説明

スパッタリングターゲット、その製造方法、反射膜、及び有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】低コストで、かつ反射率、密着性に優れるCu合金反射膜を提供する。
【解決手段】Cuが60〜98wt%、及びZnが2〜40wt%及び/又はNiが2〜40wt%であるCu合金からなるCu合金反射膜。このCu合金反射膜と導電性金属酸化物薄膜が積層されたCu合金反射膜積層体。これらCu合金反射膜又はCu合金反射膜積層体を含む有機エレクトロルミネッセンス素子30。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリングターゲット、その製造法、反射膜、反射膜積層体、及び有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネセンス(EL)素子は、自己発光素子であり、直流低電圧での駆動が可能であるため、次世代ディスプレイとして注目されている。
【0003】
有機EL素子を用いた有機ELディスプレイの構造としては、大きく分けてパッシブマトリクスパネルとアクティブマトリクスパネルとがある。パッシブマトリクスパネルは、構造が単純である反面、線順次駆動のため100mA/cm以上のパルス状の大電流を流す必要があり、(1)有機EL材料への負担が大きく輝度劣化が速い、(2)配線部での消費電力が大きく大面積化しにくい、といった欠点があった。
一方、アクティブマトリクス駆動は、支持基板上に配置したTFT素子により画素毎に選択して駆動する。そのため、20mA/cm以下の低く直流的な電流で駆動でき、有機EL材料への負担が小さく寿命が長く、配線抵抗の観点でも大面積化が容易であるという特徴がある。
【0004】
しかしながら、アクティブマトリクスパネルでは支持基板上にTFT素子を設ける必要がある。支持基板側から有機ELの発光を取り出すボトムエミッション構造では、TFT素子に遮られて開口率が小さくなり高輝度化を図りにくい。そこで近年、TFT駆動による表示では、開口率向上のために、基板の反対側より光を取り出すトップエミッション型有機ELディスプレイに注目が集まり、対応する有機EL素子の試作が試みられている。
トップエミッション型有機ELディスプレイを形成する単位画素は、TFT素子部と連結されたトップエミッション型有機EL素子から構成される。支持基板上に光反射層、電荷注入性電極、有機発光層、上部透明電極を積層した構造になっている。
【0005】
従来のトップエミッション型有機EL装置の反射膜には、Ag,Au,Al等の金属が使用されていた。しかし、Agは反射率が高く加工しやすい反面、支持基板として用いるガラスに対する密着性がなく腐食されやすい問題があった。Auは腐食等には強いが、高価であり一部の可視光領域で反射率が低いという問題があり、Alは安価であり加工性にも富むが、成膜後のパターニング等の後工程にて表面が酸化され白濁化して反射率が低下する等の問題があった。
また、これら金属に共通する欠点として、反射膜の表面粗さが数十nmと大きくなることがあり、同じく数十〜100nm程度の有機発光層をつきやぶって、対向電極と接触し、素子製造の歩留まりを低下させるという問題があった。
さらに、合金化により透明導電膜との接触抵抗の問題を克服する試みがなされている(例えば、特許文献1及び2)。しかし、合金化により薄膜を製造し、エッチング加工をする際に、レジスト現像液により電池反応を起し、Al合金薄膜が溶解してしまう等の問題があった。
【特許文献1】特開2003−332262号公報
【特許文献2】特開2004−214606号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の第一の目的は、低コストで、かつ反射率、密着性に優れるCu合金反射膜を提供することである。
本発明の第二の目的は、発光効率が高い有機EL素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究した結果、Cuを主体とする電極で、Niが2〜40wt%及び/又はZnが2〜40wt%であるCu合金が反射膜として優れていることを見出した。そして、このCu合金膜を反射膜とした有機EL素子が、比較的高い発光効率を示し、かつ高歩留まりでの製造が可能であることを見出し、本発明を完成させた。
