説明

コンピュータ断層撮影装置

興味対象を検査する本発明に係るコンピュータ断層撮影装置は、興味対象から散乱された電磁放射線を、検出信号として、エネルギー分解して検出するように適応された検出素子、及び、興味対象に関する構造情報を決定するために処理されるべきデータ量を削減するように、別々の検出素子によって検出された検出信号を結合させるように適応された結合ユニットを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はX線撮像に関する。特に、本発明はコンピュータ断層撮影装置、コンピュータ断層撮影装置を用いた興味対象の検査方法、コンピュータ可読媒体、及びプログラム要素に関する。
【背景技術】
【0002】
ここ数年の間に、X線手荷物検査は、操作者による相互やり取りに完全に依存する単純なX線撮像システムから、ある特定種類の物質を自動的に認識し、且つ危険物の存在時に警報を始動させることが可能な一層と洗練された自動化システムへと進化してきた。検査システムは、検査される荷物を貫通して検出器に透過されたり、あるいは該荷物から検出器へと散乱されたりするX線を放射するX線放射線源を用いている。
【0003】
コンピュータ断層撮影法(CT)は、単一の回転軸の周りで撮られた一連の2次元X線画像から対象物内部の3次元画像を生成するためのデジタル処理を用いる処理である。CT画像の再構成は適当なアルゴリズムを適用することによって行われることができる。
【0004】
コヒーレントに散乱されたX線光子又は量子に基づく撮像技術は、所謂“コヒーレント散乱コンピュータ断層撮影法”(CSCT)である。CSCTは興味対象の(特に小角)散乱特性の画像を作り出す技術である。散乱特性は対象物の分子構造に依存し、各成分の物質固有マップを作成することを可能にする。小角散乱の支配的な成分はコヒーレント散乱である。コヒーレント散乱のスペクトルは散乱する試料の原子配列に依存するので、コヒーレント散乱コンピュータ断層撮影法(CSCT)は、2次元対象区画を横切る荷物又は生物組織に対して、それらの分子構造の空間変化を画像化する高感度の技術である。言い換えれば、CSCTはコヒーレント散乱された放射線に含まれる情報を考慮した画像を再構成する。
【0005】
特許文献1は、コヒーレント散乱されたX線に基づく撮像方法の原理を開示している。この目的で、扇面から小さく発散する放射線から成る小さい扇ビームが対象物へと導かれる。そして、透過された放射線が、対象物によって扇面の外に散乱された放射線とともに測定される。
【0006】
コヒーレント散乱に基づくコヒーレント散乱コンピュータ断層撮影法(CSCT)と呼ばれる撮像技術は、透過断層撮影と散乱断層撮影とが同時に測定され得るように2次元検出器と組み合わされた扇状の主ビームを用い得る。
【0007】
しかしながら、測定された検出信号から興味対象の画像を高品質で再構成するためには、多量のデータが処理されなければならない。
【特許文献1】独国特許出願公開第10009285号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、十分に高速な画像再構成データ処理を可能にするコンピュータ断層撮影装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題に鑑み、独立請求項に従ったコンピュータ断層撮影装置、コンピュータ断層撮影装置を用いた興味対象の検査方法、コンピュータ可読媒体、及びプログラム要素が提供される。
【0010】
興味対象を検査するためのコンピュータ断層撮影装置は、興味対象から散乱された電磁放射線を、検出信号として、エネルギー分解して検出するように適応された検出素子を有する。さらに、興味対象に関する構造情報を決定するために処理されるべきデータ量を削減するように、別々の検出素子によって検出された検出信号を結合させるように適応された結合ユニットが設けられる。
【0011】
また、本発明によって提供される、コンピュータ断層撮影装置を用いて興味対象を検査する方法は、興味対象から散乱された電磁放射線を、検出信号として、エネルギー分解して検出する段階、及び興味対象に関する構造情報を決定するために処理されるべきデータ量を削減するように、別々の検出信号を結合させる段階を有する。
【0012】
さらに、コンピュータ断層撮影装置を用いて興味対象を検査するコンピュータプログラムが格納されたコンピュータ可読媒体が提供され、このコンピュータプログラムはプロセッサによって起動されると、上述の方法の段階を実行するように適応されている。
【0013】
さらに、興味対象を検査するコンピュータプログラムが提供され、このプログラムはプロセッサによって起動されると、上述の方法の段階を実行するように適応されている。
