説明

スプリングの製造方法及び製造装置

【課題】Sバネとシートバックフレームとの金属同士が擦れ合って異音を発するのを防止するため、Sバネの末端部分の樹脂加工を自動化したスプリングの製造方法、及び製造装置を提供する。
【解決手段】樹脂チューブとして横断面がC型の樹脂チューブ部材を用い、前記樹脂チューブ部材を前記スプリングの末端部分に被せた後、樹脂チューブ部材の長手方向の端面を重ね合わせ、前記重ね合わせ部分に対して超音波溶着を行なうことを特徴とするスプリングの製造方法及び製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用スプリングの製造方法及び製造装置に係り、より詳しくは、末端部分の樹脂加工が自動化された自動車用シートフレームスプリングの製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のシートバックには、乗り心地向上のためにシートサスペンション装置が装着されることが多い。シートサスペンション装置は、シートバックフレームにシートスプリングアセンブリーを弾性支持して構成することができる。シートスプリングアセンブリーは、Sバネ、コネクチングワイヤ、ヘルパスプリングなどで全体の形状を構成し、更に種々のバネを配備して座り心地が改良することが行われる。これらの多くのばねのうち、Sバネは、S字を同一平面上で連続させて帯状とした形状の鋼製バネで、適度な弾力性と耐久性を有し、シートスプリングアセンブリーの主要構成部材として広く用いられている。
【0003】
Sバネの末端をシートバックフレームに係着し、シートバックフレームとシートスプリングアセンブリーとを連結することがある。この場合、そのままではシートバックにかかる体重の増減によってSバネとシートバックフレームとの金属同士が擦れ合って異音を発することがあるので、異音の発生を防ぐ方法の一つとして、Sバネの末端をポリプロピレン樹脂でコーテイングすることが行われる。
【0004】
しかし、この樹脂コーテイング作業は手作業で行わなければならず、シート組立て作業現場では実施できない。樹脂コーテイング作業ためシートバック組み立ての一連の流れ作業工程を中断しなければならず、作業効率の大幅な低下をもたらすと共に、製造設備のフットプリントの増大や運搬経費を生じることがあった。
【0005】
ポリプロピレン樹脂コーテイングの代わりに、ポリプロピレンパイプにSバネの末端を挿入する方法が試みられたが、ポリプロピレンパイプは冠着しただけでは作業時や運搬時にポリプロピレンパイプのずれや脱落が生じて歩留まりが低下し、好ましくなかった。
【0006】
Sバネの末端を樹脂加工する代わりに、シートバックフレームとSバネとを連結する樹脂製の組バネの取付用フックが開示された(例えば特許文献1を参照)。しかし、取付用フック等の非弾性部品を用いることは、シートスプリングアセンブリーの面積の減少につながり、これによるシート周縁部の弾性の低下、及び部品数の増加によるコストアップにつながる可能性があり好ましくなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−262958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、Sバネとシートバックフレームとの金属同士が擦れ合って異音を発するのを防止するため、Sバネの末端部分の樹脂加工を自動化したスプリングの製造方法及び製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するための本発明のスプリングの製造方法は、スプリングの末端部分に樹脂チューブを被せる方法であって、樹脂チューブとして横断面がC型の樹脂チューブ部材を用い、樹脂チューブ部材をスプリングの末端部分に被せた後、樹脂チューブ部材の長手方向の端面を重ね合わせ、重ね合わせ部分に対して超音波溶着を行なうことを特徴とする。
【0010】
本発明は、樹脂チューブ部材の長手方向の端面の重ね合わせは、樹脂チューブ部材の長手方向の少なくとも2箇所を押えることにより行ない、超音波溶着は、前記押えられた2箇所の間の重ね合わせ部分に対して行なうことが好ましい。
【0011】
かかる課題を解決するための本発明のスプリングの製造装置は、ワークが戴置される受け台と、
受け台に対して接近及び離反方向へ移動する一対の押えブロックと、
超音波振動するホーンを有し、一対の押えブロックの移動方向に対して交差する方向に進退可能となっており、進退によってホーンが一対の押えブロックの間に対して進退する超音波溶着部材と、を備えており、
横断面がC型の樹脂からなる樹脂チューブ部材が、末端部分に被せられたスプリングを、受け台上に戴置した状態で、樹脂チューブ部材の長手方向の端面が重なり合うように押えブロックにより樹脂チューブ部材を押え付け、この押えブロックの押え付け状態で超音波溶着部材が進出し、ホーンが押えブロックの間の重ね合わせ部分を超音波溶着することを特徴とする。
