説明

グラビア塗布装置及び塗布方法

【課題】ドクターブレードとグラビアロールの接触が適正な状態であることを確認して塗布を開始するグラビア塗布装置と塗布方法を提供する。
【解決手段】フィルム基材105の表面に塗膜を形成するグラビア塗布装置であって、塗布されるインキ117を溜めるインキパン116と、インキパン中のインキを掻き上げ、表面に設けられた凹部に充填するグラビアロール8と、掻き上げられたグラビアロール表面のインキを掻き落とすドクターブレード101と、グラビアロールとグラビアブレード間の電気抵抗値を測定する電気抵抗測定器103と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグラビア塗布装置において、基材表面に膜厚変動の少ない塗膜を形成するグラビア塗布装置および塗布方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学フィルム(反射防止フィルム、防眩性フィルム、ハードコートフィルム)等の被膜の製造方法として、帯状可撓性の支持体の表面にグラビア塗布装置を使用して、塗膜を形成する方法がある。図1は反射防止フィルムの一例を断面で示す図である。図1に示される反射防止フィルムはフィルム基材1、ハードコート層2、反射防止層3の各層で構成されている。図2に一般的に用いられているグラビア塗布装置の塗布部の一例を示す。グラビア塗布装置では、インキパン6内の塗液(インキ)7をグラビアロール8で掻き上げ、グラビアロールの凹部(セル)内のみに塗液が存在するよう、ドクターブレード9で余分な塗液を掻き落とした後、塗液はグラビアロールのロール面から帯状可撓性の支持体10の表面に転写され、塗膜11が形成される。
【0003】
ドクターブレード9によって余分な塗液がグラビアロール8の表面から掻き落とされた後、セルに残る塗液量はドクターブレード先端とグラビアロールの接触状況により変動するため、それに伴い膜厚も変動するという問題があった。グラビア塗布装置において発生するこのような問題に対して、塗布膜厚を安定させるためにドクターブレード9の形状や素材特性に特徴を持たせたいくつかの提案が行われている(特許文献1、2)。
【0004】
特許文献1では、ドクターブレードのグラビアロールと接触する面の接触面長のバラツキを規定して塗布ムラを解消し、膜厚を安定化させる方法が提案されている。特許文献2では、グラビアロールと接触する面のドクターブレードの刃先の研削方向を規定し、膜厚の安定化を図っている。すなわち、グラビアロールとドクターの接触面のドクターブレードの研削痕がグラビアロールの幅方向に残るようにして塗布ムラを解消する提案である。
【0005】
上記の提案は、ドクターブレードのグラビアロールへの接触面の状態を規定することで膜厚変動の一部を抑制することができる。しかしながら、ドクターで発生する膜厚変動を解決できない問題が残されていた。
【0006】
膜厚変動の少ない塗膜を得るためには、特許文献1や特許文献2の手法に関わらず、慣らし運転を行いドクターブレードとグラビアロールの接触が適正な状態になっていることが必要である。しかしながら、これまでは接触が適正な状態にあるかを確認する手段は無く、必要以上に長い慣らし運転時間を要することや、実際に塗工を行い慣らし運転の不足に初めて気付く等の問題があった。その結果、材料費の無駄や、設備運転効率の低下といった問題が発生していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−340345号公報
【特許文献2】特開2009−184337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような状況に鑑みてなされてもので、ドクターブレードとグラビアロールの接触が適正な状態であることを確認して塗布を開始するグラビア塗布装置と塗布方法を
提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、請求項1に係る発明は、基材表面に塗膜を形成するグラビア塗布装置であって、
塗布されるインキを溜めるインキパンと、
インキパン中のインキを掻き上げ、表面に設けられた凹部に充填するグラビアロールと、
掻き上げられたグラビアロール表面のインキを掻き落とすドクターブレードと、
グラビアロールとグラビアブレード間の電気抵抗値を測定する抵抗値測定手段と、を備えることを特徴とするグラビア塗布装置である。
【0010】
本発明の請求項2に係る発明は、インキパン中のインキをグラビアロールで掻き上げてその表面に設けられた凹部に充填し、次にドクターブレードによりグラビアロール表面のインキを掻き落とした後、グラビアロール表面の凹部に残存するインキを塗布するグラビア塗布方法において、
グラビアロールとグラビアブレード間の電気抵抗値を測定して、その測定値が予め設定された電気抵抗値より小さくなるまで慣らし運転を行い、次に塗布を開始することを特徴とする塗布方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ドクターブレードとグラビアロール間の電気抵抗を測定する手段を備えることにより、ドクターブレードとグラビアロールの接触状況により変化する電気抵抗を測定できるため、ドクターブレードとグラビアロールの接触状況を確認することが可能となり、その結果、適正な慣らし運転を行うことが出来、材料費の削減と設備稼働率を上げることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】反射防止フィルムの一例を断面で示す図。
【図2】一般的に用いられているグラビア塗布装置の塗布部の一例を示す図。
