説明

シリコン窒化膜の成膜方法、有機電子デバイスの製造方法及びシリコン窒化膜の成膜装置

【課題】基板の温度が100℃以下の低温環境下において、基板上にシリコン窒化膜を適切に成膜し、当該シリコン窒化膜の膜特性を向上させる。
【解決手段】ガラス基板G上にアノード層20、発光層21、カソード層22、シリコン窒化膜23を順次成膜して、有機ELデバイスAを製造する。シリコン窒化膜23は、プラズマ成膜装置の処理容器内にシランガス、窒素ガス及び水素ガスを含む処理ガスを供給し、処理容器内の基板の温度を100℃以下に維持し、且つ処理容器内の圧力を20Pa〜60Paに維持した状態で、処理ガスを励起させてプラズマを生成し、当該プラズマによるプラズマ処理を行って成膜される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン窒化膜の成膜方法、有機電子デバイスの製造方法及びシリコン窒化膜の成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機物層を含む発光デバイスである有機エレクトロルミネッセンス(EL:Electro Luminescence)を利用した有機EL素子が開発されている。有機EL素子は自発光するので消費電力が小さく、また、液晶ディスプレー(LCD)などに比べて視野角が優れている等の利点があり、今後の発展が期待されている。
【0003】
この有機EL素子の最も基本的な構造は、ガラス基板上にアノード(陽極)層、発光層及びカソード(陰極)層を重ねて形成したサンドイッチ構造である。このうち発光層は、水分や酸素に弱く、水分や酸素が混入すると、特性が変化して非発光点(ダークスポット)が発生し、有機EL素子の寿命を縮める一因となる。このため、有機電子デバイスの製造において、外部の水分や酸素をデバイス内に透過させないように有機素子を封止することが行われている。すなわち、有機電子デバイスの製造では、ガラス基板上にアノード層、発光層、カソード層を順に成膜し、更に封止膜層を成膜している。
【0004】
上述した封止膜としては、例えばシリコン窒化膜(SiN膜)が用いられる。このシリコン窒化膜は、例えばプラズマCVD(Chemical Vapor Deposiotion)により形成される。具体的には、例えばマイクロ波のパワーによりシラン(SiH)ガスや窒素(N)ガスを含む原料ガスを励起させてプラズマを生成し、生成されたプラズマを用いてシリコン窒化膜を形成する。また、有機EL素子はガラス基板の温度が100℃以上の高温になるとダメージを受けるおそれがあるため、シリコン窒化膜は100℃以下の低温環境下で形成される(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−219112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載した方法を用いた場合、シリコン窒化膜は低温環境下で形成されるため、当該シリコン窒化膜の膜特性が低下するおそれがあった。具体的には、例えばシリコン窒化膜のステップカバレッジ(段差被覆性)や膜質(例えばフッ酸に対するウェットエッチングレートに関連する緻密度)が低い場合があり、またシリコン窒化膜の膜ストレス(膜応力)が適切でない場合があった。
【0007】
なお、上述では有機電子デバイスの封止膜としてガラス基板上にシリコン窒化膜を形成する場合について説明したが、かかる問題は有機電子デバイスの封止膜以外の用途でシリコン窒化膜を形成する場合にも生じるおそれがある。すなわち、基板の温度が例えば100℃以下の低温環境下で基板上にシリコン窒化膜を形成する際には、上述と同様にシリコン窒化膜の膜質が低下するおそれがある。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、基板の温度が100℃以下の低温環境下において、基板上にシリコン窒化膜を適切に成膜し、当該シリコン窒化膜の膜特性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するため、本発明の一の観点によれば、処理容器内に収容された基板上にシリコン窒化膜を成膜する成膜方法であって、前記処理容器内に有機シランガス、窒素(N)ガス及び水素(H)ガスを含む処理ガスを供給し、前記処理ガスを励起させてプラズマを生成し、当該プラズマによるプラズマ処理を行って基板上にシリコン窒化膜を成膜することを特徴としている。
【0010】
発明者らが鋭意検討した結果、プラズマ成膜方法によって基板上にシリコン窒化膜を成膜する際、有機シランガス、窒素ガス及び水素ガスを含む処理ガスを用いると、シリコン窒化膜のウェットエッチングレートについてのエッチング特性が向上することが分かった。具体的には、処理ガスに水素ガスを添加することで、ウェットエッチングレートが低下したり、シリコン窒化膜のステップカバレッジが向上することが分かった。また、処理ガスへの水素ガスの添加量を増大させると、シリコン窒化膜の膜ストレスがマイナス側になる。すなわちシリコン窒化膜の膜ストレスを適切に制御できることが分かった。したがって、本発明によれば、処理容器内の基板の温度が例えば100℃以下の低温環境下であっても、基板上に成膜されるシリコン窒化膜の成膜の制御性を向上させることができる。なお、このように処理ガスへの水素ガスの添加により膜特性の制御性が向上することについては、後述において詳しく説明する。
【0011】
前記シリコン窒化膜は、有機電子デバイスの封止膜として用いられてもよい。
【0012】
前記プラズマによるプラズマ処理中、前記処理容器内の圧力を20Pa〜60Paに維持してもよい。
【0013】
前記シリコン窒化膜の膜応力(膜ストレス)を制御するにあたっては、前記水素ガスの供給流量を制御するのが好ましい。
【0014】
前記プラズマは、マイクロ波によって前記処理ガスが励起されて生成されるようにしてもよい。
【0015】
前記マイクロ波のパワーを制御して、前記シリコン窒化膜の膜応力を制御してもよい。
【0016】
前記処理ガスは、前記シリコン窒化膜を成膜するための原料ガスと、前記プラズマを生成するためのプラズマ励起用ガスとを含み、前記原料ガスの供給は、前記プラズマ励起用ガスによる前記プラズマの生成と同時又は前記プラズマの生成前に行われるようにしてもよい。なお、原料ガスには例えば有機シランガス、窒素ガス、水素ガス等が用いられ、プラズマ励起用ガスには例えばアルゴンガス、窒素ガス、水素ガス等が用いられる。
【0017】
前記処理容器内に供給される前記処理ガスにおいて、前記有機シランガスの供給流量に対する前記窒素ガスの供給流量の比は、1〜1.5であるのが好ましい。
【0018】
本発明の別な観点によれば、有機電子デバイスの製造方法であって、基板上に有機素子を形成し、その後、当該基板を収容した処理容器内に有機シランガス、窒素ガス及び水素ガスを含む処理ガスを供給し、前記処理ガスを励起させてプラズマを生成し、当該プラズマによるプラズマ処理を行って、前記有機素子を覆うように封止膜としてシリコン窒化膜を成膜することを特徴としている。
