説明

コーストストップ車両

【課題】コーストストップ制御中に再発進要求、または再加速要求がされた場合に駆動力が不足することを防止するコーストストップ車両を提供する。
【解決手段】車両走行中にエンジン1を停止させるコーストストップ車両は、一対のプーリ21、22及びこれらの間に掛け回されるベルトを有し、変速比を無段階に変更可能なバリエータ20を備える。コントローラ12は、車両走行中にエンジン1を停止させるコーストストップ条件の成否を判断し、コーストストップ条件が成立すると、エンジン1を停止させ、コーストストップ制御中に変速比がコーストストップ制御開始時の変速比よりもHigh側へアップシフトすることを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコーストストップ車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の走行中にエンジンを自動停止し、燃費の向上をさせる(以下、コーストストップという。)ものが特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−170295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
無段変速機を搭載した車両においてコーストストップ制御を行うと、コーストストップ制御中に無段変速機に供給される油圧の変動などによって、無段変速機の変速比が変更される場合がある。コーストストップ制御中に無段変速機の変速比がHigh側へ変更され、この状態で運転者から再発進要求、または再加速要求がされた場合には、再発進時、または再加速時に駆動力が不足する、といった問題点がある。
【0005】
本発明はこのような問題点を解決するために発明されたもので、コーストストップ制御中に無段変速機の変速比がHigh側へ変更されることを防止し、運転者から再発進要求、または再加速要求がされた場合に、駆動力が不足することを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様に係るコーストストップ車両は、車両走行中にエンジンを停止させるコーストストップ車両であって、一対のプーリ及びこれらの間に掛け回されるベルトを有し、変速比を無段階に変更可能な無段変速機と、車両走行中にエンジンを停止させるコーストストップ条件の成否を判断するコーストストップ条件判断手段と、コーストストップ条件が成立すると、エンジンを停止させるコーストストップ制御を実行するコーストストップ制御手段と、コーストストップ制御中に、変速比がコーストストップ制御開始時の変速比よりもHigh側へアップシフトすることを防止するアップシフト防止手段とを備える。
【発明の効果】
【0007】
上記態様によると、コーストストップ制御中に、変速比がコーストストップ制御開始時の変速比よりもHigh側へアップシフトされることがなく、運転者から再発進要求、または再加速要求がされた場合に、駆動力が不足することがない。そのため、運転者は違和感なく車両を再発進、または再加速することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本実施形態に係るコーストストップ車両の概略構成図である。
【図2】本実施形態のコントローラの概略構成図である。
【図3】変速マップの一例を示す図である。
【図4】本実施形態のコーストストップ制御を実行する場合の油圧制御を示すフローチャートである。
【図5】コーストストップ制御中のバランス圧を説明する図である。
【図6】本実施形態のコーストストップ制御を実行した場合のプライマリプーリ圧およびセカンダリプーリ圧の変化を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明において、ある変速機構の「変速比」は、当該変速機構の入力回転速度を当該変速機構の出力回転速度で割って得られる値である。また、「最Low変速比」は当該変速機構の変速比が車両の発進時などに使用される最大変速比である。「最High変速比」は当該変速機構の最小変速比である。
【0010】
