説明

サーボ制御システムおよび作業機械

【課題】機械要素の増加を抑えつつバックラッシュによる影響を低減できるサーボ制御システムおよび作業機械を提供する。
【解決手段】サーボ制御システム80は、回転体4に連結された第1の歯車71と、第1の歯車71と噛み合い、第1の歯車71を駆動する第2の歯車72と、第2の歯車72を駆動する旋回用電動機21と、旋回用電動機21の動作を制御する旋回駆動制御部40とを備え、旋回駆動制御部40は、旋回用電動機21の出力トルクを制限するための旋回制限部41を有しており、旋回制限部41は、旋回用電動機21の静止状態から回転動作への移行、旋回用電動機21の回転速度の減速、または旋回用電動機21の回転方向の変更を行う際に、第1の歯車71及び第2の歯車72におけるバックラッシュ幅を第2の歯車72が移動する際に要する時間に相当する所定時間が経過するまでの間、旋回用電動機21の出力トルクを制限する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーボ制御システムおよび作業機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
或る負荷軸を歯車を介してモータによって駆動する方式は、例えばクレーン車両やリフティングマグネット車両といった旋回式作業機械等において多く用いられている。このような方式で負荷軸を駆動する場合、歯車同士のバックラッシュ(Backlash;バックラッシともいう)が問題となる。すなわち、相互に噛み合った2枚の歯車を介して駆動力を伝達する構造では、これらの歯車の回転方向に隙間(バックラッシュ)が設けられており、この隙間によって各歯車が滑らかに回転できる。しかし、この隙間に起因して、静止状態から回転動作を開始する際、回転速度を減速する際、または回転方向を逆向きに変更する際などに、駆動側の歯車の歯が負荷側の歯車の歯に勢い良く衝突し、その衝撃が、振動や騒音の発生、或いは機械の寿命低下の一因となる。
【0003】
このような問題を解決するための技術として、例えば一つの負荷軸に二つの駆動軸を配置し、一の方向に負荷軸を回転させる場合には一方の駆動軸を用い、他の方向に負荷軸を回転させる場合には他方の駆動軸を用いる方式がある(特許文献1の図8を参照)。この方式では、各駆動軸に回転方向のトルクを常に加えておくことにより、上述したバックラッシュによる問題を解決できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−51722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の図8に記載された方式では、二つの駆動軸のそれぞれにモータを用意する必要があるので、機械要素が増加してしまう。したがって、信頼性の低下や製造コストの上昇を招き、装置の小型化を妨げる一因ともなる。
【0006】
本発明は、上記した問題点に鑑みてなされたものであり、機械要素の増加を抑えつつバックラッシュによる影響を低減できるサーボ制御システムおよび作業機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決するために、本発明によるサーボ制御システムは、負荷となる回転体に連結された第1の歯車と、第1の歯車と噛み合い、第1の歯車を駆動する第2の歯車と、第2の歯車を駆動する電動機と、電動機の動作を制御する制御部とを備え、制御部は、電動機の出力トルクを制限するためのトルク制限部を有しており、トルク制限部が、電動機の静止状態から回転動作への移行、電動機の回転速度の減速、または電動機の回転方向の変更を行う際に、第1及び第2の歯車におけるバックラッシュ幅を第2の歯車が移動する際に要する時間に相当する所定時間が経過するまでの間、電動機の出力トルクを制限することを特徴とする。
【0008】
また、本発明による作業機械は、旋回体および該旋回体に配置された運転室を備える作業機械であって、旋回体に連結された第1の歯車と、第1の歯車と噛み合い、第1の歯車を駆動する第2の歯車と、第2の歯車を駆動する旋回用電動機と、旋回用電動機の動作を制御する制御部とを備え、制御部が、旋回用電動機の出力トルクを制限するためのトルク制限部を有しており、トルク制限部は、旋回用電動機の静止状態から回転動作への移行、旋回用電動機の回転速度の減速、または旋回用電動機の回転方向の変更を行う際に、第1及び第2の歯車におけるバックラッシュ幅を第2の歯車が移動する際に要する時間に相当する所定時間が経過するまでの間、旋回用電動機の出力トルクを制限することを特徴とする。
