説明

センターピラー補強部材及びその製造方法

【課題】軽量化が実現可能であるとともに、自動車の側面衝突が生じて外部から荷重負荷が付与された際のエネルギーを効果的に吸収することができ、衝突安全性に優れる、センターピラー補強部材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】当該センターピラー補強部材1を横幅方向に分断した際の断面2次モーメントを、センターピラー補強部材1の縦長方向の各々の位置で2階微分することで得られる2次微係数が、センターピラー補強部材1の縦長方向において「0」となる境界部よりも下側の位置に、軟化部位である強度変質部2が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のボディサイドパネルの内側に備えられるセンターピラー補強部材及びその製造方法に関するものであり、特に、自動車の外部から荷重負荷が付与された際の搭乗者安全性に優れる、センターピラー補強部材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車分野においては、衝突時の搭乗者への傷害低減が大きな課題となっており、また、衝突安全性に関する法規制、特に側面衝突安全性の規制強化に伴い、車体材料の高強度化が進められている。このように、車体を高強度化する方法としては、例えば、素材の状態において高い強度を有する材料を用いるか、あるいは、加熱した素材を成形する際に、金型内における冷却によって焼入れ処理を行なうことにより、成形性と高強度を両立させることが可能な、ホットプレスと呼ばれる方法が用いられている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
しかしながら、車体の側面における衝突の場合は、前面衝突や後面衝突等に比べて衝撃吸収に充当できる圧潰距離が短いため、車体の側面構造が変形して搭乗者に強く接触する可能性が大きいという問題がある。このため、車体の側面における衝突安全性を向上させる方法としては、単に素材を高強度化して変形し難くするだけでは充分でなく、車体の側面構造の変形後の形状を適正に制御することが求められる。
【0004】
一般に、自動車のセンターピラー補強部材は、デザイン性等の観点から、車体側面におけるサイドウインドガラス領域とされる上部付近においては、その幅方向及び厚み方向の寸法が、下部に比べて小さく細めの形状に構成されている。また、このようなセンターピラー補強部材の表面側に配されるボディサイドパネルは、通常、側面衝突等が発生した際の衝撃吸収作用が殆ど備えられていないため、基本的には、センターピラー補強部材の下部が変形することでエネルギーを吸収しつつ、上部においては搭乗者への接触を避けるように、その変形を抑制することが重要となる。
しかしながら、センターピラー補強部材の全体を同一材料で構成した場合、構造強度としては、下部に比べて小寸の上部が相対的に弱くなる。このため、衝突で荷重負荷が付与された際、センターピラー補強部材の上部で変形が開始し、この部分が搭乗者の身体に接触する等、好ましくない変形形態となることから、側面の衝突安全性を向上させるうえでの問題となっていた。
【0005】
上述のような、センターピラー補強部材の上部が変形することに伴う問題を解決するため、いくつかの方法が提案されており、一つの方法として、例えば、センターピラー補強部材の上部に強度増強部材を配置することが提案されている。この方法によれば、センターピラー補強部材における上部と下部との相対的な強度を調整することで、センターピラー補強部材の上部が搭乗者の身体に接触するのが抑制され、好ましい変形形態が得られる。しかしながら、このような方法では、強度増強部材の分の重量が増加して車体の重量も増加してしまい、また、製造コストも増加するという問題がある。
【0006】
また、近年では、例えば、強度や板厚等が異なる異種の金属材料を繋ぎ合せた後、一体に成形する、所謂テーラードブランクと呼ばれる技術が知られている。この方法を用いてセンターピラー補強部材を製造し、適切な材料を選択して上部及び下部に配することで、部材の強度やバランスを調整することが可能となる。しかしながら、このような方法では、金属材料の繋ぎ合せ工程において製造コストが増加するという問題があり、また、強度の異なる金属材料の一体成形が困難なことから、センターピラー及び補強材の上部と下部とで強度差を持たせた構成とすることには限界があった。またさらに、このようなテーラードブランク技術と、上述したようなホットプレス技術との組み合わせは、接合箇所における変形集中等のために成形が難しいことから、車体構造の超高強度化への対応が困難であるという問題がある。
【0007】
また、軽合金からなるセンターピラー補強部材において、上部と下部とで板厚に変化を持たせたり、上部にリブを設けたりすることで、車体外方からの外力に対する部材強度について、上部の強度を下部の強度よりも大きくすることが提案されている(例えば、特許文献2を参照)。
また、センターピラー補強部材において、サイドウインドガラスの下端を通るラインであるベルトラインより下方に、凹状に形成された脆弱部を複数設けることにより、下部の強度を上部の強度よりも相対的に弱くすることが提案されている(例えば、特許文献3を参照)。
【0008】
しかしながら、上記特許文献2、3は、センターピラー補強部材の縦長方向において、上部を高強度として下部を低強度とするにあたり、センターピラー補強部材の寸法形状に関わらず強度変位の境界点を設ける構成のため、低強度とされた部位が、必ずしもセンターピラー補強部材の形状に適合したものとならない場合がある。このような場合には、例えば、自動車の側面衝突が発生した場合に、センターピラー補強部材の変形を適正に制御することができず、衝突の際の状態によっては搭乗者への接触を防止するのが困難になる虞がある。
また、特許文献2、3の何れも、センターピラー補強部材の縦長方向において、板厚に変化を持たせたり、あるいはリブや凹状の脆弱部を設けたりすることで、上部と下部とで異なる強度とする構成のため、材料コストが増加するとともに、加工工程の増加によって全体的な製造コストが増加する等の大きな問題があった。
【特許文献1】特開2004−197213号公報
【特許文献2】特開2001−163257号公報
【特許文献3】特開2007−55494号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、軽量化が実現可能であるとともに、自動車の側面衝突が生じて外部から荷重負荷が付与された際のエネルギーを効果的に吸収することができ、衝突安全性に優れる、センターピラー補強部材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等が上記問題を解決するために鋭意研究したところ、センターピラー補強部材の縦長方向下部における強度変質部の配置や、鋼材組織を適正化することにより、仮に自動車の側面衝突が生じた場合であっても、センターピラー補強部材の変形形態を適正に制御でき、センターピラー補強部材並びに車体構造部材が搭乗者に接触するのを効果的に防止することが可能となることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0011】
