説明

スキルプシンB含有組成物及びスキルプシンB含有組成物の製造方法

【課題】天然物由来の組成物であってスキルプシンBを高含有で含有するスキルプシンB含有組成物並びにそのスキルプシンB含有組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】スキルプシンBを0.2〜99.9質量%の含有量で含むスキルプシンB含有組成物をパッションフルーツ種子から抽出して得る。また、そのスキルプシンBを抽出する際、パッションフルーツ種子を粉砕した後、含水アルコール系溶媒及び含水ケトン系溶媒から選ばれた少なくとも1種を添加して、振とうあるいは加熱還流し、前記溶媒中にスキルプシンBを抽出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パッションフルーツ種子由来のスキルプシンBを含有するスキルプシンB含有組成物及びスキルプシンB含有組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パッションフルーツは、パッシフローラ属トケイソウ科の植物であり、別名:クダモノトケイソウ(果物時計草)とよばれ、その実は甘酸っぱく果物として実をそのまま食したり、その果汁をジュースにして飲んだり、ゼリー、ケーキ等の飲食品に配合して、風味付けに用いられたりされている。パッションフルーツの種子は硬く、ジュースなどにする場合には果実から取り除かれ、果実を種ごと飲食した場合であってもその外皮は硬く消化を受けにくいのでそのまま排泄されてしまう。
【0003】
従来、パッションフルーツ種子は利用する用途もなく廃棄していたが、本出願人らは、パッションフルーツの種子抽出物を、メラニン生成抑制のための有効成分や、コラーゲンの産生を促進するための有効成分として、有効利用できることを報告した(特許文献1、2)。そしてその有効成分がポリフェノール類化合物であるピセアタンノール(Piceatannol)であることを報告した(特許文献3)。
【0004】
一方、ピセアタンノールの2量体であるスキルプシンB(Scirpusin B)については、それが抗HIV活性を有することや(非特許文献1)、スーパーオキシドアニオン除去活性を有することや(非特許文献2)、α−アミラーゼ活性阻害活性を有することや(非特許文献3)、キサンチンオキシダーゼ阻害活性を有すること(非特許文献4)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−102298号公報
【特許文献2】特開2009−102299号公報
【特許文献3】特開2010−30911号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Guo-xun Yang, Jin-tao Zhou, Ya-zun Li, and Chang-qi Hu「Anti-HIV Bioactive stilbene dimers of Caragana rosea.」 Planta. Med. 71 (2005), p569-571.
【非特許文献2】Ting Xiang, Toshio Uno, Fumino Ogino, Cuoqian Ai, Jie Duo, and Ushio Sankawa「Antioxidant constituents of Caragana tibetica.」 Chem. Pharm. Bull. 53 (9) (2005), p1204-1206.
【非特許文献3】Kyoko Kobayashi, Tamaki Ishihara, Eriko Khono, Toshio Miyase, and Fumihiko Yoshizaki「Constituents of stem bark of Callistemon rigidus showing inhibitory effects on mouse α-amylase activity.」 Bioi. Pharm. Bull, 29 (6), (2006) p1275-1277.