【0019】
前記プラズマによるプラズマ処理中、前記処理容器内の圧力を20Pa〜60Paに維持してもよい。
【0020】
前記シリコン窒化膜の膜応力を制御するにあたっては、前記水素ガスの供給流量を制御するのが好ましい。
【0021】
前記プラズマは、マイクロ波によって前記処理ガスが励起されて生成されるようにしてもよい。
【0022】
前記マイクロ波のパワーを制御して、前記シリコン窒化膜の膜応力を制御してもよい。
【0023】
前記処理ガスは、前記シリコン窒化膜を成膜するための原料ガスと、前記プラズマを生成するためのプラズマ励起用ガスとを含み、前記原料ガスの供給は、前記プラズマ励起用ガスによる前記プラズマの生成と同時又は前記プラズマの生成前に行われるようにしてもよい。
【0024】
前記処理容器内に供給される前記処理ガスにおいて、前記有機シランガスの供給流量に対する前記窒素ガスの供給流量の比は、1〜1.5であるのが好ましい。
【0025】
また本発明の別な観点によれば、基板上にシリコン窒化膜を成膜する成膜装置であって、基板を収容し処理する処理容器と、前記処理容器内に、有機シランガス、窒素ガス及び水素ガスを含む処理ガスを供給する処理ガス供給部と、前記処理ガスを励起させてプラズマを生成するプラズマ励起部と、前記プラズマによるプラズマ処理を行って基板上にシリコン窒化膜を成膜するように、前記処理ガス供給部と前記プラズマ励起部を制御する制御部と、を有することを特徴としている。
【0026】
前記シリコン窒化膜は、有機電子デバイスの封止膜として用いられてもよい。
【0027】
前記制御部は、前記プラズマによるプラズマ処理中、前記処理容器内の圧力を20Pa〜60Paに維持するように、前記処理ガス供給部を制御してもよい。
【0028】
前記制御部は、前記水素ガスの供給流量を制御して、前記シリコン窒化膜の膜応力を制御してもよい。
【0029】
前記プラズマ励起部は、マイクロ波を供給して前記処理ガスを励起してもよい。
【0030】
前記制御部は、前記マイクロ波のパワーを制御して、前記シリコン窒化膜の膜応力を制御してもよい。
【0031】
前記処理ガスは、前記シリコン窒化膜を成膜するための原料ガスと、前記プラズマを生成するためのプラズマ励起用ガスとを含み、前記制御部は、前記原料ガスの供給が、前記プラズマ励起用ガスによる前記プラズマの生成と同時又は前記プラズマの生成前に行われるように、前記処理ガス供給部と前記プラズマ励起部を制御してもよい。
【0032】
前記制御部は、前記有機シランガスの供給流量に対する前記窒素ガスの供給流量の比が1〜1.5になるように、前記処理ガス供給部を制御してもよい。
【0033】
前記処理ガスは、前記シリコン窒化膜を成膜するための原料ガスと、前記プラズマを生成するためのプラズマ励起用ガスとを含み、前記処理容器の上部には、前記プラズマ励起部が設けられ、前記処理容器の下部には、基板を載置する載置部が設けられ、前記プラズマ励起部と前記載置部との間には、前記処理容器内を区画し、前記処理ガス供給部を構成するプラズマ励起用ガス供給構造体及び原料ガス供給構造体が設けられ、前記プラズマ励起用ガス供給構造体には、前記プラズマ励起部側の領域に前記プラズマ励起用ガスを供給するプラズマ励起用ガス供給口と、前記プラズマ励起部側の領域で生成された前記プラズマを前記載置部側の領域に通過させる開口部とが形成され、前記原料ガス供給構造体には、前記載置部側の領域に前記原料ガスを供給する原料ガス供給口と、前記プラズマ励起部側の領域で生成された前記プラズマを前記載置部側の領域に通過させる開口部とが形成されていてもよい。
【0034】
前記プラズマ励起用ガス供給構造体は、前記プラズマ励起部から30mm以内の位置に配置されていてもよい。
【0035】
前記原料ガス供給口は、水平方向に向けて形成されていてもよい。
【0036】
前記原料ガス供給口は、その内径が内側から外側に向かってテーパ状に拡大するように形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、基板の温度が100℃以下の低温環境下において、基板上にシリコン窒化膜を適切に成膜し、当該シリコン窒化膜の膜特性の制御性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本実施の形態にかかる有機ELデバイスの製造方法を実施するための基板処理システムの構成の概略を示す説明図である。
【図2】本実施の形態にかかる有機ELデバイスの製造工程を示す説明図である。
【図3】プラズマ成膜装置の構成の概略を示す縦断面図である。
【図4】原料ガス供給構造体の平面図である。
【図5】プラズマ励起用ガス供給構造体の平面図である。
【図6】本実施の形態にかかるプラズマ成膜方法を用いた場合において、水素ガスの供給流量とシリコン窒化膜のウェットエッチングレートとの関係を示すグラフである。
【図7】本実施の形態にかかるプラズマ成膜方法を用いた場合において、水素ガスの供給流量とシリコン窒化膜の膜ストレスとの関係を示すグラフである。
【図8】本実施の形態にかかるプラズマ成膜方法を用いた場合において、マイクロ波のパワーとシリコン窒化膜の膜ストレスとの関係を示すグラフである。
【図9】本実施の形態のようにシランガス、窒素ガス及び水素ガスを含む処理ガスを用いてシリコン窒化膜を成膜した場合と、従来のようにシランガスとアンモニアガスを含む処理ガスを用いてシリコン窒化膜を成膜した場合とを比較した説明図である。
【図10】他の実施の形態にかかる原料ガス供給構造体の平面図である。
【図11】他の実施の形態にかかる原料ガス供給管の断面図である。
【図12】他の実施の形態にかかる原料ガス供給管の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0040】
先ず、本発明の実施の形態にかかる有機電子デバイスの製造方法について、当該製造方法を実施するための基板処理システムと共に説明する。図1は、基板処理システム1の構成の概略を示す説明図である。図2は、有機ELデバイスの製造工程を示す説明図である。なお、本実施の形態では、有機電子デバイスとして有機ELデバイスを製造する場合について説明する。
【0041】
図1に示すようにクラスタ型の基板処理システム1は、搬送室10を有している。搬送室10は、例えば平面視において略多角形状(図示の例では六角形状)を有し、内部を密閉可能に構成されている。搬送室10の周囲には、ロードロック室11、洗浄装置12、蒸着装置13、スパッタリング装置14、エッチング装置15、プラズマ成膜装置16が、平面視において時計回転方向にこの順で並ぶように配置されている。
【0042】
搬送室10の内部には、屈伸および旋回可能な多関節状の搬送アーム17が設けられている。この搬送アーム17によって、基板としてのガラス基板がロードロック室11及び各処理装置12〜16に搬送される。