【0012】
また本発明のホーンは、樹脂チューブ部材の重ね合わせ部分に対応した窪み部が形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
ポリプロピレンパイプを冠着しただけでは作業時や運搬時にポリプロピレンパイプのずれや脱落が生じて好ましくなかったが、ポリプロピレンパイプの一部分をSバネに溶着することによってポリプロピレンパイプのずれや脱落が防止できてシートバックスプリング組み立て作業の歩留まりが向上した。
【0014】
Sバネの鋼材の直径より内径の大きいポリプロピレンチューブの一側を切開して用いることでSバネのポリプロピレンチューブへの挿入が容易になってスループットが向上し、ポリプロピレンパイプの溶着に超音波溶着装置を用いることで使用エネルギー量を熱溶着より削減すると共に、挿入操作と溶着の自動化とが可能となり、リードタイムが短縮された。
【0015】
ポリプロピレン溶着装置に市販の超音波溶着装置を導入することで作業を自動化できるので、作業効率を大幅に増大させる共に、製造設備をコンパクトに構成することができた。溶着装置の操作性及びメンテナンス性が向上し、結果として従来のポリプロピレンの熱溶着コーテイング法より製造コストの削減が可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る超音波溶着方法の作業工程図であって、(A)はポリプロピレンチューブにSバネを挿入した状態の断面図であり、(B)はポリプロピレンチューブを抑えた状態の断面図であり、(C)は、ポリプロピレンチューブを溶着した状態の断面図であり、(D)は(C)の斜視図である。
【図2】(A)は本発明の1実施例に係るスプリング製造装置の側面図であり、(B)は正面図である。
【図3】本発明に係る超音波溶着部材の側面図である。
【図4】(A)は本発明の1実施例に係るポリプロピレンチューブを抑えた状態のホーンの側面図であり、(B)はポリプロピレンチューブを溶着している状態のホーンの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について詳細に説明するが、この記載は本発明を説明するためのものであって、本発明の技術範囲を限定するものではない。本発明は、本発明の技術的範囲から逸脱しない範囲内で、多様に変更して実施することが可能である。
【0018】
図1は本発明に係る超音波溶着方法の作業工程図であって、(A)はポリプロピレンチューブにSバネを挿入した状態のワークの断面図であり、(B)はポリプロピレンチューブを押さえた状態の断面図であり、(C)は、ポリプロピレンチューブを溶着した状態の断面図であり、(D)は(C)の斜視図である。
【0019】
本発明はスプリング100の末端部分102に樹脂チューブ部材101を被せて溶着させる方法であって、図1(A)に示すように、スプリング100の直径より大きな内径を有し、横断面103がC字形の樹脂チューブ部材101を所定の長さに切断後、スプリング100の末端部分に被せ、樹脂チューブ部材101とスプリング100とから成るワーク107を形成した。符号104は、樹脂チューブ部材101の長手方向の端面を示す。
【0020】
図1(B)に示すように、ワーク107を受け台130に載置し、上方から押さえブロック120で押さえ、樹脂チューブ部材101の長手方向の端面104を重ね合わせた重ね合わせ部分105を形成させた。次いで重ね合わせ部分105に対向する方向から超音波溶着部材110を当接させて超音波溶着を行うことによって、図1(C)に示すように、樹脂チューブ部材101をスプリング100に溶着した。符号106は溶着部分を示す。図1(D)は、樹脂チューブ部材101をスプリング100に溶着した状態の斜視図である。
【0021】
樹脂チューブ部材101の長手方向の端面104の重ね合わせは、樹脂チューブ部材101の長手方向の少なくとも2箇所を押さえブロック120で押えることにより行ない、超音波溶着は押えられた2箇所の間の重ね合わせ部分105に対して行なうことが好ましい。
【0022】
次に、本発明に係るスプリングの製造装置を詳細に説明する。
図2(A)は本発明の1実施例に係るスプリング製造装置の側面図であり、(B)は正面図である。
図2(A)、(B)に示すように、本発明に係るスプリングの製造装置1は、ワーク107が載置される受け台130と、受け台130に対して接近及び離反方向へ移動する押さえブロック支持部材150に支持された一対の押さえブロック120と、一対の押えブロックの移動方向に対して交差する水平方向(図2(A)の左右方向)に進退可能な超音波溶着部支持部材140に支持された超音波溶着部材110と、を備えることが好ましい。
【0023】