【非特許文献4】G. Schmeda-Hirschmann, M.I.Gutierrez, J.I.Loyola, and J.Zuniga「Biological activity and xanthine oxidase inhibitors from Scirpus californicus (C. A. Mey.) Steud.」 Phytotherapy Research, 10, (1996) p683-685.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
食品安全に関する一般的観念からは、機能性食品や健康食品などの飲食品に配合されるスキルプシンBは、天然物由来のものであることが好ましい。しかしながら、従来知られていたスキルプシンBを含む天然物は、その含有量が少なく、非常に低含有のスキルプシンB組成物しか得られなかった。
【0008】
したがって、本発明の目的は、天然物由来の組成物であってスキルプシンBを高含有で含有するスキルプシンB含有組成物、並びにその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究した結果、従来、利用する用途もなく廃棄していたパッションフルーツ種子に、スキルプシンBが豊富に含まれていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明のスキルプシンB含有組成物は、パッションフルーツ種子から得られ、スキルプシンBを0.2〜99.9質量%の含有量で含むことを特徴とする。
【0011】
本発明のスキルプシンB含有組成物によれば、スキルプシンBを高含有で含有する、天然物由来の組成物を提供することができる。そして天然物由来の組成物であるので、化粧品や医薬品、更には機能性食品や健康食品などの飲食品に配合するのにも適している。
【0012】
一方、本発明のスキルプシンB含有組成物の製造方法は、パッションフルーツ種子を粉砕した後、含水アルコール系溶媒及び含水ケトン系溶媒から選ばれた少なくとも1種を添加して、振とうあるいは加熱還流し、前記溶媒中にスキルプシンBを抽出することを特徴とする。
【0013】
本発明のスキルプシンB含有組成物の製造方法によれば、パッションフルーツ種子を粉砕した後、含水アルコール系溶媒及び含水ケトン系溶媒から選ばれた少なくとも1種を添加して、振とうあるいは加熱還流して、前記溶媒中にスキルプシンBを抽出するので、天然物由来の組成物であってスキルプシンBを高含有で含有するものを、収率よく製造することができる。
【0014】
本発明のスキルプシンB含有組成物の製造方法においては、前記パッションフルーツ種子は、パッションフルーツの生の種子又はパッションフルーツの生の種子を乾燥した種子であることが好ましい。
【0015】
また、本発明のスキルプシンB含有組成物の製造方法においては、前記含水アルコール系溶媒が含水エタノールであり、又は前記含水ケトン系溶媒が含水アセトンであることが好ましい。これによれば、スキルプシンBの抽出効率がより良い。
【0016】
また、本発明のスキルプシンB含有組成物の製造方法においては、抽出後、溶媒を減圧留去することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のスキルプシンB含有組成物によれば、スキルプシンBを高含有で含有する、天然物由来の組成物を提供することができる。そして天然物由来の組成物であるので、化粧品や医薬品、更には機能性食品や健康食品などの飲食品に配合するのにも適している。一方、本発明のスキルプシンB含有組成物の製造方法によれば、パッションフルーツ種子を粉砕した後、含水アルコール系溶媒及び含水ケトン系溶媒から選ばれた少なくとも1種を添加して、振とうあるいは加熱還流して、前記溶媒中にスキルプシンBを抽出するので、天然物由来の組成物であってスキルプシンBを高含有で含有するものを、収率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】パッションフルーツ種子からのスキルプシンBの定量分析用HPLCクロマトグラムを示す図である。
【図2】パッションフルーツ種子からのスキルプシンBのマススペクトルを示す図である。
