説明

ジルコニウム及びジルコニウム合金を表面酸化する方法及びそれによって得られる生成物

ジルコニウムまたはジルコニウム合金材料上の均一で制御された厚さの暗藍色または黒色の酸化ジルコニウム被覆は、変えられた表面粗度を有する非晶質のジルコニウムまたはジルコニウム合金基板の酸化処理によって達成される。均一で制御された厚さの酸化ジルコニウム被覆は、限定されないが、股関節、膝、肩、肘及び脊髄インプラントのような人工関節上の低摩擦で高い耐磨耗性の表面を提供するために、ジルコニウムまたはジルコニウムベースの合金の整形外科用インプラントに特に有用である。人工関節上の制御された深さの均一な厚さの酸化ジルコニウム表面は、金属人工関節のイオン化によって引き起こされるインプランと腐食に対する障壁を提供する。本発明は、骨プレート及び骨ねじなどのような非連接インプラント装置においても有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2004年9月16日に出願された米国出願10/942,464に優先権主張している。
【0002】
本発明は、薄く、密度が高く、低摩擦で、高い耐磨耗性を有する均一な厚さの酸化ジルコニウム被覆を有する耐荷重性表面を有する金属インプラントに関する。
【0003】
また、本発明は、金属人工関節と体内組織との間に障壁を提供し、それによって、金属イオンの放出とインプラントの腐食を防止する整形外科用のインプラントの非耐荷重性表面上の均一で薄い酸化ジルコニウム被覆に関する。さらに、本発明は、酸化層の形成の前に変えられた表面粗度を有する非晶質のジルコニウムまたはジルコニウム合金基板を用いて均一な厚さの酸化ジルコニウム層を生成する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
ジルコニウムの優れた耐食性は、長年にわたり知られている。ジルコニウムは、多くの水性媒体及び非水性媒体で優れた耐食性を示す。そのため、それは、化学プロセス工業及び医療用において増加した使用が見られる。これらの分野でのジルコニウムの広範な用途の限界は、比較的低い耐磨耗性と摩擦する傾向である。この比較的低い耐磨耗性と摩擦する傾向は、ジルコニウム合金においても示される。
【0005】
整形外科用インプラント材料は、高い強度、腐食抵抗及び組織適合性を持ち合わせなければならない。患者の一生涯にわたるインプラント機能が望まれるので、インプラントの移植者が比較的若い場合、インプラントの寿命は、特に最も重要な事項である。典型的に整形外科用インプラントを製造するために使用される通常の材料の各々は、比較優位と比較劣位を有する。金属材料の場合、ある特定の合金が脆性破壊の高い危険性なしに必要とされる機械的強度と生体適合性を有するので、それらは、人工関節の製造において理想的な候補である。これらの合金には316Lステンレス鋼、クロム−コバルト−モリブデン合金、比較的最近では、チタン合金が含まれ、それらは、耐荷重性の人工関節の製造において最も適切な材料であることが証明されている。しかしながら、金属材料にも不都合がある。それらは、しばしば体内で完全に不活性ではない。体液が金属と作用し、イオン化プロセスによってゆっくりとそれらの腐食を引き起こし、それによって体内に金属イオンを放出する。その表面上に形成された不動酸化物フィルムが絶えず除去されるので、人工関節からの金属イオンの放出は、耐荷重性表面の磨耗速度にも関係する。再不動態化(レパッシベーション)プロセスは、イオン化プロセス中に金属イオンを絶えず放出する。さらに、第三体の磨耗の存在(セメント、骨の破片)は、このプロセスを加速し、微小放出(マイクロフリード)された金属粒子は、対向する表面に対する摩擦を増加させる。表面硬度は、ほとんどの金属材料において理想的ではなく、スクラッチやマイクロフレッティングをもたらす。他の一般的な材料には、他の利点と不利点がある。例えば、セラミックは、スクラッチやマイクロフレッティングに対抗する非常に硬い表面を有する。しかしながら、それらは、金属より脆弱であり、通常劣った熱特性を有する。
【0006】
さらに、金属基板へのセラミックス被覆の適用は、セラミックと下層の金属基板との間の弾性率や熱膨張の差異によるクラックをもたらす傾向がある、不均一で、付着性の乏しい被覆を頻繁にもたらす。加えて、このような被覆は、比較的厚くなる(50から300ミクロン)傾向があり、金属とセラミック被覆との間の結合がしばしば弱いので、セラミック被覆の磨耗または剥離の危険性がある。
【0007】
整形外科用インプラントにおける酸化ジルコニウム表面の使用は、金属材料とセラミックの不利点を最小化する一方で、両方の利点を取り入れることを可能にするという進歩を示した。前述の試みが、ジルコニウム部品上の酸化ジルコニウム被覆の耐磨耗性を増加する目的で、それらを製造するために行われている。そのようなプロセスの1つが、ワトソン(Watson)に対して特許された米国特許番号3,615,885に開示されており、それは、様々なジルコニウム合金上に厚い(0.23mmまで)酸化層を成長するための手順を開示している。しかしながら、この手順は、特に約5mm以下の厚さを有する部品において大きな寸法変化をもたらし、生成された酸化物フィルムは、特に高い耐磨耗性を示さない。
【0008】
ワトソンに特許された米国許番号2,987,352は、耐磨耗性を増加する目的でジルコニウム合金部品上に暗藍色の酸化物被覆を生成する方法を開示している。米国特許2,987,352及び米国特許3,615,885の両方は、空気酸化によってジルコニウム合金の上に酸化ジルコニウム被覆を生成する。米国特許3,615,885は、米国特許番号2,987,352号の暗藍色の被覆よりも大きい厚さのベージュ色の被覆を生成するために十分な長さの空気酸化を続ける。このベージュ色の被覆は、暗藍色の被覆の耐磨耗性を有しておらず、従って、近接近の2つの磨耗面がある多くの部材に適用できない。ベージュ色の被覆は、得られる酸化ジルコニウム粒子の形成と酸化ジルコニウム表面の完全性の欠如とを有する暗藍色の酸化物被覆よりも速く擦り減る。酸化物表面の損失を伴って、その後、ジルコニウム金属はその環境にさらされ、金属の表面から近接環境へのジルコニウム関節の移動をもたらすことができる。米国特許番号2,987,352及び3,615,885は、参照することによって完全にここに開示されているかのように含まれる。
【0009】
