説明

タンタル化合物、その製造方法、タンタル含有薄膜、及びその形成方法

【課題】ハロゲン元素等を含まないタンタル含有膜及び目的とする元素を含んだ各種タンタル含有膜の作り分けが可能な新規なタンタル化合物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)


(式中Rは炭素数2から6の直鎖状アルキル基。)等で表されるタンタル化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なタンタル化合物及びその製造方法に関するものである。本発明のタンタル化合物は化学気相成長法(CVD法)または原子層蒸着法(ALD法)によるタンタル含有薄膜の形成に有用である。また、半導体素子の製造に有用なタンタル含有薄膜の形成方法及びタンタル含有薄膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の高性能化にともない素子構造の微細化が進んでいる。素子内の配線幅が細くなり従来配線材料として使用されてきたアルミニウムでは信号伝達の遅延が問題となるため、銅が使用されるようになってきた。銅は抵抗が低いという特徴をもつが、配線間の絶縁膜に使用される酸化シリコン中に拡散し易く絶縁膜の性能を低下させるという欠点を持つ。このため、配線と絶縁膜の間に拡散を防止するためのバリア膜を設けるという方法が取られている。バリア膜としては銅の拡散防止能の高さから窒化タンタル膜が一般に使用されている。しかし、窒化タンタル膜は銅配線をメッキにより形成するための銅シード膜との密着性が悪く、配線形成時あるいは配線形成後の平坦化の際に銅シード膜との間で剥離が起こり欠陥発生の原因となる。このため、バリア膜である窒化タンタル膜と銅シード膜の間に金属タンタル膜を形成することにより剥離を防止する方法が取られている。
【0003】
現在、窒化タンタル膜及び金属タンタル膜は主としてスパッタによる物理気相成長法(PVD法)により形成されている。PVD法では凹凸のある面に均一な膜を形成することが難しく、今後、半導体素子の微細化が進むと複雑な3次元構造の表面に均一で薄い膜を形成することが必要となるため金属のハロゲン化物、アミド化合物、有機金属化合物等の原料気体を分解して膜を堆積させる化学気相成長法(CVD法)あるいは基板表面に吸着させたこれらの原料を分解して膜を堆積させる原子層蒸着法(ALD法)による形成が検討されている。
【0004】
CVD法あるいはALD法により窒化タンタル膜及び金属タンタル膜を形成する場合、ひとつの反応槽内で同一のタンタル原料から両方の膜を形成できることが望ましく、このような形成方法の原料としてTaCl、TaBr等のハロゲン化物が検討されている(例えば非特許文献1参照)。また、窒化タンタル膜の原料としてはTa(NMe、Ta(NEt(例えば非特許文献2参照)、BuN=Ta(NEt(例えば非特許文献3参照)等のアミド系化合物が検討されている。しかし、ハロゲン化物は融点が高く昇華により気化させる必要がありCVD法あるいはALD法の原料としては使用し難い上、膜中に残存したハロゲンによる膜の腐食、密着性の低下等の問題がある。一方、アミド系化合物では膜中に窒素が残るため、窒化タンタル膜の形成は可能だが金属タンタル膜の形成が困難である。このため、分子中にハロゲン、窒素を含まないCVDあるいはALD用タンタル原料が求められており、((Si(CH)C)Ta(CO)(特許文献1参照)あるいは((Si(CH)CTaH(特許文献2参照)といった有機金属化合物を使用する方法が検討されている。しかし、これらのタンタル化合物は熱安定性が低く安定に気化させることが難しいという問題がある。
【0005】
タンタルを含む有機金属化合物として知られているものにCpTaH(非特許文献4参照)、CpTa(CO)H(非特許文献5参照)がある。
【0006】
【特許文献1】米国特許第6491987号明細書
【特許文献2】米国特許第6743473号明細書
【非特許文献1】X.Chen,H.L.Frisch,A.E.Kaloyeros,B.Arkles and J.Sullivan,J.Vac.Sci.Technol.B 1999,17,182
【非特許文献2】K.Sugiyama,S.Pac,Y.Takahashi and S.Motojima,J.Electrochem.Soc. 1975,122,1545
【非特許文献3】M.H.Tsai,S.C.Sun,C.E.Tsai,S.H.Chuang and H.T.Chiu,J.Appl.Phys. 1996,79,6932
【非特許文献4】M.L.H.Green,J.A.McCleverty,L.Pratt and G.Wilkinson,J.Chem.Soc. 1961,4854
【非特許文献5】A.H.Klazinga and J.H.Teuben,J.Organomet.Chem. 1978,157,413
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の第一の目的は、その分子中にハロゲン元素及び窒素を含まず、これらの元素を含まないタンタル含有膜及び反応性ガスの添加により目的とする元素を含んだ各種タンタル含有膜の作り分けが可能な新規なタンタル化合物及びその製造方法を提供することにある。また、本発明の第二の目的は任意の元素を含むタンタル含有薄膜を安定に形成する方法及び任意の元素を含むタンタル含有薄膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、下記一般式(1)及び(2)で表されるタンタル化合物により上記第一の目的を達成できることを見出した。
【0009】
すなわち第一の発明は、下記一般式(1)
【0010】
【化1】

