説明

セルロースアシレートフィルム、ならびにこれを用いた偏光板、位相差フィルム、光学補償フィルム、反射防止フィルムおよび画像表示装置

【課題】液晶表示装置のコーナー部の縁に光学的なムラ(額縁ムラ)を大幅に解消し、高品位な偏 光板の保護フィルム兼位相差フィルムに用いられるセルロースアシレートフィルムおよびその製造 方法を提供することにある。
【解決手段】乾燥状態のTgが100℃〜150℃で、吸水状態のTgが60℃〜110℃である 、少なくとも一方向に10%〜250%延伸したセルロースアシレートフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、額縁ムラが少なくて光学性能が良好なセルロースアシレートフィルム、ならびに該セルロースアシレートフィルムを用いた、高品位な偏光板、位相差フィルム、光学補償フィルム、反射防止フィルムおよび画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースエステルフィルムは、その透明性、強靭性および光学的等方性から、写真感光材料の支持体として用いられているほか、液晶表示装置や有機EL表示装置をはじめとする画像表示装置用の光学フィルムとしてその用途を拡大してきている。液晶表示装置用の光学フィルムとしては、偏光板の保護フィルムとして用いられたり、延伸して面内のレターデーション(Re)、厚み方向のレターデーション(Rth)を発現させたうえでSTN(Super Twisted Nematic)方式などの液晶表示装置の位相差膜として用いられたり
している。
【0003】
一方、近年では、STN型に比べてより高いRe,Rthの位相差が要求される、VA(Vertical Alignment)方式やOCB(Optical Compensated Bend)方式の表示素子が開発されたことに伴って、レターデーション発現性に優れた光学フィルム材料が要求されるようになっている。
【0004】
このような要求に対応するための新規な光学フィルム用材料として、セルロースのアセチル基とプロピオニル基の混合エステル(セルロースアセテートプロピオネートなどのセルロース混合アシレート)溶液を支持体上へ流延し、溶媒の一部を蒸発させた後、支持体上から剥離する溶液製膜法により製造したセルロースアシレートフィルムが提案されている(特許文献1)。
セルロースアシレートは溶融温度がセルロースアセテートに比べて低いことから、セルロースアセテートブチレートおよびセルロースアセテートプロピオネートを溶融製膜して光学フィルムとして用いることも提案されている(特許文献2)。溶融製膜は製膜の際に有機溶媒を使わないことから、溶液製膜に比べて溶解や乾燥の工程を省略できるほか、環境への負荷も少ないという利点を有する。
【0005】
このようなセルロースアシレートフィルムは適度な透湿度を有することから、アルカリ水溶液に浸漬処理して表面を鹸化し親水化することにより、ポリビニルアルコールを主成分とする偏光膜と直接貼り合せて偏光板の保護フィルム兼位相差フィルムとして使用することができる。このような偏光板の保護フィルムは、液晶表示装置において偏光膜と液晶セルとの間に配置される。このため、保護フィルムの光学特性は液晶表示装置の視認性に大きな影響を及ぼす。近年の液晶表示装置の広視野角化や高画質化に伴って、位相差の補償性向上が求められており、さらに、温度や湿度変化に対する光学特性への影響を小さくすることも求められている。
【0006】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に開示される方法では、ReとRthの発現範囲が狭く、Re値とRth値をそれぞれ好ましい範囲内に制御することができず、VA、OCBなどの液晶表示装置において十分な光学補償をすることができないという問題があることが判明した。また、特許文献1および特許文献2に開示される方法により作成したセルロースアシレートフィルムを偏光膜と貼り合せた偏光板を組み込んだ液晶表示装置においては、コーナー部の縁に光学的なムラが発生する現象(通称、額縁又は額縁ムラ)が生じ、近年の液晶表示装置の大画面化に伴い、この光学的なムラが大きな問題となっていた。
【特許文献1】特開2001−188128号公報
【特許文献2】特開2000−352620号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の第1の目的は、光学特性であるReとRthの発現領域が広く、且つOCB、VA等の液晶モードに応じてRe値とRth値をそれぞれ好ましい範囲内に制御することができるセルロースアシレートフィルムを提供することにある。
本発明の第2の目的は、液晶表示装置のコーナー部の縁に光学的なムラ(額縁、または額縁ムラとも称する)が発生しないようにすることができる、偏光板の保護フィルム兼位相差フィルムに用いられるセルロースアシレートフィルムを提供することにある。さらに、該セルロースアシレートフィルムを用いた、高品位な位相差フィルム、偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルムならびに画像表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は以下の構成を有する本発明により達成された。
[1] 溶液流延または溶融流延によって形成されるセルロースアシレート膜状物を縦方向と横方向のうちの少なくとも一方向に10%〜250%延伸したセルロースアシレートフィルムであって、
該フィルムの乾燥状態におけるガラス転移温度が100℃〜150℃であり、且つ、
該フィルムを25℃純水中に24時間浸漬した後のガラス転移温度が60℃〜110℃であるセルロースアシレートフィルム。
[2] 25℃から80℃における線熱膨張係数が5〜150ppm/℃であることを特徴とする[1]に記載のセルロースアシレートフィルム。
[3] 60℃・相対湿度90%の環境にフィルムを500時間放置した前後の寸法変化率の絶対値が、フィルムの縦方向と横方向でともに0%〜0.5%であり、かつ遅相軸方向の寸法変化率の絶対値が進相軸方向の寸法変化率の絶対値より小さいことを特徴とする[1]または[2]に記載のセルロースアシレートフィルム。
[4] 光弾性係数が1×10-7〜25×10-7cm2/kgfであることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルム。
[5] 前記セルロースアシレートが炭素数2〜6のアシレート基を2種類以上有し、下記式(A)〜(C)を満足することを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルム。
式(A): 2.5≦X+Y≦3.0
式(B): 0≦X≦2.5
式(C): 0.3≦Y<3
(上式において、Xはアセチル基の置換度を表し、Yは炭素数3〜6のアシル基の置換度の総和を表す。)
[6] 芳香環を2つ以上含み分子量が200〜3000でありかつ融点が50℃〜250℃である化合物の少なくとも1種を、セルロースアシレートに対して0.1質量%〜20質量%含有することを特徴とする[1]〜[5]のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルム。
[7] 下記式(1)〜(3)を満足することを特徴とする[1]〜[6]のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルム。
式(1): 0≦Re≦300
式(2): 10≦Rth≦500
式(3): 1≦Rth/Re≦10
(上式において、Reは波長590nmにおけるフィルム面内のレターデーションであり、Rthは波長590nmにおけるフィルムの厚み方向のレターデーションである)
[8] 25℃・相対湿度10%のReと25℃・相対湿度80%のReとの差が15nm以下であり、25℃・相対湿度10%のRthと25℃・相対湿度80%のRthとの差が25nm以下である(ここにおいて、Reは波長590nmにおけるフィルム面内のレターデーションであり、Rthは波長590nmにおけるフィルムの厚み方向のレターデーションである)ことを特徴とする[1]〜[7]のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルム。
[9] タッチロールを用いて溶融製膜されたことを特徴とする[1]〜[8]のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルム。
[10] 前記セルロースアシレート膜状物を残存溶媒量が1質量%以下の状態で縦方向と横方向のうちの少なくとも一方向に10%〜250%延伸し、さらに該延伸の倍率に対して1%〜40%の比率で延伸方向に緩和して得たことを特徴とする[1]〜[9]のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルム。
【0009】
[11] [1]〜[10]のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルムを1枚以上用いた偏光板。
[12] [1]〜[10]のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルムを1枚以上用いた位相差フィルム。
[13] [1]〜[10]のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルムを1枚以上用いた光学補償フィルム。
[14] [1]〜[10]のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルムを1枚以上用いた反射防止フィルム。
[15] [1]〜[10]のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルム、[11]に記載の偏光板、[12]に記載の位相差フィルム、[13]に記載の光学補償フィルムおよび[14]に記載の反射防止フィルムからなる群より選択される1枚以上のフィルムを用いて形成した画像表示装置。
【0010】
[16] 前記セルロースアシレート膜状物を前記延伸後に熱固定処理し、さらにテンションが掛かった状態で徐冷速度1℃/分〜50℃/分で徐冷して得たことを特徴とする[1]〜[10]のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルム。
[17] 偏光膜と該偏光膜を挟持する2枚の保護フィルムとからなる偏光板であって、2枚の保護フィルムの少なくとも一方が、[1]〜[10]のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルムまたは[12]に記載の位相差フィルムであることを特徴とする偏光板。
[18] [1]〜[10]のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルムまたは[12]に記載の位相差フィルム上に、液晶性化合物を配向させて形成した光学異方性層を有することを特徴とする光学補償フィルム。
[19] [1]〜[10]のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルムまたは[12]に記載の位相差フィルム上に、反射防止層を有してなることを特徴とする反射防止フィルム。
【発明の効果】
【0011】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、光学特性であるReとRthの発現領域が広くて、Re値とRth値をそれぞれ好ましい範囲内に制御することができる。このため、本発明を用いれば、OCBやVA等の液晶モードに応じてRe値とRth値を同時に好ましい範囲に制御して、光学性能に優れたフィルムを提供することができる。該フィルムは、偏光板の保護フィルム兼位相差フィルムなどとして用いることができ、温度や湿度の変動に伴って液晶表示装置のコーナー部に発生する額縁ムラを解消することができる。また、本発明のセルロースアシレートフィルムを用いて、高品位な位相差フィルムや偏光板の他にも、光学補償フィルム、反射防止フィルムも提供することができ、さらにこれらを用いた画像表示装置を提供することができる。特に、偏光膜の片面に位相差板を有し、他方の面に保護フィルムを有する楕円偏光板を用いれば、液晶表示装置を厚くすることなく、正面および左右上下広視野角のコントラストを高くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下において、本発明のセルロースアシレートフィルム等について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
(額縁ムラの抑制)
本発明の特徴の1つは、液晶表示装置のコーナー部に発生する額縁ムラを解消することができる点にある。本明細書において「額縁ムラ」とは、位相差板を液晶表示装置(LCD)に貼り付けて全面黒表示とした際に、電源投入直後に額縁状に液晶表示装置の周辺部が白っぽく光漏れする現象をいう。本発明者らが額縁ムラの発生メカニズムを解析した結果、使用環境の変化や熱電源投入等によって位相差板が昇温し、膨張または収縮による寸法歪を生じて位相差板に応力が加わり、特に液晶表示装置のコーナー部により大きな応力が発生してレターデーションが変化することが原因となって、黒表示する際にコーナー部の光漏れが発生することが判明した。特に位相差フィルム(光学補償シート)は耐久性に問題があり、熱等の歪みにより位相差が発生しやすく、この位相差によっても液晶表示装置に額縁状の光漏れ(透過率の上昇)が生じ、液晶表示装置の表示品位が低下することが判明した。
【0014】
本発明者らは、このような歪みによるレターデーションや位相差の発生を抑えるために鋭意検討を重ねた結果、フィルムの乾燥状態(平衡含水率が1%以下の状態をいう)におけるガラス転移温度が100℃〜150℃であり、且つ、フィルムを25℃純水中に24時間浸漬した後のガラス転移温度が60℃〜110℃である延伸セルロースアシレートフィルムであれば、耐久性が高くて、熱等の歪みによる額縁ムラを抑えることができることを見出した。即ち、本発明のように、乾燥状態のガラス転移温度や吸水状態のガラス転移温度を高めたセルロースアシレートフィルムは、線熱膨張係数や光弾性が小さくて、寸法変化しにくいため、LCD板上で動かなくなる。このようにして一方向の寸法が固定されると、他方向の熱寸法変化や湿熱寸法変化も抑制され、その結果、額縁ムラが軽減されるものと考えられる。このような額縁ムラの抑制効果は、以下に記載するように、温度や湿度変化に対するセルロースアシレートの寸法変化率、線熱膨張係数、光弾性を制御することによって、さらに大きくすることができる。
【0015】
<本発明のセルロースアシレートフィルムの特性>
本発明のセルロースアシレートフィルムの乾燥状態におけるガラス転移温度(Tg)は100℃〜150℃であり、好ましくは105℃〜145℃であり、より好ましくは110℃〜145℃であり、特に好ましくは115℃〜140℃である。Tgが100℃より低い場合は、耐熱性および寸法安定性が低下し、額縁ムラが発生しやすくなる。一方、Tgが150℃よりも高い場合は、フィルムのガラス転移温度が高すぎて溶融流動性および延伸性が低下するため好ましくない。
また、本発明のセルロースアシレートフィルムを25℃純水中に24時間浸漬した後、吸水した状態で測定したTgは60℃〜110℃であり、65℃〜110℃が好ましく、70℃〜110℃が最も好ましい。
本発明の乾燥状態及び吸水状態におけるTgをそれぞれ前記の範囲にするためには、セルロースアシレートの処方や製膜延伸条件などを適宜調整することが好ましい。具体的には、セルロースアシレートの処方の調整として、置換度と置換基の比率の制御、添加剤種類の選択、添加総量のコントロールなどを挙げることができる。また、製膜延伸条件の調整として、残存溶媒量、延伸倍率、緩和率、熱固定処理、冷却速度等の制御などを挙げることができる。
【0016】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、60℃・相対湿度90%の環境に500時間放置した前後の寸法変化率の絶対値が、フィルムの縦方向と横方向でともに0%〜0.5%であることが好ましく、0%〜0.4%であることがより好ましく、0%〜0.3%であることがさらに好ましく、0%〜0.2%であることが最も好ましい。寸法変化率の絶対値を0%〜0.5%にするためには、セルロースアシレートフィルム(膜状物)の処方、後述の製膜条件及び延伸条件などを適宜コントロールすることが好ましい。
本発明のセルロースアシレートフィルムは、遅相軸方向の寸法変化率の絶対値が進相軸方向の寸法変化率の絶対値より小さいことが好ましい。遅相軸方向の寸法変化率の絶対値と進相軸方向の寸法変化率の絶対値の比率は0.5〜0.99であることが好ましく、より好ましくは0.70〜0.98であり、さらに好ましくは0.75〜0.95である。比率を0.5〜0.99に調整することにより額縁ムラをより効果的に低減することができる。比率を0.5〜0.99に調整するためには、後述のセルロースアシレートフィルム(膜状物)の延伸条件、縦方向と横方向の延伸比率などを適宜コントロールすることが好ましい。
【0017】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、25℃から80℃における熱膨張係数が5〜150ppm/℃であることが好ましく、5〜140ppm/℃であることがより好ましく、5〜130ppm/℃であることがさらに好ましい。
【0018】
本発明のセルロースアシレートフィルムの光弾性係数は1×10-7〜25×10-7cm2/kgfであることが好ましく、1×10-7〜20×10-7cm2/kgfであることがより好ましく、1×10-7〜18×10-7cm2/kgfであることがさらに好ましく、1×10-7〜15×10-7cm2/kgfであることが最も好ましい。
本発明のセルロースアシレートフィルムの線熱膨張係数及び光弾性をそれぞれ前記の範囲にするには、セルロースアシレートの処方、後述の製膜条件及び延伸条件などを適宜コントロールすることが好ましい。
【0019】
<セルロースアシレートの構造>
まず、本発明に用いるセルロースアシレート(以下、本発明のセルロースアシレートという)について詳細に記載する。
セルロースを構成する、β−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部をエステル化した重合体(ポリマー)である。水酸基のエステル化の割合を示すために、本願では置換度を用いる。置換度は、2位、3位および6位のそれぞれについてセルロースがエステル化している割合(100%エステル化しているときは置換度1)を合計したものであり、100%エステル化しているときの置換度は3となる。
本発明のセルロースアシレートにおいては、セルロースの2位、3位および6位のそれぞれの水酸基の置換度は特に限定されない。もっとも、6位の置換度が好ましくは0.8以上であり、さらに好ましくは0.85以上であり、特に好ましくは0.90以上であるセルロースアシレートは溶解性が高いため、このような6位が高置換度であるセルロースアシレートを用いれば、特に非塩素系有機溶媒に対する良好な溶液を作製することができる。
【0020】
本発明のセルロースアシレートは2種類以上のアシル基を有していることが好ましい。アシル基の炭素数は2〜6であることが好ましく、かつ、アシル基による置換度(アシル置換度という)が2.5以上3.0未満であることが好ましい。また、アシル基はさらに置換基を有していてもよい。
【0021】
本発明のセルロースアシレートは、アシル置換度が、下記式を満足することが好ましい。ここで、Xはアセチル基の置換度、Yはプロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基の置換度の総和を示す。
2.5≦X+Y≦3.0
0≦X≦2.5
0.3≦Y≦3
より好ましくは、
2.5≦X+Y≦2.99
0≦X≦2.0
0.5≦Y≦2.95
さらに好ましくは
2.5≦X+Y≦2.95
0≦X≦1.5
0.8≦Y≦2.95
【0022】
上記式のように、アセチル基の置換度を少なくし、炭素数3〜6のアシル基の置換度の総和を多くすることにより、結晶融解温度(Tm)を下げることができるので好ましい。すなわち、溶融製膜に適したセルロースアシレートとなる。
【0023】
アシル置換度は、ASTM D−817−91に準じた方法、セルロースアシレートを完全に加水分解して遊離したカルボン酸またはその塩をガスクロマトグラフィーあるいは高速液体クロマトグラフィーで定量する方法、1H−NMRあるいは13C−NMRによる方法などを単独または組み合わせて用いることにより決定することができる。
【0024】
本発明においては異なる2種類以上のセルロースアシレートを混合して用いてもよいし、あるいは層を分けて用いても良い。
【0025】
<セルロースアシレートの製法>
次に、本発明のセルロースアシレートの製造方法について詳細に説明する。本発明のセルロースアシレートの、原料綿や合成方法については、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)7頁〜12頁にも詳細に記載されている。
【0026】
(原料および前処理)
セルロースアシレートの原料として用いられるセルロース原料としては、広葉樹パルプ、針葉樹パルプ、綿花リンター由来のセルロース原料が好ましく用いられる。前記セルロース原料としては、α−セルロース含量が92質量%〜99.9質量%の高純度のものを用いることが好ましい。
前記セルロース原料がフィルム状や塊状である場合は、あらかじめ解砕しておくことが好ましい。また、セルロース原料の形態は微細粉末−羽毛状になるまで解砕が進行していることが好ましい。
【0027】
(活性化)
セルロース原料はアシル化に先立って、活性化剤と接触させる処理(活性化)を行うことが好ましい。活性化剤としては、カルボン酸または水を用いることができるが、水を用いる場合には、活性化の後に酸無水物を過剰に添加して脱水を行ったり、水を置換するためにカルボン酸で洗浄したり、アシル化の条件を調節したりする工程を含むことが好ましい。活性化剤はいかなる温度に調節して添加してもよく、添加方法は噴霧、滴下、浸漬などの方法から選択することができる。
【0028】
活性化剤として好ましいカルボン酸は、炭素数2〜7のカルボン酸(例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、2−メチルプロピオン酸、吉草酸、3−メチル酪酸、2−メチル酪酸、2,2−ジメチルプロピオン酸(ピバル酸)、ヘキサン酸、2−メチル吉草酸、3−メチル吉草酸、4−メチル吉草酸、2,2−ジメチル酪酸、2,3−ジメチル酪酸、3,3−ジメチル酪酸、シクロペンタンカルボン酸、ヘプタン酸、シクロヘキサンカルボン酸、安息香酸など)であり、より好ましくは、酢酸、プロピオン酸、または酪酸であり、特に好ましくは酢酸である。
【0029】
活性化の際は、必要に応じてさらに硫酸などのアシル化の触媒を加えることもできる。しかし、硫酸のような強酸を添加すると、解重合が促進されることがあるため、その添加量はセルロースに対して0.1質量%〜10質量%程度に留めることが好ましい。また、2種類以上の活性化剤を併用したり、炭素数2〜7のカルボン酸の酸無水物を添加したりしてもよい。
【0030】
活性化剤の添加量は、セルロースに対して5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが特に好ましい。活性化剤の量が該下限値以上であれば、セルロースの活性化の程度が低下するなどの不具合が生じないので好ましい。活性化剤の添加量の上限は生産性を低下させない限りにおいて特に制限はないが、セルロースに対して質量で100倍以下であることが好ましく、20倍以下であることがより好ましく、10倍以下であることが特に好ましい。活性化剤をセルロースに対して大過剰加えて活性化を行い、その後、ろ過、送風乾燥、加熱乾燥、減圧留去、溶媒置換などの操作を行って活性剤の量を減少させてもよい。
【0031】
活性化の時間は20分以上であることが好ましく、上限については生産性に影響を及ぼさない範囲内であれば特に制限はないが、好ましくは72時間以下、さらに好ましくは24時間以下、特に好ましくは12時間以下である。また、活性化の温度は0℃〜90℃が好ましく、15℃〜80℃がさらに好ましく、20℃〜60℃が特に好ましい。セルロースの活性化の工程は加圧または減圧条件下で行うこともできる。また、加熱の手段として、マイクロ波や赤外線などの電磁波を用いてもよい。
【0032】
(アシル化)
セルロースアシレートを製造する際には、セルロースにカルボン酸の酸無水物を加え、ブレンステッド酸またはルイス酸を触媒として反応させることで、セルロースの水酸基をアシル化することが好ましい。
6位置換度の大きいセルロースアシレートの合成については、特開平11−5851号、特開2002−212338号や特開2002−338601号各公報などに記載がある。
セルロースアシレートの他の合成法としては、塩基(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、炭酸ナトリウム、ピリジン、トリエチルアミン、tert−ブトキシカリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドなど)の存在下に、カルボン酸無水物やカルボン酸ハライドと反応させる方法、アシル化剤として混合酸無水物(カルボン酸・トリフルオロ酢酸混合無水物、カルボン酸・メタンスルホン酸混合無水物など)を用いる方法も用いることができ、特に後者の方法は、炭素数の多いアシル基や、カルボン酸無水物−酢酸−硫酸触媒によるアシル化法が困難なアシル基を導入する際には有効である。
