説明

シミュレーション装置、シミュレーション方法、シミュレーションプログラム、記録媒体、及び半導体装置

【課題】理論から一貫してデバイスのIV特性を予測でき、特にナノオーダーサイズの微小デバイスの特性予測に好適に用いることができるシミュレーション装置を提供する。
【解決手段】本発明のシミュレーション装置は、前記デバイスの原子構造モデルを作成する原子構造作成部21と、前記原子構造モデルにおける電子構造計算を実行する電子構造計算部22と、前記電子構造に基づき量子効果及び原子構造を反映させて当該デバイスの第1の電流−電圧特性を算出するIV特性計算部23と、前記計算により得られた第1の電流−電圧特性に対して、電圧補正値による補正処理を実行する補正処理部24と、半古典近似法を用いて第2の電流−電圧特性を計算するIV特性計算部25と、前記第1、第2のIV特性を結合する結合処理部26と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シミュレーション装置、シミュレーション方法、シミュレーションプログラム、記録媒体及び半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子デバイスは、スケーリングを進めることで高性能化し、現在ナノスケールに達している。微細化は信頼性の低下・性能のばらつきを招き、製品歩留まりの低下・検証のための開発工数の増加という問題を起こす。そのため、プロセス・デバイス開発の現場では高精度性能予測が可能なコンピュータシミュレーションツール(Electronic Device Automation;EDAツール)が活用されており、その重要性は年々増している。EDAツールは一般に高価で、取り扱う系の汎用性に乏しく、大規模な計算処理を必要とする。
【0003】
デバイスの基礎的な特性は電流−電圧(IV)特性である。故に、高性能デバイスの設計においてはIV特性の高精度予測が重要である。従来は、簡略化したバンド構造モデルに半古典理論を適用し、パラメターを実測値にフィッティングする手法で予測が可能であった(非特許文献1参照)。
ところが、デバイスの小型化が進み、ナノスケールになると、原子レベルの構造と量子効果の影響が大きくなるため、従来の手法では予測精度が低下する。予測精度が悪いと、検証のための実測値が多数必要となり、開発コストが増大する。例えば、膜厚が1〜3nmの絶縁膜では量子トンネリングの効果でリーク電流が大きいが、0〜1Vの低印加電圧のIV特性は簡略化したバンドモデルでは再現できない。
量子効果の影響については、従来の手法に量子効果を入れた様々な補正が試みられ、EDAツールに組み込まれている。実用に堪える予測能力がある一方、原子レベルの構造変化を取り入れていないため汎用性が低い。そのため、結果的に実測値が多数必要になる。
【0004】
一方、量子効果と原子構造の影響を正確に取り込む第一原理的計算手法の開発が行われている。しかし、現実的な精度を得るためには計算量が膨大になるため、殆どの場合は構造を大胆に近似しないと計算不可能である。その上、現実の電気伝導現象には様々な機構が寄与している可能性があり、それらの機構を初めから考慮すると計算手法が複雑化し、開発が非常に困難で実用的ではない。精密さを犠牲にせず、計算量が少ない手法として密度汎関数理論(DFT)に非平衡グリーン関数(NEGF)法を組み合わせる手法がある(非特許文献2参照)。
しかし、現実的なデバイスにそのまま適用するには、依然として膨大な計算量が必要となる。また、現実の電気伝導について、小さい原子数の系に対する計算が試験的に行われているが、実験値との定量的一致という、実用に堪える予測精度は未だ得られていないため、第一原理理論から一貫してIV特性を予測することは誰も成功していない。また、第一原理計算では、厚膜(例えば3nm以上)を扱ったり、高電圧(例えば1V以上)の計算を行うために必要な計算規模が大きすぎて現実的ではない。
【0005】
【非特許文献1】M.Fukuda et al., "Analysis of Tunnel Current through Ultrathin Gate Oxides", Jpn. J. Appl. Phys., 37, L1534(1998)
【非特許文献2】X.Zhang el al., "The Application of Density Functional, Local Orbitals, and Scattering Theory to Quantum Transport", phys. stat. sol. (b)233, No.1, 70-82(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みて成されたものであって、計算規模を大きくすることなく、広範囲の膜厚、電圧について高精度のIV特性予測が可能なシミュレーション装置、シミュレーション方法、シミュレーションプログラム、記録媒体及び半導体装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のシミュレーション装置は、デバイスにおける電流−電圧特性のシミュレーション装置であって、前記デバイスの原子構造モデルを作成する原子構造作成部と、前記原子構造モデルにおける電子構造を計算する電子構造計算部と、前記電子構造計算部により計算された電子構造に基づき量子効果及び原子構造を反映させて当該デバイスの電流−電圧特性を算出する第1のIV特性計算部と、前記電子構造に基づき半古典近似法を用いて電流−電圧特性を算出する第2のIV特性計算部と、前記第1のIV特性計算部で得られた第1の電流−電圧特性と、前記第2のIV特性計算部で得られた第2の電流−電圧特性とを、両者が近接する位置から低電圧側で前記第1の電流−電圧特性を適用し、前記近接する位置から高電圧側では前記第2の電流ー電圧特性を適用して結合し、当該デバイスの電流−電圧特性を導出する結合処理部と、を有することを特徴とする。
このシミュレーション装置では、量子効果及び原子構造の影響が大きくなる電界強度(E)が小さい領域では量子論的手法を用いて求めた第1のIV(電流−電圧)特性を適用し、量子効果及び原子構造の影響が小さくなるEが大きい領域では半古典近似法により求めた第2のIV特性を適用して、デバイスの電流−電圧特性を求める。これにより、計算規模を大きくすることなく、広範囲の膜厚、電圧について高精度のIV特性予測が可能なシミュレーション装置となる。
【0008】
本発明のシミュレーション装置は、前記第1のIV特性計算部で得られた第1の電流−電圧特性に対して、電圧補正値による補正処理を実行する補正処理部をさらに備え、前記結合処理部において、前記補正処理部による補正処理を経た前記第1の電流−電圧特性と、前記第2の電流−電圧特性とを結合することを特徴とする。
このシミュレーション装置では、上記補正処理部を備え、量子論的手法によるIV特性計算を電場ゼロの状態で行い、得られたIV特性(第1のIV特性)について内部電場補正を行うことで実測値と一致させるので、従来と同程度の計算量でありながら、特にナノスケール領域での実測値との一致が良好な計算結果を得ることができる。
【0009】
本発明のシミュレーション装置は、前記デバイスの原子構造モデルを作成する原子構造作成部において、第1の物質及び第2の物質と、該第1の物質及び第2の物質との界面を有する第3の物質とを備えたデバイスの原子構造モデルが、凹凸や配位欠陥のない急峻な前記界面を有する原子構造モデルとして作成されることを特徴とする。
この構成によれば、理論予測値と実測値とを良好に一致させ得る原子構造モデルの構築が可能であり、正確な理論予測値が得られるシミュレーション装置を提供することができる。かかる界面構造を採用することで、高品質の成膜が可能なプロセスとの整合性が高く、ナノスケール領域でのプロセス制御におけるデバイスシミュレーション装置として好適なものとなる。
【0010】
本発明のシミュレーション装置は、前記デバイスの原子構造モデルを作成する原子構造作成部において、SiO2膜と、該SiO2膜と界面を有するSi膜とを備えた前記デバイスの原子構造モデルが、前記Si膜とSiO2膜との間に、凹凸や配位欠陥のない急峻な界面を有する原子構造モデルとして作成されることを特徴とする。
Si/SiO2界面における構造を上記構造とすることで、極めて高品質に形成された酸化膜を具備するデバイスにおけるシミュレーションをより正確に行えるシミュレーション装置を提供することができる。
【0011】