(式中Rは炭素数2から6の直鎖状アルキル基を示す。)で表されることを特徴とする、タンタル化合物である。
【0011】
また、下記一般式(2)
【0012】
【化2】

(式中Rは炭素数2から6の直鎖状アルキル基を示す。)で表されることを特徴とする、タンタル化合物である。
【0013】
さらに、下記一般式(3)
【0014】
【化3】

(式中Xはハロゲンを示す。)で表されるハロゲン化タンタル、下記一般式(4)
【0015】
【化4】

(式中Rは炭素数2から6の直鎖状アルキル基、Mはアルカリ金属を示す。)で表される置換シクロペンタジエンのアルカリ金属塩、及び還元剤を反応させることを特徴とする、一般式(2)で表されるタンタル化合物の製造方法である。
【0016】
また、一般式(2)で表されるタンタル化合物に一酸化炭素を反応させることを特徴とする、一般式(1)で表されるタンタル化合物の製造方法である。
【0017】
また本発明者らは、上記、第二の目的は下記一般式(6)で表されるタンタル化合物を原料として用いることにより達成できることを見出した。
【0018】
すなわち第二の発明は、下記一般式(6)
【0019】
【化5】

(式中、j、k、m及びnは、j+k=5、m+n=5を満たす1〜5の整数、R〜Rは水素原子、炭素数1から6のアルキル基、炭素数3から6のトリアルキルシリル基、又は1個以上のフッ素原子で置換されてもよい炭素数1から6のアルキル基を示す。)で表されるタンタル化合物を原料として用いることを特徴とする、タンタル含有薄膜の形成方法である。また、その方法により形成されたタンタル含有薄膜である。
【0020】
以下、本発明を更に詳細に説明する。なお、本明細書で使用されるCpはシクロペンタジエニル基、Etはエチル基、Prはプロピル基、Buはブチル基、THFはテトラヒドロフランを表す。
【0021】
初めに第一の発明について詳細に説明する。上記一般式(1)及び(2)においてR及びRは炭素数2から6の直鎖状アルキル基を示す。CVD法あるいはALD法によるタンタル含有膜の原料として使用する場合、蒸気圧が高く室温で液体、少なくとも融点が40℃以下であることが望ましく、この点からR及びRは炭素数2から4の直鎖アルキル基が好ましく、エチル基(C=2)又はプロピル基(C=3)が更に好ましく、とりわけエチル基が好ましい。
【0022】
上記一般式(2)で表されるタンタル化合物は一般式(3)で示されるTaCl等のハロゲン化タンタルを原料として合成することができる。合成方法はTaCpの合成法として知られている方法を適用することができる。例えばM.L.H.Green and B.Jousseaume J.Organomet.Chem. 1980,193,339に記載されている、上記一般式(3)で表されるハロゲン化タンタルとイソプロピルマグネシウムブロマイドを反応させた後、一般式(4)で表される置換シクロペンタジエンのアルカリ金属塩を反応させ一般式(5)
【0023】
【化6】

