説明

シスプラチンとEGFR阻害剤を用いた治療

本発明により、腫瘍または腫瘍の転移の治療を目的とする薬の製造方法であって、治療に有効な量のEGFRキナーゼ阻害剤とシスプラチンを、追加の薬剤(例えば他の抗がん剤)または治療法(例えば放射線療法)とともに、または追加の薬剤または治療法なしで使用することを特徴とする方法が提供される。本発明は、EGFRキナーゼ阻害剤とシスプラチンの組み合わせを、薬理学的に許容可能な基剤と組み合わせた医薬組成物にも関する。本発明を実施する際に使用できるEGFRキナーゼ阻害剤の好ましい一例は、エルロチニブHCl(タルセバ(登録商標)としても知られる)という化合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がんの治療を目的とした薬を製造するための組成物と方法に関する。本発明は特に、シスプラチンと上皮増殖因子受容体(EGFR)キナーゼ阻害剤を含む薬の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
がんは、制御されない増殖、分化の欠如、局所組織に侵入して転移する能力を特徴とする広範な細胞性悪性腫瘍に対する一般名である。こうした悪性腫瘍は、身体のあらゆる組織と臓器にさまざまな程度で影響を与える。
【0003】
いろいろなタイプのがんを治療するため、多数の治療薬が過去数十年の間に開発されてきた。最も一般的に用いられているタイプの抗がん剤として、DNAアルキル化剤(例えばシクロホスファミド、イホスファミド)、抗代謝剤(例えばメトトレキサート、葉酸塩アンタゴニスト、5-フルオロウラシル、ピリミジン・アンタゴニスト)、微小管破壊剤(例えばビンクリスチン、ビンブラスチン、パクリタキセル)、DNAインターカレーター(例えばドキソルビシン、ダウノマイシン、シスプラチン)、ホルモン療法剤(例えばタモキシフェン、フルタミド)などがある。
【0004】
国立がん研究所によると、アメリカ合衆国では肺がんががんによる死因の第1位であり、この国のがん死の30%近くを占める。世界保健機関によると、世界中で毎年120万人が肺がんと気管支がんになっており、これらのがんが原因で年に約110万人が亡くなっている。NSCLCは肺がんの最も一般的な形態であり、全ケースのほぼ80%を占める。肺がん治療の選択肢として、手術、放射線療法、化学療法が、形態とステージに応じて単独で、または組み合わせて実施される。進行したNSCLCに関しては、活性があることがわかっている薬剤として、シスプラチン(CisP;例えばプラチノール(登録商標))、カルボプラチン、パクリタキセル、ドセタキセル、トポテカン、イリノテカン、ビノレルビン、ゲムシタビンや、EGFRキナーゼ阻害剤であるゲフィチニブとエルロチニブなどがある。シスプラチンを含む組み合わせ化学療法とカルボプラチンを含む組み合わせ化学療法は、単剤化学療法で実現できるよりも客観的な反応率が高いことがわかっている(Weick, J.K.他、1991年、J. Clin. Oncol.、第9巻(7)、1157〜1162ページ)。パクリタキセルは、ステージIVの患者で単剤活性があり、反応率が21%〜24%であることが報告されている(Murphy W.K.他、1993年、J. Natl. Cancer Inst.、第85巻(5)、384〜388ページ)。パクリタキセルを含む組み合わせは、比較的反応率が高く、1年生存率が有意に大きく、肺がんの症状が軽減することがわかっている(Johnson D.H.他、1996年、J. Clin. Oncol.、第14巻(7)、2054〜2060ページ)。パクリタキセル+カルボプラチンを用いた療法だと、反応率は27%〜53%であり、1年生存率は32%〜54%であった。しかしこれらの治療法の効果はこの程度であるため、現在のところ、どの特定の治療法も標準療法とは見なせない。
【0005】
上皮増殖因子受容体(EGFR)キナーゼまたはそのリガンドであるTGF-アルファの過剰発現には多くのがん(例えば乳癌、肺がん、結腸がん、頭部がん、首がん)が関係しており(Salomon, D.S.他、1995年、Crit. Rev. Oncol. Hematol.、第19巻、183〜232ページ;Wells, A.、2000年、Signal、第1巻、4〜11ページ)、これら腫瘍の悪性増殖に関与していると考えられている。EGFR遺伝子における特定の欠失突然変異も細胞の腫瘍発生を増大させることが見いだされている(Halatsch, M-E.他、2000年、J. Neurosurg.、第92巻、297〜305ページ;Archer, G.E.他、1999年、Clin. Cancer Res.、第5巻、2646〜2652ページ)。EGFRによって刺激されるシグナル伝達経路が活性化されると、潜在的にがんを促進するいろいろなプロセス(例えば増殖、血管新生、細胞の運動性、細胞の侵入、アポトーシスの低下、薬剤耐性の誘発)が促進される。抗がん剤として使用するため、EGFRのキナーゼ活性を直接抑制する化合物と、EGFRの活性化阻止によってEGFRのキナーゼ活性を低下させる抗体を開発する研究が精力的になされている(de Bono, J.S.とRowinsky, E.K.、2002年、Trends in Mol. Medicine、第8巻、S19〜S26ページ;Dancey, J.とSausville, E.A.、2003年、Nature Rev. Drug Discovery、第2巻、92〜313ページ)。いくつかのEGFRキナーゼ阻害剤は、他のいくつかの抗がん剤または化学療法剤と組み合わせて使用すると、腫瘍細胞または新生物の殺傷を増やしうることが、いくつかの研究で証明または報告されている(例えばRaben, D.他、2002年、Semin. Oncol.、第29巻、37〜46ページ;Herbst, R.S.他、2001年、Expert Opin. Biol. Ther.、第1巻、719〜732ページ;Magne, N.他、2003年、Clin. Can. Res.、第9巻、4735〜4732ページ;Magne, N.他、2002年、British Journal of Cancer、第86巻、819〜827ページ;Torrance, C.J.他、2000年、Nature Med.、第6巻、1024〜1028ページ;Gupta, R.A.とDuBois, R.N.、2000年、Nature Med.、第6巻、974〜975ページ;Tortora他、2003年、Clin Cancer Res.、第9巻、1566〜1572ページ;Solomon, B.、2003年、Int.J. Radiat. Oncol. Biol. Phys.、第55巻、713〜723ページ;Krishnan, S.他、2003年、Frontiers in Bioscience、第8巻、e1〜13ページ;Huang, S.他、1999年、Cancer Res.、第59巻、1935〜1940ページ;Contessa, J.N.他、1999年、Clin. Cancer Res.、第5巻、405〜411ページ;Li, M.他、2002年、Clin. Cancer Res.、第8巻、3570〜3578ページ;Ciardiello, F.他、2003年、Clin. Cancer Res.、第9巻、1546〜1556ページ;Ciardiello, F.他、2000年、Clin. Cancer Res.、第6巻、3739〜3747ページ;Grunwald, V.とHidalgo, M.、2003年、J. Nat. Cancer Inst.、第95巻、851〜867ページ;Seymour L.、2003年、Current Opin. Investig. Drugs、第4巻(6)、658〜666ページ;Khalil, M.Y.他、2003年、Expert Rev. Anticancer Ther.、第3巻、367〜380ページ;Bulgaru, A.M.他、2003年、Expert Rev. Anticancer Ther.、第3巻、269〜279ページ;Dancey, J.とSausville, E.A.、2003年、Nature Rev. Drug Discovery、第2巻、92〜313ページ;Kim, E.S.他、2001年、Current Opinion Oncol.、第13巻、506〜513ページ;Arteaga, C.L.とJohnson, D.H.、2001年、Current Opinion Oncol.、第13巻、491〜498ページ;Ciardiello, F.他、2000年、Clin. Cancer Res.、第6巻、2053〜2063ページ;アメリカ合衆国特許出願公開2003/0108545、2002/0076408、2003/0157104;国際特許出願公開WO 99/60023、WO 01/12227、WO 02/055106、WO 03/088971、WO 01/34574、WO 01/76586、WO 02/05791、WO 02/089842)
【0006】
抗腫瘍薬は、理想的には、がん細胞を選択的に殺し、非腫瘍細胞に対する毒性と比べて治療指数が広いものであろう。抗腫瘍薬は、腫瘍細胞が長期間にわたってその薬に曝露された後でさえ、腫瘍細胞に対する効果を保持することにもなろう。残念なことに、現在のどの化学療法剤もそのように理想的なプロファイルは持っていない。それとは逆に、たいていの化学療法剤は治療指数が非常に狭い。さらに、致死濃度よりもわずかに小さい濃度の化学療法剤に曝露されたがん細胞は、そのような薬に対する抵抗力を獲得することが非常にしばしばあり、他のいくつかの抗腫瘍薬に対しても同様に交差抵抗性を示すことが非常によくある。
【0007】
したがって新生物や他の増殖性疾患のためのより効果的な治療法が必要とされている。既存の薬の治療効果を大きくする戦略には、その薬の投与スケジュールを変更したり、他の抗がん剤または生化学的調節剤と組み合わせたりすることが含まれる。組み合わせ療法は、それぞれの薬剤を単独で治療に必要な投与量を使用する場合よりも効果を大きくし、副作用を減らすことのできる方法としてよく知られている。薬剤を組み合わせる効果は、ある場合には加算的である(組み合わせの効果が、それぞれの薬剤単独の効果の和にほぼ等しい)が、別の場合には効果は相乗的である(組み合わせの効果が、投与するそれぞれの薬剤単独の効果の和よりも大きい)。
【0008】
しかし肺がんその他のがんの治療法を改善するという非常に重要な要求が残されたままになっている。本発明では、効果をもたらすのに必要な個々の成分の投与量を減らすことにより、各薬剤に付随する副作用を減らす一方で治療効果を維持または増大させる抗がん剤組み合わせ療法を提供する。この明細書に記載した本発明により、薬剤の新しい組み合わせと、組み合わせた薬剤を利用して肺がんその他のがんを治療する方法が提供される。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明により、腫瘍または腫瘍の転移の治療を目的とする薬の製造方法であって、EGFRキナーゼ阻害剤とシスプラチンを使用することを特徴とする方法が提供される。治療に有効な量のEGFRキナーゼ阻害剤とシスプラチンを組み合わせて患者に同時に、または順番に投与することが好ましく、そのときそれに加えて追加の薬(例えば他の抗がん剤)の投与または追加の治療法(例えば放射線療法)を実施する場合と、追加の薬の投与も追加の治療法も実施しない場合がある。
【0010】
本発明は、EGFRキナーゼ阻害剤とシスプラチンの組み合わせに、薬理学的に許容可能な基剤を組み合わせて含む医薬組成物にも関する。
【0011】
本発明を実施する際に使用できるEGFRキナーゼ阻害剤の好ましい一例は、エルロチニブHClという化合物(タルセバ(登録商標)としても知られる)である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
動物における“がん”という用語は、がんを引き起こす細胞に典型的な特徴(例えば制御されていない増殖、不死、転移能力、大きな成長・増殖速度)といくつかの形態的な特徴を有する細胞が存在していることを意味する。がん細胞は腫瘍の形態であることがしばしばあるが、そのような細胞は、動物の体内に単独で存在すること、または独立な細胞(例えば白血球細胞)として血流中を循環することができる。
【0013】
この明細書では、“異常な細胞増殖”は、特に断わらない限り、正常な調節メカニズムとは独立な細胞の増殖を意味する(例えば接触抑制の喪失)。その中には、(1)突然変異したチロシンキナーゼを発現することによって、または受容体チロシンキナーゼを過剰発現することによって増殖する腫瘍細胞(腫瘍)の異常な増殖;(2)チロシンキナーゼの異常な活性化が起こる他の増殖性疾患の良性細胞と悪性細胞の異常な増殖;(4)受容体チロシンキナーゼによって増殖するあらゆる腫瘍の異常な増殖;(5)セリン/トレオニンキナーゼの異常な活性化によって増殖するあらゆる腫瘍の異常な増殖;(6)セリン/トレオニンキナーゼの異常な活性化が起こる他の増殖性疾患の良性細胞と悪性細胞の異常な増殖が含まれる。
【0014】
この明細書では、“治療する”という用語は、特に断わらない限り、患者における腫瘍の増殖、または腫瘍の転移の増加、またはがんを引き起こす他の細胞、すなわち腫瘍性の他の細胞の増殖を、部分的にまたは完全に逆転させたり、減らしたり、抑制したり、阻止したりすることを意味する。この明細書では、“治療”は、特に断わらない限り、治療する行為を意味する。
【0015】
“治療法”という用語、またはそれと同等の用語は、例えばがんに当てはめると、動物のがん細胞の数を減らしたり、がん細胞をなくしたり、がんの症状を緩和したりする手続きすなわち一連の行為を意味する。がんまたは他の増殖性疾患を“治療する方法”は、がん細胞または他の疾患が実際になくなることや、細胞の数または疾患が実際に減ることや、がんその他の症状が実際に緩和されることを必ずしも意味しない。がんを治療する方法は、成功の可能性が小さい場合でさえ実施されることがしばしばあるが、動物の治療歴と予想生存期間を考慮した上で全体として好ましい一連の行為であると考えられる。
【0016】
“治療に有効な薬剤”という表現は、組織、系、動物、ヒトにおいて研究者、獣医、医師、他の臨床関係者が実現しようとする生物学的または医学的な反応を誘導する組成物を意味する。
【0017】
“薬の製造方法”という表現は、特に腫瘍、または腫瘍の転移、またはがん全般で使用するため、この明細書に記載した症状で使用する薬の製造に関する。この表現は、記載した症状におけるいわゆる“スイス-タイプ”の請求項の形式に関する。
【0018】
“治療に有効な量”または“有効量”という表現は、組織、系、動物、ヒトにおいて研究者、獣医、医師、他の臨床関係者が実現しようとする生物学的または医学的な反応を誘導する試験化合物または組み合わせの量を意味する。
【0019】
