説明

タイヤ加硫装置

【課題】未加硫タイヤの側面部を各部分に応じて加熱及び加硫して各部分の加硫度を適宜調節する。
【解決手段】タイヤ加硫装置1は、未加硫タイヤ90を収納する加硫モールド10と、加硫モールド10のタイヤ幅方向外側面に接触して未加硫タイヤ90の側面部92を加熱するプラテン20、30とを備え、加硫モールド10内で未加硫タイヤ90を加熱して加硫する。プラテン20、30の加硫モールド10に接触して伝熱する伝熱面22、32に、タイヤ周方向に沿って設けられて外表面が伝熱面22、32の一部を構成する、伝熱面22、32の部材よりも熱伝導率が低い低熱伝導部材23、33を設ける。低熱伝導部材23、33からの熱伝導を抑制しつつ、プラテン20、30で加硫モールド10を加熱して、未加硫タイヤ90の側面部92を加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加硫モールド内に収納した未加硫タイヤを加熱して加硫するタイヤ加硫装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤ等の各種のタイヤは、未加硫タイヤを加硫モールド内で加熱して加硫成型することで、トレッドパターンを含む所定形状に形成されて製造される。また、従来、複数に分割された加硫モールドを組み合わせて未加硫タイヤを加硫モールド内に収納し、プラテン等により加硫モールドを介して未加硫タイヤを加熱して、未加硫タイヤを加硫するタイヤ加硫装置が使用されている。
【0003】
図3は、従来のタイヤ加硫装置の例を示す要部断面図である。
このタイヤ加硫装置100は、図示のように、未加硫タイヤ90を収納する加硫モールド110と、加硫モールド110を囲むコンテナリング101と、加硫モールド110を上下方向から挟む一対のプラテン102、103と、未加硫タイヤ90内に配置されるブラダ(図示せず)とを備えている。また、加硫モールド110は、未加硫タイヤ90のトレッド部91と両側面部92をそれぞれ成型するトレッドモールド111とサイドモールド112、113とを有する。
【0004】
タイヤ加硫装置100は、スチームにより未加硫タイヤ90を内面側から加熱するとともに、コンテナリング101とプラテン102、103を、内部の各流路Rにスチームを供給して加熱する。このコンテナリング101でトレッドモールド111を、プラテン102、103でサイドモールド112、113を加熱して、加硫モールド110内の未加硫タイヤ90を加熱して加硫する。その際、タイヤ加硫装置100は、コンテナリング101とプラテン102、103で、それぞれ接触する部材を接触面の全域で均一に加熱(図3の各矢印参照)し、加硫モールド110を介して未加硫タイヤ90の各部を同等に加熱する。
【0005】
ところで、未加硫タイヤ90は、適切な温度分布で加熱することで、全体が均一に加硫される。ただし、未加硫タイヤ90は、加熱時の上限温度が異なる複数の部材から形成され、かつ、各部分間で厚さが異なるため、最適な加硫条件がタイヤ各部で異なる。また、加硫中の未加硫タイヤ90の熱履歴や、温度と時間の関数から求まる積分値(温度×時間)等により定まる加硫度も、タイヤ各部に応じて必要とする程度が異なり、規定加硫度を超えた部分は過加硫に、規定加硫度に達しない部分は未加硫(加硫不足)となる。そのため、未加硫タイヤ90は、加硫の均一性と、加硫度に応じたタイヤの加硫品質を向上させる観点から、各部分に応じて加熱及び加硫して、各部分の加硫度を適宜調節するのが望ましい。
【0006】
具体的には、未加硫タイヤ90は、比較的厚さが均一なトレッド部91に対して、側面部92が相対的に薄く形成される。また、側面部92内で厚さが変化して、相対的に厚いショルダ部93とビード部94で未加硫や加硫遅れが生じ易く、それらの間の相対的に薄いサイドウォール部95で過加硫が生じ易くなっている。そのため、未加硫タイヤ90は、ショルダ部93やビード部94よりもサイドウォール部95への熱の供給量を少なくして、サイドウォール部95を相対的に低い温度に加熱する等して、側面部92の加硫を制御するのが望ましい。このように、未加硫タイヤ90は、側面部92内に最適な加硫条件が異なる部分が混在しており、側面部92の加硫度を調節する必要性が大きい。
