説明

ステンレス鋼の取鍋精錬方法

【課題】 ステンレス鋼のLF精錬の操業時にCaSiワイヤーを溶鋼に投入することによりCa添加量を調整する方法において、CaSiワイヤーの投入速度を改善し、Ca添加の歩留りを向上させることによりCaSiワイヤーの投入量を低減させる方法を提供することである。
【解決手段】 電気炉で原料のスクラップを溶解および精錬し、得られたステンレス鋼の溶鋼をさらに取鍋精錬し、この精錬の終期にCaSiワイヤーを溶鋼中に投入してCa添加を行って溶鋼の成分を調整する。すなわち、CaSiワイヤーの投入速度を最適の100m/mmの速度にすることで、投入したCaSiワイヤーを取鍋底部に到達させて順次に溶解せしめ、溶鋼中へのCa添加量の歩留りを最大の6.7%に向上させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はステンレス鋼を炉外精錬として取鍋精錬する方法に関し、特に取鍋の溶鋼中にCa添加する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のステンレス鋼の精錬は、電気炉で原料のスクラップの溶解および精錬を行いステンレス溶鋼とし、さらに品質要求を満たすため炉外精錬として精錬機能の一部をさらに取鍋に移行して、例えば取鍋精錬(以下、「LF精錬」という。)により、精錬する。このLF精錬は例えば取鍋内の溶鋼のスラグ中でアークを発生させ、Arガスをバブリングして溶鋼とスラグを混合攪拌しながら取鍋内を非酸化性雰囲気に維持した状態で脱酸や脱硫や脱リンを行って精錬する方法である。この炉外精錬は、酸素、硫黄、リンなど除去と成分調整の方法として広く採用されている。
【0003】
このLF精錬によるステンレス鋼の溶製において、得られたステンレス鋼に被削性を持たせるために、溶鋼中にCa添加をする。すなわち、溶鋼中にCa添加をするために、図3に示す工程により、電気炉で溶解、精錬したステンレス鋼を取鍋中に出鋼し、除滓した後、さらにLF精錬において精錬の終期に質量%でCa30.88%およびSi61.08%のCaSiワイヤーを投入することでCa添加して酸素や硫黄を除去する。この場合、CaSiワイヤーで投入する理由は、Ca単体ではCaが酸化するためにCaSiの合金の状態で投入する。ところで、このCaSiワイヤーを溶鋼中に投入する場合、例えば溶鋼155tを収容した取鍋に、径9.2mmのCaSiワイヤーを、投入速度200m/min、投入量4800mで投入し、Ca添加量を目標とする管理濃度に調整して精錬する。この方法において、CaSiワイヤーの投入速度が速すぎると、未溶解のCaSiワイヤーが取鍋底部に堆積する。また、この堆積したCaSiワイヤーが精錬末期に一度に溶解して、溶鋼とCaの急激な反応を起こしてCa添加の歩留りを悪化する。一方、CaSiワイヤー投入速度が遅いと、CaSiワイヤーが取鍋底部に達する前に溶解し、スラグとCaが反応して、この場合も溶鋼へのCa添加の歩留りを悪化する。
【0004】
従来、LF精錬においては、合金添加ができるようになっている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
【特許文献1】「鉄鋼便覧」第4版、第2巻、第2編、1797頁、日本鉄鋼協会編、2002年7月発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、ステンレス鋼の被削性を持たせるためにCa添加する精錬方法としてLF精錬の操業時にCaSiワイヤーを溶鋼に投入することによりCa添加量を調整する方法において、このCaSiワイヤーの投入速度を改善し、Ca添加の歩留りを向上させることにより、CaSiワイヤーの投入量を低減させる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従来のLf精錬の方法では、Ca添加の歩留りが低かったため、CaSiワイヤーの投入量を多くすることで、Caの濃度を目標値の管理幅内に調整していた。しかし、CaSiワイヤーの投入量を多くすることで、CaSiワイヤーの投入速度が速くなり、Ca添加の歩留りを悪化していた。
【0008】
本発明の解決するための手段は、請求項1の発明の手段では、ステンレス鋼の溶製において、電気炉で原料のスクラップを溶解および精錬して得た溶鋼を取鍋に出鋼し、LF精錬の終期に、CaSiワイヤーを、CaSiワイヤーが取鍋の鍋底で順次に溶解する速度に合わせた投入速度で投入して溶鋼中へのCa添加歩留りを向上させることを特徴とするステンレス鋼の炉外精錬方法である。
【0009】
請求項2の発明の手段は、ステンレス鋼の溶製において、電気炉で原料のスクラップを溶解および精錬して得た溶鋼を取鍋に出鋼し、LF精錬の終期に、CaSiワイヤーを投入速度80m/min以上、100m/min以下の投入速度で投入して溶鋼中へのCa添加歩留りを向上させることを特徴とするステンレス鋼の炉外精錬方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の手段として請求項1の手段では、CaSiワイヤーの投入速度を取鍋底部で順次適切に溶解する速度としたことで、さらに請求項2の手段では、CaSiワイヤーを投入速度80m/min以上、100m/min以下の投入速度としたことで、溶鋼中へのCa添加の留りが最も向上した状態に最適化できると共に、CaSiワイヤーの投入量を減少することができるなど、本願発明は従来にない優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施の形態を説明する。電気炉で常法どうりに原料のスクラップを溶解および精錬し、得られたステンレス鋼の溶鋼を、さらに炉外精錬するために取鍋に出鋼してLF精錬し、精錬の終期に質量%でCa30.88%およびSi61.08%のCaSiワイヤーを溶鋼中に投入してCa添加を行って溶鋼の成分を調整するものとする。そこで、LF精錬におけるステンレス鋼の溶鋼の温度に対するCaSiワイヤーの溶解速度を多方面から検討した。この結果、CaSiワイヤーの投入速度を上げすぎると、CaSiワイヤーが取鍋底部に到達して一度に溶解してしまうので溶鋼中へのCa添加の歩留りを悪化し、逆にCaSiワイヤーの溶鋼中への投入速度を下げすぎると、CaSiワイヤーが取鍋底部に到達するまでにCaSiワイヤーが溶解してしまい、この場合も溶鋼中へのCa添加の歩留りを悪化することを見出した。そこでCaSiワイヤーの投入速度を100m/minに調整することで、投入したCaSiワイヤーが取鍋底部に到達して順次に溶解することとなり、溶鋼中へのCa添加の歩留りを向上することができた。この場合、取鍋の溶鋼深さは、2400mm、溶鋼温度1520℃、CaSiワイヤーの径は9.2mmであった。
【実施例1】
【0012】
電気炉にてJIS規格のSUS304CAとしてのステンレス原料としてスクラップを155tを投入し、溶解および精錬した後、得られたステンレス溶鋼を取鍋に出鋼し、出鋼後RH脱ガス装置で脱炭を行うものとした。LF精錬はArガスおよび酸素をバブリングガスとした取鍋にスラグを150mm(3t)程度残し、造滓せずに成分調整を行った。この方法の工程図を図1に示す。得られた溶鋼の鋳造開始直前にCaSiワイヤーを取鍋に投入した。このCaSiワイヤーの径はφ9.2mmであった。
【0013】
CaSiワイヤーの投入速度(m/min)を変えて溶鋼中へのCa添加の歩留(%)の変化を求め、これを表1に示した。この場合、ワイヤー添加中は取鍋の溶鋼中にArガスおよび酸素の混合バブリングガスを10〜15Nm3として吹き込み、ワイヤー添加後は40Nm3として溶鋼の撹拌を行った。
【0014】
【表1】