で表されるタンタル化合物を合成し、これに還元剤を反応させて合成する方法、あるいはM.L.H.Green,J.A.McCleverty,L.Pratt and G.Wilkinson J.Chem.Soc. 1961,4854に記載されている、上記一般式(4)で表される置換シクロペンタジエンのアルカリ金属塩と還元剤に上記一般式(3)で表されるハロゲン化タンタルを加えて加熱する方法を適用することができる。
【0024】
これらの反応においてハロゲン化タンタルとしてはTaCl、TaBr、TaI等が使用できるが、価格及び入手性の点でTaClが好ましい。還元剤としてはNaAlH(OCHCHOCH、NaBH、LiAlH等を使用することができる。また、置換シクロペンタジエンのアルカリ金属塩としてはNa塩、K塩、Li塩が好ましい。反応の溶媒としてはジエチルエーテル、THF等のエーテル系溶媒、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒を使用することができる。
【0025】
上記一般式(1)で表されるタンタル化合物は、一般式(2)で表されるタンタル化合物に一酸化炭素を反応させることにより合成することができる。反応は一般式(2)で表されるタンタル化合物を溶媒に溶解又は懸濁させ、一酸化炭素雰囲気下加圧条件あるいは常圧下で行なうことができる。常圧下で行なう場合は100℃以上の温度で反応を実施することが反応時間を短縮できる点から好ましく、この場合使用する溶媒としては沸点100℃以上の炭化水素溶媒、例えばトルエン、キシレン、オクタン、ノナン、デカン等が好ましい。なお、一般式(2)で表されるタンタル化合物中の置換基Rはこの反応により変化を受けることなく、そのまま一般式(1)で表されるタンタル化合物中の置換基Rとなる。
【0026】
上記一般式(1)で表されるタンタル化合物及び一般式(2)で表されるタンタル化合物は熱分析(TG及びDSC)より200℃以下で気化させることが可能であり200℃〜300℃で熱分解するため、CVD法あるいはALD法によるタンタル含有膜の形成に原料として用いることができる。
【0027】
次に第二の発明について詳細に説明する。
【0028】
上記式中、R、R、R及びRで示される炭素数1から6のアルキル基としては−CH、−CHCH、−CHCHCH、−CHCHCHCH、−CHCHCHCHCH、−CHCHCHCHCHCH、−CH(CH、−C(CH等を例示することができ、炭素数3から6のトリアルキルシリル基としては−Si(CH、−Si(CH(CHCH)、−Si(CH)(CHCH、−Si(CHCH等を例示することができる。又、1個以上のフッ素原子で置換されてもよい炭素数1から6のアルキル基としては−CF、−CFCF、−CFCFCF、−CFCFCFCF、−CFCFCFCFCF、−CFCFCFCFCFCF、−CF(CF、−C(CF等を例示することができる。
【0029】
第二の発明では上記一般式(6)のタンタル化合物をタンタル含有薄膜の原料として使用することを特徴とするが、上記一般式(6)のタンタル化合物からタンタル含有薄膜を形成する方法については特に限定されない。凹凸面へ均一な膜を形成するには成膜法としてCVD法あるいはALD法が好ましい。CVD法あるいはALD法では原料は融点が低く蒸気圧の高いものが好ましく、原料を単体で使用する場合には上記一般式(6)において、R及びRが水素原子でR及びRが炭素数1から4の直鎖状アルキル基、−Si(CH基、−CF基が好ましく、R及びRが水素原子でR及びRが炭素数2〜4の直鎖アルキル基が更に好ましい。R及びRが水素原子でR及びRがエチル基又はプロピル基が好ましく、とりわけR及びRが水素原子でR及びRがエチル基が好ましい。
【0030】
上記一般式(6)で表されるタンタル化合物はTaCl等のハロゲン化タンタルから合成が可能なTa((R(RCp)((R(RCp)Hと一酸化炭素を反応させることにより合成することができる。
【0031】
Ta((R(RCp)((R(RCp)Hの合成方法は(R(RCpと(R(RCpが同じ場合はTaCpの合成法として知られている方法を適用することができる。例えばM.L.H.Green and B.Jousseaume J.Organomet.Chem. 1980,193,339に記載されている、ハロゲン化タンタルとイソプロピルマグネシウムブロマイドを反応させた後、置換シクロペンタジエンのアルカリ金属塩を反応させTa((R(RCp)((R(RCp)Xを合成し(Xはハロゲン原子を表す)、これに還元剤を反応させて合成する方法、あるいはM.L.H.Green,J.A.McCleverty,L.Pratt and G.Wilkinson J.Chem.Soc. 1961,4854に記載されている、置換シクロペンタジエンのアルカリ金属塩と還元剤にハロゲン化タンタルを加えて加熱する方法を適用することができる。(R(RCpと(R(RCpが異なる場合は、例えばV.C.Gibson,J.E.Bercaw,W.J.Bruton,Jr. and R.D.Sanner Organometallics 1986,5,976に記載されているような(R(RCpと(R(RCpを1つずつ導入して合成したTa((R(RCp)((R(RCp)Xから合成することができる。