本発明によれば、以下のスパッタリングターゲット等が提供される。
1.Cuが60〜98wt%、及びNiが2〜40wt%及び/又はZnが2〜40wt%であるCu合金からなることを特徴とするCu合金スパッタリングターゲット。
2.Cuが60〜98wt%、及びNiが2〜40wt%及び/又はZnが2〜40wt%であるCu合金を鋳造後、圧延加工もしくは鍛造して製造することを特徴とするCu合金スパッタリングターゲットの製造方法。
3.Cuが60〜98wt%、及びNiが2〜40wt%及び/又はZnが2〜40wt%であるCu合金からなることを特徴とするCu合金反射膜。
4.ガラスとの密着強度をスクラッチ試験法により測定した値が5ニュートン以上であることを特徴とする3項記載のCu合金反射膜。
5.1記載のターゲットを用いて、スパッタリングにより成膜することを特徴とする3又は4記載のCu合金反射膜の製造方法。
6.スパッタリングに用いるスパッタガスが水素を含有していることを特徴とする5記載のCu合金反射膜の製造方法。
7.3又は4記載のCu合金反射膜と導電性金属酸化物薄膜が積層されたことを特徴とするCu合金反射膜積層体。
8.前記導電性金属酸化物薄膜が、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズから選択される1種以上の導電金属酸化物よりなることを特徴とする7記載のCu合金反射膜積層体。
9.前記導電性金属酸化物薄膜が、ランタノイド系元素を含有することを特徴とする7又は8記載のCu合金反射膜積層体。
10.3又は4記載のCu合金反射膜を含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
11.支持基板と、3又は4記載のCu合金反射膜と、第一の電荷注入性電極と、発光媒体と、第二の電荷注入性電極とをこの順に含み、前記発光媒体の発する光が第二の電荷注入性電極の側から取り出されることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
12.前記第一の電荷注入性電極が導電性金属酸化物薄膜であることを特徴とする11記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
13.前記導電性金属酸化物薄膜が、酸化インジウム、酸化亜鉛及び酸化スズから選択される1種以上の導電性金属酸化物よりなることを特徴とする12記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
14.前記導電性金属酸化物薄膜が、ランタノイド系元素を含有することを特徴とする12又は13記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低コストで、かつ反射率が高く、密着性に優れるCu合金反射膜を提供できる。また、本発明によれば、発光効率が高い有機EL素子を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のCu合金スパッタリングターゲットはCuが60〜98wt%、及びNiが2〜40wt%及び/又はZnが2〜40wt%であるCu合金からなることを特徴とする。
Cu合金中のNiの含有量が2wt%未満では、可視光のうちの青色領域の光に対する反射膜の反射率が小さくなり、結果として着色する場合がある。40wt%を超えると反射膜の機械的強度が低下する場合がある。
Cu合金中のNiの含有量は好ましくは5〜30wt%、より好ましくは10〜25wt%である。
Cu合金中のZnの含有量が2wt%未満ではNiの場合と同様な理由で着色する場合がある。40wt%を超えると薄膜の強度、密着性が低下する場合がある。
Znの含有量は好ましくは2〜20wt%、より好ましくは2〜10wt%である。
【0010】
本発明のスパッタリングターゲットにおいて、Niの形態は、Cu中に分散していればよいが、好ましくはCu−Ni合金を形成する。Cu−Ni合金は、完全な固溶体を形成していることが望ましい。
【0011】
本発明のスパッタリングターゲットにおいて、Znの形態は、Cu中に分散していればよい。Ni−Zn合金を形成する場合もあるが、Cu−Ni合金中に完全に固溶していることが望ましい。
【0012】