【0009】
上述したサーボ制御システムおよび作業機械においては、トルク制限部が、一定の場合に(旋回用)電動機の出力トルクを制限する。ここで、一定の場合とは、すなわち第1の歯車と第2の歯車とのバックラッシュによって衝撃が発生するような場合であって、(旋回用)電動機の静止状態から回転動作への移行、(旋回用)電動機の回転速度の減速、または(旋回用)電動機の回転方向の変更の3つの場合である。これにより、機械要素の追加を必要とすることなくバックラッシュによる衝撃を低減することが可能となる。また、トルク制限部は、上述した各場合に(旋回用)電動機の出力トルクを制限する際、第1及び第2の歯車におけるバックラッシュ幅を第2の歯車が移動する際に要する時間に相当する所定時間が経過するまでの間に限り、(旋回用)電動機の出力トルクを制限する。このような所定時間に限って(旋回用)電動機の出力トルクを制限することにより、操作入力に対する回転体(旋回体)の応答性を確保できる。更に、第2の歯車の歯と第1の歯車の歯との間隔がバックラッシュ幅を超えることはないので、第2の歯車の歯が第1の歯車の歯に対してどのような位置にあったとしても、バックラッシュによる衝撃を効果的に低減できる。
【0010】
また、上記作業機械は、トルク制限部が、旋回用電動機の出力トルクを、バックラッシュ幅を第2の歯車が移動する際に要する時間が1ミリ秒以上200ミリ秒以下となる値に制限することを特徴としてもよい。上記作業機械において、旋回用電動機の出力トルクの制限値を小さくし過ぎると、操作者の指示入力に対して旋回体が旋回動作を開始するタイミングが遅れ、応答性の低下を招き操作者を不快にしてしまう。本発明者の知見によれば、或る操作に対して対象物が動作を開始するまでの時間が200ミリ秒を超えると、操作者が不快に感じる傾向がある。そこで、第2の歯車がバックラッシュ幅を移動する際に要する時間が上記範囲内となるように旋回用電動機の出力トルクの制限値を設定することによって、バックラッシュによる衝撃を低減しつつ、操作者が不快に感じない程度に応答性を高めることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によるサーボ制御システムおよび作業機械によれば、機械要素の増加を抑えつつバックラッシュによる影響を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るサーボ制御システムを備える作業機械の一例として、ハイブリッド型建設機械1の外観を示す斜視図である。
【図2】ハイブリッド型建設機械1の電気系統や油圧系統といった内部構成を示すブロック図である。
【図3】図2における蓄電手段120の内部構成を示す図である。
【図4】旋回機構3の内部に設けられた駆動力伝達機構70の構成を示す平面図である。
【図5】旋回機構3を駆動するためのサーボ制御システム80の構成を示すブロック図である。
【図6】旋回体4の旋回速度の時間変化の一例を示すグラフである。
【図7】旋回用電動機21が静止状態から回転動作へ移行する際における、旋回用電動機21の駆動軸21Aの回転速度の時間変化を示すグラフである。
【図8】旋回制限部41の構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら本発明によるサーボ制御システムおよび作業機械の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
図1は、本発明に係るサーボ制御システムを備える作業機械の一例として、ハイブリッド型建設機械1の外観を示す斜視図である。図1に示すように、ハイブリッド型建設機械1はいわゆるリフティングマグネット車両であり、無限軌道を含む走行機構2と、走行機構2の上部に旋回機構3を介して回動自在に搭載された旋回体4とを備えている。なお、旋回体4は、本実施形態における回転体の一例である。旋回体4には、ブーム5と、ブーム5の先端にリンク接続されたアーム6と、アーム6の先端にリンク接続されたリフティングマグネット7とが取り付けられている。リフティングマグネット7は、鋼材などの吊荷Gを磁力により吸着して捕獲するための設備である。ブーム5、アーム6、及びリフティングマグネット7は、それぞれブームシリンダ8、アームシリンダ9、及びバケットシリンダ10によって油圧駆動される。また、旋回体4には、リフティングマグネット7の位置や励磁動作および釈放動作を操作する操作者を収容するための運転室4aや、油圧を発生するためのエンジン11といった動力源が設けられている。エンジン11は、例えばディーゼルエンジンで構成される。
