説明

セルロースエステルフィルムおよびその製造方法、偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルム、並びに液晶表示装置

【課題】液晶表示装置に組み込んだときに発生する表示画面での画像ムラや経時での視認性の変化を改善しうるセルロースエステルフィルムの環境に優しい製造方法を提供する。
【解決手段】特定の置換度を有するセルロースエステル100質量部と、分子量が500以上のフェノール系安定剤0.02〜3質量部と、分子量が500以上の亜リン酸エステル系安定剤かチオエーテル系安定剤0.02〜3質量%とを含有する混合物を、180〜240℃で溶融してダイから押し出して膜厚20μm〜300μmのセルロースエステルフィルムを製膜する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融製膜によるセルロースエステルフィルムの製造方法に関する。また、本発明は光学特性に優れたセルロースエステルフィルムに関する。さらに、本発明は当該セルロースエステルフィルムを用いた偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルムおよび液晶表示装置にも関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、液晶表示装置に使用されるセルロースエステルフィルムを製造する際に、ジクロロメタンのような塩素系有機溶剤にセルロースエステルを溶解し、これを基材上に流延、乾燥して製膜する溶液流延法が主に実施されている。塩素系有機溶剤の中でもジクロロメタンは、セルロースエステルの良溶媒であるとともに、沸点が低く(約40℃)、製膜工程や乾燥工程において乾燥させ易いという利点を有することから好ましく使用されている。一方、近年になり環境保全の観点から塩素系有機溶媒を始めとする有機溶媒の排出を抑えることが、強く求められるようになっている。このため、より厳密なクローズドシステムを採用して製造工程から有機溶媒が漏れ出さないように努めたり、製膜工程から有機溶媒が漏れても外気に出す前にガス吸収塔を通して有機溶媒を吸着させたり、火力により燃焼させたり、電子線ビームにより分解させたりするなどの処理を行って、殆ど有機溶媒を排出することがないように対策が講じられている。しかしながら、これらの対策を行っても完全な非排出には至らないため、さらなる改良が必要とされていた。
【0003】
そこで、有機溶剤を用いない製膜法として、セルロースエステルを溶融製膜する方法が開発されている(例えば、特許文献1および2参照)。この方法は、セルロースエステルのエステル基の炭素鎖を長くすることで融点を下げ溶融製膜しやすくしたものである。具体的には、従来から用いられていたセルロースアセテートを、セルロースプロピオネートやセルロースブチレート等に変更することで溶融製膜を可能にしている。このようにして得られたセルロースエステルフィルムは、基板として用いることによって湿度変化に伴う視野特性が変動しにくい位相差フィルム等を提供しうるという利点がある。さらに、セルロースエステルを溶融する工程と、流延する工程とを含むセルロースエステルフィルムの製造方法として、セルロースエステルを180〜250℃の温度において圧縮比3〜15のスクリューを用いて溶融した後、T−ダイからキャスティングドラム上に押し出すことを特徴とするセルロースエステルフィルムの製膜方法も開発されている(特許文献3)。この方法により製造されるセルロースエステルフィルムは、液晶表示装置に組み込むことによって表示ムラや湿度による視認性の変化を軽減することができると記載されている。
【特許文献1】特表平6−501040号公報
【特許文献2】特開2000−352620号公報
【特許文献3】特開2005−178194号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの方法で溶融製膜したセルロースエステルフィルムを実施例などにしたがって実施した場合、セルロースエステルフィルムの着色や面状、さらには取り扱い時の着色などを全て満足が行く程度に抑えることは困難であることが判った。具体的には、ペレット化工程あるいは溶融製膜工程における着色耐性やフィルム強度が不十分であることが、本発明者により明らかとなった。特に特許文献2の実施例に従って作製したフィルムは、溶融製膜時の着色と面状の悪化が著しく、経時での耐候性悪化を伴うものであり、その改良は急務であった。
【0005】
また、上述の特許文献にしたがって製造したセルロースエステルフィルムを用いて偏光板を作製し液晶表示装置に組み込むと、面状不良、着色やヘイズアップによる輝度低下の問題などが発生し、その改良が必要なレベルであることも明らかになった。このような故障は、偏光板を15インチ以上の大型液晶表示板に組み込んだ際に特に顕著であり、大きな課題であった。これらの問題は、溶融混練機(ペレット化)から溶融物をT−ダイ(スリット)を通してキャスティングドラム上に押出し冷却固化して製膜して巻き取り、さらに加工するという一連の製膜過程において、ペレット化工程及び/または溶融製膜時の高温により着色が強くなることに起因することも明らかになった。
【0006】
これらの従来技術の課題に鑑みて、本発明は、液晶表示装置に組み込んだときに発生する表示画面での画像ムラや経時での視認性の変化を改善することができるセルロースエステルフィルムとその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は有機溶媒を使用しない環境に優しい製造方法によってセルロースエステルフィルムを提供することを目的とする。特に、偏光板用保護膜や位相差膜として有用であって、着色などを防ぐことができる強い耐候性を有するセルロースエステルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的は、以下の構成を有する本発明により達成された。
(態様1)
下記式(S−1)〜(S−3)を満たすセルロースエステルと、分子量が500以上であるフェノール系安定剤の少なくとも一種を前記セルロースエステルに対して0.02〜3質量%と、分子量が500以上である亜リン酸エステル系安定剤および分子量が500以上であるチオエーテル系安定剤からなる群より選択される少なくとも一種を前記セルロースエステルに対して0.02〜3質量%含有するセルロースエステル混合物を、180〜240℃で溶融してダイから押し出して膜厚20μm〜300μmのセルロースエステルフィルムを製膜する溶融製膜工程を含むことを特徴とするセルロースエステルフィルムの製造方法。
式(S−1) 2.5≦A+B≦3.0
式(S−2) 0≦A≦2.2
式(S−3) 0.8≦B≦3.0
(式中、Aはセルロースの水酸基に対するアセチル基の置換度を表し、Bはセルロースの水酸基に対する炭素数3〜22のアシル基の置換度の総和を表す。)
【0008】
(態様2)
ペレット状の前記セルロースエステル混合物を180〜240℃で溶融してダイから押し出すことを特徴とする態様1に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
(態様3)
前記ペレット状のセルロースエステル混合物を、セルロースエステル混合物を180〜240℃で溶融してペレット化することにより作製することを特徴とする態様2に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
(態様4)
前記ペレット化を酸素濃度5%容量以下で行うことを特徴とする態様3に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【0009】
(態様5)
前記フェノール系安定剤として、窒素中で220℃において30分間加熱した場合の質量減少量が20質量%以下である化合物を使用し、且つ、前記亜リン酸エステル系安定剤または前記チオエーテル系安定剤として、窒素中で220℃において30分間加熱した場合の質量減少量が20質量%以下である化合物を使用することを特徴とする態様1〜4のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
(態様6)
前記フェノール系安定剤の分子量が550以上であり、且つ、前記亜リン酸エステル系安定剤または前記チオエーテル系安定剤の分子量が550以上であることを特徴とする態様1〜5のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
(態様7)
前記セルロースエステル中のセルロースの水酸基に対して置換しているBのアシル基が、プロピオニル基およびブチリル基から選択される1以上のアシル基であることを特徴とする態様1〜6のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
(態様8)
前記セルロースエステル混合物が、平均一次粒子サイズ20nm〜2μmの微粒子を含有することを特徴とする態様1〜7のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
(態様9)
前記溶融製膜工程により製膜されたセルロースエステルフィルムを、少なくとも1方向に0.3〜3倍延伸する延伸工程をさらに含むすることを特徴とする態様1〜8のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
(態様10)
前記ペレット化および/または溶融製膜時の酸素濃度が5容量%以下であることを特徴とする態様1〜9のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【0010】
(態様11)
前記溶融製膜工程において、溶融押出された溶融セルロースエステル(メルト)をキャスティングドラム上で固化させ、キャスティングドラム上に形成されたセルロースエステルフィルムを剥離し、ニップロールで張力カットして巻き取ることを特徴とする態様1〜10のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
(態様12)
前記巻き取り時の張力を0.01kg/cm2〜10kg/cm2として前記セルロースエステルフィルムを巻き取ることを特徴とする態様11に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【0011】
(態様13)
前記溶融混合物をキャスティングドラム上で固化する際、(Tg+30℃)からTgの間の温度(ここでTgはセルロースエステルフィルムのガラス転移温度を示す。)で冷却を10℃/秒〜100℃/秒の速度(固化速度)で行うことを特徴とする態様11または12に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【0012】
(態様14)
前記式(S−1)〜(S−3)を満たすセルロースエステルと、分子量が500以上であるフェノール系安定剤の少なくとも一種を前記セルロースエステルに対して0.02〜3質量%と、分子量が500以上である亜リン酸エステル系安定剤および分子量が500以上であるチオエーテル系安定剤からなる群より選択される少なくとも一種を、圧縮比2〜15の混練スクリューを用いて180℃〜240℃で溶融した後、ノズルから20〜95℃の水中に押し出して冷却し、さらに裁断してペレット化する工程をさらに含むことを特徴とする態様1〜13のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【0013】
(態様15)
前記溶融製膜工程において、前記セルロースエステル混合物を、圧縮比2〜15の混練スクリューを用いて180℃〜240℃で溶融した後、ダイからキャスティングドラム上に押し出すことを特徴とする態様1〜14のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
(態様16)
ダイから前記溶融セルロースエステルを押し出した後、Tgから(Tg−20℃)の間の温度で冷却を0.1℃/秒〜20℃/秒の速度で行うことを特徴とする態様15に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【0014】
(態様17)
態様1〜16のいずれか一項に記載の製造方法により製造されたセルロースエステルフィルム。
(態様18)
下記式(S−1)〜(S−3)を満たすセルロースエステルと、分子量が500以上であるフェノール系安定剤の少なくとも一種を前記セルロースエステルに対して0.02〜3質量%と、分子量が500以上である亜リン酸エステル系安定剤および分子量が500以上であるチオエーテル系安定剤からなる群より選択される少なくとも一種を前記セルロースエステルに対して0.02〜3質量%含有し、膜厚が20μm〜300μmで、残留溶剤量が0.01質量%以下であり、正面レターデーション(Re)ムラと厚さ方向のレターデーション(Rth)ムラがいずれも3.0nm未満であることを特徴とするセルロースエステルフィルム。
式(S−1) 2.5≦A+B≦3.0
式(S−2) 0≦A≦2.2
式(S−3) 0.8≦B≦3.0
(式中、Aはセルロースの水酸基に対するアセチル基の置換度を表し、Bはセルロースの水酸基に対する炭素数3〜22のアシル基の置換度の総和を表す。)
【0015】
(態様19)
前記セルロースエステルフィルムの2質量%メチレンクロライド溶液を調製して測定した400nmにおける吸光度に対して、前記セルロースエステルフィルムを240℃にて1時間空気中で加熱した後に2質量%メチレンクロライド溶液を調製して測定した400nmにおける吸光度の増加分が0.05以下であることを特徴とする態様17または18に記載のセルロースエステルフィルム。
(態様20)
正面レターデーション(Re)が0〜300nmであり、且つ、厚さ方向のレターデーション(Rth)の絶対値が0〜700nmであることを特徴とする態様17〜19のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルム。
(態様21)
可視光の透過率が90%以上であり、ヘイズが0.01〜1.2%であることを特徴とする態様17〜20のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルム。
(態様22)
下記式(A−1)および(A−2)を満たすことを特徴とする態様17〜21のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルム。
式(A−1) 0≦|Re(700)−Re(400)|≦15nm
式(A−2) 0≦|Rth(700)−Rth(400)|≦35nm
(式中、Re(400)およびRe(700)は、前記セルロースエステルフィルムの波長400nmおよび700nmにおける正面レターデーション(Re)を表し、Rth(400)およびRth(700)は、前記セルロースエステルフィルムの波長400nmおよび700nmにおける厚さ方向のレターデーション(Rth)を表す。)
(態様23)
フィルム表面の水の接触角(25℃・相対湿度60%)が45°以下であることを特徴とする態様17〜22のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルム。
(態様24)
平均一次粒子サイズ20nm〜2μmの微粒子を含有することを特徴とする態様17〜23のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルム。
(態様25)
分子量500以上の可塑剤をセルロースエステルに対して1〜20質量%を含有することを特徴とする態様17〜24のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルム。
【0016】
(態様26)
厚みムラが0〜5μmであることを特徴とする態様17〜25に記載のセルロースエステルフィルム。
【0017】
(態様27)
前記セルロースエステルが下記式(S−4)〜(S−6)を満足することを特徴とする態様17〜26に記載のセルロースエステルフィルム。
式(S−4) 2.6≦Aa+Bb≦3.0
式(S−5) 0≦Aa≦2.2
式(S−6) 0.8≦Bb≦3.0
(式中、Aaはセルロースの水酸基に対するアセチル基の置換度を表し、Bbはセルロースの水酸基に対するプロピオニル基またはブチリル基の置換度の総和を表す。)
【0018】
(態様28)
偏光膜に態様17〜27のいずれかに記載のセルロースエステルフィルムを少なくとも1層積層したことを特徴とする偏光板。
(態様29)
前記偏光膜が長手方向に対して実質的に45°の方向にテンター延伸されたことを特徴とする態様28に記載の偏光板。
【0019】
(態様30)
態様17〜29のいずれかに記載のセルロースエステルフィルムを基材に用いたことを特徴とする光学補償フィルム。
(態様31)
態様17〜29のいずれかに記載のセルロースエステルフィルムを基材に用いたことを特徴とする反射防止フィルム。
【0020】
(態様32)
態様28または29に記載の偏光板、態様30に記載の光学補償フィルム、および、態様31に記載の反射防止フィルムの少なくとも一つを用いたことを特徴とする液晶表示装置。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、セルロースエステルの製造時のハンドリング性を改良し、面状を大幅に改良し、且つ、液晶表示装置に組み込んだときに発生する表示画面での画像ムラや経時による視認性の変化を改善したセルロースエステルフィルムを提供することができる。また、製造時に有機溶媒を使用せず環境に優しい製造方法によって、製膜されたセルロースエステルフィルムを提供することができる。本発明のセルロースエステルフィルムにより、経時での耐候性、特に高温環境下における優れた耐久性を有する光学用途のフィルムを提供することができる。本発明のセルロースエステルフィルムを組み込んで製造される液晶表示装置は、表示ムラや、湿度あるいは画像の色による光学特性の変化が抑制されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下において、本発明のセルロースエステルフィルムとその製造方法および該セルロースエステルフィルムとその用途ついて詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0023】
《セルロースエステル》
まず、本発明で用いられるセルロースエステルについて説明する。本発明で用いるセルロースエステルは下記式(S−1)〜(S−3)を満足する。
式(S−1) 2.5≦A+B≦3.0
式(S−2) 0≦A≦2.2
式(S−3) 0.8≦B≦3.0
【0024】
式中、Aはセルロースの水酸基に対するアセチル基の置換度を表し、Bはセルロースの水酸基に対する炭素数3〜22のアシル基の置換度の総和を表す。本明細書でいう「置換度」とは、セルロースの2位、3位および6位のぞれぞれの水酸基の水素原子が置換されている割合の合計を意味する。2位、3位および6位の全ての水酸基の水素原子がアシル基で置換された場合は置換度が3となる。本発明のセルローエステルの置換基Bで表される炭素数3〜22のアシル基は、脂肪族アシル基でも芳香族アシル基のいずれであってもよい。本発明のセルロースエステルのアシル基が脂肪族アシル基である場合、炭素数は3〜18であることが好ましく、炭素数は3〜12であることがさらに好ましく、炭素数は3〜8であることが特に好ましい。これらの脂肪族アシル基の例としては、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、あるいはアルキニルカルボニル基などを挙げることができる。アシル基が芳香族アシル基である場合、炭素数は6〜22であることが好ましく、炭素数は6〜18であることがさらに好ましく、炭素数は6〜12であることが特に好ましい。これらのアシル基は、それぞれさらに置換基を有していてもよい。
【0025】
好ましいアシル基の例としては、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、イソブチリル基、ピバロイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフタレンカルボニル基、フタロイル基、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、さらに好ましいものは、プロピオニル基、ブチリル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、ピバロイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などである。
【0026】
特にBで表わされるアシル基は、好ましくは炭素原子数が3〜6の脂肪族アシル基であり、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基およびヘキサノイル基からなる群より選択されるアシル基が好ましい。より好ましいBとしては、プロピオニル基およびブチリル基からなる群より選択されるアシル基である。本発明のセルロースエステルのエステルを構成するBで表わされるアシル基は、単一種であってもよいし、複数種であってもよい。本発明においては、セルロースの2位、3位および6位それぞれの水酸基の置換度分布は特に限定されない。
【0027】
本発明では、下記式(S−4)〜(S−6)を満足するセルロースエステルを用いることが好ましい。
式(S−4) 2.6≦Aa+Bb≦3.0
式(S−5) 0≦Aa≦2.2
式(S−6) 0.8≦Bb≦3.0
本発明では、下記式(S−7)〜(S−9)を満足するセルロースエステルを用いることが特に好ましい。
式(S−7) 2.65≦Aa+Bb≦2.97
式(S−8) 0.2≦Aa≦2.2
式(S−9) 0.8≦Bb≦3.0
(式中、Aaはセルロースの水酸基に対するアセチル基の置換度を表し、Bbはセルロースの水酸基に対するプロピオニル基またはブチリル基の置換度の総和を表す。)
【0028】
(セルロースエステルの製造方法)
次に、本発明で用いるセルロースエステルの製造方法について説明する。本発明のセルロースエステルの原料綿や合成方法については、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)7〜12頁の記載も適用できる。なお、ここでいう添加量はセルロースエステルに対する質量%である。
【0029】
使用するセルロース原料は、特に限定されないが、広葉樹パルプ、針葉樹パルプ、綿花リンター由来のものが好ましく用いられる。セルロース原料は、アシル化に先立って、活性化剤と接触させる処理(活性化)を行っておくことが好ましい。活性化剤として好ましくは、酢酸、プロピオン酸、または酪酸であり、特に好ましくは酢酸である。活性化剤の添加量はセルロース原料に対して、通常5〜10000質量%であり、より好ましくは10〜2000質量%、さらに好ましくは30〜100%質量%である。添加方法は噴霧、滴下、浸漬などの方法から選択できる。活性化時間は20分〜72時間が好ましく、特に好ましくは20分〜12時間である。活性化温度は0℃〜90℃が好ましく、20℃〜60℃が特に好ましい。さらに活性化剤に硫酸などのアシル化の触媒を0.1質量%〜10質量%加えることもできる。
【0030】