この明細書の後出の実施例に提示したデータは、シスプラチンをEGFRキナーゼ阻害剤とともに投与することが進行したがん(例えば結腸がん)の治療に有効であることを示している。したがって本発明により、患者の腫瘍または腫瘍の転移を治療するための薬を製造する方法であって、治療に有効な量のEGFRキナーゼ阻害剤とシスプラチンの組み合わせを使用することを特徴とする方法が提供される。このような組み合わせは、患者に同時に、または順番に投与されることが好ましい。一実施態様では、治療する腫瘍または腫瘍の転移は、結腸がんまたはその転移である。
【0020】
このような物質は、患者に同時に、または順番に投与することが好ましい。したがって本発明により、腫瘍または腫瘍の転移を治療するための薬を製造する方法であって、治療に有効な量のEGFRキナーゼ阻害剤とシスプラチンの組み合わせを使用し、その組み合わせを患者に同時に、または順番に投与することを特徴とする方法も提供される。さらに、他の細胞傷害剤、化学療法剤、抗がん剤や、このような薬の効果を増大させる化合物を1種類以上使用することが好ましい。
【0021】
本発明の文脈では、追加する他の細胞傷害剤、化学療法剤、抗がん剤や、このような薬の効果を増大させる化合物としては、例えば、アルキル化剤、すなわちアルキル化作用を有する薬剤(シクロホスファミド(CTX;例えばサイトキサン(登録商標)など)、クロラムブシル(CHL;ロイケラン(登録商標))、ブスルファン(例えばミレラン(登録商標))、メルファラン、カルムスチン(BCNU)、ストレプトゾトシン、トリエチレンメラミン(TEM)、マイトマイシンCなど);抗代謝剤(メトトレキサート(MTX)、エトポシド(VP16;例えばベペシド(登録商標)など)、6-メルカプトプリン(6MP)、6-チオクグアニン(6TG)、シタラビン(Ara-C)、5-フルオロウラシル(5-FU)、カペシタビン(例えばゼローダ(登録商標))、ダカルバジン(DTIC)など);抗生物質(アクチノマイシンD、ドキソルビシン(DXR;例えばアドリアマイシン(登録商標))、ダウノルビシン(ダウノマイシン)、ブレオマイシン、ミトラマイシンなど);アルカロイド(ビンカアルカロイド(例えばビンクリスチン(VCR)、ビンブラスチンなど);他の抗がん剤(パクリタキセル(例えばタキソール(登録商標))、パクリタキセル誘導体など)、細胞分裂停止剤、グルココルチコイド(デキサメタゾン(DEX;例えばデカドロン(登録商標)など)、コルチコステロイド(プレドニゾンなど)、ヌクレオシド酵素阻害剤(ヒドロキシウレアなど)、アミノ酸枯渇酵素(アスパラギナーゼ、ロイコボリン、葉酸、他の葉酸誘導体など)、同様のさまざまな抗がん剤などがある。以下に示す薬剤も、追加する薬剤として使用できる:アルニホスチン(例えばエチオール(登録商標))、ダクチノマイシン、メクロレタミン(窒素マスタード)、ストレプトゾシン、シクロホスファミド、ロルヌスチン(CCNU)、ドキソルビシン・リポ(例えばドキシル(登録商標))、ゲムシタビン(例えばジェムザール(登録商標))、ダウノルビシン・リポ(例えばダウノキソーム(登録商標))、プロカルバジン、マイトマイシン、ドセタキセル(例えばタキソテール(登録商標))、アルデスロイキン、カルボプラチン、クラドリビン、カンプトテシン、CPT 11(イリノテカン)、10-ヒドロキシ 7-エチル-カンプトテシン(SN38)、フロクスリジン、フルダラビン、イホスファミド、イダルビシン、メスナ、インターフェロン・アルファ、インターフェロン・ベータ、ミトキサントロン、トポテカン、リュープロリド、メゲストロール、メルファラン、メルカプトプリン、プリカマイシン、ミトタン、ペガスパルガーゼ、ペントスタチン、ピポブロマン、プリカマイシン、タモキシフェン、テニポシド、テストラクトン、チオグアニン、チオテパ、ウラシルマスタード、ビノレルビン、クロラムブシル。
【0022】
腫瘍または腫瘍の転移を治療するための薬を製造する方法であって、治療に有効な量のEGFRキナーゼ阻害剤とシスプラチンの組み合わせを使用し、その組み合わせを患者に同時に、または順番に投与するが、そのとき、1種類以上の抗ホルモン剤を追加して使用することを特徴とする方法もより好ましい。この明細書では、“抗ホルモン剤”という用語に、腫瘍に対するホルモン作用を調節または抑制する天然または合成の有機化合物またはペプチド化合物が含まれる。
【0023】
抗ホルモン剤としては、例えば、ステロイド受容体アンタゴニスト、抗エストロゲン(例えばタモキシフェン、ラロキシフェン、アロマターゼ阻害4(5)-イミダゾール、他のアロマターゼ阻害剤、42-ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン、ケオキシフェン、LY 117018、オナプリストン、トレミフェン(例えばファレストン(登録商標)));抗アンドロゲン(例えばフルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、リュープロリド、ゴセレリン);これらの薬理学的に許容可能な塩、酸、誘導体;糖タンパク質・ホルモン(例えば濾胞刺激ホルモン(FSH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、黄体形成ホルモン(LH)、LHRH(黄体形成ホルモン放出ホルモン))のアゴニストおよび/またはアンタゴニスト;LHRHアゴニストである酢酸ゴセレリン(ゾラデックス(登録商標)として市販されている(アストラゼネカ社));LHRHアンタゴニストであるD-アラニンアミド N-アセチル-3-(2-ナフタレニル)-D-アラニル-4-クロロ-D-フェニルアラニル-3-(3-ピリジニル)-D-アラニル-L-セリル-N6-(3-ピリジニルカルボニル)-L-リシル-N6-(3-ピリジニルカルボニル)-D-リシル-L-ロイシル-N6-(1-メチルエチル)-L-リシル-L-プロリン(例えばアンタイド(登録商標)、アレス-セロノ社);LHRHアンタゴニストである酢酸ガニレリックス;ステロイド系抗アンドロゲンである酢酸シプロテロン(CPA)と酢酸メゲストロール(メゲース(登録商標)、ブリストル-マイヤーズ・オンコロジー社);非ステロイド系抗アンドロゲンであるフルタミド(2-メチル-N-[4,20-ニトロ-3-(トリフルオロメチル)フェニルプロパンアミド]、ユーレキシン(登録商標)として市販されている(シェリング社));非ステロイド系抗アンドロゲンであるニルタミド(5,5-ジメチル-3-[4-ニトロ-3-(トリフルオロメチル-4'-ニトロフェニル)-4,4-ジメチル-イミダゾリジン-ジオン]);他の許容できない受容体のアンタゴニスト(例えばRAR、RXR、TR、VDRなどに関するアンタゴニスト)などがある。
【0024】
がんの治療法において化学療法剤投与計画の中で使用されている上記の細胞傷害剤や他の抗がん剤の特徴は一般によくわかっているため、この明細書で使用する際には、抗毒性と効果をモニターすることと、投与経路と投与量を制御することに関し、いくらかの変更はあるが基本的に同じ条件にする。例えば細胞傷害剤の実際の投与量は、組織培養法を利用して調べた患者の培養細胞の反応によって変化する可能性がある。一般に、投与量は、追加する他の薬剤なしで使用する場合の量と比べて少なくなろう。
【0025】
有効な細胞傷害剤の典型的な投与量は、製造者が推奨する範囲にすることが可能であり、試験管内での反応またはモデル動物での反応で得られた範囲が示してある場合には、濃度または量を約1桁まで少なくすることができる。したがって実際の投与量は、医師の判断や患者の状態によって、あるいは一次培養腫瘍細胞または組織培養サンプルの試験管内での反応、または適切なモデル動物で観察される反応に基づく治療法の有効性によって異なることになろう。
【0026】
本発明の文脈では、上記の追加する他の細胞傷害剤、化学療法剤、抗がん剤のうちで、ゲムシタビン、タキソテール、ビノレルビンという化合物が好ましい。
【0027】
腫瘍または腫瘍の転移を治療するための薬を製造する方法であって、治療に有効な量のEGFRキナーゼ阻害剤とシスプラチンの組み合わせを使用し、その組み合わせを患者に同時に、または順番に投与するが、そのとき、1種類以上の血管新生阻害剤を追加して使用することを特徴とする方法もより好ましい。
【0028】
血管新生阻害剤としては、例えば、VEGFR阻害剤(SU-5416、SU-6668(スージェン社、サウス・サンフランシスコ、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)や、WO 99/24440、WO 99/62890、WO 95/21613、WO 99/61422、WO 98/50356、WO 99/10349、WO 97/32856、WO 97/22596、WO 98/54093、WO 98/02438、WO 99/16755、WO 98/02437、アメリカ合衆国特許第5,883,113号、第5,886,020号、第5,792,783号、第5,834,504号、第6,235,764号に記載されているものなど);VEGF阻害剤(IM862(サイトラン社、カークウッド、ワシントン州、アメリカ合衆国)など);リボザイム社(ボールダー、コロラド州)の合成リボザイムであるアンギオザイム;VEGFに対する抗体(ベバシズマブ(例えばVEGFに対する組み換えヒト化抗体であるアバスチン(登録商標)、ジェネンテック社、サウス・サンフランシスコ、カリフォルニア州)など);インテグリン受容体アンタゴニストとインテグリン・アンタゴニスト(αvβ3インテグリン、αvβ5インテグリン、αvβ6インテグリンと、これらの亜型(例えばシレンジチド(EMD 121974)など))や、抗インテグリン抗体(αvβ3特異的ヒト化抗体(例えばビタキシン(登録商標))など);IFN-アルファなどの因子(アメリカ合衆国特許第4,530,901号、第4,503,035号、第5,231,176号);アンギオスタチンとプラスミノーゲンの断片(例えばクリングル1-4、クリングル-5、クリングル1-3(O'Reilly, M.S.他、1994年、Cell、第79巻、315〜328ページ;Cao他、1996年、J. Biol. Chem.、第271巻、29461〜29467ページ;Cao他、1997年、J. Biol. Chem.、第272巻、22924〜22928ページ);エンドスタチン(O'Reilly, M.S.他、1997年、Cell、第88巻、277ページ;国際特許出願公開WO 97/15666);トロンボスポンジン(TSP-1;Frazier、1991年、Curr. Opin. Cell Biol.、第3巻、792ページ);血小板因子4(PF4);プラスミノーゲン活性化因子/ウロキナーゼ阻害剤;ウロキナーゼ受容体アンタゴニスト;ヘパリナーゼ;フマギリン・アナログ(TNP-4701など);スラミンとスラミン・アナログ;血管新生阻害ステロイド;bFGFアンタゴニスト;flk-1とflk-1アンタゴニスト;抗血管新生剤(MMP-2(マトリックス-メタロプロテイナーゼ2)阻害剤、MMP-9(マトリックス-メタロプロテイナーゼ9)阻害剤など)などがある。有用なマトリックス-メタロプロテイナーゼ阻害剤の具体例は、国際特許出願公開WO 96/33172、WO 96/27583、WO 98/07697、WO 98/03516、WO 98/34918、WO 98/34915、WO 98/33768、WO 98/30566、WO 90/05719、WO 99/52910、WO 99/52889、WO 99/29667、WO 99/07675、ヨーロッパ特許出願公開第818,442号、第780,386号、第1,004,578号、第606,046号、第931,788号、イギリス国特許出願公開第9912961号、アメリカ合衆国特許第5,863,949号、第5,861,510号に記載されている。好ましいMMP-2阻害剤とMMP-9阻害剤は、MMP-1を抑制する活性がほとんどないかまったくない阻害剤である。より好ましいのは、MMP-2および/またはMMP-9を他のマトリックス-メタロプロテイナーゼ(すなわちMMP-1、MMP-3、MMP-4、MMP-5、MMP-6、MMP-7、MMP-8、MMP-10、MMP-11、MMP-12、MMP-13)よりも選択的に阻害する阻害剤である。
【0029】
腫瘍または腫瘍の転移を治療するための薬を製造する方法であって、治療に有効な量のEGFRキナーゼ阻害剤とシスプラチンの組み合わせを使用し、その組み合わせを患者に同時に、または順番に投与するが、そのとき、1種類以上の腫瘍細胞アポトーシス促進剤またはアポトーシス刺激剤を追加して使用することを特徴とする方法もより好ましい。
【0030】
腫瘍または腫瘍の転移を治療するための薬を製造する方法であって、治療に有効な量のEGFRキナーゼ阻害剤とシスプラチンの組み合わせを使用し、その組み合わせを患者に同時に、または順番に投与するが、そのとき、1種類以上のシグナル伝達阻害剤を追加して使用することを特徴とする方法もより好ましい。
【0031】
シグナル伝達阻害剤としては、例えば、erbB2受容体阻害剤(erbB2受容体に結合する有機分子または抗体(例えばトラスツズマブ(例えばハーセプチン(登録商標)))など);他のタンパク質チロシン-キナーゼの阻害剤(例えばイミチニブ(例えばグリーベック(登録商標)));ras阻害剤;raf阻害剤;MEK阻害剤;mTOR阻害剤;サイクリン依存性キナーゼ阻害剤;プロテインキナーゼC阻害剤;PDK-1阻害剤(このような阻害剤のいくつかの具体例と、がんの治療に関する臨床試験におけるその利用については、Dancey, J.とSausville, E.A.、2003年、Nature Rev. Drug Discovery、第2巻、92〜313ページを参照のこと)などがある。
【0032】
erbB2受容体阻害剤としては、例えば、GW-282974(グラクソ・ウエルカム社)などのerbB2受容体阻害剤、AR-209(アロネックス・ファーマシューティカルズ社、ザ・ウッドランズ、テキサス州、アメリカ合衆国)などのモノクローナル抗体、国際特許出願公開WO 98/02434、WO 99/35146、WO 99/35132、WO 98/02437、WO 97/13760、WO 95/19970、アメリカ合衆国特許第5,587,458号、第5,877,305号、第6,465,449号、第6,541,481号に記載されているerbB2受容体阻害剤などがある。
【0033】
腫瘍または腫瘍の転移を治療するための薬を製造する方法であって、治療に有効な量のEGFRキナーゼ阻害剤とシスプラチンの組み合わせを使用し、その組み合わせを患者に同時に、または順番に投与するが、そのとき、抗HER2抗体または免疫療法で活性なそのフラグメントを追加して使用することを特徴とする方法もより好ましい。
【0034】
