説明

スイッチング素子

【課題】構造が極めて単純で、かつ、安定した繰り返しスイッチング動作が可能な、不揮発性スイッチング素子を提供すること。
【解決手段】本発明のスイッチング素子100は、絶縁性基板10と、絶縁性基板10の上に設けられた、第1電極20と、絶縁性基板10の上に設けられた、第2電極30と、第1電極20と第2電極30の間に設けられ、第1電極20と第2電極30との間の距離Gが、0nm<G≦50nmである電極間間隙40と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノギャップ金属電極を用いたスイッチング素子に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、デバイスの小型化、高密度化に伴い、電気素子の一層の微細化が望まれている。また、機能性有機分子やナノ微粒子に代表される、いわゆるナノ構造の研究も、進展がめざましい。電気素子にナノ構造の特性を利用することは、素子の微細化のために有効と考えられ、研究機関、企業等で検討が盛んである。たとえば、微細な間隙を隔てた2つの電極(以下、このような電極の組は、「ナノギャップ電極」と呼ぶことがある。)を用い、その間隙を機能性有機分子にて橋架けした素子が注目されている。たとえば、非特許文献1に記載の素子は、白金を用いて形成されたナノギャップ電極の間隙に、カテナン系分子を配置したものである。この電極に電圧を印加することにより、カテナン系分子は、酸化還元反応を受け、スイッチング動作が可能であるとの記載がある。
【0003】
また、ナノギャップ電極としては、その間隙をナノ微粒子にて橋架けした素子も注目されている。たとえば、非特許文献2に記載の素子は、硫化銀および白金を用いてナノギャップ電極を作成し、その間隙に銀粒子を配置したものである。この電極に電圧を印加することにより、電気化学反応を行い、銀粒子が伸縮することで、電極間を架橋、切断でき、スイッチング動作が可能との記載がある。
【0004】
ところが、例示したいずれのスイッチング素子も、ナノギャップ電極間に、特殊な合成分子や複雑な金属の複合系を必要としている。そして、これらは、分子内の化学反応または異種原子間の反応を利用する機構であるため、印加電圧の方向に依存性を有し、スイッチング素子としての利用には、制限がある。また、スイッチング動作に化学反応を利用するため、素子の劣化が起こりやすいという問題を有する。
【0005】
また、例示したいずれのスイッチング素子も、ナノギャップ電極の間隙の間隔を十分に小さく作成することは難しい。この課題に対しては、ナノギャップ電極間の間隙の間隔の小さいナノギャップ電極の製造方法として、たとえば、特開2005−79335号公報に開示された技術がある。
【特許文献1】特開2005−79335号公報
【非特許文献1】Science,289(2000)1172−1175
【非特許文献2】Nature,433(2005)47−50
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、構造が極めて単純で、かつ、安定した繰り返しスイッチング動作が可能な、不揮発性スイッチング素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のスイッチング素子は、
絶縁性基板と、
前記絶縁性基板の上に設けられた、第1電極と、
前記絶縁性基板の上に設けられた、第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に設けられ、前記第1電極と前記第2電極との間の距離Gが、0nm<G≦50nmである、電極間間隙と、
を含む。
【0008】
このように構成することで、構造が極めて単純で、かつ、安定した繰り返しスイッチング動作が可能な、不揮発性スイッチング素子を提供することができる。
【0009】
本発明において、前記、距離Gは、前記第1電極と前記第2電極の間の電極間間隙における最接近部位の、電極間距離を指す。
【0010】
本発明のスイッチング素子において、前記第1電極と前記第2電極との間の距離Gは、0.1nm≦G≦20nmとすることができる。
【0011】
本発明のスイッチング素子において、さらに、少なくとも前記電極間間隙を内包する封止部材を有することができる。
【0012】
本発明のスイッチング素子において、前記封止部材の内部は、圧力が、2×10Pa以下とすることができる。
【0013】
本発明のスイッチング素子において、前記第1電極の材質は、金、銀、白金、パラジウム、ニッケル、アルミニウム、コバルト、クロム、ロジウム、銅、タングステン、タンタル、カーボンおよび、それらの合金、から選ばれる1種とすることができる。
