説明

ジケトピロロピロール系ポリマーおよびその形成方法

【課題】電荷キャリア移動度が高く、かつ半導体層の空気安定度が改良されたデバイスの作成に好適なポリマーを提供する。
【解決手段】下式で表される構造を有するポリマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジケトピロロピロール系ポリマーおよびその形成方法に関する。詳細には、本発明の実施形態は、低分子物質、オリゴマーなどのジケトピロロピロール(DPP)誘導体およびそれらからなる半導体ポリマーに関する。特に、2つの5員へテロ環と3位および6位で結合するDPP部分を有するポリマーに関する。これらのポリマーは、有機薄膜トランジスタ(OTFT)等の電子デバイスの半導体層に用いられる。ただし、本発明の実施形態はこれらの用途に限定されるものではない。
【背景技術】
【0002】
薄膜トランジスタ(TFT)は、センサー、イメージスキャナーおよび電子表示デバイス等の多くの電子デバイスの基本的な要素である。OTFTには、従来のシリコンベースの材料と比較して、製造コストを低減できる、デバイスを物理的に小型・軽量化したりフレキシブルにする機械特性を付与できるといった利点がある。OTFTは一般に、支持基材、3種類の導電電極(ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極)、チャネル半導体層、およびゲート電極をソース電極およびドレイン電極から分離する電気的に絶縁性のゲート誘電体層とから構成される。チャネル半導体は順にソース電極およびドレイン電極と接触する。OTFTに用いられる材料、半導体の各種層の間の界面特性、誘電体および電極などは全てOTFTの性能に影響を与えうる。
【0003】
チオフェン系の縮合環低分子物質およびポリマーは、薄膜トランジスタに使用されてきた、高移動度のP型半導体である。しかし、これらの材料のHOMO(最高占有分子軌道)エネルギー準位は比較的高いために多くの場合酸素に反応し、それゆえ環境条件下でのデバイスの製造には適していない。
【0004】
例えば、チエノ[3,2−b]チオフェン系ポリマーは0.2〜0.6cm2/Vsという高い電界効果移動度を示す。しかし、これらのポリマーは空気中の酸素や湿気に対してやや反応性であり、このため環境条件におけるTFTの溶液製造が困難である。
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0112171号広報
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/0160847号広報
【特許文献3】米国特許出願公開第2007/0148812号広報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態の1つの態様によれば、下記の化学構造を有するポリマーが提供される。
【化1】

式中、各Rは水素原子、置換されてもよい炭化水素およびヘテロ原子含有基から独立に選択され、各Mはなくてもよい共役部分であり、aは1以上の数を表し、bは0〜20の数を表し、nは2〜5000の数を表し、各XはS、Se、OおよびNR’’から独立して選択され、各R’’は水素原子、置換されてもよい炭化水素およびヘテロ原子含有基から独立して選択され、各Zは独立に、置換されてもよい炭化水素、ヘテロ原子含有基またはハロゲン原子であり、dは1以上の数であり、eは0〜2の数である。
【0006】
ある態様では、aは1である。
【0007】
さらに別の態様では、上記ポリマーは下記の構造で表される。
【化2】

【0008】
ある態様では、各dは1である。
【0009】
ある態様では、上記ポリマーは、(2,5−ジアルキル−3,6−ビス(チエニル−5−イル)−ジケトピロロピロール)、(2,5−ジアリール−3、6−ビス(チエニル−5−イル)−ジケトピロロピロール)、(3,6−ビス(チエニル−5−イル)−ジケトピロロピロール)、(2,5−ジアルキル−3,6−ビス(フリル−5−イル)−ジケトピロロピロール)、(2,5−ジアリール−3,6−ビス(フリル−5−イル)−ジケトピロロピロール)、(3,6−ビス(フリル−5−イル)−ジケトピロロピロール)、(2,5−ジアルキル−3,6−ビス(ピロリル−5−イル)−ジケトピロロピロール)、(2,5−ジアリール−3,6−ビス(ピロリル−5−イル)−ジケトピロロピロール)、(3,6−ビス(ピロリル−5−イル)−ジケトピロロピロール)、およびポリ(3,6−ビス(ピロリル−5−イル)−ジケトピロロピロール)からなる群より選択される少なくとも1つの単位を含んでもよい。
【0010】
ある態様では、上記ポリマーは、ポリ(2,5−ジオクタデシル−3,6−ビス(チエニル−5−イル)−ジケトピロロピロール)を含む。
【0011】
Mが上記ポリマー中に存在する態様では、Mは下式構造およびその置換誘導体、ならびにそれらの組み合わせからなる群から選択できる。
【化3】

【0012】
ある態様では、上記ポリマーは、本明細書に開示される(1)〜(67)の構造の化合物、およびそれらの混合物からなる群から選択できる少なくとも1種を含み、nは2〜5000の繰り返し単位の数を表し、R’’’、R’’’’、およびR’’’’’は同じであっても異なってもよい置換基であり、当該置換基は置換されてもよい炭化水素基およびヘテロ原子含有基からなる群から独立に選択され、YはF、Cl、およびBrから選択されるハロゲン原子である。
【0013】
ある態様では、上記ポリマーは構造式(10)〜(13)、(22)〜(25)、(27)、(34)〜(37)および(44)〜(51)の少なくとも1種を含む。
【0014】
ある態様では、上記ポリマーは構造式(10)で表されるポリマーを含み、ここで各R’’’はアルキル基であり、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシルおよびエイコサニルからなる群から独立に選択される。ある態様では、各R’’’はオクタデシル基である。
【0015】
ある態様では、本発明のポリマーを1体積パーセント以上含む半導体層が設けられたデバイスが提供される。ある態様では、前記半導体層は、本発明のポリマーを50体積パーセント以上含む。
【0016】
上記デバイスは、さらに誘電体膜を有してもよい。
【0017】
上記デバイスにおいて、上記ポリマーの電界効果移動度は、10-2cm2/Vs以上とすることができる。
【0018】
上記デバイスにおいて、上記ポリマーの電界効果移動度は、10-3cm2/Vs以上とすることができる。
【0019】
本発明の実施形態の他の観点によれば、下記式で表されるモノマー、場合によっては下記式で表されるモノマーとコポリマーとを重合させることを含むポリマーの形成方法が提供される。
【化4】

