説明

スプライン成形装置及び成形方法

【課題】スプライン歯の成形を円滑に行って、成形ダイスの耐久性を向上させることができ、少ない加工油で繰り返しスプライン歯を有する円筒部品の成形を行うことができるスプライン成形装置及び成形方法を提供すること。
【解決手段】リフタ4は、スプライン成形穴21に挿入される挿入部41に対する下方位置において、外周側に突出する鍔部42を形成してなる。鍔部42の外周には、保持穴51の内周との間の隙間を塞ぐ封止部材422が設けてある。スプライン成形装置1は、スプライン成形穴21内に挿入部41が配置されたリフタ4の原位置401において、スプライン成形穴21と挿入部41及び鍔部42とによって囲まれた貯留間隙61内に加工油Mを充填し、成形パンチ3と共にリフタ4が下降する際に、加工油Mを保持穴51と挿入部41及び鍔部42とによって囲まれて形成される流下間隙内に流下させるよう構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絞り加工を行って平板素材から外周にスプラインを有する円筒部品を成形するスプライン成形装置及び成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動変速機に用いられるクラッチドラム、クラッチハブ等の円筒部品は、円筒形状の外周に多数の歯形からなるスプライン歯を有している。この円筒部品は、スプライン成形穴を有する成形ダイスとスプライン成形外周部を有する成形パンチとを用い、スプライン成形穴内にスプライン成形外周部を進入させ、これらによって平板素材から絞り加工を行って成形している。また、円滑な成形を行うために、成形の際に潤滑剤としての加工油を供給することが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載された製缶装置においては、スペーサを介して多段に積み上げたしごきダイス内に環状体ポンチを下降させ、円板状の被プレス材から容器を成形することが開示されている。この製缶装置においては、しごきダイス同士の間に配置したスペーサに潤滑油の供給口を設けており、被プレス材から容器を成形する際に、供給口からしごきダイス内に潤滑油を供給している。これにより、プレス性を向上させている。
なお、例えば、特許文献2のスプライン部を有する円筒部材の製造装置においては、成形ダイス内及び矯正ダイス内に成形パンチを下降させ、カップ状の素材からスプライン部を有する円筒部材を成形することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭48−6967号公報
【特許文献2】特開2003−170236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、円筒部品にスプライン歯を成形する際には、成形の始めの段階においてはワークと成形ダイスのスプライン成形穴との間に加工油が容易に流入する一方で、成形の終りの段階になると、ワークと成形ダイスのスプライン成形穴との間に加工油が流入し難くなる。そのため、加工油が流入し易くなる工夫をしないと、ワークとスプライン成形穴との間の潤滑が不十分となり、成形ダイスの寿命を短くしてしまうおそれがある。
【0006】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、スプライン歯の成形を円滑に行って、成形ダイスの耐久性を向上させることができ、少ない加工油で繰り返しスプライン歯を有する円筒部品の成形を行うことができるスプライン成形装置及び成形方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、スプライン成形穴を有する成形ダイスと、スプライン成形外周部を有し上記スプライン成形穴内に下降する成形パンチと、該成形パンチに押されて下降するリフタと、該リフタを保持するための保持穴を有する保持ダイスとを備え、上記成形パンチと上記リフタとの間に円板状のワークを挟持して上記スプライン成形穴内に下降させ、該スプライン成形穴と上記スプライン成形外周部とによって絞り加工を行って、円筒部にスプライン歯を有する円筒部品を成形するよう構成されており、
上記リフタは、上記スプライン成形穴に挿入される挿入部に対する下方位置において、外周側に突出する鍔部を形成してなり、
該鍔部の外周には、上記保持穴の内周との間の隙間を塞ぐ封止部材が設けてあり、
上記スプライン成形穴内に上記挿入部が配置された上記リフタの原位置において、上記スプライン成形穴と上記挿入部及び上記鍔部とによって囲まれた貯留間隙内に加工油を充填し、上記成形パンチと共に上記リフタが下降する際に、上記加工油を上記保持穴と上記挿入部及び上記鍔部とによって囲まれて形成される流下間隙内に流下させるよう構成したことを特徴とするスプライン成形装置にある(請求項1)。