【0014】
本発明のスイッチング素子において、前記第2電極の材質は、金、銀、白金、パラジウム、ニッケル、アルミニウム、コバルト、クロム、ロジウム、銅、タングステン、タンタル、カーボンおよび、それらの合金、から選ばれる1種とすることができる。
【0015】
本発明のスイッチング素子において、前記第1電極および前記第2電極の少なくとも一方は、多層構造とすることができる。
【0016】
本発明において、前記第1電極と前記第2電極との間の電気抵抗値は、前記スイッチング素子がONの状態では、1kΩ〜1MΩであり、前記スイッチング素子がOFFの状態では、1MΩ〜100TΩとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に本発明の好適な実施形態の一例について、図面を参照しながら説明する。
【0018】
1.スイッチング素子
図1は、本実施形態のスイッチング素子100の要部を模式的に示す断面図である。図2は、スイッチング素子100の要部を拡大して模式的に示す断面図である。図3は、本実施形態のスイッチング素子100の要部を模式的に示す平面図である。図4は、スイッチング素子100に封止部材を設け、スイッチングデバイス1000とした例を示す模式図である。
【0019】
本実施形態にかかるスイッチング素子100は、絶縁性基板10と、絶縁性基板10の上に設けられた第1電極20と、絶縁性基板10の上に設けられた第2電極30と、第1電極20と第2電極30の間に設けられ、かつ、第1電極20と第2電極30との間の距離Gが、0nm<G≦50nmである電極間間隙40とを有する。
【0020】
絶縁性基板10は、スイッチング素子100の2つの電極20,30を隔てて設けるための支持体としての機能を有する。絶縁性基板10は、絶縁性能を有せば、構造、材質ともに特に限定されない。たとえば、絶縁性基板10の表面の形状は、平面であってもよいし、凹凸を有していてもよい。また、たとえば、Si等の半導体基板の表面に酸化膜等を設け、これを絶縁性基板10として用いてもよいし、絶縁性の基板そのものであってもよい。絶縁性基板10の材質は、ガラス、酸化珪素(SiO)などの酸化物、窒化珪素(Si)などの窒化物、が好適である。なかでも、絶縁性基板10の材質としては、酸化珪素(SiO)が、後述の電極20、30との密着性の点と、その製造において自由度が大きい点で好適である。
【0021】
第1電極20は、絶縁性基板10の上に設けられる。第1電極20は、スイッチング素子100の一方の電極であり、後述の第2電極30と対になり、スイッチング動作を可能にする。第1電極20の形状は、任意であるが、少なくとも、後述の第2電極30と対向する部位の横方向の大きさW1(図3参照)は、5nm≦W1の範囲であることが望ましい。第1電極20の厚みT1(図1、2参照)は、任意であるが、後述の第2電極30を形成した後の状態において、5nm≦T1であることが望ましい。なお、図1、2には、後述の工程説明の便宜上、第1電極20は、第1電極下部22と第1電極上部24とをあわせたものとして描いてある。第1電極20の材質は、金、銀、白金、パラジウム、ニッケル、アルミニウム、コバルト、クロム、ロジウム、銅、タングステン、タンタル、カーボンおよび、それらの合金、から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。また、絶縁性基板10との接着性を強化するために、異なる金属を2層以上重ねて用いてもよい。たとえば、第1電極20は、クロムおよび金の積層構造とすることができる。
【0022】
第2電極30は、絶縁性基板10の上に設けられる。第2電極30は、スイッチング素子100の他方の電極であり、前述の第1電極20と対になり、スイッチング動作を可能にする。第2電極30の形状は、任意であるが、少なくとも、前述の第1電極20と対向する部位の第2電極30の横方向の大きさW2(図3参照)は、5nm≦W2≦W1の範囲であることが望ましい。第2電極30の厚みT2は、任意であるが、電極の強度、支持体からの剥離強度の点で、5nm≦T2≦T1が望ましい。第2電極30の材質は、金、銀、白金、パラジウム、ニッケル、アルミニウム、コバルト、クロム、ロジウム、銅、タングステン、タンタル、カーボンおよび、それらの合金、から選ばれることが好ましい。また、絶縁性基板10との接着性を強化するために、異なる金属を2層以上重ねて用いてもよい。たとえば、第2電極30は、クロムおよび金の積層構造とすることができる。
【0023】
