スタンパの製造方法、レジストマスタ、スタンパおよび成形品
【課題】スタンパ製造時における微細パターンの局所的な変形を防止することであって、最終的に得られる成形品における微細パターンを当初の狙い通りに形成すること。
【解決手段】(i)スタンパの微細パターンAの反転形状に相当する微細パターンBが形成されたレジストマスタを用意する工程、および、(ii)レジストマスタを母型とした電鋳を実施することによって、微細パターンAが形成されたスタンパを得る工程
を含んで成り、工程(i)で用意されるレジストマスタの微細パターン形成面においては、微細パターンBを中心とした放射線に沿うように凹部パターンを形成しておき、工程(ii)においては、電鋳に際して生じ得る応力を凹部パターンにより緩和することを特徴とするスタンパの製造方法。
【解決手段】(i)スタンパの微細パターンAの反転形状に相当する微細パターンBが形成されたレジストマスタを用意する工程、および、(ii)レジストマスタを母型とした電鋳を実施することによって、微細パターンAが形成されたスタンパを得る工程
を含んで成り、工程(i)で用意されるレジストマスタの微細パターン形成面においては、微細パターンBを中心とした放射線に沿うように凹部パターンを形成しておき、工程(ii)においては、電鋳に際して生じ得る応力を凹部パターンにより緩和することを特徴とするスタンパの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタンパの製造方法、レジストマスタ、スタンパおよび成形品に関する。より詳細には、本発明は、“微細構造を備えたスタンパ”の製造方法、および、かかるスタンパ製造方法で用いるレジストマスタに関すると共に、そのレジストマスタから得られるスタンパおよび成形品にも関する。
【背景技術】
【0002】
ミクロンオーダー以下の微細構造の作製は、一般的に、MEMS(Micro Electro Mechanical System)やμ-TAS(Micro Total Analysis System)などの幅広い分野で行われており、機械加工やフォトリソグラフィーなどの技術が応用されている。
【0003】
近年、このような微細構造作製技術は、化学、メディカルサイエンスやバイオサイエンスの分野においても適用されており、作製された微細構造体は、物質もしくは細胞などの分離、固定化、分析、抽出、精製または反応などの各種処理に好適に用いられている。そのような微細構造体は、一般的に、平板状(もしくはチップ状)の形態あるいはこれらを積層して成る形態を有しており、例えば、ウェルプレート、マイクロタイタープレート等の他、マイクロ化学チップ、バイオチップ、DNA(deoxyribonucleic acid)チップ、マイクロアレイチップ等と称されている。
【0004】
例えば、DNA解析に用いることができるマイクロアレイチップを例にとると、大量の情報を一度に処理・解析を行うためにチップ上に数千個〜数十万個という多くの“窪み”ないしは“凹部”を作製する必要がある。かかる“窪み”または“凹部”はウェルと一般に呼ばれるものであり、マイクロビーズや液体(反応液)などを収容することができる(例えば、ウェルの容積を一定にすると、規定容量の反応液をウェルに溜めることができる)。
【0005】
メディカルサイエンスやバイオサイエンスの分野では、このようなウェルを多数設ける必要があるので、1つ1つ機械加工するよりも、フォトリソグラフィーを用いて一括露光によって作製することが適している。つまり、フォトリソグラフィーを用いてレジストマスタを作製して、それからスタンパを作製し、次いで、そのスタンパを金型として用いた射出成形やホットエンボスなどの転写技術を適用することによって、微細構造体を一括して作製する。
【0006】
ここで、金型ないしは鋳型となるスタンパの作製に際しては、電気めっきが通常実施される。この電気めっきは、防食や装飾に用いられるめっきとは異なり、めっき処理の後、被めっき物からめっき膜を剥がして、それをスタンパとして利用するものであって、“電鋳”と称されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】住友ベークライト株式会社の製品情報(製品名:培養用マルチプレート)[online]、[平成21年12月15日検索]、インターネット〈URL:http://www.sumibe.co.jp/sumilon/plate.html〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願発明者らは、微細構造体用スタンパの製造につき鋭意検討した結果、電鋳プロセスにおいては“微細構造”に特有の問題があることを見出した。具体的には、微細構造を特徴付ける微細パターンの外周縁近傍において微細パターン形状が変形してしまう現象を見出した(特に、微細パターンが列状またはアレイ状に形成されている場合では、外周縁近傍の数列のみが局所的に変形してしまう)。
【0009】
このような変形は、あくまでも微細パターン領域の外周縁にのみ生じるものであり、めっき面の鏡面部分には“盛り上がり”や“ヒビ”などの欠陥が見られず、また、微細パターンの内部領域にもパターン変形は見られない(図14参照)。
【0010】
かかる変形現象は微細パターン領域の外周縁のみで発生するため、そのような局所的な変形が生じたスタンパから得られるプレート状成形品(例えば、微細構造として複数のウェル列が形成されたウェルプレート)については、SEM等で形状を確認後、「外周縁から2列目あるいは3列目程度までは使用できない」との注釈をつけて使用することも考えられる。しかしながら、目的とする形状を正確に把握しておかないと、“変形”に起因してマイクロビーズがウェルに入るか否かが把握できなかったり、実使用環境下での状況が少しも分からないといった不都合が生じる。また、このような現象がテンポラリーに発生すると、個々のスタンパ間で精度や使用できるウェルの数に差が生じてしまうことになる。更には、どの程度の変形までを不良とし、何列目までの変形を許容するかなど、“良品箇所”と“不良箇所”との判別が困難となる状況を招いてしまう。つまり、これらを換言すれば、高精度な分析を実現するには、プレート状成形品において所望とするウェルを当初の狙い通りに変形なく正確に形成し、そのウェル数などを正確に把握しておく必要があるといえる。
【0011】
本発明はかかる事情に鑑みて為されたものである。即ち、本発明の課題は、スタンパ製造時における微細パターンの局所的な変形を防止することであり、ひいては、最終的に得られる成形品の微細パターンを当初の狙い通りに形成することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明は、スタンパを製造するための方法であって、
(i)スタンパの微細パターンAの反転形状に相当する微細パターンBが形成されたレジストマスタを用意する工程、および
(ii)レジストマスタを母型とした電鋳を実施することによって、微細パターンAが形成されたスタンパを得る工程
を含んで成り、
工程(i)で用意されるレジストマスタの微細パターン形成面においては、微細パターンBを中心とした放射線に沿うように凹部パターンを形成しておき、
工程(ii)においては、電鋳に際して生じ得る応力を上記凹部パターンにより緩和することを特徴とする、スタンパ製造方法が提供される。
【0013】
本発明の特徴の1つは、電鋳プロセスの母型として用いられるレジストマスタとして、『微細パターンを中心として外側に広がるように凹部パターンが形成されたマスタ』を用いることである。つまり、本発明では、スタンパ製造の電鋳プロセスにおいて「微細パターン形成面に微細パターンBを中心とした放射線に沿って凹部パターンが形成されて成るレジストマスタ」を用いる。これにより、電鋳に際して微細パターンBおよび/またはそこに形成されるめっき膜に生じ得る“応力”を凹部パターンによって効果的に緩和することができる。尚、「微細パターンBを中心とした放射線」とは、例えば、図1(a)および(b)に示すように、微細パターンの領域を中心として外側へと広がる仮想的な線を実質的に意味している。また、「応力」とは、電鋳プロセス中にて微細パターンBおよび/またはめっき膜が受け得るあらゆる力を意味しており、特に微細パターンBの外周縁領域にて微細パターンBおよび/またはめっき膜が受ける力を意味している。
【0014】
本明細書において用いる「レジストマスタ」は、いわゆる“レジスト原盤”と呼ばれるものである。特に、本発明における「レジストマスタ」は、一般にメディカルサイエンス分野やバイオ分野において分離、固定化、分析、抽出、精製、反応または混合などの各種処理を行う際に用いられる“複数の窪みまたは凹部を備えたプレート状成形品”の成形用スタンパ(≒金型)を製造するための原盤を意味している。
【0015】
本発明において、「微細パターン」とは、微細な凹凸形状から形成されて成るパターンを意味しており、その微細な凹凸形状を構成する“微細凹部(もしくは微細な窪み)”または“微細凸部(もしくは微細な隆起部)”の寸法(幅・高さ・深さなどの寸法)が、ミクロンメートル〜ミリメートルのオーダー(1μm〜10mm程度)であるものを実質的に意味している。尚、レジストマスタから最終的に得られるプレート状成形品の種類に応じて、レジストマスタの微細パターンBを構成する“微細な窪み”(即ち、“微細凹部”)の形態が一般に異なり得る。例えば、プレート状成形品がウェルプレートなどに相当する場合では、“微細な窪み”または“微細凹部”はウェル形状を有することが多い一方、プレート状成形品がマイクロ化学チップなどに相当する場合では、“微細な窪み”または“微細凹部”はチャンネル形状(溝形状)や流路形状を有することが多い。従って、レジストマスタについて言えば、微細パターンBを構成するウェル形状窪みの開口面の径・深さやチャンネル形状窪みのチャンネル幅・深さなどがミクロンメートル〜ミリメートルのオーダー(1μm〜10mm程度)となっている場合が多い。
【0016】
本発明の製造方法の好適な態様では、レジストマスタの凹部パターンにつき、その深さ寸法が上記放射線(即ち、“微細パターンBを中心とした放射線”)の外側に向かうにつれ漸次小さくなっている。かかる場合、レジストマスタから最終的に得られる成形品では、レジストマスタの凹部パターンに起因して形成された放射線状凹部パターンを“ガイド”として好適に用いることができる。
【0017】
本発明では、上述したスタンパ製造方法で使用されるレジストマスタも提供される。かかるレジストマスタは、
スタンパの微細パターンAの反転形状に相当する微細パターンBが形成されており、そのレジストマスタの微細パターン形成面においては、微細パターンBを中心とした放射線に沿うように凹部パターンが形成されている特徴を有している。
【0018】
かかるレジストマスタでは、微細パターンが形成された領域と形成されていない領域の応力に着目しており、パターン変形が発生し得る微細パターン領域の外周境界部分に三次元的な緩衝パターン(即ち、凹部パターン)を付加的に設け、その緩衝パターンによって三次元的な構造を漸次変化させている。
【0019】
ある好適な態様では、レジストマスタの前記凹部パターンにつき、その深さ寸法が上記放射線の外側に向かうにつれ漸次小さくなっている。逆の見方をすれば、レジストマスタの前記凹部パターンの深さ寸法が上記放射線の内側に向かうにつれ漸次大きくなっている。かかる場合、凹部パターンを構成する各凹部の最大深さ寸法が、微細パターンBにおける各窪みの深さ寸法の半分未満となっていることが好ましい。更には、凹部パターンとして複数の凹部が放射線状に配されていてよく、その場合、複数の凹部のピッチが微細パターンBにおける各窪みのピッチと同程度になっていることが好ましい。
【0020】
上記のようなレジストマスタの態様によって、「微細パターンの外周縁近傍において微細パターン形状が局所的に変形してしまう現象」を抑制できるだけでなく、最終的には上述の成形品にてガイド効果を効果的に得ることができる。
【0021】
本発明では、上述のレジストマスタを母型とした電鋳を行うことによって形成されたスタンパも提供される。かかるスタンパは、
レジストマスタの微細パターンBの反転形状に相当する微細パターンAが形成されており、そのスタンパの微細パターン形成面においては、微細パターンAを中心とした放射線に沿うように凸部パターンが形成されている特徴を有している。
【0022】
本発明のスタンパの好適な態様では、上記凸部パターンにつき、その高さ寸法が放射線の外側に向かうにつれ漸次小さくなっている。逆の見方をすれば、スタンパの上記凸部パターンの高さ寸法が放射線の内側に向かうにつれ漸次大きくなっている。
【0023】
更に、本発明では、上述のスタンパを金型・鋳型として用いた成形によって得られる成形品も提供される。本発明の成形品は、
スタンパの微細パターンAの反転形状に相当する微細パターンCが形成されており、その成形品の微細パターン形成面においては、微細パターンCを中心とした放射線に沿うように凹部パターンが形成されている特徴を有している。
【0024】
本発明の成形品は、プレート状もしくはチップ状の形態を一般に有しており、それゆえ、本発明の成形品を“プレート状成形品”または“チップ”と称することができる。ちなみに、かかるプレート状成形品は、“プレート状”または“チップ状”ゆえに、100μm〜50mm程度の厚さを一般に有し得る。
【0025】
本発明の成形品の好適な態様では、上記凹部パターンにつき、その深さ寸法が上記放射線の外側に向うにつれ漸次小さくなっている。逆の見方をすれば、成形品の凹部パターンの深さ寸法が上記放射線の内側に向うにつれ漸次大きくなっている。その結果、マイクロビーズおよび/または液体が用いられる成形品の用途においては、その凹部パターンが、微細パターンCへとマイクロビーズおよび/または液体を導くためのガイドとして好適に機能し得る。
【発明の効果】
【0026】
本発明のスタンパの製造方法では、「電鋳に際して微細パターンBおよび/またはそこに形成されるめっき膜に生じ得る応力」を凹部パターンにより緩和することができる。これによって、得られるスタンパの微細パターン形成面では“局所的な変形”が効果的に防止される。より具体的には、製造されるスタンパにおいて「微細パターンの外周縁近傍においてのみ微細パターン形状が変形してしまう現象」を抑制することができ、当初の狙い通りの微細パターン(即ち、微細パターンA)を形成することができる。従って、かかるスタンパを金型として用いた成形によって得られる成形品についても、当初の狙い通りの微細パターン(即ち、微細パターンC)を形成できることになる。これは、成形品のウェル数・ウェル形状などの微細構造を正確に把握できることを意味しており、高精度な分析に寄与し得る。また、このように微細パターン領域の“局所的変形”を効果的に防止できるので、その点に鑑みれば、MEMSやμ-TASなどの微細構造物作製におけるスタンパ工程の歩留まりを向上できる。
【0027】
特に、本発明においては、レジストマスタの微細パターン形成面の凹部パターンが放射線に内側に向かうにつれて漸次大きくなっているので、かかるレジストマスタから最終的に得られる成形品においては、レジストマスタの凹部パターンに起因して形成される放射線状凹部パターンを“収容物の誘導部”として好適に用いることができる。換言すれば、本発明に係る成形品では、流路絞りが無くても、放射線状凹部パターンを伝わってビーズ等の収容物を微細パターンへと誘導することができ、その結果、微細パターンの窪みにビーズ等を効率良く捕集することができる。これは、マイクロビーズおよび/または液体が用いられる成形品の実際の用途において、その凹部パターンが、微細パターンCへとマイクロビーズおよび/または液体を導くためのガイドとして機能することを意味している。つまり、本発明は、製造プロセス(即ち、電鋳プロセス)の点で“局所的変形の防止”という効果をもたらすのみならず、実際の用途の点でも“収容物の誘導効果”という好ましい結果をもたらすものである。
【0028】
ちなみに、従来技術においてスタンパないしは成形品の形状精度を出すには、“微細パターンの局所的変形現象”を予め想定した上で設計をしなければならなかったものの、本発明では、微細パターン領域の周囲に凹部パターンを配すだけで形状精度を出すことができる。従って、本発明は、そのような具体的に予測困難な現象を視野に入れた設計を簡易な手段によって省くことができるので有益であるといえるし、更には“収容物の誘導効果”といった付加的な効果も期待できるので実用性も高いといえる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、本発明で用いる“放射線”を概念的に示した図である。