【0008】
第2の発明は、スプライン成形穴を有する成形ダイスと、スプライン成形外周部を有し上記スプライン成形穴内に下降する成形パンチと、該成形パンチに押されて下降するリフタと、該リフタを保持するための保持穴を有する保持ダイスとを備え、上記成形パンチと上記リフタとの間に円板状のワークを挟持して上記スプライン成形穴内に下降させ、該スプライン成形穴と上記スプライン成形外周部とによって絞り加工を行って、円筒部にスプライン歯を有する円筒部品を成形するスプライン成形方法であって、
上記リフタには、上記スプライン成形穴に挿入される挿入部の下方に、外周側に突出する鍔部を形成し、該鍔部の外周には、上記保持穴の内周との間の隙間を塞ぐ封止部材を設けておき、
上記スプライン成形穴内に上記挿入部が配置された上記リフタの原位置において、上記スプライン成形穴と上記挿入部及び上記鍔部とによって囲まれた貯留間隙内に加工油を充填し、上記成形パンチと共に上記リフタが下降する際に、上記加工油を上記保持穴と上記挿入部及び上記鍔部とによって囲まれて形成される流下間隙内に流下させることを特徴とするスプライン成形方法にある(請求項4)。
【発明の効果】
【0009】
第1の発明のスプライン成形装置においては、成形後の円筒部品を払い出す際に上昇させるリフタとこれを保持する保持ダイスの形状に工夫をしている。すなわち、本発明のリフタは、スプライン成形穴に挿入される挿入部に対する下方位置において、外周側に突出する鍔部を形成してなり、鍔部の外周に、保持穴の内周との間の隙間を塞ぐ封止部材を設けてなる。
【0010】
スプライン歯を有する円筒部品の成形を行う際には、成形ダイスのスプライン成形穴内にリフタの挿入部が配置された原位置において、スプライン成形穴と挿入部と鍔部とによって囲まれた貯留間隙内に加工油を充填する。そして、リフタ上又は成形ダイス上に載置した円板状のワークに対して成形パンチを下降させ、成形パンチとリフタとの間にワークを挟持して、このワークをスプライン成形穴内に下降させる。このとき、スプライン成形穴とスプライン成形外周部とによってワークに対して絞り加工(扱き加工を伴う扱き絞り加工)が行われると共に、貯留間隙の下方には、これに連通して、保持ダイスの保持穴とリフタの挿入部及び鍔部とによって囲まれた流下間隙が形成される。
【0011】
そして、貯留間隙においては、ワークの円筒部の下側角部とスプライン成形穴との間の成形界面が加工油によって常時充たされ、この状態でスプライン歯の成形を行うことができる。これにより、スプライン歯の成形を円滑に行うことができ、成形ダイスの耐久性を向上させることができる。
また、貯留間隙から流下間隙へ加工油を流下させることにより、円筒部品の成形中に、貯留間隙内の加工油の圧力が上昇することを防ぎ、貯留間隙から上方へ加工油が飛散してしまうことを防止することができる。
【0012】
また、貯留間隙から流下間隙へ加工油を流下させることにより、スプライン成形外周部とワークとの間の隙間に加工油が流入することを防止することができ、リフタを上昇させて成形後の円筒部品をスプライン成形穴から取り出す際に加工油が持ち出されることを防止することができる。これにより、少ない加工油で繰り返しスプライン歯を有する円筒部品の成形を行うことができる。
【0013】
それ故、本発明のスプライン成形装置によれば、スプライン歯の成形を円滑に行って、成形ダイスの耐久性を向上させることができ、少ない加工油で繰り返しスプライン歯を有する円筒部品の成形を行うことができる。
【0014】
第2の発明のスプライン成形方法によっても、第1の発明と同様に、スプライン歯の成形を円滑に行って、成形ダイスの耐久性を向上させることができ、少ない加工油で繰り返しスプライン歯を有する円筒部品の成形を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例における、リフタが原位置にある状態のスプライン成形装置を示す断面説明図。
【図2】実施例における、リフタが原位置にある状態のスプライン成形装置の一部を拡大して示す断面説明図。
【図3】実施例における、成形パンチ及びリフタを下降させる状態のスプライン成形装置を示す断面説明図。
【図4】実施例における、リフタが下端位置に下降した状態のスプライン成形装置を示す断面説明図。
【図5】実施例における、リフタが下端位置に下降した状態のスプライン成形装置の一部を拡大して示す断面説明図。
