説明

セグメント摩擦材

【課題】セグメント摩擦材において、油溝の個数を少なくする場合にも摩擦材基材の歩留を低下させず、同様の打ち抜き刃及び同一の芯金回転ユニットを用いることができ、コスト高にならず製造効率も低下させず、要求される摩擦特性を得られること。
【解決手段】セグメント摩擦材1においては、セグメントピース3が4個ずつ密着して芯金2に接着されたブロック4が5個全周に接着されて一面が構成され、5個のブロック4の間には間隙が設けられてATFが流れる油溝5が形成されており、セグメント摩擦材1の一面全体においては合計5本の油溝5が形成されている。このようにセグメント摩擦材1に形成される油溝5の数を減らすことによって耐ジャダー性が向上し、また油溝5の数及び位置を設定することによって引き摺りトルクを始めとするセグメント摩擦材1の摩擦特性を所要の摩擦特性に制御することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油中に浸した状態で対向面に高圧力をかけることによってトルクを得る湿式摩擦材であって、平板リング状の芯金にセグメントピースに切断した摩擦材基材を全周両面または片面に接着してなるセグメント摩擦材に関するものであり、特に摩擦材基材の歩留向上と耐熱性の向上が可能なセグメント摩擦材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、湿式摩擦材として、材料の歩留向上による低コスト化、引き摺りトルク低減による車両での低燃費化を目指して、平板リング状の芯金に平板リング形状に沿ったセグメントピースに切り出した摩擦材基材を油溝となる間隔をおいて接着剤で順次並べて全周に亘って接着し、裏面にも同様にセグメントピースに切断した摩擦材基材を接着してなるセグメント摩擦材が開発されている。このようなセグメント摩擦材は、自動車等の自動変速機(Automatic Transmission、以下「AT」とも略する。)やオートバイ等の変速機に用いられる複数または単数の摩擦板を設けた摩擦材係合装置用として用いることができる。
【0003】
ここで、ATの別の部分には、摩擦材基材をリング状に切り出して平板リング状の芯金に接着したリング状摩擦材も併用されるが、リング状摩擦材は摩擦材基材の歩留が極めて低いという問題がある。そこで、セグメント摩擦材の隣り合うセグメントピース間の間隙を極めて小さくするかまたは間隙をなくすことによって、セグメント摩擦材にリング状摩擦材と同様の摩擦特性を持たせることが考えられる。
【0004】
これによって、潤滑油(Automatic Transmission Fluid,自動変速機潤滑油、以下「ATF」とも略する。)の供給に対してリング状摩擦材と同様の特性を示すことが期待できる。しかし、従来の製造装置においては、隣り合うセグメントピース間に隙間を設けなければ配置もしくは貼り付けができないという問題があった。
【0005】
そこで、本発明者らは、特許文献1に記載の発明において、セグメント摩擦材の隣り合うセグメントピース間の間隙を極めて小さくするかまたは間隙をなくすことによって、セグメント摩擦材にリング状摩擦材と同様の摩擦特性を持たせることができてコスト削減することができるセグメント摩擦材及びその製造方法を提供している。
【0006】
しかし、セグメント摩擦材においては、用途に応じて種々の摩擦特性が要求されるため、セグメントピース間に間隙を設けて油溝として、この油溝の個数や位置を様々に変化させることによって要求される摩擦特性を有するセグメント摩擦材を製造している。ここで、油溝の個数を少なくするためには、長さの長い(角度の広い)セグメントピースを切り出して、少数個を芯金に接着して対応している。
【特許文献1】特開2005−299731号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、セグメントピースを帯状の摩擦材基材から打ち抜く際には、上下方向に連続的に打ち抜くことができるように、セグメントピースの内周のRが外周のRと同一に設定されているため、長さの長い(角度の広い)セグメントピースを切り出すと、両端に近づくに従って円周方向に垂直な方向の長さが短くなり、摩擦材基材の歩留が低下するとともにライニング面積が小さくなる。
【0008】