セルロース混合アシレートを得る方法としては、アシル化剤として2種のカルボン酸無水物を混合または逐次添加により反応させる方法、2種のカルボン酸の混合酸無水物(例えば、酢酸・プロピオン酸混合酸無水物)を用いる方法、カルボン酸と別のカルボン酸の酸無水物(例えば、酢酸とプロピオン酸無水物)を原料として反応系内で混合酸無水物(例えば、酢酸・プロピオン酸混合酸無水物)を合成してセルロースと反応させる方法、置換度が3に満たないセルロースアシレートを一旦合成し、酸無水物や酸ハライドを用いて、残存する水酸基をさらにアシル化する方法などを用いることができる。
【0033】
(酸無水物)
カルボン酸の酸無水物として好ましいものは、カルボン酸としての炭素数が2〜7であるものであり、例えば、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酪酸無水物、2−メチルプロピオン酸無水物、吉草酸無水物、3−メチル酪酸無水物、2−メチル酪酸無水物、2,2−ジメチルプロピオン酸無水物(ピバル酸無水物)、ヘキサン酸無水物、2−メチル吉草酸無水物、3−メチル吉草酸無水物、4−メチル吉草酸無水物、2,2−ジメチル酪酸無水物、2,3−ジメチル酪酸無水物、3,3−ジメチル酪酸無水物、シクロペンタンカルボン酸無水物、ヘプタン酸無水物、シクロヘキサンカルボン酸無水物、安息香酸無水物などを挙げることができる。より好ましくは、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酪酸無水物、吉草酸無水物、ヘキサン酸無水物、ヘプタン酸無水物などの無水物であり、特に好ましくは、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酪酸無水物である。
【0034】
混合エステルを調製する目的で、これらの酸無水物を併用して使用することが好ましく行われる。その混合比は目的とする混合エステルの置換比に応じて決定することが好ましい。酸無水物は、セルロースに対して、通常は過剰当量添加する。すなわち、セルロースの水酸基に対して1.2〜50当量添加することが好ましく、1.5〜30当量添加することがより好ましく、2〜10当量添加することが特に好ましい。
【0035】
(触媒)
セルロースアシレートの製造に用いるアシル化の触媒には、ブレンステッド酸またはルイス酸を使用することが好ましい。ブレンステッド酸およびルイス酸の定義については、例えば、「理化学辞典」第五版(2000年)に記載されている。好ましいブレンステッド酸の例としては、硫酸、過塩素酸、リン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などを挙げることができる。好ましいルイス酸の例としては、塩化亜鉛、塩化スズ、塩化アンチモン、塩化マグネシウムなどを挙げることができる。
触媒としては、硫酸または過塩素酸がより好ましく、硫酸が特に好ましい。触媒の好ましい添加量は、セルロースに対して0.1〜30質量%であり、より好ましくは1〜15質量%であり、特に好ましくは3〜12質量%である。
【0036】
(溶媒)
アシル化を行う際には、粘度、反応速度、攪拌性、アシル置換比などを調整する目的で、溶媒を添加してもよい。このような溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、カルボン酸、アセトン、エチルメチルケトン、トルエン、ジメチルスルホキシド、スルホランなどを用いることもできるが、好ましくはカルボン酸であり、例えば、炭素数2〜7のカルボン酸{例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、2−メチルプロピオン酸、吉草酸、3−メチル酪酸、2−メチル酪酸、2,2−ジメチルプロピオン酸(ピバル酸)、ヘキサン酸、2−メチル吉草酸、3−メチル吉草酸、4−メチル吉草酸、2,2−ジメチル酪酸、2,3−ジメチル酪酸、3,3−ジメチル酪酸、シクロペンタンカルボン酸}などを挙げることができる。さらに好ましくは、酢酸、プロピオン酸、酪酸などを挙げることができる。これらの溶媒は混合して用いてもよい。
【0037】
(アシル化の条件)
アシル化を行う際には、酸無水物と触媒、さらに、必要に応じて溶媒を混合してからセルロースと混合してもよく、またこれらを別々に逐次セルロースと混合してもよいが、通常は、酸無水物と触媒との混合物、または、酸無水物と触媒と溶媒との混合物をアシル化剤として調製してからセルロースと反応させることが好ましい。アシル化の際の反応熱による反応容器内の温度上昇を抑制するために、アシル化剤は予め冷却しておくことが好ましい。冷却温度としては、−50℃〜20℃が好ましく、−35℃〜10℃がより好ましく、−25℃〜5℃が特に好ましい。アシル化剤は液状で添加しても、凍結させて結晶、フレーク、またはブロック状の固体として添加してもよい。
【0038】
アシル化剤はさらに、セルロースに対して一度に添加しても、分割して添加してもよい。また、アシル化剤に対してセルロースを一度に添加しても、分割して添加してもよい。アシル化剤を複数回に分けて添加する場合は、それぞれ同一組成のアシル化剤を添加してもよいし、複数の組成の異なるアシル化剤をそれぞれ添加してもよい。好ましい例として、1)酸無水物と溶媒の混合物をまず添加し、次いで、触媒を添加する、2)酸無水物、溶媒と触媒の一部の混合物をまず添加し、次いで、触媒の残りと溶媒の混合物を添加する、3)酸無水物と溶媒の混合物をまず添加し、次いで、触媒と溶媒の混合物を添加する、4)溶媒をまず添加し、酸無水物と触媒との混合物あるいは酸無水物と触媒と溶媒との混合物を添加する、などを挙げることができる。
【0039】
セルロースのアシル化は発熱反応であるが、本発明のセルロースアシレートを製造する方法においては、アシル化の際の最高到達温度を50℃以下にすることが好ましい。反応温度がこの温度以下であれば、解重合が進行して本発明の用途に適した重合度のセルロースアシレートを得難くなるなどの不都合が生じないため好ましい。アシル化の際の最高到達温度は、好ましくは45℃以下であり、より好ましくは40℃以下であり、特に好ましくは35℃以下である。反応温度は温度調節装置を用いて制御しても、アシル化剤の初期温度で制御してもよい。反応容器を減圧して、反応系中の液体成分の気化熱で反応温度を制御することもできる。アシル化の際の発熱は反応初期が大きいため、反応初期には冷却し、その後は加熱するなどの制御を行うこともできる。アシル化の終点は、光線透過率、溶液粘度、反応系の温度変化、反応物の有機溶媒に対する溶解性、偏光顕微鏡観察などの手段により決定することができる。
【0040】
反応の最低温度は−50℃以上が好ましく、−30℃以上がより好ましく、−20℃以上が特に好ましい。好ましいアシル化時間は0.5時間〜24時間であり、1時間〜12時間がより好ましく、1.5時間〜6時間が特に好ましい。0.5時間以上であれば反応が十分に進行しやすく、24時間以内であれば工業的に利用しやすい。
【0041】
(反応停止剤)
本発明に用いられるセルロースアシレートを製造する方法においては、アシル化反応の後に、反応停止剤を加えることが好ましい。
反応停止剤としては、酸無水物を分解するものであればいかなるものであってもよく、好ましい例として、水、アルコール(例えばエタノール、メタノール、プロパノール、イソプロピルアルコールなど)またはこれらを含有する組成物などを挙げることができる。また、反応停止剤は、後述の中和剤を含んでいてもよい。反応停止剤の添加に際しては、反応装置の冷却能力を超える大きな発熱が生じて、セルロースアシレートの重合度を低下させる原因となったり、セルロースアシレートが望まない形態で沈殿したりする場合があるなどの不都合を避けるため、水やアルコールを直接添加するよりも、酢酸、プロピオン酸、酪酸等のカルボン酸と水との混合物を添加することが好ましく、カルボン酸としては酢酸が特に好ましい。カルボン酸と水の組成比は任意の割合にすることができるが、水の含有量が5質量%〜80質量%、さらには10質量%〜60質量%、特には15質量%〜50質量%の範囲内であることが好ましい。
【0042】
反応停止剤の添加方法は特に制限されない。反応停止剤は、アシル化の反応容器に添加してもよいし、反応停止剤の容器に反応物を添加してもよい。反応停止剤は3分〜3時間かけて添加することが好ましい。反応停止剤の添加時間が3分以上であれば、発熱が大きくなりすぎて重合度低下の原因となったり、酸無水物の加水分解が不十分になったり、セルロースアシレートの安定性を低下させたりするなどの不都合が生じないので好ましい。また反応停止剤の添加時間が3時間以下であれば、工業的な生産性の低下などの問題も生じないので好ましい。反応停止剤の添加時間として、好ましくは4分〜2時間であり、より好ましくは5分〜1時間であり、特に好ましくは10分〜45分である。反応停止剤を添加する際には反応容器を冷却しても冷却しなくてもよいが、解重合を抑制する目的から、反応容器を冷却して温度上昇を抑制することが好ましい。また、反応停止剤を冷却しておくことも好ましい。
【0043】
(中和剤)
アシル化の反応停止工程あるいはアシル化の反応停止工程後に、系内に残存している過剰の無水カルボン酸の加水分解、カルボン酸及びエステル化触媒の一部または全部の中和、残留硫酸根量と残留金属量の調整などのために、中和剤またはその溶液を添加してもよい。
中和剤の好ましい例としては、アンモニウム、有機4級アンモニウム(例えば、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、ジイソプロピルジエチルアンモニウムなど)、アルカリ金属(好ましくは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、更に好ましくは、リチウム、ナトリウム、カリウム、特に好ましくは、ナトリウム、カリウム)、2族の元素(好ましくは、ベリリウム、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム、特に好ましくは、カルシウム、マグネシウム)、3〜12族の金属(例えば、鉄、クロム、ニッケル、銅、鉛、亜鉛、モリブデン、ニオブ、チタンなど)または13〜15族の元素(例えば、アルミニウム、スズ、アンチモンなど)の、炭酸塩、炭酸水素塩、有機酸塩(例えば、酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、安息香酸塩、フタル酸塩、フタル酸水素塩、クエン酸塩、酒石酸塩など)、リン酸塩、水酸化物又は酸化物などを挙げることができる。これら中和剤は混合して用いても良く、混合塩(例えば、酢酸プロピオン酸マグネシウム、酒石酸カリウムナトリウムなど)を形成していても良い。また、これらの中和剤のアニオンが2価以上の場合は、水素塩(例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、リン酸2水素ナトリウム、リン酸水素マグネシウムなど)を形成していても良い。
中和剤として更に好ましくは、アルカリ金属または2族元素の炭酸塩、炭酸水素塩、有機酸塩、水酸化物又は酸化物などであり、特に好ましくは、ナトリウム、カリウム、マグネシウムまたはカルシウムの、炭酸塩、炭酸水素塩、酢酸塩または水酸化物である。
中和剤の溶媒としては、水、アルコール(例えばエタノール、メタノール、プロパノール、イソプロピルアルコールなど)、有機酸(例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸など)、ケトン(例えば、アセトン、エチルメチルケトンなど)、ジメチルスルホキシドなどの極性溶媒、および、これらの混合溶媒を好ましい例として挙げることができる。
【0044】
(部分加水分解)
このようにして得られたセルロースアシレートは、全置換度がほぼ3に近いものであるが、所望の置換度のものを得る目的で、少量の触媒(一般には、残存する硫酸などのアシル化触媒)と水との存在下で、20〜90℃に数分〜数日間保つことによりエステル結合を部分的に加水分解し、セルロースアシレートの全置換度を所望の程度まで減少させること(いわゆる熟成)が一般的に行われる。部分加水分解の過程でセルロースの硫酸エステルも加水分解されることから、加水分解の条件を調節することにより、セルロースに結合した硫酸エステルの量を削減することができる。
【0045】
(部分加水分解の停止)
所望のセルロースアシレートが得られた時点で、系内に残存している触媒を、前記のような中和剤またはその溶液を用いて完全に中和し、部分加水分解を停止させることが好ましい。反応溶液に対して溶解性が低い塩を生成する中和剤(例えば、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウムなど)を添加することにより、溶液中あるいはセルロースに結合した触媒(例えば、硫酸エステル)を効果的に除去することも好ましい。
【0046】
(ろ過)
セルロースアシレート中の未反応物、難溶解性塩、その他の異物などを除去または削減する目的で、反応混合物(ドープ)をろ過することが好ましい。ろ過は、アシル化の完了から再沈殿までの間のいかなる段階において行ってもよい。ろ過圧や取り扱い性の制御の目的から、ろ過に先立って適切な溶媒で希釈することも好ましい。
【0047】
(再沈殿)
このようにして得られたセルロースアシレート溶液を、水またはカルボン酸(例えば、酢酸、プロピオン酸など)水溶液のような貧溶媒中に混合するか、セルロースアシレート溶液中に、貧溶媒を混合することにより、セルロースアシレートを再沈殿させ、洗浄および安定化処理により目的のセルロースアシレートを得ることができる。再沈殿は連続的に行っても、一定量ずつバッチ式で行ってもよい。セルロースアシレート溶液の濃度および貧溶媒の組成をセルロースアシレートの置換様式あるいは重合度により調整することで、再沈殿したセルロースアシレートの形態や分子量分布を制御することも好ましい。
また、精製効果の向上、分子量分布や見かけ密度の調節などの目的から、一旦再沈殿させたセルロースアシレートをその良溶媒(例えば、酢酸やアセトンなど)に再度溶解し、これに貧溶媒(例えば、水など)を作用させることにより再沈殿を行う操作を、必要に応じて1回ないし複数回行ってもよい。
【0048】
(洗浄)
生成したセルロースアシレートは洗浄処理することが好ましい。洗浄溶媒はセルロースアシレートの溶解性が低く、かつ、不純物を除去することができるものであればいかなるものであってもよいが、通常は水または温水が用いられる。洗浄水の温度は、好ましくは25℃〜100℃であり、さらに好ましくは30℃〜90℃であり、特に好ましくは40℃〜80℃である。洗浄処理はろ過と洗浄液の交換を繰り返すいわゆるバッチ式で行っても、連続洗浄装置を用いて行ってもよい。再沈殿および洗浄の工程で発生した廃液を再沈殿工程の貧溶媒として再利用したり、蒸留などの手段によりカルボン酸などの溶媒を回収して再利用することも好ましい。
洗浄の進行はいかなる手段で追跡を行ってよいが、水素イオン濃度、イオンクロマトグラフィー、電気伝導度、ICP、元素分析、原子吸光スペクトルなどの方法を好ましい例として挙げることができる。
このような処理により、セルロースアシレート中の触媒(硫酸、過塩素酸、トリフルオロ酢酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、塩化亜鉛など)、中和剤(例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウムまたは亜鉛の炭酸塩、酢酸塩、水酸化物または酸化物など)、中和剤と触媒との反応物、カルボン酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸など)、中和剤とカルボン酸との反応物などを除去することができ、このことはセルロースアシレートの安定性を高めるために有効である。
【0049】
(安定化)
温水処理による洗浄後のセルロースアシレートは、安定性をさらに向上させたり、カルボン酸臭を低下させるために、弱アルカリ(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウムなどの炭酸塩、炭酸水素塩、水酸化物、酸化物など)の水溶液などで処理することも好ましい。
残存不純物の量は、使用する水の金属含有量(洗浄水などに使用する水に微量成分として含有される金属イオンの量)、洗浄液の量、洗浄の温度、時間、攪拌方法、洗浄容器の形態、安定化剤の組成や濃度により制御できる。本発明においては、残留硫酸根量(硫黄原子の含有量として)が0〜500ppmになるようにアシル化、部分加水分解、中和および洗浄の条件を設定する。部分加水分解、中和および洗浄の条件により残留アルカリ金属量ならびに2族元素量についても調節することができる。
【0050】
(乾燥)
本発明においてセルロースアシレートの含水率を好ましい量に調整するためには、セルロースアシレートを乾燥することが好ましい。乾燥の方法については、目的とする含水率が得られるのであれば特に限定されないが、加熱、送風、減圧、攪拌などの手段を単独または組み合わせで用いることで効率的に行うことが好ましい。乾燥温度として好ましくは0〜200℃であり、さらに好ましくは40〜180℃であり、特に好ましくは50〜160℃である。本発明のセルロースアシレートは、その含水率が2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましく、0.7質量%以下であることが特には好ましい。
【0051】
(形態)
本発明におけるセルロースアシレートは粒子状、粉末状、繊維状、塊状など種々の形状を取ることができるが、フィルム製造の原料としては粒子状または粉末状であることが好ましいことから、乾燥後のセルロースアシレートは、粒子サイズの均一化や取り扱い性の改善のために、粉砕や篩がけを行っても良い。セルロースアシレートが粒子状であるとき、使用する粒子の90質量%以上は、0.5〜5mmの粒子サイズを有することが好ましい。また、使用する粒子の50質量%以上が1〜4mmの粒子サイズを有することが好ましい。セルロースアシレート粒子は、なるべく球形に近い形状を有することが好ましい。また、本発明のセルロースアシレート粒子は、見かけ密度が好ましくは0.5〜1.3、さらに好ましくは0.7〜1.2、特に好ましくは0.8〜1.15である。見かけ密度の測定法に関しては、JIS K−7365に規定されている。
本発明におけるセルロースアシレート粒子は安息角が10〜70度であることが好ましく、15〜60度であることがさらに好ましく、20〜50度であることが特に好ましい。
【0052】
(重合度)
本発明で好ましく用いられるセルロースアシレートの重合度は、平均重合度100〜700、好ましくは120〜550、さらに好ましくは120〜500であり、特に好ましくは平均重合度130〜400である。平均重合度は、宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫、繊維学会誌、第18巻第1号、105〜120頁、1962年)に記載されるように、ゲル浸透クロマトグラフィー (GPC)による分子量分布測定などの方法により測定できる。さらに、平均重合度の測定方法については、特開平9−95538号公報に詳細に記載されている。
本発明においては、セルロースアシレートのGPCによる重量平均重合度/数平均重合度の比が1.5〜5.5であることが好ましく、1.5〜5.0であることがさらに好ましく、1.8〜4.5であることが特に好ましい。
【0053】
(セルロースアシレート中の微細異物)
セルロースアシレート中の微細異物とは、未反応のセルロース繊維に由来するものである。この微細異物が光学フィルム中に残存すると、2枚の偏光板をクロスニコルにして、この光学フィルムを挟んだとき、輝点として見える。この輝点は、液晶表示装置において光漏れの原因となる。従って、セルロースアシレートに含まれる微細異物はできるだけ少ないほうが好ましい。具体的には、以下のように、微細異物の数を見積もる。
【0054】
サンプル約10mgを、大きさ1cm2厚み150μmのスライドガラス2枚に挟み、
これを溶融させて、スライドガラスの間のセルロースアシレートの透明な薄膜を、厚み約50μmとする。このセルロースアシレートの薄膜の厚みは、セルロースアシレート薄膜をはさんだ2枚のスライドガラスの厚みから、もとのスライドガラスの厚みを差し引けばよい。なお、厚みが50μmと大きく異なる場合は、後で換算すればよい。このようにして作製した、スライドガラスにはさんだままのセルロースアシレート薄膜を、顕微鏡で任意の1mm2の部位を観察し、1mm2×50μm=5×10-2mm3当たりの微細異物数をカウントする。このときに観察される長さ10μm以下の微細異物は、5×10-2mm3当たり10個以下、好ましくは5個以下、さらに好ましくは2個以下、もっとも好ましくは0である。なお、長さ10μm以上の微細異物も含まれることがあるが、その数は10μm以下の微細異物の数とほぼ比例することから、本発明では、長さ10μm以下の微細異物を基準としている。
【0055】
(セルロースアシレート中の残留硫黄分)
上記のセルロースアシレート製法において、触媒に硫酸を用いた場合、最終的に得られるセルロースアシレート中に硫酸エステルが残存することがある。これによって、セルロースアシレートの熱安定性が左右されることがある。本発明における、硫黄分は、セルロースアシレートに対して、硫黄原子換算で、0〜100ppmが好ましく、10〜80ppmであることが好ましく、10〜60ppmであることがさらに好ましい。
【0056】
(セルロースアシレートの融点)
本発明のセルロースアシレートを用いて溶融製膜により製膜する場合は、実用に適した融点を有することが必要である。融点が高すぎると、溶融前に分解が進行する。また、低すぎると、実用上の光学フィルムとして、使用ができなくなる。したがって、融点は160℃〜260℃が好ましく、160℃〜250℃がさらに好ましく、170℃〜240℃がもっとも好ましい。
【0057】
これらのセルロースアシレートは1種類のみを用いてもよく、2種以上混合してもよい。また、セルロースアシレート以外の高分子成分を適宜混合したものでもよい。また、混合される高分子成分はセルロースエステルと相溶性に優れるものが好ましい。本発明におけるセルロースアシレートはフィルムにしたときの透過率が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがさらに好ましく、92%以上であることが特に好ましい。
【0058】
(セルロースアシレートの添加剤)
以下に本発明のセルロースアシレートに使用される添加剤について詳細に説明するが、本発明で用いることができる添加剤はこれらに限定されるものではない。
【0059】
1)レターデーション上昇剤
本発明のセルロースアセテートフィルムのレターデーションを調整するため、レターデーション上昇剤を含有させることが好ましい。レターデーション上昇剤は、該レターデーション上昇剤をフィルムに含有させることによって該フィルムのレターデーションを上昇させることができるものを意味する。
レターデーション上昇剤の種類は特に制限されないが、少なくとも二つの芳香族環を有する芳香族化合物をレターデーション上昇剤として使用することが好ましい。該芳香族化合物は、分子量が200〜3000であり、融点が55℃〜250℃であるものが好ましい。使用量は、セルロースアセテート100質量部に対して、0.1質量%〜20質量%であることが好ましく、0.1質量%〜20質量%であることがより好ましく、0.5質量%〜15質量%であることがさらに好ましく、1質量%〜10質量%であることが特に好ましい。
これらのレターデーション上昇剤の化合物を添加することによって、セルロースアシレートのRe、Rthの発現領域を大幅に向上させ、少ない延伸倍率で所望の光学特性を達成し、額縁ムラを抑制する効果を発現させることができる。
【0060】
上記の少なくとも二つの芳香族環を有する芳香族化合物として、2種類以上の芳香族化合物を併用してもよい。ここでいう芳香族化合物の芳香族環には、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環も含む。
芳香族炭化水素環は、6員環(すなわち、ベンゼン環)であることが特に好ましい。芳香族性ヘテロ環は一般に、不飽和ヘテロ環である。芳香族性ヘテロ環は、5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがさらに好ましい。芳香族性ヘテロ環は一般に、最多の二重結合を有する。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子および硫黄原子が好ましく、窒素原子が特に好ましい。芳香族性ヘテロ環の例には、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、フラザン環、トリアゾール環、ピラン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環および1,3,5−トリアジン環が含まれる。芳香族環としては、ベンゼン環、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環および1,3,5−トリアジン環が好ましく、ベンゼン環および1,3,5−トリアジン環がさらに好ましい。
【0061】
芳香族化合物が有する芳香族環の数は、2〜20であることが好ましく、2〜18であることがより好ましく、2〜15であることが最も好ましい。二つの芳香族環の結合関係は、(a)縮合環を形成する場合、(b)単結合で直結する場合および(c)連結基を介して結合する場合に分類できる(芳香族環のため、スピロ結合は形成できない)。結合関係は、(a)〜(c)のいずれでもよい。
【0062】
レターデーション上昇剤として好ましい化合物の具体例としては、特開2001−166144号公報の段落番号[0016]〜[0107]に記載の化合物、特開2002−296421号公報の段落番号[0007]〜[0043]に記載の化合物を挙げることができる。また、2つの芳香環の間を−COO−で連結した以下ような化合物を好ましく用いることもできる。
【0063】
【化1】