Zn及び/又はNiの粒子は、Cu中に均一に分散していることが好ましい。大きな結晶粒子として存在すると、異常放電の原因になる場合がある。Cu、Ni及びZnの粒子の大きさは、通常10μm未満、好ましくは5μm未満である。
また、Cu、及びZn及び/又はNiの合金結晶粒子も、Cu中に均一に分散していることが好ましい。合金結晶粒子の大きさは、通常30μm未満、好ましくは20μm未満である。
【0013】
本発明のスパッタリングターゲットは、Cu合金を鋳造後、圧延加工もしくは鍛造して製造することができる。また、鋳造に代えて金属焼結を行った後に、圧延加工もしくは鍛造しても製造することができる。
Cu合金は鋳造又は金属焼結後、圧延加工もしくは鍛造することが好ましい。
これらの加工を行わないと、結晶が著しく成長し異常放電の原因になる場合がある。
圧延加工もしくは鍛造することにより成長しすぎた結晶粒子が壊れ、異常放電の発生を抑えることができる。
原料となるCu合金の組成は、上述したスパッタリングターゲットのCu合金の組成と同じである。製造過程において、組成はほとんど変わらない。
【0014】
本発明のスパッタリングターゲットを用いて、Cuが60〜98wt%、Niが2〜40wt%及び/又はZnが2〜40wt%であるCu合金からなる薄膜状のCu合金反射膜を得ることができる。
【0015】
Cu合金反射膜の成膜方法は、蒸着、電子線蒸着、イオンプレーティング、パルスレーザーデポジション法等を用いることができるが、成膜した膜の表面平滑性、密着性が良好である理由でスパッタリングが好適に用いられる。また、スパッタリングにより成膜すると、膜密度も高くなる。
【0016】
Cu合金反射膜をスパッタリングで成膜する場合、装置内に充填させるスパッタガスが水素ガスを含有していることが好ましい。
水素ガスを共存させることにより、薄膜内部に取り込まれる酸素の量を低減でき、反射率、膜の表面平滑性、密着性が良好な薄膜が得られる。
水素ガスの含有量は、特に限定されないが、通常スパッタガス全体量に対して、0.1〜10体積%であり、好ましくは1〜5体積%である。
【0017】
このCu合金反射膜は、基板となるガラスとの密着強度をスクラッチ試験法により測定した値が、5ニュートン以上であるのが好ましく、10ニュートン以上がより好ましい。
【0018】
本発明のCu合金反射膜は、基板ガラスとの密着性が良好で、反射率が高く、スパッタリング中に異常放電を起こすことが少なく、そのため、表面平滑性がよい。従って、このCu合金反射膜は、有機EL装置の電極として好適に使用できる。また、Cu合金反射膜と導電性金属酸化物薄膜の積層体も、有機EL装置の電極として使用できる。
【0019】
導電性金属酸化物としては、例えば酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズから選択される1種以上の導電金属酸化物がある。具体的には、スズドープ酸化インジウム(ITO)、亜鉛ドープ酸化インジウム(IZO)、酸化スズ−酸化亜鉛混合酸化物等がある。
【0020】
有機EL装置に使用するとき、Cu合金反射膜の膜厚は、通常0.01〜1.0μm、好ましくは0.1〜0.5μmである。0.01μmを下回ると光透過性が強くなり反射膜としての機能を失う恐れがある。1.0μmを超えると、反射膜をパターニングする必要が生じたとき加工性が悪くなる等の不具合が生じる恐れがある。
導電性金属酸化物薄膜の膜厚は、通常0.01〜0.5μm、好ましくは0.05〜0.2μmである。
【0021】
続いて、本発明のCu合金反射膜を使用した有機EL素子について、図面を用いて説明する。
図1は本発明の有機EL素子を含む有機EL装置の一実施形態である。図1の有機EL装置10は、基板20、有機EL素子30及び封止基板40からなり、基板20の反対側から光を取り出すトップエミッション型である。
有機EL素子30は、陽極31、発光媒体32及び陰極(第二の電荷注入性電極)33から構成されている。さらに陽極31は、Cu合金反射膜34と導電性金属酸化物薄膜である第一の電荷注入性電極35で構成されている。即ち、陽極には上述した本発明の積層体が使用されている。発光媒体32からは全方向に光が発せられる。矢印に示すように、陽極31(基板20)方向に発せられた光は、Cu合金反射膜34で反射され基板20の反対側から取り出される。
【0022】
