説明

サスペンションアームの支持構造

【課題】 構造強度が高く、かつ汎用性が高いサスペンションアームの支持構造を提供する。
【解決手段】 リアフレーム2に突設された内側支持壁21と、内側支持壁21の車幅方向外方に所定の間隔を置いてリアフレーム2に突設された外側支持壁22と、一端が内側支持壁21と外側支持壁22との間に配置されるとともに内側支持壁21と外側支持壁22とにピボットボルト24を介して揺動自在に支持されたトレーリングアーム10と、内側支持壁21の車幅方向内側に配置され、上端部23aがリアフレーム2に接合されるとともに、下端部23bが内側支持壁21に接合されたスチフナ23と、スチフナ23と内側支持壁21との間に配置されるとともに、スチフナ23に保持され、ピボットボルト24のねじ部がねじ込まれるナット25とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はサスペンションアームの支持構造に係り、より詳しくは自動車用リアサスペンションの支持構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
前輪駆動車用の後輪懸架装置として、例えば左右のトレーリングアームの中間部をトーションビームで連結してなるH型トーションビーム式サスペンションが知られている。H型トーションビーム式サスペンションを備えた車両では、通常、左右サスペンションアーム(トレーリングアーム)の前端がボディの車体フレーム(リアフレーム等)に揺動自在に支持されている。
【0003】
サスペンションアームの支持構造には、所定の間隔をおいて配置された一対の支持壁を含む支持ブラケットを用い、左右サスペンションアームの前端を、支持軸を介して一対の支持壁の間に軸支するようにしたものがある。このようなサスペンションアームの支持構造の剛性を向上させるべく、一方の支持壁をクロスメンバに接合するとともに、クロスメンバ内に接合されたサポート部材によって支持軸の一端を固定するようにしたものがある(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2006−168607号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、車体レイアウトによっては支持ブラケットがクロスメンバから離れて配置される場合があり、この場合には支持壁とクロスメンバとを接合することができないという問題がある。また、クロスメンバ内にサポート部材を設け、サポート部材と支持軸とを接合する構造は複雑であり、製造コストが高くなるという問題がある。
【0005】
本発明は以上の問題を鑑みてなされたものであって、構造強度が高く、かつ様々な車体レイアウトに適用可能なサスペンションアームの支持構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の第1の発明は、車体フレーム(リアフレーム2)に接合された内側支持壁(21)と、前記車体フレームに、前記内側支持壁に対して車幅方向外側に所定の間隔をもって接合された外側支持壁(22)と、前記内側支持壁と前記外側支持壁との間に一端が配置されるとともに、前記内側支持壁と前記外側支持壁とを貫通する支持ボルト(ピボットボルト24)によって揺動自在に支持されたサスペンションアーム(トレーリングアーム10)と、前記内側支持壁の車幅方向内側に配置され、一端(上端部23a)が前記車体フレームに接合されるとともに、他端(下端部23b)が前記内側支持壁に接合されたスチフナ(23)と、前記スチフナと前記内側支持壁との間に配置されるとともに、前記スチフナに保持され、前記支持ボルトのねじ部がねじ込まれるナット(25)とを備えたことを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、スチフナと、車体フレームと、内側支持壁とによって閉断面構造が形成されるため、サスペンションアームの支持構造の構造強度が向上する。また、内側支持壁、外側支持壁、スチフナは、リアフレームに接合されるためミドルクロスメンバ等のレイアウトに影響されず、任意の位置に配置することができる。さらに、ナットは予めスチフナに固定された状態で一部品とすることができるため、スチフナとリアフレームおよび内側支持壁との接合が容易で、組付作業性が向上する。また、製造コストを削減することができる。
【0008】
