セラミックスコーティングされた整形外科用インプラント及びかかるインプラントの作製方法
【課題】耐スクラッチ性、耐磨耗性、及び耐腐食性セラミックスコーティングを金属基材上に備える整形外科用インプラント、並びにかかるコーティングの作製方法を提供する。
【解決手段】金属基材は有利なことに、セラミックスでコーティングされる前に、HIP処理され、かつ均質化され、このHIP処理され、かつ均質化された金属基材は、セラミックスでコーティングされる前に研削され、研磨されることが好ましい。セラミックスコーティングは、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方の複数の薄い交互層を備えるバンドを含んでもよく、アルミナオーバーコートを含んでもよい。本発明のコーティングは、別の方法で表面の亀裂又はコーティングされた表面上のスクラッチから生じる恐れのあるマイクロ亀裂の成長を抑え、これにより向上した摩耗特徴、耐スクラッチ性、基材材料への腐食性流体の浸透の防止をもたらす。
【解決手段】金属基材は有利なことに、セラミックスでコーティングされる前に、HIP処理され、かつ均質化され、このHIP処理され、かつ均質化された金属基材は、セラミックスでコーティングされる前に研削され、研磨されることが好ましい。セラミックスコーティングは、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方の複数の薄い交互層を備えるバンドを含んでもよく、アルミナオーバーコートを含んでもよい。本発明のコーティングは、別の方法で表面の亀裂又はコーティングされた表面上のスクラッチから生じる恐れのあるマイクロ亀裂の成長を抑え、これにより向上した摩耗特徴、耐スクラッチ性、基材材料への腐食性流体の浸透の防止をもたらす。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、米国特許出願第12/782315号、表題「Multilayer Coatings」(2010年5月18日出願)及び同第12/605756号、米国特許出願公開第2010/012926(A1)号、表題「Multilayer Coatings」(2009年10月26日出願)(Jason B.Langhorn)の一部継続出願であり、及び2008年11月24日出願の米国仮特許出願第61/117468号の優先権を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本発明はとりわけ、医療インプラントの調製に使用されるもののような金属基材用の耐摩耗性、耐スクラッチ性、及び耐腐食性コーティングに関する。
【背景技術】
【0003】
一旦設置されると、金属の整形外科用インプラントは、現場で(in situ)生じる恐れのある、スクラッチ、摩耗若しくは他の方法による損傷、又は腐食プロセスにより引き起こされる劣化に対して脆弱である。損傷したインプラントは、性能の低下を示す場合があり、場合によっては修復又は交換しなければならず、それを行うために必要な複雑で身体的に外傷の残ることが多い外科手術は、患者のリバビリテーションへ向けての進歩を遅らせる場合がある。更に、インプラントの被提供者の平均寿命の上昇のような人口動向、及びより若い被験者の間での整形外科的介入に対する必要性(例えば、スポーツ傷害、関節ストレスを導く過剰な体重又は乏しい健康管理に起因する)に起因して、長持ちする整形外科用インプラントへの関心が高まっている。
【0004】
スチール、コバルト、チタン、及びこれらの合金などの材料を含む金属基材を含むインプラントはまた、構造的一体性の喪失、引っかき又は磨損、増加する磨耗率、並びにインプラントの性能の低下を導く恐れのある損傷又は機械的に促進された腐食に対して脆弱である。
【0005】
金属の整形外科用インプラントの耐スクラッチ性及び耐摩耗性の向上に対する従来のアプローチは、イオン注入、ガス窒化、高温酸化、及びコーティング技術(例えば、米国特許出願公開第2007/0078521号、2007年4月5日公開を参照のこと)のような表面処理を含んでいる。しかしながら、最適水準のピーク硬度を提供できない、下層の基材へのコーティングの付着が弱い、及び経済的な実現可能性などの特定の制限によりこれらの従来の方法の一部の実用性が制限されることがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、金属の整形外科用インプラント構成要素上に形成されたセラミックスコーティングの耐スクラッチ性、耐腐食性、及び耐磨耗性、並びに接着力が、基材をコーティングする前に金属基材を調製するのに使用されるプロセスパラメータを制御することによって改善され得るという発見に関する。本発明はまた、金属の整形外科用インプラント構成要素上に形成されたセラミックスコーティングの耐スクラッチ性、耐腐食性、及び耐磨耗性、並びに接着力が、より少なく、より厚い層の代わりに、セラミックスの複数の「薄い」層を含むコーティングを使用することによって改善され得るという発見に関する。更に、本発明はまた、セラミックスコーティングされた整形外科用インプラント構成要素の外側関節面の最適な構成要素は、外側関節面に接する軸受に使用される材料により有利に異なっていてもよい。これらの発見はセラミックスコーティングされた金属の整形外科用インプラント構成要素を改善するために一緒に使用されてもよいが、各発見及び各発見の態様は、「発明を実施するための形態」において記載されているように、個別に使用されてもよい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様では、本発明は、HIP処理され、かつ均質化された金属の整形外科用インプラント構成要素を入手する工程と、セラミックスコーティングをHIP処理され、かつ均質化された構成要素上に、セラミックスコーティングの第1バンドを、前述のHIP処理され、かつ均質化された金属基材の上に蒸着させること、及びセラミックスコーティングの第2バンドを、セラミックスコーティングの前述の第1バンドの上に蒸着させること、によって、蒸着させる工程と、を含む、整形外科用インプラント構成要素を作製する方法を提供する。
【0008】
1つの代替的な実施形態では、HIP処理され、かつ均質化された金属の整形外科用インプラント構成要素を入手する工程は、HIP処理され、かつ均質化された表面を備える金属の整形外科用インプラント構成要素を入手することであって、この表面からHIP処理され、かつ均質化された金属の1/2〜1mmが、金属の整形外科用インプラント構成要素の少なくとも一部分から除去されている、こと、を含む。より具体的な実施形態では、HIP処理され、かつ均質化された金属は、以下の材料除去プロセス:研削、機械加工、及び研磨の少なくとも1つによって除去される。
【0009】
上記の代替の実施形態のいずれかにおいて、セラミックスコーティングの第1バンドを蒸着させる工程は、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方の層をCVD蒸着させることを含んでもよい。
【0010】
上記の代替の実施形態のいずれかにおいて、第2バンドを蒸着させる工程は、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方の少なくとも1つの層を蒸着させることを含んでもよい。
【0011】
上記の実施形態のいずれかにおいて、本方法は、セラミックスコーティングの外側バンドを第2バンドの上に蒸着させる工程を更に含んでもよく、外側バンドは、整形外科用インプラント構成要素の外側関節面を画定する。1つの具体的な実施形態では、外側バンドはアルミナを含み、追加の接着バンドは、第2バンドと、外側バンドのアルミナとの間に蒸着されてもよい。あるいは、外側バンドは、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方の層を含んでもよい。
【0012】
上記の実施形態のいずれかにおいて、第2バンドを蒸着させる工程は、複数層をCVD蒸着させることを含み、各層は窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む。この実施形態では、第1バンドの層の厚さは、第2バンドにおける各層の厚さより大きくてもよい。この実施形態では、2〜100層、2〜50層、5〜50層、又は約30〜50層は、第2バンドにおいて蒸着されてもよく、各層は窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む。
【0013】
他の態様では、本発明は、外側関節面を有する第1構成要素と、第1構成要素の外側関節面に対して関節接合するようなサイズにされ、かつそのように成形された外側軸受面を有する第2構成要素と、を含む、整形外科用インプラントのキットを提供する。第1整形外科用インプラント構成要素は、デンドライト間のカーバイドを実質的に含まない金属基材表面、及び金属基材上のセラミックスコーティングを含む。セラミックスコーティングは、第1構成要素の外側関節面を画定する。セラミックスコーティングは、約3マクロメートル〜20マイクロメートルの合計厚さを有し、炭化チタン、窒化チタン、チタン炭窒化物、並びに窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方からなる群から選択される材料を含む。
【0014】
1つの具体的な実施形態では、第2構成要素の外側軸受面は、金属及びセラミックスからなる群から選択される材料によって画定され、第1構成要素のセラミックスコーティングは、炭化チタン、窒化チタン、チタン炭窒化物、並びに窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方からなる群から選択される材料を含む、外面を有する。
【0015】
他の具体的な実施形態では、セラミックスコーティングは第1バンド及び第2バンドを含む。第1バンドは、基材表面を被覆する窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む。第2バンドは、第1バンドを被覆する窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方の複数層を含む。第1バンドは、第2バンドにおける各層の厚さより大きい厚さを有する。セラミックスコーティングは第3バンドを含んでもよい。第3バンドは、第2バンドにおける各層の厚さより大きい厚さを有してもよい。1つのより具体的な実施形態では、第3バンドは、第2バンドを被覆する窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含み、第3バンドは、第2バンドにおける各層の厚さより大きい厚さを有する。より具体的には、第3バンドは、約2〜15マイクロメートルの厚さを有する単一層を含んでもよい。
【0016】
あるいは、他の具体的な実施形態では、セラミックスコーティングの第3バンドは、第2バンドを被覆するアルミナを含み、第3バンドは、第2バンドにおける各層の厚さより大きい厚さを有する。第3バンドは、約2〜15マイクロメートルの厚さを有する単一層を含んでもよい。
【0017】
特定の実施形態では、第2バンドは、セラミックスの約2〜50層を含み、各層は窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む。第2バンドは、セラミックスの約5〜50層を含んでもよく、各層は窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む。第2バンドは、セラミックスの約30〜50層を含んでもよく、各層は窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む。
【0018】
具体的な実施形態では、第2バンドはセラミックスの複数層を含み、各層は約0.5マイクロメートル未満の厚さを有する。第2バンドにおける各層は約0.2マイクロメートル未満の厚さを有してもよい。
【0019】
具体的な実施形態では、第1バンドは約2〜3マイクロメートルの厚さを有する。第1バンドは約2.5マイクロメートルの厚さを有してもよい。
【0020】
具体的な実施形態では、セラミックスコーティングは14〜15マイクロメートルの合計厚さを有する。この実施形態では、第1バンドは、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含むセラミックスの単一層を含み、この単一層は約2〜3マイクロメートルの厚さを有する。第2バンドは、セラミックスの約30〜50層を含み、各層は窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含み、各層は約0.2マイクロメートル未満の厚さを有する。この実施形態では、第3バンドは、第2バンドを被覆するアルミナを含み、第3バンドは約2〜10マイクロメートルの厚さを有する。
【0021】
他の態様では、本発明は、外側関節面を有する整形外科用インプラント構成要素を提供する。整形外科用インプラント構成要素は、金属基材表面、及びインプラント構成要素の外側関節面を画定する金属基材表面上のセラミックスコーティングを含む。セラミックスコーティングは第1バンド及び第2バンドを含む。第1バンドは、基材表面を被覆する、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む。第2バンドは、第1バンドを被覆する窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方の複数層を含む。セラミックスコーティングは、20Nの定荷重下で、半径200マイクロメートルのダイヤモンド圧子からのスクラッチ長さ1ミリメートル当たり、Lc2チッピング又はバックリング型破砕の亀裂事象のアコースティックエミッションピーク特徴を呈さない一部分を含む。チッピング及びバックリング破砕Lc2事象は、アコースティックエミッション特徴と共にASTM C1624−05に従って定義されている。
【0022】
より具体的な実施形態では、セラミックスコーティングは、ASTM C1624−05に従って測定された時、40Nの定荷重下で、半径200マイクロメートルのダイヤモンド圧子からのスクラッチ長さの1ミリメートル当たり、Lc2チッピング又はバックリング破砕の5より小さいアコースティックエミッションピーク特徴を有する一部分を含む。
【0023】
より具体的な実施形態では、セラミックスコーティングは、ASTM C1624−05に従って測定された時、40Nの定荷重下で、半径200マイクロメートルのダイヤモンド圧子からのスクラッチ長さの1ミリメートル当たり、Lc2チッピング又はバックリング破砕の2より小さいアコースティックエミッションピーク特徴を有する一部分を含む。
【0024】
より具体的な他の実施形態では、セラミックスコーティングは、ASTM C1624−05に従って測定された時、25Nの定荷重下で、半径200マイクロメートルのダイヤモンド圧子からのスクラッチ長さの1ミリメートル当たり、Lc2チッピング又はバックリング破砕のアコースティックエミッションピーク特徴を有さない一部分を含む。
【0025】
より具体的な他の実施形態では、セラミックスコーティングは、ASTM C1624−05に従って測定された時、28Nの定荷重下で、半径200マイクロメートルのダイヤモンド圧子からのスクラッチ長さの1ミリメートル当たり、Lc2チッピング又はバックリング破砕のアコースティックエミッションピーク特徴を有さない一部分を含む。
【0026】
より具体的な他の実施形態では、セラミックスコーティングは、ASTM C1624−05に従って測定された時、30Nの定荷重下で、半径200マイクロメートルのダイヤモンド圧子からのスクラッチ長さの1ミリメートル当たり、Lc2チッピング又はバックリング破砕のアコースティックエミッションピーク特徴を有さない一部分を含む。
【0027】
上記の実施形態のいずれかにおいて、セラミックスコーティングはまた、第2バンドを被覆する外側バンドを含んでもよく、この外側バンドはインプラント構成要素の関節面を画定する。外側バンドはアルミナを含んでもよく、あるいは炭化チタン、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含んでもよい。
【0028】
上記の実施形態のいずれかにおいて、内側バンドは、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方の1つの層を含んでもよい。内側又は第1バンドの層の厚さは、第2バンドの各層の厚さより大きくてもよい。外側バンドを備える実施形態では、外側バンドの層の厚さは、第2バンドの各層の厚さよりも大きくてもよい。
【0029】
上記の実施形態のいずれかにおいて、セラミックスコーティングは、10〜20マイクロメートルの厚さを有してもよい。
【0030】
上記のいずれかの実施形態において、第1バンドの層は、約2〜3マイクロメートルの厚さを有してもよく、外側バンドの層は約5マイクロメートルの厚さを有してもよく、第2バンドは約4〜14マイクロメートルの厚さを有してもよい。具体的な実施形態では、第2バンドは約5マイクロメートルの厚さを有する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一態様によって作製された整形外科用インプラント構成要素の耐スクラッチ性、耐磨耗性、及び耐腐食性関節面の断面図。
【図2】本発明の原理が膝インプラントシステムの大腿骨構成要素の関節面に適用されている、膝インプラントシステムの例の構成要素。
【図3】本発明の原理が臀部インプラントシステムの大腿骨頭部構成要素の関節面に適用されている臀部インプラントシステムの例の構成要素を示す。
【図4】従来の「二重層」TiN/TiCN/アルミナコーティングの透過型電子顕微鏡(TEM)像。
【図5】本発明により調製された多層コーティングの透過型電子顕微鏡(TEM)像。
【図6A】それぞれ本発明及び従来のコーティングでコーティングされ、それぞれのコーティングの機械的性能を比較するためにスクラッチ試験に付された表面の拡大像を提供する。
【図6B】それぞれ本発明及び従来のコーティングでコーティングされ、それぞれのコーティングの機械的性能を比較するためにスクラッチ試験に付された表面の拡大像を提供する。
【図6C】それぞれ本発明及び従来のコーティングでコーティングされ、それぞれのコーティングの機械的性能を比較するためにスクラッチ試験に付された表面の拡大像を提供する。
【図6D】それぞれ本発明及び従来のコーティングでコーティングされ、それぞれのコーティングの機械的性能を比較するためにスクラッチ試験に付された表面の拡大像を提供する。
【図6E】それぞれ本発明及び従来のコーティングでコーティングされ、それぞれのコーティングの機械的性能を比較するためにスクラッチ試験に付された表面の拡大像を提供する。
【図7】40Nの定荷重のスクラッチによる(A)従来のコーティング及び(B)本発明のコーティングの、スクラッチ方向に垂直な研磨した断面のSEM解析により得られた拡大像。
【図8A】HIP処理され、かつ均質化された鋳物Co−28Cr−6Moの研磨された断面図の金属組織解析からの拡大像を提供する。
【図8B】HIP処理され、かつ均質化された鋳物Co−28Cr−6Moの研磨された断面図の金属組織解析からの拡大像を提供する。
【図9A】HIP処理され、かつ均質化された鋳物Co−28Cr−6Mo上の、研磨された「二重層」のセラミックスコーティングの拡大された(50倍)の顕微鏡像(平面図で)を提供し、これらは、CSM Revetest(登録商標)スクラッチテスター上に半径200マイクロメートルのダイヤモンド圧子を使用して、腐食試験サンプル上で作製された5つの平行なダイヤモンド圧子のスクラッチの5つの反復群のネットワークでスクラッチされており、中心間で0.25mm離間されているスクラッチを示し、5つの平行なスクラッチの各群は、図9Aに示されているように、6、9、12、15、及び18Nのスクラッチ荷重で作られ、0.75mm離れている斜めのスクラッチが次いで、6、9、及び12Nのスクラッチ荷重におけるこれらの平行なスクラッチネットワークの上に、かつこれらに対して15°の角度で作られ、図9Aは、アズキャストCo−28Cr−6Mo上のコーティングにおいてより多くの数の欠陥部を示している。
【図9B】アズキャスト(as-cast)Co−28Cr−6Mo上の、研磨された「二重層」のセラミックスコーティングの拡大された(50倍)の顕微鏡像(平面図で)を提供し、これらは、CSM Revetest(登録商標)スクラッチテスター上に半径200マイクロメートルのダイヤモンド圧子を使用して、腐食試験サンプル上で作製された5つの平行なダイヤモンド圧子のスクラッチの5つの反復群のネットワークでスクラッチされており、中心間で0.25mm離間されているスクラッチを示し、5つの平行なスクラッチの各群は、図9Bに示されているように、6、9、12、15、及び18Nのスクラッチ荷重で作られ、0.75mm離れている斜めのスクラッチが次いで、6、9、及び12Nのスクラッチ荷重におけるこれらの平行なスクラッチネットワークの上に、かつこれらに対して15°の角度で作られ、図9Bは、アズキャストCo−28Cr−6Mo上のコーティングにおいてより多くの数の欠陥部を示している。
【図10】アズキャスト金属基材と比較された、HIP処理され、かつ均質化された金属基材上の多層CVDセラミックスコーティングを示す、スクラッチで損傷したコーティング構造体(図9A及び9Bで記載されたようにスクラッチされている)の電位走査試験の結果を示す。
【図11】従来のコーティングと比較された、多層CVDセラミックスコーティングを図示する、スクラッチで損傷したコーティング構造体(図9A及び9Bで記載されたようにスクラッチされている)の電位走査試験の結果を示す。