式中、各Yは独立にハロゲン原子であり、各Rは置換されてもよい炭化水素およびヘテロ原子含有基から独立に選択され、各Arは独立に下記構造で表され、
【化5】

各dは1以上の数であり、各XはS、Se、OおよびNR’’から独立に選択され、各R’’は水素原子、置換されてもよい炭化水素およびヘテロ原子含有基から独立に選択され、各Zは独立に置換されてもよい炭化水素、ヘテロ原子含有基またはハロゲン原子であり、eは0〜2の数である。
【0020】
ある態様によれば、上記ポリマーは下記構造で表される。
【化6】

式中、各Mは場合によって存在する、コモノマーに由来する共役部分であり、aは1以上の数を表し、bはホモポリマーの場合は0であり、コポリマーの場合は1〜20の数を表し、nは1以上の数を表す。
【0021】
ある態様によれば、上記モノマーの重合または共重合は、ジスズ(ditin)化合物の存在下で行われる。
【0022】
ある態様によれば、上記ジスズ化合物はヘキサアルキルジスズ(hexaalkylditin)化合物およびヘキサアリールジスズ(hexaarylditin)化合物から選択される。
【0023】
本発明の実施形態の他の観点によれば、下記構造のポリマーを含む半導体層を有する電子デバイスが提供される。
【化7】

