作用は第1実施例と同様になる。
【0033】
以上のように第2実施例によれば、位相誤差補正回路32は、基準クロック信号PREFと逓倍クロック信号POUTとの位相差に応じて、リングオシレータ1のNANDゲート34やINVゲート35〜37を構成するFETの閾値レベルを変化させるようにした。具体的には、チャージポンプ回路33によって、MOSFETのバックゲート電圧BG_P,BG_Nを変化させるので、ソース電位との差に応じてFETの閾値電圧VTを変化させることができる。したがって、リングオシレータ1の電源を、その他の回路と共用することが可能となる。
【0034】
(第3実施例)
図5及び図6は、本発明の第3実施例を示すものである。第3実施例のクロック信号出力回路41は、位相誤差補正回路(位相補正手段)42を、デジタル回路で構成したものである。リングオシレータ1において、内部で周回する高速クロック信号RCKのエッジ到達位置を示すデータR1〜R16は、直列に接続されたフリップフロップ43,44(第1,第2ラッチ)により、分周前の4MHzの基準クロック信号REF_INの周期で順次ラッチされる。
【0035】
また、桁上がりカウンタ45は、リングオシレータ1のデータR16の立下りエッジによってカウント動作し、そのカウント値は、直列に接続されたフリップフロップ46,47(第3,第4ラッチ)により、基準クロック信号REF_INの周期で順次ラッチされる。即ち、カウンタ45のカウント値は、リングオシレータ1においてクロックエッジが1周する毎にカウントアップするので、フリップフロップ47,46によりラッチされたデータの差分は、基準クロック信号REF_INの周期間にリングオシレータ1のクロックエッジが周回した回数を示す。
【0036】
また、フリップフロップ43,44にラッチされたデータは、位相エンコーダ48,49(第1,第2エンコーダ)によって4ビットのバイナリデータにエンコードされ、そのエンコードデータの上位側に、フリップフロップ47,46のラッチデータがそれぞれ付加される。そして、位相エンコーダ49側のデータは、カウンタ・データラッチ回路4より出力されるデータCD1〜12に逓倍率データNを乗じた結果と加算器50により加算され、その加算結果データと、位相エンコーダ48側のデータとは、減算器51により減算される。
減算器51の減算結果は、下位4ビットデータが加算器52及びフリップフロップ53により構成される積分器54によって、基準クロック信号REF_INの周期で積分され、積分結果データΔφは、DCO6Aに出力される。
【0037】
図6は、DCO6Aの内部構成を示す。DCO6Aは、特許文献1に開示されているDCOに、フリップフロップ(4ビット)55と加算器56とを加えたものである。積分データΔφは、フリップフロップ55のデータ入力端子Dに与えられており、フリップフロップ55は、信号AD2の立上りエッジによりラッチされる。そして、そのラッチデータは、カウンタ・データラッチ回路4より出力されるデータCD1〜12の下位4ビットに加算される。尚、DCO6Aのその他の内部構成は、特許文献1に開示されているものと同様である。
【0038】
次に、第3実施例の作用について説明する。位相誤差補正回路42では、基準クロック信号REF_INの周期毎に、リングオシレータ1のクロックエッジが周回した回数と、エッジ位置を示すデータとの差が取られる。この場合、前回のデータには、カウンタ・データラッチ回路4における逓倍処理前のデータ(CD1〜12)×Nが加えられて減算されることで、減算器51の減算結果は、基準クロック信号REF_INの周期間における逓倍クロック信号PREFの位相差を示すことになる。
【0039】
上記位相差データは、積分器54により逓倍クロック信号PREFの周期間に積分される。この場合、その積分結果は、クロックエッジの到達位置を示す4ビットデータ値を巡回しつつ変化する。そして、DCO6Aにおいて逓倍クロック信号PREFの位相を決定する下位4ビットデータCD1〜4に加えられる。また、フリップフロップ56が信号AD2の立上りエッジで位相差データΔφをラッチするのは、AD2の立下りエッジで演算対象となる下位5ビットデータD1〜D5がラッチされるようになっているので、そのラッチタイミング直前の積分結果を加算するためである(特許文献1,段落[0086]参照)。
即ち、逓倍クロック信号PREFと、基準クロック信号REF_INとの位相差がDCO6Aにフィードバックされて逓倍クロック信号PREFが生成されるので、両者の位相差は縮小されるように制御される。
【0040】
以上のように第3実施例によれば、位相誤差補正回路42は、リングオシレータ1において周回する信号エッジの到達位置を示すデータ及び前記周回の回数を示すデータに基づいて、基準クロック信号PREFの1周期間に、逓倍クロック信号POUTについて生じる位相差のデータを検出すると、その位相差データを基準クロック信号PREFの周期で積分し、その積分結果データを、逓倍クロック信号POUTの生成用データCD1〜4に加算するので、デジタル演算処理によって、基準クロック信号PREFに対する位相差を縮小させることができる。
【0041】
また、位相誤差補正回路42は、リングオシレータ1において周回する信号エッジの到達位置データR1〜16と同信号エッジの周回回数カウントデータとを、基準クロック信号PREFに同期して順次ラッチし、到達位置データをエンコードした結果の上位側に周回回数ラッチデータを付加し、前回のラッチデータには(CD1〜12)×Nを加え、その加算結果より今回のラッチデータを減じることで、基準クロック信号PREFの1周期間に、逓倍クロック信号POUTについて生じた位相差データを得ることができる。
【0042】
(第4実施例)
図7は、本発明の第4実施例を示す。第1実施例の位相誤差補正回路12と、第3実施例の位相誤差補正回路42とを組み合わせた構成である。斯様に構成すれば、基準クロック信号PREFと逓倍クロック信号POUTとの位相差に応じて、リングオシレータ1の電源電圧と、位相差データのフィードバック制御とが並行して行われるので、位相差を縮小する制御時間がより短くなる。