【0043】
ロードロック室11は、大気系から搬送されたガラス基板を、減圧状態にある搬送室10に搬送するために内部を所定の減圧状態に保持した真空搬送室である。
【0044】
なお、プラズマ成膜装置16の構成については後述において詳しく説明する。また、その他の処理装置である洗浄装置12、蒸着装置13、スパッタリング装置14、エッチング装置15については、一般的な装置を用いればよく、その構成の説明は省略する。
【0045】
次に、以上のように構成された基板処理システム1において行われる有機ELデバイスの製造方法について説明する。
【0046】
図2(a)に示すように、ガラス基板Gの上面には、予めアノード(陽極)層20が成膜されている。アノード層20は、例えばインジウムスズ酸化物(ITO:Indium Tin Oxide)等の透明な導電性材料よりなる。なお、アノード層20は、例えばスパッタリング法などによりガラス基板Gの上面に形成される。
【0047】
そして、洗浄装置12において、ガラス基板G上のアノード層20の表面をクリーニングした後、図2(a)に示すように、蒸着装置13において、アノード層20上に発光層(有機層)21が蒸着法によって成膜される。なお、発光層21は、例えば、ホール輸送層、非発光層(電子ブロック層)、青発光層、赤発光層、緑発光層、電子輸送層を積層した多層構成などからなる。
【0048】
次に、図2(b)に示すように、スパッタリング装置14において、発光層21の上に例えばAg、Al等からなるカソード(陰極)層22が形成される。カソード層22は、例えばスパッタリングによりパターンマスクを介して発光層21上にターゲット原子が堆積することにより形成される。なお、これらアノード層20、発光層21及びカソード層22が本発明の有機EL素子を構成しており、以下において単に「有機EL素子」という場合がある。
【0049】
次に、図2(c)に示すように、エッチング装置15において、カソード層22をマスクとして、発光層21がドライエッチングされる。こうして発光層21が所定のパターンにパターニングされる。
【0050】
なお、発光層21のエッチング後、有機EL素子及びガラス基板G(アノード層20)の露出部分をクリーニングして、有機EL素子に吸着した物質、例えば有機物等を取り除く、いわゆるプリクリーニングが行われてもよい。さらにプリクリーニング後、例えばカップリング剤を用いたシリル化処理を行い、カソード層22上に極薄い密着層(図示せず)を形成してもよい。この密着層と有機EL素子とは強固に密着すると共に、密着層と後述するシリコン窒化膜23とは強固に密着する。
【0051】
次に、図2(d)に示すように、プラズマ成膜装置16において、発光層21及びカソード層22の周囲と、アノード層20の露出部を覆うように、例えば封止膜であるシリコン窒化膜(SiN膜)23が成膜される。このシリコン窒化膜23の形成は、後述するように例えばマイクロ波プラズマCVD法によって行われる。
【0052】
このようにして、製造された有機ELデバイスAは、アノード層20とカソード層22の間に電圧を加えることによって、発光層21を発光させることができる。かかる有機ELデバイスAは、表示装置や面発光素子(照明・光源等)に適用することができ、その他、種々の電子機器に用いることが可能である。
【0053】
次に、上述したシリコン窒化膜23を成膜する成膜方法について、当該シリコン窒化膜23を成膜するプラズマ成膜装置16と共に説明する。図3は、プラズマ成膜装置16の構成の概略を示す縦断面図である。なお、本実施の形態のプラズマ成膜装置16は、ラジアルラインスロットアンテナを用いてプラズマを発生させるCVD装置である。
【0054】
プラズマ成膜装置16は、例えば上面が開口した有底円筒状の処理容器30を備えている。処理容器30は、例えばアルミニウム合金により形成されている。また処理容器30は、接地されている。処理容器30の底部のほぼ中央部には、例えばガラス基板Gを載置するための載置部としての載置台31が設けられている。
【0055】
載置台31には、例えば電極板32が内蔵されており、電極板32は、処理容器30の外部に設けられた直流電源33に接続されている。この直流電源33により載置台31の表面に静電気力を生じさせて、ガラス基板Gを載置台31上に静電吸着することができる。なお、電極板32は、例えばバイアス用高周波電源(図示せず)に接続されていてもよい。
【0056】
処理容器30の上部開口には、例えば気密性を確保するためのOリングなどのシール材40を介して、誘電体窓41が設けられている。この誘電体窓41によって処理容器30内が閉鎖されている。誘電体窓41の上部には、プラズマ生成用のマイクロ波を供給するプラズマ励起部としてのラジアルラインスロットアンテナ42が設けられている。なお、誘電体窓41には例えばアルミナ(Al)が用いられる。かかる場合、誘電体窓41は、ドライクリーニングで用いられる三フッ化窒素(NF)ガスに耐性を有する。また、さらに三フッ化窒素ガスに対する耐性を向上させるため、誘電体窓41のアルミナの表面にイットリア(Y)、スピネル(MgAl)、又は窒化アルミニウム(AlN)を被覆してもよい。
【0057】
ラジアルラインスロットアンテナ42は、下面が開口した略円筒状のアンテナ本体50を備えている。アンテナ本体50の下面の開口部には、多数のスロットが形成された円盤状のスロット板51が設けられている。アンテナ本体50内のスロット板51の上部には、低損失誘電体材料により形成された誘電体板52が設けられている。アンテナ本体50の上面には、マイクロ波発振装置53に通じる同軸導波管54が接続されている。マイクロ波発振装置53は、処理容器30の外部に設置されており、ラジアルラインスロットアンテナ42に対し、所定周波数、例えば2.45GHzのマイクロ波を発振できる。かかる構成により、マイクロ波発振装置53から発振されたマイクロ波は、ラジアルラインスロットアンテナ42内に伝搬され、誘電体板52で圧縮され短波長化された後、スロット板51で円偏波を発生させ、誘電体窓41から処理容器30内に向けて放射される。
【0058】
処理容器30内の載置台31とラジアルラインスロットアンテナ42との間には、例えば略平板形状の原料ガス供給構造体60が設けられている。原料ガス供給構造体60は、外形が平面から見て少なくともガラス基板Gの直径よりも大きい円形状に形成されている。この原料ガス供給構造体60によって、処理容器30内は、ラジアルラインスロットアンテナ42側のプラズマ生成領域R1と、載置台31側の原料ガス解離領域R2とに区画されている。なお、原料ガス供給構造体60には例えばアルミナを用いるのがよい。かかる場合、アルミナはセラミックスであるため、アルミニウム等の金属材料に比べ高耐熱性や高強度を有する。また、プラズマ生成領域R1で生成されたプラズマをトラップすることもないので、ガラス基板に対して十分なイオン照射を得ることができる。そして、ガラス基板上の膜への十分なイオン照射によって、緻密な膜を生成することができる。また、原料ガス供給構造体60は、ドライクリーニングで用いられる三フッ化窒素ガスに耐性を有する。さらに、三フッ化窒素ガスに対する耐性を向上させるため、原料ガス供給構造体60のアルミナの表面にイットリア、スピネル又は窒化アルミニウムを被覆してもよい。
