説明

ターボチャージャ

【課題】ノズルからタービンホイールの翼間流路に流れる排気の流速を的確に最適な値へと調整しつつ、ノズル付近での圧力の過上昇を抑制し、ターボチャージャの過給効率の低下を抑制する。
【解決手段】ターボチャージャ11のタービンホイール14の翼間流路16に第2ノズル23からの排気が流入するとき、中高速用固定翼25の形成されたスライダ27をロータシャフト13の軸線方向に変位させることで、同ノズル23のガス流通面積が変更される。上記スライダ27の変位は、中高速用固定翼25をノズル壁面23aに接触させる突出位置と、中高速用固定翼25をノズル壁面23aから最も離れた状態とする没入位置との間で行われる。スライダ27を突出位置に変位させたとき、中高速用固定翼25とノズル壁面23aとの間にクリアランスが生じることはない。また、内燃機関の排気温が高くなるとき、中高速用固定翼25がノズル壁面23aに固着することもない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の過給に用いられるターボチャージャに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車用等の内燃機関においては、出力向上等を図るために過給機としてターボチャージャを設けたものが知られている。こうしたターボチャージャは、内燃機関の排気が送り込まれるタービンスクロールと、そのタービンスクロール内の排気をタービンホイールの翼間流路に流すノズルと、タービンホイールと一体回転するコンプレッサホイールとを備えている。そして、ノズルからタービンホイールの翼間流路への排気の流入により同ホイールが回転すると、それに伴いコンプレッサホイールが回転して内燃機関の燃焼室に向けて強制的に空気が送り込まれるようになる。
【0003】
ところで、内燃機関の低回転時には同機関の排気流量が少なくなるため、ノズルからタービンホイールの翼間流路に流入する排気の流速が低下する。このようにタービンホイールの翼間流路に流入する排気の流速が低下すると、タービンホイールを効果的に回転させることができなくなり、それに伴いコンプレッサホイールの回転による内燃機関の過給も効果的に行えなくなる。こうした問題に対処するため、排気流量の少なくなる内燃機関の低回転時、タービンホイールの翼間流路に流入する排気の流速が同ホイールを効果的に回転させるうえで十分に高速になるよう、ノズルのガス流通面積を小さく設定することも考えられる。ただし、このようにノズルのガス流通面積を小さく設定すると、排気流量の多くなる内燃機関の中高回転時に上記ノズル付近の圧力が高くなり過ぎる。
【0004】
そこで、特許文献1に示されるように、上記ノズルとして羽根つきノズル及び羽根なしノズルとを設け、羽根つきノズルのガス流通面積を内燃機関の低回転時に適した値に設定するとともに、羽根なしノズルを通ってのタービンホイールの翼間流路への排気の流入を禁止・許可すべく開閉動作する制御バルブを設けることが提案されている。この場合、内燃機関の低回転時には、制御バルブが閉じられて羽根なしノズルを通ってのタービンホイールの翼間流路への排気の流入が禁止されるため、その翼間流路への排気の流入は羽根つきノズルのみから行われることとなる。従って、排気流量の少なくなる内燃機関の低回転時、タービンホイールの翼間流路に流入する排気の流速を同ホイールを効果的に回転させるうえで十分に高速にすることができる。一方、内燃機関の高回転時には、制御バルブが開かれて羽根なしノズルを通っての上記翼間流路への排気の流入が許可される。このため、排気流量が多くなる内燃機関の高回転時、羽根つきノズル付近の圧力が高くなり過ぎるのを抑制することができる。
【0005】
上記特許文献1のターボチャージャを用いれば、内燃機関の低回転時にタービンホイールの翼間流路に流入する排気の流速確保と、内燃機関の高回転時におけるノズル付近の圧力過上昇の抑制との両立を図り、ターボチャージャによる過給の効率を高めることは可能になる。しかし、内燃機関の中回転時には、同機関の排気流量が低回転時と高回転時との中間程度の値になることから、制御バルブを開弁状態と閉弁状態とのいずれに制御したとしても、タービンホイールの翼間流路に流入する排気の流速を同ホイールを効果的に回転させる値としつつ、ノズル付近の圧力が高くなり過ぎるのを抑制するのは困難である。すなわち、内燃機関の中回転時に制御バルブを開弁状態とした場合には、ノズル付近の圧力が過上昇するのは抑制できるものの、タービンホイールの翼間流路に流入する排気の流速が同ホイールを効果的に回転させる値よりも小となる。また、内燃機関の中回転時に制御バルブを閉弁状態とした場合には、タービンホイールの翼間流路に流入する排気の流速を好適な値へと高めることはできるものの、ノズル付近の圧力が過上昇して過給効率が低下することは避けられない。