【0014】
本発明に従った興味対象の検査は、コンピュータプログラムによって、すなわちソフトウェアによって、あるいは1つ又は複数の特別な最適化電子回路を用いることによって、すなわちハードウェアにて、あるいは複合的な形態にて、すなわちソフトウェア要素及びハードウェア要素によって、実現されることが可能である。
【0015】
本発明を特色付ける特徴は、特に、エネルギー分解検出信号からの3次元画像の再構成に先立って、別々の検出素子によって検出された検出信号を結合させる、あるいはグループ化することにより、測定データセットの前処理が実行されるという利点を有する。具体的には、信号の冗長性及びその情報コンテンツの冗長性を少なくとも部分的に除去するために、検出信号は共用されることができる。言い換えれば、同一の情報、類似の情報、又は補完的な情報を生じさせる別々の信号は、測定された検出信号をグループ化することにより、後に処理されるべきデータ量の削減と、このデータの統計的な有意義性の向上とが達成され得るように単一の信号に結合され得る。
【0016】
本発明に係るCSCTシステムに実装されるエネルギー分解検出器を用いて、検出信号の情報は非常に高い画質を得るために効率的に使用されることができる。別々の検出素子によって受信された検出信号をグループ化することにより、小さい計算負荷で、測定値から最大限の情報を得ることが可能であり、故に、コンピュータ断層撮影解析の速度及び正確性が有意に向上される。
【0017】
特に、本発明は多列(マルチライン)エネルギー分解コヒーレント散乱コンピュータ断層撮影(CSCT)のために補足データを前処理することを教示するものである。本発明は、例えば、手荷物検査又は医療診断の分野で効果的に実施され得るものである。
【0018】
本発明の一態様に従って、多列エネルギー分解CSCT技術のための前処理には、コンピュータ断層撮影信号の画像再構成のデータ速度の高速化をもたらす、2次元エネルギー分解検出器の行又は列のX線信号の前処理が含まれる。
【0019】
本発明の一思想は、CSCTを対象にし、且つマルチライン検出器の散乱データを結合させるということである。前処理は、データがその波数ベクトル変化パラメータに関して分類される洗練された手法で行われる。故に、1次元分のデータが再構成において排除されることが可能であり、データ処理及び画像再構成を高速化させることができる。2次元エネルギー分解検出器が用いられるとき、3次元データセット、すなわち、2次元の検出器座標及び1次元のエネルギー分布が各投影に対して取得される。これはガントリーからのかなり高いデータ速度を生じさせる。本発明により、再構成では1つの次元が排除される。その結果、更なる処理及び再構成のために使用されるデータ速度の効率的な低減が実現される。本発明はこのような排除処理について記述するものであり、このような排除処理は好ましくは前処理手順中に実行される。結合による上記の排除がガントリー上で行われる場合、検出器の行数(例えば、5から20)と等価な係数だけデータ速度が低減され得る。
【0020】
エネルギー分解マルチラインCSCTデータの前処理手順は、一実施形態に従って、各検出画素の出力が感度バラつき及びエネルギースケール変動に関して補正され、且つ主ビームに正規化されることを含んでもよい。解析処理のこの時点で、その他の画素ごとの前処理段階が更に実行されてもよい。後続段階にて、全チャンネル(好ましくは、参照チャンネルを除く)のエネルギースケールは、fと表記される調整係数と掛け合わされてもよい。個々の検出器ライン毎に、使用可能なエネルギー範囲(興味範囲)が選定されることが可能である。そして、全てのデータが更なる処理のために足し合わされてもよい。
【0021】
従属請求項を参照して、本発明の更なる好適な実施形態について以下にて説明する。
【0022】
コンピュータ断層撮影装置の好適実施形態について説明する。これらの実施形態は、興味対象を検査する方法、コンピュータ可読媒体及びプログラム要素に適用されてもよいものである。
【0023】
結合ユニットは、別々の検出素子によって検出された検出信号を、検出信号の位置及びエネルギーに基づいて結合させるように適応されていてもよい。故に、検出器アレイ上での検出素子の位置のパラメータ/基準と、検出された放射線の評価エネルギーとは、何れの信号が結合されるべきかを決定する信頼できる基礎として用いられ得る適当なパラメータである。何故なら、単独で見て、これらは信号を結合させることにより本発明に従って削減され得る幾らかの冗長性を表すものだからである。例えば、異なるエネルギーを有し且つ異なる位置を有する信号は、エネルギー及び位置のパラメータに関して特別な条件が満たされる場合には結合されてもよい。例えば、光子エネルギーと、この光子を検出する検出素子の、検査対象を透過する放射線からの角距離との積が一定である信号は結合されてもよい。