【0015】
また、ハイブリッド型建設機械1はサーボ制御ユニット60を備えている。サーボ制御ユニット60は、旋回機構3やリフティングマグネット7といった作業要素を駆動するための交流電動機や、エンジン11をアシストするための電動発電機、並びに蓄電池(バッテリー)の充放電を制御する。サーボ制御ユニット60は、直流電力を交流電力に変換して交流電動機や電動発電機を駆動するためのインバータ回路、バッテリーの充放電を制御する昇降圧コンバータ回路といった複数のドライバ回路と、該複数のドライバ回路を制御するためのコントローラとを備えている。
【0016】
図2は、本実施形態のハイブリッド型建設機械1の電気系統や油圧系統といった内部構成を示すブロック図である。なお、図2では、機械的に動力を伝達する系統を二重線で、油圧系統を太い実線で、操縦系統を破線で、電気系統を細い実線でそれぞれ示している。また、図3は、図2における蓄電手段120の内部構成を示す図である。
【0017】
図2に示すように、ハイブリッド型建設機械1は電動発電機12および減速機13を備えており、エンジン11及び電動発電機12の回転軸は、共に減速機13の入力軸に接続されることにより互いに連結されている。エンジン11の負荷が大きいときには、電動発電機12がこのエンジン11を作業要素として駆動することによりエンジン11の駆動力を補助(アシスト)し、電動発電機12の駆動力が減速機13の出力軸を経てメインポンプ14に伝達される。一方、エンジン11の負荷が小さいときには、エンジン11の駆動力が減速機13を経て電動発電機12に伝達されることにより、電動発電機12が発電を行う。電動発電機12は、例えば、磁石がロータ内部に埋め込まれたIPM(Interior Permanent Magnetic)モータによって構成される。電動発電機12の駆動と発電との切り替えは、ハイブリッド型建設機械1における電気系統の駆動制御を行うコントローラ30により、エンジン11の負荷等に応じて行われる。
【0018】
減速機13の出力軸にはメインポンプ14及びパイロットポンプ15が接続されており、メインポンプ14には高圧油圧ライン16を介してコントロールバルブ17が接続されている。コントロールバルブ17は、ハイブリッド型建設機械1における油圧系の制御を行う装置である。コントロールバルブ17には、図1に示した走行機構2を駆動するための油圧モータ2a及び2bの他、ブームシリンダ8、アームシリンダ9、及びバケットシリンダ10が高圧油圧ラインを介して接続されており、コントロールバルブ17は、これらに供給する油圧を運転者の操作入力に応じて制御する。
【0019】
電動発電機12の電気的な端子には、インバータ回路18Aの出力端が接続されている。インバータ回路18Aの入力端には、蓄電手段120が接続されている。蓄電手段120は、図3に示すように、DCバス110、昇降圧コンバータ100及びバッテリ19を備えている。すなわち、インバータ回路18Aの入力端は、DCバス110を介して昇降圧コンバータ100の入力端に接続されることとなる。昇降圧コンバータ100の出力端には、蓄電池としてのバッテリ19が接続されている。バッテリ19は、例えばキャパシタ型蓄電池によって構成される。バッテリ19の大きさの一例としては、電圧2.5V、容量2400Fのキャパシタが144個直列に接続されたもの(すなわち、両端電圧360V)が好適である。
【0020】
インバータ回路18Aは、コントローラ30からの指令に基づき、電動発電機12の運転制御を行う。すなわち、インバータ回路18Aが電動発電機12を力行運転させる際には、必要な電力をバッテリ19と昇降圧コンバータ100からDCバス110を介して電動発電機12に供給する。また、電動発電機12を回生運転させる際には、電動発電機12により発電された電力をDCバス110及び昇降圧コンバータ100を介してバッテリ19に充電する。なお、昇降圧コンバータ100の昇圧動作と降圧動作の切替制御は、DCバス電圧値、バッテリ電圧値、及びバッテリ電流値に基づき、コントローラ30によって行われる。これにより、DCバス110を、予め定められた一定電圧値に蓄電された状態に維持することができる。
【0021】