式中、各Rは水素原子、置換されてもよい炭化水素およびヘテロ原子含有基から独立に選択され、各Mはなくてもよい共役部分であり、aは1以上の数を表し、bは0〜20の数を表し、nは1以上の数であり、各XはS、Se、OおよびNR’’から独立に選択され、各R’’は水素原子、置換されてもよい炭化水素およびヘテロ原子含有基から独立に選択され、各Zは独立に置換されてもよい炭化水素、ヘテロ原子含有基またはハロゲン原子であり、各dは1以上の繰り返し単位の数であり、各eは0〜2の数である。
【0024】
ある態様では、上記半導体層は1体積パーセント以上の上記ポリマーを含む。
【0025】
ある態様では、上記半導体層は50体積パーセント以上の上記ポリマーを含む。
【0026】
さらに別の態様では、上記電子デバイスはさらにゲート電極、ソース電極、ドレイン電極、ならびにゲート電極をソース電極、ドレイン電極および半導体層から分離するための誘電体層を含む。
【0027】
本明細書に開示される実施形態の態様は、たとえば、ジケトピロロピロール(DPP)(例えば、ピロロ[3,4−c]ピロール−1,4−ジオン)に基づくポリマーなどの化合物類、それらの化合物類に基づくポリマー状材料、およびこのようなポリマー状材料を形成する基本的要素としてのDPPの使用方法に関する。これらの材料は半導体類、特にOTFT用としての使用に適している。高度に共役したDPP系化合物は、従来の半導体材料よりもすぐれたp型半導体材料を提供する。特に、ジケトン単位に起因して電子求引性の性質を有するDPPは空気安定性を改善し、その高度に共役している縮合環構造は本明細書に開示されている半導体材料の電界効果移動度を向上させる。
【0028】
本明細書に開示されている特定の分子類およびポリマー類は([Ar−D−A]a−Mbnの構造を有するDPP誘導体を含み、式中DはN,N置換されてもよいピロロ[3,4−c]ピロール−1,4−ジオン部分を含む高度に共役した電子求引性の縮合環構造を示しており、Arは置換されてもよいアリール基またはヘテロアリール基を表し、Mは存在していなくてもよい、Ar−D−Aとは異なる共役部分を表し、aとbとは対応する各部分の数を表し、aは1以上であり、bは0または1〜約20であり、nは繰り返し単位の数を表し、例えば1〜5000である。ポリマーの場合は例えばホモポリマーまたはコポリマーであってもよく、各種の繰り返し単位において、繰り返し単位の数は例えば2〜約5000であり、好ましくは約10〜約2000であってよい。特定の実施形態では、Arは、チオフェン、フラン、ピロールのような5員複素環を含む、置換されてもよいヘテロアリール基を表す。
【0029】
ジケトン単位に起因する上記構造の電子求引性の性質は改善された空気安定性を提供し、置換された5員複素環によって電界効果移動度が向上する。これらのポリマー中のチオフェン、フラン、ピロールのような5員複素環は電子リッチであるため、TFTデバイスにおける正孔の注入と輸送を容易にする。さらに、5員複素環は、それより大きいフェニレン系部分等の芳香環よりも小さい立体障害効果をもたらす。これにより、ポリマー骨格のねじれが最小化され、骨格の共平面性が高められると考えられる。骨格の共平面性は特に、プラスに帯電した正孔が移動するsp2軌道を一直線状に維持することによって、電子移動性の高度化を助ける。
【0030】
図1は、本発明の例示DPP系化合物を用いて作成できるOTFT10の例示的な構成を示す。OTFT10は、基材12、ゲート電極14、ソース電極16、ドレイン電極18、誘電体層20および半導体層22を含み、本発明に開示される実施形態に従って形成することができる。基材12は、ゲート電極14を含むか、またはゲート電極14と接している。図示されている実施形態ではゲート電極14は基材12に完全に包含されているように(この実施形態では基材全体がゲート電極の役割を果たす)描かれているが、必ずしもそうである必要はない。重要なのは、誘電体層20がゲート電極14をソース電極16、ドレイン電極18および半導体層22から分離している点である。他の実施形態では、ゲート電極14は、例えば基材の一部にドーピングによって基材12のチャネルとして形成してもよく、または基材12の表面層として形成してもよい。
【0031】
図示されている半導体層22は、対向する第1表面24および第2表面26を有している。ソース電極16は半導体層22に接している。ドレイン電極18も半導体層22の同じ表面24に接している。半導体層22は誘電体層20の上を覆い、ソース電極16とドレイン電極18との間に広がっている。OTFTデバイスは、幅がWで長さがLの半導体チャネルを含む(図1のページに垂直な方向)。
【0032】
例示的な半導体層22を用いたOTFTの他の構成は、米国特許出願公開第20070112171号、および第20070160847号にて開示されている。
【0033】
基材12がゲート電極14としても機能する場合、基材は重度にnドープされたシリコンウェハで形成される。他の実施形態では、基材12はシリコン、ガラス板、プラスチックフィルムまたはシート、またはその他の好適な材料から構成される。フレキシブルな構造のデバイスの場合、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミドなどのシート等のプラスチック基材を使用できる。基材12の厚みは約10マイクロメートル〜10ミリメートル超の範囲であり、例えばフレキシブルなプラスチック基材では約50〜約100マイクロメートルであり、ガラス板やシリコンウェハ等の剛性基材では約1〜約10ミリメートルである。
【0034】
半導体層22は約10ナノメートル〜約1マイクロメートル、例えば約20〜約200ナノメートルの厚みHを有してよい。半導体チャネルの幅Wは約1マイクロメートル〜約5ミリメートル、例えば約5マイクロメートル〜約1ミリメートルの範囲であってよい。半導体チャネルの長さLは約1マイクロメートル〜約1ミリメートル、例えば約5〜約100マイクロメートルの範囲であってよい。
【0035】
ゲート電極14、ソース電極16およびドレイン電極18は、任意の好適な導電性材料で製造できる。ゲート電極14としては金属薄膜、導電性ポリマーフィルム、導電性インクまたはペーストから作成した導電性フィルム、または重度にドープされたシリコン等の基材そのものなどが使用可能である。ゲート電極材料の例としては、アルミニウム、金、銀、クロム、酸化インジウムスズ、ポリスチレンスルホン酸をドープしたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PSS−PEDOT)等の導電性ポリマー、ポリマーバインダー中にカーボンブラック/グラファイトまたはコロイド状銀分散液を含んでなる導電性インク/ペースト等(例えば、ELECTRODAG(商品名)、Acheson Colloids Company社製)が挙げられる。
ゲート電極層は、金属や導電性金属酸化物の真空蒸着やスパッタリング、導電性ポリマー溶液や導電性インクのスピンコーティング、キャスティングまたは印刷によるコーティング、または基材のドーピングなどによって製造できる。図示されているゲート電極14は、nドープしたシリコンから形成されている。ゲート電極層の厚みは、金属薄膜の場合は約10〜約200ナノメートルとすることができ、ポリマー導電体の場合は約1〜約10マイクロメートルとすることができる。
【0036】
ソース電極16およびドレイン電極18に好適な典型的な材料としては、金、ニッケル、アルミニウム、白金、導電性ポリマーおよび導電性インクなどのゲート電極に使用される材料が挙げられる。ある実施形態では、ソース電極16とドレイン電極18とは金等の導電性材料から形成される。
【0037】
ソース電極およびドレイン電極の厚さは約40ナノメートル〜約1マイクロメートル、例えば約100〜約400ナノメートルとすることができる。
【0038】
誘電体層20としては、無機材料薄膜または有機ポリマーフィルムが使用可能である。無機材料の例としては、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、チタン酸バリウム、チタン酸バリウムジルコニウム等が挙げられ、有機ポリマーの例としては、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ(ビニルフェノール)、ポリイミド、ポリスチレン、ポリ(メタクリレート)、ポリ(アクリレート)、エポキシ樹脂等が挙げられる。例えば、熱成長酸化ケイ素(SiO2)を誘電体層20に用いることもできる。
【0039】
誘電体層20の厚みは、誘電体材料の誘電率に応じて約10ナノメートル〜約2000ナノメートル、例えば約100ナノメートル〜約500ナノメートルとすることができる。誘電体層の導電率は、約10-12S/cm未満とすることができる。
【0040】
誘電体層、ゲート電極、半導体層、ソース電極およびドレイン電極は、ゲート電極と半導体層がともに誘電体層に接触しており、ソース電極とドレイン電極がともに半導体層に接していれば、どのような順序で形成してもよい(「どのような順序でもよい」とは、段階的に形成する場合も同時に形成する場合も含む)。電界効果トランジスタの組成物、製造および操作については、例えば米国特許第6107117号に記載されている。
【0041】
pチャネルのOTFTの場合、ソース電極は接地され、一般に+20ボルト〜−80ボルトの電圧がゲート電極に印加されている場合、例えば0ボルト〜−80ボルトのバイアス電圧をドレイン電極に印加して、半導体チャネルを移動する電荷キャリアを集める。
【0042】
ある態様では、本発明のポリマーを含む半導体層22は通常、OTFTデバイス中で、10-3cm2/Vs以上の電界効果移動度および103以上のオン/オフ比を示すことができる。オン/オフ比は、トランジスタがオンのときのソース−ドレイン電流の、トランジスタがオフのときのソース−ドレイン電流に対する比を示す。ある態様では、電界効果移動度は10-2cm2/Vsより大きく、例えば5×10-2cm2/Vsより大きく、例えば0.08〜0.12cm2/Vsである。オン/オフ比は104以上であってよく、例えば105以上であり、例えば約106である。
【0043】
これまで有機薄膜トランジスタ用の半導体層として述べてきたが、本明細書に開示されているポリマー材料はダイオードや有機太陽光発電など他の電子デバイス用半導体を形成する用途にも適用できる。
【0044】
半導体層22の一例は、ピロロ[3,4−c]ピロール−1,4−ジオン部分(DPP部分または単位)を含む化合物(低分子、オリゴマーまたはポリマー)を含む。
【化8】