【図3】パッションフルーツ種子からの抽出物の分画用HPLCクロマトグラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のスキルプシンB含有組成物は、パッションフルーツ種子から得られた組成物であって、スキルプシンBを0.2〜99.9質量%の含有量で含有する。その形状は液状、固形状、半固形状、ゲル状などであってよく、そのスキルプシンBの固形分換算含有量としては、0.2〜99.9質量%であることが好ましく、40〜99.9質量%であることが更に好ましく、85〜99.9質量%であることが最も好ましい。
【0020】
スキルプシンB(Scirpusin B)は、下記化学式(1)で表される。
【0021】
【化1】

【0022】
パッションフルーツは、パッシフローラ属トケイソウ科の植物であり、別名:クダモノトケイソウ(果物時計草)とよばれ、その実は甘酸っぱく果物として実をそのまま食したり、その果汁をジュースにして飲んだり、ゼリー、ケーキ等の飲食品に配合して、風味付けに用いられたりされている。パッションフルーツの種子は硬く、ジュースなどにする場合には果実から取り除かれ、果実を種ごと飲食した場合であってもその外皮は硬く消化を受けにくいのでそのまま排泄されてしまう。本発明は、従来、利用する用途もなく廃棄していたパッションフルーツ種子に、スキルプシンBが豊富に含まれていることを見出したことに基づく発明である。なお、本発明に用いられる、パッションフルーツ種子は、従来からのパッションフルーツの食経験からも裏付けられるように、機能性食品や健康食品などの飲食品に配合しても、その安全性には問題がないものである。
【0023】
本発明のスキルプシンB含有組成物は、好ましくは例えば、生のままの、又は乾燥させたパッションフルーツ種子を粉砕し、種々の溶媒を用いて抽出する方法により得ることができる。そのパッションフルーツ種子には、抽出効率をよくするため、適宜、酸又はアルカリ分解、酵素分解等の化学的処理を施して、それから抽出してもよい。更に、下記に説明する本発明のスキルプシンB含有組成物の製造方法によれば、スキルプシンBを高含有に含有する組成物を特に収率よく得られるので、その方法により得ることが最も好ましい。
【0024】
以下に、本発明のスキルプシンB含有組成物の製造方法について説明する。
【0025】
本発明のスキルプシンB含有組成物の製造方法においては、まず、パッションフルーツ種子を粉砕する。パッションフルーツ種子は、生のままの、又は乾燥させたパッションフルーツ種子を用いてもよく、抽出効率をよくするため、適宜、酸又はアルカリ分解、酵素分解等の化学的処理を施して、それから抽出してもよい。粉砕は、周知の粉砕機を用いて行うことができる。なお、パッションフルーツ種子には油分が多いため粉砕後にはペースト状になることがある。
【0026】
次に、粉砕したパッションフルーツ種子に含水アルコール系溶媒を及び含水ケトン系溶媒から選ばれた少なくとも1種を添加して、振とうあるいは加熱還流し、その溶媒中にスキルプシンBを抽出する。
【0027】
含水アルコール系溶媒としては、エタノール、メタノール、プロパノール等の含水溶媒を用いることができ、特に、含水エタノールが好ましい。また、含水ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、クロロアセトン等の含水溶媒を用いることができ、特に、含水アセトンが好ましい。
【0028】
その含水率としては、含水エタノールの場合には、エタノールを20〜99.9体積%含むものであることが好ましく、40〜99.9体積%含むものであることが更に好ましく、60〜80体積%含むものであることが最も好ましい。含水アセトンの場合には、アセトンを20〜99.9体積%含むものであることが好ましく、40〜99.9体積%含むものであることが更に好ましく、60〜80体積%含むものであることが最も好ましい。上記範囲を外れると、スキルプシンBの抽出効率が悪くなる傾向にあるので、好ましくない。なお、以下、含水溶媒の含水率の表記については、簡便化のため、例えば、20体積%で含水させた80体積%エタノールのことを「80%含水エタノール」と表記する。また、例えば、30体積%で含水させた70体積%エタノールのことを「70%含水エタノール」と表記する。更に、例えば、30体積%で含水させた70体積%アセトンのことを「70%含水アセトン」と表記する。
【0029】
本発明のスキルプシンB含有組成物の製造方法において、その振とうは、周知の振とう装置を用いて行うことができる。その温度条件は15〜40℃程度、振とう時間は0.5〜3時間程度であることが好ましい。また、この振とうを、超音波振動をともなう振とうによって行うこともできる。これによれば、粉砕され上記各溶媒に接したパッションフルーツ種子に、有効に振動が与えられるので、パッションフルーツ種子からの上記各溶媒中へのスキルプシンBの抽出効率を高めることができる。その超音波振動をともなう振とうは周知の超音波装置などによって付与することができる。