電極間間隙40は、第1電極20と第2電極30との間の距離Gが、0nm<G≦50nm、たとえば0.1nm≦G≦20nmとなるように設けられる(図2参照)。さらに好ましくは、0.1nm≦G≦10nmとすることができる。電極間間隙40は、スイッチング素子100のスイッチング現象を発現する役割を有する。電極間の最近接部位は、第1電極20と第2電極30とが対向する領域に、1カ所または複数箇所、形成されてもよい。上限値は、50nmを超えると、金属元素が動いて、スイッチング素子100が動作するための電界が不足するという理由により不適切である。下限値は、0nmとすると、第1電極20と第2電極30とが短絡していることになる。前記下限値は、顕微鏡測定によって決定することは困難であるが、トンネル電流が生じうる最小距離であるということができる。すなわち、該下限値は、素子が動作したときに、電流−電圧特性が、オームの法則に従わず、量子力学的なトンネル効果が観測される距離の理論値である。
【0024】
封止部材50は、少なくとも前述の電極間間隙40を内包するように設けることができる。封止部材50は、絶縁性基板10を含め全体が封止されることが望ましい。封止部材50は、電極間間隙40が大気に接触しないようにする機能を有する。封止部材50は、前記機能を有する限り、その形状、材質ともに任意である。封止部材50は、スイッチング素子100をさらに安定に動作させる作用を有する。封止部材50の材質は、公知の半導体封止材料を用いることができ、必要に応じて、公知の物質からなる気体バリヤ層等を設けてもよい。ナノギャップ電極の全体をたとえば適当な真空チャンバー内に設置して、これをスイッチング素子として使用する場合は、この部材は省略できる。
【0025】
封止部材50の内部は、減圧環境とすることができるほか、種々の物質で満たすことができる。封止部材50の内部は、圧力が2×10Pa以下とすることができる。より好ましくは、封止部材50の内部または、ナノギャップ電極が設置される真空チャンバー内は、その圧力Pが10−9Pa<P<2×10Paとする。一方、封止部材50の内部は、乾燥空気、窒素、希ガス等の不活性な気体または、トルエンなどの電気的に不活性な有機溶剤で満たすことも可能である。
【0026】
2.スイッチング素子の製造方法
スイッチング素子100の製造方法は、以下の工程を有することができる。
【0027】
すなわちスイッチング素子100の製造方法は、(1)絶縁性基板10を準備する工程、(2)第1のレジストパターン形成工程、(3)第1の蒸着工程、(4)第1のリフトオフ工程、(5)第2のレジストパターン形成工程、(6)第2の蒸着工程、(7)第2のリフトオフ工程、(8)電界破断工程および、(9)封止工程を含む。ここで、工程説明の便宜のため、第1電極20は、第1電極下部22と第1電極上部24とからなることとし、図1のように符号を付す。
【0028】
これらの工程は、特開2005−79335号公報に開示されている。ナノギャップ電極の製造方法としては、前記公報に記載の方法のみならず、特開2004−259748号公報、または、特開2005−175164号公報に記載された方法によっても、製造することができる。本実施形態では、特開2005−79335号公報に記載の方法に準じてスイッチング素子100を製造する。以下に順次、その工程を図1ないし図6を参照しながら説明する。図5は、第1の蒸着工程の説明のための模式図である。図6は、電界破断工程で構成される回路の模式図である。
【0029】
(1)絶縁性基板10を準備する工程
絶縁性基板10は、市販のガラス基板、酸化膜付きSi基板、その他表面が絶縁性の基板を用いることができる。また、Si等の導電性の基板を用いる場合には、その表面に所望の絶縁膜を、熱処理、酸化処理、蒸着、スパッタ等の公知の方法によって設け、これを絶縁性基板10として用いることができる。
【0030】
(2)第1のレジストパターン形成工程
準備した絶縁性基板10に、公知の方法たとえばフォトリソグラフィー等を用いて、第1電極下部22を形成するためのレジストパターン60を形成する。該レジストパターン60の厚みは、その機能を果たす限り、任意である。たとえば、該レジストパターン60の厚みは1μmとすることができる。
【0031】
(3)第1の蒸着工程
第1の蒸着工程は、第1電極下部22を形成する。この工程は、一般に公知の蒸着装置を用いて、おこなうことができる。このとき、絶縁性基板10の被蒸着面は、蒸着源から被蒸着面を臨むとき、傾斜しているように配置される。図5に示すように、被蒸着面と、蒸着源から蒸散する粒子の飛来方向とのなす角をθ1としたとき、0°<θ1<90°となるようにする(該蒸着方法を以下、「傾斜蒸着」と呼ぶ。)。この結果、図5に示すように、第1電極下部22は、その先端部が傾斜した形状に形成される。このときの第1電極下部22の先端部の傾斜と、基板10表面とのなす角をθ1’とする。ここで、θ1’は、レジストパターン60の形状、基板10表面の金属が堆積する特性および、θ1の大きさなどにより、変化させることができる。このθ1’は、各条件が同一であれば、再現性よく形成できるため、同条件の蒸着をおこなった結果を、別途測定することでθ1’の大きさは、計測することができる。
