説明

シリコンウェーハの洗浄方法および洗浄装置

【課題】大口径化したシリコンウェーハであっても、装置が過剰に巨大化せず、かつ使用薬液量も口径の割には低減できる洗浄方法および装置を提供する。
【解決手段】洗浄槽中の洗浄液中でシリコンウェーハを移動させながら洗浄する方法。洗浄槽中に設けられた、表面の一部から水流または気流が噴出する下り斜面を、シリコンウェーハを斜面に接触させることなく自由落下により移動させ、洗浄槽中に設けられた下り斜面に続く上り斜面を、自由落下により移動させたシリコンウェーハを斜面に接触させることなく牽引移動させて、移動の間に洗浄する。底部が入口側からの下り斜面と出口側に向けての上り斜面を有する洗浄槽を含む、シリコンウェーハ洗浄装置。下り斜面は、水流および/または気泡を吹き出す吹き出し口を有し、上り斜面は、シリコンウェーハを斜面に沿って牽引移動させるための手段を有し、シリコンウェーハを前記下り斜面および上り斜面を移動させながら洗浄槽中の洗浄液で洗浄する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウェーハの洗浄方法および洗浄装置に関する。本発明の洗浄方法および洗浄装置は、特に大口径のシリコンウェーハ基板の洗浄に適した方法および装置である。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶から切り出されるシリコンウェーハのサイズは、約10年のサイクルで大口径化している。デバイスメーカーでは、シリコンウェーハのサイズを大口径化することで、デバイスの製造効率を挙げることが望まれている。このような状況から、近い将来現状の直径300mmの1.5倍程度の直径を有する約450mmのシリコンウェーハを製造することが計画されている。
【0003】
従来用いられているシリコンウェーハの洗浄技術は、キャリア式バッチ洗浄方式、キャリアレス式バッチ洗浄方式および自転方式枚葉洗浄方式である(非特許文献1、2)。
【非特許文献1】「超精密ウェーハ表面制御技術」、(株)サイエンスフォーラム (2000年2月28日発刊 第9章:洗浄技術)
【非特許文献2】「新版シリコンウェーハ表面のクリーン化技術」、(株)リアライズ理工センター(2000年5月28日発刊 第6章:シリコンウェーハの洗浄技術)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、従来のバッチ方式の洗浄方式を、そのまま大口径化したシリコンウェーハに適用すると、装置が巨大化し、かつ処理槽の巨大化に伴う使用薬液の増大が必須となり、必然的にコスト問題が発生する。そこで、装置の過剰な巨大化ならびに使用薬液量の低減を考慮した洗浄方法および装置が必要になっている。
【0005】
さらに、基板の大口径化に伴い、各種加工装置の寸法も巨大化することか避けられないため、クリーンルームの有効活用の観点からは、ウェーハの搬送と洗浄を同時に実施することができる技術が必要になると、本発明者らは考えた。
【0006】
そこで本発明の目的は、例えば、直径約450mmに大口径化したシリコンウェーハであっても、装置が過剰に巨大化せず、かつ使用薬液量も口径の割には低減できる洗浄方法および装置を提供することにある。合わせて各種加工プロセス装置間におけるシリコンウェーハ搬送と洗浄を同時に実施することが可能である装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決し本発明の目的を達成するために、本発明者らが種々検討した、洗浄槽中に下り斜面および上り斜面を設け、これらの斜面上をウェーハを移動させ、かつこの移動中にウェーハを洗浄することで、ウェーハ洗浄とウェーハ搬送を両立させることができることを見出して本発明を完成させた。
【0008】
本発明の第1の態様は、洗浄槽中の洗浄液中でシリコンウェーハを移動させながら洗浄する方法であって、
前記洗浄槽中に設けられた、少なくとも表面の一部から水流または気流が噴出する下り斜面を、シリコンウェーハを斜面に接触させることなく自由落下により移動させ、
次いで、前記洗浄槽中に設けられた、前記下り斜面と連続していてもよい上り斜面を、前記自由落下により移動させたシリコンウェーハを斜面に接触させることなく牽引移動させて、