【0059】
原料ガス供給構造体60は、図4に示すように同一平面上で略格子状に配置された一続きの原料ガス供給管61により構成されている。原料ガス供給管61は、軸方向から見て縦断面が方形に形成されている。原料ガス供給管61同士の隙間には、多数の開口部62が形成されている。原料ガス供給構造体60の上側のプラズマ生成領域R1で生成されたプラズマとラジカルは、この開口部62を通過して載置台31側の原料ガス解離領域R2に進入できる。
【0060】
原料ガス供給構造体60の原料ガス供給管61の下面には、図3に示すように多数の原料ガス供給口63が形成されている。これらの原料ガス供給口63は、原料ガス供給構造体60面内において均等に配置されている。原料ガス供給管61には、処理容器30の外部に設置された原料ガス供給源64に連通するガス管65が接続されている。原料ガス供給源64には、例えば原料ガスとして、有機シランガスであるシラン(SiH)ガスと水素(H)ガスが個別に封入されている。ガス管65には、バルブ66、マスフローコントローラ67が設けられている。かかる構成によって、原料ガス供給源64からガス管65を通じて原料ガス供給管61に所定流量のシランガスと水素ガスがそれぞれ導入される。そして、これらシランガスと水素ガスは、各原料ガス供給口63から下方の原料ガス解離領域R2に向けて供給される。
【0061】
プラズマ生成領域R1の外周面を覆う処理容器30の内周面には、プラズマの原料となるプラズマ励起用ガスを供給する第1のプラズマ励起用ガス供給口70が形成されている。第1のプラズマ励起用ガス供給口70は、例えば処理容器30の内周面に沿って複数箇所に形成されている。第1のプラズマ励起用ガス供給口70には、例えば処理容器30の側壁部を貫通し、処理容器30の外部に設置された第1のプラズマ励起用ガス供給源71に通じる第1のプラズマ励起用ガス供給管72が接続されている。第1のプラズマ励起用ガス供給管72には、バルブ73、マスフローコントローラ74が設けられている。かかる構成によって、処理容器30内のプラズマ生成領域R1内には、側方から所定流量のプラズマ励起用ガスを供給することができる。本実施の形態においては、第1のプラズマ励起用ガス供給源71に、プラズマ励起用ガスとして、例えばアルゴン(Ar)ガスが封入されている。
【0062】
原料ガス供給構造体60の上面には、例えば当該原料ガス供給構造体60と同様の構成を有する略平板形状のプラズマ励起用ガス供給構造体80が積層され配置されている。プラズマ励起用ガス供給構造体80は、図5に示すように格子状に配置された第2のプラズマ励起用ガス供給管81により構成されている。なお、プラズマ励起用ガス供給構造体80には例えばアルミナが用いられるとよい。かかる場合においても、上述したようにアルミナはセラミックスであるため、アルミニウム等の金属材料に比べ高耐熱性や高強度を有する。また、プラズマ生成領域R1で生成されたプラズマをトラップすることもないので、ガラス基板に対して十分なイオン照射を得ることができる。そして、ガラス基板上の膜への十分なイオン照射によって、緻密な膜を生成することができる。また、プラズマ励起用ガス供給構造体80は、ドライクリーニングで用いられる三フッ化窒素ガスに耐性を有する。さらに、三フッ化窒素ガスに対する耐性を向上させるため、プラズマ励起用ガス供給構造体80のアルミナの表面にイットリア又はスピネルを被覆してもよい。
【0063】
第2のプラズマ励起用ガス供給管81の上面には、図3に示すように複数の第2のプラズマ励起用ガス供給口82が形成されている。これらの複数の第2のプラズマ励起用ガス供給口82は、プラズマ励起用ガス供給構造体80面内において均等に配置されている。これにより、プラズマ生成領域R1に対し下側から上方に向けてプラズマ励起用ガスを供給できる。なお、本実施の形態では、このプラズマ励起用ガスは例えばアルゴンガスである。また、アルゴンガスに加えて、原料ガスである窒素(N)ガスもプラズマ励起用ガス供給構造体80からプラズマ生成領域R1に対して供給される。
【0064】
格子状の第2のプラズマ励起用ガス供給管81同士の隙間には、開口部83が形成されており、プラズマ生成領域R1で生成されたプラズマとラジカルは、プラズマ励起用ガス供給構造体80と原料ガス供給構造体60を通過して下方の原料ガス解離領域R2に進入できる。
【0065】
第2のプラズマ励起用ガス供給管81には、処理容器30の外部に設置された第2のプラズマ励起用ガス供給源84に連通するガス管85が接続されている。第2のプラズマ励起用ガス供給源84には、例えばプラズマ励起用ガスであるアルゴンガスと原料ガスである窒素ガスが個別に封入されている。ガス管85には、バルブ86、マスフローコントローラ87が設けられている。かかる構成によって、第2のプラズマ励起用ガス供給口82からプラズマ生成領域R1に対し、所定流量の窒素ガスとアルゴンガスをそれぞれ供給できる。
【0066】
なお、上述した原料ガスとプラズマ励起用ガスが本発明の処理ガスを構成している。また、原料ガス供給構造体60とプラズマ励起用ガス供給構造体80が本発明の処理ガス供給部を構成している。
【0067】
処理容器30の底部の載置台31を挟んだ両側には、処理容器30内の雰囲気を排気するための排気口90が設けられている。排気口90には、ターボ分子ポンプなどの排気装置91に通じる排気管92が接続されている。この排気口90からの排気により、処理容器30内を所定の圧力、例えば後述するように20Pa〜60Paに維持できる。
【0068】
以上のプラズマ成膜装置16には、制御部100が設けられている。制御部100は、例えばコンピュータであり、プログラム格納部(図示せず)を有している。プログラム格納部には、プラズマ成膜装置16におけるガラス基板G上へのシリコン窒化膜23の成膜処理を制御するプログラムが格納されている。また、プログラム格納部には、上述の原料ガスの供給や、プラズマ励起用ガスの供給、マイクロ波の放射、駆動系の動作等を制御して、プラズマ成膜装置16における成膜処理を実現させるためのプログラムも格納されている。なお、前記プログラムは、例えばコンピュータ読み取り可能なハードディスク(HD)、フレキシブルディスク(FD)、コンパクトディスク(CD)、マグネットオプティカルデスク(MO)、メモリーカードなどのコンピュータに読み取り可能な記憶媒体に記録されていたものであって、その記憶媒体から制御部100にインストールされたものであってもよい。
【0069】
次に、以上のように構成されたプラズマ成膜装置16において行われるシリコン窒化膜23の成膜方法について説明する。