【0064】
【化2】

【0065】
【化3】

【0066】
【化4】

【0067】
【化5】

【0068】
【化6】

【0069】
また、3つの芳香環を−COO−や−CONR’−で連結した以下ような化合物を好ましく用いることもできる。
【0070】
【化7】

【0071】
【化8】

【0072】
【化9】

【0073】
【化10】

【0074】
【化11】

【0075】
また、以下のようなトリアジン誘導体に3つのアリールアミノ基が置換した化合物も好ましく用いることができる。
【0076】
【化12】

【0077】
さらに、以下のように多数の芳香環が線状に連結された化合物を例示することができる。
【0078】
【化13】

【0079】
【化14】

【0080】
【化15】

【0081】
【化16】

【0082】
【化17】

【0083】
【化18】

【0084】
【化19】

【0085】
【化20】

【0086】
これらの化合物は、単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。
【0087】
これらの化合物は特異的にセルロースアシレートに対し上記効果を発現する。これらの化合物は単独で用いても良く、混合して用いても良い。2種類以上の芳香族化合物を併用してもよい。ただし、可塑剤(例えば、リン酸エステル系化合物、フタル酸エステル系化合物、グリコール酸エステル系化合物)やUV吸収剤(例えば、ベンゾフェノン系化合物やベンゾトリアゾール系化合物)ではこのような効果が得られない。
【0088】
2)その他の添加剤
本発明のセルロースアシレート組成物には、セルロースアシレートおよび前記レターデーション上昇剤のほかに、各調製工程において用途に応じた種々の添加剤(例えば、酸化防止剤、劣化防止剤、マット剤、紫外線防止剤、波長分散調整剤、赤外吸収剤、界面活性剤、帯電防止剤など)を加えることができる。これらの添加剤は、固体でもよいし油状でもよい。すなわち、その融点や沸点は特に限定されない。例えば20℃以下と20℃以上の各紫外線吸収剤や可塑剤などを混合して用いてもよい。このような例は、特開2001−151901号公報などに記載されている。また、赤外吸収剤としては例えば特開2001−194522号公報に記載されているものを使用することができる。また、添加剤として好ましいものは、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)17頁〜22頁に詳細に記載されている。
【0089】
これらの各添加剤を添加する時期は、セルロースアシレートの合成終了後でも良いし、合成終了前でもよい。また、セルロースアシレートのペレット作製工程において添加しても良いし、さらにセルロースアシレートの製膜工程中に添加してもよい。
【0090】
各添加剤の添加量は、機能が発現する限りにおいて特に限定されない。また、本発明のセルロースアシレートフィルムが多層から形成される場合、各層の添加物の種類や添加量が異なってもよい。本発明のセルロースアシレートフィルムにおいては、分子量が200以上の各添加剤化合物の総量は、セルロースアシレート重量に対して1〜35%であることが望ましい。より好ましくは1〜25%であり、さらに望ましくは2〜20%である。これらの化合物としては上述したように、光学異方性を低下する化合物、波長分散調整剤、紫外線防止剤、可塑剤、劣化防止剤、微粒子、剥離剤、赤外吸収剤などである。
これらの添加剤の分子量は、熱揮発性とセルロースアシレートの相溶性の観点から、熱揮発蒸散を防止するために大きいほうが好ましい。一方で、分子量が大きすぎるとセルロースアシレートとの相溶性が低下し、またセルロースアシレート中の移動性が低下する。このため分子量は、好ましくは200〜3000であり、さらに好ましくは300〜3000であり、特に好ましくは500〜3000である。
【0091】
上記の添加剤のうち可塑剤を添加すれば、湿度変化に伴うセルロースアシレートフィルムのRe、Rthの変化を効果的に抑制することができる。可塑剤としては、例えば、アルキルフタリルアルキルグリコレート類、リン酸エステルやカルボン酸エステル等が挙げられる。それらは固体でもよく油状物でもよい。すなわち、その融点や沸点において特に限定されるものではない。
【0092】
アルキルフタリルアルキルグリコレート類として、例えばメチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等が挙げられる。
【0093】
リン酸エステルとしては、例えばトリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、ビフェニルジフェニルホスフェート等を挙げることができる。さらに特表平6−501040号公報の請求項3〜7に記載のリン酸エステル系可塑剤を用いることが好ましい。
【0094】
カルボン酸エステルとしては、例えばジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレートおよびジエチルヘキシルフタレート等のフタル酸エステル類、およびクエン酸アセチルトリメチル、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル等のクエン酸エステル類、ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソブチルアジペート、ビス(2−エチルヘキシル)アジペート、ジイソデシルアジペート、ビス(ブチルジグリコールアジペート)等のアジピン酸エステルを挙げることができる。またその他、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、トリアセチン等を単独あるいは併用するのが好ましい。
【0095】
溶融製膜を行う場合は、不揮発性を有するものを特に好ましく使用することができる。例えば、特表平6−501040号公報の6〜7頁に記載される1,4−フェニレンーテトラフェニル燐酸エステル、トリナフチルホスフェート、トリスオルトービフェニルホスフェートなどを使用することができる。
【0096】
これらの可塑剤は、セルロースアシレートに対して0質量%〜10質量%で使用することが好ましく、より好ましくは1質量%〜8質量%、さらに好ましくは1質量%〜6質量%である。これらの可塑剤は必要に応じて、2種類以上を併用してもよい。
【0097】
上記の添加剤のうち、劣化防止剤を添加することも好ましい。フェノール系化合物を添加し、必要に応じてチオエーテル系化合物もしくはリン系化合物も添加することで、劣化防止に相乗効果が現れる。その他の劣化防止剤として、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)17頁〜22頁に詳細に記載されている素材を好ましく用いることができる。
【0098】
本発明のセルロースアシレートフィルムには、マット剤として微粒子を加えることも好ましい。本発明に使用される微粒子としては、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムおよびリン酸カルシウムを挙げることができる。微粒子はケイ素を含むものが濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。二酸化珪素の微粒子は、1次平均粒子サイズが20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上であるものが好ましい。1次粒子の平均径が5〜16nmと小さいものが、フィルムのヘイズを下げることができるため、より好ましい。見かけ比重は90〜200g/リットル以上が好ましく、100〜200g/リットル以上がさらに好ましい。見かけ比重が大きい程、高濃度の分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。
【0099】
これらの微粒子は、通常平均粒子サイズが0.1〜3.0μmの2次粒子を形成し、これらの微粒子はフィルム中では、1次粒子の凝集体として存在し、フィルム表面に0.1〜3.0μmの凹凸を形成させる。2次平均粒子サイズは0.2μm〜1.5μmが好ましく、0.4μm〜1.2μmがさらに好ましく、0.6μm〜1.1μmが最も好ましい。1次、2次粒子サイズはフィルム中の粒子を走査型電子顕微鏡で観察し、粒子に外接する円の直径をもって粒子サイズとした。また、場所を変えて粒子200個を観察し、その平均値をもって平均粒子サイズとした。
【0100】
二酸化珪素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)などの市販品を使用することができる。酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976およびR811(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0101】
これらの中でアエロジル200V、アエロジルR972Vが1次平均粒子サイズが20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上である二酸化珪素の微粒子であり、光学フィルムの濁度を低く保ちながら、摩擦係数をさげる効果が大きいため特に好ましい。
【0102】
<セルロースアシレートフィルム>
次に、本発明のセルロースアシレートフィルムについて説明する。本発明のセルロースアシレートフィルムは、以下に説明する溶融製膜法または溶液製膜法により製造する。
【0103】
(溶融製膜)
本発明において、セルロースアシレートは1種類のみを用いてもよく、2種類以上を混合しても良い。また、本発明のセルロースアシレート以外の高分子成分を適宜混合することもできる。混合される高分子成分はセルロースアシレートと相溶性に優れるものが好ましく、フィルムにしたときの透過率が80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは92%以上であることが好ましい。
【0104】
(溶融製膜の具体的方法)
以下に、溶融製膜の具体的な方法について説明する。
[1]乾燥
本発明のセルロースアシレートフィルムを製膜する原料として、セルロースアシレートをペレット化したものを用いるのが好ましい。すなわち、溶融製膜に先立ちペレット中の含水率を1%以下、より好ましくは0.5%以下にした後、溶融押出し機のホッパーに投入する。このときホッパーの温度をセルロースアシレートの(Tg−50℃)〜(Tg+30℃)とすることが好ましく、(Tg−40℃)〜(Tg+10℃)にすることがより好ましく、(Tg−30℃)〜Tgにすることが特に好ましい。これによりホッパー内での水分の再吸着を抑制し、上記乾燥の効率をより発現し易くできる。
【0105】
[2]混練押出し
混練溶融は140℃〜250℃で行うことが好ましく、150℃〜240℃で行うことがさらに好ましく、160℃〜235℃で混練溶融することが特に好ましい。この時、溶融温度は一定温度で行ってもよく、いくつかに分割して制御しても良い。好ましい混練時間は2分〜60分であり、より好ましくは3分〜40分であり、特に好ましくは3分〜30分である。さらに、溶融押出し機内を不活性(窒素等)気流中、またはベント付き押出し機を用い真空排気しながら実施するのも好ましい。
【0106】
[3]製膜
溶融した樹脂をギヤポンプに通し、押し出し機の脈動を除去した後、金属メッシュフィルター等で濾過を行い、この後ろに取り付けたT型のダイから冷却ドラム上にシート状に押し出す。押出しは単層で行ってもよく、マルチマニホールドダイやフィードブロックダイを用いて複数層押出しても良い。この時、ダイのリップの間隔を調整することで幅方向の厚みムラを調整することができる。
【0107】
この後キャスティングドラム上に押出す。この時、静電印加法、エアナイフ法、エアーチャンバー法、バキュームノズル法、タッチロール法等の方法を用い、キャスティングドラムと溶融押出ししたシートの密着を上げることが好ましい。このような密着向上法は、溶融押出しシートの全面に実施してもよく、一部に実施しても良い。
【0108】
本発明では溶融後ダイから押出した後、キャスティングドラム上でタッチロールを用いて製膜することがより好ましい。この方法はダイから出たメルトをキャスティングドラムとタッチロールで挟み込んで冷却固化するものである。このようなタッチロールは、ダイから出たメルトをロール間で挟む時に生じる残留歪を低減するために、弾性を有するものが好ましい。ロールに弾性を付与するためには、ロールの外筒厚みを通常のロールよりも薄くすることが必要であり、外筒の肉厚Zは、0.05mm〜7.0mmが好ましく、より好ましくは0.2mm〜5.0mm、更に好ましくは0.3mm〜2.0mm以下である。例えば、外筒厚みを薄くすることにより、弾性を付与したタイプや、金属シャフトの上に弾性体層を設け、その上に外筒を被せ、弾性体層と外筒の間に液状媒体層を満たすことにより極薄の外筒によりタッチロール製膜を可能にしたものが挙げられる。キャスティングロール、タッチロールは、表面が鏡面であることが好ましく、算術平均高さRaが100nm以下、好ましくは50nm以下、さらに好ましくは25nm以下である。具体的には例えば特開平11−314263号、特開2002−36332号、特開平11−235747号、国際公開第97/28950号、特開2004−216717号、特開2003−145609号各公報記載のものを利用できる。
このようにタッチロールは薄い外筒の内側を流体が満たされているため、キャスティングロールに接触させるとその押圧で凹状に弾性変形する。従って、タッチロールとキャスティングロールは冷却ロールと面接触するため押圧が分散され、低い面圧を達成できる。このためこの間に挟まれたフィルムに残留歪を残すことなく、表面の微細凹凸を矯正できる。好ましいタッチロールの線圧は3kg/cm〜100kg/cm、より好ましくは5kg/cm〜80kg/cm、さらに好ましくは7kg/cm〜60kg/cmである。ここで言う線圧とはタッチロールに加える力をダイの吐出口の幅で割った値である。このような線圧を調整することで、Rthを調整することができ(線圧アップでRthが向上)、よりRthの発現領域を広げられる。これは、タッチロールの面圧によるセルロースアシレートフィルムの面配向を促進し、Rthを増加させる効果がある。また、全体的に面圧が均一に掛けられるため、面内のRe、Rthムラを一段と低減することができ、コーナームラがより出にくくなる。さらに、タチロールを用いることで、フィルムに形成された微細凹凸(ダイライン)及び厚みムラを一段と低減する効果が得られる。
【0109】
タッチロールは好ましくは60℃〜160℃、より好ましくは70℃〜150℃、さらに好ましくは80℃〜140℃に設定する。このような温度制御はこれらのロール内部に温調した液体、気体を通すことで達成できる。
キャスティングドラムは60℃〜160℃が好ましく、より好ましくは70℃〜150℃、特に好ましくは80℃〜150℃である。この後、キャスティングドラムから剥ぎ取り、ニップロールを経た後巻き取る。巻き取り速度は10m/分〜100m/分が好ましく、より好ましくは15m/分〜80m/分、特に好ましくは20m/分〜70m/分である。
【0110】
製膜幅は1m〜5mが好ましく、より好ましくは1.2m〜4m、特に好ましくは1.3m〜3mである。このようにして得られる未延伸の膜状物の厚みは30μm〜400μmが好ましく、より好ましくは40μm〜300μm、特に好ましくは50μm〜200μmである。未延伸の膜状物の厚みムラは、厚み方向と幅方向のいずれも0%〜2%が好ましく、より好ましくは0%〜1.5%、さらに好ましくは0%〜1%である。
このようにして得たシートは両端をトリミングし、巻き取ることが好ましい。トリミングされた部分は、粉砕処理された後、或いは必要に応じて造粒処理や解重合・再重合等の処理を行った後、同じ品種のフィルム用原料としてまたは異なる品種のフィルム用原料として再利用してもよい。また、巻き取り前に、少なくとも片面にラミネートフィルムを付けることも、傷防止の観点から好ましい。
【0111】
(溶液製膜)
次に、本発明のセルロースアシレートの溶液製膜の好ましい形態について説明する。
本発明においては、セルロースアシレートが溶解し流延,製膜できる範囲において、その目的が達成できる限りは、セルロースアシレートの溶媒は特に限定されない。好ましい溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、テトラクロロエチレンなどの塩素系有機溶剤、ならびに非塩素系有機溶媒を挙げることができる。
本発明で用いられる非塩素系有機溶媒は、炭素原子数が3〜12のエステル、ケトン、エーテルから選ばれる溶媒が好ましい。エステル、ケトンおよび、エーテルは、環状構造を有していてもよい。エステル、ケトンおよびエーテルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを2つ以上有する化合物も、主溶媒として用いることができ、たとえばアルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。2種類以上の官能基を有する主溶媒の場合、その炭素原子数はいずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。炭素原子数が3〜12のエステル類の例としては、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチルおよび酢酸ペンチルが挙げられる。炭素原子数が3〜12のケトン類の例としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノンが挙げられる。炭素原子数が3〜12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトールが挙げられる。2種類以上の官能基を有する有機溶媒の例としては、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノールおよび2−ブトキシエタノールが挙げられる。
【0112】
本発明で用いられる非塩素系有機溶媒は、セルロースアシレートが溶解し流延、製膜できる範囲において、その目的が達成できる限りは、その塩素系有機溶媒は特に限定されない。これらの塩素系有機溶媒は、好ましくはジクロロメタン、クロロホルムである。特にジクロロメタンが好ましい。また、塩素系有機溶媒以外の有機溶媒を混合することも特に問題ない。その場合は、ジクロロメタンは少なくとも50質量%使用することが必要である。本発明の併用される非塩素系有機溶媒について以下に記す。すなわち、好ましい非塩素系有機溶媒としては、炭素原子数が3〜12のエステル、ケトン、エーテル、アルコール、炭化水素などから選ばれる溶媒が好ましい。エステル、ケトン、エーテルおよびアルコールは、環状構造を有していてもよい。エステル、ケトンおよびエーテルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も溶媒として用いることができ、たとえばアルコール性水酸基のような他の官能基を同時に有していてもよい。2種類以上の官能基を有する溶媒の場合、その炭素原子数はいずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。炭素原子数が3〜12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートおよびペンチルアセテートが挙げられる。炭素原子数が3〜12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノンが挙げられる。炭素原子数が3〜12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトールが挙げられる。2種類以上の官能基を有する有機溶媒の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノールおよび2−ブトキシエタノールが挙げられる。
【0113】
また塩素系有機溶媒と併用されるアルコールとしては、好ましくは直鎖であっても分枝を有していても環状であってもよく、その中でも飽和脂肪族炭化水素であることが好ましい。アルコールの水酸基は、第一級〜第三級のいずれであってもよい。アルコールの例には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、1−ペンタノール、2−メチル−2−ブタノールおよびシクロヘキサノールが含まれる。なおアルコールとしては、フッ素系アルコールも用いられる。例えば、2−フルオロエタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノールなども挙げられる。さらに炭化水素は、直鎖であっても分岐を有していても環状であってもよい。芳香族炭化水素と脂肪族炭化水素のいずれも用いることができる。脂肪族炭化水素は、飽和であっても不飽和であってもよい。炭化水素の例には、シクロヘキサン、ヘキサン、ベンゼン、トルエンおよびキシレンが含まれる。
【0114】