本発明のシミュレーション装置は、前記Si膜とSiO2膜との界面が、前記SiO2膜中のSiの酸化価数が3となる位置のSiOx四面体の前記SiO2膜側にあるSi−O結合の中心位置に設定されることを特徴とする。
この構成によれば、実測値との一致が良好なシミュレーション結果を容易に得ることができる。
【0012】
本発明のシミュレーション方法は、デバイスの原子構造モデルを作成するステップと、前記原子構造モデルにおける電子構造を計算するステップと、前記電子構造に基づき量子効果及び原子構造を反映させて当該デバイスの第1の電流−電圧特性を算出するステップと、前記計算された電子構造に基づき半古典近似法を用いて第2の電流−電圧特性を算出するステップと、前記第1の電流−電圧特性と、前記第2の電流−電圧特性とを、両者が近接する位置から低電圧側で前記第1の電流−電圧特性を適用し、前記近接する位置から高電圧側では前記第2の電流ー電圧特性を適用して結合することで、当該デバイスの電流−電圧特性を導出するステップと、を有することを特徴とする。
このシミュレーション方法によれば、量子効果及び原子構造の影響が大きくなる電界強度(E)が小さい領域では量子論的手法を用いて求めた第1のIV特性を適用し、量子効果及び原子構造の影響が小さくなるEが大きい領域では半古典近似法により求めた第2のIV特性を適用して、デバイスの電流−電圧特性を求める。これにより、幅広い領域で実測値とよく一致するIV特性を、少ない計算コストで算出することができる。
【0013】
本発明のシミュレーション方法は、前記第1のIV特性計算部で得られた第1の電流−電圧特性に対して、電圧補正値による補正処理を実行するステップをさらに備え、前記第1の電流−電圧特性と、前記第2の電流−電圧特性とを結合するステップにおいて、前記補正処理後の第1の電流−電圧特性と前記第2の電流−電圧特性とを結合することを特徴とする。
このシミュレーション方法によれば、量子論的手法によるIV特性計算を電場ゼロの状態で行い、得られたIV特性について内部電場補正を行うことで実測値と一致させるので、従来と同程度の計算量でありながら、特にナノスケール領域での実測値との一致が良好な計算結果を得ることができる。
【0014】
本発明のシミュレーション方法は、前記デバイスの原子構造モデルを作成するステップにおいて、前記デバイスを、第1の物質及び第2の物質と、該第1の物質及び第2の物質との界面を有する第3の物質と、を備えるデバイスとして設定し、前記第1の物質及び第2の物質と、前記第3の物質との界面を、凹凸や配位欠陥のない急峻な界面として設定することを特徴とする。
かかる界面構造を採用することで、高品質の成膜が可能なプロセスとの整合性が高く、ナノスケール領域でのプロセス制御におけるデバイスシミュレーション方法として好適なものとなる。
【0015】
本発明のシミュレーション方法は、前記デバイスの原子構造モデルを作成するステップにおいて、SiO2膜と、該SiO2膜と界面を有するSi膜を備えたデバイスの前記Si膜と前記SiO2膜との界面を、凹凸や配位欠陥のない急峻な界面として設定することを特徴とする。
Si/SiO2界面における構造を上記構造とすることで、極めて高品質に形成された酸化膜を具備するデバイスにおけるシミュレーションをより正確に行えるシミュレーション方法を提供することができる。
【0016】
本発明のシミュレーション方法は、前記Si膜とSiO2膜との界面を、前記SiO2膜中のSiの酸化価数が3となる位置のSiOx四面体のSiO2膜側にあるSi−O結合の中心位置に設定することを特徴とする。
この構成によれば、実測値との一致が良好なシミュレーション結果を容易に得ることができる。
【0017】
本発明のシミュレーションプログラムは、デバイスのシミュレーションを実行するコンピュータに、デバイスの原子構造モデルを作成する処理と、前記原子構造モデルにおける電子構造を計算する処理と、前記計算された電子構造に基づき量子効果及び原子構造を反映させて当該デバイスの第1の電流−電圧特性を算出する処理と、前記第1の電流−電圧特性に対して、電圧補正値による補正処理を実行する処理と、前記電子構造に基づき半古典近似法を用いて第2の電流−電圧特性を算出する処理と、前記補正処理後の第1の電流−電圧特性と、前記第2の電流−電圧特性とを、両者が近接する位置から低電圧側で前記第1の電流−電圧特性を適用し、前記近接する位置から高電圧側では前記第2の電流ー電圧特性を適用して結合することで、当該デバイスの電流−電圧特性を導出する結合処理と、を実行させるためのシミュレーションプログラムである。
【0018】
本発明の記録媒体は、デバイスのシミュレーションを実行するコンピュータに、デバイスの原子構造モデルを作成する処理と、前記原子構造モデルにおける電子構造を計算する処理と、前記計算された電子構造に基づき量子効果及び原子構造を反映させて当該デバイスの第1の電流−電圧特性を算出する処理と、前記第1の電流−電圧特性に対して、電圧補正値による補正処理を実行する処理と、前記電子構造に基づき半古典近似法を用いて第2の電流−電圧特性を算出する処理と、前記補正処理後の第1の電流−電圧特性と、前記第2の電流−電圧特性とを、両者が近接する位置から低電圧側で前記第1の電流−電圧特性を適用し、前記近接する位置から高電圧側では前記第2の電流ー電圧特性を適用して結合し、当該デバイスの電流−電圧特性を導出する結合処理と、を実行させるためのコンピュータプログラムを記録したコンピュータ読取可能な記録媒体である。
【0019】
ここで、「記録媒体」とは、例えばコンピュータの外部メモリ装置、半導体メモリ、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、磁気テープなどのプログラムを記録する媒体を意味する。具体的には、CD−ROM、MOディスク、ハードディスク、カセットテープなどである。
また、本発明の半導体装置は、上記のシミュレーション方法によって導出された電流−電圧特性を基に設計された半導体装置である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
(シミュレーション装置)
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明に係るシミュレーション装置の一実施形態であるシミュレーション装置10の機能的構成を示すブロック図である。図2は、本発明に係るシミュレーション方法の一実施形態を示すフローチャートである。図3は、Si/SiO2の界面構造の説明図である。図4は、MIS(Metal Insulator Semiconducutor)素子のバンド構造の説明図である。
【0021】
本実施形態のシミュレーション装置10は、図1に示すように、処理制御部11と、操作者からの命令やデータの入力を受け付ける入力部12と、シミュレーション結果を出力する出力部15と、入力データとしての原子構造データや実測データを格納したデータ記憶部13と、シミュレーションプログラムなどを格納したプログラム記憶部14とを備えて構成されている。
【0022】
処理制御部11は、原子構造作成部21と、電子構造計算部22と、第一原理計算等の量子論的手法によりデバイスの電流−電圧特性(IV特性)を計算する第1のIV特性計算部23と、IV特性の補正を行う補正処理部24と、半古典近似法等の古典論的手法を用いてデバイスのIV特性を導出する第2のIV特性計算部25と、第1のIV特性計算部23で得られた第1のIV特性と、第2のIV特性計算部25で得られた第2のIV特性とを結合する結合処理部26とを備えている。
【0023】
原子構造作成部21は、デバイスのIV特性を得るための原子構造を作成する。具体的な作成手法に特に限定はなく、デバイスの構造や大きさ、また後段の電子構造計算部22やIV特性計算部23,25での計算方法によって適宜選択すればよい。例えば、対称性を仮定して導かれるモデル構造や、分子動力学法(Molecular Dynamics法)やモンテカルロ法(Monte Carlo法)のような分子シミュレーションを用いて原子構造モデルを構築することができ、分子シミュレーションは、第一原理的手法(例えばCar-Parrinello法)、経験的ポテンシャル手法(例えば力場ポテンシャル法等)のいずれも適用できる。
また、データ記憶部13に格納しておいた既知の基本原子構造を読み込み、これらの基本原子構造をデバイス構造に適用して原子構造モデルを構築してもよく、他の計算機で作成した原子構造モデルを読み込んで利用してもよい。
【0024】