図1は本発明の実施形態に係るコーストストップ車両の概略構成図である。この車両は駆動源としてエンジン1を備え、エンジン1の出力回転は、ロックアップクラッチ付きトルクコンバータ2、第1ギヤ列3、無段変速機(以下、単に「変速機4」という。)、第2ギヤ列5、終減速装置6を介して駆動輪7へと伝達される。第2ギヤ列5には駐車時に変速機4の出力軸を機械的に回転不能にロックするパーキング機構8が設けられている。
【0011】
変速機4には、エンジン1の回転が入力されエンジン1の動力の一部を利用して駆動されるメカオイルポンプ10mと、バッテリ13から電力供給を受けて駆動される電動オイルポンプ10eとが設けられている。電動オイルポンプ10eは、オイルポンプ本体と、これを回転駆動する電気モータ及びモータドライバとで構成され、運転負荷を任意の負荷に、あるいは、多段階に制御することができる。また、変速機4には、メカオイルポンプ10mあるいは電動オイルポンプ10eからの油圧(以下、「ライン圧PL」という。)を調圧して変速機4の各部位に供給する油圧制御回路11が設けられている。
【0012】
変速機4は、ベルト式無段変速機構(以下、「バリエータ20」という。)と、バリエータ20に直列に設けられる副変速機構30とを備える。「直列に設けられる」とはエンジン1から駆動輪7に至るまでの動力伝達経路においてバリエータ20と副変速機構30が直列に設けられるという意味である。副変速機構30は、この例のようにバリエータ20の出力軸に直接接続されていてもよいし、その他の変速ないし動力伝達機構(例えば、ギヤ列)を介して接続されていてもよい。あるいは、副変速機構30はバリエータ20の前段(入力軸側)に接続されていてもよい。
【0013】
バリエータ20は、プライマリプーリ21と、セカンダリプーリ22と、プーリ21、22の間に掛け回されるVベルト23とを備える。プーリ21、22は、それぞれ固定円錐板21a、22aと、この固定円錐板21a、22aに対してシーブ面を対向させた状態で配置され固定円錐板21a、22aとの間にV溝を形成する可動円錐板21b、22bと、この可動円錐板21b、22bの背面に設けられて可動円錐板21b、22bを軸方向に変位させる油圧シリンダ23a、23bとを備える。油圧シリンダ23a、23bに供給される油圧を調整すると、V溝の幅が変化してVベルト23と各プーリ21、22との接触半径が変化し、バリエータ20の変速比が無段階に変化する。また、バリエータ20は、Vベルト23が外れないようにプライマリプーリ21のV溝が広くなる方向への可動円錐板21bの移動を規制するストッパー50を備える。なお、変速比が最Low変速比となる場合には、プライマリプーリ21の油圧シリンダ23aには所定の油圧が供給されており、可動円錐板21bがストッパー50に当たることはない。
【0014】
プライマリプーリ21の油圧シリンダ23aに供給される油圧が小さい場合でもトルク容量が大きくなるように、プライマリプーリ21の油圧シリンダ23aの受圧面積は大きくすることが望ましい。プライマリプーリ21とセカンダリプーリ22とは、プライマリプーリ21の受圧面積がセカンダリプーリ22の受圧面積よりも大きくなるよう設けられている。
【0015】
副変速機構30は前進2段・後進1段の変速機構である。副変速機構30は、2つの遊星歯車のキャリアを連結したラビニョウ型遊星歯車機構31と、ラビニョウ型遊星歯車機構31を構成する複数の回転要素に接続され、それらの連係状態を変更する複数の摩擦締結要素(Lowブレーキ32、Highクラッチ33、Revブレーキ34)とを備える。各摩擦締結要素32〜34への供給油圧を調整し、各摩擦締結要素32〜34の締結・解放状態を変更すると、副変速機構30の変速段が変更される。
【0016】
例えば、Lowブレーキ32を締結し、Highクラッチ33とRevブレーキ34を解放すれば副変速機構30の変速段は1速となる。Highクラッチ33を締結し、Lowブレーキ32とRevブレーキ34を解放すれば副変速機構30の変速段は1速よりも変速比が小さな2速となる。また、Revブレーキ34を締結し、Lowブレーキ32とHighクラッチ33を解放すれば副変速機構30の変速段は後進となる。以下の説明では、副変速機構30の変速段が1速である場合に「変速機4が低速モードである」と表現し、2速である場合に「変速機4が高速モードである」と表現する。
【0017】