【図12】HIP処理され、かつ均質化された金属基材上の多層CVDセラミックスコーティングを示す、スクラッチで損傷したコーティング構造体(図9A及び9Bで記載されたようにスクラッチされている)の電位走査試験の結果を示す。
【図13A】HIP処理され、かつ均質化された金属基材上の多層のCVDセラミックスコーティングと共に見える典型的なロックウェルC圧痕の図。
【図13B】HIP処理され、かつ均質化された金属基材上の従来のCVDセラミックスコーティングと共に見える典型的なロックウェルC圧痕の図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明は、本開示の一部を形成する、添付図面及び実施例に関連して解釈される以下の詳細な説明を参照することにより、より容易に理解することができる。本発明は、本明細書に記載する及び/又は示す特定の製品、方法、条件又はパラメータに限定されるものではなく、本明細書で使用される専門用語は実施例を用いて具体的な実施形態を記載する目的のためだけのものであり、請求した発明を制限することを意図するものではないことが理解すべきである。
【0033】
本開示では、単数形「a」、「an」及び「the」は、特に明示しない限り、複数の参照及び少なくともその特定の値を含む特定の数値の参照を含む。したがって、例えば、「材料(a material)」に対する参照は、1種又はそれ以上のこのような材料及び当業者に既知であるその等価物等に対する参照である。値が、先行する「約」の使用によって近似値として表現される時、その特定の値は、別の実施形態を形成することが理解されよう。本明細書で使用する時、「約X」(Xは数値である)は、好ましくは記載の値の±10%を包括的に指す。例えば、語句「約8」は、好ましくは7.2以上〜8.8以下の値を指し、別の例としては、語句「約8%」は、好ましくは7.2%以上〜8.8%以下の値を指す。存在する場合、全ての範囲は包括的かつ組み合わせ可能である。例えば、「1〜5」の範囲を列挙する時、列挙した範囲は「1〜4」、「1〜3」、「1〜2」、「1〜2及び4〜5」、「1〜3及び5」等の範囲を含むと解釈すべきである。更に、選択肢の一覧を肯定的に提供する時、このような一覧は、選択肢のいずれかが、例えば、特許請求の範囲中の否定的限定により除外される場合があることを意味すると解釈できる。例えば、「1〜5」の範囲を列挙する時、列挙された範囲は、1、2、3、4又は5のいずれかが否定的に除外される状況を含むと解釈してもよく、したがって「1〜5」の列挙は「1及び3〜5であるが2ではない」又は簡単に「2は含まれない」と解釈することもできる。
【0034】
本開示では、化学式は、正式な化学名に対して省略化されているものとして使用される場合がある。例えば「TiN」は、窒化チタンを意味するために、「TiCN」はチタン炭窒化物を意味するために、「TiC」は炭化チタンを意味するために、Al2O3は酸化アルミニウム、すなわちアルミナを意味するために使用される場合がある。化学式は、正確な化学量論のこれらの材料を示すということは意味していないということに注意されたい。場合によっては、蒸着条件等によって、材料は公称化学量論から逸れる場合がある。更に、酸化アルミニウム層は、具体的な形式に明示的に限定しない限り、κ−アルミナ、α−アルミナ、アルミナの1つ以上の他の結晶形態、又はそれぞれの層状構造体を含む混合物のいずれかであってもよい(しかし、以下に記載のとおりα−アルミナが好ましい)。
【0035】
本明細書に引用、又は記載する各特許、特許出願、及び刊行物の開示は、その全文において本明細書に参考として組み込まれる。
【0036】
本発明は一部分において、1)コーティング前に金属基材を調製するのに使用されるプロセスを制御すること、2)Al2O3(好ましくはα形態)の外側層の下にTiN、TiCN、又はTiN及びTiCNの両方の複数の「薄い」層を含むコーティングを使用することによって、コーティングされた金属インプラント構成要素の耐スクラッチ性、耐磨耗性、及び耐腐食性が改善され得る、又は最大化され得るという発見に関連する。TiN、TiCN、又はTiN及びTiCNの両方の多数の薄い層の使用に関する改善は、米国特許出願第12/605756号、米国特許出願公開第2010/012926(A1)号に開示されており、これはその全体が本明細書において、及び本願において援用される。本願は、コーティング前の金属基材の好ましい調製に関する情報を提供する。更に、一部の応用例において、コーティングされたインプラント上に、アルミナのより厚い外側層を含むことは望ましい場合があるが、他の応用例においては、より厚い外側層に対して、異なるセラミックス材料、例えば非酸化物チタンセラミックス材料を使用することが望ましい場合がある。
【0037】
上記の「背景技術」で記載したように、スチール、コバルト、チタン、及びこれらの合金は、整形外科用インプラントで使用される一般的な金属である。スチール、コバルト、及びこれらの合金は、金属基材として、本発明において使用可能であると期待される。金属基材として有効な従来のコバルトクロム合金はCo−28Cr−6Moである。Co−28Cr−6Moは、例えば鋳造、鍛造(wrought)、鍛造(forged)又は射出成型されてもよい。鋳造医療デバイスに関して、Co−28Cr−6MoはASTM−F75に従って鋳造されてもよい。かかる鋳造合金は、セラミックスコーティングのための金属基材として使用され得る。以下に更に詳細に記載されているように、アズキャストCo−28Cr−6Moは有利なことに、基材をコーティングする前に、特にセラミックスコーティングの外側関節面がアルミナを含む場合には、熱間等方圧加圧(HIP)及び均質化によって処理され得る。以下に更に詳細に記載されるように、場合によっては、HIP処理され、かつ均質化されたCo−28Cr−6Moを、基材をコーティングする前に研削し、研磨することが有利あり得るということが見出された。
【0038】
以下に報告される作業は、Co−28Cr−6Moと共に実施されたが、本発明の原理は、他のコバルトクロム合金及び人体内への移植に好適な他の金属(新しい材料が開発された時に、それらの金属など)に適用できるということが予測される。
【0039】
アズキャストCo−28Cr−6Moは一般的に、インベストメント鋳造プロセスの固有の結果として存在する直径50〜100マイクロメートルのデンドライト間(Co、Cr、Mo)のカーバイドを有する。かかるキャスト基材がコーティングされた時に、表面カーバイドは例えば、基材上のセラミックスコーティングにおける欠陥の発生を増加させる場合があり、かかる表面カーバイドは、TiN及びTiCNの1つ以上の層、並びにアルミナの外側層を含むコーティングにおいて欠陥の発生を増加させる場合がある。図9Bは、セラミックスコーティングにおいて黒い点のように見える、そのような欠陥を図示する。TiN及びTiCN層における欠陥は、CoCrMo基材表面に適用されたコーティングの耐スクラッチ性及び耐腐食性を減少させる場合があり、研磨されたコーティング表面の見栄えに悪影響を与える場合がある。
【0040】
また、TiN/TiCN/Al2O3コーティングのTiN及びTiCN層は核となり、及び/又はCoCrMo基材の固溶体マトリックス位相上によりも、(Co、Cr、Mo)カーバイド上の所定の蒸着パラメータのセットに対してより速く成長すると考えられる。カーバイドなど上記のTiN及びTiCN層の部分は、Al2O3層がコーティングの後に研磨される時に、コーティングの表面において露出される場合がある。したがって、研磨されたセラミックスコーティングの外面は、アルミナを含む部分、並びにTiN、TiCN、又はTiN及びTiCNの混合物を含む隣接部分を備える、非均質な場合がある。これらのTiN及びTiCN欠陥は、他では茶色又は黒い研磨されたコーティング表面上で金色に見える。かかる場合においては、研磨されたセラミックスコーティングの外面は、コーティングの準最適な耐スクラッチ性、耐腐食性、及び耐摩耗性となり得る異なる特性を有する材料によって画定される。
【0041】
CoCrMo基材表面上のセラミックスコーティングの外側アルミナ層におけるTiN及びTiCN欠陥の発生を低減させるために、基材表面は、基材をコーティングする前に固溶体マトリックス位相中で、デンドライト間の(Co、Cr、Mo)カーバイドを溶融させるように処理されることが好ましい。本発明の一態様によると、この基材表面処理は、熱間等方圧加圧(HIP)及び均質化を含む。HIP処理され、かつ均質化された基材表面は、アズキャスト表面よりも、より均一であり、したがってセラミックスコーティングの層のトポグラフィはより均一であり、より少ないピークを有し、結果として、外側のセラミックス層の研磨された表面においてより少ない欠陥を有する。図9Aは、図9Bにおいて示されているものよりも少ない欠陥を有する、そのような表面に適用されたコーティングを示す。コーティングされ、処理された基材の耐腐食性及び耐スクラッチ性は、コーティングされたアズキャスト基材の耐摩耗性及び耐スクラッチ性よりも改善される。
【0042】
アズキャスト基材の熱間等方圧加圧は、例えば高圧格納容器内に構成要素を配置すること、及びアルゴンなどの不活性ガスで容器を加圧することを含む場合がある。チャンバは加熱され、結果として圧力が構成要素に適用される。不活性ガスの事前加熱の一般的な圧力は例えば、アズキャストCo−28Cr−6Mo基材に対して103.4MPa(15,000psi)〜172.4MPa(25,000psi)であり得る。アズキャストCo−28Cr−6Mo基材に対する一般的な温度は1185℃(2165度)〜1204℃(2200度)の範囲である。アズキャストCo−28Cr−6Mo基材に対する一般的なプロセス時間は、4時間〜4時間1/2の範囲である。
【0043】
アズキャストCo−28−8Mo基材を処理するのに有用なHIPプロセスパラメータの具体的な例には以下が挙げられる:103.4MPa(15,000psi)の圧力において、1204℃(2200°F)まで加熱し、少なくとも4時間、その圧力を保持する。
【0044】
上記のプロセスのそれぞれに対して熱電体が使用され、保持時間は最も温度の低い熱電体及び最小圧力が得られた時に開始する。上記のプロセスのそれぞれにおいて、雰囲気はアルゴンガスを含む。上で特定されたプロセスパラメータは単なる例として提供されており、主張されている本発明は、特許請求の範囲において明示的に記載されていない限り、いずかの特定のプロセスに限定されないということを理解すべきである。
【0045】
HIP処理された基材の均質化は例えば、HIP処理された構成要素を、1216℃(2220°F)の温度まで少なくとも4時間、アルゴンの500〜700マイクロメートル分圧の雰囲気で加熱することと、1216℃(2220°F)から760℃(1400°F)まで最大8分で冷却すること(すなわち、8分で1216℃(2220°F)から760℃(1400°F)までの最小冷却速度)と、を含み得る。本明細書で使用される時に「均質化」は、熱処理プロセス(例えば、CoCr生成物となる表面アニール)が、グレイン境界面における連続的なブロック状のカーバイドもなく、かつ広範囲に拡がった熱誘導多孔性を有さずに、微細なカーバイドの分布を備えるオーステナイト系であるということを理解すべきである。また、本明細書で使用される時、「均質化」は、溶液処理又は溶液化などのプロセスを含み、一般的に「均質化」は、カーバイドの沈殿を金属基材における固溶体中に溶解させるいずれかのプロセスを含むということを理解すべきである。
【0046】
HIP及びHIP後の均質化プロセスに関して上記のプロセスパラメータは単に例として提供されており、本発明は、特許請求の範囲において明示的に記載されていない限り、いずれかの具体的なHIP又は均質化パラメータに限定されないとうことを理解すべきである。
【0047】
HIP処理され、かつ均質化された金属基材は次いでセラミックス材料(セラミックス材料の多層を含む)でコーティングされてもよいが、金属基材が、HIP処理及び均質化の前に機械的に処理されている場合は、機械的に処理されHIPされ、かつ均質化されたCo−28Cr−6Mo金属基材が、TiN、TiCN、TiN、TiCN及びAl2O3の組み合わせでその後コーティングされた時、コーティングの層の一部の金属基材への接着は最適ではない場合があるということを、本発明者らは見出だした。本発明者らは、HIP及び均質化処理前に、粗く研削され、CNC(コンピュータ数値制御)研削されている、HIP処理され、かつ均質化されたCo−28Cr−6Moが、金属基材の表面上に存在する再結晶粒(例えば図8A及び8Bに示されているような粒)を有したことを見出した。かかる再結晶粒はまた、金属基材の機械的な作業(例えば、アズキャスト構成要素を清浄するためのショットピーニング)を含む他のプロセスからも生じる場合がある。HIP及び均質化の前に、金属基材が機械的に作業される場合、金属基材は、HIP後及び均質化後に機械加工されるか、又は研削されて、再結晶粒を除去するのが好ましい。本発明者らは、金属基材と表面コーティングとの間の接着は、金属基材がHIP処理され、かつ均質化された後に、粗く、かつCNC研削工程を実施することによって改善され得るということを見出した。
【0048】
概して、HIP処理され、かつ均質化された基材の外面の約1/2〜1mmは、研削、機械加工、研磨、又は他の機械的なプロセスによって除去され、再結晶粒は除去されるべきであり、基材表面上には金属の母相が残り、より良い表面を提供して、セラミックスコーティングを受容し、これに接着する。基材の外面から、この量の材料を除去する任意の有効な機械加工、研削、又は研磨技法及び装置がこのプロセスの目的のために十分であるべきである。研削された/機械加工された表面は、平滑な鏡面仕上げ(例えば、コーティング前に.03又は.04マイクロメートルの表面粗さRaを有する;ISO 4287(1997)を参照)まで研磨されることが好ましい。
【0049】
金属基材における再結晶粒の存在は、金属基材上のセラミックスコーティングの成長速度を遅らせるように思われる。コーティングを形成するための固定されたプロセス時間に関して、セラミックスコーティングの少なくとも最初の層の厚さはしたがって、減少される場合があり、外側アルミナ層との、より弱い接着につながるように思われる。したがって、HIP処理され、かつ均質化された金属基材の外面の一部分を除去する代わりに、セラミックスコーティングの最初の層を形成するためのプロセスパラメータを調節することによって(例えば、最初の層(単数又は複数)を形成するためのプロセス時間を増加させることによって)、再結晶粒の悪影響は減少され得るということが期待される。
【0050】
上記のHIP処理プロセスはまた、有利なことに、アズキャスト金属基材の内部の多孔性を閉鎖させることができる。
【0051】
HIP処理され、均質化され、及び研削され/機械加工され/研磨された基材は次いで、セラミックス材料でコーティングされてもよい。セラミックスコーティング及び技法は、米国特許出願公開第2007/0078521(A1)号に記載されているように、二重層コーティングを生成し得る。あるいは、HIP処理され、均質化され、及び研削され/機械加工され/研磨された基材は、次いで、米国特許出願公開第2010/0129626(A1)号に記載されているように、セラミックスの複数の薄い層でコーティングされてもよい。セラミックスコーティングは、金属基材1を覆う3つの積み重ねられたバンド(図1の断面図で図示されている):金属基材1の上に形成された第1セラミックス層を含む第1バンド若しくは領域3;第1バンド3の上に形成された複数の薄いセラミックス層7を含む第2バンド若しくは領域5;並びに、セラミックスのより厚い層を含む最上位の、すなわち外側バンド若しくは領域9を含み得る。接着バンドを含む第4バンド、すなわち領域11は、第2バンド5と、最上位の、すなわち外側バンド9との間に提供されてもよく、接着バンドは、セラミックス材料の単一層を含んで、中間バンド5の最外側層7と、セラミックスコーティングの最上位、すなわち外側バンド9との間の接着を改善することができる。最外バンドの外面は研磨されて、仕上げられた整形外科用インプラント構成要素の関節面を画定することができる。
【0052】
好ましくは、第1バンド3、すなわち第1層は、TiN、TiCN、又はTiN及びTiCNの両方を含み、HIP処理され、均質化され、及び研削され/機械加工され/研磨された金属基材1の上に蒸着されて、中間バンド5が続き、第1バンド若しくは層3上に蒸着されたTiN、TiCN、又はTiN及びTiCNの両方の複数の薄い層(例えば7a〜7i)を含み、続いて、中間バンド5の最外層上に蒸着されたセラミックス材料の単一層を含む、より厚い外側バンド9が続く。
【0053】
第1セラミックスバンド3及び中間セラミックスバンド5を画定する層は、TiN、TiCN、又はTiN及びTiCNの両方を含み得る。第1バンド/層3がTiN、TiCN、又はTiN及びTiCNの両方のうちの1つを含む場合では、中間バンド5の最初の層7aは、TiN、TiCN、又はTiN及びTiCNとは異なるものを含むのが好ましい。中間バンド5の後に続く7b(そして以下のもの)は、第1バンド/層3、及び中間バンド5の層7a(そして以下のもの)の1つ以上の繰り返しを含んでもよい。本明細書で使用する時、異なる層の「繰り返し」である層は、一般に、異なる層と同じ化学組成、異なる層と同じ厚さ、又はその両方である。例えば、第1バンド/層3がTiNのみを含み、隣接層7aがTiCNのみを含む場合、これらの層3、7aの繰り返しである2つの後続層7b、7cは、TiN及びTiCNのみをそれぞれ含むであろう。後続層7b(そして以下のもの)の補足物の全体は、第1層3及び第2層7aの1つ以上の繰り返しを含んでもよく、あるいは後続層7b(そして以下のもの)の一部のみが第1層3及び第2層7aの1つ以上の繰り返しを含んでもよい。1つの実施形態では、第2層7aは第1層3とは異なり、後続層7b(そして以下のもの)の全てが第1層3及び第2層7aの繰り返しを含み、得られる構造体は、したがって第1層3の材料と第2層7aの材料との間で交互である層を含むであろう。この実施形態の好ましいバージョンでは、第1層3はTiNであり、第2層7aはTiCNであり、後続層7b(そして以下のもの)はTiN及びTiCNの交互層を含む。第1層3、第2層7a、及び少なくとも1つの後続層7b(そして以下のもの)の中で、層のうちの少なくとも1つがTiNを含み、隣接層の少なくとも1つがTiCNを含むことが好ましい。中間バンド5の最上層若しく最終層、すなわち少なくとも1つの後続層の最後は、TiN、TiCN、又はTiN及びTiCNの混合物を含んでもよい。
【0054】
最上の、すなわち外側のセラミックスバンド若しくは層9に使用される材料は、予想される軸受環境に応じて変化してもよい。例えば、インプラント構成要素が、ポリマー、例えば超高分子量ポリエチレンに接することが期待されている場合、最上の、すなわち外側セラミックスバンド若しくは層9は好ましくはアルミナを含んでもよい。構成要素が異なる材料(例えば他のセラミックスコーティングされている金属基材、又は金属若しくは他のセラミックスのような、より硬質な材料)に接し、並びにこのように、高い接触応力の用途に配置されることが期待されている場合、最上の、すなわち外側セラミックスバンド若しくは層9は、アルミナの代わりにTiN、TiCN、又はTiN及びTiCNの混合物を含んでもよい。
【0055】
他のセラミックス材料が、本発明において有用であり得るということが予測されるということを理解すべきである。例えば、炭化チタンTiCはセラミックスコーティングの一部として使用され得るということが理解される。したがって、本発明は、特許請求の範囲において明示的に指定されない限り、いずれかの具体的なセラミックス材料に限定されない。
【0056】
第1バンド若しくは層3の厚さは、約10マイクロメートル未満、約8マイクロメートル未満、約6マイクロメートル未満、約5マイクロメートル未満、約2〜3マイクロメートル、又は約2.5マイクロメートルであってもよい。好ましくは、第1バンド若しくは層3の厚さは約2〜3マイクロメートル、及び最も好ましくは約2.5マイクロメートルである。概して、第1セラミックスバンド3は、第2セラミックスバンド5の個々のセラミックス層7よりも厚いセラミックス層を含む。
【0057】
中間セラミックスバンド5は、第1セラミックスバンド若しくは層3の上に蒸着された複数の薄いセラミックス層7を含んでもよい。中間セラミックスバンド5の最初の層7aは、約1マイクロメートル未満、約0.75マイクロメートル未満、約0.5マイクロメートル未満、約0.3マイクロメートル未満、約0.2マイクロメートル未満、又は約0.1マイクロメートル未満の厚さを有してもよい。いくつかの実施形態では、第2バンド5の最初の層7aは、約0.1マイクロメートル、約0.2マイクロメートル、約0.3マイクロメートル、約0.5マイクロメートル、約0.7マイクロメートル、約0.8マイクロメートル、約0.9マイクロメートル、約1マイクロメートル、約2マイクロメートル、約3マイクロメートル、約4マイクロメートル、及び約5マイクロメートルの厚さを有してもよい。中間バンド5の最初の層7aは、好ましくは、第1バンド/層3のより小さい厚さを有するのが好ましい。中間セラミックスバンドは好ましくは、セラミックスの複数の薄い層を含み、セラミックスの2〜100の薄い層、セラミックスの2〜50の薄い層、セラミックスの5〜50の薄い層、セラミックスの10〜50層、セラミックスの20〜50層、又はセラミックスの30〜50層を含んでもよい。以下に図示されているように、改善された耐スクラッチ性は、セラミックスの約30層、並びに中間バンド5において、セラミックスの約50層を伴って達成され得る。
【0058】
