説明

シール能力判定方法及び装置

【課題】軸封部におけるシール能力の健全性を評価することができ、更に、シール能力の低下を早期段階で検知できることは、メカニカルシールが多段に分かれているポンプの効率的な運用及び保守に密接に繋がる。
【解決手段】メカニカルシールが多段に分かれているポンプ(第1ポンプ15a、第2ポンプ15b)の軸封部(第1軸封部16a、第2軸封部16b)に設置されたメカニカルシール26に関して、軸封部のシール圧力信号中に含まれる微少な揺らぎ成分をAPSDを用いて評価する。その評価結果からAPSDの上昇が認められた場合、シール能力低下の徴候として判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シール能力判定方法及び装置に関し、特に、メカニカルシールが多段に分かれているポンプにおけるシール能力を判定するシール能力判定方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
メカニカルシールが多段に分かれているポンプとして、例えば、原子力発電に用いられる沸騰水型原子炉(Boiling Water Reactor:BWR)の原子炉格納容器内には、冷却水を強制循環させるための、再循環(Primaly Loop Recirculation:PLR)ポンプがある(例えば、特許文献1参照)。
そこで、メカニカルシールが多段に分かれているポンプとして、PLRポンプを例に挙げて、以下に説明する。
【0003】
PLRポンプは、原子炉圧力容器に設置された2系統の再循環路のそれぞれの途中に配置され、駆動用電動機(モータ)により駆動されて作動する。このPLRポンプとモータの間には、再循環路を流れる原子炉内の冷却水が、PLRポンプとモータを連結する回転軸を伝ってモータ側へ流れ出てしまわないようにするために、第1段軸封部及び第2段軸封部からなる二段構成の軸封部が設けられている。
第1段軸封部と第2段軸封部及び第2段軸封部と軸封部外部は、軸封部構造体に固定設置された静止リング(シートリング)と、静止リングに摺動しながら接触して回転軸と一体的に回転する回転リングにより構成された、メカニカルシールにより隔離されている。
【0004】
PLRポンプのように、軸封部が二つのメカニカルシールにより二段構えの構成となっている場合、第一段のシール能力が低下すると、第一段側から第二段側へと移動するシール水が多くなり、第二段側の圧力や温度が上昇する。また、第二段のシール能力が低下すると、シール水の流出水量の増加として検知される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−281274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来、シール能力の低下を、シール水の流出水量の増加、或いは軸封部の圧力や温度の変化として検知することができるのは、シール面の磨耗がかなり進んで、既に、本来のシール能力が失われつつある状況になってからであることから、これらの指標による検知では、検知してから当該機器或いは原子力発電プラントを停止等するまでに時間的余裕が少なかった。
【0007】
このため、検知が直ぐに修理交換に繋がることなく、検知してから当該機器或いは原子力発電プラントを停止等するまでに十分な余裕が得られるように改善することが望まれていた。
また、従来の指標による検知では、各シールにおける、本来のシール能力を備えていることを示すシール能力の健全性についての評価ができないため、各シールについての使用寿命を判断することもできなかった。
【0008】
つまり、軸封部におけるシール能力の健全性を評価することができ、更に、シール能力の低下を早期段階で検知できることは、メカニカルシールが多段に分かれているポンプの効率的な運用及び保守に密接に繋がる重要な課題である。
この発明の目的は、メカニカルシールが多段に分かれているポンプにおけるシール能力の健全性を評価することができると共に、シール能力の低下を早期段階で検知することができるシール能力判定方法及び装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、この発明に係るシール能力判定方法は、メカニカルシールが多段に分かれているポンプの軸封部に設置されたメカニカルシールに関して、軸封部のシール圧力信号中に含まれる微少な揺らぎ成分をオートパワースペクトル密度(Auto Power Spectral Density:以下、APSDと略称する)を用いて評価し、その評価結果から前記APSDの上昇が認められた場合、シール能力低下の徴候として判定する。
