説明

ターボチャージャーの可変ノズル制御装置

【課題】全閉・全開位置の可動範囲が変化しても、指令値に対する位置制御の再現性を維持することができるターボチャージャーの可変ノズル制御装置を提供する。
【解決手段】モータの回転軸の回転角度を検出する角度センサと、回転軸の回転角度の最大値と最小値を記憶する記憶手段と、モータの回転軸の回転角度を制御して、可変ノズルのベーンを全開側と全閉側に移動させて初期化動作を実施する初期化制御手段と、初期化制御手段によって、可変ノズルのベーンを全開側と全閉側に移動させる間に、角度センサの出力値を読み込み、出力値の最大値と最小値を記憶手段に記憶する可動範囲判定手段と、記憶手段に記憶されている最大値と最小値に基づいて、エンジン制御装置からの可変ノズルのベーンの開度指令値を目標位置角度に変換し、角度センサの出力値が変換した目標位置角度になるようにベーンの開度を制御する開度制御手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車に搭載されたターボチャージャーの可変ノズルのベーンの開度をエンジン制御装置からの制御信号によって、電子制御アクチュエータで制御するターボチャージャーの可変ノズル制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の技術に於ける一例としては特許文献1に開示された内燃機関の可変ノズルターボチャージャー制御装置が知られている。図4は、従来技術による可変ノズルターボチャージャー制御装置の構成を示す図である。図4において、1はターボチャージャーであって、センターハウジング、コンプレッサハウジング及びタービンハウジングを備えている。ターボチャージャー1には、空気が導入される吸気入口1aと、ターボチャージャー1によって圧縮された空気をエンジン2に供給する圧縮空気供給孔1bとが設けられ、更に、エンジン2から排気が供給される排気ガス吸入口1cと、排気ガスを排出する排出口1dとが設けられている。ターボチャージャー1内に備えられた可変ノズル(図示せず)は、センターハウジングとタービンハウジングとの間に配設されている。
【0003】
3はステッピングモータであり、このステッピングモータ3の駆動により操作片4が操作され、可変ノズルに備えたリングプレートを同方向に押圧し、相互の可変ノズルのベーン間の隙間の大きさを調整し、タービンホイールへ吹き付けられる排気ガスの流速が調節される。5はエンジンのECU(電子制御ユニット)であり、エンジンに設けられた各種のセンサの検出出力を入力し、これらの検出出力に基づいて、エンジンの運転状態を識別してステッピングモータ3を駆動制御し、これによって、可変ノズルの各ノズルのベーンの開度を開閉制御し、タービンホイールへ吹き付けられる排気ガスの流速を調節し、併せて、燃焼のために強制的に送り込まれる空気の量も調整される。6はラジエターであり、エンジン2に接続され、エンジン2の冷却水が該ラジエター6を循環して冷却される。
【0004】
この従来技術によれば、内燃機関の可変ノズルターボチャージャー制御装置の異常発生時又は冷間始動時、若しくはアイドル時には、可変ノズルの全開位置を可変ノズルの初期位置として設定することにより全開位置近傍での各ノズルベーンの位置制御を行なうことができる。
【0005】
また、ターボチャージャーの可変ノズル制御装置おいて、可変ノズルのベーンの通常作動領域以外の作動角範囲にあるノズルリング表面には煤が固着又は滞留することがあり、この煤を除去するため、イグニションスイッチのオフによるエンジンの停止に基づくエンジンECUからのステータス指示情報により当該可変ノズルのベーンの全作動領域に於いて全閉位置を少なくとも1回経由して全開位置までベーンを動作させて、いわゆる煤ばらいを実行することができる可変ノズル制御装置も知られている。(例えば、特許文献2参照)。この煤ばらいを行う動作をワイピング動作という。ワイピング動作は、イグニッションキーがOFFになると、エンジンECUからワイピング指令が出力される。これを受けて、可変ノズルのベーンが全閉側の機械的ストッパに突き当たるまで動作させ、その後、全開側の機械的ストッパに突き当たるまで動作させて止まる。このワイピング動作が終了すると、電源OFF許可信号が出力されて可変ノズル制御装置の電源がOFFになる。この動作によって、エンジンの停止後に煤ばらいを実行することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−107738号公報