また、要求される油溝の位置及び個数に応じて、異なる形状のセグメントピースを切り出す(打ち抜く)ために、また異なる角度だけ平板リング状の芯金を回転させて接着するために、その度に異なる打ち抜き刃及び芯金回転ユニットを設計・作製して使用していたのでは、コスト高になってしまい、製造効率も悪くなるという問題点があった。
【0009】
そこで、本発明は、油溝の個数を少なくする場合にも摩擦材基材の歩留を低下させることなく、また同様の打ち抜き刃及び同一の芯金回転ユニットを用いることができて、コスト高になることなく製造効率も低下させることなく、要求される摩擦特性を得ることができるセグメント摩擦材を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明にかかるセグメント摩擦材は、平板リング状の芯金の全周両面または片面に摩擦材基材から切り出したセグメントピースを接着してなるセグメント摩擦材であって、必要な油溝の位置及び個数に応じて、長さの短い(角度の狭い)前記セグメントピースを複数個密着させて前記芯金に接着することによって、互いに密着していない前記セグメントピースの間に前記油溝を形成するものである。
【0011】
請求項2の発明にかかるセグメント摩擦材は、前記長さの短い(角度の狭い)セグメントピースは、前記平板リング状の芯金の全周に対して20個以上40個以下が使用されるものである。
【0012】
請求項3の発明にかかるセグメント摩擦材は、請求項1または請求項2の構成において、前記互いに密着していない前記セグメントピースの間に形成される前記油溝のピッチが不均一であるものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明にかかるセグメント摩擦材は、平板リング状の芯金の全周両面または片面に摩擦材基材から切り出したセグメントピースを接着してなるセグメント摩擦材であって、必要な油溝の位置及び個数に応じて、長さの短い(角度の狭い)セグメントピースを複数個密着させて芯金に接着することによって、互いに密着していないセグメントピースの間に油溝を形成する。
【0014】
長さの短い(角度の狭い)セグメントピースの場合には、セグメントピースの内周のRが外周のRと同一に設定されているため両端に近づくに従って円周方向に垂直な方向の長さが短くなるという影響は殆ど現れない。従って、摩擦材基材の歩留を低下させることがない。
【0015】
そして、必要な油溝の位置及び個数に応じて、このような長さの短いセグメントピースを複数個密着させて芯金に接着して、油溝の位置はセグメントピースを互いに密着させずに間隔を開けることによって、長さの長い(角度の広い)セグメントピースを1個ずつ間隔を開けて接着した場合と同様の摩擦特性を得ることができる。
【0016】
また、必要な油溝の位置及び個数が変化する場合に対しても、互いに密着させて芯金に接着する長さの短いセグメントピースの個数を変化させることによって容易に対応することができ、使用するセグメントピースの大きさは一種類で済むため、互いに密着させる側の辺と油溝に面する側の辺とで形状が異なる場合であっても、一度打ち抜き刃及び芯金回転ユニットを設計・製作すれば、後は同様の打ち抜き刃及び同一の芯金回転ユニットを用いることができるため、コスト高になることもなく製造効率も悪化させることがない。
【0017】
そして、帯状の摩擦材基材から打ち抜く際に上下方向に連続的に打ち抜くことができ、左右にも少し間隔を空けるだけで打ち抜くことができるので、材料歩留を極めて高くすることができ、大幅にコスト削減することができる。
【0018】
このようにして、油溝の個数を少なくする場合にも摩擦材基材の歩留を低下させることなく、また同様の打ち抜き刃及び同一の芯金回転ユニットを用いることができて、コスト高になることなく製造効率も低下させることなく、要求される摩擦特性を得ることができるセグメント摩擦材となる。
【0019】
請求項2の発明にかかるセグメント摩擦材においては、長さの短い(角度の狭い)セグメントピースは、平板リング状の芯金の全周に対して20個以上40個以下が使用される。即ち、360度÷20=18度、360度÷40=9度であるから、セグメントピースの両辺の成す角度が9度〜18度の範囲内のものである。
【0020】