【0006】
こうした問題に対処するため、上述した羽根つきノズル、羽根なしノズル、及び制御バルブといった構成を採用する代わりに、ノズルに同ノズルのガス流通面積を可変とすべく開閉動作する可変翼を設けることも考えられる。この可変翼は、上記ノズルにおける対向するノズル壁面間に所定間隔をおいて複数設けられ、それらノズル壁面と直交する軸を中心とする回動方向に各々同期して開閉動作する。そして、隣り合う可変翼の開閉動作に基づき、各可動翼間の隙間の大きさ、言い換えればノズルのガス流通面積が変化するようになる。
【0007】
以上のように、ノズルに可変翼を設けたターボチャージャにおいては、その可変翼を開閉させてノズルのガス流通面積を変更することで、ノズルを通って上記翼間流路に流れる排気の流速を可変とすることができる。従って、内燃機関の低回転時には可動翼を閉じ側に変位させ、内燃機関の回転速度が高くなるにつれて上記可変翼を開き側に変位させてノズルのガス流通面積を大きくしてゆくことで、以下のような効果を得ることができると考えられる。すなわち、機関低回転時には上記翼間流路に流入する排気の流速を最適な値に調整しつつ、機関中回転から高回転にかけては上記排気の流速を最適な値としたうえでノズル付近の圧力過上昇に伴う過給効率低下を抑制することが可能と考えられる。
【特許文献1】特開昭60−166718公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、ノズルに可変翼を設けたターボチャージャにおいては、ノズル壁面と可変翼とのクリアランスから排気が漏れることは避けられず、その排気漏れの分だけノズルからタービンホイールの翼間流路に流れる排気の流速が低下する。従って、ノズルからタービンホイールの翼間流路に流れる排気の流速を、タービンホイールを効率よく回転させることの可能な値に調整することが困難になり、ターボチャージャの過給効率が低下する。
【0009】
また、内燃機関の排気温が例えば950℃以上といった高温になると、ノズルの対向するノズル壁面間で開閉動作するノズルがノズル壁面に固着してしまい、ノズルのガス流通面積を変更することができなくなる。その結果、ノズルからタービンホイールの翼間流路に流れる排気の流速を、タービンホイールを効率よく回転させることの可能な値に調整することができなくなったり、ノズル付近の圧力が過上昇したりして、ターボチャージャの過給効率が低下する。
【0010】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、ノズルからタービンホイールの翼間流路に流れる排気の流速を的確に最適な値へと調整しつつ、ノズル付近での圧力の過上昇を抑制し、ターボチャージャの過給効率低下を抑制することのできるターボチャージャを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明では、内燃機関の排気が送り込まれるタービンスクロールと、そのタービンスクロール内の排気をタービンホイールの翼間流路に流すノズルとを備え、そのノズルから前記タービンホイールの翼間流路への排気の流入により同ホイールが回転するターボチャージャにおいて、前記ノズルにおける対向するノズル壁面のうち一方のノズル壁面側から他方のノズル壁面に接触するまで突出する突出位置と、前記他方のノズル壁面から最も離れた状態である没入位置との間で変位するスライダと、前記スライダが前記突出位置にあるときに前記スライダにおける前記ノズル内に位置する部分に形成されて同ノズルのガス流通面積を定める固定翼とを備えた。
【0012】
上記構成によれば、スライダを突出位置に変位させたとき、ノズルのガス流通面積がスライダに形成された固定翼によって定められた値になる。そして、スライダを突出位置から没入位置に向けて変位させるほど、スライダに形成された固定翼が上記他のノズル壁面から離れてゆき、ノズルのガス流通面積が大きくなってゆく。従って、スライダを突出位置と没入位置との間で変位させてノズルのガス流通面積を変更することで、ノズルからタービンホイールの翼間流路に流れる排気の流速が調整される。このように固定翼を上記他のノズル壁面に対し接近・離間させることで、ノズルのガス流通面積を変更して上記翼間流路に流入する排気の流速を調整する場合、以下のような効果が得られるようになる。