説明

ジペプチジルペプチダーゼIVを阻害するフッ素化環状アミド

本発明は、ジペプチジルペプチダーゼ−IV酵素の治療的に有効で選択的な新規阻害剤、前記化合物を含む医薬組成物、並びにDPP−IVによる処理を被るタンパク質に関連する疾病、例えばII型真性糖尿病、高血糖症、耐糖能障害、代謝症候群(症候群X又はインスリン耐性症候群)、糖尿、代謝性アシドーシス、白内障、糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性心筋症、I型糖尿病、肥満症、肥満症によって悪化した状態、高血圧症、高脂血症、アテローム性動脈硬化症、骨粗しょう症、骨減少症、虚弱性、骨損失、骨折、急性冠症候群、多嚢胞性卵巣症候群による不妊症、短腸症候群、不安、うつ病、不眠症、慢性疲労、てんかん、摂食障害、慢性疼痛、アルコール嗜癖、腸運動に関連する疾病、潰瘍、過敏性腸症候群、炎症性腸症候群を治療するための及びII型糖尿病における疾病進行を予防するための前記化合物の使用に関する。また、本発明は、糖尿病用のインスリン分泌促進剤の同定方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジペプチジルペプチダーゼ−IV(以下、「DPP−IV」と称する)酵素の治療的に有効かつ選択的な新規阻害剤、前記化合物を含む医薬組成物、並びにDPP−IVによる作用を受けるタンパク質に関連する疾病、例えば、II型糖尿病、代謝症候群(X症候群又はインスリン耐性症候群)、高血糖症、耐糖能障害、糖尿、代謝性アシドーシス、白内障、糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性心筋症、I型糖尿病、肥満症、高血圧症、高脂血症、アテローム性動脈硬化症、骨粗しょう症、骨減少症、虚弱性[frailty]、骨損失、骨折、急性冠症候群、多嚢胞性卵巣症候群による不妊症、短腸症候群、不安、うつ病、不眠症、慢性疲労、てんかん、摂食障害、慢性疼痛、アルコール嗜癖、腸運動に関連する疾病、潰瘍、過敏性腸症候群、炎症性腸症候群を治療するための及びII型糖尿病における疾病進行を予防するための前記化合物の使用に関する。また、本発明は、糖尿病用のインスリン分泌促進剤の同定方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
ジペプチジルペプチダーゼ−IV(EC3.4.14.5)は、2位にプロリン又はアラニンを有するタンパク質からN末端ジペプチドを優先的に加水分解するセリンプロテアーゼである。DPP−IVの生理学的役割は、完全には解明されていないが、糖尿病、耐糖能、肥満症、食欲調節、脂肪血症、骨粗しょう症、神経ペプチド代謝、及びT−細胞活性化に関連すると考えられている。
【0003】
DPP−IVは、その基質としてインクレチンペプチドグルカゴン様ペプチド1(GLP−1)、及び胃抑制ポリペプチド(GIP)が含まれるので、グルコース恒常性の制御に関連付けられてきた。これらのペプチドからのN末端アミノ酸の切断は、それらを機能的に不活性にする。GLP−1は、II型糖尿病患者における効果的な抗糖尿病治療法であること、及びI型糖尿病患者における食餌関連インスリン必要量を減少させることが示されている。GLP−1及び/又はGIPは、満腹、脂肪血症、及び骨形成を調節するものと考えられている。外因性のGLP−1は、急性冠症候群、狭心症、及び虚血性心臓疾患に罹病している患者に対する治療として提案されている。
【0004】
イン・ビボにおけるDPP−IV阻害剤の投与は、GLP−1及びGIPのN末端分解を防ぎ、その結果、それらのペプチドの循環濃度が高くなり、インスリン分泌が増加し、耐糖能が向上する。これらの観察に基づいて、DPP−IV阻害剤は、II型糖尿病(耐糖能が障害される疾病)を治療するための医薬と考えられている。更に、DPP−IV阻害剤による治療は、、種々の中枢神経系障害に関連するペプチドである神経ペプチドY(NPY)、及び胃腸管状態、例えば、潰瘍、過敏性腸疾患、及び炎症性腸疾患に関連するペプチドYYの分解を防ぐ。
【0005】
インスリンが早いうちに発見され、続いて糖尿病の治療における使用が広まり、そして後に経口血糖降下剤として、スルホニルウレア剤〔例えば、クロルプロパミド(Pfizer),トルブタミド(Upjohn),アセトヘキサミド(E.I.Lilly)〕、ビグアナイド系薬剤〔フェンホルミン(Ciba Geigy),メトホルミン(G.D.Searle)〕、及びチアゾリジンジオン類〔ロシグリタゾン(GlaxoSmithKline,Bristol-MyersSquibb),ピオグリタゾン(Takeda,E.I.Lilly)〕が発見され及び使用されたにもかかわらず、糖尿病の治療は未だに満足のいくものではない。
【0006】
インスリンの使用は、I型糖尿病患者及び約10%のII型糖尿病患者(現在利用可能な経口血糖降下剤が無効な患者)において必要とされ、一日に複数回の(通常、自己注射による)投与が必要である。インスリンの適切な投与量の決定は、尿又は血液中におけるグルコース濃度の頻繁な評価を必要とする。インスリン過剰量の投与は、血糖における軽い異常から昏睡又は死に至るまでの結果を伴う、低血糖症を生じる。
【0007】
II型糖尿病の治療は、通常、食事制限、運動、経口剤、及びより重篤な場合にはインスリンの組合せを含む。しかしながら、臨床的に利用可能な血糖降下剤は、それらの使用を制限する副作用を有することがある。副作用が少ないか又は他剤無効例に効果のある血糖降下剤に対する継続的必要性は、全くもって明らかである。
【0008】
制御の乏しい高血糖症は、進行型真性糖尿病を特徴付ける合併症(白内障,神経障害,腎症,網膜症,心筋症)の多様性の直接的原因である。更に、真性糖尿病は、しばしば高脂血症、アテローム性動脈硬化症、及び高血圧症を伴う合併症であり、これらの疾病に起因する全体的な罹病率及び死亡率を有意に増加させる。
【0009】
疫学的証拠は、高脂血症を、アテローム性動脈硬化症による循環器疾患(CVD)の主要な危険因子として、しっかりと確立している。アテローム性動脈硬化症は、米国及び西欧における主要な死因であることが認められている。CVDは、糖尿病対象の間で、この集団において複数の独立した危険因子、例えば、グルコース不耐性、左心室肥大、及び高血圧症が存在することを少なくとも部分的に理由として、特に蔓延する。従って、一般集団及び特に糖尿病患者における高脂血症治療の成功は、医学的重要性が非常に大きい。
【0010】
