説明

ターゲットからの金属回収方法およびターゲットの製造方法

【課題】Co−Cr−Pt系またはCo−Cr−Pt−Ru系の金属、およびSiO2、TiO2、Cr23、CoO、Ta25のうちのいずれか1つまたは複数の金属酸化物からなるターゲットから、工程数を少なくかつ不純物の混入を少なく金属を回収する。
【解決手段】ターゲット1を、貫通孔12Bが底面にある上段ルツボ12および該貫通孔12Bの下に設けられた下段ルツボ14を備えてなる2段ルツボ10の該上段ルツボ12内で、ターゲット1にTiO2およびTa25のどちらも含まれない場合は1400〜1790℃で加熱し、ターゲット1にTiO2が含まれ、Ta25が含まれない場合は1400〜1630℃で加熱し、ターゲット1にTa25が含まれる場合は1400〜1460℃で加熱して、溶融した前記金属を下段ルツボ14内に流れ込ませて前記金属酸化物から分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターゲットからの金属回収方法およびターゲットの製造方法に関し、さらに詳しくは、Co−Cr−Pt系またはCo−Cr−Pt−Ru系の金属、およびSiO2、TiO2、Cr23、CoO、Ta25のうちのいずれか1つまたは複数の金属酸化物からなるターゲットからの金属回収方法および該金属回収方法により回収された金属を用いるターゲットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクや光ディスク等の記録媒体の製造にはスパッタリング法が広く用いられている。
【0003】
しかしながら、スパッタリング法による成膜工程において用いられるターゲットは、成膜方法の原理上、全質量に対して最大でも40〜60%程度しか使用されていない。
【0004】
このため、使用済みターゲットを再利用することが求められており、例えば、酸等で溶解した後に成分元素ごとに分離回収する湿式法が行われている。また、使用済みターゲットを、構成成分である金属の精錬工程へ再投入することも行われている。しかしながら、これらの回収方法はコストが高く、経済性に劣る。
【0005】
これに対し、特許文献1では、使用済みターゲットの再利用方法を効率化し、使用済みの合金ターゲット材スクラップをその原料である各金属まで分離精製することなく再利用し、より低いコストでターゲットを再生する方法が提案されている。
【0006】
具体的には、(i)使用済みの合金ターゲット材スクラップの表面をクリーニングし、(ii)該合金ターゲット材スクラップを不活性雰囲気中で加熱溶融させた後、冷却凝固させて合金インゴットを作製し、(iii)該合金インゴットの作製時に上部となった表層部を除去した後、(iv)この合金インゴットを粉砕し、得られた合金粉末を不活性雰囲気中で焼結させる、という再生方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−23349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、使用済みの合金ターゲットの表面のクリーニング工程(i)や、使用済みターゲットから作製した合金インゴットの表層部(酸素原子含有量の多い部分であり、合金インゴットの全体重量の15〜20重量%程度以上)を切断除去する工程(iii)が必要であり、工程数が多いという問題がある。
【0009】
また、作製した合金インゴットの表層部を切断除去する工程(iii)での切除位置によって再生ターゲット中の不純物量が左右されている。つまり、使用済みターゲットから作製した合金インゴットにおいて、表層部からある程度下方の位置においても不純物が入り込んでおり、合金部分と不純物部分との分離が不十分となっていると考えられる。このため、使用済みターゲットから作製した合金インゴットの表層部を切除しても、不純物がある程度以上含まれていると考えられる。また、不純物の少ない再生ターゲットを作製するためには切断除去する範囲を大きく取らなければならず、再生利用の効率も悪いと考えられる。
【0010】
また、特許文献1に記載の技術は、合金からなる使用済みターゲットから金属成分を再生利用する技術であり、金属成分だけでなく金属酸化物も含有するターゲットに特許文献1に記載の技術を適用できるかどうか不明であるが、特許文献1に記載の技術では、金属成分のみからなるターゲットから金属成分を再生利用するだけでも前記したように効率が悪いので、特許文献1に記載の技術を用いて金属および金属酸化物からなるターゲットから金属成分を効率的に取り出すことは困難であると考えられる。このため、磁気記録媒体の作製に用いられるターゲットである、Co−Cr−Pt系またはCo−Cr−Pt−Ru系の金属、およびSiO2、TiO2、Cr23、CoO、Ta25のうちのいずれか1つまたは複数の金属酸化物からなるターゲットから、金属成分を効率的に取り出すことも困難であると考えられる。
【0011】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであって、Co−Cr−Pt系またはCo−Cr−Pt−Ru系の金属、およびSiO2、TiO2、Cr23、CoO、Ta25のうちのいずれか1つまたは複数の金属酸化物からなるターゲットから、工程数を少なくかつ不純物の混入を少なく金属を回収する金属回収方法、および工程数が少なくかつ再生利用の効率の高い、ターゲットの製造方法を提供することを課題とする。
【0012】
なお、本発明では、使用済みのターゲットだけでなく、未使用のターゲット(例えば、不具合が見つかって使用されていないターゲット等)の再生利用も考慮に入れている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係るターゲットからの金属回収方法の第1態様は、Co−Cr−Pt系またはCo−Cr−Pt−Ru系の金属、およびSiO2、Cr23、CoOのうちのいずれか1つまたは複数の金属酸化物からなるターゲットから該金属を回収する金属回収方法であって、前記ターゲットを、貫通孔が底面にある上段ルツボおよび該貫通孔の下に設けられた下段ルツボを備えてなる2段ルツボの該上段ルツボ内で1400〜1790℃で加熱して、溶融した前記金属を前記下段ルツボ内に流れ込ませて前記金属酸化物から分離することを特徴とする。
【0014】
本発明に係るターゲットからの金属回収方法の第2態様は、Co−Cr−Pt系またはCo−Cr−Pt−Ru系の金属、およびSiO2、Cr23、CoO、TiO2のうちのいずれか1つまたは複数の金属酸化物からなるターゲットから該金属を回収する金属回収方法であって、前記ターゲットを、貫通孔が底面にある上段ルツボおよび該貫通孔の下に設けられた下段ルツボを備えてなる2段ルツボの該上段ルツボ内で1400〜1630℃で加熱して、溶融した前記金属を前記下段ルツボ内に流れ込ませて前記金属酸化物から分離することを特徴とする。
【0015】
本発明に係るターゲットからの金属回収方法の第3態様は、Co−Cr−Pt系またはCo−Cr−Pt−Ru系の金属、およびSiO2、Cr23、CoO、TiO2、Ta25のうちのいずれか1つまたは複数の金属酸化物からなるターゲットから該金属を回収する金属回収方法であって、前記ターゲットを、貫通孔が底面にある上段ルツボおよび該貫通孔の下に設けられた下段ルツボを備えてなる2段ルツボの該上段ルツボ内で1400〜1460℃で加熱して、溶融した前記金属を前記下段ルツボ内に流れ込ませて前記金属酸化物から分離することを特徴とする。
【0016】
ここで、前記上段ルツボ内で加熱する前記ターゲットは、所定の大きさに分割されていてもよく、また、分割されていなくてもよい。
【0017】
前記貫通孔の大きさは、例えば、前記上段ルツボ内に投入されたターゲットをその平面方向に等方的に30%収縮させても、該ターゲットが通過できない大きさに設定することができる。
【0018】
ここで、平面方向とは、ターゲットの平面と平行な任意の方向のことである。
【0019】
前記金属酸化物のターゲット全体に対する体積分率が20%以上である場合、ターゲット中の金属酸化物粒子間には焼結により連結が確実にある程度以上形成されていると考えられるので、前記金属回収方法による金属の回収をより確実に行いやすい。
【0020】
前記上段ルツボの底面部の内面の形状は、溶融した金属が貫通孔から下段ルツボに流れ落ちやすくする点で、下に凸の形状であることが好ましい。
【0021】
前記下段ルツボには溶融した金属が流れ込むので、固体のように形状がかさばることがなく、前記下段ルツボの内容積は前記上段ルツボの内容積よりも小さくしてもよい。
【0022】
前記ターゲットの前記加熱を不活性雰囲気中で行う場合には、雰囲気中から溶融金属への酸素の混入を防止することができる。
【0023】
前記ターゲットの前記加熱は、炉内の温度ムラを小さくし、溶融しない金属の量を少なくする点で、抵抗加熱ヒータにより行うことが好ましい。
【0024】
金属回収の対象となる前記ターゲットとしては、例えば、使用済みのターゲットや不具合が見つかった未使用のターゲット等を挙げることができる。
【0025】
本発明に係るターゲットの製造方法の第1態様は、前記金属回収方法によりターゲットから回収した金属を用いて所望の組成の金属粉末を得る工程を有することを特徴とする。