図3は本発明に係る超音波溶着部材の側面図である。図3に示すように、超音波溶着部材110は、電源装置115と、超音波発振装置113の下方に一体に形成された超音波振動子114と、超音波振動子114の下方に一体に形成されたホーン111と、を備えることが好ましい。超音波発振装置113と超音波振動子114と電源装置115とは、本発明の条件で支障なく使用可能なものであれば何れの型式のもので使用できるが、本実施例においては、ブランソン超音波プラスチックアセンプリシステムモデル94−3500EM/4TRスタック(販売元日本エマソン株式会社)を使用した。超音波振動子114の振動数は40kHzであった。
【0024】
ホーン111は、超音波振動子114で発振された超音波を、下端の側面に形成された超音波照射部位116に伝達し、樹脂チューブ部材101の重ね合わせ部分105に超音波を照射してポリプロピレンチューブを溶着するための超音波伝達部材である。超音波照射部位116は略水平に形成された溝で上下方向の中央部に窪み部112を有し、超音波溶着部支持部材140の進行方向(図2の左右方向)に対して垂直方向に形成されることが好ましい。
【0025】
図4(A)は本発明の1実施例に係るポリプロピレンチューブを抑えた状態のホーンの側面図であり、(B)はポリプロピレンチューブを溶着している状態のホーンの側面図である。
図4(A)に示すように、ワーク107を受け台130に載置し、上方から抑えブロック120で押え付け、樹脂チューブ部材101の長手方向の端面104を重ね合わせた。
次いで、図4(B)に示すように、超音波溶着部材110を一対の押さえブロック120の間に前進させて、ワーク107に当接させ、超音波電源をONにすることによってホーン111が重ね合わせ部分105を超音波溶着した。超音波電源をOFFにし、超音波溶着部材110と押さえブロック120とを後退させ、樹脂チューブ部材101が末端部分に溶着されたスプリング100を次工程に搬送する。この操作は自動化が可能で、スプリング100の末端部分102に樹脂チューブ部材101を溶着する工程の所要時間は一箇所あたり3.5秒であった。
【符号の説明】
【0026】
1 スプリング製造装置
100 スプリング
101 樹脂チューブ部材
102 末端部分
103 横断面
104 長手方向の端面
105 重ね合わせ部分
106 溶着部分
107 ワーク
110 超音波溶着部材
111 ホーン
112 窪み部
113 超音波発振装置
114 超音波振動子
115 電源装置
116 超音波照射部位
120 押さえブロック
130 受け台
140 超音波溶着部支持部材
150 押さえブロック支持部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプリングの末端部分に樹脂チューブを被せる方法であって、
前記樹脂チューブとして横断面がC型の樹脂チューブ部材を用い、前記樹脂チューブ部材を前記スプリングの末端部分に被せた後、樹脂チューブ部材の長手方向の端面を重ね合わせ、前記重ね合わせ部分に対して超音波溶着を行なうことを特徴とするスプリングの製造方法。
【請求項2】
前記樹脂チューブ部材の長手方向の端面の重ね合わせは、樹脂チューブ部材の長手方向の少なくとも2箇所を押えることにより行ない、前記超音波溶着は、前記押えられた2箇所の間の重ね合わせ部分に対して行なうことを特徴とする請求項1記載のスプリングの製造方法。
【請求項3】
ワークが戴置される受け台と、
前記受け台に対して接近及び離反方向へ移動する一対の押えブロックと、
超音波振動するホーンを有し、前記一対の押えブロックの移動方向に対して交差する方向に進退可能となっており、前記進退によって前記ホーンが一対の押えブロックの間に対して進退する超音波溶着部材と、
を備えており、
横断面がC型の樹脂からなる樹脂チューブ部材が、末端部分に被せられたスプリングを、前記受け台上に戴置した状態で、前記樹脂チューブ部材の長手方向の端面が重なり合うように前記押えブロックにより前記樹脂チューブ部材を押え付け、この押えブロックの押え付け状態で前記超音波溶着部材が進出して前記ホーンが押えブロックの間の重ね合わせ部分を超音波溶着することを特徴とするスプリングの製造装置。
【請求項4】
前記ホーンは、前記樹脂チューブ部材の重ね合わせ部分に対応した窪み部が形成されていることを特徴とする請求項3記載のスプリングの製造装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−270806(P2010−270806A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−121698(P2009−121698)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】