【0043】
本発明は上記し且つ図面に記載した実施例にのみ限定されるものではなく、以下のような変形または拡張が可能である。
位相誤差の補正は、1制御周期の間に少なくとも1回以上行えば良い。
1制御周期は、基準クロック信号PREFの8周期に限ることはない。
リングオシレータを構成する遅延ゲート数も、32個に限ることはない。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の第1実施例であり、(a)はクロック信号出力回路、(b)は位相比較器、(c)はチャージポンプ回路の構成を示す図
【図2】位相比較器並びにチャージポンプ回路の動作を示すタイミングチャート
【図3】クロック信号出力回路のタイミングチャート
【図4】本発明の第2実施例であり、(a)はクロック信号出力回路、(b)はチャージポンプ回路、(c)はリングオシレータの構成を示す図
【図5】本発明の第3実施例を示す図1(a)相当図
【図6】DCOの内部構成を示す図
【図7】本発明の第4実施例を示す図1(a)相当図
【図8】従来技術を示す図1(a)相当図
【図9】図2相当図
【符号の説明】
【0045】
図面中、1はリングオシレータ、11はクロック信号出力回路、12は位相誤差補正回路(位相補正手段)、13は位相比較器、14はチャージポンプ回路、31はクロック信号出力回路、32は位相誤差補正回路(位相補正手段)、33はチャージポンプ回路、41はクロック信号出力回路、42は位相誤差補正回路(位相補正手段)、43,44フリップフロップ(第1,第2ラッチ)、45は桁上がりカウンタ、46,47はフリップフロップ(第3,第4ラッチ)、48,49は位相エンコーダ(第1,第2エンコーダ)、50は加算器、51は減算器、54は積分器、56は加算器、61はクロック信号出力回路を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個の遅延ゲートをリング状に接続して構成されるリングオシレータを備え、このリングオシレータによって生成される高速クロック信号により基準クロック信号の周期をカウントしたデータに基づいて演算処理を行なうことで、前記基準クロック信号の周波数を逓倍した逓倍クロック信号を生成して出力するクロック信号出力回路において、
前記基準クロック信号と前記逓倍クロック信号との位相差を検出し、その位相差に応じて、前記逓倍クロック信号の出力位相を前記基準クロック信号に同期させるように補正するもので、前記補正を、前記基準クロック信号周期をカウントする間隔の間に1回以上実行する位相補正手段を備えたことを特徴とするクロック信号出力回路。
【請求項2】
前記位相補正手段は、前記位相差に応じて、前記リングオシレータに供給される電源の電圧レベルを変化させるように構成されていることを特徴とする請求項1記載のクロック信号出力回路。
【請求項3】
前記位相補正手段は、前記位相差に応じて、前記リングオシレータの遅延ゲートを構成する半導体素子の閾値レベルを変化させるように構成されていることを特徴とする請求項1記載のクロック信号出力回路。
【請求項4】
前記半導体素子がMOSFETである場合、
前記位相補正手段は、前記MOSFETのバックゲートに印加する電圧レベルを変化させるように構成されていることを特徴とする請求項3記載のクロック信号出力回路。
【請求項5】
前記位相補正手段は、
前記基準クロック信号の何れか一方のエッジを検出する第1フリップフロップと、
前記逓倍クロック信号のエッジを、前記第1フリップフロップと同じ側について検出する第2フリップフロップと、
前記第1,第2フリップフロップによる前記各エッジの検出状態に応じて、コンデンサの充電,放電を行うチャージポンプ回路とを備え、
前記第1,第2フリップフロップは、何れか一方のエッジが検出された後、他方のエッジが検出されると、リセットされるように構成されていることを特徴とする請求項2または4記載のクロック信号出力回路。
【請求項6】
前記位相補正手段は、
前記リングオシレータにおいて周回する信号エッジの到達位置を示すデータ及び前記周回の回数を示すデータに基づいて、前記基準クロック信号の1周期間に、前記逓倍クロック信号について生じる位相差のデータを検出する位相差データ検出手段と、
前記位相差データを前記基準クロック信号の周期で積分する積分器と、
この積分器による積分結果を、前記逓倍クロック信号の生成用データに加算する加算器とを備えて構成されることを特徴とする請求項1ないし5の何れかに記載のクロック信号出力回路。
【請求項7】
前記位相差データ検出手段は、
前記信号エッジの到達位置データを、前記基準クロック信号に同期してラッチする第1ラッチと、
この第1ラッチによりラッチされたデータを、前記基準クロック信号に同期してラッチする第2ラッチと、
前記信号エッジの周回回数をカウントするカウンタと、
このカウンタのカウントデータを、前記基準クロック信号に同期してラッチする第3ラッチと、
この第1ラッチによりラッチされたデータを、前記基準クロック信号に同期してラッチする第4ラッチと、
前記第1,第2ラッチによりラッチされたデータをバイナリデータにエンコードする第1,第2エンコーダと、
前記第2エンコーダによってエンコードされたデータの上位側に、前記第4ラッチによってラッチされたデータを付加したものに、前記逓倍クロック信号の生成用データに逓倍率を乗じた結果を加える加算器と、
この加算器の加算結果より、前記第1エンコーダによってエンコードされたデータの上位側に、前記第3ラッチによってラッチされたデータを付加したデータを減算する減算器とで構成されることを特徴とする請求項6記載のクロック信号出力回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−311995(P2008−311995A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−158732(P2007−158732)
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】