【0026】
金属粉末を得る前記工程において、例えば、回収した前記金属を成分が既知の金属とともに加熱して再溶融し、前記所望の組成の金属粉末を得るようにしてもよい。
【0027】
本発明に係るターゲットの製造方法の第2態様は、前記金属回収方法によりターゲットから回収した金属を、溶融状態のうちにそのままアトマイズを行って、金属粉末を得る工程を有することを特徴とする。
【0028】
前記ターゲットの製造方法において、得られた前記金属粉末と所定の金属酸化物粉末を混合して混合粉末を得る工程を有していてもよい。
【0029】
混合粉末を得る前記工程を有する場合、得られた前記混合粉末を成形する工程を有していてもよい。
【0030】
以上のようにして製造されるターゲットは、その組成により磁気記録媒体用として用いることができる場合がある。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係るターゲットからの金属回収方法の第1態様は、Co−Cr−Pt系またはCo−Cr−Pt−Ru系の金属、およびSiO2、Cr23、CoOのうちのいずれか1つまたは複数の金属酸化物からなるターゲットから該金属を回収する金属回収方法であって、前記ターゲットを、貫通孔が底面にある上段ルツボおよび該貫通孔の下に設けられた下段ルツボを備えてなる2段ルツボの該上段ルツボ内で1400〜1790℃で加熱して、溶融した前記金属を前記下段ルツボ内に流れ込ませて前記金属酸化物から分離するので、該金属を該金属酸化物から、少ない工程数で、かつ不純物の混入を少なく分離することができる。
【0032】
本発明に係るターゲットからの金属回収方法の第2態様は、Co−Cr−Pt系またはCo−Cr−Pt−Ru系の金属、およびSiO2、Cr23、CoO、TiO2のうちのいずれか1つまたは複数の金属酸化物からなるターゲットから該金属を回収する金属回収方法であって、前記ターゲットを、貫通孔が底面にある上段ルツボおよび該貫通孔の下に設けられた下段ルツボを備えてなる2段ルツボの該上段ルツボ内で1400〜1630℃で加熱して、溶融した前記金属を前記下段ルツボ内に流れ込ませて前記金属酸化物から分離するので、該金属を該金属酸化物から、少ない工程数で、かつ不純物の混入を少なく分離することができる。
【0033】
本発明に係るターゲットからの金属回収方法の第3態様は、Co−Cr−Pt系またはCo−Cr−Pt−Ru系の金属、およびSiO2、Cr23、CoO、TiO2、Ta25のうちのいずれか1つまたは複数の金属酸化物からなるターゲットから該金属を回収する金属回収方法であって、前記ターゲットを、貫通孔が底面にある上段ルツボおよび該貫通孔の下に設けられた下段ルツボを備えてなる2段ルツボの該上段ルツボ内で1400〜1460℃で加熱して、溶融した前記金属を前記下段ルツボ内に流れ込ませて前記金属酸化物から分離するので、該金属を該金属酸化物から、少ない工程数で、かつ不純物の混入を少なく分離することができる。
【0034】
本発明に係るターゲットの製造方法は、前記金属回収方法によりターゲットから回収した金属を用いてターゲットを製造するので、少ない工程数で、かつ、金属の再生利用の効率を高く、ターゲットを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本実施形態で用いる2段ルツボ10を模式的に示す断面図
【図2】90(74Co−10Cr−16Pt)−10SiO2ターゲット断面の電子顕微鏡写真
【図3】実施例1で用いた2段ルツボの使用態様を模式的に示す断面図
【図4】実施例1で得られたインゴットの外観写真
【図5】実施例1において加熱処理を行った後の上段ルツボ内の使用済みターゲットの外観写真
【図6】比較例1で用いた1段ルツボの使用態様を模式的に示す断面図
【図7】比較例1で得られたインゴットの外観写真
【図8】実施例2で用いた2段ルツボの使用態様を模式的に示す断面図
【図9】(A)加熱前の上段ルツボ内の使用済みターゲットの外観写真、(B)加熱後(金属回収後)の上段ルツボ内の使用済みターゲットの外観写真
【図10】実施例2で得られたインゴットの外観写真
【図11】実施例2において、加熱後に上段ルツボ内に残った残渣(金属酸化物)の底面部の外観写真
【図12】図11において、上段ルツボの貫通孔に対応する部位およびその周辺を拡大した外観写真
【図13】実施例3で最上段に配置された分割された使用済みターゲットの加熱前の形状寸法の測定状況を示す写真で、(A)径方向寸法の測定状況を示す写真、(B)周方向寸法の測定状況を示す写真、(C)厚さ方向寸法の測定状況を示す写真
【図14】実施例3で最上段に配置された分割された使用済みターゲットの加熱後の形状寸法の測定状況を示す写真で、(A)径方向寸法の測定状況を示す写真、(B)周方向寸法の測定状況を示す写真、(C)厚さ方向寸法の測定状況を示す写真
【図15】実施例4で用いた2段ルツボの使用態様を模式的に示す断面図
【図16】実施例4で得られたインゴットの外観写真
【図17】実施例4において加熱処理を行った後の上段ルツボ内の使用済みターゲットの外観写真
【図18】実施例5で得られたインゴットの外観写真
【図19】実施例5において加熱処理を行った後の上段ルツボ内の使用済みターゲットの外観写真
【図20】実施例8で得られたインゴットの外観写真
【図21】実施例8において加熱処理を行った後の上段ルツボ内の使用済みターゲットの外観写真
【図22】実施例11で得られたインゴットの外観写真
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、下記の1の工程(分離工程)が本発明に係るターゲットからの金属回収方法の実施形態の一例であり、下記の1〜4の工程が本発明に係るターゲットの製造方法の実施形態の一例である。
【0037】
1.分離工程
本発明の実施形態に係るターゲットからの金属回収方法は、Co−Cr−Pt系またはCo−Cr−Pt−Ru系の金属、およびSiO2、TiO2、Cr23、CoO、Ta25のうちのいずれか1つまたは複数の金属酸化物からなるターゲットから該金属を回収する金属回収方法であって、前記ターゲットを、貫通孔が底面にある上段ルツボおよび該貫通孔の下に設けられた下段ルツボを備えてなる2段ルツボの該上段ルツボ内で、該ターゲットにTiO2およびTa25のどちらも含まれない場合は1400〜1790℃で加熱し、該ターゲットにTiO2が含まれ、Ta25が含まれない場合は1400〜1630℃で加熱し、該ターゲットにTa25が含まれる場合は1400〜1460℃で加熱して、溶融した前記金属を前記下段ルツボ内に流れ込ませて前記金属酸化物から分離することを特徴とする。以下の説明では、Co−Cr−Pt系またはCo−Cr−Pt−Ru系の金属を単に「金属」、SiO2、TiO2、Cr23、CoO、Ta25のうちのいずれか1つまたは複数の金属酸化物を単に「金属酸化物」と記すことがある。
【0038】
ここで、SiO2、TiO2、Cr23、CoO、Ta25は、磁気記録媒体用のターゲットに多く用いられている金属酸化物である。
【0039】
この分離工程では、回収対象のターゲットを適当な大きさに分割してルツボに投入し、抵抗加熱ヒータにより加熱を行う真空電気炉を用いて不活性雰囲気中で加熱する。加熱方法は抵抗加熱に限定されるわけではなく、他の加熱方法であってもよいが、高周波加熱では、電気が流れにくい金属酸化物を加熱するのが難しいため、金属が溶融して金属酸化物からの分離が進行していくと、炉内の温度ムラが大きくなり、溶融しない金属の量が多くなってしまうことがあるので、抵抗加熱の方が好ましい。また、不活性雰囲気中で加熱することにより、得られる溶融金属中への酸素の混入を防止することができる。
【0040】
加熱温度は、ターゲットに含まれる金属成分が溶融するのに必要な温度以上であって、かつ、金属酸化物の融点および分解温度未満とする。本実施形態では、ターゲットに含有される金属は加熱により溶融させて液体とする一方、金属酸化物は溶融も分解もさせず固体のままの状態とすることにより、金属と金属酸化物を効率的に分離できるようにしている。
【0041】
具体的には、ターゲットにTiO2およびTa25のどちらも含まれない場合は、該ターゲットを1400〜1790℃で加熱する。TiO2、Ta25以外の金属酸化物であるSiO2、TiO2、Cr23において、融点または分解温度が最も低い金属酸化物はCoOであり、その融点は1800℃である。したがって、ターゲットにTiO2およびTa25のどちらも含まれない場合の加熱温度の上限を1790℃とする。一方、Co−Cr−Pt系およびCo−Cr−Pt−Ru系の金属は1400℃程度から溶融を開始するので、加熱温度の下限は1400℃とする。
【0042】
ターゲットにTiO2が含まれ、Ta25が含まれない場合、即ち、ターゲットに含まれる金属酸化物がTiO2のみ、又はTiO2に加えてSiO2、Cr23、CoOのうちのいずれか1つまたは複数が含まれている場合は、該ターゲットを1400〜1630℃で加熱する。TiO2の分解温度が1640℃であるため、加熱温度の上限は1630℃とする。加熱温度の下限を1400℃とする理由は前述した理由と同じである。
【0043】
