説明

スリットノズルの洗浄方法

【課題】スリットノズルを分解することなく、少ない溶剤使用量で、供給配管およびスリットノズルの内部に残る塗布液を洗浄除去できるとともに、洗浄後の乾燥も早く、このスリットノズルを用いた塗布工程を素早く再開することのできるスリットノズルの洗浄方法を提供する。
【解決手段】僅かの隙間を空けて対向配置されたリップ(1a,1b)間に形成されるスリットから、供給配管(2)から供給される塗布液を吐出するスリットノズル1を洗浄する方法であって、上記塗布液の吐出完了後に、上記供給配管(2)に液化炭酸ガスを導入し、この液化炭酸ガスを上記スリットから吐出させることにより、上記スリットノズル1の内部に残る塗布液を効率的に排出・除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットパネルディスプレイ等に用いられる大型のガラス基板上に、レジスト膜等の均一な膜厚の塗布膜を形成するために使用される塗布装置のスリットノズルを洗浄する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶ディスプレイ(LCD)や有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイのガラス基板に、レジスト液等を均一に塗布する方法として、ガラス板を面方向回転させながらその中央部に塗布液を滴下するスピンコート法が用いられてきた。しかしながら、近年、これらフラットパネルディスプレイの大型化に伴い、その基板となるマザーガラスも大型化してきており、レジスト液等を塗布する際にも、上記スピンコート法に代えて、噴射ヘッドから塗布液を吐出して基板上に均一な塗布膜を形成するダイコート法が主流になりつつある。
【0003】
このダイコート法は、大型の塗布装置(スリットノズルコータ)を用いて行われるもので、例えば、精密なテーブル(定盤)上へガラス基板を吸着させて保持し、塗布液を噴射するダイヘッド(スリット状の吐出口を有するノズル:スリットノズル)を、上記ガラス基板に対して一定の隙間(クリアランス)を保ったまま移動させ、レジスト液等の塗布液を均等に一定量・一定時間吐出して、このガラス基板の被塗布面に、高均一でむらのないレジスト膜等の塗布膜を形成する。なお、逆に、スリットノズルを固定して、精密なX−Yステージ上に乗せたガラス基板を移動させる塗布装置もある。
【0004】
このようなコータに用いられるスリットノズルの代表的な構成例を図7に示す。
このスリットノズル1は、LCD用大型ガラス基板のレジスト液の塗布に用いられるものであり、ヘッドの走行方向に対して前方側のリップ部1aと後方側のリップ部1bと、塗布液供給配管(図示せず)を通じてこのスリットノズル1に供給される塗布液をノズル長手(幅)方向に振り分けるマニホールド部1cと、このマニホールド部1cから上記リップ部1a,1bの先端に均等に塗布液を押し出すランド部1dとから構成されている。なお、この「スリットノズル」は、単に「ヘッド」,「ダイ」,「口金」、あるいは、「コーターノズル」,「コーターヘッド」,「スリットダイ」等と呼ばれることもある。また、吐出液の流れる内部流路(マニホールド部1c)の形式としては、T型やコートハンガー型等がある。
【0005】
また、上記スリットノズルコータは、塗布終了後に基板交換等の待機時間があるため、この間に上記リップ部1a,1bの先端近傍に付着した塗布液が乾燥・固着したり、スリットノズル1内に残留した塗布液の粘度が上昇したりして、塗布液の塗布方向にスジムラ(塗りむら)が発生することが知られている。
【0006】
そこで、この種のスリットノズルコータには、待機時間中のスリットノズルの乾燥を防止するノズル先端乾燥防止手段や、ノズル先端近傍に付着した塗布液をスクレーパ等によりその都度除去するノズル先端洗浄手段等が設けられている。また、スリットノズル内に残る塗布液を、塗布直後に真空吸引等によって回収する方法や、製品への本塗布の前に、スリットノズル内に残る塗布液を少量吐出(プリ塗布)して捨てる方法を採用するコータもある(例えば、特許文献1等を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−55607号公報
