説明

セラミック電子部品の製造方法

【課題】ガラスセラミックチップのチッピング及び飛散を抑制することが可能なセラミック電子部品の製造方法を提供すること。
【解決手段】ガラスセラミックチップを具備するセラミック電子部品の製造方法であって、台座2に貼り付けた粘着シート4上に固定したガラスセラミック基板6の片面のみに、刃先がテーパー状である第一ダイシングブレード8を用いてV字形の溝12を形成する工程と、刃幅が溝の幅よりも小さい第二ダイシングブレードを、粘着シート4上に固定されたガラスセラミック基板6の溝12内に当接させて、ガラスセラミック基板6を完全に切断して、ガラスセラミックチップを形成する工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の製造では、その生産性を高めるために、基板上に回路を形成又は埋設したり、部品を実装したりする工程の後で、基板を分割して最終的な製品を形成する。つまり、基板を切断して、所定の形状のチップへ個片化する。このような切断工程によれば、半導体素子等の部品が実装されたチップ、電気回路が埋設されたチップ、薄膜回路が形成されたチップ、等の微小な電子部品を大量に生産することができる。
【0003】
一般的に、電子部品用の基板はダイシング(回転するダイシングブレードによる切断)によってチップへ個別化される。このダイシングの最中にダイシングブレードの切断力が低下した場合、基板のダイシングブレードとの接触部分が良好に切削されずに基板に掛かる負荷が増大する。この負荷によってチッピング(微細な欠け)やクラック(ひび、割れ)等の不具合がチップに発生する。この不具合を解決するための方法として、下記特許文献1には、ガラス基板の両面をダイシングブレードで加工する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−141646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ガラスとフィラーとを含む組成物からなるガラスセラミック基板は、セラミック電子部品を構成する母基板として用いられる。本発明者らの研究の結果、上記特許文献1の技術と同様に、ガラスセラミック基板の両面に溝を形成して基板を切断してガラスセラミックチップを形成すると、クラックが十分に抑制されず、また回転するダイシングブレードの力を受けたガラスセラミックチップが飛散してしまうことが判明した。これは、ガラスセラミック基板が従来のガラス基板よりも脆いことに起因する、と本発明者らは考える。
【0006】
ガラスセラミックチップから構成される配線基板の機械的な強度・信頼性は、微小なチッピングによって低下する。また、ガラスセラミックチップがその表面に配線パターンや端子を有する場合、チッピングは配線パターンの欠陥や端子の接続不良の要因となる。さらに、チップの飛散はセラミック電子部品の生産性を低下させる。
【0007】
近年、電子部品の小型化が著しいため、ガラスセラミックチップの小型化も要求されている。しかし、ガラスセラミックチップが小型化するほど、切断工程における基板とダイシングブレードとの位置合わせが困難になり、チッピングやチップの飛散が発生し易くなる。したがって、ガラスセラミックチップの小型化に伴って、チッピングや飛散を抑制することが強く要求される。
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、ガラスセラミックチップのチッピング及び飛散を抑制することが可能なセラミック電子部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係るセラミック電子部品の製造方法は、ガラスセラミックチップを具備するセラミック電子部品の製造方法であって、台座に貼り付けた粘着シート上に固定したガラスセラミック基板の片面のみに、刃先がテーパー状である第一ダイシングブレードを用いてV字形の溝を形成する工程と、刃幅が溝の幅よりも小さい第二ダイシングブレードを、粘着シート上に固定されたガラスセラミック基板の溝内に当接させて、ガラスセラミック基板を完全に切断して、ガラスセラミックチップを形成する工程と、を備える。
【0010】
上記本発明によれば、ガラスセラミックチップのチッピング及び飛散を抑制することが可能となる。
【0011】
上記本発明では、粘着シートが熱発泡シートであることが好ましい。熱発泡シートを用いれば、ガラスセラミックチップのチッピング及び飛散を抑制し易くなる。