【図6】実施例における、成形パンチ及びリフタを上昇させる状態のスプライン成形装置を示す断面説明図。
【図7】実施例における、リフタを原位置まで上昇させた状態のスプライン成形装置を示す断面説明図。
【図8】実施例における、成形した円筒部品を示す斜視説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上述した第1、第2の発明における好ましい実施の形態につき説明する。
第1、第2の発明において、上記成形ダイスは、上記円筒部品における上記スプライン歯を段階的に成形する複数の成形ダイス部をスペーサを介して積み上げて構成することができる(請求項2、5)。
この場合には、複数の成形ダイス部によって段階的に成形することによって、目標とするスプライン歯を加工精度よく成形することができる。
【0017】
また、上記円筒部品は、自動変速機に用いるクラッチハブ又はクラッチドラムであることが好ましい(請求項3、6)。
この場合には、クラッチハブ又はクラッチドラムの生産性を向上させることができる。
【実施例】
【0018】
以下に、本発明のスプライン成形装置及び成形方法に係る実施例につき、図面を参照して説明する。
本例のスプライン成形装置1は、図1に示すごとく、スプライン成形穴21を有する成形ダイス2と、スプライン成形外周部31を有しスプライン成形穴21内に下降する成形パンチ3と、成形パンチ3に押されて下降するリフタ4と、リフタ4を保持するための保持穴51を有する保持ダイス5とを備えている。スプライン成形装置1は、図3、図4に示すごとく、成形パンチ3とリフタ4との間に円板状のワーク80を挟持してスプライン成形穴21内に下降させ、この円盤状のワーク80にスプライン成形穴21とスプライン成形外周部31とによって絞り加工を行って、図7、図8に示すごとく、円筒部81にスプライン歯811を有する円筒部品8を成形するよう構成されている。
【0019】
図2に示すごとく、リフタ4は、スプライン成形穴21に挿入される挿入部41に対する下方位置において、外周側に突出する鍔部42を形成してなる。鍔部42の外周には、保持穴51の内周との間の隙間を塞ぐ封止部材422が設けてある。スプライン成形装置1は、図1、図2に示すごとく、スプライン成形穴21内に挿入部41が配置されたリフタ4の原位置401において、スプライン成形穴21と挿入部41及び鍔部42とによって囲まれた貯留間隙61内に加工油(潤滑油)Mを充填し、図3、図4に示すごとく、成形パンチ3と共にリフタ4が下降する際に、加工油Mを保持穴51と挿入部41及び鍔部42とによって囲まれて形成される流下間隙62内に流下させるよう構成されている。
なお、図1、図2は、リフタ4が原位置401にある状態を示し、図3、図4は、リフタ4が下端位置402にある状態を示す。
【0020】
以下に、本例のスプライン成形装置1及び成形方法につき、図1〜図8を参照して詳説する。
本例のスプライン成形装置1は、円盤状のワーク80に冷間鍛造を行って、図8に示すごとく、底部82に対して円筒部81が起立し、円筒部81にスプライン歯811を有する円筒部品8を成形する。
図2に示すごとく、成形ダイス2のスプライン成形穴21は、円筒部品8の円筒部81において軸方向に平行なスプライン歯811を周方向に均等な間隔で成形するために、周方向に均等な間隔でスプライン成形歯211を形成してなる。
図1に示すごとく、成形パンチ3のスプライン成形外周部31は、スプライン成形穴21におけるスプライン成形歯211に沿ったスプライン成形歯311を形成してなる。
【0021】
図2に示すごとく、本例の成形ダイス2は、円筒部品8におけるスプライン歯811を段階的に成形する複数の成形ダイス部2A、2B、2C、2Dを、スペーサ22を介して積み上げて構成されている。本例の成形ダイス部2A、2B、2C、2Dは、円板状のワーク80を円筒状に絞り加工する1段目成形ダイス部2Bと、スプライン歯811の予備成形を行う2段目成形ダイス部2Bと、スプライン歯811の中間成形を行う3段目成形ダイス部2Cと、スプライン歯811の本成形を行う4段目成形ダイス部2Dとを上から順に配置して構成されている。1段目成形ダイス部2Bには、スプライン成形歯211は形成されていない。
【0022】
各成形ダイス部2A、2B、2C、2D同士の間には、各成形ダイス部2A、2B、2C、2Dによる成形段階を区切るためのスペーサ22が配置されている。ワーク80は、その軸方向の1箇所において成形ダイス部2A、2B、2C、2Dに接触して成形される。スペーサ22は、1段目成形ダイス部2Aにおける内壁面及び各成形ダイス部2B、2C、2Dにおけるスプライン成形歯211の大径部の外周端面の内径よりも拡径した内壁面を有するスペーサ貫通穴221を形成してなる。