[1] 自動車のボディサイドパネルの内側に配され、鋼板からなるセンターピラー補強部材であって、当該センターピラー補強部材を横幅方向に分断した際の断面2次モーメントを、センターピラー補強部材の縦長方向の各々の位置で2階微分することで得られる2次微係数が、センターピラー補強部材の縦長方向において「0」となる境界部よりも下側の位置に、軟化部位である強度変質部が設けられていることを特徴とするセンターピラー補強部材。
[2] 前記強度変質部が、主としてフェライトとパーライトの混合組織に一部ベイナイトを含む軟化組織であり、且つ、当該センターピラー補強部材の縦長方向において前記境界部から上側が、主としてマルテンサイトを含む硬化組織であることを特徴とする上記[1]に記載のセンターピラー補強部材。
[3] 前記強度変質部は、当該センターピラー補強部材の縦長方向において、前記自動車のボディサイドパネルに取り付けられるドアに備えられるドアウエスト補強部材に対応する位置よりも下側の位置に設けられることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載のセンターピラー補強部材。
【0012】
[4] 当該センターピラー補強部材の縦長方向において、前記境界部から上側の位置の硬度H1が400Hv以上とされており、前記強度変質部の硬度H2と前記硬度H1との比(H2/H1)が、次式(H2/H1≦0.85)で表される範囲とされていることを特徴とする上記[1]乃至[3]の何れか1項に記載のセンターピラー補強部材。
[5] 当該センターピラー補強部材の縦長方向において、前記境界部から上側の位置の引張強度TS1が1200MPa以上とされており、前記強度変質部の引張強度TS2と前記引張強度TS1との比(TS2/TS1)が、次式(TS2/TS1≦0.85)で表される範囲とされていることを特徴とする上記[1]乃至[3]の何れか1項に記載のセンターピラー補強部材。
[6] 当該センターピラー補強部材の縦長方向において、前記2次微係数が「0」となる境界部から上側が、前記境界部よりも下側に比べて小さな断面積に構成されていることを特徴とする上記[1]乃至[5]の何れか1項に記載のセンターピラー補強部材。
[7] 当該センターピラー補強部材は、横壁部と該横壁部の両側端部から延出する縦壁部とからなる断面略ハット型に形成されているとともに、前記縦壁部は、当該センターピラー補強部材に対する荷重負荷方向である、自動車外部からの荷重負荷方向に対して概略平行とされるものであり、前記強度変質部が前記縦壁部に設けられていることを特徴とする上記[1]乃至[6]の何れか1項に記載のセンターピラー補強部材。
【0013】
[8] 自動車のボディサイドパネルの内側に配され、鋼板からなるセンターピラー補強部材を製造する方法であって、当該センターピラー補強部材を横幅方向に分断した際の断面2次モーメントを、センターピラー補強部材の縦長方向の各々の位置で2階微分することで得られる2次微係数が、センターピラー補強部材の縦長方向において「0」となる境界部よりも下側の位置に強度変質部を設けるとともに、前記鋼板をAc点から溶融までの温度範囲に加熱した後、次いで、金型を用いて前記鋼板を成形しながら前記金型の内部で焼入れ処理を行う際、前記鋼板の少なくとも一部における冷却速度を、その他の部位よりも低速として相対的に緩冷することにより、前記強度変質部を軟化部位として形成することを特徴とするセンターピラー補強部材の製造方法。
[9] 前記焼入れ処理を強制冷却によって行なうことを特徴とする上記[8]に記載のセンターピラー補強部材の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のセンターピラー補強部材によれば、センターピラー補強部材の縦長方向において、センターピラー補強部材の断面2次モーメントを、縦長方向の各々の位置で2階微分することで得られる2次微係数が、センターピラー補強部材の縦長方向において「0」となる位置よりも下側の位置に強度変質部を設けた構成とすることにより、仮に自動車の側面衝突が生じて外部から荷重負荷が付与された場合であっても、センターピラー補強部材の変形形態を適正に制御できるので、衝突の際の荷重負荷エネルギーを効果的に吸収することが可能となる。これにより、センターピラー補強部材並びに車体構造部材が搭乗者に接触するのを効果的に防止することが可能となる。また、鋼板の板厚を厚くしたりリブ等を設けたりする必要が無いので、センターピラー補強部材、ひいては車体全体の軽量化が可能となる。従って、衝突安全性に優れたセンターピラー補強部材を、安価な構成で実現することが可能となる。
【0015】
また、本発明のセンターピラー補強部材の製造方法によれば、センターピラー補強部材の縦長方向において、センターピラー補強部材の断面2次モーメントを、縦長方向の各々の位置で2階微分することで得られる2次微係数が、センターピラー補強部材の縦長方向において「0」となる位置よりも下側の位置に強度変質部を設けるとともに、鋼板をAc点から溶融までの温度範囲に加熱した後、次いで、金型を用いて鋼板を成形しながら前記金型の内部で焼入れ処理を行う際、鋼板の少なくとも一部における冷却速度を、その他の部位よりも低速として相対的に緩冷することにより、強度変質部を軟化部位として形成する方法なので、仮に自動車の外部から荷重負荷が付与された場合でも変形形態を適正に制御でき、衝突の際の荷重負荷エネルギーを効果的に吸収することが可能なセンターピラー補強部材を製造することができる。従って、衝突安全性に優れたセンターピラー補強部材を、高い生産性で製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明のセンターピラー補強部材及びその製造方法の実施の形態について、図1(a)、(b)〜図5を参照しながら説明する。なお、本実施形態は、本発明のセンターピラー補強部材及びその製造方法の趣旨をより良く理解させるために詳細に説明するものであるから、特に指定の無い限り本発明を限定するものではない。
【0017】
本発明に係るセンターピラー補強部材は、自動車のボディサイドパネル80の内側に配され、鋼板からなるセンターピラー補強部材1であり、当該センターピラー補強部材1を横幅方向に分断した際の断面2次モーメント(I)を、センターピラー補強部材の縦長方向の各々の位置で2階微分することで得られる2次微係数(f)が、センターピラー補強部材1の縦長方向において「0」となる位置である境界部Kよりも下側の位置に、軟化部位である強度変質部2が設けられ、概略構成されている(断面2次モーメント及び2次微係数については図6も参照)。
【0018】