【0024】
検出素子は検出素子グループを形成するようにグループ化されてもよく、各グループは、興味対象を透過した(散乱されることによって逸らされていない)電磁放射線ビームを検出する検出素子グループからそれぞれの距離に散乱された電磁放射線を検出するように配置されていてもよい。このグループ分けにより、後の3次元画像の再構成中に処理されるべきデータ量を削減するように別々の信号を共用することが可能になる。
【0025】
結合ユニットは、検出された電磁放射線のエネルギーと、上述のように定められた散乱されていない放射線からの距離との積が実質的に等しい検出信号を結合させるように適応されていてもよい。図3を参照して後述されるように、この積は信号を結合させるための適当な基準である。
【0026】
結合ユニットは、更に、コヒーレント散乱された興味対象への電磁放射線の波数ベクトル変化が実質的に等しい検出信号を結合させるように適応されていてもよい。このような検出信号は幾らかの冗長性を示し、グループ的に評価されると、解析の統計を改善し得るものである。
【0027】
また、当該コンピュータ断層撮影装置は回転可能なガントリーを有していてもよく、結合ユニットはガントリーに配置されていてもよい。更なる解析のために決定ユニットに信号を転送する以前に、ガントリー上で上記の前処理法を実行しておくことにより、転送されなければならない信号量が非常に小さい量のみとなり、それにより処理速度が高速化される。回転しているガントリーから回転していない決定ユニットへの(データの更なる処理のための)検出データの転送は、データ伝送チャンネルを介して行われることができる。この転送は直接的な(機械的な)電気接続(例えば、“シュレイフリング(Schleifring)”とも呼ばれる収集リングによる)を介して、あるいは特に電磁放射線の伝送(例えば、光伝送又はRF伝送)により非接触で行われ得る。回転式ガントリーから静止型決定ユニットに伝送されるべきデータ量を削減することにより、データ伝送チャンネルに要求される帯域幅は有意に狭くされる。
【0028】
当該コンピュータ断層撮影装置は、検出信号を結合させる前に検出信号を補正するように適応された補正ユニットを有していてもよい。更なる処理前のこのような初期補正は、信頼性及び再構成される画像の品質を向上させる。何故なら、補正によってスペクトルからアーチファクトが除去され得るからである。
【0029】
例えば、補正ユニットは、感度バラつき及び/又はエネルギースケールバラつきに関して検出信号を補正するように適応されていてもよい。特に、前処理は検出素子の受信のエネルギー依存性を考慮することを含んでいてもよい。これにより、使用モデルが洗練されたものにされるので、後に行われる興味対象の画像再構成の正確性が向上され得る。
【0030】
さらに、検出信号を結合させる前に検出信号を正規化するように適応された正規化ユニットが設けられてもよい。この正規化は結果の信頼性及び再現性を更に増大させる。
【0031】
当該コンピュータ断層撮影装置は、検出信号を結合させる前に検出信号の減衰の影響を補正するように適応された減衰補正ユニットを有していてもよい。この減衰補正は再構成画像の品質を向上させる。
【0032】
さらに、当該コンピュータ断層撮影装置は、結合された検出信号の解析に基づいて、興味対象に関する構造情報を決定するように適応された決定ユニットを有していてもよい。故に、検出信号を前処理した後に、それらを処理されるべきデータ速度を低減するためにグループ化することにより、これら前処理された信号は、興味対象に関する情報を得るために3次元再構成を実行する決定ユニットに提供されてもよい。
【0033】
当該コンピュータ断層撮影装置は、更に、決定ユニットに提供される検出信号のエネルギー範囲について、検出素子グループ(の全て又は一部)に対してそれぞれのエネルギー範囲を選定するように適応された選定ユニットを有していてもよい。故に、3次元画像の再構成の有意義性を増大させるように、各検出素子に対して、あるいは1つのグループの検出素子(例えば、検出素子の行又は列)に対して、散乱された電磁放射線のエネルギーの特定の興味範囲が定められ得る。例えば、大きい散乱角では、それぞれの閾値より小さいエネルギーを有する信号のみが更なる解析のために選定されてもよく、より小さい散乱角では、それぞれの閾値より大きいエネルギーを有する信号のみが更なる解析のために選定されてもよい。
【0034】
当該コンピュータ断層撮影装置は、更に、興味対象に電磁放射線を放射するように適応された(X線源のような)電磁放射線源を有していてもよく、また、電磁放射線源と検出素子との間に配置され、電磁放射線源によって放射された電磁放射線ビームを平行にするように適応されたコリメータを有していてもよい。特に、扇ビーム形状をした主ビームが使用され得る。