基板としては、従来から使用されているガラス基板や樹脂基板が使用できる。
発光媒体は、少なくとも有機発光層を含み、その他、正孔注入/輸送層、電子注入/輸送層等を有する積層体であってもよい。有機発光層、正孔注入/輸送層及び電子注入/輸送層は、それぞれ単層であってもよく2層以上形成してもよい。
発光媒体は、本技術分野で公知である材料を使用して形成でき、特定のものに限定されない。
【0023】
第一の電荷注入性電極は、少なくとも発光媒体に接するように、Cu合金反射膜と発光媒体の界面に設けられ、発光媒体へ電荷を注入する機能を有する。
尚、図1の有機EL装置には、電極としてCu合金反射膜と第一の電荷注入性電極の積層体を使用したが、Cu合金反射膜は電気伝導性に優れるため、Cu合金反射膜だけを電極として使用することもできる。この場合には、Cu合金反射膜にも接するように第一の電荷注入性電極を設けることが好ましい。
【0024】
Cu合金反射膜の表面は、空気に曝されると酸化が進行し表面の反射率が変化する場合がある。従って、表面酸化を防ぐ薄膜をCu合金反射膜の表面に覆うことが好ましい。
絶縁性の金属酸化物の薄膜でCu合金反射膜の表面を覆う方法もあるが、導電性が失われ、電極としては使用できなくなる恐れがある。従って、第一の電荷注入性電極をCu合金反射膜の表面に覆うことが好ましい。Cu合金反射膜上に第一の電荷注入性電極を積層することにより反射膜として安定化する。
第一の電荷注入電極は、上述した導電性金属酸化物薄膜からなることが好ましい。
【0025】
導電性金属酸化物薄膜は、ランタノイド系元素を含有することが好ましい。ランタノイド系元素を含むと、有機EL素子が安定して作動する。具体的には、駆動電圧が低下し素子の寿命が伸びる。さらに、ランタノイド元素を添加することにより、導電性金属酸化物の仕事関数を例えば5.6eV以上と大きくすることができ、有機EL用陽極として作用しやすくなる。
ランタノイド元素としては、Ce,Sm,Nd,Gd等が好適に使用される。
【0026】
第二の電荷注入電極としては、上述した第一の電荷注入電極と同じ導電性金属酸化物が好ましく使用できる。
尚、光を取り出すため、可視光領域において光透過性を有するものを使用する。また、第二の電荷注入電極を陰極として使用する場合、導電性金属酸化物と仕事関数の小さい金属(Mg−Ag合金等)の積層体を電荷注入電極として形成してもよい。
【0027】
本発明のCu合金反射膜及びCu合金反射膜積層体を有機EL装置の電極として使用すると、反射率が長時間安定するので、有機EL装置の動作が安定する。
尚、図1に示す装置は、基板20、有機EL素子30及び封止基板40からなるが、この他、色変換部材、カラーフィルター等、必要に応じ種々な部材を含むことができる。
【実施例】
【0028】
実施例1
表1に示す組成で、Cuに、Zn及びNiを加えて真空溶融炉により溶解し、冷却固化させた。その後、圧延加工を行い板状に加工し、さらに、切削、研削加工を行い4インチφのターゲットとした。これを、バッキングプレートに張り合わせた。
得られたターゲットの結晶合金の粒径を走査型電子顕微鏡の二次電子像により測定した。結果を表1に示す。
【0029】
実施例2〜3、比較例1〜4
表1に示す組成で実施例1と同様にターゲットを作製し、粒径を測定した。結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
実施例4〜7、比較例5〜8
実施例1〜3、比較例1〜4で得られたターゲットを用いて、表2に示す条件で、スパッタリングにより、スライドガラス上に成膜した。
得られた薄膜の性能を、以下の方法により評価した。結果を表2に示す。
【0032】
(1)平滑性
原子間力顕微鏡(AFM)により測定した。
【0033】
(2)剥離荷重
剥離強度はスクラッチ試験により測定した。具体的には、下記条件でのスクラッチ試験後の試料を、光学顕微鏡により観察し、下地のガラス(ウエハ)が露出した点を皮膜の剥離点とし、スクラッチ開始点からの距離を測長することにより、剥離荷重を算出した。
スクラッチ試験機:CSEM社製、Micro−Scratch−Tester
スクラッチ距離:20mm
スクラッチ荷重:0−10ニュートン
荷重レート:10ニュートン/分
スクラッチ速度:20mm/分
ダイヤモンドコーン形状:先端200μmφ
【0034】
(3)導電率