本発明において説明するセンターピラー補強部材とは、図2の断面図に示すような、自動車のボディサイドパネル80の内側、つまり自動車室内側に配される、所謂センターピラーリインフォースアウター等と呼ばれる部材であり、図示例では断面略ハット型に形成されている。また、図2に示す例では、センターピラー補強部材1の内側に、さらにリインフォース部材90が配されており、さらに内側には、所謂センターピラーリインフォースインナー等と呼ばれるインナー補強部材95が配され、該インナー補強部材95とセンターピラー補強部材1のつば部41a、42aとの間がスポット接合されている。また、図示例においては、センターピラー補強部材1は、上述のリインフォース部材90及びインナー補強部材95とともに、略閉じ断面構造をなしている。
【0019】
自動車分野においては、事故等における衝突時、特に車体側面における衝突の際の搭乗者への傷害を低減するため、車体材料の高強度化が進められている。このような車体材料の高強度化にあたっては、例えば、加熱した鋼板を成形する際に、金型内における冷却によって焼入れ処理を行なうことにより、鋼板の成形性と高強度を両立させることが可能なホットプレス法が着目されている。
また、車体側面における衝突安全性を向上させるためには、ドアやサイドウインドの間に配されるセンターピラー(センターピラー補強部材)の強度向上が必要となる。また、その一方で、側面衝突時にセンターピラーが変形して室内側に折れ曲がった場合、その変形形態によってはセンターピラー補強部材や他の車体部材等が搭乗者に接触し、傷害の原因となるという問題があった。
またさらに、自動車分野においては、低燃費化や炭酸ガス(CO)の排出量削減を目的として車体の軽量化を進めるニーズが高まっており、高い強度を有し且つ軽量である車体を実現することが求められている。このため、自動車車体の側面に配されるセンターピラー補強部材についても、高強度化及び軽量化の両方を共に満たすことが求められている。
【0020】
本発明者等が鋭意研究を重ねた結果、自動車の側面に備えられるセンターピラー補強部材の衝突安全性を高めつつ軽量化を図るための要件として、
(1)センターピラー補強部材の縦長方向における強度分布を最適化し、衝突後の変形形態を、搭乗者への部材接触を抑制できる形態に制御する、
(2)可能な限り高強度の材料を用いることにより、板厚を薄く低減する、
の2点を見出した。
【0021】
また、本発明者等は、センターピラー補強部材の縦長方向下部において、低強度の軟質部位である強度変質部を設けるとともに、この強度変質部の配置や鋼材組織を適正化することに着目し、その部位での変形を誘発させることで変形形態を制御できることを知見した。また、センターピラー補強部材の高強度化を図るため、オーステナイト域まで加熱した鋼板を冷間で成形することにより、焼き入れ処理を行ってマルテンサイトからなる硬化組織の成形品とするホットプレス技術を用いる点に着目した。
以下、本発明のセンターピラー補強部材について詳細に説明する。
【0022】
図1(a)、(b)に示すように、本実施形態で説明するセンターピラー補強部材1は、上端11が自動車のルーフサイドレール60に固定されるとともに、下端12が自動車下部に配されるシル70に固定されており、平面視で略縦長形状とされている。また、図示例のセンターピラー補強部材1は、横壁部3と該横壁部3の両側端部31、32から延出する2つの縦壁部41、42とからなる、断面略ハット型に形成されている。
【0023】
また、センターピラー補強部材1には、縦長方向における概略下部の位置に、変形が容易な軟化部位である強度変質部2が設けられており、本例では、図1(b)及び図3に示すように、2つの縦壁部41、42の内の縦壁部41に設けられている。また、これら、縦壁部41、42は、センターピラー補強部材1が自動車車体に組み付けられた際に、センターピラー補強部材1に対する荷重負荷方向である、自動車外部からの荷重負荷方向に対し、概略平行とされる壁状の部位である。
【0024】
そして、強度変質部2は、センターピラー補強部材1の概略下部の位置において、センターピラー補強部材1を横幅方向に分断した際の断面2次モーメント(I)を、センターピラー補強部材の縦長方向の各々の位置で2階微分することで得られる2次微係数(f)が、センターピラー補強部材1の縦長方向において「0」となる境界部Kよりも下側に配されている。
本発明においては、低強度の軟化部位である強度変質部2を、センターピラー補強部材1の上記した位置に配して設けることにより、例えば、衝突等による過重負荷が付与された際に、センターピラー補強部材1の上部に比べて下部の変形が開始されやすいという作用がある。
【0025】
本発明のセンターピラー補強部材において説明する断面2次モーメント(I)の2次微係数(f)は、以下に説明するような方法で求めることができる(図6(a)、(b)も参照)。
まず、センターピラーの高さ方向の位置(Z)毎に、衝突時に加わる曲げの方向の断面2次モーメント(I)を算出する。この断面2次モーメント(I)は、位置(Z)に対して離散的な値となっているので、連続関数となるように近似を行う。このような近似関数としては、実際の分布を表現できるものであれば任意のものを使用できるが、下記一般式(1)に示すような多項式近似が簡便である。従って、まず、下記一般式(1)により、位置(Z)毎の断面2次モーメント(I)を算出する。
【0026】
【数1】

但し、上記一般式(1)中、「Z」はセンターピラーの高さ方向の位置寸法、「i」は1からnまでの値をとる整数、「a」は多項式近似の各項の係数を示し、以下の一般式においても同様である。
【0027】
そして、得られた断面2次モーメント(I)を用いて、下記一般式(2)により、位置(Z)毎の2次微係数(f)を求める。
【0028】
【数2】

但し、上記一般式(2)中、「I」は断面2次モーメントを示す。
【0029】
ここで、通常、多項式近似の次数は5次(n=6)程度で十分であるが、断面2次モーメントの分布が複雑な場合には、それに応じて高次までの近似を行えば良い。
【0030】
図1(a)、(b)に示す例のセンターピラー補強部材1は、縦長方向において、上述した断面2次モーメントの2次微係数が「0」となる境界部Kから上側が、境界部Kよりも下側に比べて小さな断面積に構成され、上側が下側よりも細く形成されている。一般に、自動車の車体においては、開放性等の観点からサイドウインドガラスの領域を広く確保するとともに、デザイン上の観点から、センターピラーの上部が、下部に比べて縮寸された細めの形状とされている。
【0031】
強度変質部2は、主としてフェライトとパーライトの混合組織に一部ベイナイトを含む軟化組織とされ、且つ、センターピラー補強部材1の縦長方向において境界部Kから上側が、主としてマルテンサイトを含む硬化組織とされていることが、センターピラー補強部材1の変形形態がより良好に制御できる点から好ましい。
なお、後述の製造方法における冷却条件や成分によっては、強度変質部が設けられる縦壁部のほぼ全体がベイナイト組織となる場合もある。このような場合には、強度変質部と他の部位との間で強度差を設けるため、強度変質部の組織を、フェライト−パーライト主体の組織とすることが好ましい。
【0032】
また、本発明で説明する強度変質部2は、上述したように、変形開始が容易な軟質部位として設けられる部位であるが、このような軟質性の指標としては、硬度(Hv:ビッカース)や引張強度(MPa)等を用いることができる。