第2の発明は第1の発明において、前記内側支持壁は、前記車体フレームの下部(底部2c)に接合され、前記スチフナは、前記一端が前記車体フレームの車幅方向内側の側部(内側壁2d)に接合されたことを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、内側支持壁の上端とスチフナの上端とが離間されるため、スチフナと、車体フレームと、内側支持壁とによって形成される閉断面構造の面積が拡大され、サスペンションアームの支持構造の構造強度が向上する。
【0010】
第3の発明は第1〜第2の発明のいずれかにおいて、前記スチフナは、前記ナットが固定された部位の周辺が前記内側支持壁に対して接近若しくは離反する側へと膨出していることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、スチフナの剛性が向上し、サスペンションアームの支持構造の構造強度が向上する。
【0012】
第4の発明は第1〜第3の発明のいずれかにおいて、前記外側支持壁は、車体側壁を構成する部材(サイドシル4)に接合されることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、外側支持壁の構造強度が車体側壁を構成する部材によって補強され、サスペンションアームの支持構造の構造強度が向上する。
【0014】
第5の発明は第1〜第3の発明のいずれかにおいて、前記ナットの他端は、前記内側支持壁に当接することを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、スチフナと、車体フレームと、内側支持壁とによって形成される閉断面構造の構造強度が向上され、サスペンションアームの支持構造の構造強度が向上する。
【発明の効果】
【0016】
以上の構成により、サスペンションアームの支持構造の構造強度をスチフナによって向上させることができる。スチフナはクロスメンバ等のレイアウトに関係なく任意の位置に配置することが可能であるため、車体レイアウトの自由度が拡大する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明を、H型トーションビーム式サスペンションを備えた自動車に適用した一実施形態について詳細に説明する。図1は実施形態に係る自動車の後部を示す側面図であり、図2は図1中のII矢視図であり、図3は図2中のIII矢視図であり、図4は図2のIV−IV断面図である。以下の説明では、車両の進行方向を前方とし、進行方向を向いた状態を基準として左右方向を規定する。
【0018】
図1〜図3に示すように、本実施形態の自動車1は、その後方下部に車体構造材としてリアフレーム2,3、サイドシル4,5、ミドルクロスメンバ6、リアフロアパネル8、H型トーションビーム式サスペンション9を備えている。
【0019】
リアフレーム2,3は、後方に進むにつれて車幅方向内側へ向かうように延設されている。また、リアフレーム2,3は、下面が水平な水平部2a,3aと、水平部2a,3aの後方で後方に進むにつれて上方へと向かう傾斜したキックアップ部2bとを備えている。リアフレーム2の前端は、車幅方向に延設されたミドルクロスメンバ6と接合されている。ミドルクロスメンバ6の左右端は、前後方向に延設されて車体の側部を形成するサイドシル4,5の内側壁4aと接合されている。リアフロアパネル8は、リアフレーム2,3およびミドルクロスメンバ6に支持されるとともに、その両側部がサイドシル4,5に接合されている。各部材の接合は溶接(スポット溶接等)により行われている。
【0020】
サスペンション9は、左右のトレーリングアーム10,11や、両トレーリングアーム10,11の中間部を連結するトーションビーム12、トレーリングアーム10,11を揺動自在に支持する左右のサスペンション支持部13,14、懸架ばねである左右一対のコイルスプリング15、左右一対のダンパ16等から構成され、左右のホイール17,18を支持する。
【0021】
以下、図2〜図4を用いて、サスペンション支持部13,14の構成を説明する。なお、サスペンション支持部13,14は左右対称の構造を有するため、車体左側のサスペンション支持部13についてのみ説明する。サスペンション支持部13は、内側支持壁21と、外側支持壁22と、スチフナ23と、ピボットボルト(支持ボルト)24と、ナット25とを主要構成要素として備えている。内側支持壁21、外側支持壁22、スチフナ23は鋼板を素材とするプレス成形品である。
【0022】