【0035】
本発明に係るコンピュータ断層撮影装置は、コヒーレント散乱コンピュータ断層撮影装置(CSCT)として適応されていてもよい。すなわち、当該コンピュータ断層撮影装置は上述のCSCT技術に従って構成され、操作されてもよい。
【0036】
当該コンピュータ断層撮影装置の検出素子はマルチライン検出器アレイを形成していてもよい。例えば、検出素子は2次元検出器アレイ形成していてもよい。マルチスライス型検出器アレイを用いることにより、非常に高い分解能が達成され、また、多数の信号が同時に捕捉され得る。
【0037】
当該コンピュータ断層撮影装置において、検出素子は、複数の行(又はライン)及び複数の列の検出素子を有するマトリックス状の検出器アレイを形成するように構成されていてもよい。このようなマトリックス状検出器アレイ(これは2次元検出器として実現されてもよい)において、結合ユニットは1つの列の別々の検出素子によって検出された検出信号を結合させるように適応されていてもよい。言い換えれば、このようなマトリックス状検出器アレイの特定の列に関連する全ての検出素子の検出信号が、冗長性を低減するために結合されてもよい。特に、マトリックスの或る1つの列の別々の画素に突き当たる光子の位置とエネルギーとの間の所定の相関関係(例えば等式(4)及び対応する記載を参照)が満たされる場合、これらの信号は結合/加算されてもよい。故に、後に処理されるべきデータ量は有意に削減される。
【0038】
本発明に係るコンピュータ断層撮影装置は、手荷物検査装置、医療用装置、材料試験装置、及び材料科学分析装置から成るグループの1つとして構成されていてもよい。本発明の好適な応用分野は手荷物検査である。何故なら、本発明に係る既定の機能により、疑わしい内容物の検出を可能にし、更にはその荷物品目内の物質の種類を判定することを可能にする、荷物品目の内容物の安全で信頼性のある分析が実現されるからである。本発明は、或る特定の種類の物質を認識し、必要に応じて、危険物が存在するときに警報を発することを自動的に実行する高品質の自動化システムを作り出す。このような検査システムは、検査対象の荷物を透過するか、それによって散乱されるかして、コヒーレント散乱された放射線をエネルギー分解的に検出することが可能な検出器へと達するX線を放射するX線放射線源とともに、本発明に係るコンピュータ断層撮影装置を用いてもよい。
【0039】
本発明の上記態様及び更なる態様は、以下に記載される実施形態から明らかになり、これら実施形態を参照しながら説明される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本発明について、実施形態を参照しながら更に詳細に説明する。しかしながら、本発明はこれら実施形態に限定されるものではない。
【0041】
図面中の説明図は概略的なものである。
【0042】
図1を参照して、エネルギー分解型CSCTを実現するコンピュータ断層撮影装置100について説明する。
【0043】
CSCT型のコンピュータ断層撮影装置100は、X線ビームを放射するX線源101を有しており、このX線ビームは、対象領域103に配置される対象物に突き当たる主扇ビーム104を形成するようにスリットコリメータ102内を導かれる。マルチライン検出器が、中央検出素子105(すなわち、対象物を透過された扇ビームから成るX線検出用の中央のライン)と複数のエネルギー分解検出素子106(すなわち、複数のエネルギー分解検出器ライン)とで構成されている。
【0044】
故に、中央の検出器(単一ライン、又はマルチライン)は直接的に透過された放射線を検出するために設けられている。オフセット配置された検出器はエネルギー分解型であり、散乱された放射線を測定する。この方法及び装置により、多色の主放射線を用いた場合にも適当なスペクトル分解能が実現可能である。
【0045】
故に、図1はエネルギー分解型CSCTの幾何学配置を示している。中央検出ライン105は透過放射線を測定し、一方、1つ以上の検出ライン106はエネルギー分解測定を実行するように構成されている。しかしながら、図1に示された装置100を用いると、複雑な信号解析が必要である。何故なら、装置100は処理されるべき莫大な量のデータを生成するためである。
【0046】
図2は、本発明に従ったCSCT(コヒーレント散乱コンピュータ断層撮影)スキャナシステム200の典型的な一実施形態を示している。
【0047】
この典型的な実施形態を参照し、荷物品目に含まれる例えば爆発物などの危険物を検出するための手荷物検査への適用に関して本発明を説明する。しかしながら、本発明はこの用途に限られるものではなく、医療撮像、又は例えば材料試験などのその他の産業用途の分野にも適用され得るものである。