【0032】
また、蒸着時、蒸着源と被蒸着面の間の距離は、大きいほど蒸着線の平行性が高くなるため好ましい。この距離は、使用する蒸着装置に依存するが、およそ500mm以上離れていれば、本実施形態に必要な蒸着をおこなうことができる。第1の蒸着工程は、金、銀、白金、パラジウム、ニッケル、アルミニウム、コバルト、クロム、ロジウム、銅、タングステン、タンタル、カーボンおよび、それらの合金、から選ばれる物質を1回または複数回、蒸着する。複数回の蒸着は、たとえば、クロムを蒸着した後、金を蒸着するという2層構造を形成するためにおこなってもよい。第1の蒸着工程によって得る第1電極下部22の厚みは、電気伝導性が確保される範囲であれば任意である。たとえば、材質に金を選んだ場合は、第1電極下部22の厚みは、5nm以上とすることができる。
【0033】
(4)第1のリフトオフ工程
第1のリフトオフ工程は、公知の方法にておこなう。この工程は、用いたレジストパターン60の材質に適合する剥離液を用いる。これにより、第1電極下部22が形成され、同時にレジストパターン60上に形成された犠牲電極22aが除去される(図5参照)。
【0034】
(5)第2のレジストパターン形成工程
第2のレジストパターン形成方法は、公知の方法たとえばフォトリソグラフィー法等を用いる。この工程により、第2電極30、および、付随的に第1電極上部24を形成するためのレジストパターン(図示せず)が形成される。該レジストパターンの開口部は、前述の工程で得られた、第1電極下部22の先端部分(ナノギャップ電極の一方となる部分)、を横切るように、設けられる。該レジストパターンの厚みは、任意である。
【0035】
(6)第2の蒸着工程
第2の蒸着工程により、第2電極30が形成される。これに伴い第1電極上部24が付随的に形成される(図2参照)。この工程は、一般に公知の蒸着装置を用いて、おこなうことができる。この工程は、傾斜蒸着である。図2に示すように、被蒸着面と、蒸着源から蒸散する粒子の飛来方向とのなす角をθ2としたとき、θ1’<90°のときは、0°<θ2<θ1’<90°となるように、90°≦θ1’のときは、0<θ2<90°となるようにする。この工程により、第2電極30の先端部分すなわち、第1電極20に対向する部分が形成される。これに伴い第1電極上部24が同時に形成される。第1の蒸着工程と同様に、蒸着時、蒸着源と被蒸着面の間の距離は、大きいほど蒸着粒子の飛行軌跡の平行性が高いため好ましい。この距離は、使用する装置に依存するが、およそ500mm以上離れていれば、問題なく蒸着をおこなうことができる。第2の蒸着工程は、金、銀、白金、パラジウム、ニッケル、アルミニウム、コバルト、クロム、ロジウム、銅、タングステン、タンタル、カーボンおよび、それらの合金、から選ばれる物質を、1回または複数回蒸着する。
【0036】
ここで、電極間間隙40の形成は、第2の蒸着工程の傾斜蒸着における、蒸着粒子が形成する第1電極下部22の影を利用している。したがって、第1電極下部22の厚み、または、第2の蒸着工程における傾斜蒸着の角度θ2、の少なくとも一方を調節することにより、所望の電極間距離Gを有する電極間間隙40を得ることができる。そのため、第2の蒸着工程によって得られる第2電極30の厚みは、第1電極20の厚みよりも小さいことが望ましい。
【0037】
(7)第2のリフトオフ工程
第2のリフトオフ工程は、公知の方法にておこなう。この工程は、用いたレジストパターンの材質に適合する剥離液を用いる。これにより、第1電極20および第2電極30が形成され、ナノギャップ電極が得られる。
【0038】
(8)電界破断工程
前述のようにして得られた、ナノギャップ電極は、短絡している場合がある。そのため、必要に応じさらに、本工程をおこなうことができる。電界破断工程は、文献Appl.Phys.Lett.,75(1999)301に記載の方法を用いることができる。図6に電界破断工程をおこなう際の配線の模式図を示す。短絡している電極と直列に可変抵抗Rv、固定抵抗Rcおよび電源を接続し、電圧を印加する。固定抵抗Rcは、目的量以上の電流が流れ、電極を破壊しないようにするために設置する。電極間の破断のために必要な電流量は、数mA〜数十mAである。可変抵抗Rvの抵抗値を初期値(抵抗大)からゆっくり抵抗が小さくなるように調節し、電流が流れなくなる時点で止めることにより、所望の電極間距離Gを有するナノギャップ電極すなわちスイッチング素子100を得ることができる。
【0039】
(9)封止工程