あるいは、第2バンド5は、第1セラミックスバンド若しくは層3の上に蒸着された単一のセラミックス層を含んでもよい。例えば、第2バンド5は、約2.5マイクロメートル厚さを有するTiN、TiCN、又はTiN及びTiCNの混合物の単一層を含んでもよいが、第2バンドがセラミックスの複数のより薄い層を含む場合、最適な結果が得られると考えられる。
【0059】
最上の、すなわち外側のセラミックスバンド9は好ましくは、セラミックス材料のより厚い単一層を含む。最上の、すなわち外側セラミックスバンドは、例えば、約2マイクロメートル〜約15マイクロメートル、例えば約3マイクロメートル〜約15マイクロメートル、約4マイクロメートル〜約15マイクロメートル、約5マイクロメートル〜約15マイクロメートルの厚さを有するアルミナであってもよい。具体的な実施形態では、最上の、すなわち外側セラミックスバンド9は、約4〜7マイクロメートルの厚さである。最上の、すなわち外側セラミックスバンドは、例えば、アルミナ、TiN、TiCN、又はTiN及びTiCNの両方を含んでもよく、約1マイクロメートル、約2マイクロメートル、約3マイクロメートル、約4マイクロメートル、約5マイクロメートル、約6マイクロメートル、約7マイクロメートル、約8マイクロメートル、約9マイクロメートル、約10マイクロメートル、約12マイクロメートル、約15マイクロメートル、約17マイクロメートル、又は約20マイクロメートルの厚さを有してもよい。いくつかの実施形態では、最上の、すなわち外側セラミックスバンドは、セラミックスコーティングを画定する層全ての中で最も厚い。最外層の厚さは、例えば製造コスト、インプラントの種類、使用の環境、層の接着、固有層の耐久性、蒸着されたままの最外層の粗さ、及びコーティングを研磨する必要性等、当業者に理解しやすい多数の検討によって指示されてもよい。
【0060】
好ましくは、全体のセラミックスコーティング13(第1バンド3、第2バンド5、及び第3バンド9、並びに任意の接着バンド11)は、約8.5マイクロメートル〜20マイクロメートル、より具体的には約8.5マイクロメートル、及び約15〜16マイクロメートルの厚さを有する。セラミックスコーティングが厚すぎる場合、コーティングは機械的に機能しない場合があるということが見出されている。
【0061】
セラミックスコーティングのための厚さの例が以下の表に説明されている:
【表1】
【0062】
上記の厚さは有利な結果を提供することが期待されているが、本発明は、「特許請求の範囲」において明示的に指定されない限り、いずれかの具体的な厚さ、バンド若しくは層の数、又は具体的なバンド若しくは層の厚さに限定さないということを理解すべきである。本明細書で使用する時、全体のセラミックスコーティングの所与の層の「厚さ」は、その全域にわたる層若しくはコーティングの平均厚さを指し、層の「厚さ」が約1マイクロメートルである場合、厚さ1マイクロメートル未満の層の部分、及び/又は1マイクロメートルより厚いその層の部分が存在してもよいが、層の全域にわたる平均厚さは約1マイクロメートルとして算出され得る。
【0063】
本発明の金属基材調製プロセスは、金属基材上のセラミックスのバンド及び層を形成するために化学気相成長法(CVD)プロセスと併用して使用された場合に最も有利であるということが期待されている。所望の数、成分(constituency)、及び厚さの、コーティングを画定する層が一旦提供されると、コーティング分野の当業者(例えば、Ionbond AG Olten(Olten,Switzerland)、Seco Tools AB(Fagerstra,Sweden)、及びSandvik AB(Sandvik,Sweden))は、CVDプロセスパラメータ(例えば、温度、圧力、反応濃度(reactive concentration)、並びに加熱速度及び冷却速度)を容易に設定し、所望のとおり層を蒸着させるということが予想される。
【0064】
しかしながら、本発明は特許請求の範囲において明示的に規定しない限り、バンド若しくは層を蒸着させるためのCVDプロセスに限定されないということを理解すべきである。様々な技法(例えば物理気相成長、化学気相成長、及び溶射蒸着、例えばプラズマ溶射)は、セラミックスコーティングのバンド及び層を形成するのに有効であるが、プラズマ溶射を使用して、より薄い層のいくつかを形成することは難しい場合がある。本発明の任意の層の蒸着は、本明細書で提供するような、特徴、例えば厚さプロファイルを有する層を提供する任意の許容可能な技術に従って実施してもよい。それぞれのバンド及び層は、単一技術を使用して全て蒸着されてもよいが、異なるバンド及び層は異なる技術を使用して蒸着されてもよく、例えば、より厚い層は、「厚い」層の蒸着に好適な技術によって蒸着されてもよく、一方、より薄い層は、より薄い層の蒸着を達成できる技術により蒸着されてもよい。本発明の金属基材調製プロセスの利点は、セラミックスコーティングを蒸着させるのに使用される技法と共に、具体的には基材に隣接する最初のバンド3を蒸着させるのに使用される技法と共にいくぶん変化することが期待され得る。
【0065】
本発明のプロセス又は方法はまた、酸化アルミニウム(例えば、図1における層9)を含む少なくとも1つの層を蒸着させる前に、少なくとも1つの後続層の上に接着バンド若しくは層(図1におけるバンド11)を蒸着させることを含んでもよい。換言すれば、接着層11は、中間バンド5の最後の/最外層(例えば、図1における層7)の上に蒸着されてもよい。このような接着層はまた、アルミナ接着層、酸化物接着層、又はκ若しくはα核形成層としても知られており、酸化アルミニウム層と隣接する材料との間の接着強度を増大させる、及び/又は、所望の酸化アルミニウム結晶相の形成を促進するための使用が既に記載されている。酸化アルミニウムと本発明に従って使用され得る隣接する材料との間の接着層は、例えば、米国特許第4,463,062号、同第6,156,383号、同第7,094,447号、米国特許出願公開第2005/0191408号、及び、Zhi−Jie Liuらの、「Investigations of the bonding layer in commercial CVD coated cemented carbide inserts」(Surface & Coatings Technology 198(2005)161〜164)に記載されており、これらはそれぞれ全文がここに援用される。接着層は、元素の周期律表のIVa族、Va族又はVIa族の金属の酸化物、オキシカーバイド、オキシニトライド及びオキシカルボニトライドの1つ以上を含んでもよい。例えば、接着層は、酸化チタン、チタンオキシカーバイド、チタンオキシニトライド、及びチタンオキシカルボニトライドの1つ以上を含んでもよい。Cr2O3は、αアルミナのPVD蒸着のための接着層又はテンプレートとして使用されてもよいということが予測される。いくつかの実施形態では、接着層は、酸化物の混合物、例えば、酸化チタンの混合物のような、材料の混合物であってもよい。
【0066】
第1層、第2層及び少なくとも1層の後続層の蒸着に関して上述した任意の技術のような、接着層を蒸着させるための利用可能な技術は、当業者に理解されよう。例えば、化学蒸着を使用して、本発明による接着層を蒸着させてもよい。接着層は2マイクロメートル未満の厚さを有してもよく、1マイクロメートル未満、500ナノメートル未満、250ナノメートル未満、100ナノメートル未満、50ナノメートル未満、30ナノメートル未満、20ナノメートル未満、又は10ナノメートル未満の厚さを有してもよい。種々の企業(例えば、Ionbond AG Olten(Olten,Switzerland)、Seco Tools AB(Fagerstra,Sweden)、及びSandvik AB(Sandvik,Sweden))が、接着層を適用するサービスを提供しており、この目的のために連絡をとることができる。
【0067】
仕上げられた構成要素のコーティングを画定する層の成分及び厚さは、既知の技法、例えばTEM(透過電子顕微鏡、倍率10,000倍以上)、EDX(エネルギー分散X線分光法)、又はEELS(電子エネルギー損失分光法)などを使用して分析され得るということが予想される。
【0068】
図2及び3は、本発明の原理を使用して作製され得る整形外科用インプラント構成要素の例を示す。例えば、図2は、遠位大腿骨構成要素50が、脛骨軸受62(脛骨基部63上に受容されている)の関節面56、58に接するように設計されている関節面52、53、54、及び膝蓋骨インプラント構成要素66の関節面64を有する膝インプラントシステム48を図示する。このような環境では、膝蓋骨インプラント構成要素66の脛骨軸受62及び軸受面64が、酸化に対して安定化されている超高分子量ポリエチレンを含むことを期待する場合がある。大腿骨構成要素50の関節面52、53、54(顆状関節面52、53、及び顆間溝54の両方を含む)は、上記のように、HIP処理され、均質化され、研削され/機械加工され/研磨され、及びセラミックスコーティングされてもよい。ポリエチレン軸受構成要素を使用するそのようなインプラントシステムに関して、セラミックスコーティングの最上の、すなわち外側層は、有利なことにアルミナを含んでもよい。
【0069】
図3は、ステム72の近位端において関節ボール74を備える近位大腿骨ステム72、寛骨臼カップ76、及び寛骨臼軸受インサート78を含む臀部インプラントシステム70を示す。軸受インサート78の典型的な材料には、超高分子量ポリエチレン、金属(例えばコバルトクロム合金)、又はセラミックスが挙げられる。ステム72の近位端における関節ボール74の全体の外面全体は、有利なことにHIP処理され、均質化され、研削され/機械加工され/研磨され、及びセラミックスコーティングされてもよい。ボール74が、ポリマー軸受(例えば、UHMWPE)に対して関節をなすように設計されている場合、最上の、すなわち外側バンド又は層はアルミナを含んでもよい。ボール74が高い接触応力環境において動作するように設計されている場合(すなわち、高分子軸受構成要素というよりはむしろ、金属若しくはセラミックスなどの硬質軸受構成要素に対して関節をなすように)、最上の、すなわち外側に関して、他の硬質表面に対して最適な性能を提供する異なる材料、例えばTiN、TiCN、又はTiN及びTiCNの両方を使用することが望ましい場合がある。
【0070】
整形外科用インプラント、例えば図2及び3で図示されているものなど、並びに本発明によって処理されコーティングされた他の関節をなす整形外科用インプラントシステム(例えば肩インプラントシステム及び足首インプラントシステム)は、有利な特性:基材へのコーティングの改善された接着、並びに腐食、スクラッチ、及び磨耗に対する改善された耐性を有すると期待されている。コーティングは、インプラント構成要素の外面の部分を選択するために適用されてもよく、又はインプラント構成要素の全体の外面に適用されてもよく、例えば、他の構成要素の一部分と接する、又はこれに対して関節をなすインプラント構成要素の外面の一部分は、本発明の応用例及びその親応用例に教示されているように選択的にコーティングされてもよい、ということを理解すべきである。
【0071】
膝、臀部、肩、及び足首の整形外科用インプラント構成要素は、キットの形態で提供されてもよいということを理解すべきである。例えば、膝インプラントキットは、特定の患者に適合する様々なサイズで図2に図示されている要素の全てを含んでもよく、臀部インプラントキットは、特定の患者の必要性に適合する様々なサイズで図3に図示されている要素の全てを含んでもよい。
【0072】
サンプルの調製において使用される具体的なプロセス及びこれらのサンプルの少なくともいくつかで行なわれる試験が以下に記載されている。特に指示がない限り、サンプルは、インプラント構成要素というよりはむしろ、平坦なディスクから調製された。
【0073】
金属基材の調製
アズキャストCo−28Cr−6Moコバルトクロム合金のサンプル、並びにZr−Nb合金のサンプル及びチタン合金のサンプルを入手した。以下の表は、金属基材のための材料及び最初の調製パラメータを要約している。
【表2】
【0074】
以下の表は、コーティング前に金属基材の調製において使用されるいずれかの更なるプロセスを要約している。
【表3】
【表4】
【0075】
コーティング
コーティングは社外のベンダー、Ionbond Ag Olten(Olten,Switzerland)によって塗布された。
【0076】
以下の表はサンプルに適用されたコーティングの特性を要約している。
【表5】
【0077】
セラミックスでコーティングされたサンプルの大半は試験の前に研磨され、サンプル14、16、18及び20は試験の前に研磨されなかった。
【0078】
スクラッチ試験
スクラッチによる表面損傷に対する従来のコーティング及び本発明のコーティングの耐性を比較するために、CSM Revetest(登録商標)スクラッチテスター上で半径200マイクロメートルのダイヤモンド圧子チップを使用して、40Nの定荷重下(患者に移植されているインプラント上に作用すると予測されるスクラッチ荷重と比較して、比較的高い荷重)で、コーティングされたサンプル6、7、8、及び9の表面に沿って、長さ10mmのスクラッチを形成した。Smith,B.,Schlachter、A.、Ross,M.、及びErnsberger,C.の「Pin on Disc Wear Testing of a Scratched Engineered Surface」(Transactions 55thORS,No.2292,2009)を参照のこと。図6A〜6Eはこのスクラッチ試験の結果を示す。図6Aのサンプルは上記の表のサンプル9に一致し、図6Bのサンプルは上記の表のサンプル6に一致し、図6Cのサンプルは上記の表のサンプル8に一致し、図6Dのサンプルは上記の表のサンプル7に一致し、図6Eのサンプルは上記の表には示されていない。
【0079】
図6A〜6Eに示すように、試験の結果は、HIP処理され、均質化され、研削され、研磨され、次いでセラミックスの3つのバンド(セラミックスの50の薄い層を有する中間バンドを含む)でコーティングされたサンプル(サンプル9)の優れた機械的性能を明らかにした。
【0080】
サンプル6の構造体に対して(単一の厚さ2.5μmのTiNの内側バンド、TiCNの単一の厚さ2.5μmの層を含む第2バンド、及び厚さ5μmのアルミナの被覆層を含む外側バンド;そのような構造体は一般的にTiN及びTiCNの層の合計数に関して、本明細書で「二重層にされている」と一般的に呼ばれている)、亀裂及びアルミナ破砕(その全体が本明細書に援用されるASTM C1624−05仕様に従うLc2タイプの亀裂)が、スクラッチ長さ(図6B)に沿って一定のインターバルで発生したことが観察されたのに対して、サンプル9(図6A)の構造体ではLc2タイプの亀裂は観察されなかった。
【0081】
酸化されたサンプル8のZr−Nb合金(5μmの酸化物層)をこのような比較的高荷重でスクラッチすると(Zrは比較的柔軟性である)、試験による損傷の全長に沿ってスクラッチ溝内に基材材料が露出した(図6C:スクラッチの中心に白線として見える基材材料)。
【0082】
Ti−6Al−4V基材上のサンプル7の単層TiNコーティング(厚さ10μm、アーク蒸発PVDにより蒸着)の画像は、コーティング材料の大きな片がスクラッチ線に沿って除去され、基材材料が露出していることを示す(図6D)。
【0083】
ダイヤモンド様の炭素(DLC)コーティング(Richter Precision Inc.のMedikote(商標)C11材料、厚さ6μm、HIP処理され/均質化されたF75 CoCrMo基材上にPVDにより蒸着された)は、40Nの適用された荷重下で著しく削り取られた(図6E)。
【0084】
図7は、40Nの定荷重のスクラッチを通して、従来の及び本発明のコーティングの研磨された断面の、走査型電子顕微鏡(SEM)分析により得られた拡大像を提供する。サンプル9のコーティング(図7B)は、サンプル6の「従来のCVD」構造よりも、アルミナ保護膜層下のTiN/TiCN層内の微小亀裂の影響を非常に受けにくいことが明白であり、亀裂及びひびはTiN及びTiCN単層(図7A)内で観察された。
【0085】
スクラッチの光学解析に加えて、スクラッチはまたアコースティック的に解析されて、様々な荷重条件下で発生する、ASTM C1624−05に従うLc2チッピング又はバックリング破砕タイプの亀裂事象のアコースティックエミッションピーク特徴の数を決定した。研磨されたサンプルは、Buehler MetadiのダイヤモンドサスペンションをTexmetの紙と共に使用して研磨され(where polished)、研磨は9マイクロメートルのダイヤモンドサスペンションで開始され、6マイクロメートルのダイヤモンドサスペンションを経て、1マイクロメートルのダイヤモンドサスペンションで終了した。研磨されたサンプルは、光学的に平坦な仕上げまで研磨された。5つのスクラッチは0.25mm離間して配置され、各スクラッチは長さ10マイクロメートルであり、CSM Revetest(登録商標)スクラッチテスター上で半径200マイクロメートルのダイヤモンド圧子チップを使用して、1秒当たり1mmの速度で実施された。結果は以下のとおりである:
【表6】
【0086】
CSM Revetest(登録商標)スクラッチテスター上で半径200マイクロメートルのダイヤモンド圧子チップを使用し、ASTM C1624−05に従って、様々なサンプルの進行的な荷重スクラッチ試験もまた実施された。二重層のサンプルは内側バンド及び中間バンドを含み、これらの2つのバンドは、TiNの層及びTiCNの層を含み、これらの2つの層はAl2O3オーバーコートを含む外側バンドで被覆されている。多層コーティングサンプルは全て、外側バンドとして単一層の内側バンドTiN及びAl2O3オーバーコート上にコーティングされたTiN及びTiCNの50層を含む中間バンドを有した。結果は以下の表に表される。
【表7】
【0087】
これらの結果は、本発明のHIP処理され/均質化され/研削され/研磨された多層コーティングが、スクラッチにより誘発される損傷を最小限にし、従来のコーティングと比較して、マイクロ亀裂の発生を防ぐのにより有効であることを示す。
【0088】
サンプル1〜13は、腐食試験の準備において侵略的にスクラッチされていた。これらのサンプルに関して、5つの平行なダイヤモンド圧子のスクラッチの5つの繰り返し群のネットワークが、CSM Revetes(登録商標)スクラッチテスター上で半径200マイクロメートルのダイヤモンド圧子を使用して、腐食試験サンプル上で作られた。スクラッチは中心間で0.25mm離間された。5つの平行なスクラッチの各群は、図9A〜9Bに示されるような6、9、12、15、及び18Nのスクラッチ荷重で作製された。0.75mm離間された斜めのスクラッチは、6、9、及び12Nのスクラッチ荷重において、これらの平行なスクラッチネットワークの上に、かつこのネットワークに対して15°の角度で作られた。これらのスクラッチネットワークの代表的な顕微鏡写真(50倍)は、図9A〜9Bに示されている。これらのサンプルは、次いで以下に記載のように腐食試験がされた。
【0089】
腐食試験
最初に腐食試験に付された全てのサンプル(サンプル1〜13)は、上記のようにセラミックスコーティングの外面の上に付けられたスクラッチネットワークを有した。
【0090】
一部のサンプルの周期的な電位走査試験が実施された。試験はASTM F2129に記載されている方法と同様だった。平坦なセル及び飽和Ag/AgCl/KCl参照電極を備える生物学的VMP3定電位電解装置/定電流が使用された。サンプルのいくつかはスクラッチされ、37℃で25体積%の仔ウシ血清を有するハンクス溶液中で周期的に走査され、生体高分子の存在及び生体内で増加した粘性条件をシミュレーションした。研磨され、スクラッチされたサンプル上の、周期的な分極試験を実施する理論的根拠は、シミュレーションされた過剰の生体内の研磨スクラッチ損傷の存在におけるコーティング/基材システムの耐腐食性を測定することだった。
【0091】
各サンプルの試験領域は、開回路電位の安定を可能にするために、各走査前に1時間、電解質に浸漬された。周期的な分極走査は、0.166mV/秒(10mV/分)の走査速度で実施された。
【0092】
使用された溶液は、HyClone HyQハンクス溶液(パート番号SH30030)であり、以下の表に組成物が提示されており、25体積%のHyCloneの仔ウシ血清(パート番号SH30073.03)と混合した。ハンクス溶液に脱気は実施せず、この溶液はいずれの走査時前又は走査中もpH 7.4を有した。周期的な動電位走査において、各サンプルの試験領域は開回路電位の安定を可能にするために、各走査前に1時間、電解質に浸漬させた。
【表8】
【0093】
周期的な電位走査試験の結果は図10〜12に示されており、サンプル1〜5と共に図10に、サンプル6〜9と共に図11に、そしてサンプル9〜13と共に図12に示されている。
【0094】
図11から、ジルコニア(サンプル8)、2層のTiN/TiCN(サンプル6)、及びPVD TiN(サンプル7)と比べ、サンプル9はより低い電流レベルを有したということが分かる。図10から、しかしながら、結果は、アズキャスト金属基材上にコーティングされたTiN/TiCNサンプルで実質的に様々であるということが分かる。これと比較して、図12からは、HIP処理され、かつ均質化された多層サンプルに関して、ブレークダウン電流がはるかに一定であるということが分かる。総合すれば、周期的な電位走査試験は、基材がコーティング前にHIP処理され、均質化され、次いで研削された場合に、多層のサンプルが一貫してより耐腐食性であるということ、並びにこのHIP処理され、均質化され/研削された/多層サンプルが従来の二重層のサンプルよりも、より耐腐食性であるということを示している。
【0095】
ロックウェルC圧痕