ターゲットにTa25が含まれる場合は、該ターゲットを1400〜1460℃で加熱する。Ta25の分解温度が1470℃であるため、加熱温度の上限は1460℃とする。加熱温度の下限を1400℃とする理由は前述した理由と同じである。
【0044】
なお、前記した加熱温度範囲においては、加熱温度が高い場合ほど金属の回収率が大きくなる傾向があるので、前記した加熱温度範囲内でなるべく高温側に加熱温度を設定することが好ましい。ただし、前記した加熱温度範囲内であれば、この温度範囲内の低温側に加熱温度を設定しても、加熱温度時間を長くすれば、金属の回収は可能である。
【0045】
ルツボの材質は、ターゲットに含まれる金属成分が溶融するのに必要な温度に応じて適宜選択することができ、MgO、Al23、CaO、ZrO2等を用いることができる。特に好ましくはMgOやAl23である。
【0046】
本実施形態では、図1に示すような2段ルツボ10を用いる。この2段ルツボ10は、上段ルツボ12と下段ルツボ14とから構成され、2段構成となっている。
【0047】
上段ルツボ12は底面部12Aの中心部に例えば直径5mm程度の貫通孔12Bが設けられている。上段ルツボ12の底面部12Aの中心部の貫通孔12Bの径は、ターゲットに含まれる金属が溶融したときの粘性やターゲットに含まれる金属酸化物焼結体の大きさに応じて適宜変更して定めることができ、例えば5mm径とすることができる。また、貫通孔12Bの径を大きくして、貫通孔12Bにフィルタ(例えばメッシュ状のフィルタ)を設けてもよい。ただし、該フィルタには、ターゲットを加熱する際の温度に耐える耐熱性が要求される。
【0048】
ここで、図2は、90(74Co−10Cr−16Pt)−10SiO2ターゲット断面の電子顕微鏡写真であり、黒い点が金属酸化物(SiO2)であり、金属酸化物(SiO2)のターゲット全体に対する体積分率は30.0%である。図2からわかるように、金属酸化物粒子は所々で互いに焼結して連結しており、個々の金属酸化物粒子が完全に分散して独立に存在しているわけではない。図2はターゲット中の任意の一断面の電子顕微鏡写真であり、3次元的に見ればターゲット中の金属酸化物粒子間には焼結により連結がある程度形成されていると考えられ、ターゲット中の金属酸化物粒子はターゲット成形時の加熱により金属酸化物焼結体になっていると考えられる。即ち、このため、加熱によりターゲットから金属が取り出された後でもターゲットは金属酸化物焼結体として加熱前と相似の形状(後述するように、加熱により金属が取り出された後のターゲット(金属酸化物焼結体)の形状は、加熱前のターゲットをその平面方向に等方的に5〜30%程度収縮させた形状である。)を保つことができると考えられる。
【0049】
なお、本明細書において、ターゲットに含まれる金属酸化物の焼結体とは、金属酸化物同士の間に必ずしも密な連結を生じていなくてもよく、ターゲットを、ターゲット中の金属酸化物は溶融も分解もさせず、かつ、ターゲット中の金属を溶融させるように加熱して、該金属を該金属酸化物から分離したときに、ターゲット全体の形状が崩れない程度に金属酸化物同士の間に連結が生じている場合を含む概念である。
【0050】
ターゲット中の金属酸化物粒子間に、ターゲット作製時の焼結により連結をある程度以上形成させて、ターゲット中の金属酸化物粒子を金属酸化物焼結体にする点で、金属酸化物のターゲット全体に対する体積分率は20%以上であることが好ましい。また、ターゲット中の金属酸化物粒子が均一微細に分散している場合、金属酸化物粒子同士の距離が小さくなって、金属酸化物粒子同士の焼結が進みやすくなると考えられるので、金属酸化物粒子が均一微細に分散しているターゲットは、本発明により金属の回収を行うターゲットとして、より適していると考えられる。
【0051】
一方、上段ルツボ12の底面部12Aの中心部の貫通孔12Bの径は、加熱により金属が取り出された後のターゲット(金属酸化物焼結体)の大きさ(加熱前のターゲットをその平面方向に等方的に5〜30%程度収縮させた形状)を踏まえて、加熱により金属が取り出された後のターゲット(金属酸化物焼結体)が通過できない大きさに設定されている。したがって、上段ルツボ12内でターゲットを、金属酸化物は溶融も分解もさせず、かつ、金属を溶融させるように加熱することにより、金属酸化物を上段ルツボ12内に残したまま、金属酸化物と比べて比重の大きい溶融した金属を貫通孔12Bを介して下段ルツボ14内に流れ込ませることができ、ターゲット中の金属をターゲットから分離することができる。
【0052】
また、ターゲット中の金属を溶融させて取り出すための加熱により、ターゲット中の金属酸化物粒子同士の焼結がさらに進展し、金属酸化物間の連結はより密になっていくと考えられ、これにより、上段ルツボ12内に残った金属酸化物焼結体は、加熱前のターゲットをその平面方向に等方的に5〜30%程度収縮させた形状をより保ちやすくなっていると考えられる。
【0053】
また、実施例で後述するように、ターゲットを加熱して金属を取り出した後、上段ルツボ12内に残った金属酸化物焼結体中にも、加熱前のターゲットに含まれていた金属全体の5質量%程度の金属が含まれており、この残された金属は、金属酸化物同士を結び付けるバインダーとしての役割を果たしていると考えられ、これにより、上段ルツボ12内に残った金属酸化物焼結体は、加熱前のターゲットをその平面方向に等方的に5〜30%程度収縮させた形状をより保ちやすくなっていると考えられる。
【0054】
以下、さらに具体的に分離工程の説明をする。この説明の中では、金属回収の対象のターゲットとして使用済みターゲットを取り上げるが、未使用のターゲットを金属回収の対象のターゲットとした場合であっても同様に行うことができる。
【0055】
適当な大きさに分割した使用済みターゲット1を上段ルツボ12に投入して、加熱して溶融させる。金属酸化物と比べて比重の大きい溶融した金属は貫通孔12Bから下段ルツボ14に流れ落ち、下段ルツボ14に貯留されていく。加熱温度は金属酸化物を溶融も分解もさせない温度(使用済みターゲット1にTiO2およびTa25のどちらも含まれない場合は1400〜1790℃、使用済みターゲット1にTiO2が含まれ、Ta25が含まれない場合は1400〜1630℃、使用済みターゲット1にTa25が含まれる場合は1400〜1460℃)であり、金属酸化物は溶融も分解もせず固体のままであり、かつ、使用済みターゲット1中の金属酸化物はターゲット作製段階で前述のように焼結体となっており、貫通孔12Bの径は該焼結体が通過しない大きさに設定されているので、使用済みターゲット1中の金属酸化物は貫通孔12Bから流れ落ちない。このため、下段ルツボ14に回収される金属中への金属酸化物の混入は少なくなる。
【0056】
また、上段ルツボ12の底面部12Aの内面12A1の形状は、図1に示すように下に凸の曲面とするのがよい。このような形状とすることにより、溶融した金属が貫通孔12Bから流れ落ちやすくなるとともに、投入された使用済みターゲット1によって貫通孔12Bが隙間なく塞がれることが起こりにくくなる。
【0057】
上段ルツボ12に使用済みターゲット1を投入するので、上段ルツボ12の大きさ(径および高さ)は、下段ルツボ14よりも大きくしておくのがよい。下段ルツボ14は、使用済みターゲット1から流出する溶融金属を回収できる内容積があればよいところ、液体は固体のように形状がかさばることがないので、内容積を小さくすることができる。
【0058】
使用済みターゲット1に含有される金属が溶融して下段ルツボ14に流れ込むのに必要な時間の間、真空電気炉を所定の加熱温度で保持したら、加熱を終了し、下段ルツボ14に貯留された溶融金属を真空電気炉中で炉冷する。溶融金属は、下段ルツボ14内で凝固してインゴットとなる。
【0059】
2.金属粉末作製工程
次に、得られたインゴットを再溶融してアトマイズを行い、金属粉末を作製するが、まず、得られたインゴットの組成分析を行う。得られたインゴットは適当な大きさに切断しておき、組成分析の結果に基づき、成分が既知の金属とともに加熱溶融して、所望の組成の溶湯を作製する。
【0060】
作製した溶湯を用いてアトマイズを行い金属粉末を作製する。本実施形態では、アトマイズ法はその種類を問わず適用可能であり、例えばガスアトマイズ法、水アトマイズ法、遠心力アトマイズ法のいずれを用いてもよい。
【0061】
ガスアトマイズ法を用いる場合、アルゴンガスまたは窒素ガスを使用すると、得られる金属粉末において酸素濃度をより低く抑えることができる。
【0062】
3.混合粉末作製工程
アトマイズを行って得られた金属粉末に、再生ターゲットの組成に応じて、成分が既知の金属粉末や金属酸化物粉末等を混合して混合粉末を作製する。混合の際には、例えばボールミルを用いることができる。
【0063】
4.成形体作製工程
前記混合粉末を焼結させて成形体を作製する。成形方法は特に限定されず、例えば、ホットプレス法、熱間静水圧プレス法(HIP法)、放電プラズマ焼結法(SPS法)等を用いることができる。
【0064】
得られた焼結体の外周面および表裏面を例えば1mm程度研削することにより、再生ターゲットを得ることができる。
【0065】
5.変形例
以上説明した実施形態では、分離工程で得られる溶融金属を冷却して凝固させてインゴットにした後、成分が既知の金属とともに再度加熱溶融して、所望の組成の溶湯を作製し、該溶湯を用いてアトマイズを行って金属粉末を作製しているが、分離工程で得られる溶融金属をそのまま用いてアトマイズを行うようにアトマイズ装置を構成してもよい。