各摩擦締結要素は、動力伝達経路上、バリエータ20の前段又は後段に設けられ、いずれも締結されると変速機4の動力伝達を可能にし、解放されると変速機4の動力伝達を不能にする。
【0018】
また、Lowブレーキ32に油圧を供給する油路の途中にはアキュムレータ(蓄圧器)35が接続されている。アキュムレータ35は、Lowブレーキ32への油圧の供給、排出に遅れを持たせるもので、N−Dセレクト時に油圧を蓄えることによってLowブレーキ32への供給油圧が急上昇するのを抑え、Lowブレーキ32が急締結してショックが発生するのを防止する。
【0019】
コントローラ12は、エンジン1及び変速機4を統合的に制御するコントローラであり、図2に示すように、CPU121と、RAM・ROMからなる記憶装置122と、入力インターフェース123と、出力インターフェース124と、これらを相互に接続するバス125とから構成される。
【0020】
入力インターフェース123には、アクセルペダルの操作量であるアクセル開度APOを検出するアクセル開度センサ41の出力信号、変速機4の入力回転速度(=プライマリプーリ21の回転速度、以下、「プライマリ回転速度Npri」という。)を検出する回転速度センサ42の出力信号、変速機4の出力回転速度(=セカンダリプーリ22の回転速度、以下、「セカンダリ回転速度Nsec」という。)を検出する回転速度センサ48、車速VSPを検出する車速センサ43の出力信号、ライン圧PLを検出するライン圧センサ44の出力信号、セレクトレバーの位置を検出するインヒビタスイッチ45の出力信号、ブレーキ液圧を検出するブレーキ液圧センサ46、車体の傾斜(≒路面勾配)を検出する傾斜センサ47の出力信号等が入力される。
【0021】
記憶装置122には、エンジン1の制御プログラム、変速機4の変速制御プログラム、これらプログラムで用いられる各種マップ・テーブルが格納されている。CPU121は、記憶装置122に格納されているプログラムを読み出して実行し、入力インターフェース123を介して入力される各種信号に対して各種演算処理を施して、燃料噴射量信号、点火時期信号、スロットル開度信号、変速制御信号、電動オイルポンプ10eの駆動信号を生成し、生成した信号を出力インターフェース124を介してエンジン1、油圧制御回路11、電動オイルポンプ10eのモータドライバに出力する。CPU121が演算処理で使用する各種値、その演算結果は記憶装置122に適宜格納される。
【0022】
油圧制御回路11は複数の流路、複数の油圧制御弁で構成される。油圧制御回路11は、コントローラ12からの変速制御信号に基づき、複数の油圧制御弁を制御して油圧の供給経路を切り換えるとともにメカオイルポンプ10m又は電動オイルポンプ10eで発生した油圧から必要な油圧を調製し、これを変速機4の各部位に供給する。これにより、バリエータ20の変速比、副変速機構30の変速段が変更され、変速機4の変速が行われる。
【0023】
図3は記憶装置122に格納される変速マップの一例を示している。コントローラ12は、この変速マップに基づき、車両の運転状態(この実施形態では車速VSP、プライマリ回転速度Npri、セカンダリ回転速度Nsec、アクセル開度APO)に応じて、バリエータ20、副変速機構30を制御する。
【0024】
この変速マップでは、変速機4の動作点が車速VSPとプライマリ回転速度Npriとにより定義される。変速機4の動作点と変速マップ左下隅の零点を結ぶ線の傾きが変速機4の変速比(バリエータ20の変速比に副変速機構30の変速比を掛けて得られる全体の変速比、以下、「スルー変速比」という。)に対応する。この変速マップには、従来のベルト式無段変速機の変速マップと同様に、アクセル開度APO毎に変速線が設定されており、変速機4の変速はアクセル開度APOに応じて選択される変速線に従って行われる。なお、図3には簡単のため、全負荷線(アクセル開度APO=8/8の場合の変速線)、パーシャル線(アクセル開度APO=4/8の場合の変速線)、コースト線(アクセル開度APO=0/8の場合の変速線)のみが示されている。
【0025】