セルロースのアシル化は、セルロースとカルボン酸の酸無水物とを、ブレンステッド酸またはルイス酸(「理化学辞典」第五版(2000年)参照)を触媒として反応させることにより行うことが好ましい。セルロースエステルを得る方法としては、アシル化剤として2種のカルボン酸無水物を混合または逐次添加により反応させる方法、2種のカルボン酸の混合酸無水物(例えば、酢酸・プロピオン酸混合酸無水物)を用いる方法、カルボン酸と別のカルボン酸の酸無水物(例えば、酢酸とプロピオン酸無水物)を原料として反応系内で混合酸無水物(例えば、酢酸・プロピオン酸混合酸無水物)を形成させてセルロースと反応させる方法、置換度が3に満たないセルロースエステルを一旦合成し、酸無水物や酸ハライドを用いて、残存する水酸基を更にアシル化する方法などを用いることができる。6位の水酸基に対する置換度の大きいセルロースエステルの合成については、特開平11−5851号、特開2002−212338号や特開2002−338601号などの公報に記載がある。
【0031】
カルボン酸の酸無水物として好ましいのは、カルボン酸としての炭素数が2〜7のものである。特に好ましくは、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酪酸無水物である。酸無水物はセルロースの水酸基に対して1.1〜50当量添加することが好ましく、1.2〜30当量添加することがより好ましく、1.5〜10当量添加することが特に好ましい。アシル化触媒には、ブレンステッド酸またはルイス酸を使用することが好ましく、硫酸または過塩素酸がより好ましく、好ましい添加量は0.1〜30質量%であり、より好ましくは1〜15質量%であり、特に好ましくは3〜12質量%である。
【0032】
アシル化溶媒としてはカルボン酸が好ましく、さらに好ましくは炭素数2〜7のカルボン酸であり、特に好ましくは酢酸、プロピオン酸、酪酸である。これらの溶媒は混合して用いてもよい。アシル化条件としては、アシル化の反応熱による温度上昇を制御するために、アシル化剤は予め冷却しておくことが好ましい。アシル化温度は−50℃〜50℃が好ましく、より好ましくは−30℃〜40℃、特に好ましく−20℃〜35℃である。反応の最低温度は−50℃以上が好ましく、−30℃以上がより好ましく、−20℃以上が特に好ましい。アシル化時間は0.5時間〜24時間が好ましく、1時間〜12時間がより好ましく、1.5時間〜10時間が特に好ましい。
【0033】
アシル化反応の後には、反応停止剤を加えることが好ましい。反応停止剤は酸無水物を分解するものであればよく、水、アルコール(炭素数1〜3のもの)、カルボン酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸等)が挙げられ、中でも水とカルボン酸(酢酸)との混合物が好ましい。水とカルボン酸との組成は、水が5質量%〜80質量%、さらには10質量%〜60質量%、特には15質量%〜50質量%が好ましい。アシル化反応停止後に中和剤を添加してもよい。中和剤の好ましい例としては、アンモニウム、有機4級アンモニウム、アルカリ金属、2族の金属、3〜12族金属、または13〜15族元素の、炭酸塩、炭酸水素塩、有機酸塩、水酸化物または酸化物などを挙げることができる。特に好ましくは、ナトリウム、カリウム、マグネシウムまたはカルシウムの、炭酸塩、炭酸水素塩、酢酸塩または水酸化物である。
【0034】
このようにして得られたセルロースエステルは、全置換度(セルロースの2位、3位、6位の水酸基に対する置換度の合計)がほぼ3に近いものであるが、所望の置換度のものを得る目的で、少量の触媒(一般には、残存する硫酸などのアシル化触媒)と水との存在下で、20〜90℃に数分〜数日間保つことによりエステル結合を部分的に加水分解し、セルロースエステルのアシル置換度を所望の程度まで減少させることができる。この後、残存触媒を前記の中和剤を用いて、部分加水分解を停止させることができる。
【0035】
(ろ過)
ろ過は、アシル化の完了から再沈殿までの間のいかなる工程において行ってもよい。ろ過に先立って適切な溶媒で希釈することも好ましい。セルロースエステル溶液を、水もしくはカルボン酸(例えば、酢酸、プロピオン酸など)水溶液と混合し再沈殿させる。再沈殿は連続式、バッチ式どちらあってもよい。再沈殿後、洗浄処理することが好ましい。洗浄は水または温水が用い、pH、イオン濃度、電気伝導度、元素分析等で洗浄終了を確認できる。洗浄後のセルロースエステルは、安定化のために、弱アルカリ(Na、K、Ca、Mg等の炭酸塩、炭酸水素塩、水酸化物、酸化物)を添加するのが好ましい。
【0036】
(乾燥)
本発明においてセルロースエステルの含水率を好ましい量に調整するためには、セルロースエステルを乾燥することが好ましい。乾燥の方法については、目的とする含水率が得られるのであれば特に限定されないが、加熱、送風、減圧、攪拌などの手段を単独または組み合わせて用いて効率的に行うことが好ましい。乾燥温度として0〜200℃が好ましく、さらに好ましくは40〜180℃であり、特に好ましくは50〜160℃であり、乾燥空気として水分を除去して送風することが好ましい。なお、十分に乾燥させるために真空下にて実施してもよく、その場合は真空度としては1Pa〜0.05Mpaの範囲が好ましい。この際、セルロースエステルのガラス転移点(Tg)よりも低い温度で乾燥することが好ましく、(Tg−10℃)以下の温度で乾燥することがさらに好ましい。乾燥によって得られるセルロースエステルは、その含水率が2質量%以下であることが好ましく、0.7質量%以下であることがより好ましく、0.3質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることが特に好ましい。
【0037】
セルロースエステルの形状は特に限定されないが、粒子状または粉末状であることが好ましい。乾燥後のセルロースエステルは、粒子サイズの均一化や取り扱い性の改善のために、粉砕や篩がけを行ってもよい。セルロースエステルが粒子状であるとき、使用する粒子の90質量%以上は、0.1mm〜5mmの粒子サイズを有することが好ましい。また、使用する粒子の50質量%以上が0.2mm〜4mmの粒子サイズを有することが好ましく、使用する粒子の50質量%以上が0.2mm〜3mmの粒子サイズを有することが好ましい。セルロースエステル粒子は、なるべく球形に近い形状を有することが好ましい。
【0038】
(重合度)
本発明で好ましく用いられるセルロースエステルの平均重合度は100〜700であり、より好ましくは120〜500であり、さらに好ましくは120〜350であり、特に好ましくは130〜300である。平均重合度は、宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫、繊維学会誌、第18巻第1号、105〜120頁、1962年)に記載されるように、ゲル浸透クロマトグラフィー (GPC)による分子量分布測定などの方法により測定できる。さらに特開平9−95538号公報に詳細に記載されている。これらのセルロースエステルは1種類のみを用いてもよく、2種以上混合してもよい。このような重合度の調整は低分子量成分を除去することでも達成できる。低分子成分の除去は、セルロースエステルを適当な有機溶媒で洗浄することにより実施できる。また、本発明におけるセルロースエステルは、セルロースエステル以外の高分子成分を適宜混合したものでもよい。混合される高分子成分はセルロースエステルと相溶性に優れるものが好ましく、フィルムにしたときの透過率が80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは92%以上であることが好ましい。
【0039】
本発明で用いられるセルロースエステルは、質量平均分子量Mw/数平均分子量Mn比が1.5〜5.5のものが好ましく用いられ、特に好ましくは1.5〜5.0であり、さらに好ましくは1.5〜4.5であり、さらに好ましくは1.5〜3.5のセルロースエステルが好ましく用いられる。得られたセルロースエステルは、その保存は環境による影響を受けにくくするために、低温暗所で保存する事が望ましい。さらに、保管用としてアルミニウムなどの防止素材で作製された防湿袋や、SUS製ドラムあるいはコンテナに保存することがさらに好ましい。
【0040】
その他、6位の水酸基に対する置換度の大きいセルロースエステルの合成については、特開平11−5851号、特開2002−212338号、特開2002−338601号各公報などに記載がある。セルロースエステルの他の合成法としては、塩基(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、炭酸ナトリウム、ピリジン、トリエチルアミン、tert−ブトキシカリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドなど)の存在下に、カルボン酸無水物やカルボン酸ハライドと反応させる方法や、アシル化剤として混合酸無水物(カルボン酸・トリフルオロ酢酸混合無水物、カルボン酸・メタンスルホン酸混合無水物など)を用いる方法も用いることができ、特に後者の方法は、炭素数の多いアシル基や、カルボン酸無水物−酢酸−硫酸触媒による液相アシル化法が困難なアシル基を導入する際には有効である。
【0041】
《安定剤》
(フェノール系安定剤)
次に、本発明においてセルロースエステルに添加する分子量500以上のフェノール系安定剤について説明する。
分子量500以上のフェノール系安定剤としては、公知の任意のフェノール系安定剤を使用することができる。好ましいフェノール系安定剤としては、ヒンダードフェノール系安定剤が挙げられる。特に、ヒドロキシフェニル基に隣接する部位に置換基を有することが好ましく、その場合の置換基としては炭素数1〜22の置換または無置換のアルキル基が好ましく、例えばメチル基、エチル基、プロピオニル基、イソプロピオニル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、2−エチルへキシル基、ノニル基、イソノニル基、ドデシル基、tert−ドデシル基、トリデシル基、tert−トリデシル基などを挙げることができる。これらの中でも、メチル基、エチル基、プロピオニル基、イソプロピオニル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、2−エチルへキシル基がより好まし。更に好ましくは、プロピオニル基、イソプロピオニル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、tert−ペンチル基である。
フェノール系安定剤の具体例として例えば下記の化合物を挙げることができるが、本発明で用いることができるフェノール系安定剤はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0042】
(PH−1)
n−オクタデシル−3−(3',5'−ジ−tert−ブチル−4'−ヒドロキシフェニル) プロピオネート(分子量531)
(PH−2)
テトラキス−〔メチレン−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン(分子量1178)
(PH−3)
トリス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート(分子量784)
(PH−4)
トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート〕(分子量588)
【0043】
(PH−5)
3,9−ビス−{2−〔3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン(分子量741)
(PH−6)
1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(分子量775)
(PH−7)
1,1,3−トリス(5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)ブタン(分子量545)
【0044】
(PH−8)
1,6−ヘキサンジオール−ビス{3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}(分子量639)
(PH−9)
2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン(分子量589)
(PH−10)
1,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート〕(分子量643)
【0045】
(PH−11)
N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)(分子量637)
(PH−12)
ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル)カルシウム(分子量695)
【0046】
これらの素材は、市販品として容易に入手可能であり、下記のメーカーから販売されている。チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社から、Irganox 1076、Irganox 1010、Irganox 3113、Irganox 245、Irganox 1135、Irganox 1330、Irganox 259、Irganox 565、Irganox 1035、Irganox 1098、Irganox 1425WL、として入手することができる。また、旭電化工業株式会社から、アデカスタブ AO−50、アデカスタブ AO−60、アデカスタブ AO−20、アデカスタブ AO−70、アデカスタブ AO−80として入手できる。さらに、住友化学株式会社から、スミライザーBP−76、スミライザーBP−101、スミライザーGA−80、として入手できる。また、シプロ化成株式会社からシーノックス326M、シーノックス336B、としても入手することが可能である。
【0047】
(亜リン酸エステル系安定剤)
次に、本発明においてセルロースエステルに添加することができる分子量500以上の亜リン酸エステル系安定剤について説明する。
本発明において用いることができる分子量500以上である亜リン酸エステル系安定剤として、従来から公知の任意の亜リン酸エステル系安定剤を用いることができる。本発明において用いることができる亜リン酸エステル系安定剤として、特開2004−182979号公報の[0023]〜[0039]に記載の化合物などを挙げることができる。亜リン酸エステル系安定剤の具体例としては、特開昭51−70316号公報、特開平10−306175号公報、特開昭57−78431号公報、特開昭54−157159号公報、特開昭55−13765号公報に記載の化合物も挙げることができる。さらに、その他の安定剤としては、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)17頁〜22頁に詳細に記載されている素材も挙げることができる。
【0048】
亜リン酸エステル系安定剤は、フェノール系エステルを有することで、高温での安定性を保つことができるため、少なくとも一置換基は芳香族性エステル基であることが好ましい。また、亜リン酸エステル系安定剤は、トリエステルであることが好ましく、リン酸、モノエステルやジエステルの不純物の混入がないことが望ましい。これらの不純物が存在する場合は、その含有量が10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5質量%以下であり、特には2質量%以下である。
亜リン酸エステル系安定剤の好ましい具体例として下記の化合物を挙げることができるが、本発明で用いることができる亜リン酸エステル系安定剤はこれらに限定されるものではない。
【0049】
(PF−1)
トリスノニルフェニルフォスファイト(分子量689)
(PF−2)
トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)フォスファイト(分子量647)
(PF−3)
ジステアリルペンタエリスリトールジフォスファイト(分子量733)
(PF−4)
ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールフォスファイト(分子量605)
【0050】
(PF−5)
ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール ジフォスファイト(分子量633)
(PF−6)
2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルフォスファイト(分子量529)
(PF−7)
テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4−ビフェニレン−ジ−フォスファイト(分子量517)
【0051】
これらは、旭電化工業株式会社からアデカタブ1178、同2112、同PEP−8、同PEP−24G、PEP−36G、同HP−10として、またクラリアント社からSandostab P−EPQとして市販されており、入手可能である。
【0052】
(チオエーテル系安定剤)
次に、本発明においてセルロースエステルに添加することができる分子量500以上のチオエーテル系安定剤について説明する。
チオエーテル系安定剤としては、公知の任意のチオエーテル系安定剤を用いることができる。
チオエーテル系安定剤の好ましい具体例として下記の化合物が挙げられるが、本発明で用いることができる好ましいはこれらに限定されるものではない。
【0053】
(TE−1)
ジラウリル−3,3−チオジプロピオネート(分子量515)
(TE−2)
ジミリスチル−3,3−チオジプロピオネート(分子量571)
(TE−3)
ジステアリル−3,3−チオジプロピオネート(分子量683)
(TE−4)
ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)(分子量1162)
【0054】
これらは、住友化学株式会社からスミライザーTPL、同TPM、同TPS、同TDPとして市販されている。旭電化工業株式会社から、アデカスタブAO−412Sとしても入手可能である。
【0055】
(その他の安定剤)
本発明においては、分子量500以上のフェノール系安定剤、分子量500以上の亜リン酸エステル系安定剤、分子量500以上のチオエーテル系安定剤以外の、セルロースエステルの溶融製膜に有用な安定剤を併用しても構わない。そのような安定剤として、例えばスズ系安定剤が挙げられ、公知の任意のスズ系安定剤を用いることができる。好ましいスズ系安定剤の具体例としては、オクチル錫マレエートポリマー、モノステアリル錫トリス(イソオクチルチオグリコレート)、ジブチル錫ジラウレートが挙げられる。
【0056】
また、上記アミン系安定剤も利用され、その場合は公知の任意のアミン系安定剤を用いることができる。好ましいアミン系安定剤の具体例としては、2,2'−メチレンビス〔4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−[(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]〕、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシラート、フェニル−β−ナフチルアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、N,N'−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−シクロヘキシル−p−フェニレンジアミン、N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペラジン、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジン)セバケイト、ビス[(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)2−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチル マロネート、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)1,2,3,4−ブタン−テトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)1,2,3,4−ブタン−テトラカルボキシレート等が挙げられる。これらは、旭電化からアデカスタブLA−57、同LA−52、同LA−67、同LA−62、同LA−77として、またチバ・スペシャリティーケミカルズ社からTINUVIN 765、同144として市販されている。
これらを添加する時期は、後述するように溶融物(メルト)作製工程の何れの段階であってもよく、また、溶融物作製工程(メルト調製工程)の最後に添加剤を添加する工程を加えてもよい。
【0057】
(安定剤の使用)
本発明では、分子量500以上のフェノール系安定剤の少なくとも一種と、分子量500以上の亜リン酸エステル系安定剤および分子量500以上のチオエーテル系安定剤からなる群より選択される少なくとも一種とを、セルロースエステルに添加することを一つの特徴としている。これらの安定剤は、高温でも揮発しないことが必要であり、分子量は500以上であり、好ましくは500〜3000であり、更に好ましくは530〜3000であり、特に好ましくは600〜2000である。また、高温で揮発しにくいことが好ましいため、空気中で220℃において30分間加熱した場合の質量減少量が20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下がであることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましく、5質量%以下であることが特に好ましい。
【0058】
これらの安定剤の使用量は、分子量が500以上であるフェノール系安定剤の少なくとも一種を前記セルロースエステルに対して0.02〜3質量%とし、分子量が500以上である亜リン酸エステル系安定剤および分子量が500以上であるチオエーテル系安定剤からなる群より選択される少なくとも一種を前記セルロースエステルに対して0.02〜3質量%とする。これらの安定剤の好ましい使用量は0.03〜2.5質量%であり、より好ましくは0.04〜1.0質量%であり、更に好ましくは0.05〜0.7質量%であり、特に好ましくは0.05〜0.6質量%である。フェノール系安定剤の含有量と、亜リン酸エステル系安定剤またはチオエーテル系安定剤の含有量との比率は特に限定されないが、好ましくは1/10〜10/1(質量部)であり、より好ましくは1/5〜5/1(質量部)であり、更に好ましくは1/3〜3/1(質量部)であり、特に好ましくは1/3〜2/1(質量部)である。
【0059】
本発明において、フェノール系安定剤の少なくとも一種、および亜リン酸エステル系安定剤またはチオエーテル系安定剤から選ばれる少なくとも一種をセルロースエステルに添加する方法は、溶融製膜される時点で添加されていれば特に限定されない。例えば、セルロースエステルの合成時点で添加してもよいし、溶融前に予めセルロースエステル中に混合させてもよく、溶融製膜時にセルロースエステルと混合しつつ製膜することも好ましい。セルロースエステルの合成時に添加する場合は、セルロースエステルの沈殿生成前後に添加してもよく、あるいはセルロースエステルが溶液状態で分散されている時に添加してもよい。これにより、セルロースエステルと添加剤を均一に混合することができる。
【0060】
