スパッタ装置及びスパッタ法
【課題】ある1つのターゲットから飛散したスパッタ粒子が他のターゲットに付着することを防止できるスパッタ装置及びスパッタ法を提供する。
【解決手段】プラズマを生成させるプラズマ室、及び該プラズマ室に連通した成膜室を含む容器を備え、該容器内に設置された少なくとも2つ以上のターゲットをプラズマでスパッタし、スパッタされたターゲットから飛散したスパッタ粒子を成膜室内に設置された基板の表面に堆積させて薄膜を形成するスパッタ装置であって、2つ以上のターゲットのうち1つのターゲットをプラズマでスパッタするときに、スパッタされたターゲットから飛散するスパッタ粒子が他のターゲットに付着することを抑制する抑制手段を備える、スパッタ装置、及び該装置を用いたスパッタ法とする。
【解決手段】プラズマを生成させるプラズマ室、及び該プラズマ室に連通した成膜室を含む容器を備え、該容器内に設置された少なくとも2つ以上のターゲットをプラズマでスパッタし、スパッタされたターゲットから飛散したスパッタ粒子を成膜室内に設置された基板の表面に堆積させて薄膜を形成するスパッタ装置であって、2つ以上のターゲットのうち1つのターゲットをプラズマでスパッタするときに、スパッタされたターゲットから飛散するスパッタ粒子が他のターゲットに付着することを抑制する抑制手段を備える、スパッタ装置、及び該装置を用いたスパッタ法とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタ装置及びスパッタ法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、あらゆる工業製品の生産に薄膜製造技術が用いられている。そのような薄膜製造技術としては、スパッタ法、真空蒸着法、CVD法などがあり、これらの方法の中でスパッタ法は、高融点材料や合金材料からなる薄膜の作製が容易であるということや、剥がれ難い薄膜を作製することが可能であるなどの利点を有する。
【0003】
スパッタ法では、まず所定の圧力まで減圧された容器内において気体(アルゴンガスや窒素ガスなど)をプラズマ化させる。そして、電位差を付けることによってプラズマをターゲット(金属材料)に向けて加速させて衝突させ、スパッタする。プラズマによりスパッタされたターゲットの表面からはスパッタ粒子(ターゲットを構成する元素のイオン)が飛散し、そのスパッタ粒子を基板に到達させて堆積させることによって、基板の表面に薄膜を形成させる。スパッタ法は原理が単純であり、既に様々な装置が存在することから、多くの技術分野で使われている。例えば、近年では、高品質の薄膜が要求される半導体、液晶、プラズマディスプレイ、光ディスク用の薄膜の製造などに用いられている。
【0004】
スパッタ法には様々な方式があり、その中の1つとして、ECR(Electron Cyclotron Resonance:電子サイクロトロン共鳴)スパッタ法がある。ECRスパッタ法とは、マイクロ波を用いて気体分子にエネルギーを与えることでプラズマを生成し、ターゲットに電位を与えることによって、プラズマでターゲットをスパッタする方法である。プラズマが磁界内で回転する性質を利用することによって、高密度のプラズマを生成することができる。このようなECRスパッタ法は多くの利点を有する。例えば、ECRスパッタ法では、高真空状態で成膜可能であるため、不純物の混入が少ない。また、基板が直接、高密度のプラズマに曝されないため、基板に与えるダメージが小さい、緻密で均一な薄膜構造を得られるなどの利点も有する。
【0005】
ECRスパッタ法を半導体などの薄膜の製造に用いる場合には、半導体のドーピング量や化合物の組成比等、必要に応じて添加元素を制御する必要がある。しかしながら、一般的なECRスパッタ法では、ターゲットと同じ添加量(組成)の成膜しか行えなかった。そのため、添加元素量を制御できる技術の開発が望まれており、これまでにいくつか提案されている。その1つが下記特許文献1に開示されている。特許文献1に開示されている技術によれば、組成元素の蒸気圧が異なるターゲットをECRプラズマ室出口に配置しておき、ECRプラズマ室内より発散磁界で引き出されるプラズマ流のイオンをターゲットに衝突させ、放出されるスパッタ粒子を基板上に堆積させて成膜を形成するECRスパッタ法において、ターゲットの組成元素の中の一部の元素からなる補助ターゲットをプラズマ室内に配置し、補助ターゲットに電力を供給しつつプラズマ中のイオンを衝突させ、放出されるターゲット粒子を基板上に堆積させるとともに、補助ターゲットに供給する電力を可変設定することによって、成膜組成を制御することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−102370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に開示されているような、複数のターゲットを用いた従来のECRスパッタ装置には、下記のような問題があった。複数のターゲットを同時スパッタする場合、それら全てのターゲットをマイナスに帯電させる。この状態で、あるターゲットにプラスを帯びたプラズマを衝突させてスパッタ粒子を飛散させると、該スパッタ粒子もプラスを帯びているため、他のマイナスを帯びたターゲットにスパッタ粒子が吸い寄せられてしまう。このような状態が続くと、あるターゲットから飛散したスパッタ粒子が他のターゲットの表面に付着して複数のターゲットが互いに汚しあうことになり、スパッタ精度の劣化に繋がってしまうという問題があった。
【0008】
そこで本発明は、ある1つのターゲットから飛散したスパッタ粒子が他のターゲットに付着することを防止できるスパッタ装置及びスパッタ法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成をとる。すなわち、
第1の本発明は、プラズマを生成させるプラズマ室、及び該プラズマ室に連通した成膜室を含む容器を備え、該容器内に設置された少なくとも2つ以上のターゲットをプラズマでスパッタし、スパッタされたターゲットの表面から飛散したスパッタ粒子を成膜室内に設置された基板の表面に堆積させて薄膜を形成するスパッタ装置であって、2つ以上のターゲットのうち1つのターゲットがプラズマでスパッタされているときに、スパッタされたターゲットから飛散するスパッタ粒子が他のターゲットに付着することを抑制する抑制手段を備える、スパッタ装置である。
【0010】
上記第1の本発明のスパッタ装置において、抑制手段を、2つ以上のターゲットのうち1つのターゲットに負電圧が印加されているときに他のターゲットに正電圧を印加する手段とすることが好ましい。
【0011】
また、上記第1の本発明のスパッタ装置において、抑制手段を、2つ以上のターゲットのうち1つのターゲットに負電圧が印加されているときに他のターゲットに電圧を印加すること禁止する手段とすることも好ましい。
【0012】
さらに、上記第1の本発明のスパッタ装置において、抑制手段を、2つ以上のターゲットのうち1つのターゲットがスパッタされているときに他のターゲットの表面を覆う手段とすることも好ましい。なお、「ターゲットの表面を覆う」とは、ターゲットの周囲を完全に覆う必要はなく、少なくとも、ターゲットシャッターに対応するターゲット以外のターゲットから飛散したスパッタ粒子が、該ターゲットシャッターに対応するターゲットに付着することを物理的に妨げられる程度に覆うことを意味する。
【0013】
第2の本発明は、プラズマ室内でプラズマを生成し、該プラズマによって少なくとも2つ以上のターゲットをスパッタすることで該ターゲットの表面から飛散するスパッタ粒子を、プラズマ室に連通して設けられた成膜室内に設置された基板の表面に堆積させるスパッタ法であって、2つ以上のターゲットのうち1つのターゲットがプラズマでスパッタされているときに、スパッタされたターゲットから飛散するスパッタ粒子が他のターゲットに付着することを抑制する、スパッタ法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ある1つのターゲットから飛散したスパッタ粒子が他のターゲットに付着することを抑制できるスパッタ装置及びスパッタ法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第一実施形態にかかる本発明のスパッタ装置の構成を概略的に示す図である。
【図2】ターゲットに印加する電圧の時間変化の一例を概略的に示す図である。
【図3】ターゲットに印加する電圧の時間変化の一例を概略的に示す図である。
【図4】ターゲットに印加する電圧の時間変化の一例を概略的に示す図である。
【図5】ターゲットに印加する電圧の時間変化の一例を概略的に示す図である。
【図6】第二実施形態にかかる本発明のスパッタ装置の構成を概略的に示す図である。
【図7】第三実施形態にかかる本発明のスパッタ装置の構成を概略的に示す図である。
【図8】ターゲットシャッターの開閉タイミングの一例を概略的に示す図である。
【図9】ターゲットシャッターの開閉タイミングの一例を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、本発明のスパッタ装置について説明する。
【0017】
(第一実施形態)