以上のセルロースアシレートに用いられる主溶媒である塩素系有機溶媒と併用される非塩素系有機溶媒については、特に限定されないが、酢酸メチル、酢酸エチル、ギ酸メチル、ギ酸エチル、アセトン、ジオキソラン、ジオキサン、炭素原子数が4〜7のケトン類またはアセト酢酸エステル、炭素数が1〜10のアルコールまたは炭化水素から選ばれる。なお好ましい併用される非塩素系有機溶媒は、酢酸メチル、アセトン、ギ酸メチル、ギ酸エチル、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、アセチル酢酸メチル、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、およびシクロヘキサノール、シクロヘキサン、ヘキサンを挙げることができる。
【0115】
本発明のセルロースアシレートは、有機溶媒に10〜35質量%溶解させることが好ましい。より好ましくは13〜30質量%であり、特には15〜28質量%溶解しているセルロースアシレート溶液であることが好ましい。これらの濃度にセルロースアシレートを実施する方法は、溶解する段階で所定の濃度になるように実施してもよく、また予め低濃度溶液(例えば9〜14質量%)として作製した後に後述する濃縮工程で所定の高濃度溶液に調整してもよい。さらに、予め高濃度のセルロースアシレート溶液として後に、種々の添加物を添加することで所定の低濃度のセルロースアシレート溶液としてもよく、いずれの方法で本発明のセルロースアシレート溶液濃度になるように実施されれば特に問題ない。
【0116】
本発明のセルロースアシレート溶液(ドープ)の調製については、その溶解方法は特に限定されず、室温でもよくさらには冷却溶解法あるいは高温溶解方法、さらにはこれらの組み合わせで実施される。これらに関しては、例えば特開平5−163301号、特開昭61−106628号、特開昭58−127737号、特開平9−95544号、特開平10−95854号、特開平10−45950号、特開2000−53784号、特開平11−322946号、さらに特開平11−322947号、特開平2−276830号、特開2000−273239号、特開平11−71463号、特開平04−259511号、特開2000−273184号、特開平11−323017号、特開平11−302388号公報などにセルロースアシレート溶液の調製法、が記載されている。以上記載したこれらのセルロースアシレートの有機溶媒への溶解方法は、本発明においても適宜本発明の範囲であればこれらの技術を適用できるものである。これらの詳細は、特に非塩素系溶媒系については発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)22頁〜25頁に詳細に記載されている方法で実施される。さらに本発明のセルロースアシレートのドープ溶液は、溶液濃縮,ろ過が通常実施され、同様に発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)25頁に詳細に記載されている。なお、高温度で溶解する場合は、使用する有機溶媒の沸点以上の場合がほとんどであり、その場合は加圧状態で用いられる。
【0117】
本発明のセルロースアシレート溶液は、その溶液の粘度と動的貯蔵弾性率がある範囲であることが好ましい。試料溶液1mLをレオメーター(CLS 500)に直径 4cm/2°のSteel Cone(共にTA Instrumennts社製)を用いて測定した。測定条件はOscillation Step/Temperature Rampで 40℃〜−10℃の範囲を2℃/分で可変して測定し、40℃の静的非ニュートン粘度n*(Pa・s)および−5℃の貯蔵弾性率G’(Pa)を求めた。尚、試料溶液は予め測定開始温度にて液温一定となるまで保温した後に測定を開始した。本発明では、40℃での粘度が1〜400Pa・sであり、15℃での動的貯蔵弾性率が500Pa以上が好ましく、より好ましくは40℃での粘度が10〜200Pa・sであり、15℃での動的貯蔵弾性率が100〜100万が好ましい。さらには低温での動的貯蔵弾性率が大きいほど好ましく、例えば流延支持体が−5℃の場合は動的貯蔵弾性率が−5℃で1万〜100万Paであることが好ましく、支持体が−50℃の場合は−50℃での動的貯蔵弾性率が1万〜500万Paであることが好ましい。
【0118】
(溶液製膜の具体的方法)
次に、溶液製膜法について具体的に説明する。本発明のセルロースアシレートフィルムを製造する方法および設備は、従来セルロースアシレートフィルム製造に供する溶液流延製膜方法および溶液流延製膜装置が用いられる。溶解機(釜)から調製されたドープ(セルロースアシレート溶液)を貯蔵釜で一旦貯蔵し、ドープに含まれている泡を脱泡して最終調製をする。ドープをドープ排出口から、例えば回転数によって高精度に定量送液できる加圧型定量ギヤポンプを通して加圧型ダイに送り、ドープを加圧型ダイの口金(スリット)からエンドレスに走行している流延部の金属支持体の上に均一に流延され、金属支持体がほぼ一周した剥離点で、生乾きのドープ膜(ウェブとも呼ぶ)を金属支持体から剥離する。得られるウェブの両端をクリップで挟み、幅保持しながらテンターで搬送して乾燥し、続いて乾燥装置のロール群で搬送し乾燥を終了して巻き取り機で所定の長さに巻き取る。テンターとロール群の乾燥装置との組み合わせはその目的により変わる。ハロゲン化銀写真感光材料や電子ディスプレイ用機能性保護膜に用いる溶液流延製膜方法においては、溶液流延製膜装置の他に、下引層、帯電防止層、ハレーション防止層、保護層等のフィルムへの表面加工のために、塗布装置が付加されることが多い。これらの各製造工程については、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)25頁〜30頁に詳細に記載され、流延(共流延を含む),金属支持体,乾燥,剥離,延伸などに分類される。
【0119】
ここで、本発明においては流延部の空間温度は特に限定されないが、−50〜50℃であることが好ましい。さらには−30〜40℃であることが好ましく、特には−20〜30℃であることが好ましい。特に低温での空間温度により流延されたセルロースアシレート溶液は、支持体の上で瞬時に冷却されゲル強度アップすることでその有機溶媒を含んだフィルムを保持することができる。これにより、セルロースアシレートから有機溶媒を蒸発させることなく、支持体から短時間で剥ぎ取りことが可能となり、高速流延が達成できるものである。なお、空間を冷却する手段としては通常の空気でもよいし窒素やアルゴン、ヘリウムなどでもよく特に限定されない。またその場合の相対湿度は0〜70%が好ましく、さらには0〜50%が好ましい。また、本発明ではセルロースアシレート溶液を流延する流延部の支持体の温度が−50〜130℃であり、好ましくは−30〜25℃であり、さらには−20〜15℃である。流延部を本発明の温度に保つためには、流延部に冷却した気体を導入して達成してもよく、あるいは冷却装置を流延部に配置して空間を冷却してもよい。この時、水が付着しないように注意することが重要であり、乾燥した気体を利用するなどの方法で実施できる。
【0120】
本発明においてその各層の内容と流延については、特に以下の構成が好ましい。すなわち、セルロースアシレート溶液が、25℃において、少なくとも1種の液体または固体の可塑剤をセルロースアシレートに対して0.1〜20質量%含有しているセルロースアシレート溶液であること、および/または少なくとも1種の液体または固体の紫外線吸収剤をセルロースアシレートに対して0.001〜5質量%含有しているセルロースアシレート溶液であること、および/または少なくとも1種の固体でその平均粒子サイズが5〜3000nmである微粒子粉体をセルロースアシレートに対して0.001〜5質量%含有しているセルロースアシレート溶液であること、および/または少なくとも1種のフッ素系界面活性剤をセルロースアシレートに対して0.001〜2質量%含有しているセルロースアシレート溶液であること、および/または少なくとも1種の剥離剤をセルロースアシレートに対して0.0001〜2質量%含有しているセルロースアシレート溶液であること、および/または少なくとも1種の劣化防止剤をセルロースアシレートに対して0.0001〜2質量%含有しているセルロースアシレート溶液であること、および/または少なくとも1種の光学異方性コントロール剤をセルロースアシレートに対して0.1〜15質量%含有していること、および/または少なくとも1種の赤外吸収剤をセルロースアシレートに対して0.1〜5質量%含有しているセルロースアシレート溶液であることが好ましい。
【0121】
流延工程では1種類のセルロースアシレート溶液を単層流延してもよいし、2種類以上のセルロースアシレート溶液を同時およびまたは逐次共流延しても良い。2層以上からなる流延工程を有する場合は、作製されるセルロースアシレート溶液およびセルロースアシレートフィルムにおいて、各層の塩素系溶媒の組成が同一であるか異なる組成のどちらか一方であること、各層の添加剤が1種類であるかあるいは2種類以上の混合物のどちらか
一方であること、各層への添加剤の添加位置が同一層であるか異なる層のどちらか一方であること、添加剤の溶液中の濃度が各層とも同一濃度であるかあるいは異なる濃度のどちらか一方であること、各層の会合体分子量が同一であるかあるいは異なる会合体分子量のどちらか一方であること、各層の溶液の温度が同一であるか異なる温度のどちらか一方であること、また各層の塗布量が同一か異なる塗布量のどちらか一方であること、各層の粘度が同一であるか異なる粘度のどちらか一方であること、各層の乾燥後の膜厚が同一であるか異なる厚さのどちらか一方であること、さらに各層に存在する素材が同一状態あるいは分布であるか異なる状態あるいは分布であること、各層の物性が同一であるかあるいは異なる物性のどちらか一方であること、各層の物性が均一であるか異なる物性の分布のどちらか一方であること、を特徴とするセルロースアシレート溶液およびその溶液から作製されるセルロースアシレートフィルムであることも好ましい。ここで、物性とは発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)の6頁〜7頁に詳細に記載されている物性を含むものであり、例えばヘイズ、透過率、分光特性、レターゼーションRe、同Rth、分子配向軸、軸ズレ、引裂強度、耐折強度、引張強度、巻き内外Rt差、キシミ、動摩擦、アルカリ加水分解、カール値、含水率、残留溶剤量、熱収縮率、高湿寸度評価、透湿度、ベースの平面性、寸法安定性、熱収縮開始温度、弾性率、および輝点異物の測定などであり、さらにはベースの評価に用いられるインピーダンス、面状も含まれるものである。また、発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて11頁に詳細に記載されているセルロースアシレートのイエローインデックス、透明度、熱物性(Tg、結晶化熱)なども挙げることができる。
【0122】
乾燥工程においては、剥離して得られるウェブの両端をクリップで挟み、幅保持しながらテンターで搬送して乾燥し、続いて乾燥装置のロール群で搬送し乾燥を終了して巻き取り機で所定の長さに巻き取る。テンターとロール群の乾燥装置との組み合わせはその目的により変わる。ハロゲン化銀写真感光材料や電子ディスプレイ用機能性保護膜に用いる溶液流延製膜法においては、溶液流延製膜装置の他に、下引層、帯電防止層、ハレーション防止層、保護層等のフィルムへの表面加工のために、塗布装置が付加されることが多い。
【0123】
本発明における溶液製膜における乾燥方法は特に限定しないが、フィルムの光弾性を確保する観点で、溶剤を含んだ状態から徐々にフィルムの温度を上げる徐昇温乾燥がより好ましい。本発明のようなセルロースアシレートフィルムからなる位相差板は、液晶表示装置内で偏光層と貼り合わせて使用されることが多い。偏光層はPVAにヨウ素を含浸し1軸延伸したものが多く、PVAが親水性のため湿度変化に伴い伸張、収縮を繰り返す。このため、偏光層と共に貼り合わせられたセルロースアシレートフィルムは収縮、伸張応力を受け、この結果セルロースアシレート分子の配向に変化が生じ、ReおよびRthが変化する。このような応力に伴うReおよびRthの変化は光弾性として測定でき、これが1〜25×10-7(cm2/kgf)が好ましく、より好ましくは1〜20×10-7(cm2/kgf)が好ましく、さらに好ましくは1〜18×10-7(cm2/kgf)である。
【0124】
巻き取り工程は、ウェブを乾燥工程において上述の方法で乾燥させた後、両端をトリミングし、型押し加工(ナーリング付与)した後、巻き取る。このようにして乾燥の終了したフィルム中の残留溶剤は0質量%〜1質量%が好ましく、より好ましくは0質量%〜0.5質量%である。乾燥終了後、両端をトリミングして巻き取る。好ましい幅は0.5m〜5mであり、より好ましくは0.7m〜3mであり、さらに好ましくは1m〜2mである。また、好ましい巻長は300m〜30000mであり、より好ましくは500m〜10000mであり、さらに好ましくは1000m〜7000mである。また、巻き取り前に、少なくとも片面にラミフィルムを付けることも、傷防止の観点から好ましい。
【0125】
このようにして乾燥した後の膜厚は30〜200μmが好ましく、35μm〜180μmがより好ましく、40μm〜150μmが特に好ましい。未延伸原反膜の厚みムラは厚み方向、幅方向いずれも0%〜2%が好ましく、より好ましくは0%〜1.5%、さらに好ましくは0%〜1%である。
【0126】
<延伸>
以上のようにして、溶融製膜あるいは溶液製膜によって製造したセルロースアシレート膜状物は、縦方向または横方向のうちの少なくとも一方向に10%〜250%延伸する。ここにおいて、縦方向とはセルロースアシレート膜状物の製膜流れの方向(長手方向)を意味し、横方向とはそれに直交する方向を意味する。
延伸条件を適切に制御することによって、得られるセルロースアシレートフィルムの面状を改善し、Re、Rthを所望の範囲内に制御し、フィルムを巻取った後の幅方向の残留応力を抑え、湿熱による寸法変化や光弾性を小さくし、応力に対する光学特性(Re、Rth)の変化を抑えることができる。その結果、液晶装置に組み込んだときに、額縁ムラの発生を効果的に抑制することができるようになる。具体的には、以下に記載する好ましい条件下で延伸を行うことが好ましい。特に、延伸時のセルロースアシレート膜状物中に残存する溶媒量、延伸後の緩和率、冷却速度を制御することにより、延伸後に得られるセルロースアシレートフィルムの寸法変化や光弾性を安定化させることができ、使用環境における額縁ムラを効果的に抑制することができる。
【0127】
本発明のセルロースアシレートフィルムを製造する際には、溶液流延または溶融流延により製膜したセルロースアシレート膜状物を、残留溶媒量が1質量%以下の状態でドライ延伸することが特に好ましい。
延伸は製膜工程中、オン−ラインで実施しても良く、製膜完了後、一度巻き取った後にオフ−ラインで実施しても良い。すなわち、溶融製膜の場合、延伸は製膜工程における冷却が完了しない段階で実施しても良いし、冷却終了後に実施しても良い。
これらの延伸は1段で実施しても、多段で実施しても良い。延伸温度はTg〜(Tg+40℃)が好ましく、より好ましくは(Tg+1℃)〜(Tg+30℃)、特に好ましくは(Tg+2℃)〜(Tg+25℃)である。好ましい延伸倍率は10%〜300%、さらに好ましくは10%〜250%、特に好ましくは20%〜200%である。これらの延伸は1段で実施しても、多段で実施しても良い。ここで言う延伸倍率は、延伸方向の緩和率を除いた、最終(実質)延伸倍率を指す。以下の式を用いて求めたものである。
【0128】
最終延伸倍率(%)=100×{(実質な延伸後の長さ)−(延伸前の長さ)}/延伸前の長さ
【0129】
延伸は、縦延伸、横延伸、またはこれらの組み合わせによって実施される。縦延伸を行う際には、ロール延伸(出口側の周速を速くした2対以上のニップロールを用いて長手方向に延伸するもの)や固定端延伸(フィルムの両端を把持し、これを長手方向に次第に早く搬送して長手方向に延伸するもの)等を用いることができる。さらに横延伸を行う際には、テンター延伸(フィルムの両端をチャックで把持しこれを横方向(長手方向と直角方向)に広げて延伸するもの)等を用いることができる。これらの縦延伸と横延伸は、それぞれ単独で行っても良く(1軸延伸)、組み合わせて行っても良い(2軸延伸)。2軸延伸の場合、縦方向と横方向に逐次延伸しても良いし(逐次延伸)、同時に延伸しても良い(同時延伸)。
Re、Rthの比を所望の値にするためには、縦延伸の場合、ニップロール間をフィルム幅で割った値(縦横比)を制御する。即ち縦横比を小さくすることで、Rth/Re比を大きくすることができる。横延伸の場合、直交方向に延伸すると同時に縦方向にも延伸したり、逆に緩和させたりすることで制御することができる。即ち縦方向に延伸することでRth/Re比を大きくすることができ、逆に縦方向に緩和することでRth/Re比を小さくすることができる。さらに縦延伸と横延伸を組み合わせることで、Reを小さくしながら(縦と横の延伸倍率を近づける)、Rthを大きくする(面積倍率(縦倍率×横倍率)を上げる)ことで、Re,Rthを制御できる。本発明では縦方向と横方向の延伸倍率の差を10%〜100%にすることが好ましく、より好ましくは20%〜80%、さらに好ましくは25%〜60%にする。延伸は縦横非対称で行うことが好ましい。この時、横方向の延伸倍率を高くすることがさらに好ましい。
縦延伸、横延伸の延伸速度は10%/分〜10000%/分が好ましく、より好ましくは20%/分〜1000%/分、特に好ましくは30%/分〜800%/分である。多段延伸の場合、各段の延伸速度の平均値を指す。
【0130】
延伸を行った後には、延伸方向に対してある程度の緩和を行うことが好ましい。緩和を行うことによって、延伸したフィルムの寸法安定性を向上することができ、延伸する際に中央部と端部に生じたストレス(応力)の不平衡を解消させ、温度および湿熱の変動に伴うフィルムの寸法安定性の向上を促進し、使用環境における額縁ムラを効果的に抑制することができる。緩和は、延伸時の延伸率(最大延伸率)に対して1%〜40%の比率、より好ましくは1%〜30%の比率、さらに好ましくは2%〜25%の比率で延伸方向に実施する。
【0131】
このような延伸に引き続き、(Tg−30℃)〜(Tg+30℃)の温度で1秒〜3分熱固定することも好ましい。(Tg−20℃)〜(Tg+20℃)の温度で5秒〜2分熱固定することがより好ましい。
【0132】
延伸し、熱固定した後のセルロースアシレートフィルムは、テンションが掛かった状態で徐冷することが好ましい。徐冷速度は1℃/分〜50℃/分が好ましく、より好ましくは2℃/分〜30℃/分、さらに好ましくは3℃/分〜20℃/分である。
【0133】
上記のような延伸を経て製造される本発明のセルロースアシレートフィルムのReとRthは下式を満足することが好ましい。
0≦Re≦300
10≦Rth≦500
1≦Rth/Re≦10
より好ましくは
10≦Re≦200
50≦Rth≦400
1.1≦Rth/Re≦10
さらに好ましくは
20≦Re≦150
80≦Rth≦350
1.2≦Rth/Re≦10
【0134】
本明細書において、Re、Rthは各々、波長λにおける面内のリターデーションおよび厚さ方向のリターデーションを表す。ReとRthの測定は、フィルムを25℃・相対湿度60%にて24時間調湿後、自動複屈折計(KOBRA−21ADH:王子計測機器(株)製)を用いて25℃・相対湿度60%において行う。ReはKOBRA−21ADH(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定する。Rthは前記Re、面内の遅相軸(KOBRA−21ADHにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して角度を変えて、傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定した複数のレターデーション値を基にKOBRA−21ADHが算出する。本明細書においては、特に断らない限りλとして590±5nmを使用している。
【0135】
本発明のセルロースアシレートフィルムの波長590nmにおける25℃・相対湿度10%におけるReと25℃・相対湿度80%におけるReの差は15nm以下が好ましく、10nm以下がさらに好ましい。
また、波長590nmにおける25℃・相対湿度10%におけるRthと25℃・相対湿度80%におけるRthの差は25nm以下が好ましく、15nm以下がさらに好ましい。
【0136】
このようにして延伸した後の膜厚は10〜200μmが好ましく、20μm〜200μmがより好ましく、25μm〜150μmが特に好ましい。厚みムラは、厚み方向と幅方向のいずれも0%〜2%が好ましく、より好ましくは0%〜1.5%、さらに好ましくは0%〜1%である。
【0137】
このようにして得たセルロースアシレートフィルムの弾性率は、1.5kN/mm2
2.9kN/mm2が好ましく、より好ましくは1.7kN/mm2〜2.8kN/mm2
、さらに好ましくは1.8kN/mm2〜2.6kN/mm2である。
【0138】