【図2】図2は、レジストマスタの作成過程を模式的に示した工程断面図である。
【図3】図3は、本発明のレジストマスタを模式的に示した上面側平面図および断面図である。
【図4】図4は、本発明のレジストマスタを模式的に示した斜視図および一部断面図である。
【図5】図5は、本発明の成形品の使用態様を説明するための模式図である。
【図6】図6は、トレンチ状凹部の変更態様を模式的に示した平面図である。
【図7】図7は、トレンチ状凹部の変更態様を模式的に示した平面図である。
【図8】図8は、トレンチ状凹部の変更態様を模式的に示した平面図である。
【図9】図9は、トレンチ状凹部の変更態様を模式的に示した平面図である。
【図10】図10は、トレンチ状凹部の変更態様を模式的に示した平面図である。
【図11】図11は、本発明のスタンパを模式的に示した斜視図である。
【図12】図12は、本発明の成形品を模式的に示した斜視図である。
【図13】図13は、比較例1で用いたマスクを模式的に示した平面図である。
【図14】図14は、微細パターン形状の“局所的変形”が生じる微細パターン外周縁近傍を模式的に示した図である(従来技術)。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下では、図面を参照して本発明をより詳細に説明する。まず、本発明のスタンパ製造方法について説明を行う。かかる説明に際して、本発明のレジストマスタの説明も併せて行う。そして、その後、かかるレジストマスタから得られるスタンパおよび成形品について説明を行う。
【0031】
《本発明のスタンパ製造方法およびレジストマスタ》
本発明のスタンパ製造方法の実施に際しては、まず、工程(i)を実施する。つまり、目的とするスタンパの微細パターンAの反転形状に相当する微細パターンBが形成されたレジストマスタを用意する。
【0032】
“スタンパ”は、レジストマスタを母型とした電鋳によって形成されるものであるため、レジストマスタの微細パターンが転写されて成るものである。つまり、電鋳プロセスで母型となるレジストマスタ上にめっき処理を行った後にレジストマスタからめっき部分を剥がし、それをスタンパとして用いるので、スタンパではレジストマスタの形状が反転した形状を有している。従って、本発明の製造方法の工程(i)では、意図されるスタンパの微細パターンAが形成される所望の反転形状を備えたレジストマスタを用意することになる。
【0033】
工程(i)を具体的に説明する。まず、図2(a)に示すようにレジストマスタの土台となる基板10を用意する。基板10は、当該技術分野で一般的に用いられるものであれば特に制限はない。例えば、基板の材質としては、シリコン(Si)またはガラスなどの材質を用いることができる。シリコン基板の場合には「表面が平滑で鏡面状に研磨され、表面に熱酸化膜が形成されたシリコンウエハ」であることが好ましい。尚、基板の厚さは、0.5〜10mm程度であることが好ましい。
【0034】
次いで、図2(b)に示すように、基板10上にレジスト材料を塗布してレジスト膜20を形成する。塗布に好適となるように、レジスト材料は有機溶剤を含んで成ることが好ましい。塗布は、例えばスピン塗布(回転塗布)によって行うことができる。レジスト材料を塗布した後、約70℃〜約120℃程度の加熱処理に付すことが好ましい(即ち、ベーク処理に付すことが好ましい)。これによって、所望のレジスト膜20が形成される。尚、レジスト材料が塗布される面に対しては前処理を施してもよく、例えば、塗布面の疎水性を向上させるべくヘキサメチルジシラザン等を塗布してベーク処理しておいてもよい。
【0035】
塗布されるレジスト材料は、当該技術分野で一般的に用いられるものであれば特に制限はない。つまり、ポジ型レジスト材料であってもよいし、ネガ型レジスト材料であってもよい。具体的なレジスト材料としては、例えば、フェノール系ポリマー、アクリル系ポリマー、スチレン系ポリマー、ビニル系ポリマー、エポキシ樹脂、ポリフタルアルデヒド(PPA)から成る群から選択される少なくとも1種類以上の材料を用いることができる。特にフェノール系ポリマーのノボラック樹脂とジアゾナフトキノン化合物とからなる組成物はポジ型レジストとして一般的に多く用いられる。
【0036】
レジスト膜20を形成した後、図2(c)に示すように、マスク30をレジスト膜20に配して露光を実施する。ここでいう「マスク」は、典型的にはフォトマスクのことを意味しており、露光時の光を透過する部分と透過させない部分を備えた原版のことを意味している。このようなマスク30は、当該技術分野で一般的に用いられるものであれば特に制限はない。当然のことであるが、ポジ型レジスト材料が用いられた場合では露光領域が現像液に溶け出すことになる一方、ネガ型レジスト材料が用いられた場合では露光領域が現像液に溶解しないで残ることになるので、用いられるレジスト材料に応じて適当なマスクを使用すればよい。
【0037】
露光は、当該技術分野で一般的に採用されているものであれば特に制限はなく、密接露光(コンタクト露光)、近接露光(プロキシミティ露光)、等倍投影露光(プロジェクション露光)または縮小投影露光(ステップアンドリピート露光)のいずれであってもかまわない。例えば、図示する態様のように、密接露光を実施してよい。ちなみに、露光に際しては、直接レーザや電子線を用いてもよく、更にはLIGA(Lithographie Galvanoformung Abformung)プロセスのようにシンクロトロン放射光を使用してもよい。
【0038】
露光後、現像処理を実施する。かかる現像処理も当該技術分野で一般的に用いられるものであれば特に制限はない。
【0039】
以上の過程を経ることによって、「製造されるスタンパの微細パターンAの反転形状に相当する微細パターンBが形成されたレジストマスタ40」を得ることができる(図2(d)参照)。
【0040】
ここで、本発明の製造方法で用いられるレジストマスタでは、“微細パターンB以外の形状”も付加的に形成しておく必要がある。つまり、レジストマスタの微細パターン形成面では、微細パターンBに加えて、その微細パターンBを中心とした放射線に沿うような凹部パターンも形成しておく。従って、本発明の製造方法では、露光に際して「微細パターンBと共に上記凹部パターンをも転写形成できるマスクパターンを備えたマスク」を用いることになる。これにつき、マスクパターンの階調ないしは濃淡を自由に変えることが出来る多階調マスクを用いてよい。かかる多階調マスクとしては、グレイトーンマスクとハーフトーンマスクの2種類がある。グレイトーンマスクは、露光機の解像度以下のスリットを作り、そのスリット部が光の一部を遮り、中間露光を実現する。一方、ハーフトーンマスクは「半透過」の膜を利用し、中間露光を行うことができる。いずれも、1回の露光で「露光部分」「中間露光部分」「未露光部分」の3つの露光レベルを実現でき、現像後にレジスト厚さが異なるパターンを得ることができる。
【0041】
工程(i)に引き続いて、工程(ii)を実施する。つまり、レジストマスタを母型とした電鋳を実施することによってスタンパを得る。「電鋳」は、電気めっきと原理的には同じであり、電気化学反応を利用する電着技術である。特に、本発明では、母型として用いるレジストマスタに通電して厚めっきを行い、これを母型から剥離・分離して母型の反対面形状を有するスタンパを得る(即ち、レジストマスタに電着した金属部分をスタンパとして用いる)。
【0042】
電鋳に用いるレジストマスタは不導体であり得るので、電鋳プロセスに先立って、レジストマスタの微細パターン形成面に導電膜を形成して、表面を導体化することが好ましい。導電膜の形成には、例えばスパッタ法、真空蒸着法またはCVD法などを用いてよい。尚、導電膜の厚さは、好ましくは30〜300nm程度であってよい。
【0043】
電鋳プロセスのめっき処理自体は、電解質水溶液を使用する湿式めっき(ウエットプロセス)で行う。つまり、電気めっきを行う。かかる電気めっきでは、典型的には、金属イオンが存在する電解質水溶液に陰極としてレジストマスタを用い、それを外部電源を介して陽極とつないで、外部電源から電気エネルギーを加えて陰極(即ち、レジストマスタ)にて還元反応を生じさせる。その結果、電解質水溶液中の金属イオンがレジストマスタ界面で電子を受け取って金属として析出してめっき層が形成される。めっき層の厚さは、好ましくは50〜1000μm程度、より好ましくは300〜600μm程度である。尚、電鋳金属としては、典型的にはニッケルを用いることができる。しかしながら、ニッケルに限定されず、Ag、Au、Bi、Cd、Co、Cr、Cu、Fe、In、Pd、Pt、Ru、SnおよびZnから成る群から選択される少なくとも1種類以上の金属も電鋳金属として用いることができる。
【0044】
以上のような工程(i)および(ii)を経ることによって、目的とするスタンパを最終的に得ることができる。特に、本発明の製造方法によれば、レジストマスタの微細パターンBの外側に放射線状凹部パターンが形成されているので、電鋳に際して生じ得る応力をかかる凹部パターンにより緩和することができる。より具体的には、『電鋳に際して微細パターンBおよび/またはそこに形成されるめっき膜に生じ得る応力』を放射線状凹部パターンによって緩和することができる。その結果、得られるスタンパにおいては「微細パターンの外周縁近傍における微細パターンの変形」が抑制され、当初の狙い通りの微細パターンAを形成することができる。これは、かかるスタンパを金型として用いた成形で得られる成形品についても、当初の狙い通りの微細パターン(即ち、微細パターンC)を形成できることを意味している。また、本発明に従えば、最終的に得られる成形品において、放射線状凹部パターンをガイドとして用いることができる。これは、マイクロビーズおよび/または液体が用いられる実際の成形品用途において、その凹部パターンが、微細パターンCへとマイクロビーズおよび/または液体を誘導する機能を奏することを意味している。
【0045】
(本発明のレジストマスタ)
次に、上述のスタンパ製造方法に用いるレジストマスタについて詳述する。つまり、本発明のレジストマスタについて説明を行う。かかるレジストマスタは、上述したように、その微細パターン形成面にて微細パターンBを中心とした放射線に沿って凹部パターンが形成されている。このような態様を図3および図4に示す。図3は、本発明のレジストマスタの上面側平面図および断面図を示しており、図4は、本発明のレジストマスタの斜視図を示している。
【0046】
図3および図4に示すように、本発明のレジストマスタ40では、微細パターン領域の外側において凹部パターン50を形成し、それによって“電鋳時に微細パターン領域に生じ得る応力”を緩和している。特に、微細パターン領域を中心とした放射線に沿って凹部パターンを配して電鋳時の応力を緩和している。このような意味から、本発明では、かかる凹部パターン50が形成された領域を“応力緩衝領域”ないしは“緩衝パターン領域”と呼ぶことができる。
【0047】
かかる応力緩衝領域の凹部パターンは、それが微細パターンBを中心として放射線状に形成されていれば特に制限はない。しかしながら、本発明では、図3および図4に示すように、凹部パターンを構成する各凹部の深さ寸法が放射線の外側に向かうにつれ漸次小さくなっていることが好ましい。かかる場合、各凹部の形状は、図示するように(特に図4に示すように)、“トレンチ(trench)”形状を有することになる(従って、放射線状凹部パターンを構成する各凹部のことを「トレンチ状凹部」と称すことができる)。そして、レジストマスタから最終的に得られる成形品では、この“トレンチ”に起因して放射線状凹部パターンをガイドとして好適に用いることができる。つまり、“トレンチ”によって“収容物の誘導効果”が効果的に発揮され得る。
【0048】
かかる“収容物の誘導効果”につき詳述する。本発明で最終的に得られる成形品は、使用に際して「複数のマイクロビーズ」および「液体」を含んだ分散体と共に用いられる場合が多い。具体的には、本発明の成形品の“窪み設置面”(即ち、窪みが設けられているプレート面)に対して、マイクロビーズと液体とから成る分散液を供すことによって、窪みの各々にマイクロビーズと液体とを共に収容させたり、あるいはマイクロビーズと液体とが窪みを通過するように分散液を流したりする。例えば“収容”に際しては、マイクロビーズおよび液体の自重に起因した沈降作用を利用してよいものの、必要に応じてデバイスを傾けたりする。
【0049】
例えば図5に示すようなチップ状成形品にマイクロビーズ分散液を供した場合、ウェル領域101を通過しようとするビーズはウェル内に捕集されるものの、ウェル左側領域102およびウェル右側領域103を通るビーズは、そのまま通過してしまう。この場合、流路自体を狭めて、ウェル領域のみ通過する構造とする方法もあるが、液体が流れる流路を絞るために圧力損失が生じることになる。もしくは、流路幅とウェル領域幅とを同一にしなければならず、ウェルあるいは流路が形状的に制約されてしまうことになる。この点、本発明に係る成形品では、放射線状凹部パターン(“トレンチ状凹部”)によってビーズをウェル領域へと誘導することができる。つまり、ウェル領域101以外の領域を通過しようとするビーズがあったとしても、そのようなビーズは放射線状凹部パターンに流入することになり、トレンチ状凹部にガイドされてウェル領域へと導かれる。特に、マイクロビーズ分散液を流す際には、一度のみの場合や何度も往復してウェル領域を何回も通過させる場合があるが、本発明に係る成形品では、その往復回数を減じることができ、効率的なビーズ捕捉が実現される。
【0050】
ビーズがより効率的に捕捉されるように、各トレンチ状凹部の内側端部は、図4(b)および(c)に示すように“斜め”に形成されていてよい。つまり、トレンチ状凹部の内側端部はテーパー状に形成されていてもよい。また、ビーズなどの効率的な捕捉のためには、各トレンチ状凹部の深さ寸法は大きいほうがより好ましい。しかしながら、その深さはビーズが係止・停止しない深さにする必要があるので、ビーズ径Dの半分未満であることが好ましい(つまり、トレンチ状凹部の最大深さはD/2未満であることが好ましい)。
【0051】
ここで、各ウェル(即ち微細パターンを構成する“各窪み”)においてはビーズが収容された後、ビーズが反応液に十分に浸漬される必要がある。このためウェルの深さ寸法Yは少なくとも使用するビーズ径D以上である必要がある。また同時にウェルはビーズを1個のみしか収容しない構造にしておく必要がある。このためウェルの深さは最大でも1.5Dより小さくする必要がある。ビーズが縦に直列に並んだ場合でもウェル深さ寸法Yが1.5Dよりも小さければ、2つのビーズのうち少なくとも1つはウェル外に半分以上の体積を有しており、重心もウェル外にあることから、ビーズが分散されている溶液の流れによって、一度収容されてもウェル外へとビーズが排出されることになる。つまり、好ましいウェル深さYはD〜1.5Dの範囲であるといえる。
【0052】
以上を総括すると、トレンチ状凹部の深さ寸法とウェル深さ寸法Yとビーズ径Dとの相関関係に基づき、各トレンチ状凹部の最大深さはY/2より小さい値が好ましいといえ(ビーズ径Dとウェル深さYとが同じ値の場合)、また、かかるトレンチ状凹部の最大深さの下限値は、好ましくはY/3であるといえる(ウェル深さYがビーズ径Dの1.5倍の場合)。
【0053】
本発明では、トレンチ状凹部の深さ寸法を調整することによって、“電鋳時に微細パターン領域に生じ得る応力”を好適に緩和することができる。例えば、図3の断面図に示すようなトレンチ状凹部の深さ寸法LDは、微細パターンBを構成する各窪み60の深さ寸法よりも小さいことが好ましく、例えば好ましくは5〜65μm、より好ましくは15〜55μm、更に好ましくは25〜45μm程度である。また、トレンチ状凹部の延在長さを調整することによっても“電鋳時に微細パターン領域に生じ得る応力”を好適に緩和することができる。例えば、図3の断面図に示すようなトレンチ状凹部の延在長さLBは、その幅寸法よりも大きいことが好ましく、例えば好ましくは30〜1000μm、より好ましくは100〜500μm、更に好ましくは200〜400μm程度である。
【0054】
また、微細パターン領域の外側エッジからのトレンチ状凹部の離隔距離を調整することによっても、“電鋳時に微細パターン領域に生じ得る応力”を好適に緩和することができる。例えば、図3の断面図に示すような離隔距離LAは、好ましくは5〜200μm、より好ましくは5〜100μm、更に好ましくは10〜50μm程度である。更に言えば、応力緩衝領域のトレンチ状凹部の幅寸法を調整することによっても、“電鋳時に微細パターン領域に生じ得る応力”を好適に緩和することができる。例えば、図3の平面図に示すようなトレンチ状凹部の幅寸法Lwは、微細パターンBを構成する各窪み60の幅寸法と同程度であることが好ましく、例えば好ましくは5〜200μm、より好ましくは10〜100μm、更に好ましくは20〜50μm程度である。