【0066】
このようにアトマイズ装置を構成することにより、分離工程でインゴットを得る必要がなく、インゴットを再溶融する必要がなくなる。
【0067】
ただし、分離工程で得られる溶融金属をそのまま用いてアトマイズを行う場合、得られる金属粉末の成分の調整がなされていないので、得られた金属粉末の成分分析を行い、成分が既知の金属粉末や金属酸化物粉末と混合して、所望の組成の混合粉末を得て、該混合粉末を焼結させて再生ターゲットを製造する必要がある。
【実施例】
【0068】
(実施例1)
金属回収の対象のターゲットとして、金属および金属酸化物からなる使用済みターゲットである、磁気記録媒体用の92(70Co−10Cr−20Pt)−8SiO2を用い、再生ターゲットの製造を行った。この使用済みターゲットに含まれる金属はCo、Cr、Ptであり、含まれる金属酸化物はSiO2である。金属酸化物(SiO2)のターゲット全体に対する体積分率は24.9vol%である。
【0069】
加熱溶融に用いるルツボは、図1に示す2段ルツボ10と同様の形状のものを用いたが、使用済みターゲットを加熱溶融させる温度が1650℃と高温であったので、2段ルツボ10の材質をMgOとし、さらに図3に示すように、2段ルツボ10が破損しても加熱装置に悪影響を与えないように、2段ルツボ10をAl23製の外側ルツボ20の中に配置するとともに、2段ルツボ10と外側ルツボ20との間にはZrO2粉末22を充填した。上段ルツボ12の貫通孔12Bの径は5mmとした。
【0070】
5枚の使用済みターゲットを5cm×5cm〜10cm×10cm程度の大きさに分割し、2段ルツボ10の上段ルツボ12の中に投入した。投入したターゲットの合計質量は5356.12gであった。上段ルツボ12内へのターゲット投入後、抵抗加熱ヒータにより加熱を行う真空電気炉を用いアルゴンガス雰囲気中で昇温速度10℃/minで1650℃まで昇温させ、この温度に3h保持した。その後炉冷して、下段ルツボ14内にインゴットを得た。このインゴットの形状は、直径10cm、厚さ7cm程度の円板状であり、質量は4180.18gであった。上段ルツボ12に投入した使用済みターゲットの総質量は5356.12gであり、組成から使用済みターゲットに含まれる金属の総質量を計算すると4841.93gであるので、投入したターゲットからの金属の回収率は86.33%であった。
【0071】
図4は、得られたインゴットの外観写真である。得られたインゴットの表面は金属光沢を有していた。また、得られたインゴット中の酸素量をLECO社製ON分析装置(TC600)により計測したところ15質量ppmであり、得られたインゴット中への金属酸化物(SiO2)の混入は極めて少なかった。
【0072】
表1に得られたインゴットのICP分析結果を示す。このICP分析結果は、得られたインゴットの上部、中部、下部の3点を測定した結果の平均値である。この分析結果を踏まえ、70at%Co−10at%Cr−20at%Ptとなるように、得られたインゴットを所定量のCo単体、Cr単体、Pt単体とともに加熱して溶融し、溶湯を作製して、ガスアトマイズを行い、金属粉末を作製した。
【0073】
【表1】

【0074】
得られた金属粉末に、92(70Co−10Cr−20Pt)−8SiO2となるようにSiO2粉末を加え、ボールミルで混合して混合粉末を作製した。
【0075】
得られた混合粉末をホットプレスして焼結体を作製し、作製した焼結体の外周面および表裏面を1mm程度研削して、再生ターゲットを作製した。再生ターゲットを用いてスパッタリングを行い成膜したところ、得られた膜は、使用済みターゲットを再生利用せず新材のみで作製したターゲットを用いて形成した膜と同等のものが得られた。これにより、得られた再生ターゲットは、磁気記録媒体用のターゲットとして、新材のみで作製したターゲットと同様に使用できることを確認できた。
【0076】
なお、図5は、真空電気炉で1650℃に3h保持する加熱処理を行った後の上段ルツボ12内の使用済みターゲットの外観写真であるが、該加熱処理を行っても、上段ルツボ12内に投入した使用済みターゲットは該加熱処理前と相似の形状(加熱前のターゲットをその平面方向に等方的に5〜30%程度収縮させた形状)を保っていた。前述のように、使用済みターゲット中の金属酸化物(本実施例1ではSiO2)は、ターゲット作製時の加熱焼結処理により連結がある程度金属酸化物粒子間に形成されて金属酸化物焼結体になっていると考えられ、そのため、ターゲット中の金属が溶融して使用済みターゲットから下段ルツボ14へと金属が流れ出しても、上段ルツボ12内に投入した使用済みターゲットは前記相似の形状を保持できたと考えられる。
【0077】
また、図5の外観写真からわかるように、上段ルツボ12内にはターゲット表面に滲み出て固まった球状の金属M1が生成しており、この球状の金属M1中には金属酸化物は含まれていない。また、残渣(金属酸化物)の底面部の表面には膜状の金属が生成しており、この膜状の金属中にも金属酸化物は含まれていない(本実施例1では膜状の金属の外観写真を示していないが、実施例2で示す図11、図12の外観写真の膜状の金属と同様の形状であった)。下段ルツボ14に回収した金属の質量に、上段ルツボ12内の球状の金属M1および膜状の金属の質量を加えた合計の質量は、上段ルツボ12内に投入した使用済みターゲットに含まれる金属の総質量の95%程度であった。したがって、使用済みターゲットに含まれる金属の総質量の5%程度は、金属が溶融して流れ出した後の使用済みターゲット1中に残存しており、この残存した金属は使用済みターゲット中の金属酸化物焼結体の形状を保つバインダーとして働いているものと考えられる。
【0078】
(比較例1)
実施例1では2段ルツボ10を用いたのに対し、比較例1では図6に示す通常の1段ルツボ30を用いた。それ以外は実施例1と同様にして、金属および金属酸化物をからなる使用済みターゲット(92(70Co−10Cr−20Pt)−8SiO2)の加熱溶融を行い、インゴットを得た。
【0079】
図7は、得られたインゴットの外観写真である。金属光沢はなく、金属酸化物の凝集した領域がインゴット上部の表層部を中心に広範囲にわたって分布しており、金属酸化物からの金属の分離は不十分であった。
【0080】
(実施例2)
金属および金属酸化物からなる使用済みターゲットである、磁気記録媒体用の91.7(74.5Co−9.5Cr−16Pt)−8.3SiO2を用い、ターゲットからの金属の回収を行った。この使用済みターゲット2に含まれる金属はCo、Cr、Ptであり、含まれる金属酸化物はSiO2である。金属酸化物(SiO2)のターゲット全体に対する体積分率は25.9vol%である。また、本実施例2では、加熱前後におけるターゲットの形状を測定し、加熱によるターゲットの収縮の状況を定量的に評価した。
【0081】
加熱溶融に用いるルツボは、図8に示す2段ルツボ40を用いた。上段ルツボ42、下段ルツボ44および外側ルツボ46の材質はいずれもMgOである。また、下段ルツボ44と外側ルツボ46との間にはZrO2粉末22を充填した。
【0082】
上段ルツボ42の大きさは、外径170mm、内径145mm、高さ135mmであり、底面部42Aの内面は下に凸の曲面となっており、その中心部には5mm径の貫通孔42Bが設けられている。貫通孔42Bにおける底面部42Aの厚さは25mmである。また、上端面から80mmの範囲が円筒状であり、それより下方が、内面が下に凸の曲面となっている底面部42Aである。なお、前記外径および内径は上端面における値である。
【0083】
下段ルツボ44の大きさは、外径124mm、内径100mm、高さ110mmである。下段ルツボ44は外側ルツボ46内に配置し、下段ルツボと外側ルツボとの間にはZrO2粉末22を充填した。外側ルツボの大きさは、外径170mm、内径145mm、高さ135mmである。
【0084】
4枚の91.7(74.5Co−9.5Cr−16Pt)−8.3SiO2使用済みターゲットを5cm×5cm〜10cm×10cm程度の大きさに分割し、上段ルツボ42内に投入した。投入した使用済みターゲット2の総質量は4986.34gであった。上段ルツボ42に投入した使用済みターゲット2のうち、最上段に配置された分割された使用済みターゲット2の形状は、半径80mmの扇形で厚さ5.6mmであった。
【0085】
上段ルツボ42内に使用済みターゲット2を投入した後、真空電気炉内に2段ルツボを載置し、アルゴンガス雰囲気中で加熱した。昇温速度10℃/minで1650℃まで昇温させ、この温度に1h保持した。
【0086】
図9は加熱前後の上段ルツボ42内の使用済みターゲットの外観写真であり、図9(A)は加熱前の上段ルツボ42内の使用済みターゲットの外観写真であり、図9(B)は加熱後(金属回収後)の上段ルツボ42内の使用済みターゲットの外観写真である。図9(A)、(B)からわかるように、上段ルツボ42に投入された使用済みターゲット2は、収縮しているものの、加熱後も加熱前と同様の形状(相似の形状)を保っていることがわかる。
【0087】