なお、本実施形態の昇降圧コンバータ100はスイッチング制御方式を備えており、図3に示すように、互いに直列に接続されたトランジスタ100B及び100Cと、これらの接続点とバッテリ19の正側端子との間に接続されたリアクトル101と、トランジスタ100Bに対し逆方向に並列接続されたダイオード100bと、トランジスタ100Cに対し逆方向に並列接続されたダイオード100cと、平滑用のコンデンサ100dとを有する。トランジスタ100B及び100Cは、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)によって構成される。直流電力をバッテリ19からDCバス110へ供給する際には、コントローラ30からの指令によってトランジスタ100BのゲートにPWM(PulseWidth Modulation)電圧が印加される。そして、トランジスタ100Bのオン/オフに伴ってリアクトル101に発生する誘導起電力がダイオード100cを介して伝達され、この電力がコンデンサ100dにより平滑化される。また、直流電力をDCバス110からバッテリ19へ供給する際には、コントローラ30からの指令によってトランジスタ100CのゲートにPWM電圧が印加されるとともに、トランジスタ100Cから出力される電流がリアクトル101により平滑化される。
【0022】
再び図2を参照すると、蓄電手段120には、インバータ回路20Bを介してリフティングマグネット7が接続されている。リフティングマグネット7は、金属物を磁気的に吸着させるための磁力を発生する電磁石を含んでおり、インバータ回路20Bを介して蓄電手段120から電力が供給される。インバータ回路20Bは、コントローラ30からの指令に基づき、電磁石をオンにする際には、リフティングマグネット7へ要求された電力を蓄電手段120より供給する。また、電磁石をオフにする場合には、回生された電力を蓄電手段120に供給する。
【0023】
更に、蓄電手段120には、インバータ回路20Aが接続されている。インバータ回路20Aの一端には旋回用電動機21が接続されており、インバータ回路20Aの他端は蓄電手段120のDCバス110に接続されている。旋回用電動機21は、旋回体4を旋回させる旋回機構3の動力源である。旋回用電動機21の駆動軸21Aには、レゾルバ22、メカニカルブレーキ23、及び旋回減速機24が接続される。
【0024】
旋回用電動機21が力行運転を行う際には、旋回用電動機21の回転駆動力が旋回減速機24にて増幅され、旋回体4が加減速制御され回転運動を行う。また、旋回体4の慣性回転により、旋回減速機24にて回転数が増加されて旋回用電動機21に伝達され、回生電力を発生させる。旋回用電動機21は、PWM制御信号によりインバータ回路20Aによって交流駆動される。旋回用電動機21としては、例えば、磁石埋込型のIPMモータが好適である。
【0025】
レゾルバ22は、旋回用電動機21の駆動軸21Aの回転位置及び回転角度を検出するセンサであり、旋回用電動機21と機械的に連結することで駆動軸21Aの回転角度及び回転方向を検出する。レゾルバ22が駆動軸21Aの回転角度を検出することにより、旋回機構3の回転角度及び回転方向が導出される。メカニカルブレーキ23は、機械的な制動力を発生させる制動装置であり、コントローラ30からの指令によって、旋回用電動機21の駆動軸21Aを機械的に停止させる。旋回減速機24は、旋回用電動機21の駆動軸21Aの回転速度を減速して旋回機構3に機械的に伝達する減速機である。
【0026】
なお、DCバス110には、インバータ回路18A、20A及び20Bを介して、電動発電機12、旋回用電動機21、及びリフティングマグネット7が接続されているので、電動発電機12で発電された電力がリフティングマグネット7又は旋回用電動機21に直接的に供給される場合もあり、リフティングマグネット7で回生された電力が電動発電機12又は旋回用電動機21に供給される場合もあり、さらに、旋回用電動機21で回生された電力が電動発電機12又はリフティングマグネット7に供給される場合もある。
【0027】
パイロットポンプ15には、パイロットライン25を介して操作装置26が接続されている。操作装置26は、旋回用電動機21、走行機構2、ブーム5、アーム6、及びリフティングマグネット7を操作するための操作装置であり、操作者によって操作される。操作装置26には、油圧ライン27を介してコントロールバルブ17が接続され、また、油圧ライン28を介して圧力センサ29が接続される。操作装置26は、パイロットライン25を通じて供給される油圧(1次側の油圧)を操作者の操作量に応じた油圧(2次側の油圧)に変換して出力する。操作装置26から出力される2次側の油圧は、油圧ライン27を通じてコントロールバルブ17に供給されるとともに、圧力センサ29によって検出される。
【0028】