【0055】
《トレンチ状凹部の種々の態様》
トレンチ状凹部の態様としては、その他に種々の態様が考えられる。以下それについて説明する。
【0056】
(トレンチ状凹部のピッチ)
トレンチ状凹部のピッチは、微細パターンを構成する各窪みのピッチ以上となっていてよい。例えば、各窪みのピッチは20〜100μm程度であるので、トレンチ状凹部のピッチがそれ以上となっていてよい。しかしながら、トレンチ状凹部のピッチが大きすぎると応力緩和の効果が弱まることになる一方、そのピッチが小さすぎるとビーズ誘導効果が弱まるので、その点に鑑みれば、トレンチ状凹部のピッチが微細パターンを構成する各窪みのピッチと同程度であることが好ましい。かかる場合、図3および図4に示すように微細パターンBを構成する各窪み60と隣り合う位置に各トレンチ状凹部60が配されていることが更に好ましい。
【0057】
(トレンチ状凹部の幅寸法)
ある好適な態様では、図6に示すように、トレンチ状凹部50の幅寸法が外側から内側に向けて徐々に変化しているものであってもよい(別の表現を用いれば、トレンチ状凹部の幅寸法が、上流側から下流側に向けて徐々に変化しているものであってよい)。このような場合、トレンチ状凹部50の内側端部の幅寸法が微細パターンBを構成する各窪み60の径寸法よりも小さくなっていてよい(図7参照)。このような態様であっても、“電鋳時に微細パターン領域に生じ得る応力”を好適に緩和できると共に、最終的に得られる成形品で“収容物の誘導効果”を好適に得ることができる。
【0058】
尚、図8に示すようにウェル領域(即ち、微細パターン領域)の左斜め側および/または右斜め側のトレンチ状凹部の幅寸法をより長くしてもよい。これにより、最終的に得られる成形品の用途において、ウェル領域の左側102または右側103を通過するはずのビーズをウェル領域101へと意図的に誘導できる(図5も併せて参照のこと)。尚、図8に示す態様につき、ウェルの上流側に相当する幅寸法7c1〜7c8は相互に等しい長さであることが原則好ましいが、ビーズや流路の特性上、中央部にビーズが流れや易い場合では中央付近のトレンチ状凹部の幅寸法を小さくしてよい。同様に、外周部へとビーズが流れやすい場合はより外側・端側のトレンチ状凹部の幅寸法(例えば7c1および7c8)を小さくしてよい。つまり、トレンチ状凹部の幅寸法を調整することによって、捕集ビーズ数の制御を好適に行うことができる。
【0059】
更には、ウェル領域の左側または右側に位置するトレンチ状凹部50が図9に示すような形状を有していてもよい。つまり、かかるトレンチ状凹部50が斜めに配されていてもよい。このような態様にすることによって、ウェル領域の左側102または右側103に流れてきたビーズをより効果的にウェル領域101へと誘導することができる。ちなみに、図9に示すようなトレンチ配置角度αは、0°〜90°の範囲で選択され得るが、好ましくは15°〜60°程度であり、より好ましくは25°〜50°程度である。
【0060】
(扇形トレンチ状凹部)
典型的には、トレンチ状凹部の数は、図3および図4に示すようにウェルの行数あるいは列数とほぼ同じとなっている(コーナー領域を除く)。しかしながら、トレンチ状凹部の数が極端に少ないものであってもよい。即ち、複数のトレンチ状凹部を結合したような形態であってもよく、例えば図10に示すように扇形のトレンチ形態であってもよい。ちなみに、図10に示す態様は、図9のトレンチ状凹部を部分的に結合したものに相当する。
【0061】
《本発明のスタンパ》
次に、本発明のスタンパについて説明する。本発明のスタンパは、上述のスタンパ製造方法を実施することによって得られるスタンパである。つまり、本発明のスタンパは、本発明のレジストマスタを母型とした電鋳を行うことによって形成されたものである。かかるスタンパは、レジストマスタの微細パターンBの反転形状に相当する微細パターンAが形成されており、かつ、微細パターンAを中心とした放射線に沿って凸部パターンも形成されている。
【0062】
例示として本発明のスタンパ70を図11に示す。図示するスタンパ70は、図3および図4のレジストマスタを用いた電鋳によって得られるスタンパである。図示するように、スタンパの微細パターン形成面では、レジストマスタの微細パターンBの反転形状に相当する微細パターンAが形成されていると共に、その微細パターンAを中心とした放射線に沿うように凸部パターン50’が形成されている。かかる凸部パターン50’は、レジストマスタの凹部パターン50に起因しており、その反転形状に相当する。つまり、スタンパの形状は、その製造に用いられるレジストマスタの形状に起因するため、スタンパの微細パターンAおよび凸部パターンの各種寸法は、レジストマスタの微細パターンBおよび凹部パターンと同様になり得る。
【0063】
例えば、スタンパの凸部50’の高さ寸法は、図示するように、放射線の外側に向かうにつれ漸次小さくなっている。かかる場合、各凸部50’の形状は、レジストマスタの場合と同様、図示するように“トレンチ形状”を有することになる(従って、放射線状凸部パターンを構成する各凸部50’のことを「トレンチ状凸部」と称すことができる)。
【0064】
トレンチ状凸部50’の最大高さ寸法は、微細パターンAを構成する各隆起部60’の高さ寸法よりも小さいことが好ましく、例えば好ましくは5〜65μm、より好ましくは15〜55μm、更に好ましくは25〜45μm程度である。また、トレンチ状凸部50’の延在長さは、その幅寸法よりも大きいことが好ましく、例えば好ましくは30〜1000μm、より好ましくは100〜500μm、更に好ましくは200〜400μm程度である。
【0065】
また、例えば、微細パターン領域Aの外側エッジからのトレンチ状凸部50’の離隔距離は、好ましくは5〜200μm、より好ましくは5〜100μm、更に好ましくは10〜50μm程度である。更に言えば、トレンチ状凸部50’の幅寸法は、微細パターンAを構成する各隆起部60’の幅寸法と同程度であり得、例えば好ましくは5〜200μm、より好ましくは10〜100μm、更に好ましくは20〜50μm程度である。
【0066】
その他、レジストマスタの形状に応じて、スタンパのトレンチ状凸部50’は、その幅寸法が内側に向かって徐々に小さくなったり、あるいは、内側端部が斜めに形成されていたりする。
【0067】
スタンパの材質は、電鋳に用いためっき金属(即ち“電鋳金属”)の種類に依存しており、例えばNi、Ag、Au、Bi、Cd、Co、Cr、Cu、Fe、In、Pd、Pt、Ru、SnおよびZnから成る群から選択される少なくとも1種類以上の金属材料である。また、スタンパの厚さは、電鋳時のめっき厚に依存しているが、例えば50〜1000μm程度である。
【0068】
《本発明の成形品》
次に、本発明の成形品について説明する。本発明の成形品は、上述のスタンパを金型ないしは鋳型として用いた射出成形を行うことによって得られるものである。具体的には、金属製スタンパの外形を加工し、それを成形機に取り付けて射出成形を実施することによって本発明の成形品を得ることができる。成形樹脂としては、種々の樹脂を用いることができる。例えば、環状ポリオレフィン、シクロオレフィン樹脂、ポリカーボネート、アモルファスポリオレフィン、ポリジメチルシロキサン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルエーテル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアリルアミン、ポリビニルアルコール、ポリテトラフルオロエチレン、アクリロニトリル樹脂、ブタジエン樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリアミド、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイミン、ポリフェニレンスルファイド、ポリスルホン、ポリエーテルサルフォン、非晶ポリアリレート、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトンおよびポアミドイミドから成る群から選択される少なくとも1種以上のポリマーを用いることができる。
【0069】
本発明の成形品は、スタンパの微細パターンAの反転形状に相当する微細パターンCが形成されており、成形品の微細パターン形成面においては、微細パターンCを中心とした放射線に沿って凹部パターンが形成されている特徴を有している。
【0070】
例示として本発明の成形品80を図12に示す。図示する成形品80は、図11のスタンパを用いた成形によって得られる成形品である。図示するように、成形品80の微細パターン形成面では、スタンパの微細パターンAの反転形状に相当する微細パターンCが形成されていると共に、その微細パターンCを中心とした放射線に沿って凹部パターン50''が形成されている。かかる凹部パターン50''は、スタンパの凸部パターン50'に起因しており、その反転形状に相当する。つまり、成形品の形状は、その成形に用いられるスタンパの形状に起因するため、成形品の微細パターンCおよび凹パターンの各種寸法は、スタンパの微細パターンAおよび凸部パターンと同様になり得る。これは、成形品の微細パターンCおよび凹パターンの各種寸法が、レジストマスタの微細パターンBおよび凹部パターンと同様になり得ることも意味している。
【0071】
例えば、成形品の凹部50''の深さ寸法は、図示するように、放射線の外側に向かうにつれ漸次小さくなっている。かかる場合、各凹部50''の形状は、レジストマスタおよびスタンパの場合と同様、図示するように“トレンチ形状”を有することになる(従って、放射線状凹部パターンを構成する各凹部50''のことを「トレンチ状凹部」と称すことができる)。
【0072】
トレンチ状凹部50''の最大深さ寸法は、微細パターンCを構成する各窪み60''の深さ寸法よりも小さいことが好ましく、例えば好ましくは5〜65μm、より好ましくは15〜55μm、更に好ましくは25〜45μm程度である。また、トレンチ状凹部50''の延在長さは、その幅寸法よりも大きいことが好ましく、例えば好ましくは30〜1000μm、より好ましくは100〜500μm、更に好ましくは200〜400μm程度である。
【0073】
また、例えば、微細パターン領域Cの外側エッジからのトレンチ状凹部50''の離隔距離は、好ましくは5〜200μm、より好ましくは5〜100μm、更に好ましくは10〜50μm程度である。更に言えば、トレンチ状凹部50''の幅寸法は、微細パターンCを構成する各窪み60''の幅寸法と同程度であり得、例えば好ましくは5〜200μm、より好ましくは10〜100μm、更に好ましくは20〜50μm程度である。
【0074】
その他、スタンパの形状に応じて(即ち、レジストマスタの形状に応じて)、成形品のトレンチ状凹部50''は、その幅寸法が内側に向かって徐々に小さくなったり、あるいは、内側端部が斜めに形成されていたりする。
【0075】
本発明の成形品の用途について触れておく。典型的には、本発明の成形品は、使用に際して「複数のマイクロビーズ」および「液体」を含んだ分散体と共に用いられる場合が多い。具体的には、本発明の成形品の“窪み設置面”に対して、マイクロビーズと液体とから成る分散液を供すことによって、窪みの各々にマイクロビーズと液体とを共に収容させたり、あるいはマイクロビーズと液体とが窪みを通過するように分散液を流したりする。例えば“収容”に際しては、マイクロビーズおよび液体の自重に起因した沈降作用を利用してよいものの、必要に応じてデバイスを振揺に付したりする。
【0076】
「マイクロビーズ」および「液体」について詳述しておく。「マイクロビーズ」は、メディカルサイエンスやバイオサイエンスの分野において常套的に用いられている微粒子のことを実質的に意味している。マイクロビーズとしては、金属微粒子、ポリマー微粒子またはガラス、酸化物磁性体、その他のセラミック等の無機物微粒子などの微粒子だけでなく、細胞、微生物、細菌類、花粉、胞子およびその他の生体関連粒子などの粒状物であってもよい。このようなマイクロビーズは、球状、楕円状、米粒状、針状または板状などの各種形状を有し得る。ここでいう「球状」とは、アスペクト比(種々の方向で測定した場合の最大長さと最小長さとの比)が1.0〜1.2の範囲にある形状を指し、「楕円状」とは、アスペクト比が1.2〜1.5の範囲(但し、1.2を含まない)にある形状を指している。また、「米粒状」とは、その名の通り、“米粒”のような形状を意味している。後述でも触れるが、“窪みへの収容”が促進される観点でいうと、マイクロビーズが液体中で沈む場合には球形状を有していることが好ましい。マイクロビーズの平均サイズ(即ち“ビーズ径D”)は、例えば、好ましくは0.005μm〜10mm程度、より好ましくは0.01μm〜5mm程度である。ここでいう「サイズ」とは、ビーズのあらゆる方向における長さのうち最大となる長さを実質的に意味している。そして、「平均サイズ」とは、ビーズの透過型電子顕微鏡写真または光学顕微鏡写真に基づいて例えば300個のビーズのサイズを測定し、その数平均として算出したものを実質的に意味している。一方、「液体」は、メディカルサイエンスやバイオサイエンスの分野においてマイクロビーズと共に常套的に用いられる液体であって、例えば、水、溶剤、バッファー、反応溶液または検体液などである。液体の粘度は、特に制限はなく、液体中の成分を利用するときの条件下にて液体が流動性を有していればよい。マイクロプレートデバイスに供される分散液(即ち、マイクロビーズと液体とから成る分散液)のマイクロビーズの含有量は、特に制限されるわけではないが、0.01〜50体積%程度である。尚、マイクロビーズの絶対量または個数は用途によって変わり得る。例えば“窪み”が1万個のウェルであれば、マイクロビーズの個数も少なくとも1万個であることが好ましく、それに応じた絶対量を有するマイクロビーズが分散液に含まれていればよい。
【0077】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明の適用範囲のうちの典型例を例示したに過ぎない。従って、本発明はこれに限定されず、種々の改変がなされ得ることを当業者は容易に理解されよう。例えば、以下の事項を挙げることができる。
【0078】
● 図4、図11または図12などに示す態様では、トレンチ形状が“四角形状”となっているものの、必ずしもかかる態様に限定されるわけではない。例えば、トレンチ形状が“楕円形状”や“三角形状”などであってよく、また、その断面形状が“三角形”や“台形”などであってもよい。
【0079】
● 本発明のスタンパ製造方法で用いる電鋳では、Ni、Ag、Au、Bi、Cd、Co、Cr、Cu、Fe、In、Pd、Pt、Ru、SnおよびZnから成る群から選択される少なくとも1種類以上の金属を用いることができるものの、必ずしもかかる態様に限定されるわけではない。例えば、Ag、Au、Bi、Cd、Co、Cr、Cu、Fe、In、Ni、Pd、Pt、Ru、Sn、Znのいづれかの金属を主体とした合金めっきや、PTFE(ポリテトラフロロエチレン)などを分散してめっき皮膜に取り込みロール状あるいは平面板のスタンパを作製することも出来る。また、Mn、Gd、Sm、W、Sb、Mo、P、B、Sなどをめっき皮膜中に積極的に取り込むことによって、硬度や潤滑性、粘り強さを高めたロール状あるいは平面板の合金製スタンパを作ることもできる。
【0080】
● 本明細書では、めっき液を用いた湿式めっきによってレジストマスタを得る態様について説明してきたが、必ずしもかかる態様に限定されるわけではなく、溶融めっきおよび真空めっき(PVDやCVDなど)などの乾式めっきであっても、本発明の効果としては実質的に変わりはない。
【0081】
● 本明細書では主としてフォトリソグラフィーによってレジストマスタを得る態様について説明してきたが、必ずしもかかる態様に限定されるわけではなく、同様の微細パターンおよび凹部パターンを形成できるのであれば、いずれの作製法を採用してもよい。
【0082】
● 本明細書では主として射出成形によって成形品を得る態様について説明してきたが、必ずしもかかる態様に限定されるわけではなく、同様の微細パターンおよび凹部パターンを形成できるのであれば、いずれの成形法を採用してもよい(例えば、ナノインプリントなどの技術を適用してもよい)。
【0083】
尚、本発明は、下記の態様を有するものであることを確認的に述べておく。
[第1態様]:凹凸形状の微細パターンAが形成された微細パターン群を少なくとも1箇所以上有し、