この理由は、平板リング状の芯金の全周に対して20個未満が使用される大きさのセグメントピースでは、大き過ぎて要求される種々の油溝の位置及び個数に対応することが困難であり、一方平板リング状の芯金の全周に対して40個を超える個数が使用される大きさのセグメントピースでは、使用するセグメントピースの個数が多いためセグメント摩擦材の製造効率が低下してしまうからである。このように長さの短い(角度の狭い)セグメントピースの大きさを、平板リング状の芯金の全周に対して20個以上40個以下が使用される大きさとすることによって、請求項1に記載の効果に加えて、要求される種々の油溝の位置及び個数に柔軟に対応することができるとともに、セグメント摩擦材の製造効率が低下するのを防止することができる。
【0021】
このようにして、油溝の個数を少なくする場合にも柔軟に対応することができて、摩擦材基材の歩留を低下させることなく、また同様の打ち抜き刃及び同一の芯金回転ユニットを用いることができて、コスト高になることなく製造効率の低下も確実に防止して、要求される摩擦特性を得ることができるセグメント摩擦材となる。
【0022】
請求項3の発明にかかるセグメント摩擦材においては、互いに密着していないセグメントピースの間に形成される油溝のピッチが不均一である。即ち、互いに密着している長さの短い(角度の狭い)セグメントピースの個数が一定でなく、セグメント摩擦材の全周に亘って規則的に、または不規則に変化している。
【0023】
これによって、請求項1または請求項2に記載の効果に加えて、油溝のピッチが不均一であるために、耐ジャダー性がより向上するものと考えられる。
【0024】
このようにして、油溝の個数を少なくする場合にも摩擦材基材の歩留を低下させることなく、また同様の打ち抜き刃及び同一の芯金回転ユニットを用いることができて、コスト高になることなく製造効率も低下させることなく、要求される摩擦特性を得ることができるとともに耐ジャダー性がより向上するセグメント摩擦材となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0026】
実施の形態1
まず、本発明の実施の形態1にかかるセグメント摩擦材について、図1乃至図5を参照して説明する。
【0027】
図1(a)は本発明の実施の形態1の実施例1にかかるセグメント摩擦材におけるセグメントピースの配置を示した部分平面図、(b)は本発明の実施の形態1の実施例2にかかるセグメント摩擦材におけるセグメントピースの配置を示した部分平面図である。図2(a)は従来技術の比較例1にかかるセグメント摩擦材におけるセグメントピースの配置を示した部分平面図、(b)は従来技術の比較例2にかかるセグメント摩擦材におけるセグメントピースの配置を示した部分平面図である。
【0028】
図3は本発明の実施の形態1の実施例1及び実施例2にかかるセグメント摩擦材における歩留向上率を示す棒グラフである。図4は本発明の実施の形態1の実施例1及び実施例2にかかるセグメント摩擦材並びに従来技術の比較例1及び比較例2にかかるセグメント摩擦材における引き摺りトルクの測定結果を示すグラフであり、(a)はATFの流量が毎分200mlの場合の測定結果を示すグラフ、(b)はATFの流量が毎分500mlの場合の測定結果を示すグラフである。
【0029】
図5(a)は本発明の実施の形態1の実施例1にかかるセグメント摩擦材の耐熱性を比較例1と比較して示した棒グラフ、(b)は本発明の実施の形態1の実施例2にかかるセグメント摩擦材の耐熱性を比較例2と比較して示した棒グラフである。
【0030】
図1(a)に示されるように、本実施の形態1の実施例1にかかるセグメント摩擦材1を構成するセグメントピース3は、左辺3aと右辺3bの成す角度が18度であり、従って360度÷18度=20分割となって、20個のセグメントピース3によってセグメント摩擦材1の一面が構成される。ここで、セグメントピース3は4個ずつが密着して芯金2に接着されており、セグメントピース3の4個ずつからなるブロック4が5個接着されることによって、セグメント摩擦材1の一面が構成されている。
【0031】
そして、5個のブロック4の間には間隙が設けられてATFが流れる油溝5が形成されており、セグメント摩擦材1の一面全体においては合計5本の油溝5が形成されている。このようにセグメント摩擦材1に形成される油溝5の数を減らすことによって耐ジャダー性が向上し、また油溝5の数及び位置を設定することによって引き摺りトルクを始めとするセグメント摩擦材1の摩擦特性を所要の摩擦特性に制御することができる。