【0010】
また、上記目的を達成するため、この発明に係るシール能力判定装置は、メカニカルシールが多段に分かれているポンプの軸封部に設置されたメカニカルシールのシール圧力信号に基づき、APSDを算出するAPSD演算手段と、前記APSD演算手段により算出されたAPSDを、基準値のAPSDと比較するAPSD比較手段と、前記APSD比較手段における比較結果に基づき、検出された前記シール圧力を有する軸封部についてのシール能力の低下を判定するシール能力判定手段とを有している。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、メカニカルシールが多段に分かれているポンプの軸封部に設置されたメカニカルシールに関して、軸封部のシール圧力信号中に含まれる微少な揺らぎ成分をAPSDを用いて評価する。その評価結果からAPSDの上昇が認められた場合、シール能力低下の徴候として判定する。これにより、軸封部におけるシール能力の健全性を評価することができると共に、シール能力の低下を早期段階で検知することができる。
また、この発明に係るシール能力判定装置により、上記シール能力判定方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の一実施の形態に係るシール能力判定装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1の原子炉格納容器の構造を模式的に示す説明図である。
【図3】PLRポンプの構成を概略的に示す説明図である。
【図4】図3の第1軸封部の内部構造を模式的に示す一部断面した説明図である。
【図5】各軸封部におけるシール圧力信号の変化を時系列で表した時系列データをグラフで示す説明図である。
【図6】各軸封部におけるシール圧力信号の変化をAPSDで表したAPSDレベルデータをグラフで示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
図1は、この発明の一実施の形態に係るシール能力判定装置の構成を示すブロック図である。図1に示すように、シール能力判定装置10は、APSD演算部(APSD演算手段)11、APSD比較部(APSD比較手段)12、及びシール能力判定部(シール能力判定手段)13を有している。
【0014】
このシール能力判定装置10は、メカニカルシールが多段に分かれているポンプにおけるシール能力が低下した徴候があるか否かを判定するものであり、以下、このようなメカニカルシールが多段に分かれているポンプの代表例として、原子力発電に用いられるBWRの原子炉格納容器14に備えられた、2個のPLRポンプ(第1ポンプ15a、第2ポンプ15b、図1参照)を例に挙げて、説明する。
メカニカルシールは、2個のポンプ(第1ポンプ15a、第2ポンプ15b)のそれぞれの軸封部(第1軸封部16a、第2軸封部16b)に設けられている。
【0015】
第1ポンプ15aには、第1ポンプ第1段シール圧力検出部(シール圧力検出手段)17a及び第1ポンプ第2段シール圧力検出部(シール圧力検出手段)17bが据え付けられており、第2ポンプ15bには、第2ポンプ第1段シール圧力検出部(シール圧力検出手段)17c及び第2ポンプ第2段シール圧力検出部(シール圧力検出手段)17dが据え付けられている。各シール圧力検出部17a〜17dは、各軸封部(第1軸封部16a、第2軸封部16b)に設けられたメカニカルシールのシール圧力を検出し、検出結果であるシール圧力信号を、APSD演算部11に出力する(図1参照)。
【0016】
図2は、原子炉格納容器の構造を模式的に示す説明図である。図2に示すように、原子炉格納容器14の内部に備えられた、原子炉圧力容器18は、冷却材(例えば、水)Cを収納するカプセル状に形成されており、核分裂により作り出された蒸気を排出する排出路19a、冷却材Cを供給する供給路19b、更に、2系統の再循環路20a,20bを有している。
【0017】
2系統の再循環路(20a,20b)の途中には、それぞれポンプ(第1ポンプ15a、第2ポンプ15b)が配置されており、各ポンプ(15a,15b)の作動により、原子炉圧力容器18内の冷却材Cが各再循環路(20a,20b)に取り出され、各再循環路(20a,20b)を経て再び原子炉圧力容器18内へと送り込まれる。つまり、原子炉圧力容器18内の冷却材Cは、2系統の再循環路(20a,20b)を介して再循環することになる。