【特許文献2】特開2006−75691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記スリットノズルコータにおいては、上記待機時間中におけるノズルリップ周りへの塗布液の固着の問題に加え、上記レジスト液等の塗布液が乾燥し易いことから、メンテナンスやトラブル等により製造ラインを長時間停止させる場合や、休業等により製造ラインを長期間休止する場合に、スリットノズルの内側等に塗布液が固着するという問題が生じる。すなわち、スリットノズルの内面(リップ部1a,1b内側や、マニホールド部1c,ランド部1d等)に付着したレジスト液等が固着したり、上記スリットノズルに塗布液を供給する配管や供給孔等の内部で塗布液の凝固が発生したりして、その後の塗布再開に障害が発生する。
【0009】
そのため、コータが長期間休止する場合等は、一般的に、事前に供給配管等から塗布液を抜き取り、スリットノズルをコータから取り外して分解し、溶剤等で内部まで完全に洗浄する方法が採られている。また、供給配管等を通じて、2種類以上の溶剤を切り替えながらダイヘッド(スリットノズル)に流し、これらの内部を洗浄する方法も提案されている(例えば、特許文献2等を参照。)。
【0010】
しかしながら、これらの洗浄方法は、残留塗布液やその堆積物を完全に除去できるものの、スリットノズルの乾燥や、組み立て,クリアランスの調整を含む再設定に時間がかかり、一時的な休止の場合は、なかなか製造ラインを再開できず、無駄な時間が発生してしまう。そのうえ、洗浄に大量の溶剤を使用するため、作業環境的にも好ましくない。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、スリットノズルを分解することなく、少ない溶剤使用量で、供給配管およびスリットノズルの内部に残る塗布液を洗浄除去できるとともに、洗浄後の乾燥も早く、このスリットノズルを用いた塗布工程を素早く再開することのできるスリットノズルの洗浄方法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するため、本発明の洗浄方法は、僅かの隙間を空けて対向配置されたリップ間に形成されるスリットから、供給配管から供給される塗布液を吐出するスリットノズルを洗浄する方法であって、上記塗布液の吐出完了後に、上記供給配管に液化炭酸ガスを導入し、この液化炭酸ガスを上記スリットから吐出させることにより、上記スリットノズルの内部に残る塗布液を除去する方法を第1の要旨とする。
【0013】
また、同じ目的を達成するため、本発明の洗浄方法は、僅かの隙間を空けて対向配置されたリップ間に形成されるスリットから、供給配管から供給される塗布液を吐出するスリットノズルを洗浄する方法であって、上記塗布液の吐出完了後に、上記供給配管に上記塗布液を溶解させる溶剤を所定時間導入し、その後、この供給配管に液化炭酸ガスを所定時間導入して、これら溶剤と液化炭酸ガスとを上記スリットから順次吐出させ、上記スリットノズルの内部に残る塗布液を除去する方法を第2の要旨とする。
【0014】
すなわち、本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ね、その研究の過程で、1)フラットパネルディスプレイ等の製造に使用される各種の塗布液(レジスト液等)は、未硬化の状態であれば、液化炭酸ガスに比較的溶解すること。2)上記液化炭酸ガスの供給前に、塗布液からなる被膜を有機溶剤等によって膨潤させておけば、上記硬化した被膜のはく離がさらに容易になること、を見出し、本発明に到達した。そして、本発明者はさらに、3)この液化炭酸ガスの圧力を高めに設定し、脈動させるようにスリットノズルに対して間欠的に供給すれば、塗布液が固化(硬化)してスリットノズルに付着した場合でも、比較的容易にはく離させることが可能なことも見出した。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、以上のような知見にもとづきなされたものであり、本発明のスリットノズルの洗浄方法は、スリットノズルに繋がる供給配管に液化炭酸ガスを所定時間導入し、この液化炭酸ガスをスリットノズルの先端開口(スリット)から間欠的に吐出させることにより、このスリットノズルの内部に残留する塗布液と上記配管内に残る塗布液とを、排出・除去することができる。