【図3】本発明のグラビア塗布装置の一部を説明する図。
【図4】本発明のグラビア塗布装置を用いて慣らし運転を行った場合の電気抵抗器によって測定された電気抵抗値の推移を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態を、図面を用いて詳細に説明する。
【0014】
図3に本発明のグラビア塗布装置の一部を示す。グラビア塗布装置は塗布されるインキ117を溜めるインキパン116と、インキを掻き上げ、表面に凹部を有するグラビアロール102と、掻き上げられたグラビアロール表面のインキを掻き落とすドクターブレード101と、グラビアロール102とドクターブレード101間の電気抵抗値を測定する手段である電気抵抗測定器103と、を備えている。フィルム基材105はグラビアロール102とインプレッションロール104によって印圧がかけられながら矢印106で示す方向に搬送され、掻き上げられたグラビアロール表面のインキはフィルム基材105に塗布される。
【0015】
図4は、図3に示されるグラビア塗布装置を用いて慣らし運転を行った場合の電気抵抗器103によって測定された電気抵抗値の推移を示したものである。時間経過とともに電気抵抗値は徐々に小さくなり、予め設定された電気抵抗値Rrefよりも下回った場合に、塗布を開始する。
【0016】
また、電気抵抗値の推移はインキ組成とグラビアロールの材質とドクターブレードの材質との組み合わせによって違いが有り、また電気抵抗値Rrefは上記組み合わせ毎にその値を変更して測定した電気抵抗値が小さくなるまで慣らし運転を行った後、塗布を開始する。
【0017】
以下に図面を用いて本発明の実施例と比較例を説明する。
【0018】
(実施例)
図3に示すグラビア塗布装置を用い、ドクターブレードとグラビアロールの接触状態を適正にするための慣らし運転を行った。その際、予め把握しておいた適正な接触状態でのドクターブレード101とグラビアロール102間の電気抵抗になるまで慣らし運転を行った。その際に要した時間は2〜10時間であった。慣らし運転が終わった後、固形分50%のアクリル樹脂系の塗液を、支持体としてのポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布してから熱風乾燥して製膜を行った。慣らし運転不足による膜厚変動は確認されなかった。
【0019】
(比較例1)
図3に示すグラビア塗布装置を用い、1時間慣らし運転を行った後、固形分50%のアクリル樹脂系の塗液を、支持体としてのポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布してから熱風乾燥して製膜を行った。慣らし運転不足による膜厚変動が発生した。
【0020】
(比較例2)
図3に示すグラビア塗布装置を用い、20時間慣らし運転を行った後、固形分50%のアクリル樹脂系の塗液を、支持体としてのポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布してから熱風乾燥して製膜を行った。慣らし運転不足による膜厚変動は確認されなかった。
【0021】
実施例、比較例1、比較例2の結果から、本発明のドクターブレードとグラビアロール間の電気抵抗測定手段を備えるグラビア塗布装置を用いることで、慣らし運転不足を回避しつつも、慣らし運転に要する時間を短縮することができる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明のグラビア塗布装置によれば、膜厚変動の少ない塗膜を成膜することができ、反射防止フィルムのように安定した膜厚が要求される塗工を行う場合に有用である。
【符号の説明】
【0023】
1・・・フィルム基材
2・・・ハードコート層
3・・・反射防止層
6・・・インキパン
7・・・塗液(インキ)
8・・・グラビアロール
9・・・ドクターブレード
10・・・帯状可撓性の支持体
11・・・塗膜
101…ドクターブレード
102…グラビアロール
103…電気抵抗測定器
104・・・インプレッションロール
105・・・フィルム基材
106・・・フィルム基材の搬送方向を示す矢印
116・・・インキパン
117・・・インキ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面に塗膜を形成するグラビア塗布装置であって、
塗布されるインキを溜めるインキパンと、
インキパン中のインキを掻き上げ、表面に設けられた凹部に充填するグラビアロールと、
掻き上げられたグラビアロール表面のインキを掻き落とすドクターブレードと、
グラビアロールとグラビアブレード間の電気抵抗値を測定する抵抗値測定手段と、を備えることを特徴とするグラビア塗布装置。
【請求項2】
インキパン中のインキをグラビアロールで掻き上げてその表面に設けられた凹部に充填し、次にドクターブレードによりグラビアロール表面のインキを掻き落とした後、グラビアロール表面の凹部に残存するインキを塗布するグラビア塗布方法において、
グラビアロールとグラビアブレード間の電気抵抗値を測定して、その測定値が予め設定された電気抵抗値より小さくなるまで慣らし運転を行い、次に塗布を開始することを特徴とする塗布方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−59737(P2013−59737A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200514(P2011−200514)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】