電子構造計算部22は、半経験的手法ないし第一原理的手法を用いて原子構造作成部21にて構築した原子構造モデルについて電子構造の計算を行う。半経験的手法としては、強結合近似法(Tight Binding法)等を挙げることができ、第一原理的手法としては、分子軌道法(Hertree-Fock法等)、密度汎関数法等を挙げることができる。
【0025】
第1のIV特性計算部23では、電子構造計算部22で得られた電子構造(例えば1電子有効ハミルトニアン行列)を用いてデバイスのIV特性を算出する。第1の特性計算部23では、線形応答理論に基づいたIV特性計算を行う。例えば、局在基底による1電子有効ハミルトニアンを用いて行列形式の非平衡Green関数法(matrix-NEGF法)によりデバイスの透過係数を求め、Landauer-Buttikerの公式に基づいてIV特性を計算する。
【0026】
補正処理部24は、第1のIV特性計算部23で得られるIV特性(理論予測値)を簡便な処理で実測値に一致させる補正処理を行う。原理的には、理論予測値と実測値は定量的に一致するべきであるが、ナノスケール系では一致しない(例えば非特許文献1参照。)。そこで本発明者は、かかる理論予測値と実測値とが一致しない原因について検討を重ね、その原因がナノスケール領域における厳密な膜厚定義の困難性と、バンドオフセットにあることを突き止め、当該補正処理部24における簡便な補正処理により理論予測値と実測値とを一致させることを可能にした。
【0027】
まず、デバイスを構成する絶縁膜等の膜厚については、理論的には、上記界面構造を厳密に決定することは可能であるが、実測値には技術的限界による測定精度が存在する。また、仮に厳密な界面構造が得られたとしても、界面が急峻である場合と凹凸により境界が曖昧な場合とがあり、一義的な定義は困難である。通常は平均値を用いているが、ナノスケールデバイスでは平均値からのずれが相対的に大きくなる。またナノスケールデバイスでは測定方法の違いによるずれも相対的に大きくなる。
【0028】
従って、ナノスケールで界面構造を決定する場合には、最新の技術レベルでの測定限界と、電気特性が界面構造にどれほど敏感に依存するのかを考慮して、あらかじめシミュレーションで要求される予測精度を割り出しておく必要がある。
【0029】
例えばSi/SiO2/Si積層構造をデバイスとして考えると、ごく薄い(例えば10nm以下)SiO2膜の厚さは、異なる測定方法では電気測定からの予測算出値と最大で±0.5nmずれる。この場合、膜厚が1nm減少するとデバイスを透過する電流は約10倍になることが知られているので、測定方法に起因する膜厚のずれは、IV特性の予測精度に極めて大きく影響する。
そこで本発明者が複数の膜厚測定方法について検討したところ、種々の測定法のうちでも、エリプソメトリー法において、電気測定からの予測値に対する差が±0.1nmであることが分かった。そこで本発明者は、エリプソメトリー法による膜厚測定値と精度とを、理論予測値と対応させることとした。
【0030】
次に、Si/SiO2界面構造について、従来、当該界面は急峻であるとする説と、酸素が拡散してゆくことにより曖昧であるとする説の2つの説が知られている。本発明者らが、かかる界面構造について高精度シミュレーションにより検証を行ったところ、配位欠陥が少なく、凹凸が小さい急峻な界面が安定であるという結果が得られた。そこで本発明では、デバイス原子構造について急峻な界面を有するモデルを作成し、シミュレーションに用いることとした。
【0031】
異種界面(例えばSi/SiO2)において、従来は原子種が変化する位置を原子レベルの界面位置として定義していた。しかし、Si/SiO2界面では、原子種で定義した界面位置と、バンドギャップの変化する位置とが約0.5nmずれることが知られている。具体的には、SiO2膜に垂直な面内における酸素の2p軌道の部分状態密度を見て、SiO2膜中のSiの酸化価数が3以下となる位置、すなわちSi−Si結合を1つでも有するSiO4四面体(部分酸化四面体)の位置からバンドギャップが変化することも分かっている。
【0032】
また、バンドギャップが変わると誘電率が変化するため、我々はバンドギャップの変化位置は、エリプソメトリー法などの光学測定による界面位置と対応すると考え、本発明では、上記部分酸化四面体の直上(SiO2膜側)にあるSi−O結合の中心位置を界面位置の理論的定義とした。急峻な界面構造を持つモデルを用いると、界面の凹凸はエリプソメトリー法による測定精度(±0.1nm)以下に抑えることができる。本発明では、これらの定義を用いたことで、界面位置の不定性に基づく理論予測値と実測値のエラーバーを見積もることができ、高度な予測ができるようになっている。
【0033】
図3(a)は、Si/SiO2界面の原子構造の概略を示す図であり、図3(b)は、図3(a)の(1)〜(5)を付して示す酸素原子の位置におけるエネルギーを示すグラフである。図3(b)に示すように、Si膜とSiO2膜との間のSiOx層内に含まれる部分酸化四面体の各位置におけるエネルギーの最小値は、Si膜からSiO2膜側に向かって徐々に大きくなり、位置(1)ではSiの伝導帯(Conduction Band)のエネルギーに一致しているのに対し、位置(5)ではSiO2の伝導帯のエネルギーに一致している。本発明では、かかるエネルギーの最小値の変化状況から、Si−Si結合を1つでも含むSiO4四面体(符号X,Yを付したSiを中心とする部分酸化四面体)の直上のSi−O結合の中心位置であるL1をSi/SiO2界面の理論的な位置として設定している。
【0034】
次に、バンドオフセットの補正処理について説明する。図4(a)は、MIS素子のバンド構造を説明するための概略図である。図4において、C.B.は半導体膜(S)の伝導帯(Conduction Band)、V.B.は価電子帯(Valenece Band)、Efはフェルミエネルギーを示している。以下では、図4(a)に示すような金属電極(M)/絶縁膜(I)/半導体電極(S)の積層構造を有するMIS素子を想定して説明する。
【0035】
金属以外の物質に電圧を印加すると、内部電位勾配が生じる。すなわち、外部印加電圧をV、電極/デバイス/電極間にかかる電圧をV'とすると、電極が金属であればV=V'なる関係が成立するが、一方の電極が半導体である場合には、デバイス(絶縁膜)近傍ではV≠V'となる。MIS素子においてVとV'とは、絶縁膜から離れるに従って近づいていくが、V=V'となるまでの領域はシリコン基板の場合で100nmのオーダーで広がっているため、これだけの領域を原子レベルで計算するのは計算量が膨大となり現実的ではない。そのため、計算の正確性を向上させるために何らかの方法でV'を見積もる必要があり、これがバンドオフセットの問題として知られている。
【0036】
ところで、金属のフェルミエネルギーよりも半導体の電子親和力が小さい場合(例えばp型半導体)、外部印加電圧Vが0(ゼロ)に近いとき、MIS界面では電荷移動が起こり、図4(b)に示すように、半導体膜におけるバンドが曲がる。このことにより、界面に2次元電子系のサブバンドが形成される。2次元電子系は電子相関が大きく、密度汎関数理論に基づく第一原理計算では電子相関を正確に取り入れることができないため、計算の予測精度が低下する。さらに、電場を掛けると電子状態が変化するため、その都度自己無撞着に電子構造を求め直す必要がある。それに伴い、デバイスの電流透過率もその都度求め直す必要がある。しかしこの計算は収束も悪いため計算コストが著しく増大し現実的ではない。
【0037】
そこで、本発明では、基底状態の電子構造と、V=0のときの透過係数を用い、Landauer公式でIV特性を計算する(以下、計算スキーム1と称する。)。詳細は後段の(実施例)で説明しているが、先の膜厚の定義に従い、対応する理論予測値(スキーム1の計算結果)と実測値のIV特性を比較したところ、両者は近似した形状であり、実際に電圧シフトのみでほぼ一致することが判明している。
【0038】
このことを物理的に考察すると、上記計算スキーム1の状況は、本来図4(b)に示すようにV=0で曲がっていなくてはならないバンドを、電荷移動が起こる前のバンドが平坦な状況で計算していることになる。すなわち、スキーム1の計算はフラットバンド電圧Vfbを印加した状況のIV特性に対応する。この場合は電子相関の影響が小さいため、計算精度は保証される。また、実測値と一致するようにシフトすることは、本来の意味でのVfbではなく、バンドオフセットを含めた結果の正しいV'を印加していることに相当する(このシフト量をV'fbとする。)ため、大規模な計算をする必要がない。また複数の異なる膜厚について上記電圧シフトの効果について検証したところ、いずれの膜厚でもV'fbは同様の値を示すことが確認された。このように理想的な界面においてVfbが物質のみに依存することは理にかなっている。
