説明

ズームレンズ及びそれを有する画像投射装置

【課題】 ズーミングに伴う諸収差を良好に補正し、画面全体にわたり良好なる光学性能を有した、例えば液晶プロジェクター用に好適なズームレンズを得ること。
【解決手段】 原画を形成する表示ユニットと、該表示ユニットによって形成された原画をズームレンズによって投影面上に投射する画像投射装置において、
該ズームレンズは、拡大側から縮小側へ順に第1〜第6レンズ群を有し、該第1、第4、第5レンズ群は、各々1以上の非球面レンズを有し、
軸上と軸外の光線が各非球面レンズに入射するときの入射高を適切に設定したこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ズームレンズ及びそれを有する画像投射装置に関し、例えば液晶表示素子で形成される画像情報を投影面上に投射する液晶プロジェクターとして好適なものである。
【背景技術】
【0002】
液晶プロジェクターに用いられるズームレンズには、像側(縮小側)に色分解プリズムや色フィルター等を配置するためバックフォーカスが長く、像側がテレセントリックであることが要望されている。
【0003】
更に、短い投射距離で大画面の投射ができるよう、広画角であること、即ちレンズ系全体がレトロフォーカス型であること、そして種々な投射倍率で投射ができるように高ズーム比であること等が要望されている。
【0004】
これらの要望を満足し、高い光学性能を得る一方法として光学系中に、非球面形状の面を有するレンズ(非球面レンズ)を用いる方法がある。
【0005】
従来、液晶プロジェクターに用いられるズームレンズとして、非球面レンズを用いて長いバックフォーカスを有し、高い光学性能を有するレトロフォーカス型のズームレンズが知られている。
【0006】
このうち拡大側より縮小側へ順に、負、正、正、負、正(もしくは負)、正の屈折力の第1〜第6レンズ群の配列による全体として6つのレンズ群より成る6群ズームレンズが知られている(特許文献1、2)。
【0007】
又、拡大側より縮小側へ順に、負、正、負、正、正の屈折力の第1〜第5レンズ群より成る5群ズームレンズが知られている(特許文献3)。
【特許文献1】特開2001−235679号公報
【特許文献2】特開2001−108900号公報
【特許文献3】特開2000−111797号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
プロジェクターで用いられるズームレンズは、長いバックフォーカスを有し、縮小側がテレセントリックであることが要望されるために、拡大側に負の屈折力のレンズ群を、縮小側に正の屈折力のレンズ群を配する場合が多い。
【0009】
このようなレンズ構成のズームレンズは、レンズ系全体の非対称性が増大し、例えば広画角化を図ろうとすると歪曲収差や像面湾曲等の軸外諸収差が多く発生してくる。
【0010】
これらの諸収差を補正するには、非球面レンズを用いるのが有効である。しかしながら複数のレンズ群より成るズームレンズにおいては、投射画角やFナンバー等を考慮して非球面レンズをレンズ系中の適切な位置に配置しないと高ズーム比化、広画角化を図りつつ、全ズーム範囲にわたり高い光学性能を得るのが難しい。
【0011】
特に、複数の非球面レンズを用いて歪曲収差や像面湾曲等の軸外収差を全ズーム範囲にわたり良好に補正しつつ広画角の投射において高い光学性能を得るには、複数の非球面レンズの適切な位置への配置が重要になってくる。
【0012】
本発明は、ズーミングに伴う諸収差を良好に補正し、画面全体にわたり良好なる光学性能を有した、例えば液晶プロジェクター用に好適なズームレンズの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のズームレンズは、拡大側から縮小側へ順に第1〜第6レンズ群を有する画像投射装置用のズームレンズであって、
前記第1レンズ群、前記第4レンズ群、前記第5レンズ群は、各々非球面を含んでおり、
【0014】
【数1】

【0015】
なる条件を満足することを特徴としている。
【0016】
この他、本発明のズームレンズは、拡大側から縮小側へ順に第1〜第5レンズ群を有する画像投射用のズームレンズであって、
前記第1レンズ群、前記第3レンズ群、前記第4レンズ群は、各々非球面を含んでおり、
【0017】
【数2】