【0012】
上記本発明では、V字形の溝の角度が90〜120°であることが好ましい。これにより、ガラスセラミックチップのチッピングを抑制し易くなる。なお、V字形の溝の角度とは、溝の側面がなす角度である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ガラスセラミックチップのチッピング及び飛散を抑制することが可能なセラミック電子部品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係るセラミック電子部品の製造方法を示す図であり、台座、粘着シート、ガラスセラミック基板及び第一ダイシングブレードの概略断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るセラミック電子部品の製造方法を示す図であり、台座、粘着シート、ガラスセラミック基板及び第一ダイシングブレードの概略断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るセラミック電子部品の製造方法を示す図であり、台座、粘着シート、ガラスセラミック基板及び第二ダイシングブレードの概略断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るセラミック電子部品の製造方法を示す図であり、台座、粘着シート、ガラスセラミック基板及び第二ダイシングブレードの概略断面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るセラミック電子部品の製造方法によって切断されたガラスセラミック基板(ガラスセラミックチップ)の概略上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な一実施形態について詳細に説明する。なお、図面において、同一又は同等の要素については同一の符号を付す。また、上下左右の位置関係は図面に示す通りである。また、説明が重複する場合にはその説明を省略する。本発明は下記の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
以下では、第一ダイシングブレードを用いてガラスセラミック基板の片面のみにV字形の溝を形成する工程を、「溝形成工程」と記す。また、第二ダイシングブレードを用いてガラスセラミック基板を完全に切断してガラスセラミックチップを形成する工程を、「切断工程」と記す。
【0017】
本実施形態に係るセラミック電子部品の製造に用いるガラスセラミック基板6は、ガラスと、ガラスの中に分散されたアルミナフィラー等のセラミックスフィラーとを含有する。セラミックスフィラーの含有により、ガラスセラミック基板6の機械的強度は、アルミナフィラーを含有しない従来のガラス基板よりも高くなる。つまり、ガラスセラミック基板6では、従来のガラス基板に比べて、切断し難く、また切断時にクラック(ひび、割れ)の発生や伝播が抑制される。一方、ガラスセラミック基板6は、ガラス成分とセラミックスフィラーと混合物を焼結させることにより形成される多結晶体であるため、非晶質である従来のガラス基板よりも硬くて脆い。つまり、ガラスセラミック基板6では、従来のガラス基板に比べて、切断時にチッピングが発生し易い。
【0018】
ガラスセラミック基板6の原料であるガラス成分としては、例えば、非晶質ガラス系材料及び結晶化ガラス系材料の少なくとも1種からなるガラス粉末が挙げられる。結晶化ガラス系材料は、加熱焼成時に多数の微細な結晶がガラス成分中に析出した材料である。ガラス成分としては、結晶化ガラス系材料が好ましい。結晶化ガラス系材料としては、例えば、SiO、B、Al及びアルカリ土類金属酸化物を含有するガラス、又はSiO、CaO、MgO、Al及びCuOを含有するディオプサイド結晶ガラスを用いることができる。
【0019】
ガラスセラミック基板6が含有するセラミックスフィラーとしては、例えば、アルミナ、マグネシア、スピネル、シリカ、ムライト、フォルステライト、ステアタイト、コージェライト、ストロンチウム長石、石英、ケイ酸亜鉛、ジルコニア及びチタニアからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物から形成された球状又は板状のフィラーが挙げられる。特にガラスセラミック基板6が板状アルミナフィラーを含有することが好ましい。これにより、ガラスセラミック基板6の強度が特に向上する。板状アルミナフィラーの含有量は、ガラスと板状アルミナフィラーの合計量に対して、好ましくは20〜35体積%であり、より好ましくは22.5〜35体積%である。ガラスセラミック基板6の強度を一層高くする観点から、ガラスセラミック基板6が含む全セラミックスフィラーに占める板状アルミナフィラーの割合は80体積%以上であることが好ましい。