【0007】
また、近年では、車両の燃費を低減させるため、タイヤの全体を肉薄化して軽量化を図ることが要求されている。その際、タイヤの安全性を維持するため、未加硫タイヤ90のサイドウォール部95が最も薄く形成される。このような未加硫タイヤ90では、サイドウォール部95が一層薄くなり、より過加硫が生じ易くなる。同時に、側面部92内の厚さの差も大きくなり、より薄いサイドウォール部95が、加硫時に多くの熱の供給を要するショルダ部93とビード部94に近接して設けられて、側面部92の加熱と加硫度の調節が更に困難になる。
【0008】
しかしながら、従来のタイヤ加硫装置100では、コンテナリング101とプラテン102、103による加熱温度を互いに異なる温度に設定できるものの、各プラテン102、103内では均一な加熱となる。そのため、プラテン102、103内での加熱の調節が難しく、加硫モールド110を介して、未加硫タイヤ90の側面部92の全体が同等に加熱されて、側面部92の各部分が同じ温度で加硫される傾向がある。従って、従来のタイヤ加硫装置100では、側面部92の各部分の加硫条件に応じて、それぞれ熱の供給量を変化させ、各加硫度を適宜調節するのは困難であり、更なる改良が求められている。
【0009】
これに対し、従来、プラテンと金型間に熱伝導抑制リングを設け、熱伝導抑制リングのサイドウォール部に対応する箇所に形成した空隙部により金型に伝わる熱の一部を遮ることで、サイドウォール部の過加硫を抑制したタイヤ加硫装置が知られている(特許文献1参照)。
ところが、空隙部内の空気層は、断熱層としては有効だが、空隙部内で複雑な熱伝導(接触、対流、輻射)を生じさせる。そのため、この従来のタイヤ加硫装置では、未加硫タイヤの側面部に対する必要な熱の供給と側面部の温度をコントロールするのは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような従来の問題に鑑みなされたものであって、その目的は、未加硫タイヤを安定して加硫するとともに、未加硫タイヤの側面部を各部分に応じて加熱及び加硫して各部分の加硫度を適宜調節し、未加硫タイヤの加硫の均一性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、未加硫タイヤを収納する加硫モールドと、加硫モールドのタイヤ幅方向外側面に接触して未加硫タイヤの側面部を加熱するプラテンとを備え、加硫モールド内で未加硫タイヤを加熱して加硫するタイヤ加硫装置であって、プラテンが、加硫モールドに接触して伝熱する伝熱面と、伝熱面にタイヤ周方向に沿って設けられて外表面が伝熱面の一部を構成する、伝熱面の部材よりも熱伝導率が低い低熱伝導部材と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、未加硫タイヤを安定して加硫できるとともに、未加硫タイヤの側面部を各部分に応じて加熱及び加硫して各部分の加硫度を適宜調節でき、未加硫タイヤの加硫の均一性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態のタイヤ加硫装置を模式的に示す要部断面図である。
【図2】加硫モールドの温度変化を模式的に示す断面図である。
【図3】従来のタイヤ加硫装置の例を示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のタイヤ加硫装置の一実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態のタイヤ加硫装置を模式的に示す要部断面図であり、型閉めした状態のタイヤ加硫装置を切断して、左右方向の中央線を挟んだ一方側(左側)を示す半断面図である。
【0016】