【0018】
なる条件を満足することを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ズーミングに伴う諸収差を良好に補正し、画面全体にわたり良好なる光学性能を有した、例えば液晶プロジェクター用に好適なズームレンズが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の画像投射装置の実施例について説明する。
【0021】
まず初めに、請求項等でも用いられている文言について簡単に説明する。本願実施例中の記載において、光線高さとは、光軸からの距離(光軸と垂直な方向の距離)のことである。また、軸上光束とは、縮小側共役位置又は拡大側共役位置の光軸上の点から出射する光束(言い換えると、多数の光線)のことである。また、軸上マージナル光線とは、前述の軸上光束(結像に寄与する光線束)のうち最も外側(光軸から離れた位置)を通る光線のことであり、光学系のFnoを決定する光線である。また、最軸外主光線とは、縮小側共役位置又は拡大側共役位置の光軸から最も離れた位置から出射(最も離れた位置に入射)する光束の主光線のことである。液晶パネル等の画像を形成する表示ユニットを持つ画像投射装置においては、単に最大画角の主光線としても良いし、原画を形成する表示ユニット(液晶パネル等)の光軸から最も離れた位置から出射する光束の主光線としても良い。
【0022】
図1は、実施例1の画像投射装置(液晶ビデオプロジェクター)用のズームレンズの広
角端(短焦点距離端)における要部概略図である。
【0023】
図2(A)、(B)は、実施例1においてスクリーンまでの距離(第1レンズ群からの距離)2mのときの広角端と望遠端(長焦点距離端)における収差図である。
【0024】
図3は、実施例2の画像投射装置用のズームレンズの広角端における要部概略図である。
【0025】
図4(A)、(B)は、実施例2においてスクリーンまでの距離2mmのときの広角端と望遠端における収差図である。
【0026】
図5は、実施例3の画像投射装置用のズームレンズの広角端における要部概略図である。
【0027】
図6(A)、(B)は、実施例3においてスクリーンまでの距離2mmのときの広角端と望遠端における収差図である。
【0028】
図7は、実施例4の画像投射装置用のズームレンズの広角端における要部概略図である。
【0029】
図8(A)、(B)は、実施例4においてスクリーンまでの距離2mmのときの広角端と望遠端における収差図である。
【0030】
図9は本発明の画像投射装置に用いるズームレンズの光路の説明図である。
【0031】
図10は、本発明のカラー液晶プロジェクターの要部概略図である。
【0032】
図11は、本発明に係るズームレンズをデジタルカメラやビデオカメラ等の撮像装置に用いたときの要部概略図である。
【0033】
図1、図3、図5、図7の実施例1〜4における画像投射装置では、液晶パネルLCDに表示される原画(被投影画像)をズームレンズ(投影レンズ、投写レンズ)PLを用いてスクリーン面(投影面)S0上に拡大投影している状態を示している。
【0034】
S0はスクリーン面(投影面)、LCDは液晶パネル(液晶表示素子)であり、ズームレンズPLの像面に位置している。スクリーン面S0と液晶パネルLCDとは共役関係にあり、一般にはスクリーン面S0は距離の長い方の共役点で拡大側(前方、拡大共役側)に、液晶パネルLCDは距離の短い方の共役点で縮小側(後方、縮小共役側)に相当している。
【0035】
尚、ズームレンズを撮像装置の撮影系として用いるときは、スクリーン面S0側が物体側、液晶パネルLCD側が像側(IP)となる。
【0036】
STは開口絞りである。
【0037】
GBは色合成プリズムや偏光フィルター、そしてカラーフィルター等に対応して光学設計上設けられたガラスブロックである。
【0038】
ズームレンズPLは、接続部材(不図示)を介して液晶ビデオプロジェクター本体(不図示)に装着されている。ガラスブロックGB以降の液晶表示素子LCD側は表示ユニッ
トとしてプロジェクター本体に含まれている。
【0039】
尚、ガラスブロックGBをズームレンズPLの構成要件の1つとして含ませて、液晶表示素子LCDをプロジェクター本体側に含ませても良い。
【0040】
iを拡大側から縮小側へのズームレンズPLを構成する各レンズ群の順序としたとき、Liは第iレンズ群を示している。
【0041】
矢印は、広角端から望遠端へのズーミングにおける各レンズ群の移動軌跡を示している。
【0042】
液晶パネルLCDは、縮小側に設けた照明光学系(不図示)からの光で照明されている。
【0043】
ズームレンズPLは、照明光学系との良好な瞳整合性を確保するため、液晶パネルLCD側(縮小側)の瞳が遠方にある、テレセントリック性を有している。
【0044】
ガラスブロックGBは、R,G,Bそれぞれの液晶パネルLCDの画像を合成する手段、特定の偏光方向のみを選択する手段、偏光の位相を変える手段等の光学部材を含んでいる。
【0045】
各実施例のズームレンズPLでは、負の屈折力のレンズが先行する(拡大側に位置する)ネガティブリード型の複数のレンズ群を採用することにより、ガラスブロックGBを配置するための十分長いバックフォーカスの確保を容易にしている。
【0046】
各実施例のズームレンズPLは、変倍機能を得るため、いくつかのレンズ群が光軸上を移動し、全系の合成焦点距離を変更している。
【0047】
尚、図2、図4、図6、図8の収差図においてGは波長550nm、Rは波長620nm、Bは波長470nmでの収差を示している。又、Sは波長550nmでのサジタル像面の倒れ、Mは波長550nmでのメリジオナル像面の倒れを示している。FnoはFナンバーである。ωは半画角である。
【0048】
まず、ズームレンズが全体として6つのレンズ群より成る図1、図3、図5の実施例1〜3の特徴について説明する。
【0049】
L1は負の屈折力の第1レンズ群、L2は正の屈折力の第2レンズ群、L3は正の屈折力の第3レンズ群、L4は負の屈折力の第4レンズ群、L5は正の屈折力の第5レンズ群、L6は正の屈折力の第6レンズ群である。ここで屈折力(パワー)は焦点距離の逆数である。
【0050】
絞りSTは、第4レンズ群L4と第5レンズ群L5との間に設けている。
【0051】
図1の実施例1では広角端から望遠端のズーミングに際して矢印のように第2レンズ群L2、第3レンズ群L3、第4レンズ群L4、そして第5レンズ群L5は、拡大側(スクリーンSO)へ各々独立に移動している。
【0052】
第1レンズ群L1と第6レンズ群L6はズーミングのためには不動である。
【0053】
図3の実施例2では広角端から望遠端のズーミングに際して矢印のように第2レンズ群
L2、第3レンズ群L3、そして第5レンズ群L5は拡大側へ各々独立に移動している。又、第4レンズ群L4は縮小側に凸状の軌跡で移動している。第1レンズ群L1と第6レンズ群L6はズーミングのためには不動である。
【0054】
図5の実施例3では広角端から望遠端のズーミングに際して矢印のように第2レンズ群L2、第3レンズ群L3、そして第5レンズ群L5は拡大側へ各々独立に移動している。
【0055】
第1レンズ群L1、第4レンズ群L4および第6レンズ群L6はズーミングのためには不動である。
【0056】
この他、実施例1〜3のレンズ構成の特徴は、次のとおりである。
【0057】