内側支持壁21は、その上端部を外側支持壁22側へと屈曲させることにより形成したフランジ部21aと、ピボットボルト24が嵌挿するボルト孔21bとを備えている。図4に示すように、リアフレーム2は、底部2cと、底部2cの車幅方向内側に立設された内側壁2dと、底部2cの車幅方向外側に立設された外側壁2eとから構成されたコ字状の横断面形状を呈し、内側壁2dおよび外側壁2eの上端にはリアフロアパネル8の下面に溶接される鍔部2fを備えている。内側支持壁21は、リアフレーム2の長手方向に対して概ね平行に配置され、フランジ部21aをリアフレーム2のキックアップ部2bの底部2cに溶接されることによって、リアフレーム2に対して立設されている。このとき、内側支持壁21のフランジ部21aが、リアフレーム2の底部2cの幅方向における中間部に配置されるように位置が調整されている。また、内側支持壁21は、図2および図3に示すように、前端部21cがサイドシル4の内側壁4aに溶接されている。
【0023】
外側支持壁22は、図4に示すように、その上端部22aがリアフレーム2の外側壁2eに溶接され、その下端部22bが上端部22aに対して車幅方向外側に位置するように屈曲して形成されている。外側支持壁22の下端部22bは、サイドシル4の内側壁4aに溶接されており、外側支持壁22と、サイドシル4と、リアフロアパネル8と、リアフレーム2とによって閉断面構造が形成される。外側支持壁22には、内側支持壁21のボルト孔21bに相対する位置にボルト孔22cが穿設されている。サイドシル4には、外側支持壁22のボルト孔22cと一致する位置にボルト孔4bが穿設されている。また、外側支持壁22は、図2に示すように、その前部が車幅方向内側へと屈曲し、前端部22dが内側支持壁21の側部に溶接されている。
【0024】
スチフナ23は、図2〜図4に示すように、その上端部23aがリアフレーム2の内側壁2dの下端付近に溶接され、その下端部23bが内側支持壁21の下端部21dに溶接されている。これにより、リアフレーム2と、内側支持壁21と、スチフナ23とによって閉断面構造が形成されている。スチフナ23は、内側支持壁21のボルト孔21bと相対する位置にボルト孔23cが穿設されており、ボルト孔23cの内側支持壁21側にはナット25が溶接されている。ナット25は、一端にフランジ部25aを備えたプレートナットであり、他端においてスチフナ23に溶接されている。
【0025】
スチフナ23は、ボルト孔23cの周囲がナット25側と異なる方向に膨出した膨出部23dを備えている。これにより、スチフナ23がリアフレーム2および内側支持壁21に溶接された状態において、ナット25のフランジ部25aが内側支持壁21に接触するようになっている。このとき、ナット25と内側支持壁21のボルト孔21bとは一致している。
【0026】
また、スチフナ23は、ボルト孔23cから放射線状に延設されたビード23eや、上端部23aより下方に向けて延設されたビード23f等を備えている。
【0027】
トレーリングアーム10の前端部には円筒部10aが形成されており、円筒部10aにはブッシュ30が取り付けられている。ブッシュ30は、円筒部10aに圧入されるアウタカラー31と、アウタカラー31の内部にブッシュラバー32を介して同軸に接続されたインナカラー33とを有している。インナカラー33の長さは、内側支持壁21のボルト孔21bと外側支持壁22のボルト孔22cとの間の距離に等しくなるように調整されている。
【0028】
図4に示すように、ピボットボルト24はサイドシル4側より、ワッシャ35、サイドシル4のボルト孔4b、外側支持壁22のボルト孔22c、インナカラー33、内側支持壁21のボルト孔21bを貫通し、ナット25と螺合する。これにより、トレーリングアーム10が、ブッシュ30を介してピボットボルト24に軸支される。
【0029】
ピボットボルト24とナット25との螺合により、サイドシル4と外側支持壁22とが締結され、内側支持壁21とナット25とが締結され、内側支持壁21と、スチフナ23と、リアフレーム2とによって形成される閉断面構造の構造強度が向上される。
【0030】
次に、以上のように構成した実施形態の作用効果について説明する。本実施形態における内側支持壁21は、リアフレーム2とスチフナ23と接合して閉断面構造を形成しているため構造強度が向上されている。同様に、外側支持壁22は、リアフレーム2と、リアフロアパネル8と、サイドシル4と接合して閉断面構造を形成しているため構造強度が向上されている。
【0031】