なお、本発明においては、予めセルロースエステルに所望量よりも高濃度の安定剤を含有させた安定剤含有マスターペレットを作製してもよい。その場合は、別途安定剤を含まないセルロースエステルのマスターペレット(セルロースエステルマスターペレット)を作製しておくことが必要である。その場合、安定剤含有マスターペレット中の安定剤濃度は特に規定されないが、好ましくはセルロースエステルフィルム中の安定剤最終濃度の2〜50倍が好ましく、より好ましくは2〜30倍であり、更に好ましくは3〜25倍であり、特に好ましくは4〜20倍である。セルロースエステルマスターペレットと安定剤マスターペレットの混合には、下記に挙げる方法を利用することができる。なお、安定剤マスターペレットを作製する段階で、上記の安定剤以外の添加剤(可塑剤、微粒子、その他の添加剤など)を一緒に添加してもよく、その場合も上記の安定剤以外の添加剤濃度は、好ましくはセルロースエステルフィルム中の安定剤以外の添加剤最終濃度に対して2〜50倍が好ましく、より好ましくは2〜30倍であり、更に好ましくは3〜25倍であり、特に好ましくは4〜20倍である。
【0061】
また、セルロースエステルを粉体として作製した後に添加剤を混合する場合は、粉体同士の混合となるため均一に混合することが重要である。すなわち安定剤が粉末の場合は、セルロースエステル粉末に均一に混合するために、混合機器を利用することが有効である。それらとしては、例えば容器回転型、容器固定型あるいはその複合型などであり、具体的には回転水平型(水平円筒、傾斜円筒、V型、二十円錘、正方形体、S字型、連続V型など)、回転軸水平(例えば、リボン、スクリュー、ロッド、ピン、複軸パドルなど)、回転垂直(リボン、スクリュー、円錘型スクリュー、高速流動、回転円板、マラーなど)、振動型(振動ミル、フルイなど)、回転型に内設羽根型(水平円筒、V型、二重円錘など)を利用できる。混合時には、添加剤やセルロースエステルが安定であるように、湿度、温度や酸素濃度をコントロールすることが望ましい。好ましくは低湿度である方が、また温度は低い方が好ましい。すなわち、好ましい湿度は相対湿度70%以下であり、より好ましくは相対湿度50%以下であり、更に好ましくは相対湿度350%以下であり、特には相対湿度20%以下である。また、温度は好ましくは−20〜100℃であり、より好ましくは0〜80℃であり、更に好ましくは5〜60℃であり、特に好ましくは10〜50℃である。
【0062】
また、酸素濃度は低いことが好ましく、気体中の酸素濃度は10容量%以下であることが好ましく、より好ましくは酸素濃度5容量%以下であり、更に好ましくは酸素濃度2容量%以下であり、特に好ましくは酸素濃度1容量%以下である。酸素濃度を低下させる方法は特に限定されないが、不活性ガス(例えば、窒素、アルゴン、ヘリウムなど)や真空機器による脱気操作で達成できる。このようにして混合された添加剤含有セルロースエステル混合物は、低酸素濃度を保持したまま溶融ペレット化あるいは溶融製膜されることが推奨される。なお、ペレット化工程で低い酸素濃度雰囲気下で溶融して作製された場合は、溶融製膜時の酸素濃度コントロールは不要な場合があり、工程への負荷が軽減される。
【0063】
《添加剤》
本発明において、セルロースエステルには、その他に必要に応じてさらに種々の添加剤を添加してもよい。添加は、溶融物の調製前から調製後のいずれの段階で行ってもよい。本発明では、安定剤以外の添加剤として、可塑剤、紫外線吸収剤(UV剤)、微粒子、光学調整剤、剥離剤、界面活性剤、熱安定剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、油剤などを用いることができる。
【0064】
(可塑剤)
まず、可塑剤について記載する。セルロースエステルに可塑剤を添加すれば、セルロースエステルの結晶融解温度(Tm)を下げることができる。本発明に用いる可塑剤の分子量は特に限定されないが、好ましくは高分子量のものであり、例えば分子量500以上が好ましく、より好ましくは550以上であり、さらに好ましくは600以上である。可塑剤の種類としては、リン酸エステル類、アルキルフタリルアルキルグリコレート類、カルボン酸エステル類、多価アルコールの脂肪酸エステル類などが挙げられる。それらの可塑剤の形状としては固体でもよいし、油状物でもよい。すなわち、その融点や沸点において特に限定されるものではない。溶融製膜を行なう場合は、不揮発性を有するものを特に好ましく使用することができる。
【0065】
上記リン酸エステルの具体例としては、例えばトリキシリルオスフェート、トリスオルト−ビフェニルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、ビフェニルジフェニルホスフェート、1,4−フェニレンーテトラフェニル燐酸エステル等を挙げることができる。また特表平6−501040号公報の態様3〜7に記載のリン酸エステル系可塑剤を用いることも好ましい。上記アルキルフタリルアルキルグリコレート類としては、例えば、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等が挙げられる。
【0066】
またカルボン酸エステルとしては、例えばジドデシルフタレート等のフタル酸エステル類、およびクエン酸アセチルトリオクチル等のクエン酸エステル類、ビス(2−エチルヘキシル)アジペート、ジイソデシルアジペート、ビス(ブチルジグリコールアジペート)等のアジピン酸エステル類、テトラオクチルピロメリテート、トリオクチルトリメリテートなどの芳香族多価カルボン酸エステル類、ジオクチルアジペート、ジブチルセバケート、ジオクチルセバケート、ジオクチルアゼレートなどの脂肪族多価カルボン酸エステル類、ジグリセリンテトラアセテート、ジグリセライドなどの多価アルコールの脂肪酸エステル類などを挙げることができる。
【0067】
また、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートなどのグリコールと二塩基酸とからなる脂肪族ポリエステル類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸などのオキシカルボン酸からなる脂肪族ポリエステル類、ポリカプロラクトン、ポリプロピオラクトン、ポリバレロラクトンなどのラクトンからなる脂肪族ポリエステル類、ポリビニルピロリドンなどのビニルポリマー類などの高分子量系可塑剤も挙げられる。可塑剤には、これらを単独もしくは低分量可塑剤と併用して使用することができる。
【0068】
上記多価アルコール系可塑剤は、セルロース脂肪酸エステルとの相溶性がよく、また熱可塑化効果が顕著に現れるグリセリンエステル、ジグリセリンエステルなどグリセリン系のエステル化合物やポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールの水酸基にアシル基が結合した化合物などを好ましく例示することができる。具体的なグリセリンエステルとしては、グリセリンアセテートジノナネート、グリセリンアセテートジオクタノエート、グリセリンジプロピオネートラウレート、グリセリンジプロピオネートミスチレート、グリセリンジプロピオネートパルミテート、グリセリンジプロピオネートステアレート、グリセリンジプロピオネートオレート、グリセリントリペンタノエートなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0069】
上記ジグリセリンエステルの具体的な例としては、ジグリセリンテトラプロピオネート、ジグリセリンテトラブチレート、ジグリセリンテトラバレレート、ジグリセリンテトラカプリレート、ジグリセリンテトラペラルゴネート、ジグリセリンテトラカプレート、ジグリセリンテトララウレート、ジグリセリントリアセテートバレレート、ジグリセリンジアセテートジラウレート、ジグリセリンジアセテートジステアレート、ジグリセリンジアセテートジオレート、ジグリセリンアセテートトリラウレート、ジグリセリンアセテートトリミスチレート、ジグリセリンアセテートトリパルミテート、ジグリセリンアセテートトリステアレート、ジグリセリンアセテートトリオレートなどのジグリセリンの混酸エステルなどが挙げられる。
【0070】
上記ポリアルキレングリコールの具体例としては、平均分子量が200〜1000のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどが挙げられるが、これらに限定されない。ポリアルキレングリコールの水酸基にアシル基が結合した化合物の具体的な例として、ポリオキシエチレンアセテート、ポリオキシエチレンブチレート、ポリオキシエチレンバリレート、ポリオキシエチレンオクタノエート、ポリオキシエチレンラウレート、ポリオキシエチレンミリスチレート、ポリオキシエチレンステアレート、ポリオキシエチレンオレート、ポリオキシプロピレンプロピオネート、ポリオキシプロピレンオクタノエート、ポリオキシプロピレンオレート、ポリオキシプロピレンリノレートなどが挙げられるが、こられに限定されるものではない。
【0071】
これらの可塑剤は、単独で使用してもよいし、併用してもよい。
可塑剤の添加量は、セルロースエステルに対して1〜20質量%が好ましく、より好ましくは1〜15質量%、最も好ましくは2〜10質量%である。
【0072】
(紫外線吸収剤)
セルロースエステルには、紫外線防止剤を添加してもよい。紫外線防止剤については、特開昭60−235852号、特開平3−199201号、同5−1907073号、同5−194789号、同5−271471号、同6−107854号、同6−118233号、同6−148430号、同7−11056号、同7−11055号、同7−11056号、同8−29619号、同8−239509号、特開2000−204173号の各公報に記載がある。その添加量は、調製する溶融物(メルト)の0.01〜2質量%であることが好ましく、0.01〜1.5質量%であることがさらに好ましい。
【0073】
すなわち本発明では、セルロースエステルに1種または2種以上の紫外線吸収剤を含有させることが好ましい。紫外線吸収剤は、液晶の劣化防止の観点から、波長380nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ、液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などが挙げられる。特に好ましい紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系化合物やベンゾフェノン系化合物である。中でも、ベンゾトリアゾール系化合物は、セルロースエステルに対する着色が少ないことから好ましい。
【0074】
好ましい紫外線吸収剤としては、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N'−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイトなどが挙げられる。
【0075】
特に前記紫外線吸収剤としては、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が最も好ましい。
【0076】
これらの紫外線吸収剤として、以下の市販品も利用できる。ベンゾトリアゾール系としてはTINUBIN P(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、TINUBIN 234(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、TINUBIN 320(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、TINUBIN 326(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、TINUBIN 327(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、TINUBIN 328(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、スミソーブ340(住友化学社製)、アデカスタイプLA−31(旭電化工業社製)などがある。また、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、シーソーブ100(シプロ化成社製)、シーソーブ101(シプロ化成社製)、シーソーブ101S(シプロ化成社製)、シーソーブ102(シプロ化成社製)、シーソーブ103(シプロ化成社製)、アデカスタイプLA−51(旭電化工業社製)、ケミソープ111(ケミプロ化成社製)、UVINUL D−49(BASF社製)などを挙げられる。また、オキザリックアシッドアニリド系紫外線吸収剤としては、TINUBIN 312(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)やTINUBIN 315(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)がある。更にサリチル酸系紫外線吸収剤としては、シーソーブ201(シプロ化成社製)やシーソーブ202(シプロ化成社製)が上市されており、シアノアクリレート系紫外線吸収剤としてはシーソーブ501(シプロ化成社製)、UVINUL N−539(BASF社製)がある。
【0077】
(微粒子)
本発明では、セルロースエステルに微粒子を混合してもよい。微粒子としては、無機化合物の微粒子や有機化合物の微粒子が挙げられ、いずれでもよい。本発明におけるセルロースエステルに含まれる微粒子の平均一次粒子サイズは、ヘイズを低く抑えるという観点から5nm〜3μmであることが好ましく、5nm〜2.5μmであることがより好ましく、20nm〜2.0μmであることが更に好ましい。ここで、微粒子の平均一次粒子サイズは、セルロースエステルフィルムを透過型電子顕微鏡(倍率50万〜100万倍)で観察し、粒子100個の一次粒子サイズの平均値を求めることにより決定する。微粒子の添加量は、セルロースエステルに対して0.005〜1.0質量%であることが好ましく、より好ましくは0.01〜0.8質量%であり、さらに好ましくは0.02〜0.4質量%である。
【0078】
また、本発明の製造方法により最終的に得られたセルロースエステルフィルム中での微粒子の平均二次粒子サイズは0.01〜5μmであることが好ましく、0.02〜3μmであることがより好ましく、0.02〜1μmであることが特に好ましい。ここで、前記微粒子の平均二次粒子サイズは、セルロースエステルフィルムを透過型電子顕微鏡(倍率10万〜100万倍)で観察し、粒子100個の二次粒子サイズの平均値を求めることにより決定する。
【0079】
前記無機化合物としては、SiO2、ZnO、TiO2、SnO2、Al23、ZrO2、In23、MgO、BaO、MoO2、V25、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムおよびリン酸カルシウム等が挙げられる。好ましくは、SiO2、ZnO、TiO2、SnO2、Al23、ZrO2、In23、MgO、BaO、MoO2およびV25の少なくとも1種であり、さらに好ましくはSiO2、TiO2、SnO2、Al23およびZrO2の少なくとも1種である。
【0080】
前記SiO2の微粒子としては、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上、日本アエロジル(株)製)等の市販品を使用することができる。また、前記ZrO2の微粒子としては、例えば、アエロジルR976およびR811(以上、日本アエロジル(株)製)等の市販品を使用することができる。またシーホスターKE−E10、同E30、同E40、同E50、同E70、同E150、同W10、同W30、同W50、同P10、同P30、同P50、同P100、同P150、同P250(日本触媒)なども使用することができる。更に、シリカマイクロビーズP−400、700(触媒化成工業株式会社製品)も使用することができる。また、SO−G1、SO−G2、SO−G3、SO−G4、SO−G5、SO−G6、SO−E1、SO−E2、SO−E3、SO−E4、SO−E5、SO−E6、SO−C1、SO−C2、SO−C3、SO−C4、SO−C5、SO−C6、(株式会社アドマテックス製)も使用することができる。さらに、シリカ粒子8050、同8070、同8100、同8150(株式会社モリテックス 製、水分散物を粉体化)も使用することができる。
【0081】
次に、本発明で使用されうる有機化合物の微粒子としては、例えばシリコーン樹脂、フッ素樹脂およびアクリル樹脂等のポリマーが好ましく、シリコーン樹脂が特に好ましい。前記シリコーン樹脂としては、三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えばトスパール103、同105、同108、同120、同145、同3120および同240(以上、東芝シリコーン(株)製)等の商品名を有する市販品を使用できる。
【0082】
さらに、無機化合物からなる微粒子は、セルロースエステルフィルム中で安定に存在させるために表面処理されているものを用いることが好ましい。表面処理法としては、カップリング剤を使用する化学的表面処理法と、プラズマ放電処理やコロナ放電処理のような物理的表面処理法とがあるが、本発明においてはカップリング剤を使用することが好ましい。カップリング剤としては、オルガノアルコキシ金属化合物(例えば、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等)が好ましく用いられる。微粒子として無機微粒子を用いた場合(特にSiO2を用いた場合)ではシランカップリング剤による処理が特に有効である。前記シランカップリング剤としては下記一般式(11)で表されるオルガノシラン化合物が使用可能である。前記カップリング剤の使用量は特に限定されないが、好ましくは無機微粒子に対して、0.005〜5質量%使用することが推奨され、さらには0.01〜3質量%使用することが好ましい。
【0083】
xSi(OR’)(4-x)・・・一般式(11)
(式中、RおよびR’は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、アリル基、フルオロアルキル基を表す。なお、前記アルキル基は、置換基として、エポキシ基、アミノ基、アクリル基、イソシアネート基、および/またはメルカプト基を有していてもよい。xは0〜3の整数であり、好ましくは0〜2の整数である。)
【0084】
前記一般式(11)で表されるオルガノシランの具体例としては下記のものを挙げることができるが、本発明で用いることができるオルガノシランはこれらの例示物に限定されるものではない。
一般式(11)におけるxが0の化合物として、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン等が挙げられる。
xが1の化合物として、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、CF3CH2CH2Si(OCH33、CF3(CF25CH2CH2Si(OCH33、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−トリメトキシシリルプロピルイソシアネート、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
xが2の化合物として、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
また、硬化膜の硬さおよび脆性の調節や官能基導入の目的で、異なる2種以上のオルガノシランを組み合わせて用いることもできる。
【0085】
カップリング剤は、微粒子への直接処理方法とインテグラルブレンド法とによって処理される。直接法は乾式法とスラリー法とスプレー法とに大きく分類される。ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、レデイミキサー、V型ブレンダー、オープンニーダー等の攪拌機を使用するのが、特にオープンニーダーが好ましい。微粒子と少量の水、または水を含有する有機溶剤そしてカップリング剤を混合しオープンニーダーで攪拌して水を除去し、さらに微細分散するのが好ましい。これら微粒子のセルロースエステルへの添加は、常法によって混練するなどの方法により行うことができるが、特に好ましくは予め溶媒に分散した微粒子とセルロースエステルとを混合分散させた後、溶媒を揮発させた固形物とし、これをセルロースエステル溶融物の製造過程で用いることが均一な溶融物が得られる点で好ましい場合がある。なお、フィルム中に微粒子を均一に分散させるためには、混練機中やあるいは製膜時のダイ中でのシェアーにより、前記微粒子が粉体から微粒子化され微細分散化される工程を含むことが好ましい。なお、微粒子と共に必要に応じてその他の機能性素材(例えば可塑剤および/または紫外線吸収剤)を同時に溶媒に溶解して分散し、混合して使用してもよい。
【0086】
なお、本発明では、予めセルロースエステルに所望量よりも高濃度の安定剤を有する微粒子含有マスターペレットを作製しておいてもよい。これにより、微粒子の分散性のよいセルロースエステルペレットが作製可能となり、優れた面状と表面の滑り性(キシミ防止)を備えたセルロースエステルフィルムをハンドリング性よく製造することが可能になる。
この時、別途微粒子を含まないセルロースエステルのマスターペレット(セルロースエステルマスターペレット)を作製しておくことが必要である。その場合、微粒子含有マスターペレットには、同時に上記の安定剤を含有させておくことが好ましい。また、微粒子含有マスターペレット中の微粒子の添加量は特に制限されないが、好ましくはセルロースエステルフィルム中の微粒子最終濃度の2〜50倍が好ましく、より好ましくは2〜30倍であり、更に好ましくは3〜25倍であり、特に好ましくは4〜20倍である。セルロースエステルマスターペレットと微粒子含有マスターペレットの混合には、前記した混合機を利用することができる。なお、微粒子含有マスターペレットを作製する段階で、微粒子以外の添加剤(安定剤、可塑剤、その他の添加剤など)を一緒に添加してもよく、その場合も微粒子以外の添加剤の濃度は、好ましくはセルロースエステルフィルム中の所望添加剤最終濃度の2〜50倍が好ましく、より好ましくは2〜30倍であり、更に好ましくは3〜25倍であり、特に好ましくは4〜20倍である。
【0087】
(光学調整剤)
本発明では、セルロースエステルに、光学異方性をコントロールするための光学調整剤(レターデーションコントロール剤、特にレターデーション上昇剤)を添加してもよい。本発明では、セルロースエステルフィルムのレターデーションを調整するため、少なくとも一個の芳香族環を有する芳香族化合物をレターデーションコントロール剤として使用することが好ましい。芳香族化合物は、セルロースエステル100質量部に対して、通常0.01〜20質量部の範囲で使用する。芳香族化合物は、セルロースエステル100質量部に対して、0.05〜15質量部の範囲で使用することが好ましく、0.1〜10質量部の範囲で使用することがさらに好ましい。このとき、2種類以上の芳香族化合物を併用してもよい。また、ここでいう芳香族化合物の芳香族環には、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環も含まれる。芳香族炭化水素環は、6員環(すなわち、ベンゼン環)であることが特に好ましい。芳香族性ヘテロ環は一般に、不飽和ヘテロ環である。芳香族性ヘテロ環は、5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがさらに好ましい。芳香族性ヘテロ環は一般に、最多の二重結合を有する。ヘテロ環に含まれるヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子および硫黄原子が好ましく、窒素原子が特に好ましい。芳香族性ヘテロ環の例には、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、フラザン環、トリアゾール環、ピラン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環および1,3,5−トリアジン環が含まれる。