【0023】
図2に示すごとく、各スペーサ22には、各成形ダイス部2A、2B、2C、2Dとの間を密封して加工油Mの流出を防止するための封止部材223が設けてある。本例の封止部材223はOリングであり、各スペーサ22には、Oリングを配置する環状溝222が上面と下面とに形成してあり、環状溝222に配置したOリングによってスペーサ22と成形ダイス部2A、2B、2C、2Dとの間の隙間が封止されている。
【0024】
また、4段目成形ダイス部2Dの下側には、成形パンチ3のスプライン成形外周部31からワーク80に加わる加圧力を逃がす成形逃がしブロック23が配置してある。成形逃がしブロック23は、1段目成形ダイス部2Aにおける内壁面及び各成形ダイス部2B、2C、2Dにおけるスプライン成形歯211の大径部の外周端面の内径よりも拡径した内壁面を有するブロック貫通穴231を形成してなる。
成形逃がしブロック23にも、4段目成形ダイス部2Dとの間及び保持ダイス5との間を密封して加工油Mの流出を防止するための封止部材233が設けてある。本例の封止部材233はOリングであり、成形逃がしブロック23には、Oリングを配置する環状溝232が上面と下面とに形成してあり、環状溝232に配置したOリングによって、成形逃がしブロック23と4段目成形ダイス部2D及び保持ダイス5との間の隙間が封止されている。
【0025】
図2に示すごとく、保持ダイス5の保持穴51は、成形逃がしブロック23のブロック貫通穴231の内径よりも拡径して形成されている。スプライン成形装置1においては、リフタ4の下降によってその挿入部41がスプライン成形穴21と対向する部分が減少することによって貯留間隙61の容量が減少し、この貯留間隙61の減少容量と略同じ容量の流下間隙62が貯留間隙61の下方に形成される。流下間隙62は、円環状に形成することができ、周方向の複数箇所に部分的に形成することもできる。
スプライン成形穴21内に挿入部41が配置されたリフタ4の原位置401においては、挿入部41と成形逃がしブロック23のブロック貫通穴231との間の間隙にも加工油Mが充填されている。
【0026】
図2に示すごとく、リフタ4の上面の外縁部には、環状突起411が形成されており、この環状突起411は、上方に向かうに連れて拡径するテーパ状の内周面412を形成してなる。図1に示すごとく、成形パンチ3の下面には、環状突起411のテーパ状の内周面412に沿った面取り部33が形成されている。そして、成形パンチ3の下面とリフタ4の上面とに挟まれた円板状のワーク80は、環状突起411のテーパ状の内周面412と面取り部33とによって斜め外方に起立する外周部が形成され、この外周部が成形ダイス2の上端角部213(1段目成形ダイス部2Bの上側角部)によって直角に起立されて円筒部81が形成される。
【0027】
図1に示すごとく、リフタ4の軸中心部には、リフタ中心部43が配置してあり、成形パンチ3の軸中心部には、パンチ中心部32が配置してある。パンチ中心部32の下面には、リフタ中心部43に設けた中心穴との位置合わせを行うための中心突起321が形成してある。
図2に示すごとく、リフタ4の鍔部42の外周に設けた封止部材422は、Oリングによって構成されている。鍔部42の外周には、円環状の環状溝421が形成してあり、Oリングは環状溝421内に配置されている。
また、円板状のワーク80は、中心に貫通穴83を設けた円環形状に形成してある。
【0028】
図1、図3に示すごとく、成形ダイス2及び保持ダイス5は、ダイスホルダー25内に保持されている。成形パンチ3は、パンチ可動ベース35によって昇降するよう構成されている。
成形パンチ3の周りには、成形ダイス2(1段目成形ダイス部2A)における絞り成形時のしわを防止するためのしわ押さえ37が、パンチ可動ベース35に設けたシャフト36の下端に取り付けてある。しわ押さえ37は、絞り加工中に所定の荷重でワーク80を押さえることによって、ワーク80にしわができるのを防止する。成形ダイス2(1段目成形ダイス部2A)の上面には、円盤状のワーク80をリフタ4の上面に配置する際の位置決めを行う位置決め突起26が設けてある。
また、スプライン成形装置1の上型部を構成する成形パンチ3、パンチ可動ベース35、しわ押さえ37等と、スプライン成形装置1の下型部を構成する成形ダイス2、ダイスホルダー25等とは、図示しないガイドポストによって位置決めされている。
【0029】
次に、上記スプライン成形装置1を用いて円板状のワーク80からスプライン歯811を有する円筒部品8を成形する方法、及び作用効果について説明する。