本工程は、公知の気密封止技術を利用する。セラミック封止、ガラス封止、プラスチック封止または金属キャップによる封止を利用でき、所望の雰囲気中でおこなうこともできる。
【0040】
3.作用効果
本実施形態のスイッチング素子100は、構造が極めて単純で、安定した繰り返しスイッチング動作が可能である。すなわち、本実施形態のスイッチング素子100は、ナノギャップ電極のみによって構成され、他の有機分子や、無機粒子などが不要な、極めて単純な構成を有する。また、本実施形態のスイッチング素子100は、劣化する物質を含まないため、スイッチング動作を安定に繰り返すことができる。さらに、本実施形態のスイッチング素子100は、不揮発性を有する。
【0041】
4.スイッチング動作
本実施形態のスイッチング素子100の動作の一例を以下に説明する。図7は、スイッチング素子100の電流−電圧曲線の一例を模式的に示す。図7の横軸は、スイッチング素子100のナノギャップ電極間に印加される電圧に対応し、縦軸は、電流に対応する。図7には、説明のため、AからHおよび0の符号を付した。図8は、スイッチング素子100のナノギャップ電極間に印加される電圧のシーケンスを模式的に示す。図8の横軸は、経過時間を示し、縦軸は、印加される電圧を示す。
【0042】
図7に示すように、スイッチング素子100の電流−電圧曲線は、0点について、点対称となっているため、スイッチング素子100に印加する電圧および電流は、スイッチング素子100の極性に依存しない。このため、以下の説明では、図7は右半分すなわち電圧が正の部分について説明し、電圧が負の部分についての説明を省略する。電圧が負の部分についてのスイッチング動作は、以下の説明の極性を適宜反対にして読みかえることとする。図7のB点を通るA点(抵抗最小値の電圧)とC点との間の領域では、スイッチング素子100は、印加電圧を高くするにしたがって抵抗が大きくなる負性抵抗効果を示す。この領域では印加電圧に依存してスイッチング素子100の状態が変化する。以下、この電圧領域を遷移領域と呼ぶ。この遷移領域における電圧を、素子に印加した状態から瞬時に電圧を0点付近の値(実用的には、A点付近とE点付近との間の値)に変化させる(以下このような瞬時に電圧値を0点付近に変化させる操作を「電圧のカット」と呼ぶ。)と、電圧をカットする直前に印加していた電圧値に対応する抵抗値を得ることができる。このときの抵抗値を決定する遷移状態の電圧が、A点に近く設定されているほど、素子の抵抗値は小さくなり、またA点より高い電圧に設定すればするほど、抵抗値は大きくなる(遷移領域における、抵抗値の設定電圧依存性は、後述の5.実施例の図14においてさらに説明する。)。ここで遷移領域のB点は、電圧をカットした後の、抵抗の小さい状態(以下、「ON状態」という。)と、抵抗の大きい状態(以下、「OFF状態」という。)との中間の状態を得られる点をあらわしている。そして、遷移領域の低電圧側の端、すなわちA点付近の電圧をしきい値電圧と呼ぶ。ここでしきい値をA点付近の値と定義しているのは、動作電圧や測定環境などによって、遷移領域の中で最小の素子抵抗を得られる電圧であるしきい値が、図7のA点と必ずしも一致せず、場合によっては多少ずれてしまうためである。
【0043】
次にスイッチング素子100の動作方法の例を説明する。まず、図8のIのような矩形のパルスを印加し、瞬時に電圧を遮断した状態Jとする。矩形パルスIの印加電圧は、図7における遷移領域内のB点より高電圧側の位置Cに相当する。矩形パルス幅は、1ns以上であることが望ましい。続いて電圧を0付近にカットした状態が図8のJ領域であり、図7における0点付近に相当する。ここで、図7に測定電圧として示した微小電圧を印加すると、電流は、図7の曲線Dには乗らず、きわめて小さい電流値を示すことになる。すなわち、OFF状態が得られる。次いで、図8のKに示すような矩形パルスを印加し、電圧をカットした状態Lとする。矩形パルスKの印加電圧は、図7における遷移領域におけるB点から低電圧側、しきい値電圧付近の領域の電圧に相当する。矩形パルスKのパルス幅は、100ns以上であることが望ましい。L領域において微小電圧を印加し、そのときの電流値を測定すると、今度は図7の曲線Dに乗り、電流が流れることになる。すなわちON状態が得られる。スイッチング動作は、このような電圧カット前の電圧印加の履歴により、素子のONおよびOFFを任意に設定できることによって可能である。
【0044】