【0088】
(離型剤)
本発明におけるセルロースエステルは、フッ素原子を有する化合物を含むことが好ましい。前記フッ素原子を有する化合物は、離型剤としての作用を発現でき、低分子量化合物であっても重合体であってもよい。重合体としては、特開2001−269564号公報に記載の重合体を挙げることができる。前記フッ素原子を有する重合体として好ましいものは、フッ素化アルキル基含有エチレン性不飽和単量体を必須成分として含有してなる単量体を重合せしめた重合体である。前記重合体に係わるフッ素化アルキル基含有エチレン性不飽和単量体としては、分子中にエチレン性不飽和基とフッ素化アルキル基とを有する化合物であれば特に制限はない。またフッ素原子を有する界面活性剤も利用でき、特に非イオン性界面活性剤が好ましい。
【0089】
《セルロースエステルフィルムの製造方法》
以下に、安定剤を含有するセルロースエステルフィルムの製造方法について、詳細に記述する。なお、本発明のセルロースエステルフィルムは、これらの方法により製造されたものに限定されるものではない。
【0090】
(1)ペレット化
本発明では、セルロースエステルと安定剤やその他の添加物を、溶融製膜に先立ち混合してペレット化しておくのが好ましい。ペレット化前にセルロースエステルおよび添加物は事前に乾燥しておくことが好ましい。その場合の乾燥後の含水率としては、セルロースエステル混合物が0.5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.3質量%以下であり、特に好ましくは0.2質量%以下である。
【0091】
ベント式押出機を用いることで、これを代用することもできる。ペレット化は、上記セルロースエステルと添加物を2軸或いは1軸混練押出機を用い180℃〜240℃で溶融後、ヌードル状に押出したものを水中で固化し裁断することで作成することができる。水中に直接押出ながらカットするアンダーウオーターカット法でペレット化を行ってよい。好ましいペレットの大きさは断面積が1mm2〜300mm2、長さが1mm〜30mmであり、より好ましくは断面積が2mm2〜100mm2、長さが1.5mm〜10mmである。押出機の回転数は10rpm〜1000rpmが好ましく、より好ましくは30rpm〜500rpm以下である。ペレット化における押出滞留時間は通常10秒〜30分、好ましくは10秒〜3分である。なおペレット化の際には、酸素を除去あるいは低減しておくことが好ましく、その場合は不活性ガス(例えば、窒素、ヘリウム、アルゴンなど)や減圧状態にしておくことで達成できる、好ましい酸素濃度としては10容量%以下であり、より好ましくは5容量%以下であり、更に好ましくは2容量%以下であり、特には0.5質量%以下である。
なお、本発明の安定剤の添加方法については前述したように特に限定されないが、一般にはペレット化時に混入させることが好ましく推奨される。ただし、ペレット化時の溶融温度を低温状態にして、予めセルロースエステルのみを溶融ペレット化したセルロースエステルのマスターペレットに対して、安定剤やその他の添加剤を高濃度に添加し溶融してペレット化した安定剤添加マスターペレットを、溶融製膜時に所望の安定剤添加量になるように、溶融押出し機に投入することも好ましい。
【0092】
(2)溶融製膜
次に溶融製膜について記述する。
【0093】
(乾燥)
溶融製膜に先立ち、セルロースエステルおよび安定剤やその他の添加剤、さらに予め作製されたマスターペレット(セルロースエステルマスターペレット、安定剤マスターペレット、添加剤含有マスターペレット)中の水分を乾燥して含水率を0.5質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下に、特に好ましくは0.1質量%以下にすることが好ましい。このための乾燥温度は40〜180℃であることが好ましく、更に乾燥温度は60〜150℃であることが好ましく、特に好ましい乾燥温度は80〜130℃である。また、乾燥風量は好ましくは20〜400m3/時間で有り、特に好ましくは100〜250m3/時間である。乾燥風の露点は好ましくは0〜−60℃で有り、より好ましくは−20〜−40℃である。この時、乾燥風は水分を除去したものであることが好ましい。そのような乾燥風は、水分除去装置を通過させたり、窒素ガスを吹き付けたりすることによって調製できる。さらに乾燥時に、酸素を除去あるいは低減しておくことが好ましい。具体的には、不活性ガス(例えば、窒素、ヘリウム、アルゴンなど)を用いたり、減圧状態にしておくことで酸素を除去あるいは低減することができる。好ましい酸素濃度は10容量%以下であり、より好ましくは5容量%以下であり、更に好ましくは2容量%以下であり、特に好ましくは0.5質量%以下である。
【0094】
(溶融押出し)
セルロースエステルは押出機の供給口を介してシリンダー内に供給される。図1は、本発明で用いることができる典型的な押出機22の概略図を示したものである。シリンダー32内は供給口40側から順に、供給口から供給したセルロースエステルを定量輸送する供給部(領域A)とセルロースエステルを溶融混練・圧縮する圧縮部(領域B)と溶融混練・圧縮されたセルロースエステルを計量する計量部(領域C)とで構成される。該セルロースエステルフィルムは上述の方法により水分量を低減させるために、乾燥することが好ましいが、残存する酸素による溶融セルロースエステルの酸化を防止するために、押出機内を不活性(窒素等)気流中、あるいはベント付き押出し機を用いて真空排気しながら実施するのがより好ましい。押出機のスクリュー圧縮比は2.5〜4.5に設定され、L/Dは20〜70に設定されていることが好ましい。ここでスクリュー圧縮比とは供給部Aと計量部Cとの容積比、即ち(供給部Aの単位長さあたりの容積)÷(計量部Cの単位長さあたりの容積)で表され、供給部Aのスクリュー軸の外径d1、計量部Cのスクリュー軸の外径d2、供給部Aの溝部径a1、および計量部Cの溝部径a2とを使用して算出される。また、L/Dとはシリンダー内径に対するシリンダー長さの比である。また、押出温度は190〜240℃に設定されることが好ましい。押出機内での温度が230℃を超える場合には、押出機とダイとの間に冷却機を設けるようにすることが好ましい。
【0095】
スクリュー圧縮比が小さ過ぎると、十分に溶融混練されず、未溶解部分が発生したり、せん断発熱が小さ過ぎて結晶の融解が不十分となり、製造後のセルロースエステルフィルムに微細な結晶が残存し易くなり、さらに、気泡が混入し易くなる傾向がある。これにより、セルロースエステルフィルムの強度が低下したり、あるいはフィルムを延伸する場合に、残存した結晶が延伸性を阻害し、配向を十分に上げることができなくなることがある。逆に、スクリュー圧縮比が大き過ぎると、せん断応力がかかり過ぎて発熱によりセルロースエステルが劣化し易くなるので、製造後のセルロースエステルフィルムに黄色味が出易くなる傾向がある。また、せん断応力がかかり過ぎると、分子の切断が起こり、分子量が低下してフィルムの機械的強度が低下することがある。製造後のセルロースエステルフィルムに黄色味が出にくく且つフィルム強度が強くさらに延伸破断しにくくするためには、スクリュー圧縮比は2.5〜4.5の範囲が好ましく、より好ましくは2.8〜4.2、特に好ましいのは3.0〜4.0の範囲である。
【0096】
また、L/Dが小さ過ぎると、溶融不足や混練不足となり、圧縮比が小さい場合と同様に製造後のセルロースエステルフィルムに微細な結晶が残存し易くなる傾向がある。逆に、L/Dが大き過ぎると、押出機内でのセルロースエステルの滞留時間が長くなり過ぎ、セルロースエステルの劣化を引き起こし易くなる傾向がある。また、滞留時間が長くなると分子の切断が起こったり、分子量が低下してセルロースエステルフィルムの機械的強度が低下することがある。製造後のセルロースエステルフィルムに黄色味が出にくく且つフィルム強度が強くさらに延伸破断しにくくするためには、L/Dは20〜70の範囲が好ましく、より好ましくは22〜65の範囲、特に好ましくは24〜50の範囲である。
また、押出温度が低過ぎると、結晶の融解が不十分となり、製造後のセルロースエステルフィルムに微細な結晶が残存し易くなり、フィルム強度が低下したり、あるいはフィルムを延伸する場合に、残存した結晶が延伸性を阻害し、配向を十分に上げることができなくなる傾向がある。逆に、押出し温度が高過ぎると、セルロースエステルが劣化し、黄色味(YI値)の程度が悪化してしまう傾向がある。製造後のセルロースエステルフィルムに黄色味が出にくく且つフィルム強度が高く延伸破断しにくくするためには、押出温度は好ましくは180℃〜230℃であり、より好ましくは190℃〜230℃、さらに好ましくは195℃〜230℃の範囲である。この時の温度は、押し出し機の最下流部の温度を示すものである。
【0097】
押し出し機の種類として、一般的には設備コストの比較的安い単軸押し出し機が用いられることが多く、フルフライト、マドック、ダルメージ等のスクリュータイプがあるが、熱安定性の比較的悪いセルロースエステルには、フルフライトタイプが好ましい。また、設備コストは高価であるが、スクリューセグメントを変更することにより、途中でベント口を設けて不要な揮発成分を脱揮させながら押出ができる二軸押出機を用いることが可能である。二軸押し出し機には大きく分類して同方向と異方向のタイプがありどちらも用いることが可能であるが、滞留部分が発生し難くセルフクリーニング性能の高い同方向回転のタイプが好ましい。二軸押出機は設備が高価であるが、混練性が高く、セルロースエステルの供給性能が高いため、低温での押出が可能となるため、セルロースエステルの製膜に適している。ベント口を適正に配置することにより、未乾燥状態でのセルロールアシレートペレットやパウダーをそのまま使用することも可能である。また、製膜途中で出たフィルムのミミ等も乾燥させることなしにそのまま再利用することもできる。
【0098】
なお、スクリューの直径は目標とする単位時間あたりの押出量によって異なるが、好ましくは10mm〜300mm、より好ましくは20mm〜250mm、さらに好ましくは30mm〜150mmである。また、厚み精度を向上させるためには、吐出量の変動を減少させることが重要であり、押出機出機とダイスの間にギアポンプを設けて、ギアポンプから一定量のセルロースエステルを供給することは効果がある。ギアポンプとは、ドライブギアとドリブンギアとからなる一対のギアが互いに噛み合った状態で収容され、ドライブギアを駆動して両ギアを噛み合い回転させることにより、ハウジングに形成された吸引口から溶融状態のセルロースエステルをキャビティ内に吸引し、同じくハウジングに形成された吐出口からそのセルロースエステルを一定量吐出するものである。押出機先端部分の圧力に若干の変動があっても、ギアポンプを用いることにより変動を吸収し、製膜装置下流の圧力の変動は非常に小さなものとなり、厚み変動が改善される。ギアポンプを用いることにより、ダイ部分の圧力の変動巾を±1%以内にすることが可能である。
【0099】
ギアポンプによる定量供給性能を向上させるために、スクリューの回転数を変化させて、ギアポンプ前の圧力を一定に制御する方法も用いることができる。また、ギアポンプのギアの変動を解消した3枚以上のギアを用いた高精度ギアポンプも有効である。ギアポンプを用いるその他のメリットとしては、スクリュー先端部の圧力を下げて製膜できることから、エネルギー消費の軽減・セルロースエステルの温度上昇の防止・輸送効率の向上・押出機内での滞留時間の短縮・押出機のL/Dの短縮が期待できる。また、異物除去のために、フィルターを用いる場合には、ギアポンプが無いと、ろ圧の上昇と共に、スクリューから供給されるセルロースエステル量が変動したりすることがあるが、ギアポンプを組み合わせて用いることにより解消が可能である。一方、ギアポンプのデメリットとしては、設備の選定方法によっては、設備の長さが長くなり、セルロースエステルの滞留時間が長くなることと、ギアポンプ部のせん断応力によって分子鎖の切断を引き起こすことがあり、注意が必要である。
【0100】
セルロースエステルが供給口から押出機に入ってからダイスから出るまでの好ましい滞留時間は2分〜60分であり、より好ましくは3分〜40分であり、さらに好ましくは4分〜30分である。ギアポンプの軸受循環用ポリマーの流れが悪くなることにより、駆動部と軸受部におけるポリマーによるシールが悪くなり、計量および送液押し出し圧力の変動が大きくなったりする問題が発生するため、セルロースエステルの溶融粘度に合わせたギアポンプの設計(特にクリアランス)が必要である。また、場合によっては、ギアポンプの滞留部分がセルロースエステルの劣化の原因となるため、滞留のできるだけ少ない構造が好ましい。押出機とギアポンプあるいはギアポンプとダイ等をつなぐポリマー管やアダプタについても、できるだけ滞留の少ない設計が必要であり、且つ溶融粘度の温度依存性の高いセルロースエステルの押出圧力安定化のためには、温度の変動をできるだけ小さくすることが好ましい。一般的には、ポリマー管の加熱には設備コストの安価なバンドヒーターが用いられることが多いが、温度変動のより少ないアルミ鋳込みヒーターを用いることがより好ましい。さらに押出し機内でG'、G" 、tanδ、ηに最大値、最小値を持たせるために、押出し機のバレルを3〜20に分割したヒーターで加熱し溶融することが好ましい。
【0101】
上記の如く構成された押出機によってセルロースエステルが溶融され、その溶融セルロースエステルが吐出口からダイに連続的に送られる。ダイはダイス内の溶融セルロースエステルの滞留が少ない設計であれば、一般的に用いられるTダイ、フィッシュテールダイ、ハンガーコートダイのいずれのタイプでも構わない。また、ダイの直前に温度の均一性を向上させるためのスタティックミキサーを入れることも問題ない。ダイ出口部分のクリアランスは一般的にフィルム厚みの1.0〜5.0倍がよく、好ましくは1.2〜3倍、さらに好ましくは1.3〜2倍である。リップクリアランスがフィルム厚みよりも小さ過ぎる場合には製膜により面状の良好なシートを得ることが困難になる傾向がある。また、リップクリアランスがフィルム厚みよりも大き過ぎる場合にはシートの厚み精度が低下する傾向がある。
【0102】
ダイはフィルムの厚み精度を決定する非常に重要な設備であり、厚み調整がシビアにコントロールできるものが好ましい。通常厚み調整は40〜50mm間隔で調整可能であるが、好ましくは35mm間隔以下、さらに好ましくは25mm間隔以下でフィルム厚み調整が可能なタイプが好ましい。また、セルロールエステルは、溶融粘度の温度依存性、せん断速度依存性が高いことから、ダイの温度ムラや巾方向の流速ムラのできるだけ少ない設計が重要である。また、下流のフィルム厚みを計測して、厚み偏差を計算し、その結果をダイの厚み調整にフィードバックさせる自動厚み調整ダイも長期連続生産の厚み変動の低減に有効である。フィルムの製造は設備コストの安い単層製膜装置が一般的に用いられるが、場合によっては機能層を外層に設けために多層製膜装置を用いて2種以上の構造を有するフィルムの製造も可能である。一般的には機能層を表層に薄く積層することが好ましいが、特に層比を限定するものではない。
【0103】
セルロースエステル中の異物ろ過のためや異物によるギアポンプ損傷を避けるために、押し出し機出口にフィルター濾材を設けるいわゆるブレーカープレート式のろ過を行なうことが好ましい。また精度高く異物ろ過をするために、ギアポンプ通過後にいわゆるリーフ型ディスクフィルターを組み込んだ濾過装置を設けることが好ましい。特に、金属メッシュフィルター等でろ過を行うのが好ましい。メッシュの目の大きさは2〜30μmが好ましく、より好ましくは2〜20μm、さらに好ましくは2〜10μmである。この際、加圧を行い、濾過に要する時間をできるだけ短縮することが好ましい。濾過圧は、0.5MPa〜15MPaが好ましく、2Pa〜15MPaがさらに好ましく、10Pa〜15MPaがもっとも好ましい。濾過圧は、高いほうが濾過時間を短くすることができるので好ましいが、フィルターの破損が起こらない範囲の高圧を用いることが好ましい。濾過の時の温度は180℃〜230℃が好ましく、180℃〜220℃がさらに好ましく、190〜220℃が特に好ましい。濾過時の温度が該上限値以下であれば、熱劣化が進行するなどの問題が生じにくいので好ましく、該下限値以上であれば、濾過に時間がかかりすぎて熱劣化が進行するなどの不都合が生じにくいので好ましい。濾過に要する時間はできるだけ短くして、フィルムの黄変を防止するのがよい。フィルター1cm2当たり1分間の濾過量は、0.05〜100cm3が好ましく、0.1〜100cm3がさらに好ましく、0.5〜100cm3がもっとも好ましい。
【0104】
(3)延伸
本発明においては、フィルム特性をコントロールするために、延伸工程を行ってフィルムを延伸することも好ましい。例えば、未延伸フィルムを延伸し、Re,Rthを制御することができる。この時、延伸温度はTg〜(Tg+50℃)が好ましく、さらに好ましくは(Tg+5℃)〜(Tg+20℃)である。好ましい延伸倍率は少なくとも一方に1%〜300%、より好ましくは3%〜200%である。一方の延伸倍率を他方より大きくして延伸するほうがより好ましく、小さい方の延伸倍率は1%〜30%が好ましく、より好ましくは3%〜20%であり、大きいほうの延伸倍率は30%〜300%が好ましく、より好ましくは40%〜150%である。これらの延伸は1段で実施しても、多段で実施してもよい。ここでいう延伸倍率は、以下の式を用いて求めたものである。
延伸倍率(%)=100×{(延伸後の長さ)−(延伸前の長さ)}/(延伸前の長さ)
このような延伸はニップロール、テンター等を用いて実施することが好ましい。また、特開2000−37772号公報、特開2001−113591号公報、特開2002−103445号公報に記載の同時2軸延伸法を用いてもよい。
【0105】
また製膜方向(長手方向)と遅相軸とのなす角度θは、縦延伸の場合0±3°が好ましく、より好ましくは0±1°である。横延伸の場合は、90±3°あるいは−90±3°が好ましく、より好ましくは90±1°あるいは−90±1°である。延伸後のセルロースエステルフィルムの厚みは20μm〜200μmが好ましく、より好ましくは30μm〜140μmである。厚みムラは長手方向、幅方向いずれも0%〜3%が好ましく、さらに好ましくは0%〜1%である。
【0106】
《セルロースエステルフィルムの特性》
(光学特性)
次に、本発明のセルロースエステルフィルムの好ましい光学特性について説明する。
本明細書において、Re(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。Re(λ)はKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。詳細な測定方法は後述する。
【0107】
本発明のセルロースエステルフィルムの正面レターデーション(Re)は0〜300nmであり、且つ、厚さ方向のレターデーション(Rth)の絶対値が0〜700nmであることが好ましい。さらには、(Re)が0〜250nmであり、(Rth)の絶対値が0〜400nmであることがより好ましく、特には(Re)が0〜200nmであり、(Rth)の絶対値が0〜350nmであることが好ましい。特に、本発明のセルロースエステルフィルムは偏光板保護膜としての利用が有効であり、その場合は、Reが0〜20nmであり、Rthが0〜80nmであることが好ましく、Reが0〜10nm、Rthが0〜60nmであることがより好ましい。
【0108】
本発明のセルロースエステルフィルムは、湿度変化に伴う光学特性変動の問題を改良することができるものであり、25℃における相対湿度10%の光学特性と80%の光学特性との差が小さいことを一つの特徴としている。湿度変化による光学特性変動は、ReとRthの湿度変化による変化量の絶対値で評価することができる。すなわち、Reの湿度変化(nm)は、Re(相対湿度80%)とRe(相対湿度10%)との差の絶対値であり、Rthの湿度変化(nm)は、Rth(相対湿度80%)とRth(相対湿度10%)との差の絶対値で表わされる。本発明のセルロースエステルフィルムは、Reの湿度変化が10nm以下であることが好ましく、さらには5nm以下を実現することができ、さらに1nm以下も実現することができる。また、Rth湿度変化は、25nm以下であることが好ましく、さらには20nm以下を実現することができ、さらに15nm以下も実現することができる。従来のセルローストリアセテートフィルムに比較すると、本発明のセルロースエステルフィルムは湿度変化量が2/3〜1/2に抑えられている。
【0109】
本発明のセルロースエステルフィルムは、波長に対する光学特性の挙動をコントロールすることも可能である。すなわち、波長400nmおよび700nmにおけるそれぞれのRe(400)、Re(700)の差の絶対値が0〜15nmであることが好ましく、Rth(400)、Rth(700)の差の絶対値が0〜35nmであることが好ましい。このことを式で表わすと、本発明のセルロースエステルフィルムは、下記式(A−1)および(A−2)を満たすことが好ましい。
式(A−1) 0≦|Re(700)−Re(400)|≦15nm
式(A−2) 0≦|Rth(700)−Rth(400)|≦35nm
(式中、Re(400)およびRe(700)は、波長400nmおよび700nmにおける正面レターデーション(Re)を表し、Rth(400)およびRth(700)は、波長400nmおよび700nmにおける厚さ方向のレターデーション(Rth)を表す。)
【0110】
本発明のセルロースエステルフィルムは、ReムラとRthムラが抑えられている。ここでいうReムラ、Rthムラは、セルロースエステルフィルムの長さ方向10m、250m、450mのそれぞれの領域において、幅方向に端部から20cmごとに7個所ずつサンプリングして、合計21サンプルを用意し、これらのサンプルを25℃、相対湿度60%に3時間調湿して、同一環境下でRe、Rthを測定し、得られた数値の最大値と最小値の差を計算することにより得られる。本発明のセルロースエステルフィルムは、ReムラとRthムラがそれぞれ3.0nm未満であることが好ましく、1.0nm未満であることがより好ましく、0.8nm以下であることがより好ましく、0.6nm以下であることがさらに好ましい。なお、上記の21カ所のサンプルを採取することができない場合は、これに準じた方法によりReムラとRthムラを計算する。
【0111】
また、本発明のセルロースエステルフィルムでは、25℃・相対湿度60%環境下で波長590nmにおける面内方向の固有複屈折が0〜0.001であることが好ましく、厚さ方向の固有複屈折の絶対値が0〜0.003であることが好ましい。より好ましくは、面内方向の固有複屈折が0〜0.0008であり、厚さ方向の固有複屈折の絶対値が0〜0.0025である。さらに好ましくは、面内方向の固有複屈折が0〜0.0006であり、厚さ方向の固有複屈折の絶対値が0〜0.001である。
【0112】
(軸ズレ)
本発明のセルロースエステルフィルムは、光学遅相軸が流延方向あるいは幅方向に対して平行あるいは直角であることが好ましい。特に延伸処理を施した場合には、流延方向に延伸した場合は0°に近いほど好ましい。具体的には、0±3°がより好ましく、さらに好ましくは0±1.5°であり、特に好ましくは0±0.5°である。幅方向に延伸した場合は、90±3°あるいは−90±3°が好ましく、より好ましくは90±1.5°あるいは−90±1.5°、さらに好ましくは90±0.5°あるいは−90±0.5°である。