【0020】
ガラスセラミック基板6の寸法は、縦100〜200mm×横100〜200mm×厚さ0.1〜1.0mm程度である。
【0021】
セラミック電子部品の製造では、その生産性を高めるために、ガラスセラミック基板6上に回路を形成又は埋設したり、部品を実装したりする工程を実施した後に、溝形成工程及び切断工程を実施してガラスセラミック基板6をガラスセラミックチップ6aに分割する。
【0022】
図1に示すように、溝形成工程では、真空吸着により固定されたダイシング装置のステージ2(台座)に、ガラスセラミック基板6が接着された粘着シート4を固定する。
【0023】
溝形成工程では、粘着シート4上に固定されたガラスセラミック基板の粘着シート4とは反対側の片面に、回転する円形の第一ダイシングブレード8の刃先を押し当てる。第一ダイシングブレード8の刃先10はテーパー状である。つまり、第一ダイシングブレード8の刃先10の断面はV字形に尖っている。このような刃先を有する第一ダイシングブレード8を用いることにより、ガラスセラミック基板6の表面に図2に示すようなV字形の溝12(以下、「V溝12」と記す。)を形成する。溝形成工程では、粘着シート4上に固定されたガラスセラミック基板6の粘着シート4とは反対側の片面だけにV溝12を形成する。
【0024】
図2に示すV溝12の角度Dは90〜120°であることが好ましい。これにより、図5に示すガラスセラミックチップ6aの周縁部に形成されるチッピング(欠け)16の大きさCを小さくすることが可能となる。なお、ガラスセラミックチップ6aのチッピング16の大きさCとは、ガラスセラミックチップ6aの端部(辺)に垂直な方向におけるチッピング16の幅を意味する。換言すれば、チッピング16の大きさCとは、ガラスセラミック基板6の切断線(V溝6の長軸)に垂直な方向におけるチッピング16の幅である。V溝12の角度Dは、第一ダイシングブレード8の刃先10の角度によって適宜調整すればよい。
【0025】
図2に示すV溝12の幅Wは、ガラスセラミック基板6の寸法及び厚さ、並びにガラスセラミックチップ6aの寸法に応じて適宜調整すればよいが、0.05〜0.15mm程度である。V溝12の幅Wは、切断工程における切断しろの幅Mにほぼ対応する(図5参照。)。V溝12の深さは、角度D及び幅W、切り込み量等に応じて決定されるが、ガラスセラミック基板6の厚さ又は組成に応じて適宜設定すればよい。V溝12の幅W及びの深さは、第一ダイシングブレード8の刃先10の厚さ、又は刃先10と台座2又はガラスセラミック基板6との距離等によって適宜調整すればよい。V溝12の数、間隔及び配置は、得たいガラスセラミックチップ6aの寸法及び数等に応じて適宜調整すればよい。例えば、正方形又は長方形のガラスセラミックチップ6aを形成する場合は、ガラスセラミック基板6に複数のV溝12を格子状に形成すればよい(図5参照。)。
【0026】
溝形成工程で用いる第一ダイシングブレード8は、ガラスセラミック基板6aよりもよりも硬い金属等の材料からなるものを用いればよい。第一ダイシングブレード8の刃先10の厚さは0.1〜0.3mm程度である。V溝12の形成速度は1〜10mm/sec程度である。第一ダイシングブレード8の回転数及びV溝12の形成速度が増加するほど、チッピングが発生し易くなる。
【0027】
図3に示すように、切断工程では、第一ダイシングブレード8に代えて、刃幅がV溝の幅Wよりも小さい円形の第二ダイシングブレード14を用いる。これにより、回転する第二ダイシングブレード14の刃先を、粘着シート4上に固定されたガラスセラミック基板6のV溝12の内側の側面に当接させることができる。その結果、図4及び5に示すように、ガラスセラミック基板6をV溝12に沿って完全に切断して、複数のガラスセラミックチップ6aを形成することが可能となる。以上の工程によって、半導体素子等の部品が実装されたガラスセラミックチップ6a、電気回路が埋設されたガラスセラミックチップ6a、又は薄膜回路が形成されたガラスセラミックチップ6a等のセラミック電子部品を大量に生産することができる。