【0032】
なお、ブロック4を形成する4個のセグメントピース3の両辺のうち、油溝5に面している辺を除いて、密着している辺にはすべて切欠き3cが設けられているが、この切欠き3cは、本実施の形態1においては位置決めピンが18度ごとに立設された回転プレートを用いてセグメント摩擦材1を製造しているために設けられたものであり、本発明において必須のものではない。
【0033】
また、図1(b)に示されるように、本実施の形態1の実施例2にかかるセグメント摩擦材1Aにおいても、20個のセグメントピース3によってセグメント摩擦材1Aの一面が構成される。ここで、セグメントピース3は2個ずつが密着して芯金2に接着されており、セグメントピース3の2個ずつからなるブロック4Aが10個接着されることによって、セグメント摩擦材1Aの一面が構成されている。
【0034】
そして、10個のブロック4Aの間には間隙が設けられてATFが流れる油溝5Aが形成されており、セグメント摩擦材1Aの一面全体においては合計10本の油溝5Aが形成されている。このようにセグメント摩擦材1Aに形成される油溝5Aの数及び位置を設定することによって引き摺りトルクを始めとするセグメント摩擦材1Aの摩擦特性を所要の摩擦特性に制御することができる。
【0035】
これに対して、図2に示されるように、従来のセグメント摩擦材6,6Aにおいては、本実施の形態1の実施例1及び実施例2におけるブロック4,4Aを、それぞれ1個のセグメントピースで構成していた。即ち、図2(a)に示されるように、比較例1にかかる従来のセグメント摩擦材6は、本実施の形態1の実施例1における、4個のセグメントピース3からなるブロック4と同じ長さを有するセグメントピース7を、摩擦材基材から5個切り出して、芯金2に間隔を開けて接着することによって形成されている。
【0036】
これによって、本実施の形態1の実施例1にかかるセグメント摩擦材1と同様に、5本の油溝5を有するセグメント摩擦材6が得られる。しかし、セグメント摩擦材に用いられるセグメントピースを摩擦材基材から切り出す際には、セグメントピースの外周のRと内周のRとを同一にして切り出す。
【0037】
この理由は、セグメントピースの円周に垂直な方向の長さを均一にしようとして、セグメントピースの外周のRと内周のRとを同心円のRになるように切り出すと、次に切り出すセグメントピースの外周のRと切り出した後の内周のRとが一致しないため、摩擦材基材にセグメントピースに含まれない切り屑が出てしまい、摩擦材基材の利用歩留が低下するとともに、一々切り屑を取り除かなければならないため、セグメントピースを連続して切り出す(打ち抜く)ことができず、生産効率も落ちてしまうからである。
【0038】
そこで、セグメントピースを連続して切り出す(打ち抜く)ことができ、摩擦材基材の利用歩留を向上させるために、セグメントピースの外周のRと内周のRとを同一にしているが、この結果、図2(a)に示されるように、長いセグメントピース7の場合には、両端7a,7bに近づくに従って円周に垂直な方向の長さが短くなり、セグメント摩擦材6全体におけるライニング面積が低下するという問題があった。
【0039】
この問題は、図2(b)に示されるように、比較例2にかかる従来のセグメント摩擦材6Aにおいても同様であり、比較例1のセグメントピース7よりは長さが短いため顕著ではないが、やはりセグメントピース8の両端8a,8bに近づくに従って円周に垂直な方向の長さが短くなっている。
【0040】
これに対して、図1に示されるように、実施例1及び実施例2にかかるセグメントピース3は、長さが短いため、両端に近づくに従って円周に垂直な方向の長さが短くなる影響は殆ど現れず、セグメント摩擦材1,1A全体におけるライニング面積をほぼ最大限にまで大きくすることができる。
【0041】
本実施の形態1の実施例1及び実施例2にかかるセグメント摩擦材1,1Aにおける摩擦材基材の歩留を、比較例1及び比較例2にかかる従来のセグメント摩擦材6,6Aにおける歩留と比較して、どの程度向上しているかについて確認を行った。歩留としては、標準となる摩擦材基材の1ロールから、各セグメント摩擦材を何個製造できるかによって評価した。その結果を、図3に示す。