式中、各Rは水素原子、アルキルやアリールなどの炭化水素およびヘテロアリールなどのヘテロ原子含有基から独立に選択される。DPP部分は2つのAr基で置換されており、各Arは独立してアリールまたはヘテロアリールであり、各Arは末端基でもよく、末端基でなくてもよい。特に断りが無い限り、本明細書で開示されている全てのアルキル、アリールおよびヘテロアリール基は置換されていても、置換されていなくてもよい。
【0045】
OTFT用半導体の使用に好適な構造式(I)のピロロ[3,4−c]ピロール−1,4−ジオン部分を含有するモノマー、オリゴマーおよびポリマーの一般的構造は、下記の構造式(II)、(III)および(IV)で表される。
【化9】

式中、各Rは水素原子、アルキルやアリール等の置換されてもよい炭化水素およびヘテロアリール等の置換されてもよいヘテロ原子含有基から独立に選択され、
各Arは置換されてもよいアリールまたはヘテロアリールから独立に選択され、
各Mは共役部分であり、下記に示す官能基から独立に選択され、
aはDPP単位の数を表し、1以上、例えば1〜20であってよく、
bは共役部分Mの数を表し、0〜20、例えば1〜20であってよく、
nは繰り返し単位の数を表し、1以上である。上記式(III)および(IV)で表されるポリマーの場合、nは2以上、例えば2〜5000、例えば10〜50であってよく、
各繰り返し単位は互いに同じでも異なっていてもよい。半導体ポリマーの場合は、規則的または実質的に規則的な繰り返し単位であると電荷移動度が高いので一般により有利である。
【0046】
aおよびnは独立に1であってよく、bが0でもよいため、構造式(IV)は、上記3種類の構造を全て代表しうる。
【0047】
共役部分Mの具体例として、下記の構造およびこれらの置換されてもよい誘導体が挙げられる。
【化10】

式中、各R’は水素原子、アルキルやアリール等の炭化水素、ヘテロアリールやアルコキシ等のヘテロ原子含有基およびハロゲン原子から独立に選択される。上記の共役部分Mの具体例はいずれも置換されていてよく、例えば1つ以上の水素がアルキル基、アリール基、アルキルアリール基、ハロゲン基、水酸基、またはそれらの組み合わせ等で置換されていてもよい。
【0048】
構造式(I)、(II)、(III)、および(IV)のR基としての典型的な炭化水素としては、あらゆる好適な置換されてもよい炭化水素基が挙げられる。これらの置換されてもよい炭化水素基は、例えば1〜約50の炭素原子、または4〜約20の炭素原子を含み、例えば、直鎖アルキル基、分岐アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基およびアリールアルキル基から選択することができる。
【0049】
Rとしてのアルキル基の好適な例としては、これらに制限されないが、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルおよびそれらの異性体が挙げられる。これらのアルキル基は、ハロゲン原子(塩素、臭素、フッ素およびヨウ素)または本明細書に記載されているヘテロ原子含有基、またはこれらの組み合わせにより、1回以上置換されていてもよい。
【0050】
Rとして好適なアリール基の例としては、6〜500の炭素原子を有する芳香族炭化水素基(アルコキシアリール基およびアルキルアリー基を含む)が含まれ、これらに限定されないが、フェニル、ポリフェニルおよびナフチル、p−メトキシフェニル、m−メトキシフェニル、o−メトキシフェニル、エトキシフェニル、p−tert−ブトキシフェニル、m−tert−ブトキシフェニル等のアルコキシフェニル基、2−メチルフェニル、3−メチルフェニル、4−メチルフェニル、エチルフェニル、4−tert−ブチルフェニル、4−ブチルフェニルおよびジメチルフェニル等のアルキルフェニル基、メチルナフチル、エチルナフチル等のアルキルナフチル基、メトキシナフチルおよびエトキシナフチル等のアルコキシナフチル基、ジメチルナフチルおよびジエチルナフチル等のジアルキルナフチル基、ジメトキシナフチルおよびジエトキシナフチル等のジアルコキシナフチル基、その他上記に典型的なM基として記載されたアリール基、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0051】
Rとして、またはRであるアルキル基の置換基として好適なヘテロ原子含有基の例としては、あらゆるヘテロ原子含有基が含まれ、これらに限定されないが、窒素含有部分、アルコキシ基、複素環系、アルコキシアリール、アリールアルコキシが挙げられる。代表的なヘテロ原子含有基としては、例えば、シアノ、ニトロ、メトキシ、エトキシおよびプロポキシなどを含むヘテロ原子含有基が挙げられる。ヘテロ原子含有基は、例えば2〜約120の原子、または例えば2〜約80の原子を有する。
【0052】
R’としての炭化水素およびヘテロ原子含有基の例としては、上記のRとして例示されたものが挙げられる。R’がハロゲン原子の場合、あらゆる好適なハロゲン原子(塩素、臭素、フッ素およびヨウ素)が使用できる。
【0053】
構造式(I)、(II)、(III)および(IV)のArのアリール基の例としては、上記のRとして例示されたものが挙げられる。ヘテロアリール基は、2つ以上の炭素原子を含む(一般的には4つ以上の炭素原子を含む)不飽和環と、1つ以上の炭素以外の原子(S、Se、OまたはN等のヘテロ原子)とを含む複素環である。ヘテロアリール基は、例えば5〜約120の原子または10〜約80の原子を有する。ある実施形態では、ヘテロアリール基は電子供与基であり、正孔輸送を支援する。S、Se、OまたはN(NR’’基であってもよい)の場合は、特に、これらの例示的へテロ原子は孤立電子対を含み、正孔輸送を支援する。ヘテロアリール基の例としては、Rとして例示されたヘテロアリール基が挙げられる。
【0054】
ある実施形態では、Arは、チオフェン、フランまたはピロールのような5員環の繰り返し単位を1つ以上含む、置換されてもよいヘテロアリール基である。
【0055】
Arとしてのヘテロアリール基のその他の例としては、オキサゾール、イソオキサゾール、ピリジン、チアゾール、イソチアゾール、イミダゾール、トリアゾール、ピラゾール、フラザン、チアジアゾール、オキサジアゾール、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、インドール、イソインドール、インダゾール、クロメン、キノリン、イソキノリン、シンノリン、キナゾリン、キノキサリン、ナフチリジン、フタラジン、プリン、プテリジン、チエノフラン、イミダゾチアゾール、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾチアジアゾール、ベンゾイミダゾール、イミダゾピリジン、ピロロピリジン、ピロロピリミジン、ピリドピリミジン、およびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0056】
ある特定の実施形態では、ヘテロアリール基は、S、Se、Oまたは、NR’’の形でのN(R’’は上記の式(I)〜(IV)のところで述べたRと同様に定義される)のような1個のヘテロ原子を含む5員環の不飽和環を含み、この5員不飽和環によってDPP部分の対応する縮合環に結合している。
【0057】
構造式(V)は、Arが置換されてもよい5員複素環を含む構造式(IV)の一例である化合物を示しており、この化合物は例示された半導体層での使用に適している。
【化11】