【0015】
最もCa添加の歩留りの良かったCaSiワイヤーの投入方法は、図2からCa歩留りが6.7%と最も高いCaSiワイヤーの投入速度を示す100m/minとし、その投入量を2400mとした。この結果、溶鋼のCa濃度は管理幅に入り、CaSiワイヤー投入量を減らすことができた。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明におけるCaSiワイヤーを投入するLF精錬方法の工程図である。
【図2】CaSiワイヤー投入速度によるCa歩留りの変化を示すグラフである。
【図3】従来の方法におけるCaSiワイヤーを投入するLF精錬方法の工程図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼の溶製において、電気炉で原料のスクラップを溶解および精錬して得た溶鋼を取鍋に出鋼し、取鍋精錬の終期にCaSiワイヤーをCaSiワイヤーが取鍋の鍋底で順次に溶解する速度に合わせた投入速度で投入して溶鋼中へのCa添加歩留りを向上させることを特徴とするステンレス鋼の炉外精錬方法。
【請求項2】
ステンレス鋼の溶製において、電気炉で原料のスクラップを溶解および精錬して得た溶鋼を取鍋に出鋼し、取鍋精錬の終期にCaSiワイヤーを投入速度80m/min以上、100m/min以下の速度で投入して溶鋼中へのCa添加歩留りを向上させることを特徴とするステンレス鋼の炉外精錬方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−57612(P2009−57612A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−227180(P2007−227180)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(000180070)山陽特殊製鋼株式会社 (601)
【Fターム(参考)】