高血圧症(又は高血圧)は、原因物質又は障害が不明な多くの患者において、生じることのある状態である。このような「本態性」高血圧症は、しばしば、肥満症、糖尿病、及び高トリグリセリド血症のような疾患に関連し、そして心不全、腎不全、及び脳卒中と高血圧症は正の関連を示すことが知られている。また、高血圧症は、アテローム性動脈硬化症及び冠疾患の発達にも寄与することがある。高血圧症、並びにインスリン耐性及び高脂血症は、インスリン耐性症候群(IRS)及びX症候群としても知られている代謝症候群を特徴付ける症状群を含む。
【0011】
肥満症は、アテローム性動脈硬化症、高血圧症、及び糖尿病の発達に対する周知で一般的な危険因子である。肥満症の発生率、及びそれに由来するこれらの疾病の発生率は、世界的に増加している。現在、有効且つ許容可能に脂肪症を軽減する医薬数種が利用可能である。
【0012】
骨粗しょう症は、結果として骨脆性が増し、及び骨折をしやすくなる、低い骨密度及び骨組織の微細構造変質に特徴付けられる進行性の全身性疾患である。骨粗しょう症、及びその弱められた骨強度の結果は、虚弱性並びに疾病率及び死亡率の増加の重要な原因である。
【0013】
心臓疾患は、全世界において主要な健康問題である。心筋梗塞は、心臓疾患を有する個体の間の死亡率の重要な原因である。急性冠症候群は、急性の心筋梗塞(MI)が発達する危険性の高い患者を意味する。
【0014】
糖尿病、高血糖症、高脂血症、高血圧症、肥満症、及び骨粗しょう症の治療に利用可能な治療法は存在するが、別の及び向上した治療法に対する継続的必要性がある。
【0015】
WO02/076450A1(2002年10月3日公開,Merck&Co.,)には、式:
【化1】

[式中、可変部分は、前記明細書に記載のとおりの意味である]
で表される化合物が開示されている。
【発明の開示】
【0016】
本発明は、(2S)−2−アミノ−2−シクロヘキシル−1−((3RS)−3−フルオロ−ピロリジン−1−イル)−エタノン及び(S)−2−アミノ−2−シクロヘキシル−1−(3,3−ジフルオロ−ピロリジン−1−イル)−エタノン、それらのプロドラッグ、又は前記プロドラッグ若しくは前記化合物の薬剤学的に許容することのできる塩に関する。
【0017】
また、本発明は、治療有効量の
(a)(2S)−2−アミノ−2−シクロヘキシル−1−((3RS)−3−フルオロ−ピロリジン−1−イル)−エタノン又は(S)−2−アミノ−2−シクロヘキシル−1−(3,3−ジフルオロ−ピロリジン−1−イル)−エタノンを含む第一の化合物、そのプロドラッグ、又は前記プロドラッグ若しくは前記第一の化合物の薬剤学的に許容することのできる塩;及び
(b)インスリン若しくはインスリンアナログ;インスリノトロピン;ビグアナイド系薬剤;α−アンタゴニスト若しくはイミダゾリン類;グリタゾン系薬剤;アルドースレダクターゼ阻害剤;グリコーゲンホスホリラーゼ阻害剤;ソルビトール脱水素酵素阻害剤;脂肪酸酸化阻害剤;α−グルコシダーゼ阻害剤;β−アゴニスト;ホスホジエステラーゼ阻害剤;脂質低下剤;抗肥満剤;バナデート類若しくはバナジウム複合体若しくはペルオキソバナジウム複合体;アミリンアンタゴニスト;グルカゴンアンタゴニスト;成長ホルモン分泌促進剤;糖新生阻害剤;ソマトスタチンアナログ;腎臓グルコースの阻害剤;抗脂肪分解剤を含む第二の化合物;前記第二の化合物のプロドラッグ又は前記第二の化合物及び前記プロドラッグの薬剤学的に許容することのできる塩
を含む、医薬組成物にも関する。
一実施態様では、前記組成物は、更に、薬剤学的に許容することのできる担体又は希釈剤を含む。
【0018】
また、本発明は、
(a)(2S)−2−アミノ−2−シクロヘキシル−1−((3RS)−3−フルオロ−ピロリジン−1−イル)−エタノン又は(S)−2−アミノ−2−シクロヘキシル−1−(3,3−ジフルオロ−ピロリジン−1−イル)−エタノン、そのプロドラッグ、又は前記プロドラッグ若しくは前記化合物の薬剤学的に許容することのできる塩を含む第一投与形態;
(b)インスリン若しくはインスリンアナログ;インスリノトロピン;ビグアナイド系薬剤;α−アンタゴニスト若しくはイミダゾリン類;グリタゾン系薬剤;アルドースレダクターゼ阻害剤;グリコーゲンホスホリラーゼ阻害剤;ソルビトール脱水素酵素阻害剤;脂肪酸酸化阻害剤;α−グルコシダーゼ阻害剤;β−アゴニスト;ホスホジエステラーゼ阻害剤;脂質低下剤;抗肥満剤;バナデート類若しくはバナジウム複合体若しくはペルオキソバナジウム複合体;アミリンアンタゴニスト;グルカゴンアンタゴニスト;成長ホルモン分泌促進剤;糖新生阻害剤;ソマトスタチンアナログ;腎臓グルコースの阻害剤;抗脂肪分解剤を含む第二投与形態;前記第二投与形態のプロドラッグ又は前記第二投与形態及びそのプロドラッグの薬剤学的に許容することのできる塩;及び
(c)容器
を含むキットにも関する。前記キットの前記第一投与形態及び/又は前記第二投与形態。
【0019】
また、本発明は、哺乳動物においてDPP−IVを阻害する方法であって、前記治療が必要な前記哺乳動物に、治療有効量の(2S)−2−アミノ−2−シクロヘキシル−1−((3RS)−3−フルオロ−ピロリジン−1−イル)−エタノン又は(S)−2−アミノ−2−シクロヘキシル−1−(3,3−ジフルオロ−ピロリジン−1−イル)−エタノン、そのプロドラッグ、又は前記プロドラッグ若しくは前記化合物の薬剤学的に許容することのできる塩を投与すること含む、前記方法にも関する。
【0020】
更に、本発明は、ヒトにおけるDPP−IVによって媒介される状態の治療方法であって、前記治療が必要な前記哺乳動物に、治療有効量の(2S)−2−アミノ−2−シクロヘキシル−1−((3RS)−3−フルオロ−ピロリジン−1−イル)−エタノン又は(S)−2−アミノ−2−シクロヘキシル−1−(3,3−ジフルオロ−ピロリジン−1−イル)−エタノン、そのプロドラッグ、又は前記プロドラッグ若しくは前記化合物の薬剤学的に許容することのできる塩を投与することを含む、前記方法に関する。
【0021】
DPP−IVを阻害することにより媒介される状態としては、特に、II型真性糖尿病、代謝症候群、高血糖症、耐糖能障害、糖尿、代謝性アシドーシス、白内障、糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性心筋症、I型糖尿病、肥満症、肥満症によって悪化した状態、高血圧症、高脂血症、アテローム性動脈硬化症、骨粗しょう症、骨減少症、虚弱性、骨損失、骨折、急性冠症候群、多嚢胞性卵巣症候群による不妊症、II型糖尿病における疾病の進行、短腸症候群、不安、うつ病、不眠症、慢性疲労、てんかん、摂食障害、慢性疼痛、アルコール嗜癖、腸運動に関連する疾病、潰瘍、過敏性腸症候群、及び炎症性腸症候群を挙げることができる。前記状態の全ては、本発明の方法の範囲内である。
