説明

ダイヤモンド膜被覆部材の膜密着力評価方法及び評価装置

【課題】 基材の表面にダイヤモンド膜が被覆されたダイヤモンド膜被覆部材におけるダイヤモンド膜の密着力を評価する場合に、ダイヤモンド膜被覆部材の形状に関わらず、正確かつ容易にしかも低いランニングコストで評価できる膜密着力の評価方法及び評価装置を提供する。
【解決手段】 ダイヤモンド膜被覆部材1をステージ2に固定し、レーザー発振部3より発振されたレーザー8をレーザー照射部4で照射方向を制御しながらダイヤモンド膜被覆部材1に照射する装置を使い、ダイヤモンド膜1a表面の一部にレーザー8を照射し、ダイヤモンド膜1aを除去した後、ダイヤモンド膜1aが除去された面積を測定し、この面積の値を元に膜密着力を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面にダイヤモンド膜が被覆されたダイヤモンド膜被覆部材における基材へのダイヤモンド膜の密着力を評価する方法及び評価する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超硬合金や窒化珪素、炭化珪素などを基材として、その表面にCVD法やPVD法によりダイヤモンド膜を被覆したダイヤモンド膜被覆部材が様々な用途に利用されている。この用途として、例えば半導体のリードを加工するための金型や切削工具などへの利用があげられる。これらのダイヤモンド膜被覆部材の性能を評価する上でダイヤモンド膜が剥離して寿命になることは大きな関心事であるが、ダイヤモンド膜は硬く、基材への膜密着力が非常に高いため、寿命を評価することは容易ではない。
【0003】
膜密着力の評価方法については、例えば非特許文献1に記載のものがある。一つは、膜に引張力を与えて膜密着力を測定する方法であり、これは図2に示すように、基材11bに密着した膜11aの表面に棒12を接着剤13で固定し、膜11a表面の垂直方向に力Fを徐々に増加していったときに、膜11aが棒8に固定されたままの状態で基材11bから剥がれる時の力Fを測定するものである。もう一つの方法として、図3に示すように、膜11aの表面に棒12を接着剤13で固定し、棒12の先端を膜11aの表面と平行に引っ張って棒12を引き倒すような力Fを加え、棒12が倒れるときの力Fを測定して膜密着力を測定する方法である。しかしながら、これらの方法は、膜と基材との密着力が接着剤の強度や膜と接着剤との接着力より弱いときにしか適用されず、ダイヤモンド膜のように基材との密着力が非常に強いものでは適用することが困難である。
【0004】
ダイヤモンド膜など基材との密着力が強いものにも適用できる方法として、最も一般的な方法は、例えば切削工具などの場合、実際の使用条件で実際の被加工物を加工して寿命評価をする方法である。
【0005】
また、これとは別の方法として、ダイヤモンドでできた圧子をダイヤモンド膜に押し込み、圧痕の周辺に形成されたダイヤモンド膜の剥離状況を観察する方法や、ダイヤモンドでできた圧子をダイヤモンド膜にさし、それに力を加えて膜をひっかいたときに膜が剥がれる力の大小で膜密着力を評価する方法がある。
【0006】
さらに、別の方法として、ダイヤモンド膜被覆部材を曲げ試験機にセットし、曲げ破壊させてダイヤモンド膜の剥離状況を観察する方法がある。
【0007】
【非特許文献1】吉川昌範、大竹尚登著、「図解気相合成ダイヤモンド」、日本国、株式会社オーム社、平成7年6月20日、第1版第1刷、p.108−109
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ダイヤモンド膜など基材との密着力が強いものにも適用できる方法では、以下のような問題がある。実際の使用条件で実際の被加工物を加工して寿命評価をする方法では、長時間を要する上、多量の被加工物も必要とするため、非経済的である。また、ダイヤモンドでできた圧子をダイヤモンド膜に押し込み、圧痕を形成して評価する方法や、ダイヤモンドでできた圧子をダイヤモンド膜にさし、それに力を加えて膜をひっかく方法では高価なダイヤモンド圧子が1回の試験で破壊したり、圧子の形状が崩れてしまうため、繰り返し使用することはできず、これも非経済的である。さらに、ダイヤモンド膜被覆部材を曲げ試験機にセットし、曲げ破壊させる方法では、ダイヤモンド膜被覆部材の形状によって、試験機へセットするのが難しかったり、ダイヤモンド膜の被覆面積が小さいために、圧子からの荷重のかかり方を一定にし難く、精度良く評価できない恐れがある。
【0009】