暗藍色または黒色の被覆の硬度はベージュの被覆よりも大きいけれども、暗藍色の被覆は、ベージュ色の被覆よりも薄い厚さを有する。この硬い暗藍色の酸化物被覆は、人工関節装置のような表面に役立つ。暗藍色または黒色の被覆はベージュ色の被覆よりも高い耐磨耗性であるが、それは比較的薄い被覆である。したがって、従来の技術の同じタイプの被覆を生成することなしに、増加した耐磨耗性の暗藍色の被覆を生成することが望まれる。
【0010】
デビッドソン(Davidson)に特許された米国特許5,037,438は、酸化ジルコニウム表面を有するジルコニウム合金人工関節を製造する方法を開示している。暗藍色または黒色の酸化ジルコニウムのように、その中に記載された酸化ジルコニウムの特定のこの形態は、他の通常の人工関節材料に比べてそれが有する優れた熱伝導性の点で独特である。それは、非常に高い熱伝導度と共に優れた表面粗度特性を併せ持つ。このように、それは、前者に該当する不利点を避けると共に後者より効率を良くしながら、金属とセラミックに該当する有益な特徴を有する。米国特許5,037,438は、参照することによって完全にここに開示されているかのように含まれる。
【0011】
医療用インプラントにおける酸化ジルコニウムの導入はこの分野において進歩を示したが、更なる要求の余地がある。酸化ジルコニウムインプラントの耐久性は通常の材料に比べて優れているが、高い完全性の酸化ジルコニウム表面がより高い耐久性をも有するということが認識されている。酸化ジルコニウム層の厚さが良好な均一性を有する場合、高い完全性の酸化ジルコニウム表面が生成されることができる。厚さの不均一性が、酸化物層内の内部ストレスの増加を促進し、そのようなストレスがクラックを引き起こす傾向にあるので、厚さの不均一性は耐久性に否定的に影響する。医療用インプラントにおけるこれらの表面の使用の早い段階で、厚さの不均一性は制御されない。厚さの均一性を制御することが医療用インプラント用途におけるより良い酸化ジルコニウム表面をもたらすことが認識されている。
【0012】
米国特許6,447,550において、ハンター(Hunter)らは、均一な厚さの酸化ジルコニウム被覆を得るための方法を記述している。ハンターは、精製された微細構造と変えられた表面粗度をもたらす様々なジルコニウムベースの材料に前酸化処理技術を適用することによってこのような材料が得られることを教示した。微細構造精製は、‘550特許において、鍛造された棒材へのインゴットの加熱炉変換、閉じられた型鍛造、急冷凝固、及び、粉末固化を含む技術を用いることによって教示されている。変えられた表面粗度は、他のものを含むが、研削(グラインディング)、バフ研磨(バフィング)、マス研磨(mass finishing)、バレル研磨のようなプロセスによって達成される。米国特許6,447,550は、参照することによって完全にここに開示されているかのように含まれる。
【0013】
ハンターらは、米国特許6,585,722において、ジルコニウムまたはジルコニウム合金上に均一な厚さの酸化物被覆を形成する他の方法を提供する。‘772特許の方法では、ハンターは、酸化の前に単相/単一の組成のジルコニウムベース基板上の変えられた表面粗度を生じさせることによって、得られる酸化ジルコニウム層の厚さ均一性の制御及び改善が実現されることができることを教示している。‘772特許は、ジルコニウムまたはジルコニウム合金人工関節の少なくとも一部の上に変えられた表面粗度をもたらすことによって、患者での移植においてジルコニウムまたはジルコニウム合金の人工関節上に均一な厚さの酸化物被覆を形成する方法も提供する。ここで、人工関節の表面の少なくとも一部の上に均一で制御された厚さの暗藍色の酸化ジルコニウム被覆を形成するために人工関節を酸化する前において、ジルコニウムまたは酸化ジルコニウム合金は、少なくとも部分的には単相結晶構造または均一な組成からなる。米国特許6,585,722は、参照することによって完全にここに開示されているかのように含まれる。
【0014】
ハンターのこれらの両方の技術は、厚さ均一性の有用性を証明するが、本発明は、同じ結果物を得るためのさらに1つの異なる方法を提供する。本発明において、酸化ジルコニウムの均一な厚さの層は、非晶質ジルコニウム含有合金を用いて達成される。これは、改善された厚さの均一性を有する酸化ジルコニウムの表面層を生成する他の技術を意味し、酸化ジルコニウム表面を有する改善された医療装置を製造することを望む人の在庫において他の手段を提供する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、インシチュ酸化によって少なくとも部分的に被覆された、均一な厚さの暗藍色または黒い酸化ジルコニウム層を有するジルコニウムまたはジルコニウム含有合金の人工関節またはインプラント、及び、前述の均一な被覆を形成する方法を提供する。酸化ジルコニウムの均一な被覆は、人工関節の連接表面上での使用に理想的に適切な、薄く、密度が高く、低摩擦で、耐磨耗性を有する生体適合性表面を有する人工関節を提供する。ここで、その関節の表面は、酸化ジルコニウムで被覆された嵌合関節表面に対して連接し、平行移動し、または、回転する。従って、均一な酸化ジルコニウム被覆は、膝関節、肩関節、肘関節、脊髄インプラント、骨プレート及び骨ねじなどのようなものに限定されないが、大腿骨頭または股関節インプラントの寛骨臼カップの内表面、または、他のタイプの人工関節の連接表面に有効に採用される。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のある実施形態には、非晶質構造を有するジルコニウムまたは非晶質構造を有するジルコニウム合金を酸化する段階を特徴とする、ジルコニウムまたはジルコニウム合金上に暗藍色または黒色の酸化ジルコニウムの均一な被覆を形成する方法がある。ある実施形態では、本発明は、前記酸化する段階の前に、前記ジルコニウムまたはジルコニウム合金の表面粗度を変える段階をさらに含む。ある実施形態では、前記表面粗度を変える段階は、約3マイクロインチから約25マイクロインチの範囲に表面粗度(Ra)を変えることを含む。ある実施形態では、前記表面粗度を変える段階は、約3.5マイクロインチから約7マイクロインチの範囲に表面粗度(Ra)を変えることを含む。ある実施形態では、前記表面粗度を変える段階は、研磨、バフ研磨、マス研磨、バレル研磨およびそれらの組み合わせからなる群から選択される1つの段階を含む磨耗面生成段階を含む。ある実施形態では、前記酸化する段階は、酸化剤としての空気の使用を含む。ある実施形態では、前記酸化する段階は、酸化剤としての酸素の使用を含む。ある方法の実施形態では、前記ジルコニウムまたは前記ジルコニウム合金は、約0.3重量%の酸素を含む。
【0017】