【0113】
(弾性率、破断進度、熱寸法変化、透水率、平衡含水率)
本発明のセルロースエステルフィルムの弾性率は、1.5kN/mm2〜3.5kN/mm2であることが好ましく、より好ましくは1.8kN/mm2〜2.6kN/mm2である。破断伸度は3%〜300%が好ましい。Tgは95℃〜145℃が好ましい。80℃1日での熱寸法変化は縦、横両方向とも0%〜±1%が好ましく、さらに好ましくは0%〜±0.3%である。40℃/相対湿度90%での透水率は300g/m2・日〜1000g/m2・日が好ましく、さらに好ましくは500g/m2・日〜800g/m2・日である。25℃/相対湿度80%での平衡含水率は1質量%〜4質量%が好ましく、さらに好ましくは1.5質量%〜2.5質量%である。
【0114】
(残留溶剤量)
本発明のセルロースエステルフィルムには、残留溶剤が含まれていないか、含まれていても極めて少ない。残留溶剤量は0.01質量%以下であることが好ましく、ゼロであることが最も好ましい。特に、溶融製膜による本発明の製造方法では、製膜時に溶剤を使用しないため、製造されるセルロースエステルフィルムにも溶剤が含まれない点で極めて好ましい。
【0115】
(膜厚とムラ)
本発明のセルロースエステルフィルムの膜厚は、20〜300μmであることを特徴とし、より好ましくは30μm〜200μm、さらに好ましくは30μm〜150μm、特に好ましくは40〜120μmである。したがって、延伸することを前提としたときの未延伸フィルムの膜厚は、延伸倍率により予め厚めの原反押し出し膜厚としておくことが好ましい。本発明のセルロースエステルフィルムの厚みムラは、厚さ方向、幅方向いずれも0〜5μmが好ましく、より好ましくは0〜3μm、さらに好ましくは0〜2μmである。また製膜方向(長手方向)と、フィルムのReの遅相軸とのなす角度θは0°、+90°もしくは−90°に近いほど好ましい。
【0116】
(キシミ値)
本発明では、セルロースエステルフィルムに微粒子あるいは滑り剤を添加することでキシミ値を軽減し搬送性を改良することができる。本発明において、セルロースエステルフィルムの動的および静的キシミ値は共に、0.2〜1.5であることが好ましく、より好ましくは0.2〜1.3であり、さらに好ましくは0.256〜1.0である。微粒子の存在状態が粗大である場合は、そのキシミ値が小さくなる場合と大きくなる場合があり、共に搬送性は好ましくないばかりか、傷つきの発生を伴い推奨されない。キシミ値の測定方法については、後述する。
【0117】
(算術平均粗さ)
微粒子を含有するセルロースエステルフィルムは、その表面の粗さが適度な範囲内にある。表面粗さの程度は、一般に用いられている算術平均粗さ(Ra)で表される。本発明のセルロースエステルフィルムの算術平均粗さ(Ra)は、1nm〜500nmであることが好ましく、より好ましくは1nm〜250nmであり、特に好ましくは1nm〜200nmである。算術平均粗さ(Ra)の測定は、一般に使用されている接触式あるいは非接触式表面粗さ測定機で求めることができる。
【0118】
(透過率)
本発明のセルロースエステルフィルムの透過率は、好ましくは90%以上であり、さらに好ましくは91%以上であり、特に好ましくは92%以上である。透過率は、フィルム試料を20mm×70mmに切り出して、25℃・相対湿度60%で透明度測定器(AKA光電管比色計、KOTAKI製作所社製)で可視光(615nm)の透過率を測定することにより得られる。
【0119】
(ヘイズ)
本発明のセルロースエステルフィルムは、ヘイズが0〜1.5%の範囲であることが好ましく、より好ましくは0〜1.2%であり、さらに好ましくは0〜0.8%であり、特に好ましくは0.01〜0.5%である。ヘイズは、フィルム試料を40mm×80mmに切り出して、25℃・相対湿度60%においてヘイズメーター(HGM−2DP、スガ試験機)を用いてJIS K−6714に従って測定する。
【0120】
前述した延伸セルロースエステルフィルムの主な好ましい特性を以下に記述する。引張り弾性率は1.5kN/mm2以上3.0kN/mm2未満が好ましく、より好ましくは1.8kN/mm2〜2.6kN/mm2である。破断伸度は3%〜100%が好ましく、より好ましくは8%〜50%である。Tgは95℃〜145℃が好ましく、より好ましくは100℃〜140℃であり、特に好ましくは105℃〜135℃である。80℃1日での熱寸法変化は縦、横両方向とも0%〜±1%が好ましく、さらに好ましくは0%〜±0.3%である。40℃相対湿度90%での透水率は300g/m2・日〜1000g/m2・日が好ましく、さらに好ましくは500g/m2・日〜800g/m2・日である。25℃相対湿度80%での平衡含水率は1質量%〜4質量%が好ましく、さらに好ましくは1.5質量%〜2.5質量%である。ヘイズは0%〜3%が好ましく、より好ましくは0%〜1%以下である。全光透過率は90%〜100%が好ましい。
【0121】
《セルロースエステルフィルムの機能化》
次に、本発明のセルロースエステルフィルムにさらに機能を付与する場合の好ましい態様を記述する。
【0122】
(表面処理)
まずセルロースエステルフィルムの表面処理方法について記述する。セルロースエステルフィルムは、表面処理を行なうことによって、セルロースエステルフィルムと各機能層(例えば、下塗層およびバック層)との接着性の向上を達成することができる。前記表面処理としては、例えば、グロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理、酸またはアルカリ処理を用いることができる。前記グロー放電処理とは、10-3〜20Torr(約0.13〜2666Pa)の低圧ガス下でおこる、いわゆる低温プラズマのことも示すが、大気圧下でのグロー放電処理でもよい。
【0123】
まず、低圧下でのグロー放電処理は、米国特許第3,462,335号明細書、同3,761,299号明細書、同4,072,769号明細書および英国特許第891,469号明細書に記載されている。また不活性ガス、酸化窒素類、有機化合物ガス等の特定のガス等を導入することも行われる。ポリマーの表面をグロー放電処理する際には、大気圧で実施してもよいし減圧下で実施してもよい。また、グロー放電処理の雰囲気に酸素、窒素、ヘリウムあるいはアルゴンのような種々のガスや水を導入しながら実施してもよい。
【0124】
本発明のセルロースエステルフィルムの表面処理としては、紫外線照射法も好ましく用いられる。紫外線照射法に使用される水銀灯は石英管からなる高圧水銀灯で、紫外線の波長が180nm〜380nmの間であるものが好ましい。紫外線照射の方法について、セルロースエステルフィルムの表面温度が150℃前後にまで上昇することが支持体性能上問題なければ、光源には主波長が365nmの高圧水銀灯ランプを使用することができる。また、低温処理が必要とされる場合には主波長が254nmの低圧水銀灯が好ましい。またオゾンレスタイプの高圧水銀ランプ、および低圧水銀ランプを使用することも可能である。処理光量に関しては処理光量が多いほどセルロースエステルフィルムと被接着層との接着力は向上するが、光量の増加に伴い支持体が着色し、また支持体が脆くなるという問題が発生することもある。
【0125】
更に本発明のセルロースエステルフィルムの表面処理としてはコロナ放電処理も好ましい。前記コロナ放電処理を行うコロナ放電処理装置は、Pillar社製ソリッドステートコロナ処理機、LEPEL型表面処理機、VETAPHON型処理機等を用いることができる。コロナ放電処理は、空気中、常圧で行なうことができる。処理時の放電周波数は、通常5〜40kHz、より好ましくは10〜30kHzであり、波形は交流正弦波が好ましい。電極と誘電体ロールとのギャップクリアランスは0.1mm〜10mmが好ましく、より好ましくは1.0mm〜2.0mmである。放電は、放電帯域に設けられた誘電サポートローラーの上方で処理し、処理量は通常0.3〜0.4KV・A・分/m2、好ましくは0.34〜0.38KV・A・分/m2である。
【0126】
次に前記表面処理の一種である火炎処理について説明する。前記火炎処理に用いられるガスは、天然ガス、液化プロパンガス、都市ガスのいずれでもかまわないが、空気との混合比が重要である。天然ガス/空気の混合比は容積比で通常1/6〜1/10、好ましくは1/7〜1/9である。また、液化プロパンガス/空気の場合は通常1/14〜1/22、好ましくは1/16〜1/19、都市ガス/空気の場合は通常1/2〜1/8、好ましくは1/3〜1/7である。また、火炎処理量は通常1〜50Kcal/m2、好ましくは3〜20Kcal/m2の範囲で行なうとよい。
【0127】
次に、本発明のセルロースエステルフィルムの表面処理として好ましく用いられるアルカリ鹸化処理を具体的に説明する。セルロースエステルフィルム表面をアルカリ溶液に浸漬した後、酸性溶液で中和し、水洗して乾燥するサイクルで行われることが好ましい。前記アルカリ溶液としては、水酸化カリウム溶液、水酸化ナトリウム溶液が挙げられ、水酸化イオンの濃度は0.1mol/L〜4.0mol/Lであることが好ましく、0.5mol/L〜3.5mol/Lであることがさらに好ましい。前記アルカリ溶液の液温は、室温〜90℃の範囲が好ましく、40℃〜70℃がさらに好ましい。前記アルカリ鹸化処理はアルカリ溶液に浸漬した後、一般には水洗され、しかる後に酸性水溶液を通過させた後に、水洗して表面処理したセルロースエステルフィルムを得る。
【0128】
この際、酸性水溶液としては塩酸、硝酸、硫酸、酢酸、蟻酸、クロロ酢酸、シュウ酸などの水溶液が好ましく、その濃度は0.01mol/L〜3.0mol/Lであることが好ましく、0.05mol/L〜2.0mol/Lであることがさらに好ましい。アルカリ鹸化時間は、20〜600秒で実施されることが好ましく、さらに好ましくは30〜300秒であり、特に好ましくは40〜210秒である。また酸性溶液による中和は、20〜600秒で実施されることが好ましく、より好ましくは30〜250秒、特に好ましくは40〜180秒である。さらに中和後の水洗については、20〜400秒で実施されることが好ましく、より好ましくは30〜300秒、特に好ましくは40〜210秒である。
【0129】
これらの方法で得られた固体の表面エネルギーは、「ぬれの基礎と応用」(リアライズ社、1989.12.10発行)に記載のように接触角法、湿潤熱法、および吸着法により求めることができ、接触角法を用いることが好ましい。本発明のセルロースエステルフィルム表面の水に対する接触角(25℃/相対湿度60%)は、45°以下であることが好ましく、10〜45°であることが更に好ましく、10〜40°が特に好ましく、10〜30°が最も好ましい。
【0130】
(接着層)
本発明のセルロースエステルフィルムに機能性層を接着させる方法として、表面活性化処理をしたのち、直接セルロースエステルフィルム上に機能層を塗布して接着力を得る方法と、一旦何らかの表面処理をした後、あるいは表面処理なしで、下塗層(接着層)を設けこの上に機能層を塗布する方法とがある。前記下塗層の構成としても種々の工夫が行われており、例えば、1層の下塗り層を一層で構成する単層法や、第1層として支持体(セルロースエステルフィルム)によく接着する層(下塗第1層)を設け、その上に第2層として機能層とよく接着する下塗り第2層を塗布する所謂重層法がある。
【0131】
前記単層法においては、セルロースエステルフィルムを膨張させ、下塗層素材と界面混合させることによって良好な接着性を達成している場合が多い。前記下塗層に使用する下塗ポリマーとしては、水溶性ポリマー、セルロースエステル、ラテックスポリマー、水溶性ポリエステルなどが例示される。前記水溶性ポリマーとしては、ゼラチン、ゼラチン誘導体、カゼイン、寒天、アルギン酸ナトリウム、でんぷん、ポリビニールアルコール、ポリアクリル酸共重合体、無水マレイン酸共重合体などが挙げられ、セルロースエステルとしてはカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどが挙げられる。ラテックスポリマーとしては、塩化ビニル含有共重合体、塩化ビニリデン含有共重合体、アクリル酸エステル含有共重合体、酢酸ビニル含有共重合体、ブタジエン含有共重合体などが挙げられる。
【0132】
前記重層法における下塗第1層では、例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ブタジエン、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸などの中から選ばれた単量体を出発原料とする共重合体を始めとして、ポリエチレンイミン、エポキシ樹脂、グラフト化ゼラチン、ニトロセルロース等のオリゴマーもしくはポリマーなどを用いることができる。前記下塗第2層では、例えば、前述の水溶性ポリマー、セルロースエステル、ラテックスポリマー、水溶性ポリエステル等を用いることができる。
【0133】
特に偏光子と接着する際には、本発明のセルロースエステルフィルムには、親水性バインダーからなる親水性バインダー層が設けられることが好ましい。親水性バインダーとしては、例えば、−COOM基含有の酢酸ビニル−マレイン酸共重合体化合物、または親水性セルロース誘導体(例えばメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース等)、ポリビニルアルコール誘導体(例えば酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアセタール、ポリビニルホルマール、ポリビニルベンザール等)、天然高分子化合物(例えばゼラチン、カゼインアラビアゴム等)、親水基含有ポリエステル誘導体(例えばスルホン基含有ポリエステル共重合体)が挙げられる。
【0134】
本発明のセルロースエステルフィルムに場合により施される下塗り層には、機能層の透明性などを実質的に損なわない程度に無機または有機の微粒子をマット剤として含有させることができる。 無機の微粒子のマット剤としてはシリカ(SiO2),二酸化チタン(TiO2),炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどを使用することができる。有機の微粒子マット剤としては、ポリメチルメタクリレート、セルロースアセテートプロピオネート、ポリスチレン、米国特許第4,142,894号明細書に記載されている処理液可溶性のもの、米国特許第4,396,706号明細書に記載されているポリマーなどを用いることができる。これらの微粒子マット剤の平均粒子サイズは0.01〜10μmのものが好ましく、より好ましくは0.05〜5μmである。また、その含有量は0.5〜600mg/m2が好ましく、さらに好ましくは1〜400mg/m2である。前記下塗液は、一般によく知られた塗布方法、例えばディップコ−ト法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコ−ト法、スライドコート法、あるいは、米国特許第2,681,294号明細書に記載のホッパーを使用するエクストルージョンコート法により塗布することができる。
【0135】
(導電性層)
本発明のセルロースエステルフィルムを用いて偏光板用保護膜を作製する場合等には、フィルムの少なくとも一層に帯電防止層を設けたり、偏光子と接着するための親水性バインダー層を設けたりすることが好ましい。
まず、前記導電性層について以下に説明する。前記導電性層に含まれる導電性素材としては、導電性金属酸化物や導電性ポリマーが好ましい。蒸着やスパッタリングによる透明導電性膜でもよい。前記導電性金属酸化物の例としては、ZnO、TiO2、SnO2、Al23、In23、SiO2、MgO、BaO、MoO2、V25等、あるいはこれらの複合酸化物が好ましく、特にZnO、SnO2あるいはV25が好ましい。前記複合酸化物の異種原子例としては、Al、In、Ta、Sb、Nb、ハロゲン、Agの添加が効果的であり、添加量は0.01mol%〜25mol%の範囲が好ましい。
【0136】
また、これらの導電性を有する金属酸化物粉体の体積抵抗率は107Ω・cm以下であることが好ましく、特に105Ω・cm以下であることが好ましい。また、前記金属酸化物粉体の1次粒子サイズは100Å〜0.2μmであることが好ましく、前記導電性層は、これら凝集体の高次構造の長径が300Å〜6μmである特定の構造を有する粉体を体積分率で0.01%〜20%含んでいることが好ましい。この導電性微粒子(金属酸化物粉体)の使用量は0.01〜5.0g/m2が好ましく、特に0.005〜1g/m2が好ましい。
【0137】
前記導電性微粒子の分散用バインダーは、フィルム形成能を有する物であれば特に限定されるものではないが、例えば、ゼラチン、カゼイン等のタンパク質;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アセチルセルロース、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース化合物;デキストラン、寒天、アルギン酸ナトリウム、デンプン誘導体等の糖類、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリ−N−ビニルピロリドン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリアクリル酸等の合成ポリマー等を挙げることができる。さらに導電性材料として、有機電子伝導性材料も好ましく、例えば、ポリアニリン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリピロール誘導体、ポリアセチレン誘導体などを挙げることができる。
【0138】
(界面活性剤)
本発明のセルロースエステルフィルムにおける機能層の形成等には、界面活性剤が好ましく用いられる。本発明における機能層の形成に使用される界面活性剤はその使用目的によって、分散剤、塗布剤、濡れ剤、帯電防止剤などに分類されるが、以下に述べる界面活性剤を適宜使用することで、それらの目的は達成できる。本発明で使用される界面活性剤は、ノニオン性、イオン性(アニオン、カチオン、ベタイン)いずれも使用できる。さらにフッ素系低分子界面活性剤も有機溶媒中での塗布剤や帯電防止剤として好ましく用いられる。使用される層としてはセルロースエステルからなるフィルム中でもよいし、その他の機能層のいずれでもよい。光学用途で利用される場合は、機能層の例としては下塗り層、中間層、配向制御層、屈折率制御層、保護層、防汚層、粘着層、バック下塗り層、バック層などが挙げられる。その使用量は目的を達成するために必要な量であれば特に限定されないが、一般には添加する層の全質量に対して、0.0001〜5質量%が好ましく、さらには0.0005〜2質量%が好ましい。その場合の界面活性剤の塗設量は、1m2当り0.02〜1000mgが好ましく、0.05〜200mgがより好ましい。
【0139】
(滑り層)
また、本発明のセルロースエステルフィルムにおいては、フィルム上に付与されるいずれかの層に滑り剤を含有させてもよく、特に最外層に含有させることが好ましい。用いられる滑り剤としては、例えば、特公昭53−292号公報に開示されているようなポリオルガノシロキサン;米国特許第4,275,146号明細書に開示されているような高級脂肪酸アミド;特公昭58−33541号公報、英国特許第927、446号明細書あるいは特開昭55−126238号および同58−90633号各公報に開示されているような高級脂肪酸エステル(炭素数10〜24の脂肪酸と炭素数10〜24のアルコールとのエステル);米国特許第3,933,516号明細書に開示されているような高級脂肪酸金属塩;特開昭58−50534号公報に開示されているような、直鎖高級脂肪酸と直鎖高級アルコールとのエステル;国際公開第90/108115.8号パンフレットに開示されているような分岐アルキル基を含む高級脂肪酸−高級アルコールエステル等を挙げることができる。
滑り性能は、静摩擦係数が0.25以下であることが好ましい。静摩擦係数は、試料を温度25℃・相対湿度60%で2時間調湿した後、HEIDON−10静摩擦係数測定機により、5mmφのステンレス鋼球を用いて測定した値であり、数値が小さい程滑り性はよい。
【0140】
(機能層のマット剤)
本発明のセルロースエステルフィルムの機能層においては、フィルムの易滑性や高湿度下での耐接着性を改良するためにマット剤を使用することが好ましい。その場合、表面の突起物の平均高さが0.005〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.01〜5μmである。また、その突起物は表面に多数ある程よいが、必要以上に多いとへイズが悪化する場合がある。好ましい突起物は突起物の平均高さを有する範囲であれば、例えば球形、不定形のいずれであってもよい。前記マット剤で突起物を形成する場合はその含有量が好ましくは0.5〜600mg/m2であり、より好ましいのは1〜400mg/m2である。この際、使用されるマット剤としてはその組成において特に限定されず、無機物でも有機物でもよく2種類以上の混合物でもよく、前述した微粒子を利用できる。
【0141】
(他の機能層)
本発明のセルロースエステルフィルムには、透明ハードコート層を設けることができる。前記透明ハードコート層としては活性線硬化性樹脂層あるいは熱硬化樹脂層が好ましく用いられる。前記活性線硬化性樹脂層とは紫外線や電子線のような活性線照射により架橋反応などを経て硬化する樹脂(活性線硬化性樹脂)を主たる成分とする層をいう。前記活性線硬化性樹脂としては紫外線硬化性樹脂や電子線硬化性樹脂などが代表的なものとして挙げられるが、紫外線や電子線以外の活性線照射によって硬化する樹脂でもよい。前記紫外線硬化性樹脂としては、例えば、紫外線硬化型アクリルウレタン系樹脂、紫外線硬化型ポリエステルアクリレート系樹脂、紫外線硬化型エポキシアクリレート系樹脂、紫外線硬化型ポリオールアクリレート系樹脂、または紫外線硬化型エポキシ樹脂等を挙げることができる。なお、特開2003−039014号公報には、塗布されたフィルムを巻き回しや幅方向に把持して乾燥し、活性線硬化物質を含む塗布液を硬化処理等することにより、高い平面性を有する技術が記載されており、この技術は本発明にも適応できる。
【0142】
本発明のセルロースエステルフィルムには、反射防止層を設けて反射防止フィルムを形成することもできる。反射防止層の構成としては、単層、多層等各種知られているが、多層のものとしては高屈折率層、低屈折率層を交互に積層した構造のものが一般的である。構成の例としては、透明基材側から高屈折率層/低屈折率層の2層の順から構成されたものや、屈折率の異なる3層を、中屈折率層(透明基材あるいはハードコート層よりも屈折率が高く、高屈折率層よりも屈折率の低い層)/高屈折率層/低屈折率層の順に積層されているもの等があり、さらに多くの反射防止層を積層するものも提案されている。中でも、耐久性、光学特性、コストや生産性などから、ハードコート層を有する基材上に、高屈折率層/中屈折率層/低屈折率層の順に塗布することが好ましい構成である。
【0143】
本発明のセルロースエステルフィルムには防眩層を設けることもできる。前記防眩層は表面に凹凸を有する構造をもたせることにより、防眩層表面または防眩層内部において光を散乱させて防眩機能発現させるため、微粒子物質を層中に含有する構成をとっている。これらの層として好ましい構成は以下に示される態様である。前記防眩層は膜厚0.5〜5.0μmであって、平均粒子サイズ0.25〜10μmの1種以上の微粒子を含む層であることが好ましい。また、前記防眩層は、平均粒子サイズが当該膜厚の1.1〜2倍の二酸化ケイ素粒子と平均粒子サイズが0.005μm〜0.1μmの二酸化ケイ素微粒子とを、例えば、ジアセチルセルロースのようなバインダー中に含有する層であって、これによって防眩機能を発揮することができる。防眩層に使用する粒子としては、無機粒子および有機粒子が挙げられる。