【0032】
これらの反応においてハロゲン化タンタルとしてはTaCl、TaBr、TaI等が使用できるが、価格、入手性の点でTaClが好ましい。還元剤としてはNaAlH(OCHCHOCH、NaBH、LiAlH等を使用することができる。また、置換シクロペンタジエンのアルカリ金属塩としてはNa塩、K塩、Li塩が好ましい。反応の溶媒としてはジエチルエーテル、THF等のエーテル系溶媒、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒を使用することができる。
【0033】
Ta((R(RCp)((R(RCp)Hと一酸化炭素の反応は溶媒に溶解又は懸濁させた状態で一酸化炭素雰囲気下加圧条件あるいは常圧下で行なうことができる。常圧下で行なう場合は100℃以上の温度で反応を実施することが反応時間を短縮できる点から好ましく、この場合使用する溶媒としては沸点100℃以上の炭化水素溶媒、例えばトルエン、キシレン、オクタン、ノナン、デカン等が好ましい。
【0034】
タンタル含有膜を形成させる際には、一般式(6)で表されるタンタル化合物を原料として、有機溶媒に溶解して使用することも可能である。この場合に用いられる有機溶媒としては、タンタル化合物と反応しないものであれば特に限定されないがヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン等の炭化水素溶媒が好ましい。
【0035】
CVD法あるいはALD法を用いる場合、原料はガス化して基板上へ供給するが、その方法としては液化した原料にAr等のキャリアガスを吹き込みキャリアガスと共に原料ガスを基板上に供給するバブリング法、固体の原料を加熱して昇華させキャリアガスと共に原料ガスを基板上に供給する昇華法、液化した原料あるいは原料の溶液を気化器内で気化させ基板上に供給するリキッドインジェクション法等により行なうことができる。
【0036】
膜の形成は、基板上に供給した原料を分解することにより行なう。分解は熱だけでも可能だが、プラズマ、光等を併用しても良い。また、膜を形成する際、反応性ガスを共存させることにより膜の組成を変えることが可能であり、水素等の還元ガスを供給して成膜することにより金属タンタル膜が、またアンモニア、メチルヒドラジン、ジメチルヒドラジン、エチルヒドラジン、ジエチルヒドラジン、ブチルヒドラジン、フェニルヒドラジン、アジ化エチル、アジ化ブチル、アジ化フェニル等のN含有ガスを供給して成膜することにより窒化タンタル膜の形成がそれぞれ可能である。また、この他モノシラン、ジシラン、ジクロロシラン、トリクロロシラン、テトラクロロシラン等のSi含有ガスを供給して成膜することにより珪化タンタル膜を、また酸素、オゾン、水蒸気等酸素含有ガスを供給して成膜することにより酸化タンタル膜をそれぞれ形成することが可能である。反応性ガスの組合せ、成膜条件等により炭化タンタル膜、炭窒化タンタル膜、珪窒化タンタル膜の形成も可能である。
【0037】
CVD法、ALD法以外の成膜法、例えば原料を液体あるいは溶液で供給するスピンコート法、ディップ法、噴霧法等による成膜方法も本発明に含まれるものである。
【発明の効果】
【0038】
本発明の新規なタンタル化合物はその気化・分解特性からCVD法あるいはALD法によるタンタル含有膜の原料として使用可能である。また、その分子中にハロゲン元素及び窒素を含まないことからこれらの元素を含まないタンタル含有膜の形成、及び反応性ガスの添加により目的とする元素を含んだ各種タンタル含有膜の形成が可能である。また、本発明の新規なタンタル化合物は反応触媒としての機能も期待できる。
【0039】
また、本発明のタンタル含有薄膜の形成方法では金属タンタル膜あるいは窒化タンタル膜等の目的とする元素を含んだ各種タンタル膜を安定して形成することが可能である。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について、実施例により詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
実施例1
トリヒドリドビス(プロピルシクロペンタジエニル)タンタル(Ta(PrCp))の合成
五塩化タンタル80.0g(223mmol)をエーテル1340mlに懸濁させ、イソプロピルマグネシウムブロマイド(0.68M テトラヒドロフラン溶液)324ml(220mmol)を加えた後、プロピルシクロペンタジエンとブチルリチウムより調製したプロピルシクロペンタジエニルリチウム50.2g(440mmol)のテトラヒドロフラン(380ml)溶液を加え1時間還流した。溶媒を留去後、80℃で8時間減圧乾燥してジクロロビス(プロピルシクロペンタジエニル)タンタル(Ta(PrCp)Cl)を含む茶褐色固体を得た。この茶褐色固体にトルエン2100mlを加え、氷冷してナトリウム水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムのトルエン溶液(65wt%)198ml(660mmol)を滴下した後、室温に戻して19.5時間攪拌した。水106mlを加えて発泡しなくなるまで攪拌後、不溶物をろ別し、ろ液から溶媒を留去した。残渣にヘキサン2000mlを加えて不溶物をろ別し、ろ液を約800mlまで濃縮した後、−70℃に冷却したところ白色固体が生成した。上澄みを除去後、冷ペンタン40mlで2回洗浄して白色固体11.2g(収率12.8%)を得た。