【特許文献2】特開2004−293537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献2に示すターボチャージャーの可変ノズル制御装置は、電源ON時に、ワイピング動作を行って、全閉側の機械的ストッパに突き当てることにより全閉側の機械的ストッパ位置を求めるとともに、全開側の機械的ストッパに突き当てることにより全開側の機械的ストッパ位置を求めることにより可動範囲を特定している。全閉・全開位置を求める動作を図6を参照して説明する。製品組み付け初期の全開・全閉位置は角度センサ値「a」及び「b」であり、エンジンECUから出力される指令では、全開位置=0、全閉位置=1000として0〜1000の範囲による相対値で目標位置が指示される。この時、目標位置指令による目標位置は「X」となる。制御対象の機構部分の摩耗等により、可変ノズルのベーンの可動範囲が広がると、全開・全閉の角度センサ値は「a」から「a’」、「b」から「b’」に広がってしまう。この状態で、摩耗前と同一の目標位置が指示された場合、目標位置の指示範囲に対する可動範囲が広がっているため、目標位置は「X’」となり、摩耗前と摩耗後では制御対象に関与する位置関係が変わってしまい、指示した目標位置における期待性能が得られなくなるという問題がある。
【0008】
例えば、モータの出力軸の回転角度を検出する角度センサが出力する値の範囲を0〜8192とし、全開位置角度センサ値を5120、全閉位置角度センサ値を3072とした場合に、目標位置指令の最大値は1000であるとする。この場合、目標位置指令値1000は全閉位置に設定され、目標位置指令値0は、全開位置に設定されることになる。目標位置指令「1step」あたりの角度センサ値の割合を求めるには、全開位置角度センサ値から全閉位置角度センサ値を減算した値を、目標位置指令最大値から目標位置指令最小値を減算した値で除算すればよいので、
(5120−3072)/(1000−0)=2048/1000=2.048
となる。このとき、エンジンECUが出力する指令により受け取った目標位置を全開側基準で700とした場合、出力軸の目標位置は、受け取った目標位置に目標位置「1step」あたりの角度センサ値の割合を乗算して、基準位置の角度センサ値を加算すればよいので、
700×2.048−5120=3687
となる。すなわち、角度センサ値が「3687」となる位置に出力軸を回転すればよい。
【0009】
一方、制御対象の機構部が磨耗し、可動範囲が広がり、例えば、全開位置角度センサ値が5233、全閉位置角度センサ値が2959となった場合、同様に、目標位置指令「1step」あたりの角度センサ値の割合を求めると、
(5233−2959)/(1000−0)=2274/1000=2.274
となる。このとき、同様に、指令値700に対する出力軸の目標位置を求めると、
700×2.274−5233=3642
となる。すなわち、角度センサ値が「3642」となる位置に出力軸を回転すればよいことになり、摩耗前と摩耗後では、指令値が同一でもモータの出力軸の回転角度がことなるため、結果的に、可変ノズルのベーンの開度が異なってしまい、期待する性能を得ることができないという問題がある。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、制御対象の機構部が磨耗することにより、全閉・全開位置の可動範囲が変化しても、指令値に対する位置制御の再現性を維持することができるターボチャージャーの可変ノズル制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、可変ノズルを持つターボチャージャーを備えたエンジンの駆動を制御するエンジン制御装置からの制御信号に基づいてモータの回転軸の回転角度を制御することにより前記可変ノズルのベーンの開度を制御する電子制御アクチュエータを備えたターボチャージャーの可変ノズル制御装置であって、前記回転軸の回転角度を検出する角度センサと、前記回転軸の回転角度の最大値と最小値を記憶する記憶手段と、前記モータの回転軸の回転角度を制御して、前記可変ノズルのベーンを全開側と全閉側に移動させて初期化動作を実施する初期化制御手段と、前記初期化制御手段によって、前記可変ノズルのベーンを全開側と全閉側に移動させる間に、前記角度センサの出力値を読み込み、前記出力値の最大値と最小値を前記記憶手段に記憶する可動範囲判定手段と、前記記憶手段に記憶されている前記最大値と最小値に基づいて、前記エンジン制御装置からの前記可変ノズルのベーンの開度指令値を目標位置角度に変換し、前記角度センサの出力値が前記変換した目標位置角度になるように前記ベーンの開度を制御する開度制御手段とを備えることを特徴とする。
【0012】