【0028】
ガラスセラミックチップ6aの寸法は、縦0.6〜3.2mm×横0.3〜1.6mm×厚さ0.1〜1.0mm程度である。
【0029】
切断工程で用いる第二ダイシングブレード14は、ガラスセラミック基板6aよりも硬い金属等の材料からなるものを用いればよい。第二ダイシングブレード14の刃先の厚さは、V溝の幅Wよりも小さければよく、0.05〜0.15mm程度である。基板の切断速度は1〜10mm/sec程度である。第二ダイシングブレード14の回転数及び切断速度が増加するほど、チッピングやチップの飛散が発生し易くなる。
【0030】
粘着シートは、一般的に、フィルム(基材)と、フィルム上に形成された接着性樹脂からなる粘着層とからなるシートである。粘着シートとしては、UVテープ又は熱発泡シート等を用いればよい。また、ガラスセラミック基板に塗布したワックスも、粘着材(粘着シート)として機能する。なお、図1〜5に示す粘着シート4とは、粘着層を示すものである。
【0031】
熱発泡シートは、常温では被接着物と面接触して接着力を示し、特定の温度で加熱されると発泡して被接着物と点接触するようになり、その接着力が低下する。熱発泡シートにより台座2に接着されたガラスセラミック基板6又はガラスセラミックチップ6aを台座2から剥離させるときには、熱発泡シートを加熱すればよい。
【0032】
熱発泡シートは、加熱により気化する化合物又は気体を発生させる化合物を含有する含有する高分子接着剤(熱可塑性高分子)のシートである。熱可塑性高分子としては、例えば、ポリウレタン樹脂、アクリル酸エステル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ラテックス、これらの変性物、及びこれらの共重合物等が挙げられる。加熱により気化する化合物としては、石油系エーテル等の低沸点の炭化水素が挙げられる。加熱により気体(例えばCO)を発生させる化合物としては、炭酸塩または重炭酸塩等が挙げられる。
【0033】
粘着シートの中でも熱発泡シートが最も好ましい。常温下の熱発泡シートは、他の粘着シートに比べて硬く、その厚みが均一である。そのため、熱発泡シートは、ガラスセラミック基板6及び台座2と隙間を形成することなく密着する。そのため、溝形成工程及び切断工程において、ガラスセラミック基板6は台座2上に強固に保持され、位置ずれや剥離を起こし難い。そのため、溝形成工程で形成されるV溝の幅Wが安定する。そして、切断工程において、ガラスセラミック基板6がV溝に沿って正確に切断されるため、ガラスセラミックチップのチッピング及び飛散が抑制され易くなる。
【0034】
UVテープとは、常温では接着力を有し、紫外線(UV)を照射するとその接着力が急激に弱くなる樹脂と基材から構成される。UVテープにより台座2に接着されたガラスセラミック基板6又はガラスセラミックチップ6aを台座2から剥離させるときには、UVテープにUVを照射すればよい。ただし、UVテープの粘着力はUV照射後に残る場合がある。1005よりも小さな寸法のセラミック電子部品を製造するためには、それに応じてガラスセラミック基板6を複数の小さいガラスセラミックチップ6aへ分離する必要がある。このように小さいガラスセラミックチップ6aを粘土着力が残るUVテープから個別に分離することには手間が掛かる。また、UVテープの樹脂は、その柔らかさ(弾性)のため、熱発泡シートよりも歪みやすい。そのため、UVテープを用いた場合、熱発泡シートを用いた場合に比べてガラスセラミック基板6が位置ずれし易く、チッピングが発生し易い。
【0035】
ワックスは、加熱することによりその粘度が低下する蝋状の樹脂である。ワックスを用いる場合、まず、加熱したワックス均一に加重をかけながら、ワックスをガラスセラミック基板6上で広げて、シート状に成形する。このワックスが塗布されたガラスセラミック基板6の表面を台座2に密着させる。この際、ワックスを加熱し、台座2とガラスセラミック基板6(に塗布されたワックス)との間に気泡を入れないように両者を接着する。接着後、常温下で溝形成工程及び切断工程を実施する。ワックスにより台座2に接着されたガラスセラミック基板6又はガラスセラミックチップ6aを台座2から剥離させるときには、ワックスを溶剤等で溶解して除去すればよい。
【0036】