該微細パターン群とそれを取り巻く三次元的に異なる形状を有する周辺領域Bとの間に境界領域Cが存在する微細パターン群において、
該境界領域Cに三次元構造を段階的に緩衝するための緩衝パターン領域Eを設けており、
該緩衝パターン領域Eの個々のトレンチ形状について、微細パターンAの高さあるいは深さをYとしたとき、トレンチ深さTzの範囲が最大でも1/2Yよりも小さい値を有することを特徴とする微細パターンの集合構造物。
[第2態様]:ビーズ径Dよりも大きい凹凸形状の微細パターンAが形成された微細パターン群を少なくとも1箇所以上有し、
該微細パターン群とそれを取り巻く三次元的に異なる形状を有する周辺領域Bとの間に境界領域Cが存在する微細パターン群において、
該境界領域Cに三次元構造を段階的に緩衝するための緩衝パターン領域Eを設けており、
該緩衝パターン領域Eの個々のトレンチ形状が、使用するビーズ径Dに対して1/2D以下の高さ・深さを有することを特徴とする微細パターンの集合構造物。
[第3態様]:上記第1または第2の態様の集合構造物において、トレンチ形状の寸法につき、ビーズ収容用ウェル側が最も深くなっており、ウェルから遠くなるにしたがい徐々に浅くなっていることを特徴とする微細パターンの集合構造物。
[第4態様]:上記第1または第2の態様の集合構造物において、トレンチ形状の寸法につき、ビーズ収容用ウェル側のトレンチ終端が、ウェル径以下の幅となっていることを特徴とする微細パターンの集合構造物。
[第5態様]:上記第1または第2の態様の集合構造物において、トレンチ形状の寸法につき、トレンチ幅が上流から下流に向けて可変となっていることを特徴とする微細パターンの集合構造物。
[第6態様]:上記第1または第2の態様において、トレンチ領域の中心線がウェル領域の中心線と同一直線上に位置することを特徴とする微細パターンの集合構造物(図5参照)。
[第7態様]:上記第1または第2の態様において、各トレンチ間隔が、ウェルのピッチ以上あるいはそれ以下であることを特徴とする微細パターンの集合構造物。
[第8態様]:上記第1または第2の態様において、トレンチの数がウェルの行数あるいは列数と同じか、若しくはそれ以下の数であることを特徴とする微細パターンの集合構造物。
[第9態様]:上記第1または第2の態様において、トレンチの終端角度が90°以上であることを特徴とする微細パターンの集合構造物。
[第10態様]:上記第1または第2の態様において、緩衝パターン領域Eの形状につき、平面部と側壁の稜が面取りされていることを特徴とする微細パターンの集合構造物。
[第11態様]:上記第1または第2の態様において、環状ポリオレフィン、シクロオレフィン樹脂、ポリカーボネート、アモルファスポリオレフィン、ポリジメチルシロキサン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、アクリロニトリル樹脂、ブタジエン樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルファイド、ポリスルホン、ポリエーテルサルフォン、非晶ポリアリレート、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトンおよびポアミドイミドから成る群から選択される少なくとも1種以上のポリマーを含んで成ることを特徴とする微細パターンの集合構造物。
[第12態様]:上記第1または第2の態様において、集合構造物の土台となる基板がシリコンあるいはガラスを含んで成ることを特徴とする微細パターンの集合構造物。
[第13態様]:上記第1または第2の態様において、集合構造物がAg、Au、Bi、Cd、Co、Cr、Cu、Fe、In、Ni、Pd、Pt、Ru、SnおよびZnから成る群から選択される少なくとも1種以上の成分を含んで成るロール状あるいは平面板の金属製金型であることを特徴とする微細パターンの集合構造物。
[第14態様]:上記第1または第2の態様において、集合構造物がMn、Gd、Sm、W、Sb、Mo、P、BおよびSから成る群から選択される少なくとも1種以上の成分を含んで成るロール状あるいは平面板の金属製金型であることを特徴とする微細パターンの集合構造物。
【実施例】
【0084】
本発明の効果を確かめるために、以下の比較例および実施例1〜3を実施した。
【0085】
《局所的変形防止の確認》
(比較例1)
比較例1として従来法によりスタンパを作製した。まず、“レジストマスタ”を作成した。具体的には、「表面が平滑であって鏡面状に研磨されていると共に、表面に熱酸化膜が形成されたシリコンウエハ基板」に対してヘキサメチルジシラザンを塗布して、140℃で10分間ベークした。次いで、厚膜用のポジ型フォトレジスト(東京応化製PMER P-LA900PM)を35μmの厚さでスピンコート法により塗布した。引き続いて、微細なウェルパターンが形成されているクロムマスク(図13参照、穴径φ30μmおよびピッチ45μmであって、φ30μmのウェル間に15μmの間隔を形成するためのマスク)をレジスト上に配置して超高圧UV光により密着露光を行った。この露光に用いたUV光源としては、g線(436nm)、h線(405nm)およびI線(365nm)を含んでいた。露光後、基板をTMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド)3%の溶液により浸して現像を行うことによって、レジストマスタを得た。
【0086】
この時点のレジストマスタでは、微細パターンの境界部分に“変形”が生じてないことを顕微鏡により確認した。
【0087】
かかるレジストマスタに対して導電膜としてNiスパッタ膜を形成した後、電鋳を実施した。具体的には、スルファミン酸ニッケルめっき液を用い、これにpH緩衝用の硼酸および陽極Niの溶解を促進するための塩化Niを添加した。pH調整にはスルファミン酸を用い、常にpH3.8〜4.2の範囲になるように調整した。めっき液の温度は50℃とし、めっき液を常時濾過した。このような条件下で電鋳を実施した。
【0088】
上記電鋳により得られたスタンパ(厚さ400μm)の微細パターン外周部をSEMにより観察したところ、微細パターンとその周辺部との境界付近に形状変形(即ち“局所的な変形”)がみられた。
【0089】
付加的に、めっき時の電流密度を調整し応力を様々に変化させる試験も行った。“めっき膜応力”は、同じめっき液を用い、環境も同条件に設定してストリップ式応力測定試験により求めた。結果を表1に示す。
【0090】
(実施例1)
実施例1として本発明に従ってスタンパを作製した。具体的には図3および図4に示すようなレジストマスタを用いてスタンパを作製した(ちなみに、トレンチ部の最大深さはビーズ径25μmの半分値となる12.5μmに設定した)。
【0091】
より具体的には、「表面が平滑であって鏡面状に研磨されていると共に、表面に熱酸化膜が形成されたシリコンウエハ基板」に対してヘキサメチルジシラザンを塗布して、140℃で10分間ベークした。次いで、厚膜用のポジ型フォトレジスト(東京応化製PMER P-LA900PM)を35μmの厚さでスピンコート法により塗布した。引き続いて、微細なウェルパターンとそれを中心に放射状に延びる凹部パターンが形成されているクロムマスクをレジスト上に配置して超高圧UV光により密着露光を行った。本実施例では、凹部パターンの高さ調整ができるように、マスクとしてはハーフトーンマスクを用いた(特にハーフトーンマスクの濃度を256分割し、徐々に濃淡を変更した)。露光に用いたUV光源としては、比較例1と同様、g線(436nm)、h線(405nm)およびI線(365nm)を含んでいた。露光後、基板をTMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド)3%の溶液により浸して現像を行うことによって、レジストマスタを得た。
【0092】
この時点のレジストマスタでは、微細パターンの境界部分に“変形”が生じてないことを顕微鏡により確認した。
【0093】
かるレジストマスタに対して導電膜としてNiスパッタ膜を形成した後、電鋳を実施した。具体的には、スルファミン酸ニッケルめっき液を用い、これにpH緩衝用の硼酸および陽極Niの溶解を促進するための塩化Niを添加した。pH調整にはスルファミン酸を用い、常にpH3.8〜4.2の範囲になるように調整した。めっき液の温度は50℃とし、めっき液を常時濾過した。このような条件下で電鋳を実施した。
【0094】
上記電鋳により得られたスタンパ(厚さ400μm)の微細パターン外周部をSEMにより観察したところ、実施例1では、微細パターンとその周辺部との境界付近に形状変形(即ち“局所的な変形”)がみられなかった。
【0095】
尚、比較例1と同様、めっき時の電流密度を調整し応力を様々に変化させる試験を行うことによって“めっき膜応力”の大小による“形状変形”の有無を調べた。結果を表1に示す。
【0096】
(実施例2)
実施例2として本発明に従ってスタンパを作製した。具体的には図7に示すようなトレンチ状凹部を備えたレジストマスタを用いてスタンパを作製した。用いたマスクのパターンを変更した以外は、実質的に実施例1と同様の操作によってスタンパを得た。
【0097】
上記電鋳により得られたスタンパの微細パターン外周部をSEMにより観察したところ、実施例2では、微細パターンとその周辺部との境界付近に形状変形はみられなかった。そして、比較例1と同様、めっき時の電流密度を調整し応力を様々に変化させる試験を行うことによって“めっき膜応力”の大小による“形状変形”の有無を調べた。結果を表1に示す。
【0098】
(実施例3)
実施例3として本発明に従ってスタンパを作製した。具体的には図10に示すようなレジストマスタを用いてスタンパを作製した。用いたマスクのパターンを変更した以外は、実質的に実施例1と同様の操作によりスタンパを得た。
【0099】
上記電鋳により得られたスタンパの微細パターン外周部をSEMにより観察したところ、実施例3では、微細パターンとその周辺部との境界付近に形状変形はみられなかった。そして、比較例1と同様、めっき時の電流密度を調整し応力を様々に変化させる試験を行うことによって“めっき膜応力”の大小による“形状変形”の有無を調べた。結果を表1に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
表1において、めっき応力がプラス側では引っ張り応力を表し、マイナス側では圧縮応力を表している。0は応力がほぼ無い状態と推定される条件である。そして、表1において、「×」はほぼ全周にわたりパターンの変形が確認されたことを示している。一方、「○」は変形なし、「△」は一部箇所に若干の変形が見られたことを示している。
【0102】
表1から分かるように、比較例1では略全ての条件で変形が確認された。応力がほぼ0の条件でも一部分に若干の変形がみられたことから、めっき膜全体の応力のみではなく、微細パターン自体の三次元的な構造により、周辺部の応力が変化しているのではないかとも推察される。これに対して、実施例1〜3では、ほとんどの条件で「変形なし」となり、本発明の“レジスト凹部パターン”が有効であることが確認された。
【0103】
《ビーズ誘導効果の確認》
比較例1および実施例1〜3のスタンパを用いて得られる成形品を用いてビーズ捕集効率を調べた。
【0104】
(成形品の射出成形)
まず、比較例1および実施例1〜3のスタンパから射出成形により成形品(チップ)を得た。具体的には、金属製スタンパの外形を加工して成形機に取り付けた上で、シクロオレフィン樹脂を成形樹脂として用いて射出成形を実施した(樹脂温度:340℃、鋳型温度:125℃、射出速度:300mm/s、保持圧力:70MPa)。かかる射出成形によって、本発明のチップ状成形品を得ることができた。かかる成形品では、フローマーク等の欠陥がなく、高精度に微細パターンが確実に転写された。これにより、「スタンパの凸部パターン(即ち、レジストマスタの凹部パターンに起因して形成された凸部)」が微細パターンに影響を及ぼさないことが分かった。
【0105】
(ビーズ捕集効率の確認試験)
試験に用いたチップは、縦横に320ずつウェルが形成され合計で102400のウェルを備えたものであった(ウェル領域はチップの中央部に位置していた)。このチップに対して図5で示したように別のチップを蓋として用いて圧着させ、流路を作製した。その後、水に約10万個以上のジルコニアビーズを分散させて成る分散液をチップ開口部へと流した。その後、ウェルに沈降して収容されたビーズを数えた。これを10回繰り返した。結果を表2に示す。
【0106】
【表2】
【0107】
表2から分かるように、比較例1(トレンチ無し)に対して実施例1〜3(トレンチ有り)は、総じてビーズ捕集率が高くなり、本発明の“トレンチ状凹部”がガイドとして有効に機能を発揮することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明のスタンパ製造方法から最終的に得られるプレート状成形品(即ち、本発明のレジストマスタおよびスタンパから得られる樹脂成形品)を用いると、標的物質の分析、抽出または精製や、細胞の分離、検出またはスクリーニングなどができる(特に、かかる処理・操作を一度に多量に行うことができる)。従って、本発明のプレート状成形品は、遺伝子解析、発現解析、蛋白解析、抗原・抗体反応解析または細胞解析等の用途に供すことができる。
【符号の説明】
【0109】
10 基板
20 レジスト膜
30 マスク
40 レジストマスタ
50 応力緩衝領域を構成する凹部パターン(トレンチ状凹部)
60 微細パターンBを構成する各窪み
70 スタンパ
50’ 凸部パターン(トレンチ状凸部)
80 成形品
50'' 凹部パターン(トレンチ状凹部)
101 ウェル領域
102 ウェルの左側領域
103 ウェルの右側領域
104 ウェル領域中心線
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタンパの製造方法、レジストマスタ、スタンパおよび成形品に関する。より詳細には、本発明は、“微細構造を備えたスタンパ”の製造方法、および、かかるスタンパ製造方法で用いるレジストマスタに関すると共に、そのレジストマスタから得られるスタンパおよび成形品にも関する。
【背景技術】
【0002】
ミクロンオーダー以下の微細構造の作製は、一般的に、MEMS(Micro Electro Mechanical System)やμ-TAS(Micro Total Analysis System)などの幅広い分野で行われており、機械加工やフォトリソグラフィーなどの技術が応用されている。
【0003】
近年、このような微細構造作製技術は、化学、メディカルサイエンスやバイオサイエンスの分野においても適用されており、作製された微細構造体は、物質もしくは細胞などの分離、固定化、分析、抽出、精製または反応などの各種処理に好適に用いられている。そのような微細構造体は、一般的に、平板状(もしくはチップ状)の形態あるいはこれらを積層して成る形態を有しており、例えば、ウェルプレート、マイクロタイタープレート等の他、マイクロ化学チップ、バイオチップ、DNA(deoxyribonucleic acid)チップ、マイクロアレイチップ等と称されている。
【0004】
例えば、DNA解析に用いることができるマイクロアレイチップを例にとると、大量の情報を一度に処理・解析を行うためにチップ上に数千個〜数十万個という多くの“窪み”ないしは“凹部”を作製する必要がある。かかる“窪み”または“凹部”はウェルと一般に呼ばれるものであり、マイクロビーズや液体(反応液)などを収容することができる(例えば、ウェルの容積を一定にすると、規定容量の反応液をウェルに溜めることができる)。
【0005】
メディカルサイエンスやバイオサイエンスの分野では、このようなウェルを多数設ける必要があるので、1つ1つ機械加工するよりも、フォトリソグラフィーを用いて一括露光によって作製することが適している。つまり、フォトリソグラフィーを用いてレジストマスタを作製して、それからスタンパを作製し、次いで、そのスタンパを金型として用いた射出成形やホットエンボスなどの転写技術を適用することによって、微細構造体を一括して作製する。
【0006】