変速機4が低速モードの場合は、変速機4はバリエータ20の変速比を最Low変速比にして得られる低速モード最Low線とバリエータ20の変速比を最High変速比にして得られる低速モード最High線の間で変速することができる。この場合、変速機4の動作点はA領域とB領域内を移動する。一方、変速機4が高速モードの場合は、変速機4はバリエータ20の変速比を最Low変速比にして得られる高速モード最Low線とバリエータ20の変速比を最High変速比にして得られる高速モード最High線の間で変速することができる。この場合、変速機4の動作点はB領域とC領域内を移動する。
【0026】
副変速機構30の各変速段の変速比は、低速モード最High線に対応する変速比(低速モード最High変速比)が高速モード最Low線に対応する変速比(高速モード最Low変速比)よりも小さくなるように設定される。これにより、低速モードでとりうる変速機4のスルー変速比の範囲(図中、「低速モードレシオ範囲」)と高速モードでとりうる変速機4のスルー変速比の範囲(図中、「高速モードレシオ範囲」)とが部分的に重複し、変速機4の動作点が高速モード最Low線と低速モード最High線で挟まれるB領域にある場合は、変速機4は低速モード、高速モードのいずれのモードも選択可能になっている。
【0027】
また、この変速マップ上には副変速機構30の変速を行うモード切換変速線が低速モード最High線上に重なるように設定されている。モード切換変速線に対応するスルー変速比(以下、「モード切換変速比mRatio」という。)は低速モード最High変速比と等しい値に設定される。モード切換変速線をこのように設定するのは、バリエータ20の変速比が小さいほど副変速機構30への入力トルクが小さくなり、副変速機構30を変速させる際の変速ショックを抑えられるからである。
【0028】
そして、変速機4の動作点がモード切換変速線を横切った場合、すなわち、スルー変速比の実際値(以下、「実スルー変速比Ratio」という。)がモード切換変速比mRatioを跨いで変化した場合は、コントローラ12は以下に説明する協調変速を行い、高速モード−低速モード間の切り換えを行う。
【0029】
協調変速では、コントローラ12は、副変速機構30の変速を行うとともに、バリエータ20の変速比を副変速機構30の変速比が変化する方向と逆の方向に変更する。この時、副変速機構30の変速比が実際に変化するイナーシャフェーズとバリエータ20の変速比が変化する期間を同期させる。バリエータ20の変速比を副変速機構30の変速比変化と逆の方向に変化させるのは、実スルー変速比Ratioに段差が生じることによる入力回転の変化が運転者に違和感を与えないようにするためである。
【0030】
具体的には、変速機4の実スルー変速比Ratioがモード切換変速比mRatioをLow側からHigh側に跨いで変化した場合は、コントローラ12は、副変速機構30の変速段を1速から2速に変更(1−2変速)するとともに、バリエータ20の変速比をLow側に変更する。
【0031】
逆に、変速機4の実スルー変速比Ratioがモード切換変速比mRatioをHigh側からLow側に跨いで変化した場合は、コントローラ12は、副変速機構30の変速段を2速から1速に変更(2−1変速)するとともに、バリエータ20の変速比をHigh側に変更する。
【0032】
また、コントローラ12は、燃料消費量を抑制するために、以下に説明するコーストストップ制御を行う。
【0033】
コーストストップ制御は、低車速域で車両が走行している間、エンジン1を自動的に停止(コーストストップ)させて燃料消費量を抑制する制御である。アクセルオフ時に実行される燃料カット制御とは、エンジン1への燃料供給が停止される点で共通するが、ロックアップクラッチ及びLowブレーキ32を解放してエンジン1と駆動輪7との間の動力伝達経路を絶ち、エンジン1の回転を完全に停止させる点において相違する。
【0034】
コーストストップ制御を実行するにあたっては、コントローラ12は、まず、例えば以下に示す条件a〜dを判断する。これらの条件は、言い換えれば、運転者に停車意図があるかを判断するための条件である。
【0035】
a:アクセルペダルから足が離されている(アクセル開度APO=0)
b:ブレーキペダルが踏み込まれている(ブレーキ液圧が所定値以上)
c:車速が所定の低車速(例えば、15km/h)以下
d:ロックアップクラッチが解放されている
【0036】
そして、これらのコーストストップ条件を全て満たす場合にコーストストップ制御が実行される。
【0037】