【0018】
原子炉格納容器14内には、ポンプ15a,15bの下方に位置して、例えば、後述するシール水Ws等、各軸封部(第1軸封部16a、第2軸封部16b)から流れ出る流出物を受け止めるタンク21a,21bが設置されている。
図3は、PLRポンプの構成を概略的に示す説明図である。
なお、軸封部は、2個のポンプ(15a,15b)のそれぞれに設けられているが、両軸封部(第1軸封部16a、第2軸封部16b)は同一の構成及び作用を有するので、以下の説明においては、一方(第1ポンプ15aの第1軸封部16a)のみについて説明し、他方(第2ポンプ15bの第2軸封部16b)の説明を省略する。
【0019】
図3に示すように、第1ポンプ15aは、ポンプ本体22、及びポンプ本体22を駆動する駆動用電動機(モータ)23と共に、モータ23の回転駆動力を伝達する回転軸24に装着された第1軸封部16aを有している。回転軸24は、一端がモータ23の出力軸に連結されると共に、他端がポンプ本体22内の冷却材流路22aに位置しており、この他端には羽根車22bが取り付けられている。冷却材流路22aは、冷却材入口と冷却材出口を介して再循環路20aに連通しており、冷却材Cが循環する再循環路20aの一部を構成している。
【0020】
モータ23の回転駆動力が回転軸24に伝達されて羽根車22bが回転することにより、再循環路20aを流れる冷却材Cは、冷却材入口から冷却材流路22aに引き込まれ冷却材出口から再循環路20aへと送り出される。
第1軸封部16aは、冷却材流路22aを流れる冷却材Cが、羽根車22bが取り付けられた回転軸24を伝ってモータ23側へ流れ出てしまわないように封止(シール)している。
【0021】
図4は、図3の第1軸封部の内部構造を模式的に示す一部断面した説明図である。図4に示すように、第1軸封部16aの第1段軸封部25aと第2段軸封部25bは、回転軸24方向に沿って重ねて配置された、二段構成を有している。第1段軸封部25a及び第2段軸封部25bと回転軸24は、それぞれメカニカルシール26により封止されており、第1段軸封部25aと第2段軸封部25bは、メカニカルシール26により区画されている。
メカニカルシール26は、軸封部構造体27に固定設置された静止リング(シートリング)26aと、静止リング26aに摺動自在に接触して回転軸24と一体的に回転する回転リング26bにより構成されている。
【0022】
第1段軸封部25aは、シール水Wsを取り込む取込口28、第1段軸封部25aの内部圧力を検出するための第1圧力検出口29、及び第2段軸封部25bと連通するオリフィス30を有しており、第2段軸封部25bは、第2段軸封部25bの内部圧力を検出するための第2圧力検出口31、及び第2段軸封部25bの外部と連通するオリフィス32を有している。第1圧力検出口29は、シール能力判定装置10の第1ポンプ第1段シール圧力検出部17a(図1参照)に、第2圧力検出口31は、第1ポンプ第2段シール圧力検出部17b(図1参照)に、それぞれ連通している。
【0023】
シール水Wsは、原子炉圧力容器18の内部圧力より高い圧力(シール水圧>圧力容器内水圧)に保持されて、原子炉内の冷却材Cが第1軸封部16aから炉外に出てしまわないようにシールする機能を有している。取込口28から第1段軸封部25aに取り込まれたシール水Wsは、オリフィス30を経て第2段軸封部25bに送り出され、第2段軸封部25bからオリフィス32を経て、第1軸封部16aの外部へと流出し、第1軸封部16aの外に設置されたタンク21aに貯められる。
【0024】
なお、第1段軸封部25aに取り込まれたシール水Wsの一部は、メカニカルシール26が装着されていない第1段軸封部25aと回転軸24の間隙を通って、第1軸封部16aの外部へと流出し、第1軸封部16aの外に設置されたタンク21aに貯められる。
このように、回転軸24に第1軸封部16aを装着することで、第1軸封部16aにより、原子炉内の冷却材Cが、回転軸24を伝ってモータ23側へ流れ出て原子炉外へと漏出してしまわないように封止している。
【0025】