本発明の他の実施形態には、非晶質構造を有するジルコニウムまたは非晶質構造を有するジルコニウム合金を有する基板と、前記基板の少なくとも一部の上にある暗藍色または黒色の酸化ジルコニウムからなる表面層であって、前記酸化ジルコニウムの表面層は、前記ジルコニウムまたは前記ジルコニウム合金の酸化によって形成されるところの表面層と、を含む、少なくとも1つの部品を特徴とする医療用インプラントがある。ある実施形態では、前記ジルコニウムまたは前記ジルコニウム合金は、前記酸化の前に変えられた表面粗度を有する。ある実施形態では、前記変えられた表面粗度は、約3マイクロインチから約25マイクロインチの範囲の表面粗度(Ra)である。ある実施形態では、前記変えられた表面粗度は、約3.5マイクロインチから約7マイクロインチの範囲の表面粗度(Ra)である。ある実施形態では、前記酸化ジルコニウム層は、約20ミクロン以下の厚さである。ある実施形態では、前記酸化ジルコニウム被覆層は、約10ミクロン以下の厚さである。ある実施形態では、前記人工関節の本体のインプラント部分は、前記人工関節の本体の部分上の組織成長を提供するために適合される不規則な表面を有する。不規則な表面を有する実施形態では、前記不規則な表面は、前記人工関節の本体の外表面に取り付けられたジルコニアビーズまたはジルコニア合金ビーズで形成され、前記ビーズの前記表面の少なくとも一部は酸化されて暗藍色または黒色の酸化ジルコニウムである。不規則な表面を有する実施形態では、前記不規則な表面構造は、前記人工関節の本体の外表面に結合されたジルコニアワイヤーメッシュまたはジルコニア合金ワイヤーメッシュで形成され、前記メッシュの前記表面の少なくとも一部は酸化されて暗藍色または黒色の酸化ジルコニウムである。不規則な表面を有する実施形態では、前記不規則な表面は、化学的にエッチングされた表面である。不規則な表面を有する実施形態では、前記不規則な表面は、プラズマ溶射で堆積された表面である。不規則な表面を有する実施形態では、前記不規則な表面は、焼結された表面である。ある実施形態では、前記医療用インプラントは、脊椎インプラントである。ある実施形態では、前記医療用インプラントは、歯科インプラントである。ある実施形態では、前記医療用インプラントは、骨インプラント金属製品である。前記医療用インプラントが骨インプラント金属製品を含む実施形態では、前記骨インプラント金属製品は、骨プレートまたは骨ねじを有する。
【0018】
少なくとも1つの部品を有する前記医療用インプランとの実施形態では、前記医療用インプラントは、ベアリング表面を有する第1部品と、前記第1部品の前記ベアリング表面と組み合うように適合されるカウンターベアリング表面を有する第2部品と、を有し、前記第1部品と前記第2部品の少なくとも一方は、非晶質構造を有するジルコニウムまたは非晶質構造を有するジルコニウム合金を有し、前記第1部品、前記第2部品、または、前記第1部品及び前記第2部品の両方の少なくとも一部の上に暗藍色または黒色の酸化ジルコニウムの表面層があり、前記酸化ジルコニウムの表面層は、前記ジルコニウムまたは前記ジルコニウム合金の酸化によって形成される、請求項9に記載の医療用インプラント。ある実施形態では、前記医療用インプラントは、人工関節である。第1部品と第2部品とを有する実施形態では、前記第1部品は、大腿骨部品を含み、前記第2部品は、人工股関節を形成するための寛骨臼を含む。第1部品と第2部品とを有する実施形態では、前記第1部品は、少なくとも1つの顆をさらに含み、前記第2部品は、人工膝関節を形成するための脛骨部品を含む。医療用インプラントが人工関節である実施形態では、前記人工関節は、肩関節、指関節、手首関節、つま先関節、または、肘関節からなる群から選択される。ある実施形態では、前記医療用インプラントは、顎顔面インプラントまたは側頭下顎骨インプラントである。
【0019】
前述のものは、以下に続く本発明の詳細な説明がより理解されるように、本発明の特徴や技術的利点をどちらかと言えば概略的に説明している。本発明のさらなる特徴及び利点は、本発明の特許請求の範囲の対象から以下に記述されるであろう。開示された本概念と特定の実施形態は、本発明と同じ目的を実行するための他の構造体を修正または設計する基礎として容易に利用されることができることは理解されるべきである。このような等価な構造物は、添付された特許請求の範囲に説明されているような本発明の範囲から逸脱しない。本発明の特徴であると考えられる新規な特徴は、その組織と操作の方法の両方に関して、さらなる目的と利点と共に、添付の図と共に検討される際に以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、各々の図が図示と説明の目的で提供され、本発明の範囲の定義としてのものではないことが明確に理解されるだろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1は、所定の位置における人工股関節を描写する概略図である。図2は、典型的な人工股関節を示す概略図である。図3は、所定の位置における人工膝関節の概略図である。図4は、典型的な膝関節の部品の概略図である。図5は、630℃で1時間酸化された後におけるベークライト上に設けられたジルコニア合金の試料を示す。図6は、630℃で3時間酸化された後におけるベークライト上に設けられた試料を示す。
【0021】
“1つ”という用語は、1つまたはそれ以上を意味する場合もある。特許請求の範囲において、“含む”という用語に関連して使われるとき、“1つ”という用語は、1つまたは複数を意味する場合もある。“もう1つ”という用語は、少なくとも1つの第2のもの、または複数のものを意味する場合もある。
【0022】
“非晶質”または“非晶質構造”という用語は、広範囲の結晶秩序に欠ける状態を意味する。
【0023】
“ジルコニウム合金”という用語は、ゼロより多いあらゆる量のジルコニウムを含むあらゆる合金として定義される。従って、ジルコニウムが微量成分である合金も、ここでは“ジルコニウム合金”と見なす。
【0024】
以下の検討は、本発明を実施するための好ましい実施形態の説明と実験例を含む。しかしながら、それらは、限定される実験例ではない。本発明を実施するに際して、他の実験例および方法が可能である。
【0025】