ロックウェルC圧痕は、VDI 3198基準において指示されたように、コーティングされたサンプルの研磨された領域上に実施した。硬度を測定し、サンプルにおける変形パターンは、圧痕マークの周辺においていずれかの剥離/亀裂を検出するために光学的に分析した。硬度は一貫して約36〜40RHCであった(基材の材料に対して測定された値)。図13A及び13Bの比較は、従来の二重層コーティングと比較して、多層コーティングを備える圧痕の周辺において、コーティングの亀裂及びチッピングがはるかに少ないということを示している。Vidakis,N.、Antoniadis,A.、Bilalis,N.の「The VDI 3198 Indentation Test Evaluation of a Reliable Qualitative Control for Layered Compounds」(Journal of Materials Processing Technology 143〜144(2003),pp 481〜485)を参照のこと。サンプルは両方ともHIP処理され、かつ均質化され、次いでセラミックでコーティングされているCo−28Cr−Moから構成された。図13Aに示されているサンプルは、この基材上にセラミックスコーティングを含み、このコーティングは、TiNの内側バンド、TiN及びTiCNの薄い交互の多層を含む中間バンド、並びにAl2O3オーバーコートから構成されている。図13Bに示されるサンプルは、この基材上にセラミックスコーティングを含み、このコーティングはAl2O3オーバーコートを備えるTiN及びTiCNの2つの層を含む。
【0096】
TEM画像
図4A及び4Bは、従来の「二重層」コーティング(TiNの単一層を構成する内側バンド、及外側バンドとしてびAl2O3オーバーコートを備えるTiCNの単一層を含む中間バンド)の透過型電子顕微鏡(TEM)画像によって得られた写真を提供する。従来の構造では、TiN層及びTiCN層は両方約2.5μmの厚さを有し、Al2O3保護膜は約5μmの厚さを有する。二重層構造が、比較的大きな、縦横比の高い粒子のTiN及びTiCN(成長方向に2〜3マイクロメートル以下)からなることが観察された。
【0097】
図5A及び5Bは、金属基材上の本発明の多層TiN/TiCNコーティングのTEM画像を提供する。図5A及び5Bに示されたコーティングは、1μmの厚さを含むTiNの単一層を含む第1バンドと、第1TiNバンド/層の上部にTiCNの層(約〜0.1μmの厚さを有する)を含む第2バンドと、第2層の上部の交互には、TiN及びTiCNの交互の後続層とを含み、それぞれの後続層は約〜0.1μmの厚さを有する。多層構造体の中間バンドの合計厚さは約5μmである。この構造体はまた、約5μm(図5Aで見ることができる)の厚さを有するAl2O3オーバーコートを含む外側バンドを含む。明らかに従来の構造体と対照的に本発明の多層コーティングの画像では、TiN及びTiCNの粒子が、TiN/TiCN多層構造体内で別個の要素として区別できないほど小さいことが明らかになった。本発明の多層コーティング構造の非常に細かい、ランダムに配向された粒子により置換された、従来の二重層構造で、基材に対して垂直に成長する大きな針状粒子を有する状態の、微小構造及び粒子形態の改善が観察された。このような特徴は、本発明のHIP処理され/均質化され/研削された金属基材上の多層コーティングが、少なくともコーティングフィルム内の粒径を減少させ、モルホロジーを変化させることによって、破壊靱性及び微小亀裂の成長に対する耐性を高め得るということを示唆している。動作の任意の特定の理論に縛られるものではないが、本コーティングのより小さい、ランダムに配向された粒子構造が、コーティング中のTiN及びTiCNの異方性性質を除去することにより、機械的性能を向上させたかのようである。
【0098】
上記の試験が示すように、CoCrMo基材上に形成された多層の薄い層のバンドを含む積極的にスクラッチされたセラミックスコーティングは、セラミックス材料でコーティングされる前に、CoCrMo基材がHIP処理され、均質化され、研削され(粗く及びCNCで)、かつ研磨された時に、より大きな耐腐食性及び耐スクラッチ性を一貫して示す。整形外科用インプラント構成要素上にそのようなコーティングを使用することは、生体内でも同様に、改善された耐磨耗性を示すということが予想されている。更に、図9A及び9Bは、TiN及びTiCNの2層、並びにAl2O3オーバーコートを備える、より多くの従来のセラミックスコーティングされた基材でさえも、目に見える欠陥は、セラミックス材料で基材をコーティングする前に、HIP処理すること、均質化すること、研削すること(粗く及びCNCで)、及び研磨することによって低減することができるということを示す。この改善は、整形外科用インプラント構成要素に適用された時に同様に実現されるということが予測される。
【0099】
〔実施の態様〕
(1) HIP処理され、かつ均質化された金属の整形外科用インプラント構成要素を入手する工程と、
セラミックスコーティングを前記HIP処理され、かつ均質化された構成要素上に
前記セラミックスコーティングの第1バンドを、前記HIP処理され、かつ均質化された金属基材の上に蒸着させること、及び
前記セラミックスコーティングの第2バンドを、前記セラミックスコーティングの前記第1バンドの上に蒸着させること、によって蒸着させる工程と、を含む、整形外科用インプラント構成要素を作製する方法。
(2) 前記HIP処理され、かつ均質化された金属の整形外科用インプラント構成要素を入手する工程は、HIP処理され、かつ均質化された表面を備える金属の整形外科用インプラント構成要素を入手することであって、該表面から、HIP処理され、かつ均質化された金属の1/2〜1mmが、前記金属の整形外科用インプラント構成要素の少なくとも一部分から除去されている、こと、を含む、実施態様1に記載の方法。
(3) 前記HIP処理され、かつ均質化された金属の1/2〜1mmの少なくとも一部分は、以下の材料除去プロセス:研削、機械加工、及び研磨の少なくとも1つによって除去される、実施態様2に記載の方法。
(4) 前記第1バンドは、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方のCVD蒸着された複数層を含む、実施態様1に記載の方法。
(5) 前記第2バンドはアルミナを含み、該アルミナは、前記整形外科用インプラント構成要素の外側関節面を画定する、実施態様4に記載の方法。
(6) 前記第1バンドと、前記第2バンドの前記アルミナとの間に接着バンドを蒸着させる工程を更に含む、実施態様5に記載の方法。
(7) 前記第2バンドを蒸着させる工程は、複数層をCVD蒸着させることを含み、各層は窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む、実施態様4に記載の方法。
(8) 前記第2バンドを蒸着させる工程は、2〜100層をCVD蒸着させることを含み、各層は窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む、実施態様7に記載の方法。
(9) 前記第2バンドを蒸着させる工程は、2〜50層をCVD蒸着させることを含み、各層は窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む、実施態様8に記載の方法。
(10) 前記第2バンドを蒸着させる工程は、5〜50層をCVD蒸着させることを含み、各層は窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む、実施態様9に記載の方法。
【0100】
(11) 前記第2バンドを蒸着させる工程は、約30〜50層をCVD蒸着させることを含み、各層は窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む、実施態様10に記載の方法。
(12) 前記セラミックスコーティングの前記第2バンドの上に、前記セラミックスコーティングの第3バンドを蒸着させる工程を更に含む、実施態様7に記載の方法。
(13) 前記第3バンドがアルミナを含み、
前記アルミナが前記整形外科用インプラント構成要素の前記外側関節面を画定し、
前記第3バンドがCVD蒸着される、実施態様12に記載の方法。
(14) 前記第2バンドと、前記第3バンドの前記アルミナとの間に接着バンドを蒸着させる工程を更に含む、実施態様13に記載の方法。
(15) 前記第1バンドは、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方のCVD蒸着された複数の層を含む、実施態様3に記載の方法。
(16) 前記第2バンドはアルミナを含み、該アルミナが、前記整形外科用インプラント構成要素の前記外側関節面を画定する、実施態様15に記載の方法。
(17) 前記第1バンドと、前記第2バンドの前記アルミナとの間に接着バンドを蒸着させる工程を更に含む、実施態様16に記載の方法。
(18) 前記第2バンドが複数の層を含み、各層は窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む、実施態様17に記載の方法。
(19) 前記第2バンドを蒸着させる工程は、2〜100層をCVD蒸着させることを含み、各層は窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む、実施態様18に記載の方法。
(20) 前記第2バンドを蒸着させる工程は、2〜50層をCVD蒸着させることを含み、各層は窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む、実施態様19に記載の方法。
【0101】
(21) 前記第2バンドを蒸着させる工程は、5〜50層をCVD蒸着させることを含み、各層は窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む、実施態様20に記載の方法。
(22) 前記第2バンドを蒸着させる工程は、約30〜50層をCVD蒸着させることを含み、各層は窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む、実施態様10に記載の方法。
(23) 前記セラミックスコーティングの前記第2バンドの上に、前記セラミックスコーティングの第3バンドを蒸着させる工程を更に含む、実施態様22に記載の方法。
(24) 前記第3バンドがアルミナを含み、
前記アルミナが前記整形外科用インプラント構成要素の前記外側関節面を画定し、
前記第3バンドがCVD蒸着される、実施態様23に記載の方法。
(25) 前記第2バンドと、前記第3バンドの前記アルミナとの間に接着バンドを蒸着させる工程を更に含む、実施態様24に記載の方法。
(26) 外側関節面を有する第1構成要素と、該第1構成要素の前記外側関節面に対して関節接合するようなサイズにされ、かつそのように成形された外側軸受面を有する第2構成要素と、を含む、整形外科用インプラントのキットであって、
前記第1整形外科用インプラント構成要素が、デンドライト間カーバイドを実質的に含まない金属基材表面、及び前記金属基材上のセラミックスコーティングを含み、前記セラミックスコーティングが前記第1構成要素の前記外側関節面を画定し、
前記セラミックスコーティングが、約3マイクロメートル〜20マイクロメートルの合計厚さを有し、
前記セラミックスコーティングが、炭化チタン、窒化チタン、チタン炭窒化物、並びに窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方からなる群から選択される材料を含む、キット。
(27) 前記第2構成要素の前記外側軸受面が、金属、セラミックスコーティングされた金属、及びセラミックスからなる群から選択される材料によって画定され、
前記第1構成要素の前記セラミックスコーティングが、炭化チタン、窒化チタン、チタン炭窒化物、並びに窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方からなる群から選択される材料を含む、外面を有する、実施態様26に記載の整形外科用インプラントのキット。
(28) 前記セラミックスコーティングが、
前記基材表面を被覆する窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む、第1バンド、及び
前記第1バンドを被覆する窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方の複数層を含む、第2バンド、を含み、
前記第1バンドが、前記第2バンドにおける各層の厚さより大きい厚さを有する、実施態様26に記載の整形外科用インプラントのキット。
(29) 前記セラミックスコーティングが、前記第2バンドを被覆する窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む、第3バンドを含み、該第3バンドが、前記第2バンドにおける各層の厚さより大きい厚さを有する、実施態様28に記載の整形外科用インプラントのキット。
(30) 前記第3バンドが、約2〜15マイクロメートルの厚さを有する単一層を含む、実施態様29に記載の整形外科用インプラントのキット。
【0102】
(31) 前記セラミックスコーティングが、前記第2バンドを被覆するアルミナを含む、第3バンドを含み、該第3バンドは、前記第2バンドにおける各層の厚さより大きい厚さを有する、実施態様28に記載の整形外科用インプラントのキット。
(32) 前記第3バンドが、約2〜15マイクロメートルの厚さを有する単一層を含む、実施態様31に記載の整形外科用インプラントのキット。
(33) 前記第2バンドが、セラミックスの約2〜50層を含み、各層が窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む、実施態様28に記載の整形外科用インプラントのキット。
(34) 前記第2バンドが、セラミックスの約5〜50層を含み、各層が窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む、実施態様28に記載の整形外科用インプラントのキット。
(35) 前記第2バンドが、セラミックスの約30〜50層を含み、各層が窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む、実施態様28に記載の整形外科用インプラントのキット。
(36) 前記第2バンドが、セラミックスの複数の層を含み、各層が約0.5マイクロメートル未満の厚さを有する、実施態様28に記載の整形外科用インプラントのキット。
(37) 前記第2バンドが、セラミックスの複数の層を含み、各層が約0.2マイクロメートル未満の厚さを有する、実施態様28に記載の整形外科用インプラントのキット。
(38) 前記第1バンドが約2〜3マイクロメートルの厚さを有する、実施態様28に記載の整形外科用インプラントのキット。
(39) 前記第1バンドが約2.5マイクロメートルの厚さを有する、実施態様28に記載の整形外科用インプラントのキット。
(40) 前記セラミックスコーティングが10〜15マイクロメートルの合計厚さを有する、実施態様28に記載の整形外科用インプラントのキット。
【0103】
(41) 前記第1バンドが窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含むセラミックスの単一層を含み、該単一層が約2〜3マイクロメートルの厚さを有し、
前記第2バンドが、セラミックスの約30〜50層を含み、各層が窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含み、各層が約0.2マイクロメートル未満の厚さを有し、
前記セラミックスコーティングが、前記第2バンドを被覆するアルミナを含む第3バンドを含み、該第3バンドが約2〜10マイクロメートルの厚さを有する、実施態様40に記載の整形外科用インプラントのキット。
(42) 外側関節面を有する整形外科用インプラント構成要素であって、該整形外科用インプラント構成要素が、
金属基材表面と、
前記インプラント構成要素の前記外側関節面を画定する金属基材上のセラミックスコーティングであって、
前記金属基材表面を被覆する窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む、第1バンド、及び
前記第1バンドを被覆する窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方の複数の層を含む、第2バンド、を含む、セラミックスコーティングと、を含み、
前記セラミックスコーティングは、ASTM C1624−05に従うアコースティックエミッションによって測定された時、20Nの定荷重下で、半径200マイクロメートルのダイヤモンドスタイラスからの長さ10mmのスクラッチに関して、スクラッチの長さの1ミリメートル当たり、Lc2チッピング又はバックリング破砕のアコースティックエミッションピーク特徴を有さない一部分を含む、整形外科用インプラント構成要素。
(43) 前記セラミックスコーティングが、ASTM C1624−05に従うアコースティックエミッションによって測定された時、40Nの定荷重下で、半径200マイクロメートルのダイヤモンドスタイラスからの長さ10mmのスクラッチに関して、スクラッチの長さの1ミリメートル当たり、Lc2チッピング又はバックリング破砕の5より小さいアコースティックエミッションピーク特徴を有する一部分を含む、実施態様42に記載の整形外科用インプラント構成要素。
(44) 前記セラミックスコーティングが、ASTM C1624−05に従うアコースティックエミッションによって測定された時、40Nの定荷重下で、半径200マイクロメートルのダイヤモンドスタイラスからの長さ10mmのスクラッチに関して、スクラッチの長さの1ミリメートル当たり、Lc2チッピング又はバックリング破砕の2より小さいアコースティックエミッションピーク特徴を有する一部分を含む、実施態様42に記載の整形外科用インプラント構成要素。
(45) 前記セラミックスコーティングが、ASTM C1624−05に従うアコースティックエミッションによって測定された時、25Nの定荷重下で、半径200マイクロメートルのダイヤモンドスタイラスからの長さ10mmのスクラッチに関して、スクラッチの長さの1ミリメートル当たり、Lc2チッピング又はバックリング破砕のアコースティックエミッションピーク特徴を有さない一部分を含む、実施態様42に記載の整形外科用インプラント構成要素。
(46) 前記セラミックスコーティングが、ASTM C1624−05に従うアコースティックエミッションによって測定された時、28Nの定荷重下で、半径200マイクロメートルのダイヤモンドスタイラスからの長さ10mmのスクラッチに関して、スクラッチの長さの1ミリメートル当たり、Lc2チッピング又はバックリング破砕のアコースティックエミッションピーク特徴を有さない一部分を含む、実施態様42に記載の整形外科用インプラント構成要素。
(47) 前記セラミックスコーティングが、ASTM C1624−05に従うアコースティックエミッションによって測定された時、30Nの定荷重下で、半径200マイクロメートルのダイヤモンドスタイラスからの長さ10mmのスクラッチに関して、スクラッチの長さの1ミリメートル当たり、Lc2チッピング又はバックリング破砕のアコースティックエミッションピーク特徴を有さない一部分を含む、実施態様42に記載の整形外科用インプラント構成要素。
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、米国特許出願第12/782315号、表題「Multilayer Coatings」(2010年5月18日出願)及び同第12/605756号、米国特許出願公開第2010/012926(A1)号、表題「Multilayer Coatings」(2009年10月26日出願)(Jason B.Langhorn)の一部継続出願であり、及び2008年11月24日出願の米国仮特許出願第61/117468号の優先権を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本発明はとりわけ、医療インプラントの調製に使用されるもののような金属基材用の耐摩耗性、耐スクラッチ性、及び耐腐食性コーティングに関する。
【背景技術】
【0003】
一旦設置されると、金属の整形外科用インプラントは、現場で(in situ)生じる恐れのある、スクラッチ、摩耗若しくは他の方法による損傷、又は腐食プロセスにより引き起こされる劣化に対して脆弱である。損傷したインプラントは、性能の低下を示す場合があり、場合によっては修復又は交換しなければならず、それを行うために必要な複雑で身体的に外傷の残ることが多い外科手術は、患者のリバビリテーションへ向けての進歩を遅らせる場合がある。更に、インプラントの被提供者の平均寿命の上昇のような人口動向、及びより若い被験者の間での整形外科的介入に対する必要性(例えば、スポーツ傷害、関節ストレスを導く過剰な体重又は乏しい健康管理に起因する)に起因して、長持ちする整形外科用インプラントへの関心が高まっている。
【0004】
スチール、コバルト、チタン、及びこれらの合金などの材料を含む金属基材を含むインプラントはまた、構造的一体性の喪失、引っかき又は磨損、増加する磨耗率、並びにインプラントの性能の低下を導く恐れのある損傷又は機械的に促進された腐食に対して脆弱である。
【0005】