第1、第6レンズ群L1、L6はズーミングのために移動しない。従ってズーミングに際して第1〜第6レンズ群L1〜L6までの全長は一定である。これにより投射レンズ系を収納する鏡筒の堅牢性を確保している。
【0058】
第1レンズ群L1は光軸上移動してフォーカスを行っている。尚、フォーカスは表示パネルLCDを移動させて行っても良い。
【0059】
第1、第4、第5レンズ群L1、L4、L5は各々1以上の非球面形状の面を含む非球面レンズを1以上有している。
【0060】
第1レンズ群L1は、非球面形状の面を有するプラスチック材より成る負レンズを1枚以上有している。バックフォーカスが長い広角タイプ(レトロフォーカスタイプ)のレンズ系では、第1レンズ群L1が強い負の屈折力を有することが要求される。
【0061】
第1レンズ群L1に所定の強さの負の屈折力を与えると諸収差が多く発生する。各実施例では、このときに発生する諸収差をプラスチック材より成り、非球面を有する負レンズを第1レンズ群L1中に設けて効率的に補正している。
【0062】
また、第1レンズ群L1は他のレンズ群に比べて口径が大きくなるので投射時の光線密度が小さくなり、それに伴い各収差を適切に補正するための非球面が設定しやすくなる系となっている。
【0063】
第1レンズ群L1中の非球面は、第1レンズ群L1中の他のレンズでの収差補正の負担を軽減している。さらにはレンズ枚数の削減にも効果がある。
【0064】
第1レンズ群L1中の拡大側から数えて第2番目のレンズはプラスチック材より成る非球面レンズである。プラスチック材より成る非球面レンズが外部に剥き出しになることが無いようにして機械的強度の弱いプラスチック材より成る非球面レンズを保護している。
【0065】
尚、非球面レンズとしてプラスチックを用いる他にも薄膜を設けたハイブリッドタイプの非球面レンズや、ガラス成形より成る非球面レンズを用いても良い。
【0066】
第5レンズ群L5は、非球面形状の面を有するプラスチック材より成る正レンズを1枚以上有している。この理由は、縮小側(縮小共役側)でテレセントリック性を良好にもたせるため比較的パワーの強い正の屈折力の第5レンズ群を用いるためである。第5レンズ群L5中の正レンズに非球面形状の面を1以上持たせることにより残存している軸外収差を効果的に補正している。なお、非球面レンズの材料としてプラスチックを用いる他にも薄膜より成るハイブリッドタイプの非球面レンズや、ガラス成形より成る非球面レンズを
用いても良い。
【0067】
次に実施例1〜3の各レンズ群のレンズ構成の特徴について説明する。
【0068】
第1レンズ群L1は、拡大側から縮小側へ順に、拡大側が凸面でメニスカス形状の負レンズG11、拡大側が凸面でメニスカス形状の負レンズG12、縮小側が凸面でメニスカス形状の負レンズG13、両凸形状の正レンズG14の4枚で構成している。負レンズG12をプラスチック材より構成し、その両面を非球面形状としている。
【0069】
負レンズG12は両面を非球面形状とすることにより主に歪曲収差を補正している。また、最も縮小側の正レンズG14において縮小側の面を曲率の大きな凸形状とすることにより歪曲収差およびコマ収差を補正している。さらに負レンズG11は材料に高屈折率のガラスを使用することにより前玉レンズ径の増大を抑えている。
【0070】
第2レンズ群L2は両凸形状の正レンズG21の1枚で構成している。これにより、主に第1レンズ群L1で発生した諸収差を補正している。この正レンズG21には屈折率の高い材料を用いて、ペッツバール和の補正およびズーミング時の球面収差等の諸収差の変動を小さくしている。
【0071】
一般に中間像高等での像面湾曲および非点収差が大きいと解像感が劣化するためペッツバール和は小さいことが重要である。さらに色収差補正の観点から、第1レンズ群L1で発生した倍率色収差を効率良く補正するため、第2レンズ群L2を構成するレンズには、高屈折率で低分散特性を有する材料を選択している。
【0072】
第3レンズ群L3は、拡大側が凸面でメニスカス形状の正レンズG31で構成しており、主たる変倍の役割を担っている。
【0073】
第4レンズ群L4は、両凹形状の負レンズG41で構成している。負レンズG41に強い負の屈折力を与えている。実施例1、2において第4レンズ群L4は変倍に伴うピント面(像面)の移動を補正する役割を担っている。また、両面を非球面形状とすることにより広角端から望遠端への全ズーム領域で球面収差を補正している。この強い負の屈折力の負レンズG41を配置することにより、ペッツバール和を小さくしている。
【0074】
第5レンズ群L5は、拡大側から縮小側へ順に、両凹形状の負レンズG51と両凸形状の正レンズG52との接合レンズ、両凸形状の正レンズG53、縮小側が凸面でメニスカス形状の正レンズG54の4枚より構成している。
【0075】
なお、絞りSTは第5レンズ群L5内に存在し、ズーミング時の軸外収差の変動をおさえている。尚絞りSTは、第5レンズ群L5以外に設定しても良い。さらに絞りSTは、ズーミングの際、レンズ群と共に動かせることなく独立に動かす構成としても良い。最も拡大側に負の屈折力の負レンズG51を配することによりペッツバール和を小さくしている。
【0076】
また、縮小側の主点位置を制御し、良好なテレセントリック性を確保しつつ必要な長さのバックフォーカスを得ている。
【0077】
また、接合レンズおよび単独の正レンズG53は色収差を小さく抑えるため材料に低分散ガラスを使用している。
【0078】
さらに、最も縮小側のレンズG54をプラスチック材より構成し、両レンズ面を非球面
形状としている。これにより、非点収差等の軸外収差を効率良く補正している。
【0079】
第6レンズ群L6は、両凸形状の正レンズG61より構成している。正レンズG61は色収差を抑えるため、材料に低分散ガラスとしている。又パワーを強くして、テレセントリック性を良くしている。
【0080】
実施例1〜3において、第4レンズ群L4は、変倍に伴うピント移動の補正や収差変動の補正をするために縮小側へ単調移動、又は拡大側へ凸形状の軌跡で移動しても良い。
【0081】
さらに、実施例1〜3では非球面を有するプラスチック材より成る正および負レンズ、またガラス材より成る非球面を有するレンズをそれぞれ1枚用いているが、使用枚数はこれに限らず、複数用いても良い。また,非球面を有するレンズの材料はプラスチック材やガラス材に限らず、光学面に薄い樹脂層を形成させて非球面形状とした所以ハイブリッドタイプの非球面を用いても良い。
【0082】
実施例1〜3によれば、F値が1.8と小さく,100型を約3.0mと短い距離で投射面に投射可能である。実施例1ではズーム倍率が約1.4倍という高変倍化を実現している。また歪曲収差は広角端から望遠端への全ズーム領域において0.35%以内とし、歪みの少ないズームレンズを実現している。
【0083】
実施例2では、ズーム倍率が約1.7倍という高変倍化を実現している。また歪曲収差は広角端から望遠端全域において0.18%以内とし、歪みの少ないズームレンズを実現している。
【0084】
実施例3では、ズーム倍率が約1.5倍という高変倍化を実現している。また歪曲収差は広角端から望遠端全域において0.20%以内とし、歪みの少ないズームレンズを実現している。
【0085】
図9は図1の実施例1を例にとり、画像投射装置に用いるズームレンズの軸上光線と最大画角(表示ユニット等の共役面の画像形成領域のうち、光軸から最も離れた位置)を通る軸外光線の進行方向を逆方向にして示した光路の説明図である。
【0086】
図9において、
【0087】
【数3】