腫瘍または腫瘍の転移を治療するための薬を製造する方法であって、治療に有効な量のEGFRキナーゼ阻害剤とシスプラチンの組み合わせを使用し、その組み合わせを患者に同時に、または順番に投与するが、そのとき、1種類以上の抗増殖剤を追加して使用することを特徴とする方法もより好ましい。
【0035】
追加する抗増殖剤としては、例えば、酵素ファルネシルトランスフェラーゼの阻害剤や受容体チロシンキナーゼPDGFRの阻害剤があり、その中には、アメリカ合衆国特許第6,080,769号、第6,194,438号、第6,258,824号、第6,586,447号、第6,071,935号、第6,495,564号、第6,150,377号、第6,596,735号、第6,479,513号、ならびに国際特許出願公開WO 01/40217に開示され、権利を主張されている化合物が含まれる。
【0036】
腫瘍または腫瘍の転移を治療するための薬を製造する方法であって、治療に有効な量のEGFRキナーゼ阻害剤とシスプラチンの組み合わせを使用し、その組み合わせを患者に同時に、または順番に投与するが、COX II(シクロオキシゲナーゼII)阻害剤を追加して使用することを特徴とする方法もより好ましい。有用なCOX II阻害剤の具体例としては、アレコキシブ(例えばセレブレックス(登録商標))、バルデコキシブ、ロフェコキシブなどがある。
【0037】
腫瘍または腫瘍の転移を治療するための薬を製造する方法であって、治療に有効な量のEGFRキナーゼ阻害剤とシスプラチンの組み合わせを使用し、その組み合わせを患者に同時に、または順番に投与するが、そのとき放射性医薬を追加して使用することを特徴とする方法もより好ましい。放射性医薬を追加する代わりに、または放射性医薬に加えて、放射線を用いた治療を実施してもよい。
【0038】
放射線源は、治療する患者の外部にあっても内部にあってもよい。放射線源が患者の外部にある場合には、治療法は、外部ビーム照射療法(EBRT)として知られている。放射線源が患者の内部にある場合には、治療法は近接照射療法(BT)と呼ばれている。本発明で使用する放射性原子は、ラジウム、セシウム-137、イリジウム-192、アメリシウム-241、金-198、コバルト-57、銅-67、テクネチウム-99、ヨウ素-123、ヨウ素-131、インジウム111を含むグループの中から選択することができるが、これだけに限られない。本発明のEGFRキナーゼ阻害剤が抗体である場合には、抗体をこのような放射性同位体で標識することも可能である。
【0039】
放射線療法は、治癒しないか手術できない腫瘍および/または腫瘍の転移に対する標準的な治療法である。放射線療法を化学療法と組み合わせると結果が向上することが観察されている。放射線療法は、標的領域に大きな照射量の放射線を当てると腫瘍と正常組織の両方で増殖性細胞が死ぬという原理に基づいている。放射線照射計画は、一般に、吸収される線量(Gy)、時間、分割法に関して規定されるが、その計画は腫瘍医が注意深く決定せねばならない。患者が受ける線量は、さまざまな考慮事項が何であるかに応じて異なるが、最も重要な2つの点は、腫瘍が身体の他の重要な構造または臓器に対してどのような位置にあるかと、腫瘍がどの程度広がっているかである。放射線療法を受ける患者の典型的な1コースの治療は、患者に1日に照射する線量を約1.8〜2.0Gyにして1週間に5日間照射し、全線量を10〜80Gyとする1〜6週間の治療スケジュールになろう。本発明の好ましい一実施態様では、ヒト患者の腫瘍を本発明と放射線を組み合わせた治療法で治療するときに相乗効果が存在する。言い換えるならば、本発明の組み合わせを含む薬剤による腫瘍の増殖抑制は、放射線と組み合わせ、場合によっては追加の化学療法剤または抗がん剤をさらに組み合わせたときに促進される。補助的な放射線療法のパラメータは、例えば、国際特許出願公開WO 99/60023に記載されている。
【0040】
腫瘍または腫瘍の転移を治療するための薬を製造する方法であって、治療に有効な量のEGFRキナーゼ阻害剤とシスプラチンの組み合わせを使用し、その組み合わせを患者に同時に、または順番に投与するが、そのとき、抗腫瘍免疫応答を増進させることのできる1種類以上の薬剤を追加して使用することを特徴とする方法もより好ましい。
【0041】
抗腫瘍免疫応答を増進させることのできる薬剤としては、例えば、CTLA4(細胞傷害性リンパ球抗原4)抗体(例えばMDX-CTLA4)や、CTLA4をブロックすることのできる他の薬剤などがある。本発明で使用できる特異的CTLA4抗体としては、アメリカ合衆国特許第6,682,736号に記載されているものがある。
【0042】
腫瘍または腫瘍の転移によって起こる副作用を減らすための薬を製造する方法であって、治療に有効な量のEGFRキナーゼ阻害剤とシスプラチンの組み合わせを使用し、その組み合わせを患者に同時に、または順番に投与するが、その量が、加算的な抗腫瘍効果、あるいは超加算的または相乗的な抗腫瘍効果を生じさせるのに有効であると同時に、腫瘍の増殖を抑制するのに有効であることを特徴とする方法もより好ましい。
【0043】
本発明により、がんを治療する方法であって、そのような治療を必要としている対象に、(i)有効な第1の量のEGFRキナーゼ阻害剤またはその薬理学的に許容可能な塩と、(ii)有効な第2の量のシスプラチンとを投与する操作を含む方法も提供される。
【0044】
本発明により、がんを治療する方法であって、そのような治療を必要としている対象に、(i)治療に必要な量に満たない第1の量のEGFRキナーゼ阻害剤またはその薬理学的に許容可能な塩と、(ii)治療に必要な量に満たない第2の量のシスプラチンとを投与する操作を含む方法も提供される。
【0045】
さらに、本発明により、EGFR阻害剤とシスプラチンを薬理学的に許容可能な基剤の中に含む医薬組成物が提供される。
【0046】
本発明により、(i)有効な第1の量のEGFRキナーゼ阻害剤またはその薬理学的に許容可能な塩と、(ii)有効な第2の量のシスプラチンとを含む、特にがんで使用するための医薬組成物も提供される。このような組成物は、場合によっては、薬理学的に許容可能な基剤および/または賦形剤を含んでいる。
【0047】
本発明により、(i)治療に必要な量に満たない第1の量のEGFRキナーゼ阻害剤またはその薬理学的に許容可能な塩と、(ii)治療に必要な量に満たない第2の量のシスプラチンとを含む、特にがんで使用するための医薬組成物も提供される。このような組成物は、場合によっては、薬理学的に許容可能な基剤および/または賦形剤を含んでいる。
【0048】
EGFRキナーゼ阻害剤はエルロチニブであることが好ましい。
【0049】
この明細書では、“患者”という用語は、何らかの目的でEGFRキナーゼ阻害剤を用いた治療を必要としているヒトを意味することが好ましく、がんの治療、あるいは前がん状態または前がん病変の治療を必要としているヒトであることがより好ましい。しかし“患者”という用語は、EGFRキナーゼ阻害剤を用いた治療を必要としているヒト以外の動物も意味することができる。それは特に、哺乳動物(例えばイヌ、ネコ、ウマ、乳牛、ブタ、ヒツジ)や、ヒト以外の霊長類である。
【0050】
好ましい一実施態様では、患者はがんの治療、あるいは前がん状態または前がん病変の治療を必要としているヒトである。がんは、EGFRキナーゼ阻害剤の投与によって一部であれ、完全にであれ、治療可能なあらゆるがんであることが好ましい。がんとしては、例えば、肺がん、肺非小細胞(NSCL)がん、気管支肺胞細胞肺がん、骨がん、膵臓がん、皮膚がん、頭部または首のがん、皮膚または眼内の黒色腫、子宮がん、卵巣がん、直腸がん、肛門領域のがん、胃がん、大腸がん、乳がん、ファローピウス管がん、子宮内膜がん、子宮頸がん、膣がん、外陰部のがん、ホジキン病、食道がん、小腸がん、内分泌系のがん、甲状腺がん、副甲状腺がん、副腎がん、軟組織の肉腫、尿道がん、陰茎がん、前立腺がん、膀胱がん、腎臓がん、尿管がん、腎細胞がん、腎盂がん、中皮腫、肝細胞がん、胆管がん、慢性または急性の白血病、リンパ球性リンパ腫、中枢神経系(CNS)の新生物、脊椎腫瘍、脳幹グリオーム、多形性グリア芽細胞腫、星状細胞腫、神経鞘腫、上衣細胞腫、髄芽細胞腫、髄膜腫、扁平上皮細胞がん、下垂体線腫が可能であり、その中には、これらのがんの難治性のものや、2つ以上の組み合わせも含まれる。前がん状態または前がん病変としては、例えば、口の白斑症、光線性角化症(日光性角化症)、大腸または直腸の前がん性ポリープ、胃上皮異形成、腺種様異形成、遺伝性非ポリポーシス大腸がん症候群(HNPCC)、バレット食道、膀胱異形成、前がん性子宮頸部疾患などがある。がんは大腸がんであることが好ましく、結腸がんであることが最も好ましい。がんは肺がんであることも好ましく、肺非小細胞(NSCL)がんであることが最も好ましい。
【0051】
本発明の目的では、EGFRキナーゼ阻害剤とシスプラチン(今後は両方の成分を“2つの活性剤”と呼ぶ)を“合わせた投与”またはEGFRキナーゼ阻害剤をシスプラチンと“ともに投与する”とは、2つの活性剤を別々にであれ、一緒にであれ、何らかの形で投与することを意味する。2つの活性成分は、組み合わせ療法の利益が得られるように設計した適切な投薬計画の一部として投与される。したがって2つの活性成分は、同じ医薬組成物の一部として、または別々の医薬組成物として投与することができる。シスプラチンは、EGFRキナーゼ阻害剤を投与する前、またはEGFRキナーゼ阻害剤を投与するのと同時に、またはEGFRキナーゼ阻害剤を投与した後に投与すること、またはこれらを何らかの形で組み合わせて投与することができる。EGFRキナーゼ阻害剤を患者に(例えば標準的な治療コースの間を通じて)繰り返して投与する場合には、シスプラチンは、毎回EGFRキナーゼ阻害剤を投与する前、または毎回EGFRキナーゼ阻害剤を投与するのと同時に、または毎回EGFRキナーゼ阻害剤を投与した後に投与すること、あるいはこれらを何らかの形で組み合わせて投与すること、あるいはEGFRキナーゼ阻害剤による治療とは異なる間隔で投与すること、あるいはEGFRキナーゼ阻害剤を用いた治療を行なう前に一度に、またはEGFRキナーゼ阻害剤を用いた治療を行なっている間の任意の時期に、またはEGFRキナーゼ阻害剤を用いた治療を行なった後に投与することができる。
【0052】
EGFRキナーゼ阻害剤は、従来技術で知られていて例えば国際特許出願公開WO 01/34574に開示されているように、一般に、患者に対し、がんを(効果と安全性の観点からして)最も効果的に治療する投与計画に従って投与される。本発明の治療法を実施するとき、EGFRキナーゼ阻害剤は、公知の効果的な任意の方法で投与することができる。投与経路としては、治療するがんのタイプ、使用するEGFRキナーゼ阻害剤のタイプ(例えば小分子、抗体、RNAi、アンチセンス構造体)、処方する医師が例えば公開されている臨床研究の結果に基づいて下す医学的な判断に応じ、例えば、経口、局所、静脈内、腹腔内、筋肉内、関節内、皮下、鼻腔内、眼内、膣、直腸、皮膚内といった経路がある。
【0053】
投与するEGFRキナーゼ阻害剤の量とEGFRキナーゼ阻害剤を投与するタイミングは、治療を受ける患者のタイプ(人種、性別、年齢、体重など)と状態、治療する疾患または症状の重篤度、投与経路に応じて異なることになろう。例えば小分子EGFRキナーゼ阻害剤は、患者に対して体重1kgにつき1日または1週間に0.001〜100mg/kgの範囲の投与量で、一度に、または複数回に分けて、または連続輸液によって投与することができる(例えば国際特許出願公開WO 01/34574を参照のこと)。特に、エルロチニブHClは、患者に対し、1日に5〜200mg、または1週間に100〜1600mgを、一度に、または複数回に分けて、または連続輸液によって投与することができる。好ましい投与量は、150mg/日である。抗体をベースとしたEGFRキナーゼ阻害剤、アンチセンス構造体、RNAi構造体、リボザイム構造体は、患者に対し、体重1kgにつき1日または1週間に0.1〜100mgの範囲の投与量で、一度に、または複数回に分けて、または連続輸液によって投与することができる。上記範囲の下限よりも少ない投与量のレベルで多過ぎる場合がある一方で、それよりも多い投与量でも、まず最初に1日の投与量を少量ずつの数回分に分けると有害な副作用がないこともある。
【0054】
EGFRキナーゼ阻害剤とシスプラチンは、別々に、または一緒に、同じ経路で、または異なる経路で、さまざまな投与形態にして投与することができる。EGFRキナーゼ阻害剤は、例えば経口または非経口で投与することが好ましいのに対し、シスプラチンは、非経口投与することが好ましい。EGFRキナーゼ阻害剤がエルロチニブHCl(タルセバ(登録商標))である場合には、経口投与が好ましい。
【0055】
EGFRキナーゼ阻害剤は、薬理学的に許容可能な不活性なさまざまな基剤とともに、錠剤、カプセル、ロゼンジ、トローチ、硬いキャンディ、粉末、スプレー、クリーム、膏薬、座薬、ゼリー、ゲル、ペースト、ローション、軟膏、エリキシル、シロップなどの形態で投与することができる。このような投与形態の投与は、一度に行なうこと、または複数回に分けて行なうことができる。基剤としては、固体の希釈剤または充填剤、無菌水性媒体、さまざまな非毒性有機溶媒などがある。経口医薬組成物には、甘みおよび/または香りを付けられることが好ましい。
【0056】
EGFRキナーゼ阻害剤とシスプラチンは、薬理学的に許容可能な不活性なさまざまな基剤と組み合わせ、スプレー、クリーム、膏薬、座薬、ゼリー、ゲル、ペースト、ローション、軟膏などの形態で投与することができる。このような投与形態の投与は、一度に行なうこと、または複数回に分けて行なうことができる。基剤としては、固体の希釈剤または充填剤、無菌水性媒体、さまざまな非毒性有機溶媒などがある。
【0057】
タンパク質性EGFRキナーゼ阻害剤を含むあらゆる製剤は、変性および/または分解が起こらないように、またその阻害剤の生物活性が失われないように選択せねばならない。
【0058】
EGFRキナーゼ阻害剤を含む医薬組成物の調製方法は従来技術で知られており、例えば国際特許出願公開WO 01/34574に記載されている。シスプラチンを含む医薬組成物の調製方法も従来技術でよく知られている。本発明の内容を考慮すると、EGFRキナーゼ阻害剤とシスプラチンの両方を含む医薬組成物の調製方法は、上記の刊行物と公知の他の参考文献(例えば『レミントンの薬理科学』、マック出版社、イーストン、ペンシルヴェニア州、第18版、1990年)から明らかであろう。
【0059】