前記移動の間に洗浄することを特徴とするシリコンウェーハの洗浄方法である。
【0009】
本発明の第2の態様は、底部が入口側からの下り斜面と出口側に向けての上り斜面を有し、前記下り斜面と上り斜面との間に平坦面を有するまたは有さない洗浄槽を含む、シリコンウェーハ洗浄装置であって、
前記下り斜面は、水流および/または気泡を吹き出す吹き出し口を有し、
前記上り斜面は、シリコンウェーハを斜面に沿って牽引移動させるための手段を有し、
シリコンウェーハを前記下り斜面および上り斜面を移動させながら洗浄槽中の洗浄液で洗浄するための装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ウェーハ搬送を水流にて実施するため、ウェーハの洗浄処理を搬送と同時に実施することが可能となり、従って、各種加工プロセス前後にワークを滞留させるバッファもしくはストッカー類を必要としない洗浄処理が可能である。洗浄中のウェーハ搬送に外部駆動手段(ローラー、ベルト、ロボット等)を必要としない洗浄方法および装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のシリコンウェーハの洗浄方法は、洗浄槽中の洗浄液中でシリコンウェーハを移動させながら洗浄する方法である。この方法は、前記洗浄槽中に設けられた、少なくとも表面の一部から水流または気流が噴出する下り斜面を、シリコンウェーハを斜面に接触させることなく自由落下により移動させ、次いで、前記洗浄槽中に設けられた、前記下り斜面と連続していてもよい上り斜面を、前記自由落下により移動させたシリコンウェーハを斜面に接触させることなく牽引移動させて、前記移動の間に洗浄することを特徴とする。
【0012】
この本発明のシリコンウェーハの洗浄方法は、例えば、以下の本発明のシリコンウェーハ洗浄装置により実施できる。本発明のシリコンウェーハ洗浄装置は、底部が入口側からの下り斜面と出口側に向けての上り斜面を有し、前記下り斜面と上り斜面との間に平坦面を有するまたは有さない洗浄槽を含む、シリコンウェーハ洗浄装置であって、前記下り斜面は、水流および/または気泡を吹き出す吹き出し口を有し、前記上り斜面は、シリコンウェーハを斜面に沿って牽引移動させるための手段を有する装置である。この装置は、シリコンウェーハを前記下り斜面および上り斜面を移動させながら洗浄槽中の洗浄液で洗浄するための装置である。
【0013】
本発明のシリコンウェーハ洗浄装置を図1に示す、本発明の洗浄装置の概略断面説明図に基づいて説明する。
【0014】
洗浄装置1は、洗浄槽10と洗浄槽10の底部11に入口側12からの下り斜面20と出口側13に向けての上り斜面21を有し、下り斜面20と上り斜面21との間には、平坦面を有しても、有さなくてもよい。図1に示す装置は、平坦面は有さない態様である。
【0015】
洗浄槽10は、シリコンウェーハ洗浄用の、例えば、高純水、超高純水、あるいは洗浄剤含有液等の水溶液を保持するためのものである。洗浄槽の材質は、例えば、石英、テフロン類、パイレックスガラス等を挙げることができる。
【0016】
洗浄槽10の平面形状は、帯状である。平面形状が帯状である洗浄槽10の幅は、1枚の被洗浄シリコンウェーハを順次洗浄する場合には、少なくとも被洗浄シリコンウェーハの直径より大きく、好ましくは被洗浄シリコンウェーハの直径の1.1倍〜2倍の範囲であることができる。また、2枚の被洗浄シリコンウェーハを並列的に順次洗浄することもでき、その場合には、洗浄槽10の幅は、例えば、被洗浄シリコンウェーハの直径の1.5倍〜2.5倍の範囲であることができる。2枚の被洗浄シリコンウェーハを並列的に洗浄する場合、2枚の被洗浄シリコンウェーハを同時に洗浄槽10に搬入することができる。あるいは、2枚の被洗浄シリコンウェーハの搬送レーンが一部重なる状態になるように、交互に洗浄槽10に搬入することもできる。この場合、洗浄槽10の幅は、例えば、被洗浄シリコンウェーハの直径の2倍未満であってもよい。同様に、3枚以上の被洗浄シリコンウェーハを同時に洗浄槽10に搬入することができる。あるいは、3枚の被洗浄シリコンウェーハの搬送レーンが一部重なる状態になるように、順次に洗浄槽10に搬入することもできる。