ここで、金型ないしは鋳型となるスタンパの作製に際しては、電気めっきが通常実施される。この電気めっきは、防食や装飾に用いられるめっきとは異なり、めっき処理の後、被めっき物からめっき膜を剥がして、それをスタンパとして利用するものであって、“電鋳”と称されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】住友ベークライト株式会社の製品情報(製品名:培養用マルチプレート)[online]、[平成21年12月15日検索]、インターネット〈URL:http://www.sumibe.co.jp/sumilon/plate.html〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願発明者らは、微細構造体用スタンパの製造につき鋭意検討した結果、電鋳プロセスにおいては“微細構造”に特有の問題があることを見出した。具体的には、微細構造を特徴付ける微細パターンの外周縁近傍において微細パターン形状が変形してしまう現象を見出した(特に、微細パターンが列状またはアレイ状に形成されている場合では、外周縁近傍の数列のみが局所的に変形してしまう)。
【0009】
このような変形は、あくまでも微細パターン領域の外周縁にのみ生じるものであり、めっき面の鏡面部分には“盛り上がり”や“ヒビ”などの欠陥が見られず、また、微細パターンの内部領域にもパターン変形は見られない(図14参照)。
【0010】
かかる変形現象は微細パターン領域の外周縁のみで発生するため、そのような局所的な変形が生じたスタンパから得られるプレート状成形品(例えば、微細構造として複数のウェル列が形成されたウェルプレート)については、SEM等で形状を確認後、「外周縁から2列目あるいは3列目程度までは使用できない」との注釈をつけて使用することも考えられる。しかしながら、目的とする形状を正確に把握しておかないと、“変形”に起因してマイクロビーズがウェルに入るか否かが把握できなかったり、実使用環境下での状況が少しも分からないといった不都合が生じる。また、このような現象がテンポラリーに発生すると、個々のスタンパ間で精度や使用できるウェルの数に差が生じてしまうことになる。更には、どの程度の変形までを不良とし、何列目までの変形を許容するかなど、“良品箇所”と“不良箇所”との判別が困難となる状況を招いてしまう。つまり、これらを換言すれば、高精度な分析を実現するには、プレート状成形品において所望とするウェルを当初の狙い通りに変形なく正確に形成し、そのウェル数などを正確に把握しておく必要があるといえる。
【0011】
本発明はかかる事情に鑑みて為されたものである。即ち、本発明の課題は、スタンパ製造時における微細パターンの局所的な変形を防止することであり、ひいては、最終的に得られる成形品の微細パターンを当初の狙い通りに形成することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明は、スタンパを製造するための方法であって、
(i)スタンパの微細パターンAの反転形状に相当する微細パターンBが形成されたレジストマスタを用意する工程、および
(ii)レジストマスタを母型とした電鋳を実施することによって、微細パターンAが形成されたスタンパを得る工程
を含んで成り、
工程(i)で用意されるレジストマスタの微細パターン形成面においては、微細パターンBを中心とした放射線に沿うように凹部パターンを形成しておき、
工程(ii)においては、電鋳に際して生じ得る応力を上記凹部パターンにより緩和することを特徴とする、スタンパ製造方法が提供される。
【0013】
本発明の特徴の1つは、電鋳プロセスの母型として用いられるレジストマスタとして、『微細パターンを中心として外側に広がるように凹部パターンが形成されたマスタ』を用いることである。つまり、本発明では、スタンパ製造の電鋳プロセスにおいて「微細パターン形成面に微細パターンBを中心とした放射線に沿って凹部パターンが形成されて成るレジストマスタ」を用いる。これにより、電鋳に際して微細パターンBおよび/またはそこに形成されるめっき膜に生じ得る“応力”を凹部パターンによって効果的に緩和することができる。尚、「微細パターンBを中心とした放射線」とは、例えば、図1(a)および(b)に示すように、微細パターンの領域を中心として外側へと広がる仮想的な線を実質的に意味している。また、「応力」とは、電鋳プロセス中にて微細パターンBおよび/またはめっき膜が受け得るあらゆる力を意味しており、特に微細パターンBの外周縁領域にて微細パターンBおよび/またはめっき膜が受ける力を意味している。
【0014】
本明細書において用いる「レジストマスタ」は、いわゆる“レジスト原盤”と呼ばれるものである。特に、本発明における「レジストマスタ」は、一般にメディカルサイエンス分野やバイオ分野において分離、固定化、分析、抽出、精製、反応または混合などの各種処理を行う際に用いられる“複数の窪みまたは凹部を備えたプレート状成形品”の成形用スタンパ(≒金型)を製造するための原盤を意味している。
【0015】
本発明において、「微細パターン」とは、微細な凹凸形状から形成されて成るパターンを意味しており、その微細な凹凸形状を構成する“微細凹部(もしくは微細な窪み)”または“微細凸部(もしくは微細な隆起部)”の寸法(幅・高さ・深さなどの寸法)が、ミクロンメートル〜ミリメートルのオーダー(1μm〜10mm程度)であるものを実質的に意味している。尚、レジストマスタから最終的に得られるプレート状成形品の種類に応じて、レジストマスタの微細パターンBを構成する“微細な窪み”(即ち、“微細凹部”)の形態が一般に異なり得る。例えば、プレート状成形品がウェルプレートなどに相当する場合では、“微細な窪み”または“微細凹部”はウェル形状を有することが多い一方、プレート状成形品がマイクロ化学チップなどに相当する場合では、“微細な窪み”または“微細凹部”はチャンネル形状(溝形状)や流路形状を有することが多い。従って、レジストマスタについて言えば、微細パターンBを構成するウェル形状窪みの開口面の径・深さやチャンネル形状窪みのチャンネル幅・深さなどがミクロンメートル〜ミリメートルのオーダー(1μm〜10mm程度)となっている場合が多い。
【0016】
本発明の製造方法の好適な態様では、レジストマスタの凹部パターンにつき、その深さ寸法が上記放射線(即ち、“微細パターンBを中心とした放射線”)の外側に向かうにつれ漸次小さくなっている。かかる場合、レジストマスタから最終的に得られる成形品では、レジストマスタの凹部パターンに起因して形成された放射線状凹部パターンを“ガイド”として好適に用いることができる。
【0017】
本発明では、上述したスタンパ製造方法で使用されるレジストマスタも提供される。かかるレジストマスタは、
スタンパの微細パターンAの反転形状に相当する微細パターンBが形成されており、そのレジストマスタの微細パターン形成面においては、微細パターンBを中心とした放射線に沿うように凹部パターンが形成されている特徴を有している。
【0018】
かかるレジストマスタでは、微細パターンが形成された領域と形成されていない領域の応力に着目しており、パターン変形が発生し得る微細パターン領域の外周境界部分に三次元的な緩衝パターン(即ち、凹部パターン)を付加的に設け、その緩衝パターンによって三次元的な構造を漸次変化させている。
【0019】
ある好適な態様では、レジストマスタの前記凹部パターンにつき、その深さ寸法が上記放射線の外側に向かうにつれ漸次小さくなっている。逆の見方をすれば、レジストマスタの前記凹部パターンの深さ寸法が上記放射線の内側に向かうにつれ漸次大きくなっている。かかる場合、凹部パターンを構成する各凹部の最大深さ寸法が、微細パターンBにおける各窪みの深さ寸法の半分未満となっていることが好ましい。更には、凹部パターンとして複数の凹部が放射線状に配されていてよく、その場合、複数の凹部のピッチが微細パターンBにおける各窪みのピッチと同程度になっていることが好ましい。
【0020】
上記のようなレジストマスタの態様によって、「微細パターンの外周縁近傍において微細パターン形状が局所的に変形してしまう現象」を抑制できるだけでなく、最終的には上述の成形品にてガイド効果を効果的に得ることができる。
【0021】
本発明では、上述のレジストマスタを母型とした電鋳を行うことによって形成されたスタンパも提供される。かかるスタンパは、
レジストマスタの微細パターンBの反転形状に相当する微細パターンAが形成されており、そのスタンパの微細パターン形成面においては、微細パターンAを中心とした放射線に沿うように凸部パターンが形成されている特徴を有している。
【0022】
本発明のスタンパの好適な態様では、上記凸部パターンにつき、その高さ寸法が放射線の外側に向かうにつれ漸次小さくなっている。逆の見方をすれば、スタンパの上記凸部パターンの高さ寸法が放射線の内側に向かうにつれ漸次大きくなっている。
【0023】
更に、本発明では、上述のスタンパを金型・鋳型として用いた成形によって得られる成形品も提供される。本発明の成形品は、
スタンパの微細パターンAの反転形状に相当する微細パターンCが形成されており、その成形品の微細パターン形成面においては、微細パターンCを中心とした放射線に沿うように凹部パターンが形成されている特徴を有している。
【0024】
本発明の成形品は、プレート状もしくはチップ状の形態を一般に有しており、それゆえ、本発明の成形品を“プレート状成形品”または“チップ”と称することができる。ちなみに、かかるプレート状成形品は、“プレート状”または“チップ状”ゆえに、100μm〜50mm程度の厚さを一般に有し得る。
【0025】
本発明の成形品の好適な態様では、上記凹部パターンにつき、その深さ寸法が上記放射線の外側に向うにつれ漸次小さくなっている。逆の見方をすれば、成形品の凹部パターンの深さ寸法が上記放射線の内側に向うにつれ漸次大きくなっている。その結果、マイクロビーズおよび/または液体が用いられる成形品の用途においては、その凹部パターンが、微細パターンCへとマイクロビーズおよび/または液体を導くためのガイドとして好適に機能し得る。
【発明の効果】
【0026】
本発明のスタンパの製造方法では、「電鋳に際して微細パターンBおよび/またはそこに形成されるめっき膜に生じ得る応力」を凹部パターンにより緩和することができる。これによって、得られるスタンパの微細パターン形成面では“局所的な変形”が効果的に防止される。より具体的には、製造されるスタンパにおいて「微細パターンの外周縁近傍においてのみ微細パターン形状が変形してしまう現象」を抑制することができ、当初の狙い通りの微細パターン(即ち、微細パターンA)を形成することができる。従って、かかるスタンパを金型として用いた成形によって得られる成形品についても、当初の狙い通りの微細パターン(即ち、微細パターンC)を形成できることになる。これは、成形品のウェル数・ウェル形状などの微細構造を正確に把握できることを意味しており、高精度な分析に寄与し得る。また、このように微細パターン領域の“局所的変形”を効果的に防止できるので、その点に鑑みれば、MEMSやμ-TASなどの微細構造物作製におけるスタンパ工程の歩留まりを向上できる。
【0027】
特に、本発明においては、レジストマスタの微細パターン形成面の凹部パターンが放射線に内側に向かうにつれて漸次大きくなっているので、かかるレジストマスタから最終的に得られる成形品においては、レジストマスタの凹部パターンに起因して形成される放射線状凹部パターンを“収容物の誘導部”として好適に用いることができる。換言すれば、本発明に係る成形品では、流路絞りが無くても、放射線状凹部パターンを伝わってビーズ等の収容物を微細パターンへと誘導することができ、その結果、微細パターンの窪みにビーズ等を効率良く捕集することができる。これは、マイクロビーズおよび/または液体が用いられる成形品の実際の用途において、その凹部パターンが、微細パターンCへとマイクロビーズおよび/または液体を導くためのガイドとして機能することを意味している。つまり、本発明は、製造プロセス(即ち、電鋳プロセス)の点で“局所的変形の防止”という効果をもたらすのみならず、実際の用途の点でも“収容物の誘導効果”という好ましい結果をもたらすものである。
【0028】
ちなみに、従来技術においてスタンパないしは成形品の形状精度を出すには、“微細パターンの局所的変形現象”を予め想定した上で設計をしなければならなかったものの、本発明では、微細パターン領域の周囲に凹部パターンを配すだけで形状精度を出すことができる。従って、本発明は、そのような具体的に予測困難な現象を視野に入れた設計を簡易な手段によって省くことができるので有益であるといえるし、更には“収容物の誘導効果”といった付加的な効果も期待できるので実用性も高いといえる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、本発明で用いる“放射線”を概念的に示した図である。
【図2】図2は、レジストマスタの作成過程を模式的に示した工程断面図である。
【図3】図3は、本発明のレジストマスタを模式的に示した上面側平面図および断面図である。
【図4】図4は、本発明のレジストマスタを模式的に示した斜視図および一部断面図である。
【図5】図5は、本発明の成形品の使用態様を説明するための模式図である。
【図6】図6は、トレンチ状凹部の変更態様を模式的に示した平面図である。
【図7】図7は、トレンチ状凹部の変更態様を模式的に示した平面図である。
【図8】図8は、トレンチ状凹部の変更態様を模式的に示した平面図である。
【図9】図9は、トレンチ状凹部の変更態様を模式的に示した平面図である。
【図10】図10は、トレンチ状凹部の変更態様を模式的に示した平面図である。
【図11】図11は、本発明のスタンパを模式的に示した斜視図である。
【図12】図12は、本発明の成形品を模式的に示した斜視図である。
【図13】図13は、比較例1で用いたマスクを模式的に示した平面図である。
【図14】図14は、微細パターン形状の“局所的変形”が生じる微細パターン外周縁近傍を模式的に示した図である(従来技術)。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下では、図面を参照して本発明をより詳細に説明する。まず、本発明のスタンパ製造方法について説明を行う。かかる説明に際して、本発明のレジストマスタの説明も併せて行う。そして、その後、かかるレジストマスタから得られるスタンパおよび成形品について説明を行う。
【0031】
《本発明のスタンパ製造方法およびレジストマスタ》
本発明のスタンパ製造方法の実施に際しては、まず、工程(i)を実施する。つまり、目的とするスタンパの微細パターンAの反転形状に相当する微細パターンBが形成されたレジストマスタを用意する。
【0032】
“スタンパ”は、レジストマスタを母型とした電鋳によって形成されるものであるため、レジストマスタの微細パターンが転写されて成るものである。つまり、電鋳プロセスで母型となるレジストマスタ上にめっき処理を行った後にレジストマスタからめっき部分を剥がし、それをスタンパとして用いるので、スタンパではレジストマスタの形状が反転した形状を有している。従って、本発明の製造方法の工程(i)では、意図されるスタンパの微細パターンAが形成される所望の反転形状を備えたレジストマスタを用意することになる。
【0033】
工程(i)を具体的に説明する。まず、図2(a)に示すようにレジストマスタの土台となる基板10を用意する。基板10は、当該技術分野で一般的に用いられるものであれば特に制限はない。例えば、基板の材質としては、シリコン(Si)またはガラスなどの材質を用いることができる。シリコン基板の場合には「表面が平滑で鏡面状に研磨され、表面に熱酸化膜が形成されたシリコンウエハ」であることが好ましい。尚、基板の厚さは、0.5〜10mm程度であることが好ましい。
【0034】
次いで、図2(b)に示すように、基板10上にレジスト材料を塗布してレジスト膜20を形成する。塗布に好適となるように、レジスト材料は有機溶剤を含んで成ることが好ましい。塗布は、例えばスピン塗布(回転塗布)によって行うことができる。レジスト材料を塗布した後、約70℃〜約120℃程度の加熱処理に付すことが好ましい(即ち、ベーク処理に付すことが好ましい)。これによって、所望のレジスト膜20が形成される。尚、レジスト材料が塗布される面に対しては前処理を施してもよく、例えば、塗布面の疎水性を向上させるべくヘキサメチルジシラザン等を塗布してベーク処理しておいてもよい。
【0035】
塗布されるレジスト材料は、当該技術分野で一般的に用いられるものであれば特に制限はない。つまり、ポジ型レジスト材料であってもよいし、ネガ型レジスト材料であってもよい。具体的なレジスト材料としては、例えば、フェノール系ポリマー、アクリル系ポリマー、スチレン系ポリマー、ビニル系ポリマー、エポキシ樹脂、ポリフタルアルデヒド(PPA)から成る群から選択される少なくとも1種類以上の材料を用いることができる。特にフェノール系ポリマーのノボラック樹脂とジアゾナフトキノン化合物とからなる組成物はポジ型レジストとして一般的に多く用いられる。
【0036】