タイヤ加硫装置1は、図示のように、未加硫タイヤ90を収納する加硫モールド10と、未加硫タイヤ90内に配置されるブラダ又は剛体コア(ここではブラダ)(図示せず)とを備え、加硫モールド10内で未加硫タイヤ90を加熱して加硫する。なお、本発明では、タイヤ幅方向、タイヤ周方向、タイヤ半径方向というときには、それぞれ加硫モールド10内の未加硫タイヤ90の幅方向(図では上下方向)、周方向、半径方向(図では左右方向)のことをいう。また、タイヤ加硫装置1の各構成に関する方向も、これら加硫モールド10内の未加硫タイヤ90に基づく各方向で表す。
【0017】
加硫モールド10は、未加硫タイヤ90の外面形状を規定する外型であり、上下に対向して配置される上サイドモールド11及び下サイドモールド12と、それらの間に配置されて、タイヤ周方向に複数に分割されたトレッドモールド(セクターモールド)13とを有する。また、加硫モールド10は、複数のトレッドモールド13がタイヤ半径方向に移動可能に、かつ、上サイドモールド11と下サイドモールド12が接近及び離間する方向に相対移動可能に構成されている。
【0018】
タイヤ加硫装置1は、これら各モールド11、12、13を、互いに離間した開放(型開き)位置(図示せず)と、所定位置に組み合わせて密着させた閉鎖(型閉め)位置(図1に示す位置)との間で移動させる。タイヤ加硫装置1は、この型閉め位置への移動により、加硫モールド10内に未加硫タイヤ90とブラダを収納し、加硫モールド10内に未加硫タイヤ90の形状に応じたキャビティKを区画し、その中に未加硫タイヤ90を収納して加硫成型する。その際、トレッドモールド13で、未加硫タイヤ90のトレッド部91を、一対のサイドモールド11、12で、未加硫タイヤ90の両側面部92(ショルダ部93からビード部94までの範囲)を、それぞれ成型(型付け)して、タイヤを所定の外面形状に形成する。そのため、各モールド11、12、13は、キャビティKを区画する面が、未加硫タイヤ90の各部の形状に応じた凹曲面状をなし、互いに段差等なく滑らかに連続する成型面に形成されている。以下、これら各モールド11、12、13を含む各部について具体的に説明する。
【0019】
サイドモールド11、12は、それぞれ環状をなし、加硫モールド10内に収納された未加硫タイヤ90の両側面に当接して、未加硫タイヤ90を上下方向から挟み込む。また、下サイドモールド12は、下プラテン30の上面に取り付けられて、加硫モールド10内での位置が固定されている。これに対し、上サイドモールド11は、下プラテン30の上方で上下方向に移動可能な上プラテン20の下面に取り付けられている。上プラテン20は、その上方に垂直に設置されたピストン・シリンダ機構等の昇降手段(図示せず)により上下方向に移動(昇降)し、上サイドモールド11を下サイドモールド12に離間及び接近させる。この各方向の変位に伴い、加硫モールド10が開放及び閉鎖され、未加硫タイヤ90の内部への収納と取り出しとが行われる。
【0020】
複数のトレッドモールド13は、それぞれ平面視弧状をなし、タイヤ周方向に組み合わされて全体として環状モールドを形成する。また、トレッドモールド13は、タイヤ半径方向外側に配置された複数のセグメント2のそれぞれに取り付けられ、各セグメント2と一体に移動する。セグメント2は、それぞれタイヤ半径方向外側の背面に、タイヤ半径方向の移動を案内する傾斜ガイド部2Aが形成されている。これら複数のセグメント2のタイヤ半径方向外側には、それらを囲んで、トレッドモールド13をタイヤ半径方向に同期して移動させるための筒状のアウターリング(コンテナリング)3が、加硫モールド10の中心線方向に移動可能に設けられている。
【0021】
アウターリング3は、上端が、上プラテン20の上方で上下方向に移動可能な移動プレート4の下面に取り付けられている。移動プレート4は、ピストン・シリンダ機構等の昇降手段(図示せず)により上下方向に昇降して、アウターリング3を移動させる。また、アウターリング3は、内周面の傾斜面3Aが、セグメント2の傾斜ガイド部2Aと同一勾配で傾斜して形成されている。傾斜面3Aには複数のガイド溝(図示せず)が形成され、各ガイド溝が、各傾斜ガイド部2Aに固定されたスライドレール(図示せず)に連結されて、それらが傾斜方向に摺動可能に係合している。従って、アウターリング3が上下方向に移動すると、傾斜面3Aと傾斜ガイド部2Aとが傾斜方向に沿って摺動し、傾斜面3Aからセグメント2にタイヤ半径方向の内外方向の力が作用する。これにより、複数のセグメント2とトレッドモールド13がタイヤ半径方向に変位し、下プラテン30の上面に沿ってタイヤ半径方向の内側又は外側に移動(拡縮)する。