【0042】
H−NMR (Benzene−d、δppm)
4.84(m,4H,CPr)
4.74(dd,J=2.5Hz,4H,CPr)
2.34(t,J=7.8Hz,4H,CHCHCp)
1.44(tq,J=7.5Hz,4H,CHCHCp)
0.82(t,J=7.5Hz,6H,CCHCHCp)
−0.84(t,J=10.8Hz,2H,Ta−
−2.35(d,J=10Hz,1H,Ta−
13C−NMR (Benzene−d、δppm)
112.58(Pr)
86.63(Pr)
84.61(Pr)
33.21(CHCHCp)
25.83(CHCHCp)
14.11(CHCHCp)。
【0043】
実施例2
ヒドリドビス(プロピルシクロペンタジエニル)カルボニルタンタル(Ta(PrCp)(CO)H)の合成
トリヒドリドビス(プロピルシクロペンタジエニル)タンタル11.2g(28.1mmol)をノナン(200ml)中、一酸化炭素雰囲気下で135℃に加熱して4時間攪拌した。反応混合物から溶媒を留去し、残渣からヘキサン抽出した溶液を約200mlまで濃縮後−70℃に冷却した。上澄みを除去し、固体をヘキサン20mlで2回洗浄後、減圧乾燥して紫色固体7.45g(収率62.4%)を得た。得られたタンタル化合物の熱分析結果を図1に示す。この図より、得られたタンタル化合物は分解せず安定に気化可能な温度範囲が広く、260℃付近で熱分解することからCVD法あるいはALD法によるタンタル含有膜の原料として適していることがわかる。
【0044】
H−NMR(Benzene−d、δppm)
4.52(m,4H,CPr)
4.46(m,2H,CPr)
4.41(m,2H,CPr)
2.20(t,J=7.8Hz,4H,CHCHCp)
1.40(m,4H,CHCHCp)
0.83(t,J=7.5Hz,6H,CCHCHCp)
−6.09(s,1H,Ta−
13C−NMR (Benzene−d、δppm)
264.63(O)
109.89(Pr)
84.58(Pr)
84.37(Pr)
82.13(Pr)
80.03(Pr)
32.60(CHCHCp)
25.79(CHCHCp)
14.12(CHCHCp)
IR(Nujol、νcm−1
1896(CO)
1721(Ta−H)。
【0045】
組成分析
Ta含有量(ICP発光分析)
42.7wt% (理論値 42.6wt%)
CH含有量(元素分析)
C 46.7wt% (理論値 48.1wt%)
H 5.3wt% (理論値 5.5wt%)
MS(GC/MS、EI)
181Taでのヒドリドビス(プロピルシクロペンタジエニル)カルボニルタンタルの分子イオンピーク m/z 424。このマススペクトルのチャートを図3に示す。
【0046】
実施例3
ビス(エチルシクロペンタジエニル)トリヒドリドタンタル(Ta(EtCp))の合成(1)
五塩化タンタル75.0g(209mmol)をエーテル1200mlに懸濁させ、イソプロピルマグネシウムブロマイド(0.68M テトラヒドロフラン溶液)335ml(228mmol)を加えた後、エチルシクロペンタジエンとブチルリチウムより調製したエチルシクロペンタジエニルリチウム41.9g(419mmol)のテトラヒドロフラン(240ml)溶液を加え1時間還流した。溶媒を留去後、80℃で8時間減圧乾燥してビス(エチルシクロペンタジエニル)ジクロロタンタル(Ta(EtCp)Cl)を含む濃褐色固体を得た。この濃褐色固体にトルエン1060mlを加え、氷冷してナトリウム水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムのトルエン溶液(65wt%)187ml(623mmol)を滴下した後、室温に戻して17時間攪拌した。水107mlを加えて発泡しなくなるまで攪拌後、不溶物をろ別し、ろ液から溶媒を留去した。残渣にヘキサン590mlを加えて不溶物をろ別し、ろ液を−70℃に冷却したところ白色固体が生成した。上澄みを除去後、冷ペンタン24ml×2で洗浄して得た固体を2.5Pa/100℃で減圧蒸留して無色の液体7.79g(収率10.1%)を得た。この液体は室温に冷却すると白色結晶となった。
【0047】
H−NMR(Benzene−d、δppm)
4.79(m,4H,CEt)
4.72(t,J=2.5Hz,4H,CEt)
2.38(q,J=7.5Hz,4H,CHCp)
1.06(t,J=7.5Hz,6H,CCHCp)
−0.88(t,J=10.5Hz,1H,Ta−
−2.42(d,J=10.5Hz,2H,Ta−
13C−NMR(Benzene−d、δppm)
114.91(Et)