【0030】
本発明のスキルプシンB含有組成物の製造方法において、その加熱還流は、上記含水アルコール系溶媒又は含水ケトン系溶媒を用いて、周知の方法で行うことができる。その加熱温度は60〜95℃程度、還流時間は1〜2時間程度であることが好ましい。
【0031】
また、本発明のスキルプシンB含有組成物の製造方法においては、抽出後、上記溶媒を減圧留去することが好ましい。これによれば、有機溶媒を含まない組成物とすることができ、機能性食品や健康食品などの飲食品に配合するための食品素材として、その安全性の基準等に適合させることが可能である。
【0032】
本発明のスキルプシンB含有組成物の製造方法においては、複数の溶媒で段階的な抽出を行うことができる。これにより、スキルプシンBを高含有に含有するスキルプシンB含有組成物を、より収率よく製造することができる。
【0033】
具体的には、例えば、パッションフルーツ種子を粉砕した後、上記含水アルコール系溶媒及び上記含水ケトン系溶媒のいずれか一方を添加し、振とうあるいは加熱還流して、その溶媒中にスキルプシンBを抽出して第1抽出物を得る。遠心等により抽出物とその抽出物として回収されなかった残渣に分離し、その残渣に、上記溶媒のうち選択しなかった他方を添加して、振とうあるいは加熱還流して、その溶媒中にスキルプシンBを抽出して第2抽出物を得る。そして、前記第1抽出物と第2抽出物とを混合する。なお、この第2抽出物の単独でもパッションフルーツ種子の抽出物として利用可能であることはいうまでもない。
【0034】
このように、複数の溶媒で段階的な抽出を行うことにより、パッションフルーツ種子が、上記含水アルコール系溶媒又は上記含水ケトン系溶媒による第1の抽出処理を受けることによって、その物性等の特性が抽出のために好適なものに変化することが考えられるので、続く第2の抽出処理の際には、上記含水アルコール系溶媒又は上記含水ケトン系溶媒を用いる場合はもとより、それ以外の溶媒を用いる場合であっても、その抽出効率が改善されることが期待できる。
【0035】
上記の方法で得られたパッションフルーツ種子の抽出物は、これを、そのまま又は濃縮して液体状のものをスキルプシンB含有組成物とすることもできる。更に凍結乾燥又は噴霧乾燥により粉末化して粉末状のものをスキルプシンB含有組成物とすることもできる。また、これらの形態に制限されるものでもない。抽出物中に含まれる不溶物は、適宜、濾過などで除くことができる。不溶物はさらに粉砕し、微細粒子状にしてもよい。
【0036】
また、上記のようにして得られるパッションフルーツ種子からの一次的抽出物を、イオン交換、サイズ排除カラムクロマト法、HPLC法、ゲルろ過、膜分離等により、スキルプシンBを指標にして分画、精製して、これをスキルプシンB含有組成物とすることもできる。
【0037】
すなわち、パッションフルーツ種子からのスキルプシンBを下記条件で分析用HPLCにかけたときには、そのスキルプシンBは12.54分付近に溶出される(図1参照、なお、図1中、8.9分付近に溶出される物質はピセアタンノール(Piceatannol)である。)。また、質量分析装置によるマススペクトル測定を行うと、ネガティブイオンモードのシグナルとしてm/z485を呈する(図2参照)。
【0038】
[HPLC条件]
・ カラム:ODS-3 径4.6mm、長さ150mm(ジーエルサイエンス株式会社製)
・ カラム温度:45℃
・ 溶出条件:流速0.75ml/min、15%アセトニトリル(0min)→40%アセトニトリル(20min)→45%アセトニトリル(25min)
・ UV検出:280nm
【0039】
したがって、本発明においては、上記に例示されるような分析手段により、パッションフルーツ種子からのスキルプシンBの存在を確認しながら、適宜分画、精製して、スキルプシンBの含有量の高められた、パッションフルーツ種子由来のスキルプシンB含有組成物を調製することができる。
【0040】
本発明のスキルプシンB含有組成物は、必要に応じて、薬学的に許容される基材や担体を添加して、錠剤、顆粒剤、散剤、液剤、粉末、顆粒、カプセル剤、ゼリー状剤等の形態にして、これを医薬に利用することができる他、軟膏剤、クリーム剤、ジェル、パック、化粧水、化粧料等の形態にして、これを化粧品として利用することができる。
【0041】