好ましい態様では、治療される状態が、II型真性糖尿病である。
【0022】
本明細書において、本発明の化合物に関して用いられる用語「薬剤学的に許容することのできる塩」には、薬剤学的に許容することのできるアニオン性塩が含まれる。用語「薬剤学的に許容することのできるアニオン」は、医薬組成物の別の成分及び/又はそれにより治療される動物に、化学的及び/又は毒性学的に適合する陰イオンを表す。適切なアニオンとしては、以下に限定されるものでないが、ハロゲンイオン(例えば、塩素イオン、ヨウ素イオン、及び臭素イオン)、(C−C12)アルキルスルホネート(例えば、メシレート、エチルスルホネートなど)、アリールスルホネート(例えば、フェニルスルホネート、トシレートなど)、(C−C12)アルキルホスホネート、ジ(C−C12)アルキルホスフェート(例えば、ジメチルホスフェート、ジエチルホスフェート、α−ジグリセロールホスフェートなど)、アリールホスホネート、アリールホスフェート、アルキルアリールホスホネート、アルキルアリールホスフェート、(C−C12)アルキルカルボキシレート(例えば、アセテート、プロピオネート、グルタメート、グリセレートなど)、アリールカルボキシレートなどを挙げることができる。
【0023】
本発明の化合物は単離して、そしてそのまま、又はその薬剤学的に許容することのできる塩、溶媒和物、及び/又は水和物の形態で、使用することができる。用語「塩」は、本発明の化合物の無機塩及び有機塩を表す。これらの塩は、最終単離及び化合物の精製の間にその場で調製するか、又は前記化合物又はプロドラッグを適当な有機酸又は無機酸と別々に反応させ、そしてそれにより形成される塩を単離することによって調製することができる。典型的な塩としては、臭化水素酸塩、塩酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、シュウ酸塩、ベシレート、パルミチン酸塩、パモエート、マロン酸塩、ステアリン酸塩、ラウリン酸塩、リンゴ酸塩、ホウ酸塩、安息香酸塩、乳酸塩、リン酸塩、ヘキサフルオロリン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トシレート、ギ酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、ナフチレート、メシレート、グルコヘプトネート、ラクトビオネート、及びラウリルスルホン酸塩などを挙げることができる。例えば、「Berge,ら,J.Pharm.Sci.,66,1-19(1977)」を参照されたい。
【0024】
用語「プロドラッグ」は、イン・ビボで、(2S)−2−アミノ−2−シクロヘキシル−1−((3RS)−3−フルオロ−ピロリジン−1−イル)−エタノン又は(S)−2−アミノ−2−シクロヘキシル−1−(3,3−ジフルオロ−ピロリジン−1−イル)−エタノン、又は薬剤学的に許容することのできるその塩を生成するように変化する化合物を意味する。そのような化合物としては、以下に限定されるものでないが、それらのN−アシル及びN−カルボアルコキシ誘導体、並びにイミン誘導体を挙げることができる。前記変化は、種々の機構を介して、例えば、血中における加水分解を経て起こり得る。プロドラッグの使用に関する検討が、「T.Higuchi及びW.Stella,Pro-drugs as Novel Delivery Systems, the A.C.S.Symposium SeriesのVol.14」及び「Bioreversible Carriers in Drug Design,Edward B.Roche編, American Pharmaceutical Association and Pergamon Press, 1987」に提供されている。
【0025】
本明細書に記載の化合物は、立体中心を少なくとも1つ有し、従って、当業者であれば、本明細書において説明及び検討している化合物の全ての立体異性体(例えば、エナンチオマー及びジアステレオマー、及びそのラセミ混合物)が本発明の範囲内にあることが認められよう。特許請求の範囲に記載されており、本明細書において説明及び検討されている化合物の全ての立体異性体(例えば、エナンチオマー及びジアステレオマー、及びそのラセミ混合物)は、本発明本発明の範囲内である。
【0026】
更に、当業者であれば、本発明の化合物が、水和物としての結晶形態(その結晶形態中に水分子が包含されている)及び溶媒和物としての結晶形態(その中に溶媒の分子が包含されている)で存在することができることが認められよう。全ての前記水和形態及び溶媒和形態も本発明の一部であるものとする。
【0027】
また、本発明は、(2S)−2−アミノ−2−シクロヘキシル−1−((3RS)−3−フルオロ−ピロリジン−1−イル)−エタノン及び(S)−2−アミノ−2−シクロヘキシル−1−(3,3−ジフルオロ−ピロリジン−1−イル)−エタノンと同じであるが、実際は、1以上の原子が、天然に通常見出される原子量又は質量数とは異なる原子量又は質量数を有する原子で置き換わっている同位体−標識化合物も含む。本発明の化合物内に包含されていることのできる同位体の例としては、水素原子、炭素原子、窒素原子、酸素原子、及びフッ素原子の同位体、例えば、それぞれ、H、H、13C、14C、15N、18O、17O、及び18Fを挙げることができる。前記同位体及び/又は別の原子の別の同位体を含む本発明の化合物、そのプロドラッグ、及び前記化合物又は前記プロドラッグの薬剤学的に許容することのできる塩は、本発明の範囲内である。特定の同位体−標識された本発明の化合物、例えば、H及び14Cのような放射性同位体を中に含む化合物は、医薬及び/又は基質組織分布アッセイにおいて有用である。トリチウム化(すなわち、H)及び炭素−14(すなわち、14C)同位体が、調製及び検出が容易なので、特に好ましい。更に、より重い同位体、例えば、ジューテリウム(すなわち、H)による置換は、代謝安定性がより大きくなるという或る程度の治療的有利性(例えば、イン・ビボ半減期の増加、又は必要投与量の減少)を得ることができ、従って、ある状況において好ましいことがある。本発明の同位体標識化合物及びそのプロドラッグは、一般的に、同位体で標識されていない試薬を、容易に入手することができる同位体標識試薬に置き換えることによって、後出の反応工程式及び/又は実施例に記載の方法を実施することにより調製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