85.64(Et)
84.44(Et)
23.78(CHCp)
15.98(CHCp)。
【0048】
実施例4
ビス(エチルシクロペンタジエニル)トリヒドリドタンタル(Ta(EtCp))の合成(2)
エチルシクロペンタジエンとブチルリチウムより調製したエチルシクロペンタジエニルリチウム48.9g(489mmol)のテトラヒドロフラン(200ml)溶液に水素化ほう素ナトリウム6.85g(181mmol)、テトラヒドロフラン40mlを加え、氷冷して五塩化タンタル24.9g(69mmol)を加え、4時間還流した。溶媒を減圧留去し、残渣を2.5Pa/100℃で昇華して白色固体8.80g(収率34.2%)を得た。
【0049】
H−NMR (Benzene−d、δppm)
4.79(m,4H,CEt)
4.72(t,J=2.5Hz,4H,CEt)
2.39(q,J=7.3Hz,4H,CHCp)
1.07(t,J=7.3Hz,6H,CCHCp)
−0.87(t,J=10.5Hz,1H,Ta−
−2.41(d,J=10.5Hz,2H,Ta−
13C−NMR (Benzene−d、δppm)
114.90(Et)
85.66(Et)
84.43(Et)
23.78(CHCp)
15.96(CHCp)。
【0050】
実施例5
ビス(エチルシクロペンタジエニル)ヒドリドカルボニルタンタル(Ta(EtCp)(CO)H)の合成
ビス(エチルシクロペンタジエニル)トリヒドリドタンタル8.30g(22.4mmol)をノナン(150ml)中、一酸化炭素雰囲気下で135℃に加熱して4時間攪拌した。反応混合物から溶媒を留去し、残渣にヘキサン500mlを加えて不溶物をろ別した。ろ液を約100mlまで濃縮後−70℃に冷却したところ固体が生成した。上澄みを除去し、固体をヘキサン10mlで2回洗浄後、減圧乾燥して紫色固体を得た。これを室温で放置したところ液体になった。この液体を減圧蒸留して紫色液体5.40g(収率60.8%)を得た。得られたタンタル化合物の熱分析結果を図2に示す。この図より、得られたタンタル化合物は分解せず安定に気化可能な温度範囲が広く、240℃付近で熱分解することからCVD法あるいはALD法によるタンタル含有膜の原料として適していることがわかる。
【0051】
H−NMR(Benzene−d、δppm)
4.53(m,2H,CEt)
4.46(m,2H,CEt)
4.42(m,2H,CEt)
4.35(m,2H,CEt)
2.26(m,4H,CHCp)
1.00(t,J=7.5Hz,6H,CCHCp)
−6.16(s,1H,Ta−
13C−NMR(Benzene−d、δppm)
264.26(O)
112.38(Et)
83.71(Et)
83.40(Et)
82.08(Et)
79.61(Et)
23.26(CHCp)
15.92(CHCp)
IR(Nujol、νcm−1
1896(CO)
1721(Ta−H)。
【0052】
組成分析
Ta含有量(ICP発光分析)
46.4wt% (理論値 45.7wt%)
CH含有量(元素分析)
C 46.2wt% (理論値 45.5wt%)
H 5.1wt% (理論値 4.8wt%)
MS(GC/MS、EI)
181Taでのビス(エチルシクロペンタジエニル)ヒドリドカルボニルタンタルの分子イオンピーク m/z 396。このマススペクトルのチャートを図4に示す。
【0053】
実施例6
ヒドリドビス(プロピルシクロペンタジエニル)カルボニルタンタルを原料としたCVD法によるタンタル含有膜の形成
ヒドリドビス(プロピルシクロペンタジエニル)カルボニルタンタルを入れたシリンダーを100℃に加熱し、内圧を100Torrに保ち、キャリアガスとしてアルゴンガスを100sccmの流量で吹き込んで気化させた。流量100sccmのアルゴンガスで希釈して4Torrに保った反応槽内に導入して400℃に加熱した酸化シリコン/シリコン基板上で熱分解により膜を堆積させた。100nm堆積させた膜をX線光電子分光分析装置(XPS)により分析した結果、膜中に窒素を含まないタンタル含有膜であった。
【0054】
実施例7
ヒドリドビス(プロピルシクロペンタジエニル)カルボニルタンタルを原料としてアンモニアを添加したCVD法によるタンタル含有膜の形成
ヒドリドビス(プロピルシクロペンタジエニル)カルボニルタンタルを入れたシリンダーを100℃に加熱し、内圧を100Torrに保ち、キャリアガスとしてアルゴンガスを100sccmの流量で吹き込んで気化させた。流量100sccmのアルゴンガスで希釈して4Torrに保った反応槽内に導入し、同時にアンモニアガスを2sccmの流量で反応槽に導入し、400℃に加熱した酸化シリコン/シリコン基板上で熱分解により膜を堆積させた。100nm堆積させた膜をX線光電子分光分析装置(XPS)により分析した結果、膜中に窒素を含むタンタル含有膜であった。
【0055】
実施例8
ビス(エチルシクロペンタジエニル)ヒドリドカルボニルタンタルを原料とした熱CVD法による酸化シリコン/シリコン基板上へのタンタル含有膜の形成