スプライン歯811を有する円筒部品8の成形を行うに当たっては、図1、図2に示すごとく、成形ダイス2のスプライン成形穴21内に挿入部41が配置されたリフタ4の原位置401において、スプライン成形穴21と挿入部41と鍔部42とによって囲まれた貯留間隙61内に加工油Mを充填する。本例においては、この貯留間隙61は、各成形ダイス部2A、2B、2C、2Dの内周面、各スペーサ22の内周面、成形逃がしブロック23の内周面、及び保持ダイス5の保持穴51の内周面の一部と、リフタ4の挿入部41及び鍔部42との間に形成される。
【0030】
また、1段目成形ダイス部2Bの上面に設けた位置決め突起26によってワーク80の中心位置をガイドして、リフタ4のリフタ中心部43の上面にワーク80を載置する。
そして、パンチ可動ベース35を下降させることによって成形パンチ3を下降させる。このとき、まず、ワーク80の貫通穴83を介して成形パンチ3のパンチ中心部32がリフタ4のリフタ中心部43に係合して、成形パンチ3とリフタ4との中心位置決めが行われると共に、成形パンチ3のパンチ中心部32とリフタ4のリフタ中心部43とによってワーク80が挟持される(図3参照)。また、しわ押さえ37が所定の荷重でワーク80の外縁部を1段目成形ダイス部2Aに押さえ込み、しわ押さえ37と1段目成形ダイス部2Aとの間にワーク80の外縁部を挟持することにより、ワーク80にしわができるのを防止する。
【0031】
次いで、成形パンチ3の下面とリフタ4の上面との間にワーク80が挟持され、このとき、成形パンチ3における面取り部33とリフタ4における環状突起411とによって、ワーク80に斜め外方に起立する外周部が形成され、成形パンチ3と1段目成形ダイス部2Bの上側角部213によって絞り加工が行われて、外周部が円筒部81として直角に起立される(図2参照)。
【0032】
次いで、図3に示すごとく、成形パンチ3の下面とリフタ4の上面との間にワーク80を挟持した状態を維持して、成形パンチ3を下降させると共にリフタ4を成形パンチ3に従動して下降させる。そして、成形パンチ3のスプライン成形外周部31におけるスプライン成形歯311と、2段目成形ダイス部2B、3段目成形ダイス部2C、及び4段目成形ダイス部2Dの各スプライン成形穴21におけるスプライン成形歯211とによって扱き加工が行われて、ワーク80の円筒部81に段階的にスプライン歯811の成形が行われる。
なお、上記一連の加工は、成形パンチ3が下降する1ストロークの動作によって行われる。
【0033】
そして、図4、図5に示すごとく、円筒部81にスプライン歯811を有する円筒部品8が成形された後には、図6に示すごとく、パンチ可動ベース35を上昇させて、パンチ中心部32を残したまま成形パンチ3を先に上昇させ、次いで、パンチ中心部32を上昇させる。
次いで、リフタ4を上昇させると共にリフタ中心部43を上昇させて、成形ダイス2のスプライン成形穴21内から成形後の円筒部品8を抜き出す。このとき、リフタ4の上昇に伴って流下間隙62の形成長さ(容積)が減少すると共に貯留間隙61の形成長さ(容積)が増加する。そして、流下間隙62内の加工油Mがリフタ4の鍔部42によって貯留間隙61へと押し上げられ、再び元の貯留間隙61が形成される。
その後、図7に示すごとく、リフタ4が原位置401まで上昇した後には、成形した円筒部品8をリフタ4のリフタ中心部43から取り出す。
【0034】
図3〜図5に示したように、成形パンチ3及びリフタ4が下降する際には、貯留間隙61の下方には、これに連通して、保持ダイス5の保持穴51とリフタ4の挿入部41及び鍔部42とによって囲まれた流下間隙62が形成される。そして、貯留間隙61においては、ワーク80の円筒部81の下側角部とスプライン成形穴21との間の成形界面が加工油Mによって常時充たされ、この状態でスプライン歯811の成形を行うことができる。これにより、スプライン歯811の成形を円滑に行うことができ、成形ダイス2の耐久性を向上させることができる。
また、貯留間隙61から流下間隙62へ加工油Mを流下させることにより、円筒部品8の成形中に、貯留間隙61内の加工油Mの圧力が上昇することを防ぎ、貯留間隙61から上方へ加工油Mが飛散してしまうことを防止することができる。
【0035】
また、貯留間隙61から流下間隙62へ加工油Mを流下させることにより、スプライン成形外周部31とワーク80との間の隙間に加工油Mが流入することを防止することができ、リフタ4を上昇させて成形後の円筒部品8をスプライン成形穴21から取り出す際に加工油Mが持ち出されることを防止することができる。これにより、少ない加工油Mで繰り返しスプライン歯811を有する円筒部品8の成形を行うことができる。