また製膜方向(長手方向)と、フィルムのReの遅相軸とのなす角度θは0°、+90°もしくは−90°に近いほど好ましい。即ち、縦延伸の場合は0°に近いほどよく、0±3°が好ましく、より好ましくは0±2°、特に好ましくは0±1°である。横延伸の場合は、90±3°または−90±3°が好ましく、より好ましくは90±2°または−90±2°、特に好ましくは90±1°または−90±1°である。
【0139】
本発明のセルロースアシレートフィルムは単独で使用してもよく、これらと偏光板を組み合わせて使用してもよく、これらの上に液晶層や屈折率を制御した層(低反射層)やハードコート層を設けて使用しても良い。
【0140】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、偏光板保護フィルム、または位相差板として使用することが好ましい。偏光板保護フィルム、または位相差板として使用した場合には、吸湿による伸張、収縮による応力により複屈折(Re,Rth)が変化する場合がある。このような応力に伴う複屈折の変化は光弾性係数として測定できるが、その範囲は、1〜25×10-7(cm2/kgf)が好ましく、1〜20×10-7(cm2/kgf)がより好ましく、1〜18×10-7(cm2/kgf)であることが特に好ましい。
【0141】
<表面処理>
延伸して製造した本発明のセルロースアシレートフィルムは、場合により表面処理を行うことによって、セルロースアシレートフィルムと各機能層(例えば、下塗層およびバック層)との接着の向上を達成することができる。例えばグロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理、酸またはアルカリ処理を用いることができる。ここでいうグロー放電処理とは、10-3〜20Torrの低圧ガス下でおこる低温プラズマでもよく、さらにまた大気圧下でのプラズマ処理も好ましい。プラズマ励起性気体とは上記のような条件においてプラズマ励起される気体をいい、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、窒素、二酸化炭素、テトラフルオロメタンの様なフロン類およびそれらの混合物などが挙げられる。これらについては、詳細が発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)30頁〜32頁に詳細に記載されている。なお、近年注目されている大気圧でのプラズマ処理は、例えば10〜1000Kev下で20〜500Kgyの照射エネルギーが用いられ、より好ましくは30〜500Kev下で20〜300Kgyの照射エネルギーが用いられる。これらの中でも特に好ましくは、アルカリ鹸化処理でありセルロースアシレートフィルムの表面処理としては極めて有効である。
【0142】
アルカリ鹸化処理は、鹸化液に浸漬しても良く、鹸化液を塗布しても良い。浸漬法の場合は、NaOHやKOH等のpH10〜14の水溶液を20℃〜80℃に加温した槽を0.1分から10分通過させたあと、中和、水洗、乾燥することで達成できる。
【0143】
塗布方法の場合、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、バーコーティング法およびE型塗布法を用いることができる。アルカリ鹸化処理塗布液の溶媒は、鹸化液の透明支持体に対して塗布するために濡れ性が良く、また鹸化液溶媒によって透明支持体表面に凹凸を形成させずに、面状を良好なまま保つ溶媒を選択することが好ましい。具体的には、アルコール系溶媒が好ましく、イソプロピルアルコールが特に好ましい。また、界面活性剤の水溶液を溶媒として使用することもできる。アルカリ鹸化塗布液のアルカリは、上記溶媒に溶解するアルカリが好ましく、KOH、NaOHがより好ましい。鹸化塗布液のpHは10以上が好ましく、12以上がさらに好ましい。アルカリ鹸化時の反応条件は、室温で1秒〜5分が好ましく、5秒〜5分がより好ましく、20秒〜3分が特に好ましい。アルカリ鹸化反応後、鹸化液塗布面を水洗または酸で洗浄したあと水洗することが好ましい。また、塗布式鹸化処理と後述の配向膜解塗設を、連続して行うことができ、工程数を減少できる。これらの鹸化方法は、具体的には、例えば、特開2002−82226公報、国際公開第02/46809号パンフレットに内容の記載が挙げられる。
【0144】
機能層との接着のため下塗り層を設けることも好ましい。この層は上記表面処理をした後、塗設しても良く、表面処理なしで塗設しても良い。下塗層についての詳細は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)32頁に記載されている。
これらの表面処理、下塗り工程は、製膜工程の最後に組み込むこともでき、単独で実施することもでき、後述の機能層付与工程の中で実施することもできる。
【0145】
<機能層との組み合わせ>
本発明のセルロースアシレートフィルムに、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)32頁〜45頁に詳細に記載されている機能性層を組み合わせることが好ましい。中でも好ましいのが、偏光膜の付与(偏光板の形成)、光学補償層の付与(光学補償シート)、反射防止層の付与(反射防止フィルム)である。
【0146】
[偏光膜]
(偏光膜の素材)
現在、市販の偏光膜は、延伸したポリマーを、浴槽中のヨウ素もしくは二色性色素の溶液に浸漬し、バインダー中にヨウ素、もしくは二色性色素を浸透させることで作製されるのが一般的である。偏光膜は、Optiva Inc.に代表される塗布型偏光膜も利用できる。
偏光膜におけるヨウ素および二色性色素は、バインダー中で配向することで偏光性能を発現する。二色性色素としては、アゾ系色素、スチルベン系色素、ピラゾロン系色素、トリフェニルメタン系色素、キノリン系色素、オキサジン系色素、チアジン系色素またはアントラキノン系色素が用いられる。二色性色素は、水溶性であることが好ましい。二色性色素は、親水性置換基(例えば、スルホ、アミノ、ヒドロキシル)を有することが好ましい。例えば、発明協会公開技法(公技番号2001−1745号、2001年3月15日発行、発明協会)58頁に記載の化合物が挙げられる。
【0147】
偏光膜のバインダーは、それ自体架橋可能なポリマーまたは架橋剤により架橋されるポリマーのいずれも使用することができ、これらの組み合わせを複数使用することができる。バインダーには、例えば特開8−338913号公報の段落番号[0022]に記載のメタクリレート系共重合体、スチレン系共重合体、ポリオレフィン、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコール、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、ポリエステル、ポリイミド、酢酸ビニル共重合体、カルボキシメチルセルロース、ポリカーボネート等が含まれる。シランカップリング剤をポリマーとして用いることができる。
【0148】
なかでも水溶性ポリマー(例えば、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール)が好ましく、ゼラチン、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールがより好ましく、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールがさらに好ましい。重合度が異なるポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールを2種類併用することが特に好ましい。ポリビニルアルコールの鹸化度は、70〜100%が好ましく、80〜100%がより好ましい。
ポリビニルアルコールの重合度は、100〜5000であることが好ましい。
【0149】
変性ポリビニルアルコールについては、特開平8−338913号、同9−152509号および同9−316127号の各公報に記載されている。ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールは、2種以上を併用してもよい。
バインダー厚みの下限は、10μmであることが好ましい。厚みの上限は、液晶表示装置の光漏れの観点からは、薄ければ薄い程よい。現在市販の偏光板(約30μm)以下であることが好ましく、25μm以下がより好ましく、20μm以下が特に好ましい。
【0150】
偏光膜のバインダーは架橋していてもよい。架橋性の官能基を有するポリマー、モノマーをバインダー中に混合しても良く、バインダーポリマー自身に架橋性官能基を付与しても良い。架橋は、光、熱またはpH変化により行うことができ、架橋構造をもったバインダーを形成することができる。架橋剤については、米国再発行特許第23297号明細書に記載がある。また、ホウ素化合物(例えば、ホウ酸、硼砂)も、架橋剤として用いることができる。バインダーの架橋剤の添加量は、バインダーに対して、0.1〜20質量%が好ましい。偏光素子の配向性、偏光膜の耐湿熱性が良好となる。
【0151】
架橋反応が終了後でも、未反応の架橋剤は1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。このようにすることで、耐候性が向上する。
【0152】
(偏光膜の延伸)
偏光膜は、偏光膜を延伸するか(延伸法)、もしくはラビングした(ラビング法)後に、ヨウ素、二色性染料で染色することが好ましい。
延伸法の場合、延伸倍率は2.5〜30.0倍が好ましく、3.0〜10.0倍がより好ましい。延伸は、空気中でのドライ延伸により実施することができる。また、水に浸漬した状態でのウェット延伸により実施してもよい。ドライ延伸の延伸倍率は、2.5〜5.0倍が好ましく、ウェット延伸の延伸倍率は、3.0〜10.0倍が好ましい。延伸はMD方向に平行に行っても良く(平行延伸)、斜め方向におこなっても良い(斜め延伸)。これらの延伸は、1回で行っても、数回に分けて行ってもよい。数回に分けることによって、高倍率延伸でもより均一に延伸することができる。より好ましいのが斜め方向に10度から80度の傾きを付けて延伸する斜め延伸である。
【0153】
(イ)平行延伸法
延伸に先立ち、PVAフィルムを膨潤させる。膨潤度は通常1.2〜2.0倍(膨潤前と膨潤後の質量比)である。この後、ガイドロール等を介して連続搬送しつつ、水系媒体浴内や二色性物質溶解の染色浴内で、通常15〜50℃、好ましくは17〜40℃の浴温で延伸する。延伸は2対のニップロールで把持し、後段のニップロールの搬送速度を前段のそれより大きくして行うことができる。前記作用効果の点より好ましい延伸倍率(延伸後/初期状態の長さ比:以下同じ)は1.2〜3.5倍、より好ましくは1.5〜3.0倍である。この後、50℃〜90℃において乾燥させて偏光膜を得る。
【0154】
(ロ)斜め延伸法
斜め延伸法は、特開2002−86554号公報に記載されているように、傾斜め方向に張り出したテンターを用いて延伸することにより実施することができる。この延伸は空気中で行うため、事前に含水させて延伸しやすくすることが必用である。好ましい含水率は5%〜100%、より好ましくは10%〜100%である。
延伸時の温度は40℃〜90℃が好ましく、より好ましくは50℃〜80℃である。相対湿度は50%〜100%が好ましく、より好ましくは70%〜100%、特に好ましくは80%〜100%である。長手方向の進行速度は、1m/分以上が好ましく、より好ましくは3m/分以上である。
【0155】
延伸の終了後、好ましくは50℃〜100℃、より好ましくは60℃〜90℃で、好ましくは0.5分〜10分、より好ましくは1分〜5分乾燥する。
このようにして得られる偏光膜の吸収軸は10°〜80°が好ましく、より好ましくは30°〜60°であり、特に好ましくは実質的に45°(40°〜50°)である。
【0156】
(貼り合せ)
上記鹸化後のセルロースアシレートフィルムと、延伸して調製した偏光膜を貼り合わせ偏光板を調製する。張り合わせる方向は、セルロースアシレートフィルムの流延軸方向と偏光板の延伸軸方向が45°になるように行うのが好ましい。
貼り合わせの接着剤は特に限定されないが、PVA系樹脂(アセトアセチル基、スルホン酸基、カルボキシル基、オキシアルキレン基等の変性PVAを含む)やホウ素化合物水溶液等が挙げられ、中でもPVA系樹脂が好ましい。接着剤層厚みは乾燥後に0.01〜10μmが好ましく、0.05〜5μmが特に好ましい。
【0157】
このようにして得た偏光板の光線透過率は高い方が好ましく、偏光度も高い方が好ましい。偏光板の透過率は、波長550nmの光において、30〜50%の範囲にあることが好ましく、35〜50%の範囲にあることがより好ましく、40〜50%の範囲にあることが特に好ましい。偏光度は、波長550nmの光において、90〜100%の範囲にあることが好ましく、95〜100%の範囲にあることがより好ましく、99〜100%の範囲にあることが特に好ましい。
【0158】
さらに、このようにして得た偏光板はλ/4板と積層し、円偏光板を作成することができる。この場合λ/4板の遅相軸と偏光板の吸収軸を45度になるように積層する。この時、λ/4板は特に限定されないが、より好ましくは低波長ほどレターデーションが小さくなるような波長依存性を有するものがより好ましい。さらには長手方向に対し20度〜70度傾いた吸収軸を有する偏光膜、および液晶性化合物からなる光学異方性層から成るλ/4板を用いることが好ましい。
【0159】
[光学補償層の付与(光学補償シートの作成)]
光学異方性層は、液晶表示装置の黒表示における液晶セル中の液晶化合物を補償するためのものであり、セルロースアシレートフィルムの上に配向膜を形成し、さらに光学異方性層を付与することで形成される。
【0160】
(配向膜)
上記表面処理したセルロースアシレートフィルム上に配向膜を設ける。この膜は、液晶性分子の配向方向を規定する機能を有する。しかし、液晶性化合物を配向後にその配向状態を固定してしまえば、配向膜はその役割を果たしているために、構成要素としては必ずしも必須のものではない。即ち、配向状態が固定された配向膜上の光学異方性層のみを偏光子上に転写して本発明のセルロースアシレートフィルムを用いた偏光板を作製することも可能である。
【0161】
配向膜は、有機化合物(好ましくはポリマー)のラビング処理、無機化合物の斜方蒸着、マイクログルーブを有する層の形成、またはラングミュア・ブロジェット法(LB膜)による有機化合物(例えば、ω−トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライド、ステアリル酸メチル)の累積のような手段で設けることができる。さらに、電場の付与、磁場の付与または光照射により、配向機能が生じる配向膜も知られている。
【0162】
配向膜は、ポリマーのラビング処理により形成することが好ましい。配向膜に使用するポリマーは、原則として、液晶性分子を配向させる機能のある分子構造を有する。
本発明では、液晶性分子を配向させる機能に加えて、架橋性官能基(例えば、二重結合)を有する側鎖を主鎖に結合させるか、または液晶性分子を配向させる機能を有する架橋性官能基を側鎖に導入することが好ましい。
【0163】
配向膜に使用されるポリマーは、それ自体架橋可能なポリマーまたは架橋剤により架橋されるポリマーのいずれも使用することができ、これらの組み合わせを複数使用することができる。ポリマーの例には、例えば特開平8−338913号公報の段落番号[0022]に記載のメタクリレート系共重合体、スチレン系共重合体、ポリオレフィン、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコール、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、ポリエステル、ポリイミド、酢酸ビニル共重合体、カルボキシメチルセルロース、ポリカーボネート等が含まれる。シランカップリング剤をポリマーとして用いることができる。水溶性ポリマー(例えば、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール)が好ましく、ゼラチン、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールがより好ましく、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールが特に好ましい。重合度が異なるポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールを2種類併用することが特に好ましい。ポリビニルアルコールの鹸化度は、70〜100%が好ましく、80〜100%がより好ましい。ポリビニルアルコールの重合度は、100〜5000であることが好ましい。
【0164】
液晶性分子を配向させる機能を有する側鎖は、一般に疎水性基を官能基として有する。具体的な官能基の種類は、液晶性分子の種類および必要とする配向状態に応じて決定する。
【0165】
例えば、変性ポリビニルアルコールの変性基としては、共重合変性、連鎖移動変性またはブロック重合変性により導入できる。変性基の例には、親水性基(カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、アミノ基、アンモニウム基、アミド基、チオール基等)、炭素数10〜100個の炭化水素基、フッ素原子置換の炭化水素基、チオエーテル基、重合性基(不飽和重合性基、エポキシ基、アジリニジル基等)、アルコキシシリル基(トリアルコキシ基、ジアルコキシ基、モノアルコキシ基)等が挙げられる。これらの変性ポリビニルアルコール化合物の具体例として、例えば特開2000−155216号公報の段落番号[0022]〜[0145]、同2002−62426号公報の段落番号[0018]〜[0022]に記載のもの等が挙げられる。
【0166】
架橋性官能基を有する側鎖を配向膜ポリマーの主鎖に結合させるか、または液晶性分子を配向させる機能を有する側鎖に架橋性官能基を導入すると、配向膜のポリマーと光学異方性層に含まれる多官能モノマーとを共重合させることができる。その結果、多官能モノマーと多官能モノマーとの間だけではなく、配向膜ポリマーと配向膜ポリマーとの間、そして多官能モノマーと配向膜ポリマーとの間も共有結合で強固に結合される。従って、架橋性官能基を配向膜ポリマーに導入することで、光学補償シートの強度を著しく改善することができる。
【0167】
配向膜ポリマーの架橋性官能基は、多官能モノマーと同様に、重合性基を含むことが好ましい。具体的には、例えば特開2000−155216号公報の段落番号[0080]〜[0100]に記載のもの等が挙げられる。配向膜ポリマーは、上記の架橋性官能基とは別に、架橋剤を用いて架橋させることもできる。
【0168】
架橋剤としては、アルデヒド、N−メチロール化合物、ジオキサン誘導体、カルボキシル基を活性化することにより作用する化合物、活性ビニル化合物、活性ハロゲン化合物、イソオキサゾールおよびジアルデヒド澱粉が含まれる。2種類以上の架橋剤を併用してもよい。具体的には、例えば特開2002−62426号公報の段落番号[0023]〜[0024]に記載の化合物等が挙げられる。反応活性の高いアルデヒド、特にグルタルアルデヒドが好ましい。
【0169】
架橋剤の添加量は、ポリマーに対して0.1〜20質量%が好ましく、0.5〜15質量%がより好ましい。配向膜に残存する未反応の架橋剤の量は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。このように調節することで、配向膜を液晶表示装置に長期使用、或は高温高湿の雰囲気下に長期間放置しても、レチキュレーション発生のない充分な耐久性が得られる。が発生することがある。
【0170】
配向膜は、基本的に、配向膜形成材料である上記ポリマー、架橋剤を含む透明支持体上に塗布した後、加熱乾燥(架橋させ)し、ラビング処理することにより形成することができる。架橋反応は、前記のように、透明支持体上に塗布した後、任意の時期に行って良い。ポリビニルアルコールのような水溶性ポリマーを配向膜形成材料として用いる場合には、塗布液は消泡作用のある有機溶媒(例えば、メタノール)と水の混合溶媒とすることが好ましい。その比率は質量比で水:メタノールが0:100〜99:1が好ましく、0:100〜91:9であることがより好ましい。これにより、泡の発生が抑えられ、配向膜、さらには光学異方性層の層表面の欠陥が著しく減少する。
【0171】
配向膜の塗布方法は、スピンコーティング法、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、ロッドコーティング法またはロールコーティング法が好ましい。特にロッドコーティング法が好ましい。また、乾燥後の膜厚は0.1〜10μmが好ましい。加熱乾燥は、通常20℃〜110℃で行なうことができる。充分な架橋を形成するためには60℃〜100℃が好ましく、80℃〜100℃がより好ましい。乾燥時間は通常1分〜36時間にすることができるが、好ましくは1分〜30分である。pHも、使用する架橋剤に最適な値に設定することが好ましく、グルタルアルデヒドを使用した場合は、通常pH4.5〜5.5で、特に5が好ましい。
【0172】
配向膜は、透明支持体上または上記下塗層上に設けられる。配向膜は、上記のようにポリマー層を架橋したのち、表面をラビング処理することにより得ることができる。