金属の整形外科用インプラントの耐スクラッチ性及び耐摩耗性の向上に対する従来のアプローチは、イオン注入、ガス窒化、高温酸化、及びコーティング技術(例えば、米国特許出願公開第2007/0078521号、2007年4月5日公開を参照のこと)のような表面処理を含んでいる。しかしながら、最適水準のピーク硬度を提供できない、下層の基材へのコーティングの付着が弱い、及び経済的な実現可能性などの特定の制限によりこれらの従来の方法の一部の実用性が制限されることがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、金属の整形外科用インプラント構成要素上に形成されたセラミックスコーティングの耐スクラッチ性、耐腐食性、及び耐磨耗性、並びに接着力が、基材をコーティングする前に金属基材を調製するのに使用されるプロセスパラメータを制御することによって改善され得るという発見に関する。本発明はまた、金属の整形外科用インプラント構成要素上に形成されたセラミックスコーティングの耐スクラッチ性、耐腐食性、及び耐磨耗性、並びに接着力が、より少なく、より厚い層の代わりに、セラミックスの複数の「薄い」層を含むコーティングを使用することによって改善され得るという発見に関する。更に、本発明はまた、セラミックスコーティングされた整形外科用インプラント構成要素の外側関節面の最適な構成要素は、外側関節面に接する軸受に使用される材料により有利に異なっていてもよい。これらの発見はセラミックスコーティングされた金属の整形外科用インプラント構成要素を改善するために一緒に使用されてもよいが、各発見及び各発見の態様は、「発明を実施するための形態」において記載されているように、個別に使用されてもよい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様では、本発明は、HIP処理され、かつ均質化された金属の整形外科用インプラント構成要素を入手する工程と、セラミックスコーティングをHIP処理され、かつ均質化された構成要素上に、セラミックスコーティングの第1バンドを、前述のHIP処理され、かつ均質化された金属基材の上に蒸着させること、及びセラミックスコーティングの第2バンドを、セラミックスコーティングの前述の第1バンドの上に蒸着させること、によって、蒸着させる工程と、を含む、整形外科用インプラント構成要素を作製する方法を提供する。
【0008】
1つの代替的な実施形態では、HIP処理され、かつ均質化された金属の整形外科用インプラント構成要素を入手する工程は、HIP処理され、かつ均質化された表面を備える金属の整形外科用インプラント構成要素を入手することであって、この表面からHIP処理され、かつ均質化された金属の1/2〜1mmが、金属の整形外科用インプラント構成要素の少なくとも一部分から除去されている、こと、を含む。より具体的な実施形態では、HIP処理され、かつ均質化された金属は、以下の材料除去プロセス:研削、機械加工、及び研磨の少なくとも1つによって除去される。
【0009】
上記の代替の実施形態のいずれかにおいて、セラミックスコーティングの第1バンドを蒸着させる工程は、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方の層をCVD蒸着させることを含んでもよい。
【0010】
上記の代替の実施形態のいずれかにおいて、第2バンドを蒸着させる工程は、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方の少なくとも1つの層を蒸着させることを含んでもよい。
【0011】
上記の実施形態のいずれかにおいて、本方法は、セラミックスコーティングの外側バンドを第2バンドの上に蒸着させる工程を更に含んでもよく、外側バンドは、整形外科用インプラント構成要素の外側関節面を画定する。1つの具体的な実施形態では、外側バンドはアルミナを含み、追加の接着バンドは、第2バンドと、外側バンドのアルミナとの間に蒸着されてもよい。あるいは、外側バンドは、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方の層を含んでもよい。
【0012】
上記の実施形態のいずれかにおいて、第2バンドを蒸着させる工程は、複数層をCVD蒸着させることを含み、各層は窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む。この実施形態では、第1バンドの層の厚さは、第2バンドにおける各層の厚さより大きくてもよい。この実施形態では、2〜100層、2〜50層、5〜50層、又は約30〜50層は、第2バンドにおいて蒸着されてもよく、各層は窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む。
【0013】
他の態様では、本発明は、外側関節面を有する第1構成要素と、第1構成要素の外側関節面に対して関節接合するようなサイズにされ、かつそのように成形された外側軸受面を有する第2構成要素と、を含む、整形外科用インプラントのキットを提供する。第1整形外科用インプラント構成要素は、デンドライト間のカーバイドを実質的に含まない金属基材表面、及び金属基材上のセラミックスコーティングを含む。セラミックスコーティングは、第1構成要素の外側関節面を画定する。セラミックスコーティングは、約3マクロメートル〜20マイクロメートルの合計厚さを有し、炭化チタン、窒化チタン、チタン炭窒化物、並びに窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方からなる群から選択される材料を含む。
【0014】
1つの具体的な実施形態では、第2構成要素の外側軸受面は、金属及びセラミックスからなる群から選択される材料によって画定され、第1構成要素のセラミックスコーティングは、炭化チタン、窒化チタン、チタン炭窒化物、並びに窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方からなる群から選択される材料を含む、外面を有する。
【0015】
他の具体的な実施形態では、セラミックスコーティングは第1バンド及び第2バンドを含む。第1バンドは、基材表面を被覆する窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む。第2バンドは、第1バンドを被覆する窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方の複数層を含む。第1バンドは、第2バンドにおける各層の厚さより大きい厚さを有する。セラミックスコーティングは第3バンドを含んでもよい。第3バンドは、第2バンドにおける各層の厚さより大きい厚さを有してもよい。1つのより具体的な実施形態では、第3バンドは、第2バンドを被覆する窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含み、第3バンドは、第2バンドにおける各層の厚さより大きい厚さを有する。より具体的には、第3バンドは、約2〜15マイクロメートルの厚さを有する単一層を含んでもよい。
【0016】
あるいは、他の具体的な実施形態では、セラミックスコーティングの第3バンドは、第2バンドを被覆するアルミナを含み、第3バンドは、第2バンドにおける各層の厚さより大きい厚さを有する。第3バンドは、約2〜15マイクロメートルの厚さを有する単一層を含んでもよい。
【0017】
特定の実施形態では、第2バンドは、セラミックスの約2〜50層を含み、各層は窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む。第2バンドは、セラミックスの約5〜50層を含んでもよく、各層は窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む。第2バンドは、セラミックスの約30〜50層を含んでもよく、各層は窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む。
【0018】
具体的な実施形態では、第2バンドはセラミックスの複数層を含み、各層は約0.5マイクロメートル未満の厚さを有する。第2バンドにおける各層は約0.2マイクロメートル未満の厚さを有してもよい。
【0019】
具体的な実施形態では、第1バンドは約2〜3マイクロメートルの厚さを有する。第1バンドは約2.5マイクロメートルの厚さを有してもよい。
【0020】
具体的な実施形態では、セラミックスコーティングは14〜15マイクロメートルの合計厚さを有する。この実施形態では、第1バンドは、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含むセラミックスの単一層を含み、この単一層は約2〜3マイクロメートルの厚さを有する。第2バンドは、セラミックスの約30〜50層を含み、各層は窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含み、各層は約0.2マイクロメートル未満の厚さを有する。この実施形態では、第3バンドは、第2バンドを被覆するアルミナを含み、第3バンドは約2〜10マイクロメートルの厚さを有する。
【0021】
他の態様では、本発明は、外側関節面を有する整形外科用インプラント構成要素を提供する。整形外科用インプラント構成要素は、金属基材表面、及びインプラント構成要素の外側関節面を画定する金属基材表面上のセラミックスコーティングを含む。セラミックスコーティングは第1バンド及び第2バンドを含む。第1バンドは、基材表面を被覆する、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む。第2バンドは、第1バンドを被覆する窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方の複数層を含む。セラミックスコーティングは、20Nの定荷重下で、半径200マイクロメートルのダイヤモンド圧子からのスクラッチ長さ1ミリメートル当たり、Lc2チッピング又はバックリング型破砕の亀裂事象のアコースティックエミッションピーク特徴を呈さない一部分を含む。チッピング及びバックリング破砕Lc2事象は、アコースティックエミッション特徴と共にASTM C1624−05に従って定義されている。
【0022】
より具体的な実施形態では、セラミックスコーティングは、ASTM C1624−05に従って測定された時、40Nの定荷重下で、半径200マイクロメートルのダイヤモンド圧子からのスクラッチ長さの1ミリメートル当たり、Lc2チッピング又はバックリング破砕の5より小さいアコースティックエミッションピーク特徴を有する一部分を含む。
【0023】
より具体的な実施形態では、セラミックスコーティングは、ASTM C1624−05に従って測定された時、40Nの定荷重下で、半径200マイクロメートルのダイヤモンド圧子からのスクラッチ長さの1ミリメートル当たり、Lc2チッピング又はバックリング破砕の2より小さいアコースティックエミッションピーク特徴を有する一部分を含む。
【0024】
より具体的な他の実施形態では、セラミックスコーティングは、ASTM C1624−05に従って測定された時、25Nの定荷重下で、半径200マイクロメートルのダイヤモンド圧子からのスクラッチ長さの1ミリメートル当たり、Lc2チッピング又はバックリング破砕のアコースティックエミッションピーク特徴を有さない一部分を含む。
【0025】
より具体的な他の実施形態では、セラミックスコーティングは、ASTM C1624−05に従って測定された時、28Nの定荷重下で、半径200マイクロメートルのダイヤモンド圧子からのスクラッチ長さの1ミリメートル当たり、Lc2チッピング又はバックリング破砕のアコースティックエミッションピーク特徴を有さない一部分を含む。
【0026】
より具体的な他の実施形態では、セラミックスコーティングは、ASTM C1624−05に従って測定された時、30Nの定荷重下で、半径200マイクロメートルのダイヤモンド圧子からのスクラッチ長さの1ミリメートル当たり、Lc2チッピング又はバックリング破砕のアコースティックエミッションピーク特徴を有さない一部分を含む。
【0027】
上記の実施形態のいずれかにおいて、セラミックスコーティングはまた、第2バンドを被覆する外側バンドを含んでもよく、この外側バンドはインプラント構成要素の関節面を画定する。外側バンドはアルミナを含んでもよく、あるいは炭化チタン、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含んでもよい。
【0028】
上記の実施形態のいずれかにおいて、内側バンドは、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方の1つの層を含んでもよい。内側又は第1バンドの層の厚さは、第2バンドの各層の厚さより大きくてもよい。外側バンドを備える実施形態では、外側バンドの層の厚さは、第2バンドの各層の厚さよりも大きくてもよい。
【0029】
上記の実施形態のいずれかにおいて、セラミックスコーティングは、10〜20マイクロメートルの厚さを有してもよい。
【0030】
上記のいずれかの実施形態において、第1バンドの層は、約2〜3マイクロメートルの厚さを有してもよく、外側バンドの層は約5マイクロメートルの厚さを有してもよく、第2バンドは約4〜14マイクロメートルの厚さを有してもよい。具体的な実施形態では、第2バンドは約5マイクロメートルの厚さを有する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一態様によって作製された整形外科用インプラント構成要素の耐スクラッチ性、耐磨耗性、及び耐腐食性関節面の断面図。
【図2】本発明の原理が膝インプラントシステムの大腿骨構成要素の関節面に適用されている、膝インプラントシステムの例の構成要素。
【図3】本発明の原理が臀部インプラントシステムの大腿骨頭部構成要素の関節面に適用されている臀部インプラントシステムの例の構成要素を示す。
【図4】従来の「二重層」TiN/TiCN/アルミナコーティングの透過型電子顕微鏡(TEM)像。
【図5】本発明により調製された多層コーティングの透過型電子顕微鏡(TEM)像。
【図6A】それぞれ本発明及び従来のコーティングでコーティングされ、それぞれのコーティングの機械的性能を比較するためにスクラッチ試験に付された表面の拡大像を提供する。
【図6B】それぞれ本発明及び従来のコーティングでコーティングされ、それぞれのコーティングの機械的性能を比較するためにスクラッチ試験に付された表面の拡大像を提供する。
【図6C】それぞれ本発明及び従来のコーティングでコーティングされ、それぞれのコーティングの機械的性能を比較するためにスクラッチ試験に付された表面の拡大像を提供する。
【図6D】それぞれ本発明及び従来のコーティングでコーティングされ、それぞれのコーティングの機械的性能を比較するためにスクラッチ試験に付された表面の拡大像を提供する。
【図6E】それぞれ本発明及び従来のコーティングでコーティングされ、それぞれのコーティングの機械的性能を比較するためにスクラッチ試験に付された表面の拡大像を提供する。
【図7】40Nの定荷重のスクラッチによる(A)従来のコーティング及び(B)本発明のコーティングの、スクラッチ方向に垂直な研磨した断面のSEM解析により得られた拡大像。
【図8A】HIP処理され、かつ均質化された鋳物Co−28Cr−6Moの研磨された断面図の金属組織解析からの拡大像を提供する。
【図8B】HIP処理され、かつ均質化された鋳物Co−28Cr−6Moの研磨された断面図の金属組織解析からの拡大像を提供する。
【図9A】HIP処理され、かつ均質化された鋳物Co−28Cr−6Mo上の、研磨された「二重層」のセラミックスコーティングの拡大された(50倍)の顕微鏡像(平面図で)を提供し、これらは、CSM Revetest(登録商標)スクラッチテスター上に半径200マイクロメートルのダイヤモンド圧子を使用して、腐食試験サンプル上で作製された5つの平行なダイヤモンド圧子のスクラッチの5つの反復群のネットワークでスクラッチされており、中心間で0.25mm離間されているスクラッチを示し、5つの平行なスクラッチの各群は、図9Aに示されているように、6、9、12、15、及び18Nのスクラッチ荷重で作られ、0.75mm離れている斜めのスクラッチが次いで、6、9、及び12Nのスクラッチ荷重におけるこれらの平行なスクラッチネットワークの上に、かつこれらに対して15°の角度で作られ、図9Aは、アズキャストCo−28Cr−6Mo上のコーティングにおいてより多くの数の欠陥部を示している。
【図9B】アズキャスト(as-cast)Co−28Cr−6Mo上の、研磨された「二重層」のセラミックスコーティングの拡大された(50倍)の顕微鏡像(平面図で)を提供し、これらは、CSM Revetest(登録商標)スクラッチテスター上に半径200マイクロメートルのダイヤモンド圧子を使用して、腐食試験サンプル上で作製された5つの平行なダイヤモンド圧子のスクラッチの5つの反復群のネットワークでスクラッチされており、中心間で0.25mm離間されているスクラッチを示し、5つの平行なスクラッチの各群は、図9Bに示されているように、6、9、12、15、及び18Nのスクラッチ荷重で作られ、0.75mm離れている斜めのスクラッチが次いで、6、9、及び12Nのスクラッチ荷重におけるこれらの平行なスクラッチネットワークの上に、かつこれらに対して15°の角度で作られ、図9Bは、アズキャストCo−28Cr−6Mo上のコーティングにおいてより多くの数の欠陥部を示している。
【図10】アズキャスト金属基材と比較された、HIP処理され、かつ均質化された金属基材上の多層CVDセラミックスコーティングを示す、スクラッチで損傷したコーティング構造体(図9A及び9Bで記載されたようにスクラッチされている)の電位走査試験の結果を示す。
【図11】従来のコーティングと比較された、多層CVDセラミックスコーティングを図示する、スクラッチで損傷したコーティング構造体(図9A及び9Bで記載されたようにスクラッチされている)の電位走査試験の結果を示す。
【図12】HIP処理され、かつ均質化された金属基材上の多層CVDセラミックスコーティングを示す、スクラッチで損傷したコーティング構造体(図9A及び9Bで記載されたようにスクラッチされている)の電位走査試験の結果を示す。
【図13A】HIP処理され、かつ均質化された金属基材上の多層のCVDセラミックスコーティングと共に見える典型的なロックウェルC圧痕の図。
【図13B】HIP処理され、かつ均質化された金属基材上の従来のCVDセラミックスコーティングと共に見える典型的なロックウェルC圧痕の図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明は、本開示の一部を形成する、添付図面及び実施例に関連して解釈される以下の詳細な説明を参照することにより、より容易に理解することができる。本発明は、本明細書に記載する及び/又は示す特定の製品、方法、条件又はパラメータに限定されるものではなく、本明細書で使用される専門用語は実施例を用いて具体的な実施形態を記載する目的のためだけのものであり、請求した発明を制限することを意図するものではないことが理解すべきである。
【0033】
本開示では、単数形「a」、「an」及び「the」は、特に明示しない限り、複数の参照及び少なくともその特定の値を含む特定の数値の参照を含む。したがって、例えば、「材料(a material)」に対する参照は、1種又はそれ以上のこのような材料及び当業者に既知であるその等価物等に対する参照である。値が、先行する「約」の使用によって近似値として表現される時、その特定の値は、別の実施形態を形成することが理解されよう。本明細書で使用する時、「約X」(Xは数値である)は、好ましくは記載の値の±10%を包括的に指す。例えば、語句「約8」は、好ましくは7.2以上〜8.8以下の値を指し、別の例としては、語句「約8%」は、好ましくは7.2%以上〜8.8%以下の値を指す。存在する場合、全ての範囲は包括的かつ組み合わせ可能である。例えば、「1〜5」の範囲を列挙する時、列挙した範囲は「1〜4」、「1〜3」、「1〜2」、「1〜2及び4〜5」、「1〜3及び5」等の範囲を含むと解釈すべきである。更に、選択肢の一覧を肯定的に提供する時、このような一覧は、選択肢のいずれかが、例えば、特許請求の範囲中の否定的限定により除外される場合があることを意味すると解釈できる。例えば、「1〜5」の範囲を列挙する時、列挙された範囲は、1、2、3、4又は5のいずれかが否定的に除外される状況を含むと解釈してもよく、したがって「1〜5」の列挙は「1及び3〜5であるが2ではない」又は簡単に「2は含まれない」と解釈することもできる。
【0034】
本開示では、化学式は、正式な化学名に対して省略化されているものとして使用される場合がある。例えば「TiN」は、窒化チタンを意味するために、「TiCN」はチタン炭窒化物を意味するために、「TiC」は炭化チタンを意味するために、Al2O3は酸化アルミニウム、すなわちアルミナを意味するために使用される場合がある。化学式は、正確な化学量論のこれらの材料を示すということは意味していないということに注意されたい。場合によっては、蒸着条件等によって、材料は公称化学量論から逸れる場合がある。更に、酸化アルミニウム層は、具体的な形式に明示的に限定しない限り、κ−アルミナ、α−アルミナ、アルミナの1つ以上の他の結晶形態、又はそれぞれの層状構造体を含む混合物のいずれかであってもよい(しかし、以下に記載のとおりα−アルミナが好ましい)。
【0035】
本明細書に引用、又は記載する各特許、特許出願、及び刊行物の開示は、その全文において本明細書に参考として組み込まれる。
【0036】
本発明は一部分において、1)コーティング前に金属基材を調製するのに使用されるプロセスを制御すること、2)Al2O3(好ましくはα形態)の外側層の下にTiN、TiCN、又はTiN及びTiCNの両方の複数の「薄い」層を含むコーティングを使用することによって、コーティングされた金属インプラント構成要素の耐スクラッチ性、耐磨耗性、及び耐腐食性が改善され得る、又は最大化され得るという発見に関連する。TiN、TiCN、又はTiN及びTiCNの両方の多数の薄い層の使用に関する改善は、米国特許出願第12/605756号、米国特許出願公開第2010/012926(A1)号に開示されており、これはその全体が本明細書において、及び本願において援用される。本願は、コーティング前の金属基材の好ましい調製に関する情報を提供する。更に、一部の応用例において、コーティングされたインプラント上に、アルミナのより厚い外側層を含むことは望ましい場合があるが、他の応用例においては、より厚い外側層に対して、異なるセラミックス材料、例えば非酸化物チタンセラミックス材料を使用することが望ましい場合がある。