式中、各Xは独立して、S、Se、OまたはNR’’等のヘテロ原子(含有基)であり、各Rは前記したように定義され、各R’’は上記の構造式(I)〜(IV)のRと同様に定義される。特に、RまたはR’’は水素原子、アルキルまたはアリール等の置換されてもよい炭化水素、またはヘテロアリール等のヘテロ原子含有基であり、
各Zは独立してアルキルまたはアリール等の置換されてもよい炭化水素、CN、ヘテロアリール等のヘテロ原子含有基、またはBr、Cl、F等のハロゲン原子であり、
dは1以上の数、例えば1〜約10であり、
eはZの数を表し、0〜2の範囲をとることができ、
R、M、a、bおよびnは上記構造式(II)〜(IV)におけるそれと同様に定義されうる。一般に、コポリマーが規則的な構成を有するように、dおよびbの値は各繰り返し単位に対して同じまたはほぼ同じであってよい。Zが置換されてもよい炭化水素またはヘテロアリールである場合、Zは上記Rと同様に定義されたものでよい。
【0058】
eが0の場合、構造式(V)は下記構造式(VI)で表すことができる。
【化12】

【0059】
構造式(V)と(VI)で表される実施形態では、下記式で表される各Arはチオフェン、フランまたはピロール等の1つ以上の複素環を含む。
【化13】

【0060】
ある特定の実施形態では、bは0であり、前記の層は下記構造式(VII)を含む化合物を含む。
【化14】

式中、X、R、Z、d、eおよびnは上記の構造式(V)と同様に定義される。1つの実施形態では、nは2〜5000である。また別の実施形態では、nは10〜50である。さらに別の実施形態では、Rは炭素数1〜50のアルキル基である。
【0061】
ある実施形態では、eは0であり、下記構造式(VIII)で示される。
【化15】

【0062】
半導体層の形成に用いられる、式(VIII)で表される化合物の例としては、ポリ(2,5−ジアルキル/ジアリール−3,6−ビス(チエニル/フリル/ピロリル−5−イル)−ジケトピロロピロールが挙げられる。上式中、「ジアルキル/ジアリール」は「ジアルキル又はジアリール」、「チエニル/フリル/ピロリル」は「チエニル又はフリル又はピロリル」を意味する。
【0063】
種々の実施形態では、各繰り返し単位のdの値が同じまたはほぼ同じ値を有すがことにより、骨格が規則的なポリマーとなる。
【0064】
以下に、実施形態に従った半導体材料の例を示す。これらの例示化合物は、混合物として用いてもよい。式中、nは繰り返し単位の数であり、2〜5000とすることができ、R’’’、R’’’’、およびR’’’’’は同じであっても異なってもよい置換基であり、当該置換基は置換されてもよい炭化水素基およびヘテロ原子含有基からなる群から独立に選択され、YはF、Cl、およびBrから選択されるハロゲン原子である。
【化16】

【化17】

【化18】

【化19】

【化20】

【化21】

【化22】

【化23】

【化24】

【化25】

【化26】

【化27】

【化28】

【化29】

【0065】
上記に記載した例示構造式の中で、構造式(10)、(11)、(12)、(13)、(22)、(23)、(24)、(25)、(34)、(35)、(36)、(37)、(44)、(45)、(46)、(47)、(48)、(49)、(50)および(51)は薄膜導体用の半導体層として特に有用である。
【0066】
構造式(VIII)に基づいて形成されるポリマーの例として、ポリ(2,5−ジアルキル−3,6−ビス(チエニル−5−イル)−ジケトピロロピロール)に基づくポリマーを、例えば半導体層中に用いることができる。このため、そのようなポリマーは下記の一般式を有することができる。
【化30】