EGFRキナーゼ阻害剤を経口投与するには、活性剤の一方または両方を含む錠剤を、さまざまな賦形剤(例えば微結晶セルロース、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸二カルシウム、グリシン)のうちの任意のものと組み合わせるとともに、さまざまな崩壊剤(例えばデンプン(トウモロコシ、ジャガイモ、タピオカのデンプンが好ましい)、アルギン酸、いくつかのケイ酸塩錯体)、顆粒化結合剤(例えばポリビニルピロリドン、スクロース、ゼラチン、アラビアゴム)とも組み合わせる。さらに、潤滑剤(例えばステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、タルク)は、錠剤にするのに非常に有用であることがしばしばある。似たタイプの固体組成物もゼラチン・カプセルの充填剤として使用できる。その場合の好ましい材料としては、ラクトース、乳糖、高分子量ポリエチレングリコールなどもある。経口投与するのに水性懸濁液および/またはエリキシルが望ましい場合には、EGFRキナーゼ阻害剤をさまざまな甘味剤、風味剤、着色物質または染料と組み合わせることができ、望むのであれば、乳化剤および/または懸濁剤や、希釈剤(例えば、水、エタノール、プロピレングリコール、グリセリンや、同様のものの組み合わせ)とも組み合わせることができる。
【0060】
一方または両方の活性成分を非経口投与するには、ゴマ油またはピーナツ油に溶かした溶液、または水性プロピレングリコールに溶かした溶液のほか、活性剤、またはその活性剤の対応する水溶性の塩を含む無菌水溶液を使用することができる。このような無菌水溶液は、緩衝されていることが好ましく、等張にされていることも好ましい(例えば十分な量の生理食塩水またはグルコースを用いる)。このような特別な水溶液は、静脈内、筋肉内、皮下、腹腔内に注射するのに非常に適している。油性溶液は、関節内、筋肉内、皮下に注射するのに適している。無菌条件下でのこれらの溶液の調製は、当業者に知られている薬学の標準的な方法で容易に実現される。タンパク質性EGFRキナーゼ阻害剤を投与するために選択するどの非経口製剤も、その阻害剤の変性が起こらず、生物活性が失われないように選択せねばならない。
【0061】
さらに、活性剤の一方または両方を、医薬での標準的な方法に従って例えばクリーム、ローション、ゼリー、ゲル、ペースト、軟膏、膏薬などによって局所的に投与することが可能である。例えばEGFRキナーゼ阻害剤またはシスプラチンを約0.1%(w/v)〜約5%(w/v)の濃度で含む局所用製剤を調製することができる。
【0062】
獣医学の目的では、活性剤を別々に、または一緒に、任意の形態で、上記の任意の経路を通じて動物に投与することができる。好ましい一実施態様では、EGFRキナーゼ阻害剤をカプセル、ボーラス、錠剤、液体ドレンチの形態で、注射によって、またはインプラントとして投与する。別の方法として、EGFRキナーゼ阻害剤は、動物の餌とともに投与することができる。この目的では、濃縮した食品添加物またはプレミックスを通常の動物用餌のために用意することができる。シスプラチンは、液体ドレンチの形態で、注射によって、またはインプラントとして投与することが好ましい。このような製剤は、獣医学での標準的なやり方に従った一般的な方法で調製される。
【0063】
本発明により、EGFRキナーゼ阻害剤とシスプラチンの両方を収容する単一の容器を備えるキットも提供される。本発明によりさらに、EGFRキナーゼ阻害剤を収容する第1の容器と、シスプラチンを収容する第2の容器を備えるキットも提供される。好ましい一実施態様では、このキットの容器にはさらに、薬理学的に許容可能な基剤が収容されていてもよい。このキットにはさらに、無菌希釈剤が収容されていてもよい。この希釈剤は、追加の別の容器に保管されることが好ましい。このキットはさらに、がんの治療法としての組み合わせ療法の利用法を説明する印刷された指示書を含むパッケージ挿入物も備えることができる。
【0064】
この明細書では、“EGFRキナーゼ阻害剤”は、現在知られているEGFRキナーゼ阻害剤、または将来明らかになるであろうEGFRキナーゼ阻害剤を意味する。EGFRキナーゼ阻害剤としては、例えば、患者に投与したとき、その患者のEGF受容体の活性化に伴う生物活性(活性化しないときにEGFRの天然のリガンドがEGFRに結合することによって生じる下流のあらゆる生物学的効果も含む)を抑制することになるあらゆる化学物質が挙げられる。このようなEGFRキナーゼ阻害剤としては、EGFRの活性化を阻止できるあらゆる薬剤、またはEGFRの活性化による下流の生物学的効果のうちで患者のがんの治療に関係するあらゆる効果を阻止できるあらゆる薬剤が挙げられる。このような阻害剤は、受容体の細胞内ドメインに直接結合することによって作用してそのキナーゼ活性を抑制することができる。あるいはこのような阻害剤は、EGFR受容体のリガンド結合部位またはその一部を占めることによって作用し、そのことを通じて受容体が天然のリガンドに近づけなくすることで、正常な生物活性を阻止または低下させることができる。あるいはこのような阻害剤は、EGFRポリペプチドの二量体化を変化させたり、EGFRポリペプチドと他のタンパク質の間の相互作用を変化させたりすることによって作用すること、またはEGFRのユビキチン化と細胞内貪食による分解を促進することができる。EGFRキナーゼ阻害剤としては、低分子量阻害剤、抗体、抗体フラグメント、アンチセンス構造体、小さな抑制性RNA(すなわちdsRNAによるRNA干渉;RNAi)、リボザイムなどがある。好ましい一実施態様では、EGFRキナーゼ阻害剤は、ヒトEGFRに特異的に結合する小さな有機分子または抗体である。
【0065】
EGFRキナーゼ阻害剤としては、例えば、以下に示す特許出願公開に記載されているキナゾリンEGFRキナーゼ阻害剤、ピリド-ピリミジンEGFRキナーゼ阻害剤、ピリミド-ピリミジンEGFRキナーゼ阻害剤、ピロロ-ピリミジンEGFRキナーゼ阻害剤、ピラゾロ-ピリミジンEGFRキナーゼ阻害剤、フェニルアミノ-ピリミジンEGFRキナーゼ阻害剤、オキシンドールEGFRキナーゼ阻害剤、インドロカルバゾールEGFRキナーゼ阻害剤、フタラジンEGFRキナーゼ阻害剤、イソフラボンEGFRキナーゼ阻害剤、キナロンEGFRキナーゼ阻害剤、チルホスチンEGFRキナーゼ阻害剤などと、これらEGFRキナーゼ阻害剤の薬理学的に許容可能なあらゆる塩および溶媒和物がある:国際特許出願公開WO 96/33980、WO 96/30347、WO 97/30034、WO 97/30044、WO 97/38994、WO 97/49688、WO 98/02434、WO 97/38983、WO 95/19774、WO 95/19970、WO 97/13771、WO 98/02437、WO 98/02438、WO 97/32881、WO 98/33798、WO 97/32880、WO 97/3288、WO 97/02266、WO 97/27199、WO 98/07726、WO 97/34895、WO 96/31510、WO 98/14449、WO 98/14450、WO 98/14451、WO 95/09847、WO 97/19065、WO 98/17662、WO 99/35146、WO 99/35132、WO 99/07701、WO 92/20642;ヨーロッパ特許出願EP 520722、EP 566226、EP 787772、EP 837063、EP 682027;アメリカ合衆国特許第5,747,498号、第5,789,427号、第5,650,415号、第5,656,643号;ドイツ国特許出願DE 19629652。低分子量EGFRキナーゼ阻害剤の別の具体例としては、Traxler, P.がExp. Opin. Ther. Patents、第8巻(12)、1599〜1625ページに記載しているEGFRキナーゼ阻害剤などがある。
【0066】
本発明で使用できる低分子量EGFRキナーゼ阻害剤の特に好ましい具体例としては、[6,7-ビス(2-メトキシエトキシ)-4-キナゾリン-4-イル]-(3-エチニルフェニル)アミン(OSI-774、エルロチニブ、タルセバ(登録商標)(エルロチニブHCl)としても知られる;OSIファーマシューティカルズ/ジェネンテック/ロッシュ社)(アメリカ合衆国特許第5,747,498号;国際特許出願公開WO 01/34574、Moyer,J.D.他、1997年、Cancer Res.、第57巻、4838〜4848ページ);CI-1033(以前はPD 183805として知られていた;ファイザー社)(Sherwood他、1999年、Proc. Am. Assoc. Cancer Res.、第40巻、723ページ);PD-158780(ファイザー社);AG-1478(カリフォルニア大学);CGP-59326(ノバルティス社);PKI-166(ノバルティス社);EKB-569(ワイエス社);GW-2016(GW-572016、またはジトシル酸ラプチニブとしても知られている;GSK社);ゲフィチニブ(ZD1839またはイレッサ(登録商標)としても知られている;アストラゼネカ社)(Woodburn他、1997年、Proc. Am. Assoc. Cancer Res.、第38巻、633ページ)などがある。本発明で使用できる特に好ましい低分子量EGFRキナーゼ阻害剤は、[6,7-ビス(2-メトキシエトキシ)-4-キナゾリン-4-イル]-(3-エチニルフェニル)アミン(すなわちエルロチニブ)、またはその塩酸塩(すなわちエルロチニブHCl、タルセバ(登録商標))、または他の塩の形態(例えばメシル酸エルロチニブ)である。
【0067】
抗体をベースとしたEGFRキナーゼ阻害剤としては、EGFRの活性化を天然のリガンドによって部分的に、または完全に阻止することのできるあらゆる抗EGFR抗体または抗体フラグメントがある。抗体をベースとしたEGFRキナーゼ阻害剤の具体例として、Modjtahedi, H.他、1993年、Br. J. Cancer、第67巻、247〜253ページ;Teramoto, T.他、1996年、Cancer、第77巻、639〜645ページ;Goldstein他、1995年、Clin. Cancer Res.、第1巻、1311〜1318ページ;Huang, S.M.他、1999年、Cancer Res.、第15巻:59(8)、1935〜1940ページ;Yang, X.他、1999年、Cancer Res.、第59巻、1236〜1243ページに記載されているものなどがある。したがってEGFRキナーゼ阻害剤として、モノクローナル抗体Mab E7.6.3(Yang, X.D.他、1999年、Cancer Res.、第59巻、1236〜1243ページ)、またはMab C225(ATCC登録番号HB-8508)、またはその阻害剤に対して特異的に結合する抗体または抗体フラグメントが可能である。適切なモノクローナル抗体EGFRキナーゼ阻害剤は、IMC-C255(セツキシマブまたはエルビトゥックス(登録商標)としても知られる;インクローン・システムズ社)、ABX-EGF(アブジェニックス社)、EMD 72000(メルクKgaA社、ダルムシュタット)、RH3(ヨーク・メディカル・バイオサイエンス社)、MDX-447(メダレックス/メルクKgaA社)などである。
【0068】
抗体をベースとした別のEGFRキナーゼ阻害剤は、公知の方法に従って適切な抗原またはエピトープを宿主となる動物に投与することによって生成させることができる。宿主となる動物の選択は、特に、ブタ、乳牛、ウマ、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、マウスの中から行なう。公知のさまざまなアジュバントを用いて抗体の産生を増やすことができる。
【0069】
本発明を実施するのに役立つ抗体はポリクローナル抗体でもよいが、モノクローナル抗体のほうが好ましい。EGFRに対するモノクローナル抗体は、連続培養している細胞系に抗体分子を産生させる任意の方法を利用して調製・単離することができる。産生・単離法としては、KohlerとMilsteinによって最初に報告されたハイブリドーマ法(Nature、第256巻、495〜497ページ);ヒトB細胞ハイブリドーマ法(Kosbor他、1983年、Immunology Today、第4巻、72ページ;Cote他、1983年、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第80巻、2026〜2030ページ);EBV-ハイブリドーマ法(Cole他、1985年、『モノクローナル抗体とがんの治療法』、アランR.リス社、77〜96ページ)などがある。
【0070】
あるいは単鎖抗体を製造するための方法(例えばアメリカ合衆国特許第4,946,778号を参照のこと)を採用して抗EGFR単鎖抗体を産生させることができる。本発明の実施に役立つ抗体をベースとしたEGFRキナーゼ阻害剤としては、抗EGFR抗体フラグメントなどもある。それは例えばF(ab').sub.2フラグメントであり、F(ab').sub.2フラグメントのジスルフィド架橋を還元することによって得られる。あるいはFabおよび/またはscFv発現ライブラリを構成し(例えばHuse他、1989年、Science、第246巻、1275〜1281ページを参照のこと)、EGFRに対する望む特異性を有するフラグメントを素早く同定できるようにすることもできる。
【0071】
モノクローナル抗体と抗体フラグメントの産生・単離法は従来技術でよく知られており、HarlowとLane、1988年、『抗体:実験室マニュアル』、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリーと、J.W. Goding、1986年、『モノクローナル抗体:原理と実際』、アカデミック出版、ロンドンに記載されている。ヒト化抗EGFR抗体と抗体フラグメントは、公知の方法(例えばVaughn, T.J.他、1998年、Nature Biotech.、第16巻、535〜539ページと、その中に引用されている参考文献)に従って調製することもでき、そのような抗体またはそのフラグメントも本発明を実施するのに役立つ。
【0072】
本発明で使用するEGFRキナーゼ阻害剤としては、アンチセンス・オリゴヌクレオチド構造体をベースとしたものも可能である。アンチセンス・オリゴヌクレオチド(例えばアンチセンスRNA分子やアンチセンスDNA分子)は、細胞内でEGFRのmRNAの翻訳を、そのmRNAに結合することによって直接阻止し、したがってタンパク質の翻訳を阻止したりmRNAの分解を増やしたりすることでEGFRキナーゼ・タンパク質のレベルを低下させ、活性を低下させるであろう。例えばEGFRをコードしているmRNA転写体配列の独自の領域に対して相補的な少なくとも約15塩基からなるアンチセンス・オリゴヌクレオチドは、例えば従来のホスホジエステル法によって合成し、例えば注射または輸液によって静脈内に投与することができる。配列がわかっている遺伝子の発現を特異的に抑制するためにアンチセンスを利用する方法は従来技術でよく知られている(例えばアメリカ合衆国特許第6,566,135号、第6,566,131号、第6,365,354号、第6,410,323号、第6,107,091号、第6,046,321号、第5,981,732号を参照のこと)。