ビス(エチルシクロペンタジエニル)ヒドリドカルボニルタンタルを入れたシリンダーを90℃に加熱し、内圧を100Torrに保ち、キャリアガスとしてアルゴンガスを100sccmの流量で吹き込んで気化させた。流量100sccmのアルゴンガスで希釈して10Torrに保った反応槽内に導入して600℃に加熱した酸化シリコン/シリコン基板上で熱分解により膜を堆積させた。175nm堆積させた膜をX線光電子分光分析装置(XPS)により分析した結果、炭素72%、酸素18%、タンタル10%の組成を持つ膜であった。オージェ電子分光分析装置(AES)により測定した深さ方向の元素分布状態を図5に示す。また、四探針抵抗率測定装置により抵抗率を測定したところ1.24×10μΩ・cmであった。
【0056】
実施例9
ビス(エチルシクロペンタジエニル)ヒドリドカルボニルタンタルを原料としたECRプラズマCVD法による酸化シリコン/シリコン基板上へのタンタル含有膜の形成
ビス(エチルシクロペンタジエニル)ヒドリドカルボニルタンタルを入れたシリンダーを90℃に加熱し、内圧を50Torrに保ち、キャリアガスとしてアルゴンガスを28sccmの流量で吹き込んで気化させた。これをプラズマを発生させ、1.5×10−3Torrに保った反応槽内に導入して300℃に加熱した酸化シリコン/シリコン基板上に膜を堆積させた。プラズマは流量10sccmのアルゴンガス中、2.45GHz、600Wのマイクロ波と875Gの印加磁界により発生させた。10nm堆積させた膜をX線光電子分光分析装置(XPS)により分析した結果、炭素26%、酸素15%、タンタル56%、窒素3%の組成を持つ膜であった。オージェ電子分光分析装置(AES)により測定した深さ方向の元素分布状態を図6に示す。また、四探針抵抗率測定装置により抵抗率を測定したところ80μΩ・cmであった。
【0057】
実施例10
ビス(エチルシクロペンタジエニル)ヒドリドカルボニルタンタルを原料としたECRプラズマCVD法によるシリコン基板上へのタンタル含有膜の形成
ビス(エチルシクロペンタジエニル)ヒドリドカルボニルタンタルを入れたシリンダーを90℃に加熱し、内圧を50Torrに保ち、キャリアガスとしてアルゴンガスを28sccmの流量で吹き込んで気化させた。これをプラズマを発生させ、1.5×10−3Torrに保った反応槽内に導入して400℃に加熱したシリコン基板上に膜を堆積させた。プラズマは流量10sccmのアルゴンガス中、2.45GHz、600Wのマイクロ波と875Gの印加磁界により発生させた。5nm堆積させた膜をX線光電子分光分析装置(XPS)により分析した結果、炭素26%、酸素19%、タンタル51%、窒素4%の組成を持つ膜であった。また、四探針抵抗率測定装置により抵抗率を測定したところ100μΩ・cmであった。
【0058】
実施例11
ビス(エチルシクロペンタジエニル)ヒドリドカルボニルタンタルを原料とした水素添加ECRプラズマCVD法によるシリコン基板上へのタンタル含有膜の形成
ビス(エチルシクロペンタジエニル)ヒドリドカルボニルタンタルを入れたシリンダーを90℃に加熱し、内圧を70Torrに保ち、キャリアガスとしてアルゴンガスを55sccmの流量で吹き込んで気化させた。これをプラズマを発生させ、7.5×10−3Torrに保った反応槽内に導入して300℃に加熱したシリコン基板上に膜を堆積させた。プラズマは流量40sccmの水素を4%含むアルゴンガス中、2.45GHz、600Wのマイクロ波と875Gの印加磁界により発生させた。10nm堆積させた膜をX線光電子分光分析装置(XPS)により分析した結果、炭素31%、酸素13%、タンタル56%の組成を持つ膜であった。また、四探針抵抗率測定装置により抵抗率を測定したところ76μΩ・cmであった。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】実施例2で得られたタンタル化合物の熱分析(TG及びDSC)結果である。
【図2】実施例5で得られたタンタル化合物の熱分析(TG及びDSC)結果である。
【図3】実施例2で得られたタンタル化合物のマススペクトル測定結果である。
【図4】実施例5で得られたタンタル化合物のマススペクトル測定結果である。
【図5】実施例8で得られたタンタル含有薄膜の深さ方向の元素分布状態である。
【図6】実施例9で得られたタンタル含有薄膜の深さ方向の元素分布状態である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(式中Rは炭素数2から6の直鎖状アルキル基を示す。)で表されることを特徴とする、タンタル化合物。
【請求項2】
が炭素数2から4の直鎖状アルキル基であることを特徴とする、請求項1に記載のタンタル化合物。
【請求項3】
がエチル基又はプロピル基であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のタンタル化合物。
【請求項4】
がエチル基であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のタンタル化合物。
【請求項5】
下記一般式(2)
【化2】