式中、nは繰り返し単位の数であり、2〜約5000が可能であり、R’’’はアルキル基であり、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシルおよびエイコサニルからなる群から独立に選択される。例としては、ポリ(2,5−ジオクタデシル−3,6−ビス(チエニル−5−イル)−ジケトピロロピロール)が挙げられる。
【0067】
層22は、構造式(II)〜(VIII)のいずれか、またはそれらの組み合わせに基づく低分子物質、オリゴマーまたはポリマーを含んでよい。ポリマーは、構造式(II)〜(VIII)のいずれかからなる少なくとも1種類の繰り返し単位を含んでよい。層22は、低分子物質、オリゴマーまたはポリマーのみから形成されてもよく、バインダー、溶媒またはドーパント等の化合物を追加で含んでもよい。ある態様では、層22は、本明細書に記載されているいずれかの構造を有する化合物を1体積パーセント以上、例えば、10体積%以上または50体積%以上、かつ100体積%までの化合物を含んでよい。
【0068】
半導体デバイスを形成する際の層22の堆積を支援するため、化合物をバインダーに分散させてもよく、および/またはバインダーを層22に化合物を保持するマトリクスとしてもよい。例えば、1種類以上の例示化合物に加えてポリスチレンをバインダーとして含む層を形成してもよい。バインダーは層22のうち0.1〜99体積%、例えば、層22の50体積%未満の割合で含んでよい。
【0069】
構造式(V)、(VI)、(VII)および(VIII)で表されるポリマーは、図2に示す4段階の工程により製造できる。
【0070】
S100では、塩基と有機溶媒の存在下で2モルの適切なニトリルまたはシッフ塩基と1モルのコハク酸ジエステルとを反応させることによりDPP部分を形成することができる。例えば、所望のAr基の形成用のカルボニトリル(Ar−CN)(例えば、チオフェンカルボニトリル)とコハク酸ジイソプロピルとをDPP部分の閉環のための適切な条件下で反応させて、下記一般式のモノマー(M1)を形成する。
【化31】

式中、Arは下記式で表される構造であり、Z、e、Xおよびbは上記で定義されたものである。
【化32】

例えば、
【化33】

【0071】
S100では、インサイチューで(in situ)形成できるt−C511ONa等のナトリウムアルコキシドの存在下、溶液中で、約85℃で実施することができ、次いで氷酢酸等の有機酸で中和が行われる。米国特許第4579949号では、DPP分子形成の反応についてさらに詳細が述べられている。
【0072】
S102では、S100で得られたモノマー(M1)のH基が所望のR基に変換されるが、その反応には式R−Yで表されるハロゲン化物(式中、RはH以外の上記で定義されたものであり、Yは塩素、臭素、およびヨウ素から選択できるハロゲンである)が用いられる。これにより、下記構造式(M2)のモノマーが形成される。
【化34】

【0073】
S102は、約40℃〜約180℃(例えば、約120℃)の温度で、溶液中で実施できる。反応は、ジメチルホルムアミドの等の好適な溶媒中で、アルカリ金属水酸化物や炭酸塩のような水性塩基、および18−クラウン−6等のクラウンエーテルの存在下で実施できる。好適な水性塩基としては、NaOH、KOH、Na2CO3、K2CO3等、例えばK2CO3水溶液が挙げられる。通常、化合物M1に対する塩基のモル比は0.5:1〜50:1の範囲から選択される。
【0074】
S104では、S100またはS102で形成されるモノマー(M1)または(M2)とハロゲンとの反応によりAr基がハロゲン化され、下記一般式のモノマーを形成する。
【化35】

【0075】
式中、Yは例えば臭素、塩素またはヨウ素である。S104は、クロロホルム等の任意の好適な非反応性溶媒中で、例えば室温またはそれより高い温度で実施できる。
【0076】
S106では、モノマー(M3)を重合して一般式(III)のホモポリマーが形成される。特に、Arが下記構造である場合、得られるポリマーは上記の構造(VIII)を有する。
【化36】