【0073】
小さな抑制性RNA(siRNA)も本発明で使用するEGFRキナーゼ阻害剤として機能することができる。腫瘍、対象、細胞のいずれかを小さな二本鎖RNA(dsRNA)と接触させることによって、または小さな二本鎖RNAを産生させるベクターまたは構造体と接触させることによってEGFR遺伝子の発現を減らし、EGFRの発現が特異的に抑制されるようにすることができる(すなわちRNA干渉またはRNAi)。適切なdsRNA、またはdsRNAをコードしているベクターを選択する方法は、配列がわかっている遺伝子に関しては従来技術でよく知られている(例えばTuschi, T.他、1999年、Genes Dev.、第13巻(24)、3191〜3197ページ;Elbashir, S.M.他、2001年、Nature、第411巻、494〜498ページ;Hannon, G.J.、2002年、Nature、第418巻、244〜251ページ;McManus, M.T.とSharp, P.A.、2002年、Nature Reviews Genetics、第3巻、737〜747ページ;Bremmelkamp, T.R.他、2002年、Science、第296巻、550〜553ページ;アメリカ合衆国特許第6,573,099号、第6,506,559号;国際特許出願公開WO 01/36646、WO 99/32619、WO 01/68836を参照のこと)。
【0074】
リボザイムも本発明で使用するEGFRキナーゼ阻害剤として機能することができる。リボザイムは、RNAを特異的に開裂させる触媒となることができる酵素RNA分子である。リボザイムが作用するメカニズムには、リボザイム分子が相補的な標的RNAに配列特異的にハイブリダイズした後、エンドヌクレアーゼによって開裂するという現象が含まれる。したがってエンドヌクレアーゼによるEGFRのmRNA配列の開裂を特異的かつ効果的に触媒する人工ハンマーヘッド・モチーフ・リボザイム分子は、本発明の範囲で有用である。まず最初に、潜在的なあらゆるRNA標的内の特異的リボザイム開裂部位を、標的分子を走査することによって同定する。そのリボザイム開裂部位には、一般に、GUA、GUU、GUCという配列が含まれている。同定されると、標的遺伝子の開裂部位を含む領域に対応する約15〜20リボヌクレオチドからなるいろいろな短いRNA配列の中から、オリゴヌクレオチド配列を不適切なものにできると予想される構造的特徴(例えば二次構造)を持つものを探すことができる。候補となる標的が適しているかどうかも、例えばリボヌクレアーゼ保護アッセイを利用してその標的が相補的なオリゴヌクレオチドとハイブリダイズできるかどうかを調べることによって評価できる。
【0075】
EGFRキナーゼ阻害剤として有用なアンチセンス・オリゴヌクレオチドとリボザイムの両方とも、公知の方法で調製することができる。そのような方法としては、化学的合成法(例えば固相ホスホラミダイト化学的合成法)がある。あるいはアンチセンスRNA分子は、RNA分子をコードしているDNA配列の試験管内または生体内での転写によって生成させることもできる。このようなDNA配列は、適切なRNAポリメラーゼ・プロモータ(例えばT7またはSP6ポリメラーゼ・プロモータ)が組み込まれたさまざまなベクターに組み込むことができる。細胞内での安定性を大きくして半減期を延ばすため、本発明のオリゴヌクレオチドに対してさまざまな修飾を施すことができる。可能な修飾としては、リボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドのフランキング配列を分子の5'末端および/または3'末端に付加することや、オリゴヌクレオチド骨格内でホスホジエステラーゼ結合の代わりにホスホロチオエートまたは2'-O-メチルを使用することなどがある。
【0076】
本発明には、EGFRキナーゼ阻害剤とシスプラチンの組み合わせに薬理学的に許容可能な基剤を組み合わせた医薬組成物も含まれる。
【0077】
この医薬組成物は、薬理学的に許容可能な基剤と、毒性のない治療に有効な量のEGFRキナーゼ阻害剤とシスプラチンの組み合わせ(各成分の薬理学的に許容可能な塩も含む)とからなることが好ましい。
【0078】
さらに、本発明のこの好ましい実施態様の範囲には、疾患を治療するために使用すると、新生細胞や良性または悪性の腫瘍の増殖、または転移が抑制される医薬組成物であって、薬理学的に許容可能な基剤と、毒性のない治療に有効な量のEGFRキナーゼ阻害剤とシスプラチンの組み合わせ(各成分の薬理学的に許容可能な塩も含む)とを含む医薬組成物も含まれる。
【0079】
“薬理学的に許容可能な塩”という用語は、薬理学的に許容可能な非毒性の塩基または酸から調製した塩を意味する。本発明の化合物が酸性である場合には、対応する塩は、薬理学的に許容可能な非毒性の塩基(例えば無機塩基や有機塩基)から容易に調製することができる。そのような無機塩基に由来する塩としては、アルミニウム、アンモニウム、カルシウム、銅(第二銅、第一銅)、第二鉄、第一鉄、リチウム、マグネシウム、マンガン(第二マンガン、第一マンガン)、カリウム、ナトリウム、亜鉛などの塩がある。特に好ましいのは、アンモニウム、カルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウムの塩である。薬理学的に許容可能な非毒性の有機塩基に由来する塩としては、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミンの塩や、環式アミンの塩、置換されたアミン(天然に存在する置換されたアミン、合成した置換されたアミンなど)の塩がある。塩を形成することのできる薬理学的に許容可能な非毒性の他の塩基としては、イオン交換樹脂(例えば、アルギニン、ベタイン、カフェイン、コリン、N',N'-ジベンジルエチレンジアミン、ジエチルアミン、2-ジエチルアミノエタノール、2-ジメチルアミノエタノール、エタノールアミン、エチレンジアミン、N-エチルモルホリン、N-エチルピペリジン、グルカミン、グルコサミン、ヒスチジン、ヒドラバミン、イソプロピルアミン、リシン、メチルグルカミン、モルホリン、ピペラジン、ピペリジン、ポリアミン樹脂、プロカイン、プリン、テオブロミン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリプロピルアミン、トロメタミンなど)がある。
【0080】
本発明の化合物が塩基性である場合には、対応する塩は、薬理学的に許容可能な非毒性の酸(例えば無機酸や有機酸)から容易に調製することができる。そのような酸としては、例えば、酢酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、ショウノウスルホン酸、クエン酸、エタンスルホン酸、フマル酸、グルコン酸、グルタミン酸、臭化水素酸、塩酸、イセチオン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、粘液酸、硝酸、パモ酸、パントテン酸、リン酸、コハク酸、硫酸、酒石酸、p-トルエンスルホン酸などがある。特に好ましいのは、クエン酸、臭化水素酸、塩酸、マレイン酸、リン酸、硫酸、酒石酸である。
【0081】
本発明の医薬組成物は、活性成分としてのEGFRキナーゼ阻害化合物とシスプラチンの組み合わせ(各成分の薬理学的に許容可能な塩も含む)と、薬理学的に許容可能な基剤と、場合によっては治療用の他の成分またはアジュバントとを含んでいる。治療用の他の成分としては、上記のように、細胞傷害剤、化学療法剤、抗がん剤や、これら薬剤の効果を増大させる薬剤などが可能である。本発明の組成物としては、経口投与、直腸投与、局所投与、非経口投与(皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与など)に適した組成物があるが、個々の場合の最適な経路は、個々の宿主と、活性剤を投与する症状の性質と重篤度によって異なることになろう。本発明の医薬組成物は、単位投与量の形態で提供することや、薬学でよく知られている任意の方法で調製することが好ましい。
【0082】
実際には、EGFRキナーゼ阻害化合物とシスプラチンの組み合わせ(各成分の薬理学的に許容可能な塩も含む)として表わされる本発明の化合物は、活性成分として、従来の医薬化合物製造法に従って医薬用基剤と組み合わせて密な混合物にすることができる。基剤は、投与(経口投与や非経口投与(例えば静脈内投与))する際の製剤の望ましい形態がどのようであるかに応じ、さまざまな形態を取ることができる。例えば本発明の医薬組成物は、所定量の活性成分がそれぞれに含まれていて経口投与に適した個別のユニット(例えばカプセル、カシェ、錠剤)として提供することができる。さらに、この組成物は、粉末、顆粒、溶液、水性液体中の懸濁液、非水性液体、水中油型エマルジョン、油中水型エマルジョンとして提供することができる。EGFRキナーゼ阻害化合物とシスプラチンの組み合わせ(各成分の薬理学的に許容可能な塩も含む)は、このように一般的な投与形態に加え、制御放出手段および/または送達装置で投与することもできる。この組み合わせ組成物は、薬学で知られている任意の方法で調製することができる。一般に、このような方法には、活性成分を、1種類以上の必要な成分を構成する基剤と組み合わせるステップが含まれる。一般に、組成物は、活性成分を、液体基剤と細かく粉砕した固体基剤のいずれか一方と、またはその両方と均一かつ密に混合することによって調製される。この製品は、望む形態に整形することが好ましい。
【0083】
したがって本発明の医薬組成物は、薬理学的に許容可能な基剤と、EGFRキナーゼ阻害化合物とシスプラチンの組み合わせ(各成分の薬理学的に許容可能な塩も含む)を含むことができる。EGFRキナーゼ阻害化合物とシスプラチンの組み合わせ(各成分の薬理学的に許容可能な塩も含む)は、医薬組成物の中に、1種類以上の治療活性のある化合物と組み合わせて含まれていてもよい。治療活性のある他の化合物としては、上記のように、細胞傷害剤、化学療法剤、抗がん剤や、これら薬剤の効果を増大させる薬剤などが可能である。
【0084】
したがって本発明の一実施態様では、医薬組成物は、GFRキナーゼ阻害化合物とシスプラチンの組み合わせを、抗がん剤(この抗がん剤は、アルキル化薬、抗代謝剤、微小管阻害剤、ポドフィロトキシン、抗生物質、ニトロソウレア、ホルモン療法剤、キナーゼ阻害剤、腫瘍細胞のアポトーシス活性化剤、抗血管新生剤からなるグループの中から選択したメンバーである)とともに含むことができる。
【0085】
使用する医薬用基剤は、例えば、固体、液体、気体のいずれかが可能である。固体基剤の具体例としては、ラクトース、白土、スクロース、タルク、ゼラチン、寒天、ペクチン、アラビアゴム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸などがある。液体基剤の具体例は、糖シロップ、ピーナツ油、オリーブ油、水である。気体基剤の具体例としては、二酸化炭素、窒素などがある。
【0086】
経口投与形態のための組成物を調製する際には、適切な任意の医薬用媒体を使用することができる。例えば水、グリコール、油、アルコール、着香剤、保存剤、着色剤などを使用して経口液体製剤(例えば懸濁液、エリキシル、溶液)を形成することができる。また、基剤(例えばデンプン、糖類、微結晶セルロース、希釈剤、顆粒化剤、潤滑剤、結合剤、崩壊剤など)を使用して経口固体製剤(例えば粉末、カプセル、錠剤)を形成することができる。固体の医薬用基剤が使用されている錠剤とカプセルは、投与が容易であるため、好ましい経口投与単位である。場合によっては、錠剤を標準的な水性または非水性の方法でコーティングすることができる。
【0087】
本発明の組成物を含む錠剤は、場合によっては1種類以上の付属成分またはアジュバントとともに圧縮または成形することによって製造できる。圧縮錠剤は、適切な機械の中で、自由に流動する形態(例えば粉末や顆粒)の活性成分を、場合によっては結合剤、潤滑剤、不活性な希釈剤、界面活性剤、分散剤と混合して圧縮することによって製造できる。成形錠剤は、適切な機械の中で、粉末化した化合物と不活性な液体希釈剤の混合物を成形することによって製造できる。それぞれの錠剤は約0.05mg〜約5gの活性成分を含んでいることが好ましく、それぞれのカシェまたはカプセルは、約0.05mg〜約5gの活性成分を含んでいることが好ましい。
【0088】
例えばヒトに経口投与するための製剤は、約0.5mg〜約5gの活性成分を、適切な量(組成物全体の約5〜約95%の範囲で変化する)の基剤とともに含むことができる。単位投与量の形態は、一般に、約1mg〜約2gの活性成分を含むことになろう。この量は、一般に、25mg、50mg、100mg、200mg、300mg、400mg、500mg、600mg、800mg、1000mgのいずれかである。
【0089】
非経口投与に適した本発明の医薬組成物は、活性化合物を水に溶かした溶液、または活性化合物を水に懸濁させた懸濁液として調製することができる。適切な界面活性剤(例えばヒドロキシプロピルセルロース)を含めることができる。グリセロールの中、または液体ポリエチレングリコールの中、またはこれらの混合物を含む油の中で分散液を調製することもできる。さらに、微生物が増殖して害をもたらすことがないように保存剤を添加することができる。
【0090】
注射に適した本発明の医薬組成物としては、無菌の水溶液や分散液がある。さらに、この組成物は、このような無菌の水溶液や分散液をその場で調製するために無菌粉末の形態にすることができる。いずれの場合にも、注射可能な最終形態は無菌でなくてはならず、容易に注射器に入れられるよう、容易に流体にならねばならない。この医薬組成物は、製造条件および保管条件のもとで安定でなくてはならないため、微生物(例えば細菌や真菌)の汚染作用から保護されていることが好ましい。基剤としては、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコール)、植物油や、これらの適切な混合物を含む溶媒または分散媒体が可能である。
【0091】
本発明の医薬組成物は、局所投与に適した形態(例えばエーロゾル、クリーム、軟膏、ローション、粉末など)にすることができる。さらに、この組成物は、経皮装置での使用に適した形態にすることができる。これらの製剤は、本発明のEGFRキナーゼ阻害化合物とシスプラチンの組み合わせ(各成分の薬理学的に許容可能な塩も含む)を用いて従来の製造法で調製することができる。一例として、クリームまたは軟膏は、親水性材料と水を約5重量%〜約10重量%の化合物と混合して望むコンシステンシーを有するクリームまたは軟膏にする。
【0092】