【0039】
以上説明したように、補正処理部24では、第1のIV特性計算部23において計算スキーム1を用いて計算した結果について、デバイスのフラットバンド電圧Vfbに基づく補正処理を行う。これにより、大規模な計算を行うことなく理論予測値と実測値とを一致させることができ、計算コストを抑えつつ正確な計算結果を得ることが可能になる。
【0040】
また、理想的な界面を実験的に作成、測定し、同様に理論的にも作成、予測することで、材料固有のV'fbを求めることができるので、その値を凹凸がある界面や欠陥、不純物を含む界面を計算したときの比較に用いることができる。すなわち、プロセス設計において重要なVfbの変動、ΔVfbを予測し、界面の凹凸や欠陥、不純物の影響を予測することができるようになる。
【0041】
次に、第2のIV特性計算部25は、電子構造計算部22において算出したデバイスの電子構造に基づき、半古典近似法を用いてデバイスのIV特性を算出する。IV特性に対する量子効果と原子構造の影響は、系のサイズが小さいとき、及び電界強度E(=V/tox;toxはデバイス膜厚(絶縁膜厚))が小さいときに顕著であり、それ以外の領域では半古典近似法を用いて得られたIV特性でも実測値に対して十分に一致することが知られている。電子構造は電界強度Eの関数であることから、第一原理的にIV特性を計算するときには、全ての電界強度Eについて電子構造を計算しなければならず、計算量が膨大となる。また系のサイズが大きい場合でも同様である。
一方、半古典近似法を用いる場合、IV特性は解析的な式であるため計算量は変化しない。そこで、本発明に係るシミュレーション装置では、第一原理的に厳密にIV特性を算出する第1のIV特性計算部23に加え、半古典近似法によりデバイスのIV特性を計算する第2のIV特性計算部25を設けることで、第一原理計算における計算コストを低減しつつ正確なIV特性計算を行うことができるようにした。
【0042】
結合処理部26は、第1のIV特性計算部23で得られた第1のIV特性と、第2のIV特性計算部25で得られた第2のIV特性とを結合し、所定電圧範囲でのデバイスの正確なIV特性を導出する。上述したように、大きい電界強度E、大きい系のサイズでは半古典近似法で計算したIV特性が実測値によく一致する。そこで本発明では、量子効果、原子構造が問題となる領域(小さい電界強度E、小さい系)のみ第一原理的に計算して第1のIV特性を導出し、大きい電界強度E、大きい系のサイズでは半古典近似法を用いて計算した第2のIV特性を用いることとしている。
【0043】
そして、結合処理部26は、これら2つのIV特性を結合する処理を行うものである。具体的には、複数の小さい系の第一原理計算によるIV特性を電界強度E=0の条件で求め、その系のサイズに対応する半古典近似法によるIV特性を求める。その後、両者を互いに交差する位置か近接する位置で滑らかに接続する関数を導出する。このような関数を特徴づけるパラメータを、系のサイズ、電界強度Eの関数として求め、プログラム記憶部14に格納しておくか、表としてデータ記憶部13に格納しておく。このような記関数ないし表を結合処理部26に読み込み、IV特性計算部23,25で得られた第1、第2のIV特性を取り込んで処理することで、第1のIV特性と第2のIV特性とを結合したIV特性を対象デバイスについて得ることができる。
【0044】
(シミュレーション方法)
図2に示す本実施形態のシミュレーション方法の基本手順では、まず、図1に示した入力部12からの入力情報に基づき原子構造作成部21にてシミュレーション対象となるデバイス(例えばMIS素子)の原子構造モデルを作成する(ステップS1)。本シミュレーション方法は、MIS素子に限らず種々のデバイスのIV特性予測に用いることができ、特にナノスケール領域での電気特性予測が重要となる分子デバイス、有機デバイス、電子スピンデバイスの特性予測に好適に用いることができる。
【0045】
原子構造モデルを作成したならば、次に、電子構造計算部22において原子構造モデルに基づく電子構造計算を行う(ステップS2)。電子構造計算部22は、データ記憶部13及びプログラム記憶部14から必要なデータ及びプログラムを読み込み、原子構造作成部21から供給される原子構造モデルについて計算プログラムを実行する。
【0046】
次いで、第1のIV特性計算部23において、上記電子構造に基づき、量子効果と原子構造とを反映させた量子論的手法によりデバイスのIV特性計算を行う(ステップS3)。IV特性計算部23は、データ記憶部13及びプログラム記憶部14から必要なデータ及びプログラムを読み込み、原子構造作成部21及び電子構造計算部22から供給される原子構造及び電子構造に基づくIV特性計算を実行する。
【0047】
次に、補正処理部24において、第1のIV特性計算部23で得られた第1のIV特性について、実測値に基づく内部電場補正を実行する(ステップS4)。内部電場補正に使用する補正値(ΔVfb)は、デバイスの実測値に基づきあらかじめ計算したものをデータ記憶部13から読み出して使用することができる。この内部電場補正により、基底状態(V=0)で計算したIV特性を、実測値に非常によく一致させることができ、計算コストを抑えつつ正確なIV特性を得ることができる。
【0048】
次に、第2のIV特性計算部25において、半古典近似法を用いたIV特性計算をデバイスについて実行する(ステップS5)。量子論的手法による厳密なIV特性計算によれば、原子構造及び量子効果を反映した正確なIV特性予測が可能である一方、系のサイズが大きい場合や電界強度Eが大きい場合には、計算量が膨大になり、また実測値とのずれが大きくなる傾向にある。そこで本発明では、大きい電界強度Eや大きい系のサイズについて実測値とよく一致する半古典近似法によるIV特性予測を行う。これにより、計算コストを大幅に低減しつつ良好な理論予測値を得ることが可能になる。本実施形態では、かかるIV特性計算を第1のIV特性の補正処理後に行うこととしているが、第1のIV特性計算ないしその補正処理と同時に実行してもよい。
【0049】
上記第1のIV特性及び第2のIV特性が得られたならば、次に、結合処理部26において前記両IV特性の結合処理を実行する(ステップS6)。結合に際して、電界強度Eが小さい領域ないし系のサイズが小さい領域では、第一原理計算を用いた第1のIV特性を適用し、電界強度Eが大きい領域ないし系のサイズが大きい領域では、半古典近似法を用いた第2のIV特性を適用してIV特性曲線の結合が成される。結合処理部26では、あらかじめ実測値に基づき算出しておいた結合用の関数や表(ルックアップテーブル)をプログラム記憶部14やデータ記憶部13から読み出し、上記第1のIV特性と第2のIV特性とに適用して両者を滑らかに接続する。
【0050】
これにより、量子効果及び原子構造が大きく影響する電界強度Eが小さい領域、系のサイズが小さい領域については、量子論的手法により厳密に計算された理論予測値が得られ、第一原理計算では計算コストが著しく大きく現実的でないEが大きい領域や系のサイズが大きい領域については半古典近似法を用いて低コストに実測値によく一致する理論予測値を得ることができる。
従って、本発明のシミュレーション方法によれば、計算コストを抑えつつ、広い範囲で正確なIV特性予測が可能である。
【0051】
また本発明のシミュレーション方法は、従来のシミュレーション方法に対して以下のような利点を有している。
従来のシミュレーション方法としては、(A)簡略化されたモデルと実測値のパラメータフィッティングを行うシミュレーション方法、(B)第一原理計算によるIV特性計算、の2つが一般に知られている。
【0052】
上記(A)のシミュレーション方法では、(A1)原子構造が変化したときに対応できず、汎用性が低いという問題があった。また、(A2)条件を変更するたびにパラメータフィッティングが必要であり、条件毎に実測値を用意しなければならないという問題があった。
これに対して本発明のシミュレーション方法では、任意の原子構造を与えたとき、それの構造を反映するIV特性を第一原理的に計算するので、あらゆる構造に対応でき、その予測値の信頼性にも優れている。これにより、上記(A1)の問題を解決することができる。
また、第一原理計算を元にしているため、パラメータフィッティングはほとんど必要なく、用意する実測値を従来に比して大きく削減でき、開発・設計コストの低減に大いに寄与する。これにより上記(A2)の問題も解決し得る。
【0053】