【0077】
あるいは、S108では、上記構造式(IV)、(V)または(VI)における単位Mを形成するためのチオフェン、フラン、ピロール、チエノ[3,2−b]チオフェン、ベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェンおよびそれらの混合物等のコモノマーとモノマー(M3)とを共重合させてもよい。
【0078】
S106またはS108は、ヘキサメチルジスズ(hexamethylditin)、ヘキサ−n−ブチルジスズ(hexa−n−butylditin)、ヘキサフェニルジスズ(hexaphenylditin)のようなヘキサアルキルジスズ(hexaalkylditin)またはヘキサアリールジスズ(hexaarylditin)等のジスズ(ditin)化合物と、カップリング反応または重縮合反応に適した触媒とを用いて、場合によってヨウ化銅(I)の存在下で、溶液中で実施できる。カップリング触媒としてはパラジウムベースの触媒、例えばテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(Pd(PPh34)などのテトラキス(トリアリールホスホニウム)−パラジウム触媒が使用でき、通常、DPPモノマー:触媒のモル比は、1000:1〜10:1、例えば100:1〜30:1である。溶媒としては、THFと1−メチル−2−ピロリジノン(NMP)の混合物が使用可能である。反応は、溶媒の沸点またはそれよりわずかに高い温度での還流下で実施できる。
【0079】
S110では、得られたポリマーは例えばソックスレー抽出によって精製できる。
【0080】
このようにして、重量平均分子量Mwが700〜1,000,000の範囲、例えば約5000以上である、ポリマーまたはコポリマーを形成することができる。
【0081】
S112では、上記ポリマーを含む層が半導体デバイスに組み込まれる。
【0082】
図1に示されるタイプのOTFTを形成する際は、例えば得られたポリマー(III)、(IV)、(V)、(VI)、(VII)または(VIII)をジクロロベンゼン等の好適な溶媒に溶解し、得られた溶液を例えばスピンコーティング、キャスティング、真空蒸着等により誘電体層上に堆積させる。誘電体層としては、例えばドープされたシリコンウェハ上で成長させた酸化ケイ素層が用いられる。半導体ポリマーの堆積は環境条件下、例えば酸素が約5重量%を超えて存在するような大気中やその他の雰囲気中で、約25℃の温度で実施できる。また、堆積は雰囲気中の湿気を除去しなくても実施できる。例えば、堆積は約10%、またはそれ以上の相対湿度のもとでも実施できる。
【0083】
半導体ポリマー層の電荷輸送能を高めるために、半導体ポリマー層を堆積させる前の誘電体層をオクチルトリクロロシラン等の反応性有機シランで改質することで、有機シランの薄層(例えば5nmの厚み)を誘電体層上に設けてもよい。
【0084】
得られた半導体層は、次に例えば80℃の真空オーブン中で5〜10時間乾燥させる。次いで、例えばシャドーマスクを介して真空蒸着により半導体層の上面に金を堆積させて、ソース電極とドレイン電極とを半導体層上にパターン形成することができる。
【0085】
得られた半導体デバイスは、例えば140℃の好適な温度で10〜15分間、半導体ポリマーに損傷を与えないようにアニール処理してもよい。
【0086】
以下の実施例では、構造式(VIII)で表させる例示ポリマーを形成する反応スキーム、およびそれから形成されるOTFTを提供する。ただし、本発明の実施形態の範囲はこれにより制限されるものではない。
【0087】
実施例1:ポリ(2,5−ジオクタデシル−3,6−ビス(チエニル−5−イル)−ジケトピロロピロールの合成
【0088】
例示ポリマー4の合成の概要をスキーム1に示す。
スキーム1
【化37】

【0089】
<1>3,6−ビス−(チエニル)−ジケトピロロピロール(1)の合成
【0090】
ナトリウム(3.45g、0.15mol)を60mLのt−アミルアルコールに加え、少量の塩化鉄(III)(50mg)を加えた。ナトリウムが見えなくなるまで、混合物を95〜102℃で1時間激しく攪拌した。溶液を85℃まで冷却した。得られた溶液に10.9g(0.1mol)の2−チオフェンカルボニトリルを加えた。次に、8.3g(0.04mol)のコハク酸ジイソプロピルを5mLのt−アミルアルコールに溶解させたものを、85℃で1時間かけて滴下して加えた。滴下が完了した後、混合物を2時間、85℃に保った。次に、反応混合物を50℃まで冷却し、50mLのメタノールで希釈し、次いで、約15mLの氷酢酸でゆっくり中和し、短時間還流して、反応混合物をろ過した。残渣を熱メタノールと水で数回洗浄し、得られた固体を真空下、50℃で乾燥した。青みがかった赤色固体(11g、収率92%)が得られた(化合物(1))。
NMRの分析結果は以下のようであった:1H NMR(DMSO−D6):11.23(s,2H),8.20(d,J=3.7Hz,2H),7.95(d,J=4.9,2H)、7.29(dd,J1=3.7Hz、J2=4.9Hz、2H)。
【0091】
<2>2,5−ジオクタデシル−3,6−ビス−(チエニル)−ジケトピロロピロール(2)
【0092】
75mLのジメチルホルムアミド(DMF)に化合物(1)(1.5g、5mmol)、2.31g(16.7mmol)のK2CO3、12mgの18−クラウン−6、および1−ブロモオクタデカン(5.57g、16.7mmol)を混合したものを120℃で一晩加熱した。室温まで冷却した後、溶液をろ過し、固体を水で数回洗浄した。固体を加熱してクロロホルムに溶解し、ろ過した。ろ液を室温まで冷却し、赤色の沈殿を得た。固体をろ過し、真空下で乾燥した(化合物(2))。
【0093】
<3>2,5−ジオクタデシル−3,6−ビス−(5−ブロモチエニル)−ジケトピロロピロール(3)
【0094】
化合物(2)(4.416g、3mmol)と30mLのクロロホルムを攪拌バー、冷却管、および添加用漏斗を装着した100mLの3口フラスコに入れた。次に、0.96g(6mmol)のBr2を20mLのクロロホルムに溶解させたものをフラスコに室温で添加した。混合物を室温で10分間攪拌し、次に60℃に加温して、さらに1時間攪拌した。次に、反応混合物を室温まで冷却し、ろ過した。得られた赤色の固体をNa2SO3溶液と水とで洗浄し、最後にメタノールで十分に洗浄した。次いで、固体を加熱してクロロホルムに溶解し、次に室温まで冷却した。ろ過後に得られた暗紫色の固体を真空下で乾燥した。
【0095】
<4>ポリ(2,5−ジオクタデシル−3,6−ビス(チエニル−5−イル)−ジケトピロロピロール)(4)
【0096】
ヘキサメチルジスズ(0.344g、1.05mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、Pd(PPh34(58mg、0.05mmol)、ヨウ化銅(I)(3.8mg、0.02mmol)、上記化合物(3)(0.9631g、1mmol)、THF(30mL)および1−メチル−2−ピロリジノン(NMP)(15mL)を100mLのフラスコに入れた。反応混合物を加熱して48時間還流し、次に室温まで冷却し、200mLの攪拌しているアセトンに注ぎ込んだ。固体をろ過し、メタノールで洗浄して乾燥した。次いで、ヘプタンを用いたソックスレー抽出を48時間行って固体をさらに精製し、クロロベンゼンに溶解した。溶媒を除去して、暗青色の固体を得た(0.50g、62.5%)(化合物(4))。
【0097】
実施例2:OTFTの製造および特性評価
【0098】
図1に概略的に示されるトップコンタクト型の薄膜トランジスタの構成を試験用デバイス構造として選択した。試験用デバイスは、nドープされたシリコンウェハ上に厚さ約200ナノメートルの熱的に成長した酸化ケイ素層20を設けたものの上に形成し、静電容量計で測定した静電容量は約15nF/cm2であった(ナノファラッド/平方センチメートル)。ウェハはゲート電極の機能を果たし、酸化ケイ素はゲート誘電体の役割を果たす。
【0099】
酸化ケイ素層が設けられたnドープシリコンウェハは、初めにイソプロパノール、アルゴンプラズマ、イソプロパノールでそれぞれ洗浄し、その後空気乾燥し、0.1Mのオクチルトリクロロシラン(OTS−8)のトルエン溶液に60℃で20分浸漬した。続いて、ウェハをトルエン、イソプロパノールで洗浄し、空気乾燥した。ポリマー(4)(ポリ(2,5−ジオクタデシル−3,6−ビス−(チエニル−5−イル)−ジケトピロロピロール)をジクロロベンゼンに溶解した溶液(0.5重量%)を初めに1.0マイクロメートルのシリンジフィルターでろ過し、次いでOTS−8処理したシリコンウェハ上に1000rpm、室温で120秒間スピンコーティングした。これにより、厚みが20〜50nmの半導体層がシリコンウェハ上に形成され、これを真空オーブン内で、80℃で5〜10時間乾燥した。引き続き、シャドーマスクを介して真空蒸着することで、チャネル長さと幅の様々に異なる、厚みが約50ナノメートルの金のソース電極およびドレイン電極を半導体層の上面に形成した。これにより、種々の大きさの一連のトランジスタを作成した。デバイスの評価は、140℃で10〜15分アニール処理してから行った。
【0100】
トランジスタ性能の評価は暗箱(すなわち、環境光を排除した密閉された箱)内で、Keithley 4200 SCS半導体特性評価システムを用いて環境条件下で行った。キャリア移動度μを、飽和領域(ゲート電圧、VG<ソース−ドレイン電圧、VSD)のデータから下記方程式(1)に基づいて計算した。