(式中Rは炭素数2から6の直鎖状アルキル基を示す。)で表されることを特徴とする、タンタル化合物。
【請求項6】
が炭素数2から4の直鎖状アルキル基であることを特徴とする、請求項5に記載のタンタル化合物。
【請求項7】
がエチル基又はプロピル基であることを特徴とする、請求項5又は6に記載のタンタル化合物。
【請求項8】
がエチル基であることを特徴とする、請求項5〜7のいずれかに記載のタンタル化合物。
【請求項9】
下記一般式(3)
【化3】

(式中Xはハロゲンを示す。)で表されるハロゲン化タンタル、下記一般式(4)
【化4】

(式中Rは炭素数2から6の直鎖状アルキル基、Mはアルカリ金属を示す。)で表される置換シクロペンタジエンのアルカリ金属塩、及び還元剤を反応させることを特徴とする、一般式(2)
【化5】

で表されるタンタル化合物の製造方法。
【請求項10】
一般式(3)
【化6】

で表されるハロゲン化タンタルとイソプロピルマグネシウムハライドを反応させた後、一般式(4)
【化7】

で表される置換シクロペンタジエンのアルカリ金属塩を反応させ、生成した一般式(5)
【化8】

で表されるタンタル化合物に還元剤を反応させることを特徴とする、請求項9に記載のタンタル化合物の製造方法。
【請求項11】
一般式(2)
【化9】

で表されるタンタル化合物に一酸化炭素を反応させることを特徴とする、一般式(1)
【化10】

で表されるタンタル化合物の製造方法。
【請求項12】
下記一般式(6)
【化11】

(式中、j、k、m及びnは、j+k=5、m+n=5を満たす1〜5の整数、R〜Rは水素原子、炭素数1から6のアルキル基、炭素数3から6のトリアルキルシリル基、又は1個以上のフッ素原子で置換されてもよい炭素数1から6のアルキル基を示す。)で表されるタンタル化合物を原料として用いることを特徴とする、タンタル含有薄膜の形成方法。
【請求項13】
及びRが炭素数2から4の直鎖状アルキル基であり、R及びRが水素原子である請求項12に記載のタンタル含有薄膜の形成方法。
【請求項14】
及びRがエチル基又はn−プロピル基であり、R及びRが水素原子である請求項12又は13に記載のタンタル含有薄膜の形成方法。
【請求項15】
及びRがエチル基であり、R及びRが水素原子であることを特徴とする請求項12〜14のいずれかに記載のタンタル含有薄膜の形成方法。
【請求項16】
請求項12〜15のいずれかに記載の方法により形成されたタンタル含有薄膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−84522(P2007−84522A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−351086(P2005−351086)
【出願日】平成17年12月5日(2005.12.5)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【出願人】(000173762)財団法人相模中央化学研究所 (151)
【Fターム(参考)】