【0033】
本発明では、センターピラー補強部材1が充分な衝撃吸収能を有し、且つ軽量であるためには、部材が全体的に高強度である必要がある。このため、本発明においては、センターピラー補強部材1において、強度変質部2を除く部位、特に、境界部Kから上側の位置の硬度H1を400Hv以上とすることが好ましい。また、この硬度値(400Hv)は、引張強度にして1200MPa以上であることとほぼ同等であるので、同様に、境界部Kから上側の位置の引張強度TS1を1200MPa以上とすることが好ましい。
【0034】
また、強度変質部2が、センターピラー補強部材1におけるその他の部位に先行して変形し、部材全体としての変形形態を良好なものとするためには、上述したように、断面2次モーメント(I)の2次微係数(f)が「0」となる位置よりも下側に強度変質部2を配置することに加え、強度変質部2と他の部位との強度比が大きいことが重要となる。本発明者等が鋭意検討した結果、センターピラー補強部材1において、強度変質部2を除く部位、特に境界部Kから上側の位置の硬度H1を400Hv以上とし、強度変質部2の硬度H2と、硬度H1との比(H2/H1)を、次式(H2/H1≦0.85)で表される範囲とすることにより、図4に例示するような良好な変形形態が得られることを見出した。これにより、本発明では、境界部Kから上側の位置の硬度H1を400Hv以上に規定している。
【0035】
またさらに、本発明者等が鋭意検討したところ、上述のような強度変質部2と他の部位との硬度の関係と同様、強度変質部2と他の部位との引張強度の関係においても、上記比例関係が成立することが明らかとなった。即ち、境界部Kから上側の位置の引張強度TS1を1200MPa以上とし、強度変質部2の引張強度TS2と前記引張強度TS1との比(TS2/TS1)を、次式(TS2/TS1≦0.85)で表される範囲とすることにより、図4に例示するような良好な変形形態が得られることを見出した。これにより、本発明では、境界部Kから上側の位置の引張強度TS1を1200MPa以上に規定している。
本発明のセンターピラー補強部材1においては、強度変質部2と、境界部Kから上側の位置との間の硬度又は引張強度の関係を上述のように規定することにより、良好な変形形態が得られ、自動車の側面衝突が発生した場合であっても高い衝突安全性を確保することが可能となる。
【0036】
図4の模式図に示すように、自動車の側面側に配されるサイドボディパネル80(図3を参照)に対し、側面衝突等によって大きな負荷荷重が付与された場合、このサイドボディパネル80が車内側に向けて変形するのに伴い、センターピラー補強部材1にも車内側に向けて過重負荷が付与される。この際、センターピラー補強部材1は、上述した範囲で規定された位置に強度変質部2が設けられており、この部位において変形が開始されるので、図示例のように、上部側においては車内側への変形が抑制される形態となる。これにより、センターピラー補強部材1やインナー補強部材90等が、搭乗者に接触するのが抑制されるので、仮に側面衝突が発生した場合であっても、高い衝突安全性を確保することが可能となる。
【0037】
一般に、自動車は、そのデザインや空力特性上の観点から、サイドボディパネル80が上部へ向かうに従って車内側に傾斜する構造とされているため、センターピラー補強部材の上部は、下部に比べて搭乗者に極めて近い位置に配されることになる。このため、センターピラー補強部材の上部が車内側に変形した場合には、搭乗者に接触してしまう虞がある。また、従来のセンターピラー補給部材においては、一般にセンターピラー補強部材は上部に向かうほど小寸に形成されていることから、この上部が低強度となり、衝突時の車内側への変形が起こりやすいという問題がある。
これに対し、本発明のセンターピラー補強部材は、上記構成により、図4に示す例のような(鎖線部参照)、境界部Kよりも下部に設けられた強度変質部2を起点として変形する形態となり、搭乗者に対してセンターピラー補強部材1やインナー補強部材90等が接触するのが抑制される。これにより、仮に自動車の側面衝突が発生した場合であっても、搭乗者が傷害を負うのが効果的に防止され、高い衝突安全性を備えたセンターピラー補強部材が実現できる。
【0038】
本発明に係るセンターピラー補強部材1に用いる鋼板としては、この分野において従来から用いられている鋼板材料を何ら制限無く用いることができる。また、このような鋼板を用いて、詳細を後述する製造方法においてホットプレス法によって成形しながら焼入れ処理を施すことにより、1200MPa級や1500MPa級、あるいは1800MPa級等、高強度鋼板からなるセンターピラー補強部材を実現することができる。
また、本発明においては、上記した如何なる鋼板を用いた場合であっても、詳細を後述する製造方法によって強度変質部2を設けることで、上記効果を得ることが可能となる。
【0039】
なお、強度変質部2は、図1(b)及び図3に示す例のように、センターピラー補強部材1に対する荷重負荷方向S(図4を参照)であり、自動車外部からの荷重負荷方向に対して概略平行である縦壁部41、42の内の何れか、あるいは両方に設けられていることが好ましい。これは、曲げ主体の変形が生じる際に、縦壁部41、42の変形抵抗に対する影響が最大となるので、この部位に強度変質部2を配置することが、変形形態を容易に制御できる点で最も効率が良いためである。
また、後述の製造方法において詳述するホットプレス法による成形の際、荷重負荷方向に垂直に位置する横壁部3はパンチの底となり、成形初期段階からの金型との接触が不可避である。従って、横壁部3は、金型による抜熱のために緩冷却とすることが困難であることから、製造上の観点からも、強度変質部2は縦壁部41、42に配置することが好ましい。
【0040】
また、本発明においては、強度変質部2を配置する位置を、車種によって大きく異なる実際のセンターピラー補強部材の構造に合わせて最適化し、上記範囲に規定しているが、基本的には、センターピラー補強部材の縦長方向の全長において下側の1/2よりも狭い範囲に配置することがより好ましい。この範囲以外の領域、つまり、センターピラー補強部材の縦長方向における上側の領域に軟化部位である強度変質部を配置すると、センターピラー補強部材を高強度化するメリットが失われてしまう。
【0041】
また、本発明においては、図5に示すように、強度変質部2が、センターピラー補強部材1の縦長方向において、自動車のボディサイドパネル80に取り付けられるドア50に備えられるドアウエスト補強部材51(鎖線部参照)に対応する位置よりも下側の位置に設けられていることがさらに好ましい。強度変質部2が、センターピラー補強部材1の縦長方向において、上述したようなドアウエスト補強部材51に対応する位置よりも下側に設けられていれば、側面衝突によってセンターピラー補強部材1が変形した場合であっても、センターピラー補強部材やその周辺部材等が搭乗者に接触するのをより効果的に防止できる。ここで、ドアウエスト補強部材51とは、ドア50に設けられるサイドウインドの下端近傍に位置するものであり、ドアパネルを車体前後方向に内部で連結することによってドア50を補強する部材である。