前記したように、上段ルツボ42に投入した使用済みターゲットのうち、最上段に配置された分割された使用済みターゲット2の形状は、半径80mmの扇形で厚さ5.6mmであった。これに対し、加熱後(金属回収後)の形状は、半径75mmの扇形で厚さ4.9mmであった。
【0088】
これらの形状測定結果に基づき、加熱による使用済みターゲット2の収縮率を計算すると、扇形の半径方向の収縮率は6.3%、厚さ方向の収縮率は12.5%であり、体積収縮率は23%程度であった。また、図9の加熱前後の上段ルツボ内の使用済みターゲットの外観写真からわかるように、使用済みターゲット2は加熱後も加熱前と同様の形状(相似の形状)を保っているので、使用済みターゲット2はその平面方向に等方的に収縮していると言うことができる。扇形の半径方向の収縮率が6.3%であることから、本実施例2において、使用済みターゲット2は、加熱により平面方向に等方的に6.3%収縮していると言うことができる。
【0089】
なお、図9(A)、(B)では定規も一緒に撮影しているが、最上段に配置した使用済みターゲット2の半径は、定規の目盛りによれば、前記した半径(加熱前の半径80mm、加熱後の半径75mm)よりも小さくなっているように読み取れるが、これは定規の高さ位置と最上段に配置した使用済みターゲットの高さ位置が異なるためである。前記した半径(加熱前の半径80mm、加熱後の半径75mm)は、最上段に配置した使用済みターゲットに定規を沿わせて測定した値であり、これが正確な値である。
【0090】
図10は下段ルツボ44に回収された金属の外観写真である。図10からわかるように、金属光沢のない箇所は観察されず、下段ルツボ44に回収された金属には金属酸化物がほとんど含まれていないと考えられる。
【0091】
下段ルツボ44に回収した金属の質量は、4005.25gであった。上段ルツボ42に投入した使用済みターゲット2の総質量は4986.34gであり、組成から使用済みターゲット2に含まれる金属の総質量を計算すると4669.21gとなるので、下段ルツボ44に回収した金属の回収率は85.78%であった。
【0092】
また、図11は、加熱後に上段ルツボ42内に残った残渣(金属酸化物)の底面部の外観写真であり、図12は上段ルツボ42の貫通孔に対応する部位およびその周辺を拡大した外観写真である。図12において、写真中央部の突起が上段ルツボ42の貫通孔に対応する部位である。この突起は金属からなっている。
【0093】
図11、図12に示すように、残渣(金属酸化物)の底面部の表面には膜状の金属M2も観察されるが、目視的には金属は金属酸化物の塊(残渣)の表面に付着しているのみであった。したがって、金属は使用済みターゲット2から十分に流れ出していると考えられる。
【0094】
一方、上段ルツボ42内に残った金属酸化物の塊は、指である程度力を加えると崩すことができ、上段ルツボ42内に残った金属酸化物の塊は多くの空孔を有して、スポンジ状になっていた。金属酸化物の塊は、加熱により金属が流れ出した後もスポンジ状になるので、加熱により金属が流れ出しても形状を保持できるものと考えられる。また、このことから、金属酸化物粒子同士に連結が生じていると考えられる。
【0095】
(実施例3)
金属および金属酸化物からなる使用済みターゲットである、磁気記録媒体用の92(70Co−14Cr−16Pt)−5SiO2−3Cr23を用い、ターゲットからの金属の回収を行った。この使用済みターゲットに含まれる金属はCo、Cr、Ptであり、含まれる金属酸化物はSiO2、Cr23である。金属酸化物(SiO2+Cr23)のターゲット全体に対する体積分率は25.6vol%である。
【0096】
加熱溶融に用いるルツボは、実施例2で用いたものと同様の2段ルツボ40(図8参照)を用いた。
【0097】
2段ルツボ40の上段ルツボ42の中に、前記使用済みターゲット5枚を5cm×5cm〜10cm×10cm程度の大きさに分割して投入した。投入したターゲットの合計質量は5330.61gであった。上段ルツボ42内へのターゲットの投入後、真空電気炉で昇温速度10℃/minで1650℃まで昇温させ、この温度に1h保持した。
【0098】
その後炉冷して、下段ルツボ44内にインゴットを得た。このインゴットの形状は、直径10cm、厚さ5cm程度の円板状であり、質量は4314.19gであった。上段ルツボ42に投入した使用済みターゲットの総質量は5330.61gであり、組成から使用済みターゲットに含まれる金属の総質量を計算すると4832.20gであるので、投入したターゲットからの金属の回収率は89.28%であった。得られたインゴットの表面は金属光沢を有していた。
【0099】
図13は、上段ルツボ42に投入した分割された使用済みターゲットのうち、最上段に配置された分割された使用済みターゲットの加熱前の形状寸法をデジタルノギスで測定している状況を示す写真で、図13(A)は径方向寸法、図13(B)は周方向寸法、図13(C)は厚さ方向寸法を測定している状況を示す写真であり、加熱前の径方向寸法は88.74mm、周方向寸法は42.97mm、厚さ方向寸法は7.12mmであった。
【0100】
図14は、上段ルツボ42に投入した分割された使用済みターゲットのうち、最上段に配置された分割された使用済みターゲットの加熱後の形状寸法をデジタルノギスで測定している状況を示す写真で、図14(A)は径方向寸法、図14(B)は周方向寸法、図14(C)は厚さ方向寸法を測定している状況を示す写真であり、加熱後の径方向寸法は63.99mm、周方向寸法は31.35mm、厚さ方向寸法は5.55mmであった。
【0101】
したがって、加熱による使用済みターゲットの収縮率は、径方向が27.89%、周方向が27.04%、厚さ方向が22.05%であった。
【0102】
また、下段ルツボ44に回収した金属、および上段ルツボ42内でターゲット表面に滲み出て固まった球状・膜状の金属の質量の合計は、上段ルツボ42内に投入した使用済みターゲットに含まれる金属の総質量の97%程度であり、使用済みターゲットに含まれる金属の総質量の3%程度は、金属が溶融して流れ出した後の使用済みターゲット中に残存しており、この残存した金属は使用済みターゲット中の金属酸化物焼結体の形状を保つバインダーとして働いているものと考えられる。
【0103】
表2に得られたインゴットをICPで分析した組成分析結果を示す。この組成分析結果は、得られたインゴットの中心部の1点を測定した結果である。実施例1では、得られたインゴットの上部、中心部、下部の3点を測定して、その平均値を組成分析結果としたが、得られたインゴットの中心部の1点の測定値と、前記3点の平均値がほぼ一致することが経験的に得られたので、本実施例3では、得られたインゴットの中心部の1点を測定した結果を組成分析結果とした。表2からわかるように、問題となるような不純物の混入は認められなかった。
【0104】
【表2】

【0105】
(実施例4)
金属および金属酸化物からなる使用済みターゲットである、磁気記録媒体用の90(69Co−15Cr−16Pt)−7TiO2−3Cr23を用い、ターゲットからの金属の回収を行った。この使用済みターゲット3に含まれる金属はCo、Cr、Ptであり、含まれる金属酸化物はTiO2とCr23である。金属酸化物(TiO2+Cr23)のターゲット全体に対する体積分率は25.8vol%である。
【0106】
加熱溶融に用いるルツボは、図15に示す2段ルツボ50を用いた。上段ルツボ52、下段ルツボ54および外側ルツボ56の材質はいずれもMgOであり、上段ルツボ52の貫通孔52Bの径は5mmとした。また、下段ルツボ54と外側ルツボ56との間にはZrO2粉末22を充填した。
【0107】
2段ルツボ50の上段ルツボ52の中に、前記使用済みターゲット6枚を5cm×5cm〜10cm×10cm程度の大きさに分割して投入した。投入したターゲット3の合計質量は5544.25gであった。上段ルツボ52内へのターゲット3の投入後、真空電気炉で昇温速度10℃/minで1600℃まで昇温させ、この温度に1h保持した。保持温度を1600℃としたのは、TiO2の分解温度が1640℃であるためである。
【0108】
その後炉冷して、下段ルツボ54内にインゴットを得た。図16は、得られたインゴットの外観写真である。このインゴットの形状は、直径10cm、厚さ4.5cm程度の円板状であり、質量は3918.43gであった。上段ルツボ52に投入した使用済みターゲット3の総質量は5544.25gであり、組成から使用済みターゲットに含まれる金属の総質量を計算すると4856.76gであるので、投入したターゲットからの金属の回収率は80.68%であった。得られたインゴットの表面は金属光沢を有していた。
【0109】
表3に得られたインゴットをICPで分析した組成分析結果を示す。この組成分析結果は、得られたインゴットの中心部の1点を測定した結果である。表3からわかるように、問題となるような不純物の混入は認められなかった。
【0110】
【表3】

【0111】
なお、図17は、真空電気炉で1600℃に1h保持する加熱処理を行った後の上段ルツボ52内の使用済みターゲットの外観写真であるが、該加熱処理を行っても、上段ルツボ52内に投入した使用済みターゲットは該加熱処理前と相似の形状(加熱前のターゲットをその平面方向に等方的に5〜30%程度収縮させた形状)を保っていた。前述のように、使用済みターゲット中の金属酸化物(TiO2、Cr23)は、ターゲット作製時の加熱焼結処理により金属酸化物焼結体になっていると考えられ、そのため、ターゲット中の金属が溶融して使用済みターゲット3から下段ルツボ54へと金属が流れ出しても、上段ルツボ52内に投入した使用済みターゲットは前記相似の形状を保持できたと考えられる。