【0022】
タイヤ加硫装置1は、未加硫タイヤ90を囲んで、上下のサイドモールド11、12を型閉め位置に配置するとともに、複数のトレッドモールド13をタイヤ半径方向内側に移動させ、トレッドモールド13を互いに当接させて加硫モールド10を型閉めする。また、アウターリング3を下方に押し付けながらブラダを膨張させて、未加硫タイヤ90を加硫モールド10の成型面に向けて所定圧力で押圧する。同時に、未加硫タイヤ90を内外面側から加熱して加硫成型を進行させる。加硫終了後は、ブラダを収縮させて、各モールド11、12、13を互いに離間させて型開きし、加硫モールド10内から加硫済みタイヤを取り出す。
【0023】
ここで、本実施形態では、アウターリング3とプラテン20、30を各設定温度に加熱して加硫モールド10に伝熱し、加硫モールド10を加熱して、その内部の未加硫タイヤ90を加硫温度に加熱する。このように、アウターリング3とプラテン20、30は加熱部材であり、それぞれの内部に熱源3B、21、31が設けられている。これら熱源3B、21、31は、アウターリング3とプラテン20、30に熱を供給するための熱供給手段であり、例えば、電気ヒータ、電磁誘導加熱手段、又は、スチームや温水等の加熱流体が循環する流路からなる。ここでは、熱源3B、21、31は、スチームが循環する流路からなり、アウターリング3とプラテン20、30の内部の所定位置に形成され、供給源(図示せず)から加熱されたスチームが順次供給されて循環した後に、外部にスチームが排気される。
【0024】
アウターリング3とプラテン20、30は、熱源3B、21、31からの熱で加熱されて、加硫モールド10を介して、未加硫タイヤ90を加熱する。その際、アウターリング3は、接触するセグメント2に伝熱して、主に、トレッドモールド13と未加硫タイヤ90のトレッド部91を加熱する。これに対し、プラテン20、30は、加硫モールド10を挟んで一対設けられて、それぞれ各サイドモールド11、12に接触して配置されており、サイドモールド11、12に伝熱して、主に、未加硫タイヤ90をタイヤ幅方向外側から加熱する。このように、プラテン20、30は、タイヤ幅方向の両外側から加硫モールド10を挟み込んで配置され、加硫モールド10のタイヤ幅方向外側面に接触して、加硫モールド10内の未加硫タイヤ90の側面部92を加熱する。
【0025】
また、プラテン20、30は、熱源21、31に加えて、加硫モールド10のサイドモールド11、12に接触して伝熱するための伝熱面22、32と、外表面が伝熱面22、32の一部を構成する低熱伝導部材23、33とを有する。伝熱面22、32は、上記のように、加硫モールド10のタイヤ幅方向外側面に接触する接触面、及び、内部の熱を接触する加硫モールド10に伝熱して加硫モールド10を加熱する加熱面であり、低熱伝導部材23、33が加硫モールド10と接触する所定位置に設けられている。
【0026】
低熱伝導部材23、33は、周囲の伝熱面22、32の部材(プラテン20、30の本体を構成する部材)よりも熱伝導率が低い部材からなり、伝熱面22、32に、タイヤ周方向に沿って設けられている。この低熱伝導部材23、33は、断熱材や合成樹脂、又は、プラテン20、30の本体が金属製のときには、その金属よりも低熱伝導率の金属等からなり、加硫モールド10に接触する外表面が伝熱面22、32と同一平面になるように、伝熱面22、32に埋め込まれている。また、低熱伝導部材23、33は、例えば、断面矩形状の円環状に形成されて、伝熱面22、32の一部に形成された円環状凹溝に収納され、その状態でプラテン20、30に取り付けられて、外表面が伝熱面22、32の一部になる。或いは、低熱伝導部材23、33は、タイヤ周方向に分割されて複数の扇状に形成され、伝熱面22、32にタイヤ周方向に等間隔で形成された扇状凹部内に収納されて、全体として環状をなすように配置される。このように、低熱伝導部材23、33は、伝熱面22、32内におけるタイヤ半径方向の一部の範囲に設けられて、未加硫タイヤ90の所定のタイヤ半径方向範囲に対向して配置される。