また(B)のシミュレーション方法では、(B1)膜厚の定義が曖昧で、実測値と比較することができない、(B2)外部印加電圧毎に電子構造を計算し直す必要があるため、計算コストが非現実的にかかる、(B3)バンドギャップや電子相関を正確に求めるには莫大なコード開発コストがかかる、(B4)実際の印加電圧を求めるには系を大きくする必要があり、計算コストの面で現実的ではない、といった種々の問題がある。
【0054】
これに対して、本発明に係るシミュレーション方法では、先に記載の膜厚定義法によって、実測値とよく一致するものとなっているので、上記(B1)の問題を解決することができる。また、(B2)の問題については、本発明では、電場ゼロ(V=0)の電子構造を用いてIV特性を算出し、かかるIV特性について内部電場補正を行うので、計算コストを著しく低減できる。(B3)については、本シミュレーション方法ではバンドギャップは正確である必要がないため、正確なバンドギャップを求めるための計算を要しない。(B4)については、実測値に基づき補正値を導出して用いるため、実際の印加電圧を求める必要が無い。また、界面状態の異なる他の構造についても補正値ΔVfbを求めることができ、原子構造の変化に容易に対応できるという利点もある。
【実施例1】
【0055】
以下、Si/SiO2/Si構造のデバイスにおけるIV特性シミュレーション方法について図5から図10を参照して具体的に説明する。
【0056】
(手順1)界面原子構造モデルの用意
本実施例ではSi基板上の酸化膜のIV特性予測を目的とする。電極で挟んだデバイスのIV特性を原子構造から予測するため、まず電極とデバイスの原子モデルを設定した。すなわち、図5に示すように、デバイス201として、界面を含んだSi膜211と、SiO2膜213と、Si膜212との積層構造を生成し、デバイス201を挟持する電極202、203としてダイヤモンド構造の結晶Siの各々の単位格子を生成した。
【0057】
デバイス201の原子構造モデルの作成に際しては、ダイヤモンド構造の単結晶Si(100)面に、格子定数が一致するように界面における水晶の原子構造を歪ませて重ね合わせ、Si/SiO2/Si界面構造を作成した。Si/SiO2界面以外の界面の影響を除くため、3次元周期境界条件を満たすようにしている。
また、界面における結合長、∠SiOSi、∠OSiOは、結晶中のものと殆ど変わらないようにし、全てのSiは4配位,Oは2配位の結合を持つようにした。このようにして、構造が安定し、界面準位を持たない急峻な界面モデルを作成した。本発明で採用している、急峻な界面構造を持つモデルでは、界面の凹凸が無いので、凹凸に起因する界面の不確定さを最小にすることができる。
【0058】
先に記載のように、エリプソメトリ法による膜厚の測定精度は約0.1nmであり、この程度の界面の不確定さは残る。理論的には、部分酸化四面体の直上にあるSi−O結合の付近でバンドギャップが変化することが判っている。結合の中心位置を界面位置の理論的定義とすると、Si−O結合距離は約0.1nmなので、実測値のエラーバーと対応する。このようにして、理論値と実測値の比較ができる精度の限界で界面を理論的に定義すると、理論計算による高度なIV特性予測が可能になる。
【0059】
本実施例では、図6(a)に示す、Si/SiO2/Si=8個/15個/8個のモデルと、図6(b)に示す、Si/SiO2/Si=8個/21個/8個のモデルの2つを作成した。先に記載のSi/SiO2界面の定義に従うと、SiO2の膜厚toxは、それぞれ1.55nm、2.41nmである。
【0060】
(手順2)原子構造モデルの電子構造の用意
次に、手順1の原子構造を用いて、第一原理電子構造計算を実行し、構造を緩和させると同時に電子構造を求めた。使用したのは、密度汎関数法に基づき、擬ポテンシャルとGauss型局在基底関数を用いた、2次元的(膜に水平な方向)、3次元的に周期的な電子の基底状態を求める事ができる計算コードである。Gauss基底はDouble-Zetaに分極を入れたレベルで、Perdew-Becke-Ernzerhof (PBE)による交換相関項を用いた。これらの設定により、高精度の計算結果を得られる。
【0061】
デバイス部分はスラブ構造(膜に水平な方向では周期的、膜に垂直な方向は非周期的)の単位格子を計算に使用した。このようにすることで、2次元系の影響を正確に取り入れる電子構造を計算することが可能である。
電極部分は3次元周期境界条件で計算を実行した。実行は、各原子に働く力の絶対値が0.1eV/Åで、収束ステップあたりの全エネルギー変化が0.1eV以下になるまで収束させた。これらの条件により、信頼性の高い計算結果が得られる。
【0062】
(手順3)原子構造と量子効果を反映した第1のIV特性計算
次に、手順3では、手順2で得られた結果を用いて第1のIV特性を計算する。デバイス201、電極202,203の原子位置と電子構造(ハミルトニアン行列H、重なり積分S、エネルギー固有値E)を入力値として使用する。デバイス201の第1のIV特性は、以下の(数1)に示すLandauer-Buttiker公式を使いて計算した。
【0063】
【数1】

【0064】
(数1)において、Iは電流、Vは電位差であり、T(E)、f(E)は各々エネルギーEにおけるデバイスの透過係数TとFermi-Dirac分布関数f、e,hは各々素電荷、プランク定数(バーは1/2πを意味する)である。また、μは電極における化学ポテンシャルで、これらの差は各電極202,203に印加された電圧差にeを掛けたものに相当する。すなわち、eV=μ1−μ2の関係がある。
【0065】
透過係数Tは行列形式非平衡Green関数(matrix-NEGF)法により求めた。1電子有効ハミルトニアン行列Hをデバイス部分Hmと電極部分H1,2に分け、電極間の相互作用を無視できるとする。すると、Hから定義される(数2)上段の1粒子Green関数G(E)を用いてT(E)を(数2)下段のように表すことができる。
【0066】
【数2】

【0067】
ここでGmは、以下の(数3)上段に示すように計算され、Γはデバイスと電極の相互作用を表し、(数3)下段に示すように定義される。
【0068】
【数3】

【0069】
(数3)において、Em,Smは、各々デバイス部分のエネルギー固有値、重なり積分である。Σは表面Green関数と呼ばれ、電極部分から計算する事ができる。
本来ならば印加電圧V毎にT(E,V)を計算する必要があるが、その都度電子構造を計算し直さなければならないため、計算量が著しく増大して実行が困難になり現実的ではない。そのため本発明では、T(E,V)=T(E,0)と近似してIV特性を計算している。
【0070】
(手順4)実測値によるフラットバンド電圧補正
上記手順1〜3によりtox=1.55nm、2.41nmの各デバイスのIV特性を求め、実測値との比較を容易にするために、後述する手順6の方法を用いた補間処理によってtox=1.61nm、2.39nmでのIV特性を導出した結果を図7のグラフに示す。図7において、丸形の標識でプロットしたものが、tox=1.61nm、2,39nmの各デバイスのIV特性を手順1〜3により求めた結果を示している。グラフ中、菱形の標識でプロットしたものは実測値である。
【0071】
図7に示すように、予測したIV特性を、先の膜厚の定義に従い、対応する理論と実測のIV特性を比較すると、形状が非常に似ており、以下に示す手順によって電圧のオフセットをシフトすると両者は一致する事が分かった。そして、そのオフセットを精度良く見積もる方法を考案した。
図7に示すtox=1.61nm、2,39nmそれぞれのプロットにおいて、三角形の標識でプロットしたものが、以下の手順に従いフラットバンド電圧補正をしたものである。図7から明らかなように、かかる電圧補正を行うことで、特にV=1(V)以下の領域で理論予測値と実測値を一致させることができる。
【0072】
印加電圧V=0の状況では、電極202,203とデバイス201の仕事関数の違いにより、電荷が移動する結果、界面のバンドは曲がっているはずである。そのため、測定結果はフラットバンド電圧Vfbを印加した状況をV=0としている。一方で、バンドの曲がりが生じる領域は膜厚方向で数十nmに及ぶため、Vfbを再現する系は第一原理計算で扱うには大きすぎて計算できない。
【0073】
本実施例では、理想的な界面を含む小さいサイズのモデルを用いており、Vfbが実測値と異なると考えられる。一方、非常に高品質で作成された酸化膜は、様々な文献を見ても大体一致するユニバーサルな特性を示していることが判っている。そこで、本実施例では、(非特許文献1)に記載されている実測値をリファレンスとして、その形状をIref(V)と呼ぶ。これらの手順1〜4で得られたIV特性をIabinit(V)として、ΔVfbを(数4)を満たすxとして定義する。