【0144】
本発明のセルロースエステルフィルムには、カール防止加工を施すこともできる。カール防止加工とは、これを施した面を内側にして丸まろうとする機能を付与するものである。本発明のセルロースエステルフィルムの片面に何らかの表面加工をして、両面に異なる程度・種類の表面加工を施した際に、その面を内側にしてカールしようとするのを防止するために、前記カール防止加工を施す。カール防止加工は、例えば防眩層または反射防止層を有する側とは反対側に施したり、片面に易接着層を塗設したときにその反対面に施したりすることができる。
【0145】
《本発明のセルロースエステルフィルムの利用》
本発明のセルロースエステルフィルムには、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)32頁〜45頁に詳細に記載されている機能性層を組み合わせ、各種光学フィルムを形成することが好ましい。中でも好ましいのが、偏光膜の付与(偏光板)、光学補償層の付与(光学補償シート)、反射防止層の付与(反射防止フィルム)である。
【0146】
(1)偏光膜の付与(偏光板の作製)
現在、市販の偏光膜は、延伸したポリマーを、浴槽中のヨウ素もしくは二色性色素の溶液に浸漬し、バインダー中にヨウ素、もしくは二色性色素を浸透させることで作製されるのが一般的である。偏光膜におけるヨウ素および二色性色素は、バインダー中で配向することで偏光性能を発現する。二色性色素は、親水性置換基(例えば、スルホ、アミノ、ヒドロキシル)を有することが好ましい。例えば、発明協会公開技法(公技番号2001−1745号、2001年3月15日発行、発明協会)58頁に記載の化合物が挙げられる。
【0147】
偏光膜のバインダーは、それ自体架橋可能なポリマーあるいは架橋剤により架橋されるポリマーのいずれも使用することができ、これらの組み合わせを複数使用することができる。バインダーとしては、例えば特開平8−338913号公報の段落番号[0022]に記載の水溶性ポリマー(例えば、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール)が好ましく、ゼラチン、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールがさらに好ましく、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールが最も好ましい。変性ポリビニルアルコールについては、特開平8−338913号、同9−152509号および同9−316127号の各公報に記載がある。バインダー厚みは、1μm〜50μmであることが好ましく、より好ましくは2μm〜50μmであり、さらに好ましくは5μm〜30μmである。また、偏光膜のバインダーは架橋していてもよい。架橋性のホウ素化合物(例えば、ホウ酸、硼砂)も、架橋剤として用いることができる。バインダーの架橋剤の添加量は、バインダーに対して、0.1〜20質量%が好ましい。
【0148】
偏光膜は、偏光膜を延伸するか(延伸法)、もしくはラビングした(ラビング法)後に、ヨウ素、二色性染料で染色することが好ましい。前記延伸法の場合、延伸倍率は2.5〜30.0倍が好ましく、3.0〜10.0倍がさらに好ましい。延伸は平行延伸法、特開2002−86554号公報に記載の斜め方向に張り出したテンターを用い延伸する方法を用いることができる。前記鹸化後のセルロースエステルフィルムと、延伸して調製した偏光膜を貼り合わせ偏光板を作製する。偏光膜を張り合わせる方向は、セルロースエステルフィルムの流延軸方向と偏光板の延伸軸方向が45°になるようにするのが好ましい。偏光膜とセルロースエステルフィルムとを貼り合わせる際に用いられる接着剤は特に限定されないが、例えば、PVA系樹脂(アセトアセチル基、スルホン酸基、カルボキシル基、オキシアルキレン基等の変性PVAを含む)やホウ素化合物水溶液等が挙げられ、中でもPVA系樹脂が好ましい。接着剤層の厚みは乾燥後で0.01μm〜10μmが好ましく、0.05μm〜5μmが特に好ましい。
【0149】
(2)光学補償層の付与(光学補償シートの作製)
光学異方性層は、液晶表示装置の黒表示における液晶セル中の液晶化合物を補償するためのものであり、セルロースエステルフィルムの上に配向膜を形成し、さらに光学異方性層を付与することで形成される。前記表面処理したセルロースエステルフィルム上に配向膜を設ける。この膜は、液晶性分子の配向方向を規定する機能を有する。しかし、液晶性化合物を配向後にその配向状態を固定してしまえば、配向膜はその役割を果たしているために、本発明の構成要素としては必ずしも必須のものではない。即ち、配向状態が固定された配向膜上の光学異方性層のみを偏光子上に転写して本発明の偏光板を作製することも可能である。配向膜は、有機化合物(好ましくはポリマー)のラビング処理、無機化合物の斜方蒸着、マイクログルーブを有する層の形成、あるいはラングミュア・ブロジェット法(LB膜)による有機化合物(例えば、ω−トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライド、ステアリル酸メチル)の累積のような手段で設けることができる。さらに、電場の付与、磁場の付与あるいは光照射により、配向機能が生じる配向膜も知られている。
【0150】
配向膜の塗布方法は、スピンコーティング法、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、ロッドコーティング法またはロールコーティング法が好ましく、特にロッドコーティング法が好ましい。また、乾燥後の膜厚は0.1μm〜10μmが好ましい。加熱乾燥は、20℃〜110℃で行なうことができる。充分な架橋を形成するためには60℃〜100℃が好ましく、特に80℃〜100℃が好ましい。乾燥時間は1分間〜36時間で行なうことができるが、好ましくは1分間〜30分である。pHも、使用する架橋剤に最適な値に設定することが好ましく、グルタルアルデヒドを使用した場合は、pH4.5〜5.5が好ましく、特に5が好ましい。このようにして得た配向膜の膜厚は、0.1〜10μmの範囲にあることが好ましい。
【0151】
次に、配向膜の上に光学異方性層の液晶性分子を配向させる。その後、必要に応じて、配向膜ポリマーと光学異方性層に含まれる多官能モノマーとを反応させるか、あるいは、架橋剤を用いて配向膜ポリマーを架橋させる。光学異方性層に用いる液晶性分子には、棒状液晶性分子および円盤状液晶性分子が含まれる。棒状液晶性分子および円盤状液晶性分子は、高分子液晶でも低分子液晶でもよく、さらに、低分子液晶が架橋され液晶性を示さなくなったものも含まれる。
【0152】
(棒状液晶性分子)
前記棒状液晶性分子は、(液晶)ポリマーと結合していてもよい。前記棒状液晶性分子については、季刊化学総説第22巻液晶の化学(1994)日本化学会編の第4章、第7章および第11章、および液晶デバイスハンドブック日本学術振興会第142委員会編の第3章に記載がある。前記棒状液晶性分子の複屈折率は、0.001〜0.7の範囲にあることが好ましい。前記棒状液晶性分子は、その配向状態を固定するために、重合性基を有することが好ましい。前記重合性基は、ラジカル重合性不飽基あるいはカチオン重合性基が好ましく、具体的には、例えば特開2002−62427号公報の段落番号[0064]〜[0086]に記載の重合性基、重合性液晶化合物が挙げられる。
【0153】
(円盤状液晶性分子)
前記円盤状液晶性分子としては、分子中心の母核に対して、直鎖のアルキル基、アルコキシ基、置換ベンゾイルオキシ基が母核の側鎖として放射線状に置換した構造である液晶性を示す化合物も含まれる。分子または分子の集合体が、回転対称性を有し、一定の配向を付与できる化合物であることが好ましい。円盤状液晶性分子から形成する光学異方性層は、最終的に光学異方性層に含まれる化合物が円盤状液晶性分子である必要はなく、例えば、低分子の円盤状液晶性分子が熱や光で反応する基を有しており、結果的に熱、光で反応により重合または架橋し、高分子量化し液晶性を失った化合物も含まれる。
【0154】
前記円盤状液晶性分子の好ましい例は、特開平8−50206号公報に記載されている。また、円盤状液晶性分子の重合については、特開平8−27284公報に記載がある。円盤状液晶性分子を重合により固定するためには、円盤状液晶性分子の円盤状コアに、置換基として重合性基を結合させる必要がある。円盤状コアと重合性基は、連結基を介して結合する化合物が好ましく、これにより重合反応においても配向状態を保つことができる。例えば、特開2000−155216号公報の段落番号[0151]〜[0168]に記載の化合物等が挙げられる。
【0155】
(光学異方性層の他の組成物)
前記光学異方性層は、前記の液晶性分子と共に、可塑剤、界面活性剤、重合性モノマー等を併用して、塗工膜の均一性、膜の強度、液晶分子の配向性等を向上することができる。液晶性分子と相溶性を有し、液晶性分子の傾斜角の変化を与えられるか、あるいは配向を阻害しないことが好ましい。
【0156】
(光学異方性層の形成)
前記光学異方性層は、液晶性分子および必要に応じて後述の重合性開始剤や任意の成分を含む塗布液を、配向膜の上に塗布することで形成できる。光学異方性層の厚さは、0.1μm〜20μmであることが好ましく、0.5μm〜15μmであることがさらに好ましく、1μm〜10μmであることが最も好ましい。配向させた液晶性分子を、配向状態を維持して固定することができる。固定化は、重合反応により実施することが好ましい。重合反応には、熱重合開始剤を用いる熱重合反応と光重合開始剤を用いる光重合反応とが含まれるが、光重合反応が好ましい。
【0157】
この光学補償フィルムと上述の偏光膜とを組み合わせることも好ましい。具体的には、前記のような光学異方性層用塗布液を偏光膜の表面に塗布することにより光学異方性層を形成する。その結果、偏光膜と光学異方性層との間にポリマーフィルムを使用することなく、偏光膜の寸度変化にともなう応力(歪み×断面積×弾性率)が小さい薄い偏光板が作製される。本発明に従う偏光板を大型の液晶表示装置に取り付けると、光漏れなどの問題を生じることなく、表示品位の高い画像を表示することができる。偏光膜と光学補償層の傾斜角度は、LCDを構成する液晶セルの両側に貼り合わされる2枚の偏光板の透過軸と液晶セルの縦または横方向のなす角度にあわせるように延伸することが好ましい。通常の傾斜角度は45°である。しかし、最近は、透過型、反射型および半透過型LCDにおいて必ずしも45°でない装置が開発されており、延伸方向はLCDの設計にあわせて任意に調整できることが好ましい。
【0158】
《液晶表示装置》
(一般的な液晶表示装置の構成)
本発明のセルロースエステルフィルムは、様々な用途で用いることができる。本発明のセルロースエステルフィルムは、液晶表示装置の光学補償シートとして用いると有効である。なお、フィルムそのものを光学補償シートとして用いる場合は、偏光素子(後述)の透過軸と、セルロースエステルフィルムからなる光学補償シートの遅相軸とを実質的に平行または垂直になるように配置することが好ましい。このような偏光素子と光学補償シートとの配置については、特開平10−48420号公報に記載がある。液晶表示装置は、二枚の電極基板の間に液晶を担持してなる液晶セル、その両側に配置された二枚の偏光素子、および該液晶セルと該偏光素子との間に少なくとも一枚の光学補償シートを配置した構成を有している。
【0159】
液晶セルの液晶層は、通常は、二枚の基板の間にスペーサーを挟み込んで形成した空間に液晶を封入して形成する。透明電極層は、導電性物質を含む透明な膜として基板上に形成する。液晶セルには、さらにガスバリアー層、ハードコート層あるいは(透明電極層の接着に用いる)アンダーコート層を設けてもよい。これらの層は、通常、基板上に設けられる。液晶セルの基板は、一般に80μm〜500μmの厚さを有する。光学補償シートは、液晶画面の着色を取り除くための複屈折率フィルムである。本発明のセルロースエステルフィルムそのものを、光学補償シートとして用いることができる。さらに反射防止層、防眩性層、λ/4層や2軸延伸セルロースエステルフィルムとして機能を付与してもよい。また、液晶表示装置の視野角を改良するため、本発明のセルロースエステルフィルムと、それとは(正/負の関係が)逆の複屈折を示すフィルムを重ねて光学補償シートとして用いてもよい。光学補償シートの厚さの範囲は、前述した本発明のセルロースエステルフィルムの好ましい厚さと同じである。
【0160】
偏光素子の偏光膜には、ヨウ素系偏光膜、二色性染料を用いる染料系偏光膜やポリエン系偏光膜がある。いずれの偏光膜も、一般にポリビニルアルコール系フィルムを用いて製造する。偏光板の保護膜は、25μm〜350μmの厚さを有することが好ましく、40μm〜200μmの厚さを有することがさらに好ましい。液晶表示装置には、表面処理膜を設けてもよい。表面処理膜の機能には、ハードコート、防曇処理、防眩処理および反射防止処理が含まれる。前述したように、支持体の上に液晶(特にディスコティック液晶性分子)を含む光学的異方性層を設けた光学補償シートも提案されている(特開平3−9325号、同6−148429号、同8−50206号、同9−26572号の各公報記載)。本発明のセルロースエステルフィルムは、そのような光学補償シートの支持体としても用いることができる。
【0161】
(ディスコティック液晶性分子を含む光学的異方性層)
光学的異方性層は、傾斜配向したディスコティック液晶性分子を含む層であることが好ましい。ディスコティック液晶性分子の円盤面と支持体面とのなす角は、光学的異方性層の深さ方向において変化している(ハイブリッド配向している)ことが好ましい。ディスコティック液晶性分子の光軸は、円盤面の法線方向に存在する。ディスコティック液晶性分子は、円盤面の法線方向の屈折率よりも円盤面方向の屈折率が大きな複屈折性を有する。ディスコティック液晶性分子は、支持体表面に対して実質的に水平に配向させてもよい。
【0162】
(VA型液晶表示装置)
本発明のセルロースエステルフィルムは、VAモードの液晶セルを有するVA型液晶表示装置の光学補償シートの支持体としても有効に用いられる。VA型液晶表示装置に用いる光学補償シートには、レターデーションの絶対値が最小となる方向が光学補償シートの面内にも法線方向にも存在しないことが好ましい。VA型液晶表示装置に用いる光学補償シートの光学的性質は、光学的異方性層の光学的性質、支持体の光学的性質および光学的異方性層と支持体との配置により決定される。VA型液晶表示装置に光学補償シートを二枚使用する場合は、光学補償シートの面内レターデーションを、−5nm〜5nmの範囲内にすることが好ましい。従って、二枚の光学補償シートの各面内レターデーションは、絶対値で0〜5とすることが好ましい。
【0163】
VA型液晶表示装置に光学補償シートを一枚使用する場合は、光学補償シートの面内レターデーションを、−10nm〜10nmの範囲内にすることが好ましい。このような光学特性範囲になるように、本発明のセルロースエステルフィルムは各種VAセルに対応した光学特性を付与すればよい。その範囲は、セルギャップに対応して一枚型セルロースエステルフィルムでは、Reが通常40〜120nmであり、好ましくはReが50〜100nmであり、特には50〜90nmである。また、Rthが通常160〜300nmであり、好ましくはRthが170〜260nmであり、特には180〜240nmである。また、VA型液晶表示装置に光学補償シートをニ枚使用する場合は、本発明のセルロースエステルフィルムは各種VAセルに対応した光学特性を付与すればよい。その範囲は、セルギャップに対応して二枚型セルロースエステルフィルムでは、Reが通常20〜80nmであり、好ましくはReが30〜70nmであり、特には30〜60nmである。また、Rthが通常80〜200nmであり、好ましくはRthが90〜180nmであり、特には95〜165nmである。
【0164】
(OCB型液晶表示装置およびHAN型液晶表示装置)
本発明のセルロースエステルフィルムは、OCBモードの液晶セルを有するOCB型液晶表示装置あるいはHANモードの液晶セルを有するHAN型液晶表示装置の光学補償シートの支持体としても有利に用いられる。OCB型液晶表示装置あるいはHAN型液晶表示装置に用いる光学補償シートには、レターデーションの絶対値が最小となる方向が光学補償シートの面内にも法線方向にも存在しないことが好ましい。OCB型液晶表示装置あるいはHAN型液晶表示装置に用いる光学補償シートの光学的性質も、光学的異方性層の光学的性質、支持体の光学的性質および光学的異方性層と支持体との配置により決定される。本発明のセルロースエステルフィルムは各種OCBモードの液晶セルに対応した光学特性を付与すればよい。その範囲は、Reが通常20nm〜100nmであり、好ましくはReが30nm〜80nmであり、特には30nm〜60nmである。また、Rthが通常150nm〜300nmであり、好ましくはRthが160nm〜260nmであり、特には170nm〜250nmである。
【0165】
(その他の液晶表示装置)
本発明のセルロースエステルフィルムは、ASM(Axially Symmetric Alligned Microcell )モードの液晶セルを有するASM型液晶表示装置の光学補償シートの支持体としても有利に用いられる。ASMモードの液晶セルは、セルの厚さが位置調整可能な樹脂スペーサーにより維持されているとの特徴がある。その他の性質は、TNモードの液晶セルと同様である。ASMモードの液晶セルとASM型液晶表示装置については、クメ(Kume)外の論文(Kume et al., SID 98 Digest 1089 (1998))に記載がある。本発明のセルロースエステルフィルムを、TNモードの液晶セルを有するTN型液晶表示装置の光学補償シートの支持体として用いてもよい。TNモードの液晶セルとTN型液晶表示装置については、古くからよく知られている。TN型液晶表示装置に用いる光学補償シートについては、特開平3−9325号、同6−148429号、同8−50206号、同9−26572号の各公報に記載がある。これらの各種液晶表示装置に対する光学補償シート用として、本発明のセルロースエステルはその光学特性を所望の範囲で付与すればよい。
【0166】
《測定方法および評価方法》
以下において、セルロースエステルとセルロースエステルフィルムの測定方法と評価方法ついて記載する。本出願に記載される測定値は、以下に記載される方法により測定されたものである。
【0167】
(セルロースエステルの置換度)
セルロースの水酸基に対するアシル基の置換度は、Carbohydr.Res.273(1995)83−91(手塚他)に記載の方法で13C−NMRにより求めた。
【0168】
(セルロースエステルの重合度)
完全に乾燥し含水率を0.02質量%以下にしたセルロースエステル約0.2gを精秤して、メチレンクロリド:エタノール=9:1(質量比)の混合溶剤100mlに溶解した。これをオストワルド粘度計にて25℃で落下秒数を測定し、重合度を以下の式により求めた。
ηrel =T/T0
[η]=ln(ηrel)/C
DP=[η]/Km
[式中、Tは測定試料の落下秒数、T0は溶剤単独の落下秒数、lnは自然対数、Cは濃度(g/L)、Kmは6×10-4である。]
【0169】
(残留硫酸量)
セルロースエステルの硫酸根の含有量は、ASTM D−817−96、酸化分解・電量滴定法などにより測定し、その量は、硫黄原子の含有量で定義した。
【0170】
(残留金属量)
セルロースエステルを灰化後、ICP−MS分析法で定量した。
【0171】
(ReおよびRth)
セルロースエステルフィルムを25℃・相対湿度60%にて24時間調湿後、自動複屈折計(KOBRA−21ADH:王子計測機器(株)製)を用いて、25℃・相対湿度60%において、フィルム表面に対し垂直方向および遅相軸を回転軸としてフィルム面法線から+50°から−50°まで10°刻みで傾斜させた方向から波長590nmにおける位相差値を測定することにより、正面レターデーション値(Re)と膜み方向のレターデーション値(Rth)とを算出させた。特に断らない場合ReおよびRthは、この値をさす。
【0172】
この際、平均屈折率の仮定値および膜厚を入力することが必要である。KOBRA 21ADHはRth(λ)に加えてnx、ny、nzも算出する(Nxとはフィルム面内の屈折率の値が最大となる方向の屈折率を意味し、NyとはNxの方向と垂直に交わる方向のフィルム面内の屈折率を意味する)。平均屈折率は、セルロースアセテートでは1.48を使用するが、セルロースアセテート以外の代表的な光学用途のポリマーフィルムの値としては、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)、等の値を用いることができる。その他、既存のポリマー材料の平均屈折率値はポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)やポリマーフィルムのカタログ値を使用することができる。また、平均屈折率が不明な材料の場合は、アッベ屈折計を用いて測定することができる。本明細書におけるλは、特に記載がなければ590±5nmである。
【0173】
(湿度に伴うReおよびRth変動)
セルロースエステルフィルムを、25℃・相対湿度10%で上記と同様に測定しRe(相対湿度10%)、Rth(相対湿度10%)を求めた。さらにこれらの試料を25℃・相対湿度80%で同様に測定し、Re(相対湿度80%)、Rth(相対湿度80%)を求めた。各試料について、下記式に従い湿度Re変動、湿度Rth変動を求めた。
・湿度Re変動(%/相対湿度%)=[100×{Re(相対湿度80%)とRe(相対湿度10%)の差の絶対値}/Re(相対湿度60%)]/70
・湿度Rth変動(%/相対湿度%)=[100×{Rth(相対湿度80%)とRth(相対湿度10%)の差の絶対値}/Rth(相対湿度60%)]/70
【0174】
(Reムラ,Rthムラ)
セルロースエステルフィルムの長さ方向10m、250m、450mのそれぞれの領域において、幅方向に端部から20cmごとに7個所ずつサンプリングして、合計21サンプルを用意した。これらのサンプルを25℃、相対湿度60%に3時間調湿し、同一環境下でRe、Rthを測定し、得られた数値の最大値と最小値の差を、それぞれReムラ,Rthムラとして評価した。数値が小さいほど、光学特性のバラツキが小さくて優れていることを示す。
【0175】
(軸ズレ)
セルロースエステルフィルムを70mm×100mmに切り出して、自動複屈折計(KOBRA−21ADH、王子計測機器(株)製)を用いて軸ズレ角度を測定した。セルロースエステルフィルムの幅方向に全幅にわたって等間隔で20点測定し、絶対値の平均値を求めた。また、遅相軸角度(軸ズレ)のレンジとは、幅方向全域にわたって等間隔に20点測定し、軸ズレの絶対値の大きいほうから4点の平均と小さいほうから4点の平均の差をとったものである。
【0176】
(ヘイズ)
セルロースエステルフィルムを40mm×80mmに切り出して、25℃・相対湿度60%でヘイズメーター(HGM−2DP、スガ試験機社製)を用いてJIS K−6714に従って測定した。
【0177】
(透過率)
セルロースエステルフィルムを20mm×70mmに切り出して、25℃・相対湿度60%で透明度測定器(AKA光電管比色計、KOTAKI製作所)を用いて可視光(615nm)の透過率を測定した。
【0178】
(ダイスジ)