【0037】
上記の「背景技術」で記載したように、スチール、コバルト、チタン、及びこれらの合金は、整形外科用インプラントで使用される一般的な金属である。スチール、コバルト、及びこれらの合金は、金属基材として、本発明において使用可能であると期待される。金属基材として有効な従来のコバルトクロム合金はCo−28Cr−6Moである。Co−28Cr−6Moは、例えば鋳造、鍛造(wrought)、鍛造(forged)又は射出成型されてもよい。鋳造医療デバイスに関して、Co−28Cr−6MoはASTM−F75に従って鋳造されてもよい。かかる鋳造合金は、セラミックスコーティングのための金属基材として使用され得る。以下に更に詳細に記載されているように、アズキャストCo−28Cr−6Moは有利なことに、基材をコーティングする前に、特にセラミックスコーティングの外側関節面がアルミナを含む場合には、熱間等方圧加圧(HIP)及び均質化によって処理され得る。以下に更に詳細に記載されるように、場合によっては、HIP処理され、かつ均質化されたCo−28Cr−6Moを、基材をコーティングする前に研削し、研磨することが有利あり得るということが見出された。
【0038】
以下に報告される作業は、Co−28Cr−6Moと共に実施されたが、本発明の原理は、他のコバルトクロム合金及び人体内への移植に好適な他の金属(新しい材料が開発された時に、それらの金属など)に適用できるということが予測される。
【0039】
アズキャストCo−28Cr−6Moは一般的に、インベストメント鋳造プロセスの固有の結果として存在する直径50〜100マイクロメートルのデンドライト間(Co、Cr、Mo)のカーバイドを有する。かかるキャスト基材がコーティングされた時に、表面カーバイドは例えば、基材上のセラミックスコーティングにおける欠陥の発生を増加させる場合があり、かかる表面カーバイドは、TiN及びTiCNの1つ以上の層、並びにアルミナの外側層を含むコーティングにおいて欠陥の発生を増加させる場合がある。図9Bは、セラミックスコーティングにおいて黒い点のように見える、そのような欠陥を図示する。TiN及びTiCN層における欠陥は、CoCrMo基材表面に適用されたコーティングの耐スクラッチ性及び耐腐食性を減少させる場合があり、研磨されたコーティング表面の見栄えに悪影響を与える場合がある。
【0040】
また、TiN/TiCN/Al2O3コーティングのTiN及びTiCN層は核となり、及び/又はCoCrMo基材の固溶体マトリックス位相上によりも、(Co、Cr、Mo)カーバイド上の所定の蒸着パラメータのセットに対してより速く成長すると考えられる。カーバイドなど上記のTiN及びTiCN層の部分は、Al2O3層がコーティングの後に研磨される時に、コーティングの表面において露出される場合がある。したがって、研磨されたセラミックスコーティングの外面は、アルミナを含む部分、並びにTiN、TiCN、又はTiN及びTiCNの混合物を含む隣接部分を備える、非均質な場合がある。これらのTiN及びTiCN欠陥は、他では茶色又は黒い研磨されたコーティング表面上で金色に見える。かかる場合においては、研磨されたセラミックスコーティングの外面は、コーティングの準最適な耐スクラッチ性、耐腐食性、及び耐摩耗性となり得る異なる特性を有する材料によって画定される。
【0041】
CoCrMo基材表面上のセラミックスコーティングの外側アルミナ層におけるTiN及びTiCN欠陥の発生を低減させるために、基材表面は、基材をコーティングする前に固溶体マトリックス位相中で、デンドライト間の(Co、Cr、Mo)カーバイドを溶融させるように処理されることが好ましい。本発明の一態様によると、この基材表面処理は、熱間等方圧加圧(HIP)及び均質化を含む。HIP処理され、かつ均質化された基材表面は、アズキャスト表面よりも、より均一であり、したがってセラミックスコーティングの層のトポグラフィはより均一であり、より少ないピークを有し、結果として、外側のセラミックス層の研磨された表面においてより少ない欠陥を有する。図9Aは、図9Bにおいて示されているものよりも少ない欠陥を有する、そのような表面に適用されたコーティングを示す。コーティングされ、処理された基材の耐腐食性及び耐スクラッチ性は、コーティングされたアズキャスト基材の耐摩耗性及び耐スクラッチ性よりも改善される。
【0042】
アズキャスト基材の熱間等方圧加圧は、例えば高圧格納容器内に構成要素を配置すること、及びアルゴンなどの不活性ガスで容器を加圧することを含む場合がある。チャンバは加熱され、結果として圧力が構成要素に適用される。不活性ガスの事前加熱の一般的な圧力は例えば、アズキャストCo−28Cr−6Mo基材に対して103.4MPa(15,000psi)〜172.4MPa(25,000psi)であり得る。アズキャストCo−28Cr−6Mo基材に対する一般的な温度は1185℃(2165度)〜1204℃(2200度)の範囲である。アズキャストCo−28Cr−6Mo基材に対する一般的なプロセス時間は、4時間〜4時間1/2の範囲である。
【0043】
アズキャストCo−28−8Mo基材を処理するのに有用なHIPプロセスパラメータの具体的な例には以下が挙げられる:103.4MPa(15,000psi)の圧力において、1204℃(2200°F)まで加熱し、少なくとも4時間、その圧力を保持する。
【0044】
上記のプロセスのそれぞれに対して熱電体が使用され、保持時間は最も温度の低い熱電体及び最小圧力が得られた時に開始する。上記のプロセスのそれぞれにおいて、雰囲気はアルゴンガスを含む。上で特定されたプロセスパラメータは単なる例として提供されており、主張されている本発明は、特許請求の範囲において明示的に記載されていない限り、いずかの特定のプロセスに限定されないということを理解すべきである。
【0045】
HIP処理された基材の均質化は例えば、HIP処理された構成要素を、1216℃(2220°F)の温度まで少なくとも4時間、アルゴンの500〜700マイクロメートル分圧の雰囲気で加熱することと、1216℃(2220°F)から760℃(1400°F)まで最大8分で冷却すること(すなわち、8分で1216℃(2220°F)から760℃(1400°F)までの最小冷却速度)と、を含み得る。本明細書で使用される時に「均質化」は、熱処理プロセス(例えば、CoCr生成物となる表面アニール)が、グレイン境界面における連続的なブロック状のカーバイドもなく、かつ広範囲に拡がった熱誘導多孔性を有さずに、微細なカーバイドの分布を備えるオーステナイト系であるということを理解すべきである。また、本明細書で使用される時、「均質化」は、溶液処理又は溶液化などのプロセスを含み、一般的に「均質化」は、カーバイドの沈殿を金属基材における固溶体中に溶解させるいずれかのプロセスを含むということを理解すべきである。
【0046】
HIP及びHIP後の均質化プロセスに関して上記のプロセスパラメータは単に例として提供されており、本発明は、特許請求の範囲において明示的に記載されていない限り、いずれかの具体的なHIP又は均質化パラメータに限定されないとうことを理解すべきである。
【0047】
HIP処理され、かつ均質化された金属基材は次いでセラミックス材料(セラミックス材料の多層を含む)でコーティングされてもよいが、金属基材が、HIP処理及び均質化の前に機械的に処理されている場合は、機械的に処理されHIPされ、かつ均質化されたCo−28Cr−6Mo金属基材が、TiN、TiCN、TiN、TiCN及びAl2O3の組み合わせでその後コーティングされた時、コーティングの層の一部の金属基材への接着は最適ではない場合があるということを、本発明者らは見出だした。本発明者らは、HIP及び均質化処理前に、粗く研削され、CNC(コンピュータ数値制御)研削されている、HIP処理され、かつ均質化されたCo−28Cr−6Moが、金属基材の表面上に存在する再結晶粒(例えば図8A及び8Bに示されているような粒)を有したことを見出した。かかる再結晶粒はまた、金属基材の機械的な作業(例えば、アズキャスト構成要素を清浄するためのショットピーニング)を含む他のプロセスからも生じる場合がある。HIP及び均質化の前に、金属基材が機械的に作業される場合、金属基材は、HIP後及び均質化後に機械加工されるか、又は研削されて、再結晶粒を除去するのが好ましい。本発明者らは、金属基材と表面コーティングとの間の接着は、金属基材がHIP処理され、かつ均質化された後に、粗く、かつCNC研削工程を実施することによって改善され得るということを見出した。
【0048】
概して、HIP処理され、かつ均質化された基材の外面の約1/2〜1mmは、研削、機械加工、研磨、又は他の機械的なプロセスによって除去され、再結晶粒は除去されるべきであり、基材表面上には金属の母相が残り、より良い表面を提供して、セラミックスコーティングを受容し、これに接着する。基材の外面から、この量の材料を除去する任意の有効な機械加工、研削、又は研磨技法及び装置がこのプロセスの目的のために十分であるべきである。研削された/機械加工された表面は、平滑な鏡面仕上げ(例えば、コーティング前に.03又は.04マイクロメートルの表面粗さRaを有する;ISO 4287(1997)を参照)まで研磨されることが好ましい。
【0049】
金属基材における再結晶粒の存在は、金属基材上のセラミックスコーティングの成長速度を遅らせるように思われる。コーティングを形成するための固定されたプロセス時間に関して、セラミックスコーティングの少なくとも最初の層の厚さはしたがって、減少される場合があり、外側アルミナ層との、より弱い接着につながるように思われる。したがって、HIP処理され、かつ均質化された金属基材の外面の一部分を除去する代わりに、セラミックスコーティングの最初の層を形成するためのプロセスパラメータを調節することによって(例えば、最初の層(単数又は複数)を形成するためのプロセス時間を増加させることによって)、再結晶粒の悪影響は減少され得るということが期待される。
【0050】
上記のHIP処理プロセスはまた、有利なことに、アズキャスト金属基材の内部の多孔性を閉鎖させることができる。
【0051】
HIP処理され、均質化され、及び研削され/機械加工され/研磨された基材は次いで、セラミックス材料でコーティングされてもよい。セラミックスコーティング及び技法は、米国特許出願公開第2007/0078521(A1)号に記載されているように、二重層コーティングを生成し得る。あるいは、HIP処理され、均質化され、及び研削され/機械加工され/研磨された基材は、次いで、米国特許出願公開第2010/0129626(A1)号に記載されているように、セラミックスの複数の薄い層でコーティングされてもよい。セラミックスコーティングは、金属基材1を覆う3つの積み重ねられたバンド(図1の断面図で図示されている):金属基材1の上に形成された第1セラミックス層を含む第1バンド若しくは領域3;第1バンド3の上に形成された複数の薄いセラミックス層7を含む第2バンド若しくは領域5;並びに、セラミックスのより厚い層を含む最上位の、すなわち外側バンド若しくは領域9を含み得る。接着バンドを含む第4バンド、すなわち領域11は、第2バンド5と、最上位の、すなわち外側バンド9との間に提供されてもよく、接着バンドは、セラミックス材料の単一層を含んで、中間バンド5の最外側層7と、セラミックスコーティングの最上位、すなわち外側バンド9との間の接着を改善することができる。最外バンドの外面は研磨されて、仕上げられた整形外科用インプラント構成要素の関節面を画定することができる。
【0052】
好ましくは、第1バンド3、すなわち第1層は、TiN、TiCN、又はTiN及びTiCNの両方を含み、HIP処理され、均質化され、及び研削され/機械加工され/研磨された金属基材1の上に蒸着されて、中間バンド5が続き、第1バンド若しくは層3上に蒸着されたTiN、TiCN、又はTiN及びTiCNの両方の複数の薄い層(例えば7a〜7i)を含み、続いて、中間バンド5の最外層上に蒸着されたセラミックス材料の単一層を含む、より厚い外側バンド9が続く。
【0053】
第1セラミックスバンド3及び中間セラミックスバンド5を画定する層は、TiN、TiCN、又はTiN及びTiCNの両方を含み得る。第1バンド/層3がTiN、TiCN、又はTiN及びTiCNの両方のうちの1つを含む場合では、中間バンド5の最初の層7aは、TiN、TiCN、又はTiN及びTiCNとは異なるものを含むのが好ましい。中間バンド5の後に続く7b(そして以下のもの)は、第1バンド/層3、及び中間バンド5の層7a(そして以下のもの)の1つ以上の繰り返しを含んでもよい。本明細書で使用する時、異なる層の「繰り返し」である層は、一般に、異なる層と同じ化学組成、異なる層と同じ厚さ、又はその両方である。例えば、第1バンド/層3がTiNのみを含み、隣接層7aがTiCNのみを含む場合、これらの層3、7aの繰り返しである2つの後続層7b、7cは、TiN及びTiCNのみをそれぞれ含むであろう。後続層7b(そして以下のもの)の補足物の全体は、第1層3及び第2層7aの1つ以上の繰り返しを含んでもよく、あるいは後続層7b(そして以下のもの)の一部のみが第1層3及び第2層7aの1つ以上の繰り返しを含んでもよい。1つの実施形態では、第2層7aは第1層3とは異なり、後続層7b(そして以下のもの)の全てが第1層3及び第2層7aの繰り返しを含み、得られる構造体は、したがって第1層3の材料と第2層7aの材料との間で交互である層を含むであろう。この実施形態の好ましいバージョンでは、第1層3はTiNであり、第2層7aはTiCNであり、後続層7b(そして以下のもの)はTiN及びTiCNの交互層を含む。第1層3、第2層7a、及び少なくとも1つの後続層7b(そして以下のもの)の中で、層のうちの少なくとも1つがTiNを含み、隣接層の少なくとも1つがTiCNを含むことが好ましい。中間バンド5の最上層若しく最終層、すなわち少なくとも1つの後続層の最後は、TiN、TiCN、又はTiN及びTiCNの混合物を含んでもよい。
【0054】
最上の、すなわち外側のセラミックスバンド若しくは層9に使用される材料は、予想される軸受環境に応じて変化してもよい。例えば、インプラント構成要素が、ポリマー、例えば超高分子量ポリエチレンに接することが期待されている場合、最上の、すなわち外側セラミックスバンド若しくは層9は好ましくはアルミナを含んでもよい。構成要素が異なる材料(例えば他のセラミックスコーティングされている金属基材、又は金属若しくは他のセラミックスのような、より硬質な材料)に接し、並びにこのように、高い接触応力の用途に配置されることが期待されている場合、最上の、すなわち外側セラミックスバンド若しくは層9は、アルミナの代わりにTiN、TiCN、又はTiN及びTiCNの混合物を含んでもよい。
【0055】
他のセラミックス材料が、本発明において有用であり得るということが予測されるということを理解すべきである。例えば、炭化チタンTiCはセラミックスコーティングの一部として使用され得るということが理解される。したがって、本発明は、特許請求の範囲において明示的に指定されない限り、いずれかの具体的なセラミックス材料に限定されない。
【0056】
第1バンド若しくは層3の厚さは、約10マイクロメートル未満、約8マイクロメートル未満、約6マイクロメートル未満、約5マイクロメートル未満、約2〜3マイクロメートル、又は約2.5マイクロメートルであってもよい。好ましくは、第1バンド若しくは層3の厚さは約2〜3マイクロメートル、及び最も好ましくは約2.5マイクロメートルである。概して、第1セラミックスバンド3は、第2セラミックスバンド5の個々のセラミックス層7よりも厚いセラミックス層を含む。
【0057】
中間セラミックスバンド5は、第1セラミックスバンド若しくは層3の上に蒸着された複数の薄いセラミックス層7を含んでもよい。中間セラミックスバンド5の最初の層7aは、約1マイクロメートル未満、約0.75マイクロメートル未満、約0.5マイクロメートル未満、約0.3マイクロメートル未満、約0.2マイクロメートル未満、又は約0.1マイクロメートル未満の厚さを有してもよい。いくつかの実施形態では、第2バンド5の最初の層7aは、約0.1マイクロメートル、約0.2マイクロメートル、約0.3マイクロメートル、約0.5マイクロメートル、約0.7マイクロメートル、約0.8マイクロメートル、約0.9マイクロメートル、約1マイクロメートル、約2マイクロメートル、約3マイクロメートル、約4マイクロメートル、及び約5マイクロメートルの厚さを有してもよい。中間バンド5の最初の層7aは、好ましくは、第1バンド/層3のより小さい厚さを有するのが好ましい。中間セラミックスバンドは好ましくは、セラミックスの複数の薄い層を含み、セラミックスの2〜100の薄い層、セラミックスの2〜50の薄い層、セラミックスの5〜50の薄い層、セラミックスの10〜50層、セラミックスの20〜50層、又はセラミックスの30〜50層を含んでもよい。以下に図示されているように、改善された耐スクラッチ性は、セラミックスの約30層、並びに中間バンド5において、セラミックスの約50層を伴って達成され得る。
【0058】
あるいは、第2バンド5は、第1セラミックスバンド若しくは層3の上に蒸着された単一のセラミックス層を含んでもよい。例えば、第2バンド5は、約2.5マイクロメートル厚さを有するTiN、TiCN、又はTiN及びTiCNの混合物の単一層を含んでもよいが、第2バンドがセラミックスの複数のより薄い層を含む場合、最適な結果が得られると考えられる。
【0059】
最上の、すなわち外側のセラミックスバンド9は好ましくは、セラミックス材料のより厚い単一層を含む。最上の、すなわち外側セラミックスバンドは、例えば、約2マイクロメートル〜約15マイクロメートル、例えば約3マイクロメートル〜約15マイクロメートル、約4マイクロメートル〜約15マイクロメートル、約5マイクロメートル〜約15マイクロメートルの厚さを有するアルミナであってもよい。具体的な実施形態では、最上の、すなわち外側セラミックスバンド9は、約4〜7マイクロメートルの厚さである。最上の、すなわち外側セラミックスバンドは、例えば、アルミナ、TiN、TiCN、又はTiN及びTiCNの両方を含んでもよく、約1マイクロメートル、約2マイクロメートル、約3マイクロメートル、約4マイクロメートル、約5マイクロメートル、約6マイクロメートル、約7マイクロメートル、約8マイクロメートル、約9マイクロメートル、約10マイクロメートル、約12マイクロメートル、約15マイクロメートル、約17マイクロメートル、又は約20マイクロメートルの厚さを有してもよい。いくつかの実施形態では、最上の、すなわち外側セラミックスバンドは、セラミックスコーティングを画定する層全ての中で最も厚い。最外層の厚さは、例えば製造コスト、インプラントの種類、使用の環境、層の接着、固有層の耐久性、蒸着されたままの最外層の粗さ、及びコーティングを研磨する必要性等、当業者に理解しやすい多数の検討によって指示されてもよい。
【0060】
好ましくは、全体のセラミックスコーティング13(第1バンド3、第2バンド5、及び第3バンド9、並びに任意の接着バンド11)は、約8.5マイクロメートル〜20マイクロメートル、より具体的には約8.5マイクロメートル、及び約15〜16マイクロメートルの厚さを有する。セラミックスコーティングが厚すぎる場合、コーティングは機械的に機能しない場合があるということが見出されている。
【0061】
セラミックスコーティングのための厚さの例が以下の表に説明されている:
【表1】
【0062】
上記の厚さは有利な結果を提供することが期待されているが、本発明は、「特許請求の範囲」において明示的に指定されない限り、いずれかの具体的な厚さ、バンド若しくは層の数、又は具体的なバンド若しくは層の厚さに限定さないということを理解すべきである。本明細書で使用する時、全体のセラミックスコーティングの所与の層の「厚さ」は、その全域にわたる層若しくはコーティングの平均厚さを指し、層の「厚さ」が約1マイクロメートルである場合、厚さ1マイクロメートル未満の層の部分、及び/又は1マイクロメートルより厚いその層の部分が存在してもよいが、層の全域にわたる平均厚さは約1マイクロメートルとして算出され得る。
【0063】
本発明の金属基材調製プロセスは、金属基材上のセラミックスのバンド及び層を形成するために化学気相成長法(CVD)プロセスと併用して使用された場合に最も有利であるということが期待されている。所望の数、成分(constituency)、及び厚さの、コーティングを画定する層が一旦提供されると、コーティング分野の当業者(例えば、Ionbond AG Olten(Olten,Switzerland)、Seco Tools AB(Fagerstra,Sweden)、及びSandvik AB(Sandvik,Sweden))は、CVDプロセスパラメータ(例えば、温度、圧力、反応濃度(reactive concentration)、並びに加熱速度及び冷却速度)を容易に設定し、所望のとおり層を蒸着させるということが予想される。
【0064】