【0016】
また、本発明のスリットノズルの洗浄方法の中でも、上記液化炭酸ガスを、上記供給配管に、所定の時間間隔(インターバルあるいはデューティタイム)で断続的に導入する場合は、このスリットノズルの内部に残留する塗布液と上記配管内に残る塗布液とを、効率的に排出・除去することが可能になる。
【0017】
したがって、本発明のスリットノズルの洗浄方法は、待機時間中における塗布液の固着を解消することができるうえ、長時間の停止等における残留塗布液やその堆積物等を、スリットノズルをコータから取り外すことなく、洗浄することができる。
【0018】
しかも、本発明のスリットノズルの洗浄方法は、使用した液化炭酸ガスは、作業環境下で自然に気化して、後に何も残さず素早く気化してしまうことから、上記塗布液の除去後にも、スリットノズルの使用を直ぐに再開できるうえ、気化した炭酸ガスも、周辺を汚染することなく、環境への負荷も少ないという利点を有する。
【0019】
また、本発明のスリットノズルの洗浄方法において、そのなかでも、特に、上記供給配管に導入される液化炭酸ガスが、2MPa以上の液化炭酸ガスである場合は、この液化炭酸ガスの供給時と非供給時の圧力差によって、上記液化炭酸ガスが、固化(硬化)してノズルに付着したレジスト液等の塗布液の被膜の間に浸潤し、この被膜を効果的に浮き上がらせることができる。したがって、本発明のスリットノズルの洗浄方法は、長期間のライン休止等、塗布液の吐出完了後にしばらく時間が経過し、この塗布液の粘度が上昇したり、硬化してしまったりした場合でも、このスリットノズルの内部に残留する塗布液と上記配管内に残る塗布液とを、効果的に排出・除去することができる。
【0020】
つぎに、本発明のスリットノズルの洗浄方法において、上記塗布液の吐出完了後に、上記供給配管に上記塗布液を溶解させる溶剤を所定時間導入し、その後、この供給配管に液化炭酸ガスを所定時間導入して、これら溶剤と液化炭酸ガスとを上記スリットから順次吐出させるようにした場合は、上記液化炭酸ガスの導入前に予め、上記塗布液からなる被膜が溶剤で膨潤されることから、この塗布液がレジスト液等のように比較的強固な固化(硬化)被膜を形成する場合でも、この被膜を容易に除去することができるようになる。
【0021】
また、そのなかでも、上記溶剤の導入と上記液化炭酸ガスの導入の組み合わせを、複数回繰り返す場合は、レジスト液等のように比較的強固な硬化被膜が形成されたものでも、この被膜をより確実に、かつ、容易に除去することが可能になる。
【0022】
そして、その中でも、上記供給配管に溶剤を直接導入することに代えて、この溶剤中に不活性ガスを吹き込んだバブリングにより発生する溶剤ミストを、上記供給配管に導入するようにした場合は、上記被膜の膨潤に使用する有機溶剤量を減らすことができる。したがって、本発明のスリットノズルの洗浄方法は、この洗浄作業時に排出される溶剤が少なく、環境に優しい洗浄方法とすることができる。なお、有機溶剤の使用量が少ないことは、コスト的にも有利である。
【0023】
さらに、本発明のスリットノズルの洗浄方法の中でも、上記溶剤の導入中に上記スリットノズルを加温する方法、あるいは、上記溶剤の導入中に上記スリットノズルに超音波を照射する方法を採用した場合は、上記塗布液が硬化した被膜の膨潤を促進することができ、好適である。なお、これらの膨潤促進方法は、単独で用いてもよく、勿論併用してもよい。
【0024】