【0017】
下り斜面20は、水流および/または気泡を吹き出す吹き出し口を有する。シリコンウェーハは、水流または気流が噴出する下り斜面を、斜面に接触することなく自由落下により移動する。下り斜面20は、多孔板で構成されていることができ、多孔板の孔を介して、水流および/または気泡を吹き出すことができる。下り斜面から吹き出す水流および/または気泡は、洗浄液中を、浮力を受けながらも自由落下するシリコンウェーハに、さらなる上方向の力を与えて斜面への接触を抑制して、しかし、自由落下による斜面上での移動を許容する。
【0018】
水流および気泡は、単独でも、共存してもよく、吹き出し量は、シリコンウェーハの斜面への接触は抑制するが、自由落下による斜面上での移動は許容できる量から適宜決定できる。
【0019】
下り斜面の角度は、例えば、10〜45°の範囲であることができる。下り斜面の角度が大きければ、自由落下は容易になるが、斜面への接触抑制はむずかしくなり、下り斜面の角度が小さいと、自由落下は弱くなるが、斜面への接触抑制は容易になる。自由落下の程度と斜面への接触抑制の容易さ等を考慮して、上記角度は適宜決定される。
【0020】
下り斜面20を自由落下によって移動したシリコンウェーハは、平坦面がある場合は、さらに平坦面を移動し、平坦面を移動後に上り斜面21に至り、平坦面がない場合は、上り斜面21を移動する。平坦面の移動方法、移動手段には特に制限はないが、例えば、平坦面も、下り斜面20と同様に多孔板で構成し、多孔板の孔を介して、水流および/または気泡を吹き出すことで、シリコンウェーハを洗浄液中を浮遊させ、それにより、シリコンウェーハの平坦面との接触を抑制し、上り斜面21に設けるのと同様の牽引手段で牽引移動させることができる。
【0021】
上り斜面21は、シリコンウェーハを斜面に沿って牽引移動させるための手段を有する。牽引移動させるための手段30は、例えば、先端にシリコンウェーハの後方部に引係る突起部等を有するアームであって、洗浄槽の外に駆動部を有するロボットアームであることができる。
【0022】
上り斜面21は、好ましくは、下り斜面20と同様に、斜面を多孔板で構成し、少なくとも表面の一部から水流または気流が噴出することが、シリコンウェーハの斜面への接触を抑制するという観点からは好ましい。上り斜面の角度は10〜45°の範囲であることができる。上り斜面の角度が大きければ、牽引移動距離は短くなり、斜面への接触抑制も容易である。それに対して、上り斜面の角度が小さいと、牽引移動距離は長くなり(装置の平面積も大きくなる)、斜面への接触抑制も相対的に難しくなる。牽引移動距離と斜面への接触抑制の容易さ等を考慮して、上記角度は適宜決定される。
【0023】
下り斜面20の角度と上り斜面の角度21は、同一でも、異なってもよい。
【0024】
図1には3つの洗浄槽を連結した態様を示した。このように複数の洗浄槽を順次設けて、連続してシリコンウェーハSWを洗浄することもできる。洗浄槽10内へのシリコンウェーハSWの搬入は、前述のようにロボットアーム等を既存の手段を利用できる。複数の洗浄槽10を隣接して設け、隣接する洗浄槽10の境界部にローラーを設けることで、牽引手段30で槽上部まで移動したウェーハは、境界部ローラーに従った形で次槽へ投入され、以降、同様処理にてウェーハの連続湿式処理を行うことができる。図1には3つの洗浄槽を示したが、4つ以上の洗浄槽を連続して設けて、ことなく洗浄液(洗浄液)で順次洗浄することもできる。
【0025】
被洗浄シリコンウェーハSWは、シリコンウェーハ以外の半導体からなるものでよく、また、サイズは、φ200mm、φ300mm、その他、φ450mm等どのような口径のウェーハにも適応可能である。しかし、特に、大型化した、直径400〜650mmの範囲にあるシリコンウェーハの洗浄に、本発明の方法および装置は好適である。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
【0027】