一般的に、(2S)−2−アミノ−2−シクロヘキシル−1−((3RS)−3−フルオロ−ピロリジン−1−イル)−エタノン及び(S)−2−アミノ−2−シクロヘキシル−1−(3,3−ジフルオロ−ピロリジン−1−イル)−エタノンは、特に、本明細書に含まれる説明に照らして、化学技術において公知の工程を含む方法によって調製することができる。(2S)−2−アミノ−2−シクロヘキシル−1−((3RS)−3−フルオロ−ピロリジン−1−イル)−エタノン及び(S)−2−アミノ−2−シクロヘキシル−1−(3,3−ジフルオロ−ピロリジン−1−イル)−エタノンを製造するための一部の方法を、実施例の節で説明する。全ての出発化合物は、文献に記載の手順により得ることができるか、又は例えば、Sigma-Aldrich Corporation(St.Louis,ミズーリ州)から、一般に市販されている。
【0029】
反応工程式I
【化2】

【0030】
反応工程式Iに従って、式(I)[式中、Rは、前記化学反応工程式Iに適合する窒素保護基である]で表される保護された(L)アミノ酸化合物〔例えば、(L)−Boc−シクロヘキシルグリシン〕と、(±)ピロリジン−2−オール(II)とのカップリングによって、(2S)−2−アミノ−2−シクロヘキシル−1−((3RS)−3−フルオロ−ピロリジン−1−イル)−エタノンを調製することができる(工程1)。適切な窒素保護基Rとしては、例えば、以下に限定されるものでないが、tert−ブトキシカルボニル(Boc)、ベンジルオキシカルボニル(Cbz)、及びフルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)を挙げることができる。窒素保護基の別の例は、「Protective Groups in Organic Synthesis,第2版,P.G.M.Wuts 及び T.W.Greene,p.315」中に記載されている。式(II)で表される化合物を用いて前記カップリングを実施する場合には、式(III)で表される化合物が生成する。式(III)で表される化合物を、不活性溶媒(例えば、酢酸エチル)中に溶解し、そして工程2において、ジエチルアミノサルファートリフルオライド又は同様のフッ素化剤で処理して式(IV)で表される化合物を得て、そして前記で引用した参考文献に記載されているように、R基の性質に適する方法(例えば、RがBocであるならば気体状の酸)で脱保護して、(2S)−2−アミノ−2−シクロヘキシル−1−((3RS)−3−フルオロ−ピロリジン−1−イル)−エタノン(V)を得る。
【0031】
前記カップリング反応は、塩基(例えば、トリエチルアミン又はピリジン)及びヒドロキシベンゾトリアゾールの存在下で、式(II)で表される化合物及び式(III)で表される化合物を、反応不活性溶媒(例えば、ジクロロメタン)中に溶解することによって容易に達成される。得られる溶液に、カップリング剤〔例えば、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミドヒドロクロライド〕を加える。別のカップリング剤、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド、2−エトキシ−1−エトキシカルボニル−1,2−ジヒドロキノリン、カルボニルジイミダゾール、又はジエチルホスホリルシアニドも用いることができる。前記カップリングは、不活性溶媒、好ましくは非プロトン性溶媒中で実施する。適切な溶媒としては、例えば、アセトニトリル、ジクロロメタン、ジメチルホルムアミド、クロロホルムを挙げることができる。カルボン酸のカップリングに有用な他の条件の検討については、「Houben-Weyl,Vol XV,part II, E.Wunsch,編., G.Theime Verlag,1974」、「Stuttgart,and those described in M.Bodansky, Principles of Peptide Synthesis,Springer-Verlag Berlin 1984」、及び「The peptides.Analysis,Synthesis and Biology(E.Gross及びJ.Meienhofer編),vol1-5(Academic Press NY 1979-1983)」を参照されたい。
【0032】
前記反応は、一般的に、周囲圧力及び周囲温度で、出発材料が存在しなくなる(薄層クロマトグラフィー又は当業者に周知の別の分析方法によって決定する)まで実施する。式(III)で表されるそのカップリング生成物を、当業者に周知の方法に従って単離することができる。
【0033】
工程2に記載の反応は、反応不活性溶媒(例えば、ジクロロメタン)中のジエチルアミノサルファートリフルオライドの溶液を冷却し(例えば、−78℃)、これに、式(III)で表される化合物の溶液を滴下することによって、容易に達成される。その反応混合物を、出発材料が存在しなくなるか、反応が完了する(薄層クロマトグラフィー又は当業者に周知の別の分析方法によって決定する)まで周囲温度に暖める。式(IV)で表される化合物は、当業者に周知の方法に従って、単離することができる。
【0034】
化合物(IV)からのR保護基の除去は、使用される個々のR保護基に適切な条件下で行うことができる。前記条件としては、例えば、(a)水素化分解〔Rがベンジルオキシカルボニルの場合〕;(b)強酸、例えば、トリフルオロ酢酸又は塩酸による処理〔Rがtert−ブトキシカルボニルの場合〕;又は(c)ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)クロライド触媒の存在下における水素化トリブチル錫及び酢酸による処理〔Rがアリルオキシカルボニルの場合〕を挙げることができる。
【0035】
例えば、もしRがベンジルオキシカルボニルならば、エタノール中10%パラジウムの存在下、約45psiで、約3時間水素化分解することによって、脱保護を実施する。こうして、珪藻土上で触媒をろ過し、溶媒を除去し、そして非ヒドロキシリック溶媒(例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、酢酸エチル、1,4−ジオキサン、又はテトラヒドロフラン)を用いて粉末化することによって、最終化合物(V)を、相当するカチオン性塩として単離する。例えば、もしRがtert−ブトキシカルボニルならば、式(IV)で表される化合物を不活性溶媒(例えば、酢酸エチル)中に溶解し、そして約0℃に冷却し、次いで気体状の酸(例えば、塩酸)で約1分間処理することによって、式(IV)で表される化合物の脱保護を容易に実施する。前記反応混合物を約15分間撹拌し、次いで室温に達するまで放置し、続いて更に約30分間撹拌する。
【0036】
反応工程式II
【化3】