【0088】
ここで、光線高さ(光軸からの距離)の最大値とは、非球面の数が1つのときは、その非球面での光線が通過する位置の光線高さである。又、非球面の数が複数のときは、それらの非球面の中で最も光線高さが高い位置を通る光線の通過位置の光線高さのことを言う。
【0089】
また、軸上光線とは、共役面の軸上位置(具体的には液晶パネル等の原画を形成する原画形成素子の原画の中心位置)から出射する光線のことである。ここで軸上位置から出射する光線は多数あるが、その多数存在する光線のうち、非球面を通過する位置での光線高さが最も高い光線が非球面を通過する位置を、上述のように定義し、以下の条件式で用いている。このような位置を、軸上マージナル光線が非球面を通過する位置、と言っても構わない。
【0090】
非球面レンズは、レンズ群中に非球面レンズが複数あるときは、任意の1つの非球面レンズをいう。
【0091】
このとき実施例1〜3は、所定の寸法の投影像原画を投影面上に投射する画像投射装置用のズームレンズとして、次の条件を満足している。
【0092】
【数4】

【0093】
条件式(1)〜(3)は、諸収差を非球面レンズでバランスよく補正するために有効
な各レンズ群が有する非球面レンズの関係を特定したものである。ここで、条件式の符号は、図9に記載した通りである。すなわち、前述の最軸外主光線や軸上マージナル光線と光軸を含む断面で、前述の最軸外主光線(軸上マージナル光線)が光軸に対してずれている方向を正とする。
【0094】
諸収差のうち、歪曲収差を補正するためには、軸上から最大画角までの各画角の違いによる光線が同一レンズ面で適度に分散されるような位置、具体的には絞りSTから離れた光線密度が低くなる位置で非球面を用いるのが有効である。
【0095】
条件式(1)はこのときの歪曲収差を補正するために規定したものである。条件式(1)は、非球面を光線密度が低くなるレンズを有する第1レンズ群L1内の所定位置に設けるためのものである。具体的には第1レンズ群L1内の非球面(非球面は1つでも良いし複数でも良い)を通る最大画角による主光線(最大画角から出射する光束の主光線)の、光軸からの高さの最大値と、第1レンズ群L1内の非球面レンズを通る軸上光線の光軸からの高さの最大値の比であり、光線密度の度合いを表すものである。
【0096】
条件式(1)の上限を越えてしまうと歪曲収差の補正には有利となるが軸上光線の高さに依存する他の収差に関してその補正が困難となり好ましくない。また下限を超えてしまうと画角の違いによる収差補正を行うための非球面を用いることの効果が少なくなってしまう。
【0097】
次に一般に大口径比のズームレンズを実現するには開放Fナンバーを決定する軸上無限遠物体からの平行光線の光軸からの高さhをより高くする必要がある。この光軸からの高さhが高くなるほど光束は、レンズの周辺部を通過するので収差を補正する上で困難を生じ、特に球面収差の補正が不利になる。
【0098】
条件式(2)は、このときの球面収差を補正するために規定したものである。
【0099】
広角端と望遠端における第4レンズ群L4内の非球面レンズを通る最大画角による主光線の光軸からの高さの最大値の平均値と、該非球面レンズを通る軸上光線の、光軸からの高さの最大値の平均値の比に関するものである。
【0100】
条件式(2)は、これらの光束の光軸からの高さの最大値の比が軸上光線が最大画角の光線に対して大きくなる度合いを表している。
【0101】
上限値を越えると軸上光線と軸外光線のそれぞれの光線束が交わる比率が大きくなるので軸上光線に起因する収差を効果的に補正できなくなってしまう。また下限値を超えると軸上光線の高さが大きくなるので、他のレンズ群において軸上光線の高さがより大きくなってしまいトータルとして軸上光線の補正が困難となってしまう。
【0102】
条件式(3)は第1レンズ群L1の非球面レンズを通る最大画角による主光線の光軸からの高さの最大値と、第5レンズ群L5内の非球面レンズを通る最大画角による主光線の、光軸からの高さの最大値の比に関するものである。
【0103】
この比がマイナス(負符号)になるということは、第1レンズ群L1での非球面で軸外光線の下光線が、光線密度が小さくなるレンズ周辺部を通ることになる。この結果、非球面による補正効果を受けやすくなり、逆に第5レンズ群L5の位置においては上光線が非球面の補正効果を受けやすくなる光路となる。
【0104】
条件式(3)はこの比を適切に設定することにより、諸収差をバランス良く補正するた
めのものである。
【0105】
条件式(3)の上限値を超えるとレトロフォーカスタイプの特徴である先行する負の屈折力のレンズ群での歪曲の補正効果が少なくなる。
【0106】
又、下限値を超えると第1レンズ群L1で極度に最大画角の光線が軸上光線から離れる状況となり総合の収差補正が困難となってしまう。
【0107】
実施例1〜3ではこれら条件式(1)〜(3)を同時に満たすことにより諸収差を良好に抑えつつ、特に、歪曲収差を大幅に低減している。
【0108】
また更に好ましくは条件式(1)〜(3)の数値範囲を次の如く設定するのが良い。
【0109】
【数5】