本発明の一側面は、非晶質であるジルコニウムまたは非晶質であるジルコニウム合金を用いて、ジルコニウムまたはジルコニウム合金上に均一の厚さの酸化物被覆を形成する方法を提供することにある。したがって、以下で継続的に使用されるように、“非晶質構造を有するジルコニウムまたはジルコニウム合金”という表現は、“非晶質構造を有するジルコニウムまたは非晶質構造を有するジルコニウム合金”という表現と同意語である。好ましい実施形態において、変えられた表面粗度は、酸化の前に非晶質のジルコニウムまたはジルコニウム合金上にもたらされる。本発明の他の一つの側面は、人工関節の本体の部分上での組織成長を提供するために適合される連接表面や不規則な表面(でこぼこした面)構造のような人工関節表面上に低摩擦性で耐摩耗性の均一な厚さの酸化被覆を提供することである。
【0026】
この主題は、非晶質のジルコニウムまたは非晶質のジルコニウム合金を酸化することによって均一の厚さの酸化物被覆を形成する方法を提供することである。好ましくは、この方法は、酸化段階の前に非晶質のジルコニウムまたはジルコニウム合金の表面粗度を変える段階も含む。得られる酸化ジルコニウムは、多様な医療用インプラント、人工装具及び装置に適用できる。これらの人工装具及び装置は、限定されないが、心臓弁、完全な人工心臓インプラント、心室補助装置、代用血管及びステント;を含む心臓血管のインプラント;ペースメーカー、神経リード(neurological leads)及び除細動器リード(defibrillator leads)のような電気信号伝達装置;ガイドワイヤー及びカテーテル;経皮的装置;人工股関節または表面交換品(surface replacements)、膝関節、肩関節、肘関節、人工器官、脊髄分節及び指関節を含む人工関節;を含む。このような連接表面の具体例は、図1から4の概略図に示される。さらに、骨プレートや骨ねじ等のような関節ではないインプラントに応用することが可能である。
【0027】
図1において、典型的な人工股関節組立体が本来の場所に示される。図2は、インプラント前の典型的な人工股関節を示し、個々の部品の詳細を提供している。この人工関節の大腿骨頭6は、図1に示される骨盤に固定される寛骨臼カップ10の内層8に対して連接して適合する一方で、股関節ステム2は、同様に大腿骨に適合される。多孔性の金属ビードまたはワイヤーメッシュ被覆12は、その多孔性の被覆への周囲の組織の成長によるインプラントの安定化を可能にするために含まれるかもしれない。同様に、このような多孔性の金属ビードまたはワイヤーメッシュ被覆は、寛骨臼部品に適用されることもできる。大腿骨頭6は、股関節ステム2の不可欠な部分でありえ、または、人工股関節の頸部4の端部の円錐形のテーパー上に取り付けられる別個の部材でありえる。これは、セラミックのような幾つかの他の材料の大腿骨頭だけでなく金属ステムまたは頸部を有する人工関節の製造を可能にする。典型的な寛骨臼カップの内層であるUHMWPEに対して連接する際に、セラミックがほとんど摩擦トルクと磨耗性を生じないことが分かっているので、この製造方法はしばしば望まれる。さらに、ジルコニアセラミックは、アルミナよりUHMWPEの磨耗性を生じないことが示されている。しかしながら、材料にかかわらず、大腿骨頭は、寛骨臼カップの内表面に対して連接し、それによって長期にわたり磨耗をもたらし、これは人工関節の交換を必要とするかもしれない。これは特に、大腿骨頭が金属であり、寛骨臼カップが有機高分子またはその複合材で囲まれているケースである。これらの重合体の表面は、相対的に低い磨耗性の良好な表面を提供し、生体適合性である一方で、それらは、それらが通常の使用中に影響されやすい摩擦熱とトルクのために、磨耗と加速クリープに影響されやすい。
【0028】
加熱段階が続いて行われる放射を介して架橋されるUHMWPEがより大きな磨耗抵抗を示すが、それは同様の欠点を有する。図3において、典型的な人工膝関節が本来の場所に示される。図4は、移植前の典型的な人工膝関節を示し、個々の部品の詳細を提供する。膝関節は、大腿骨部品20と脛骨部品30を含む。大腿骨部品は、大腿骨部品の連接表面を提供する顆(関節丘、コンダイル)22と、大腿骨に大腿骨部材を固定するためのペグ24と、を含む。脛骨部品30は、脛骨に脛骨ベースを取り付けるためのペグ34を有する脛骨ベース32を含む。脛骨プラットフォーム36は、脛骨ベース32の頂上に取り付けられ、顆22の形状と同様の溝38を有して提供される。顆26の底部表面は、脛骨プラットフォームの溝38に接触し、この顆は、脛骨プラットフォームに対してこれらの溝内で連接する。顆は、典型的には金属で製造され、脛骨プラットフォームは、有機高分子または有機ベースの複合材からなる。したがって、硬い金属の顆の表面26は、比較的柔らかい有機組成物に対して連接されるであろう。これは、有機材料、すなわち、脛骨プラットフォームの磨耗をもたらし、人工関節の交換を必要とする。人工股関節の場合のように、多孔性のビードまたはワイヤーメッシュ被覆は、膝の脛骨部品または大腿骨部品またはその両方に適用されることができる。
【0029】
本発明は、ジルコニウムまたはジルコニウム含有合金で製造された、均一の厚さの酸化ジルコニウムで被覆された整形外科用インプラントまたは人工関節、または、従来の整形外科用インプラント材料上のジルコニウムまたはジルコニウム合金の薄膜を提供する。酸化ジルコニウムの層の特徴及び特性が人工関節装置の表面にわたって比較的一定になることを保障するために、厚さの均一性が望まれる。所望の合金の人工関節基板の表面上に均一の厚さの連続的で有用な酸化ジルコニウム被覆を形成するために、その合金は、好ましくは約80から約100重量%のジルコニウム、好ましくは、約94から約100重量%のジルコニウムを含む。酸素及び他の一般的な合金元素が合金内に用いられてもよい。例えば、ある好ましい実施形態では、ジルコニウムまたはジルコニウム合金は、約0.3重量%の酸素を有する。
【0030】
理論に拘束されることを望まないけれども、結晶性の欠如がこの材料内の結晶粒界を必然的に除去するので、非晶質のジルコニウムまたはジルコニウム合金は、本発明では有用であると考えられる。結晶材料内での最も単純な繰り返し単位は、単位格子である。単位格子は、前方のコロニー(樹枝状結晶)を結晶化する。凝固が完成に近づくにつれて、樹枝状結晶は互いに接触する。これらの接触領域が結晶粒界である。酸化ジルコニウム被覆を形成する酸化性プロセスにおいて、酸化の速度は、この材料のバルクでの速度と比較して結晶粒界で修正される。結晶粒界を除去または最小化することは、それによって結晶粒界を介する酸化のチャネリングを最小化し、酸化ジルコニウムからなる得られた層の不均一な厚さをもたらす。任意に、非晶質のジルコニウムまたはジルコニウム合金の表面粗度を変えることは、厚さの均一性をさらに高めるのに役立ち、結果として酸化物の完全性を高めることに役立つ。再び、理論によって拘束されることを望まないが、ここに記載された値までその表面を粗くすることは、酸化の開始部位の数を増加し、基板に対する内部の酸化層の均一な成長をもたらす。