次に、コーストストップ制御を実行する場合の油圧制御について図4のフローチャートを用いて説明する。ここでは、コーストストップ制御開始時またはコーストストップ制御中に変速比が最Low変速比よりもHigh側へ変更されないように、つまりアップシフトしないように油圧制御を行う。
【0038】
ステップS100では、コントローラ12は、コーストストップ制御を実行するかどうか判断する。ここでは、コントローラ12は、上記したa〜dの条件を全て満たすかどうか判定する。そして、a〜dの条件を全て満たす場合には、ステップS101へ進み、a〜dのいずれかの条件を満たさない場合には、本制御を繰り返す。
【0039】
ステップS101では、コントローラ12は、コーストストップ制御を実行する。ここでは、エンジン1への燃料供給を停止し、エンジン1を自動的に停止させる。なお、エンジン1が停止すると、メカオイルポンプ10mも停止する。
【0040】
ステップS102では、コントローラ12は、電動オイルポンプ10eの駆動を開始し、セカンダリプーリ21の油圧シリンダ23bに供給される油圧(以下、セカンダリプーリ圧Psecとする。)を電動オイルポンプ10eの最大圧とする。また、プライマリプーリ21の油圧シリンダ23aに供給されている油圧(以下、プライマリプーリ圧Ppriとする。)をドレーンし、プライマリプーリ圧Ppriを略ゼロとする。
【0041】
セカンダリプーリ圧Psecを電動オイルポンプ10eの最大圧とし、プライマリプーリ圧Ppriを略ゼロとするので、セカンダリプーリ22におけるVベルト23の挟持力は、プライマリプーリ21におけるVベルト23の挟持力以上となる。その結果、プライマリプーリ21の可動円錐板21bは、可動円錐板21bの動きを機械的に規制するストッパー50に当接するまで移動する。この状態では、変速比は、車両の発進時などに使用される最Low変速比よりもさらに大きい変速比(以下、メカLowという。)となる。なお、略ゼロとは、プライマリプーリ圧Ppriが完全にゼロとなる場合や、例えばコントローラ12の制御上完全にゼロとすることができずに油圧シリンダ23aにわずかに油圧が残っている場合を含むものである。
【0042】
ステップS103では、コントローラ12は、回転速度センサ42によってプライマリ回転速度Npriを検出し、回転速度センサ48によってセカンダリ回転速度Nsecを検出する。
【0043】
ステップS104では、コントローラ12は、プライマリ回転速度Npriおよびセカンダリ回転速度Nsecから現在の変速比を算出する。
【0044】
ステップS105では、コントローラ12は、ステップS104によって算出した変速比がメカLowとなっているかどうか判定する。そして、変速比がメカLowとなっている場合にはステップS106へ進み、変速比がメカLowとなっていない場合にはステップS103へ戻り上記制御を繰り返す。
【0045】
ステップS106では、コントローラ12は、バランス圧となるようにプライマリプーリ圧Ppriを制御するバランス圧制御を実行する。バランス圧制御では、セカンダリプーリ圧Psecを電動オイルポンプ10eの最大圧に保持し、変速比が最Low変速比となるようにプライマリプーリ圧Ppriを制御する。つまり、バランス圧は、セカンダリプーリ圧Psecが電動オイルポンプ10eの最大圧となっている状態で、車両の発進時にVベルト23に滑りが生じず、かつ変速比が最Low変速比となるようなプライマリプーリ圧Ppriである。バランス圧は、例えばバリエータ20から見た負荷状態によって変更され、副変速機構30の締結状態によって変更される。
【0046】
バランス圧について図5を用いて説明する。図5はバリエータ20から見た負荷状態と、プライマリプーリ圧Ppriとセカンダリプーリ圧Psecとの比と、変速比との関係を示す図である。セカンダリプーリ圧Psecは電動オイルポンプ10eの最大圧に保持されているものとする。
【0047】
バリエータ20から見た負荷状態は、副変速機構30の全ての摩擦締結要素32〜34が解放している無負荷状態が「0」である。また、バリエータ20から見た負荷状態は、副変速機構30の摩擦締結要素32〜34のいずれかが締結しており、エンジン1からバリエータ20に動力が伝達されている場合にベルト滑りが生じない限界トルク容量となっている負荷状態が「1」である。さらにバリエータ20から見た負荷状態は、副変速機構30の摩擦締結要素32〜34のいずれかが締結しており、例えば車両が下り坂を走行しており、アクセルペダルが踏み込まれておらず、駆動輪7からバリエータ20に動力が伝達されている場合にベルト滑りが生じない限界トルク容量となっている負荷状態が「−1」である。