図1は、第一実施形態にかかる本発明のスパッタ装置100の構成を概略的に示す図である。スパッタ装置100は、プラズマを生成させるプラズマ室10およびプラズマ室10に連通して設けられた成膜室20を備えている。プラズマ室10および成膜室20は、いずれも密閉可能な容器である。
【0018】
成膜室20にはガス導入口22および排気口23が設けられている。排気口23には管を介して真空ポンプ(不図示)が接続されており、成膜室20およびプラズマ室10内を所定の圧力に減圧することができる。一方、ガス導入口22は管を介してガス供給源(不図示)に接続されており、成膜室20内にアルゴンガスなどのプロセスガスを導入することができる。以下、アルゴンガスを用いる場合について説明する。スパッタ装置100で薄膜を形成する際には、ガス導入口22から10〜100sccm程度のアルゴンガスを供給し、排気口23から排気することで成膜室20内を0.05〜0.5Pa程度に減圧する。
【0019】
また、成膜室20には基板ステージ21が備えられている。基板ステージ21には、成膜対象となる基板30を固定することができる。基板ステージ21には、図1中に矢印で示したように基板30を軸回転させることができる機構を設けてもよい。基板ステージ21には高周波電源(不図示)が接続されており、基板30に成膜する際には、基板ステージ21の電位がプラズマに対してマイナス電位になるように高周波電圧を印加する。アーキングが発生しなければ、高周波電源の代わりにDC電源を用いてもよい。
【0020】
プラズマ室10には真空窓12を介して導波管13が接続されている。プラズマ室10でプラズマを生成する際には、高周波電源(不図示)で発生されたマイクロ波mを、発振器およびEHチューナー(不図示)でインピーダンス整合した後、導波管13を通して真空窓12からプラズマ室10内に導入することができる。
【0021】
また、プラズマ室10の外側には、プラズマ室10の外周面を取り囲むようにして空芯の磁場コイル11、11が設けられている。磁場コイル11、11に直流電流を供給することで磁界を生成することができる。プラズマ室10は2.45GHzのマイクロ波に対して空洞共振器として機能するように構成されており、磁場コイル11、11では0.0875Tの磁場を生成することができる。そして、2.45GHz、100〜1000Wのマイクロ波mを真空窓12からプラズマ室10に導入することができる。プラズマ室10内に導入されたマイクロ波mの電界と磁場コイル11、11が生成する磁界によるECRを利用してプラズマ室10内に高密度のプラズマを生成することができる。
【0022】
上述したようにして生成されたプラズマ内では、移動度の大きな電子が磁場コイル11、11により形成された発散磁界の磁力線に沿って成膜室20に移動する。電子は軽量であるため高速で運動し、短時間でプラズマから抜け出して、成膜室20の壁などに衝突して消滅する。一方、アルゴンイオンは電子に比べて質量が大きく低速であるため、プラズマ中に長く存在する。これにより、プラズマは全体として正の電荷となり、イオンシースを形成する。
【0023】
スパッタ装置100において、基板30の表面に形成される薄膜の材料となるターゲット31、32は、プラズマ室10の成膜室20側開口部付近に設置することができる。ターゲット31、32は、互いに絶縁分離されており、プラズマ流(図1の上下方向)に対して略垂直な軸方向に設置されている。図1ではターゲットを2つ用いる形態について例示しているが、スパッタ装置100にはターゲットは3つ以上設置することもできる。ターゲットを3つ以上用いる場合も、それら全てを互いに絶縁分離し、プラズマ流に対して略垂直な軸方向に設置する。
【0024】
本発明においてターゲットとして用いることができるものは、従来のスパッタ法に用いることができるものであれば特に限定されない。例えば、シリコン、グラファイト、ホウ素、リン、チタンなどを用いることができる。また、単一元素材料に限らず、二酸化シリコン、窒化シリコン、窒化ホウ素などの化合物でもよい。
【0025】
ターゲット31には電圧印加用電源33が接続されており、ターゲット31に電圧を印加することができる。また、ターゲット32には電圧印加用電源34が接続されており、ターゲット32に電圧を印加することができる。プラズマ室10で生成されたプラズマに対してマイナス電位となるようにターゲット31又はターゲット32に電圧を印加すると、プラズマ室10で生成されたアルゴンイオンは電圧が印加されているターゲット31又はターゲット32の方向に加速されて衝突する。加速されたアルゴンイオンがターゲット31又はターゲット32に衝突すると、スパッタ現象によりターゲット31又はターゲット32の表面からスパッタ粒子が飛散し、該スパッタ粒子は基板ステージ21上に設置された基板30の方向に移動する。
【0026】
硬さが異なるターゲットを複数用いる場合は、ターゲットに印加する電圧をターゲットの硬さによって変えることにより、所望の濃度の膜を容易に得ることができる。具体的には、それぞれのターゲット(ターゲット1、ターゲット2、・・・、ターゲットn)に印加する電圧をV1、V2、・・・、Vnとし、それぞれのターゲットの硬さをH1、H2、・・・、Hnとしたとき、下記式(1)に従って電圧値を設定することによって、所望の濃度の膜を容易に得ることができる。複数のターゲットについてそれぞれ印加電圧を制御することによって、構成元素比率を制御した成膜が可能であると考えられる。しかしながら、同じ電圧を印加したとしてもスパッタ粒子の飛散量はターゲットの硬さによって異なるため、ターゲットに印加する電圧に対する、得られる膜中の濃度変化は、ターゲットの硬さによって異なる。下記式(1)のようにターゲットの硬さを考慮した式に従ってターゲットに印加する電圧値を設定することによって、所望の濃度の膜を容易に得ることができる。なお、本発明の説明において、「濃度」とは、原子数比率(原子濃度)を意味する。
所望の膜中のターゲット1を構成する元素の濃度[%]=(|V1|/|H1|)/(|V1|/|H1|+|V2|/|H2|+・・・+|Vn|/|Hn|)×100 (1)
【0027】
例えば、ターゲット31にシリコン(硬度:1000(Hv))を用い、ターゲット32にグラファイト(硬度:50(Hv))を用いた場合、各ターゲットをスパッタする合計時間が同一であれば、ターゲット31に印加する電圧を−1000(V)、ターゲット32に印加する電圧を−500(V)にすることによって、シリコン含有量が約9%のカーボン薄膜を得ることができる。
【0028】
また、複数のターゲットを用いる場合は、それらのターゲットに印加する電圧の比率を維持しつつそれぞれの電圧値を変更することにより、濃度を一定に保ったまま成膜レートの変更が可能であると考えられるが、電圧値の違いによる膜特性の変化が少なからず発生する。そこで、構成元素がそれぞれ異なる2種類以上のターゲットについて、それぞれのターゲットに印加する電圧をパルス状にon/offすることによって、濃度及び膜特性を一定に保ちつつ成膜レートの調整が可能となる。また、微量添加したいターゲットのみに対して電圧をパルス状に印加することにより、電圧比だけの制御よりも精密な制御が可能となる。
【0029】
複数のターゲットそれぞれに同じ時間だけ電圧を印加したとしてもスパッタ粒子の飛散量はターゲットの硬さによって異なる。そのため、それぞれのターゲットに印加する電圧をパルス状にon/offする場合、ターゲットに電圧を印加する時間(on時間)をターゲットの硬さによって変えることにより、所望の濃度の膜を容易に得ることができる。具体的には、ターゲット1、ターゲット2、・・・、ターゲットnのそれぞれに印加する電圧のピーク値を一定とし、それぞれのon時間をt1、t2、・・・、tn、それぞれのパルス周期をT1、T2、・・・Tn、それぞれのターゲットの硬さをH1、H2、・・・、Hnとしたとき、下記式(2)に従ってon時間を設定することによって、所望の濃度の膜を容易に得ることができる。
所望の膜中のターゲット1を構成する元素の濃度[%]={t1/(T1・H1)}/{t1/(T1・H1)+t2/(T2・H2)+・・・+tn/(Tn・Hn)}×100 (2)
【0030】
さらに、本発明のスパッタ装置は、複数設置されたターゲットのうち1つのターゲットをプラズマでスパッタするときに、スパッタされたターゲットから飛散するスパッタ粒子が他のターゲットに付着することを抑制する抑制手段を備えている。以下、スパッタ装置100に備えられる抑制手段について説明する。
【0031】
スパッタ装置100は、構成元素がそれぞれ異なる2種類以上の絶縁分離されたターゲットを1つのイオン源よりスパッタすることができ、それぞれのターゲットに印加する電圧を制御することによって、1つのターゲットから飛び出したスパッタ粒子が他のターゲットに付着することを抑制しつつ、2種類以上のターゲットの構成元素を含む混成膜を作製することができる。すなわち、図1に示したスパッタ装置100では、電圧印加用電源33、電圧印加用電源34及びこれらを制御する装置が抑制手段を構成する。以下、抑制手段についてより詳細に説明する。
【0032】