【0031】
ベースの非晶質のジルコニウムまたは合金を含むジルコニウムは、人工関節基板を得るために望まれる形状とサイズに通常の方法で製造される。好ましい実施形態では、基板の非晶質のジルコニウムまたはジルコニウム合金は、限定されないが研磨(グラインディング)、バフ研磨(バフィング)、マス研磨(mass finishing)、バレル研磨を含む磨耗面生成段階に提供される。磨耗面生成段階は、約3マイクロインチから約25マイクロインチの変えられた表面粗度(Ra)を生じさせるために使用される。あるいは、表面粗度の範囲は、約3.5から約7マイクロインチでありえる。非晶質ジルコニウムまたは非晶質ジルコニウム合金が前述の酸化プロセスに提供されると、変えられた適切な表面粗度は、既存の表面粗度を均一な酸化物被覆の形成を可能にするこのような大きさの変えられた表面粗度に変えることによってもたらされる。
【0032】
それから、基板は、その表面上のしっかり付いた拡散結合された均一な厚さの酸化ジルコニウムの被覆の自然(インシチュ)形成を引き起こすプロセス状態に提供される。このプロセス状態は、例えば、空気酸化、蒸気酸化、水酸化、または、塩浴での酸化を含む。これらのプロセスは、理想的には薄く、硬く、密度が高く、暗藍色または黒色で、低い摩擦性で、磨耗性の均一で厚い酸化ジルコニウムフィルム、または、通常人工関節基板の表面上の数ミクロンのオーダーの厚さの被覆を提供する。この被覆の下で、酸化プロセスからの拡散した酸素は、下層の基板金属の硬度と強度を増加させる。
【0033】
空気酸化、蒸気酸化及び水酸化プロセスは、ワトソンに特許された、今期限が切れた米国特許2,987,352に記載されており、その教示は、参照することによって完全にここに説明されるかのように含まれる。好ましくは変えられた表面粗度を有する非晶質のジルコニウムまたはジルコニウム合金に適用される酸化プロセスは、均一な厚さの酸化されたジルコニウムの強固に付着している黒色または暗藍色の層を提供する。酸化が過度に続けられる場合、その被覆は白化し、金属基板から剥離するだろう。便宜上、金属の人工関節基板は、酸素含有雰囲気(空気のような)を有する炉内に配置され、約6時間、900°から1300°Fで通常加熱されるだろう。しかしながら、温度と時間の組み合わせは、他のものでもよい。より高い温度が採用されるとき、酸化時間は白い酸化物の形成を避けるために短縮されるべきである。
【0034】
合金の人工関節に酸化ジルコニウム被覆を適用するために使用することができる塩浴方法の1つは、ヘイガース(Haygarth)に対して特許された米国特許4,671,824の方法であり、その教示は、参照することによって完全にここに説明されるかのように含まれる。この塩浴方法は、同様の少し高い磨耗抵抗の暗藍色または黒色の酸化ジルコニウム被覆を提供する。この方法は、溶融塩浴でジルコニウムを酸化することができる酸化化合物の存在を必要とする。溶融塩は、塩化物、硝酸塩、シアニドなどを含む。この酸化化合物、つまり炭酸ナトリウムは、約5重量%までの少量だけ存在する。炭酸ナトリウムの添加は、この塩の溶融点を下げる。空気酸化のように、酸化速度は溶融塩浴の温度に比例し、‘824特許は、550°から800℃(1022°から1470°F)を好ましいとしている。しかしながら、その浴のより低い酸素レベルは、同一時間と同一温度における炉を用いた空気酸化よりも薄い被覆をもたらす。1290°Fで4時間の塩浴処理は、およそ7ミクロンの酸化物被覆厚さをもたらす。
【0035】
酸化ジルコニウム被覆の総厚は、主にインシチュ成長プロセスの時間と温度の変数によって制御される。本発明は、このように製造された被覆の厚さの均一性に関する。ここで特許請求の範囲に記載された方法による、酸化プロセス中の均一な酸化物被覆の生成は、適切に変えられた表面粗度を有する表面と非晶質組成の両方に依存する。この酸化物被覆は、表面凹凸から開始及び成長し、この酸化物開始部位は、非常に滑らかで表面に均一な被覆厚さをもたらすために非常に離れている。この酸化物層は、結晶粒子に沿って微細構造の粒子を通って酸素拡散によって成長する。酸化速度は、異なる構造及び組成の粒子で相違し得る。従って、酸化物被覆は、異種の微細構造を介して均一な厚さで成長しないかもしれない。必要な表面粗度における特定の限界は合金であり、用途に依存し得るけれども、十分な相の同質性は、非晶質のジルコニウム金属または非晶質のジルコニウム合金の使用を介して達成されるであろう。
【0036】
均一の厚さの酸化ジルコニウム膜は、約20ミクロンまで及ぶかもしれない。約1から約10ミクロンの厚さの範囲にある均一な厚さの暗藍色の酸化ジルコニウム層が形成されることが好ましい。その均一な厚さの酸化ジルコニウム層は、約3ミクロンから約7ミクロンまで及ぶことが最も好ましい。例えば、1100°Fで3時間の炉を用いた空気酸化は、約4マイクロインチの表面粗度(Ra)を有する96重量%より多いジルコニウムを有するジルコニウム合金上に4から5ミクロンの厚さの均一な酸化物被覆を形成するだろう。より長い酸化時間とより高い酸化温度は、この厚さを増加させるが、被覆の完全性を落とすかもしれない。20ミクロンまで又はそれ以上の厚さは、適切な条件下で達成されることができる。例えば、1300°Fで1時間の酸化は、約9ミクロンの酸化物被覆厚さを形成する。もちろん、薄い酸化物が表面上に必要であるだけなので、人工関節の厚みの上への通常10ミクロン未満の小さな寸法変化しか生じないだろう。一般に、より薄い被覆(1から10ミクロン)がより良い付着強度を有する。しかしながら、用途に応じて、より大きい厚さの被覆が使用されるかもしれない。
【0037】
あらゆる従来技術の方法で生成された暗藍色または黒色の酸化ジルコニウム被覆は、硬度においては全く同様である。例えば、鍛造されたジルコニウム合金の人工関節基板の表面が酸化されると、その表面の硬度は、元の金属表面の200ヌープ硬度に対して劇的な増加を示す。塩浴または空気酸化プロセスによる酸化後における暗藍色の酸化ジルコニウム表面の表面硬度は、約1200から1700ヌープ硬度である。
【0038】