そして、本発明のスリットノズルの洗浄方法の中でも、特に、上記溶剤がグリコールエーテル系の有機溶剤である場合は、この溶剤の導入後に上記供給配管に液化炭酸ガスを供給した際に、上記供給管内およびスリットノズル内に溶剤成分が残ることがなく、きれいな状態で、素早くスリットノズルの使用を再開することができる。
【0025】
なお、このグリコールエーテル系の有機溶剤は、上記液化炭酸ガスへの相溶性を考慮して選ばれたものであるが、液晶ディスプレイ(LCD)や有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイを製造する際に、上記ガラス基板上にレジスト膜を形成するのに用いられる各種レジスト液に対しても相溶性・溶解性が高く、硬化したレジスト膜に対する膨潤性も高い。したがって、本発明のスリットノズルの洗浄方法は、フラットパネルディスプレイ等に用いられる大型のガラス基板上に、レジスト膜等の均一な膜厚の塗布膜を形成するために使用される塗布装置のスリットノズルを洗浄する際に、特に顕著な効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態におけるスリットノズルの洗浄装置の概略構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態におけるスリットノズルの洗浄方法を説明する説明図である。
【図3】本発明の第2実施形態におけるスリットノズルの洗浄方法を説明する説明図である。
【図4】本発明の第3実施形態におけるスリットノズルの洗浄方法を説明する説明図である。
【図5】本発明の第3実施形態におけるスリットノズルの別の洗浄方法を説明する説明図である。
【図6】本発明の第3実施形態におけるスリットノズルのさらに別の洗浄方法を説明する説明図である。
【図7】スリットノズルコータに用いられるスリットノズルの形状例である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
つぎに、本発明の実施の形態を、図面にもとづいて詳しく説明する。
【0028】
図1は、本実施形態のスリットノズルの洗浄方法を実施するのに用いる洗浄装置の概略構成図である。本実施形態におけるスリットノズル1も、大型の塗布装置(スリットノズルコータ)で使用されているものであり、固定されたガラス基板に対して一定の隙間(クリアランス)を保ったまま移動することにより、レジスト液等の塗布液を均等に一定量・一定時間吐出し、このガラス基板の被塗布面に、高均一でむらのないレジスト膜等の塗布膜を形成する。
【0029】
なお、図中の符号1a,1bはリップ部、1cはマニホールド部、1dはランド部である。また、本実施形態におけるスリットノズル1の洗浄は、クリーンルーム内等で行われることが多いため、使用する炭酸ガスや溶剤等でこのクリーンルーム内を汚染することがないように、洗浄中は、スリットノズル1先端に、このノズル1から排出される液体やガス等をクリーンルーム外へ強制排気(排出)するための排気ユニット10が取り付けられる。
【0030】
本実施形態において使用するスリットノズル1の洗浄装置は、スリットノズルコータに始め(設計時)から、もしくは、工場設置後に付加的に取り付けられるものであり、スリットノズル1に塗布液を供給する流路(塗布液供給配管2)の途中から、この流路を利用してノズル洗浄液をスリットノズル1の先端まで流し込めるように構成されている。
【0031】
図1中の符号3は、上記塗布液供給配管2に液化炭酸ガスを導入するための流路(液化炭酸ガス供給配管)であり、その途中には、この配管3を開閉するとともに、上記液化炭酸ガスの流量を調節するためのバルブ(弁)が設けられている。
【0032】
また、上記液化炭酸ガス供給配管3に平行して、溶剤タンク4と、この溶剤(液体)を上記塗布液供給配管2に導入する流路(溶剤供給配管5)と、上記溶剤タンク4中の液層に不活性ガスを供給する流路(バブリング配管6)と、上記溶剤タンク4中の気層に連通する流路(溶剤ミスト供給配管7)と、多数のバルブとからなる溶剤供給手段が設けられている。
【0033】