【0042】
また、本実施形態においては、センターピラー補強部材として、図1(a)、(b)に示すような上部に向かうに従って縮寸するとともに、図2の断面図に示すようなハット型形状を有するものを例に説明しているが、これには限定されない。上述したような、本発明において規定する構成の強度変質部は、あらゆる形状のセンターピラー補強部材にも適用することが可能である。
【0043】
なお、本実施形態においては、センターピラー補強部材1の断面2次モーメント(I)のみを算出し、2次微係数(f)を求めて境界部Kを設定することにより、低強度の軟化部位である強度変質部2の配置位置を決定しているが、本発明では、これには限定されない。例えば、図2に示すような略閉じ断面構造において、センターピラー補強部材1、リインフォース部材90及びインナー補強部材95を一体構造(略閉じ断面構造)と見なし、このような一体構造の断面2次モーメント(I)を算出して2次微係数(f)を求め、境界部を設定して強度変質部を配置することも可能である。このような場合、例えば、インナー補強部材についても断面略ハット型に構成することにより、センターピラー補強部材とインナー補強部材(並びにリインフォース部材)とを一体と見なして、曲げに対する抵抗が高くなるように構成することができる。
しかしながら、インナー補強部材は、一般に縦壁部の高さが低く、強度変質部を設けた場合でも、得られる効果が限られたものになるため、本発明においては、センターピラー補強部材1にのみ強度変質部を設けた構成とすることで、充分に大きな効果が得られる。
【0044】
以上説明したように、本発明に係るセンターピラー補強部材1によれば、センターピラー補強部材1の縦長方向において、該センターピラー補強部材1の断面2次モーメント(I)を縦長方向の各々の位置で2階微分することで得られる2次微係数(f)が、センターピラー補強部材1の縦長方向において「0」となる境界部Kよりも下側の位置に強度変質部2を設けた構成とすることにより、仮に自動車の側面衝突が生じて外部から荷重負荷が付与された場合であっても、センターピラー補強部材1の変形形態を適正に制御できるので、衝突の際の荷重負荷エネルギーを効果的に吸収することが可能となる。これにより、センターピラー補強部材1並びにインナー補強部材90等の車体構造部材が搭乗者に接触するのを効果的に防止することが可能となる。また、本発明では、鋼板の板厚を厚くしたりリブ等を設けたりする必要が無いので、センターピラー補強部材1、ひいては車体全体の軽量化が可能となる。従って、衝突安全性に優れたセンターピラー補強部材1を、安価な構成で実現することが可能となる。
【0045】
本発明のセンターピラー補強部材は、低強度の軟化部位である強度変質部を設けるにあたり、センターピラー補強部材構造に応じた断面2次モーメント(I)の2次微係数(f)を用い、この2次微係数(f)が「0」となる位置よりも下側に配置箇所を規定することで、如何なる形状寸法を有するセンターピラー補強部材であっても、変形形態を適正に制御することが可能となる。また、センターピラー補強部材をなす鋼板の板厚を薄くした場合でも、充分な強度及び衝突安全性が得られるので、センターピラー補強部材の軽量化、ひいてはセンターピラー補強部材が用いられる自動車の軽量化が実現できる。
【0046】
また、本発明のセンターピラー補強部材は、強度変質部を、主としてフェライトとパーライトの混合組織に一部ベイナイトを含む軟化組織とし、且つ、センターピラー補強部材の縦長方向において境界部から上側を、主としてマルテンサイトを含む硬化組織で構成することにより、変形形態をより適正に制御することが可能となる。このような効果は、強度変質部を、センターピラー補強部材の縦長方向において、自動車のボディサイドパネルに取り付けられるドアに備えられるドアウエスト補強部材に対応する位置よりも下側の位置に設けることで、より顕著なものとなる。
【0047】
以下、上述したような強度変質部2が設けられた、センターピラー補強部材1の製造方法について説明する。
本発明に係るセンターピラー補強部材1の製造方法は、センターピラー補強部材1を横幅方向に分断した際の断面2次モーメント(I)を、センターピラー補強部材の縦長方向の各々の位置で2階微分することで得られる2次微係数(f)が、センターピラー補強部材1の縦長方向において「0」となる位置である境界部Kよりも下側の位置に強度変質部2を設けるとともに、鋼板をAc点から溶融までの温度範囲に加熱した後、次いで、金型を用いて鋼板を成形しながら前記金型の内部で焼入れ処理を行う際、鋼板の少なくとも一部における冷却速度を、その他の部位よりも低速として相対的に緩冷することにより、強度変質部2を軟化部位として形成する方法である。
【0048】
本発明の製造方法では、センターピラー補強部材1を、上述のような、加熱した鋼板を金型で成形しながら、例えば金型内への冷却水の注入等によって鋼板を強制冷却する、所謂ホットプレス法によって製造する。また、本発明では、センターピラー補強部材1の下部に設ける強度変質部2を、上述のようなホットプレス法による鋼板の成形工程において、鋼板の一部、つまり、センターピラー補強部材1の下部にあたる部位のみを緩冷する方法によって設ける。
【0049】
上述のようなホットプレス法による工程において、金型内で焼入れ処理を施された鋼板は、マルテンサイトが多く生成された高強度組織となるので、本発明に係るセンターピラー補強部材1は高強度の部材となる。一方、同じ鋼板上において緩冷された一部、つまり強度変質部2の部位は、緩冷(徐冷)とすることによってマルテンサイト変態が起こらないため、主としてフェライトとパーライトの混合組織に一部ベイナイトを含む軟化組織となり、低強度の部位となる。
本発明のセンターピラー補強部材の製造方法は、上記条件によって鋼板を成形加工することにより、強度特性に優れるとともに、側面衝突時の変形形態を適正に制御可能なセンターピラー補強部材1を得ることができる。
【0050】
上述したような、加熱した鋼板を金型で成形しながら冷却し、焼入れ処理を行なうホットプレス法においては、材料、つまり本例では鋼板の冷却速度によって最終的な強度が決定される。この際、例えば、素板としてアルミめっき鋼板や裸冷延鋼板等を選定し(主としてCの含有量を規定)、局所的に冷却速度を変化させる焼鈍しを施す方法とすることにより、低強度の軟化部位とされた強度変質部を任意の位置に設けることが可能となる。このように、局所的に冷却速度を低下させる焼鈍し処理によって鋼板上に強度変質部を設ける方法としては、例えば、以下の(1)〜(3)に示すような方法が挙げられる。
(1) 金型内部の一部にセラミックスを埋め込み、この部分のみ熱伝導を遅くする。
(2) 予備成形において凹凸を局所的に設けた鋼板とした後、内部に凹部が設けられた金型を用いて最終成形を行なうことにより、空隙が生じた箇所を緩冷する(鋼板の内、金型に対して密着した部位と空隙を介した部位とでは、熱伝導が10倍以上となることから、空隙を介した部位を強度変質部に形成することが可能)。