ところで、第1軸封部16aに設置されたメカニカルシール26のシール能力が低下する原因としては、シール面における異物の噛み込みやシール面の経年劣化による磨耗等が考えられる。このような状況では、シール圧力信号の揺らぎ成分が、正常時と比べると幾分大きくなっていると推定することができる。なお、このことは、第1軸封部16aに限らず、第2軸封部16bについても同様に適用することができるが、以下の説明においては、第1軸封部16aについてのみ説明して、第2軸封部16bについては説明を省略する。
【0026】
従って、このシール圧力信号の揺らぎ成分を監視することにより、シール面の劣化によるシール能力低下を早期に検知することができると考えられる。
一般に、プラント正常作動時における第2段軸封部25bの圧力は、非常に安定しており、殆ど揺らぎ成分を持たずに略一定の値を示す。そこで、シール圧力信号の揺らぎ成分の変動が非常に僅かであったとしても、第2段軸封部25bのシール圧力信号上のノイズとして観測される可能性があることに、着目した。
【0027】
但し、このシール圧力信号上のノイズは微少なものであるため、時系列データ(Time Series Data)や統計量としては観測が困難であると予測される。
図5は、各軸封部におけるシール圧力信号の変化を時系列で表した時系列データをグラフで示す説明図である。図5に示すように、各軸封部(第1軸封部16a、第2軸封部16b)におけるシール圧力信号、即ち、第1ポンプ第1段シール圧力信号a、第1ポンプ第2段シール圧力信号b、第2ポンプ第1段シール圧力信号c、第2ポンプ第2段シール圧力信号dについて、経過時間に対する変化を表した時系列データ上では、シール面劣化の徴候を検知するのは困難である。
【0028】
つまり、時系列データ上では、略一致した値を示す第1ポンプ第1段シール圧力信号aと第2ポンプ第1段シール圧力信号c、近傍の値を示す第1ポンプ第2段シール圧力信号bと第2ポンプ第2段シール圧力信号dの何れにおいても、略一定値を示し経過時間に対する変化は見られない。
【0029】
そこで、シール圧力信号中に含まれる微少な揺らぎ成分を評価するために、APSDを用いることにした。また、プラント正常作動状態の基準値(リファレンス)として、冗長機器(この例では、2個ある第1ポンプ15aと第2ポンプ15b)のAPSDをお互いに比較する。なお、比較に際しては、「冗長関係にある両機器について、シール面が正常、且つ、第1段軸封部25aの圧力のAPSDが同一レベルならば、第2段軸封部25bの圧力のAPSDも同一レベルを示す」ものと仮定する。
【0030】
これにより、第1段軸封部25aと第2段軸封部25bの何れかのシール面が劣化しシール圧力信号の揺らぎ成分が増加した段階で、第2段軸封部25bの圧力のAPSDレベルが正常側機器と比べて上昇することに基づいて、シール面に劣化の徴候が表れた段階での検知が可能になる。
つまり、原子炉圧力容器18に備えられたポンプ(第1ポンプ15a、第2ポンプ15b)の軸封部(第1軸封部16a、第2軸封部16b)に設置されたメカニカルシール26において発生するシール圧力信号の揺らぎ成分について、軸封部のシール圧力信号中に含まれる微少な揺らぎ成分をAPSDを用いて評価し、評価結果からAPSDの上昇が認められた場合、シール能力低下の徴候が表れたことを検知している。
【0031】
このシール面に劣化の徴候が表れた段階での検知を、この発明に係るシール能力判定装置10により行うことができる。
図1に示す、第1ポンプ15aのシール圧力を検出する、第1ポンプ第1段シール圧力検出部17aは、例えば圧力センサを備えており、この圧力センサにより、第1段軸封部25aの第1圧力検出口29を介して、第1段軸封部25aの内部(シール)圧力を検出する。第1ポンプ第2段シール圧力検出部17bは、例えば圧力センサを備えており、この圧力センサにより、第2段軸封部25bの第2圧力検出口31を介して、第2段軸封部25bの内部(シール)圧力を検出する。
【0032】
同様に、第2ポンプ15bのシール圧力を検出する、第2ポンプ第1段シール圧力検出部17cは、例えば圧力センサを備えており、この圧力センサにより、第1段軸封部の第1圧力検出口29を介して、第1段軸封部の内部(シール)圧力を検出し、第2ポンプ第2段シール圧力検出部17dは、例えば圧力センサを備えており、この圧力センサにより、第2段軸封部の第2圧力検出口31を介して、第2段軸封部の内部(シール)圧力を検出する。
【0033】
即ち、第1ポンプ第1段シール圧力検出部17a、第1ポンプ第2段シール圧力検出部17b、第2ポンプ第1段シール圧力検出部17c、第2ポンプ第2段シール圧力検出部17dは、原子炉圧力容器18に備えられたポンプ(第1ポンプ15a、第2ポンプ15b)のシール圧力を検出する。