ワックスを粘着材として用いる場合、ワックスの厚さが、熱発泡シートよりもばらつき易い。ばらつきが著しい場合、溝形成工程において形成されるV溝12の幅Wや深さがばらつき、切断工程において第二ダイシングブレードの刃先がV溝12に当たり難くなる。その結果、チッピングが発生することがある。したがって、ワックスを粘着シートとして用いる場合、ワックスを均一な厚さに成形する必要がある。また、得られたガラスセラミックチップからワックスが除去されない場合、ガラスセラミックチップに残存するワックスが、セラミック電子部品又はその製造過程に悪影響を及ぼす場合がある。よって、ガラスセラミックチップからワックスを完全に除去する必要がある。
【0037】
本実施形態では、溝形成工程において、傾斜面を有するV溝12を形成する。すなわち、V溝12では、通常のU字型の溝とは異なり、溝の両端が面取りされている。切断工程では、両端が面取りされたV溝12内にV溝12の幅よりも刃先が薄い第二ダイシングブレード14を当接することによって、ガラス基板よりも脆いガラスセラミック基板を、チッピングの発生を抑制しつつ切断することが可能となる。よって、セラミック電子部品の生産性が向上する。仮に、切断工程で刃先の厚さがV溝12の幅と同等以上のダイシングブレードを用いると、V溝12の両端でチッピングが発生し易くなる。
【0038】
本実施形態では、溝形成工程において、真空吸着により固定されダイシング装置のステージ2上に粘着シート4によって接着・固定されたガラスセラミック基板6の片面のみに、V溝12を形成する。そして、切断工程でも、V溝12が形成されたガラスセラミック基板6の片面のみに第二ダイシングブレード14を当接する。つまり、本実施形態では、溝形成工程及び切断工程において、ガラスセラミック基板6のV溝12が形成される面と反対側の平坦な面の全体は常に粘着シート4と密着している。これにより、ガラスセラミック基板6が安定する。そのため、溝形成工程及び切断工程においてガラスセラミック基板6がダイシングブレードから力を受けたとしても、ガラスセラミック基板6の位置がずれ難い。その結果、溝形成工程及び切断工程において、所定の位置へ正確にダイシングブレードを当接することが可能となり、チッピングやチップの飛散が抑制される。
【0039】
従来の基板の切断方法では、硬く切り難い状態の基板の切断に伴うチッピングを防止するために、基板の材質に適合する材質のブレードを選定し、ゆっくりとした切断速度で基板を切断していた。そのため、電子部品の生産性が落ちてしまうことが問題であった。それにもかかわらず、従来の切断方法では、切断された製品(チップ)のエッヂに多くのチッピングが発生していた。したがって従来は、製品(チップ)の設計の時点で、予めチッピングの大きさを考慮し、製品の外周に切断用のマージンを広めに設定して、製品(チップ)の品質へのチッピングの影響を防止していた。一方、本実施形態では、上記従来技術ほどダイシングブレードの材質を限定することなく、チッピングを抑制することが可能である。また、本実施形態では、チッピングを抑制しつつ、従来技術よりも切断速度を速めて生産性を向上させることが可能である。さらに、本実施形態では、従来技術よりもチッピングの大きさが小さくなるため、ガラスセラミック基板に設ける切断用のマージンMを狭めることができ、ガラスセラミック基板の無駄を抑制できる。
【0040】
本実施形態では、溝形成工程及び切断工程において、2種類のダイシングブレードを使い分け、V溝12を形成した後でガラスセラミック基板6を完全に切断する。そのため、本実施形態によれば、V溝12を形成しない場合や、1種類のダイシングブレードだけを用いる場合に比べて、各ダイシングブレードへ係る負荷が低減され、各ダイシングブレードの耐久性が向上する。仮に溝形成工程を実施することなく、1回の切断工程で基板を完全に切断する場合、切断時の切削抵抗が大きくなりチッピングが発生し易くなる。また、基板の切断を2回にわけて行ったとしても、本実施形態のような溝形成工程を実施しない限り、チッピングの発生を十分に抑制することは困難である。
【0041】
従来のダイシング法によってガラスセラミック基板を切断する場合、セラミックフィラーを含有するガラスセラミック基板はガラス基板よりも硬いため、基板の切削に伴ってダイシングブレードの砥粒がすぐに磨耗したり、ダイシングブレードに基板の切削屑が付着して目詰まりが発生したりする。その結果、ダイシングブレードの切断力が低下して、切断加工時にダイシングブレードに掛かる負荷が大きくなり、ダイシングブレードが破壊されたり、頻繁にダイシングブレードを交換しなければならなくなったりするという問題があった。本実施形態ではこれらの問題が起き難い。