【0048】
図2に描かれたコンピュータ断層撮影装置200は扇ビームによるCTスキャナである。図2に描かれたスキャナはガントリー201を有し、ガントリー201は回転軸202の周りを回転可能である。ガントリー201はモータ203によって駆動される。参照符号204は例えばX線源などの放射線源を示しており、この放射線源は本発明の一態様に従って多色放射線を放射する。
【0049】
参照符号205は、放射線源から放射された放射線ビームを扇状の放射線ビーム206に成形する開口系を示している。扇ビーム206は、ガントリー201の中央、すなわちCSCTスキャナの検査領域、に配置された興味対象207を貫通するように向けられ、検出器208に突き当たる。検出器208は、図2から理解され得るように、検出器208の表面に扇ビーム206が及ぶように、放射線源204に対向してガントリー201に配置されている。図2に描かれた検出器208は複数の検出素子223を有しており、各検出素子233は興味対象207によってコヒーレント散乱されたX線をエネルギー分解して検出することができる。
【0050】
興味対象207のスキャン中、放射線源204、開口系205及び検出器208はガントリー201とともに矢印216で指し示される方向に回転させられる。放射線源204、開口系205及び検出器208を備えるガントリー201の回転のため、モータ203はモータ制御ユニット217に接続されており、モータ制御ユニット217は計算又は決定ユニット218に接続されている。
【0051】
図2において、興味対象207はコンベヤーベルト(図示せず)に置かれた荷物品目である。興味対象207のスキャン中、ガントリー201が荷物品目207の周りを回転しながら、コンベヤーベルトが興味対象207をガントリー201の回転軸202に平行な方向に移動させる。これにより、興味対象207は螺旋状のスキャン経路に沿ってスキャンされる。コンベヤーベルトがスキャン中に停止されることにより、単一の断層が測定されてもよい。コンベヤーベルトを設ける代わりに、例えば興味対象207が患者である医療用途においては、可動式のテーブルが用いられる。しかしながら、説明される何れの場合においても、回転軸202に平行な方向の移動がなくて回転軸202の周りのガントリー201の回転だけである円形スキャンを実行することも可能である。
【0052】
図2に示されるように、本発明は扇ビーム構成によって実現され得る。主の扇ビームを生成するため、開口系205はスリットコリメータとして構成されている。
【0053】
検出器208は決定ユニット218に接続されている。決定ユニット218は、検出器208の検出素子223からの出力が結合ユニット225によって前処理されたものである検出結果を受取り、これら出力に基づいてスキャン結果を決定する。さらに、決定ユニット218はモータ制御ユニット217と信号伝達し、モータ203及び220を用いてガントリー201及びコンベヤーベルトの動作を調整する。
【0054】
決定ユニット218は断層撮影再構成法を用いて検出器208の出力から画像を再構成するように適応されていてもよい。計算ユニット218によって作成された再構成画像はディスプレー230に出力されてもよい。
【0055】
決定ユニット218は、検出器208の検出素子223から読み出された出力を処理するデータプロセッサによって実現されてもよい。
【0056】
また、図2から理解され得るように、決定ユニット218は、例えば荷物品目207内に疑わしい物質を検出した場合に自動的に警報を発生させるよう、スピーカ221に接続されていてもよい。
【0057】
コンピュータ断層撮影装置200は、故に、興味対象207を検査するように適応されており、興味対象207によってコヒーレント散乱された電磁放射線を、検出信号として、エネルギー分解して検出する検出素子223を有している。結合ユニット225は検出素子223の出力に結合されており、興味対象207に関する構造情報を決定するために決定ユニット218により処理されるべきデータ量を削減するように、別々の検出素子223によって検出された検出信号を結合するように適応されている。
【0058】
結合ユニット225は、別々の検出素子223によって検出された検出信号を、実質的に2次元である検出器アレイ208上での検出信号の位置と検出信号のエネルギーとに基づいて結合させるように適応されている。検出素子223は、具体的には、各グループが、興味対象207を透過した放射線を検出する中央の検出素子ラインからそれぞれの距離に散乱された電磁放射線を検出するように構成された、検出素子グループ群を形成するようにグループ化される。
【0059】