【0042】
図3に示されるように、本実施の形態1の実施例1にかかるセグメント摩擦材1においては、比較例1にかかる従来のセグメント摩擦材6よりも30%以上歩留が向上していることが分かった。また、本実施の形態1の実施例2にかかるセグメント摩擦材1Aにおいては、比較例2にかかる従来のセグメント摩擦材6Aよりも5%以上歩留が向上していることが分かった。
【0043】
次に、本実施の形態1にかかるセグメント摩擦材1,1Aと比較例1及び比較例2にかかる従来のセグメント摩擦材6,6Aについて、摩擦材としての性能試験を実施した。まず、引き摺りトルクの測定試験を行った。
【0044】
試験条件としては、テスターとしてSAE#2テスターを用い、4枚のプレートの間に供試体となるセグメント摩擦材を3枚組み込んで、セグメント摩擦材の寸法は外径144.95mm、内径127.95mmであり、潤滑油穴から潤滑油としてATFを油温40℃で潤滑油量200ml/minの場合、及び潤滑油量500ml/minの場合について、摩擦回転数を500rpmごとにステップアップして、500rpm〜3500rpmの範囲内に亘って試験を行った。
【0045】
試験結果を、図4(a),(b)に示す。図4(a),(b)に示されるように、潤滑油量200ml/minの場合も、潤滑油量500ml/minの場合も、実施例1にかかるセグメント摩擦材1と比較例1にかかるセグメント摩擦材6とを比較すると、引き摺りトルク特性はほぼ同等であることが分かる。同様に、実施例2にかかるセグメント摩擦材1Aと比較例2にかかるセグメント摩擦材6Aとを比較しても、引き摺りトルク特性はほぼ同等であることが分かる。
【0046】
次に、耐熱性の評価試験を行った。試験条件としては、テスターとして同じくSAE#2テスターを用い、4枚のプレートの間に供試体となるセグメント摩擦材を3枚組み込んで、セグメント摩擦材の寸法は外径144.95mm、内径127.95mmであり、潤滑油穴から潤滑油としてATFを油温100℃で潤滑油量180ml/min流しながら、摩擦回転数7100rpm、ピストンによる面圧0.785MPaという条件で、標準負荷耐久評価を行った。
【0047】
耐熱試験結果を、図5に示す。図5において、「耐熱サイクル数」は、摩擦係数μが10%低下するか、セグメント摩擦材の摩擦面が60μmの厚さ磨耗した(250サイクルごとにテスターを止めて確認した)時点までの摩擦サイクル数である。
【0048】
図5(a)に示されるように、実施例1にかかるセグメント摩擦材1は、比較例1にかかるセグメント摩擦材6を上回る耐熱性を有していることが分かる。同様に、図5(b)に示されるように、実施例2にかかるセグメント摩擦材1Aは、比較例2にかかるセグメント摩擦材6Aと同等以上の耐熱性を有していることが分かる。
【0049】
本実施の形態1にかかるセグメント摩擦材1,1Aにおいて、耐熱性が向上しているのは、比較例1及び比較例2にかかる従来のセグメント摩擦材6,6Aにおいては、上述の如く、摩擦材基材を一体のリング形状に打ち抜いて芯金に接着したリング状摩擦材に比較して、ライニング面積が低下しているため耐熱性が低下しているのに対して、セグメント摩擦材1,1Aにおいては、ライニング面積が少ししか低下していないためと考えられる。
【0050】
このようにして、本実施の形態1にかかるセグメント摩擦材1,1Aにおいては、油溝5,5Aの個数を少なくする場合にも摩擦材基材の歩留を低下させることなく、また同様の打ち抜き刃及び同一の芯金回転ユニットを用いることができて、コスト高になることなく製造効率も低下させることなく、要求される摩擦特性を得ることができる。
実施の形態2
次に、本発明の実施の形態2にかかるセグメント摩擦材について、図6を参照して説明する。
【0051】
図6(a)は本発明の実施の形態2の実施例3にかかるセグメント摩擦材におけるセグメントピースの配置を示した部分平面図、(b)は本発明の実施の形態2の実施例4にかかるセグメント摩擦材におけるセグメントピースの配置を示した部分平面図、(c)は本発明の実施の形態2の実施例5にかかるセグメント摩擦材におけるセグメントピースの配置を示した部分平面図、(d)は本発明の実施の形態2の実施例6にかかるセグメント摩擦材におけるセグメントピースの配置を示した部分平面図である。