【0070】
先ず、例えばプラズマ成膜装置16の立ち上げ時に、第1のプラズマ励起用ガス供給口70から供給されるアルゴンガスの供給流量と第2のプラズマ励起用ガス供給口82から供給されるアルゴンガスの供給流量が、プラズマ生成領域R1内に供給されるアルゴンガスの濃度が均一になるように調整される。この供給流量調整では、例えば排気装置91を稼動させ、処理容器30内に実際の成膜処理時と同じような気流を形成した状態で、各プラズマ励起用ガス供給口70、82から適当な供給流量に設定されたアルゴンガスが供給される。そして、その供給流量設定で、実際に試験用の基板に成膜が施され、その成膜が基板面内で均一に行われたか否かが検査される。プラズマ生成領域R1内のアルゴンガスの濃度が均一の場合に、基板面内の成膜が均一に行われるので、検査の結果、成膜が基板面内において均一に行われていない場合には、各アルゴンガスの供給流量の設定が変更され、再度試験用の基板に成膜が施される。これを繰り返して、成膜が基板面内において均一に行われプラズマ生成領域R1内のアルゴンガスの濃度が均一になるように、各プラズマ励起用ガス供給口70、82からの供給流量が設定される。
【0071】
上述したように各プラズマ励起用ガス供給口70、82の供給流量が設定された後、プラズマ成膜装置16におけるガラス基板Gの成膜処理が開始される。先ず、ガラス基板Gが処理容器30内に搬入され、載置台31上に吸着保持される。このとき、ガラス基板Gの温度は100℃以下、例えば50℃〜100℃に維持される。続いて、排気装置91により処理容器30内の排気が開始され、処理容器30内の圧力が所定の圧力、例えば20Pa〜60Paに減圧され、その状態が維持される。なお、ガラス基板Gの温度は100℃以下に限定されず、有機ELデバイスAがダメージを受けない温度であればよく、当該有機ELデバイスAの材質等によって決まる。
【0072】
ここで、発明者らが鋭意検討した結果、処理容器30内の圧力が20Paより低いとガラス基板G上にシリコン窒化膜23を適切に成膜することができないおそれがあることが分かった。また、処理容器30内の圧力が60Paを超えると、気相中でのガス分子間の反応が増加し、パーティクルが発生するおそれがあることが分かった。このため、上述のように処理容器30内の圧力を20Pa〜60Paに維持した。
【0073】
処理容器30内が減圧されると、プラズマ生成領域R1内に、側方の第1のプラズマ励起用ガス供給口70からアルゴンガスが供給されると共に、下方の第2のプラズマ励起用ガス供給口82から窒素ガスとアルゴンガスが供給される。このとき、プラズマ生成領域R1内のアルゴンガスの濃度は、プラズマ生成領域R1内において均等に維持される。また、窒素ガスは例えば21sccmの流量で供給される。ラジアルラインスロットアンテナ42からは、直下のプラズマ生成領域R1に向けて、例えば2.45GHzの周波数で2.5kW〜3.0kWのパワーのマイクロ波が放射される。このマイクロ波の放射によって、プラズマ生成領域R1内においてアルゴンガスがプラズマ化され、窒素ガスがラジカル化(或いはイオン化)する。なお、このとき、下方に進行するマイクロ波は、生成されたプラズマに吸収される。この結果、プラズマ生成領域R1内には、高密度のプラズマが生成される。
【0074】
プラズマ生成領域R1内で生成されたプラズマとラジカルは、プラズマ励起用ガス供給構造体80と原料ガス供給構造体60を通過して下方の原料ガス解離領域R2内に進入する。原料ガス解離領域R2には、原料ガス供給構造体60の各原料ガス供給口63からシランガスと水素ガスが供給されている。このとき、シランガスは例えば18sccmの流量で供給され、水素ガスは例えば64sccmの流量で供給される。なお、この水素ガスの供給流量は、後述するようにシリコン窒化膜23の膜特性に応じて設定される。シランガスと水素ガスは、それぞれ上方から進入したプラズマにより解離される。そして、これらのラジカルとプラズマ生成領域R1から供給された窒素ガスのラジカルによって、ガラス基板G上にシリコン窒化膜23が堆積する。
【0075】
その後、シリコン窒化膜23の成膜が進んで、ガラス基板G上に所定厚さのシリコン窒化膜23が形成されると、マイクロ波の放射や、処理ガスの供給が停止される。その後、ガラス基板Gは処理容器30から搬出されて一連のプラズマ成膜処理が終了する。
【0076】
ここで、発明者らが鋭意検討した結果、上述のプラズマ成膜処理によってガラス基板G上にシリコン窒化膜23を成膜する際、シランガス、窒素ガス及び水素ガスを含む処理ガスを用いると、シリコン窒化膜23の膜特性の制御性が向上することが分かった。
【0077】
図6は、上記実施の形態のプラズマ成膜方法を用いて、処理ガス中の水素ガスの供給流量を変化させた場合に、フッ酸に対するシリコン窒化膜23のウェットエッチングレートが変化する様子を示している。なお、このとき、シランガスの供給流量は18sccmであって、窒素ガスの供給流量は21sccmであった。また、プラズマ成膜処理中、ガラス基板Gの温度は100℃であった。
【0078】
図6を参照すると、シランガスと窒素ガスを含む処理ガス中にさらに水素ガスを添加することで、シリコン窒化膜23のウェットエッチングレートが低下することが分かった。したがって、処理ガス中の水素ガスによって、シリコン窒化膜23の緻密度が向上し、シリコン窒化膜23の膜質(耐薬品性、緻密さ)が向上する。また、シリコン窒化膜23のステップカバレッジも向上する。さらに、シリコン窒化膜23の屈折率が例えば2.0±0.1に向上することも分かった。したがって、水素ガスの供給流量を制御することで、シリコン窒化膜23のウェットエッチングレートを制御することができ、シリコン窒化膜23の膜特性を制御することができる。
【0079】
図7は、上記実施の形態のプラズマ成膜方法を用いて、処理ガス中の水素ガスの供給流量を変動させた場合に、シリコン窒化膜23の膜ストレスが変化する様子を示している。なお、このとき、シランガスの供給流量は18sccmであって、窒素ガスの供給流量は21sccmであった。また、プラズマ成膜処理中、ガラス基板Gの温度は100℃であった。
【0080】
図7を参照すると、シランガスと窒素ガスを含む処理ガス中にさらに水素ガスを添加することで、シリコン窒化膜23の膜ストレスがマイナス側(圧縮側)に変化することが分かった。したがって、水素ガスの供給流量を制御することで、シリコン窒化膜23の膜ストレスを制御することができる。
【0081】
以上のように、本実施の形態によれば、処理ガス中の水素ガスの流量を変化させることで、シリコン窒化膜23の膜特性を変化させることができる。したがって、有機ELデバイスA中の封止膜としてシリコン窒化膜23を適切に成膜できるので、当該有機ELデバイスAを適切に製造することができる。なお、封止膜として用いる場合、封止膜のストレスの大きさの絶対値は小さいほうがよい。
【0082】