図3を参照して更に詳細に説明されるように、結合ユニット225は、検出された電磁放射線のエネルギーと、中央検出素子ライン105に対する検出素子223の距離との積が実質的に等しい検出信号を結合させる。結合ユニット225は、コヒーレント散乱された興味対象207への電磁放射線の実質的に等しい波数ベクトル変化を有する検出信号を結合させる。図2から見て取れるように、結合ユニット225は回転可能なガントリー201に固定して配置されている。
【0060】
決定ユニット218は結合ユニット225の出力と結合されており、結合ユニット225は該結合ユニット225により前処理されてデータ量が削減されたデータを決定ユニットに提供する。決定ユニット218は、結合された検出信号の解析に基づいて、興味対象207に関する構造情報を決定するように適応されている。
【0061】
電磁放射線204は電磁放射線を興味対象207に放射するように適応されており、該電磁放射線源204と検出素子223との間に配置されたコリメータ205を有している。このコリメータは、扇ビームを形成するために、電磁放射線源204により放射された電磁放射線ビームを平行にするように成形されている。
【0062】
興味対象207は荷物品目であるので、このコンピュータ断層撮影装置は手荷物検査装置として構成されている。
【0063】
以下、図3を参照し、別々の信号が本発明の一実施形態に従って結合される方法について更に詳細に説明する。
【0064】
複数行302のエネルギー分解検出器が用いられるとき(図2及び3参照)、受け取られるデータセットは部分的な冗長性を有している。このことは、異なる検出器の行302が波数ベクトルの重なり合った領域をカバーし得ることを意味する。このことが、統計データを改善し、それにより必要な測定時間を短縮するために使用される。以下では、図3を参照し、この目的のためにデータが前処理される方法について説明する。
【0065】
電磁放射線が散乱された位置にある興味対象207の物質の特徴である構造因子は、ベクトル変化xに応じて定式化可能である。それは光子のエネルギーE、及び図3に見られるような散乱角Θに依存する:
【0066】
【数1】

ただし、kは放射線の最終的な波数ベクトルを表し、kは放射線の当初の波数ベクトルを表す。プランク定数はhで表され、cは光速、λは放射線の波長である。
【0067】
等式(1)のパラメータは図3に見て取れる。図3は、散乱する形状の側面図である(より良く図示するため前記の方向が拡大されている)。入射放射線300が興味対象207の物体断層301で扇ビーム平面から散乱され、検出器208に突き当たっている。様々な検出器の行302が示されており、その各々は複数の検出素子223を有している。検出器の行302に関連付けられた或る1つの特定の検出素子223に到達する光子は、興味対象207内での散乱事象の位置に応じて、すなわち、光子が散乱された物体断層301に応じて、異なる角度Θに散乱されている。
【0068】
故に、図3はCSCT構成における散乱の幾何学配置を示している。マルチライン検出器208の検出素子Dは主ビームから距離aに位置している。そして、物体点Sに関し、検出器208からの距離dは散乱角Θと次の関係を有する:
【0069】
【数2】

角度が過大でなければ、等式(2)は良好な近似で次のように書き換えられる:
【0070】
【数3】

故に、xは主ビームからその検出器までの距離aに比例するとともに、エネルギーEに比例する。
【0071】
とaとの積Eを一定とすると、或る一定の波数ベクトル変化x
【0072】
【数4】

を有する対象物からの散乱のピークは、異なるエネルギーEでは異なる検出器の行302に現れる。
【0073】
等式(4)の関係を用いると、様々な検出器の行302のデータはもはや、図4に示されるように結合されることができる。(画素的な手法による)データの結合に先立ち、感度補正、エネルギースケール較正、主ビーム補正などの幾つかの前処理段階が実行されるべきである。
【0074】
また、主ビームから距離aに位置する参照行が定められてもよい。この参照ラインのエネルギーの大きさが基準として使用される。
【0075】
その後、主ビームから距離a(a≠a)に位置する他の検出器ラインのエネルギーの大きさに、補正係数f=a/ aが掛け合わされる。すなわち、主ビームからの距離が小さい場合には測定されたエネルギーの大きさは圧縮され、逆の場合には逆の結果となる。これにより、散乱ピークは検出器の行302に関係なく、同一の“調整エネルギー”に現れることが確実にされる。
【0076】
更に処理されるエネルギー範囲(興味範囲)が選定可能であり、スペクトルのこれらの部分のみが更に処理される。例えば、大きい散乱角では、小さいエネルギーのみが考慮されることができ、より小さい散乱角では、大きいエネルギーのみが考慮され得る。