本発明は、可変ノズルを持つターボチャージャーを備えたエンジンの駆動を制御するエンジン制御装置からの制御信号に基づいてモータの回転軸の回転角度を制御することにより前記可変ノズルのベーンの開度を制御するために、前記回転軸の回転角度を検出する角度センサと、前記回転軸の回転角度の最大値と最小値を記憶する記憶手段とを備える電子制御アクチュエータを備えたターボチャージャーの可変ノズル制御装置上で動作する可変ノズル制御プログラムであって、前記モータの回転軸の回転角度を制御して、前記可変ノズルのベーンを全開側と全閉側に移動させて初期化動作を実施する初期化制御ステップと、前記初期化制御ステップによって、前記可変ノズルのベーンを全開側と全閉側に移動させる間に、前記角度センサの出力値を読み込み、前記出力値の最大値と最小値を前記記憶手段に記憶する可動範囲判定ステップと、前記記憶手段に記憶されている前記最大値と最小値に基づいて、前記エンジン制御装置からの前記可変ノズルのベーンの開度指令値を目標位置角度に変換し、前記角度センサの出力値が前記変換した目標位置角度になるように前記ベーンの開度を制御する開度制御ステップとをコンピュータに行わせることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、制御対象の機構部分の摩耗等により可動範囲が広がった場合でも、出力軸の目標位置は初期化動作時に記憶しておいた可動範囲情報に基づき算出されるため、摩耗等の影響を受けずに目標位置制御を行うことができ、期待した制御対象の性能が再現することができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態の構成を示す構成図である。
【図2】図1に示す電子制御アクチュエータ13の詳細な構成を示すブロック図である。
【図3】図2に示す可動範囲判定部137の処理動作を示すフローチャートである。
【図4】出力軸17の可動範囲を示す説明図である。
【図5】ターボチャージャーの可変ノズル制御装置の従来例を示す構成図である。
【図6】従来技術による出力軸の可動範囲を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態によるターボチャージャーの可変ノズル制御装置を説明する。図1は同実施形態の構成を示す構成図である。この図において、8はターボチャージャーであって、エンジンへの吸入空気を過給するシステムであり、コンプレッサホイールを有するコンプレッサ及び該コンプレッサと同軸上にロータシャフトにより結合されて、排気ガスにて回転駆動される該ターボチャージャー8のタービンホイールを有するタービンが設けられている。該ターボチャージャー8の空気通路7にはエンジンの吸入空気の吸気圧力、つまり、ブースト圧を検出する圧力センサ9をホース10を介して接続している。また、ターボチャージャー8のタービン内には、タービンホイールを取巻くように、可変ノズル部材が配置されている。可変ノズル部材には、ノズル内を流れる流体の流量を制御するために、開閉するベーンが備えられている。可変ノズル制御装置は、このベーンの開閉を制御するものである。
【0016】
11はエンジンECUであって、エンジンに設けられた各種センサ、例えばエンジン水温を検出するための水温センサ、エンジンの回転数を検出するためのものであって、一定のクランク角度毎にパルス信号を出力する回転数センサ、エアフローメーターによる吸入空気量やドライバーのアクセルペダルの踏込み操作量を検出して負荷量を算出するアクセルセンサから、それぞれ水温信号、回転信号及び負荷信号の検出出力を導入する。なお、図1には示していないが、その他、排気ガスの酸素濃度に応じて異なる電圧信号を出力する酸素センサ、エンジン燃焼室内の圧力を検出するための筒内圧センサを備えることもある。
【0017】
電子制御アクチュエータ13は、制御信号線を介してエンジンECU11に接続されている。エンジンECU11は、検出出力に基づいてエンジンの運転状態を識別して、制御信号線を介して、電子制御アクチュエータ13を駆動制御する。電子制御アクチュエータ13は、レバー19及びロッド20を連結しており、その動作により、ターボチャージャー8に備えたベーンの開閉を制御するために、各ベーンに連結されたベーン操作片21の動作を制御する。
【0018】
なお、電子制御アクチュエータ13は、例えば、ターボチャージャー8に取付けられる。また、電子制御アクチュエータ13の構成を図1、図2を参照して説明するに際して、電子制御アクチュエータ13が普通に有する公知の機能・構成については、本発明の説明に直接関わりがない限り、その説明及び構成の図示を省略する。
【0019】