拡散接合された、低い摩擦性で、高い耐摩耗性で、均一な厚さの本発明の酸化ジルコニウム被覆は、磨耗条件にさらされる整形外科用インプラントと歯科用インプラントと生体適合性表面を必要とする装置との表面に適用される。このような表面は、膝関節、肘関節及び股関節の連接表面を含むが、これに限定されるものではない。股関節の場合(図1、2)には、大腿骨頭6は、酸化ジルコニウム被覆が位置してもよい例である。このような人工関節において、大腿骨頭とステムは通常合金から製造され、寛骨臼カップは、セラミック、金属、または、有機高分子が裏打ちされた金属またはセラミックから製造されるかもしれない。しかしながら、人工関節の他の部分は、本発明の酸化ジルコニウム被覆を有してもよい。膝関節の場合(図3、4)において、顆の表面26は、酸化ジルコニウム被覆が位置してもよい例である。しかしながら、人工関節の他の部分は、本発明の酸化ジルコニウム被覆を有してもよい。
【0039】
酸化ジルコニウム被覆が磨耗を受ける表面に適用される場合、磨損を最小化するための滑らかな仕上げ面を得ることが望まれる。酸化プロセスの後に、酸化物被覆表面は、様々な通常の仕上げ技術の何れかによって研磨されることができる。十分な酸化物の厚さは、選択された仕上げ技術を受け入れるために生成されなければならない。例えば、約4マイクロインチの前酸化表面粗度(Ra)を有する約5ミクロンの厚さの均一酸化物被覆を有する表面は、約1ミクロンの酸化物厚さの損失を有する約2マイクロインチの最終表面粗度(Ra)に磨き上げることができる。
【0040】
ここに記述された本発明を用いて製造された医療用インプラントにおいて、骨の内部成長と外部成長を促進するために織目加工された表面を有することが時々望まれる。当業者に知られている多くの技術は、このような医療用インプラントを製造するために本発明の教示と組み合わされるかもしれない。ジルコニウムあるいはジルコニウム合金は、人工関節を安定化するために結合される周囲の骨または組織に対して多孔性のビードまたはワイヤーメッシュ表面を提供するために使用されることもできる。これらの多孔性の被覆は、金属イオン放出の除去または減少のためにベースの人工関節の酸化によって同時に処理されることができる。さらに、ジルコニウムまたはジルコニウム合金は、変えられた表面粗度、均一な酸化ジルコニウム被覆のインシチュ酸化及び形成をもたらす前に通常のインプラント材料上に適用される表面層として使用されることもできる。織目加工された表面を得るための他の利用可能な手段は、当業者に知られているが、化学エッチング、他の技術に加えて化学気相蒸着、プラズマ溶射蒸着などのような様々な蒸着方法も含む。
【0041】
本発明のプロセスは、米国特許3,615,885における低い耐摩擦性とそのプロセスによる大きな寸法変化の問題を避けるための他の手段を提供する。総被覆の厚さとその厚さの均一性の両方の制御は、正確な公差が要求される関節装置の製造において非常に多くの寸法制御を可能にする。本発明は、‘885特許の磨耗抵抗と異なった高い磨耗抵抗を有する酸化物フィルムも製造する。
【0042】
本発明のプロセスは、非晶質のジルコニウムまたはジルコニウム合金を酸化することによって、好ましくは、非晶質のジルコニウム合金またはジルコニウム合金上の変えられた表面粗度をもたらす段階に続いて、均一の厚さの暗藍色の酸化ジルコニウム被覆の形成をもたらす。その酸化ジルコニウム被覆の深さは、酸化条件の適切な選択によって制御されることができる。均一の厚さの酸化物被覆の形成は、酸化物層とその下層のジルコニウムまたはジルコニウム合金との間の付着の高い完全性と、酸化物層内の付着の高い完全性とのために、特に高い耐摩擦性と減少された磨耗を有する変更可能で制御可能な厚さの酸化物被覆を提供する。“高い完全性”という用語は、光学顕微鏡による断面図で見た際に可視できるクラックまたは微細孔がない、厚さが均一の酸化物被覆を意味する。
【0043】
本発明は、均一な厚さの酸化ジルコニウム被覆を有する、インシチュ酸化を介して被覆された非晶質のジルコニウムまたはジルコニウム含有合金人工関節を提供する。均一な厚さの酸化ジルコニウム被覆は、薄く、密度が高く、低摩擦性で、高い完全性で、磨耗抵抗性のある生体適合性のある表面を有する本発明の人工関節を提供する。その適合性のある表面は、理想的には人工関節の連接表面での使用に適しており、その関節の表面は、接合関節の表面に対して連接し、平行移動し、または、回転する。したがって、均一の厚さの酸化ジルコニウム被覆は、大腿骨頭上、股関節インプラントの寛骨臼カップの内部表面、または、膝関節のような他のタイプの人工関節の連接表面のような人工関節に有効に採用される。一般に、このようなインプラントは、ベアリング表面を有する第1部品とカウンターベアリング表面を有する第2部品とを含むマルチ部品人工関節として記述されることができ、これらの部品の少なくとも1つは、非晶質構造を有するジルコニウムまたはジルコニウム合金を含み、暗藍色または黒色の酸化ジルコニウム合金の表面層は、ジルコニウムまたはジルコニウム合金を含む部品の少なくとも一部の上に存在し、酸化ジルコニウムの表面層は、前記ジルコニウムまたはジルコニウム合金の酸化によって形成される。あるいは、本発明に影響を受ける他のインプラントは、非晶質のジルコニウムまたは非晶質のジルコニウム合金を含む基板と、その基板の少なくとも一部の上の暗藍色または黒色の酸化ジルコニウムの表面層と、を有する少なくとも1つの部品を有するインプラントであり、その酸化ジルコニウムの表面層は、ジルコニウムまたはジルコニウム合金の酸化によって形成される。本発明は、肩関節、足首関節、指関節、手首関節、つま先関節、肘関節、または他の関節に適用できる。他の可能な用途は、顎顔面インプラントまたはあるいは側頭下顎骨インプラントを含む。歯科インプラント及び脊髄インプラントのような他のインプラントは、本発明による均一な厚さの酸化ジルコニウム表面を有して製造されることができる。それは、骨プレート及び骨ねじのようなインプラント金属製品に適用できる。 他の可能性は当業者に明らかである。
【0044】
非金属または非酸化物ジルコニウム被覆表面に対して連接または回転する方式で均一な厚さの酸化ジルコニウムを有する関節面が使用された場合、均一の厚さの被覆の低摩擦特性及び高い完全性は、従来技術の人工関節と比較して減少された摩擦、磨耗、及び発熱をもたらす。対向する表面の有用な寿命が高まるように、この減少した発熱は、クリープとトルクとを経験する非金属または非酸化ジルコニウム被覆のベアリング表面における低下した傾向をもたらす。UHMWPEのような有機高分子は、その内層の寿命に当然の有害な影響を有して加熱された際に、急速に増加するクリープ速度を示す。この高分子の磨耗くずは、この装置の不都合な組織応答と弛緩をもたらす。したがって、均一な酸化ジルコニウム被覆が高い完全性のために適用される人工関節基板の保護を改善するように働くだけではなく、それは、低い摩擦表面の結果として、使用可能な接点に対してそれらの表面を保護し、結果的に人工関節の性能と寿命を高める。