【0077】
そして、様々な検出器の行に対する計数率が付加されてもよい。
【0078】
このような前処理はガントリー201上で実行され得る。これは、投影あたり決定ユニット218に伝送されなければならないのは、エネルギーチャンネル数と検出器列の数との間の積によって与えられる大きさのデータセットのみであるという利点を有する。元のデータセットは検出器の列数のエネルギーチャンネル数と検出器の行数のエネルギーチャンネル数との積によって与えられるデータ量を有しているので、検出器の行数によって与えられる係数の削減が達成される。
【0079】
図4は、エネルギー分解マルチラインCSCTデータの前処理の手順の一例を示している。各画素の出力は感度バラつき、エネルギースケール変動に関して補正され、主ビームに正規化される。その他の画素に関する前処理がこの時点で実行される。次の段階にて、参照チャンネルを除く全てのチャンネルのエネルギースケールに調整係数fが掛け合わされる。使用可能なエネルギー範囲(ROI)が個々の検出器ラインの各々に選定され得る。そして、全データが更なる処理のために足し合わされる。
【0080】
図5は、本発明に従った方法の典型的な一実施形態を実行するための、本発明に従ったデータ処理装置500の典型的な一実施形態を示している。図5に描かれたデータ処理装置500は、例えば患者や荷物品目などの興味対象を描写する画像を保存するメモリ502に接続された中央処理ユニット(CPU)又は画像プロセッサ501を有している。データプロセッサ501は、複数の入力/出力ネットワーク、又は例えばMR装置やCT装置などの診断装置に接続されてもよい。データプロセッサ501は更に、該データプロセッサ501にて計算あるいは適応された情報又は画像を表示する例えばコンピュータモニターといった表示装置503に接続されていてもよい。操作者又はユーザは、キーボード504、及び/又は図5には描かれていないその他の出力装置を介してデータプロセッサ501とやり取りしてもよい。さらに、バスシステム505を介して、画像処理及び制御プロセッサ501を、例えば、興味対象の動きを監視する動きモニターに接続することも可能である。例えば、患者の肺が撮像される場合、動きセンサーは呼吸センサーとしてもよい。心臓が撮像される場合には、動きセンサーは心電図(ECG)としてもよい。
【0081】
本発明が効果的に適用され得る典型的な技術分野には、手荷物検査、医療応用、材料試験、及び材料科学が含まれる。画質向上及びデータ量削減が小さい努力で達成され得る。また、本発明は心疾患を検出する心臓スキャンの分野に適用されることができる。
【0082】
なお、用語“有する”はその他の要素又は段階の存在を排除するものではなく、“或る(a又はan)”は複数であることを排除するものではない。また、相異なる実施形態に関連して説明された要素が組み合わされてもよい。さらに、請求項中の参照符号は請求項の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】エネルギー分解型CSCTを含むコンピュータ断層撮影装置を示す図である。
【図2】本発明の第1実施形態に従ったコンピュータ断層撮影装置を示す図である。
【図3】本発明に係るコンピュータ断層撮影装置の場合の散乱過程のモデル形状を示す図である。
【図4】本発明の概念を例示する図である。
【図5】本発明に係るコンピュータ断層撮影装置により実現されるデータ処理装置の典型的な一実施形態を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
興味対象から散乱された電磁放射線を、検出信号として、エネルギー分解して検出するように適応された検出素子;及び
別々の検出素子によって検出された検出信号を結合させ、それにより、興味対象に関する構造情報を決定するために処理されるべきデータ量を削減するように適応された結合ユニット;
を有する、興味対象を検査するコンピュータ断層撮影装置。
【請求項2】
結合ユニットは、別々の検出素子によって検出された検出信号を、検出信号の位置及びエネルギーに基づいて結合させるように適応されている、請求項1に記載のコンピュータ断層撮影装置。
【請求項3】
検出素子は検出素子グループを形成するようにグループ化されており、各検出素子グループは、興味対象を透過した電磁放射線を検出する検出素子グループからそれぞれの距離に散乱された電磁放射線を検出するように配置されている、請求項1に記載のコンピュータ断層撮影装置。
【請求項4】
結合ユニットは、検出された電磁放射線のエネルギーと前記距離との積が実質的に等しい検出信号を結合させるように適応されている、請求項3に記載のコンピュータ断層撮影装置。