【0110】
第4レンズ群L4は、非球面形状の面を有する負レンズを1枚以上有し、その負レンズの材料の屈折率をNd4nとするとき、
1.60 < Nd4n …(4)
なる条件を満足している。
【0111】
第4レンズ群L4は、強い負の屈折力を有し、変倍に伴うピント面の移動を補正する役割を担っている。また第4レンズ群L4の負の屈折力を強くすることによりペッツバール和を小さくしている。
【0112】
条件式(4)の下限を超えると、ペッツバール和を小さくするのが難しくなる。この結果、像面湾曲を小さくするためにレンズ枚数を増やすことになってしまう。さらに実施例1、2では変倍による第4レンズ群L4の移動量も大きくなってしまいレンズ系全体の小型化が困難となる。
【0113】
また更に好ましくは条件式(4)の数値範囲を次の如く設定するのが良い。
【0114】
1.67 < Nd4n …(4a)
実施例1〜3では、以上のように各レンズ群の屈折力やレンズ構成を適切に配置することによって、レンズ系全体の小型化を図りつつ、ズーム範囲全体にわたり、縮小側のテレセントリック性を良好に維持しつつ、収差補正を良好に行い、高い光学性能を得ている。
【0115】
次に全体として5つのレンズ群より成る図7の実施例4の特徴について説明する。
【0116】
図7の実施例4において、L1は負の屈折力の第1レンズ群、L2は正の屈折力の第2レンズ群、L3は負の屈折力の第3レンズ群、L4は正の屈折力の第4レンズ群、L5は正の屈折力の第5レンズ群である。絞りSTは、第2レンズ群L2と第3レンズ群L3との間に設けている。
【0117】
図7の実施例4では広角端から望遠端のズーミングに際して矢印のように第2レンズ群L2、第3レンズ群L3、そして第4レンズ群L4は、拡大側へ各々独立に移動している。
【0118】
第1レンズ群L1と第5レンズ群L5はズーミングのためには不動である。従って、ズーミングに際して第1〜第5レンズ群L1〜L5までの全長は一定である。
【0119】
これにより実施例1〜3と同様の効果を得ている。第1レンズ群L1は光軸上移動してフォーカスを行っている。尚、フォーカスは表示パネルLCDを移動させて行っても良い。
第1、第3、第4レンズ群L1、L3、L4は各々、1以上の非球面形状の面を含む非球面レンズを有している。
【0120】
第1レンズ群L1は、非球面形状の面を有するプラスチック材より成る負レンズを1枚以上有している。バックフォーカスが長い広角タイプ(レトロフォーカスタイプ)のレンズ系では、第1レンズ群L1が強い負の屈折力を有することが要求される。
【0121】
第1レンズ群L1に所定の強さの負の屈折力を与えると諸収差が多く発生する。実施例4では、このときに発生する諸収差をプラスチック材より成り、非球面を有する負レンズを第1レンズ群L1中に設けて効率的に補正している。
【0122】
また、第1レンズ群L1は他のレンズ群に比べて口径が大きくなるので投射時の光線密度が小さくなり、それに伴い各収差を適切に補正するための非球面が設定しやすくなる系となっている。
【0123】
第1レンズ群L1中の非球面は、第1レンズ群L1中の他のレンズでの収差補正の負担を軽減している。さらにはレンズ枚数の削減にも効果がある。
【0124】
第1レンズ群L1中の拡大側から数えて第2番目のレンズはプラスチック材より成る非球面レンズである。プラスチック材より成る非球面レンズが外部に剥き出しになることが無いようにして機械的強度の弱いプラスチック材より成る非球面レンズを保護している。
【0125】
尚、非球面レンズとしてプラスチックを用いる他にも薄膜を設けたハイブリッドタイプの非球面レンズや、ガラス成形より成る非球面レンズを用いても良い。
【0126】
第4レンズ群L4は、非球面形状の面を有するプラスチック材より成る正レンズを1枚以上有している。この理由は、縮小側(縮小共役側)でテレセントリック性を良好にもたせるため比較的パワーの強い正の屈折力の第4レンズ群を用いるためである。第4レンズ群L4中の正レンズに非球面形状の面を1上持たせることにより残存している軸外収差を効果的に補正している。
【0127】
なお、非球面レンズの材料としてプラスチックを用いる他にも薄膜より成るハイブリッドタイプの非球面レンズや、ガラス成形より成る非球面レンズを用いても良い。
【0128】
次に実施例4の各レンズ群のレンズ構成の特徴について説明する。
【0129】
第1レンズ群L1は、拡大側から縮小側へ順に、拡大側が凸面でメニスカス形状の負レンズG11、拡大側が凸面でメニスカス形状の負レンズG12、両凹形状の負レンズG13、両凸形状の正レンズG14の4枚より構成している。
【0130】
負レンズG12をプラスチック材より構成し、その両面を非球面形状としている。負レンズG12は両面を非球面形状とすることにより主に歪曲収差を補正している。
【0131】
また、最も縮小側の正レンズG14において縮小側の面を曲率の大きな凸形状とすることにより歪曲収差およびコマ収差を補正している。
【0132】
さらに第1レンズ群L1の各レンズの材料に高分散ガラスおよび低分散ガラスを併せて使用することにより倍率色収差の発生を極力抑えている。
【0133】
第2レンズ群L2は両凸形状の正レンズG21、同じく両凸形状の正レンズG22の2枚で構成している。第2レンズ群L2は主たる変倍の役割を担っている。
【0134】
変倍による第2レンズ群L2の移動量を抑えるために正レンズG21の材料には、高屈折率のガラスを選択している。又、第1レンズ群L1で発生した倍率色収差を効率良く補正するため正レンズG22の材料には低分散特性を有する材料を選択している。
【0135】
第3レンズ群L3は、両凹形状の負レンズG31で構成している。負レンズG31に強い負の屈折力を与えている。第3レンズ群L3は、変倍に伴うピント面の移動を補正する役割を担っている。
【0136】
また、両面を非球面形状とすることにより広角端から望遠端への全ズーム領域で球面収差を補正している。この強い負の屈折力の負レンズG31を配置することにより、ペッツバール和を小さくしている。
【0137】
なお、絞りSTは第3レンズ群L3に存在し、ズーミング時の軸外収差の変動をおさえている。また絞りSTは、第3レンズ群L3以外に設定しても良い。さらに絞りSTは、ズーミングの際、レンズ群と共に動かせることなく独立に動かす構成としても良い。
【0138】
第4レンズ群L4は、拡大側から縮小側へ順に、両凹形状の負レンズG41と両凸形状の正レンズG42との接合レンズ、両凸形状の正レンズG43、同じく両凸形状の正レンズG44の4枚で構成している。
【0139】
最も拡大側に負の屈折力をもつ負レンズG41を配することによりペッツバール和を小さくしている。また、縮小側の主点位置を制御し、良好なテレセントリック性を確保しつつ必要な長さのバックフォーカスを得ている。
【0140】
また、正レンズG43は色収差を小さく抑えるため材料に低分散ガラスを使用している。さらに、最も縮小側のレンズG44のレンズ面を非球面形状としている。これにより、非点収差等の軸外収差を効率良く補正している。
【0141】
第5レンズ群L5は、両凸形状の正レンズG51より構成している。正レンズG51はパワーを強くしてテレセントリック性を良くしている。
【0142】
広角端から望遠端に至るズーミング時において、第3レンズ群L3は、変倍に伴うピント移動補正や収差変動を補正するために縮小側へ単調移動、又は拡大側へ凸形状の軌跡で移動しても良く、又、変倍時に固定としても良い。
【0143】
実施例4では非球面を有するプラスチック材より成るレンズ、またガラス材による非球面を有するレンズを各々用いているが、使用枚数はこれに限らない。また,非球面を有す
るレンズの材料はプラスチック材やガラス材に限らず、光学面に薄い樹脂層を形成させて非球面形状とした所以ハイブリッドタイプ非球面を用いても良い。
【0144】
本実施例4によれば、F値が1.9と小さく,100型を約3.1mと短い距離で投影面に投射可能である。実施例4は、ズーム倍率が約1.3倍である。また歪曲収差は広角端から望遠端への全ズーム領域において0.28%以内とし、歪みの少ないズームレンズを実現している。
【0145】
実施例4においても実施例1〜3と同様に各パラメータを次の如く設定する。
【0146】
即ち、
【0147】
【数6】