前記ラビング処理は、液晶表示装置を製造する際に行う液晶配向処理工程として広く採用されている処理方法を適用することができる。即ち、配向膜の表面を、紙やガーゼ、フェルト、ゴムまたはナイロン、ポリエステル繊維などを用いて一定方向に擦ることにより、配向を得る方法を用いることができる。一般的には、長さおよび太さが均一な繊維を平均的に植毛した布などを用いて数回程度ラビングを行うことにより実施される。
【0173】
工業的に実施する場合、搬送している偏光膜のついたフィルムに対し、回転するラビングロールを接触させることで達成するが、ラビングロールの真円度、円筒度、振れ(偏芯)はいずれも30μm以下であることが好ましい。ラビングロールへのフィルムのラップ角度は、0.1〜90°が好ましい。ただし、特開平8−160430号公報に記載されているように、360°以上巻き付けることで、安定なラビング処理を得ることもできる。フィルムの搬送速度は1〜100m/minが好ましい。ラビング角は0〜60°の範囲で適切なラビング角度を選択することが好ましい。液晶表示装置に使用する場合は、40〜50°が好ましい。45°が特に好ましい。
このようにして得た配向膜の膜厚は、0.1〜10μmの範囲にあることが好ましい。
【0174】
(光学異方性層)
次に、配向膜の上に光学異方性層の液晶性分子を配向させる。その後、必要に応じて、配向膜ポリマーと光学異方性層に含まれる多官能モノマーとを反応させるか、または架橋剤を用いて配向膜ポリマーを架橋させる。
光学異方性層に用いる液晶性分子には、棒状液晶性分子および円盤状液晶性分子が含まれる。棒状液晶性分子および円盤状液晶性分子は、高分子液晶でも低分子液晶でもよく、さらに、低分子液晶が架橋され液晶性を示さなくなったものも含まれる。
【0175】
1)棒状液晶性分子
棒状液晶性分子としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類およびアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が好ましく用いられる。
【0176】
なお、棒状液晶性分子には、金属錯体も含まれる。また、棒状液晶性分子を繰り返し単位中に含む液晶ポリマーも、棒状液晶性分子として用いることができる。言い換えると、棒状液晶性分子は、(液晶)ポリマーと結合していてもよい。
棒状液晶性分子については、季刊化学総説第22巻液晶の化学(1994)日本化学会編の第4章、第7章および第11章、および液晶デバイスハンドブック日本学術振興会第142委員会編の第3章に記載がある。
棒状液晶性分子の複屈折率は、0.001〜0.7の範囲にあることが好ましい。
【0177】
棒状液晶性分子は、その配向状態を固定するために、重合性基を有することが好ましい。重合性基は、ラジカル重合性不飽基或はカチオン重合性基が好ましく、具体的には、例えば特開2002−62427号公報の段落番号[0064]〜[0086]に記載の重合性基、重合性液晶化合物が挙げられる。
【0178】
2)円盤状液晶性分子
円盤状(ディスコティック)液晶性分子には、C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.71巻、111頁(1981年)に記載されているベンゼン誘導体、C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.122巻、141頁(1985年)、Physics lett,A,78巻、82頁(1990)に記載されているトルキセン誘導体、B.Kohneらの研究報告、Angew.Chem.96巻、70頁(1984年)に記載されたシクロヘキサン誘導体およびJ.M.Lehnらの研究報告、J.Chem.Commun.,1794頁(1985年)、J.Zhangらの研究報告、J.Am.Chem.Soc.116巻、2655頁(1994年)に記載されているアザクラウン系やフェニルアセチレン系マクロサイクルが含まれる。
【0179】
円盤状液晶性分子としては、分子中心の母核に対して、直鎖のアルキル基、アルコキシ基、置換ベンゾイルオキシ基が母核の側鎖として放射線状に置換した構造である液晶性を示す化合物も含まれる。分子または分子の集合体が、回転対称性を有し、一定の配向を付与できる化合物であることが好ましい。円盤状液晶性分子から形成する光学異方性層は、最終的に光学異方性層に含まれる化合物が円盤状液晶性分子である必要はなく、例えば、低分子の円盤状液晶性分子が熱や光で反応する基を有しており、結果的に熱、光で反応により重合または架橋し、高分子量化し液晶性を失った化合物も含まれる。円盤状液晶性分子の好ましい例は、特開平8−50206号公報に記載されている。また、円盤状液晶性分子の重合については、特開平8−27284号公報に記載されている。
【0180】
円盤状液晶性分子を重合により固定するためには、円盤状液晶性分子の円盤状コアに、置換基として重合性基を結合させる必要がある。円盤状コアと重合性基は、連結基を介して結合する化合物が好ましく、これにより重合反応においても配向状態を保つことができる。例えば、特開2000−155216号公報の段落番号[0151]〜[0168]に記載の化合物等が挙げられる。
【0181】
ハイブリッド配向では、円盤状液晶性分子の長軸(円盤面)と偏光膜の面との角度が、光学異方性層の深さ方向でかつ偏光膜の面からの距離の増加と共に増加または減少している。角度は、距離の増加と共に減少することが好ましい。さらに、角度の変化としては、連続的増加、連続的減少、間欠的増加、間欠的減少、連続的増加と連続的減少を含む変化、または増加および減少を含む間欠的変化が可能である。間欠的変化は、厚さ方向の途中で傾斜角が変化しない領域を含んでいる。角度は、角度が変化しない領域を含んでいても、全体として増加または減少していればよい。さらに、角度は連続的に変化することが好ましい。
【0182】
偏光膜側の円盤状液晶性分子の長軸の平均方向は、一般に円盤状液晶性分子または配向膜の材料を選択することにより、またはラビング処理方法の選択することにより、調整することができる。また、表面側(空気側)の円盤状液晶性分子の長軸(円盤面)方向は、一般に円盤状液晶性分子または円盤状液晶性分子と共に使用する添加剤の種類を選択することにより調整することができる。円盤状液晶性分子と共に使用する添加剤の例としては、可塑剤、界面活性剤、重合性モノマーおよびポリマーなどを挙げることができる。長軸の配向方向の変化の程度も、上記と同様に、液晶性分子と添加剤との選択により調整できる。
【0183】
(光学異方性層の他の組成物)
上記の液晶性分子と共に、可塑剤、界面活性剤、重合性モノマー等を併用して、塗工膜の均一性、膜の強度、液晶分子の配向性等を向上することができる。液晶性分子と相溶性を有し、液晶性分子の傾斜角の変化を与えられるか、または配向を阻害しないことが好ましい。
重合性モノマーとしては、ラジカル重合性またはカチオン重合性の化合物が挙げられる。好ましくは、多官能性ラジカル重合性モノマーであり、上記の重合性基を有する液晶化合物に対して共重合性を示すものが好ましい。例えば、特開2002−296423号公報の段落番号[0018]〜[0020]に記載のものが挙げられる。上記化合物の添加量は、円盤状液晶性分子に対して一般に1質量%〜50質量%の範囲にあり、5質量%〜30質量%の範囲にあることが好ましい。
【0184】
界面活性剤としては、従来公知の化合物が挙げられるが、特にフッ素系化合物が好ましい。具体的には、例えば特開2001−330725号公報の段落番号[0028]〜[0056]に記載の化合物が挙げられる。
円盤状液晶性分子とともに使用するポリマーは、円盤状液晶性分子に傾斜角の変化を与えられることが好ましい。
【0185】
ポリマーの例としては、セルロースアシレートを挙げることができる。セルロースアシレートの好ましい例としては、特開2000−155216号公報の段落番号[0178]に記載のものが挙げられる。液晶性分子の配向を阻害しないように、上記ポリマーの添加量は、液晶性分子に対して0.1質量%〜10質量%の範囲にあることが好ましく、0.1質量%〜8質量%の範囲にあることがより好ましい。
円盤状液晶性分子のディスコティックネマティック液晶相−固相転移温度は、70〜300℃が好ましく、70℃〜170℃がより好ましい。
【0186】
(光学異方性層の形成)
光学異方性層は、液晶性分子および必要に応じて後述の重合性開始剤や任意の成分を含む塗布液を、配向膜の上に塗布することで形成できる。
塗布液の調製に使用する溶媒としては、有機溶媒が好ましく用いられる。有機溶媒の例には、アミド(例えば、N,N−ジメチルホルムアミド)、スルホキシド(例えば、ジメチルスルホキシド)、ヘテロ環化合物(例えば、ピリジン)、炭化水素(例えば、ベンゼン、ヘキサン)、アルキルハライド(例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラクロロエタン)、エステル(例えば、酢酸メチル、酢酸ブチル)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトン)、エーテル(例えば、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン)が含まれる。アルキルハライドおよびケトンが好ましい。2種類以上の有機溶媒を併用してもよい。
【0187】
塗布液の塗布は、公知の方法(例えば、ワイヤーバーコーティング法、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコーティング法)により実施できる。
光学異方性層の厚さは、0.1〜20μmであることが好ましく、0.5〜15μmであることがより好ましく、1〜10μmであることが特に好ましい。
【0188】
(液晶性分子の配向状態の固定)
配向させた液晶性分子を、配向状態を維持して固定することができる。固定化は、重合反応により実施することが好ましい。重合反応には、熱重合開始剤を用いる熱重合反応と光重合開始剤を用いる光重合反応とが含まれる。光重合反応が好ましい。
【0189】
光重合開始剤の例には、α−カルボニル化合物(米国特許第2,367,661号、同2,367,670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許第2,448,828号明細書記載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許第2,722,512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許第3,046,127号、同2,951,758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許第3,549,367号明細書記載)、アクリジンおよびフェナジン化合物(特開昭60−105667号公報、米国特許第4,239,850号明細書記載)およびオキサジアゾール化合物(米国特許第4,212,970号明細書記載)が含まれる。
【0190】
光重合開始剤の使用量は、塗布液の固形分の0.01〜20質量%の範囲にあることが好ましく、0.5〜5質量%の範囲にあることがより好ましい。
液晶性分子の重合のための光照射は、紫外線を用いることが好ましい。
照射エネルギーは、20mJ/cm2 〜50J/cm2 の範囲にあることが好ましく、20〜5000mJ/cm2 の範囲にあることがより好ましく、100〜800mJ/cm2 の範囲にあることが特に好ましい。また、光重合反応を促進するため、加熱条件下で光照射を実施してもよい。
保護層を、光学異方性層の上に設けてもよい。
【0191】
(偏光膜との組み合わせ)
この光学補償フィルムと偏光膜を組み合わせることも好ましい。具体的には、上記のような光学異方性層用塗布液を偏光膜の表面に塗布することにより光学異方性層を形成する。その結果、偏光膜と光学異方性層との間にポリマーフィルムを使用することなく、偏光膜の寸度変化にともなう応力(歪み×断面積×弾性率)が小さい薄い偏光板が作成される。本発明のセルロースアシレートフィルムを用いた偏光板を大型の液晶表示装置に取り付けると、光漏れなどの問題を生じることなく、表示品位の高い画像を表示することができる。
【0192】
偏光膜と光学補償層の傾斜角度は、液晶表示装置を構成する液晶セルの両側に貼り合わされる2枚の偏光板の透過軸と液晶セルの縦または横方向のなす角度にあわせるように延伸することが好ましい。通常の傾斜角度は45°である。しかし、最近は、透過型、反射型および半透過型の液晶表示装置において必ずしも45°でない装置が開発されており、延伸方向は液晶表示装置の設計にあわせて任意に調整できることが好ましい。
【0193】
<液晶表示装置>
このような光学補償フィルムが用いられる各液晶モードについて説明する。
(TNモード液晶表示装置)
カラーTFT液晶表示装置として最も多く利用されており、多数の文献に記載がある。TNモードの黒表示における液晶セル中の配向状態は、セル中央部で棒状液晶性分子が立ち上がり、セルの基板近傍では棒状液晶性分子が寝た配向状態にある。
【0194】
(OCBモード液晶表示装置)
棒状液晶性分子を液晶セルの上部と下部とで実質的に逆の方向に(対称的に)配向させるベンド配向モードの液晶セルである。ベンド配向モードの液晶セルを用いた液晶表示装置は、米国特許第4,583,825号、同5,410,422号の各明細書に開示されている。棒状液晶性分子が液晶セルの上部と下部とで対称的に配向しているため、ベンド配向モードの液晶セルは、自己光学補償機能を有する。そのため、この液晶モードは、OCB(Optically Compensatory Bend) 液晶モードとも呼ばれる。
【0195】
OCBモードの液晶セルもTNモード同様、黒表示においては、液晶セル中の配向状態は、セル中央部で棒状液晶性分子が立ち上がり、セルの基板近傍では棒状液晶性分子が寝た配向状態にある。
【0196】
(VAモード液晶表示装置)
電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に垂直に配向しているのが特徴であり、VAモードの液晶セルには、(1)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直に配向させ、電圧印加時に実質的に水平に配向させる狭義のVAモードの液晶セル(特開平2−176625号公報記載)に加えて、(2)視野角拡大のため、VAモードをマルチドメイン化した(MVAモードの)液晶セル(SID97、Digest of tech. Papers(予稿集)28(1997)845記載)、(3)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直配向させ、電圧印加時にねじれマルチドメイン配向させるモード(n−ASMモード)の液晶セル(日本液晶討論会の予稿集58〜59(1998)記載)および(4)SURVAIVALモードの液晶セル(LCDインターナショナル98で発表)が含まれる。
【0197】
(IPSモード液晶表示装置)
電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に面内に水平に配向しているのが特徴であり、これが電圧印加の有無で液晶の配向方向を変えることでスイッチングするのが特徴である。具体的には特開2004−365941号、特開2004−12731号、特開2004−215620号、特開2002−221726号、特開2002−55341号、特開2003−195333号各公報に記載のものなどを使用できる。
【0198】
(その他液晶表示装置)
ECBモードおよびSTNモードに対しても、上記と同様の考え方で光学的に補償することができる。
【0199】
<反射防止層の付与(反射防止フィルムの作製)>
反射防止フィルムは、一般に、防汚性層でもある低屈折率層、および低屈折率層より高い屈折率を有する少なくとも一層の層(即ち屈折率層、中屈折率層)を透明支持体上に設けてなる。
屈折率の異なる無機化合物(金属酸化物等)の透明薄膜を積層させた多層膜の形成方法として、化学蒸着(CVD)法や物理蒸着(PVD)法、金属アルコキシド等の金属化合物のゾルゲル方法でコロイド状金属酸化物粒子皮膜を形成後に後処理(紫外線照射:特開平9−157855号公報、プラズマ処理:特開2002−327310号公報)して薄膜を形成する方法等が挙げられる。
【0200】
一方、生産性が高い反射防止フィルムとして、無機粒子をマトリックスに分散した分散物を塗布することにより薄膜を積層した反射防止フィルムも各種提案されている。塗布による反射防止フィルムとして、表面に微細な凹凸の形状を有する防眩性を付与した層を最上層に形成した反射防止フィルムも挙げられる。
本発明のセルロースアシレートフィルムは上記いずれの方式で製造する反射防止フィルムにも適用できるが、塗布による方式(塗布型)で製造する反射防止フィルムに適用することが特に好ましい。
【0201】
(塗布型反射防止フィルムの層構成)
透明支持体上に少なくとも中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層(最外層)を順に形成した層構成からなる反射防止フィルムは、屈折率が以下の関係を満足するように設計される。
高屈折率層の屈折率>中屈折率層の屈折率>透明支持体の屈折率>低屈折率層の屈折率
また、透明支持体と中屈折率層の間には、ハードコート層を設けてもよい。さらには、中屈折率ハードコート層、高屈折率層および低屈折率層からなるものであってもよい。例えば、特開平8−122504号公報、同8−110401号公報、同10−300902号公報、特開2002−243906号公報、特開2000−111706号公報等に記載されているものが挙げられる。
【0202】
また、各層に他の機能を付与させてもよく、例えば、防汚性の低屈折率層、帯電防止性の高屈折率層としたもの(例えば、特開平10−206603号公報、特開2002−243906号公報等に記載されるもの)等が挙げられる。
反射防止フィルムのヘイズは、5%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましい。また、膜の強度は、JIS K5400に従う鉛筆硬度試験でH以上であることが好ましく、2H以上であることがより好ましく、3H以上であることが特に好ましい。
【0203】
(高屈折率層および中屈折率層)
反射防止フィルムの高い屈折率を有する層は、平均粒子サイズ100nm以下の高屈折率の無機化合物超微粒子およびマトリックスバインダーを少なくとも含有する硬化性膜からなる。
高屈折率の無機化合物微粒子としては、屈折率1.65以上の無機化合物が挙げられ、好ましくは屈折率1.9以上の無機化合物が挙げられる。例えば、Ti、Zn、Sb、Sn、Zr、Ce、Ta、La、In等の酸化物、これらの金属原子を含む複合酸化物等が挙げられる。
【0204】
このような超微粒子とするためには、粒子表面を表面処理剤で処理する技術(例えば、特開平11−295503号公報、同11−153703号公報、特開2000−9908号公報に記載されるシランカップリング剤で処理する技術や、特開2001−310432号公報等に記載されるアニオン性化合物或は有機金属カップリング剤で処理する技術)、高屈折率粒子をコアとしたコアシェル構造とする技術(例えば、特開2001−166104等に記載される技術)、特定の分散剤を併用する技術(例えば、特開平11−153703号公報、米国特許第6,210,858B1号明細書、特開2002−2776069号公報等に記載される技術)等を利用することができる。マトリックスを形成する材料としては、従来公知の熱可塑性樹脂、硬化性樹脂皮膜等が挙げられる。
【0205】
さらに、ラジカル重合性および/またはカチオン重合性の重合性基を少なくとも2個以上有する多官能性化合物を含有する組成物、加水分解性基を有する有機金属化合物およびその部分縮合体の組成物から選ばれる少なくとも1種の組成物が好ましい。これらの組成物に用いる化合物として、例えば、特開2000−47004号公報、同2001−315242号公報、同2001−31871号公報、同2001−296401号公報等に記載の化合物が挙げられる。
また、金属アルコキドの加水分解縮合物から得られるコロイド状金属酸化物と金属アルコキシド組成物から得られる硬化性膜も好ましい。例えば、特開2001−293818号公報等に記載される硬化性膜を挙げることができる。
【0206】
高屈折率層の屈折率は、一般に1.70〜2.20である。高屈折率層の厚さは、5nm〜10μmであることが好ましく、10nm〜1μmであることがより好ましい。
中屈折率層の屈折率は、低屈折率層の屈折率と高屈折率層の屈折率との間の値となるように調整する。中屈折率層の屈折率は、1.50〜1.70であることが好ましい。
【0207】
(低屈折率層)
低屈折率層は、高屈折率層の上に順次積層してなる層である。低屈折率層の屈折率は一般に1.20〜1.55である。好ましくは1.30〜1.50である。
低屈折率層は、耐擦傷性や防汚性を有する最外層として構築することが好ましい。耐擦傷性を大きく向上させるためには表面に滑り性を付与することが有効であり、具体的には従来公知のシリコーン化合物や含フッ素化合物を導入した薄膜層の形成法を適用することができる。
【0208】