本発明の医薬組成物は、直腸投与に適した形態にすることができる。この場合、基剤は固体である。この混合物は、単位用量の座薬であることが好ましい。適切な基剤としては、カカオバターや、従来技術で一般に使用されている他の材料がある。座薬は、まず最初に、軟化または融解した基剤と組成物を混合した後、鋳型の中で冷やして成形することによって容易に製造できる。
【0093】
上記の医薬組成物は、上記の基剤成分に加え、必要に応じて1種類以上の追加の基剤成分を含むことができる。追加の基剤成分としては、希釈剤、緩衝液、着香剤、結合剤、界面活性剤、増粘剤、潤滑剤、保存剤(酸化防止剤も含む)などがある。さらに、他のアジュバントを含めることで製剤を想定するレシピエントの血液と等張にすることができる。EGFRキナーゼ阻害化合物とシスプラチンの組み合わせ(各成分の薬理学的に許容可能な塩も含む)を含む組成物は、粉末または液体濃縮物の形態にすることもできる。
【0094】
本発明の組み合わせを含む化合物の投与レベルは、ほぼこの明細書に記載した通りであるか、その化合物に関して従来技術で説明されている通りである。しかし特定の患者に関する具体的な投与レベルは、さまざまな因子(例えば年齢、体重、全体的な健康状態、性別、食事、投与時刻、投与経路、排泄速度、薬の組み合わせ、治療を受けている具体的な疾患の重篤度)によって異なるであろう。
【0095】
以下の実験に関する詳細から、本発明をよりよく理解することができよう。しかし当業者であれば、提示した具体的な方法と結果は本発明の単なる例示であって添付の請求項により完全に説明されていることと、本発明がその例示に限定されないことを容易に理解できよう。
【0096】
実験に関する詳細
【0097】
はじめに
【0098】
がん細胞特異的上皮増殖因子受容体(HER1/EGFR)は、がんの治療における重要な分子標的である(Ciardiello, FとTortora G.、2002年、Expert Opin. Investig. Drugs、第11巻、755〜768ページ)。多くのがんがHER1/EGFRを過剰発現する。すなわち、頭部および首の扁平上皮細胞がん(70〜100%)、肺非小細胞がん(NSCLC)(50〜90%)、前立腺がん(40〜70%)、グリオーム(10〜50%)、胃がん(30〜60%)、乳がん(35〜70%)、結腸がん(45〜80%)、膵臓がん(30〜50%)、卵巣がん(35〜60%)(Ciardiello, F.とTortora G.、2002年、Expert Opin. Investig. Drugs、第11巻、755〜768ページ;Salomon, D.S.他、1995年、Crit. Rev. Oncol. Hematol.、第19巻、183〜232ページ)。Salomonらは、過剰発現したHER1/EGFRと、進行した疾患、転移、よくない予後を抱える患者の関係も強調している。
【0099】
NSCLCは最も一般的な肺がんである。この疾患の程度によって治療方法は異なる。この疾患が初期段階であれば、手術が唯一の治癒法であり、化学療法/放射線療法の併用によってよりよい結果が得られる可能性がある。進行した状態では化学療法が主要な選択肢だが、全生存期間はわずかしか向上しない。したがって、NSCLCにおけるより効果的でより毒性の少ない投薬計画の研究が医学で大いに必要とされる状態が続いている。NSCLCの単剤療法として多くの伝統的な細胞傷害剤(例えば、ビンデシン、カルボプラチン、エトポシド、イホスファミド、シクロホスファミド、ビンクリスチン、マイトマイシン、シスプラチン)が使用されてきた(Rajkumar, S.V.とAdjei, A.A.、1998年、Cancer Treat Rev.、第24巻、35〜53ページ)。これらの薬剤を用いた単剤療法ではほんのわずかな改善しか得られないが、シスプラチンとの組み合わせ療法では、ランダム化試験で患者の病状が改善し、生活の質が向上した(Bunn, P.A. Jr.とKelly, K.、1998年、Clin. Cancer Res.、第4巻(5)、1087〜1100ページ)。
【0100】
ゲムシタビンが1990年代に開発された。このゲムシタビンは、リボヌクレアーゼレダクターゼを抑制する。ゲムシタビン単剤療法は、標準的なシスプラチン/エトポシド化学療法と比べて腫瘍が反応する確率を大きくし、患者の生活の質を向上させる(毛髪の喪失、吐き気、食欲の低下を少なくする)(ten Bokkel, W.W.他、1999年、Lung Cancer、第26巻(2)、85〜94ページ)。
【0101】
ヨーロッパがん研究・治療機構(EORTC)による組み合わせ試験において、シスプラチンとテニポシドの組み合わせが、シスプラチンとパクリタキセルの組み合わせと比較された(Giaccone, G.他、1998年、J. Clin. Oncol.、第16巻、2133〜2141ページ)。後者の組み合わせは進行したNSCLCに関して(生存率の明確な増大は見られなかったとはいえ)優れた一時的緩和を示したため、進行したNSCLCを抱える患者の標準療法の1つとして推奨されている。さらに、ゲムシタビンとシスプラチンの組み合わせは、試験管内で相乗的に作用し、生体内では少なくとも加算的に作用することがわかった(Peters, G.J.他、1995年、Semin. Oncol.、第22巻(4、補11)、72〜79ページ)。第II相の臨床試験では、ゲムシタビンとシスプラチンの組み合わせの反応率は47%であり、生存期間の中央値は57週間であり、1年生存率は48%であった(Bunn, P.A. Jr.とKelly, K.、1998年、Clin. Cancer Res.、第4巻(5)、1087〜1100ページ)。
【0102】
がんの新しい治療法では、がん細胞特異的な方法を採用し、従来の細胞傷害薬よりも毒性を確実に減らす。がん細胞特異的な標的は疾患の原因の一部でしかないため、標的を持つ薬剤と従来の薬剤を組み合わせた治療法は相乗効果がある。NSCLCの最適な治療法は、EGFR阻害剤を従来の化学療法と組み合わせるものになろう。
【0103】
エルロチニブ(タルセバ(登録商標)、OSI-774)は、HER1/EGFRチロシン-キナーゼ・ドメインに対する経口利用可能な選択的小分子阻害剤である。エルロチニブは、頭部、首、膣にがんがあるモデル動物での予備臨床試験において強力な抗腫瘍活性を持っていた(Pollack, V.A.他、1999年、J. Pharmacol. Exp. Ther.、第291巻、739〜748ページ)。エルロチニブは、試験管内ではアポトーシスを誘導し、生体内ではさまざまなEGFR発現ヒト腫瘍異種移植片に対して活性である(Moyer, J.D.他、1997年、Cancer Res.、第57巻、4838〜4848ページ)。白金をベースとした化学療法がうまくいかなかったNSCLC患者のオープン・ラベル第II相試験において(Perez-Soler, R.他、2001年、Proc. Am. Soc. Clin. Oncol.、第20巻、310aページ(要約1235))、エルロチニブは勇気づけられる抗がん活性を示した。
【0104】
われわれは、この研究において、NSCLC異種移植片を体内に有する無胸腺ヌード・マウスにおいてエルロチニブをシスプラチンまたはゲムシタビンと組み合わせたとき、腫瘍の増殖抑制において相乗的に作用するか拮抗的に作用するかを調べた。EGFRを明確に発現し、細胞1個につき結合部位が約70,000〜80,000あるという理由で、H460a NSCLC腫瘍モデルとA549 NSCLC腫瘍モデルを選択した(Bianco, C.他、2002年、Clin. Cancer Res.、第8巻(10)、3250〜3258ページ;Lee, M.他、1992年、J. Natl. Cancer Inst. Monogr.、第13巻、117〜123ページ)。A549はゆっくりと増殖し、H430aはより侵略的かつより早く増殖する。
【0105】
材料と方法
【0106】
動物
【0107】
生後約10〜12週間で体重が23〜25gのメスの無胸腺nu/nu-nuBRヌード・マウス(チャールズ・リバー・ラブズ社、ウィルミントン、アメリカ合衆国)を使用した。観察と、共通の飼育棚にいる見張りマウスから採取した血液サンプルの分析により、マウスの健康状態を調べた。すべてのマウスを1週間かけて新環境に慣れさせて輸送のストレスから回復させた。
【0108】
マウスにはオートクレーブで消毒した水と放射線を照射した餌(5058-msピコ・ラブ[マウス]飼育用餌、プリナ・ミルズ社、リッチモンド、インディアナ州)を自由に与え、昼と夜が12時間のサイクルを維持した。飼育籠、寝床、水の容器は、使用前にオートクレーブで消毒し、毎週交換した。どのマウスの実験も、ロッシュ社の動物ケア・利用委員会によって承認されたプロトコルに従って実施した。
【0109】
細胞の培養とマウスの実験
【0110】
H460a細胞(Jack Roth博士、医師、アンダーソン社から提供)を、10%ウシ胎仔血清(FBS)を補足したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)の中で増殖させた。A549細胞(アメリカ基準培養コレクション(マナサス、バージニア州))は、ロズウェル・パーク記念研究所培地(RPMI)1640+10%FBSの中で増殖させた。移植するための細胞の濃度は、H460aに関しては0.2mlに細胞が1×107個、A549に関しては0.2mlに細胞が7.5×106個であった。
【0111】
細胞をリン酸緩衝溶液に懸濁させ、各マウスの右脇腹に皮下移植した。触知可能な腫瘍が確立したとき、マウスをランダム化してそれぞれの群で治療開始時の腫瘍の平均体積がほぼ同じ100〜150mm3になるようにした。腫瘍とマウスの体重は1週間に3回測定した。マウスは、実験期間を通じて個別にモニターした。
【0112】
テストする薬と、薬を用いた治療
【0113】
エルロチニブ(OSIファーマシューティカルズ社、ユニオンデール、ニューヨーク州)を水の中でカルボキシメチルセルロースナトリウムおよびトゥイーン80とともに細かく懸濁させて注射用製剤にした。1mlの注射器と18ゲージの強制飼養用針を用いてエルロチニブ(1匹につき0.2ml)を経口投与した。どの群も3週間にわたって毎日治療した。
【0114】
シスプラチン(プラチノール-AQTM、ブリストル-マイヤーズ・スクイブ社)は、1mg/mlの無菌貯蔵生理溶液として与えた。それぞれの投与群のため、バイアルに入れたこの貯蔵溶液のアリコート(実験全体に必要な薬が含まれている)をさらに無菌生理食塩水で希釈し、それぞれのマウスに投与する体積が0.5mlの溶液にした。シスプラチンは、3mlの注射器と26ゲージの針を用いて腹腔内に注射した。どの群も3週間にわたって6日ごとに治療した(合計で3回注射)。
【0115】
計算と統計学的分析
【0116】
体順の減少を変化率(%)として計算した。
【0117】
((W-W0)/W0)×100
【0118】
この式において、“W”は、特定の日における治療群の平均体重を表わし、“W0”は、同じ群の治療開始時の平均体重を表わす。体重減少の最大値も上記の式を用いて計算した。すると、特定の群に関して全実験期間中の任意の時点における低下した体重の割合の最大値がわかる。治療効率は、腫瘍の増殖抑制によって評価した。治療群の腫瘍の体積は、対照群の腫瘍の体積に対する割合(%T/C)として与えた。そのとき以下の式を利用した。
【0119】
100×((T-T0)/(C-C0))
【0120】
この式において、“T”は、実験期間中の特定の日における治療群の腫瘍の平均体積を表わし、“T0”は、同じ群の治療開始時の腫瘍の平均体積を表わし、Cは、実験期間中の特定の日における対照群の腫瘍の平均体積を表わし、C0は、同じ群の治療開始時の腫瘍の平均体積を表わす。
【0121】
腫瘍の増殖抑制を以下の式を用いて計算した。
【0122】
100-%T/C
【0123】
腫瘍の体積(mm3)は、楕円体の公式を用いて計算した。
【0124】
(D×(d2))/2
【0125】
この式において、“D”は腫瘍の大きいほうの直径を表わし、“d”は小さいほうの直径を表わす。いくつかのケースでは、腫瘍の退縮および/または腫瘍の体積の変化率を以下の式を用いて計算した。
【0126】
((T-T0)/T0)×100
【0127】
この式において、“T”は、特定の日における治療群の腫瘍の平均体積を表わし、“T0”は、同じ群の治療開始時の腫瘍の平均体積を表わす。
【0128】
順位和検定と一元分散分析(ANOVA)と事後ボンフェローニt検定(シグマスタット、バージョン2.03、ジャンデル・サイエンティフィック社、サンフランシスコ、カリフォルニア州)によって統計学的分析を行なった。有意差のレベルはp≦0.05に設定した。
【0129】
薬物動態の分析
【0130】
単剤薬物動態(PK)を調べるため、投与後5分、15分、30分、60分、2時間、4時間、8時間、16時間、24時間の各時点で、3匹のマウスから心臓穿刺によって血液サンプルを回収した。長期治療したマウスに関しては、2匹または3匹のマウスから眼窩後部洞を通じて1時間と6時間の時点で血液サンプルを回収した。回収管にはエチレンジアミン四酢酸(EDTA)が抗凝固剤として含まれていた。サンプルは-70℃で保管した。液体クロマトグラフィとタンデム式質量分析(LC-MS/MS)法でエルロチニブの血漿濃度を測定した。定量限界は1ng/mlである。PKパラメータは、PK評価プログラムであるWinNonlin PRO(登録商標)、バージョン3.1(ファーサイト社)を用いて複合データを非区画化分析することによって評価した。1回の実験で、定量限界が組織1gにつき1ngである選択的LC-Ms/MS法を利用し、エルロチニブ腫瘍(H460a)の重量比を測定した。
【0131】
病状/剖検
【0132】
残ったすべての群から1種類の治療ごとに5匹のマウスを取り出し、そのマウスに対して実験終了時に完全な剖検を行なった。そのマウスから全血も回収し、血液検査と臨床化学検査を行なった。
【0133】
腫瘍サンプルを10%亜鉛ホルマリンに浸して固定した後、Tissue-Tek(登録商標)VIP(サクラ社)の中で処理し、パラフィンに包埋した。免疫組織化学のための切片を5μmの厚さに切断した。あらかじめ免疫化したウサギまたはヤギの血清(ダコ社)を負の対照として使用した。切片を標的溶液(ダコ社)に浸し、スチーマー(ブラック&デッカー社)の中で20分間にわたって94℃に加熱した。6%のH2O2を含むメタノールを用いて内在性ペルオキシダーゼ活性を15分間にわたって抑制した。
【0134】
非特異的組織結合部位をブロックするため、切片を、二次抗体を発生させた種からの10%正常血清によってブロックした。Ultra-V(ラブ・ビジョン社)の中で調製した血清中で切片を室温にて20分間にわたってインキュベートした。
【0135】