なお、後の動作説明時に詳しく説明するが、上記溶剤ミスト供給配管7は、塗布液供給配管2に液体溶剤を供給する際は、上記溶剤タンク4を加圧するための不活性ガスの流路となり、塗布液供給配管2に溶剤ミストを供給する際は、上記溶剤タンク4中で発生する気体(溶剤ミスト)を運ぶ流路となる。また、上記溶剤タンク4には、内部の溶剤を加温するための加温手段(図示省略)が取り付けられている場合もある。
【0034】
まず、スリットノズル1に対するレジスト液等の塗布液の付着が軽微な場合に行われる第1実施形態について説明する。
【0035】
図2は、本発明の第1実施形態におけるスリットノズル1の洗浄方法を説明する説明図である。この実施形態で用いる液化炭酸ガス供給配管3は、別途設けた液化炭酸ガスタンク(図示せず)から供給される液化炭酸ガスを、上記塗布液供給配管2に導入するためのものであり、供給される液化炭酸ガス(常温)としては、好ましくは2MPa以上、さらに好ましくは5MPa以上の液化炭酸ガスが使用される。
【0036】
また、本実施形態においては、液化炭酸ガスの導入は、塗布液の吐出完了後に、所定の時間間隔(インターバルあるいはデューティタイム)を空けて断続的に行われ、上記塗布液供給配管2内に導入された液化炭酸ガスは、スリットノズル1先端のスリット(リップ部1a−リップ部1b間)から間欠的に排出される。この実施形態においては、例えば、10秒の液化炭酸ガス供給と5秒の休止とを交互に5回ずつ繰り返すサイクル(1サイクル:75秒、うち液化炭酸ガスの合計供給時間:50秒)を1セットとし、塗布液の付着の程度に応じて、この洗浄サイクルを1〜5セット行う方法がとられる。
【0037】
上記の方法により、本実施形態におけるスリットノズルの洗浄方法は、有機溶剤を使用することなく、このスリットノズル1の内部に残留する塗布液と上記塗布液供給配管2内に残る塗布液とを、効率的に排出・除去することができる。また、洗浄に使用した液化炭酸ガスは、常温下で自然に気化して素早く気化・蒸発してしまうことから、上記洗浄作業後にも、スリットノズル1の使用を直ぐに再開することができる。
【0038】
なお、本発明のスリットノズルの洗浄方法における液化炭酸ガスの導入(供給)パターンは、上記第1実施形態での所定時間間隔を空けて断続的に行う方法のほか、数秒〜数十秒連続で導入しても良い。
【0039】
つぎに、スリットノズル1に対するレジスト液等の塗布液の付着量がやや多い場合や、塗布液の付着後に時間が経過してしまった場合等、塗布液の除去がやや困難であると考えられる際に行われる第2実施形態について説明する。
【0040】
図3は、本発明の第2実施形態におけるスリットノズル1の洗浄方法を説明する説明図である。この実施形態では、上記第1実施形態における液化炭酸ガス供給配管3に加え、ミスト状態の有機溶剤を上記塗布液供給配管2に供給する溶剤供給手段を使用する。
【0041】
この実施形態においては、上記液化炭酸ガスの導入に先立ち、グリコールエーテル系の有機溶剤を貯留する溶剤タンク4(約100℃に加温)に、バブリング配管6を通じて、加圧された不活性ガス(本実施形態においては、約0.2MPaに加圧された窒素ガス)を供給し、図のように有機溶剤中でバブリングさせて、溶剤タンク4の気層に溶剤のミストを発生させる。そして、この発生した溶剤ミストを、溶剤ミスト供給配管7を通じて塗布液供給配管2に導入し、この塗布液供給配管2内および上記スリットノズル1内に付着した塗布液を膨潤させる。
【0042】
なお、使用する有機溶剤として、好ましくは、ジプロピレングリコールn−ブチルエーテル,トリプロピレングリコールn−ブチルエーテル,トリプロピレングリコールメチルエーテル、もしくは、これらを適宜混合したものが使用される。
【0043】
そして、本第2実施形態では、上記塗布液の吐出完了後に、溶剤ミスト供給配管7を通じて上記溶剤ミストを塗布液供給配管2に所定時間導入し、その後、この塗布液供給配管2に、上記第1実施形態と同様の液化炭酸ガスを所定時間導入する。この実施形態においては、例えば、10分の溶剤ミスト供給と10秒の休止(切り替え時間)の後に、10秒の液化炭酸ガス供給と5秒の休止を行う工程を1サイクルとし、塗布液の付着の程度に応じて、この洗浄工程を1〜5サイクル繰り返す方法がとられる。