【0048】
コーストストップ制御中に変速比が最Low変速比となっており、例えば副変速機構30のLowブレーキ32が締結している場合に、プライマリプーリ圧Ppriは或るバランス圧となっている。この状態を図5においてA点とする。
【0049】
この状態から例えばLowブレーキ32が解放され、バリエータ20が無負荷状態となった場合に、プライマリプーリ圧PpriがA点におけるプライマリプーリ圧Ppriに保持されていると、変速比は最Low変速比からHigh側の変速比へ変更される。この状態を図5においてB点とする。
【0050】
そこで、本実施形態では、このような場合でも変速比が最Low変速比に維持されるようにバランス圧が変更される。ここでは、バランス圧(プライマリプーリ圧Ppri)を小さくする。この状態を図5においてC点とする。
【0051】
ステップS107では、コントローラ12は、コーストストップ制御を終了するかどうか判定する。コーストストップ制御を終了する条件は、例えば上記したa〜dの条件のいずれかを満たさなくなった場合である。そして、コーストストップ制御を終了する場合には本制御を終了し、コーストストップ制御を終了しない場合にはステップS106に戻り上記制御を繰り返す。
【0052】
なお、コーストストップ制御を実行し、車両が停止した場合には、プライマリプーリ21およびセカンダリプーリ22の油圧シリンダ23a、23bに供給される油圧は上記油圧に保持されている。また、上記したa〜dの条件のいずれかを満たさなくなった場合には、エンジン1への燃料供給を再開してエンジン1を再始動するとともに、メカオイルポンプ10mが十分な油圧を発生するようになった時点で電動オイルポンプ10eを停止させる。
【0053】
次に、コーストストップ制御を実行する場合の油圧の変化について図6のタイムチャートを用いて説明する。図6においてはプライマリプーリ圧Ppriを実線で示し、セカンダリプーリ圧Psecを破線で示す。
【0054】
コーストストップ制御を実行する前は、プライマリプーリ圧PpriおよびセカンダリプーリPsecは車両の運転状態に応じて制御されている。
【0055】
時間t0において、上記a〜dのコーストストップ条件を全て満たすと、エンジン1を停止し、電動オイルポンプ10eの駆動を開始し、セカンダリプーリ圧Psecを電動オイルポンプ10eの最大圧とし、プライマリプーリ圧Ppriを略ゼロとする。これにより、変速比はメカLowとなる。
【0056】
時間t1において、変速比がメカLowとなったことが確認されると、セカンダリプーリ圧Psecを電動オイルポンプ10eの最大圧に保持したまま、プライマリプーリ圧Ppriをバランス圧とする。これにより、変速比は最Low変速比となる。
【0057】
時間t2において、車両が停止した場合には、プライマリプーリ圧Ppriをバランス圧に保持し、またセカンダリプーリ圧Psecを電動オイルポンプ10eの最大圧に保持する。
【0058】
時間t3において、例えばアクセルペダルが踏み込まれた場合には、エンジン1を再始動させ、メカオイルポンプ10mの吐出圧が電動オイルポンプ10eの吐出圧よりも大きくなると、電動オイルポンプ10eを停止して、メカオイルポンプ10mによってプライマリプーリ圧Ppriおよびセカンダリプーリ圧Psecを供給する。
【0059】
本発明の実施形態の効果について説明する。
【0060】
コーストストップ制御中に、変速比が最Low変速比よりもHigh側へシフトすることを防止することで、車両の再発進時、再加速時に駆動力が不足することを防止することができる(請求項1に対応)。
【0061】
バリエータ20に供給される油圧を制御するという簡単な構成にて、コーストストップ制御中に変速比が最Low変速比よりもHigh側へシフトすることを防止することができる(請求項2に対応)。
【0062】