スパッタ装置100では、図2に示すように、ピーク値が一定でかつパルス状(周期一定)の電圧をターゲット31及びターゲット32に印加することによって、一方のターゲットから飛散したスパッタ粒子が他方のターゲットに付着することを抑制できる。図2(a)はターゲット31に印加される電圧V1の大きさの時間変化を示しており、図2(b)はターゲット32に印加される電圧V2の大きさの時間変化を示している。図2(a)中のT1はV1の変化周期であり、t1はV1が負電圧である時間である。図2(b)中のT2はV2の変化周期であり、t2はV2が負電圧である時間である。図2においてT1=T2=t1+t2である。すなわち、V1の変化周期とV2の変化周期とは同一であり、一方のターゲットに負電圧が印加されているときは他方のターゲットに正電圧が印加されるように、電圧印加用電源33及び電圧印加用電源34を制御している。
【0033】
例えば、図2に示したようなパルス状の電圧をターゲット31及びターゲット32に印加する場合、ターゲット31をシリコン、ターゲット32をグラファイトとすれば、Vを−600(V)、V’を+300(V)、T1及びT2を0.2ms、t1を0.15ms、t2を0.05msに設定することができる。
【0034】
また、図3に示すようなタイミングでターゲットに電圧を印加することによっても、1つのターゲットから飛び出したイオンが他のターゲットに付着することを抑制できる。図3(a)はターゲット31に印加される電圧V1の大きさの時間変化を示しており、図3(b)はターゲット32に印加される電圧V2の大きさの時間変化を示している。図3(a)中のT1はV1の変化周期であり、t1はV1が負電圧である時間である。図3(b)中のT2はV2の変化周期であり、t2はV2が負電圧である時間である。図3においてT1=T2>t1+t2であり、少なくとも一方のターゲットに負電圧が印加されているときは他方のターゲットに正電圧が印加されるように、電圧印加用電源33及び電圧印加用電源34を制御している。
【0035】
例えば、図3に示したようなパルス状の電圧をターゲット31及びターゲット32に印加する場合、ターゲット31をシリコン、ターゲット32をグラファイトとすれば、Vを−600(V)、V’を+300(V)、T1及びT2を0.2ms、t1を0.1ms、t2を0.02msに設定することができる。
【0036】
ターゲット31に負電圧を印加することによって、ターゲット31はプラスを帯びたプラズマによってスパッタされる。スパッタされたことでターゲット31から飛散したスパッタ粒子は、飛散した直後、プラスを帯びた状態でターゲット31の周辺に多量に存在する。このとき、ターゲット32にも負電圧を印加していると、スパッタ粒子がターゲット32に引き付けられる可能性が高くなる。本発明では、上記のように、ターゲット31に負電圧が印加されているときにはターゲット32に正電圧が印加されるようにする。逆にターゲット32に負電圧が印加されているときにはターゲット31に正電圧が印加されるようにする。そうすることによって、負電圧が印加されている方のターゲットはプラスを帯びたプラズマにスパッタされ、その表面からプラスを帯びたスパッタ粒子が飛散する。一方、正電圧が印加されている方のターゲットとプラスを帯びたスパッタ粒子との間には斥力が生じるため、一方のターゲットから飛散したスパッタ粒子が他方のターゲットに付着することを抑制できる。
【0037】
ターゲットを3つ以上用いる場合は、少なくとも1つターゲットに負電圧が印加されているときに、他の全てのターゲットに正電圧が印加されるようにする。そうすることによって、負電圧が印加されている1つのターゲットはプラスを帯びたプラズマにスパッタされ、その表面からプラスを帯びたスパッタ粒子が飛散する。一方、正電圧が印加されている他の全てのターゲットとプラスを帯びたスパッタ粒子との間には斥力が生じるため、1つのターゲットから飛散したスパッタ粒子が他のターゲットに付着することを抑制できる。
【0038】
また、図4に示すように、一方のターゲットに負電圧が印加されているときに、他方のターゲットには電圧が印加されないようにパルス周期を設定することによっても、1つのターゲットから飛び出したイオンが他のターゲットに付着することを抑制できる。図4(a)はターゲット31に印加される電圧V1の大きさの時間変化を示しており、図4(b)はターゲット32に印加される電圧V2の大きさの時間変化を示している。図4(a)中のT1はV1の変化周期であり、t1はV1が負電圧である時間である。図4(b)中のT2はV2の変化周期であり、t2はV2が負電圧である時間である。図4においてT1=T2=t1+t2である。すなわち、V1の変化周期とV2の変化周期とは同一であり、一方のターゲットに負電圧が印加されているときは他方のターゲットに電圧が印加されないように、電圧印加用電源33及び電圧印加用電源34を制御している。
【0039】
例えば、図4に示したようなパルス状の電圧をターゲット31及びターゲット32に印加する場合、ターゲット31をリン、ターゲット32をグラファイトとすれば、Vを−600(V)、T1及びT2を0.2ms、t1を0.15ms、t2を0.05msに設定することができる。
【0040】
また、図5に示すようなタイミングでターゲットに電圧を印加することによっても、1つのターゲットから飛び出したイオンが他のターゲットに付着することを抑制できる。図5(a)はターゲット31に印加される電圧V1の大きさの時間変化を示しており、図5(b)はターゲット32に印加される電圧V2の大きさの時間変化を示している。図5(a)中のT1はV1の変化周期であり、t1はV1が負電圧である時間である。図5(b)中のT2はV2の変化周期であり、t2はV2が負電圧である時間である。図5においてT1=T2>t1+t2であり、少なくとも一方のターゲットに負電圧が印加されているときは他方のターゲットに電圧が印加されないように、電圧印加用電源33及び電圧印加用電源34を制御している。
【0041】
例えば、図5に示したようなパルス状の電圧をターゲット31及びターゲット32に印加する場合、ターゲット31をリン、ターゲット32をグラファイトとすれば、Vを−600(V)、T1及びT2を0.2ms、t1を0.1ms、t2を0.02msに設定することができる。
【0042】
ターゲット31に負電圧を印加することによって、ターゲット31はプラスの帯びたプラズマによってスパッタされる。スパッタされたことでターゲット31から飛散したスパッタ粒子は、飛散した直後、プラスを帯びた状態でターゲット31の周辺に多量に存在する。このとき、ターゲット32にも負電圧を印加していると、スパッタ粒子がターゲット32に引き付けられる可能性が高くなる。本発明では、上記のように、ターゲット31に負電圧が印加されているときにはターゲット32に電圧が印加されないようにする。逆にターゲット32に負電圧が印加されているときにはターゲット31に電圧が印加されないようにする。そうすることによって、負電圧が印加されている方のターゲットはプラスを帯びたプラズマにスパッタされ、その表面からプラスを帯びたスパッタ粒子が飛散する。一方、電圧が印加されていない方のターゲットとスパッタ粒子との間では引き合う力が弱いため、一方のターゲットから飛散したスパッタ粒子が他方のターゲットに付着することを抑制できる。
【0043】
ターゲットを3つ以上用いる場合は、少なくとも1つターゲットに負電圧が印加されているときに、他の全てのターゲットに電圧が印加されないようにする。そうすることによって、負電圧が印加されている1つのターゲットはプラスを帯びたプラズマにスパッタされ、その表面からプラスを帯びたスパッタ粒子が飛散する。一方、電圧が印加されない他の全てのターゲットとスパッタ粒子との間では引き合う力が弱いため、1つのターゲットから飛散したスパッタ粒子が他のターゲットに付着することを抑制できる。
【0044】
なお、図2〜図5には、ターゲットに印加する電圧の時間変化の一例として方形波のパルスを例示したが、本発明はかかる形態に限定されず、正弦波や三角波としてもよい。
【0045】
(第二実施形態)
図6は、第二実施形態にかかる本発明のスパッタ装置200の構成を概略的に示す図である。図6において、図1に示したものと同様の構成のものには同符号を付し、説明を省略する。
【0046】
スパッタ装置200は、電圧印加用電源33及び電圧印加用電源34にかえてスイッチング回路35及び電圧印加用電源36を備えている点で、スパッタ装置100と相異している。スパッタ装置200は、スイッチング回路35を用いて、電圧印加用電源35からの電力を選択的にターゲット31又はターゲット32に供給することができる。したがって、スパッタ装置100のように各ターゲットに別個に電圧印加用電源を設けなくとも、一方のターゲットに負電圧を印加するとともに、他方のターゲットに電圧を印加することを禁止できる。
【0047】
すなわち、スパッタ装置200ではスイッチング回路35及び電圧印加用電源36が抑制手段を構成している。スイッチング回路35及び電圧印加用電源36によって、上述したように、少なくとも一方のターゲットに負電圧が印加されているときに他方のターゲットに電圧が印加されないようにすることができ、一方のターゲットから飛散したスパッタ粒子が他方のターゲットに付着することを抑制できる。スパッタ装置200は電圧印加用電源を1つにしたことによって、スパッタ装置100よりも装置構成が簡略化されている。
【0048】