また、本実施の形態のプラズマ成膜方法では、ラジアルラインスロットアンテナ42から放射されるマイクロ波を用いてプラズマを生成している。ここで、発明者らが鋭意検討した結果、処理ガスがシランガス、窒素ガス及び水素ガスを含む場合、例えば図8に示すようにマイクロ波のパワーとシリコン窒化膜23の膜ストレスとは、略比例関係にあることが分かった。したがって、本実施の形態によれば、マイクロ波のパワーを制御することによっても、シリコン窒化膜23の膜ストレスを制御することができる。水素ガスの流量を最適化し、マイクロ波パワーを最適化することで、精密に所望の膜特性を備える膜を得ることができる。具体的には、マイクロ波のパワーを決定した後、水素ガスの流量を最適化すればよい。
【0083】
ところで、従来、ガラス基板上にシリコン窒化膜を成膜する際には、上述したシランガスとアンモニア(NH)ガスを含む処理ガスを用いることも行われている。しかしながら、ガラス基板の温度が100℃以下の低温環境下では、シリコン窒化膜の成膜前に供給されるアンモニアガスが、当該シリコン窒化膜の下地に形成されている金属電極、例えばアルミニウム電極を腐食してしまう。また、低温環境下で成膜するため、シリコン窒化膜中に未反応のアンモニアがトラップされてしまう。シリコン窒化膜中にアンモニアがトラップされると、環境試験等を行った後、当該アンモニアがシリコン窒化膜から脱ガスし、有機ELデバイスを劣化させるおそれがある。
【0084】
これに対して、本実施の形態では、アンモニアガスの代わりに窒素ガスを用いている。したがって、上述した下地の金属電極の腐食や有機ELデバイスの劣化を防止することができる。
【0085】
しかも、本実施の形態のようにアンモニアガスの代わりに窒素ガスを用い、さらに処理ガスに水素ガスを添加した場合、図9に示すように成膜されるシリコン窒化膜の膜特性を向上させることができる。すなわち、段差部におけるシリコン窒化膜の膜質(緻密度)を向上させることができる。なお、図9の上段はシランガスとアンモニアガスを含む処理ガスを用いた場合のシリコン窒化膜の様子を示し、下段はシランガス、窒素ガス及び水素ガスを含む処理ガスを用いた場合のシリコン窒化膜の様子を示している。また、図9の左列は成膜直後のシリコン窒化膜の様子を示し、右列はバッファードフッ酸(BHF)によってウェットエッチングを120秒行った後のシリコン窒化膜の様子を示している。
【0086】
以上の実施の形態のプラズマ成膜装置16では、原料ガス供給構造体60からシランガスと水素ガスを供給し、プラズマ励起用ガス供給構造体80から窒素ガスとアルゴンガスを供給していたが、水素ガスはプラズマ励起用ガス供給構造体80から供給されてもよい。あるいは、水素ガスは原料ガス供給構造体60とプラズマ励起用ガス供給構造体80の両方から供給されてもよい。いずれの場合でも、上述したように水素ガスの供給流量を制御することによって、シリコン窒化膜23の膜特性を制御することができる。
【0087】
ここで、発明者らが鋭意検討した結果、シリコン窒化膜23の膜質、特に膜中のSi−N結合密度が最も多い緻密な膜質の場合、当該シリコン窒化膜23の屈折率は約2.0となることが分かった。また、シリコン窒化膜23のバリア性(封止性)の観点から、屈折率は2.0±0.1が好ましいことが分かった。
【0088】
そこで、上述した屈折率2.0±0.1にするため、プラズマ成膜装置16において、シランガスの供給流量に対する窒素ガスの供給流量の比を1〜1.5とするのが好ましい。これに対して、通常(従来)のプラズマCVD装置においてシランガスと窒素ガスでシリコン窒化膜を成膜する場合、シランガスの供給流量に対する窒素ガスの供給流量の比は10〜50が一般的である。通常のプラズマCVD装置ではこのように窒素を大量に必要とするため、成膜速度を上げるためにシランガス流量を上げると同時にその増加に見合う窒素流量が必要となり排気システムに限界が生じる。このため、成膜速度の大きい条件では、シリコン窒化膜の屈折率として上述した屈折率2.0±0.1を維持することが困難となる。したがって、本実施の形態のプラズマ成膜装置16は、通常のプラズマCVD装置に比べて極めて優れた効果を奏する。
【0089】
また、シランガスの供給流量に対する窒素ガスの供給流量の比を制御することによって、屈折率が2.0±0.1の範囲内で、シリコン窒化膜23の膜ストレスを制御することができる。具体的には、当該膜ストレスをゼロに近づけることができる。さらに、この膜ストレスは、ラジアルラインスロットアンテナ42からのマイクロ波のパワーや、水素ガスの供給流量を調整して制御することもできる。
【0090】
なお、上述したように通常のプラズマCVD装置に比べて、プラズマ成膜装置16における窒素ガスの供給流量を少量にすることができるのは、供給された窒素ガスを活性化しやすく、解離度を高めることができるためである。すなわち、プラズマ励起用ガス供給構造体80から窒素ガスを供給する際、プラズマが生成する誘電体窓41に十分近い位置にあることにより、上記プラズマ励起用ガス供給構造体80の第2のプラズマ励起用ガス供給口82より比較的高圧の状態で処理容器30内のプラズマ生成領域R1に放出された窒素ガスは容易にイオン化され活性な窒素ラジカル等を大量に生成する。そして、このように窒素ガスの解離度を高くするため、プラズマ励起用ガス供給構造体80は、ラジアルラインスロットアンテナ42(厳密には誘電体窓41)から30mm以内の位置に配置される。発明者らが調べたところ、このような位置にプラズマ励起用ガス供給構造体80を配置した場合、プラズマ励起用ガス供給構造体80自体がプラズマ生成領域R1に配置されることになる。このため、窒素ガスの解離度を高めることができる。
【0091】
以上の実施の形態のプラズマ成膜装置16において、原料ガスの供給は、プラズマの生成と同時又はプラズマ生成前に行われてもよい。すなわち、先ず、原料ガス供給構造体60からシランガスと水素ガス(或いはシランガスのみ)を供給する。このシランガスと水素ガスの供給と同時又はガス供給後に、プラズマ励起用ガス供給構造体80からアルゴンガスと窒素ガス(及び水素ガス)を供給し、ラジアルラインスロットアンテナ42からマイクロ波を放射する。そして、プラズマ生成領域R1においてプラズマを生成する。
【0092】
ここで、シリコン窒化膜23が成膜されるガラス基板G上には、金属元素を含むカソード層22が形成されている。例えばカソード層22を含む有機ELデバイスAがプラズマに晒されると、カソード層22は発光層21から剥がれ、また有機EL素子Aは損傷を被る場合がある。これに対して、本実施の形態では、シランガスと水素ガスの供給と同時又は供給後にプラズマが生成されるため、当該プラズマの生成と同時にシリコン窒化膜23の成膜が開始される。したがって、当該カソード層22の表面が保護され、有機ELデバイスAがプラズマに晒されることなく、有機ELデバイスAを適切に製造することができる。
【0093】