【0027】
プラテン20、30は、低熱伝導部材23、33を一部に含む伝熱面22、32で加硫モールド10に接触して、伝熱面22、32を通した伝熱により、加硫モールド10のサイドモールド11、12を、それぞれ接触する伝熱面22、32からの各伝熱量に応じて加熱する。また、このプラテン20、30は、熱源21、31が、低熱伝導部材23、33を除いた伝熱面22、32の内側に設けられて、低熱伝導部材23、33と位置をずらして配置されている。即ち、熱源21、31は、プラテン20、30の内部の低熱伝導部材23、33と重複しない位置に配置されており、主に配置位置の伝熱面22、32(低熱伝導部材23、33以外の部分)に、加硫モールド10と未加硫タイヤ90を加熱するための熱を供給する。伝熱面22、32は、この供給された熱を、接触する加硫モールド10のサイドモールド11、12へ伝熱する。これに対し、低熱伝導部材23、33は、周囲の伝熱面22、32等の部材を介して熱源21、31から伝わる熱を、熱伝導を抑制しつつ加硫モールド10の接触範囲に伝熱する。
【0028】
本実施形態では、低熱伝導部材23、33は、未加硫タイヤ90のサイドウォール部95に合わせて伝熱面22、32に設定される、伝熱面22、32内のサイドウォール部95に一致する所定範囲に設けられる。これにより、低熱伝導部材23、33は、伝熱面22、32のサイドウォール部95に対応する部分に配置され、加硫モールド10のサイドウォール部95を成型する範囲に接触する。また、熱源21、31は、プラテン20、30内で、タイヤ半径方向に分割されて、低熱伝導部材23、33を挟んで、そのタイヤ半径方向の両側に、かつ、未加硫タイヤ90のショルダ部93とビード部94に対応する部分に配置される。低熱伝導部材23、33は、これらプラテン20、30内の分割された熱源21、31間に設けられて、サイドウォール部95へ向かう伝熱を抑制する。
【0029】
図2は、未加硫タイヤ90を加硫するときの加硫モールド10の温度変化を模式的に示す断面図であり、タイヤ加硫装置1の下サイドモールド12付近を示している。なお、以下では、下サイドモールド12と下プラテン30を例に、加硫モールド10の加熱や温度変化について説明するが、上サイドモールド11と上プラテン20についても同様である。
下サイドモールド12(図2A参照)は、一体をなすため、局部的に加熱の温度や熱の供給量が異なるときでも、時間の経過に伴い、温度差を消滅させるように熱が移動して、全体が均一な温度になる。そのため、加硫開始前の下サイドモールド12は均一な温度に保たれる。
【0030】
続いて、加硫を開始して加硫モールド10に未加硫タイヤ90を収納すると(図2B参照)、未加硫タイヤ90は下サイドモールド12よりも低温であるため、下サイドモールド12は、表面の熱が未加硫タイヤ90に奪われる。これに伴い、加硫開始直後の下サイドモールド12は、未加硫タイヤ90に接触する表面側部分12Aの温度が低下して下プラテン30に接触する裏面側部分12Bの温度よりも低くなり、両部分12A、12B間で温度差が生じる。この下サイドモールド12に対し、低下した温度を回復させるため、伝熱面32から下サイドモールド12の接触面に伝熱して、下プラテン30から熱が供給される。その際、下プラテン30(図2C参照)は、低熱伝導部材33により、その接触範囲の下サイドモール12への伝熱を抑制しつつ、主に熱源31が設けられた部分の伝熱面32から下サイドモールド12へ伝熱する。
【0031】