ターゲットを3つ以上用いる場合も同様に、1つの電圧印加用電源とスイッチング回路を用いることによって、少なくとも1つのターゲットに選択的に負電圧を印加しているときに、その他のターゲットには電圧を印加することを禁止できる。
【0049】
(第三実施形態)
図7は、第三実施形態にかかる本発明のスパッタ装置300の構成を概略的に示す図である。図1に示したスパッタ装置100と同様の構成のものには同符号を付し、適宜、説明を省略する。
【0050】
スパッタ装置300は、ターゲット31を覆うことができるターゲットシャッター41と、ターゲット32を覆うことができるターゲットシャッター42とを備えている。「ターゲットを覆う」とは、上記したように、ターゲットシャッターに対応するターゲット以外のターゲットから飛散したスパッタ粒子が、該ターゲットシャッターに対応するターゲットに付着することを物理的に妨げられる程度に覆うことを意味する。以下の本発明の説明において、ターゲットシャッターがターゲットを覆っている姿勢を「閉」という。一方、プラズマでターゲットをスパッタできるように、ターゲットシャッターがターゲットを覆ってないときの姿勢を「開」という。例えば、ターゲット31から飛散したスパッタ粒子がターゲット32に付着しないように、ターゲット32を覆っているときのターゲットシャッター42の姿勢を、ターゲットシャッター42の閉という。また、ターゲット32をプラズマでスパッタできるように、ターゲット32を覆っていないときのターゲットシャッター42の姿勢を、ターゲットシャッター42の開という。スパッタ装置300は、ターゲットシャッター41及びターゲットシャッター42をそれぞれ自在に開閉することができる制御装置(不図示)を備えている。
【0051】
ターゲットシャッターを設けることによって、濃度及び膜特性を一定に保ちつつ成膜レートの調整が可能となる。すなわち、ターゲットシャッターの開閉を制御することによって、ターゲットがプラズマでスパッタされるタイミング(時間)を制御し、各ターゲットから飛散するスパッタ粒子の量を制御することができるので、濃度及び膜特性を一定に保ちつつ成膜レートの調整が可能となる。単に濃度及び膜特性を一定に保ちつつ成膜レートを調整するという観点からは、ターゲットシャッターは全てのターゲットに対して備えられている必要はない。
【0052】
また、硬さが異なるターゲットを複数用いる場合は、それぞれのターゲットに対応するターゲットシャッターの開時間を該ターゲットシャッターに対応するターゲットの硬さによって変えることにより、所望の濃度の膜を容易に得ることができる。具体的には、それぞれのターゲット(ターゲット1、ターゲット2、・・・、ターゲットn)に対応するターゲットシャッターの開閉周期をS1、S2、・・・、Snとし、ターゲットシャッターが開姿勢である時間をs1、s2、・・・、snとし、それぞれのターゲットの硬さをH1、H2、・・・、Hnとしたとき、下記式(3)に従ってターゲットシャッターの開閉制御をすることによって、所望の濃度の膜を容易に得ることができる。
所望の膜中のターゲット1を構成する元素の濃度[%]={s1/(S1・H1)}/{s1/(S1・H1)+s2/(S2・H2)+・・・+sn/(Sn・Hn)}×100 (3)
【0053】
スパッタ装置300では、ターゲットシャッター41及びターゲットシャッター42の開閉を制御することによって、一方のターゲットから飛散したスパッタ粒子が他方のターゲットに付着することを抑制しつつ、ターゲット31及びターゲット32の構成元素を含む混成膜を作製することができる。すなわち、スパッタ装置300では、ターゲットシャッター41及びターゲットシャッター42と、ターゲットシャッター41及びターゲットシャッター42の開閉を制御する制御装置(不図示)とが抑制手段を構成する。以下、スパッタ装置300に備えられる抑制手段についてより詳細に説明する。
【0054】
スパッタ装置300では、図8に示すように、開閉周期が同一、かつ一方のターゲットシャッターが開のときに他方のターゲットシャッターが閉となるように開閉周期を設定することによって、一方のターゲットから飛散したスパッタ粒子が他方のターゲットに付着することを抑制できる。図8(a)はターゲットシャッター41の開閉タイミングを示しており、図8(b)はターゲットシャッター42の開閉タイミングを示している。図8(a)中のS1はターゲットシャッター41の開閉周期であり、s1はターゲットシャッター41が開である時間である。図8(b)中のS2はターゲットシャッター42の開閉周期であり、s2はターゲットシャッター42が開である時間である。図8においてS1=S2=s1+s2である。すなわち、ターゲットシャッター41の開閉周期とターゲットシャッター42の開閉周期とが同一であり、一方のターゲットシャッターが開のときには他方のターゲットシャッターが閉となるように、ターゲットシャッター41及びターゲットシャッター42を制御している。
【0055】
また、図9に示すように、開閉周期が同一、かつ少なくとも一方のターゲットシャッターが開のときに他方のターゲットシャッターが閉となるように開閉周期を設定することによっても、一方のターゲットから飛散したスパッタ粒子が他方のターゲットに付着することを抑制できる。図9(a)はターゲットシャッター41の開閉タイミングを示しており、図9(b)はターゲットシャッター42の開閉タイミングを示している。図9(a)中のS1はターゲットシャッター41の開閉周期であり、s1はターゲットシャッター41が開である時間である。図9(b)中のS2はターゲットシャッター42の開閉周期であり、s2はターゲットシャッター42が開である時間である。図9においてS1=S2>s1+s2であり、少なくとも一方のターゲットシャッターが開のときには他方のターゲットシャッターが閉となるように、ターゲットシャッター41及びターゲットシャッター42を制御している。
【0056】
ターゲット31(又は32)からスパッタ粒子が飛散した直後は、ターゲット31(又は32)の周辺にスパッタ粒子が多量に存在する。そのため、スパッタ粒子が飛散した直後は、ターゲット32(又は31)に向かってターゲット31(又は32)から飛散したスパッタ粒子が飛来する虞がある。スパッタ装置300は、ターゲットシャッター41及びターゲットシャッター42を備えているため、ターゲット31をスパッタするときにはターゲットシャッター41を開にするとともにターゲットシャッター42を閉にして、ターゲット31から飛散したスパッタ粒子が飛散ターゲット32に付着することを防止できる。逆にターゲット32をスパッタするときにはターゲットシャッター42を開にするとともにターゲットシャッター41を閉にして、ターゲット32から飛散したスパッタ粒子が飛散ターゲット31に付着することを防止できる。
【0057】
ターゲットを3つ以上用いる場合は、少なくとも1つターゲットに対応するターゲットシャッターを開にしているときには、他の全てのターゲットに対応するターゲットシャッターを閉にする。そうすることによって、ターゲットシャッターが開になっている1つのターゲットはプラズマにスパッタされてその表面からスパッタ粒子が飛散し、ターゲットシャッターが閉になっている他の全てのターゲットにはスパッタ粒子が付着することを抑制できる。
【0058】
以上、現時点において最も実践的で好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うスパッタ装置及びスパッタ法もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【符号の説明】
【0059】
10 プラズマ室
11 磁場コイル
12 真空窓
13 導波管
20 成膜室
21 基板ステージ
22 ガス導入口
23 排気口
30 基板
31、32 ターゲット
33、34、36 電圧印加用電源
35 スイッチング回路
41、42 ターゲットシャッター
100、200、300 スパッタ装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタ装置及びスパッタ法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、あらゆる工業製品の生産に薄膜製造技術が用いられている。そのような薄膜製造技術としては、スパッタ法、真空蒸着法、CVD法などがあり、これらの方法の中でスパッタ法は、高融点材料や合金材料からなる薄膜の作製が容易であるということや、剥がれ難い薄膜を作製することが可能であるなどの利点を有する。
【0003】
スパッタ法では、まず所定の圧力まで減圧された容器内において気体(アルゴンガスや窒素ガスなど)をプラズマ化させる。そして、電位差を付けることによってプラズマをターゲット(金属材料)に向けて加速させて衝突させ、スパッタする。プラズマによりスパッタされたターゲットの表面からはスパッタ粒子(ターゲットを構成する元素のイオン)が飛散し、そのスパッタ粒子を基板に到達させて堆積させることによって、基板の表面に薄膜を形成させる。スパッタ法は原理が単純であり、既に様々な装置が存在することから、多くの技術分野で使われている。例えば、近年では、高品質の薄膜が要求される半導体、液晶、プラズマディスプレイ、光ディスク用の薄膜の製造などに用いられている。
【0004】