コーストストップ制御中に副変速機構30の摩擦締結要素32〜34を解放することで、バリエータ20から見た負荷を低減し、バリエータ20において変速比がHigh側へシフトすることを防止するために必要な油圧を低減することができる。そのため、電動オイルポンプ10eのみによる油圧の供給で、変速比がHigh側へシフトすることを防止し、車両の再発進時、再加速時に駆動力が不足することを防止することができる(請求項3に対応)。
【0063】
例えば、コーストストップ制御を実行し、バリエータ20への油圧の供給がメカオイルポンプ10mから電動オイルポンプ10eへ切り換わると、バリエータ20へ供給可能な油圧が小さくなる。本実施形態では、コーストストップ制御中にプライマリプーリ21の可動円錐板21bをストッパー50に当接させて変速比をメカLowとすることで、プライマリプーリ21の油圧シリンダ23aに供給する油圧を低減することができ、電動オイルポンプ10eから供給する油圧によって、変速比がHigh側へシフトすることを防止することができる。(請求項4に対応)。
【0064】
バリエータ20では、アップシフト時の必要油圧を低減させるべく、プライマリプーリ21の受圧面積がセカンダリプーリ22の受圧面積よりも大きくなっている。プライマリプーリ21の油圧シリンダ23aの受圧面積が大きい場合には、油圧シリンダ23aに供給される油圧の変動に対するトルク容量の変動が大きくなる。そのため、油圧シリンダ23aに供給される油圧の変動により、変速比がHigh側へ変更され易くなる。本実施形態では、コーストストップ制御中にプライマリプーリ圧Ppriを略ゼロとし、セカンダリプーリ圧Psecを電動オイルポンプ10eの最大圧とすることで、プライマリプーリ圧Ppri、およびセカンダリプーリ圧Psecの油圧制御を容易に行うことができ、油圧の変動を低減し、変速比がHigh側へシフトすることを防止することができる。また、コーストストップ制御開始時の変速比が最Lowでない場合、変速比を最Lowに向けて素早く変速させることができる(請求項5に対応)。
【0065】
プライマリプーリ圧Ppriが略ゼロとなり、バリエータ20の変速比がメカLowとなった後に、プライマリプーリ圧Ppriをバランス圧とすることで、再発進時または再加速時に素早くプライマリプーリ圧Ppriを上昇させることができ、Vベルト23の滑りを抑制し、駆動力不足を抑制することができる(請求項6に対応)。
【0066】
なお、コーストストップ制御を実行する場合に、電動オイルポンプ10eの駆動をメカオイルポンプ10mが停止する前に開始しても良い。この場合には、電動オイルポンプ10eの吐出圧がメカオイルポンプ10mの吐出圧よりも大きくなると、電動オイルポンプ10eによって発生した油圧が油圧シリンダ23a、23bに供給される。
【0067】
電動オイルポンプ10eからセカンダリプーリ22の油圧シリンダ23bに供給する油圧は電動オイルポンプ10eの最大圧でなくてもよく、ステップS102において変速比をメカLowとすることができ、ステップS106において変速比を最Low変速比とすることができる油圧であればよい。
【0068】
コーストストップ条件を全て満たし、コーストストップ制御を開始する時に、副変速機構30の摩擦締結要素32〜34を解放してもよい。また、摩擦締結要素32〜34の締結状態がスリップ状態である場合に、本実施形態における油圧制御を行ってもよい。
【0069】
バランス制御中に例えば副変速機構30の摩擦締結要素32〜34の締結状態が変更された場合には、バリエータ20の変速比をメカLowとし、その後適切なバランス圧としてもよい。
【0070】
本実施形態では、バリエータ20と前進2段の変速機構である副変速機構30とを有する車両について説明したが、これに限られず、例えばバリエータと前進3段以上の有段変速機構、またはバリエータと前後進切換機構を有する車両で上記コーストストップ制御を行ってもよい。
【0071】
コーストストップ制御は、バリエータ20の変速比が最Low変速比となった後、またはバリエータ20の変速比が最Low変速比となる前に実行されてもよい。バリエータ20の変速比が最Low変速比となる前にコーストストップ制御が実行される場合には、コーストストップ制御中の変速比はコーストストップ制御開始時の変速比に維持されてもよく、本実施形態と同様に一旦メカLowとされ、その後最Low変速比とされてもよい。つまり、コーストストップ制御中にバリエータ20の変速比がコーストストップ制御開始時の変速比よりもHigh側へアップシフトされないようにバリエータ20は制御されればよい。