含フッ素化合物の屈折率は1.35〜1.50であることが好ましい。より好ましくは1.36〜1.47である。また、含フッ素化合物はフッ素原子を35〜80質量%の範囲で含む架橋性もしくは重合性の官能基を含む化合物であることが好ましい。
【0209】
例えば、特開平9−222503号公報の段落番号[0018]〜[0026]、同11−38202号公報の段落番号[0019]〜[0030]、特開2001−40284号公報の段落番号[0027]〜[0028]、特開2000−284102号公報等に記載の化合物が挙げられる。
シリコーン化合物はポリシロキサン構造を有する化合物であり、高分子鎖中に硬化性官能基または重合性官能基を有し、膜中で橋かけ構造を形成しているものが好ましい。例えば、反応性シリコーン(例えば、サイラプレーン(チッソ(株)製等)、両末端にシラノール基を有するポリシロキサン(特開平11−258403号公報等)等が挙げられる。
【0210】
架橋または重合性基を有する含フッ素および/またはシロキサンのポリマーの架橋または重合反応は、重合開始剤や増感剤等を含有する最外層形成用の塗布組成物を塗布と同時または塗布後に光照射や加熱することにより実施することが好ましい。
また、シランカップリング剤等の有機金属化合物と特定のフッ素含有炭化水素基を有するシランカップリング剤とを触媒共存下に縮合反応させて硬化したゾルゲル硬化膜も好ましい。
【0211】
例えば、ポリフルオロアルキル基含有シラン化合物またはその部分加水分解縮合物(特開昭58−142958号公報、同58−147483号公報、同58−147484号公報、特開平9−157582号公報、同11−106704号公報記載等記載の化合物)、フッ素含有長鎖基であるポリ(パーフルオロアルキルエーテル)基を含有するシリル化合物(特開2000−117902号公報、同2001−48590号公報、同2002−53804号公報に記載の化合物等)等が挙げられる。
【0212】
低屈折率層は、上記以外の添加剤として充填剤(例えば、二酸化珪素(シリカ)、含フッ素粒子(フッ化マグネシウム,フッ化カルシウム,フッ化バリウム)等の一次粒子平均径が1〜150nmの低屈折率無機化合物、特開平11−3820公報の段落番号[0020]〜[0038]に記載の有機微粒子等)、シランカップリング剤、滑り剤、界面活性剤等を含有することができる。
低屈折率層が最外層の下層に位置する場合、低屈折率層は気相法(真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法等)により形成してもよい。安価に製造できる点で、塗布法が好ましい。
低屈折率層の膜厚は、30〜200nmであることが好ましく、50〜150nmであることがより好ましく、60〜120nmであることが特に好ましい。
【0213】
(ハードコート層)
ハードコート層は、反射防止フィルムに物理強度を付与するために、透明支持体の表面に設けることができる。特に、透明支持体と前記高屈折率層の間に設けることが好ましい。
ハードコート層は、光および/または熱の硬化性化合物の架橋反応、または、重合反応により形成することが好ましい。硬化性官能基としては、光重合性官能基が好ましく、また加水分解性官能基を有する有機金属化合物は有機アルコキシシリル化合物であることが好ましい。
これらの化合物の具体例としては、高屈折率層で例示したものと同様のものが挙げられる。
【0214】
ハードコート層の具体的な構成組成物としては、例えば、特開2002−144913号公報、同2000−9908号公報、国際公開第O0/46617号パンフレット等に記載されるものが挙げられる。
高屈折率層はハードコート層を兼ねることができる。このような場合、高屈折率層の説明で記載した手法を用いて微粒子を微細に分散してハードコート層に含有させて形成することが好ましい。
ハードコート層は、平均粒子サイズ0.2〜10μmの粒子を含有させて防眩機能(アンチグレア機能)を付与した防眩層(後述)を兼ねることもできる。
ハードコート層の膜厚は用途により適切に設計することができる。ハードコート層の膜厚は、0.2〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.5〜7μmである。
ハードコート層の強度は、JIS K5400に従う鉛筆硬度試験で、H以上であることが好ましく、2H以上であることがより好ましく、3H以上であることが特に好ましい。又、JIS K5400に従うテーバー試験で、試験前後の試験片の摩耗量が少ないほど好ましい。
【0215】
(前方散乱層)
前方散乱層は、液晶表示装置に適用した場合の、上下左右方向に視角を傾斜させたときの視野角改良効果を付与するために設ける。上記ハードコート層中に屈折率の異なる微粒子を分散することで、ハードコート機能と兼ねることもできる。
【0216】
例えば、前方散乱係数を特定化した特開11−38208号公報、透明樹脂と微粒子の相対屈折率を特定範囲とした特開2000−199809号公報、ヘイズ値を40%以上と規定した特開2002−107512号公報等に記載される技術を用いることができる。
【0217】
(その他の層)
上記の層以外に、プライマー層、帯電防止層、下塗り層や保護層等を設けてもよい。
【0218】
(塗布方法)
反射防止フィルムの各層は、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート、マイクログラビア法やエクストルージョンコート法(米国特許第2,681,294号明細書)により、塗布により形成することができる。
【0219】
(アンチグレア機能)
反射防止フィルムは、外光を散乱させるアンチグレア機能を有していてもよい。アンチグレア機能は、反射防止フィルムの表面に凹凸を形成することにより得られる。反射防止フィルムがアンチグレア機能を有する場合、反射防止フィルムのヘイズは、3〜30%であることが好ましく、5〜20%であることがより好ましく、7〜20%であることが最も好ましい。
【0220】
反射防止フィルムの表面に凹凸を形成する方法は、これらの表面形状を充分に保持できる方法であればいずれの方法でも適用できる。例えば、低屈折率層中に微粒子を使用して膜表面に凹凸を形成する方法(例えば、特開2000−271878号公報等)、低屈折率層の下層(高屈折率層、中屈折率層またはハードコート層)に比較的大きな粒子(粒子サイズ0.05〜2μm)を少量(0.1〜50質量%)添加して表面凹凸膜を形成し、その上にこれらの形状を維持して低屈折率層を設ける方法(例えば、特開2000−281410号公報、同2000−95893号公報、同2001−100004号公報、同2001−281407号公報等)、最上層(防汚性層)を塗設後の表面に物理的に凹凸形状を転写する方法(例えば、エンボス加工方法として、特開昭63−278839号公報、特開平11−183710号公報、特開2000−275401号公報等記載)等が挙げられる。
【0221】
<測定法>
以下に本発明で使用した測定法について記載する。
【0222】
(1)サンプリング
サンプルフィルムの幅方向5点(中央1個所、端部2箇所(両端から全幅の5%の位置)、中央部と端部の中間部2箇所)を長手方向に10mごとに3回サンプリングし、3×3cmの大きさのサンプル片を15枚取り出した。以下に示すReおよびRthの値は15箇所を測定した値の平均値である。
【0223】
(2)ReおよびRth
サンプルフィルムを25℃、相対湿度60%にて24時間調湿後、自動複屈折計(KOBRA−21ADH:王子計測機器(株)製)を用いて、25℃、相対湿度60%において、サンプルフィルム表面に対し垂直方向および遅相軸を回転軸としてフィルム面法線から+50°から−50°まで10°刻みで傾斜させた方向から波長590nmにおける位相差値を測定し、面内レターデーション値(Re)と膜厚方向のレターデーション値(Rth)とを算出した。25℃・相対湿度60%におけるReおよびRthを、Re(60%RH)およびRth(60%RH)とし、特に断らない場合には、ReおよびRthは、この値をさす。
【0224】
(3)ReおよびRthの湿度変動値の測定
各サンプルフィルムのReおよびRthの湿度変動値(ΔRe、ΔRth)は、上記(2)のサンプルを用いて以下の方法で測定した。
セルロースアシレートフィルムを25℃・相対湿度10%に24時間以上調湿後、自動複屈折計(KOBRA−21ADH/PR:王子計測器(株)製)を用いて、Re及びRthを算出した。これらをRe(10%RH)、Rth(10%RH)とする。次いで、同じセルロースアシレートフィルムを25℃・相対湿度80%に24時間以上調湿後、自動複屈折計(KOBRA−21ADH/PR:王子計測器(株)製)を用いて、Re及びRthを算出した。これらをRe(80%RH)、Rth(80%RH)とする。これらの測定値と各セルロースアシレートフィルムのReとRthの値[これらはRe(60%RH)、Rth(60%RH)に相当する]を用いて、下記式に従いΔRe、ΔRthを求めた。各15点の測定点の平均を求めて、セルロースアシレートフィルムのΔRe、ΔRthとした。
ΔRe湿度変動値(nm)=|Re(10%RH)−Re(80%RH)|
ΔRth湿度変動値(nm)=|Rth(10%RH)−Rth(80%RH)|
【0225】
(4)線熱膨張係数(CTE)
サンプルフィルムの流延方向(MD)および横方向(TD)に、5mm幅×20mm長さのサンプル片を採取した。線熱膨張係数はTMA(Thermomechanical Analysis)(理
学電械(株)製、TMA8310)を用いて、100ml/min窒素雰囲気中に、フィルムの厚みに応じて20mN〜200mNの範囲内で定引張荷重法にて測定を行った。測定温度は20℃〜140℃の温度範囲、昇温速度は3℃/minとした。線熱膨張係数(C
TE)は下式に示すように25℃〜80℃の間の平均膨張係数として求めた。
CTE=(L80−L25)/(L25×(T80−T25)) (ppm/℃)
(式中、L80は80℃におけるサンプル片の長さ、L25は25℃におけるサンプル片の長さ、T80は80℃の測定温度、T25が25℃の測定温度を表す。)
【0226】
(5)光弾性係数
(ア)1cm幅×10cm長のサンプル片を、サンプルの長手方向がそれぞれMD方向とTD方向になるように2種類切り出した。
(イ)これをエリプソ測定装置(日本分光製 M−150)にセットし、長手方向(10cm長)に沿って100g、300g、500g、800g、1000g、1200g、1500g、1800g、2100gの荷重を掛けながら、順次25℃・相対湿度60%において632.8nmの光でReを測定した。
(ウ)横軸に応力(荷重をフィルム断面積で割った値(kgf/cm2))、縦軸にRe
変化(nm)をプロットし、この傾きからそれぞれMD方向、TD方向の光弾性(cm2
/kgf)を求めた。
【0227】
(6)乾燥状態のTgの測定
乾燥状態(平衡含水率が1%以下)のサンプルフィルムを10mgサンプリングし、DSCの測定パンに入れる。これを窒素気流中で、10℃/分で30℃から250℃まで昇温した後、30℃まで−20℃/分で冷却した。その後、再度30℃から250℃まで10℃/分で昇温し、ベースラインが低温側から偏奇し始める温度をDSC曲線からで求めて乾燥状態のTgとした。
前述の延伸温度は、乾燥状態のTgより、1〜30℃高い温度範囲で設定した。
【0228】
(7)吸水状態のTgの測定
DSC測定用密閉型パン(液体含有サンプル測定用完全密閉型容器)に、25℃の純水中に24時間浸漬した含水状態のサンプルフィルムを20mg入れた。測定は、精度良く検出できるModulated DSCモードにて、窒素気流中、下記の条件で、一回スキャン(first−run)で行った。1st−runのベースラインが低温側から偏奇し始める温度を吸水状態のTgとした。
DSC条件
容器 :ステンレス製密封パン 70μl
測定モード:ModulatedDSC
走査温度域:−50〜200℃
昇温速度 :2℃/min
降温速度 :20℃/min
昇温時振幅:±1℃
昇温時振幅周期 :80sec
【0229】
(8)フィルムの寸法変化率
サンプルフィルムの流延方向(MD)および横方向(TD)より、50mm幅×150mm長さのサンプル片を各3枚採取した。サンプル片の両端に6mmφの穴をパンチで100mm間隔に開けた。これを、25℃、相対湿度60%の室内で24時間以上調湿した。自動ピンゲージ(新東科学(株)製)を用いて、パンチ間隔の原寸(L1)を最小目盛り1/1000mmまで測定した。次にサンプル片を60℃、相対湿度90%の恒温器に吊して500時間熱処理し、その後25℃相対湿度60%の室内で24時間以上調湿した後、自動ピンゲージで熱処理後のパンチ間隔の寸法(L2)を測定した。次式により湿熱寸法変化率を算出した。ここに言う寸法変化率はn=3の平均値である。
寸法変化率 (%)=|(L1 −L2)|/L1×100
【0230】
(9)延伸前の膜状物の残存溶媒量
延伸前の膜状物の残存溶媒量はガスクロマトグラフィー(GC−18A島津製作所株式会社)により求めた。
延伸前の膜状物300mgを溶解溶剤30mlに溶解した(塩素系溶剤で溶液製膜した場合は酢酸メチルに溶解し、非塩素系溶剤で溶液製膜した場合、溶融製膜した場合はジクロロメタンに溶解した)。
これを下記条件でガスクロマトグラフィー(GC)を用いて測定し、溶解溶剤以外のピークの面積から、検量線を用い定量し、この総和を残留溶媒量とした。
・カラム:DB−WAX(0.25mmφ×30m、膜厚0.25μm)
・カラム温度:50℃
・キャリアーガス:窒素
・分析時間:15分間
・サンプル注入量:1μl
【0231】
(10)フィルムの平衡水分率
温度25℃、相対湿度60%の条件以下でサンプルフィルムを24時間放置した後、平衡に達した試料の水分量をカールフィッシャー法で測定した。得られた水分量(g)を試料重量(g)で除して、平衡水分率を算出した。測定装置としては、三菱化学(株)製の水分測定装置CA−03、同試料乾燥装置VA−05を用いた。カールフィッシャー試薬としては、同社製のAKS、CKSを用いた。
【0232】
(11)額縁ムラの評価
VA型液晶セルを使用した22インチおよび26インチの液晶表示装置(シャープ(株)製)に設けられている観察者側の偏光板を剥がし、代わりに評価対象となる偏光板をサンプルフィルムが液晶セル側となるように粘着剤を介して観察者側に貼り付けた。観察者側の偏光板の透過軸とバックライト側の偏光板との透過軸が直交するように配置して、液晶表示装置を作製した。
さらに、60℃・相対湿度90%にて500時間保持したパネルと25℃・相対湿度60%にて500時間保持したパネルとを並べ、シャーカステン上に載せ、黒表示状態のVA液晶装置のコーナー部の縁に発生する光漏れムラ(額縁ムラ)を目視にて評価した。また、額縁発生の面積の比率(額縁率)を下式により求めた。
額縁率(%)=額縁発生の面積/液晶装置の全面積×100
額縁は以下のように4段階のランクで評価した。
◎ 液晶装置のコーナー部の縁に光漏れムラはなかった。
額縁率が0%であり、最高画質なパネルであった。
○ 液晶装置四辺の縁に僅かに光漏れがあった。
額縁率が4%以下であり、画質が良好なパネルであった。
△ 液晶装置四辺の縁に光漏れがハッキリ観察された。
額縁率が4%〜15%であり、商品用途が限定されるパネルであった。
× 液晶装置四辺の縁に光漏れが全面的に観察され、液晶装置の中央付近まで
発生していた。
額縁率が15%以上であり、商品としては好ましくないレベルであった。
【実施例】
【0233】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0234】
<合成例1> セルロースアセテートプロピオネートの合成
セルロース(広葉樹パルプ)150質量部、酢酸75質量部を、還流装置を付けた反応容器に入れ、内温40℃で2時間攪拌した。このような前処理を行ったセルロースは膨潤、解砕されて、微細粉末−羽毛状を呈した。
【0235】
別途、アシル化剤としてプロピオン酸無水物1545質量部、硫酸10.5質量部の混
合物を作製し、−30℃に冷却した後に、上記の前処理を行ったセルロースを収容する反応容器に加えた。アシル化剤の添加から0.5時間後に内温が10℃、2時間後に内温が23℃になるように調節し、内温を23℃に保ってさらに3時間攪拌した。その後、内温を5℃まで冷却し、5℃に冷却した25質量%含水酢酸120質量部を1時間かけて添加した。内温を40℃に上昇させ、1.5時間攪拌した。硫酸触媒の2倍モル相当の酢酸マグネシウム4水和物に、等重量の水と、等重量の酢酸を加えて溶解した混合溶液を作成し、反応容器に添加して、30分間攪拌した。25質量%含水酢酸1000質量部、33質量%含水酢酸500質量部、50質量%含水酢酸1000質量部、水1000質量部をこの順に加え、セルロースアセテートプロピオネートを沈殿させた。得られたセルロースアセテートプロピオネートは温水にて十分に洗浄した。洗浄後、20℃の0.005質量%水酸化カルシウム水溶液中で0.5時間攪拌し、洗浄液のpHが7になるまで、さらに水で洗浄を行った後、70℃で真空乾燥させた。
【0236】
1H−NMRおよび、GPC測定によれば、得られたセルロースアセテートプロピオネートは、アセチル化度0.35、プロピオニル化度2.55、重合度190であった。残存硫酸量76ppm、マグネシウム含有量3ppm、カルシウム含有量37ppmであった。本試料のジクロロメタン溶液からキャストしたフィルムを偏光顕微鏡で観察した結果、不溶解物はほとんど認められなかった。
【0237】
<合成例2> セルロースアセテートブチレートの合成
セルロース(広葉樹パルプ)100質量部、酢酸135質量部を、還流装置を付けた反応容器に入れ、内温40℃で2時間攪拌した。このような前処理を行ったセルロースは膨潤、解砕されて、微細粉末−羽毛状を呈した。
【0238】
別途、アシル化剤として酪酸無水物1080質量部、硫酸10質量部の混合物を作製し、−20℃に冷却した後に、前処理を行ったセルロースを収容する反応容器に加えた。30分経過後、内温を20℃まで上昇させ、5時間反応させた。その後、内温を5℃まで冷却し、約5℃に冷却した12.5質量%含水酢酸2400質量部を1時間かけて添加した。内温を30℃に上昇させ、1時間攪拌した。硫酸触媒の2倍モル相当の酢酸マグネシウム4水和物に等重量の水と、等重量の酢酸を加えて溶解した混合溶液を作成し、反応容器に添加して、30分間攪拌した。酢酸1000質量部、50質量%含水酢酸2500質量部を徐々に加え、セルロースアセテートブチレートを沈殿させた。得られたセルロースアセテートブチレートの沈殿は温水にて十分に洗浄を行った。洗浄後、0.005質量%水酸化カルシウム水溶液中で0.5時間攪拌し、さらに、洗浄液のpHが7になるまで水で洗浄を行った後、70℃で乾燥させた。得られたセルロースアセテートブチレートはアセチル化度0.84、ブチリル化度2.02、重合度168であった。残存硫酸量92ppm、マグネシウム含有量2ppm、カルシウム含有量50ppmであった。本試料のジクロロメタン溶液からキャストしたフィルムを偏光顕微鏡で観察した結果、不溶解物はほとんど認められなかった。
【0239】
<製造例1> 溶液製膜によるセルロースアシレートフィルムの製造
(1)セルロースアシレートの調製
前述のセルロースアシレート合成例1、2の方法から、アシル化剤の組成、アシル化の反応温度および時間、部分加水分解の温度および時間を変化させることにより、表1に記載される種々のセルロースアシレートを同様に合成した。目的とするアシル置換度に応じて、セルロースにアシル化剤(酢酸、無水酢酸、プロピオン酸、プロピオン酸無水物、酪酸、酪酸無水物から単独または複数を組み合わせて選択される)、ならびに触媒としての硫酸を混合し、反応温度を40℃以下に保ちながらアシル化を実施した。原料となるセルロースが消失してアシル化が完了した後、さらに40℃以下で加熱を続けて、所望の重合度となるように調整した。酢酸水溶液を添加して残存する酸無水物を加水分解した後、60℃以下で加熱を行うことで部分加水分解を行い、所望の全置換度に調整した。残存する硫酸を過剰量の酢酸マグネシウムにより中和した。酢酸水溶液から再沈殿を行い、さらに、水での洗浄を繰り返すことにより、表1に記載のアシル基の種類、置換度、重合度の異なるセルロースアシレートを得た。これらのセルロースアシレートの分子量分布(Mw/Mn)はいずれも2.5〜4.5であった。重合度は、絶乾したセルロースアシレート約0.2gを精秤し、メチレンクロリド:エタノール=9:1(質量比)の混合溶剤100mlに溶解した後に、オストワルド粘度計にて25℃で落下秒数を測定し、以下の式により求めたものである。
ηrel =T/T0
[η]=(1nηrel )/C
DP=[η]/Km
[式中、Tは測定試料の落下秒数、T0は溶剤単独の落下秒数、lnは自然対数、Cは濃
度(g/l)、Kmは6×10-4である]
【0240】
(2)セルロースアシレートの溶解(ドープの作成)
1)溶剤
表1に記載されるものを選択した。略号は下記の溶剤を示す。
「非塩素系」 酢酸メチル/アセトン/メタノール/エタノール/ブタノール (80/5/7/5/3:質量比)
「塩素系−1」ジクロロメタン/メタノール/ブタノール
(81.4/14.8/3.6:質量比)
「塩素系−2」ジクロロメタン/ブタノール
(94/6:質量比)
【0241】
2)レターデーション上昇剤
表1に記載されるレターデーション上昇剤を選択した。略号は下記の化合物を示す。
【0242】
【化21】