(3) 水冷可能な金型を用い、鋼板の内、高強度が必要な部位、つまり、強度変質部を除く部位のみを水冷する。
【0051】
本発明の製造方法では、上記各方法について、例えば、金型製作コスト等を勘案しながら、適宜選択して採用することができる。ここで、例えば、上記(2)の方法を採用した場合には、金型と鋼板の密着部では平均冷速は100℃/sec以上であり、密着させない箇所では50℃/sec以下であることを利用し、マルテンサイト変態の臨界冷却速度が50℃/sec以上且つ100℃/sec以下となるように、鋼板の成分や加熱温度を制御することで、適切に強度変質部を配置することが可能である。
【0052】
以上説明したような、本発明のセンターピラー補強部材の製造方法によれば、センターピラー補強部材1の縦長方向において、センターピラー補強部材の断面2次モーメントを、縦長方向の各々の位置で2階微分することで得られる2次微係数が、センターピラー補強部材の縦長方向において「0」となる境界部Kよりも下側の位置に強度変質部2を設けるとともに、鋼板をAc点から溶融までの温度範囲に加熱した後、次いで、金型を用いて鋼板を成形しながら前記金型の内部で焼入れ処理を行う際、鋼板の少なくとも一部における冷却速度を、その他の部位よりも低速として相対的に緩冷することにより、強度変質部2を軟化部位として形成する方法なので、自動車の外部から荷重負荷が付与された場合でも変形形態を適正に制御でき、衝突の際の荷重負荷エネルギーを効果的に吸収することが可能なセンターピラー補強部材1を製造することができる。従って、衝突安全性に優れたセンターピラー補強部材1を、高い生産性で製造することが可能となる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明に係るセンターピラー補強部材及びその製造方法の実施例を挙げ、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、もとより下記実施例に限定されるものではなく、前、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0054】
[鋼板成分]
本実施例においては、下記表1に示すような成分組成の鋼板a〜eを準備し、各サンプルの素材とした。また、下記表1には、これらの鋼板a〜eのオーステナイト単相域となるAc点の温度も合わせて示した。ホットプレス法を用いて成形加工を行う場合には、成形前にAc点以上の温度に加熱し、オーステナイト単層とする必要がある。また、焼入れ処理を施した後の鋼板の強度は、主としてC量に依存する。
【0055】
下記表1中の鋼板a、b、eは、焼入れ処理の後、それぞれ1200MPa級、1500MPa級、1800MPa級程度の高強度となるように調整したものである。また、鋼板cは、鋼板bと到達強度はほぼ同等であるが、Mnの添加量を増やすことによって焼入れ性を改善したものである。また、鋼板dは、Siを添加していないものであり、焼き入れ性は鋼板bとほぼ同等である。
【0056】
【表1】

【0057】
[鋼板のホットプレス法による成形]
表1に示す各鋼板を用いて、以下に説明するようなホットプレス法を用いて成形加工を行い、センターピラー補強部材のサンプルを作製した。また、センターピラー補強部材の成形に用いる鋼板としては、板厚が1.8mmのものを使用した。
【0058】
ここで、自動車において実際に用いられているセンターピラーの形状や寸法は、車種によって様々であるが、本実施例では、モデル部材となるサンプルとして、図8(a)、(b)(図1(a)、(b)も参照)に示す形状及び寸法とされたものを用いて各種試験を行った。本実施例では、全ての評価試験において、アウター側のセンターピラー補強部材と、インナー側のインナーピラー部材として、ホットプレス法を用いて作製した部材を使用した。また、ホットプレス成形の条件としては、成形前に鋼板を900℃に加熱した後、ホットプレス成形開始時点の温度が850℃を下回らないような条件とした。
【0059】
また、センターピラー補強部材のサンプルに設ける強度変質部2は、図1(b)及び図3に示すように、アウター側のセンターピラー補強部材の縦壁部41に設けた。また、強度変質部2の配置位置は、図6(a)、(b)に示すような、センターピラー補強部材の断面2次モーメントの算出結果を基に決定した。ここで、図6(a)中に示す各寸法値は、センターピラーの高さ方向の位置(Z)を示し、図6(b)のグラフにおける縦軸は、図6(a)に示すセンターピラー補強部材1の縦長方向の座標を示している。
図6(a)、(b)に示すように、センターピラー補強部材1の縦長方向において100mm間隔で計算した断面2次モーメントは、上部においては大きく、また、下部に向かうに従って大きくなっており、小寸の上部が下部に比べて低強度で折れ曲がりやすいことを示している。また同様に、図6(b)中に、上記断面2次モーメントを位置(縦長方向の座標)で2階微分した2次微係数を示す。図6(b)に示すように、断面2次モーメントの2次微係数が「0」となるのは、下端12から約700mmの位置であり、この部位(境界部K)で、断面2次モーメントの変化率が極値を取っていることが分かる。即ち、この境界部Kが、センターピラー補強部材1の縦長方向において、折れ曲がり易さが最も急峻に変化している部位であることが明らかである。
【0060】
本実施例では、アウター側のセンターピラー補強部材には、表1に示すような種々の成分組成からなる鋼板を用いたが、インナー側のインナー補強部材には、鋼板bと近似した成分組成を有する鋼板(C=0.22、Si=0.25、Mn=1.20、Al=0.03、単位は質量%)を用いた。また、本実施例では、インナー補強部材には強度変質部を設けなかったが、これは、本実施例において採用した、強度変質部の形成方法における制約によるもので、縦壁部以外の位置に強度変質部を設けることが困難なため、縦壁部の深さが小さなインナー補強部材では効果が限られているためである。なお、本実施例では、強度変質部の形成を、後述のような水冷の有無で制御する方法を採用しているが、本発明における強度変質部は、例えば、熱伝導率の低いセラミックを埋め込んだ金型を用いる方法と採用することもでき、この場合には、縦壁部以外の位置も含めた、インナー補強部材への強度変質部の配置も可能となる。
【0061】
本実施例においては、強度変質部を形成するか否かを、水冷の有無によって制御した。このため、縦壁部の金型クリアランスは、板厚に対して200%と広く設定した。その上で、強度変質部以外の部位には、金型表面に水路を設けることにより、水冷却によって充分な冷却速度を確保することで、ほぼ100%のマルテンサイト変態を生じさせることにより、高い強度を確保した。一方、水冷却を行わない縦壁部の一部については、下死点においても金型との間にクリアランスが存在するために金型による抜熱が行われずに緩冷となるため、マルテンサイト変態が生じにくくなり、結果として組織がフェライトとパーライトの混合組織に一部マルテンサイトやベイナイトの混じるものとなり、低強度の部位となった。
【0062】