セルロースエステルフィルムの流延方向(長さ方向)にスジ状に発生するダイスジの評価を、反射光源のもとで目視で観察することにより行った。評価基準は、以下のとおりとした。
A: ダイスジは見られなかった。
B: ダイスジが微かに見られた。
C: ダイスジがはっきりと認められた。
D: ダイスジが全面に著しく発生した。
【0179】
(傷つき)
セルロースエステルフィルムを目視で観察し、以下の評価基準に従って傷つきを評価した。
A: 傷つきは全く認められなかった。
B: 傷つきがわずかに認められた。
C: 傷つきがかなり認められた。
D: 傷つきが著しく認められた。
【0180】
(着色増加分)
セルロースエステルフィルムを25℃、相対湿度60%で4時間調湿した。その後、直径5cmに裁断して直径5cmのアルミニウムトレイにすばやく入れ、マッフル炉にて空気中にて240℃で1時間加熱した。冷却後のサンプル0.2gをメチレンクロライドで全容が10mlとなるように溶解して2質量%の溶液を作製し、その400nmにおける吸光度を測定した。加熱前のサンプルについても2質量%のメチレンクロライド溶液を作製して400nmにおける吸光度を測定し、加熱前後の吸光度の増加分を着色増加分として評価した。数値が小さいほど、熱安定性が良好なフィルムであることを示す。
【0181】
(アルカリ加水分解性)
セルロースエステルフィルムを100mm×100mmに切り出して、自動アルカリ鹸化処理装置(新東科学(株)製)にて、2mol/L水酸化ナトリウム水溶液にて60℃で3分間鹸化し、4分間水洗した後、0.01mol/L希硝酸にて30℃で4分間中和し、4分間水洗した。その後、100℃で3分間乾燥し、さらに自然乾燥を1時間行って、下記の目視基準と鹸化処理前後のヘイズ値からアルカリ加水分解性を評価した(25℃・相対湿度60%)。
A: 白化は全く認められなかった。
B: 白化がわずかに認められた。
C: 白化がかなり認められた。
D: 白化が著しく認められた。
【0182】
(カール値)
セルロースエステルフィルムを35mm×3mmに切り出して、カール調湿槽(HEIDON(No.YG53−168)、新東科学(株)製)にて相対湿度25%、55%、85%で24時間調湿し、曲率半径をカール板で測定した。またウェットでのカールは、水温25℃の水中に30分静置した後に、そのカール値を測定した。
【0183】
(キシミ値)
セルロースエステルフィルムを100mm×200mmおよび75mm×100mmに切り出して、25℃・相対湿度60%の条件下で2時間調湿し、テンシロン引張試験機(RTA−100,オリエンテック(株)製)にて、大きいフィルム試料を台の上に固定し、200gのおもりをつけた小さいフィルム試料を載せた。次いで、おもりを水平方向に引っ張り、動きだした時の力、動いているときの力を測定し、静摩擦係数、動摩擦係数をそれぞれ算出して、靜的キシミ値および動的キシミ値とした。
F=μ×W (F:キシミ値、μ:摩擦係数、W:おもりの重さ(kgf))
【0184】
(含水率)
セルロースエステルフィルムを7mm×35mmに切り出して、水分測定器と試料乾燥装置(CA−03、VA−05、共に三菱化学(株))を用いてカールフィッシャー法で測定した。水分量(g)を試料質量(g)で除して算出した。
【0185】
(残留溶剤量)
セルロースエステルフィルムを7mm×35mmに切り出して、ガスクロマトグラフィー(GC−18A、島津製作所(株)製)を用いてベース残留溶剤量を測定した。
【0186】
(熱収縮率)
セルロースエステルフィルムを30mm×120mmに切り出して、90℃・相対湿度5%で24時間、120時間経時させ、自動ピンゲージ(新東科学(株)製)にて、両端に6mmφの穴を100mm間隔に開けて、間隔の原寸(L1)を最小目盛り1/1000mmまで測定した。さらに90℃・相対湿度5%にて24時間、120時間熱処理してパンチ間隔の寸法(L2)を測定した。熱収縮率を{(L1−L2)/L1}×100により求めた。
【0187】
(透湿係数)
セルロースエステルフィルム(70mmφ)を25℃・相対湿度90%および40℃・相対湿度90%でそれぞれ24時間調湿し、透湿試験装置(KK−709007、東洋精機(株)製)にて、JIS Z−0208に従って、単位面積あたりの水分量(g/m2)を算出した。そして、透湿度を調湿後質量−調湿前質量により求めた。さらに強制的評価として、60℃・相対湿度95%にて24時間調室後に測定し、透湿係数とした。
【0188】
(異物検査)
セルロースエステルフィルムの全幅×1mの範囲に反射光をあて、膜中異物を目視にて検出した後、偏光顕微鏡で異物(リント)を確認して評価した。
【0189】
(弾性率)
東洋ボールドウィン製の万能引っ張り試験機STM T50BPを用いて、23℃、相対湿度70%雰囲気中、引っ張り速度10%/分で0.5%伸びにおける応力を測定し、弾性率を求めた。
【0190】
(輝点異物の測定)
直交状態(クロスニコル)に二枚の偏光板を配置して透過光を遮断し、二枚の偏光板の間にセルロースエステルフィルムを置いた。偏光板はガラス製保護板のものを使用した。片側から光を照射し、反対側から光学顕微鏡(50倍)で1cm2当たりの直径に応じた
輝点数をカウントした。
【0191】
(Tgの測定)
DSCの測定パンに試料を20mg入れた。これを窒素気流中で、10℃/分で30℃〜250℃まで昇温した後、30℃まで−10℃/分で冷却した。この後、再度30℃〜250℃まで昇温してベースラインが低温側から偏奇し始める温度をTgとした。
【0192】
(抗張力、伸長率)
試料15mm×250mmを、23℃、相対湿度65%、2時間調湿し、テンシロン引張試験機(RTA−100、オリエンテック(株))にてISO1184−1983に従って、初期試料長100mm、引張速度200±5mm/分で弾性率を引張初期の応力と伸びより算出し、抗張力、伸張力、破断伸度を評価した。
【実施例】
【0193】
以下に実施例と比較例とを挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0194】
[合成例1] セルロースアセテートプロピオネートの合成
広葉樹パルプ由来のセルロース150質量部、酢酸75質量部を、冷却装置ならびに還流装置を付けた反応容器に取り、60℃にて加熱しながら4時間攪拌した。反応容器を2℃に冷却した。別途、アシル化剤としてプロピオン酸無水物1545質量部、硫酸10.5質量部の混合物を作製し、−20℃に冷却した後に、上記の前処理を行ったセルロースを収容する反応容器に一度に加えた。30分経過後、外設温度を徐々に上昇させ、アシル化剤の添加から2時間経過後に内温が25℃になるように調節し、内温を25℃に保ってさらに3時間攪拌した。反応容器を5℃の氷水浴にて冷却し、5℃に冷却した25質量%含水酢酸120gを1時間かけて添加した。内温を40℃に上昇させ、2.5時間攪拌した。次いで反応容器に、硫酸の2倍モルに相当する酢酸マグネシウム4水和物を2倍量の50質量%含水酢酸に溶解した溶液を添加し、30分間攪拌した。25質量%含水酢酸、33質量%含水酢酸、50質量%含水酢酸、水をこの順に加え、セルロースアセテートプロピオネートを沈殿させた。得られたセルロースアセテートプロピオネートの沈殿は温水にて洗浄を行った。20℃の0.005質量%水酸化カルシウム水溶液中で0.5時間攪拌した後に脱液を行い、70℃で真空乾燥させた。
1H−NMRおよび、GPC測定によれば、得られたセルロースアセテートプロピオネートは、アセチル置換度0.30、プロピオニル置換度2.63、数平均重合度170であった。
【0195】
[合成例2] セルロースアセテートブチレートの合成
セルロース(広葉樹パルプ)100質量部、酢酸135質量部を、冷却装置ならびに還流装置を付けた反応容器に取り、60℃にて加熱しながら4時間攪拌した。反応容器を2℃に冷却した。別途、アシル化剤として酪酸無水物1080質量部、硫酸10.0質量部の混合物を作製し、−20℃に冷却した後に、上記の前処理を行ったセルロースを収容する反応容器に一度に加えた。30分経過後、外設温度を20℃まで上昇させ、5時間反応させた。反応容器を5℃の氷水浴にて冷却し、約5℃に冷却した12.5質量%含水酢酸2400gを1時間かけて添加した。内温を40℃に上昇させ、2時間攪拌した。次いで反応容器に、硫酸の2倍モルに相当する酢酸マグネシウム4水和物を2倍量の50質量%含水酢酸に溶解した溶液を添加し、30分間攪拌した。25質量%含水酢酸、33質量%含水酢酸、50質量%含水酢酸、水をこの順に加え、セルロースアセテートブチレートを沈殿させた。得られたセルロースアセテートブチレートの沈殿は温水にて洗浄を行った。洗浄後、0.005質量%水酸化カルシウム水溶液中で0.5時間攪拌した後に脱液を行い、70℃で減圧乾燥させた。得られたセルロースアセテートブチレートはアセチル置換度0.84、ブチリル置換度2.12、数平均重合度205であった。
【0196】
[合成例3] 他のセルロースエステルの合成
他のセルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートについても、目的とする置換度ならびに重合度により、合成例1、2の方法から、アシル化剤の組成、アシル化の反応温度および時間、部分加水分解の温度および時間を変化させることにより、同様に合成した。
【0197】
[合成例4] セルロース混合エステルの合成
セルロースにアシル化剤(酢酸、無水酢酸、プロピオン酸、プロピオン酸無水物、酪酸、酪酸無水物から、目的とするアシル置換度に応じて単独または複数を組み合わせて選択した)、ならびに触媒としての硫酸を混合し、反応温度を40℃以下に保ちながらアシル化を実施した。原料となるセルロースが消失してアシル化が完了した後、さらに40℃以下で加熱を続けて、所望の重合度に調整した。酢酸水溶液を添加して残存する酸無水物を加水分解した後、60℃以下で加熱を行うことで部分加水分解を行い、所望の全置換度に調整した。残存する硫酸を過剰量の酢酸マグネシウムにより中和した。酢酸水溶液から再沈殿を行い、さらに、水での洗浄を繰り返すことにより、表2に記載のアシル基を有する種類、置換度の異なるセルロースエステルを作製した。
【0198】
[実施例1]
(1)セルロースエステル混合物ペレットの調製
セルロースエステルとして、セルロースエステルA(アセチル置換度0.45、プロピオニル置換度2.40、全置換度2.85、粘度平均重合度170、含水率0.1質量%、ジクロロメタン溶液中6質量%の粘度140mPa・s、平均粒子サイズ1.2mmで標準偏差0.3mm、嵩比重0.21、真比重1.22である粉体)を用いた。なおセルロースエステルAは、綿花リンターから採取したセルロースを原料として合成したものである。さらに、セルロースエステルAは、残存酢酸量が0.02質量%、残留プロピオン酸量が0.01質量%であり、Ca含有量が51ppm、Mg含有量が15ppm、Fe含有量が0.45ppmであり、さらに硫酸基としてのイオウ量を0.16ppm含むものであった。
【0199】
また6位の水酸基に対するアセチル基の置換度は0.15、6位の水酸基に対するプロピオニル基の置換度は0.79であり全アセチル中の33.3%であった。また、質量平均分子量/数平均分子量比は2.8であった。セルロースエステルAを、メチレンクロライド/メタノール=90/10(質量比)を用いてガラス板上に溶液製膜して、80μmの厚さのフィルムを得てその基本特性を調べた。すなわち、セルロースエステルAのみからなるフィルムのイエローインデックスは0.82であり、ヘイズは0.1、透過率は93.8%であり、Tg(ガラス転移温度;DSCにより測定)は137℃であった。
【0200】
このセルロースエステルAを105℃で5時間乾燥し、含水率を0.07質量%にした。この乾燥したセルロースエステルAに、下記の構造を有する紫外線吸収剤をセルロースエステルAに対して1.0質量%添加した。また、平均一次粒径が1.2μmのシリカ粒子(0.9〜1.5μmの粒子の質量存在比率が95%以上であって、1.5μm以上の粒子の質量存在比率が1.0%以下である)を、セルロースエステルAに対して0.05質量%添加した。さらに安定剤を表1に従って添加した。
【0201】
【化1】

【0202】
(2)ろ過・ペレット化
これらの添加物を添加した混合物をヘンシェルミキサー((株)三井三池製作所製)で撹拌・混合し、均一なセルロースエステル混合物を得た。このセルロースエステル混合物を用いて、下記の押し出し機(工程はすべて、窒素気流で満たされている)によりペレットを作製した。すなわち、2軸混練押し出し機のホッパーにセルロースエステル混合物を投入し、さらに180〜220℃でスクリュー回転数300rpm、滞留時間40秒で混練して融解し、ろ過部を通してペレットを作製した。ろ過は、ダイ直前に設置された口径5μmの焼結金属フィルターを用いて加圧ろ過することにより行った。
【0203】
さらに、該ろ過済みのメルトを押し出し部の直径が2.5mmであるノズルから押し出して、3秒以内に40℃〜80℃の温水浴中に直径3mmのストランド状に200kg/時間でダイから押し出し、30秒浸漬した後(ストランド固化)、10℃〜30℃の水中を30秒間通過させて温度を下げ、直径3mm、長さ2〜6mm(大部分は3mm)に裁断してペレットを得た。得られたセルロースエステルペレットを、窒素雰囲気下で105℃で3時間乾燥し、しかる後に窒素雰囲気下でアルミニウムを有するラミネートフィルムからなる防湿袋に袋詰めして、更に窒素雰囲気下の倉庫で湿度や酸素を遮断して保管した。得られたペレットは、透明かつ均質な組成であった。
【0204】
(3)溶融製膜
つぎに上記で作製したセルロースエステルペレットを、107℃になるように調整したホッパーに投入し、上流側溶融温度195℃、中間溶融温度210℃、下流側溶融温度225℃、圧縮比14、T−ダイ温度225℃、T−ダイおよびキャスティングドラム間距離8cm、固化速度30℃/秒、キャスティングドラム温度として第一ロール(上流)100℃、第二ロール(上流)99℃、第三ロール(上流)98℃、冷却速度−15℃/秒で処理した。そして10分間かけてメルトを溶融押出した。この際、静電印加法(10kVのワイヤーをメルトのキャスティングドラムへの着地点から10cmのところに設置)を用いた。固化したメルトを剥ぎ取り、ニップロールを介して、巻き取り張力6kg/cm2で巻き取った。なお、巻き取り直前に両端(全幅の各3%)をトリミングした後、両端に幅10mm、高さ50μmの厚みだし加工(ナーリング)をつけた後、幅1.5mのフィルムを30m/分で500m巻き取った。以上の溶融製膜は酸素濃度5容量%以下の条件で行った。各フィルムの膜厚は、表1に記載されるとおりである。また、残留溶剤量はゼロであった。
【0205】
(4)評価
各セルロースエステルフィルムのRe、Rth、Reムラ、Rthムラ、ダイスジ、透過率、着色増加分を測定・評価した結果を表1にまとめて記載した。
フェノール系安定剤、亜リン酸エステル系安定剤、チオエーテル系安定剤をいずれも含まないコントロール試料1−1は、Reムラ、Rthムラ、ダイスジおよび透過率が著しく悪いものであった。
また、分子量500以上のフェノール系安定剤か、分子量500以上の亜リン酸エステル系安定剤およびチオエーテル系安定剤からなる群より選択される安定剤のいずれか一方のみを含有する比較試料1−2〜試料1−7は、Reムラ、Rthムラ、ダイスジおよび透過率が不十分であった。
【0206】
さらに、フェノール系安定剤か、亜リン酸エステル系安定剤およびチオエーテル系安定剤からなる群より選択される安定剤のいずれか一方の分子量が500未満である比較試料1−18〜1−31は、Reムラ、Rthムラ、ダイスジおよび透過率が若干改良されてはいるものの、その改良レベルは不十分であった。
さらに、分子量500以上のフェノール系安定剤と、分子量500以上の亜リン酸エステル系安定剤およびチオエーテル系安定剤からなる群より選択される安定剤の両方を含有してはいるものの、溶融製膜時の温度が本発明の範囲外である比較試料1−16、1−17は、Reムラ、Rthムラ、ダイスジおよび透過率が不十分であった。
【0207】
これに対して本発明の試料1−8〜1−15は、Reムラ、Rthムラ、ダイスジおよび透過率の全てが満足しうるレベルであり、本発明により優れたセルロースエステルフィルムを得ることができた。さらに本発明の試料1−8〜1−15は、ヘイズが全て0.3%以下であり優れたものであった。また、Reの湿度依存性{25℃におけるRe(相対湿度80%)とRe(相対湿度10%)との差}はすべて5nm以下であり、Rthの湿度依存性{25℃におけるRth(相対湿度80%)とRth(相対湿度10%)との差}はすべて20nm以下であり優れたものであった。また、波長分散特性は|Re(700)−Re(400)|が8nm以内であり、|Rth(700)−Rth(400)|が30nm以内であった。
【0208】
特に、特許文献2(特開2000−352620号公報)の実施例に挙げられている溶融温度である245℃で溶融製膜した比較試料1−17は、Re及びRthが本発明の熔融温度で製膜した本発明の試料1−8よりも著しく大きく、かつダイスジが著しく悪く、透過率の大幅な悪化と着色増加分の悪化を伴い実用に適さないフィルムであった。なお、本発明の代表的な試料1−8で使用しているフェノール系安定剤PH−2および亜リン酸エステル系安定剤PF−5は、窒素中で220℃において30分間加熱した場合の質量減少は共に20質量%以下であった。これに対し比較試料1−30で使用した分子量500未満のフェノール系安定剤(比較AF−1)および亜リン酸エステル系安定剤(比較PA−1)は、窒素中で220℃において30分間加熱した場合の質量減少は20質量%超30質量%以下となる素材であった。
【0209】
以上から、本発明にしたがって分子量500以上のフェノール系安定剤の少なくとも一種と、分子量500以上の亜リン酸エステル系安定剤および分子量500以上のチオエーテル系安定剤からなる群より選択される少なくとも一種の安定剤とを適切に含有させ、かつ適切な温度で溶融製膜を実施することにより優れた光学用フィルムを作製できることが確認された。なお、本発明の試料1−8〜試料1−15は、残存酢酸量が0.01質量%未満であり、Ca含有量が0.05質量%未満、Mg含有量が0.01質量%未満であった。また、フィルムの縦横平均熱収縮(80℃/相対湿度90%/48時間)は−0.06%であり、熱収縮が生じ難いフィルムであった。さらに、本発明の試料1−8〜試料1−15は、着色増加分も0.02%以下であり、コントロール試料1−1が0.15であるのに対して非常に優れていることを確認した。
【0210】
ここで本発明のフィルム試料の代表として試料1−8は、傾斜幅は19.4nm、限界波長は389.2nm、吸収端は376.1nm、380nmの吸収は1.1%であり、軸ズレ(分子配向軸)は0.12°、弾性率は長手方向が2.95GPa、幅方向が2.94GPa、抗張力は長手方向が119MPa、幅方向が108MPa、伸長率は長手方向が62%,幅方向が67%であり、アルカリ加水分解性はAであり、カール値は相対湿度25%で−0.3,ウェットでは1.0であった。また、含水率は1.7質量%であり、熱収縮率は長手方向が−0.05%であり幅方向が−0.07%であった。異物はリントが5個/m未満であった。また、輝点は、0.02mm以下が10個/3m未満、0.02〜0.05mmが4個/3m未満、0.05mm以上はなく、キシミ値も0.57であり、算術平均粗さは150nmであり、傷つきもAランクであり、ハンドリング性も問題なかった。また、塗布後の接着も見られず、透湿係数(550g/m2・日)も良好であった。その他の本発明の試料も試料1−8とほぼ同等の特性値を示すものであった。
【0211】
【表1】

【0212】
[実施例2]
実施例1の本発明の試料1−8におけるセルロースエステルAをセルロースエステルB(アセチル置換度0.8、プロピオニル置換度1.95、全置換度2.75、粘度平均重合度150、含水率0.15質量%、ジクロロメタン溶液中6質量%の粘度59mPa・s、平均粒子サイズ1.5mmで標準偏差0.5mmである粉体)に変更した以外は、実施例1の試料1−8と全く同様にして本発明の試料2−1を作製した。さらに、セルロースエステルAをセルロースエステルC(アセチル置換度1.80、プロピオニル置換度1.05、全置換度2.85、粘度平均重合度180、含水率0.1質量%、ジクロロメタン溶液中6質量%の粘度91mPa・s、平均粒子サイズ1.2mmであって標準偏差0.4mmである粉体)に変更した以外は、実施例1の試料1−8と全く同様にして本発明の試料2−2を作製した。
これらの試料について実施例1と同じ評価を行った結果を表1に示す。
【0213】
本発明の試料2−1は、重合度は少し小さめであるが、Re、Rthも小さく、ReムラおよびRthムラも小さく、ダイスジ、透過率および着色増加分も小さくて良好であり、全てで優れたものであった。また、本発明の試料2−2は、プロピオニル基が少ないセルロースエステルであるが、ダイスジも良好であり、光学特性(Reムラ、Rthムラ)、ダイスジ、透過率、着色増加分の全てで優れたものであった。以上から本発明においてはセルロースエステルの重合度と置換基の実用許容幅が広いことが確認された。
【0214】
[実施例3]
実施例1の本発明の試料1−8を、下記の条件でアルカリ鹸化処理した。65℃に加温した3mol/LのNaOH水溶液中にフィルムを2分間浸漬した後、25℃の水で30秒間洗浄し、しかる後に0.05mol/Lの硫酸水溶液(25℃)で1分間処理し、再度25℃の水で水洗した。得られたアルカリ鹸化済みフィルムの接触角(対純水)を測定したところ、30°であり濡れ性は良好であった。なお、アルカリ鹸化処理前の接触角は67°であり、本発明の試料はアルカリ鹸化処理の優れた表面処理適性を有することが判った。これらのフィルム上にPVA/グルタルアルデヒド(5質量%/0.2質量%)水溶液を10ml/m2塗布し、さらに市販の偏光膜(HLC2−5618、サンリッツ社製)を貼り付けて、70℃/1時間処理し、さらに30℃で6日放置した。
【0215】
得られたセルロースエステルフィルム付の膜をセルロースエステルフィルム側にカッターナイフで45°の角度で深さ200μmの碁盤目状の切り傷を11本ずつ直角に付与した。この傷跡部にニチバン製セロテープNo.405(セロテープ:登録商標)および日東テープ(PETテープ)を全面に強く付着し30分放置して、その端部を直角に勢いよく剥離した。その結果、未鹸化処理セルロースエステルフィルムは、すべての碁盤目状セルロースエステルフィルムが剥離したが、鹸化処理したセルロースエステルフィルムを付与した偏光膜では、セルロースエステルフィルムの剥離はいずれのテープに対しても全く見られなかった。以上から、本発明のセルロースエステルフィルムは優れた偏光膜特性を有することがわかる。
【0216】
[実施例4]
次に、セルロースエステルフィルムを偏光板等に応用した実施例を記載する。
(4−1)偏光板の作製
(1)セルロースエステルフィルムの鹸化
N,N’,N”−トリ−m−トルイル−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリアミンをセルロースエステルAに対して4質量%添加して溶液流延し、残留溶媒の存在する乾燥中に幅方向に1.32倍延伸してセルローストリアセテートフィルム(Reは60nm、Rthは200nm、膜厚80μm)を作製した。このセルローストリアセテートフィルムと実施例1のセルロースエステルフィルム試料1−8に対して、以下の方法で鹸化を実施した。すなわち、KOHを1.5mol/Lとなるように溶解した後に、60℃に調温したものを鹸化液として用いた。そして、60℃のセルロースエステルフィルム上に10g/m2塗布し、1分間鹸化した。この後、50℃の温水をスプレーにより、10リットル/m2・分で1分間吹きかけ洗浄した。その後、110℃の乾燥風を風速15m/秒で送り、5分間で乾燥した。これらの鹸化は、ロール状のフィルムを速度45m/分で実施した。得られた本発明のセルロースエステルフィルムの鹸化フィルムを試料4−1、セルローストリアセテートフィルムの鹸化フィルムを試料4−2とした。