APSD演算部11は、揺らぎ信号における周波数成分fの強度として、APSDという指標が、自己共分散関数のフーリエ変換として定義されていることから、高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform:FFT)アルゴリズムを用いて自己共分散関数を演算し、その演算結果から、APSDを算出する。
【0034】
即ち、APSD演算部11は、第1ポンプ第1段シール圧力検出部17a、第1ポンプ第2段シール圧力検出部17b、第2ポンプ第1段シール圧力検出部17c、第2ポンプ第2段シール圧力検出部17dにより検出された、シール圧力に基づき、APSDを算出する。
【0035】
APSD比較部12は、APSD演算部11において算出したAPSDを基に、第1ポンプ15aと第2ポンプ15bのお互いのAPSDを比較、つまり、第1ポンプ15aのAPSDを冗長構成における基準値となるAPSDと比較する。シール能力判定部13は、APSD比較部12における比較結果に基づき、各シール圧力検出部(17a〜17d)で検出したシール圧力を有する各軸封部16a,16bの各段軸封部(25a,25b,図示せず)についてのシール能力、即ち、シール能力の低下を判定する。
このシール能力の低下となるシール面劣化の徴候の有無の判定は、以下に示すように行われる。
【0036】
先ず、プラント正常作動時に採取した複数データから得られるAPSDの平均値・標準偏差を求める。
次に、求めたAPSDの平均値・標準偏差を用いて、以下の式により求めた値を上限閾値とする。
上限閾値=平均値+標準偏差×係数(α)
ここで、係数(α)は、信頼度により異なるものであり、例えば、α=2.58の場合、正規分布における信頼度約99%を意味する。
【0037】
続いて、任意のデータから得られるAPSDレベルが、求めた上限閾値を越えた場合、メカニカルシール26におけるシール面劣化の可能性がある、つまり、シール面劣化の徴候が認められると判定する。
図6は、各軸封部におけるシール圧力信号の変化をAPSDで表したAPSDレベルデータをグラフで示す説明図である。図6に示すように、各軸封部(第1軸封部16a、第2軸封部16b)におけるシール圧力信号、即ち、第1ポンプ第1段シール圧力信号a、第1ポンプ第2段シール圧力信号b、第2ポンプ第1段シール圧力信号c、第2ポンプ第2段シール圧力信号dについて、周波数に対する変化を表したAPSDレベルデータ上では、APSDレベルの上昇としてシール面劣化の徴候を検知することができる。
【0038】
つまり、第1ポンプ15aと第2ポンプ15bの間で、それぞれの第2段軸封部におけるシール圧力信号b,dを比較した場合、第2ポンプ15b側のシール圧力信号dのAPSDレベルに比べ、第1ポンプ15a側のシール圧力信号bのAPSDレベルの方が上昇している(図中、白抜き矢印参照)。よって、シール面が劣化しシール圧力信号の揺らぎ成分が増加したことにより、APSDレベルが正常側機器の値(リファレンス)に比べ上昇することに基づき、シール面の劣化によるシール能力低下の徴候が表れた段階での検知が可能になる。
【0039】
なお、ここでは、APSDレベルの比較を、冗長構成(2個ある第1ポンプ15aと第2ポンプ15b)における正常側機器の値に対して行ったが、冗長構成を有する場合に限らず、例えば、蓄積したデータに基づいて設定した基準値(リファレンス)に対して行っても良い。
【0040】
このように、シール能力判定装置10は、原子炉格納容器14内のPLRポンプ(第1ポンプ15a、第2ポンプ15b)のそれぞれに設けられた各軸封部(第1軸封部16a、第2軸封部16b)に設置されたメカニカルシール26のシール能力の低下を、早期段階、即ち、シール面に劣化の徴候が表れた段階で検知することができ、加えて、メカニカルシール26のシール能力の健全性についての評価が可能になる。このため、シール能力低下時のシール修理の準備や、運転停止時期の選定、更にメカニカルシール26の複数年使用への利用等、プラント設備のより効率的な運用に寄与することができる。
【0041】
このシール面劣化の徴候を検知するための各シール圧力信号a〜dに関するデータは、プラント運転中に採取することができる。