SD=Ciμ(W/2L)(VG−VT2 (1)

式中、ISDは飽和領域のドレイン電流、WおよびLはそれぞれ半導体チャネルの幅および長さ、Ciはゲート誘電体層20の単位面積あたりの静電容量、VGとVTはそれぞれゲート電圧としきい電圧である。デバイスのVTは、飽和領域におけるISDの平方根とデバイスのVGとの関係から、測定されたデータをIID=0まで外挿することによって決定された。
【0101】
デバイスの移動特性と出力特性は、化合物(4)がp型半導体であることを示した。W=5000μm、L=90μmの寸法のトランジスタを用いて、5個以上のトランジスタから以下の平均特性値が得られた。
移動度:0.08〜0.12cm2/V.s.
オン/オフ比:106
【0102】
移動度およびオン/オフ比はポリチオフェン(例えば、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)(P3HT)やポリ[チオフェン](PQT))のそれと同程度である。OTFTデバイスは全て環境条件下で生成、測定され、この種のポリマーの優れた空気安定性を示した。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】実施形態による半導体層を有するOTFTの実施形態の断面図である。
【図2】実施形態によるポリマー層を形成する典型的な方法を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式で表される構造を有するポリマー。
【化1】

式中、各Rは水素原子、置換されてもよい炭化水素およびヘテロ原子含有基から独立に選択され、各Mはなくてもよい共役部分であり、aは1以上の数を表し、bは0〜20の数を表し、nは2〜5000の数であり、各XはS、Se、OおよびNR’’から独立に選択され、各R’’は水素原子、置換されてもよい炭化水素およびヘテロ原子含有基から独立に選択され、各Zは独立に置換されてもよい炭化水素、ヘテロ原子含有基またはハロゲン原子であり、dは1以上の数であり、eは0〜2の数である。
【請求項2】
下式で表される構造を有する、請求項1に記載のポリマー。
【化2】

【請求項3】
請求項1に記載のポリマーを含む半導体層を設けたデバイスであって、前記ポリマーの電界効果移動度が10-2cm2/Vs以上であるデバイス。
【請求項4】
下式で表されるモノマーを重合、または下式で表されるモノマーとコモノマーとを重合させることを含む、ポリマーの形成方法。
【化3】

式中、各Yはハロゲン原子であり、各Rは水素原子、置換されてもよい炭化水素およびヘテロ原子含有基から独立に選択され、各Arは独立に下記式で表される構造であり、
【化4】

dは1以上の数であり、各XはS、Se、OおよびNR’’から独立に選択され、各R’’は水素原子、置換されてもよい炭化水素およびヘテロ原子含有基から独立に選択され、各Zは独立に置換されてもよい炭化水素、ヘテロ原子含有基またはハロゲン原子であり、eは0〜2の数である。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−62537(P2009−62537A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−228384(P2008−228384)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】