圧力センサ29は、操作装置26に対して旋回機構3を旋回させるための操作が入力されると、この操作量を油圧ライン28内の油圧の変化として検出する。圧力センサ29は、油圧ライン28内の油圧を表す電気信号を出力する。この電気信号は、コントローラ30に入力され、旋回用電動機21の駆動制御に用いられる。
【0029】
コントローラ30は、旋回駆動制御部40及び駆動制御部50を含み、CPU及び内部メモリを含む演算処理装置によって構成され、内部メモリに格納された駆動制御用のプログラムをCPUが実行することにより実現される。コントローラ30の電源は、バッテリ19とは別のバッテリ(例えば24V車載バッテリ)である。旋回駆動制御部40は、圧力センサ29から入力される信号のうち、旋回機構3を旋回させるための操作量を表す信号を速度指令に変換し、旋回用電動機21の駆動制御を行う。駆動制御部50は、電動発電機12の運転制御(アシスト運転及び発電運転の切り替え)、リフティングマグネット7の駆動制御(励磁と消磁の切り替え)、並びに、昇降圧コンバータ100を駆動制御することによるバッテリ19の充放電制御を行う。
【0030】
図4は、旋回機構3の内部に設けられた駆動力伝達機構70の構成を示す平面図である。図4に示すように、本実施形態の駆動力伝達機構70は、第1の歯車71および第2の歯車72を含んで構成されている。第1の歯車71は、負荷となる旋回体4に連結されており、本実施形態では円環状の部材に内歯車71aが形成されて成る。この円環状部材の中心は、旋回体4の回転中心と一致している。第2の歯車72は、第1の歯車71と噛み合う平歯車72aを有しており、その回転軸が旋回用電動機21の駆動軸21A(図2を参照)と連結されている。これにより、第2の歯車72は、駆動軸21Aの駆動力を第1の歯車71に伝達する。なお、駆動軸21Aと第2の歯車72との連結構造としては、互いに固定されても良いし、他の歯車等の伝達機構を介して連結されても良い。
【0031】
第1の歯車71の内歯車71aと第2の歯車72の平歯車72aとの間には、バックラッシュが設けられている。すなわち、図4の部分拡大図に示すように、内歯車71aの歯71bと平歯車72aの歯72bとの間には、これらの歯71b,72bの進行方向において隙間Aが設けられており、この隙間Aによって第1の歯車71及び第2の歯車72が滑らかに回転できる。
【0032】
図5は、旋回機構3を駆動するためのサーボ制御システム80の構成を示すブロック図である。このサーボ制御システム80は、図2に示したコントローラ30の旋回駆動制御部40、インバータ回路20Aおよび旋回用電動機21と、図4に示した駆動力伝達機構70と、図1に示した旋回体4(すなわち回転負荷)とによって構成されている。
【0033】
旋回駆動制御部40は、旋回制限部41及びPI制御部42を含んで構成されている。旋回制限部41は、本実施形態におけるトルク制限部であって、旋回用電動機21の出力トルクを制限するために設けられている。旋回制限部41は、或る一定の条件の場合に、第1の歯車71と第2の歯車72との間のバックラッシュAの幅W(図4を参照)を第2の歯車72が移動する際に要する時間T、すなわち
【数1】


(但し、tは一定の条件の開始時、Vは第1の歯車71と第2の歯車72との相対移動速度)
を満たす時間Tに相当する所定時間が経過するまでの間、旋回用電動機21の出力トルクを例えば段階的に制限する。言い換えると、旋回制限部41は、第2の歯車72の歯72bがバックラッシュAの幅Wを移動するときの所要時間がTとなるように、旋回用電動機21の出力トルクを制限する。なお、この旋回制限部41には、レゾルバ22から出力された旋回用電動機21の回転速度VMと、旋回機構3を旋回させるための操作装置26への操作入力に応じたコントローラ30からの回転速度指令値VMとの差分が入力される。
【0034】
PI制御部42は、入力に対して比例ゲインおよび積分ゲインを乗算するための部分である。PI制御部42には、旋回制限部41からの出力と、インバータ回路20Aから旋回用電動機21へ提供される駆動信号との差分が入力される。なお、PI制御部42の出力は、駆動信号としてインバータ回路20Aに提供される。
【0035】