ここで、ON状態を得る方法においては、しきい値電圧付近に滞在する期間が重要である。すなわちしきい値電圧付近に滞在する期間は、100ns以上が望ましい。この滞在する期間の条件が満たされていれば、ON状態を得るために、図8におけるNのような三角波を矩形波Kの変わりに用いることが可能である。ここで三角波Nは、しきい値電圧付近を通過させるために、しきい値よりも高い電圧に頂点を有する必要がある。このときしきい値よりも高い電圧領域に滞在する期間は図8における三角波Nの傾きQによって調整する。しきい値電圧付近に滞在する期間が100ns以上となるように傾きQを調整すればON状態が得られる。そして逆に、この三角波において滞在する期間が非常に短いとき、(このときしきい値付近に滞在する時間は100ns以下が望ましい)すなわち図8における三角波Mを印加すると、素子はOFF状態となる。このように、OFF状態を得る場合にも矩形波Iに変わって三角波Mを用いることが可能である。三角波Mの頂点の値は、矩形波Iの場合と同様に図7のC点に設定する。この三角波Mにおいても、しきい値付近に滞在する期間は、図8における三角波MのP領域の傾きによって調整する。
【0045】
さらに、スイッチング素子100の駆動方法は、以上に述べたような矩形波や三角波のほかにも種々のシーケンスを利用することが出来る。
【0046】
5.実施例
絶縁性基板10は、厚さ300nmの酸化シリコン層で被覆されたシリコン基板を用いた。第1のレジストパターンの厚みは、1μmとした。第1電極下部22の水平方向の幅W1は、100μmとなるように第1のレジストパターンを形成した。第1電極下部22は、絶縁性基板10と接触する部分に2nm厚みのクロムを蒸着し、次いで金を蒸着し、合計の厚みが25nmとなるようにした。第1の蒸着工程の傾斜蒸着時の角度θ1は、75°とした。第2のレジストパターンの厚みは、1μmとした。第2電極30の水平方向の幅W2は、2μmとなるように第2のレジストパターンを形成した。第2電極30は、絶縁性基板10と接触する部分に2nm厚みのクロムを蒸着し、そのあと金を蒸着し、合計の厚みが15nmとなるようにした。したがって、第1電極20の全体の厚みは、約40nmとなった。第2の蒸着工程の傾斜蒸着時の角度θ2は、60°とした。次いで、第2のリフトオフ工程をおこなった。前記の状態でスイッチング素子100は、第1電極20と第2電極30が短絡しているものを含んでいたため、電界破断工程を実施し、短絡部の除去をおこなった。電界破断の条件は、付加電圧は、1V、抵抗Rc値は、100Ωとし、可変抵抗Rvを100kΩから0Ωへ向かって、徐々に下げ、電流量を徐々に増加させた。電界破断を起こした時の、電流量は約4mAであった。以上のようにしてスイッチング素子100を得た。得られたスイッチング素子100は、真空チャンバー内に設置した。このときの真空チャンバー内の圧力は、10−5Pa台であった。
【0047】
本実施例のスイッチング素子100を走査型電子顕微鏡にて観察した結果を、図9に示す。走査型電子顕微鏡、日立製作所製S−4300を用いて、加速電圧15kVにて撮影した。加熱ステージを用い、走査速度を大きくしているため、分解能は5nm程度である。図9は、第1電極20の一部(上)、第2電極30の一部(下)および電極間間隙40の一部(写真中央横方向の暗部)が撮影されたものである。図9に見られるように、電極間間隙40には第1および第2電極が接近した部分が複数観察された。下向きの太い矢印は、電極が接近している部分を示し、その矢印の左側に読み取るための補助線として間隙の幅を示す2本の線を描いた。各間隙の幅を計測したところ、観察した領域における第1電極20と第2電極30の間の距離Gは、約8nmであることがわかった。スイッチング素子100の2つの電極間の近接部位は、観察した領域以外にも存在することが予想される。近接部位がさらに小さい距離の場合は、顕微鏡の分解能が不足するため、計測不可能である。そこで、得られている抵抗値から2つの電極間の最近接部位の距離を予想した。2つの電極間の電気抵抗値は、素子がON状態において、約60kΩであったことから、トンネル効果から計算したところ、少なくとも0.1nm以上であることがわかった。
【0048】
図10は、素子特性の評価をおこなった回路の模式図である。前記評価回路は、真空チャンバー内において、マイクロプローバー装置を用い、前記スイッチング素子100を接続して形成した。図11は、本実施形態のスイッチング素子100のI−V特性を図10に示した回路にて測定した結果を示すグラフである。図11のグラフの横軸は、回路電圧から、固定抵抗Rmの両端の電圧を差し引いた、スイッチング素子100に印加される正味の電圧を示す。図10の縦軸は、各電圧印加時に流れる電流を電流計にて測定した値を示す。図11におけるI−V特性の測定は、印加電圧を、測定開始時において0Vとし、その後、+0.2V/sの掃引(スイープ)速度で、+15Vまで掃引し、次いで、−0.2V/s掃引速度で、−15Vまで掃引し、さらに、+0.2V/sの掃引速度で+15Vまで掃引し、このサイクルを繰り返した。図11は、前述の図7に対応するものである。