また、本発明のスキルプシンB含有組成物は、特定保健用食品、栄養補助食品、機能性食品等に配合して摂取することもできる。このような食品としては、例えば、チョコレート、ビスケット、ガム、キャンディー、クッキー、グミ、打錠菓子等の菓子類;シリアル;粉末飲料、清涼飲料、乳飲料、栄養飲料、炭酸飲料、ゼリー飲料等の飲料;アイスクリーム、シャーベットなどの冷菓が挙げられる。更に、そば、パスタ、うどん、そーめん等の麺類も好ましく例示できる。また、特定保健用食品や栄養補助食品等の場合であれば、粉末、顆粒、カプセル、シロップ、タブレット、糖衣錠等の形態のものであってもよい。
【実施例】
【0042】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0043】
<試験例1>(パッションフルーツからのスキルプシンBの回収・精製・同定)
パッションフルーツ種子を凍結乾燥粉砕させた粉砕物(30〜60メッシュパス)の60gに80%アセトンの200mlを添加し、室温で攪拌して種子抽出液を作製した。これを、ODSカラムを用いたHPLCによって分画した。HPLCによる分画条件は、以下のとおりとした。
・ カラム:ODS-3 径20mm、長さ250mm(ジーエルサイエンス株式会社製)
・ カラム温度:室温
・ 溶出条件:流速5ml/min、10%アセトニトリル(0min)→50%アセトニトリル(70min)→80%アセトニトリル(75min)→80%アセトニトリル(90min)
・ UV検出:280nm
【0044】
図3には、そのHPLCクロマトグラムを示す。その結果、保持時間51分付近に最大のピークが見られた。また、保持時間57分付近に第2のピークが見られた。
【0045】
上記保持時間57分付近に溶出する成分が、どのような物質であるかを以下のように同定した。
【0046】
まず、保持時間57分付近に溶出する画分を分取して、更にHPLCで、純度97%程度になるまで精製した。これを、HPLC/質量分析(アジレントテクノロジー株式会社製、装置名「Agillent 1100 LC/MC System」)ならびにNMR分析を行なった。その結果は以下のとおりであった。
【0047】
ESI:m/z485(M-);
1H NMR(CD30D, 500MHz):δ4.38 (1H,d, J=6.0Hz), δ5.32((1H,d, J=6.0Hz), δ6.19(2H,d, J=2.2Hz), δ6.21(1H,t, J=2.0Hz), δ6.30(1H,d, J=6.0Hz), 6.58(1H,d, J=16.1Hz), 6.62(1H,dd, J=2.2, 8.5Hz) 6.66(1H,d, J=1.9Hz), δ6.68(1H,d, J=7.8Hz), 6.74(1H,d, J=2.2Hz) 6.78(1H,d, J=8.2Hz), 6.81 (1H,d, J=16.4Hz), δ6.80(1H,d, J=1.9Hz) ;
13C NMR: (CD3OD, 125MHz):δ:58.1, 94.8, 96.8, 102.2, 104.4, 107.3x2, 113.6, 114.0, 116.2x2, 116.3, 118.4, 119.8, 120.0, 123.6,δ: 130.9, 131.0, 134.9, 137.0, 146.3, 146.4, 146.5, 146.6, 147.6, 159.8x3, 162.7
【0048】
以上のNMR分析の結果は、下記式(1)で表されるスキルプシンB(Scirpusin B)であることを示していた。
【0049】
【化2】

【0050】
また、上記57分付近に溶出する成分の旋光度測定(日本分光株式会社製、装置名「P-2200旋光計」)の結果は[α]D23:0.0oであり、フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光株式会社製、装置名「FT/IR-6200 Fourier-Transform Infrared Spectrometer」)による赤外吸収スペクトルの結果では、1605cm-1, 1520cm-1, 1445cm-1, 1339cm-1, 1282cm-1, 1197cm-1, 1156cm-1, 1116cm-1, 1002cm-1に吸収ピークがあった。これらの結果も、上記の同定結果と矛盾するものではなかった。なお、「Kyoko Kobayashi et al,; Biol. Pharm. Bull. 29(6), (2006) p1275-1277」にも、スキルプシンBのNMR、旋光度、赤外吸収スペクトル等の分析結果が記載されている。
【0051】