すなわち、ノズルに設けられた可変翼を開閉動作させて上記翼間流路に流入する排気の流速を調整する場合のように、ノズル壁面と可変翼とのクリアランスからの排気漏れに起因して、上記排気の流速を適切な値に調整するのが困難になるということはなく、その調整を的確に行うことができる。また、上記可変翼を採用した場合のように、内燃機関の排気温が高くなったときノズル壁面に可変翼が固着することもなく、それによって上記排気の流速を適切な値に調整できなくなったり、ノズル付近の圧力が過上昇したりするのを回避することができる。従って、ノズルからタービンホイールの翼間流路に流れる排気の流速を、タービンホイールを効果的に回転させるうえで最適な値へと的確に調整しつつ、ノズル付近の圧力の過上昇を抑制することができ、それらを行えないことに伴うターボチャージャの過給効率低下を抑制することができる。
【0013】
請求項2記載の発明では、請求項1記載の発明では、前記スライダについては前記固定翼が前記タービンホイールの翼間流路の直前に位置するように設けられていることを要旨とした。
【0014】
固定翼がタービンホイールの翼間流路に対し上流側に離れて位置するほど、その固定翼によってノズルから上記翼間流路に流れる排気の流速を定めることは困難になる。上記構成によれば、固定翼が翼間流路の直前に位置するため、ノズルから翼間流路に流入する排気の流速を固定翼によって的確に定めることができる。
【0015】
請求項3記載の発明では、請求項1又は2記載の発明では、前記ノズルとして第1ノズルと第2ノズルとが設けられ、前記第1ノズルにはノズル壁面に固定されるとともに同ノズルのガス流通面積を内燃機関の低回転時に適した値に設定する低速用固定翼が設けられ、内燃機関の低回転時には前記第2ノズルへの排気の流入を禁止すべく全閉状態とされて内燃機関の中高回転時には前記第2ノズルへの排気の流入を許可すべく全開状態とされる制御バルブが設けられ、前記スライダは前記第2ノズルにおいて突出位置と没入位置との間で変位するものであり、前記スライダに形成された固定翼は同スライダを突出位置に変位させたときに前記第2ノズルのガス流通面積を内燃機関の中回転時に適した値に設定する中高速用固定翼であることを要旨とした。
【0016】
上記構成によれば、内燃機関の低回転時には制御バルブが閉弁状態とされ、第2ノズルへの排気の流入が禁止され、タービンホイールの翼間流路への排気の流入は第1ノズルのみから行われる。この第1ノズルについては、ノズル壁面に低速用固定翼が固定されるとともに、同ノズルのガス流通面積が上記低速用固定翼によって内燃機関の低回転時に適した値に固定されている。上記低速用固定翼と第1ノズルのノズル壁面との間にクリアランスはなく、そのクリアランスからの排気漏れの影響を受けて、第1ノズルからタービンホイールの翼間流路に流れる排気の流速を適切な値に調整するのが困難になるということもない。従って、内燃機関の低回転時に第1ノズルからタービンホイールの翼間流路に流入する排気の流速を、タービンホイールを効果的に回転させるのに適した値へと的確に調整することができる。
【0017】
また、内燃機関の中高回転時には制御バルブが開弁状態とされ、第1ノズルと第2ノズルとの両方からタービンホイールの翼間流路への排気の流入が行われる。
内燃機関の中回転時にはスライダを突出位置に保持することで、そのスライダに形成された中高速用固定翼が第2ノズルにおける上記他のノズル壁面に接触した状態となり、その中高速用固定翼によって第2ノズルのガス流通面積を内燃機関の中回転時に適した値に定めることができる。言い換えれば、第2ノズルからタービンホイールの翼間流路に流入する排気の流速を内燃機関の中回転時にタービンホイールを効果的に回転させつつ、第2ノズル付近の圧力を過上昇させることのない値に定めることができる。そして、このときには、中高速用固定翼と上記他のノズル壁面との間にクリアランスが生じることはないため、そのクリアランスからの排気漏れに起因して第2ノズルから上記翼間流路に流入する排気の流速を適切な値に調整するのが困難になるということもない。
【0018】
内燃機関の中回転から回転にかけては、同機関の回転速度が高くなるほどスライダを突出位置から没入位置へと変化させることで、スライダに形成された中高速用固定翼が上記他のノズル壁面から離れてゆき、ノズルのガス流通面積が大きくなってゆく。このように第2ノズルのガス流通面積を変更することで、第2ノズルからタービンホイールの翼間流路に流れる排気の流速を適切な値に調整することができるとともに、第2ノズル付近での圧力の過上昇を抑制することができる。また、上述したように中高速用固定翼を上記他のノズル壁面に対し接近・離間させることで第2ノズルのガス流通面積を変更する場合、内燃機関の排気温が高くなったとしても上記他のノズル壁面に中高速用固定翼が固着することはなく、それによって上記排気の流速を適切な値に調整できなくなったり、第2ノズル付近での圧力の過上昇が生じたりするのを回避することができる。