しかしながら、本発明は特許請求の範囲において明示的に規定しない限り、バンド若しくは層を蒸着させるためのCVDプロセスに限定されないということを理解すべきである。様々な技法(例えば物理気相成長、化学気相成長、及び溶射蒸着、例えばプラズマ溶射)は、セラミックスコーティングのバンド及び層を形成するのに有効であるが、プラズマ溶射を使用して、より薄い層のいくつかを形成することは難しい場合がある。本発明の任意の層の蒸着は、本明細書で提供するような、特徴、例えば厚さプロファイルを有する層を提供する任意の許容可能な技術に従って実施してもよい。それぞれのバンド及び層は、単一技術を使用して全て蒸着されてもよいが、異なるバンド及び層は異なる技術を使用して蒸着されてもよく、例えば、より厚い層は、「厚い」層の蒸着に好適な技術によって蒸着されてもよく、一方、より薄い層は、より薄い層の蒸着を達成できる技術により蒸着されてもよい。本発明の金属基材調製プロセスの利点は、セラミックスコーティングを蒸着させるのに使用される技法と共に、具体的には基材に隣接する最初のバンド3を蒸着させるのに使用される技法と共にいくぶん変化することが期待され得る。
【0065】
本発明のプロセス又は方法はまた、酸化アルミニウム(例えば、図1における層9)を含む少なくとも1つの層を蒸着させる前に、少なくとも1つの後続層の上に接着バンド若しくは層(図1におけるバンド11)を蒸着させることを含んでもよい。換言すれば、接着層11は、中間バンド5の最後の/最外層(例えば、図1における層7)の上に蒸着されてもよい。このような接着層はまた、アルミナ接着層、酸化物接着層、又はκ若しくはα核形成層としても知られており、酸化アルミニウム層と隣接する材料との間の接着強度を増大させる、及び/又は、所望の酸化アルミニウム結晶相の形成を促進するための使用が既に記載されている。酸化アルミニウムと本発明に従って使用され得る隣接する材料との間の接着層は、例えば、米国特許第4,463,062号、同第6,156,383号、同第7,094,447号、米国特許出願公開第2005/0191408号、及び、Zhi−Jie Liuらの、「Investigations of the bonding layer in commercial CVD coated cemented carbide inserts」(Surface & Coatings Technology 198(2005)161〜164)に記載されており、これらはそれぞれ全文がここに援用される。接着層は、元素の周期律表のIVa族、Va族又はVIa族の金属の酸化物、オキシカーバイド、オキシニトライド及びオキシカルボニトライドの1つ以上を含んでもよい。例えば、接着層は、酸化チタン、チタンオキシカーバイド、チタンオキシニトライド、及びチタンオキシカルボニトライドの1つ以上を含んでもよい。Cr2O3は、αアルミナのPVD蒸着のための接着層又はテンプレートとして使用されてもよいということが予測される。いくつかの実施形態では、接着層は、酸化物の混合物、例えば、酸化チタンの混合物のような、材料の混合物であってもよい。
【0066】
第1層、第2層及び少なくとも1層の後続層の蒸着に関して上述した任意の技術のような、接着層を蒸着させるための利用可能な技術は、当業者に理解されよう。例えば、化学蒸着を使用して、本発明による接着層を蒸着させてもよい。接着層は2マイクロメートル未満の厚さを有してもよく、1マイクロメートル未満、500ナノメートル未満、250ナノメートル未満、100ナノメートル未満、50ナノメートル未満、30ナノメートル未満、20ナノメートル未満、又は10ナノメートル未満の厚さを有してもよい。種々の企業(例えば、Ionbond AG Olten(Olten,Switzerland)、Seco Tools AB(Fagerstra,Sweden)、及びSandvik AB(Sandvik,Sweden))が、接着層を適用するサービスを提供しており、この目的のために連絡をとることができる。
【0067】
仕上げられた構成要素のコーティングを画定する層の成分及び厚さは、既知の技法、例えばTEM(透過電子顕微鏡、倍率10,000倍以上)、EDX(エネルギー分散X線分光法)、又はEELS(電子エネルギー損失分光法)などを使用して分析され得るということが予想される。
【0068】
図2及び3は、本発明の原理を使用して作製され得る整形外科用インプラント構成要素の例を示す。例えば、図2は、遠位大腿骨構成要素50が、脛骨軸受62(脛骨基部63上に受容されている)の関節面56、58に接するように設計されている関節面52、53、54、及び膝蓋骨インプラント構成要素66の関節面64を有する膝インプラントシステム48を図示する。このような環境では、膝蓋骨インプラント構成要素66の脛骨軸受62及び軸受面64が、酸化に対して安定化されている超高分子量ポリエチレンを含むことを期待する場合がある。大腿骨構成要素50の関節面52、53、54(顆状関節面52、53、及び顆間溝54の両方を含む)は、上記のように、HIP処理され、均質化され、研削され/機械加工され/研磨され、及びセラミックスコーティングされてもよい。ポリエチレン軸受構成要素を使用するそのようなインプラントシステムに関して、セラミックスコーティングの最上の、すなわち外側層は、有利なことにアルミナを含んでもよい。
【0069】
図3は、ステム72の近位端において関節ボール74を備える近位大腿骨ステム72、寛骨臼カップ76、及び寛骨臼軸受インサート78を含む臀部インプラントシステム70を示す。軸受インサート78の典型的な材料には、超高分子量ポリエチレン、金属(例えばコバルトクロム合金)、又はセラミックスが挙げられる。ステム72の近位端における関節ボール74の全体の外面全体は、有利なことにHIP処理され、均質化され、研削され/機械加工され/研磨され、及びセラミックスコーティングされてもよい。ボール74が、ポリマー軸受(例えば、UHMWPE)に対して関節をなすように設計されている場合、最上の、すなわち外側バンド又は層はアルミナを含んでもよい。ボール74が高い接触応力環境において動作するように設計されている場合(すなわち、高分子軸受構成要素というよりはむしろ、金属若しくはセラミックスなどの硬質軸受構成要素に対して関節をなすように)、最上の、すなわち外側に関して、他の硬質表面に対して最適な性能を提供する異なる材料、例えばTiN、TiCN、又はTiN及びTiCNの両方を使用することが望ましい場合がある。
【0070】
整形外科用インプラント、例えば図2及び3で図示されているものなど、並びに本発明によって処理されコーティングされた他の関節をなす整形外科用インプラントシステム(例えば肩インプラントシステム及び足首インプラントシステム)は、有利な特性:基材へのコーティングの改善された接着、並びに腐食、スクラッチ、及び磨耗に対する改善された耐性を有すると期待されている。コーティングは、インプラント構成要素の外面の部分を選択するために適用されてもよく、又はインプラント構成要素の全体の外面に適用されてもよく、例えば、他の構成要素の一部分と接する、又はこれに対して関節をなすインプラント構成要素の外面の一部分は、本発明の応用例及びその親応用例に教示されているように選択的にコーティングされてもよい、ということを理解すべきである。
【0071】
膝、臀部、肩、及び足首の整形外科用インプラント構成要素は、キットの形態で提供されてもよいということを理解すべきである。例えば、膝インプラントキットは、特定の患者に適合する様々なサイズで図2に図示されている要素の全てを含んでもよく、臀部インプラントキットは、特定の患者の必要性に適合する様々なサイズで図3に図示されている要素の全てを含んでもよい。
【0072】
サンプルの調製において使用される具体的なプロセス及びこれらのサンプルの少なくともいくつかで行なわれる試験が以下に記載されている。特に指示がない限り、サンプルは、インプラント構成要素というよりはむしろ、平坦なディスクから調製された。
【0073】
金属基材の調製
アズキャストCo−28Cr−6Moコバルトクロム合金のサンプル、並びにZr−Nb合金のサンプル及びチタン合金のサンプルを入手した。以下の表は、金属基材のための材料及び最初の調製パラメータを要約している。
【表2】
【0074】
以下の表は、コーティング前に金属基材の調製において使用されるいずれかの更なるプロセスを要約している。
【表3】
【表4】
【0075】
コーティング
コーティングは社外のベンダー、Ionbond Ag Olten(Olten,Switzerland)によって塗布された。
【0076】
以下の表はサンプルに適用されたコーティングの特性を要約している。
【表5】
【0077】
セラミックスでコーティングされたサンプルの大半は試験の前に研磨され、サンプル14、16、18及び20は試験の前に研磨されなかった。
【0078】
スクラッチ試験
スクラッチによる表面損傷に対する従来のコーティング及び本発明のコーティングの耐性を比較するために、CSM Revetest(登録商標)スクラッチテスター上で半径200マイクロメートルのダイヤモンド圧子チップを使用して、40Nの定荷重下(患者に移植されているインプラント上に作用すると予測されるスクラッチ荷重と比較して、比較的高い荷重)で、コーティングされたサンプル6、7、8、及び9の表面に沿って、長さ10mmのスクラッチを形成した。Smith,B.,Schlachter、A.、Ross,M.、及びErnsberger,C.の「Pin on Disc Wear Testing of a Scratched Engineered Surface」(Transactions 55thORS,No.2292,2009)を参照のこと。図6A〜6Eはこのスクラッチ試験の結果を示す。図6Aのサンプルは上記の表のサンプル9に一致し、図6Bのサンプルは上記の表のサンプル6に一致し、図6Cのサンプルは上記の表のサンプル8に一致し、図6Dのサンプルは上記の表のサンプル7に一致し、図6Eのサンプルは上記の表には示されていない。
【0079】
図6A〜6Eに示すように、試験の結果は、HIP処理され、均質化され、研削され、研磨され、次いでセラミックスの3つのバンド(セラミックスの50の薄い層を有する中間バンドを含む)でコーティングされたサンプル(サンプル9)の優れた機械的性能を明らかにした。
【0080】
サンプル6の構造体に対して(単一の厚さ2.5μmのTiNの内側バンド、TiCNの単一の厚さ2.5μmの層を含む第2バンド、及び厚さ5μmのアルミナの被覆層を含む外側バンド;そのような構造体は一般的にTiN及びTiCNの層の合計数に関して、本明細書で「二重層にされている」と一般的に呼ばれている)、亀裂及びアルミナ破砕(その全体が本明細書に援用されるASTM C1624−05仕様に従うLc2タイプの亀裂)が、スクラッチ長さ(図6B)に沿って一定のインターバルで発生したことが観察されたのに対して、サンプル9(図6A)の構造体ではLc2タイプの亀裂は観察されなかった。
【0081】
酸化されたサンプル8のZr−Nb合金(5μmの酸化物層)をこのような比較的高荷重でスクラッチすると(Zrは比較的柔軟性である)、試験による損傷の全長に沿ってスクラッチ溝内に基材材料が露出した(図6C:スクラッチの中心に白線として見える基材材料)。
【0082】
Ti−6Al−4V基材上のサンプル7の単層TiNコーティング(厚さ10μm、アーク蒸発PVDにより蒸着)の画像は、コーティング材料の大きな片がスクラッチ線に沿って除去され、基材材料が露出していることを示す(図6D)。
【0083】
ダイヤモンド様の炭素(DLC)コーティング(Richter Precision Inc.のMedikote(商標)C11材料、厚さ6μm、HIP処理され/均質化されたF75 CoCrMo基材上にPVDにより蒸着された)は、40Nの適用された荷重下で著しく削り取られた(図6E)。
【0084】
図7は、40Nの定荷重のスクラッチを通して、従来の及び本発明のコーティングの研磨された断面の、走査型電子顕微鏡(SEM)分析により得られた拡大像を提供する。サンプル9のコーティング(図7B)は、サンプル6の「従来のCVD」構造よりも、アルミナ保護膜層下のTiN/TiCN層内の微小亀裂の影響を非常に受けにくいことが明白であり、亀裂及びひびはTiN及びTiCN単層(図7A)内で観察された。
【0085】
スクラッチの光学解析に加えて、スクラッチはまたアコースティック的に解析されて、様々な荷重条件下で発生する、ASTM C1624−05に従うLc2チッピング又はバックリング破砕タイプの亀裂事象のアコースティックエミッションピーク特徴の数を決定した。研磨されたサンプルは、Buehler MetadiのダイヤモンドサスペンションをTexmetの紙と共に使用して研磨され(where polished)、研磨は9マイクロメートルのダイヤモンドサスペンションで開始され、6マイクロメートルのダイヤモンドサスペンションを経て、1マイクロメートルのダイヤモンドサスペンションで終了した。研磨されたサンプルは、光学的に平坦な仕上げまで研磨された。5つのスクラッチは0.25mm離間して配置され、各スクラッチは長さ10マイクロメートルであり、CSM Revetest(登録商標)スクラッチテスター上で半径200マイクロメートルのダイヤモンド圧子チップを使用して、1秒当たり1mmの速度で実施された。結果は以下のとおりである:
【表6】
【0086】
CSM Revetest(登録商標)スクラッチテスター上で半径200マイクロメートルのダイヤモンド圧子チップを使用し、ASTM C1624−05に従って、様々なサンプルの進行的な荷重スクラッチ試験もまた実施された。二重層のサンプルは内側バンド及び中間バンドを含み、これらの2つのバンドは、TiNの層及びTiCNの層を含み、これらの2つの層はAl2O3オーバーコートを含む外側バンドで被覆されている。多層コーティングサンプルは全て、外側バンドとして単一層の内側バンドTiN及びAl2O3オーバーコート上にコーティングされたTiN及びTiCNの50層を含む中間バンドを有した。結果は以下の表に表される。
【表7】
【0087】
これらの結果は、本発明のHIP処理され/均質化され/研削され/研磨された多層コーティングが、スクラッチにより誘発される損傷を最小限にし、従来のコーティングと比較して、マイクロ亀裂の発生を防ぐのにより有効であることを示す。
【0088】
サンプル1〜13は、腐食試験の準備において侵略的にスクラッチされていた。これらのサンプルに関して、5つの平行なダイヤモンド圧子のスクラッチの5つの繰り返し群のネットワークが、CSM Revetes(登録商標)スクラッチテスター上で半径200マイクロメートルのダイヤモンド圧子を使用して、腐食試験サンプル上で作られた。スクラッチは中心間で0.25mm離間された。5つの平行なスクラッチの各群は、図9A〜9Bに示されるような6、9、12、15、及び18Nのスクラッチ荷重で作製された。0.75mm離間された斜めのスクラッチは、6、9、及び12Nのスクラッチ荷重において、これらの平行なスクラッチネットワークの上に、かつこのネットワークに対して15°の角度で作られた。これらのスクラッチネットワークの代表的な顕微鏡写真(50倍)は、図9A〜9Bに示されている。これらのサンプルは、次いで以下に記載のように腐食試験がされた。
【0089】
腐食試験
最初に腐食試験に付された全てのサンプル(サンプル1〜13)は、上記のようにセラミックスコーティングの外面の上に付けられたスクラッチネットワークを有した。
【0090】
一部のサンプルの周期的な電位走査試験が実施された。試験はASTM F2129に記載されている方法と同様だった。平坦なセル及び飽和Ag/AgCl/KCl参照電極を備える生物学的VMP3定電位電解装置/定電流が使用された。サンプルのいくつかはスクラッチされ、37℃で25体積%の仔ウシ血清を有するハンクス溶液中で周期的に走査され、生体高分子の存在及び生体内で増加した粘性条件をシミュレーションした。研磨され、スクラッチされたサンプル上の、周期的な分極試験を実施する理論的根拠は、シミュレーションされた過剰の生体内の研磨スクラッチ損傷の存在におけるコーティング/基材システムの耐腐食性を測定することだった。
【0091】
各サンプルの試験領域は、開回路電位の安定を可能にするために、各走査前に1時間、電解質に浸漬された。周期的な分極走査は、0.166mV/秒(10mV/分)の走査速度で実施された。
【0092】
使用された溶液は、HyClone HyQハンクス溶液(パート番号SH30030)であり、以下の表に組成物が提示されており、25体積%のHyCloneの仔ウシ血清(パート番号SH30073.03)と混合した。ハンクス溶液に脱気は実施せず、この溶液はいずれの走査時前又は走査中もpH 7.4を有した。周期的な動電位走査において、各サンプルの試験領域は開回路電位の安定を可能にするために、各走査前に1時間、電解質に浸漬させた。
【表8】
【0093】
周期的な電位走査試験の結果は図10〜12に示されており、サンプル1〜5と共に図10に、サンプル6〜9と共に図11に、そしてサンプル9〜13と共に図12に示されている。
【0094】
図11から、ジルコニア(サンプル8)、2層のTiN/TiCN(サンプル6)、及びPVD TiN(サンプル7)と比べ、サンプル9はより低い電流レベルを有したということが分かる。図10から、しかしながら、結果は、アズキャスト金属基材上にコーティングされたTiN/TiCNサンプルで実質的に様々であるということが分かる。これと比較して、図12からは、HIP処理され、かつ均質化された多層サンプルに関して、ブレークダウン電流がはるかに一定であるということが分かる。総合すれば、周期的な電位走査試験は、基材がコーティング前にHIP処理され、均質化され、次いで研削された場合に、多層のサンプルが一貫してより耐腐食性であるということ、並びにこのHIP処理され、均質化され/研削された/多層サンプルが従来の二重層のサンプルよりも、より耐腐食性であるということを示している。
【0095】
ロックウェルC圧痕
ロックウェルC圧痕は、VDI 3198基準において指示されたように、コーティングされたサンプルの研磨された領域上に実施した。硬度を測定し、サンプルにおける変形パターンは、圧痕マークの周辺においていずれかの剥離/亀裂を検出するために光学的に分析した。硬度は一貫して約36〜40RHCであった(基材の材料に対して測定された値)。図13A及び13Bの比較は、従来の二重層コーティングと比較して、多層コーティングを備える圧痕の周辺において、コーティングの亀裂及びチッピングがはるかに少ないということを示している。Vidakis,N.、Antoniadis,A.、Bilalis,N.の「The VDI 3198 Indentation Test Evaluation of a Reliable Qualitative Control for Layered Compounds」(Journal of Materials Processing Technology 143〜144(2003),pp 481〜485)を参照のこと。サンプルは両方ともHIP処理され、かつ均質化され、次いでセラミックでコーティングされているCo−28Cr−Moから構成された。図13Aに示されているサンプルは、この基材上にセラミックスコーティングを含み、このコーティングは、TiNの内側バンド、TiN及びTiCNの薄い交互の多層を含む中間バンド、並びにAl2O3オーバーコートから構成されている。図13Bに示されるサンプルは、この基材上にセラミックスコーティングを含み、このコーティングはAl2O3オーバーコートを備えるTiN及びTiCNの2つの層を含む。
【0096】
TEM画像
図4A及び4Bは、従来の「二重層」コーティング(TiNの単一層を構成する内側バンド、及外側バンドとしてびAl2O3オーバーコートを備えるTiCNの単一層を含む中間バンド)の透過型電子顕微鏡(TEM)画像によって得られた写真を提供する。従来の構造では、TiN層及びTiCN層は両方約2.5μmの厚さを有し、Al2O3保護膜は約5μmの厚さを有する。二重層構造が、比較的大きな、縦横比の高い粒子のTiN及びTiCN(成長方向に2〜3マイクロメートル以下)からなることが観察された。
【0097】
図5A及び5Bは、金属基材上の本発明の多層TiN/TiCNコーティングのTEM画像を提供する。図5A及び5Bに示されたコーティングは、1μmの厚さを含むTiNの単一層を含む第1バンドと、第1TiNバンド/層の上部にTiCNの層(約〜0.1μmの厚さを有する)を含む第2バンドと、第2層の上部の交互には、TiN及びTiCNの交互の後続層とを含み、それぞれの後続層は約〜0.1μmの厚さを有する。多層構造体の中間バンドの合計厚さは約5μmである。この構造体はまた、約5μm(図5Aで見ることができる)の厚さを有するAl2O3オーバーコートを含む外側バンドを含む。明らかに従来の構造体と対照的に本発明の多層コーティングの画像では、TiN及びTiCNの粒子が、TiN/TiCN多層構造体内で別個の要素として区別できないほど小さいことが明らかになった。本発明の多層コーティング構造の非常に細かい、ランダムに配向された粒子により置換された、従来の二重層構造で、基材に対して垂直に成長する大きな針状粒子を有する状態の、微小構造及び粒子形態の改善が観察された。このような特徴は、本発明のHIP処理され/均質化され/研削された金属基材上の多層コーティングが、少なくともコーティングフィルム内の粒径を減少させ、モルホロジーを変化させることによって、破壊靱性及び微小亀裂の成長に対する耐性を高め得るということを示唆している。動作の任意の特定の理論に縛られるものではないが、本コーティングのより小さい、ランダムに配向された粒子構造が、コーティング中のTiN及びTiCNの異方性性質を除去することにより、機械的性能を向上させたかのようである。
【0098】
上記の試験が示すように、CoCrMo基材上に形成された多層の薄い層のバンドを含む積極的にスクラッチされたセラミックスコーティングは、セラミックス材料でコーティングされる前に、CoCrMo基材がHIP処理され、均質化され、研削され(粗く及びCNCで)、かつ研磨された時に、より大きな耐腐食性及び耐スクラッチ性を一貫して示す。整形外科用インプラント構成要素上にそのようなコーティングを使用することは、生体内でも同様に、改善された耐磨耗性を示すということが予想されている。更に、図9A及び9Bは、TiN及びTiCNの2層、並びにAl2O3オーバーコートを備える、より多くの従来のセラミックスコーティングされた基材でさえも、目に見える欠陥は、セラミックス材料で基材をコーティングする前に、HIP処理すること、均質化すること、研削すること(粗く及びCNCで)、及び研磨することによって低減することができるということを示す。この改善は、整形外科用インプラント構成要素に適用された時に同様に実現されるということが予測される。