【0042】
仮にガラスセラミック基板6の両面にV溝12を形成する場合、つまり溝形成工程を2回実施する場合、2回目の溝形成工程では、必然的に、ガラスセラミック基板6の溝が形成された表面を粘着シート4に対向させ、密着させる。しかし、ガラスセラミック基板6の表面において溝が形成された部分は粘着シート4と密着しない。この場合、ガラスセラミック基板6と粘着シート4との接触面積が本実施形態よりも小さくなり、ガラスセラミック基板6の粘着シート4に対する固着力が小さくなる。そのため、ガラスセラミック基板6が不安定になり、溝形成工程及び切断工程においてガラスセラミック基板6が位置ずれし易くなる。その結果、所定の位置へ正確にダイシングブレードを当接することが困難になり、チッピングやチップの飛散が発生し易くなる。
【0043】
仮にガラスセラミック基板6の両面にV溝12を形成する場合、各面に形成されるV溝12の位置を合わせる必要がある。しかし、ガラスセラミックチップ6a(セラミック電子部品)が小型化するほど、V溝12の幅や間隔も小さくなるため、V溝12の位置合わせが困難になる。そのため、ガラスセラミックチップ6aが小型化するほど、両面の切断線が重なり難くなり、チッピングやチップの飛散が発生し易くなる。一方、本実施形態では、ガラスセラミック基板6の片面のみにV溝12を形成するため、ガラスセラミック基板6の両面のV溝12の位置を合わせが不要である。そのため、ガラスセラミックチップ6aが小型化したとしても、チッピングやチップの飛散を抑制することが可能となる。
【0044】
仮にガラスセラミック基板6の両面にV溝12を形成する場合、少なくとも2回目の溝形成工程と1回の切断工程とが必要であるため、溝形成工程及び切断工程をそれぞれ1回ずつ実施する本実施形態に比べて工程数が多く、生産性が低くなる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
ガラス(SiO)と、ガラスの中に分散されたアルミナフィラー(Al)とからなるガラスセラミック基板を準備した。ガラスセラミック基板におけるアルミナフィラーの含有率は30質量%に調整した。ガラスセラミック基板の寸法は、縦150mm×横150mm×厚さ0.2mm程度であった。
【0047】
<溝形成工程>
真空吸着により固定されたダイシング装置のステージに、両面が平坦なガラスセラミック基板が接着された熱発泡シートを固定した。熱発泡シートの厚さは0.145mmであった。
【0048】
熱発泡シート上に固定されたガラスセラミック基板の熱発泡シートとは反対側の片面のみに、刃先がテーパー状である円形の第一ダイシングブレードを用いて、複数のV溝を格子状に形成した。V溝の間隔は縦1.0mm×横0.5mmに設定した。
【0049】
第一ダイシングブレードとしては、以下の仕様のものを用いた。また、第一ダイシングブレードを用いた上記溝形成工程の諸条件は以下の通りとした。なお、下記の幅とは、第一ダイシングブレードのテーパーのついていない部分の厚み(ブレード幅)を意味する。また、下記の切り込みとは、ガラスセラミック基板の平坦な表面からV溝の先端(底)までの距離を意味する。
材質:金属。
砥粒の粒度:800μm。
ブレード径:54mm。
第一ダイシングブレードの刃先の角度:60°。
幅:0.3mm。
切り込み:0.08mm。
フランジ外径:52mm。
ブレードの回転数:30000rpm。
V溝の形成速度:3mm/sec。
【0050】
V溝の幅Wは0.10mmに調整した。V溝の角度Dは、第一ダイシングブレードの刃先の角度と同様に、60°であることが確認された。
【0051】
<切断工程>
第一ダイシングブレードに代えて、刃幅がV溝の幅Wよりも小さく、刃先がテーパー状でない円形の第二ダイシングブレードを準備した。回転する第二ダイシングブレードの刃先を、粘着シート上に固定されたガラスセラミック基板のV溝の内面に当接させ、ガラスセラミック基板をV溝に沿って完全に切断した。これにより、複数のガラスセラミックチップを作製した。得られたガラスセラミックチップの寸法は、縦1.0mm×横0.5mm×厚さ0.2mmであった。
【0052】
第二ダイシングブレードとしては、以下の仕様のものを用いた。また、第二ダイシングブレードを用いた上記切断工程の諸条件は以下の通りとした。