表1中の比較化合物は、特開2000−352620号公報(特許文献2)記載の可塑剤1であり、構造式は下記のとおりである。
【0243】
【化22】

【0244】
3)添加剤
さらに以下に示す各添加剤を用いた。添加量(質量%)は全てセルロースアシレート100質量に対する質量割合である。
「可塑剤A」 ビフェニルジフェニルフォスフェート(1質量%)
「UV剤a」 2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン(0.2質量%)
「UV剤b」 2(2’−ヒドロキシ−3’,5‘−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール(0.2質量%)
「UV剤c」 2(2’−ヒドロキシ−3’,5‘−ジ−tert−アミルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール(0.1質量%)
「微粒子」 二酸化ケイ素(粒子サイズ20nm)、モース硬度 約7(0.25質量%)
「クエン酸エチルエステル」 (モノエステルとジエステルが1:1混合、0.2質量%)
4)膨潤・溶解
上記のセルロースアシレート、レターデーション上昇剤、添加剤を溶剤中に撹拌しながら投入した。入れ終わった時点で撹拌を停止し、25℃で3時間膨潤させスラリーを作成した。これを再度撹拌し、完全にセルロースアシレートを溶解した。
5)ろ過・濃縮
この後、絶対濾過精度0.01mmの濾紙(東洋濾紙(株)製、#63)でろ過し、さらに絶対濾過精度2.5μmの濾紙(ポール社製、FH025)にて濾過した。
【0245】
(3)製膜
得られたドープを表1に記載の方法を用いて流延製膜した。溶液バンド法と溶液ドラム法の手順は以下のとおりである。
1)バンド法
ギーサーを通して、15℃に設定したバンド長60mの鏡面ステンレス支持体上に流延した。使用したギーサーは、特開平11−314233号公報に記載の形態に類似するものを用いた。なお流延スピードは60m/分でその流延幅は250cmとした。
残留溶剤量が100質量%の状態で剥ぎ取った後、40℃から110℃の間を表1に示す速度で昇温(除昇温)した後、115℃で5分、さらに120℃で20分乾燥した後、フィルム状のセルローストリアシレート膜状物を得た。得られた膜状物の両端を3cmトリミングした後、両端から2〜10mmの部分に高さ100μmのナーリングを付与しロール状に巻き取った。
2)ドラム法
ギーサーを通して、−15℃に設定した直径3mの鏡面ステンレスのドラムに流延した。使用したギーサーは、特開平11−314233号公報に記載の形態に類似するものを用いた。なお流延スピードは100m/分でその流延幅は250cmとした。
残留溶剤が200質量%で剥ぎ取った後、40℃から110℃の間を表1に示す速度で昇温(除昇温)した後、115℃で5分、さらに120℃で20分乾燥した後、フィルム状のセルローストリアシレート膜状物を得た。得られた膜状物は両端を3cmトリミングした後、両端から2〜10mmの部分に高さ100μmのナーリングを付与しロール状に2000mを巻き取った。
【0246】
<製造例2> 溶融製膜によるセルロースアシレートフィルムの製造
(1)セルロースアシレートの調製
製造例1に記載の方法と同様にして、スケールを変更して評価に必要な量のセルロースアシレートを調製した。
【0247】
(2)セルロースアシレートのペレット化
上記セルロースアシレートを120℃で3時間送風乾燥して、カールフィッシャー法による含水率を0.1質量%にした。これに、表1に記載されるレターデーション上昇剤を加え、さらに全水準に可塑剤(フェニルジフェニルホスフェート)を1質量%、二酸化珪素部粒子(アエロジルR972V)0.05質量%を添加して、混合物を2軸混練押出し機のホッパーに入れて混練した。なお、この2軸混練押出し機には真空ベントを設け、真空排気(0.3気圧に設定)を行った。
このようにして融解した後、水浴中に直径3mmのストランド状に押出し1分間浸漬した後(ストランド固化)、10℃の水中を30秒通過させて温度を下げ、長さ5mmに裁断した。このようにして調製したペレットを100℃で10分乾燥した後、袋詰した。
【0248】
(3)溶融製膜
上記方法で調製したセルロースアシレートペレットを、110℃の真空乾燥機で3時間乾燥した。これをTg−10℃になるように調整したホッパーに投入し、単軸押出機を用いて、下記の通りに記載のスクリュー条件でセルロースアシレートを溶融押出した。
スクリュー圧縮比: 3
スクリューL/D(長さ/直径)比: 35 (出口側の直径60mm)
スクリュー温度パターン: 上流供給部(180〜195℃)
中間圧縮部(200〜210℃)
下流計量部(220〜235℃)
回転数: 80rpm(通す時間3分)
次に、溶融したセルロースアシレートをギヤポンプに通し、押出機の脈動を除去した後、金属3μm金属メッシュフィルター濾過した。ろ過したメルトを、230℃に設定したダイリップを通してキャストドラムに流延した。Tg−5℃、Tg、Tg−10℃に設定した直径60cmのキャスティングドラム(CD)を3本連続して通し固化させ、フィルム状のセルロースアシレート膜状物を得た。なお、ダイリップ先端から出たメルトがCD上に接地するまでの距離は5cmとなるようにし、この間に3kVの電極をメルトから5cm離した所に設置し、両端5cmずつ静電印加処理を行った。両端5cmトリミングした後、両端に幅10mm、高さ50μmの厚みだし加工(ナーリング)をつけ巻き取った。各水準とも、幅は1.5mで30m/分で2000m巻き取った。
【0249】
【表1】

本発明の溶液流延または溶融流延製膜したNo.1〜No.20の膜状物の残存溶媒量および平衡含水量は前述のガスクロマトグラフィーおよびカールフィッシャー法にて測定したところ、全て溶媒残存率が0.5質量%以下であり、水分の含有量が1質量%以下であることを確認した。
【0250】
<実施例1> セルロースアシレートフィルムの製造
(延伸)
上記溶液製膜または溶融製膜で得たフィルム状のセルロースアシレート膜状物を数本の予熱ロールを用いて予熱したあと、ニップロールとクリップ横延伸テンターを用い、表2に記載の縦方向(MD)と横方向(TD)の延伸倍率で延伸した。なお、延伸温度は、いずれも各水準の樹脂のTg(乾燥状態のTg)より15℃高い温度(Tg+15℃)に設定した。延伸速度は、縦MD方向に600%/分、横TD方向に120%/分となるように設定した。延伸後、テンタークリップにてフィルムを把持しつつ、横TD方向に設定の最大延伸倍率に対し、表2に記載の緩和率でフィルムを緩和させた(表2に記載の最終延伸倍率が緩和率を除く後の実質的に延伸された倍率であった)。その後、テンションを保持したまま、Tg−2℃の熱固定処理ゾーンを通過させ、1分間熱固定処理した後、冷却ゾーンを経由し30℃/分の速度でフィルムを室温までに徐冷してから巻き取り、セルローストリアシレート延伸フィルムを得た。
【0251】
(物性評価)
表1に得られた各セルロースアシレートフィルムの物性を記載した。本明細書に記載する物性測定方法に基づく、面内レターデーション値Reおよび厚み方向レターデーション値Rth、ReとRth湿度変動値、Tg、吸水した状態のTg、線熱膨張係数、寸法安定性、光弾性、額縁の実装評価を行い、表2に記載した。得られた測定結果を総合判断し、3段階の基準で評価して表2に記載した。「○」は商品として好ましいレベルであり、「△」は用途が限定されるレベルであり、「×」は商品としては好ましくないレベルである。
【0252】
【表2】

【0253】
表1、表2から分かるように、本発明のNo.1〜No.13およびNo.17〜No.20のフィルムは、乾燥状態のTg及び吸水状態のTgが高く、広い範囲のRe、Rthの発現性を有し、ΔRe、ΔRthの湿度変動が少なく、且つ寸法変化率、線熱膨張係数、光弾性係数が全て本発明範囲に満たし、額縁ムラの少ない光学フィルムが得られた。
一方、本発明外のNo.14〜No.16フィルムは本発明のNo.1〜No.13及びNo.17〜No.20のフィルムと比べ、乾燥状態のTg及び吸水状態のTgが低く、且つ寸法変化率、線熱膨張係数、光弾性係数が大きく、額縁が明らかに悪かった。また、レターデーション上昇剤を含有しないフィルムNo.15〜No.16は本発明のNo.1〜No.13及びNo.17〜No.20のフィルムと比べ、Re、Rthの発現性が低く、VA液晶セルに要求される高いRe値を満たすのは困難であることが分かった。さらに、延伸工程中、延伸後の緩和を実施しなかったNo.16のフィルムは同じ組成のNo.15フィルムと比べ、寸法変化率、線熱膨張係数、光弾 性係数が大きく、額縁ムラがさらに悪化する傾向があった。
【0254】
<実施例2> セルロースアシレートフィルムの応用
1、偏光板の作製
(1)セルロースアシレートフィルムの鹸化
鹸化液である2.5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を60℃に調温し、上述の本発明のセルロースアシレートフィルムを2分間浸漬した。この後、0.05mol/Lの硫酸水溶液に30秒浸漬した後、水洗浴を通した。
【0255】
(2)偏光膜の作製
特開2001−141926号公報の実施例1に従い、2対のニップロール間に周速差を与え、長手方向に延伸し、厚み20μmの偏光膜を作製した。
【0256】
(3)貼り合わせ
このようにして得た偏光層と、上記鹸化処理したセルロースアシレートフィルムおよび鹸化処理した未延伸トリアセテートフィルム(富士写真フイルム(株)製、フジタック)を、PVA((株)クラレ製、PVA−117H)の3%水溶液を接着剤として、偏光軸とセルロースアシレートフィルムの長手方向が0°、45°、90°のいずれかの角度となるように下記組み合わせで貼り合わせた。
(i)偏光板Aタイプ:表2の各延伸セルロースアシレートNo.1〜20のフィルム/偏光層/表1の未延伸セルロースアシレートNo.2のフィルム
(ii)偏光板Bタイプ:表2の各延伸セルロースアシレートNo.1〜20のフィルム/偏光層/フジタック
【0257】
2.液晶表示素子の作成
VA型液晶セルを使用した22インチおよび26インチの液晶表示装置(シャープ(株)製)に設けられている観察者側の片面の偏光板を剥がし、代わりに上記各種の偏光板AまたはBタイプを、セルロースアシレートフィルムが液晶セル側となるように粘着剤を介して、観察者側に貼り付けた。観察者側の偏光板の透過軸とバックライト側の偏光板の透過軸が直交するように配置して、液晶表示装置を作成した。
得られた液晶表示装置の60℃90%RH経時における額縁表示ムラは本発明に開示する方法にて評価した。60℃・相対湿度90%にて500時間保持したパネルと25℃・相対湿度60%にて500時間保持したパネルとを並べ、シャーカステン上に載せ、黒表示状態のVA液晶装置のコーナー部に発生する光漏れ(額縁ムラ)と額縁面積率を求め、結果を表2に記載した。
得られた液晶表示装置の25℃湿度の変動における視認性(色味の変化)は、常温25℃の相対湿度10%にて2週間保持したパネルと相対湿度80%にて2週間保持したパネルとを並べ、色味の違いを目視にて評価した。本発明におけるレターデーションの湿度依存性の小さいNo.1〜No.13およびNo.17〜No.20のフィルムを用いた液晶表示装置は、色味変化が小さく、信頼性の高いものであることが分かった。一方、No.14〜No.16のフィルムを用いた液晶表示装置は、液晶セルの光学補償を十分にできず、または色味ムラの発生が多く、性能の劣るパネルであった。
また、特開2002−86554号公報の実施例1に従い、テンターを用い延伸軸が斜め45°となるように延伸した偏光板についても同様に、本発明のセルロースアシレートフィルムを用いて作製したものは、上記同様に良好な結果が得られた。
【0258】
3、光学補償フィルムの作製
特開平11−316378号公報の実施例1の液晶層を塗布したセルロースアセテートフィルムの代わりに、上述鹸化済みの本発明の延伸セルロースアシレートNo.1〜No.13及びNo.17〜No.20フィルムを使用し、これを、特開2002−62431号公報の実施例9に記載のベンド配向液晶セルに25℃・相対湿度60%下で取り付け、これを25℃・相対湿度10%と相対湿度80%中に持ち込んだ。本発明のセルロースアシレートフィルムを使用したものはコントラストの変化の小さい良好な表示性能が得られた。
【0259】
さらに特開平7−333433号公報の実施例1の液晶層を塗布したセルロースアセテートフィルムに代わって、本発明の延伸セルロースアシレートフィルムに変更し光学補償フィルターフィルムを作製した。この場合も同様に、良好な光学補償フィルムを作製できた。
また、本発明のセルロースアシレートフィルムを用いた偏光板、位相差偏光板を、特開平10−48420号公報の実施例1に記載の液晶表示装置、特開平9−26572号公報の実施例1に記載のディスコティック液晶分子を含む光学的異方性層、ポリビニルアルコールを塗布した配向膜、特開2000−154261号公報の図2〜9に記載の20インチVA型液晶表示装置、特開2000−154261号公報の図10〜15に記載の20インチOCB型液晶表示装置、特開2004−12731号公報の図11に記載のIPS型液晶表示装置に用いたところ、良好な液晶表示装置を得た。
【0260】
4.低反射フィルムの作製
発明協会公開技報(公技番号2001−1745)の実施例47に従い、上述の延伸セルロースアシレートフィルムを用いて低反射フィルムを作製したところ、本発明のセルロースアシレートフィルムを使用したものは、良好な光学性能が得られた。
さらに上記低反射フィルムを、特開平10−48420号公報の実施例1に記載の液晶表示装置、特開2000−154261号公報の図2〜9に記載の20インチVA型液晶表示装置、特開2000−154261号公報の図10〜15に記載の20インチOCB型液晶表示装置液晶表示装置の最表層に貼り評価を行ったところ、良好な液晶表示装置を得た。
【0261】
<実施例3> タッチロール法による溶融製膜
本発明のNo.5、No.10及びNo.17〜No.20に対し、特開平11−235747の実施例1に記載のタッチロール(二重抑えロールと記載のあるもの)を用い(但し薄肉金属外筒厚みは3mmとした)、表3記載の条件でタッチロール製膜を実施した(タッチロール製膜を実施したこと以外は全て同じ条件で実施)。
このようにして得た未延伸セルロースアシレートフィルムの面状(厚みムラ及び微細凸凹)を下記の方法で測定して評価した。
【0262】
(厚みムラ測定)
セルロースアシレートフィルムの全幅に亘り35mm幅でサンプリングした(TDサンプル)。幅方向中央部を35mm幅で2m長サンプリングした(MDサンプル)。TDサンプル、MDサンプルを連続厚み計(FILM THICKNESS TESTER KG601A、ANRITSU(アンリツ電気(株))製)で測定し、(最大値−平均値)、(平均値−最小値)の平均を厚みムラとした。
【0263】
(微細凹凸(ダイライン)測定)
3次元表面構造解析顕微鏡(Zygo社製New View5022)を用いて下記条件でセルロースアシレートフィルムを測定した。
対物レンズ:2.5倍
イメージズーム:1倍
測定視野:幅方向(TD)2.8mm、長手方向(MD)2.1mm
この中で0.01μm〜30μmの高さの山(凸部)、0.01μm〜30μmの深さの谷(凹部)の本数を数えた。ただし、凸部、凹部はいずれもMD方向に連続して1mm以上連続しているものを指す。この凸部、凹部の本数を測定幅(2.8mm)で割った後100倍し、10cm当りの凸部、凹部の数とした。上記測定を、製膜したサンプルフィルム全幅にわたって等間隔で30点測定して平均化することにより、幅10cm当りの凸部と凹部の数を求めた。
【0264】
【表3】

【0265】
表3に示すように、タッチロール法を用いて溶融製膜したフィルムに形成された微細凹凸(ダイライン)及び厚みムラはさらに良好になることが確認された。また、タッチロール法を用いて製膜したフィルムのRthが向上し、光学特性の発現領域が広がることが確認された。さらに、額縁の実装評価により、額縁ムラ発生面積率を低減することが確認された。未延伸及び延伸セルロースアシレートフィルムのその他物性は表1、2とほぼ近い特性値を示すものであった。
さらに、国際公開第97/28950号パンフレットの第1の実施例と同様のタッチロール(シート成形用ロールと記載のあるもの)を用い(但し金属製外筒に用いた冷却水は温度18℃から120℃のオイルに変更)、表3記載の条件でタッチロールを実施したところ、表3と同様の結果を得た。
【産業上の利用可能性】
【0266】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、光学特性であるReとRthの発現領域が広くて、Re値とRth値をそれぞれ好ましい範囲内に制御することができる。このため、本発明を用いれば、OCBやVA等の液晶モードに応じてRe値とRth値を同時に好ましい範囲に制御して、光学性能に優れたフィルムを提供することができる。該フィルムは、偏光板の保護フィルム兼位相差フィルムなどとして用いることができ、温度や湿度の変動に伴って液晶表示装置のコーナー部に発生する額縁ムラを解消することができる。また、本発明のセルロースアシレートフィルムを用いて、高品位な位相差フィルムや偏光板の他にも、光学補償フィルム、反射防止フィルムも提供することができ、さらにこれらを用いた画像表示装置を提供することができる。したがって本発明は、産業上の利用可能性が高い有用な発明である。
【図面の簡単な説明】
【0267】
【図1】タッチロール法による溶融製膜を行うための装置の一態様を示す概略図である。
【符号の説明】
【0268】
101 押出機
102 ギアポンプ
103 濾過部
104 ダイ
105 タッチロール
106 キャスティング冷却ドラム
107 セルロースアシレート
108 縦延伸工程部
109 横延伸工程部
110 巻取工程部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液流延または溶融流延によって形成されるセルロースアシレート膜状物を縦方向と横方向のうちの少なくとも一方向に10%〜250%延伸したセルロースアシレートフィルムであって、
該フィルムの乾燥状態におけるガラス転移温度が100℃〜150℃であり、且つ、
該フィルムを25℃純水中に24時間浸漬した後のガラス転移温度が60℃〜110℃であるセルロースアシレートフィルム。
【請求項2】
25℃から80℃における線熱膨張係数が5〜150ppm/℃であることを特徴とする請求項1に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項3】
60℃・相対湿度90%の環境にフィルムを500時間放置した前後の寸法変化率の絶対値が、フィルムの縦方向と横方向でともに0%〜0.5%であり、かつ遅相軸方向の寸法変化率の絶対値が進相軸方向の寸法変化率の絶対値より小さいことを特徴とする請求項1または2に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項4】
光弾性係数が1×10-7〜25×10-7cm2/kgfであることを特徴とする請求項
1〜3のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項5】
前記セルロースアシレートが炭素数2〜6のアシレート基を2種類以上有し、下記式(A)〜(C)を満足することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルム。
式(A): 2.5≦X+Y≦3.0
式(B): 0≦X≦2.5
式(C): 0.3≦Y<3
(上式において、Xはアセチル基の置換度を表し、Yは炭素数3〜6のアシル基の置換度の総和を表す。)
【請求項6】
芳香環を2つ以上含み分子量が200〜3000でありかつ融点が50℃〜250℃である化合物の少なくとも1種を、セルロースアシレートに対して0.1質量%〜20質量%含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項7】
下記式(1)〜(3)を満足することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルム。
式(1): 0≦Re≦300
式(2): 10≦Rth≦500
式(3): 1≦Rth/Re≦10
(上式において、Reは波長590nmにおけるフィルム面内のレターデーションであり、Rthは波長590nmにおけるフィルムの厚み方向のレターデーションである)
【請求項8】
25℃・相対湿度10%のReと25℃・相対湿度80%のReとの差が15nm以下であり、25℃・相対湿度10%のRthと25℃・相対湿度80%のRthとの差が25nm以下である(ここにおいて、Reは波長590nmにおけるフィルム面内のレターデーションであり、Rthは波長590nmにおけるフィルムの厚み方向のレターデーションである)ことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項9】
タッチロールを用いて溶融製膜されたことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項10】
前記セルロースアシレート膜状物を残存溶媒量が1質量%以下の状態で縦方向と横方向のうちの少なくとも一方向に10%〜250%延伸し、さらに該延伸の倍率に対して1%〜40%の比率で延伸方向に緩和して得たことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルムを1枚以上用いた偏光板。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルムを1枚以上用いた位相差フィルム。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルムを1枚以上用いた光学補償フィルム。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルムを1枚以上用いた反射防止フィルム。
【請求項15】
請求項1〜10のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルム、請求項11に記載の偏光板、請求項12に記載の位相差フィルム、請求項13に記載の光学補償フィルムおよび請求項14に記載の反射防止フィルムからなる群より選択される1枚以上のフィルムを用いて形成した画像表示装置。

【図1】
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【公開番号】特開2006−249418(P2006−249418A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−29932(P2006−29932)
【出願日】平成18年2月7日(2006.2.7)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】