なお、鋼板a及び鋼板bを用いたサンプルについては、水冷の位置を変化させることにより、種々の強度変質部の異なるセンターピラー補強部材を得た(表2におけるサンプルNo.1〜10)。また、鋼板c、d、eを用いたサンプルについては、強度変質部を設けたものと設けないものの両方を作製し、評価試験を行った。なお、本実施形態では、用いた鋼板毎に成分(特に、C含有量)が異なるため、焼入れ組織となった際に得られる最終到達強度が異なっていた。また、センターピラー補強部材の各部位の強度としては、強度変質部及びそれ以外の部分で計5点のビッカース硬度試験を行い、その平均値の一覧を下記表2に示した。ここで、鋼板cを用いたサンプルについては、焼き入れ性が向上するMnを添加したために、水冷の有無による硬度の変化が、他の鋼板を用いたサンプルに比べて小さくなっていたが、強度変質部を意図したサンプルでは20%以上の硬度の違いが得られた。なお、本実施例では、20%程度の硬度差でも充分な効果が得られたが、本発明では、より厳しい条件においては、鋼板の焼き入れ性を強度変質部の作製方法に従って調整することができ、この場合には、Mn量の調整によって簡便に行なうことが可能である。
【0063】
また、詳細を後述するが、実際の自動車への取り付け状態と同様、各サンプルは、上部をルーフサイドレールに模した均一断面を有する部材に固定し、同様に、下部をシルに模した部材に固定して試験を行った。また、この際、センターピラー補強部材(アウター側:板厚1.8mm)の内側、つまり車内側にはインナー補強部材(インナー側:板厚1.2mm)配した。
【0064】
[評価試験方法]
本実施例において用いたルーフサイドレール及びシルは、全て板厚が3.2mmの590MPa級鋼板(JSH 590Y)を用いて作製した。また、各部材の間は、約50mm間隔のスポット溶接によって接合した。
【0065】
本実施例における評価試験は、実際の側面衝突を模擬した条件で行なった。
まず、ルーフサイドレール及びシルの左右端(図1(a)の横幅方向)を治具によって固定した。
次いで、半球状の治具(R=1000mm、125kg)を、その頂点が、図6(a)、(b)に示す座標で高さ500mmに位置するようにした状態で、側方より、速度15m/sでセンターピラー補強部材1側から衝突させた。この際、半球状治具に生じる反力を計測するとともに、センターピラー補強部材の内側に配されるインナー補強部材の稜線に、約100mm間隔で付与したマークの位置を、逐次計測して車内側への侵入量の指標とした。
【0066】
また、自動車側面における衝突安全性の指標としては、半球状の治具に生じた反力を、ある区間(0−20msecおよび10−20msec)で平均化した平均反力と、20msec時の侵入量(インナー補強部材のマーク位置)による変形形態により評価した。
【0067】
下記表2に、本実施例において作製したセンターピラー補強部材のサンプルの、強度変質部の位置並びに各試験結果の一覧を示す。
【0068】
【表2】

【0069】
[評価結果]
以下に、本実施例の評価結果について表2及び各図面を適宜参照しながら説明する。
図7のグラフに、鋼板bを用いたサンプルの変形形態を示す。図7のグラフは、強度変質部を持たない比較例であるNo.6のサンプルと、図4(a)、(b)に示す高さにして500〜250mmの位置の縦壁部に強度変質部を設けた本発明例であるNo.10(図3に相当)のサンプルに関し、20msec経過時のインナー補強部材の車内側への侵入量を比較したものである。図7に示すように、No.6のサンプルでは、相対的に断面強度の低くなる上部に変形が集中し、上部(下端から1100mmの位置付近)に部材の折れが発生していた。一方、強度変質部を持つNo.10のサンプルでは、その部位(下端から1100mmの位置付近)が率先的に変形し、エネルギーを吸収していたものと考えられ、その結果として、上部への変形集中が起こらないために折れが発生せず、20msec経過時の部材形状は、No.6のサンプルと比べると、鉛直に近く好ましい形態となった。そして、このような部材鉛直度を評価するため、最上部のマークの20msecでの位置と、下部の各マークの20msecでの位置の水平方向の差をそれぞれ算出し、2乗した上で総和し、その平方根を算出し、鉛直度として表2に示した(mmの次元を持つ数値となる)。もし、各マークの水平方向の位置が同じであれば、この算出値は0となり、衝突後、インナー補強部材の形状が鉛直となっていることを示す。つまり、この鉛直度の数値が小さいほど、センターピラー補強部材として好ましい特性を有していると考えられる。図7に示す衝突後の部材形態に対して鉛直度を求めると、No.10のサンプルでは86、No.6のサンプルでは110と数値化することができる。
【0070】
また、センターピラー補強部材の衝撃吸収能を示す平均反力(0−20msecの平均値)は、No.6とNo.10を比較すると、それぞれ93.6kN、97.3kNであり、強度変質部を有しているのにも関わらず、No.10のサンプルの方が高い値を示している。また、後半の平均荷重(10−20msec)を比較すると、その差は非常に大きなものとなり、No.6で60.4kN、No.10で74.9kNとなった。これは、強度変質部をもたないNo.6では、変形開始後に、あるタイミングで上部に折れが発生し、荷重伝達効率が大きく低下するためであると考えられる。一方、強度変質部を有するNo.10では、そのような折れが発生しないために、全体としての衝撃吸収能が高くなったものと考えられる。
【0071】
No.2〜5及びNo.7〜10の各サンプルは、それぞれ鋼板a及び鋼板bを用いて強度変質部の位置を種々に変化させたサンプルである。各サンプルは、鋼板強度が異なるために平均反力の値は異なるが、同じ位置に強度変質部を有するサンプル間で比べると、変形形態が類似していることが明らかとなった。まず、下端からの位置が1000〜250mmの範囲において、縦壁部に強度変質部を配置したNo.2及びNo.7のサンプルでは、上部に僅かな折れが生じていた。一方、平均反力で評価した場合には、強度変質部を持たないNo.1、No.5に比べ、全区間、特に後半の反力が向上しており、一定の効果を示すことが分かった。また、No.3〜5及びNo.8〜10のサンプルは、図6(a)、(b)に基づいて算出した断面2次モーメントの2次微係数が0となる境界部K(下端から約700mm)よりも下側に、強度変質部を配置した例である。これらのサンプルにおいては、No.2及びNo.7と異なり、変形形態の評価においても上部に折れが発生せず、また、平均反力も、強度変質部を持たないものよりも優れていた。
【0072】
本実施例のように、図1(a)、(b)〜図3に示すような部材形状のセンターピラー補強部材を用いた場合、最小限(下端からの位置が500〜250mm)の強度変質部の設定であっても、その効果はほとんど変わらなかった。一方、この結果は、センターピラー補強部材の断面形状を考慮しながら検討する必要がある。
【0073】