【0112】
また、下段ルツボ54に回収した金属、および上段ルツボ52内でターゲット表面に滲み出て固まった球状・膜状の金属の質量の合計は、上段ルツボ52内に投入した使用済みターゲットに含まれる金属の総質量の95%程度であり、使用済みターゲットに含まれる金属の総質量の5%程度は、金属が溶融して流れ出した後の使用済みターゲット中に残存しており、この残存した金属は使用済みターゲット中の金属酸化物焼結体の形状を保つバインダーとして働いているものと考えられる。
【0113】
(実施例5)
金属および金属酸化物からなる使用済みターゲットである、磁気記録媒体用の91(71Co−13Cr−16Pt)−3SiO2−3Cr23−3TiO2を用い、ターゲットからの金属の回収を行った。この使用済みターゲットに含まれる金属はCo、Cr、Ptであり、含まれる金属酸化物はSiO2、Cr23、TiO2である。金属酸化物(SiO2+Cr23+TiO2)のターゲット全体に対する体積分率は26.0vol%である。
【0114】
加熱溶融に用いるルツボは、実施例2で用いたものと同様の2段ルツボ40(図8参照)を用いた。
【0115】
2段ルツボ40の上段ルツボ42の中に、前記使用済みターゲット3枚を5cm×5cm〜10cm×10cm程度の大きさに分割して投入した。投入したターゲットの合計質量は3268.75gであった。上段ルツボ42内へのターゲットの投入後、真空電気炉で昇温速度10℃/minで1600℃まで昇温させ、この温度に1h保持した。保持温度を1600℃としたのは、TiO2の分解温度が1640℃であるためである。
【0116】
その後炉冷して、下段ルツボ44内にインゴットを得た。図18は、得られたインゴットの外観写真である。このインゴットの形状は、直径10cm、厚さ3cm程度の円板状であり、質量は2405.67gであった。上段ルツボ42に投入した使用済みターゲットの総質量は3268.75gであり、組成から使用済みターゲットに含まれる金属の総質量を計算すると2917.03gであるので、投入したターゲットからの金属の回収率は82.47%であった。得られたインゴットの表面は金属光沢を有していた。
【0117】
表4に得られたインゴットをICPで分析した組成分析結果を示す。この組成分析結果は、得られたインゴットの中心部の1点を測定した結果である。表4からわかるように、問題となるような不純物の混入は認められなかった。
【0118】
【表4】

【0119】
なお、図19は、真空電気炉で1600℃に1h保持する加熱処理を行った後の上段ルツボ42内の使用済みターゲットの外観写真であるが、該加熱処理を行っても、上段ルツボ42内に投入した使用済みターゲットは該加熱処理前と相似の形状(加熱前のターゲットをその平面方向に等方的に5〜30%程度収縮させた形状)を保っていた。前述のように、使用済みターゲット中の金属酸化物(SiO2、Cr23、TiO2)は、ターゲット作製時の加熱焼結処理により金属酸化物焼結体になっていると考えられ、そのため、ターゲット中の金属が溶融して使用済みターゲットから下段ルツボ44へと金属が流れ出しても、上段ルツボ42内に投入した使用済みターゲットは前記相似の形状を保持できたと考えられる。
【0120】
また、下段ルツボ44に回収した金属、および上段ルツボ42内でターゲット表面に滲み出て固まった球状・膜状の金属の質量の合計は、上段ルツボ42内に投入した使用済みターゲットに含まれる金属の総質量の95%程度であり、使用済みターゲットに含まれる金属の総質量の5%程度は、金属が溶融して流れ出した後の使用済みターゲット中に残存しており、この残存した金属は使用済みターゲット中の金属酸化物焼結体の形状を保つバインダーとして働いているものと考えられる。
【0121】
(実施例6)
金属および金属酸化物からなる使用済みターゲットである、磁気記録媒体用の90(69Co−9Cr−16Pt−6Ru)−7TiO2−3Cr23を用い、ターゲットからの金属の回収を行った。この使用済みターゲット3に含まれる金属はCo、Cr、Pt、Ruであり、含まれる金属酸化物はTiO2とCr23である。金属酸化物(TiO2+Cr23)のターゲット全体に対する体積分率は25.6vol%である。
【0122】
加熱溶融に用いるルツボは、実施例4で用いたものと同様の2段ルツボ50(図15参照)を用いた。
【0123】
2段ルツボ50の上段ルツボ52の中に、前記使用済みターゲット2枚を5cm×5cm〜10cm×10cm程度の大きさに分割して投入した。投入したターゲットの合計質量は2198.17gであった。上段ルツボ52内へのターゲット3の投入後、真空電気炉で昇温速度10℃/minで1600℃まで昇温させ、この温度に1h保持した。保持温度を1600℃としたのは、TiO2の分解温度が1640℃であるためである。
【0124】
その後炉冷して、下段ルツボ54内にインゴットを得た。インゴットの形状は、直径10cm、厚さ1.6cm程度の円板状であり、質量は1351.98gであった。上段ルツボ52に投入した使用済みターゲットの総質量は2198.17gであり、組成から使用済みターゲットに含まれる金属の総質量を計算すると1934.17gであるので、投入したターゲットからの金属の回収率は69.90%であった。得られたインゴットの表面は金属光沢を有していた。
【0125】
表5に得られたインゴットをICPで分析した組成分析結果を示す。この組成分析結果は、得られたインゴットの中心部の1点を測定した結果である。表5からわかるように、問題となるような不純物の混入は認められなかった。
【0126】
【表5】

【0127】
なお、真空電気炉で1600℃に1h保持する加熱処理を行った後も、上段ルツボ52内に投入した使用済みターゲットは加熱処理前と相似の形状(加熱前のターゲットをその平面方向に等方的に5〜30%程度収縮させた形状)を保っていた。前述のように、使用済みターゲット中の金属酸化物(TiO2、Cr23)は、ターゲット作製時の加熱焼結処理により金属酸化物焼結体になっていると考えられ、そのため、ターゲット中の金属が溶融して使用済みターゲットから下段ルツボ54へと金属が流れ出しても、上段ルツボ52内に投入した使用済みターゲットは前記相似の形状を保持できたと考えられる。
【0128】
また、下段ルツボ54に回収した金属、および上段ルツボ52内でターゲット表面に滲み出て固まった球状・膜状の金属の質量の合計は、上段ルツボ52内に投入した使用済みターゲットに含まれる金属の総質量の95%程度であり、使用済みターゲットに含まれる金属の総質量の5%程度は、金属が溶融して流れ出した後の使用済みターゲット中に残存しており、この残存した金属は使用済みターゲット中の金属酸化物焼結体の形状を保つバインダーとして働いているものと考えられる。
【0129】
(実施例7)
金属および金属酸化物からなる使用済みターゲットである、磁気記録媒体用の91(69Co−10Cr−16Pt−5Ru)−3SiO2−3Cr23−3TiO2を用い、ターゲットからの金属の回収を行った。この使用済みターゲットに含まれる金属はCo、Cr、Pt、Ruであり、含まれる金属酸化物はSiO2、Cr23、TiO2である。金属酸化物(SiO2+Cr23+TiO2)のターゲット全体に対する体積分率は25.9vol%である。
【0130】
加熱溶融に用いるルツボは、実施例2で用いたものと同様の2段ルツボ40(図8参照)を用いた。
【0131】
2段ルツボ40の上段ルツボ42の中に、前記使用済みターゲット3枚を5cm×5cm〜10cm×10cm程度の大きさに分割して投入した。投入したターゲットの合計質量は3307.58gであった。上段ルツボ42内へのターゲットの投入後、真空電気炉で昇温速度10℃/minで1600℃まで昇温させ、この温度に1h保持した。保持温度を1600℃としたのは、TiO2の分解温度が1640℃であるためである。
【0132】
その後炉冷して、下段ルツボ44内にインゴットを得た。このインゴットの形状は、直径10cm、厚さ3cm程度の円板状であり、質量は2430.67gであった。上段ルツボ42に投入した使用済みターゲットの総質量は3307.58gであり、組成から使用済みターゲットに含まれる金属の総質量を計算すると2960.62gであるので、投入したターゲットからの金属の回収率は82.10%であった。得られたインゴットの表面は金属光沢を有していた。
【0133】
表6に得られたインゴットをICPで分析した組成分析結果を示す。この組成分析結果は、得られたインゴットの中心部の1点を測定した結果である。表6からわかるように、問題となるような不純物の混入は認められなかった。
【0134】
【表6】

【0135】
なお、真空電気炉で1600℃に1h保持する加熱処理を行った後も、上段ルツボ42内に投入した使用済みターゲットは該加熱処理前と相似の形状(加熱前のターゲットをその平面方向に等方的に5〜30%程度収縮させた形状)を保っていた。前述のように、使用済みターゲット中の金属酸化物(SiO2、Cr23、TiO2)は、ターゲット作製時の加熱焼結処理により金属酸化物焼結体になっていると考えられ、そのため、ターゲット中の金属が溶融して使用済みターゲットから下段ルツボ44へと金属が流れ出しても、上段ルツボ42内に投入した使用済みターゲットは前記相似の形状を保持できたと考えられる。