【0019】
以上により、内燃機関の低回転から高回転に亘って、タービンホイールの翼間流路に流入する排気の流速を、タービンホイールを効果的に回転させるうえで最適な値に的確に調整しつつ、ノズル付近の圧力が過上昇するのを抑制することができ、それらを行えないことによるターボチャージャの過給効率低下を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図4に従って説明する。
図1は、自動車に搭載される内燃機関の過給を行うターボチャージャ11における同機関の排気系側の部分を示す断面図である。
【0021】
同図に示されるように、ターボチャージャ11は、センタハウジング12に回転可能に支持されたロータシャフト13を備えている。そして、ロータシャフト13の一端部(図中右端部)にはタービンホイール14が取り付けられている。このタービンホイール14にはロータシャフト13の軸線を中心とする周方向に沿って複数の羽根15が設けられ、各羽根15の間は翼間流路16とされている。
【0022】
センタハウジング12の一端側には、タービンホイール14の外周を囲うように、しかも渦巻き状に延びるかたちでタービンスクロール17が取り付けられている。このタービンスクロール17の内部は、内燃機関の排気通路21と連通しており、同排気通路21から内燃機関の排気が送り込まれるようになっている。そして、タービンスクロール17内に送り込まれた排気をタービンホイール14の翼間流路16に流すことで、タービンホイール14及びロータシャフト13が回転するようになる。そして、ロータシャフト13が回転すると、同シャフト13の他端部に取り付けられたコンプレッサホイールも回転し、それに伴い内燃機関の吸気通路内の空気が強制的に燃焼室に向けて送り出される。
【0023】
次に、タービンスクロール17の内部構造について詳しく説明する。
タービンスクロール17においては、内燃機関の排気通路21と繋がるスクロール通路19が形成されるとともに、そのスクロール通路19内の排気をタービンホイール14の翼間流路16に流す第1ノズル22及び第2ノズル23が設けられている。また、第2ノズル23とスクロール通路19との接続部分には、アクチュエータ26aによって駆動される制御バルブ26が設けられている。この制御バルブ26は、アクチュエータ26aによる駆動を通じて、スクロール通路19から第2ノズル23への排気の流入を禁止・許可すべく全閉状態と全開状態との間で開閉動作する。
【0024】
第1ノズル22の対向するノズル壁面において、タービンホイール14の翼間流路16寄りの部分には、第1ノズル22のガス流通面積を設定するための低速用固定翼24が固定されている。この低速用固定翼24は、タービンホイール14周りにおいて、図2に示されるように周方向に沿って等間隔をおいて複数設けられている。そして、第1ノズル22のガス流通面積については、上記各低速用固定翼24によって、内燃機関の低回転時にスクロール通路19から第1ノズル22を通ってタービンホイール14の翼間流路16に流入する排気の流速が、同ホイール14を効果的に回転させることの可能な値となるよう設定されている。
【0025】
図1に示されるタービンスクロール17において、第2ノズル23に対応する部分には、ロータシャフト13の軸線方向(図中左右方向)に延びる円筒状のスライダ27が当該軸線方向に変位可能に設けられている。こうしたスライダ27の変位はアクチュエータ27aの駆動を通じて行われ、スライダ27の外周面にはアクチュエータ27aによる上記軸線方向への駆動力を受ける溝32が形成されている。そして、スライダ27は、アクチュエータ27aの駆動を通じて、第2ノズル23の対向するノズル壁面23a,23bのうち一方のノズル壁面23bから他方のノズル壁面23aに接触する突出位置と、他方のノズル壁面23aから最も離れた状態であって一方のノズル壁面23bに対し没入した状態である没入位置との間で変位する。
【0026】