【0148】
このとき実施例4は、所定の寸法の投影像原画を投影面上に投射する画像投射装置用のズームレンズとして、次の条件を満足している。
【0149】
【数7】

【0150】
条件式(5)〜(7)は、諸収差を非球面レンズでバランスよく補正するために有効な各レンズ群が有する非球面レンズの関係を特定したものである。
【0151】
諸収差のうち、歪曲収差を補正するためには、軸上から最大画角までの各画角の違いによる光線が同一レンズ面で適度に分散されるような位置、具体的には絞りSTから離れた
光線密度が低くなる位置で非球面を用いるのが有効である。
【0152】
条件式(5)はこのときの歪曲収差を補正するために規定したものである。条件式(5)は、非球面を光線密度が低くなるレンズを有する第1レンズ群L1内の所定位置に設けるためのものである。具体的には第1レンズ群L1内の非球面レンズを通る最大画角による主光線の、光軸からの高さの最大値と、第1レンズ群L1内の非球面レンズを通る軸上光線の光軸からの高さの最大値の比であり、光線密度の度合いを表すものである。
【0153】
条件式(5)の上限を越えてしまうと歪曲収差の補正には有利となるが軸上光線の高さに依存する他の収差に関してその補正が困難となり好ましくない。また下限を超えてしまうと画角の違いによる収差補正を行うための非球面を用いることの効果が少なくなってしまう。
【0154】
次に一般に大口径比のズームレンズを実現するには開放Fナンバーを決定する軸上無限遠物体からの平行光線の光軸からの高さhをより高くする必要がある。この光軸からの高さhが高くなるほど光束は、レンズの周辺部を通過するので収差を補正する上で困難を生じ、特に球面収差の補正が不利になる。
【0155】
条件式(6)は、このときの球面収差を補正するために規定したものである。
【0156】
広角端と望遠端における第3レンズ群L3内の非球面レンズを通る最大画角による主光線の光軸からの高さの最大値の平均値と、該非球面レンズを通る軸上光線の、光軸からの高さの最大値の平均値の比に関するものである。
【0157】
条件式(6)は、これらの光束の光軸からの高さの最大値の比が軸上光線が最大画角の光線に対して大きくなる度合いを表している。
【0158】
上限値を越えると軸上光線と軸外光線のそれぞれの光線束が交わる比率が大きくなるので軸上光線に起因する収差を効果的に補正できなくなってしまう。また下限値を超えると軸上光線の高さが大きくなるので、他のレンズ群において軸上光線の高さがより大きくなってしまいトータルとして軸上光線の補正が困難となってしまう。
【0159】
条件式(7)は第1レンズ群L1の非球面レンズを通る最大画角による主光線の光軸からの高さの最大値と、第4レンズ群L4内の非球面レンズを通る最大画角による主光線の、光軸からの高さの最大値の比に関するものである。
【0160】
この比がマイナス(負符号)になるということは、第1レンズ群L1での非球面で軸外光線の下光線が、光線密度が小さくなるレンズ周辺部を通ることになる。この結果、非球面による補正効果を受けやすくなり、逆に第4レンズ群L4の位置においては上光線が非球面の補正効果を受けやすくなる光路となる。
【0161】
条件式(7)はこの比を適切に設定することにより、諸収差をバランス良く補正するためのものである。
【0162】
条件式(7)の上限値を超えるとレトロフォーカスタイプの特徴である先行する負の屈折力のレンズ群での歪曲の補正効果が少なくなる。
【0163】
又、下限値を超えると第1レンズ群L1で極度に最大画角の光線が軸上光線から離れる状況となり総合の収差補正が困難となってしまう。
【0164】
実施例4ではこれら条件式(5)〜(7)を同時に満たすことにより諸収差を良好に抑えつつ、特に、歪曲収差を大幅に低減している。
【0165】
また更に好ましくは条件式(5)〜(7)の数値範囲を次の如く設定するのが良い。
【0166】
【数8】