【0045】
その対抗する表面が体内組織である場合に、均一な厚さの酸化ジルコニウムで被覆された関節面は、対応する表面の耐用年数も高める。関節の一部品の外科的な置換は“半関節形成”と呼ばれ、修理された関節が人工的な(関節)部品だけを有するので、この人工的な部品は、しばしば“単極器官”または“内部人工器官”と呼ばれる。均一な厚さの酸化ジルコニウム被覆は、体内組織に対する連接、平行移動及び回転において低摩擦表面であり、それによって、有機高分子の対向面において有するのと同じように、体内組織の対向面における同様の有益な効果を有する。
【0046】
酸化ジルコニウムで被覆された人工関節の実用性は、耐荷重性人工関節、特に接合部に限定されず、高い磨耗速度が見られるかもしれない。他の用途として骨プレートや骨ねじなどのような非関節型のインプラントがある。均一な厚さの酸化ジルコニア被覆はジルコニア合金関節基板にしっかりと固定されているので、それは、体液とジルコニウム合金との間に向上した障壁を提供し、それによって、不均一の酸化物被覆に比べて、イオン化及びそれに関連する金属イオン放出のプロセスによる合金の腐食を防止する。
【0047】
さらに、基板金属内のジルコニウムの存在からの均一な厚さの酸化ジルコニウム被覆の自然なインシチュ形成は、酸化物被覆の下の金属基板への酸素拡散を生じる。酸素、つまりジルコニウムの合金構成要素は、金属基板の強度、特に疲労強度を増加させる。好ましい実施形態は、約0.3%(w/w)の酸素含有量を有するジルコニウムまたはジルコニウム合金を有するものである。さらに、均一な厚さの被覆の高い完全性は、クラックまたは微細孔を含む不均一な厚さの酸化物被覆に比べて疲労亀裂発生部位の数を減少させる。疲労荷重に対する抵抗は、股関節ステム、大腿骨部品及び脛骨膝部品のような多くの整形外科用インプラントにおいて最重要である。したがって、均一な厚さの酸化ジルコニウム被覆の形成は、磨耗、摩擦及び腐食抵抗を改善するだけでなく、強度の観点からインプラント装置の機械的な強度も改善する。
【0048】
主要な合金構成要素(55%)としてのZrを有するZr−Ti−Cu−Ni−Beの非晶質合金は、本発明の実用性を証明する。試料は、630℃で1時間及び3時間酸化された。この酸化ジルコニウム層の厚さは、金属組織検査用の試料を用意することによって測定された。酸化された試料の金属組織画像は、図5(1時間酸化)及び図6(3時間酸化)に示される。3時間の酸化の後では、8.9±0.7μmであったのに対して、1時間の酸化の後の酸化物の平均の厚さ(±標準偏差)は、1.5±0.4μmであった。図5は、630℃で1時間酸化した後におけるベークライト上のジルコニウム合金のクラックの入った試料を示す。図6は、630℃で3時間酸化した後におけるベークライト上の試料を示す。それぞれの場合で、ジルコニウムベースの非晶質合金基板の材料は、酸化ジルコニウム層を有して見られる。1時間の酸化の後に形成された層の厚さは、26.6%の変動係数を有し、一方、3時間の酸化の後に形成された層の厚さは、7.9%の変動係数を有した。その酸化物表面のエネルギー分散X線分析は、それが主に酸化ジルコニウムからなることを示した。
【0049】
従って、本発明の方法を用いた3時間の酸化は、約8%の変動係数を有した。この結果は、微細なミクロ構造と変えられた表面粗度をもたらす、前酸化処理技術を用いたハンター(Hunter)らの方法(米国特許6,447,550)に相当する。この酸化ジルコニウムの均一な厚さの18%の変動係数は、鋳放し材料が約4から8マイクロインチのRa値を有する粗面化された表面を有する‘550特許の手順を用いて得られる。鋳放し材料が鍛造(微細な粒径)材料に置き換えられる際、その表面が4から8マイクロインチのRa値まで粗くされた場合、その変化は6%まで低下する。比較すると、米国特許5,037,438で記述されるように、酸化ジルコニウムの表面層を形成する通常の方法は、72%の変動係数を有する表面層の厚さをもたらす。したがって、本発明の使用は、均一な厚さを有する酸化ジルコニウム表面層を形成する新規な方法を可能にする。
【0050】
本発明は、好ましい実施形態を参照して記述されたが、上述され又は特許請求の範囲に記載された本発明の範囲及び精神から逸脱することなく、当業者は、この開示を読むことによって、適切な変更または修正は行うことできる。
【0051】
本明細書で言及された全ての特許及び刊行物は、本発明が関係する当業者の技術レベルを示すものである。全ての特許及び刊行物は、参照することによってそれぞれの開示が明らかに及び個々に示されているかのように、参照することによって同程度までここに含まれる。
【0052】
それらが本来有するものに加えて、本発明が目的を遂行し、結果物及び上述の利点を得るために非常に適していることを当業者は容易に理解することができる。ここに記載されたシステム、手順及び技術は、現時点で好ましい実施形態を表すものであり、例示のためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。当業者に生じる変更や他の使用は、本発明の精神の範囲に含まれ、特許請求の範囲に定義されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】所定の位置における人工股関節を描写する概略図である。
【図2】典型的な人工股関節を示す概略図である。
【図3】所定の位置における人工膝関節の概略図である。
【図4】典型的な膝関節の部品の概略図である。
【図5】630℃で1時間酸化された後におけるベークライト上に設けられたジルコニア合金の試料を示す。
【図6】630℃で3時間酸化された後におけるベークライト上に設けられた試料を示す。
【符号の説明】
【0054】
2 股関節ステム
4 頸部
6 大腿骨頭
8 内層
10 寛骨臼カップ
12 多孔性金属ビード/ワイヤーメッシュ
20 大腿骨部品
22 顆
24 ペグ
26 顆表面
30 脛骨部品
32 脛骨ベース
34 ペグ
36 脛骨プラットフォーム
38 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質構造を有するジルコニウムまたは非晶質構造を有するジルコニウム合金を酸化する段階を特徴とする、ジルコニウムまたはジルコニウム合金上に暗藍色または黒色の酸化ジルコニウムの均一な被覆を形成する方法。
【請求項2】