【0136】
また、下段ルツボ44に回収した金属、および上段ルツボ42内でターゲット表面に滲み出て固まった球状・膜状の金属の質量の合計は、上段ルツボ42内に投入した使用済みターゲットに含まれる金属の総質量の95%程度であり、使用済みターゲットに含まれる金属の総質量の5%程度は、金属が溶融して流れ出した後の使用済みターゲット中に残存しており、この残存した金属は使用済みターゲット中の金属酸化物焼結体の形状を保つバインダーとして働いているものと考えられる。
【0137】
(比較例2)
加熱温度をTiO2の分解温度の1640℃よりも高い1650℃とした以外は実施例7と同様にして、ターゲットからの金属の回収を行った。金属回収対象のターゲットは、実施例7と同様の91(69Co−10Cr−16Pt−5Ru)−3SiO2−3Cr23−3TiO2で、上段ルツボ42の中に投入したターゲットの合計質量は3346.37gであった。
【0138】
下段ルツボ44内に得られたインゴットの形状は、直径10cm、厚さ3cm程度の円板状であり、質量は2623.02gであった。上段ルツボ42に投入した使用済みターゲットの総質量は3346.37gであり、組成から使用済みターゲットに含まれる金属の総質量を計算すると2995.34gであるので、投入したターゲットからの金属の回収率は87.57%であった。得られたインゴットの表面は金属光沢を有していた。
【0139】
しかしながら、上段ルツボ42を再使用することができなくなっていた。加熱温度がTiO2の分解温度1640℃よりも高かったため、TiO2が上段ルツボ42に浸透してしまったためと思われる。
【0140】
(実施例8)
金属および金属酸化物からなる使用済みターゲットである、磁気記録媒体用の94(68Co−15Cr−17Pt)−6SiO2を用い、ターゲットからの金属の回収を行った。この使用済みターゲットに含まれる金属はCo、Cr、Ptであり、含まれる金属酸化物はSiO2である。金属酸化物(SiO2)のターゲット全体に対する体積分率は19.6vol%である。
【0141】
加熱溶融に用いるルツボは、実施例2で用いたものと同様の2段ルツボ40(図8参照)を用いた。
【0142】
2段ルツボ40の上段ルツボ42の中に、前記使用済みターゲット5枚を5cm×5cm〜10cm×10cm程度の大きさに分割して投入した。投入したターゲットの合計質量は5340.53gであった。上段ルツボ42内へのターゲットの投入後、真空電気炉で昇温速度10℃/minで1600℃まで昇温させ、この温度に1h保持した。
【0143】
その後炉冷して、下段ルツボ44内にインゴットを得た。図20は、得られたインゴットの外観写真である。このインゴットの形状は、直径10cm、厚さ5cm程度の円板状であり、質量は4461.72gであった。上段ルツボ42に投入した使用済みターゲットの総質量は5340.53gであり、組成から使用済みターゲットに含まれる金属の総質量を計算すると5099.14gであるので、投入したターゲットからの金属の回収率は87.50%であった。得られたインゴットの表面は金属光沢を有していた。
【0144】
表7に得られたインゴットをICPで分析した組成分析結果を示す。この組成分析結果は、得られたインゴットの中心部の1点を測定した結果である。表7からわかるように、問題となるような不純物の混入は認められなかった。
【0145】
【表7】

【0146】
なお、図21は、真空電気炉で1600℃に1h保持する加熱処理を行った後の上段ルツボ52内の使用済みターゲットの外観写真であるが、該加熱処理を行った後も、上段ルツボ42内に投入した使用済みターゲットは該加熱処理前と相似の形状(加熱前のターゲットをその平面方向に等方的に5〜30%程度収縮させた形状)を保っていた。前述のように、使用済みターゲット中の金属酸化物(SiO2)は、ターゲット作製時の加熱焼結処理により金属酸化物焼結体になっていると考えられ、そのため、ターゲット中の金属が溶融して使用済みターゲットから下段ルツボ44へと金属が流れ出しても、上段ルツボ42内に投入した使用済みターゲットは前記相似の形状を保持できたと考えられる。
【0147】
また、下段ルツボ44に回収した金属、および上段ルツボ42内でターゲット表面に滲み出て固まった球状・膜状の金属の質量の合計は、上段ルツボ42内に投入した使用済みターゲットに含まれる金属の総質量の99%程度であり、使用済みターゲットに含まれる金属の総質量の1%程度は、金属が溶融して流れ出した後の使用済みターゲット中に残存しており、この残存した金属は使用済みターゲット中の金属酸化物焼結体の形状を保つバインダーとして働いているものと考えられる。
【0148】
(実施例9)
金属および金属酸化物からなる使用済みターゲットである、磁気記録媒体用の88(69Co−15Cr−16Pt)−8SiO2−4CoOを用い、ターゲットからの金属の回収を行った。この使用済みターゲットに含まれる金属はCo、Cr、Ptであり、含まれる金属酸化物はSiO2、CoOである。金属酸化物(SiO2+CoO)のターゲット全体に対する体積分率は29.8vol%である。
【0149】
加熱溶融に用いるルツボは、実施例2で用いたものと同様の2段ルツボ40(図8参照)を用いた。
【0150】
2段ルツボ40の上段ルツボ42の中に、前記使用済みターゲット6枚を5cm×5cm〜10cm×10cm程度の大きさに分割して投入した。投入したターゲットの合計質量は5623.62gであった。上段ルツボ42内へのターゲットの投入後、真空電気炉で昇温速度10℃/minで1775℃まで昇温させ、この温度に2h保持した。
【0151】
その後炉冷して、下段ルツボ44内にインゴットを得た。このインゴットの形状は、直径10cm、厚さ5.5cm程度の円板状であり、質量は4892.13gであった。上段ルツボ42に投入した使用済みターゲットの総質量は5623.62gであり、組成から使用済みターゲットに含まれる金属の総質量を計算すると5060.13gであるので、投入したターゲットからの金属の回収率は96.68%であった。得られたインゴットの表面は金属光沢を有していた。
【0152】
表8に得られたインゴットをICPで分析した組成分析結果を示す。この組成分析結果は、得られたインゴットの中心部の1点を測定した結果である。表8からわかるように、問題となるような不純物の混入は認められなかった。
【0153】
【表8】

【0154】
なお、真空電気炉で1775℃に2h保持する加熱処理を行った後も、上段ルツボ42内に投入した使用済みターゲットは該加熱処理前と相似の形状(加熱前のターゲットをその平面方向に等方的に5〜30%程度収縮させた形状)を保っていた。前述のように、使用済みターゲット中の金属酸化物(SiO2、Cr23、TiO2)は、ターゲット作製時の加熱焼結処理により金属酸化物焼結体になっていると考えられ、そのため、ターゲット中の金属が溶融して使用済みターゲットから下段ルツボ44へと金属が流れ出しても、上段ルツボ42内に投入した使用済みターゲットは前記相似の形状を保持できたと考えられる。
【0155】
(実施例10)
金属および金属酸化物からなる使用済みターゲットである、磁気記録媒体用の94(60Co−35Cr−5Pt)−5SiO2−1Ta25を用い、ターゲットからの金属の回収を行った。この使用済みターゲットに含まれる金属はCo、Cr、Ptであり、含まれる金属酸化物はSiO2、Ta25である。金属酸化物(SiO2+Ta25)のターゲット全体に対する体積分率は22.3vol%である。
【0156】
加熱溶融に用いるルツボは、実施例2で用いたものと同様の2段ルツボ40(図8参照)を用いた。
【0157】
2段ルツボ40の上段ルツボ42の中に、前記使用済みターゲット5枚を5cm×5cm〜10cm×10cm程度の大きさに分割して投入した。投入したターゲットの合計質量は5000.00gであった。上段ルツボ42内へのターゲットの投入後、真空電気炉で昇温速度10℃/minで1460℃まで昇温させ、この温度に3h保持した。
【0158】
その後炉冷して、下段ルツボ44内にインゴットを得た。このインゴットの形状は、直径10cm、厚さ4.5cm程度の円板状であり、質量は3224.77gであった。上段ルツボ42に投入した使用済みターゲットの総質量は5000.00gであり、組成から使用済みターゲットに含まれる金属の総質量を計算すると4445.50gであるので、投入したターゲットからの金属の回収率は72.54%であった。得られたインゴットの表面は金属光沢を有していた。
【0159】
なお、真空電気炉で1460℃に3h保持する加熱処理を行った後も、上段ルツボ42内に投入した使用済みターゲットは該加熱処理前と相似の形状(加熱前のターゲットをその平面方向に等方的に5〜30%程度収縮させた形状)を保っていた。前述のように、使用済みターゲット中の金属酸化物(SiO2+Ta25)は、ターゲット作製時の加熱焼結処理により金属酸化物焼結体になっていると考えられ、そのため、ターゲット中の金属が溶融して使用済みターゲットから下段ルツボ44へと金属が流れ出しても、上段ルツボ42内に投入した使用済みターゲットは前記相似の形状を保持できたと考えられる。