一方、保持時間51分付近に溶出する成分は、別途、下記化学式(2)で表されるピセアタンノール(Piceatannol)であると同定された。
【0052】
【化3】

【0053】
以上から、上記種子抽出物の、上記分画用HPLC分析での57分付近のピークはスキルプシンBのピークであり、パッションフルーツの種子にはスキルプシンBが多く含まれていることが明らかとなった。なお、パッションフルーツの果皮や果肉からはスキルプシンBは検出できなかった。
【0054】
<試験例2>(パッションフルーツ種子からのスキルプシンBの抽出)
パッションフルーツ種子からのスキルプシンBの抽出方法について検討した。具体的には、下記の抽出方法で、スキルプシンBの抽出効率を調べた。
【0055】
(1)含水エタノール及び含水アセトンによる振とう抽出
粉砕した種子の60gに80%含水エタノール200mlを加え、30分間室温にて振とうし、抽出を行い、その上清を回収した。この工程を2回繰り返した。更に、その残渣固形物に80%含水アセトンの200mlを加え、30分間室温にて振とうし、抽出を行い、その上清を回収した。この工程を3回繰り返した。そして回収した上清を集めて得られた抽出液を濃縮し、80%含水エタノールで200mlに定容し、その10μlを分析用HPLCにかけた。そして、あらかじめ高純度に精製したもの(97%)を標準として検量線を作成し、その抽出物に含まれるスキルプシンBの量を定量した。
【0056】
(2)含水エタノールによる加熱還流抽出
粉砕した種子の300gに80%、90%、又は95%の含水エタノール3Lを加え、92℃で90分間加熱還流抽出を行った。そして、得られた抽出液を濃縮し、80%含水エタノールで200mlに定容し、その10μlを分析用HPLCにかけた。そして、あらかじめ作成した検量線により、その抽出物に含まれるスキルプシンBの量を定量した。
【0057】
結果を下記表1にまとめた。なお、この表1では、(A)フリーズドライした種子粉末の100g当たりから抽出されるスキルプシンBの量(mg)、又は(B)抽出液の固形分中のスキルプシンB含量(質量%)に換算して表している。
【0058】
【表1】

【0059】
表1に示されるように、パッションフルーツ種子100g当たり、220mg〜363mgのスキルプシンBが抽出された。各抽出方法における抽出液の固形分中の含有量としては、振とう抽出では、2.5質量%であり、80%含水エタノール加熱還流抽出では、2.1質量%であり、90%含水エタノール加熱還流抽出では、3.2質量%であり、95%含水エタノール加熱還流抽出では、1.9質量%であった。したがって、抽出方法の比較では、90%含水エタノールによる加熱還流抽出により、最も効率よくスキルプシンBが抽出された。また、パッションフルーツ種子に含まれるスキルプシンBの含有量を、最も抽出効率の高い値から換算すると、パッションフルーツ種子は少なくとも0.36質量%程度の高含有量でスキルプシンBを含むことが明らかとなった。そして、それを効率よく抽出できることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パッションフルーツ種子から得られ、スキルプシンBを0.2〜99.9質量%の含有量で含むことを特徴とするスキルプシンB含有組成物。
【請求項2】
パッションフルーツ種子を粉砕した後、含水アルコール系溶媒及び含水ケトン系溶媒から選ばれた少なくとも1種を添加して、振とうあるいは加熱還流し、前記溶媒中にスキルプシンBを抽出することを特徴とするスキルプシンB含有組成物の製造方法。
【請求項3】
前記パッションフルーツ種子は、パッションフルーツの生の種子又はパッションフルーツの生の種子を乾燥した種子である請求項2記載のスキルプシンB含有組成物の製造方法。
【請求項4】
前記含水アルコール系溶媒が含水エタノールであり、又は前記含水ケトン系溶媒が含水アセトンである請求項2又は3記載のスキルプシンB含有組成物の製造方法。
【請求項5】
抽出後、溶媒を減圧留去する請求項2〜4のいずれか1つに記載のスキルプシンB含有組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−195489(P2011−195489A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63027(P2010−63027)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000006116)森永製菓株式会社 (130)
【Fターム(参考)】