材質:金属。
砥粒の粒度:800μm。
ブレード径:54mm。
幅(第二ダイシングブレードの厚み):0.07mm。
フランジ外径:52mm。
ブレードの回転数:30000rpm。
切断速度:3mm/sec。
【0053】
(実施例2〜4)
溝形成工程において表1に示す仕様の第一ダイシングブレードを用いたこと以外は実施例1と同様の方法で、実施例2〜4のガラスセラミックチップを作製した。
【0054】
(比較例1)
溝形成工程において用いた第一ダイシングブレードの刃先がテーパー状でなかったこと以外は実施例1と同様の方法で、比較例1のガラスセラミックチップを作製した。
【0055】
(比較例2)
溝形成工程において用いた第一ダイシングブレードの刃先がテーパー状でなかったこと以外は実施例4と同様の方法で、比較例2のガラスセラミックチップを作製した。
【0056】
(比較例3)
比較例3では、実施例2と同様の方法で溝形成工程を実施した後、ガラスセラミック基板を熱発泡シートから一旦剥離した。V溝が形成された側のガラスセラミック基板の表面(第1表面)を、ワックスを介してガラス基板上に接着した後、ガラスセラミック基板が接着された側とは反対側のガラス基板の表面をダイシング装置のステージ上に固定した。そして、V溝が形成された側とは反対側のガラスセラミック基板の表面(第2表面)に、第1表面に対する溝形成工程と同様の方法で、V溝を形成した。このとき、第1表面側のV溝と第2表面側のV溝とが重なるように基板の位置を調整した。
【0057】
ガラスセラミック基板の両面にV溝を形成した後、熱発泡シートにガラスセラミック基板のV溝が形成された片面を圧着して、ガラスセラミック基板が接着された熱発泡シートをダイシング装置のステージに固定した。そして、実施例2と同様の方法で、ガラスセラミック基板の片面のみに対して切断工程を実施することにより、比較例3のガラスセラミックチップを作製した。
【0058】
[チッピング]
実施例1のガラスセラミックチップ5個のチッピングの大きさCを測定して、その最大値を求めた。実施例1と同様の方法で、他の実施例及び比較例のガラスセラミックチップのチッピングの大きさCの最大値を求めた。測定結果を表1に示す。
【0059】
[カラスセラミックチップの飛散]
実施例2の切断工程においてガラスセラミックチップの飛散の有無を観察した。実施例2と同様の方法で、他の実施例及び比較例の各切断工程においてもガラスセラミックチップの飛散の有無を観察した。観察結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【符号の説明】
【0061】
2・・・台座、4・・・粘着シート、6・・・ガラスセラミック基板、6a・・・ガラスセラミックチップ、8・・・第一ダイシングブレード、10・・・第一ダイシングブレードの刃先、12・・・V字形の溝、14・・・第二ダイシングブレード、16・・・チッピング、C・・・チッピングの大きさ、D・・・V字形の溝の角度、W・・・V字形の溝の幅、M・・・ガラスセラミック基板に設ける切断用のマージン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスセラミックチップを具備するセラミック電子部品の製造方法であって、
台座に貼り付けた粘着シート上に固定したガラスセラミック基板の片面のみに、刃先がテーパー状である第一ダイシングブレードを用いてV字形の溝を形成する工程と、
刃幅が前記溝の幅よりも小さい第二ダイシングブレードを、前記粘着シート上に固定された前記ガラスセラミック基板の前記溝内に当接させて、前記ガラスセラミック基板を完全に切断して、前記ガラスセラミックチップを形成する工程と、
を備える、
セラミック電子部品の製造方法。
【請求項2】
前記粘着シートが熱発泡シートである、
請求項1に記載のセラミック電子部品の製造方法。
【請求項3】
前記V字形の溝の角度が90〜120°である、
請求項1又は2に記載のセラミック電子部品の製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−192505(P2012−192505A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59629(P2011−59629)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】