【0037】
反応工程式IIに従って、式(I)[式中、Rは、前記化学反応工程式IIに適合する窒素保護基である]で表される保護された(L)アミノ酸化合物〔例えば、(L)−Boc−シクロヘキシルグリシン〕と、3,3−ジフルオロピロリジン(VI)〔「Giardina,G.ら,Synlett 1995,55」に従って得られる〕とを、反応工程式Iの工程1に記載の方法と同様に反応させて式(VII)で表される化合物を形成することによって、(S)−2−アミノ−2−シクロヘキシル−1−(3,3−ジフルオロ−ピロリジン−1−イル)−エタノンを調製することができる。工程2において、式(VII)で表される化合物を、反応工程式Iの工程2と同様に脱保護(例えば、気体状の酸)して、(S)−2−アミノ−2−シクロヘキシル−1−(3,3−ジフルオロ−ピロリジン−1−イル)−エタノン(VIII)を得ることができる。
【0038】
当業者であれば、反応工程式I及びIIに記載されている及び実施例1〜2に例示されている保護された(L)アミノ酸化合物は、式(I)で表される化合物のラセミ混合物に置き換えることができることが認められよう。同様に、ピロリジン−3−オールも、ラセミ体として、あるいは(R)又は(S)エナンチオマーとして存在することができる。従って、2−アミノ−2−シクロヘキシル−1−(3,3−ジフルオロ−ピロリジン−1−イル)−エタノンは、ラセミ混合物又は(R)及び(S)エナンチオマーの不均等混合物として存在することができるが、2−アミノ−2−シクロヘキシル−1−(3−フルオロ−ピロリジン−1−イル)−エタノンは、更に、以下の混合物として例示される形態、すなわち、
(2RS)−2−アミノ−2−シクロヘキシル−1−((3RS)−3−フルオロ−ピロリジン−1−イル)−エタノン.
(2RS)−2−アミノ−2−シクロヘキシル−1−((3R)−3−フルオロ−ピロリジン−1−イル)−エタノン,
(2RS)−2−アミノ−2−シクロヘキシル−1−((3S)−3−フルオロ−ピロリジン−1−イル)−エタノン,
(2S)−2−アミノ−2−シクロヘキシル−1−((3R)−3−フルオロ−ピロリジン−1−イル)−エタノン,
(2S)−2−アミノ−2−シクロヘキシル−1−((3S)−3−フルオロ−ピロリジン−1−イル)−エタノン
で存在することができ;
そしてこれらの混合物は、本発明の範囲内に含まれる。
【0039】
光学的に活性な前記アミノ酸は、反応工程式I及びIIの工程1におけるカップリングの前に、分離によるか、不斉合成によるか、又は当業者に周知のその他の方法によって、得ることができる。あるいは、所望ならば、式(I)で表される化合物の合成における後の時点において、当業者に公知の方法によって分離を達成することができる。3,3−ジフルオロピロリジンヒドロクロライド〔反応工程式IIの化合物(VI)〕は、当業者に公知のとおりに、例えば、「Giardina,Gら,Synlett.1995,55」に記載のとおりに調製することができる。
【0040】
また、本発明は、治療の利益を得られるように設計される適切な用法・用量の一部として本発明の化合物を投与する、哺乳動物(ヒトを含む)における前記状態の治療又は予防方法にも関する。適切な用法・用量、すなわち投与されるそれぞれの投与の量、及び化合物投与間の間隔は、使用される本発明の化合物、使用される医薬組成物のタイプ、治療される対象の特性、及びその状態の重篤度に応じて変化するであろう。
【0041】
一般的に、本発明の化合物に対する有効投与量は、1回の又は分割された投与量で、1日当たり0.01mg/kg/日〜30mg/kg/日、好ましくは0.01mg/kg/日〜1mg/kg/日の範囲内である。しかしながら、治療される対象の状態に応じて、当然、投与量において或る程度の変化が生じるであろう。いずれにしろ、投与に関して責任のある人が、個々の対象に適切な投与量を決定するであろう。
【0042】
本発明の化合物は、種々の通常の投与経路によって、例えば、経口的及び非経口的(例えば、静脈内的、皮下的、又は髄内的)に、治療の必要な対象に投与することができる。更に、本発明の医薬組成物を、鼻腔内、坐剤として又は「フラッシュ」製剤(すなわち、水を用いる必要なく口腔内で薬剤を溶解させることができる)を用いて、投与することができる。
【0043】
本発明の化合物は、1回(例えば、一日当たり1回)で、又は複数の投与量で、又は持続注入により、投与することができる。また、本発明の化合物は、単独で又は薬剤学的に許容することのできる担体、ベヒクル、又は希釈剤と組み合わせて、1回で又は複数の投与量で投与することもできる。適切な薬剤学的担体、ベヒクル、及び希釈剤としては、不活性な固形希釈剤又は充填剤、無菌水溶液、及び種々の有機溶媒を挙げることができる。本発明の化合物と薬剤学的に許容することのできる担体、ベヒクル、又は希釈剤との組合せによって形成される医薬組成物は、その後、多様な投与形態、例えば、錠剤、粉末、トローチ、シロップ、注射溶液などで、容易に投与される。これらの医薬組成物は、所望により、付加的な成分、例えば、香味剤、結合剤、賦形剤などを含むことができる。
【0044】
従って、経口投与用に、種々の賦形剤(例えば、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、及び/又はリン酸カルシウム)を含む錠剤を、種々の崩壊剤(例えば、デンプン、アルギン酸、及び/又は或る種の複合ケイ酸塩)、並びに結合剤(例えば、ポリビニルピロリドン、ショ糖、ゼラチン、及び/又はアラビアゴム)と一緒に用いることができる。更に、潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、及びタルク)が、錠剤化の目的に、しばしば有用である。また、同様のタイプの固体組成物は、軟質及び硬質充填ゼラチンカプセル中の充填剤として用いることもできる。このための好ましい材料には、ラクトース(又は乳糖)及び高分子量ポリエチレングリコールも含まれる。経口投与用に水性懸濁液又はエリキシルが望ましい場合には、その中の活性薬剤を、種々の甘味剤又は香味剤、着色料又は染料、並びに所望により、乳化剤又は懸濁剤、並びに希釈剤(例えば、水、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン、及び/又は種々のそれらの組合せ)と組み合わせることができる。
【0045】
非経口投与用に、ゴマ油若しくはピーナッツ油、水性プロピレングリコール中の、又は無菌水溶液中の本発明化合物の溶液を用いることができる。前記水溶液は、必要ならば適当に緩衝化することが好ましく、そしてその液体希釈剤は、充分な塩水又はグルコースを用いて最初に等張にする。これらの特定の水溶液は、静脈内、筋肉内、皮下、及び腹腔内投与に特に適している。これに関連して、使用される無菌水性媒体は、当業者に知られている標準的な方法によって全て容易に入手することができる。