薄膜の導電率は四端針法により測定した。
【0035】
(4)反射率
薄膜の反射率は反射率計により測定した。
【0036】
【表2】

【0037】
実施例1〜3のスパッタリングターゲットは、合金結晶粒子の粒径が小さいので、合金薄膜をスパッタリングで作製する際に異常放電を起こさなかった。また、実施例4〜7の合金薄膜は、表面平滑性に優れ、ガラスとの密着性も良好で、反射率も反射性電極と使用するのに十分高かった。
【0038】
実施例8
実施例3で得られたターゲットを用いて、膜厚200nmの膜(反射膜)を室温、Ar100%雰囲気にてスパッタリング法にて成膜した。その後、酸化インジウム:酸化亜鉛:酸化セリウム(85:10:5wt%)のターゲットを用いて、膜厚100nmの膜(導電性薄膜)を室温、Ar100%雰囲気にてスパッタリング法にて成膜した。得られた積層体の仕事関数を理研計器製AC−1にて測定した結果、5.7eVであった。
積層体を、65℃、湿度90%の環境下に、125時間放置したとき、反射率に変化はなかった。
【0039】
比較例9
比較例2で使用したAlターゲットを用いて、膜厚200nmの膜(反射膜)を室温、Ar100%雰囲気にてスパッタリング法にて成膜した。その後、酸化インジウム:酸化亜鉛(90:10wt%)のターゲットを用いて、膜厚100nmの膜(導電性薄膜)を室温、Ar100%雰囲気にてスパッタリング法にて成膜した。得られた積層体の仕事関数を理研計器製AC−1にて測定した結果、5.2eVであった。
積層体を、65℃、湿度90%の環境下に、125時間放置したとき、450nmでの反射率が65%まで低下した。この積層体は耐久性のないものであった。
【0040】
実施例9
実施例5と同じ条件で、厚さ0.7mmのガラス基板上に200nmの厚みで反射膜(Cu合金反射膜)を成膜した。次に反射膜上にスズドープ酸化インジウム(ITO)をスパッタリング法により10nmの厚みで成膜した。このITO膜は第一の電荷注入電極として機能する。次にITO膜上に下記式のAlqを真空蒸着法により60nmの厚みで成膜した。この膜は有機発光層として機能する。次にAlq膜上に下記式のNPDを真空蒸着法により40nmの厚みで成膜した。この膜は電子輸送層として機能する。
【0041】
【化1】

【0042】
次に、NPD膜上にMgAgを真空蒸着法により厚さ10nmの厚みで成膜した。このとき、MgとAgの成膜速度比が9:1となるように成膜した。次にMgAg膜上に亜鉛ドープ酸化インジウム(IZO)を90nmの厚さになるように成膜した。MgAg膜とIZO膜の積層体は第二の電荷注入電極として機能する。このように各層を形成し、有機EL素子を完成させた。
得られた有機EL素子について、通電試験を行った。電流密度が10mA/cmになるように電圧を印加したときの、色度座標(CIEx,CIEy)は(0.354,0.575)、発光効率(L/J)は2.16cd/Aであった。また、−5Vの逆バイアス電圧印加時のリーク電流は0.66nAであった。
尚、色度座標(CIEx,CIEy)は分光放射輝度計CS−1000A(コニカミノルタ社製)にて測定した。
発光効率(L/J)は分光放射輝度計CS−1000Aで計測された輝度L(単位:cd/m)を電流密度J(=10mA/cm)で割ることにより算出した。
リーク電流は、ソースメジャーユニット236型(ケースレーインスツルメンツ社製)で測定した。このリーク電流は、電極間ショート発生の指標となり、大きいほどショートが発生していることになる。
評価結果を表3に示す。
【0043】
比較例10
比較例6と同じ条件で反射膜を成膜した以外は、実施例9と同様にして有機EL素子を作製し、評価した。評価結果を表3に示す。
【0044】
比較例11
比較例5と同じ条件で反射膜を成膜した以外は、実施例9と同様にして有機EL素子を作製し、評価した。評価結果を表3に示す。
【0045】
比較例12
比較例8と同じ条件で反射膜を成膜した以外は、実施例9と同様にして有機EL素子を作製し、評価した。評価結果を表3に示す。
【0046】
【表3】

【0047】