なお、上述したように、この発明に係るシール能力判定方法及びシール能力判定装置10は、原子炉圧力容器18に備えられたポンプ(第1ポンプ15a、第2ポンプ15b)の軸封部(16a,16b)に用いられるメカニカルシール26において、そのシール能力を判定しているが、シール能力判定の対象となるのは、原子炉圧力容器18におけるシール部材に限るものではなく、メカニカルシールが多段に分かれているポンプにおけるシール部材のシール能力を判定する場合にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
この発明によれば、メカニカルシールが多段に分かれているポンプの軸封部に設置されたメカニカルシールに関して、軸封部のシール圧力信号中に含まれる微少な揺らぎ成分をAPSDを用いて評価し、評価結果からAPSDの上昇が認められた場合、シール能力低下の徴候として判定することにより、軸封部におけるシール能力の健全性を評価することができると共に、シール能力の低下を早期段階で検知することができるので、メカニカルシールが多段に分かれているポンプにおけるシール部材のシール能力判定方法及び装置として最適である。
【符号の説明】
【0043】
10 シール能力判定装置
11 APSD演算部
12 APSD比較部
13 シール能力判定部
14 原子炉格納容器
15a 第1ポンプ
15b 第2ポンプ
16a 第1軸封部
16b 第2軸封部
17a 第1ポンプ第1段シール圧力検出部
17b 第1ポンプ第2段シール圧力検出部
17c 第2ポンプ第1段シール圧力検出部
17d 第2ポンプ第2段シール圧力検出部
18 原子炉圧力容器
19a 排出路
19b 供給路
20a,20b 循環路
21a,21b タンク
22 ポンプ本体
22a 冷却材流路
22b 羽根車
23 モータ
24 回転軸
25a 第1段軸封部
25b 第2段軸封部
26 メカニカルシール
26a 静止リング
26b 回転リング
27 軸封部構造体
28 取込口
29 第1圧力検出口
30,32 オリフィス
31 第2圧力検出口
C 冷却材
W 水
Ws シール水
a 第1ポンプ第1段シール圧力信号
b 第1ポンプ第2段シール圧力信号
c 第2ポンプ第1段シール圧力信号
d 第2ポンプ第2段シール圧力信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メカニカルシールが多段に分かれているポンプの軸封部に設置されたメカニカルシールに関して、軸封部のシール圧力信号中に含まれる微少な揺らぎ成分をオートパワースペクトル密度(Auto Power Spectral Density:APSD)を用いて評価し、
その評価結果から前記APSDの上昇が認められた場合、シール能力低下の徴候として判定するシール能力判定方法。
【請求項2】
前記軸封部の圧力のAPSDレベルが、冗長構成の正常側機器の値に比べ上昇することに基づき、前記APSDが上昇したと認める請求項1に記載のシール能力判定方法。
【請求項3】
メカニカルシールが多段に分かれているポンプの軸封部に設置されたメカニカルシールのシール圧力を示すシール圧力信号に基づき、オートパワースペクトル密度(Auto Power Spectral Density:APSD)を算出するAPSD演算手段と、
前記APSD演算手段により算出されたAPSDを、基準値のAPSDと比較するAPSD比較手段と、
前記APSD比較手段における比較結果に基づき、検出された前記シール圧力を有する軸封部についてのシール能力の低下を判定するシール能力判定手段と
を有するシール能力判定装置。
【請求項4】
前記シール能力判定手段は、
前記軸封部の圧力のAPSDレベルが、冗長構成の正常側機器の値に比べ上昇することに基づき、シール能力が低下したと判定する請求項3に記載のシール能力判定装置。
【請求項5】
前記シール圧力信号は、前記ポンプに備えられた、前記メカニカルシールのシール圧力を検出するシール圧力検出手段からの出力信号である請求項3または4に記載のシール能力判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−12602(P2011−12602A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−157633(P2009−157633)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(501464255)株式会社テプコシステムズ (17)
【Fターム(参考)】