スパッタ法には様々な方式があり、その中の1つとして、ECR(Electron Cyclotron Resonance:電子サイクロトロン共鳴)スパッタ法がある。ECRスパッタ法とは、マイクロ波を用いて気体分子にエネルギーを与えることでプラズマを生成し、ターゲットに電位を与えることによって、プラズマでターゲットをスパッタする方法である。プラズマが磁界内で回転する性質を利用することによって、高密度のプラズマを生成することができる。このようなECRスパッタ法は多くの利点を有する。例えば、ECRスパッタ法では、高真空状態で成膜可能であるため、不純物の混入が少ない。また、基板が直接、高密度のプラズマに曝されないため、基板に与えるダメージが小さい、緻密で均一な薄膜構造を得られるなどの利点も有する。
【0005】
ECRスパッタ法を半導体などの薄膜の製造に用いる場合には、半導体のドーピング量や化合物の組成比等、必要に応じて添加元素を制御する必要がある。しかしながら、一般的なECRスパッタ法では、ターゲットと同じ添加量(組成)の成膜しか行えなかった。そのため、添加元素量を制御できる技術の開発が望まれており、これまでにいくつか提案されている。その1つが下記特許文献1に開示されている。特許文献1に開示されている技術によれば、組成元素の蒸気圧が異なるターゲットをECRプラズマ室出口に配置しておき、ECRプラズマ室内より発散磁界で引き出されるプラズマ流のイオンをターゲットに衝突させ、放出されるスパッタ粒子を基板上に堆積させて成膜を形成するECRスパッタ法において、ターゲットの組成元素の中の一部の元素からなる補助ターゲットをプラズマ室内に配置し、補助ターゲットに電力を供給しつつプラズマ中のイオンを衝突させ、放出されるターゲット粒子を基板上に堆積させるとともに、補助ターゲットに供給する電力を可変設定することによって、成膜組成を制御することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−102370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に開示されているような、複数のターゲットを用いた従来のECRスパッタ装置には、下記のような問題があった。複数のターゲットを同時スパッタする場合、それら全てのターゲットをマイナスに帯電させる。この状態で、あるターゲットにプラスを帯びたプラズマを衝突させてスパッタ粒子を飛散させると、該スパッタ粒子もプラスを帯びているため、他のマイナスを帯びたターゲットにスパッタ粒子が吸い寄せられてしまう。このような状態が続くと、あるターゲットから飛散したスパッタ粒子が他のターゲットの表面に付着して複数のターゲットが互いに汚しあうことになり、スパッタ精度の劣化に繋がってしまうという問題があった。
【0008】
そこで本発明は、ある1つのターゲットから飛散したスパッタ粒子が他のターゲットに付着することを防止できるスパッタ装置及びスパッタ法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成をとる。すなわち、
第1の本発明は、プラズマを生成させるプラズマ室、及び該プラズマ室に連通した成膜室を含む容器を備え、該容器内に設置された少なくとも2つ以上のターゲットをプラズマでスパッタし、スパッタされたターゲットの表面から飛散したスパッタ粒子を成膜室内に設置された基板の表面に堆積させて薄膜を形成するスパッタ装置であって、2つ以上のターゲットのうち1つのターゲットがプラズマでスパッタされているときに、スパッタされたターゲットから飛散するスパッタ粒子が他のターゲットに付着することを抑制する抑制手段を備える、スパッタ装置である。
【0010】
上記第1の本発明のスパッタ装置において、抑制手段を、2つ以上のターゲットのうち1つのターゲットに負電圧が印加されているときに他のターゲットに正電圧を印加する手段とすることが好ましい。
【0011】
また、上記第1の本発明のスパッタ装置において、抑制手段を、2つ以上のターゲットのうち1つのターゲットに負電圧が印加されているときに他のターゲットに電圧を印加すること禁止する手段とすることも好ましい。
【0012】
さらに、上記第1の本発明のスパッタ装置において、抑制手段を、2つ以上のターゲットのうち1つのターゲットがスパッタされているときに他のターゲットの表面を覆う手段とすることも好ましい。なお、「ターゲットの表面を覆う」とは、ターゲットの周囲を完全に覆う必要はなく、少なくとも、ターゲットシャッターに対応するターゲット以外のターゲットから飛散したスパッタ粒子が、該ターゲットシャッターに対応するターゲットに付着することを物理的に妨げられる程度に覆うことを意味する。
【0013】
第2の本発明は、プラズマ室内でプラズマを生成し、該プラズマによって少なくとも2つ以上のターゲットをスパッタすることで該ターゲットの表面から飛散するスパッタ粒子を、プラズマ室に連通して設けられた成膜室内に設置された基板の表面に堆積させるスパッタ法であって、2つ以上のターゲットのうち1つのターゲットがプラズマでスパッタされているときに、スパッタされたターゲットから飛散するスパッタ粒子が他のターゲットに付着することを抑制する、スパッタ法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ある1つのターゲットから飛散したスパッタ粒子が他のターゲットに付着することを抑制できるスパッタ装置及びスパッタ法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第一実施形態にかかる本発明のスパッタ装置の構成を概略的に示す図である。
【図2】ターゲットに印加する電圧の時間変化の一例を概略的に示す図である。
【図3】ターゲットに印加する電圧の時間変化の一例を概略的に示す図である。
【図4】ターゲットに印加する電圧の時間変化の一例を概略的に示す図である。
【図5】ターゲットに印加する電圧の時間変化の一例を概略的に示す図である。
【図6】第二実施形態にかかる本発明のスパッタ装置の構成を概略的に示す図である。
【図7】第三実施形態にかかる本発明のスパッタ装置の構成を概略的に示す図である。
【図8】ターゲットシャッターの開閉タイミングの一例を概略的に示す図である。
【図9】ターゲットシャッターの開閉タイミングの一例を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、本発明のスパッタ装置について説明する。
【0017】
(第一実施形態)
図1は、第一実施形態にかかる本発明のスパッタ装置100の構成を概略的に示す図である。スパッタ装置100は、プラズマを生成させるプラズマ室10およびプラズマ室10に連通して設けられた成膜室20を備えている。プラズマ室10および成膜室20は、いずれも密閉可能な容器である。
【0018】
成膜室20にはガス導入口22および排気口23が設けられている。排気口23には管を介して真空ポンプ(不図示)が接続されており、成膜室20およびプラズマ室10内を所定の圧力に減圧することができる。一方、ガス導入口22は管を介してガス供給源(不図示)に接続されており、成膜室20内にアルゴンガスなどのプロセスガスを導入することができる。以下、アルゴンガスを用いる場合について説明する。スパッタ装置100で薄膜を形成する際には、ガス導入口22から10〜100sccm程度のアルゴンガスを供給し、排気口23から排気することで成膜室20内を0.05〜0.5Pa程度に減圧する。
【0019】
また、成膜室20には基板ステージ21が備えられている。基板ステージ21には、成膜対象となる基板30を固定することができる。基板ステージ21には、図1中に矢印で示したように基板30を軸回転させることができる機構を設けてもよい。基板ステージ21には高周波電源(不図示)が接続されており、基板30に成膜する際には、基板ステージ21の電位がプラズマに対してマイナス電位になるように高周波電圧を印加する。アーキングが発生しなければ、高周波電源の代わりにDC電源を用いてもよい。
【0020】
プラズマ室10には真空窓12を介して導波管13が接続されている。プラズマ室10でプラズマを生成する際には、高周波電源(不図示)で発生されたマイクロ波mを、発振器およびEHチューナー(不図示)でインピーダンス整合した後、導波管13を通して真空窓12からプラズマ室10内に導入することができる。
【0021】
また、プラズマ室10の外側には、プラズマ室10の外周面を取り囲むようにして空芯の磁場コイル11、11が設けられている。磁場コイル11、11に直流電流を供給することで磁界を生成することができる。プラズマ室10は2.45GHzのマイクロ波に対して空洞共振器として機能するように構成されており、磁場コイル11、11では0.0875Tの磁場を生成することができる。そして、2.45GHz、100〜1000Wのマイクロ波mを真空窓12からプラズマ室10に導入することができる。プラズマ室10内に導入されたマイクロ波mの電界と磁場コイル11、11が生成する磁界によるECRを利用してプラズマ室10内に高密度のプラズマを生成することができる。
【0022】
上述したようにして生成されたプラズマ内では、移動度の大きな電子が磁場コイル11、11により形成された発散磁界の磁力線に沿って成膜室20に移動する。電子は軽量であるため高速で運動し、短時間でプラズマから抜け出して、成膜室20の壁などに衝突して消滅する。一方、アルゴンイオンは電子に比べて質量が大きく低速であるため、プラズマ中に長く存在する。これにより、プラズマは全体として正の電荷となり、イオンシースを形成する。