【0046】
鼻腔内投与又は吸入による投与用に、本発明の化合物は、患者により圧迫されるか又はポンプで空気を入れるポンプスプレー容器からの溶液又は懸濁液の形態で、あるいは、適当な噴射剤、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素、又は他の適当な気体を用いた圧縮された容器又はネブライザからのエアロゾルスプレー状態として、便利に供給される。圧縮されたエアロゾルの場合、計量された量を供給する弁を設けることにより、投与量単位を決定することができる。前記圧縮された容器又はネブライザは、本発明の化合物の溶液又は懸濁液を含むことができる。吸入器又は噴霧器(insufflator)において用いるためのカプセル及びカートリッジ(例えば、ゼラチン製)は、本発明の化合物と適当な粉体基剤(例えば、ラクトース又はデンプン)との混合粉体を含んで配合することができる。
【0047】
本発明は、別々に同時投与することのできる化合物の組合せを用いる治療による前記適応症の治療に関する態様を有するので、本発明は、別々の医薬組成物をキット形態で組み合わせることにも関する。前記キットは、別々の2つの組成物、すなわち、(1)本発明の化合物、そのプロドラッグ、又は薬剤学的に許容することのできる塩及びプロドラッグ、更に薬剤学的に許容することのできる希釈剤又は担体を含む第一投与形態;及び(2)インスリン及びインスリンアナログ;インスリノトロピン;ビグアナイド系薬剤;α−アンタゴニスト及びイミダゾリン類;グリタゾン系薬剤;アルドースレダクターゼ阻害剤;グリコーゲンホスホリラーゼ阻害剤;ソルビトール脱水素酵素阻害剤;脂肪酸酸化阻害剤;α−グルコシダーゼ阻害剤;β−アゴニスト;ホスホジエステラーゼ阻害剤;脂質低下剤;抗肥満剤;バナデート類及びバナジウム複合体及びペルオキソバナジウム複合体;アミリンアンタゴニスト;グルカゴンアンタゴニスト;成長ホルモン分泌促進剤;糖新生阻害剤;ソマトスタチンアナログ;腎臓グルコースの阻害剤;抗脂肪分解剤から選択される抗糖尿病剤を含む第二投与形態;前記第二投与形態のプロドラッグ、及び前記第二投与形態及び前記プロドラッグの薬剤学的に許容することのできる塩、更に薬剤学的に許容することのできる担体又は希釈剤を含む。
【0048】
前記(1)及び(2)の量は、同時に投与したときに前記状態が治療されるか又は改善される量である。前記キットは、例えば、それぞれの隔室に、前記(1)又は(2)の投与形態(例えば、錠剤)の複数個が入っている別個の瓶又は別個のホイル包のような、別個の投与形態を入れるための容器を含む。あるいは、前記活性成分を含有する投与形態を分けずに、前記キットは、全投与量(それぞれの隔室に異なる投与形態を含む)が入っている分割隔室を含むことができる。
【0049】
このタイプのキットの例は、医薬組成物投与形態(1)及び投与形態(2)を含む錠剤2つ(又はそれ以上)をそれぞれの個々のブリスターが含むブリスターパックである。典型的に、前記キットは、前記個々の成分を投与するための指示書を含む。前記キット形態は、前記成分を異なる投与形態(例えば、経口及び非経口)で投与することが好ましいとき、異なる投与間隔で投与されるとき、又はその組合せの個々の化合物を調整することが処方する医師に望まれるときに、特に有利である。
【0050】
特定の量の活性成分を含む種々の医薬組成物の調製方法は、公知であるか、又は本開示に照らして当業者に明らかとなろう。医薬組成物の調製方法の例としては、「Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Company,Easton,Pa.,第19版(1995)」を参照されたい。
【0051】
(ジペプチジルペプチダーゼ阻害に関するイン・ビトロアッセイ)
ジペプチジルペプチダーゼ阻害は、出版されているDPP−IV活性の測定方法〔Assayof dipeptidyl peptidase IV in serum by fluorometry of 4-methoxy-2-naphthylamide.(1988)Scharpe,S.,DeMeester,I.,Vanhoof,G.,Hendriks,D.,Van Sande,M.,Van Camp,K.及び Yaron,A.Clin. Chem. 34:2299-2301;Dipeptidyl peptidases of human lymphocytes(1988)Lodja,Z.Czechoslovak Medicine,11:181-194.〕の改法である後述のアッセイによって、イン・ビトロで示すことができる。以下を含む基質溶液、50μMのGly−Pro−4−メトキシBナフチルアミドHCl〔例えば、0.1M塩化ナトリウムを含む50mM−Trisアッセイ緩衝液(pH7.3)10mL当たりGly−Pro−4−メトキシBナフチルアミドHCl182μg、0.1%(v/v)トリトン[Triton]で、酵素(Enzyme Systems
Productsカタログ番号SPE−01,DPP−IV5mU/mL原液)を、1:100(基質溶液10mL当たり酵素100μL)に希釈して、酵素基質溶液を形成し、4℃に維持する。前記酵素基質溶液150μLを、ポリスチレン96ウェルプレートのマイクロタイターウェル中にピペットで入れ、そして4℃に維持する。5μM/ウェルの(2S)−2−アミノ−2−シクロヘキシル−1−((3RS)−3−フルオロ−ピロリジン−1−イル)−エタノン又は(S)−2−アミノ−2−シクロヘキシル−1−(3,3−ジフルオロ−ピロリジン−1−イル)−エタノン(5μL/ウェル)を加え、(2S)−2−アミノ−2−シクロヘキシル−1−((3RS)−3−フルオロ−ピロリジン−1−イル)−エタノン又は(S)−2−アミノ−2−シクロヘキシル−1−(3,3−ジフルオロ−ピロリジン−1−イル)−エタノンの最終濃度をウェル当たり3μM〜10nMにする。
【0052】
(対照)
無試薬として、ウェル4つには酵素を含ませない。陽性対照として、ウェル4つに3mMジプロチンA5μLを加え、最終ジプロチンA濃度を100μMとする。式(I)で表される任意の化合物の影響なしで合計酵素活性(すなわち、陰性対照)を測定するために、蒸留水5μLをウェル4つに加える。
【0053】