ここで、図6は、旋回体4の旋回速度の時間変化の一例を示すグラフである。図2に示した操作装置26に対して旋回機構3を旋回させるための操作が入力されると、旋回体4が静止した状態すなわち旋回速度がゼロの状態(時刻t)から、或る回転方向に正の旋回加速度(すなわち駆動トルク)が与えられ、旋回速度が増していく。その後、旋回加速度が小さくなり、或る時刻tにおいて定速旋回(旋回速度V)となる。そして、この定速旋回によって所望の旋回位置が得られると、操作装置26に対する再度の操作によって旋回用電動機21の回生制御やメカニカルブレーキ23等の制動動作が行われ、時刻tにおいて逆方向の(負の)旋回加速度が与えられることにより、旋回速度が減じていく。その後、旋回体4が静止される場合には、負の旋回加速度の絶対値が徐々に小さくなり、或る時刻tに旋回速度がゼロになり旋回体4が静止する(図中のグラフG1)。また、旋回体4の回転の向きが変更される場合には、負の旋回加速度の絶対値がほぼ一定のまま旋回速度が負、すなわち旋回方向が逆向きとなる(図中のグラフG2)。
【0036】
上述したように、第1の歯車71と第2の歯車72との間にはバックラッシュAが設けられているため、旋回体4が静止状態から旋回動作へ移行する際(図6のB領域)、すなわち第2の歯車72が静止状態から回転動作へ移行する際には、第2の歯車72の歯72bが第1の歯車71の歯71bに対して回転方向に既に接している場合を除いて、第2の歯車72の歯72bがバックラッシュA内の一定距離を移動した後に第1の歯車71の歯71bに当接する。また、旋回体4の旋回速度が減速される際もしくは旋回体4の旋回方向が変更される際(共に図6のC領域)、すなわち第2の歯車72の回転速度の減速または回転方向の変更が行われる際には、第2の歯車72の歯72bがバックラッシュAの幅Wを移動した後に第1の歯車71の歯71bに当接する。したがって、これらの場合にはバックラッシュAによる衝撃等の影響が起こり易くなる。
【0037】
そこで、本実施形態の旋回制限部41は、これらの場合を判断して旋回用電動機21の出力トルクを制限する。すなわち、旋回制限部41は、旋回用電動機21の静止状態から回転動作への移行を旋回駆動制御部40が行う際、旋回用電動機21の回転速度の減速を旋回駆動制御部40が行う際、および旋回用電動機21の回転方向の変更を旋回駆動制御部40が行う際に、旋回用電動機21の出力トルクを制限する。
【0038】
図7は、旋回用電動機21が静止状態から回転動作へ移行する際における、旋回用電動機21の駆動軸21Aの回転速度の時間変化を示すグラフである。図7に示すように、旋回駆動制御部40によるインバータ回路20Aの駆動が開始されると、旋回用電動機21の回転速度は増加し始めるが、所定時間Tが経過するまでは出力トルクが段階的に増加するよう制限され、旋回用電動機21の回転速度は所定時間Tまで低く抑えられながら僅かに増加する(図7の領域D)。その後、所定時間Tが経過すると、この制限が解除され、旋回用電動機21の出力トルクは旋回用電動機21の出力性能に応じた本来の傾きでもって増加する(図7の領域E)。なお、第2の歯車72と第1の歯車71とは、所定時間Tが経過するまでの不定のタイミングで互いに当接することとなる。
【0039】
なお、本実施形態において、旋回制限部41は、旋回用電動機21の出力トルクを、図4に示したバックラッシュ幅Wを第2の歯車72の歯72bが移動する際に要する時間が1ミリ秒以上200ミリ秒以下となる値に制限することが好ましい。
【0040】
図8は、上述した機能を好適に実現するための旋回制限部41の構成例を示すブロック図である。旋回制限部41は、例えばリミット部41a、判断部41b、及びPI制御部41cによって構成される。リミット部41aは、旋回用電動機21の出力トルクを制限するための要素であり、具体的には、PI制御部41cに入力される旋回用電動機21の回転速度VMと回転速度指令値VMとの差分に制限を加える。また、判断部41bは、回転速度VMと回転速度指令値VMとの差分に基づいて、リミット部41aが旋回用電動機21の出力トルクを制限するタイミング、具体的には旋回用電動機21の静止状態から回転動作への移行、旋回用電動機21の回転速度の減速、および旋回用電動機21の回転方向の変更の各タイミングを判断し、リミット部41aに指令を与える。PI制御部41cは、リミット部41aの出力に対して比例ゲインおよび積分ゲインを乗算する。
【0041】
本実施形態のサーボ制御システム80においては、旋回制限部41が、第1の歯車71と第2の歯車72とのバックラッシュAによって衝撃が発生するような場合を判断し、旋回用電動機21の出力トルクを制限する。これにより、機械要素の追加を必要とすることなくバックラッシュAによる衝撃を低減することが可能となる。また、旋回制限部41は、旋回用電動機21の出力トルクを制限する際、第1の歯車71及び第2の歯車72におけるバックラッシュ幅Wを第2の歯車72が移動する際に要する時間Tに相当する所定時間が経過するまでの間に限り、旋回用電動機21の出力トルクを制限するので、操作入力に対する旋回体4の応答性を確保できる。更に、第2の歯車72の歯72bと第1の歯車71の歯71bとの間隔がバックラッシュ幅Wを超えることはないので、第2の歯車72の歯72bが第1の歯車71の歯71bに対して予めどのような位置にあったとしても、バックラッシュAによる衝撃を効果的に低減できる。