【0023】
スパッタ装置100において、基板30の表面に形成される薄膜の材料となるターゲット31、32は、プラズマ室10の成膜室20側開口部付近に設置することができる。ターゲット31、32は、互いに絶縁分離されており、プラズマ流(図1の上下方向)に対して略垂直な軸方向に設置されている。図1ではターゲットを2つ用いる形態について例示しているが、スパッタ装置100にはターゲットは3つ以上設置することもできる。ターゲットを3つ以上用いる場合も、それら全てを互いに絶縁分離し、プラズマ流に対して略垂直な軸方向に設置する。
【0024】
本発明においてターゲットとして用いることができるものは、従来のスパッタ法に用いることができるものであれば特に限定されない。例えば、シリコン、グラファイト、ホウ素、リン、チタンなどを用いることができる。また、単一元素材料に限らず、二酸化シリコン、窒化シリコン、窒化ホウ素などの化合物でもよい。
【0025】
ターゲット31には電圧印加用電源33が接続されており、ターゲット31に電圧を印加することができる。また、ターゲット32には電圧印加用電源34が接続されており、ターゲット32に電圧を印加することができる。プラズマ室10で生成されたプラズマに対してマイナス電位となるようにターゲット31又はターゲット32に電圧を印加すると、プラズマ室10で生成されたアルゴンイオンは電圧が印加されているターゲット31又はターゲット32の方向に加速されて衝突する。加速されたアルゴンイオンがターゲット31又はターゲット32に衝突すると、スパッタ現象によりターゲット31又はターゲット32の表面からスパッタ粒子が飛散し、該スパッタ粒子は基板ステージ21上に設置された基板30の方向に移動する。
【0026】
硬さが異なるターゲットを複数用いる場合は、ターゲットに印加する電圧をターゲットの硬さによって変えることにより、所望の濃度の膜を容易に得ることができる。具体的には、それぞれのターゲット(ターゲット1、ターゲット2、・・・、ターゲットn)に印加する電圧をV1、V2、・・・、Vnとし、それぞれのターゲットの硬さをH1、H2、・・・、Hnとしたとき、下記式(1)に従って電圧値を設定することによって、所望の濃度の膜を容易に得ることができる。複数のターゲットについてそれぞれ印加電圧を制御することによって、構成元素比率を制御した成膜が可能であると考えられる。しかしながら、同じ電圧を印加したとしてもスパッタ粒子の飛散量はターゲットの硬さによって異なるため、ターゲットに印加する電圧に対する、得られる膜中の濃度変化は、ターゲットの硬さによって異なる。下記式(1)のようにターゲットの硬さを考慮した式に従ってターゲットに印加する電圧値を設定することによって、所望の濃度の膜を容易に得ることができる。なお、本発明の説明において、「濃度」とは、原子数比率(原子濃度)を意味する。
所望の膜中のターゲット1を構成する元素の濃度[%]=(|V1|/|H1|)/(|V1|/|H1|+|V2|/|H2|+・・・+|Vn|/|Hn|)×100 (1)
【0027】
例えば、ターゲット31にシリコン(硬度:1000(Hv))を用い、ターゲット32にグラファイト(硬度:50(Hv))を用いた場合、各ターゲットをスパッタする合計時間が同一であれば、ターゲット31に印加する電圧を−1000(V)、ターゲット32に印加する電圧を−500(V)にすることによって、シリコン含有量が約9%のカーボン薄膜を得ることができる。
【0028】
また、複数のターゲットを用いる場合は、それらのターゲットに印加する電圧の比率を維持しつつそれぞれの電圧値を変更することにより、濃度を一定に保ったまま成膜レートの変更が可能であると考えられるが、電圧値の違いによる膜特性の変化が少なからず発生する。そこで、構成元素がそれぞれ異なる2種類以上のターゲットについて、それぞれのターゲットに印加する電圧をパルス状にon/offすることによって、濃度及び膜特性を一定に保ちつつ成膜レートの調整が可能となる。また、微量添加したいターゲットのみに対して電圧をパルス状に印加することにより、電圧比だけの制御よりも精密な制御が可能となる。
【0029】
複数のターゲットそれぞれに同じ時間だけ電圧を印加したとしてもスパッタ粒子の飛散量はターゲットの硬さによって異なる。そのため、それぞれのターゲットに印加する電圧をパルス状にon/offする場合、ターゲットに電圧を印加する時間(on時間)をターゲットの硬さによって変えることにより、所望の濃度の膜を容易に得ることができる。具体的には、ターゲット1、ターゲット2、・・・、ターゲットnのそれぞれに印加する電圧のピーク値を一定とし、それぞれのon時間をt1、t2、・・・、tn、それぞれのパルス周期をT1、T2、・・・Tn、それぞれのターゲットの硬さをH1、H2、・・・、Hnとしたとき、下記式(2)に従ってon時間を設定することによって、所望の濃度の膜を容易に得ることができる。
所望の膜中のターゲット1を構成する元素の濃度[%]={t1/(T1・H1)}/{t1/(T1・H1)+t2/(T2・H2)+・・・+tn/(Tn・Hn)}×100 (2)
【0030】
さらに、本発明のスパッタ装置は、複数設置されたターゲットのうち1つのターゲットをプラズマでスパッタするときに、スパッタされたターゲットから飛散するスパッタ粒子が他のターゲットに付着することを抑制する抑制手段を備えている。以下、スパッタ装置100に備えられる抑制手段について説明する。
【0031】
スパッタ装置100は、構成元素がそれぞれ異なる2種類以上の絶縁分離されたターゲットを1つのイオン源よりスパッタすることができ、それぞれのターゲットに印加する電圧を制御することによって、1つのターゲットから飛び出したスパッタ粒子が他のターゲットに付着することを抑制しつつ、2種類以上のターゲットの構成元素を含む混成膜を作製することができる。すなわち、図1に示したスパッタ装置100では、電圧印加用電源33、電圧印加用電源34及びこれらを制御する装置が抑制手段を構成する。以下、抑制手段についてより詳細に説明する。
【0032】
スパッタ装置100では、図2に示すように、ピーク値が一定でかつパルス状(周期一定)の電圧をターゲット31及びターゲット32に印加することによって、一方のターゲットから飛散したスパッタ粒子が他方のターゲットに付着することを抑制できる。図2(a)はターゲット31に印加される電圧V1の大きさの時間変化を示しており、図2(b)はターゲット32に印加される電圧V2の大きさの時間変化を示している。図2(a)中のT1はV1の変化周期であり、t1はV1が負電圧である時間である。図2(b)中のT2はV2の変化周期であり、t2はV2が負電圧である時間である。図2においてT1=T2=t1+t2である。すなわち、V1の変化周期とV2の変化周期とは同一であり、一方のターゲットに負電圧が印加されているときは他方のターゲットに正電圧が印加されるように、電圧印加用電源33及び電圧印加用電源34を制御している。
【0033】
例えば、図2に示したようなパルス状の電圧をターゲット31及びターゲット32に印加する場合、ターゲット31をシリコン、ターゲット32をグラファイトとすれば、Vを−600(V)、V’を+300(V)、T1及びT2を0.2ms、t1を0.15ms、t2を0.05msに設定することができる。
【0034】
また、図3に示すようなタイミングでターゲットに電圧を印加することによっても、1つのターゲットから飛び出したイオンが他のターゲットに付着することを抑制できる。図3(a)はターゲット31に印加される電圧V1の大きさの時間変化を示しており、図3(b)はターゲット32に印加される電圧V2の大きさの時間変化を示している。図3(a)中のT1はV1の変化周期であり、t1はV1が負電圧である時間である。図3(b)中のT2はV2の変化周期であり、t2はV2が負電圧である時間である。図3においてT1=T2>t1+t2であり、少なくとも一方のターゲットに負電圧が印加されているときは他方のターゲットに正電圧が印加されるように、電圧印加用電源33及び電圧印加用電源34を制御している。
【0035】
例えば、図3に示したようなパルス状の電圧をターゲット31及びターゲット32に印加する場合、ターゲット31をシリコン、ターゲット32をグラファイトとすれば、Vを−600(V)、V’を+300(V)、T1及びT2を0.2ms、t1を0.1ms、t2を0.02msに設定することができる。
【0036】
ターゲット31に負電圧を印加することによって、ターゲット31はプラスを帯びたプラズマによってスパッタされる。スパッタされたことでターゲット31から飛散したスパッタ粒子は、飛散した直後、プラスを帯びた状態でターゲット31の周辺に多量に存在する。このとき、ターゲット32にも負電圧を印加していると、スパッタ粒子がターゲット32に引き付けられる可能性が高くなる。本発明では、上記のように、ターゲット31に負電圧が印加されているときにはターゲット32に正電圧が印加されるようにする。逆にターゲット32に負電圧が印加されているときにはターゲット31に正電圧が印加されるようにする。そうすることによって、負電圧が印加されている方のターゲットはプラスを帯びたプラズマにスパッタされ、その表面からプラスを帯びたスパッタ粒子が飛散する。一方、正電圧が印加されている方のターゲットとプラスを帯びたスパッタ粒子との間には斥力が生じるため、一方のターゲットから飛散したスパッタ粒子が他方のターゲットに付着することを抑制できる。