レジスト膜20を形成した後、図2(c)に示すように、マスク30をレジスト膜20に配して露光を実施する。ここでいう「マスク」は、典型的にはフォトマスクのことを意味しており、露光時の光を透過する部分と透過させない部分を備えた原版のことを意味している。このようなマスク30は、当該技術分野で一般的に用いられるものであれば特に制限はない。当然のことであるが、ポジ型レジスト材料が用いられた場合では露光領域が現像液に溶け出すことになる一方、ネガ型レジスト材料が用いられた場合では露光領域が現像液に溶解しないで残ることになるので、用いられるレジスト材料に応じて適当なマスクを使用すればよい。
【0037】
露光は、当該技術分野で一般的に採用されているものであれば特に制限はなく、密接露光(コンタクト露光)、近接露光(プロキシミティ露光)、等倍投影露光(プロジェクション露光)または縮小投影露光(ステップアンドリピート露光)のいずれであってもかまわない。例えば、図示する態様のように、密接露光を実施してよい。ちなみに、露光に際しては、直接レーザや電子線を用いてもよく、更にはLIGA(Lithographie Galvanoformung Abformung)プロセスのようにシンクロトロン放射光を使用してもよい。
【0038】
露光後、現像処理を実施する。かかる現像処理も当該技術分野で一般的に用いられるものであれば特に制限はない。
【0039】
以上の過程を経ることによって、「製造されるスタンパの微細パターンAの反転形状に相当する微細パターンBが形成されたレジストマスタ40」を得ることができる(図2(d)参照)。
【0040】
ここで、本発明の製造方法で用いられるレジストマスタでは、“微細パターンB以外の形状”も付加的に形成しておく必要がある。つまり、レジストマスタの微細パターン形成面では、微細パターンBに加えて、その微細パターンBを中心とした放射線に沿うような凹部パターンも形成しておく。従って、本発明の製造方法では、露光に際して「微細パターンBと共に上記凹部パターンをも転写形成できるマスクパターンを備えたマスク」を用いることになる。これにつき、マスクパターンの階調ないしは濃淡を自由に変えることが出来る多階調マスクを用いてよい。かかる多階調マスクとしては、グレイトーンマスクとハーフトーンマスクの2種類がある。グレイトーンマスクは、露光機の解像度以下のスリットを作り、そのスリット部が光の一部を遮り、中間露光を実現する。一方、ハーフトーンマスクは「半透過」の膜を利用し、中間露光を行うことができる。いずれも、1回の露光で「露光部分」「中間露光部分」「未露光部分」の3つの露光レベルを実現でき、現像後にレジスト厚さが異なるパターンを得ることができる。
【0041】
工程(i)に引き続いて、工程(ii)を実施する。つまり、レジストマスタを母型とした電鋳を実施することによってスタンパを得る。「電鋳」は、電気めっきと原理的には同じであり、電気化学反応を利用する電着技術である。特に、本発明では、母型として用いるレジストマスタに通電して厚めっきを行い、これを母型から剥離・分離して母型の反対面形状を有するスタンパを得る(即ち、レジストマスタに電着した金属部分をスタンパとして用いる)。
【0042】
電鋳に用いるレジストマスタは不導体であり得るので、電鋳プロセスに先立って、レジストマスタの微細パターン形成面に導電膜を形成して、表面を導体化することが好ましい。導電膜の形成には、例えばスパッタ法、真空蒸着法またはCVD法などを用いてよい。尚、導電膜の厚さは、好ましくは30〜300nm程度であってよい。
【0043】
電鋳プロセスのめっき処理自体は、電解質水溶液を使用する湿式めっき(ウエットプロセス)で行う。つまり、電気めっきを行う。かかる電気めっきでは、典型的には、金属イオンが存在する電解質水溶液に陰極としてレジストマスタを用い、それを外部電源を介して陽極とつないで、外部電源から電気エネルギーを加えて陰極(即ち、レジストマスタ)にて還元反応を生じさせる。その結果、電解質水溶液中の金属イオンがレジストマスタ界面で電子を受け取って金属として析出してめっき層が形成される。めっき層の厚さは、好ましくは50〜1000μm程度、より好ましくは300〜600μm程度である。尚、電鋳金属としては、典型的にはニッケルを用いることができる。しかしながら、ニッケルに限定されず、Ag、Au、Bi、Cd、Co、Cr、Cu、Fe、In、Pd、Pt、Ru、SnおよびZnから成る群から選択される少なくとも1種類以上の金属も電鋳金属として用いることができる。
【0044】
以上のような工程(i)および(ii)を経ることによって、目的とするスタンパを最終的に得ることができる。特に、本発明の製造方法によれば、レジストマスタの微細パターンBの外側に放射線状凹部パターンが形成されているので、電鋳に際して生じ得る応力をかかる凹部パターンにより緩和することができる。より具体的には、『電鋳に際して微細パターンBおよび/またはそこに形成されるめっき膜に生じ得る応力』を放射線状凹部パターンによって緩和することができる。その結果、得られるスタンパにおいては「微細パターンの外周縁近傍における微細パターンの変形」が抑制され、当初の狙い通りの微細パターンAを形成することができる。これは、かかるスタンパを金型として用いた成形で得られる成形品についても、当初の狙い通りの微細パターン(即ち、微細パターンC)を形成できることを意味している。また、本発明に従えば、最終的に得られる成形品において、放射線状凹部パターンをガイドとして用いることができる。これは、マイクロビーズおよび/または液体が用いられる実際の成形品用途において、その凹部パターンが、微細パターンCへとマイクロビーズおよび/または液体を誘導する機能を奏することを意味している。
【0045】
(本発明のレジストマスタ)
次に、上述のスタンパ製造方法に用いるレジストマスタについて詳述する。つまり、本発明のレジストマスタについて説明を行う。かかるレジストマスタは、上述したように、その微細パターン形成面にて微細パターンBを中心とした放射線に沿って凹部パターンが形成されている。このような態様を図3および図4に示す。図3は、本発明のレジストマスタの上面側平面図および断面図を示しており、図4は、本発明のレジストマスタの斜視図を示している。
【0046】
図3および図4に示すように、本発明のレジストマスタ40では、微細パターン領域の外側において凹部パターン50を形成し、それによって“電鋳時に微細パターン領域に生じ得る応力”を緩和している。特に、微細パターン領域を中心とした放射線に沿って凹部パターンを配して電鋳時の応力を緩和している。このような意味から、本発明では、かかる凹部パターン50が形成された領域を“応力緩衝領域”ないしは“緩衝パターン領域”と呼ぶことができる。
【0047】
かかる応力緩衝領域の凹部パターンは、それが微細パターンBを中心として放射線状に形成されていれば特に制限はない。しかしながら、本発明では、図3および図4に示すように、凹部パターンを構成する各凹部の深さ寸法が放射線の外側に向かうにつれ漸次小さくなっていることが好ましい。かかる場合、各凹部の形状は、図示するように(特に図4に示すように)、“トレンチ(trench)”形状を有することになる(従って、放射線状凹部パターンを構成する各凹部のことを「トレンチ状凹部」と称すことができる)。そして、レジストマスタから最終的に得られる成形品では、この“トレンチ”に起因して放射線状凹部パターンをガイドとして好適に用いることができる。つまり、“トレンチ”によって“収容物の誘導効果”が効果的に発揮され得る。
【0048】
かかる“収容物の誘導効果”につき詳述する。本発明で最終的に得られる成形品は、使用に際して「複数のマイクロビーズ」および「液体」を含んだ分散体と共に用いられる場合が多い。具体的には、本発明の成形品の“窪み設置面”(即ち、窪みが設けられているプレート面)に対して、マイクロビーズと液体とから成る分散液を供すことによって、窪みの各々にマイクロビーズと液体とを共に収容させたり、あるいはマイクロビーズと液体とが窪みを通過するように分散液を流したりする。例えば“収容”に際しては、マイクロビーズおよび液体の自重に起因した沈降作用を利用してよいものの、必要に応じてデバイスを傾けたりする。
【0049】
例えば図5に示すようなチップ状成形品にマイクロビーズ分散液を供した場合、ウェル領域101を通過しようとするビーズはウェル内に捕集されるものの、ウェル左側領域102およびウェル右側領域103を通るビーズは、そのまま通過してしまう。この場合、流路自体を狭めて、ウェル領域のみ通過する構造とする方法もあるが、液体が流れる流路を絞るために圧力損失が生じることになる。もしくは、流路幅とウェル領域幅とを同一にしなければならず、ウェルあるいは流路が形状的に制約されてしまうことになる。この点、本発明に係る成形品では、放射線状凹部パターン(“トレンチ状凹部”)によってビーズをウェル領域へと誘導することができる。つまり、ウェル領域101以外の領域を通過しようとするビーズがあったとしても、そのようなビーズは放射線状凹部パターンに流入することになり、トレンチ状凹部にガイドされてウェル領域へと導かれる。特に、マイクロビーズ分散液を流す際には、一度のみの場合や何度も往復してウェル領域を何回も通過させる場合があるが、本発明に係る成形品では、その往復回数を減じることができ、効率的なビーズ捕捉が実現される。
【0050】
ビーズがより効率的に捕捉されるように、各トレンチ状凹部の内側端部は、図4(b)および(c)に示すように“斜め”に形成されていてよい。つまり、トレンチ状凹部の内側端部はテーパー状に形成されていてもよい。また、ビーズなどの効率的な捕捉のためには、各トレンチ状凹部の深さ寸法は大きいほうがより好ましい。しかしながら、その深さはビーズが係止・停止しない深さにする必要があるので、ビーズ径Dの半分未満であることが好ましい(つまり、トレンチ状凹部の最大深さはD/2未満であることが好ましい)。
【0051】
ここで、各ウェル(即ち微細パターンを構成する“各窪み”)においてはビーズが収容された後、ビーズが反応液に十分に浸漬される必要がある。このためウェルの深さ寸法Yは少なくとも使用するビーズ径D以上である必要がある。また同時にウェルはビーズを1個のみしか収容しない構造にしておく必要がある。このためウェルの深さは最大でも1.5Dより小さくする必要がある。ビーズが縦に直列に並んだ場合でもウェル深さ寸法Yが1.5Dよりも小さければ、2つのビーズのうち少なくとも1つはウェル外に半分以上の体積を有しており、重心もウェル外にあることから、ビーズが分散されている溶液の流れによって、一度収容されてもウェル外へとビーズが排出されることになる。つまり、好ましいウェル深さYはD〜1.5Dの範囲であるといえる。
【0052】
以上を総括すると、トレンチ状凹部の深さ寸法とウェル深さ寸法Yとビーズ径Dとの相関関係に基づき、各トレンチ状凹部の最大深さはY/2より小さい値が好ましいといえ(ビーズ径Dとウェル深さYとが同じ値の場合)、また、かかるトレンチ状凹部の最大深さの下限値は、好ましくはY/3であるといえる(ウェル深さYがビーズ径Dの1.5倍の場合)。
【0053】
本発明では、トレンチ状凹部の深さ寸法を調整することによって、“電鋳時に微細パターン領域に生じ得る応力”を好適に緩和することができる。例えば、図3の断面図に示すようなトレンチ状凹部の深さ寸法LDは、微細パターンBを構成する各窪み60の深さ寸法よりも小さいことが好ましく、例えば好ましくは5〜65μm、より好ましくは15〜55μm、更に好ましくは25〜45μm程度である。また、トレンチ状凹部の延在長さを調整することによっても“電鋳時に微細パターン領域に生じ得る応力”を好適に緩和することができる。例えば、図3の断面図に示すようなトレンチ状凹部の延在長さLBは、その幅寸法よりも大きいことが好ましく、例えば好ましくは30〜1000μm、より好ましくは100〜500μm、更に好ましくは200〜400μm程度である。
【0054】
また、微細パターン領域の外側エッジからのトレンチ状凹部の離隔距離を調整することによっても、“電鋳時に微細パターン領域に生じ得る応力”を好適に緩和することができる。例えば、図3の断面図に示すような離隔距離LAは、好ましくは5〜200μm、より好ましくは5〜100μm、更に好ましくは10〜50μm程度である。更に言えば、応力緩衝領域のトレンチ状凹部の幅寸法を調整することによっても、“電鋳時に微細パターン領域に生じ得る応力”を好適に緩和することができる。例えば、図3の平面図に示すようなトレンチ状凹部の幅寸法Lwは、微細パターンBを構成する各窪み60の幅寸法と同程度であることが好ましく、例えば好ましくは5〜200μm、より好ましくは10〜100μm、更に好ましくは20〜50μm程度である。
【0055】
《トレンチ状凹部の種々の態様》
トレンチ状凹部の態様としては、その他に種々の態様が考えられる。以下それについて説明する。
【0056】
(トレンチ状凹部のピッチ)
トレンチ状凹部のピッチは、微細パターンを構成する各窪みのピッチ以上となっていてよい。例えば、各窪みのピッチは20〜100μm程度であるので、トレンチ状凹部のピッチがそれ以上となっていてよい。しかしながら、トレンチ状凹部のピッチが大きすぎると応力緩和の効果が弱まることになる一方、そのピッチが小さすぎるとビーズ誘導効果が弱まるので、その点に鑑みれば、トレンチ状凹部のピッチが微細パターンを構成する各窪みのピッチと同程度であることが好ましい。かかる場合、図3および図4に示すように微細パターンBを構成する各窪み60と隣り合う位置に各トレンチ状凹部60が配されていることが更に好ましい。
【0057】
(トレンチ状凹部の幅寸法)
ある好適な態様では、図6に示すように、トレンチ状凹部50の幅寸法が外側から内側に向けて徐々に変化しているものであってもよい(別の表現を用いれば、トレンチ状凹部の幅寸法が、上流側から下流側に向けて徐々に変化しているものであってよい)。このような場合、トレンチ状凹部50の内側端部の幅寸法が微細パターンBを構成する各窪み60の径寸法よりも小さくなっていてよい(図7参照)。このような態様であっても、“電鋳時に微細パターン領域に生じ得る応力”を好適に緩和できると共に、最終的に得られる成形品で“収容物の誘導効果”を好適に得ることができる。
【0058】
尚、図8に示すようにウェル領域(即ち、微細パターン領域)の左斜め側および/または右斜め側のトレンチ状凹部の幅寸法をより長くしてもよい。これにより、最終的に得られる成形品の用途において、ウェル領域の左側102または右側103を通過するはずのビーズをウェル領域101へと意図的に誘導できる(図5も併せて参照のこと)。尚、図8に示す態様につき、ウェルの上流側に相当する幅寸法7c1〜7c8は相互に等しい長さであることが原則好ましいが、ビーズや流路の特性上、中央部にビーズが流れや易い場合では中央付近のトレンチ状凹部の幅寸法を小さくしてよい。同様に、外周部へとビーズが流れやすい場合はより外側・端側のトレンチ状凹部の幅寸法(例えば7c1および7c8)を小さくしてよい。つまり、トレンチ状凹部の幅寸法を調整することによって、捕集ビーズ数の制御を好適に行うことができる。
【0059】
更には、ウェル領域の左側または右側に位置するトレンチ状凹部50が図9に示すような形状を有していてもよい。つまり、かかるトレンチ状凹部50が斜めに配されていてもよい。このような態様にすることによって、ウェル領域の左側102または右側103に流れてきたビーズをより効果的にウェル領域101へと誘導することができる。ちなみに、図9に示すようなトレンチ配置角度αは、0°〜90°の範囲で選択され得るが、好ましくは15°〜60°程度であり、より好ましくは25°〜50°程度である。
【0060】
(扇形トレンチ状凹部)
典型的には、トレンチ状凹部の数は、図3および図4に示すようにウェルの行数あるいは列数とほぼ同じとなっている(コーナー領域を除く)。しかしながら、トレンチ状凹部の数が極端に少ないものであってもよい。即ち、複数のトレンチ状凹部を結合したような形態であってもよく、例えば図10に示すように扇形のトレンチ形態であってもよい。ちなみに、図10に示す態様は、図9のトレンチ状凹部を部分的に結合したものに相当する。
【0061】
《本発明のスタンパ》
次に、本発明のスタンパについて説明する。本発明のスタンパは、上述のスタンパ製造方法を実施することによって得られるスタンパである。つまり、本発明のスタンパは、本発明のレジストマスタを母型とした電鋳を行うことによって形成されたものである。かかるスタンパは、レジストマスタの微細パターンBの反転形状に相当する微細パターンAが形成されており、かつ、微細パターンAを中心とした放射線に沿って凸部パターンも形成されている。
【0062】