下サイドモールド12は、低熱伝導部材33と接触しない非接触部分12Cが、伝熱面32を通して熱源31から供給される熱で加熱されて温度が上昇する。一方、低熱伝導部材33に接触する接触部分12Dは、両側の非接触部分12Cからの熱の移動等により加熱されるものの、低熱伝導部材33により、下プラテン30からの直接の熱の供給が妨げられ、非接触部分12Cよりも低い温度に維持される。その結果、未加硫タイヤ90の側面部92は、非接触部分12Cと接触部分12Dにより各々加熱されて、厚いショルダ部93とビード部94への熱の供給量が多くなり、それらの間の薄いサイドウォール部95への熱の供給量が少なくなる。これにより、側面部92は、サイドウォール部95での過加硫の発生が防止され、かつ、各部93、94、95が、それぞれの加硫条件に応じて加熱及び加硫されて加硫度が調節され、設定された各加硫度で加硫される。この下プラテン30と上プラテン20による両側面部92の加熱(図1参照)と、アウターリング3によるトレッド部91の加熱により、未加硫タイヤ90の全体が過加硫や未加硫が生じることなく加硫されて、製品タイヤが製造される。
【0032】
以上説明したように、このタイヤ加硫装置1では、伝熱面22、32の一部に低熱伝導部材23、33を設けたため、低熱伝導部材23、33が接触するサイドモールド11、12の所定部分への伝熱を抑制する等して、サイドモールド11、12の加熱を調節できる。また、サイドモールド11、12を介して、未加硫タイヤ90の側面部92の加熱を制御できるため、その各部分をそれぞれに適した加硫条件で加熱及び加硫して、加硫度を適宜調節できる。これにより、未加硫タイヤ90を適切な温度分布で加熱して、全体を均一に加硫でき、加硫の均一性と、加硫度に応じたタイヤの加硫品質を向上させることができる。
【0033】
加えて、低熱伝導部材23、33の材質、寸法、形状等を変更することで、その熱伝導率やサイドモールド11、12への伝熱特性を容易に変更できる。そのため、未加硫タイヤ90の種類や形状、側面部92の加硫条件の変更等に柔軟に対応して、側面部92の加熱や加硫度を容易に調節でき、各種の未加硫タイヤ90を高い均一性を維持して安定して加硫できる。また、上記した従来のタイヤ加硫装置と異なり、装置内に大きな空隙部ができないため、気体の熱膨張に伴う損害の発生を抑制できる。同時に、装置内の各部材に歪みや変形等も生じ難いため、未加硫タイヤ90の安定した加硫を確保して、繰り返し同様な条件で加硫成型できる。更に、低熱伝導部材23、33を使用することで、複雑な熱伝導を生じさせる空隙部と比べて、側面部92に対する必要な熱の供給と側面部92の温度を容易にコントロールできる。
【0034】
従って、本実施形態のタイヤ加硫装置1によれば、必要な熱の供給をコントロールできるとともに、未加硫タイヤ90を安定して加硫できる。また、未加硫タイヤ90の側面部92を各部分に応じて加熱及び加硫して各部分の加硫度を適宜調節できる。これにより、過加硫や未加硫の部分が生じるのを防止して、未加硫タイヤ90の加硫の均一性とタイヤの品質を向上させることもできる。また、熱源21、31を、低熱伝導部材23、33と位置をずらして伝熱面22、32の内側に設けたため、伝熱面22、32からサイドモールド11、12の必要な部分へ確実に伝熱して、充分な熱量を供給できる。同時に、低熱伝導部材23、33の温度上昇を抑制しつつ、低熱伝導部材23、33からサイドモールド11、12への伝熱を一層低減できるため、側面部92の加熱の制御機能を高めて、確実かつ効果的に加硫度を調節できる。更に、低熱伝導部材23、33を断熱材から構成することで、低熱伝導部材23、33からサイドモールド11、12への伝熱を一層抑制して、より精度よく加硫度を調節できる。
【0035】
ここで、サイドウォール部95は、上記のように、相対的に薄く形成されて過加硫が生じ易く、加硫度の調節も難しい部分である。そのため、低熱伝導部材23、33は、サイドウォール部95に対応する部分に配置するのが好ましく、これにより、過加硫の発生を抑制できるとともに、側面部92の加硫度を適宜調節しながら未加硫タイヤ90を加硫できる。また、熱源21、31を、この低熱伝導部材23、33のタイヤ半径方向両側に配置することで、熱の供給量を多くする必要があるショルダ部93とビード部94へ充分な量の熱を供給でき、それらを確実に加熱して設定された加硫度で加硫できる。併せて、タイヤの種類やサイズが変更されてサイドウォール部95の位置が変化しても、サイドウォール部95を低熱伝導部材23、33の配置範囲に、ショルダ部93とビード部94を熱源21、31の配置範囲に主に位置させて、それらを上記と同様に加熱できる。ただし、低熱伝導部材23、33は、未加硫タイヤ90の側面部92に設定された各加硫度に応じて、サイドウォール部95に対応する部分の全体又は一部に設けてもよく、サイドウォール部95以外の部分に対応させて設けてもよい。