【0072】
本実施形態では、コーストストップ制御中にバリエータ20の変速比がアップシフトしないようにバリエータ20に供給される油圧を電動オイルポンプ10eによって制御したが、これに限られることはない。例えば油圧回路にアキュムレータを備え、コーストストップ制御中にバリエータ20の変速比がアップシフトしないようにバリエータ20に供給される油圧をアキュムレータによって制御してよい。
【0073】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内でなしうるさまざまな変更、改良が含まれることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0074】
1 エンジン
4 無段変速機
10e 電動オイルポンプ
12 コントローラ(コーストストップ条件判断手段、コーストストップ制御手段、アップシフト防止手段、摩擦締結要素解放手段)
32 Lowブレーキ(摩擦締結要素)
33 Highクラッチ(摩擦締結要素)
34 Revブレーキ(摩擦締結要素)
50 ストッパー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両走行中にエンジンを停止させるコーストストップ車両であって、
一対のプーリ及びこれらの間に掛け回されるベルトを有し、変速比を無段階に変更可能な無段変速機と、
前記車両走行中に前記エンジンを停止させるコーストストップ条件の成否を判断するコーストストップ条件判断手段と、
前記コーストストップ条件が成立すると、前記エンジンを停止させるコーストストップ制御を実行するコーストストップ制御手段と、
前記コーストストップ制御中に、前記変速比が前記コーストストップ制御開始時の変速比よりもHigh側へアップシフトすることを防止するアップシフト防止手段とを備えることを特徴とするコーストストップ車両。
【請求項2】
前記アップシフト防止手段は、前記無段変速機のセカンダリプーリにおけるベルト挟持力が前記無段変速機のプライマリプーリにおけるベルト挟持力以上となるように前記無段変速機に供給される油圧を制御することを特徴とする請求項1に記載のコーストストップ車両。
【請求項3】
前記エンジンと前記無段変速機との間、または前記無段変速機と駆動輪との間の少なくともいずれか一方に設けられ、締結されると動力伝達を可能にし、解放されると動力伝達を不能にする摩擦締結要素と、
前記コーストストップ制御開始時または前記コーストストップ制御中に、前記摩擦締結要素をスリップ状態または解放状態にする摩擦締結要素解放手段とを備えることを特徴とする請求項1または2に記載のコーストストップ車両。
【請求項4】
前記無段変速機のプライマリプーリの溝幅が大となる方向への前記プライマリプーリの可動円錐板の移動を規制するストッパーを備え、
前記アップシフト防止手段は、前記コーストストップ制御開始後に前記プライマリプーリの可動円錐板を前記ストッパーに当接させることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載のコーストストップ車両。
【請求項5】
前記コーストストップ制御中に前記無段変速機への供給油圧を発生させる電動オイルポンプを備え、
前記アップシフト防止手段は、前記無段変速機のプライマリプーリ圧を略ゼロとし、前記無段変速機のセカンダリプーリ圧を前記電動オイルポンプの最大圧とすることを特徴とする請求項4に記載のコーストストップ車両。
【請求項6】
前記アップシフト防止手段は、前記プライマリプーリの可動円錐板を前記ストッパーに当接させた後に、前記変速比が最Low変速比となるように前記無段変速機のプライマリプーリ圧を制御することを特徴とする請求項4または5に記載のコーストストップ車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−77840(P2012−77840A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−223445(P2010−223445)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】