前記酸化する段階の前に、前記ジルコニウムまたはジルコニウム合金の表面粗度を変える段階をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記表面粗度を変える段階は、約3マイクロインチから約25マイクロインチの範囲に表面粗度(Ra)を変えることを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記表面粗度を変える段階は、約3.5マイクロインチから約7マイクロインチの範囲に表面粗度(Ra)を変えることを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記表面粗度を変える段階は、研磨、バフ研磨、マス研磨、バレル研磨およびそれらの組み合わせからなる群から選択される1つの段階を含む磨耗面生成段階を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記酸化する段階は、酸化剤としての空気の使用を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記酸化する段階は、酸化剤としての酸素の使用を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ジルコニウムまたは前記ジルコニウム合金は、約0.3重量%の酸素を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
非晶質構造を有するジルコニウムまたは非晶質構造を有するジルコニウム合金を有する基板と、
前記基板の少なくとも一部の上にある暗藍色または黒色の酸化ジルコニウムからなる表面層であって、前記酸化ジルコニウムの表面層は、前記ジルコニウムまたは前記ジルコニウム合金の酸化によって形成されるところの表面層と、
を含む、少なくとも1つの部品を特徴とする医療用インプラント。
【請求項10】
前記ジルコニウムまたは前記ジルコニウム合金は、前記酸化の前に変えられた表面粗度を有する、請求項9に記載の医療用インプラント。
【請求項11】
前記変えられた表面粗度は、約3マイクロインチから約25マイクロインチの範囲の表面粗度(Ra)である、請求項10に記載の医療用インプラント。
【請求項12】
前記変えられた表面粗度は、約3.5マイクロインチから約7マイクロインチの範囲の表面粗度(Ra)である、請求項10に記載の医療用インプラント。
【請求項13】
前記酸化ジルコニウム層は、約20ミクロン以下の厚さである、請求項9に記載の医療用インプラント。
【請求項14】
前記酸化ジルコニウム被覆層は、約10ミクロン以下の厚さである、請求項9に記載の医療用インプラント。
【請求項15】
前記人工関節の本体のインプラント部分は、前記人工関節の本体の部分上の組織成長を提供するために適合される不規則な表面を有する、請求項9に記載の医療用インプラント。
【請求項16】
前記不規則な表面は、前記人工関節の本体の外表面に取り付けられたジルコニアビーズまたはジルコニア合金ビーズで形成され、前記ビーズの前記表面の少なくとも一部は酸化されて暗藍色または黒色の酸化ジルコニウムである、請求項15に記載の医療用インプラント。
【請求項17】
前記不規則な表面構造は、前記人工関節の本体の外表面に結合されたジルコニアワイヤーメッシュまたはジルコニア合金ワイヤーメッシュで形成され、前記メッシュの前記表面の少なくとも一部は酸化されて暗藍色または黒色の酸化ジルコニウムである、請求項15に記載の医療用インプラント。
【請求項18】
前記不規則な表面は、化学的にエッチングされた表面である、請求項15に記載の医療用インプラント。
【請求項19】
前記不規則な表面は、プラズマ溶射で堆積された表面である、請求項15に記載の医療用インプラント。
【請求項20】
前記不規則な表面は、焼結された表面である、請求項15に記載の医療用インプラント。
【請求項21】
前記医療用インプラントは、脊椎インプラントである、請求項9に記載の医療用インプラント。
【請求項22】
前記医療用インプラントは、歯科インプラントである、請求項9に記載の医療用インプラント。
【請求項23】
前記医療用インプラントは、骨インプラント金属製品である、請求項9に記載の医療用インプラント。
【請求項24】
前記骨インプラント金属製品は、骨プレートまたは骨ねじを有する、請求項9に記載の医療用インプラント。
【請求項25】
前記少なくとも1つの部品は、ベアリング表面を有する第1部品と、前記第1部品の前記ベアリング表面と組み合うように適合されるカウンターベアリング表面を有する第2部品と、を有し、
前記第1部品と前記第2部品の少なくとも一方は、非晶質構造を有するジルコニウムまたは非晶質構造を有するジルコニウム合金を有し、
前記第1部品、前記第2部品、または、前記第1部品及び前記第2部品の両方の少なくとも一部の上に暗藍色または黒色の酸化ジルコニウムの表面層があり、
前記酸化ジルコニウムの表面層は、前記ジルコニウムまたは前記ジルコニウム合金の酸化によって形成される、請求項9に記載の医療用インプラント。
【請求項26】
前記医療用インプラントは、人工関節である、請求項25に記載の医療用インプラント。
【請求項27】
前記第1部品は、大腿骨部品を含み、前記第2部品は、人工股関節を形成するための寛骨臼を含む、請求項26に記載の医療用インプラント。
【請求項28】
前記第1部品は、少なくとも1つの顆をさらに含み、前記第2部品は、人工膝関節を形成するための脛骨部品を含む、請求項26に記載の医療用インプラント。
【請求項29】
前記人工関節は、肩関節、指関節、手首関節、つま先関節、または、肘関節からなる群から選択される、請求項26に記載の医療用インプラント。
【請求項30】
前記医療用インプラントは、顎顔面インプラントまたは側頭下顎骨インプラントである、請求項25に記載の医療用インプラント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−513120(P2008−513120A)
【公表日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−532456(P2007−532456)
【出願日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【国際出願番号】PCT/US2005/032919
【国際公開番号】WO2006/033956
【国際公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(397071355)スミス アンド ネフュー インコーポレーテッド (186)
【Fターム(参考)】