血小板内皮細胞接着分子(PECAM-1、CD31)抗原とEGFR抗原に関しては、切片を、抗体希釈液(ダコ社)の中で1:800に希釈したポリクローナル・ヤギ抗PECAM-1 IgG(サンタ・クルス・バイオテクノロジー社、サンタ・クルス、カリフォルニア州)とともに、または抗体希釈液(ダコ社)の中で1:50に希釈したポリクローナル・ウサギ抗EGFR IgG(バイオジェネックス社、サン・ラモン、カリフォルニア州)とともに室温にて一晩にわたってインキュベートした。切片をベクタステイン・エリートABC-ペルオキシダーゼ(ベクター・ラボラトリーズ社)とともに室温にて45分間にわたってインキュベートした。
【0136】
Ki-67抗原に関しては、切片を、抗体希釈液(ダコ社)の中で1:2,000に希釈したポリクローナル抗Ki-67 IgG(ネオマーカーズ社、フレモント、カリフォルニア州)とともに室温にて1時間にわたってインキュベートした後、セイヨウワサビのペルオキシダーゼで標識したストレプトアビジン複合体を30分間にわたって添加した。
【0137】
アポトーシスを検出するため、TUNEL TdT-FragEL(登録商標)DNA断片化検出キット(オンコジーン・リサーチ・プロダクツ社、サン・ディエゴ、カリフォルニア州)を製造者が勧めているようにして使用した。4種類の抗原すべてに関し、ベクター・ノバ・レッド(ベクター・ラボラトリーズ社)を最終的なクロモゲンとし、ヘマトキシリンを核の対比染色剤とした。
【0138】
結果と考察
【0139】
結果
【0140】
NSCLC異種移植片におけるEGFR免疫組織化学染色
【0141】
H460a腫瘍とA549腫瘍におけるEGFRの発現パターンを免疫組織化学によって調べた。どちらの細胞系もEGFRに関して似た膜状染色パターンを示した(データは示さず)。これは、これら2つの腫瘍細胞系におけるEGFRの発現が同等であるという過去の結果の確認になっている(Bianco, C.他、2002年、Clin. Cancer Res.、第8巻(10)、3250〜3258ページ;Lee, M.他、1992年、J. Natl. Cancer Inst. Monogr.、第13巻、117〜123ページ)。
【0142】
無胸腺ヌード・マウスにエルロチニブを1回投与した場合と長期投与した場合のPKの評価
【0143】
腫瘍のないマウス
【0144】
20mg/kgと100mg/kgのエルロチニブを強制飼養によってメスのnu/nu無胸腺マウスに与えた。投与するのは、活性薬(遊離塩基)の含有量が91.5%の塩酸塩である。製剤は、エルロチニブをそれぞれ2.5mg/mlと12.5mg/ml含むカルボキシメチルセルロースナトリウム懸濁液であった。各時点で3匹のマウスに関してPKデータを評価した(図3)。
【0145】
100mg/kgのエルロチニブを与えたマウスは全身の曝露量が多く、AUClastの値は約196,000時間ng/mlであった。20mg/kgでのAUClastは、33,500時間ng/mlであった。曝露(AUC)は投与量に比例していた。平均最大血漿濃度は、100mg/kgを投与した後は約24,000ng/mlであり、20mg/kgを投与した後は9,100ng/mlであった。最大血漿濃度は、投与後0.5〜1.0時間のときであった。平均半減期は約4時間であり、平均滞留時間は約7時間であった。
【0146】
腫瘍のあるマウス
【0147】
6.3、12.5、25.0、100.0、150.0mg/mlのエルロチニブをnu/nu無胸腺マウスに経口投与した後、血漿濃度は、投与後1時間と6時間の時点で最大値がそれぞれ16,700ng/mlと8,870ng/mlになった(図1a)。150mg/kgを経口投与した後に血漿サンプルと同じ時点でサンプリングした腫瘍の平均重量比は、組織1gにつきそれぞれ4,800ngと3,090ngであった。
【0148】
個々のマウスでの血漿濃度の差は中程度であり、相対的標準偏差(RSD)は約35〜40%(範囲:5.2〜120%)であった。曝露は投与量に依存しており、投与量が増えるにつれ、投与量に比例するよりも多くなった。この実験では、腫瘍の重量比も血漿濃度とよく相関していた(図1b)。
【0149】
無胸腺ヌード・マウスにおける最大許容投与量(MTD)の決定
【0150】
エルロチニブのMTD
【0151】
エルロチニブのMTDは100mg/kgであった(図5)。毒性の徴候を示したマウスはすべて似た病変を持っていた。大きな毒性が皮膚と胃腸管で見られた。400mg/kgの群で1匹のマウスが死んだ。この群の残りのマウスは病変を抱えていたため、安楽死させた。200mg/kgを投与したマウスは体重が顕著に減少したため、すべてのマウスを安楽死させた。しかしわわわれが以前に行なった研究から、この製剤に150mg/kgの割合で含まれるエルロチニブは3週間にわたって十分に許容されることがわかった(著者、未発表の観察結果)。
【0152】
シスプラチンのMTD
【0153】
この実験でのMTDは、6日ごとに3回の腹腔内注射したときに6mg/kgであった(表2)。シスプラチンに関しては、マウスへの腹腔内注射または静脈内注射を利用してさまざまなMTDが報告されており、例えばヌード・マウスで6日ごとに2回静脈内注射すると4mg/kgであり(Perez-Soler, R.他、2001年、Proc. Am. Soc. Clin. Oncol.、第20巻、310aページ(要約1235))、C57/B16マウスで6日ごとに3回の腹腔内注射すると6mg/kgであり(van Moorsel, C.J.他、1999年、Eur. J. Cancer、第35巻(5)、808〜814ページ)、ヌード・マウスで4日ごとに3回静脈内注射すると4mg/kgである(Riccardi, A.、2001年、Cancer Chemother. Pharmacol.、第47巻(6)、498〜504ページ)。
【0154】
マウスにシスプラチンを3mg/kgから12mg/kgへと増やしながら腹腔内注射した。シスプラチン療法の古典的な毒性副作用が現われるのは、腎臓、胃腸、神経である(Perez-Soler, R.他、2001年、Proc. Am. Soc. Clin. Oncol.、第20巻、310aページ(要約1235))。両方の群のマウスで胃腸毒性の明らかな徴候が見られた(9mg/kgの群では程度が少ない)。完全な剖検は行なわなかったため、これらマウスや、投与量がより少ない群のマウスの腎臓、中枢神経系、胃腸管に組織学的な病変が存在していたかどうかはわからない。しかしどの投与量の群でも、腎臓毒性の大まかな徴候や、行動または態度に現われた神経毒性の徴候はなかった。
【0155】
確立したNSCLC異種移植片に対するエルロチニブの効果
【0156】
H460aにおける投与量反応実験
【0157】
H460a NSCLC異種移植における実験終了時(腫瘍を移植してから28日目)に、単剤療法としてのエルロチニブは、投与量に依存した有意な効果があった。100mg/kgの群では、増殖が61%抑制された(対照であるビヒクルに対してp≦0.001)。
【0158】
他の群では腫瘍が以下のように抑制された:25mg/kg:46%(対照であるビヒクルに対してp≦0.001);12.5mg/kg:36%(対照であるビヒクルに対してp=0.003);6.25mg/kg:28%(対照であるビヒクルに対してp=0.014)(図2)。部分的退縮または完全退縮はなかった。
【0159】
H460aにおいてエルロチニブとシスプラチンを組み合わせた場合の活性
【0160】
6mg/kgのシスプラチンは、腫瘍の増殖を顕著に抑制した(81%(p≦0.001))(図4)。1.5mg/kgのシスプラチンは、腫瘍の増殖を抑制した(42%(p≦0.014))。6mg/kgのシスプラチンと100mg/kgのエルロチニブの組み合わせは致死的であり、毒性の徴候が腫瘍を移植してから5日目に現われた。どのマウスも腫瘍を移植してから23日目までに死んだ(13日目に治療)。
【0161】
1.5mg/kgのシスプラチンと25mg/kgのエルロチニブの組み合わせはよく許容され、腫瘍の増殖を53%抑制した(ビヒクルに対してp=0.003)。部分的退縮または完全退縮はなかった。この腫瘍増殖の抑制は、MTDの25%を投与した場合のシスプラチンとエルロチニブのいずれよりも有意に優れてはいなかったため、加算的ではなかった。同様に、この組み合わせは、100mg/kgのエルロチニブまたは120mg/kgのシスプラチンよりも有意に優れてはいなかった。
【0162】
A549においてエルロチニブとシスプラチンを組み合わせた場合の活性
【0163】
この実験の終了時(腫瘍を移植後47日目、治療してから19日目)に、100mg/kgのエルロチニブは、腫瘍の増殖を顕著に抑制した(93%(p≦0.001))(図6)。一例で部分的退縮が見られた(2%)。25mg/kgのエルロチニブは、腫瘍の増殖を25%抑制した。6mg/kgのシスプラチンは、腫瘍の増殖を顕著に抑制し(88%(p≦0.001))、一例で部分的退縮が見られた(2%)。1.5mg/kgのシスプラチンは、腫瘍の増殖を30%抑制したが、有意ではなかった。
【0164】
以前の実験で毒性が見られたため、シスプラチンとエルロチニブを大きな投与量で組み合わせることはしなかった。1.5mg/kgのシスプラチンと25mg/kgのエルロチニブの組み合わせはどのマウスにもよく許容され、顕著な体重減少や毒性の全体的な徴候はなかった。この組み合わせは腫瘍の増殖を顕著に抑制し(98%(対照であるビヒクルに対してp≦0.001))、5匹で部分的退縮が見られた(範囲:2%〜28%)。この腫瘍増殖の抑制は、MTDの25%を投与した場合のシスプラチン(p≦0.05)とエルロチニブ(p≦0.05)のいずれよりも有意に優れていたため、相乗的であった。この組み合わせは、100mg/kgのエルロチニブ、6mg/kgのシスプラチンよりも有意に優れてはいなかった。
【0165】
正常組織と腫瘍組織に対する治療に関係した効果
【0166】
単剤療法を実施した動物の剖検
【0167】
エルロチニブ単剤療法を実施したマウスでは、血液パラメータまたは臨床化学パラメータに変化はなかった(データは示さず)。治療に関係した巨視的な変化が皮膚に存在していた。鼻の皮膚が実質的に赤くなってかさぶたができていた(図7)。これは、皮膚でEGFRの発現レベルが大きかったことが理由であろう。こうした病変は一時的であり、治療を続けると消失した。治療に関係した抗腫瘍効果は、両方のNSCLC異種移植腫瘍モデルでエルロチニブを100mg/kgにした場合のKi-67増殖指数のわずかな低下であった(図8)。治療した異種移植腫瘍細胞におけるアポトーシスの頻度に有意差はなく、内皮細胞マーカーCD31の免疫組織学的染色を通じて微小血管密度(MVD)によって測定される血管新生に対する明確な効果もなかった。
【0168】
エルロチニブ/シスプラチンの組み合わせを投与した動物の剖検
【0169】
顕微鏡で見た病変の重篤度は、シスプラチンだけを投与した群と組み合わせ投与した群の腎臓で投与量に依存していた。主な病変は、尿細管の壊死と好塩基球増加症であった(データは示さず)。血液パラメータと血清化学パラメータに対する治療に関係した効果はほんのわずかであった。シスプラチンは腎臓毒性であり、近位尿細管細胞と遠位尿細管細胞の損傷を引き起こした(KlaassenとCurtis, D.(編)『カサレットとドゥールの毒物学:毒物の基礎科学』、第6版、マグロウヒル社、ニューヨーク、2001年、399〜401ページ、496ページ、497ページ、500ページ、503ページ、506ページ、511ページ、695ページ、852ページ、853ページ)。病変データに基づくと、25mg/kgのエルロチニブと1.5mg/kgのシスプラチンの組み合わせにも明らかな抗腫瘍効果があり、毒性も増加しているようには見えなかった。組み合わせ群での腫瘍細胞の増殖に対する効果は、投与量を多くしたエルロチニブ単剤療法の場合の効果と同様であった(図8b)。
【0170】
考察
【0171】
これらの結果から、強力で経口投与できるHER1/EGFR選択的小分子阻害剤であるエルロチニブは、単剤療法としての場合と、従来の化学療法と組み合わせた場合に、ほぼ同数のHER1/EGFRを発現するヒトNSCLC異種移植モデルにおいて強力な抗腫瘍活性を有することがわかる。
【0172】
H460a異種移植モデルでは、優れた投与量-反応関係が存在しており、腫瘍の重量比は血漿濃度とよく相関していた。
【0173】
2つのヒトNSCLC細胞系は、無胸腺マウスで皮下腫瘍として増殖させた場合に腫瘍が増殖する様子が異なっており、2倍になる時間がH460aでは5日間であったのに対し、A549では10日間であった。エルロチニブを100mg/kg用いた単剤療法では、H460a異種移植モデルで腫瘍の増殖が顕著に抑制された。
【0174】
シスプラチン/エルロチニブの組み合わせをMTDの25%投与すると、ゆっくりと増殖するA549腫瘍において腫瘍増殖の顕著な抑制(90%)と部分的退縮が見られた。エルロチニブをシスプラチンと組み合わせて用いた場合の腫瘍の増殖抑制は、エルロチニブ単剤療法と比較して有意に増加していた(p≦0.05)。より早く増殖するH460a腫瘍では、シスプラチン/エルロチニブの組み合わせをいずれかの化合物のMTDの25%で使用すると腫瘍の増殖が実質的に抑制された(53%)。しかしこの組み合わせを用いた場合の腫瘍の増殖抑制は、単剤療法の場合と有意に異なってはいなかった。A549はゆっくりと増殖するため、血管新生への依存性がより大きいと考えられる。エルロチニブは、間接的な抗血管新生剤であると考えられるため(Kerbel, R.とFolkman, J.、2002年、Nat. Rev. Cancer、第2巻(10)、727〜739ページ)、A549に対する効果のほうが大きいのは驚くにあたらない。エルロチニブは、アデノシン三リン酸(ATP)がHER1/EGFRの細胞内チロシンキナーゼ・ドメインと結合するのを抑制することで、受容体のリン酸化と、それに付随する下流へのシグナル伝達を阻止する(Moyer, J.D.他、1997年、Cancer Res.、第57巻、4838〜4848ページ)。その結果、腫瘍の増殖と発達に関する細胞プロセス(例えば増殖、血管新生、転移、アポトーシスからの保護)が抑制される(Moyer,J.D.他、1997年、Cancer Res.、第57巻、4838〜4848ページ)。残念なことに、エルロチニブを用いて治療した腫瘍では、MVDによっては抗血管新生効果が検出されなかった。それはおそらくこのアッセイが十分な感度を持たなかったためであろう。
【0175】
両方のNSCLCモデルにおいてMTDの25%のシスプラチン(1.5mg/kg)をエルロチニブ(25mg/kg)とともに投与するとよく許容され、体重低下がまったくないか、有意ではなかった。これは、副作用のリスクを少なくして効果を維持することにより、患者にとって非常に好ましい生活の質が得られることを示唆している。それとは逆に、エルロチニブと、従来の薬剤をそれぞれ許容される最大投与量にして組み合わせるという高投与量法は、許容されなかった。これは、補助的医療を臨床前に利用できないという事実と関係している可能性がある。