ここで、(数4)においてVsm=1(V)とした。非特許文献1に記載されている実測値は既に何らかの方法によってVfbが補正されている。そのため、本実施例で定義するΔVfbはあくまで理論予測と実測値を一致させるための便宜上のものであり、現時点では絶対値に物理的な意味はないと考えられる。
【0074】
【数4】

【0075】
本実施例では、ΔVfb=−0.17Vとなった。そして、Imodab(V)=Iabinit(V−ΔVfb)と定義する。ところで、リファレンスを複数とることで、上記ΔVfbの精度は向上すると考えられる。その場合は、リファレンスの数をnrefとして以下の(数5)を満たすxをΔVfbとする。
【0076】
【数5】

【0077】
(手順5)半古典近似との結合
上記手順1〜3で求めたIV特性は、T(E,V)=T(E,0)で代用しているために、V=ΔVfb近傍からずれると精度が悪くなる。今、ΔVfbは小さいので、V=0におけるずれは小さい。問題となるのはVが大きい領域である。そこで検討すると、Vが大きい場合は半古典論(WKB近似)が十分良い精度でIV特性を予測できることが知られている。また本発明者が複数のtoxについて両者のIV特性を比較したところ、両IV特性がある領域でクロスオーバーすることが判った。そこで本発明者は、両者を組み合わせて高精度と高スループット・低コストでIV特性を予測する方法を考案した。
具体的には、手順1〜4により、幾つかの小さい系のImodab(V)を求めておく。続いて、各膜厚に対応するWKB近似のIV特性IWKB(V)を以下の(数6)式から求める。
【0078】
【数6】

【0079】
ここで、u(x)はステップ関数(x>0でu=1,その他のxではu=0)、m*si=0.35me,m*ox=0.35me(meは電子の静止質量),φB=3.34(eV)は各々Si,酸化膜中の電子の有効質量、伝導帯端から測った酸化膜のエネルギー障壁の高さである。
【0080】
続いて、極薄膜のIV特性を電界Eox=V/toxの関数として定義し直し、幾つかの膜厚について、下記(数7)が求まっているとする。
【0081】
【数7】

【0082】
複数のtoxにおいてIV特性の傾向を見ると、図8に示すように、Imodabは低Eoxで正しく、高Eoxで値が飽和して実測とずれる。一方、IWKBは、図8に示すように、低Eoxで過大評価して実測値とずれ、高Eoxで正しくなる。故に、実測値との差が最小になるEox値を見つけ、そこでImodabとIWKBとを入れ替えれば良い予測値が得られると考えられる。
【0083】
ここで図9に、tox=1.61nm、2.39nmにおける第1のIV特性(Imodab)と、第2のIV特性(IWKB)とを、実測値とともに示す。なお、上記手法により求めた第2のIV特性についても、第1のIV特性と同様に、実測値との比較を容易にするために、後述する手順6の方法を用いた補間処理によってtox=1.61nm、2.39nmでのIV特性を導出した結果として図9のグラフに示している。
【0084】
図9においてQM1を付した曲線がtox=1.61nmにおける第1のIV特性であり、QM2を付した曲線がtox=2.39nmにおける第1のIV特性である。また、WKB1を付した曲線がtox=1.61nmにおける第2のIV特性であり、WKB2を付した曲線がtox=2.39nmにおける第2のIV特性である。
【0085】
図9に示すように、実際には第1のIV特性と第2のIV特性とは交差しないため、ある点で形式的に入れ替えを行うと、IV特性が不連続になる問題が生じる。そこで本発明では、第1のIV特性と第2のIV特性とを滑らかに接続するための関数f(Eox,tox)を定義し、補正したIleakを以下の(数8)で定義することとした。
【0086】
【数8】

【0087】
ここで、bは、第1、第2のIV特性の曲線をスムーズにつなぐ領域の範囲、uはその中心値である。さらに良く調べると、u,bは各々toxの単調関数で、線形で良く近似できることが判った(数9)。
【0088】
【数9】

【0089】
(数9)に示す係数(u1,u0),(b1,b0)は、実測値Imeasを使って以下の(数10)に示す(1)〜(4)式を用いて決定することができる。
【0090】
【数10】

【0091】
具体的に説明すると、まず、(数10)の(1)式を満たすxをEmin(tox)とし、(2)式を満たすxをEmax(tox)とする。続いて、異なる2つのtoxについて上記のEmin(tox)、Emax(tox)を求め、(数10)の(3)式及び(4)式を連立させて(u1,u0),(b1,b0)を求める。
本実施例では、(u1,u0)=(−8.14,23.62),(b1,b0)=(−4.65,12.21)となった。
【0092】
このようにして複数のtoxについてIV特性を求めた結果を図10に示す。図中、矩形枠で囲んで付した数字は各デバイスにおけるtoxの値(膜厚)である。
図10に実測値とともに示すtox=1.61nm、2.39nm、3.29nm、4.33nm、8.12nmの各グラフから明らかなように、本発明に係るシミュレーション方法で求めたIV特性の理論予測値は、各膜厚で実測値とよく一致しており、計算コストを掛けずに正確なIV特性予測が可能であることが分かる。
【0093】
(手順6)任意の膜厚への拡張
任意の系のサイズ(膜厚)においては、上記手順1〜5で求めた幾つかのIV特性を使い、数値的内挿・外挿によりIV特性を予測することが可能である。IV特性のダイナミックレンジは10桁以上であるため、通常、Iは対数で表示する。ところが、通常用いる線形な内挿・外挿法を用いると、形状のずれが大きくなってしまう。そこで、対数を取ってから線形外挿を行い、後で元に戻すことで精度の向上を図ることが好ましい。
【0094】
尚、先に記載のように、本実施形態では手順1〜3で得られた第1のIV特性について本手順の補間処理を実行した後、手順4の補正処理を行っており、本シミュレーション方法では手順4と本手順6との先後は問わない。また、第1のIV特性について補間処理後に手順4の補正処理を行っていることから、手順5において第1のIV特性と結合する第2のIV特性についても、結合処理前に本手順の補間処理を実行している。
【0095】
具体的には、幾つかのIleak(Eox,tox)が得られているとして、(数11)に示す各式においてx=tox,X=ln[Ileak]として、Lagrange補間を行う。求める任意膜厚toxの電流Iint(tox)は、
int(tox)=exp[F(x)]
で得られる。
図10には、このような補間処理により求めたtox=2.00nm、2.85nm、3.80nmにおけるIV特性も併記している。各グラフから明らかなように、本手順の補間処理方法を採用することで、理にかなったIV特性予測が可能である。
【0096】
【数11】

【0097】
(薄膜トランジスタの製造)
次に、上述したIV特性シミュレーション方法を基にデバイス特性やプロセスを決定して設計された薄膜トランジスタの製造工程について説明する。
ここでは、薄膜トランジスタ中のシリコン基板上のシリコン酸化膜の膜厚およびその成膜方法(プロセス)を上述のIV特性シミュレーション方法を基に決定するものとする。
【0098】
最初に、本発明のIV特性シミュレーション方法を用いて、薄膜トランジスタ中のシリコン基板上のシリコン酸化膜の膜厚およびその成膜方法(プロセス)を決定する方法を説明する。
まず、それぞれ異なる欠陥を有する原子構造モデルを複数作成する(ステップS21)。そして、複数の原子構造モデルそれぞれについて、上述したIV特性シミュレーション方法によりIV特性を算出する(ステップS22)。次いで、それぞれのIV特性を任意の膜厚に拡張する(ステップS23)。それぞれの任意の膜厚におけるIV特性を得たら、それら(理論値)を予め実験で得ておいた実測値と比較する。なお、実験では、複数のプロセスによってシリコン酸化膜を形成し、それらのIV特性を実測しておくものとする。この比較によって、実験に用いた各プロセスでのシリコン酸化膜の原子構造を予測する(ステップS24)。そして、予測された各プロセスでの原子構造のシリコン酸化膜に対して、ステップS23で得られたシミュレーション結果を参照し、所望の特性を得るシリコン酸化膜の膜厚およびプロセスを決定する(ステップS25)。