前記アッセイ全部を、37℃で一晩(約14〜18時間)インキュベーションする。その反応を、ファストブルー[Fast Blue]B溶液10μL〔0.1M酢酸ナトリウム(pH4.2)を含む緩衝液中0.5mg/mLファストブルーB〕及び10%(v/v)トリトンX−100を各ウェルに加えることにより失活させ、続いて室温で約5分間振盪する。前記プレートを、スペクトラマックス分光光度計又は同等の装置(525nmにおいて最大吸収)上で分析することができる。化合物に対するIC50データは、化合物濃度10nM〜3μMの範囲内でDPP−IVの活性を測定することによって得ることができる。
【0054】
経口グルコース負荷試験(OGTT)は、少なくとも1930年代からヒトにおいて用いられてきており[Pincusら,Am.J.Med.Sci,188:782(1934)]、そして患者における治療剤の効果を評価すること無くヒト糖尿病の診断において慣例的に用いられている。
【0055】
KKマウスは、グリタゾン系薬剤[「Fujitaら,Diabetes32:804-810(1983)」」;「Fujiwaraら,Diabetes37:1549-48(1988)」;「Izumiら,Biopharm Durg.Dispos.18:247-257(1997)」」、メトホルミン[Reddiら,Diabet.Metabl.19:44-51(1993)]、グルコシダーゼ阻害剤[「Hamadaら,Jap.Pharmacol.Ther.17:17-28(1988)」;「Matsuoら, Am.J. Clin. Nutr.55:314S-317S (1992)」]、及びスルホニルウレア剤の膵臓外効果[「Kamedaら,Arzenim.Forsch./Drug Res.32:39044(1982)」;「Mullerら,Horm.Metabl.Res.28:469-487(199)」]を評価するのに用いられてきた。
【0056】
KKマウスは、最初にKondoらによって確立された近交系から誘導される[Kondoら,Bull.Exp.Anim.6:107-112(1957)]。前記マウスは、ヒト糖尿病患者においてみられるのと同様の腎性、網膜性、及び神経性の合併症の発生を進行させるポリジーン糖尿病の遺伝性形成を、自然発症的に発達させるが、それらは、生きるためにインスリン又はその他の医薬を必要としない。
【0057】
(グルコース低下に対するイン・ビボアッセイ)
(2S)−2−アミノ−2−シクロヘキシル−1−((3RS)−3−フルオロ−ピロリジン−1−イル)−エタノン及び(S)−2−アミノ−2−シクロヘキシル−1−(3,3−ジフルオロ−ピロリジン−1−イル)−エタノンのグルコース低下効果を、4〜6週齢KK/H1Jマウス(Jackson Labs)を用い、経口グルコース負荷試験との関連で例証することができる。前記マウスを、一晩(約14〜18時間)絶食させる(但し、水は自由に摂取できるようにしておく)。絶食後(時間(t=0))に、眼窩下洞[retro-orbital sinus]から血液25μLを抜き取り、そして氷上で0.025%ヘパリン化塩水(100μL)に加える。次いで、前記マウス(1グループ当たり10匹)に、0.5%メチルセルロース中の(2S)−2−アミノ−2−シクロヘキシル−1−((3RS)−3−フルオロ−ピロリジン−1−イル)−エタノン又は(S)−2−アミノ−2−シクロヘキシル−1−(3,3−ジフルオロ−ピロリジン−1−イル)−エタノンの溶液(0.2mL/マウス)を経口投与する。2つの対照群は、0.5%メチルセルロースのみを投与される。t=15分の時点で、前記のとおりマウスを採血し、次いで蒸留水中のグルコース1mg/kg(0.2mL/マウス)を投与する。第1の対照群に、グルコースを投与する。第2の対照群に、水を投与する。t=45分の時点で、前記マウスを、再び前記のとおり採血する。前記血液サンプルを遠心分離し、血しょうを収集し、そしてRoche−Hitachi912グルコース分析器上でグルコース濃度を分析する。そのデータは、前記対照群2つに対するグルコース変動のパーセント(%)阻害として表すことができる(すなわち、グルコースを投与されるが試験化合物を投与されない動物におけるグルコースレベルが0%阻害を表し、そして水のみを投与される動物におけるグルコース濃度が100%阻害を表す)。
【0058】
(一般的実験手順)
融点は、トーマス・サイエンティフィック[Thomas Scientific]毛管融点測定装置上で測定した。そして修正していない。
フラッシュクロマトグラフィーは、「W.C.Stillら,J.Org.Chem.1978,43,2923」に記載の方法に従って実施した。
【0059】
後述の実施例は、本発明の特定の態様を説明することを意図するものであり、本明細書及び特許請求の範囲を制限することは全く意図していない。以下の実施例1及び2に例証される化合物は、IC50(50%阻害に必要な試験化合物の濃度)が3μM以下であるイン・ビトロ活性を示した。
【実施例】
【0060】
実施例1:(2S)−2−アミノ−2−シクロヘキシル−1−((3RS)−3−フルオロ−ピロリジン−1−イル)−エタノン
工程1:[(1S)−1−シクロヘキシル−2−((3RS)−3−ヒドロキシ−ピロリジン−1−イル)−2−オキソ−エチル]−カルバミン酸tert−ブチルエステル
ジクロロメタン(50mL)中の(L)−Boc−シクロヘキシルグリシン(2.16g,8.39mmol)、(±)−3−ヒドロキシピロリジン(880mg,10.07mmol)、及びヒドロキシベンゾトリアゾール(1.36g,10.07mmol)の混合物に、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミドヒドロクロライド(1.93g,10.07mmol)を加えた。その混合物を、室温で一晩撹拌し、酢酸エチルで希釈し、2N−HCl、飽和炭酸水素ナトリウム溶液、水、1N水酸化ナトリウム、及び塩水で洗浄し、硫酸マグネシウム上で乾燥し、そして濃縮して、白色泡状体として実施例1の工程1の標記化合物(1.67g,61%)を得た。
【0061】
工程2:[(1S)1−シクロヘキシル−2−((3RS)−3−フルオロ−ピロリジン−1−イル)−2−オキソ−エチル]−カルバミン酸tert−ブチルエステル
ジクロロメタン(4mL)中のジエチルアミノサルファートリフルオライド(0.20mL,1.53mmol)の冷却(−78℃)した溶液に、ジクロロメタン(2mL)中の[(1S)−1−シクロヘキシル−2−((3−RS)−3−ヒドロキシ−ピロリジン−1−イル)−2−オキソ−エチル]−カルバミン酸tert−ブチルエステル(0.5g,1.53mmol)の溶液を滴下した。その混合物を室温に暖め、一晩撹拌し、次いで氷/水中に注ぎ、そして酢酸エチル(2回)で抽出した。一緒にした抽出物を、1N塩酸、水、飽和炭酸水素ナトリウム、及び塩水で洗浄し、硫酸マグネシウム上で乾燥し、そして濃縮した。フラッシュ−クロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル,1:1)を介して精製することにより実施例1の工程2の標記化合物を得て、そして油状体(170mg,34%)として単離した。