次に、図2を参照して、図1に示す電子制御アクチュエータ13の詳細な構成を説明する。図2は、図1に示す電子制御アクチュエータ13の詳細な構成を示すブロック図である。図2において、130は、電子制御アクチュエータ13の動作を統括して制御するマイクロコンピュータ(以下、マイコンという)である。14は、マイコン130から出力する駆動信号に基づいて、ステッピングモータ(以下、モータという)15を駆動するモータドライバである。モータ15は、モータドライバ14から出力する信号に基づいて回転角度が制御されるステッピングモータである。16は、モータ15の回転軸に接続され、モータの回転軸を減速するギヤである。17は、ギヤ16によって減速された出力軸である。18は、出力軸17の回転角度を検出して出力する角度センサである。角度センサ18の出力は、マイコン130へ入力する。
【0020】
131は、エンジンECU11から出力されるベーンの目標位置(開度)信号を入力し、この目標位置信号をマイコン130内で扱う角度信号に変換して出力する角度信号変換部である。132は、角度信号変換部131が出力する目標位置の角度信号と、角度センサ18が出力する角度信号(現在のベーンの角度(開度))とを比較して、比較結果信号を出力する角度信号比較部である。133は、角度信号比較部132が出力する比較結果信号を入力して、モータに与えるべき信号のデューティ比を演算によって求めて出力するモータ駆動Duty演算部である。134は、モータ駆動Duty演算部133が出力するデューティ比の信号を入力して、モータに与えるべきロジック信号を求めて出力するモータ駆動ロジック生成部である。135は、角度センサ18が出力する角度信号をエンジンECU11へ送信するための通信信号に変換して出力する通信信号変換部である。通信信号変換部135が出力する角度の情報が現在のベーンの実位置情報となる。
【0021】
136は、電源(イグニッションキー)ON・OFF時に出力される初期化指令を入力して、ワイピング動作を含む初期化処理を行う初期化処理部であり、モータ駆動Duty演算部133に対して、初期化動作の指示を出して、初期化動作を実行する。137は、初期化処理部136からモータ駆動Duty演算部133に対して、初期化動作の指示を出している間に、角度センサ18の出力値を入力し、出力軸17の可動範囲を判定し、可動範囲情報を出力する可動範囲判定部である。138は、可動範囲判定部137から出力される可動範囲情報を記憶する可動範囲記憶部である。
【0022】
次に、図2を参照して、図2に示す電子制御アクチュエータ13の基本動作を説明する。エンジンECU11から目標位置信号が出力されると、角度信号変換部131は、目標位置信号をマイコン130内で扱う角度信号に変換して出力する。角度信号比較部132は、角度信号変換部131が出力する目標位置の角度信号と、角度センサ18が出力する角度信号(現在のベーンの角度)とを比較して、現在のベーンの角度を目標位置にするべくモータ駆動のデューティを演算によって求めて出力する。これを受けて、モータ駆動ロジック生成部134は、モータ駆動Duty演算部133が出力するデューティの信号を入力して、モータドライバ14に与えるべきロジック信号(モータ駆動信号)を求めて出力する。
【0023】
モータドライバ14は、モータ駆動ロジック生成部134から出力されるモータ駆動信号に基づいてモータ15を駆動する。モータの回転軸は、ギヤ16によって減速されて、出力軸17に伝達する。出力軸17の回転運動は、レバー19、ロッド20を介して、ベーン操作片21へ伝達する。ベーン操作片21が、出力軸17と連動して動作することにより、ノズルベーンの開閉制御動作が行われることになる。一方、角度センサ18が検出した出力軸17の回転角度の情報は、通信信号変換部135を経由して、エンジンECU11へ通知される。エンジンECU11は、この出力軸の回転角度(ノズルベーンの開度)情報を参照して、ターボチャージャー8の動作の制御を行う。
【0024】
このように、角度センサ18により可変ノズルのベーンに連結された出力軸17の回転角度を検出して出力軸17の実角度信号を出力し、角度信号変換部131によりエンジンECU11からの可変ノズルのベーンの開度指示(目標位置信号)を出力軸17の目標角度信号に変換し、この両信号を比較して該両信号の差に応じて、出力軸17の回転角度を制御することにより、可変ノズルのベーンが目標位置になるように制御されることになる。
【0025】