【0044】
上記の方法により、本実施形態におけるスリットノズルの洗浄方法は、少量の有機溶剤の使用により、このスリットノズル1の内部に残留する塗布液と上記塗布液供給配管2内に残る塗布液とを、効果的に排出・除去することができる。
【0045】
また、上記洗浄に使用したグリコールエーテル系の有機溶剤は、液化炭酸ガスに対する溶解度が高いため、その後の液化炭酸ガスの導入に伴い、上記配管2内やスリットノズル1内に残留することなく、その全量が排気ユニット10を通じてクリーンルームの外へ排出される。したがって、本実施形態におけるスリットノズルの洗浄方法も、上記洗浄作業後に、このスリットノズル1の使用を直ぐに再開することができる。
【0046】
なお、本発明のスリットノズルの洗浄方法における溶剤ミストおよび液化炭酸ガスの導入(供給)パターンは、上記1実施形態同様、この第2実施形態での導入パターン以外の手順で行っても差し支えない。
【0047】
つぎに、スリットノズル1に対するレジスト液等の塗布液の付着量が多い場合や、付着後に時間が経過して塗布液が固化してしまった場合等、塗布液の除去が困難であると考えられる際に行われる第3実施形態について説明する。
【0048】
図4は、本発明の第3実施形態におけるスリットノズル1の洗浄方法を説明する説明図である。この実施形態でも、上記第1実施形態における液化炭酸ガス供給配管3に加え、液体状の有機溶剤を上記塗布液供給配管2に供給する溶剤供給手段を使用する。
【0049】
この実施形態においては、上記液化炭酸ガスの導入に先立ち、溶剤ミスト供給配管7を通じて、溶剤タンク4内の気層に加圧された不活性ガス(約0.2MPaの窒素ガス)を供給し、このタンク4内に貯留されたグリコールエーテル系の有機溶剤(約100℃に加温)を、液体状のまま、溶剤供給配管5を通じて塗布液供給配管2に導入し、この塗布液供給配管2内および上記スリットノズル1内に付着した塗布液を膨潤させる。
【0050】
そして、本第3実施形態では、上記塗布液の吐出完了後に、溶剤供給配管5を通じて上記グリコールエーテル系の有機溶剤を塗布液供給配管2に所定時間導入し、その後、この塗布液供給配管2に、上記第1実施形態と同様の液化炭酸ガスを所定時間導入する。この実施形態においては、例えば、10分の有機溶剤供給と10秒の休止(切り替え時間)の後に、10秒の液化炭酸ガス供給と5秒の休止を行う工程を1サイクルとし、塗布液の付着の程度に応じて、この工程を1〜5サイクル繰り返す方法がとられる。
【0051】
上記の方法により、本実施形態におけるスリットノズルの洗浄方法は、このスリットノズル1の内部に残留する塗布液と上記塗布液供給配管2内に残る塗布液とを、確実に、かつ、容易に除去することができる。
【0052】
また、上記洗浄に使用したグリコールエーテル系の有機溶剤は、液化炭酸ガスに対する溶解度が高いため、その後の液化炭酸ガスの導入に伴い、上記配管2内やスリットノズル1内に残留することなく、その全量が排気ユニット10を通じてクリーンルームの外へ排出される。したがって、本実施形態におけるスリットノズルの洗浄方法も、上記第1および第2実施形態と同様、上記洗浄作業後に、このスリットノズル1の使用を直ぐに再開することができる。
【0053】
なお、スリットノズル1の内部に付着した塗布液等の被膜が剥がれにくく強固な場合は、上記塗布液供給配管2へのグリコールエーテル系の有機溶剤の導入時に、図5のように、別途設けた加熱手段8等により上記スリットノズル1を加温するか、あるいは、図6のように、別途設けた超音波照射手段9により上記スリットノズル1に超音波を照射してもよい。これらの方法により、塗布液が硬化した被膜の膨潤を促進することができる。
【0054】
また、本発明のスリットノズルの洗浄方法における溶剤および液化炭酸ガスの導入(供給)パターンは、上記1,2実施形態同様、この第3実施形態での導入パターン以外の手順で行っても差し支えない。