図1に示す洗浄槽下部に複数の斜め方向噴出口を並列に設けたシリコンウェーハ洗浄装置を用いて、ポンプ等にて陽圧した水流を噴射することで形成される水流に乗せてφ450mmシリコンウェーハを搬送しつつ洗浄した。
【0028】
各洗浄槽のサイズは、幅500mm×長さ1000mm×薬液貯留部最大深さ300mmである。
【0029】
洗浄槽に設けた下り斜面の角度は30°であり、上り斜面の角度は30°である。下り斜面を構成する多孔板は、ポア径1mmのPTFE製多孔板にて作成されたものであり、この多孔板から1L/minの流量にて水流を噴射させ、下り斜面とシリコンウェーハとの接触を抑制した。
【産業上の利用可能性】
【0030】
シリコンウェーハ製造分野に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明のシリコンウェーハ洗浄装置の概略断面説明図。
【符号の説明】
【0032】
10 洗浄槽
20 下り斜面
21 上り斜面
30 牽引移動手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄槽中の洗浄液中でシリコンウェーハを移動させながら洗浄する方法であって、
前記洗浄槽中に設けられた、少なくとも表面の一部から水流または気流が噴出する下り斜面を、シリコンウェーハを斜面に接触させることなく自由落下により移動させ、
次いで、前記洗浄槽中に設けられた、前記下り斜面と連続していてもよい上り斜面を、前記自由落下により移動させたシリコンウェーハを斜面に接触させることなく牽引移動させて、
前記移動の間に洗浄することを特徴とするシリコンウェーハの洗浄方法。
【請求項2】
下り斜面の角度は10〜45°の範囲であり、上り斜面の角度は10〜45°の範囲であり、下り斜面の角度と上り斜面の角度は、同一または異なってもよい請求項1に記載の洗浄方法。
【請求項3】
前記上り斜面は、少なくとも表面の一部から水流または気流が噴出する請求項1または2に記載の洗浄方法。
【請求項4】
斜面から噴出する水流または気流は、斜面を構成する多孔板表面から吹き出す請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記洗浄槽は、下り斜面と上り斜面との間に平坦面を有し、該平坦面は少なくとも表面の一部から水流または気流が噴出する請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
被洗浄シリコンウェーハの直径は400〜650mmの範囲である請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
底部が入口側からの下り斜面と出口側に向けての上り斜面を有し、前記下り斜面と上り斜面との間に平坦面を有するまたは有さない洗浄槽を含む、シリコンウェーハ洗浄装置であって、
前記下り斜面は、水流および/または気泡を吹き出す吹き出し口を有し、
前記上り斜面は、シリコンウェーハを斜面に沿って牽引移動させるための手段を有し、
シリコンウェーハを前記下り斜面および上り斜面を移動させながら洗浄槽中の洗浄液で洗浄するための装置。
【請求項8】
前記上り斜面および/または平坦面は、水流および/または気泡を吹き出す吹き出し口を有する請求項7に記載の洗浄装置。
【請求項9】
前記下り斜面、上り斜面および/または平坦面は、多孔板で構成されている請求項7または8に記載の洗浄装置。
【請求項10】
下り斜面の角度は10〜45°の範囲であり、上り斜面の角度は10〜45°の範囲であり、下り斜面の角度と上り斜面の角度は、同一または異なってもよい請求項7〜9のいずれかに記載の洗浄装置。

【図1】
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【公開番号】特開2009−289779(P2009−289779A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137520(P2008−137520)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
2.パイレックス
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】