内側支持壁21とリアフレーム2との接合部をリアフレーム2の底部2cの幅方向における中間部に配置して、スチフナ23とリアフレーム2との接合部から離間させたことにより、内側支持壁21と、リアフレーム2と、スチフナ23とによって形成された閉断面構造はリアフレーム2の幅方向において幅広となって面積が拡大され、構造強度が向上される。本実施形態では、内側支持壁21と、リアフレーム2と、スチフナ23とによって形成された閉断面構造は、断面が略三角形を呈している。
【0032】
スチフナ23は、膨出部23dやビード23e,23fを備えて立体的に形成されているため、強度や剛性が向上する。ピボットボルト24の先端に結合するナット25にフランジ部25aを有するナット25を用いたことにより、内側支持壁21とナット25との当接する面積が拡大され、構造強度が向上する。
【0033】
ナット25は予めスチフナ23に固定された状態で一部品とすることができるため、スチフナ23とリアフレーム2および内側支持壁21との接合が容易で、組付作業性が向上する。また、サスペンション支持部13にトレーリングアーム10を固定する際にナット25を固定する作業が必要ないため、ピボットボルト24の取付作業性が向上される。
【0034】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、内側支持壁21、外側支持壁22にそれぞれビードを設けて各部材の構造強度を向上させてもよい。その他装置の構成は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施形態に係る自動車の後部を示す側面図である。
【図2】図1中のII矢視図である。
【図3】図2中のIII矢視図である。
【図4】図2のIV−IV断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1:自動車、2,3:リアフレーム、4,5:サイドシル、6:ミドルクロスメンバ、8:リアフロアパネル、9:H型トーションビーム式サスペンション、10,11:トレーリングアーム、13,14:サスペンション支持部、21:内側支持壁、22:外側支持壁、23:スチフナ、23a:上端部、23b:下端部、23d:膨出部、23e,23f:ビード、24:ピボットボルト、25:ナット、30:ブッシュ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体フレームに接合された内側支持壁と、
前記車体フレームに、前記内側支持壁に対して車幅方向外側に所定の間隔をもって接合された外側支持壁と、
前記内側支持壁と前記外側支持壁との間に一端が配置されるとともに、前記内側支持壁と前記外側支持壁とを貫通する支持ボルトによって揺動自在に支持されたサスペンションアームと、
前記内側支持壁の車幅方向内側に配置され、一端が前記車体フレームに接合されるとともに、他端が前記内側支持壁に接合されたスチフナと、
前記スチフナと前記内側支持壁との間に配置されるとともに、前記スチフナに保持され、前記支持ボルトのねじ部がねじ込まれるナットと
を備えたことを特徴とするサスペンションアームの支持構造。
【請求項2】
前記内側支持壁は、前記車体フレームの下部に接合され、
前記スチフナは、前記一端が前記車体フレームの車幅方向内側の側部に接合されたことを特徴とする、請求項1に記載のサスペンションアームの支持構造。
【請求項3】
前記スチフナは、前記ナットが保持された部位の周辺が前記内側支持壁に対して接近若しくは離反する側へと膨出していることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のサスペンションアームの支持構造。
【請求項4】
前記外側支持壁は、車体側壁を構成する部材に接合されることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれかの項に記載のサスペンションアームの支持構造。
【請求項5】
前記ナットの他端は、前記支持ボルトのねじ部がねじ込まれた状態において、前記内側支持壁に当接することを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれかの項に記載のサスペンションアームの支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−111154(P2010−111154A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283158(P2008−283158)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】