【0176】
NSCLCに関してエルロチニブをゲムシタビンおよびシスプラチンと組み合わせるか、カルボプラチンおよびパクリタキセルと組み合わせた第III相試験は、失望させる結果に終わった。というのも、最終的な生存率の向上が証明されなかったからである。しかしこの明細書に報告した臨床前研究は、エルロチニブをシスプラチンと組み合わせると、腫瘍の増殖抑制に対して加算効果があることをはっきりと示している。こうした知見は、エルロチニブの効果をさまざまな臨床設定(例えば、他の化学療法剤とともに順番に使用する場合や、選択された患者集団)においてさらに調べる必要があることを示している。さらに、HER1/EGFRは、多数のがん(例えば頭部と首のがん、前立腺がん、グリオーム、胃がん、乳がん、子宮頸がん、膵臓がん、卵巣がん)で過剰発現する(Ciardiello, FとTortora G.、2002年、Expert Opin. Investig. Drugs、第11巻、755〜768ページ;Salomon, D.S.他、1995年、Crit. Rev. Oncol. Hematol.、第19巻、183〜232ページ)。したがってエルロチニブをシスプラチンと組み合わせると、HER1/EGFRを発現している固形細胞腫瘍を有する他のがんで好ましい効果が得られる可能性がある。
【0177】
結論として、NSCLCでは、EGFRの発現が同程度のレベルである異種移植腫瘍におけるエルロチニブの抗腫瘍活性は、単剤療法としても、シスプラチンとの組み合わせにおいても強力である。がん治療におけるこの有望な新しい道筋を十全に評価するには、さらに研究を行なう必要がある。
【0178】
参考文献の組み込み
【0179】
あらゆる特許、特許出願公開、ならびにこの明細書に開示した他の参考文献は、参考として明示的にこの明細書に組み込まれているものとする。
【0180】
等価物
【0181】
当業者であれば、定型的な実験以上のことをすることなく、この明細書に具体的に記載した本発明の特別な実施態様に多くの等価物があることを承知している、または確認できるであろう。そのような等価物は、添付の請求項の範囲に含まれるものとする。
【0182】
【表1】

Cmax=血漿濃度のピーク;Tmax=血漿濃度がピークになるまでの時間;Tlast=最後に測定可能な濃度になった時刻;AUClast=時刻0から最後に測定可能な濃度になった時刻までの範囲で血漿濃度-時間曲線よりも下の面積;CL/F=見かけのクリアランス;λz =排泄速度定数;T1/2=最終血漿半減期;MRT=平均滞留時間;Vz/F =見かけの分布体積。
【0183】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0184】
【図1】エルロチニブの血漿濃度の経時変化:(A)投与量に依存した血漿濃度;(B)抗腫瘍薬の濃度と血漿中の薬の濃度の相関関係。腫瘍のあるマウスに、毎日、エルロチニブを0、6.3、12.5、25.0、100.0、150.0mg/kgいずれかの投与量で21日間にわたって経口投与した。腫瘍を移植してから28日目、(眼窩後部洞からの)血液と、腫瘍のサンプルを、薬を投与してから1時間後と6時間後に回収した。エルロチニブの濃度は、LC-MS/MSで測定した。数値は、平均値±標準偏差(n=3)。
【図2】H460a NSCLC異種移植モデルにおける腫瘍の平均体積に対するエルロチニブの効果。マウスにH460a NSCLC細胞を移植した。触知可能な腫瘍が確立したとき、マウスをランダム化してそれぞれの群で治療開始時の腫瘍の平均体積が100〜150mm3になるようにした。マウスに、毎日、エルロチニブを0、6.3、12.5、25.0、100.0mg/kgいずれかの投与量で21日間にわたって経口投与した。腫瘍のサイズは1週間に3回測定した。数値は平均値である(n=10)。
【図3】腫瘍のないメスのnu/nu無胸腺マウスにエルロチニブを1回、20mg/kgと100mg/kg投与したときの薬物動態。
【図4】H460a NSCLC異種移植モデルにおける腫瘍の平均体積に対するエルロチニブとシスプラチンの効果(単独の場合と両者を組み合わせた場合)。マウスにH460a NSCLC細胞を移植した。触知可能な腫瘍が確立したとき、マウスをランダム化してそれぞれの群で治療開始時の腫瘍の平均体積が100〜150mm3になるようにした。マウスをビヒクルで処理するか、エルロチニブだけを毎日25mg/kgまたは100mg/kg、3週間にわたって経口投与して治療するか、シスプラチンだけを1.5mg/kgまたは6mg/kg、6日ごとに3週間にわたって腹腔内投与して治療するか、エルロチニブを毎日25mg/kgとシスプラチンを6日ごとに1.5mg/kg投与して治療した。腫瘍のサイズは1週間に3回測定した。数値は平均値である(n=10)。
【図5】14日間にわたって治療した腫瘍のない無胸腺ヌード・マウス(n=5)における最大許容投与量の評価。
【図6】A549 NSCLC異種移植モデルにおける腫瘍の平均体積に対するエルロチニブとシスプラチンの効果(単独の場合と両者を組み合わせた場合)。マウスにA549 NSCLC細胞を移植した。触知可能な腫瘍が確立したとき、マウスをランダム化してそれぞれの群で治療開始時の腫瘍の平均体積が100〜150mm3になるようにした。マウスをビヒクルで処理するか、エルロチニブだけを毎日25mg/kgまたは100mg/kg、3週間にわたって経口投与して治療するか、シスプラチンだけを1.5mg/kgまたは6mg/kg、6日ごとに3週間にわたって腹腔内投与して治療するか、エルロチニブを毎日25mg/kgとシスプラチンを6日ごとに1.5mg/kg投与して治療した。腫瘍のサイズは1週間に3回測定した。数値は平均値である(n=10)。
【図7】エルロチニブを投与したマウスにおける皮膚の病変。剖検時に皮膚サンプルを10%緩衝ホルマリンの中で固定し、パラフィンの中に包埋し、5μmの切片を作り、ヘマトキシリンとエオシンで染色した。毎日100mg/kgのエルロチニブを21日間にわたって与えたマウスでは、皮膚の病変は、大まかに、赤味がかっていて薄片状であるという特徴があった。組織学的には、病変は、軽度から中度の糜漫性表皮肥厚、表皮過角化、局所的焼痂、大半が急性の炎症細胞の表皮への浸潤であった。病変は一時的であり、治療を継続することによって消失した。
【図8】異種移植モデルのNSCLCを免疫組織学的染色した顕微鏡写真。ヌード・マウスからの腫瘍の切片を抗原Ki67に関して染色し、対照マウス(A)と、毎日100mg/kgのエルロチニブを用いて21日間にわたって治療したマウス(B)における細胞増殖を検出した。暗い領域はKi67染色を表わしており、増殖活性があることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
EGFRキナーゼ阻害剤とシスプラチンを薬理学的に許容可能な基剤の中に含む、特にがんで使用するための医薬組成物。
【請求項2】
上記EGFRキナーゼ阻害剤がエルロチニブである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
エルロチニブが塩酸塩として存在している、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
1種類以上の他の抗がん剤をさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
腫瘍または腫瘍の転移の治療を目的とする薬の製造方法であって、EGFRキナーゼ阻害剤とシスプラチンを使用することを特徴とする方法。
【請求項6】
上記薬ががんを対象とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
上記EGFRキナーゼ阻害剤とシスプラチンが同じ製剤の中に含まれている、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
上記EGFRキナーゼ阻害剤とシスプラチンが異なる製剤の中に含まれている、請求項5または6に記載の方法。
【請求項9】
上記EGFRキナーゼ阻害剤とシスプラチンが、患者に同じ経路で投与されることを想定している、請求項5〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
上記EGFRキナーゼ阻害剤とシスプラチンが、患者に異なる経路で投与されることを想定している、請求項5〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
上記EGFRキナーゼ阻害剤としてエルロチニブを使用する、請求項5〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
エルロチニブが患者に非経口投与または経口投与されることを想定している、請求項5〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
シスプラチンが患者に非経口投与されることを想定している、請求項5〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
上記薬が1種類以上の他の抗がん剤をさらに含む、請求項5〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
上記他の抗がん剤の選択を、アルキル化剤、シクロホスファミド、クロラムブシル、シスプラチン、ブスルファン、メルファラン、カルムスチン、ストレプトゾトシン、トリエチレンメラミン、マイトマイシンC、抗代謝剤、メトトレキサート、エトポシド、6-メルカプトプリン、6-チオクグアニン、シタラビン、5-フルオロウラシル、カペシタビン、ダカルバジン、抗生物質、アクチノマイシンD、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ブレオマイシン、ミトラマイシン、アルカロイド、ビンブラスチン、パクリタキセル、グルココルチコイド、デキサメタゾン、コルチコステロイド、プレドニゾン、ヌクレオシド酵素阻害剤、ヒドロキシウレア、アミノ酸枯渇酵素、アスパラギナーゼ、ロイコボリン、葉酸誘導体の中から行なう、請求項5〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
患者の腫瘍または腫瘍の転移の治療に役立つ医薬組成物を調製する方法であって、シスプラチンをGFRキナーゼ阻害剤と組み合わせる操作を含む方法。
【請求項17】
上記EGFRキナーゼ阻害剤がエルロチニブである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
薬理学的に許容可能な基剤をシスプラチンおよびエルロチニブと組み合わせる操作をさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
シスプラチンとEGFRキナーゼ阻害剤を収容する容器を備えるキット。
【請求項20】
無菌希釈剤をさらに含む、請求項19に記載のキット。
【請求項21】
上記EGFRキナーゼ阻害剤がエルロチニブである、請求項19に記載のキット。
【請求項22】
患者の腫瘍、または腫瘍の転移、または他のがんの治療法としてのシスプラチンとエルロチニブを組み合わせた治療法の利用方法を説明する印刷された指示書を含むパッケージ挿入物をさらに備える、請求項19〜21のいずれか1項に記載のキット。
【請求項23】
1種類以上の他の抗がん剤をさらに含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項24】
上記他の抗がん剤が、アルキル化薬、抗代謝剤、微小管阻害剤、ポドフィロトキシン、抗生物質、ニトロソウレア、ホルモン療法剤、キナーゼ阻害剤、腫瘍細胞のアポトーシス活性化剤、抗血管新生剤からなるグループの中から選択した1つの薬である、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項25】
がんを治療する方法であって、そのような治療を必要としている対象に、(i)有効な第1の量のEGFRキナーゼ阻害剤またはその薬理学的に許容可能な塩と、(ii)有効な第2の量のシスプラチンとを投与する操作を含む方法。
【請求項26】
がんを治療する方法であって、そのような治療を必要としている対象に、(i)治療に必要な量に満たない第1の量のEGFRキナーゼ阻害剤またはその薬理学的に許容可能な塩と、(ii)治療に必要な量に満たない第2の量のシスプラチンとを投与する操作を含む方法。
【請求項27】
上記EGFRキナーゼ阻害剤がエルロチニブである、請求項25または26に記載の方法。
【請求項28】
治療すべき上記腫瘍または腫瘍の転移が、結腸腫瘍または腫瘍の転移である、請求項5に記載の方法。
【請求項29】
(i)有効な第1の量のEGFRキナーゼ阻害剤またはその薬理学的に許容可能な塩と、(ii)有効な第2の量のシスプラチンとを含む、特にがんで使用するための医薬組成物。
【請求項30】
(i)治療に必要な量に満たない第1の量のEGFRキナーゼ阻害剤またはその薬理学的に許容可能な塩と、(ii)治療に必要な量に満たない第2の量のシスプラチンとを含む、特にがんで使用するための医薬組成物。
【請求項31】
上記EGFRキナーゼ阻害剤がエルロチニブである、請求項29または30に記載の医薬組成物。
【請求項32】
特にがんで使用する薬としての、EGFRキナーゼ阻害剤とシスプラチン。
【請求項33】
特にがんで使用する薬としての、エルロチニブとシスプラチン。
【請求項34】
EGFRキナーゼ阻害剤とシスプラチンを用いて腫瘍または腫瘍の転移を治療する薬を製造する方法。
【請求項35】
上記EGFRキナーゼ阻害剤がエルロチニブである、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
この明細書に記載した新規な化合物、方法、医薬組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2008−501654(P2008−501654A)
【公表日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−513819(P2007−513819)
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【国際出願番号】PCT/EP2005/005737
【国際公開番号】WO2005/117916
【国際公開日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】