【0049】
図11をみると、本実施形態のスイッチング素子100のI−Vカーブは、印加電圧が+4Vおよび−4Vであるとき、電流の絶対値が最大を示している。+4Vよりも大きい電圧のとき、電流の絶対値は、急激に低下し、−4Vよりも小さい電圧のとき、電流の絶対値は、急激に低下した。この現象を利用して、4.スイッチング動作の項目で述べたように、スイッチング動作をおこなった。すなわち、電圧の絶対値が4V付近をしきい値電圧とした(図7におけるA、B、EおよびF付近に相当)。
【0050】
図12は、本実施例の電圧シーケンスの模式図である。本実施例ではOFF状態に変化させるためのパルスの電圧は、+10Vとし、ON状態に変化させる三角波は+9Vから+3Vへと掃引し、+3Vで電圧をカットした三角波とした。図12に示すように、最初に+10V、100msの矩形パルスIを印加し、次の約24秒間、J領域において測定電圧+0.2Vで抵抗値を測定した。次に図12の領域Kで示すように、+9Vから+3Vまで1秒かけて電圧を掃引しカットした。次の約24秒間、L領域において測定電圧+0.2Vで抵抗値を測定した。この一連の測定を1サイクルとし、抵抗測定を1000サイクルおこなった。
【0051】
本実施例の抵抗測定結果の一部を、図13に示した。図13は、横軸に経過時間、縦軸に+0.2V電圧印加時の抵抗値を示す。図13に示すとおり、本実施形態のスイッチング素子100は、繰り返しON、OFF動作をおこなう場合において、ON状態およびOFF状態における抵抗値が試験開始時から、ほとんど変化しない。また、1000サイクル測定をおこなった後でも、ON状態およびOFF状態における抵抗値が試験開始時から、ほとんど変化しなかった。すなわち、スイッチング素子100の第1電極20と第2電極30の間の抵抗値は、ONの状態では、10kΩ〜200kΩであり、OFFの状態では、100MΩ〜10GΩであった。
【0052】
このことは、スイッチング素子100が、外部からの電圧入力に応じて、ON、OFF状態を自由に採り得ることを示している。また、電圧パルスを与えた後は、電圧を印加しなくても、素子のONまたはOFF状態を維持できるため、スイッチング素子100は、不揮発性を有するスイッチング素子であることがわかる。
【0053】
図14は、横軸にOFF状態にするためのパルスの電圧を、縦軸に該パルス直後のスイッチング素子100の、両端間の抵抗値をプロットしたグラフである。図12を用いて説明すると、図14は、最初の100msの矩形パルスIの電圧を横軸に、その後のJ領域で測定される抵抗を縦軸にとり、この測定を繰り返したときのグラフである。図14をみると、パルスの電圧が+5V付近より大きくなると、抵抗値は1MΩを超え、OFF状態が達成されていることが分かる。さらにパルスの電圧を大きくし、+10V付近を超えると、抵抗値は、1GΩを超え、さらにパルスの電圧が+13V付近を超えると、抵抗値は1TΩを超えている。すなわち、スイッチング素子100は、OFF状態にするためのパルスの電圧の大きさに従って、任意にOFF時の抵抗値を設定できるスイッチング素子であることが分かる。これに加えてさらにON状態は+4V付近で得ることができるため、スイッチング素子100は、少なくとも4段階の抵抗状態を任意に得ることができる。すなわち、スイッチング素子がONの状態では、1kΩ〜1MΩであり、前記スイッチング素子がOFFの状態では、1MΩ〜100TΩとすることができる。また、たとえば、ナノギャップ電極を用いたスイッチング素子は、ON状態では数KΩ〜100KΩであり、OFF状態では、数100KΩ〜数GΩであるものとすることができる。これらの抵抗値の状態から任意に2つの状態を選べば、相対的に小さい抵抗値と、大きい抵抗値とを生成可能な素子としても利用できることが分かる。
【0054】
以上説明したとおり、本実施形態にかかるスイッチング素子100は、有機分子、ナノ粒子などの、成分を用いない、極めて単純なスイッチング素子である。そのうえ、スイッチング素子100は、スイッチング動作をきわめて安定に繰り返すことが可能である。すなわち、本実施形態のスイッチング素子100は、構造が極めて単純で、かつ、安定した繰り返しスイッチング動作が可能な不揮発性スイッチング素子である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施形態にかかるスイッチング素子100の要部を模式的に示す断面図。
【図2】本発明の実施形態にかかるスイッチング素子100の要部の拡大を模式的に示す断面図。
【図3】本発明の実施形態にかかるスイッチング素子100を模式的に示す平面図。