スライダ27が突出位置にあるとき、すなわち図1に示される位置にあるときに同スライダ27における第2ノズル23内に位置する部分には、第2ノズル23のガス流通面積を定めるための中高速用固定翼25が形成されている。スライダ27に形成された中高速用固定翼25は、タービンホイール14周りにおいて、図3に示されるように周方向に沿って等間隔をおいて複数設けられている。そして、第2ノズル23のガス流通面積は、上記各中高速用固定翼25によって以下のように設定されている。すなわち、内燃機関の中回転時にスクロール通路19から第2ノズル23を通ってタービンホイール14の翼間流路16に流入する排気の流速が同ホイール14を効果的に回転させることの可能な値となり、かつ第2ノズル23付近の圧力が過上昇することのない値となるよう設定されている。
【0027】
なお、上記スライダ27については、中高速用固定翼25がタービンホイール14の翼間流路16に対し可能な限り近い位置となり、その翼間流路16の直前に位置するように設けられている。これは、中高速用固定翼25がタービンホイール14の翼間流路16に対し上流側に離れて位置するほど、その中高速用固定翼25によって第2ノズル23から上記翼間流路16に流れる排気の流速を定めることが困難になるためである。
【0028】
ところで、ターボチャージャ11の過給効率については、タービンホイール14の翼間流路16に排気が流入する際の流速など、翼間流路16への排気の流入態様が大きく影響を及ぼす。また、タービンホイール14の翼間流路16への排気の流入態様は、制御バルブ26の開閉動作、及び、スライダ27のロータシャフト13の軸線方向への変位、すなわち突出位置(図1)と没入位置(図4)との間での変位を通じて可変とされる。従って、ターボチャージャ11による過給を効果的に行うには、上記翼間流路16への排気の流入態様が内燃機関の運転状態に適したものとなるよう、制御バルブ26及びスライダ27を制御することが必要になる。
【0029】
この実施形態では、こうした制御バルブ26及びスライダ27の制御を、自動車に搭載された内燃機関の各種制御を行う電子制御装置29を通じて行うようにしている。この電子制御装置29は、内燃機関の回転速度を検出する回転速度センサ28など各種センサの検出信号を入力し、これら検出信号から把握される機関運転状態に基づき制御バルブ26の開閉動作及びスライダ27の軸線方向への変位を行うためのアクチュエータ26a,27aの駆動制御を行う。こうした制御バルブ26及びスライダ27の制御を通じて、タービンホイール14の翼間流路16への排気の流入態様がターボチャージャ11による効果的な過給を実現するのに適した態様とされる。
【0030】
次に、上述した制御バルブ26及びスライダ27の制御について詳しく説明する。
内燃機関の低回転時には制御バルブ26が全閉状態とされ、第2ノズル23からタービンホイール14の翼間流路16への排気の流入が禁止される。このとき、翼間流路16への排気の流入は第1ノズル22のみから行われる。この第1ノズル22については、低速用固定翼24が同ノズル22の対向するノズル壁面に固定されるとともに、同ノズル22のガス流通面積が上記低速用固定翼24によって内燃機関の低回転時に適した値となるよう設定されている。上記低速用固定翼24と第1ノズル22のノズル壁面との間にクリアランスはなく、そのクリアランスからの排気漏れの影響を受けて、第1ノズル22からタービンホイール14の翼間流路16に流れる排気の流速を適切な値に調整するのが困難になるということもない。従って、内燃機関の低回転時に第1ノズル22からタービンホイール14の翼間流路16に流れる排気の流速を、タービンホイール14を効果的に回転させるのに適した値に調整することができる。
【0031】
また、内燃機関の中高回転時には制御バルブ26が全開状態とされ、第1ノズル22と第2ノズル23との両方からタービンホイール14の翼間流路16への排気の流入が行われる。
【0032】
内燃機関の中回転時にはスライダ27を突出位置、すなわち図1の位置に保持することによって、そのスライダ27に形成された中高速用固定翼25が第2ノズル23のノズル壁面23aに接触した状態となり、その中高速用固定翼25によって第2ノズル23のガス流通面積が内燃機関の中回転時に適した値に定められる。言い換えれば、第2ノズル23からタービンホイール14の翼間流路16に流入する排気の流速を内燃機関の中回転時にタービンホイール14を効果的に回転させつつ、第2ノズル23付近の圧力を過上昇させることのない値となるよう定められる。そして、このときには、中高速用固定翼25とノズル壁面23aとの間にクリアランスが生じることはないため、そのクリアランスからの排気漏れに起因して第2ノズル23から上記翼間流路16に流入する排気の流速を適切な値に調整するのが困難になるということもない。