【0167】
第3レンズ群L3は、非球面形状の面を有する負レンズを1枚以上有し、その負レンズの材料の屈折率をNd4nとするとき、
1.60 < Nd3n …(8)
なる条件を満足している。
【0168】
第3レンズ群L3は強い負の屈折力を有し、変倍に伴うピント面の移動を補正する役割を担っている。
【0169】
また第3レンズ群L3の負の屈折力を強くすることによりペッツバール和を小さくしている。条件式(8)の下限を超えると、ペッツバール和を小さくするのが難しくなる。この結果、レンズ枚数を増やすことになってしまう。さらに変倍による第3レンズ群L3の移動量も大きくなってしまい小型化が困難となる。
【0170】
また更に好ましくは条件式(4)の数値範囲を次の如く設定するのが良い。
【0171】
1.67 < Nd3n …(8a)
実施例4では、以上のように各レンズ群の屈折力とレンズ構成を適切に配置することによりレンズ系全体の小型化を図りつつ、ズーム範囲全体に渡りテレセントリック性を良好に維持し収差補正を良好に行い、高い光学性能を得ている。
【0172】
次に実施例1〜4に共通の特徴について説明する。
【0173】
プラスチック材より成るレンズは、それを液晶プロジェクターに使用するとレンズの温度が上昇し、プラスチック材より成るレンズはガラス材より成るレンズに比べて光学的性能の変化の影響を多く受ける。
【0174】
よってプラスチック材より成るレンズを使用するときには、比較的パワーの弱い、すなわち温度変化におけるパワーの変化が少ない構成とする必要があり、プラスチック材より成るレンズの使用に制約がある。
【0175】
一般にプラスチック材より成る正レンズは温度上昇による材料の屈折率の変化に伴い正の屈折力が弱まり後方側(像側)のピント位置をオーバー方向にシフトさせる傾向がある。
【0176】
また、プラスチック材より成る負レンズは温度上昇による材料の屈折率の変化に伴い負の屈折力が弱まり後方側のピント位置をアンダー方向にシフトさせる傾向がある。
【0177】
よってプラスチック材より成る正レンズと負レンズを用いたときには、ピント位置のシフト方向が対をなし、温度変化によるピントズレを抑制させつつ、プラスチック材より成るレンズに効果的にパワーを持たせることができる。
【0178】
fnをプラスチック材より成る負レンズの焦点距離とする。fpをプラスチック材より成る正レンズの焦点距離とする。
【0179】
このときプラスチック材よりなる正レンズと負レンズを用いるときには、焦点距離fn、fpが次式(a)を満足する範囲で用いるのが良い。
【0180】
−0.10 > fn/fp > −0.60 ・・・・(a)
条件式(a)の下限を超える領域においては,負のパワーに対し正のパワーが過剰に大きくなってしまう。このため、正レンズの温度変化による影響が顕著に出てしまい、焦点が過剰にオーバー方向へシフトしてしまう。また、条件式(a)の上限を超える領域においては正パワーに対し負のパワーが過剰に大きくなってしまう。このため、負レンズの温度変化による影響が顕著に出てしまい、焦点が過剰にアンダー方向へシフトしてしまう。
【0181】
以上のように各実施例によれば、レンズ系全体の小型化を図りつつ、ズーミングに伴う諸収差を良好に補正し、画面全体にわたり良好なる光学性能を有した液晶プロジェクター用に好適なズームレンズを達成することができる。
【0182】
図10は本発明の画像投射装置の実施例5の要部概略図である。
【0183】
同図は前述した実施例1〜4で用いたズームレンズを3板式のカラー液晶プロジェクターに適用し複数の液晶パネル(表示ユニット)に基づく複数の色光の画像情報を色合成手段102を介して合成している。
【0184】
そしてズームレンズ103でスクリーン面104上に拡大投射する画像投射装置を示している。
【0185】
図10においてカラー液晶プロジェクター101はR,G,Bの3枚の液晶パネル105R,105G,105BからのRGBの各色光を色合成手段としてのプリズム102で1つの光路に合成している。そして前述したズームレンズより成る投影レンズ103を用いてスクリーン104に投影している。
【0186】
以上のように各実施例に係るズームレンズは、表示体の画像を固定した有限距離にてスクリーンに拡大投射するプロジェクター装置に好適なものである。
【0187】
特に表示体に各色光毎に複数の液晶等を用い、各色光を色合成した後に、ズームレンズを介してスクリーン上に高精細な画像投射を行うのに好適な、簡易構成で小型のテレセントリック性を有している。
【0188】
ここで、前述の画像投射装置用のズームレンズは、拡大側から縮小側へ順に、負正負正正の5群ズーム構成か、或いは負正正負正正の6群ズーム構成であって、単に互いに異なる3つ以上のレンズ群内に1枚以上ずつ非球面レンズを配置する構成としても良い。つまり、前述の条件式を満足しなくても、互いに異なる位置(レンズ群内)に1枚以上ずつ非球面レンズを配置すれば、歪曲収差を始めとした収差を比較的独立した状態で制御することができるため、収差低減を図りやすくなる。
【0189】
図11は本発明の画像投射装置に係るズームレンズを撮像装置に用いたときの実施例の要部概略図である。本実施形態ではビデオカメラ、フィルムカメラ、デジタルカメラ等の撮像装置106に撮影レンズとして前述したズームレンズを用いた例を示している。
【0190】
図11においては被写体109の像を撮影レンズ108で感光体(画像投射装置における原画に相当)107に結像し、画像情報を得ている。
【0191】
以上のように各実施例によれば、レンズ系全体の小型化を図りつつ、ズーミングに伴う諸収差を良好に補正し、画面全体にわたり良好なる光学性能を有したズームレンズを有する液晶プロジェクターを達成することができる。
【0192】
この他、画像情報を銀塩フィルム、CCDセンサやCMOSセンサ等の固体撮像素子(光電変換素子)上に形成するビデオカメラ、フィルムカメラ、デジタルカメラ等の撮像装置を達成することができる。
【0193】
以下に実施例1〜4のズームレンズに各々対応する数値実施例1〜4を示す。各数値実施例においてiは拡大側(前方側)からの光学面の順序を示し、Riは第i番目の光学面(第i面)の曲率半径、diは第i面と第i+1面との間の間隔である。Ri,diの単位はmmである。Niとνiはそれぞれd線を基準とした第i番目の光学部材の屈折率、アッベ数を示す。Wide,Teleは広角端と望遠端である。f焦点距離である。FnoはFナンバーである。ωは半画角である。
【0194】
またkを円錐定数、A、B、C、D、Eを非球面係数、光軸からの高さhの位置での光軸方向の変位を面頂点を基準にしてxとするとき、非球面形状は、
x=(h/r)/[1+[1−(1+k)(h/R)1/2
+Ah+Bh+Ch+Dh10+Eh12で表示される。但しrは近軸曲率半径である。
【0195】
なお、例えば「e−Z」の表示は「10−Z」を意味する。
【0196】
前述の各条件式1〜8と数値実施例1〜4における諸数値との関係を表1に示す。
【0197】
【数9】