【0036】
また、低熱伝導部材23、33は、サイドモールド11、12とトレッドモールド13に分割された加硫モールド10を備えたタイヤ加硫装置1に好適であるが、タイヤ幅方向に2分割された加硫モールド等、上記と異なる種々の加硫モールドを備えたタイヤ加硫装置にも適用できる。この場合でも、低熱伝導部材23、33により、プラテン20、30から各加硫モールドへの熱伝導を抑制して、上記した各効果が得られる。
【符号の説明】
【0037】
1・・・タイヤ加硫装置、2・・・セグメント、2A・・・傾斜ガイド部、3・・・アウターリング、3A・・・傾斜面、3B・・・熱源、4・・・移動プレート、10・・・加硫モールド、11・・・上サイドモールド、12・・・下サイドモールド、13・・・トレッドモールド、20・・・上プラテン、21・・・熱源、22・・・伝熱面、23・・・低熱伝導部材、30・・・下プラテン、31・・・熱源、32・・・伝熱面、33・・・低熱伝導部材、90・・・未加硫タイヤ、91・・・トレッド部、92・・・側面部、93・・・ショルダ部、94・・・ビード部、95・・・サイドウォール部、K・・・キャビティ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未加硫タイヤを収納する加硫モールドと、加硫モールドのタイヤ幅方向外側面に接触して未加硫タイヤの側面部を加熱するプラテンとを備え、加硫モールド内で未加硫タイヤを加熱して加硫するタイヤ加硫装置であって、
プラテンが、加硫モールドに接触して伝熱する伝熱面と、伝熱面にタイヤ周方向に沿って設けられて外表面が伝熱面の一部を構成する、伝熱面の部材よりも熱伝導率が低い低熱伝導部材と、を有することを特徴とするタイヤ加硫装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたタイヤ加硫装置において、
プラテンが、低熱伝導部材と位置をずらして伝熱面の内側に設けられた、伝熱面に熱を供給する熱源を有することを特徴とするタイヤ加硫装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載されたタイヤ加硫装置において、
低熱伝導部材が、伝熱面の未加硫タイヤのサイドウォール部に対応する部分に配置されていることを特徴とするタイヤ加硫装置。
【請求項4】
請求項3に記載されたタイヤ加硫装置において、
熱源が、タイヤ半径方向に分割されて、低熱伝導部材のタイヤ半径方向両側に配置されていることを特徴とするタイヤ加硫装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載されたタイヤ加硫装置において、
加硫モールドが、未加硫タイヤのトレッド部を成型するトレッドモールドと、未加硫タイヤの両側面部を成型する一対のサイドモールドとを有し、
プラテンが、加硫モールドを挟んで一対設けられて各サイドモールドに接触して配置されていることを特徴とするタイヤ加硫装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載されたタイヤ加硫装置において、
低熱伝導部材が、断熱材からなることを特徴とするタイヤ加硫装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−230331(P2011−230331A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−101259(P2010−101259)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】