【0036】
それ故、本例のスプライン成形装置1及び成形方法によれば、スプライン歯811の成形を円滑に行って、成形ダイス2の耐久性を向上させることができ、少ない加工油Mで繰り返しスプライン歯811を有する円筒部品8の成形を行うことができる。
【符号の説明】
【0037】
1 スプライン成形装置
2 成形ダイス
21 スプライン成形穴
211 スプライン成形歯
22 スペーサ
3 成形パンチ
31 スプライン成形外周部
311 スプライン成形歯
4 リフタ
41 挿入部
42 鍔部
421 環状溝
422 封止部材
5 保持ダイス
51 保持穴
61 貯留間隙
62 流下間隙
8 円筒部品
80 円板状のワーク
81 円筒部
811 スプライン歯
M 加工油

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプライン成形穴を有する成形ダイスと、スプライン成形外周部を有し上記スプライン成形穴内に下降する成形パンチと、該成形パンチに押されて下降するリフタと、該リフタを保持するための保持穴を有する保持ダイスとを備え、上記成形パンチと上記リフタとの間に円板状のワークを挟持して上記スプライン成形穴内に下降させ、該スプライン成形穴と上記スプライン成形外周部とによって絞り加工を行って、円筒部にスプライン歯を有する円筒部品を成形するよう構成されており、
上記リフタは、上記スプライン成形穴に挿入される挿入部に対する下方位置において、外周側に突出する鍔部を形成してなり、
該鍔部の外周には、上記保持穴の内周との間の隙間を塞ぐ封止部材が設けてあり、
上記スプライン成形穴内に上記挿入部が配置された上記リフタの原位置において、上記スプライン成形穴と上記挿入部及び上記鍔部とによって囲まれた貯留間隙内に加工油を充填し、上記成形パンチと共に上記リフタが下降する際に、上記加工油を上記保持穴と上記挿入部及び上記鍔部とによって囲まれて形成される流下間隙内に流下させるよう構成したことを特徴とするスプライン成形装置。
【請求項2】
請求項1に記載のスプライン成形装置において、上記成形ダイスは、上記円筒部品における上記スプライン歯を段階的に成形する複数の成形ダイス部をスペーサを介して積み上げて構成されていることを特徴とするスプライン成形装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のスプライン成形装置において、上記円筒部品は、自動変速機に用いるクラッチハブ又はクラッチドラムであることを特徴とするスプライン成形装置。
【請求項4】
スプライン成形穴を有する成形ダイスと、スプライン成形外周部を有し上記スプライン成形穴内に下降する成形パンチと、該成形パンチに押されて下降するリフタと、該リフタを保持するための保持穴を有する保持ダイスとを備え、上記成形パンチと上記リフタとの間に円板状のワークを挟持して上記スプライン成形穴内に下降させ、該スプライン成形穴と上記スプライン成形外周部とによって絞り加工を行って、円筒部にスプライン歯を有する円筒部品を成形するスプライン成形方法であって、
上記リフタには、上記スプライン成形穴に挿入される挿入部の下方に、外周側に突出する鍔部を形成し、該鍔部の外周には、上記保持穴の内周との間の隙間を塞ぐ封止部材を設けておき、
上記スプライン成形穴内に上記挿入部が配置された上記リフタの原位置において、上記スプライン成形穴と上記挿入部及び上記鍔部とによって囲まれた貯留間隙内に加工油を充填し、上記成形パンチと共に上記リフタが下降する際に、上記加工油を上記保持穴と上記挿入部及び上記鍔部とによって囲まれて形成される流下間隙内に流下させることを特徴とするスプライン成形方法。
【請求項5】
請求項4に記載のスプライン成形方法において、上記成形ダイスは、上記円筒部品における上記スプライン歯を段階的に成形する複数の成形ダイス部をスペーサを介して積み上げて構成されていることを特徴とするスプライン成形方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のスプライン成形方法において、上記円筒部品は、自動変速機に用いるクラッチハブ又はクラッチドラムであることを特徴とするスプライン成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−206824(P2011−206824A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78096(P2010−78096)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】