次に、このようにして決定された膜厚およびプロセスで、薄膜トランジスタを製造する方法について説明する。なお、本実施例では、ガラス等の絶縁基板上に、トランジスタを作製する半導体層としてシリコン薄膜を成膜する場合を例に説明する。
【0099】
先ず、絶縁基板1上に、シリコン原子供給源としてシラン系の反応性ガスを使用することとし、例えばジシラン(Si2H6)ガスを用いた減圧CVD(LPCVD)法や、例えばモノシラン(SiH4)ガスを用いたプラズマエンハンスメントCVD(PECVD)法により、アモルファス状のシリコン膜2を成膜する。
【0100】
これに続き、成膜されたアモルファスシリコン膜2に、アモルファス状態のシリコン原子が結晶化するために必要なエネルギを外部から供給せしめて再結晶化させ多結晶シリコン膜2が形成される。ここで、多結晶のグレインサイズや結晶方位等の結晶性は、上述のデバイスシミュレーションにより、要求されるキャリア移動度等の諸特性が得られるように予め設定されている。また、再結晶化手法は、かかる結晶性を実現するために最適な手法及び条件が選択されることとなるが、例えばエキシマレーザ等を用いて光照射するレーザ結晶化法や熱処理炉中で熱処理を施して固相成長させたりする手法が選択される。
【0101】
このようにして形成された多結晶シリコン膜2は、フォトリソグラフィー技術を用いて所望のパターニングが施され、更に、後にゲート酸化膜として利用されることとなる誘電体膜3が形成される。この誘電体膜は、シリコン酸化膜(SiOx)であり、基板全面に堆積される。誘電体膜3は、その形成方法および膜厚が上述したシミュレーション方法を基に最適なものとして予め決定された熱CVD法を用いて、同様に上述したシミュレーション方法を基に最適なものとして予め決定された膜厚となるように成膜される。
【0102】
次に、閾値調整のために半導体層への不純物ドーピングを行うが、精度の良いドーピングレベル制御が容易かつ正確に行えるイオン注入法を採用している。ドーピングされるべき元素の種類は、薄膜トランジスタの設計により定まるが、本実施例の場合には、n型の薄膜トランジスタの場合について示しており、シリコン結晶中でアクセプタとして作用するIII族不純物のボロン(B)が注入される。
【0103】
上記半導体層中へのドーピング工程に続いて、ゲート電極4を形成するための薄膜形成を行う。ゲート電極材料として選択された金属やポリシリコン等の薄膜をCVD法やスパッタリング法により基板全面に堆積させた後、フォトリソグラフィーにより所望のゲート電極形状となるようにパターニングが施される。
【0104】
更に、ソース領域5及びドレイン領域6の導電型をn+型とするために、例えばリン(P)がイオン注入される。この工程において、既にパターニングされたゲート電極4がマスクとして利用され自己整合的にリン(P)が注入されることとなる。すなわち、ゲート電極直下の多結晶シリコン膜領域へのリン注入はなく、上述のボロンのイオン注入がされた状態が維持される。
【0105】
半導体層領域へのボロン注入、及びソース領域5及びドレイン領域6へのリン注入がなされた後、これらのイオン注入により乱された結晶格子状態を回復させると共にボロンとリンをドーパントとして電気的に活性化するための処理が施される。
【0106】
上記ドーパントの活性化法としては種種の方法が知られているが、例えば基板を長時間高温に保持する熱活性化法を選択すれば、簡単な装置でドーパント活性化が実行できるから低コストで薄膜トランジスタの製造が行えるという利点がある。また、ドーパント活性化は上記の熱活性化法に限定されるものではなく、例えばレーザ活性化法によることとしても良い。なお、ドーパント活性化をレーザ活性化法により行う場合には、図6(a)に示したアモルファスシリコン薄膜の結晶化工程で使用するレーザと同一のレーザ光源を用いることとしても良く、これとは別の異なる波長のレーザ光源を設けて用いることとしても良い。
【0107】
上記ドーパント活性化に続いて、基板上に形成された個々のトランジスタを互いに電気的に絶縁するための層間絶縁膜7を形成し、更に、ソース領域5及びドレイン領域6の上に形成された誘電体膜3及び層間絶縁膜7をフォトリソグラフィ技術により除去してコンタクトホールを開穴した後、ソース電極8及びドレイン電極9用の薄膜を堆積した後、ソース電極8及びドレイン電極9としてパターニングする。このようにして、多結晶薄膜トランジスタが完成する。
【0108】
なお、本実施例では、半導体層の導電型をp型とし、注入されるドーパントとしてボロンを選択し、ゲート電圧−ドレイン電流特性を電圧プラス側にシフトさせているが、例えばアルミニウム(Al)等の他のアクセプタ不純物をドーパントとして選択しても良いことは言うまでもない。また、トランジスタの設計上の要請により半導体層をn型の導電型としても良い。この場合には、リン(P)等のドナー不純物をドーパントとして選択すれば良い。
【0109】
上記実施例では、半導体層へのドーピング手法としてドーパントの質量分析を伴うイオン注入法を選択した例を示しているが、ドーピング手法はこれに限定されるものではない。すなわち、ドーパントの質量分析を伴うことなくドーピングを行う他のドーピング方法であっても良い。特に、質量分析を伴わないイオンドープ法を採用する場合には、イオンドーピングによる半導体層、ゲート絶縁膜、基板絶縁膜、あるいはそれらの界面に存在する転位等の構造的欠陥や固定電荷等の電気的欠陥を低減させることが可能となる利点がある。一方、質量分析を伴うイオン注入法を採用する場合には、余分なイオン衝撃によって、半導体層、ゲート絶縁膜、基板絶縁膜、あるいはそれらの界面に誘起される転位等の構造的欠陥や固定電荷等の電気的欠陥を抑制させることが可能となる。従って、所望する薄膜トランジスタの特性を得るために最適な手法を適宜選択すれば良い。
【0110】
更に、半導体層へのドーピングはアモルファスシリコン層の多結晶化工程後に行う必要はなく、アモルファスシリコンの成膜と同時に行うこととしてもよい。例えばイオンドープ法によりドーピングを行う場合には、トランジスタの母材となるシリコン元素を含むガスとドーパント元素を含むガスを同時に使用してアモルファスシリコン膜を成膜することにより、ドーパントとなる不純物を含有したアモルファスシリコン膜が得られる。
【0111】
なお、チャネル領域、ソース領域、及びドレイン領域への不純物ドーピング工程は、それらの層へのドーピングが実現される限りどのような製造工程順で設定されても良いことは言うまでもない。チャネル領域には必ずしもドーピングを行う必要はない。
【0112】
なお、本実施例では、半導体層に多結晶シリコンを用いた多結晶シリコン薄膜トランジスタに対して本発明のシミュレーション方法を適用したが、半導体層にGaAs等の他の多結晶を用いた多結晶半導体素子に対しても適用可能である。また、単結晶シリコンウェハ上に形成されるバルクのMOSトランジスタ、MISトランジスタのプロセスに本発明のシミュレーション方法を適用することも可能である。
また、本実施例では、本発明のシミュレーション方法を膜厚およびプロセスの決定のために利用したが、他の種々の目的にも適用可能である。
【0113】
(他の形態)
図11は、図1におけるシミュレーション装置10の他の実施形態における構成を示す概略ブロック図である。この図において、シミュレーション装置10は、CPU(中央処理装置)300と、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、ハードディスク装置などの記憶装置から構成される記憶部310と、キーボードやマウスなどの入力装置320と、液晶表示装置などの出力装置330と、ネットワークを介して各種装置と通信を行う通信インタフェース340とがバス350を介して接続された構成を備えている。
【0114】
ここで、図1における処理制御部11、出力部15、入力部12の機能を実現するためのプログラム(例えば、アプリケーションソフトウェア)を記憶部210に記憶しておき、このプログラムをCPU200が読み出して実行することにより、これら各機能を実現させるものであってもよい。
【0115】
また、図1における処理制御部11、出力部15、入力部12の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより物品管理を行ってもよい。尚、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
【0116】
尚、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであっても良い。