【0052】
図6(a),(b),(c),(d)に示されるように、本実施の形態2にかかるセグメント摩擦材は、上記実施の形態1にかかるセグメント摩擦材が、同一のブロック4またはブロック4Aのみを一定間隔をおいて芯金2に接着してなるものであったのに対して、異なるブロック4,4Aまたは単一のセグメントピース3を混在させてなるものである。
【0053】
図6(a)に示されるように、本実施の形態2の実施例3にかかるセグメント摩擦材10Aを構成するセグメントピース3は、上記実施の形態1にかかるセグメントピース3と同様に、左辺3aと右辺3bの成す角度が18度であり、従って360度÷18度=20分割となって、20個のセグメントピース3によってセグメント摩擦材10Aの一面が構成される。
【0054】
ここで、図6(a)に示されるように、実施例3にかかるセグメント摩擦材10Aにおいては、セグメントピース3を2個密着させてなるブロック4Aと、単一のセグメントピース3とが、間隔をおいて交互に配置されている。これによって、ブロック4Aと単一のセグメントピース3との間に形成される油溝11Aが、不均一に配置されることになり、特有の摩擦特性を有するセグメント摩擦材が得られる。
【0055】
また、図6(b)に示されるように、実施例4にかかるセグメント摩擦材10Bにおいては、セグメントピース3を4個密着させてなるブロック4と、単一のセグメントピース3とが、間隔をおいて交互に配置されている。これによって、ブロック4と単一のセグメントピース3との間に形成される油溝11Bが、不均一に配置されることになり、特有の摩擦特性を有するセグメント摩擦材が得られる。
【0056】
また、図6(c)に示されるように、実施例5にかかるセグメント摩擦材10Cにおいては、セグメントピース3を4個密着させてなるブロック4と、セグメントピース3を2個密着させてなるブロック4Aとが、間隔をおいて交互に配置されている。これによって、ブロック4とブロック4Aとの間に形成される油溝11Cが、不均一に配置されることになり、特有の摩擦特性を有するセグメント摩擦材が得られる。
【0057】
さらに、図6(d)に示されるように、実施例6にかかるセグメント摩擦材10Dにおいては、単一のセグメントピース3と、セグメントピース3を4個密着させてなるブロック4と、セグメントピース3を2個密着させてなるブロック4Aとが、間隔をおいて順次配置されている。これによって、単一のセグメントピース3とブロック4とブロック4Aとの間に形成される油溝11Dが、さらに不均一に配置されることになり、特有の摩擦特性を有するセグメント摩擦材が得られる。
【0058】
このようにして、本実施の形態2にかかるセグメント摩擦材10A,10B,10C,10Dにおいては、油溝11A,11B,11C,11Dの個数を少なくする場合にも摩擦材基材の歩留を低下させることなく、また同様の打ち抜き刃及び同一の芯金回転ユニットを用いることができて、コスト高になることなく製造効率も低下させることなく、要求される摩擦特性を得ることができる。
【0059】
さらに、本実施の形態2にかかるセグメント摩擦材10A,10B,10C,10Dにおいては、油溝11A,11B,11C,11Dのピッチが不均一であるために、耐ジャダー性がより向上するものと考えられる。
【0060】
上記各実施の形態のセグメント摩擦材においては、セグメントピース3の内周のRは外周のRと同一に設定されているため、帯状の摩擦材基材から打ち抜く際に上下方向に連続的に打ち抜くことができ、左右にも少し間隔を空けるだけで打ち抜くことができるので、材料歩留が極めて高くなる。
【0061】
上記各実施の形態においては、セグメント摩擦材として両面にセグメントピースが接着されたセグメント摩擦材を例にして説明したが、片面のみにセグメントピースが接着されたセグメント摩擦材においても同様な作用効果を得ることができる。
【0062】
また、上記各実施の形態においては、セグメント摩擦材に用いるセグメントピースとして、平板リング状の芯金の全周で20個が使用されるセグメントピース3を例にして説明したが、これに限られるものではなく、平板リング状の芯金の全周で20個を超える数が使用されるより幅の狭いセグメントピースでも、平板リング状の芯金の全周で20個未満が使用されるより幅の広いセグメントピースでも構わない。特に、平板リング状の芯金の全周で20個以上40個以下が使用されるセグメントピースが、より好ましい。