【0037】
ターゲットを3つ以上用いる場合は、少なくとも1つターゲットに負電圧が印加されているときに、他の全てのターゲットに正電圧が印加されるようにする。そうすることによって、負電圧が印加されている1つのターゲットはプラスを帯びたプラズマにスパッタされ、その表面からプラスを帯びたスパッタ粒子が飛散する。一方、正電圧が印加されている他の全てのターゲットとプラスを帯びたスパッタ粒子との間には斥力が生じるため、1つのターゲットから飛散したスパッタ粒子が他のターゲットに付着することを抑制できる。
【0038】
また、図4に示すように、一方のターゲットに負電圧が印加されているときに、他方のターゲットには電圧が印加されないようにパルス周期を設定することによっても、1つのターゲットから飛び出したイオンが他のターゲットに付着することを抑制できる。図4(a)はターゲット31に印加される電圧V1の大きさの時間変化を示しており、図4(b)はターゲット32に印加される電圧V2の大きさの時間変化を示している。図4(a)中のT1はV1の変化周期であり、t1はV1が負電圧である時間である。図4(b)中のT2はV2の変化周期であり、t2はV2が負電圧である時間である。図4においてT1=T2=t1+t2である。すなわち、V1の変化周期とV2の変化周期とは同一であり、一方のターゲットに負電圧が印加されているときは他方のターゲットに電圧が印加されないように、電圧印加用電源33及び電圧印加用電源34を制御している。
【0039】
例えば、図4に示したようなパルス状の電圧をターゲット31及びターゲット32に印加する場合、ターゲット31をリン、ターゲット32をグラファイトとすれば、Vを−600(V)、T1及びT2を0.2ms、t1を0.15ms、t2を0.05msに設定することができる。
【0040】
また、図5に示すようなタイミングでターゲットに電圧を印加することによっても、1つのターゲットから飛び出したイオンが他のターゲットに付着することを抑制できる。図5(a)はターゲット31に印加される電圧V1の大きさの時間変化を示しており、図5(b)はターゲット32に印加される電圧V2の大きさの時間変化を示している。図5(a)中のT1はV1の変化周期であり、t1はV1が負電圧である時間である。図5(b)中のT2はV2の変化周期であり、t2はV2が負電圧である時間である。図5においてT1=T2>t1+t2であり、少なくとも一方のターゲットに負電圧が印加されているときは他方のターゲットに電圧が印加されないように、電圧印加用電源33及び電圧印加用電源34を制御している。
【0041】
例えば、図5に示したようなパルス状の電圧をターゲット31及びターゲット32に印加する場合、ターゲット31をリン、ターゲット32をグラファイトとすれば、Vを−600(V)、T1及びT2を0.2ms、t1を0.1ms、t2を0.02msに設定することができる。
【0042】
ターゲット31に負電圧を印加することによって、ターゲット31はプラスの帯びたプラズマによってスパッタされる。スパッタされたことでターゲット31から飛散したスパッタ粒子は、飛散した直後、プラスを帯びた状態でターゲット31の周辺に多量に存在する。このとき、ターゲット32にも負電圧を印加していると、スパッタ粒子がターゲット32に引き付けられる可能性が高くなる。本発明では、上記のように、ターゲット31に負電圧が印加されているときにはターゲット32に電圧が印加されないようにする。逆にターゲット32に負電圧が印加されているときにはターゲット31に電圧が印加されないようにする。そうすることによって、負電圧が印加されている方のターゲットはプラスを帯びたプラズマにスパッタされ、その表面からプラスを帯びたスパッタ粒子が飛散する。一方、電圧が印加されていない方のターゲットとスパッタ粒子との間では引き合う力が弱いため、一方のターゲットから飛散したスパッタ粒子が他方のターゲットに付着することを抑制できる。
【0043】
ターゲットを3つ以上用いる場合は、少なくとも1つターゲットに負電圧が印加されているときに、他の全てのターゲットに電圧が印加されないようにする。そうすることによって、負電圧が印加されている1つのターゲットはプラスを帯びたプラズマにスパッタされ、その表面からプラスを帯びたスパッタ粒子が飛散する。一方、電圧が印加されない他の全てのターゲットとスパッタ粒子との間では引き合う力が弱いため、1つのターゲットから飛散したスパッタ粒子が他のターゲットに付着することを抑制できる。
【0044】
なお、図2〜図5には、ターゲットに印加する電圧の時間変化の一例として方形波のパルスを例示したが、本発明はかかる形態に限定されず、正弦波や三角波としてもよい。
【0045】
(第二実施形態)
図6は、第二実施形態にかかる本発明のスパッタ装置200の構成を概略的に示す図である。図6において、図1に示したものと同様の構成のものには同符号を付し、説明を省略する。
【0046】
スパッタ装置200は、電圧印加用電源33及び電圧印加用電源34にかえてスイッチング回路35及び電圧印加用電源36を備えている点で、スパッタ装置100と相異している。スパッタ装置200は、スイッチング回路35を用いて、電圧印加用電源35からの電力を選択的にターゲット31又はターゲット32に供給することができる。したがって、スパッタ装置100のように各ターゲットに別個に電圧印加用電源を設けなくとも、一方のターゲットに負電圧を印加するとともに、他方のターゲットに電圧を印加することを禁止できる。
【0047】
すなわち、スパッタ装置200ではスイッチング回路35及び電圧印加用電源36が抑制手段を構成している。スイッチング回路35及び電圧印加用電源36によって、上述したように、少なくとも一方のターゲットに負電圧が印加されているときに他方のターゲットに電圧が印加されないようにすることができ、一方のターゲットから飛散したスパッタ粒子が他方のターゲットに付着することを抑制できる。スパッタ装置200は電圧印加用電源を1つにしたことによって、スパッタ装置100よりも装置構成が簡略化されている。
【0048】
ターゲットを3つ以上用いる場合も同様に、1つの電圧印加用電源とスイッチング回路を用いることによって、少なくとも1つのターゲットに選択的に負電圧を印加しているときに、その他のターゲットには電圧を印加することを禁止できる。
【0049】
(第三実施形態)
図7は、第三実施形態にかかる本発明のスパッタ装置300の構成を概略的に示す図である。図1に示したスパッタ装置100と同様の構成のものには同符号を付し、適宜、説明を省略する。
【0050】
スパッタ装置300は、ターゲット31を覆うことができるターゲットシャッター41と、ターゲット32を覆うことができるターゲットシャッター42とを備えている。「ターゲットを覆う」とは、上記したように、ターゲットシャッターに対応するターゲット以外のターゲットから飛散したスパッタ粒子が、該ターゲットシャッターに対応するターゲットに付着することを物理的に妨げられる程度に覆うことを意味する。以下の本発明の説明において、ターゲットシャッターがターゲットを覆っている姿勢を「閉」という。一方、プラズマでターゲットをスパッタできるように、ターゲットシャッターがターゲットを覆ってないときの姿勢を「開」という。例えば、ターゲット31から飛散したスパッタ粒子がターゲット32に付着しないように、ターゲット32を覆っているときのターゲットシャッター42の姿勢を、ターゲットシャッター42の閉という。また、ターゲット32をプラズマでスパッタできるように、ターゲット32を覆っていないときのターゲットシャッター42の姿勢を、ターゲットシャッター42の開という。スパッタ装置300は、ターゲットシャッター41及びターゲットシャッター42をそれぞれ自在に開閉することができる制御装置(不図示)を備えている。
【0051】
ターゲットシャッターを設けることによって、濃度及び膜特性を一定に保ちつつ成膜レートの調整が可能となる。すなわち、ターゲットシャッターの開閉を制御することによって、ターゲットがプラズマでスパッタされるタイミング(時間)を制御し、各ターゲットから飛散するスパッタ粒子の量を制御することができるので、濃度及び膜特性を一定に保ちつつ成膜レートの調整が可能となる。単に濃度及び膜特性を一定に保ちつつ成膜レートを調整するという観点からは、ターゲットシャッターは全てのターゲットに対して備えられている必要はない。
【0052】
また、硬さが異なるターゲットを複数用いる場合は、それぞれのターゲットに対応するターゲットシャッターの開時間を該ターゲットシャッターに対応するターゲットの硬さによって変えることにより、所望の濃度の膜を容易に得ることができる。具体的には、それぞれのターゲット(ターゲット1、ターゲット2、・・・、ターゲットn)に対応するターゲットシャッターの開閉周期をS1、S2、・・・、Snとし、ターゲットシャッターが開姿勢である時間をs1、s2、・・・、snとし、それぞれのターゲットの硬さをH1、H2、・・・、Hnとしたとき、下記式(3)に従ってターゲットシャッターの開閉制御をすることによって、所望の濃度の膜を容易に得ることができる。