次に、図2を参照して、図2に示す初期化処理部136の処理動作を説明する。まず、イグニッションキーがONまたはOFFになると、初期化処理部136に対して初期化指令が出力される。これを受けて、初期化処理部136は、モータ駆動Duty演算部133に対して、可変ノズルのベーンのワイピング動作を実施する指示情報を出力する。そして、初期化処理部136は、モータ駆動Duty演算部133に対して、出力軸17の回転角度を制御して、可変ノズルのベーンが全開側の機械的ストッパに突き当たるまで全開方向へベーンが移動するようにDuty値を出力するように指示する。これにより、モータ駆動Duty演算部133より、所定のDuty値が出力され、モータ15が駆動して、可変ノズルのベーンが全閉側の機械的ストッパに突き当たるまで移動する。
【0026】
初期化処理部136は、ベーンが機械的ストッパに突き当たったか否かの判定を行い、ベーンが全閉側の機械的ストッパに突き当たった時点で、モータ15の回転を逆転して、可変ノズルのベーンが全開側の機械的ストッパに突き当たるまで移動する指示をモータ駆動Duty演算部133に対して出力する。これにより、モータ駆動Duty演算部133より、所定のDuty値が出力され、モータ15が駆動して、可変ノズルのベーンが全開側の機械的ストッパに突き当たるまで移動する。初期化処理部136は、ベーンが機械的ストッパに突き当たったか否かの判定を行い、ベーンが全開側の機械的ストッパに突き当たった時点で初期化処理を終了する。このような動作によって、初期化が実施される。
【0027】
次に、図3を参照して、図2に示す可動範囲判定部137が出力軸17の可動範囲情報を取得して記憶する動作を説明する。図3は、図2に示す可動範囲判定部137が出力軸17の可動範囲情報を取得して記憶する動作を示すフローチャートである。図3に示す処理動作は、前述した初期化動作と並行して実行される。まず、イグニッションキーがONまたはOFFになると、可動範囲判定部137は、内部に保持している実行フラグを参照して(ステップS1)、フラグがセットされているか否か(実行フラグ=1であるか否か)を判定する(ステップS2)。この実行フラグは、図3に示す処理動作が実行されるとセットされるフラグである。この判定の結果、実行フラグが1であれば以降の処理を行わない。すなわち、図3に示す処理動作は、電子制御アクチュエータ13がターボチャージャー8に組み付けられて、初めて稼働するときのみに1回実行されるものである。
【0028】
一方、実行フラグが0であれば、可動範囲判定部137は、初期化処理部136から出力される初期化動作を指示する情報を読み取り(ステップS3)、初期化動作が開始されたか否かを判定する(ステップS4)。この判定の結果、初期化動作が開始されていなければ、初期化動作が開始されるまで待機する。一方、初期化動作が開始された場合、可動範囲判定部137は、角度センサ18の出力値を読み取り(ステップS5)、初期化処理中に角度センサ18から出力される出力値の最大値と最小値を求める(ステップS6)。最大値と最小値は、新たに読み込んだ出力値が、最小値より小さい場合、この出力値を最小値とし、読み込んだ出力値が、最大値より大きい場合、この出力値を最大値とする処理を繰り返すことにより行う。そして、可動範囲判定部137は、初期化処理が終了したか否かを判定し(ステップS7)、初期化処理が終了するまで処理を繰り返す。
【0029】
次に、可動範囲判定部137は、初期化処理が終了した時点で、求めた最大値と最小値を可動範囲記憶部138へ記憶する(ステップS8)。可動範囲記憶部138は、電源を供給しなくても記憶内容を保持することができるメモリ素子で構成されているため、記憶した最大値と最小値は、電源がOFFになっても記憶内容は変化しない。そして、可動範囲判定部137は、実行フラグをセットする(ステップS9)。この実行フラグセットにより、図3に示す処理動作は、イグニッションキーがON・OFFになっても実行されることはない。したがって、出力軸17の可動範囲は、可動範囲記憶部138に記憶されている最大値と最小値で特定されることになる。角度信号変換部131は、エンジンECU11から0〜1000の目標位置信号を受け取ると、可動範囲記憶部138に記憶されている可動範囲最小値に「0」を、可動範囲最大値に「1000」を割り当てる。
【0030】
このように、制御対象の機構部分の摩耗等により可動範囲が広がった場合でも、出力軸の目標位置は可動範囲記憶部138に記憶された可動範囲情報に基づき算出されるため、摩耗等の影響を受けずに目標位置制御を行うことができ、期待した制御対象の性能が再現することが可能となる。
【0031】
例えば、図4に示すように、製品組み付け初期の全開・全閉位置は角度センサ値「a」及び「b」であり、エンジンECUから出力される指令では、全開位置=0、全閉位置=1000として0〜1000の範囲による相対値で目標位置が指示される。この時、指令側から指示された目標位置は「X」となる。仮に摩耗等によって、可変ノズルのベーンの可動範囲が広がると、全開・全閉の角度センサ値は「a」から「a’」、「b」から「b’」に広がるが、「a」、「b」の位置を可動範囲記憶部138に記憶しておくようにし、起動時は、この可動範囲記憶部138に記憶された全開・全閉角度センサ値を用いるようにしたため、制御対象の機構部分の摩耗等による可動範囲変化の影響を排除することができる。