【0063】
さらに、上記各実施の形態においては、複数個のセグメントピースを密着させたブロックとして、4個のセグメントピース3を密着させたブロック4及び2個のセグメントピース3を密着させたブロック4Aを例にして説明したが、これに限られるものではなく、何個のセグメントピースを密着させたブロックを用いても良い。
【0064】
本発明を実施するに際しては、セグメント摩擦材のその他の部分の構成、形状、数量、材質、厚さ、大きさ、接続関係等についても、上記各実施の形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1(a)は本発明の実施の形態1の実施例1にかかるセグメント摩擦材におけるセグメントピースの配置を示した部分平面図、(b)は本発明の実施の形態1の実施例2にかかるセグメント摩擦材におけるセグメントピースの配置を示した部分平面図である。
【図2】図2(a)は従来技術の比較例1にかかるセグメント摩擦材におけるセグメントピースの配置を示した部分平面図、(b)は従来技術の比較例2にかかるセグメント摩擦材におけるセグメントピースの配置を示した部分平面図である。
【図3】図3は本発明の実施の形態1の実施例1及び実施例2にかかるセグメント摩擦材における歩留向上率を示す棒グラフである。
【図4】図4は本発明の実施の形態1の実施例1及び実施例2にかかるセグメント摩擦材並びに従来技術の比較例1及び比較例2にかかるセグメント摩擦材における引き摺りトルクの測定結果を示すグラフであり、(a)はATFの流量が毎分200mlの場合の測定結果を示すグラフ、(b)はATFの流量が毎分500mlの場合の測定結果を示すグラフである。
【図5】図5(a)は本発明の実施の形態1の実施例1にかかるセグメント摩擦材の耐熱性を比較例1と比較して示した棒グラフ、(b)は本発明の実施の形態1の実施例2にかかるセグメント摩擦材の耐熱性を比較例2と比較して示した棒グラフである。
【図6】図6(a)は本発明の実施の形態2の実施例3にかかるセグメント摩擦材におけるセグメントピースの配置を示した部分平面図、(b)は本発明の実施の形態2の実施例4にかかるセグメント摩擦材におけるセグメントピースの配置を示した部分平面図、(c)は本発明の実施の形態2の実施例5にかかるセグメント摩擦材におけるセグメントピースの配置を示した部分平面図、(d)は本発明の実施の形態2の実施例6にかかるセグメント摩擦材におけるセグメントピースの配置を示した部分平面図である。
【符号の説明】
【0066】
1,1A,10A,10B,10C,10D セグメント摩擦材
2 芯金
3 セグメントピース
5,5A,11A,11B,11C,11D 油溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板リング状の芯金の全周両面または片面に摩擦材基材から切り出したセグメントピースを接着してなるセグメント摩擦材であって、
必要な油溝の位置及び個数に応じて、長さの短い(角度の狭い)前記セグメントピースを複数個密着させて前記芯金に接着して互いに密着していない前記セグメントピースの間に前記油溝を形成することを特徴とするセグメント摩擦材。
【請求項2】
前記長さの短い(角度の狭い)セグメントピースは、前記平板リング状の芯金の全周に対して20個以上40個以下が使用されることを特徴とする請求項1に記載のセグメント摩擦材。
【請求項3】
前記互いに密着していない前記セグメントピースの間に形成される前記油溝のピッチが不均一であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセグメント摩擦材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−239776(P2007−239776A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−59374(P2006−59374)
【出願日】平成18年3月6日(2006.3.6)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【Fターム(参考)】