例示として本発明のスタンパ70を図11に示す。図示するスタンパ70は、図3および図4のレジストマスタを用いた電鋳によって得られるスタンパである。図示するように、スタンパの微細パターン形成面では、レジストマスタの微細パターンBの反転形状に相当する微細パターンAが形成されていると共に、その微細パターンAを中心とした放射線に沿うように凸部パターン50’が形成されている。かかる凸部パターン50’は、レジストマスタの凹部パターン50に起因しており、その反転形状に相当する。つまり、スタンパの形状は、その製造に用いられるレジストマスタの形状に起因するため、スタンパの微細パターンAおよび凸部パターンの各種寸法は、レジストマスタの微細パターンBおよび凹部パターンと同様になり得る。
【0063】
例えば、スタンパの凸部50’の高さ寸法は、図示するように、放射線の外側に向かうにつれ漸次小さくなっている。かかる場合、各凸部50’の形状は、レジストマスタの場合と同様、図示するように“トレンチ形状”を有することになる(従って、放射線状凸部パターンを構成する各凸部50’のことを「トレンチ状凸部」と称すことができる)。
【0064】
トレンチ状凸部50’の最大高さ寸法は、微細パターンAを構成する各隆起部60’の高さ寸法よりも小さいことが好ましく、例えば好ましくは5〜65μm、より好ましくは15〜55μm、更に好ましくは25〜45μm程度である。また、トレンチ状凸部50’の延在長さは、その幅寸法よりも大きいことが好ましく、例えば好ましくは30〜1000μm、より好ましくは100〜500μm、更に好ましくは200〜400μm程度である。
【0065】
また、例えば、微細パターン領域Aの外側エッジからのトレンチ状凸部50’の離隔距離は、好ましくは5〜200μm、より好ましくは5〜100μm、更に好ましくは10〜50μm程度である。更に言えば、トレンチ状凸部50’の幅寸法は、微細パターンAを構成する各隆起部60’の幅寸法と同程度であり得、例えば好ましくは5〜200μm、より好ましくは10〜100μm、更に好ましくは20〜50μm程度である。
【0066】
その他、レジストマスタの形状に応じて、スタンパのトレンチ状凸部50’は、その幅寸法が内側に向かって徐々に小さくなったり、あるいは、内側端部が斜めに形成されていたりする。
【0067】
スタンパの材質は、電鋳に用いためっき金属(即ち“電鋳金属”)の種類に依存しており、例えばNi、Ag、Au、Bi、Cd、Co、Cr、Cu、Fe、In、Pd、Pt、Ru、SnおよびZnから成る群から選択される少なくとも1種類以上の金属材料である。また、スタンパの厚さは、電鋳時のめっき厚に依存しているが、例えば50〜1000μm程度である。
【0068】
《本発明の成形品》
次に、本発明の成形品について説明する。本発明の成形品は、上述のスタンパを金型ないしは鋳型として用いた射出成形を行うことによって得られるものである。具体的には、金属製スタンパの外形を加工し、それを成形機に取り付けて射出成形を実施することによって本発明の成形品を得ることができる。成形樹脂としては、種々の樹脂を用いることができる。例えば、環状ポリオレフィン、シクロオレフィン樹脂、ポリカーボネート、アモルファスポリオレフィン、ポリジメチルシロキサン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルエーテル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアリルアミン、ポリビニルアルコール、ポリテトラフルオロエチレン、アクリロニトリル樹脂、ブタジエン樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリアミド、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイミン、ポリフェニレンスルファイド、ポリスルホン、ポリエーテルサルフォン、非晶ポリアリレート、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトンおよびポアミドイミドから成る群から選択される少なくとも1種以上のポリマーを用いることができる。
【0069】
本発明の成形品は、スタンパの微細パターンAの反転形状に相当する微細パターンCが形成されており、成形品の微細パターン形成面においては、微細パターンCを中心とした放射線に沿って凹部パターンが形成されている特徴を有している。
【0070】
例示として本発明の成形品80を図12に示す。図示する成形品80は、図11のスタンパを用いた成形によって得られる成形品である。図示するように、成形品80の微細パターン形成面では、スタンパの微細パターンAの反転形状に相当する微細パターンCが形成されていると共に、その微細パターンCを中心とした放射線に沿って凹部パターン50''が形成されている。かかる凹部パターン50''は、スタンパの凸部パターン50'に起因しており、その反転形状に相当する。つまり、成形品の形状は、その成形に用いられるスタンパの形状に起因するため、成形品の微細パターンCおよび凹パターンの各種寸法は、スタンパの微細パターンAおよび凸部パターンと同様になり得る。これは、成形品の微細パターンCおよび凹パターンの各種寸法が、レジストマスタの微細パターンBおよび凹部パターンと同様になり得ることも意味している。
【0071】
例えば、成形品の凹部50''の深さ寸法は、図示するように、放射線の外側に向かうにつれ漸次小さくなっている。かかる場合、各凹部50''の形状は、レジストマスタおよびスタンパの場合と同様、図示するように“トレンチ形状”を有することになる(従って、放射線状凹部パターンを構成する各凹部50''のことを「トレンチ状凹部」と称すことができる)。
【0072】
トレンチ状凹部50''の最大深さ寸法は、微細パターンCを構成する各窪み60''の深さ寸法よりも小さいことが好ましく、例えば好ましくは5〜65μm、より好ましくは15〜55μm、更に好ましくは25〜45μm程度である。また、トレンチ状凹部50''の延在長さは、その幅寸法よりも大きいことが好ましく、例えば好ましくは30〜1000μm、より好ましくは100〜500μm、更に好ましくは200〜400μm程度である。
【0073】
また、例えば、微細パターン領域Cの外側エッジからのトレンチ状凹部50''の離隔距離は、好ましくは5〜200μm、より好ましくは5〜100μm、更に好ましくは10〜50μm程度である。更に言えば、トレンチ状凹部50''の幅寸法は、微細パターンCを構成する各窪み60''の幅寸法と同程度であり得、例えば好ましくは5〜200μm、より好ましくは10〜100μm、更に好ましくは20〜50μm程度である。
【0074】
その他、スタンパの形状に応じて(即ち、レジストマスタの形状に応じて)、成形品のトレンチ状凹部50''は、その幅寸法が内側に向かって徐々に小さくなったり、あるいは、内側端部が斜めに形成されていたりする。
【0075】
本発明の成形品の用途について触れておく。典型的には、本発明の成形品は、使用に際して「複数のマイクロビーズ」および「液体」を含んだ分散体と共に用いられる場合が多い。具体的には、本発明の成形品の“窪み設置面”に対して、マイクロビーズと液体とから成る分散液を供すことによって、窪みの各々にマイクロビーズと液体とを共に収容させたり、あるいはマイクロビーズと液体とが窪みを通過するように分散液を流したりする。例えば“収容”に際しては、マイクロビーズおよび液体の自重に起因した沈降作用を利用してよいものの、必要に応じてデバイスを振揺に付したりする。
【0076】
「マイクロビーズ」および「液体」について詳述しておく。「マイクロビーズ」は、メディカルサイエンスやバイオサイエンスの分野において常套的に用いられている微粒子のことを実質的に意味している。マイクロビーズとしては、金属微粒子、ポリマー微粒子またはガラス、酸化物磁性体、その他のセラミック等の無機物微粒子などの微粒子だけでなく、細胞、微生物、細菌類、花粉、胞子およびその他の生体関連粒子などの粒状物であってもよい。このようなマイクロビーズは、球状、楕円状、米粒状、針状または板状などの各種形状を有し得る。ここでいう「球状」とは、アスペクト比(種々の方向で測定した場合の最大長さと最小長さとの比)が1.0〜1.2の範囲にある形状を指し、「楕円状」とは、アスペクト比が1.2〜1.5の範囲(但し、1.2を含まない)にある形状を指している。また、「米粒状」とは、その名の通り、“米粒”のような形状を意味している。後述でも触れるが、“窪みへの収容”が促進される観点でいうと、マイクロビーズが液体中で沈む場合には球形状を有していることが好ましい。マイクロビーズの平均サイズ(即ち“ビーズ径D”)は、例えば、好ましくは0.005μm〜10mm程度、より好ましくは0.01μm〜5mm程度である。ここでいう「サイズ」とは、ビーズのあらゆる方向における長さのうち最大となる長さを実質的に意味している。そして、「平均サイズ」とは、ビーズの透過型電子顕微鏡写真または光学顕微鏡写真に基づいて例えば300個のビーズのサイズを測定し、その数平均として算出したものを実質的に意味している。一方、「液体」は、メディカルサイエンスやバイオサイエンスの分野においてマイクロビーズと共に常套的に用いられる液体であって、例えば、水、溶剤、バッファー、反応溶液または検体液などである。液体の粘度は、特に制限はなく、液体中の成分を利用するときの条件下にて液体が流動性を有していればよい。マイクロプレートデバイスに供される分散液(即ち、マイクロビーズと液体とから成る分散液)のマイクロビーズの含有量は、特に制限されるわけではないが、0.01〜50体積%程度である。尚、マイクロビーズの絶対量または個数は用途によって変わり得る。例えば“窪み”が1万個のウェルであれば、マイクロビーズの個数も少なくとも1万個であることが好ましく、それに応じた絶対量を有するマイクロビーズが分散液に含まれていればよい。
【0077】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明の適用範囲のうちの典型例を例示したに過ぎない。従って、本発明はこれに限定されず、種々の改変がなされ得ることを当業者は容易に理解されよう。例えば、以下の事項を挙げることができる。
【0078】
● 図4、図11または図12などに示す態様では、トレンチ形状が“四角形状”となっているものの、必ずしもかかる態様に限定されるわけではない。例えば、トレンチ形状が“楕円形状”や“三角形状”などであってよく、また、その断面形状が“三角形”や“台形”などであってもよい。
【0079】
● 本発明のスタンパ製造方法で用いる電鋳では、Ni、Ag、Au、Bi、Cd、Co、Cr、Cu、Fe、In、Pd、Pt、Ru、SnおよびZnから成る群から選択される少なくとも1種類以上の金属を用いることができるものの、必ずしもかかる態様に限定されるわけではない。例えば、Ag、Au、Bi、Cd、Co、Cr、Cu、Fe、In、Ni、Pd、Pt、Ru、Sn、Znのいづれかの金属を主体とした合金めっきや、PTFE(ポリテトラフロロエチレン)などを分散してめっき皮膜に取り込みロール状あるいは平面板のスタンパを作製することも出来る。また、Mn、Gd、Sm、W、Sb、Mo、P、B、Sなどをめっき皮膜中に積極的に取り込むことによって、硬度や潤滑性、粘り強さを高めたロール状あるいは平面板の合金製スタンパを作ることもできる。
【0080】
● 本明細書では、めっき液を用いた湿式めっきによってレジストマスタを得る態様について説明してきたが、必ずしもかかる態様に限定されるわけではなく、溶融めっきおよび真空めっき(PVDやCVDなど)などの乾式めっきであっても、本発明の効果としては実質的に変わりはない。
【0081】
● 本明細書では主としてフォトリソグラフィーによってレジストマスタを得る態様について説明してきたが、必ずしもかかる態様に限定されるわけではなく、同様の微細パターンおよび凹部パターンを形成できるのであれば、いずれの作製法を採用してもよい。
【0082】
● 本明細書では主として射出成形によって成形品を得る態様について説明してきたが、必ずしもかかる態様に限定されるわけではなく、同様の微細パターンおよび凹部パターンを形成できるのであれば、いずれの成形法を採用してもよい(例えば、ナノインプリントなどの技術を適用してもよい)。
【0083】
尚、本発明は、下記の態様を有するものであることを確認的に述べておく。
[第1態様]:凹凸形状の微細パターンAが形成された微細パターン群を少なくとも1箇所以上有し、
該微細パターン群とそれを取り巻く三次元的に異なる形状を有する周辺領域Bとの間に境界領域Cが存在する微細パターン群において、
該境界領域Cに三次元構造を段階的に緩衝するための緩衝パターン領域Eを設けており、
該緩衝パターン領域Eの個々のトレンチ形状について、微細パターンAの高さあるいは深さをYとしたとき、トレンチ深さTzの範囲が最大でも1/2Yよりも小さい値を有することを特徴とする微細パターンの集合構造物。
[第2態様]:ビーズ径Dよりも大きい凹凸形状の微細パターンAが形成された微細パターン群を少なくとも1箇所以上有し、
該微細パターン群とそれを取り巻く三次元的に異なる形状を有する周辺領域Bとの間に境界領域Cが存在する微細パターン群において、
該境界領域Cに三次元構造を段階的に緩衝するための緩衝パターン領域Eを設けており、
該緩衝パターン領域Eの個々のトレンチ形状が、使用するビーズ径Dに対して1/2D以下の高さ・深さを有することを特徴とする微細パターンの集合構造物。
[第3態様]:上記第1または第2の態様の集合構造物において、トレンチ形状の寸法につき、ビーズ収容用ウェル側が最も深くなっており、ウェルから遠くなるにしたがい徐々に浅くなっていることを特徴とする微細パターンの集合構造物。
[第4態様]:上記第1または第2の態様の集合構造物において、トレンチ形状の寸法につき、ビーズ収容用ウェル側のトレンチ終端が、ウェル径以下の幅となっていることを特徴とする微細パターンの集合構造物。
[第5態様]:上記第1または第2の態様の集合構造物において、トレンチ形状の寸法につき、トレンチ幅が上流から下流に向けて可変となっていることを特徴とする微細パターンの集合構造物。
[第6態様]:上記第1または第2の態様において、トレンチ領域の中心線がウェル領域の中心線と同一直線上に位置することを特徴とする微細パターンの集合構造物(図5参照)。
[第7態様]:上記第1または第2の態様において、各トレンチ間隔が、ウェルのピッチ以上あるいはそれ以下であることを特徴とする微細パターンの集合構造物。
[第8態様]:上記第1または第2の態様において、トレンチの数がウェルの行数あるいは列数と同じか、若しくはそれ以下の数であることを特徴とする微細パターンの集合構造物。
[第9態様]:上記第1または第2の態様において、トレンチの終端角度が90°以上であることを特徴とする微細パターンの集合構造物。
[第10態様]:上記第1または第2の態様において、緩衝パターン領域Eの形状につき、平面部と側壁の稜が面取りされていることを特徴とする微細パターンの集合構造物。
[第11態様]:上記第1または第2の態様において、環状ポリオレフィン、シクロオレフィン樹脂、ポリカーボネート、アモルファスポリオレフィン、ポリジメチルシロキサン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、アクリロニトリル樹脂、ブタジエン樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルファイド、ポリスルホン、ポリエーテルサルフォン、非晶ポリアリレート、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトンおよびポアミドイミドから成る群から選択される少なくとも1種以上のポリマーを含んで成ることを特徴とする微細パターンの集合構造物。
[第12態様]:上記第1または第2の態様において、集合構造物の土台となる基板がシリコンあるいはガラスを含んで成ることを特徴とする微細パターンの集合構造物。
[第13態様]:上記第1または第2の態様において、集合構造物がAg、Au、Bi、Cd、Co、Cr、Cu、Fe、In、Ni、Pd、Pt、Ru、SnおよびZnから成る群から選択される少なくとも1種以上の成分を含んで成るロール状あるいは平面板の金属製金型であることを特徴とする微細パターンの集合構造物。
[第14態様]:上記第1または第2の態様において、集合構造物がMn、Gd、Sm、W、Sb、Mo、P、BおよびSから成る群から選択される少なくとも1種以上の成分を含んで成るロール状あるいは平面板の金属製金型であることを特徴とする微細パターンの集合構造物。