所望の膜中のターゲット1を構成する元素の濃度[%]={s1/(S1・H1)}/{s1/(S1・H1)+s2/(S2・H2)+・・・+sn/(Sn・Hn)}×100 (3)
【0053】
スパッタ装置300では、ターゲットシャッター41及びターゲットシャッター42の開閉を制御することによって、一方のターゲットから飛散したスパッタ粒子が他方のターゲットに付着することを抑制しつつ、ターゲット31及びターゲット32の構成元素を含む混成膜を作製することができる。すなわち、スパッタ装置300では、ターゲットシャッター41及びターゲットシャッター42と、ターゲットシャッター41及びターゲットシャッター42の開閉を制御する制御装置(不図示)とが抑制手段を構成する。以下、スパッタ装置300に備えられる抑制手段についてより詳細に説明する。
【0054】
スパッタ装置300では、図8に示すように、開閉周期が同一、かつ一方のターゲットシャッターが開のときに他方のターゲットシャッターが閉となるように開閉周期を設定することによって、一方のターゲットから飛散したスパッタ粒子が他方のターゲットに付着することを抑制できる。図8(a)はターゲットシャッター41の開閉タイミングを示しており、図8(b)はターゲットシャッター42の開閉タイミングを示している。図8(a)中のS1はターゲットシャッター41の開閉周期であり、s1はターゲットシャッター41が開である時間である。図8(b)中のS2はターゲットシャッター42の開閉周期であり、s2はターゲットシャッター42が開である時間である。図8においてS1=S2=s1+s2である。すなわち、ターゲットシャッター41の開閉周期とターゲットシャッター42の開閉周期とが同一であり、一方のターゲットシャッターが開のときには他方のターゲットシャッターが閉となるように、ターゲットシャッター41及びターゲットシャッター42を制御している。
【0055】
また、図9に示すように、開閉周期が同一、かつ少なくとも一方のターゲットシャッターが開のときに他方のターゲットシャッターが閉となるように開閉周期を設定することによっても、一方のターゲットから飛散したスパッタ粒子が他方のターゲットに付着することを抑制できる。図9(a)はターゲットシャッター41の開閉タイミングを示しており、図9(b)はターゲットシャッター42の開閉タイミングを示している。図9(a)中のS1はターゲットシャッター41の開閉周期であり、s1はターゲットシャッター41が開である時間である。図9(b)中のS2はターゲットシャッター42の開閉周期であり、s2はターゲットシャッター42が開である時間である。図9においてS1=S2>s1+s2であり、少なくとも一方のターゲットシャッターが開のときには他方のターゲットシャッターが閉となるように、ターゲットシャッター41及びターゲットシャッター42を制御している。
【0056】
ターゲット31(又は32)からスパッタ粒子が飛散した直後は、ターゲット31(又は32)の周辺にスパッタ粒子が多量に存在する。そのため、スパッタ粒子が飛散した直後は、ターゲット32(又は31)に向かってターゲット31(又は32)から飛散したスパッタ粒子が飛来する虞がある。スパッタ装置300は、ターゲットシャッター41及びターゲットシャッター42を備えているため、ターゲット31をスパッタするときにはターゲットシャッター41を開にするとともにターゲットシャッター42を閉にして、ターゲット31から飛散したスパッタ粒子が飛散ターゲット32に付着することを防止できる。逆にターゲット32をスパッタするときにはターゲットシャッター42を開にするとともにターゲットシャッター41を閉にして、ターゲット32から飛散したスパッタ粒子が飛散ターゲット31に付着することを防止できる。
【0057】
ターゲットを3つ以上用いる場合は、少なくとも1つターゲットに対応するターゲットシャッターを開にしているときには、他の全てのターゲットに対応するターゲットシャッターを閉にする。そうすることによって、ターゲットシャッターが開になっている1つのターゲットはプラズマにスパッタされてその表面からスパッタ粒子が飛散し、ターゲットシャッターが閉になっている他の全てのターゲットにはスパッタ粒子が付着することを抑制できる。
【0058】
以上、現時点において最も実践的で好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うスパッタ装置及びスパッタ法もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【符号の説明】
【0059】
10 プラズマ室
11 磁場コイル
12 真空窓
13 導波管
20 成膜室
21 基板ステージ
22 ガス導入口
23 排気口
30 基板
31、32 ターゲット
33、34、36 電圧印加用電源
35 スイッチング回路
41、42 ターゲットシャッター
100、200、300 スパッタ装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマを生成させるプラズマ室、及び該プラズマ室に連通した成膜室を含む容器を備え、該容器内に設置された少なくとも2つ以上のターゲットを前記プラズマでスパッタし、スパッタされた前記ターゲットの表面から飛散したスパッタ粒子を前記成膜室内に設置された基板の表面に堆積させて薄膜を形成するスパッタ装置であって、
前記2つ以上のターゲットのうち1つの前記ターゲットが前記プラズマでスパッタされているときに、スパッタされた前記ターゲットから飛散する前記スパッタ粒子が他の前記ターゲットに付着することを抑制する抑制手段を備える、スパッタ装置。
【請求項2】
前記抑制手段が、前記2つ以上のターゲットのうち1つの前記ターゲットに負電圧が印加されているときに他の前記ターゲットに正電圧を印加する手段である、請求項1に記載のスパッタ装置。
【請求項3】
前記抑制手段が、前記2つ以上のターゲットのうち1つの前記ターゲットに負電圧が印加されているときに他の前記ターゲットに電圧を印加すること禁止する手段である、請求項1に記載のスパッタ装置。
【請求項4】
前記抑制手段が、前記2つ以上のターゲットのうち1つの前記ターゲットがスパッタされているときに他の前記ターゲットの表面を覆う手段である、請求項1に記載のスパッタ装置。
【請求項5】
プラズマ室内でプラズマを生成し、前記プラズマによって少なくとも2つ以上のターゲットをスパッタすることで前記ターゲットの表面から飛散するスパッタ粒子を、前記プラズマ室に連通して設けられた成膜室内に設置された基板の表面に堆積させるスパッタ法であって、
前記2つ以上のターゲットのうち1つの前記ターゲットが前記プラズマでスパッタされているときに、スパッタされた前記ターゲットから飛散する前記スパッタ粒子が他の前記ターゲットに付着することを抑制手段により抑制する、スパッタ法。
【請求項1】
プラズマを生成させるプラズマ室、及び該プラズマ室に連通した成膜室を含む容器を備え、該容器内に設置された少なくとも2つ以上のターゲットを前記プラズマでスパッタし、スパッタされた前記ターゲットの表面から飛散したスパッタ粒子を前記成膜室内に設置された基板の表面に堆積させて薄膜を形成するスパッタ装置であって、
前記2つ以上のターゲットのうち1つの前記ターゲットが前記プラズマでスパッタされているときに、スパッタされた前記ターゲットから飛散する前記スパッタ粒子が他の前記ターゲットに付着することを抑制する抑制手段を備える、スパッタ装置。
【請求項2】
前記抑制手段が、前記2つ以上のターゲットのうち1つの前記ターゲットに負電圧が印加されているときに他の前記ターゲットに正電圧を印加する手段である、請求項1に記載のスパッタ装置。
【請求項3】
前記抑制手段が、前記2つ以上のターゲットのうち1つの前記ターゲットに負電圧が印加されているときに他の前記ターゲットに電圧を印加すること禁止する手段である、請求項1に記載のスパッタ装置。
【請求項4】
前記抑制手段が、前記2つ以上のターゲットのうち1つの前記ターゲットがスパッタされているときに他の前記ターゲットの表面を覆う手段である、請求項1に記載のスパッタ装置。
【請求項5】
プラズマ室内でプラズマを生成し、前記プラズマによって少なくとも2つ以上のターゲットをスパッタすることで前記ターゲットの表面から飛散するスパッタ粒子を、前記プラズマ室に連通して設けられた成膜室内に設置された基板の表面に堆積させるスパッタ法であって、
前記2つ以上のターゲットのうち1つの前記ターゲットが前記プラズマでスパッタされているときに、スパッタされた前記ターゲットから飛散する前記スパッタ粒子が他の前記ターゲットに付着することを抑制手段により抑制する、スパッタ法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2011−105996(P2011−105996A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263243(P2009−263243)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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