【図4】本発明の実施形態にかかるスイッチング素子100に封止部材を設け、スイッチングデバイス1000とした例を示す模式図。
【図5】本発明の実施形態にかかるスイッチング素子100の製造工程における第1の蒸着工程を模式的に示す断面図。
【図6】本発明の実施形態にかかるスイッチング素子100の製造工程における電界破断工程に用いる回路を模式的に示す回路図。
【図7】ナノギャップ電極を有するスイッチング素子の電流−電圧曲線の一例を示す模式図。
【図8】ナノギャップ電極を有するスイッチング素子を動作するための電圧シーケンスの一例を示す模式図。
【図9】本発明の実施形態にかかるスイッチング素子100の電極間間隙40の走査型電子顕微鏡観察結果。
【図10】本発明の実施形態にかかるスイッチング素子100の動作確認および抵抗測定をおこなう回路を模式的に示す回路図。
【図11】本発明の実施形態にかかるスイッチング素子100の電流−電圧特性の測定結果を示すプロット。
【図12】本発明の実施形態にかかるスイッチング素子100の繰り返しスイッチング動作をおこなうための電圧シーケンスを示す模式図。
【図13】本発明の実施形態にかかるスイッチング素子100の繰り返しスイッチング動作をおこなったときの抵抗値のプロット。
【図14】本発明の実施形態にかかるスイッチング素子100における、OFFパルスの電圧に対するOFF状態の抵抗値のプロット。
【符号の説明】
【0056】
10 絶縁性基板、20 第1電極、22 第1電極下部、22a 犠牲電極、24 第1電極上部、30 第2電極、40 電極間間隙、50 封止部材、60 レジストパターン、100 スイッチング素子、1000 スイッチングデバイス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性基板と、
前記絶縁性基板の上に設けられた、第1電極と、
前記絶縁性基板の上に設けられた、第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に設けられ、前記第1電極と前記第2電極との間の距離Gが、0nm<G≦50nmである電極間間隙と、
を含む、スイッチング素子。
【請求項2】
請求項1において、
前記電極間間隙は、
前記第1電極と前記第2電極との間の距離Gが、0.1nm≦G≦20nmである、スイッチング素子。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
さらに、少なくとも前記電極間間隙を内包する封止部材を有する、スイッチング素子。
【請求項4】
請求項3において、
前記封止部材の内部は、圧力が、2×10Pa以下である、スイッチング素子。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかにおいて、
前記第1電極の材質は、金、銀、白金、パラジウム、ニッケル、アルミニウム、コバルト、クロム、ロジウム、銅、タングステン、タンタル、カーボンおよび、それらの合金、から選ばれる少なくとも1種である、スイッチング素子。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかにおいて、
前記第2電極の材質は、金、銀、白金、パラジウム、ニッケル、アルミニウム、コバルト、クロム、ロジウム、銅、タングステン、タンタル、カーボンおよび、それらの合金、から選ばれる少なくとも1種である、スイッチング素子。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかにおいて、
前記第1電極および前記第2電極の少なくとも一方は、多層構造である、スイッチング素子。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれかにおいて、
前記第1電極と前記第2電極との間の電気抵抗値は、
前記スイッチング素子がONの状態では、1KΩ〜1MΩであり、
前記スイッチング素子がOFFの状態では、1MΩ〜100TΩである、スイッチング素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図9】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−123828(P2007−123828A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−189380(P2006−189380)
【出願日】平成18年7月10日(2006.7.10)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(505303059)株式会社船井電機新応用技術研究所 (108)
【Fターム(参考)】