また、図1における処理制御部11などの機能をICやLSI等の半導体集積回路(半導体装置)として実現しても良い。
【0117】
また、入力装置320は、キーボードやマウス等であり、出力装置330は、液晶装置やCRT等の表示デバイスである。記憶部310は、図1のデータ記憶部13、プログラム記憶部14に対応する。通信インタフェース340は、CPU200との組み合わせにより、図1の出力部15、入力部12の機能を実現する。
【0118】
以上、この発明の実施形態を図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】実施形態に係るシミュレーション装置の構成図。
【図2】実施形態に係るシミュレーション方法を示すフローチャート。
【図3】実施例に係るデバイス構造を示す断面構成図。
【図4】同、デバイスにおけるSi/SiO2界面構造を示す図。
【図5】実施例に係るデバイスの構造例を示す図。
【図6】実施例に係るデバイスの構造例を示す図。
【図7】実施例に係るデバイスの第1のIV特性を示すグラフ。
【図8】実施例に係るデバイスの第2のIV特性を示すグラフ。
【図9】図7及び図8に示すIV特性を併せて示すグラフ。
【図10】結合処理後のIV特性を示すグラフ。
【図11】シミュレーション装置の他の形態を示す概略構成図。
【符号の説明】
【0120】
10…シミュレーション装置、11…処理制御部、12…入力部、13…データ記憶部、14…プログラム記憶部、15…出力部、21…原子構造作成部、22…電子構造計算部、23…第1のIV特性計算部、24…補正処理部、25…第2のIV特性計算部、26…結合処理部、201…デバイス、202,203…電極、211,212…Si膜、213…SiO2膜(絶縁膜)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デバイスにおける電流−電圧特性のシミュレーション装置であって、
前記デバイスの原子構造モデルを作成する原子構造作成部と、
前記原子構造モデルにおける電子構造を計算する電子構造計算部と、
前記電子構造計算部により計算された電子構造に基づき量子効果及び原子構造を反映させて当該デバイスの電流−電圧特性を算出する第1のIV特性計算部と、
前記電子構造に基づき半古典近似法を用いて電流−電圧特性を算出する第2のIV特性計算部と、
前記第1のIV特性計算部で得られた第1の電流−電圧特性と、前記第2のIV特性計算部で得られた第2の電流−電圧特性とを、両者が近接する位置から低電圧側で前記第1の電流−電圧特性を適用し、前記近接する位置から高電圧側では前記第2の電流ー電圧特性を適用して結合し、当該デバイスの電流−電圧特性を導出する結合処理部と、
を有することを特徴とするシミュレーション装置。
【請求項2】
前記第1のIV特性計算部で得られた第1の電流−電圧特性に対して、電圧補正値による補正処理を実行する補正処理部をさらに備え、
前記結合処理部において、前記補正処理部による補正処理を経た前記第1の電流−電圧特性と、前記第2の電流−電圧特性とを結合することを特徴とする請求項1に記載のシミュレーション装置。
【請求項3】
前記デバイスの原子構造モデルを作成する原子構造作成部において、
第1の物質及び第2の物質と、該第1の物質及び第2の物質との界面を有する第3の物質とを備えたデバイスの原子構造モデルが、凹凸や配位欠陥のない急峻な前記界面を有する原子構造モデルとして作成されることを特徴とする請求項1又は2に記載のシミュレーション装置。
【請求項4】
前記デバイスの原子構造モデルを作成する原子構造作成部において、
SiO2膜と、該SiO2膜と界面を有するSi膜とを備えた前記デバイスの原子構造モデルが、前記Si膜とSiO2膜との間に、凹凸や配位欠陥のない急峻な界面を有する原子構造モデルとして作成されることを特徴とする請求項3に記載のシミュレーション装置。
【請求項5】
前記Si膜と前記SiO2膜との界面が、前記SiO2膜中のSiの酸化価数が3となる位置のSiOx四面体のSiO2膜側にあるSi−O結合の中心位置に設定されることを特徴とする請求項4に記載のシミュレーション装置。
【請求項6】
デバイスの原子構造モデルを作成するステップと、
前記原子構造モデルにおける電子構造を計算するステップと、
前記計算された電子構造に基づき量子効果及び原子構造を反映させて当該デバイスの第1の電流−電圧特性を算出するステップと、
前記電子構造に基づき半古典近似法を用いて第2の電流−電圧特性を算出するステップと、
前記第1の電流−電圧特性と、前記第2の電流−電圧特性とを、両者が近接する位置から低電圧側で前記第1の電流−電圧特性を適用し、前記近接する位置から高電圧側では前記第2の電流ー電圧特性を適用して結合することで、当該デバイスの電流−電圧特性を導出するステップと、
を有することを特徴とするシミュレーション方法。
【請求項7】
前記第1のIV特性計算部で得られた第1の電流−電圧特性に対して、電圧補正値による補正処理を実行するステップをさらに備え、
前記第1の電流−電圧特性と、前記第2の電流−電圧特性とを結合するステップにおいて、前記補正処理後の第1の電流−電圧特性と前記第2の電流−電圧特性とを結合することを特徴とする請求項6に記載のシミュレーション方法。
【請求項8】
前記デバイスの原子構造モデルを作成するステップにおいて、
前記デバイスを、第1の物質及び第2の物質と、該第1の物質及び第2の物質との界面を有する第3の物質と、を備えるデバイスとして設定し、前記第1の物質及び第2の物質と、前記第3の物質との界面を、凹凸や配位欠陥のない急峻な界面として設定することを特徴とする請求項6又は7に記載のシミュレーション方法。
【請求項9】
前記デバイスの原子構造モデルを作成するステップにおいて、
SiO2膜と、該SiO2膜と界面を有するSi膜を備えた前記デバイスの前記Si膜とSiO2膜との界面を、凹凸や配位欠陥のない急峻な界面として設定することを特徴とする請求項8に記載のシミュレーション方法。
【請求項10】
前記Si膜とSiO2膜との界面を、前記SiO2膜中のSiの酸化価数が3となる位置のSiOx四面体のSiO2膜側にあるSi−O結合の中心位置に設定することを特徴とする請求項9に記載のシミュレーション方法。
【請求項11】
デバイスのシミュレーションを実行するコンピュータに、
デバイスの原子構造モデルを作成する処理と、
前記原子構造モデルにおける電子構造を計算する処理と、
前記計算された電子構造に基づき量子効果及び原子構造を反映させて当該デバイスの第1の電流−電圧特性を算出する処理と、
前記第1の電流−電圧特性に対して、電圧補正値による補正処理を実行する処理と、
前記電子構造に基づき半古典近似法を用いて第2の電流−電圧特性を算出する処理と、
前記補正処理後の第1の電流−電圧特性と、前記第2の電流−電圧特性とを、両者が近接する位置から低電圧側で前記第1の電流−電圧特性を適用し、前記近接する位置から高電圧側では前記第2の電流ー電圧特性を適用して結合することで、当該デバイスの電流−電圧特性を導出する結合処理と、
を実行させるためのシミュレーションプログラム。
【請求項12】
デバイスのシミュレーションを実行するコンピュータに、
デバイスの原子構造モデルを作成する処理と、
前記原子構造モデルにおける電子構造を計算する処理と、
前記計算された電子構造に基づき量子効果及び原子構造を反映させて当該デバイスの第1の電流−電圧特性を算出する処理と、
前記第1の電流−電圧特性に対して、電圧補正値による補正処理を実行する処理と、
前記電子構造に基づき半古典近似法を用いて第2の電流−電圧特性を算出する処理と、
前記補正処理後の第1の電流−電圧特性と、前記第2の電流−電圧特性とを、両者が近接する位置から低電圧側で前記第1の電流−電圧特性を適用し、前記近接する位置から高電圧側では前記第2の電流ー電圧特性を適用して結合し、当該デバイスの電流−電圧特性を導出する結合処理と、
を実行させるためのコンピュータプログラムを記録したコンピュータ読取可能な記録媒体。
【請求項13】
請求項1から9のいずれか一項に記載のシミュレーション方法によって導出された電流−電圧特性を基に設計された半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−103919(P2007−103919A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−223022(P2006−223022)
【出願日】平成18年8月18日(2006.8.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】