【0055】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0056】
まず、液晶ディスプレイ(LCD)の製造工程で使用されるポジレジスト液を用いて、洗浄液に液化炭酸ガスのみを用いた洗浄試験(上記第1実施形態に相当)について説明する。
【0057】
洗浄試験に用いた塗布液S(液晶ディスプレイ製造用ポジ型レジスト液)は、ディスプレイの基板となるガラス板にミクロン単位の微細なパターン(マスク)を欠陥なく形成させるフォトリソグラフィー技術に用いられるものであり、一般には、紫外線に感光するレジスト液をガラス基板に塗布し、紫外線露光によりパターンを転写した後、現像および未感光部分の除去を行ってパターンを形成する。
【0058】
この塗布液Sを、スリットノズル1のマニホールド部1cおよびランド部1d(図2参照)に塗布した後、上記スリットノズル1を組み立て、塗布液Sの塗布3分後(未乾燥状態)に、液化炭酸ガス供給配管3および塗布液供給配管2を通じて、6MPaに加圧した液化炭酸ガス(35℃)を導入し、スリットノズル1先端のスリットから吐出させて洗浄を行い、洗浄操作後にスリットノズル1の内部に残る残渣の量(汚れ落ち)を目視にて判定した。
【0059】
なお、液化炭酸ガスの導入は、10秒の液化炭酸ガス供給と5秒の休止とを交互に5回ずつ繰り返すサイクル(1サイクル:75秒、うち液化炭酸ガスの合計供給時間:50秒)を1セットとし、試験は1〜5セットの結果を評価した。
1セットあたりの液化炭酸ガス流量
160g/10秒 1セット50秒で約0.9kg(6MPa時)
5セット実施した場合は、約4.5kg(6MPa時)
【0060】
また、目視判定は、上記試験終了後のスリットノズル1を分解し、マニホールド部1cおよびランド部1dに残る残渣を直接見て判定を行った。
評価ランク ◎:残渣なく綺麗に除去できている
○:ほとんど除去できているが若干残渣あり
△:洗浄前比較すると僅かに除去できている
×:洗浄前と変化なく、除去できていない
【0061】
【表1】

【0062】
つぎに、液晶ディスプレイ(LCD)の製造工程等で使用される種々のレジスト液を用いて、洗浄液に溶剤ミストと液化炭酸ガスを併用した洗浄試験(上記第2実施形態に相当)について説明する。
【実施例2】
【0063】
〔塗布液〕
使用したレジスト液は、上記実施例1における塗布液S(ポジ型レジスト液)のほか、塗布液B(ブラックマトリクス形成用のブラックレジスト液:顔料分散型レジスト液),塗布液A(アルミチタネート系レジスト液),塗布液H(チタニア系レジスト液),塗布液P(シリケート系レジスト液)を使用した。
【0064】
この洗浄試験では、上記各塗布液を、スリットノズル1のマニホールド部1cおよびランド部1d(図3参照)に塗布した後、上記スリットノズル1を組み立て、塗布液Sの塗布3分後(未乾燥状態)または24時間(完全乾燥)後に、約0.2MPaに加圧された窒素ガスのバブリングによりジプロピレングリコールn−ブチルエーテル(100℃)から発生した溶剤ミストを、溶剤ミスト供給配管7および塗布液供給配管2を通じてスリットノズル1に所定時間導入し、その後、液化炭酸ガス供給配管3および塗布液供給配管2を通じて、6MPaに加圧した液化炭酸ガス(35℃)を所定時間導入して、スリットノズル1先端のスリットからこれらを吐出させて洗浄を行った。
【0065】
なお、洗浄は、10分の溶剤ミスト供給と10秒の休止(切り替え時間)の後に、10秒の液化炭酸ガス供給と5秒の休止を行う工程を1サイクルとし、試験は、この洗浄工程を1〜5サイクルの結果を評価した。
1サイクルあたりの溶剤消費量
1.12g/10分(100℃,窒素ガスの流量2L/minの場合)
5サイクル実施した場合約5.6g(窒素ガス0.2MPa,2L/minの場合)
1サイクルあたりの液化炭酸ガス流量
160g/10秒 5サイクル実施した場合は、約0.9kg(6MPa時)
【0066】
また、実施例1同様、洗浄操作後にスリットノズル1の内部に残る残渣の量(汚れ落ち)を目視にて判定した。結果を「表2」に示す。