【0062】
工程3:(2S)−2−アミノ−2−シクロヘキシル−1−((3RS)−3−フルオロ−ピロリジン−1−イル)−エタノン
[(1S)1−シクロヘキシル−2−((3−RS)−3−フルオロ−ピロリジン−1−イル)−2−オキソ−エチル]−カルバミン酸tert−ブチルエステル(164mg,0.50mmol)を、酢酸エチル(5mL)中に溶解し、その溶液を0℃に冷却し、そして気体状のHClで約1分間処理した。0℃で10分間及び室温で30分間の後に、その混合物を濃縮乾固して、これを、真空条件下で乾燥し固体として実施例1の標記化合物を得た(52mg,39%,融点>250℃)。
【0063】
実施例2
(S)−2−アミノ−2−シクロヘキシル−1−(3,3−ジフルオロ−ピロリジン−1−イル)−エタノン
工程1:(S)−[1−シクロヘキシル−2−(3,3−ジフルオロ−ピロリジン−1−イル)−2−オキソ−エチル]−カルバミン酸tert−ブチルエステル
ジクロロメタン(5mL)中の(L)−Boc−シクロヘキシルグリシン(0.159g,0.58mmol)、3,3−ジフルオロピロリジンヒドロクロライド(「Giardina,G.ら,Synlett 1995,55」に従って調製)(100mg,0.70mmol)、トリエチルアミン(0.10mL,0.70mmol)、及びヒドロキシベンゾトリアゾール(95mg,0.70mmol)の混合物に、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミドヒドロクロライド(0.130g,0.70mmol)を加えた。その混合物を室温で一晩撹拌し、酢酸エチルで希釈し、2N−HCl、水、1N水酸化ナトリウム、及び塩水で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥し、そして濃縮して油状体とし、これを、ゆっくりと乾燥させることにより固体化して、実施例2の工程1の標記化合物(0.205g,100%)を得た。
【0064】
工程2:(S)−2−アミノ−2−シクロヘキシル−1−(3,3−ジフルオロ−ピロリジン−1−イル)−エタノン
(S)−[1−シクロヘキシル−2−(3,3−ジフルオロ−ピロリジン−1−イル)−2−オキソ−エチル]−カルバミン酸tert−ブチルエステル(197mg,0.57mmol)を、酢酸エチル中に溶解し、その溶液を0℃に冷却し、そして気体状のHClで約1分間処理した。0℃で10分間及び室温で20分間の後に、その混合物を、濃縮乾固し、そしてその固形物をヘキサンを用いて粉末化し、収集し、そして乾燥させて、実施例2の標記化合物(114mg,71%,融点>250℃)を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(2S)−2−アミノ−2−シクロヘキシル−1−((3RS)−3−フルオロ−ピロリジン−1−イル)−エタノン又は(S)−2−アミノ−2−シクロヘキシル−1−(3,3−ジフルオロ−ピロリジン−1−イル)−エタノン、又はその薬剤学的に許容することのできる塩。
【請求項2】
請求項1に記載の化合物又は薬剤学的に許容することのできるその塩の治療有効量、及び薬剤学的に許容することのできる希釈剤又は担体を含む、医薬組成物。
【請求項3】
(a)請求項1に記載の化合物を含む第一の化合物、又は前記第一の化合物の薬剤学的に許容することのできる塩;及び
(b)インスリン若しくはインスリンアナログ;インスリノトロピン;ビグアナイド系薬剤;α2−アンタゴニスト若しくはイミダゾリン類;グリタゾン系薬剤;アルドースレダクターゼ阻害剤;グリコーゲンホスホリラーゼ阻害剤;ソルビトール脱水素酵素阻害剤;脂肪酸酸化阻害剤;α−グルコシダーゼ阻害剤;β−アゴニスト;ホスホジエステラーゼ阻害剤;脂質低下剤;抗肥満剤;バナデート類、バナジウム複合体若しくはペルオキソバナジウム複合体;アミリンアンタゴニスト;グルカゴンアンタゴニスト;成長ホルモン分泌促進剤;糖新生阻害剤;ソマトスタチンアナログ;腎臓グルコースの阻害剤;抗脂肪分解剤を含む第二の化合物;又は前記第二の化合物の薬剤学的に許容することのできる塩
を含む、医薬組成物。
【請求項4】
薬剤学的に許容することのできる担体又は希釈剤を更に含む、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
ジペプチジルペプチダーゼ−IVを阻害するための医薬の製造における、請求項1に記載の化合物の使用。
【請求項6】
ジペプチジルペプチダーゼ−IVを阻害するための医薬の製造における、請求項2、3、又は4のいずれか一項に記載の医薬組成物の使用。
【請求項7】
II型糖尿病、代謝症候群、高血糖症、耐糖能障害、糖尿、代謝性アシドーシス、白内障、糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性心筋症、I型糖尿病、肥満症、肥満症によって悪化した状態、高血圧症、高脂血症、アテローム性動脈硬化症、骨粗しょう症、骨減少症、虚弱性、骨損失、骨折、急性冠症候群、多嚢胞性卵巣症候群による不妊症、II型糖尿病における疾病の進行、不安、うつ病、不眠症、慢性疲労、てんかん、摂食障害、慢性疼痛、アルコール嗜癖、腸運動に関連する疾病、潰瘍、過敏性腸症候群、又は炎症性腸症候群を治療するための医薬の製造における、請求項1に記載の化合物の使用。
【請求項8】
治療される状態がI型糖尿病である、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
請求項1に記載の化合物のプロドラッグ、又は前記プロドラッグの薬剤学的に許容することのできる塩。

【公表番号】特表2006−508975(P2006−508975A)
【公表日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−552974(P2004−552974)
【出願日】平成15年11月5日(2003.11.5)
【国際出願番号】PCT/IB2003/004983
【国際公開番号】WO2004/046106
【国際公開日】平成16年6月3日(2004.6.3)
【出願人】(397067152)ファイザー・プロダクツ・インク (504)
【Fターム(参考)】