以上の実施の形態では、原料ガス供給口63は原料ガス供給構造体60から下方に向けて形成され、第2のプラズマ励起用ガス供給口82はプラズマ励起用ガス供給構造体80から上方に向けて形成されていたが、これら原料ガス供給口63と第2のプラズマ励起用ガス供給口82は水平方向、又は鉛直下方以外の斜め方向であって、より好ましくは水平方向から斜め45度の方向に向けて形成されていてもよい。
【0094】
かかる場合、図10に示すように原料ガス供給構造体60には、互いに平行に延伸する複数の原料ガス供給管61が形成されている。原料ガス供給管61は、原料ガス供給構造体60において等間隔に配置されている。原料ガス供給管61の側面両側には、図11に示すように原料ガスを水平方向に供給する原料ガス供給口63が形成されている。原料ガス供給口63は、図10に示すように原料ガス供給管61に等間隔に配置されている。また隣り合う原料ガス供給口63は、互いに水平方向の反対方向に向けて形成されている。なお、プラズマ励起用ガス供給構造体80も、上記原料ガス供給構造体60と同様の構成を有していてもよい。そして、原料ガス供給構造体60の原料ガス供給管61と、プラズマ励起用ガス供給構造体80の第2のプラズマ励起用ガス供給管81とが略格子状になるように、原料ガス供給構造体60とプラズマ励起用ガス供給構造体80が配置されている。
【0095】
原料ガス供給口63から供給される原料ガスは、主にシリコン窒化物として原料ガス供給口63に堆積するため、堆積したシリコン窒化物はメンテナンス時にドライクリーニングによって除去される。かかる場合に、原料ガス供給口63が下方向に向けて形成されていた場合、原料ガス供給口63内にプラズマが進入し難いため、当該原料ガス供給口63に堆積したシリコン窒化物を内部まで完全に除去できない場合がある。この点、本実施の形態のように原料ガス供給口63が水平方向を向いている場合、当該原料ガス供給口63の内部までドライクリーニング時に生成されるプラズマが進入する。このため、原料ガス供給口63の内部までシリコン窒化物を完全に除去することができる。したがって、メンテナンス後、原料ガス供給口63から原料ガスを適切に供給することができ、シリコン窒化膜23をより適切に成膜することができる。
【0096】
また、原料ガス供給構造体60の原料ガス供給管61と、プラズマ励起用ガス供給構造体80の第2のプラズマ励起用ガス供給管81とが略格子状になるように、原料ガス供給構造体60とプラズマ励起用ガス供給構造体80が配置されている。このため、各原料ガス供給構造体60とプラズマ励起用ガス供給構造体80自体を略格子状にするよりも、原料ガス供給構造体60とプラズマ励起用ガス供給構造体80を容易に製作することができる。また、プラズマ生成領域R1で生成されたプラズマも通過させやすくできる。
【0097】
なお、原料ガス供給口63は、図12に示すようにその内径が内側から外側に向かってテーパ状に拡大するように形成されていてもよい。かかる場合、ドライクリーニング時に、プラズマが原料ガス供給口63の内部により進入しやすくなる。したがって、原料ガス供給口63に堆積したシリコン窒化物をより確実に除去することができる。なお、第2のプラズマ励起用ガス供給口82についても、同様に、その内径が内側から外側に向かってテーパ状に拡大するように形成されていてもよい。
【0098】
以上の実施の形態では、有機シランガスとしてシランガスを用いた場合について説明したが、有機シランガスはシランガスに限定されない。発明者が鋭意検討したところ、例えばジシラン(Si)ガスを用いた場合、シランガスを用いた場合に比べて、シリコン窒化膜23のステップカバレッジがさらに向上することが分かった。
【0099】
また、以上の実施の形態のプラズマ成膜装置16では、ラジアルラインスロットアンテナ42からのマイクロ波によってプラズマを生成していたが、当該プラズマの生成は本実施の形態に限定されない。プラズマとしては、例えばCCP(容量結合プラズマ)、ICP(誘導結合プラズマ)、ECRP(電子サイクロトロン共鳴プラズマ)、HWP(ヘリコン波励起プラズマ)等を用いてもよい。いずれの場合でも、シリコン窒化膜23の成膜はガラス基板Gの温度が100℃以下の低温度環境下で行われるため、高密度のプラズマを用いるのが好ましい。
【0100】
さらに、以上の実施の形態では、ガラス基板G上に封止膜としてシリコン窒化膜23を成膜し、有機ELデバイスAを製造する場合について説明したが、本発明は他の有機電子デバイスを製造する場合にも適用できる。例えば有機電子デバイスとして有機トランジスタ、有機太陽電池、有機FET(Field Effect Transistor)等を製造する場合にも、本発明のシリコン窒化膜の成膜方法を適用することができる。さらに、本発明は、このような有機電子デバイスの製造以外にも、基板の温度が100℃以下の低温環境下で、基板上にシリコン窒化膜を成膜する場合に広く適用することができる。
【0101】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0102】
1 基板処理システム
16 プラズマ成膜装置
20 アノード層
21 発光層
22 カソード層
23 シリコン窒化膜
30 処理容器
31 載置台
42 ラジアルラインスロットアンテナ
60 原料ガス供給構造体
62 開口部
63 原料ガス供給口
70 第1のプラズマ励起用ガス供給口
80 プラズマ励起用ガス供給構造体
82 第2のプラズマ励起用ガス供給口
83 開口部
90 排気口
100 制御部
A 有機ELデバイス
G ガラス基板
R1 プラズマ生成領域
R2 原料ガス解離領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理容器内に収容された基板上にシリコン窒化膜を成膜する成膜方法であって、
前記処理容器内に有機シランガス、窒素ガス及び水素ガスを含む処理ガスを供給し、
前記処理ガスを励起させてプラズマを生成し、当該プラズマによるプラズマ処理を行って基板上にシリコン窒化膜を成膜することを特徴とする、シリコン窒化膜の成膜方法。
【請求項2】
前記シリコン窒化膜は、有機電子デバイスの封止膜として用いられることを特徴とする、請求項1に記載のシリコン窒化膜の成膜方法。
【請求項3】
前記プラズマによるプラズマ処理中、前記処理容器内の圧力を20Pa〜60Paに維持することを特徴とする、請求項1又は2に記載のシリコン窒化膜の成膜方法。
【請求項4】
前記水素ガスの供給流量を制御して、前記シリコン窒化膜の膜応力を制御することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のシリコン窒化膜の成膜方法。
【請求項5】
前記プラズマは、マイクロ波によって前記処理ガスが励起されて生成されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のシリコン窒化膜の成膜方法。
【請求項6】