【0160】
(実施例11)
磁気記録媒体用の91(69Co−10Cr−16Pt−5Ru)−3SiO2−3Cr23−3TiO2と、磁気記録媒体用の91(69Co−10Cr−16Pt−5Ru)−3SiO2−3Cr23−3TiO2から本発明による金属回収後に上段ルツボ内に残った残渣物とを用い、ターゲットからの金属の回収を行った。この使用済みターゲットおよび残渣物に含まれる金属はCo、Cr、Pt、Ruであり、含まれる金属酸化物はSiO2、Cr23、TiO2である。
【0161】
加熱溶融に用いるルツボは、実施例2で用いたものと同様の2段ルツボ40(図8参照)を用いた。
【0162】
2段ルツボ40の上段ルツボ42の中に、前記使用済みターゲット3枚を5cm×5cm〜10cm×10cm程度の大きさに分割して投入(投入した前記使用済みターゲットの合計質量は3481.02g)するとともに、前記残渣物620.77gを投入した。そして、真空電気炉で昇温速度10℃/minで1600℃まで昇温させ、この温度に1h保持した。
【0163】
その後炉冷して、下段ルツボ44内にインゴットを得た。図22は、得られたインゴットの外観写真である。このインゴットの形状は、直径10cm、厚さ3.5cm程度の円板状であり、質量は3262.35gであった。得られたインゴットの表面は金属光沢を有していた。
【0164】
表9に得られたインゴットをICPで分析した組成分析結果を示す。この組成分析結果は、得られたインゴットの中心部の1点を測定した結果である。表9からわかるように、問題となるような不純物の混入は認められなかった。
【0165】
【表9】

【0166】
本実施例からわかるように、本発明による金属回収後に上段ルツボ内に残った残渣物に再度本発明を適用して該残渣物からさらに金属回収を行うことも可能である。
【0167】
(考察)
下記の表10は、実施例1〜10について、ターゲットからの金属の回収率、加熱温度、ターゲット中の金属酸化物の体積分率を一覧にしたものである。
【0168】
【表10】

【0169】
表10からわかるように、実施例1〜10において、ターゲット中の金属酸化物の体積分率は19.6〜29.8(vol%)であるが、実施例1〜10のいずれにおいても、2段ルツボの上段ルツボ内で加熱して、ターゲット中の金属を溶融させて下段ルツボ内に流れ込ませてターゲットから金属を分離することを実現できている。したがって、実施例1〜10におけるターゲット中の金属酸化物の体積分率程度以上に、ターゲット中に金属酸化物が含まれていれば、ターゲット中の金属酸化物粒子はお互いにある程度連結して金属酸化物焼結体になっていると考えられる。
【符号の説明】
【0170】
10、40、50…2段ルツボ
12、42、52…上段ルツボ
12A…底面部
12A1…底面部の内面
12B、42B、52B…貫通孔
14、44、54…下段ルツボ
20、46、56…外側ルツボ
22…ZrO2粉末
30…1段ルツボ
M1…球状の金属
M2…膜状の金属

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Co−Cr−Pt系またはCo−Cr−Pt−Ru系の金属、およびSiO2、Cr23、CoOのうちのいずれか1つまたは複数の金属酸化物からなるターゲットから該金属を回収する金属回収方法であって、
前記ターゲットを、貫通孔が底面にある上段ルツボおよび該貫通孔の下に設けられた下段ルツボを備えてなる2段ルツボの該上段ルツボ内で1400〜1790℃で加熱して、溶融した前記金属を前記下段ルツボ内に流れ込ませて前記金属酸化物から分離することを特徴とするターゲットからの金属回収方法。
【請求項2】
Co−Cr−Pt系またはCo−Cr−Pt−Ru系の金属、およびSiO2、Cr23、CoO、TiO2のうちのいずれか1つまたは複数の金属酸化物からなるターゲットから該金属を回収する金属回収方法であって、
前記ターゲットを、貫通孔が底面にある上段ルツボおよび該貫通孔の下に設けられた下段ルツボを備えてなる2段ルツボの該上段ルツボ内で1400〜1630℃で加熱して、溶融した前記金属を前記下段ルツボ内に流れ込ませて前記金属酸化物から分離することを特徴とするターゲットからの金属回収方法。
【請求項3】
Co−Cr−Pt系またはCo−Cr−Pt−Ru系の金属、およびSiO2、Cr23、CoO、TiO2、Ta25のうちのいずれか1つまたは複数の金属酸化物からなるターゲットから該金属を回収する金属回収方法であって、
前記ターゲットを、貫通孔が底面にある上段ルツボおよび該貫通孔の下に設けられた下段ルツボを備えてなる2段ルツボの該上段ルツボ内で1400〜1460℃で加熱して、溶融した前記金属を前記下段ルツボ内に流れ込ませて前記金属酸化物から分離することを特徴とするターゲットからの金属回収方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、
前記貫通孔の大きさは、前記上段ルツボ内に投入されたターゲットをその平面方向に等方的に30%収縮させても、該ターゲットが通過できない大きさに設定されていることを特徴とするターゲットからの金属回収方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、
前記金属酸化物のターゲット全体に対する体積分率が20%以上であることを特徴とするターゲットからの金属回収方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかにおいて、
前記上段ルツボの底面部の内面の形状は、下に凸の形状であることを特徴とするターゲットからの金属回収方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかにおいて、
前記下段ルツボの内容積は前記上段ルツボの内容積よりも小さいことを特徴とするターゲットからの金属回収方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかにおいて、
前記ターゲットの前記加熱を不活性雰囲気中で行うことを特徴とするターゲットからの金属回収方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかにおいて、
前記ターゲットの前記加熱を抵抗加熱ヒータにより行うことを特徴とするターゲットからの金属回収方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかにおいて、
前記ターゲットが使用済みのターゲットであることを特徴とするターゲットからの金属回収方法。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかにおいて、
前記ターゲットが未使用のターゲットであることを特徴とするターゲットからの金属回収方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の金属回収方法によりターゲットから回収した金属を用いて所望の組成の金属粉末を得る工程を有することを特徴とするターゲットの製造方法。
【請求項13】
請求項12において、
回収した前記金属を成分が既知の金属とともに加熱して再溶融し、前記所望の組成の金属粉末を得ることを特徴とするターゲットの製造方法。
【請求項14】
請求項1〜11のいずれかに記載の金属回収方法によりターゲットから回収した金属を、溶融状態のうちにそのままアトマイズを行って、金属粉末を得る工程を有することを特徴とするターゲットの製造方法。
【請求項15】
請求項12〜14のいずれかにおいて、
得られた前記金属粉末と所定の金属酸化物粉末を混合して混合粉末を得る工程を有することを特徴とするターゲットの製造方法。
【請求項16】
請求項15において、
得られた前記混合粉末を成形する工程を有することを特徴とするターゲットの製造方法。
【請求項17】
請求項12〜16のいずれかにおいて、
製造されるターゲットが、磁気記録媒体用であることを特徴とするターゲットの製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図6】
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【図8】
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【図15】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2011−214104(P2011−214104A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84634(P2010−84634)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【特許番号】特許第4657371号(P4657371)
【特許公報発行日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(509352945)田中貴金属工業株式会社 (99)
【Fターム(参考)】