【0198】
【数10】

【0199】
【数11】

【0200】
【数12】

【0201】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0202】
【図1】実施例1の画像投射装置の要部概略図
【図2】実施例1のズームレンズの広角端と望遠端における収差図
【図3】実施例2の画像投射装置の要部概略図
【図4】実施例2のズームレンズの広角端と望遠端における収差図
【図5】実施例3の画像投射装置の要部概略図
【図6】実施例3のズームレンズの広角端と望遠端における収差図
【図7】実施例4の画像投射装置の要部概略図
【図8】実施例4のズームレンズの広角端と望遠端における収差図
【図9】実施例1の光路の説明図
【図10】カラー液晶プロジェクターの要部概略図
【図11】撮像装置の要部概略図
【符号の説明】
【0203】
L1 第1レンズ群
L2 第2レンズ群
L3 第3レンズ群
L4 第4レンズ群
L5 第5レンズ群
L6 第6レンズ群
ST 開口絞り
LCD 液晶表示装置(像面)
GB 硝子ブロック(色合成プリズム)
S Sagittal像面の倒れ
M Meridional像面の倒れ
101 液晶プロジェクター
102 色合成手段
103 投射レンズ
104 スクリーン
105(5B、5G、5R) 液晶パネル
106 撮像装置
107 撮像手段
108 撮影レンズ
109 被写体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
拡大側から縮小側へ順に第1〜第6レンズ群を有する画像投射装置用のズームレンズであって、
前記第1レンズ群、前記第4レンズ群、前記第5レンズ群は、各々非球面を含んでおり、
【数1】

なる条件を満足することを特徴とするズームレンズ。
【請求項2】
前記第1、4レンズ群が負の屈折力を有し、前記第2、3、5、6レンズ群が正の屈折力を有しており、
ズーミングのためには、前記第1、第6レンズ群は不動であり、広角端から望遠端へのズーミングに際して前記第2、3、4、5レンズ群が拡大側へ移動することを特徴とする請求項1のズームレンズ。
【請求項3】
前記第1、4レンズ群が負の屈折力を有し、前記第2、3、5、6レンズ群が正の屈折力を有しており、
ズーミングのためには、該第1、第4、第6レンズ群は不動であり、広角端から望遠端へのズーミングに際して該第2、第3、第5レンズ群が拡大側へ移動することを特徴とする請求項1のズームレンズ。
【請求項4】
前記第4レンズ群は非球面を持つ負レンズを有し、該負レンズの材料の屈折率をNd4nとするとき
1.60<Nd4n
なる条件を満足することを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項のズームレンズ。

【請求項5】
拡大側から縮小側へ順に第1〜第5レンズ群を有する画像投射用のズームレンズであって、
前記第1レンズ群、前記第3レンズ群、前記第4レンズ群は、各々非球面を含んでおり、
【数2】

なる条件を満足することを特徴とするズームレンズ。
【請求項6】
前記第1、3レンズ群は負の屈折力を有し、前記第2、4、5レンズ群は正の屈折力を有しており、
ズーミングのためには、前記第1、第5レンズ群は不動であり、広角端から望遠端へのズーミングに際して前記第2、3、4レンズ群が拡大側へ移動することを特徴とする請求項5記載のズームレンズ。
【請求項7】
前記第3レンズ群は非球面を持つ負レンズを有し、該負レンズの材料の屈折率をNd3nとするとき
1.60<Nd3n
なる条件を満足することを特徴とする請求項5又は6記載のズームレンズ。
【請求項8】
拡大側から縮小側へ順に、負の屈折力の第1レンズ群、正の屈折力の第2レンズ群、正の屈折力の第3レンズ群、負の屈折力の第4レンズ群、正の屈折力の第5レンズ群、正の屈折力の第6レンズ群を有する画像投射装置用のズームレンズであって、
前記6つのレンズ群のうち、3つのレンズ群が各々非球面レンズを含むことを特徴とするズームレンズ。
【請求項9】
拡大側から縮小側へ順に、負の屈折力の第1レンズ群、正の屈折力の第2レンズ群、負の屈折力の第3レンズ群、正の屈折力の第4レンズ群、正の屈折力の第5レンズ群を有する画像投射装置用のズームレンズであって、
前記5つのレンズ群のうち、3つのレンズ群が各々非球面レンズを含むことを特徴とするズームレンズ。
【請求項10】
原画を形成する表示ユニットと、請求項1乃至9いずれかに記載のズームレンズを有しており、該表示ユニットによって形成された原画を前記ズームレンズを用いて投影面上に投影することを特徴とする画像投射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−304268(P2007−304268A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−131489(P2006−131489)
【出願日】平成18年5月10日(2006.5.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】