【0032】
なお、前述した説明においては、電源(イグニッションキー)ON・OFF時に初期化指令が出力される例を説明したが、初期化指令は、可変ノズル制御装置の電源が「入」になった時点から電源が「切」になるまでの間のどのタイミングで何回出力されてもよい。
【0033】
また、図2に示すマイコン130の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより可変ノズル制御処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0034】
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【符号の説明】
【0035】
11・・・エンジンECU、13・・・電子制御アクチュエータ、130・・・マイクロコンピュータ(マイコン)、131・・・角度信号変換部、132・・・角度信号比較部、133・・・モータ駆動Duty演算部、134・・・モータ駆動ロジック生成部、135・・・通信信号変換部、136・・・初期化処理部部、137・・・可動範囲判定部、138・・・可動範囲記憶部、14・・・モータドライバ、15・・・モータ、16・・・ギヤ、17・・・出力軸、18・・・角度センサ、19・・・レバー、20・・・ロッド、21・・・ベーン操作片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変ノズルを持つターボチャージャーを備えたエンジンの駆動を制御するエンジン制御装置からの制御信号に基づいてモータの回転軸の回転角度を制御することにより前記可変ノズルのベーンの開度を制御する電子制御アクチュエータを備えたターボチャージャーの可変ノズル制御装置であって、
前記回転軸の回転角度を検出する角度センサと、
前記回転軸の回転角度の最大値と最小値を記憶する記憶手段と、
前記モータの回転軸の回転角度を制御して、前記可変ノズルのベーンを全開側と全閉側に移動させて初期化動作を実施する初期化制御手段と、
前記初期化制御手段によって、前記可変ノズルのベーンを全開側と全閉側に移動させる間に、前記角度センサの出力値を読み込み、前記出力値の最大値と最小値を前記記憶手段に記憶する可動範囲判定手段と、
前記記憶手段に記憶されている前記最大値と最小値に基づいて、前記エンジン制御装置からの前記可変ノズルのベーンの開度指令値を目標位置角度に変換し、前記角度センサの出力値が前記変換した目標位置角度になるように前記ベーンの開度を制御する開度制御手段と
を備えることを特徴とするターボチャージャーの可変ノズル制御装置。
【請求項2】
可変ノズルを持つターボチャージャーを備えたエンジンの駆動を制御するエンジン制御装置からの制御信号に基づいてモータの回転軸の回転角度を制御することにより前記可変ノズルのベーンの開度を制御するために、前記回転軸の回転角度を検出する角度センサと、前記回転軸の回転角度の最大値と最小値を記憶する記憶手段とを備える電子制御アクチュエータを備えたターボチャージャーの可変ノズル制御装置上で動作する可変ノズル制御プログラムであって、
前記モータの回転軸の回転角度を制御して、前記可変ノズルのベーンを全開側と全閉側に移動させて初期化動作を実施する初期化制御ステップと、
前記初期化制御ステップによって、前記可変ノズルのベーンを全開側と全閉側に移動させる間に、前記角度センサの出力値を読み込み、前記出力値の最大値と最小値を前記記憶手段に記憶する可動範囲判定ステップと、
前記記憶手段に記憶されている前記最大値と最小値に基づいて、前記エンジン制御装置からの前記可変ノズルのベーンの開度指令値を目標位置角度に変換し、前記角度センサの出力値が前記変換した目標位置角度になるように前記ベーンの開度を制御する開度制御ステップと
をコンピュータに行わせることを特徴とする可変ノズル制御プログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−223201(P2010−223201A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74684(P2009−74684)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000144027)株式会社ミツバ (2,083)
【Fターム(参考)】