また、No.11〜No.16は、鋼板c、d、eを用いて作製したサンプルの、強度変質部の有無による差を比較したものである。上述したように、焼き入れ性の良い鋼板cを用いたサンプルでは、強度変質部の硬度が高く、一般部との差が小さい傾向が見られたが(No.12)、変形形態に関してはその影響は見られなかった。また、平均反力に関しては、後半の反力向上効果が若干小さいものの、強度変質部を持たないNo.11に比べれば改善していた。また、鋼板d、eを用いたサンプルについては、充分な一般部と強度変質部との硬度差が得られ、強度変質部を設けることで得られる効果が大きいことが明らかとなった。
【0074】
以上説明した実施例の結果より、本発明のセンターピラー補強部材が、仮に自動車の側面衝突が生じた場合であっても、センターピラー補強部材の変形形態を適正に制御でき、センターピラー補強部材並びに車体構造部材が搭乗者に接触するのを効果的に防止することが可能となることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明に係るセンターピラー補強部材の一例を模式的に説明する図であり、(a)はセンターピラー補強部材を自動車のルーフサイドレール及びシルに取り付けた状態を示す概略図、(b)は(a)の側面破断図である。
【図2】本発明に係るセンターピラー補強部材の一例を模式的に説明する図であり、ボディサイドパネルの内側に、センターピラー補強部材及びインナー補強部材が配置された状態を示す断面図である。
【図3】本発明に係るセンターピラー補強部材の一例を模式的に説明する図であり、センターピラー補強部材の縦壁部に設けられた強度変質部を示す概略図である。
【図4】本発明に係るセンターピラー補強部材の一例を模式的に説明する図であり、荷重負荷に対するセンターピラー補強部材の変形形態を示す概略図である。
【図5】本発明に係るセンターピラー補強部材の一例を模式的に説明する図であり、センターピラー補強部材に設けられる強度変質部と、自動車のドアに設けられるドアウエスト補強部材の配置関係を示す概略図である。
【図6】本発明に係るセンターピラー補強部材の実施例について模式的に説明する図であり、(a)は断面2次モーメントを求める際のセンターピラー補強部材の分断位置を示す概略図、(b)は(a)の位置で分断されたセンターピラー補強部材の断面2次モーメントと2次微係数との関係を示すグラフである。
【図7】本発明に係るセンターピラー補強部材の実施例について説明する図であり、衝突試験による変形時の、車内側への侵入寸法を示すグラフである。
【図8】本発明に係るセンターピラー補強部材の実施例について説明する図であり、作製したサンプル及び該サンプルを取り付けた部材の寸法を示す概略図である。
【符号の説明】
【0076】
1…センターピラー補強部材、2…強度変質部、41、42…縦壁部、50…ドア、51…ドアウエスト補強部材、80…ボディサイドパネル(自動車)、I…断面2次モーメント、f…2次微係数、K…境界部、H1、H2…硬度、TS1、TS2…引張強度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のボディサイドパネルの内側に配され、鋼板からなるセンターピラー補強部材であって、
当該センターピラー補強部材を横幅方向に分断した際の断面2次モーメントを、センターピラー補強部材の縦長方向の各々の位置で2階微分することで得られる2次微係数が、センターピラー補強部材の縦長方向において「0」となる境界部よりも下側の位置に、軟化部位である強度変質部が設けられていることを特徴とするセンターピラー補強部材。
【請求項2】
前記強度変質部が、主としてフェライトとパーライトの混合組織に一部ベイナイトを含む軟化組織であり、且つ、当該センターピラー補強部材の縦長方向において前記境界部から上側が、主としてマルテンサイトを含む硬化組織であることを特徴とする請求項1に記載のセンターピラー補強部材。
【請求項3】
前記強度変質部は、当該センターピラー補強部材の縦長方向において、前記自動車のボディサイドパネルに取り付けられるドアに備えられるドアウエスト補強部材に対応する位置よりも下側の位置に設けられることを特徴とする請求項1又は2に記載のセンターピラー補強部材。
【請求項4】
当該センターピラー補強部材の縦長方向において、前記境界部から上側の位置の硬度H1が400Hv以上とされており、前記強度変質部の硬度H2と前記硬度H1との比(H2/H1)が、次式(H2/H1≦0.85)で表される範囲とされていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のセンターピラー補強部材。
【請求項5】
当該センターピラー補強部材の縦長方向において、前記境界部から上側の位置の引張強度TS1が1200MPa以上とされており、前記強度変質部の引張強度TS2と前記引張強度TS1との比(TS2/TS1)が、次式(TS2/TS1≦0.85)で表される範囲とされていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のセンターピラー補強部材。
【請求項6】
当該センターピラー補強部材の縦長方向において、前記2次微係数が「0」となる境界部から上側が、前記境界部よりも下側に比べて小さな断面積に構成されていることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載のセンターピラー補強部材。
【請求項7】
当該センターピラー補強部材は、横壁部と該横壁部の両側端部から延出する縦壁部とからなる断面略ハット型に形成されているとともに、前記縦壁部は、当該センターピラー補強部材に対する荷重負荷方向である、自動車外部からの荷重負荷方向に対して概略平行とされるものであり、前記強度変質部が前記縦壁部に設けられていることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載のセンターピラー補強部材。
【請求項8】
自動車のボディサイドパネルの内側に配され、鋼板からなるセンターピラー補強部材を製造する方法であって、
当該センターピラー補強部材を横幅方向に分断した際の断面2次モーメントを、センターピラー補強部材の縦長方向の各々の位置で2階微分することで得られる2次微係数が、センターピラー補強部材の縦長方向において「0」となる境界部よりも下側の位置に強度変質部を設けるとともに、前記鋼板をAc点から溶融までの温度範囲に加熱した後、次いで、金型を用いて前記鋼板を成形しながら前記金型の内部で焼入れ処理を行う際、前記鋼板の少なくとも一部における冷却速度を、その他の部位よりも低速として相対的に緩冷することにより、前記強度変質部を軟化部位として形成することを特徴とするセンターピラー補強部材の製造方法。
【請求項9】
前記焼入れ処理を強制冷却によって行なうことを特徴とする請求項8に記載のセンターピラー補強部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−274590(P2009−274590A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−127732(P2008−127732)
【出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】