【0217】
(2)偏光膜の作製
特開2001−141926号公報の実施例1に従い、2対のニップロール間に周速差を与え、長手方向に延伸することによって、厚み20μmの偏光膜を調製した。
【0218】
(3)貼り合わせ
得られた偏光膜を、前記鹸化処理したセルロースエステルフィルム試料4−1、およびおよび延伸・鹸化したセルローストリアセテートフィルム試料4−2で挟んだ後、PVA((株)クラレ製、PVA−117H)3%水溶液を接着剤として、偏光軸とセルロースエステルフィルム試料4−1および4−2の長手方向とが90°となるように張り合わせた偏光板を作成した(偏光板試料4−3)。このうち、本発明のセルロースエステルフィルム試料4−1と、延伸・鹸化したセルローストリアセテートフィルム試料4−2を、特開2000−154261号公報の図2〜9に記載の20インチVA型液晶表示装置に、25℃・相対湿度60%下で取り付けた後、これを25℃・相対湿度10%の中に持ち込み、目視で色調変化の大小を10段階評価(大きいものほど変化が大きい)で評価し、表示ムラの発生している領域を目視で評価し、表示ムラが発生している割合(%)を求めた。その結果、本発明のセルロースエステルフィルムの表示ムラは5%以下であり、非常に優れたものであった。また、特開平2002−86554号公報の実施例1に従い、テンターを用い延伸軸が吸収軸に対して45°の角度となるように延伸した偏光板についても同様に本発明のセルロースエステルフィルムを用い作製したが、前記同様良好な結果が得られた。
【0219】
(4−2)光学補償フィルムの作製
特開平11−316378号公報の実施例1の液晶層を塗布したセルロースアセテートフィルムの代わりに、本発明の鹸化済みのセルロースエステルフィルム試料4−1を使用し、これを、特開2002−62431号公報の実施例9に記載のベンド配向液晶セルに25℃・相対湿度60%下で取り付けた後、これを25℃・相対湿度10%の中に持ち込み、コントラストの変化を目視評価し、色変化の大小を10段階評価(大きいものほど変化が大きい)して2のマークを得た。本発明を実施したことにより良好な性能が得られた。
【0220】
(4−3)低反射フィルムの作製
本発明のセルロースエステルフィルムを発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)の実施例47に従い本発明のセルロースエステルフィルム試料1−8を用いて低反射フィルムを作製したところ、良好な光学性能が得られた。
【0221】
[実施例5]
実施例1において作製した本発明のセルロースエステルフィルム試料1−11を、特開2002−265636号公報記載の実施例13におけるセルローストリアセテートフィルム試料1301の代わりに用いた。そして、特開2002−265636号公報記載の実施例13と全く同様にして、光学異方性層、偏光板試料を作製してベンド配向液晶セルを作製した。得られた液晶セルは、優れた視野角特性を有するものであった。
【0222】
[実施例6]
特開2002−265636号公報記載の実施例14におけるセルローストリアセテートフィルム試料1401の代わりに、実施例1において作製した本発明のセルロースエステルフィルム試料1−13を用いた。そして、特開2002−265636号公報記載の実施例14と全く同様にして、光学異方性層、偏光板試料を作製してTN型液晶セルを作製した。得られた液晶セルは、優れた視野角特性を有するものであった。
【0223】
[実施例7]
(1)VAパネルへの実装
本発明の実施例4で作製した偏光板を、視認側偏光板は26”ワイドのサイズで偏光子の吸収軸が長辺となるように、バックライト側偏光板は偏光子の吸収軸が短辺となるように長方形に打抜いた。VAモードの液晶TV(ソニー(株)製、KDL−L26RX2)の、表裏の偏光板および位相差板を剥し、表と裏側とに本発明のセルロースエステルフィルムを使用して作製した偏光板(偏光板試料4−3)を組合せて貼り付け、液晶表示装置を作製した。偏光板貼り付け後、50℃、5kg/cm2で20分間保持し、接着させた。この際、視認側の偏光板の吸収軸をパネル水平方向に、バックライト側の偏光板の吸収軸をパネル鉛直方向となり、粘着材面が液晶セル側となるように配置した。プロテクトフィルムを剥した後、測定機(ELDIM社製、EZ−Contrast 160D)を用いて、黒表示および白表示の輝度測定から視野角(コントラスト比が10以上の範囲)を算出した。いずれの偏光板を使用した場合も、全方位で極角80°以上の良好な視野角特性が得られた。さらに、耐久試験による光漏れおよび偏光板剥がれテストを実施し問題ないことを確認した。耐久性テスト条件は以下の通りである。
【0224】
1)60℃・相対湿度90%の環境に200時間保持し、25℃・相対湿度60%環境に取り出し24時間後に液晶表示装置を黒表示させ、光漏れ強度および偏光板の液晶パネルからの剥がれの有無を評価した。
2)80℃、相対湿度10%以下の環境に200時間保持し、25℃・相対湿度60%環境に取り出し1時間後に液晶表示装置を黒表示させ、光漏れ強度および偏光板の液晶パネルからの剥がれの有無を評価した。
【0225】
[実施例8]
本発明の試料を所望の光学特性を示す光学異方性フィルムに作製し、以下の異なる液晶モードの市販モニターあるいはテレビの位相差膜を剥ぎ取り、上記(4−2)で製造した本発明の光学補償フィルムを貼り付けてその視野角特性を調べたところ、優れた広い視野角特性と色味を得て、本発明のセルロースエステルが有用であることを確認した。
【0226】
(TNモード)
視認側偏光板、バックライト側偏光板共に、17”のサイズで打抜き後の偏光板の長辺に対して吸収軸が45°長辺となるように、長方形に打抜いた。TNモードの液晶モニター(サムソン社製、SyncMaster 172X)の表裏の偏光板および位相差板を剥し、表と裏側に、本発明のセルロースエステルからなる偏光板を組合せで貼り付け、液晶表示装置を作製した。偏光板貼り付け後、50℃、5kg/cm2で20分間保持し、接着させた。この際、偏光板の光学異方性層がセル基板に対面し、液晶セルのラビング方向とそれに対面する光学異方性層のラビング方向とが反平行となるように配置した。
【0227】
(IPSパネル)
本発明の偏光板を、視認側偏光板は32”ワイドのサイズで偏光子の吸収軸が長辺となるように、バックライト側偏光板は偏光子の吸収軸が短辺となるように長方形に打抜いた。IPSモードの液晶TV(日立製作所(株)製、W32−L5000)の表裏の偏光板および位相差板を剥し、表と裏側に本発明のセルロースエステルから作製された偏光板を組合せて貼り付け、液晶表示装置を作製した。偏光板貼り付け後、50℃、5kg/cm2で20分間保持し、接着させた。この際、視認側の偏光板の吸収軸をパネル水平方向に、バックライト側の偏光板の吸収軸をパネル鉛直方向となり、粘着層表面が液晶セル側となるように配置した。
【0228】
[実施例9]
実施例1の本発明のセルロースエステルフィルム試料1−8における(1)セルロースエステルペレットの調製において、予め2種類の安定剤を添加せずに(3)溶融製膜工程において本発明の2種類の安定剤をセルロースエステルと共にホッパーに投入して、本発明のセルロースエステルフィルム試料1−8と全く同様にして、本発明のセルロースエステルフィルム試料9−1を作製した。着色増加分が少し上昇(0.03)したが、全ての特性が許容範囲内であった。したがって、本発明では、分子量500以上のフェノール系安定剤の少なくとも一種と、分子量500以上の亜リン酸エステル系安定剤および分子量500以上のチオエーテル系安定剤からなる群より選択される少なくとも一種の安定剤をペレット化工程で添加することが好ましいことが確認された。
【0229】
[実施例10]
実施例1の本発明のセルロースエステルフィルム試料1−8における(1)セルロースエステルペレットの調製において、可塑剤としてビスフェノールA(1モル)、フェノール(4モルと)とオキシ塩化リンから作製されるリン酸エステル(分子量500以上)をセルロースエステルに対して5質量%添加する以外は、セルロースエステルフィルム試料1−8と全く同様にして、本発明のセルロースエステルフィルム試料10−1を作製した。
得られたセルロースエステルフィルムは製膜時の発煙も見られず、ダイスジ、透過率、着色増加分、さらに光学特性(Reムラ、Rthムラ)の全ての点で優れたものであった。特に、セルロースエステルフィルム試料10−1は含水率が1.7%であり、未添加が2.2%であるのに対して優れていることが確認された。従って、可塑剤がセルロースエステルフィルムの物理特性を改良するのに有効であることが確認された。
【0230】
[実施例11]
(11−1)セルロースエステルフィルムの作製
実施例1のセルロースエステルフィルム試料1−8において、セルロースエステルAを表2に記載されるセルロースエステルに変更する以外は、セルロースエステルフィルム試料1−8と全く同様にして本発明のセルロースエステルフィルム試料11−1〜11−12を作製した。得られた本発明のセルロースエステルフィルム試料11−1〜11−12は、Reムラ、Rthムラ、ダイスジ、ヘイズおよび透過率の全てが良好であり満足できるものであった。
【0231】
(11−2)偏光板の作製
(11−2−1)セルロースエステルフィルムの鹸化
得られた各セルロースエステルフィルムを次の浸漬鹸化法で鹸化した。即ち、2.5mol/LのNaOH水溶液を鹸化液として用いた。これを60℃に調温して、セルロースエステルフィルムを2分間浸漬した。この後、0.05mol/Lの硫酸水溶液に30秒浸漬し、水洗した。
(11−2−2)偏光膜の作製
特開2001−141926号公報の実施例1に従い、2対のニップロール間に周速差を与え、長手方向に延伸し、厚み20μmの偏光膜を作製した。
【0232】
(11−3)貼り合わせ
このようにして得た偏光膜と、上記鹸化処理したセルロースエステルフィルムならびに鹸化処理したトリアセテートフィルム(富士写真フイルム(株)製フジタック)を、PVA((株)クラレ製PVA−117H)3%水溶液を接着剤として、偏光膜の延伸方向とセルロースエステルの製膜方向(長手方法)に下記組み合わせで張り合わせた。
偏光板A:セルロースエステルフィルム/偏光膜/フジタック(富士タックTD80UF)
偏光板B:セルロースエステルフィルム/偏光膜/セルロースエステルフィルム
【0233】
(11−4)実装評価
(2) VA型液晶セルを使用した26インチおよび40インチの液晶表示装置(シャープ(株)製)に液晶層を挟んで設置されている2対の偏光板のうち、観察者側の片面の偏光板を剥がし、粘着剤を用い、代わりに上記偏光板AまたはBを貼り付けた。観察者側の偏光板の透過軸とバックライト側の偏光板の透過軸が直交するように配置して、液晶表示装置を作成した。得られた液晶表示装置が、黒表示状態で発生する光漏れと色ムラ、面内の均一性を観察した。本発明のセルロースエステルフィルムの色調変化が無く、非常に優れたものであった。
【0234】
(11−5)低反射フィルムの作成
本発明のセルロースエステルフィルムを用いて、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)の実施例47に従って低反射フィルムを作成したところ、良好な光学性能を有するものであった。
【0235】
(11−6)光学補償フィルムの作成
本発明のセルロースエステルフィルムに、特開平11−316378号公報の実施例1に従い、液晶層を塗布したところ、良好な光学補償フィルムが得られた。
【0236】
【表2】

【0237】
[実施例12]
実施例1の試料1−8および試料1−12の各製造工程において、セルロースエステルAを下記のセルロースエステルA121およびA122にそれぞれ変更する以外は、実施例1の試料1−8および試料1−12と全く同様にして試料12−1および12−2を作製した。得られた本発明のセルロースエステルフィルム試料12−1および12−2は、Reムラ、Rthムラ、ダイスジ、ヘイズおよび透過率の全てが良好であり満足できるものであった。
【0238】
(セルロースエステルA121、A122の合成)
セルロース(広葉樹パルプ)10質量部に、酢酸0.1質量部、プロピオン酸2.7質量部を噴霧した後、1時間室温で保存した。別途、無水酢酸1.2質量部、プロピオン酸無水物61質量部、硫酸0.7質量部の混合物を調製し、−10℃に冷却後に、上記の前処理を行ったセルロースと反応容器内で混合した。30分経過後、外設温度を30℃まで上昇させ、4時間反応させた。反応容器に25%含水酢酸46質量部を添加し、内温を60℃に上昇させて、2時間攪拌した。酢酸マグネシウム4水和物と酢酸と水とを等重量ずつ混合した溶液を6.2質量部添加し、30分間攪拌した。反応液を、保留粒子径40μm、10μm、5μmの各金属焼結フィルターにて順に加圧ろ過して異物を除去した。75%含水酢酸に濾過後の反応液を混合してセルロースアセテートプロピオネートを沈殿させた後、70℃の温水にて、洗浄液のpHが6〜7になるまで洗浄を行った。さらに、0.001%水酸化カルシウム水溶液中で0.5時間攪拌する処理を行った後に濾過した。得られたセルロースアセテートプロピオネートを70℃で乾燥して、セルロースエステルA121とした。
【0239】
1H−NMRの測定から、得られたセルロースエステルA121は、アセチル置換度0.15、プロピオニル置換度2.62、全置換度2.77、数平均分子量54500(数平均重合度DPn=173)、質量平均分子量132000(質量平均重合度DPw=419)、残存硫酸量45ppm、マグネシウム含有量8ppm、カルシウム含有量46ppm、ナトリウム含有量1ppm、カリウム含有量1ppm、鉄含有量2ppmであった。本試料のジクロロメタン溶液からキャストしたフィルムを偏光顕微鏡で観察した結果、偏光子を直交させた場合も平行にした場合も、異物はほとんど認められなかった。
【0240】
さらに、上記無水酢酸、プロピオン酸無水物の仕込み量を変えることで、アセチル置換度0.43、プロピオニル置換度2.40、全置換度2.83、重量平均分子量125000、数平均分子量48000のセルロースアセテートプロピオネート(セルロースエステルA122)を得た。残存硫酸量40ppm、マグネシウム含有量10ppm、カルシウム含有量50ppm、ナトリウム含有量2ppm、カリウム含有量1ppm、鉄含有量1ppmであった。本試料のジクロロメタン溶液からキャストしたフィルムを偏光顕微鏡で観察した結果、偏光子を直交させた場合も平行にした場合も、異物はほとんど認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0241】
本発明の製造方法によれば、Reムラ、Rthムラ、ダイスジ、ヘイズおよび透過率および着色性を大幅に軽減したセルロースエステルフィルムを提供することができる。さらに、本発明のセルロースエステルフィルムを液晶表示装置に組み込めば、従来から問題になっていた表示ムラや湿度による視認性の変化を大幅に抑えることができる。また、本発明は増大する光学用途としてのセルローストリアセテートの需要に対して、有機溶媒を使用しない製造方法を提供することにより、環境に優しいセルロースエステルフィルムを提供するものである。以上より、本発明のセルロースエステルフィルムは産業上の利用可能性が非常に高い。
【図面の簡単な説明】
【0242】
【図1】押出機の構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0243】
22 押出機
32 シリンダー
40 供給口
A 供給部
B 圧縮部
C 計量部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(S−1)〜(S−3)を満たすセルロースエステルと、分子量が500以上であるフェノール系安定剤の少なくとも一種を前記セルロースエステルに対して0.02〜3質量%と、分子量が500以上である亜リン酸エステル系安定剤および分子量が500以上であるチオエーテル系安定剤からなる群より選択される少なくとも一種を前記セルロースエステルに対して0.02〜3質量%含有するセルロースエステル混合物を、180〜240℃で溶融してダイから押し出して膜厚20μm〜300μmのセルロースエステルフィルムを製膜する溶融製膜工程を含むことを特徴とするセルロースエステルフィルムの製造方法。
式(S−1) 2.5≦A+B≦3.0
式(S−2) 0≦A≦2.2
式(S−3) 0.8≦B≦3.0
(式中、Aはセルロースの水酸基に対するアセチル基の置換度を表し、Bはセルロースの水酸基に対する炭素数3〜22のアシル基の置換度の総和を表す。)
【請求項2】
前記セルロースエステル混合物を180〜240℃で溶融してペレットを作製し、該ペレットを180〜240℃で溶融してダイから押し出すことを特徴とする請求項1に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記フェノール系安定剤として、窒素中で220℃において30分間加熱した場合の質量減少量が20質量%以下である化合物を使用し、且つ、前記亜リン酸エステル系安定剤または前記チオエーテル系安定剤として、窒素中で220℃において30分間加熱した場合の質量減少量が20質量%以下である化合物を使用することを特徴とする請求項1または2に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記フェノール系安定剤の分子量が550以上であり、且つ、前記亜リン酸エステル系安定剤または前記チオエーテル系安定剤の分子量が550以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記セルロースエステル中のセルロースの水酸基に対して置換しているBのアシル基が、プロピオニル基およびブチリル基から選択される1以上のアシル基であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記セルロースエステル混合物が、平均一次粒子サイズ20nm〜2μmの微粒子を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項7】
前記溶融製膜工程により製膜されたセルロースエステルフィルムを、少なくとも1方向に0.3〜3倍延伸する延伸工程をさらに含むすることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項8】
前記ペレット化および/または溶融製膜時の酸素濃度が5容量%以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造方法により製造されたセルロースエステルフィルム。
【請求項10】
下記式(S−1)〜(S−3)を満たすセルロースエステルと、分子量が500以上であるフェノール系安定剤の少なくとも一種を前記セルロースエステルに対して0.02〜3質量%と、分子量が500以上である亜リン酸エステル系安定剤および分子量が500以上であるチオエーテル系安定剤からなる群より選択される少なくとも一種を前記セルロースエステルに対して0.02〜3質量%含有し、膜厚が20μm〜300μmで、残留溶剤量が0.01質量%以下であり、正面レターデーション(Re)ムラと厚さ方向のレターデーション(Rth)ムラがいずれも3.0nm未満であることを特徴とするセルロースエステルフィルム。
式(S−1) 2.5≦A+B≦3.0
式(S−2) 0≦A≦2.2
式(S−3) 0.8≦B≦3.0
(式中、Aはセルロースの水酸基に対するアセチル基の置換度を表し、Bはセルロースの水酸基に対する炭素数3〜22のアシル基の置換度の総和を表す。)
【請求項11】
前記セルロースエステルフィルムの2質量%メチレンクロライド溶液を調製して測定した400nmにおける吸光度に対して、前記セルロースエステルフィルムを240℃にて1時間空気中で加熱した後に2質量%メチレンクロライド溶液を調製して測定した400nmにおける吸光度の増加分が0.05以下であることを特徴とする請求項10に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項12】
正面レターデーション(Re)が0〜300nmであり、且つ、厚さ方向のレターデーション(Rth)の絶対値が0〜700nmであることを特徴とする請求項10または11に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項13】
可視光の透過率が90%以上であり、ヘイズが0.01〜1.2%であることを特徴とする請求項10〜12のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項14】
下記式(A−1)および(A−2)を満たすことを特徴とする請求項10〜13のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルム。
式(A−1) 0≦|Re(700)−Re(400)|≦15nm
式(A−2) 0≦|Rth(700)−Rth(400)|≦35nm
(式中、Re(400)およびRe(700)は、前記セルロースエステルフィルムの波長400nmおよび700nmにおける正面レターデーション(Re)を表し、Rth(400)およびRth(700)は、前記セルロースエステルフィルムの波長400nmおよび700nmにおける厚さ方向のレターデーション(Rth)を表す。)
【請求項15】
フィルム表面の水の接触角(25℃・相対湿度60%)が45°以下であることを特徴とする請求項10〜14のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項16】
平均一次粒子サイズ20nm〜2μmの微粒子を含有することを特徴とする請求項10〜15のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項17】
分子量500以上の可塑剤を前記セルロースエステルに対して1〜20質量%含有することを特徴とする請求項10〜16のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項18】
偏光膜に、請求項10〜17のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムを少なくとも1層積層したことを特徴とする偏光板。
【請求項19】
請求項10〜17のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムを基材に用いたことを特徴とする光学補償フィルム。
【請求項20】
請求項10〜17のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムを基材に用いたことを特徴とする反射防止フィルム。
【請求項21】
請求項18に記載の偏光板、請求項19に記載の光学補償フィルム、および、請求項20に記載の反射防止フィルムの少なくとも一つを用いたことを特徴とする液晶表示装置。

【図1】
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【公開番号】特開2007−168419(P2007−168419A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−208743(P2006−208743)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】