【実施例】
【0084】
本発明の効果を確かめるために、以下の比較例および実施例1〜3を実施した。
【0085】
《局所的変形防止の確認》
(比較例1)
比較例1として従来法によりスタンパを作製した。まず、“レジストマスタ”を作成した。具体的には、「表面が平滑であって鏡面状に研磨されていると共に、表面に熱酸化膜が形成されたシリコンウエハ基板」に対してヘキサメチルジシラザンを塗布して、140℃で10分間ベークした。次いで、厚膜用のポジ型フォトレジスト(東京応化製PMER P-LA900PM)を35μmの厚さでスピンコート法により塗布した。引き続いて、微細なウェルパターンが形成されているクロムマスク(図13参照、穴径φ30μmおよびピッチ45μmであって、φ30μmのウェル間に15μmの間隔を形成するためのマスク)をレジスト上に配置して超高圧UV光により密着露光を行った。この露光に用いたUV光源としては、g線(436nm)、h線(405nm)およびI線(365nm)を含んでいた。露光後、基板をTMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド)3%の溶液により浸して現像を行うことによって、レジストマスタを得た。
【0086】
この時点のレジストマスタでは、微細パターンの境界部分に“変形”が生じてないことを顕微鏡により確認した。
【0087】
かかるレジストマスタに対して導電膜としてNiスパッタ膜を形成した後、電鋳を実施した。具体的には、スルファミン酸ニッケルめっき液を用い、これにpH緩衝用の硼酸および陽極Niの溶解を促進するための塩化Niを添加した。pH調整にはスルファミン酸を用い、常にpH3.8〜4.2の範囲になるように調整した。めっき液の温度は50℃とし、めっき液を常時濾過した。このような条件下で電鋳を実施した。
【0088】
上記電鋳により得られたスタンパ(厚さ400μm)の微細パターン外周部をSEMにより観察したところ、微細パターンとその周辺部との境界付近に形状変形(即ち“局所的な変形”)がみられた。
【0089】
付加的に、めっき時の電流密度を調整し応力を様々に変化させる試験も行った。“めっき膜応力”は、同じめっき液を用い、環境も同条件に設定してストリップ式応力測定試験により求めた。結果を表1に示す。
【0090】
(実施例1)
実施例1として本発明に従ってスタンパを作製した。具体的には図3および図4に示すようなレジストマスタを用いてスタンパを作製した(ちなみに、トレンチ部の最大深さはビーズ径25μmの半分値となる12.5μmに設定した)。
【0091】
より具体的には、「表面が平滑であって鏡面状に研磨されていると共に、表面に熱酸化膜が形成されたシリコンウエハ基板」に対してヘキサメチルジシラザンを塗布して、140℃で10分間ベークした。次いで、厚膜用のポジ型フォトレジスト(東京応化製PMER P-LA900PM)を35μmの厚さでスピンコート法により塗布した。引き続いて、微細なウェルパターンとそれを中心に放射状に延びる凹部パターンが形成されているクロムマスクをレジスト上に配置して超高圧UV光により密着露光を行った。本実施例では、凹部パターンの高さ調整ができるように、マスクとしてはハーフトーンマスクを用いた(特にハーフトーンマスクの濃度を256分割し、徐々に濃淡を変更した)。露光に用いたUV光源としては、比較例1と同様、g線(436nm)、h線(405nm)およびI線(365nm)を含んでいた。露光後、基板をTMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド)3%の溶液により浸して現像を行うことによって、レジストマスタを得た。
【0092】
この時点のレジストマスタでは、微細パターンの境界部分に“変形”が生じてないことを顕微鏡により確認した。
【0093】
かるレジストマスタに対して導電膜としてNiスパッタ膜を形成した後、電鋳を実施した。具体的には、スルファミン酸ニッケルめっき液を用い、これにpH緩衝用の硼酸および陽極Niの溶解を促進するための塩化Niを添加した。pH調整にはスルファミン酸を用い、常にpH3.8〜4.2の範囲になるように調整した。めっき液の温度は50℃とし、めっき液を常時濾過した。このような条件下で電鋳を実施した。
【0094】
上記電鋳により得られたスタンパ(厚さ400μm)の微細パターン外周部をSEMにより観察したところ、実施例1では、微細パターンとその周辺部との境界付近に形状変形(即ち“局所的な変形”)がみられなかった。
【0095】
尚、比較例1と同様、めっき時の電流密度を調整し応力を様々に変化させる試験を行うことによって“めっき膜応力”の大小による“形状変形”の有無を調べた。結果を表1に示す。
【0096】
(実施例2)
実施例2として本発明に従ってスタンパを作製した。具体的には図7に示すようなトレンチ状凹部を備えたレジストマスタを用いてスタンパを作製した。用いたマスクのパターンを変更した以外は、実質的に実施例1と同様の操作によってスタンパを得た。
【0097】
上記電鋳により得られたスタンパの微細パターン外周部をSEMにより観察したところ、実施例2では、微細パターンとその周辺部との境界付近に形状変形はみられなかった。そして、比較例1と同様、めっき時の電流密度を調整し応力を様々に変化させる試験を行うことによって“めっき膜応力”の大小による“形状変形”の有無を調べた。結果を表1に示す。
【0098】
(実施例3)
実施例3として本発明に従ってスタンパを作製した。具体的には図10に示すようなレジストマスタを用いてスタンパを作製した。用いたマスクのパターンを変更した以外は、実質的に実施例1と同様の操作によりスタンパを得た。
【0099】
上記電鋳により得られたスタンパの微細パターン外周部をSEMにより観察したところ、実施例3では、微細パターンとその周辺部との境界付近に形状変形はみられなかった。そして、比較例1と同様、めっき時の電流密度を調整し応力を様々に変化させる試験を行うことによって“めっき膜応力”の大小による“形状変形”の有無を調べた。結果を表1に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
表1において、めっき応力がプラス側では引っ張り応力を表し、マイナス側では圧縮応力を表している。0は応力がほぼ無い状態と推定される条件である。そして、表1において、「×」はほぼ全周にわたりパターンの変形が確認されたことを示している。一方、「○」は変形なし、「△」は一部箇所に若干の変形が見られたことを示している。
【0102】
表1から分かるように、比較例1では略全ての条件で変形が確認された。応力がほぼ0の条件でも一部分に若干の変形がみられたことから、めっき膜全体の応力のみではなく、微細パターン自体の三次元的な構造により、周辺部の応力が変化しているのではないかとも推察される。これに対して、実施例1〜3では、ほとんどの条件で「変形なし」となり、本発明の“レジスト凹部パターン”が有効であることが確認された。
【0103】
《ビーズ誘導効果の確認》
比較例1および実施例1〜3のスタンパを用いて得られる成形品を用いてビーズ捕集効率を調べた。
【0104】
(成形品の射出成形)
まず、比較例1および実施例1〜3のスタンパから射出成形により成形品(チップ)を得た。具体的には、金属製スタンパの外形を加工して成形機に取り付けた上で、シクロオレフィン樹脂を成形樹脂として用いて射出成形を実施した(樹脂温度:340℃、鋳型温度:125℃、射出速度:300mm/s、保持圧力:70MPa)。かかる射出成形によって、本発明のチップ状成形品を得ることができた。かかる成形品では、フローマーク等の欠陥がなく、高精度に微細パターンが確実に転写された。これにより、「スタンパの凸部パターン(即ち、レジストマスタの凹部パターンに起因して形成された凸部)」が微細パターンに影響を及ぼさないことが分かった。
【0105】
(ビーズ捕集効率の確認試験)
試験に用いたチップは、縦横に320ずつウェルが形成され合計で102400のウェルを備えたものであった(ウェル領域はチップの中央部に位置していた)。このチップに対して図5で示したように別のチップを蓋として用いて圧着させ、流路を作製した。その後、水に約10万個以上のジルコニアビーズを分散させて成る分散液をチップ開口部へと流した。その後、ウェルに沈降して収容されたビーズを数えた。これを10回繰り返した。結果を表2に示す。
【0106】
【表2】
【0107】
表2から分かるように、比較例1(トレンチ無し)に対して実施例1〜3(トレンチ有り)は、総じてビーズ捕集率が高くなり、本発明の“トレンチ状凹部”がガイドとして有効に機能を発揮することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明のスタンパ製造方法から最終的に得られるプレート状成形品(即ち、本発明のレジストマスタおよびスタンパから得られる樹脂成形品)を用いると、標的物質の分析、抽出または精製や、細胞の分離、検出またはスクリーニングなどができる(特に、かかる処理・操作を一度に多量に行うことができる)。従って、本発明のプレート状成形品は、遺伝子解析、発現解析、蛋白解析、抗原・抗体反応解析または細胞解析等の用途に供すことができる。
【符号の説明】
【0109】
10 基板
20 レジスト膜
30 マスク
40 レジストマスタ
50 応力緩衝領域を構成する凹部パターン(トレンチ状凹部)
60 微細パターンBを構成する各窪み
70 スタンパ
50’ 凸部パターン(トレンチ状凸部)
80 成形品
50'' 凹部パターン(トレンチ状凹部)
101 ウェル領域
102 ウェルの左側領域
103 ウェルの右側領域
104 ウェル領域中心線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタンパを製造するための方法であって、
(i)前記スタンパの微細パターンAの反転形状に相当する微細パターンBが形成されたレジストマスタを用意する工程、および
(ii)前記レジストマスタを母型とした電鋳を実施することによって、微細パターンAが形成されたスタンパを得る工程
を含んで成り、
前記工程(i)で用意される前記レジストマスタの微細パターン形成面においては、微細パターンBを中心とした放射線に沿うように凹部パターンを形成し、
前記工程(ii)においては、前記電鋳に際して生じ得る応力を前記凹部パターンにより緩和することを特徴とする、スタンパの製造方法。
【請求項2】
前記レジストマスタの前記凹部パターンにつき、その深さ寸法が前記放射線の外側へと向かうにつれ漸次小さくなっていることを特徴とする、請求項1に記載のスタンパの製造方法。
【請求項3】
スタンパの製造に用いるレジストマスタであって、
前記スタンパの微細パターンAの反転形状に相当する微細パターンBが形成されており、
前記レジストマスタの微細パターン形成面においては、微細パターンBを中心とした放射線に沿うように凹部パターンが形成されていることを特徴とするレジストマスタ。
【請求項4】
前記レジストマスタの前記凹部パターンにつき、その深さ寸法が前記放射線の外側へと向かうにつれ漸次小さくなっていることを特徴とする、請求項3に記載のレジストマスタ。
【請求項5】
前記凹部パターンを構成する各凹部の最大深さ寸法が、微細パターンBにおける各窪みの深さ寸法の半分未満となっていることを特徴とする、請求項4に記載のレジストマスタ。
【請求項6】
前記凹部パターンとして、複数の凹部が放射線状に形成されており、前記複数の凹部のピッチが、微細パターンBにおける各窪みのピッチと同じになっていることを特徴とする、請求項3〜5のいずれかに記載のレジストマスタ。
【請求項7】
請求項3〜6のいずれかに記載のレジストマスタを母型とした電鋳を行うことによって形成されたスタンパであって、
前記レジストマスタの微細パターンBの反転形状に相当する微細パターンAが形成されており、
前記スタンパの微細パターン形成面においては、微細パターンAを中心とした放射線に沿うように凸部パターンが形成されていることを特徴とするスタンパ。
【請求項8】
前記凸部パターンにつき、その高さ寸法が前記放射線の外側へと向かうにつれ漸次小さくなっていることを特徴とする、請求項7に記載のスタンパ。
【請求項9】
請求項7または8に記載のスタンパを金型として用いた成形によって得られる成形品であって、
前記スタンパの微細パターンAの反転形状に相当する微細パターンCが形成されており、
前記成形品の微細パターン形成面においては、微細パターンCを中心とした放射線に沿うように凹部パターンが形成されていることを特徴とする成形品。
【請求項10】
前記成形品の前記凹部パターンにつき、その深さ寸法が前記放射線状の外側へと向うにつれ漸次小さくなっており、
マイクロビーズおよび/または液体が用いられる前記成形品の用途においては、前記凹部パターンが、微細パターンCへと前記マイクロビーズおよび/または液体を導くためのガイドとして機能することを特徴とする、請求項9に記載の成形品。
【請求項1】
スタンパを製造するための方法であって、
(i)前記スタンパの微細パターンAの反転形状に相当する微細パターンBが形成されたレジストマスタを用意する工程、および
(ii)前記レジストマスタを母型とした電鋳を実施することによって、微細パターンAが形成されたスタンパを得る工程
を含んで成り、
前記工程(i)で用意される前記レジストマスタの微細パターン形成面においては、微細パターンBを中心とした放射線に沿うように凹部パターンを形成し、
前記工程(ii)においては、前記電鋳に際して生じ得る応力を前記凹部パターンにより緩和することを特徴とする、スタンパの製造方法。
【請求項2】
前記レジストマスタの前記凹部パターンにつき、その深さ寸法が前記放射線の外側へと向かうにつれ漸次小さくなっていることを特徴とする、請求項1に記載のスタンパの製造方法。
【請求項3】
スタンパの製造に用いるレジストマスタであって、
前記スタンパの微細パターンAの反転形状に相当する微細パターンBが形成されており、
前記レジストマスタの微細パターン形成面においては、微細パターンBを中心とした放射線に沿うように凹部パターンが形成されていることを特徴とするレジストマスタ。
【請求項4】
前記レジストマスタの前記凹部パターンにつき、その深さ寸法が前記放射線の外側へと向かうにつれ漸次小さくなっていることを特徴とする、請求項3に記載のレジストマスタ。
【請求項5】
前記凹部パターンを構成する各凹部の最大深さ寸法が、微細パターンBにおける各窪みの深さ寸法の半分未満となっていることを特徴とする、請求項4に記載のレジストマスタ。
【請求項6】
前記凹部パターンとして、複数の凹部が放射線状に形成されており、前記複数の凹部のピッチが、微細パターンBにおける各窪みのピッチと同じになっていることを特徴とする、請求項3〜5のいずれかに記載のレジストマスタ。
【請求項7】
請求項3〜6のいずれかに記載のレジストマスタを母型とした電鋳を行うことによって形成されたスタンパであって、
前記レジストマスタの微細パターンBの反転形状に相当する微細パターンAが形成されており、
前記スタンパの微細パターン形成面においては、微細パターンAを中心とした放射線に沿うように凸部パターンが形成されていることを特徴とするスタンパ。
【請求項8】
前記凸部パターンにつき、その高さ寸法が前記放射線の外側へと向かうにつれ漸次小さくなっていることを特徴とする、請求項7に記載のスタンパ。
【請求項9】
請求項7または8に記載のスタンパを金型として用いた成形によって得られる成形品であって、
前記スタンパの微細パターンAの反転形状に相当する微細パターンCが形成されており、
前記成形品の微細パターン形成面においては、微細パターンCを中心とした放射線に沿うように凹部パターンが形成されていることを特徴とする成形品。
【請求項10】
前記成形品の前記凹部パターンにつき、その深さ寸法が前記放射線状の外側へと向うにつれ漸次小さくなっており、
マイクロビーズおよび/または液体が用いられる前記成形品の用途においては、前記凹部パターンが、微細パターンCへと前記マイクロビーズおよび/または液体を導くためのガイドとして機能することを特徴とする、請求項9に記載の成形品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−168812(P2011−168812A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31491(P2010−31491)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】
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