【0099】
〔実施の態様〕
(1) HIP処理され、かつ均質化された金属の整形外科用インプラント構成要素を入手する工程と、
セラミックスコーティングを前記HIP処理され、かつ均質化された構成要素上に
前記セラミックスコーティングの第1バンドを、前記HIP処理され、かつ均質化された金属基材の上に蒸着させること、及び
前記セラミックスコーティングの第2バンドを、前記セラミックスコーティングの前記第1バンドの上に蒸着させること、によって蒸着させる工程と、を含む、整形外科用インプラント構成要素を作製する方法。
(2) 前記HIP処理され、かつ均質化された金属の整形外科用インプラント構成要素を入手する工程は、HIP処理され、かつ均質化された表面を備える金属の整形外科用インプラント構成要素を入手することであって、該表面から、HIP処理され、かつ均質化された金属の1/2〜1mmが、前記金属の整形外科用インプラント構成要素の少なくとも一部分から除去されている、こと、を含む、実施態様1に記載の方法。
(3) 前記HIP処理され、かつ均質化された金属の1/2〜1mmの少なくとも一部分は、以下の材料除去プロセス:研削、機械加工、及び研磨の少なくとも1つによって除去される、実施態様2に記載の方法。
(4) 前記第1バンドは、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方のCVD蒸着された複数層を含む、実施態様1に記載の方法。
(5) 前記第2バンドはアルミナを含み、該アルミナは、前記整形外科用インプラント構成要素の外側関節面を画定する、実施態様4に記載の方法。
(6) 前記第1バンドと、前記第2バンドの前記アルミナとの間に接着バンドを蒸着させる工程を更に含む、実施態様5に記載の方法。
(7) 前記第2バンドを蒸着させる工程は、複数層をCVD蒸着させることを含み、各層は窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む、実施態様4に記載の方法。
(8) 前記第2バンドを蒸着させる工程は、2〜100層をCVD蒸着させることを含み、各層は窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む、実施態様7に記載の方法。
(9) 前記第2バンドを蒸着させる工程は、2〜50層をCVD蒸着させることを含み、各層は窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む、実施態様8に記載の方法。
(10) 前記第2バンドを蒸着させる工程は、5〜50層をCVD蒸着させることを含み、各層は窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む、実施態様9に記載の方法。
【0100】
(11) 前記第2バンドを蒸着させる工程は、約30〜50層をCVD蒸着させることを含み、各層は窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む、実施態様10に記載の方法。
(12) 前記セラミックスコーティングの前記第2バンドの上に、前記セラミックスコーティングの第3バンドを蒸着させる工程を更に含む、実施態様7に記載の方法。
(13) 前記第3バンドがアルミナを含み、
前記アルミナが前記整形外科用インプラント構成要素の前記外側関節面を画定し、
前記第3バンドがCVD蒸着される、実施態様12に記載の方法。
(14) 前記第2バンドと、前記第3バンドの前記アルミナとの間に接着バンドを蒸着させる工程を更に含む、実施態様13に記載の方法。
(15) 前記第1バンドは、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方のCVD蒸着された複数の層を含む、実施態様3に記載の方法。
(16) 前記第2バンドはアルミナを含み、該アルミナが、前記整形外科用インプラント構成要素の前記外側関節面を画定する、実施態様15に記載の方法。
(17) 前記第1バンドと、前記第2バンドの前記アルミナとの間に接着バンドを蒸着させる工程を更に含む、実施態様16に記載の方法。
(18) 前記第2バンドが複数の層を含み、各層は窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む、実施態様17に記載の方法。
(19) 前記第2バンドを蒸着させる工程は、2〜100層をCVD蒸着させることを含み、各層は窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む、実施態様18に記載の方法。
(20) 前記第2バンドを蒸着させる工程は、2〜50層をCVD蒸着させることを含み、各層は窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む、実施態様19に記載の方法。
【0101】
(21) 前記第2バンドを蒸着させる工程は、5〜50層をCVD蒸着させることを含み、各層は窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む、実施態様20に記載の方法。
(22) 前記第2バンドを蒸着させる工程は、約30〜50層をCVD蒸着させることを含み、各層は窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む、実施態様10に記載の方法。
(23) 前記セラミックスコーティングの前記第2バンドの上に、前記セラミックスコーティングの第3バンドを蒸着させる工程を更に含む、実施態様22に記載の方法。
(24) 前記第3バンドがアルミナを含み、
前記アルミナが前記整形外科用インプラント構成要素の前記外側関節面を画定し、
前記第3バンドがCVD蒸着される、実施態様23に記載の方法。
(25) 前記第2バンドと、前記第3バンドの前記アルミナとの間に接着バンドを蒸着させる工程を更に含む、実施態様24に記載の方法。
(26) 外側関節面を有する第1構成要素と、該第1構成要素の前記外側関節面に対して関節接合するようなサイズにされ、かつそのように成形された外側軸受面を有する第2構成要素と、を含む、整形外科用インプラントのキットであって、
前記第1整形外科用インプラント構成要素が、デンドライト間カーバイドを実質的に含まない金属基材表面、及び前記金属基材上のセラミックスコーティングを含み、前記セラミックスコーティングが前記第1構成要素の前記外側関節面を画定し、
前記セラミックスコーティングが、約3マイクロメートル〜20マイクロメートルの合計厚さを有し、
前記セラミックスコーティングが、炭化チタン、窒化チタン、チタン炭窒化物、並びに窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方からなる群から選択される材料を含む、キット。
(27) 前記第2構成要素の前記外側軸受面が、金属、セラミックスコーティングされた金属、及びセラミックスからなる群から選択される材料によって画定され、
前記第1構成要素の前記セラミックスコーティングが、炭化チタン、窒化チタン、チタン炭窒化物、並びに窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方からなる群から選択される材料を含む、外面を有する、実施態様26に記載の整形外科用インプラントのキット。
(28) 前記セラミックスコーティングが、
前記基材表面を被覆する窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む、第1バンド、及び
前記第1バンドを被覆する窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方の複数層を含む、第2バンド、を含み、
前記第1バンドが、前記第2バンドにおける各層の厚さより大きい厚さを有する、実施態様26に記載の整形外科用インプラントのキット。
(29) 前記セラミックスコーティングが、前記第2バンドを被覆する窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む、第3バンドを含み、該第3バンドが、前記第2バンドにおける各層の厚さより大きい厚さを有する、実施態様28に記載の整形外科用インプラントのキット。
(30) 前記第3バンドが、約2〜15マイクロメートルの厚さを有する単一層を含む、実施態様29に記載の整形外科用インプラントのキット。
【0102】
(31) 前記セラミックスコーティングが、前記第2バンドを被覆するアルミナを含む、第3バンドを含み、該第3バンドは、前記第2バンドにおける各層の厚さより大きい厚さを有する、実施態様28に記載の整形外科用インプラントのキット。
(32) 前記第3バンドが、約2〜15マイクロメートルの厚さを有する単一層を含む、実施態様31に記載の整形外科用インプラントのキット。
(33) 前記第2バンドが、セラミックスの約2〜50層を含み、各層が窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む、実施態様28に記載の整形外科用インプラントのキット。
(34) 前記第2バンドが、セラミックスの約5〜50層を含み、各層が窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む、実施態様28に記載の整形外科用インプラントのキット。
(35) 前記第2バンドが、セラミックスの約30〜50層を含み、各層が窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む、実施態様28に記載の整形外科用インプラントのキット。
(36) 前記第2バンドが、セラミックスの複数の層を含み、各層が約0.5マイクロメートル未満の厚さを有する、実施態様28に記載の整形外科用インプラントのキット。
(37) 前記第2バンドが、セラミックスの複数の層を含み、各層が約0.2マイクロメートル未満の厚さを有する、実施態様28に記載の整形外科用インプラントのキット。
(38) 前記第1バンドが約2〜3マイクロメートルの厚さを有する、実施態様28に記載の整形外科用インプラントのキット。
(39) 前記第1バンドが約2.5マイクロメートルの厚さを有する、実施態様28に記載の整形外科用インプラントのキット。
(40) 前記セラミックスコーティングが10〜15マイクロメートルの合計厚さを有する、実施態様28に記載の整形外科用インプラントのキット。
【0103】
(41) 前記第1バンドが窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含むセラミックスの単一層を含み、該単一層が約2〜3マイクロメートルの厚さを有し、
前記第2バンドが、セラミックスの約30〜50層を含み、各層が窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含み、各層が約0.2マイクロメートル未満の厚さを有し、
前記セラミックスコーティングが、前記第2バンドを被覆するアルミナを含む第3バンドを含み、該第3バンドが約2〜10マイクロメートルの厚さを有する、実施態様40に記載の整形外科用インプラントのキット。
(42) 外側関節面を有する整形外科用インプラント構成要素であって、該整形外科用インプラント構成要素が、
金属基材表面と、
前記インプラント構成要素の前記外側関節面を画定する金属基材上のセラミックスコーティングであって、
前記金属基材表面を被覆する窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む、第1バンド、及び
前記第1バンドを被覆する窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方の複数の層を含む、第2バンド、を含む、セラミックスコーティングと、を含み、
前記セラミックスコーティングは、ASTM C1624−05に従うアコースティックエミッションによって測定された時、20Nの定荷重下で、半径200マイクロメートルのダイヤモンドスタイラスからの長さ10mmのスクラッチに関して、スクラッチの長さの1ミリメートル当たり、Lc2チッピング又はバックリング破砕のアコースティックエミッションピーク特徴を有さない一部分を含む、整形外科用インプラント構成要素。
(43) 前記セラミックスコーティングが、ASTM C1624−05に従うアコースティックエミッションによって測定された時、40Nの定荷重下で、半径200マイクロメートルのダイヤモンドスタイラスからの長さ10mmのスクラッチに関して、スクラッチの長さの1ミリメートル当たり、Lc2チッピング又はバックリング破砕の5より小さいアコースティックエミッションピーク特徴を有する一部分を含む、実施態様42に記載の整形外科用インプラント構成要素。
(44) 前記セラミックスコーティングが、ASTM C1624−05に従うアコースティックエミッションによって測定された時、40Nの定荷重下で、半径200マイクロメートルのダイヤモンドスタイラスからの長さ10mmのスクラッチに関して、スクラッチの長さの1ミリメートル当たり、Lc2チッピング又はバックリング破砕の2より小さいアコースティックエミッションピーク特徴を有する一部分を含む、実施態様42に記載の整形外科用インプラント構成要素。
(45) 前記セラミックスコーティングが、ASTM C1624−05に従うアコースティックエミッションによって測定された時、25Nの定荷重下で、半径200マイクロメートルのダイヤモンドスタイラスからの長さ10mmのスクラッチに関して、スクラッチの長さの1ミリメートル当たり、Lc2チッピング又はバックリング破砕のアコースティックエミッションピーク特徴を有さない一部分を含む、実施態様42に記載の整形外科用インプラント構成要素。
(46) 前記セラミックスコーティングが、ASTM C1624−05に従うアコースティックエミッションによって測定された時、28Nの定荷重下で、半径200マイクロメートルのダイヤモンドスタイラスからの長さ10mmのスクラッチに関して、スクラッチの長さの1ミリメートル当たり、Lc2チッピング又はバックリング破砕のアコースティックエミッションピーク特徴を有さない一部分を含む、実施態様42に記載の整形外科用インプラント構成要素。
(47) 前記セラミックスコーティングが、ASTM C1624−05に従うアコースティックエミッションによって測定された時、30Nの定荷重下で、半径200マイクロメートルのダイヤモンドスタイラスからの長さ10mmのスクラッチに関して、スクラッチの長さの1ミリメートル当たり、Lc2チッピング又はバックリング破砕のアコースティックエミッションピーク特徴を有さない一部分を含む、実施態様42に記載の整形外科用インプラント構成要素。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
HIP処理され、かつ均質化された金属の整形外科用インプラント構成要素を入手する工程と、
セラミックスコーティングを前記HIP処理され、かつ均質化された構成要素上に
前記セラミックスコーティングの第1バンドを、前記HIP処理され、かつ均質化された金属基材の上に蒸着させること、及び
前記セラミックスコーティングの第2バンドを、前記セラミックスコーティングの前記第1バンドの上に蒸着させること、によって蒸着させる工程と、を含む、整形外科用インプラント構成要素を作製する方法。
【請求項2】
前記HIP処理され、かつ均質化された金属の整形外科用インプラント構成要素を入手する工程が、HIP処理され、かつ均質化された表面を備える金属の整形外科用インプラント構成要素を入手することであって、該表面から、HIP処理され、かつ均質化された金属の1/2〜1mmが、前記金属の整形外科用インプラント構成要素の少なくとも一部分から除去されている、こと、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記HIP処理され、かつ均質化された金属の1/2〜1mmの少なくとも一部分が、以下の材料除去プロセス:研削、機械加工、及び研磨の少なくとも1つによって除去される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1バンドが、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方のCVD蒸着された複数の層を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第2バンドを蒸着させる工程が、複数の層をCVD蒸着させることを含み、各層が窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記第2バンドを蒸着させる工程は、2〜100層をCVD蒸着させることを含み、各層が窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第2バンドを蒸着させる工程が、2〜50層をCVD蒸着させることを含み、各層が窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第2バンドを蒸着させる工程は、約30〜50層をCVD蒸着させることを含み、各層が窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
アルミナを含む第3バンドを前記セラミックスコーティングの前記第2バンドの上に蒸着させる工程を更に含む、請求項5に記載の方法。
【請求項1】
HIP処理され、かつ均質化された金属の整形外科用インプラント構成要素を入手する工程と、
セラミックスコーティングを前記HIP処理され、かつ均質化された構成要素上に
前記セラミックスコーティングの第1バンドを、前記HIP処理され、かつ均質化された金属基材の上に蒸着させること、及び
前記セラミックスコーティングの第2バンドを、前記セラミックスコーティングの前記第1バンドの上に蒸着させること、によって蒸着させる工程と、を含む、整形外科用インプラント構成要素を作製する方法。
【請求項2】
前記HIP処理され、かつ均質化された金属の整形外科用インプラント構成要素を入手する工程が、HIP処理され、かつ均質化された表面を備える金属の整形外科用インプラント構成要素を入手することであって、該表面から、HIP処理され、かつ均質化された金属の1/2〜1mmが、前記金属の整形外科用インプラント構成要素の少なくとも一部分から除去されている、こと、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記HIP処理され、かつ均質化された金属の1/2〜1mmの少なくとも一部分が、以下の材料除去プロセス:研削、機械加工、及び研磨の少なくとも1つによって除去される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1バンドが、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方のCVD蒸着された複数の層を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第2バンドを蒸着させる工程が、複数の層をCVD蒸着させることを含み、各層が窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記第2バンドを蒸着させる工程は、2〜100層をCVD蒸着させることを含み、各層が窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第2バンドを蒸着させる工程が、2〜50層をCVD蒸着させることを含み、各層が窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第2バンドを蒸着させる工程は、約30〜50層をCVD蒸着させることを含み、各層が窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
アルミナを含む第3バンドを前記セラミックスコーティングの前記第2バンドの上に蒸着させる工程を更に含む、請求項5に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図6E】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図6E】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【公開番号】特開2012−110704(P2012−110704A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−252319(P2011−252319)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(501384115)デピュイ・プロダクツ・インコーポレイテッド (216)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252319(P2011−252319)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(501384115)デピュイ・プロダクツ・インコーポレイテッド (216)
【Fターム(参考)】
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