【請求項5】
結合ユニットは、コヒーレント散乱された興味対象への電磁放射線の波数ベクトル変化が実質的に等しい検出信号を結合させるように適応されている、請求項1に記載のコンピュータ断層撮影装置。
【請求項6】
回転可能なガントリーを有し、結合ユニットはガントリーに配置されている、請求項1に記載のコンピュータ断層撮影装置。
【請求項7】
検出信号を結合させる前に検出信号を補正するように適応された補正ユニット、を有する請求項1に記載のコンピュータ断層撮影装置。
【請求項8】
補正ユニットは、感度バラつき及び/又はエネルギースケールバラつきに関して検出信号を補正するように適応されている、請求項7に記載のコンピュータ断層撮影装置。
【請求項9】
検出信号を結合させる前に検出信号を正規化するように適応された正規化ユニット、を有する請求項1に記載のコンピュータ断層撮影装置。
【請求項10】
検出信号を結合させる前に検出信号の減衰の影響を補正するように適応された減衰補正ユニット、を有する請求項1に記載のコンピュータ断層撮影装置。
【請求項11】
結合された検出信号の解析に基づいて、興味対象に関する構造情報を決定するように適応された決定ユニット、を有する請求項1に記載のコンピュータ断層撮影装置。
【請求項12】
検出素子は検出素子グループを形成するようにグループ化されており、各検出素子グループは、興味対象を透過した電磁放射線を検出する検出素子グループからそれぞれの距離に散乱された電磁放射線を検出するように配置されており、
結合された検出信号の解析に基づいて、興味対象に関する構造情報を決定するように適応された決定ユニット、及び
決定ユニットに提供される検出信号のエネルギー範囲について、検出素子グループの少なくとも一部に対してそれぞれのエネルギー範囲を選定するように適応された選定ユニット、
を更に有する請求項1に記載のコンピュータ断層撮影装置。
【請求項13】
興味対象に電磁放射線を放射するように適応された電磁放射線源;及び
電磁放射線源と検出素子との間に配置され、電磁放射線源によって放射された電磁放射線ビームを平行にするように適応されたコリメータ;
を有する請求項1に記載のコンピュータ断層撮影装置。
【請求項14】
コヒーレント散乱コンピュータ断層撮影装置として適応された請求項1に記載のコンピュータ断層撮影装置。
【請求項15】
検出素子はマルチライン検出器アレイを形成している、請求項1に記載のコンピュータ断層撮影装置。
【請求項16】
検出素子は、複数行及び複数列の検出素子を有するマトリックス状の検出器アレイを形成しており、結合ユニットは1つの列の別々の検出素子によって検出された検出信号を結合させるように適応されている、請求項1に記載のコンピュータ断層撮影装置。
【請求項17】
手荷物検査装置、医療用装置、材料試験装置、及び材料科学分析装置から成るグループの1つとして構成された請求項1に記載のコンピュータ断層撮影装置。
【請求項18】
コンピュータ断層撮影装置を用いて興味対象を検査する方法であって:
興味対象から散乱された電磁放射線を、検出信号として、エネルギー分解して検出する段階;及び
興味対象に関する構造情報を決定するために処理されるべきデータ量を削減するように、別々の検出信号を結合させる段階;
を有する方法。
【請求項19】
コンピュータ断層撮影装置を用いて興味対象を検査するコンピュータプログラムであり、プロセッサによって起動されると:
興味対象から散乱された電磁放射線を、検出信号として、エネルギー分解して検出する段階;及び
興味対象に関する構造情報を決定するために処理されるべきデータ量を削減するように、別々の検出信号を結合させる段階;
を実行するように適応されたコンピュータプログラム、が格納されたコンピュータ可読媒体。
【請求項20】
興味対象を検査するコンピュータプログラムであって、プロセッサによって起動されると:
興味対象から散乱された電磁放射線を、検出信号として、エネルギー分解して検出する段階;及び
興味対象に関する構造情報を決定するために処理されるべきデータ量を削減するように、別々の検出信号を結合させる段階;
を実行するように適応されたコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−527368(P2008−527368A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−550903(P2007−550903)
【出願日】平成18年1月10日(2006.1.10)
【国際出願番号】PCT/IB2006/050094
【国際公開番号】WO2006/075295
【国際公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】