表3より、比較例10及び11のように反射膜の表面粗さが大きいとリーク電流が大きくなる、すなわちショート発生が多くなる。また、比較例12のように反射率が低い材料を反射膜として使用すると発光効率が低くなる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のCu合金反射膜及びCu合金反射膜積層体は、トップエミッション型有機EL装置の電極として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の有機EL素子の一実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0050】
10 有機EL装置
20 基板
30 有機EL素子
31 陽極
32 発光媒体
33 陰極(第二の電荷注入性電極)
34 Cu合金反射膜
35 第一の電荷注入性電極
40 封止基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cuが60〜98wt%、及びNiが2〜40wt%及び/又はZnが2〜40wt%であるCu合金からなることを特徴とするCu合金スパッタリングターゲット。
【請求項2】
Cuが60〜98wt%、及びNiが2〜40wt%及び/又はZnが2〜40wt%であるCu合金を鋳造後、圧延加工もしくは鍛造して製造することを特徴とするCu合金スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項3】
Cuが60〜98wt%、及びNiが2〜40wt%及び/又はZnが2〜40wt%であるCu合金からなることを特徴とするCu合金反射膜。
【請求項4】
ガラスとの密着強度をスクラッチ試験法により測定した値が5ニュートン以上であることを特徴とする請求項3項記載のCu合金反射膜。
【請求項5】
請求項1記載のターゲットを用いて、スパッタリングにより成膜することを特徴とする請求項3又は4記載のCu合金反射膜の製造方法。
【請求項6】
スパッタリングに用いるスパッタガスが水素を含有していることを特徴とする請求項5記載のCu合金反射膜の製造方法。
【請求項7】
請求項3又は4記載のCu合金反射膜と導電性金属酸化物薄膜が積層されたことを特徴とするCu合金反射膜積層体。
【請求項8】
前記導電性金属酸化物薄膜が、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズから選択される1種以上の導電金属酸化物よりなることを特徴とする請求項7記載のCu合金反射膜積層体。
【請求項9】
前記導電性金属酸化物薄膜が、ランタノイド系元素を含有することを特徴とする請求項7又は8記載のCu合金反射膜積層体。
【請求項10】
請求項3又は4記載のCu合金反射膜を含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項11】
支持基板と、請求項3又は4記載のCu合金反射膜と、第一の電荷注入性電極と、発光媒体と、第二の電荷注入性電極とをこの順に含み、前記発光媒体の発する光が第二の電荷注入性電極の側から取り出されることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項12】
前記第一の電荷注入性電極が導電性金属酸化物薄膜であることを特徴とする請求項11記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項13】
前記導電性金属酸化物薄膜が、酸化インジウム、酸化亜鉛及び酸化スズから選択される1種以上の導電性金属酸化物よりなることを特徴とする請求項12記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項14】
前記導電性金属酸化物薄膜が、ランタノイド系元素を含有することを特徴とする請求項12又は13記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。


【図1】
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【公開番号】特開2007−39781(P2007−39781A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−312682(P2005−312682)
【出願日】平成17年10月27日(2005.10.27)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】