【0033】
内燃機関の中回転から高回転にかけては、内燃機関の回転速度が高くなるほどスライダ27を図1の位置である突出位置から図4の位置である没入位置へと開き側に変化させることで、スライダ27に形成された中高速用固定翼25が上記ノズル壁面23aから離れてゆき、第2ノズル23のガス流通面積が大きくなってゆく。このように第2ノズル23のガス流通面積を変更することで、第2ノズル23からタービンホイール14の翼間流路16に流れる排気の流速を適切な値に調整することができるとともに、第2ノズル23付近での圧力の過上昇を抑制することができる。また、上記中高速用固定翼25をノズル壁面23aに対し接近・離間させることで、第2ノズル23のガス流通面積を変更する場合、排気温が高くなったとしてもノズル壁面23aに上記固定翼25が固着することはなく、それによって上記排気の流速を適切な値に調整できなくなったり、ノズル付近の圧力が過上昇したりするのを回避することができる。
【0034】
以上詳述した本実施形態によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(1)内燃機関の低回転時には、第1ノズル22のみからタービンホイール14の翼間流路16への排気の流入が行われる。この第1ノズル22のノズル壁面と低速用固定翼24との間にはクリアランスが生じることはなく、そのクリアランスからの排気漏れの影響を受けて、第1ノズル22からタービンホイール14の翼間流路16に流れる排気の流速を適切な値に調整するのが困難になるということもない。従って、内燃機関の低回転時において、第1ノズル22から上記翼間流路16に流入する排気の流速を、タービンホイール14を効果的に回転させるのに適した値に調整することができる。
【0035】
(2)内燃機関の中回転時には、第2ノズル23からタービンホイール14の翼間流路16への排気の流入が行われるとともに、スライダ27が突出位置に保持される。これにより、内燃機関の中回転時において、上記翼間流路16に流入する排気の流速を最適な値としつつ、第2ノズル23付近の圧力の過上昇を抑制することができる。また、このときには、中高速用固定翼25とノズル壁面23aとの間にクリアランスが生じることはないため、そのクリアランスからの排気漏れに起因して第2ノズル23から上記翼間流路16に流入する排気の流速を適切な値に調整するのが困難になるということもない。
【0036】
(3)内燃機関の中回転から高回転にかけては、第2ノズル23から上記翼間流路16への排気の流入が行われるとともに、機関回転速度が高くなるほどスライダ27が突出位置から没入位置へと変位させられる。これにより、内燃機関の中回転から高い回転にかけて、第2ノズル23からタービンホイール14の翼間流路16に流れる排気の流速を最適な値としつつ、第2ノズル23付近での圧力の過上昇を抑制することができる。また、上述したように第2ノズル23のガス流通面積を変更する場合、排気温が高くなったとしてもノズル壁面23aに中高速用固定翼25が固着することはなく、それによって上記排気の流速を適切な値に調整できなくなったり、ノズル付近の圧力が過上昇したりするのを回避することができる。
【0037】
(4)上記(1)〜(3)により、内燃機関の低回転から高回転に亘って、タービンホイール14の翼間流路16に流入する排気の流速を、タービンホイール14を効果的に回転させるうえで最適な値に的確に調整しつつ、ノズル付近の圧力が過上昇するのを抑制することができる。そして、それらを行えないことによるターボチャージャ11の過給効率低下を抑制することができる。
【0038】
(5)第2ノズル23の中高速用固定翼25がタービンホイール14の翼間流路16に対し上流側に離れて位置するほど、その中高速用固定翼25によって第2ノズル23から上記翼間流路16に流れる排気の流速を定めることは困難になる。しかし、中高速用固定翼25の形成されたスライダ27については、その中高速用固定翼25が翼間流路16の直前に位置するように設けられている。このため、第2ノズル23から翼間流路16に流入する排気の流速を中高速用固定翼25によって的確に定めることができる。
【0039】