【0067】
【表2】

【0068】
上記実施例1の結果から、塗布液(レジスト液)が未乾燥の状態であれば、有機溶剤を使用することなく、液化炭酸ガスの導入だけもで、比較的高い洗浄効果が得られることが分かる。
【0069】
また、実施例2のように、塗布液の吐出完了後時間が経過して、塗布液が完全に被膜化(硬化)してしまったものは、予め溶剤ミストで膨潤させても、完全には除去できないものがあり、液体での溶剤導入あるいは加熱,超音波照射等の併用が必要になる場合も考えられる。しかしながら、いずれの場合でも、上記使用有機溶剤は、上記配管2内やスリットノズル1内に残留することなく、その全量が外部へ排出されることに加え、この有機溶剤を押し流した液化炭酸ガスが素早く気化して蒸発してしまうことから、本発明のスリットノズルの洗浄方法は、上記洗浄作業後に、スリットノズル1の使用を直ぐに再開することができるというメリットを有する。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の洗浄方法は、液晶ディスプレイ(LCD)や有機ELディスプレイ等、大型のフラットパネルディスプレイを製造する際に用いられるスリットノズルコータ,ダイコータ等のスリットノズルを洗浄する方法に適する。
【符号の説明】
【0071】
1 スリットノズル
1a,1b リップ部
2 塗布液供給配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
僅かの隙間を空けて対向配置されたリップ間に形成されるスリットから、供給配管から供給される塗布液を吐出するスリットノズルを洗浄する方法であって、上記塗布液の吐出完了後に、上記供給配管に液化炭酸ガスを導入し、この液化炭酸ガスを上記スリットから吐出させることにより、上記スリットノズルの内部に残る塗布液を除去することを特徴とするスリットノズルの洗浄方法。
【請求項2】
上記液化炭酸ガスを、上記供給配管に所定の時間間隔で断続的に導入する請求項1記載のスリットノズルの洗浄方法。
【請求項3】
上記供給配管に導入される液化炭酸ガスが、2MPa以上の液化炭酸ガスである請求項1または2記載のスリットノズルの洗浄方法。
【請求項4】
僅かの隙間を空けて対向配置されたリップ間に形成されるスリットから、供給配管から供給される塗布液を吐出するスリットノズルを洗浄する方法であって、上記塗布液の吐出完了後に、上記供給配管に上記塗布液を溶解させる溶剤を所定時間導入し、その後、この供給配管に液化炭酸ガスを所定時間導入して、これら溶剤と液化炭酸ガスとを上記スリットから順次吐出させ、上記スリットノズルの内部に残る塗布液を除去することを特徴とするスリットノズルの洗浄方法。
【請求項5】
上記溶剤の導入と上記液化炭酸ガスの導入の組み合わせを、複数回繰り返す請求項4記載のスリットノズルの洗浄方法。
【請求項6】
上記供給配管に溶剤を直接導入することに代えて、この溶剤中に不活性ガスを吹き込んだバブリングにより発生する溶剤ミストを、上記供給配管に導入する請求項4または5記載のスリットノズルの洗浄方法。
【請求項7】
上記溶剤の導入中に、上記スリットノズルを加温する請求項4〜6のいずれか一項に記載のスリットノズルの洗浄方法。
【請求項8】
上記溶剤の導入中に、上記スリットノズルに超音波を照射する請求項4〜7のいずれか一項に記載のスリットノズルの洗浄方法。
【請求項9】
上記溶剤が、グリコールエーテル系の有機溶剤である請求項4〜8のいずれか一項に記載のスリットノズルの洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−284595(P2010−284595A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−140413(P2009−140413)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(000126115)エア・ウォーター株式会社 (254)
【Fターム(参考)】