【0042】
また、旋回用電動機21の出力トルクの制限値を小さくし過ぎると、操作者の指示入力に対して旋回体4が旋回動作を開始するタイミングが遅れ、応答性の低下を招き操作者を不快にしてしまう。前述したように、或る操作に対して対象物が動作を開始するまでの時間が200ミリ秒を超えると、操作者が不快に感じる傾向がある。そこで、第2の歯車72の歯72bがバックラッシュ幅Wを移動する際に要する時間が上記範囲内となるように、すなわちバックラッシュ幅Wを第2の歯車72が移動する際に要する時間が1ミリ秒以上200ミリ秒以下となるように旋回用電動機21の出力トルクの制限値を設定することによって、バックラッシュAによる衝撃を低減しつつ、操作者が不快に感じない程度に応答性を高めることができる。
【0043】
本発明によるサーボ制御システムおよび作業機械は、上記した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態では作業機械としてハイブリッド建設機械を例示して説明したが、回転体を歯車を介して電動機によって駆動する機構を備えるものであれば、例えばショベルやホイルローダ、クレーンといった他の作業機械にも本発明を適用できる。
【符号の説明】
【0044】
1…ハイブリッド型建設機械、2…走行機構、2a…油圧モータ、3…旋回機構、4…旋回体、4a…運転室、20A,20B…インバータ回路、21…旋回用電動機、21A…駆動軸、22…レゾルバ、23…メカニカルブレーキ、24…旋回減速機、30…コントローラ、40…旋回駆動制御部、41…旋回制限部、41a…リミット部、41b…判断部、41c,42…PI制御部、70…駆動力伝達機構、71…第1の歯車、72…第2の歯車、80…サーボ制御システム、100…昇降圧コンバータ、110…バス、120…蓄電手段、A…バックラッシュ、G…吊荷、W…バックラッシュ幅。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷となる回転体に連結された第1の歯車と、
前記第1の歯車と噛み合い、前記第1の歯車を駆動する第2の歯車と、
前記第2の歯車を駆動する電動機と、
前記電動機の動作を制御する制御部と
を備え、
前記制御部は、前記電動機の出力トルクを制限するためのトルク制限部を有しており、
前記トルク制限部は、前記電動機の静止状態から回転動作への移行、前記電動機の回転速度の減速、または前記電動機の回転方向の変更を行う際に、前記第1及び第2の歯車におけるバックラッシュ幅を前記第2の歯車が移動する際に要する時間に相当する所定時間が経過するまでの間、前記電動機の出力トルクを制限する
ことを特徴とする、サーボ制御システム。
【請求項2】
旋回体および該旋回体に配置された運転室を備える作業機械であって、
前記旋回体に連結された第1の歯車と、
前記第1の歯車と噛み合い、前記第1の歯車を駆動する第2の歯車と、
前記第2の歯車を駆動する旋回用電動機と、
前記旋回用電動機の動作を制御する制御部と
を備え、
前記制御部は、前記旋回用電動機の出力トルクを制限するためのトルク制限部を有しており、
前記トルク制限部は、前記旋回用電動機の静止状態から回転動作への移行、前記旋回用電動機の回転速度の減速、または前記旋回用電動機の回転方向の変更を行う際に、前記第1及び第2の歯車におけるバックラッシュ幅を前記第2の歯車が移動する際に要する時間に相当する所定時間が経過するまでの間、前記旋回用電動機の出力トルクを制限する
ことを特徴とする、作業機械。
【請求項3】
前記トルク制限部は、前記旋回用電動機の出力トルクを、前記バックラッシュ幅を前記第2の歯車が移動する際に要する時間が1ミリ秒以上200ミリ秒以下となる値に制限する
ことを特徴とする、請求項2に記載の作業機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−215369(P2010−215369A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−64701(P2009−64701)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】