(6)仮に、第2ノズル23のガス流通面積を可変翼の開閉動作によって可変とするようにした場合、可変翼をタービンホイール14の周方向に沿って所定間隔をおいて複数設け、それら可変翼をリンク機構等を用いて同期した状態で開閉動作させる必要がある。このため、上記リンク機構等を設けなければならない分だけ、ターボチャージャ11の構造が複雑になることは避けられない。しかし、第2ノズル23のガス流通面積の可変を中高速用固定翼25の形成されたスライダ27の変位によって行うようにした場合、上記リンク機構等を設ける必要はないため、ターボチャージャ11の構成を複雑にすることなく、第2ノズル23のガス流通面積の可変を実現することができる。
【0040】
なお、上記実施形態は、例えば以下のように変更することもできる。
・中高速用固定翼25を翼間流路16の直前よりも上流側に位置するようスライダ27を設けてもよい。
【0041】
・スクロール通路19から一つのノズルを介して翼間流路16に排気を流入するターボチャージャに本発明を適用してもよい。この場合、スライダ27をロータシャフトの軸線方向に変位させることで、上記ノズルのガス流通面積が変更されるようになるが、スライダ27に形成される固定翼としては内燃機関の低回転時に適したもの、例えば低速用固定翼24と同形状のものに変更することが好ましい。
【0042】
・タービンスクロール内を仕切壁によって二つのスクロール通路に区画し、一方のスクロール通路を第1ノズル22に繋ぐとともに、他方のスクロール通路を第2ノズル23に繋ぐようにしてもよい。この場合、制御バルブ26は、第2ノズル23に繋がるスクロール通路と排気通路21との接続部分に設けられる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本実施形態のターボチャージャにおける内燃機関の排気系側の部分を示す断面図。
【図2】上記ターボチャージャのタービンスクロール内部における第1ノズル周りの構造を示す断面図。
【図3】上記ターボチャージャのタービンスクロール内部における第2ノズル周りの構造を示す断面図。
【図4】スライダが没入位置にある状態を示す拡大断面図。
【符号の説明】
【0044】
11…ターボチャージャ、12…センタハウジング、13…ロータシャフト、14…タービンホイール、15…羽根、16…翼間流路、17…タービンスクロール、19…スクロール通路、21…排気通路、22…第1ノズル、23…第2ノズル、23a,23b…ノズル壁面、24…低速用固定翼、25…中高速用固定翼、26…制御バルブ、26a…アクチュエータ、27…スライダ、27a…アクチュエータ、28…回転速度センサ、29…電子制御装置、32…溝。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気が送り込まれるタービンスクロールと、そのタービンスクロール内の排気をタービンホイールの翼間流路に流すノズルとを備え、そのノズルから前記タービンホイールの翼間流路への排気の流入により同ホイールが回転するターボチャージャにおいて、
前記ノズルにおける対向するノズル壁面のうち一方のノズル壁面側から他方のノズル壁面に接触するまで突出する突出位置と、前記他方のノズル壁面から最も離れた状態である没入位置との間で変位するスライダと、
前記スライダが前記突出位置にあるときに前記スライダにおける前記ノズル内に位置する部分に形成されて同ノズルのガス流通面積を定める固定翼と、
を備えることを特徴とするターボチャージャ。
【請求項2】
前記スライダについては前記固定翼が前記タービンホイールの翼間流路の直前に位置するように設けられている
請求項1記載のターボチャージャ。
【請求項3】
前記ノズルとして第1ノズルと第2ノズルとが設けられ、
前記第1ノズルにはノズル壁面に固定されるとともに同ノズルのガス流通面積を内燃機関の低回転時に適した値に設定する低速用固定翼が設けられ、
内燃機関の低回転時には前記第2ノズルへの排気の流入を禁止すべく全閉状態とされて内燃機関の中高回転時には前記第2ノズルへの排気の流入を許可すべく全開状態とされる制御バルブが設けられ、
前記スライダは前記第2ノズルにおいて突出位置と没入位置との間で変位するものであり、
前記スライダに形成された固定翼は同スライダを突出位置に変位させたときに前記第2ノズルのガス流通面積を内燃機関の中回転時に適した値に設定する中高速用固定翼である
請求項1又は2記載のターボチャージャ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−192123(P2007−192123A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−11164(P2006−11164)
【出願日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】