前記マイクロ波のパワーを制御して、前記シリコン窒化膜の膜応力を制御することを特徴とする、請求項5に記載のシリコン窒化膜の成膜方法。
【請求項7】
前記処理ガスは、前記シリコン窒化膜を成膜するための原料ガスと、前記プラズマを生成するためのプラズマ励起用ガスとを含み、
前記原料ガスの供給は、前記プラズマ励起用ガスによる前記プラズマの生成と同時又は前記プラズマの生成前に行われることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のシリコン窒化膜の成膜方法。
【請求項8】
前記処理容器内に供給される前記処理ガスにおいて、前記有機シランガスの供給流量に対する前記窒素ガスの供給流量の比は、1〜1.5であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載のシリコン窒化膜の成膜方法。
【請求項9】
有機電子デバイスの製造方法であって、
基板上に有機素子を形成し、
その後、当該基板を収容した処理容器内に有機シランガス、窒素ガス及び水素ガスを含む処理ガスを供給し、前記処理ガスを励起させてプラズマを生成し、当該プラズマによるプラズマ処理を行って、前記有機素子を覆うように封止膜としてシリコン窒化膜を成膜することを特徴とする、有機電子デバイスの製造方法。
【請求項10】
前記プラズマによるプラズマ処理中、前記処理容器内の圧力を20Pa〜60Paに維持することを特徴とする、請求項9に記載の有機電子デバイスの製造方法。
【請求項11】
前記水素ガスの供給流量を制御して、前記シリコン窒化膜の膜応力を制御することを特徴とする、請求項9又は10に記載の有機電子デバイスの製造方法。
【請求項12】
前記プラズマは、マイクロ波によって前記処理ガスが励起されて生成されることを特徴とする、請求項9〜11のいずれかに記載の有機電子デバイスの製造方法。
【請求項13】
前記マイクロ波のパワーを制御して、前記シリコン窒化膜の膜応力を制御することを特徴とする、請求項12に記載の有機電子デバイスの製造方法。
【請求項14】
前記処理ガスは、前記シリコン窒化膜を成膜するための原料ガスと、前記プラズマを生成するためのプラズマ励起用ガスとを含み、
前記原料ガスの供給は、前記プラズマ励起用ガスによる前記プラズマの生成と同時又は前記プラズマの生成前に行われることを特徴とする、請求項9〜13のいずれかに記載の有機電子デバイスの製造方法。
【請求項15】
前記処理容器内に供給される前記処理ガスにおいて、前記有機シランガスの供給流量に対する前記窒素ガスの供給流量の比は、1〜1.5であることを特徴とする、請求項9〜14のいずれかに記載の有機電子デバイスの製造方法。
【請求項16】
基板上にシリコン窒化膜を成膜する成膜装置であって、
基板を収容し処理する処理容器と、
前記処理容器内に、有機シランガス、窒素ガス及び水素ガスを含む処理ガスを供給する処理ガス供給部と、
前記処理ガスを励起させてプラズマを生成するプラズマ励起部と、
前記プラズマによるプラズマ処理を行って基板上にシリコン窒化膜を成膜するように、前記処理ガス供給部と前記プラズマ励起部を制御する制御部と、を有することを特徴とする、シリコン窒化膜の成膜装置。
【請求項17】
前記シリコン窒化膜は、有機電子デバイスの封止膜として用いられることを特徴とする、請求項16に記載のシリコン窒化膜の成膜装置。
【請求項18】
前記制御部は、前記プラズマによるプラズマ処理中、前記処理容器内の圧力を20Pa〜60Paに維持するように、前記処理ガス供給部を制御することを特徴とする、請求項16又は17に記載のシリコン窒化膜の成膜装置。
【請求項19】
前記制御部は、前記水素ガスの供給流量を制御して、前記シリコン窒化膜の膜応力を制御することを特徴とする、請求項16〜18のいずれかに記載のシリコン窒化膜の成膜装置。
【請求項20】
前記プラズマ励起部は、マイクロ波を供給して前記処理ガスを励起することを特徴とする、請求項16〜19のいずれかに記載のシリコン窒化膜の成膜装置。
【請求項21】
前記制御部は、前記マイクロ波のパワーを制御して、前記シリコン窒化膜の膜応力を制御することを特徴とする、請求項20に記載のシリコン窒化膜の成膜装置。
【請求項22】
前記処理ガスは、前記シリコン窒化膜を成膜するための原料ガスと、前記プラズマを生成するためのプラズマ励起用ガスとを含み、
前記制御部は、前記原料ガスの供給が、前記プラズマ励起用ガスによる前記プラズマの生成と同時又は前記プラズマの生成前に行われるように、前記処理ガス供給部と前記プラズマ励起部を制御することを特徴とする、請求項16〜21のいずれかに記載のシリコン窒化膜の成膜装置。
【請求項23】
前記制御部は、前記有機シランガスの供給流量に対する前記窒素ガスの供給流量の比が1〜1.5になるように、前記処理ガス供給部を制御することを特徴とする、請求項16〜22のいずれかに記載のシリコン窒化膜の成膜装置。
【請求項24】
前記処理ガスは、前記シリコン窒化膜を成膜するための原料ガスと、前記プラズマを生成するためのプラズマ励起用ガスとを含み、
前記処理容器の上部には、前記プラズマ励起部が設けられ、
前記処理容器の下部には、基板を載置する載置部が設けられ、
前記プラズマ励起部と前記載置部との間には、前記処理容器内を区画し、前記処理ガス供給部を構成するプラズマ励起用ガス供給構造体及び原料ガス供給構造体が設けられ、
前記プラズマ励起用ガス供給構造体には、前記プラズマ励起部側の領域に前記プラズマ励起用ガスを供給するプラズマ励起用ガス供給口と、前記プラズマ励起部側の領域で生成された前記プラズマを前記載置部側の領域に通過させる開口部とが形成され、
前記原料ガス供給構造体には、前記載置部側の領域に前記原料ガスを供給する原料ガス供給口と、前記プラズマ励起部側の領域で生成された前記プラズマを前記載置部側の領域に通過させる開口部とが形成されていることを特徴とする、請求項16〜23のいずれかに記載のシリコン窒化膜の成膜装置。
【請求項25】
前記プラズマ励起用ガス供給構造体は、前記プラズマ励起部から30mm以内の位置に配置されていることを特徴とする、請求項24に記載のシリコン窒化膜の成膜装置。
【請求項26】
前記原料ガス供給口は、水平方向に向けて形成されていることを特徴とする、請求項24又は25に記載のシリコン窒化膜の成膜装置。
【請求項27】
前記原料ガス供給口は、その内径が内側から外側に向かってテーパ状に拡大するように形成されていることを特徴とする、請求項26に記載のシリコン窒化膜の成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−188735(P2012−188735A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233620(P2011−233620)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】