以上のようなことから、ダイヤモンド膜被覆部材がどんな形状であっても、ダイヤモンド膜の密着力を正確かつ簡単に評価ができ、圧子などの高価な部品をその都度交換しなくても評価ができる方法および装置を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のダイヤモンド膜被覆部材の膜密着力評価方法の特徴は、基材の表面にダイヤモンド膜が被覆されたダイヤモンド膜被覆部材における前記ダイヤモンド膜の密着力を評価する方法であって、前記ダイヤモンド膜表面の一部にレーザーを照射し、前記ダイヤモンド膜の一部を除去した後、前記ダイヤモンド膜が除去された部分の面積を測定し、前記面積の値を元に密着力を評価することである。
【0011】
また、前記基材は超硬合金であることが好ましい。
【0012】
ダイヤモンド膜に焦点を合わせ、レーザーを照射すると、照射された部分のダイヤモンド膜はガス化し除去される。この場合、ダイヤモンド膜は完全ではないが透明に近いため、レーザーのエネルギーの大部分は基材に達する。そして、基材が高温化し、一部は瞬間的に溶解する。基材の高温化の度合いは基材の融点や沸点、その他熱特性に影響される。基材が高温化した際、高温化した部分は局所的に膨張するため、ダイヤモンド膜と基材との界面において大きな応力が発生する。この時に、ダイヤモンド膜の密着力が小さいと除去されたダイヤモンド膜の周囲に残っているダイヤモンド膜が基材から剥離してしまう。このような作用によりダイヤモンド膜の密着力が小さいほど広範囲に剥離するため、剥離面積を測定することにより膜密着力を数値化することができる。照射するレーザーとして、YAGレーザー、ルビーレーザー、ガラスレーザー、アレクサンドライトレーザーなどの固体レーザーや、COレーザー、Ar+レーザー、エキシマレーザーなどの気体レーザー、あるいはルビー、ガラス、YAGなどの固体結晶から出る一定波長の光波を非線形物質に照射することにより発生する第2高調波や第3高調波が挙げられる。
【0013】
また、本発明の評価方法では、上記のようにレーザーにより基材を局所的に膨張させることを利用して膜密着力を評価するので、基材として熱膨張率の低いセラミックスなどよりも超硬合金を用いたものに好適である。
【0014】
一方、本発明のダイヤモンド膜被覆部材の膜密着力評価装置の特徴は、基材の表面にダイヤモンド膜が被覆されたダイヤモンド膜被覆部材における前記ダイヤモンド膜の密着力を評価する装置であって、前記ダイヤモンド膜被覆部材を設置するステージと、レーザーを発振するレーザー発振部と、前記ダイヤモンド膜表面に向けてレーザーを照射するレーザー照射部と、前記レーザーが照射されてダイヤモンド膜が除去された部分の面積を測定する面積測定装置を有することである。
【0015】
ここで、前記レーザー発振部はQスイッチ機構を有することが望ましい。Qスイッチとはレーザー光を発振させるにあたり、パルス発振させるもののうち、レーザーの蓄積エネルギーを一旦ためておいて一気に出力させることで数MWの出力を短時間出力させるQスイッチパルスを発振させるための操作のことであり、Qスイッチにより大きな出力のレーザーを発振させることができる。そのため、本発明のような膜密着力の高いダイヤモンド膜被覆部材であっても、容易に評価をすることが可能になる。
【0016】
また、前記面積測定装置は、前記ダイヤモンド膜が剥離した面を画像化し、その画像を元に数値化する画像処理装置を有することを特徴とする。
【0017】
さらに、前記ダイヤモンド膜が除去された面積の値を元に演算処理するための演算処理装置を有することを特徴とする。
【0018】
このような装置構成にすることで、ダイヤモンド膜の密着力が容易にかつ正確に測定することができ、膜密着力を容易に評価することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のダイヤモンド膜被覆部材の膜密着力評価方法によれば、基材へのダイヤモンド膜の密着力を定量的に測定することができるので、正確かつ容易に膜密着力を評価することができる。また、本発明のダイヤモンド膜被覆部材の膜密着力評価装置によれば、基材へのダイヤモンド膜の密着力を簡単な装置で短時間に正確に測定することができるので、経済的に評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明のダイヤモンド膜被覆部材の膜密着力の評価を行うための装置の概略を図1に示す。この装置は、評価を行うダイヤモンド膜被覆部材を固定するステージ2と、レーザー8を発振するためのレーザー発振部3と、レーザー8の照射方向を制御するためのレーザー照射部4と、レーザー8を照射してダイヤモンド膜1aが剥離した部分の面積を測定するための面積測定装置7を有している。また、レーザー発振部3にはQスイッチ機構が設けられており、大出力のレーザーが発振できるようになっている。さらに、必要により発振されたレーザー8の向きを変えるための反射鏡5が設けられることもある。
【0021】
このような装置を用いて、ダイヤモンド膜被覆部材の膜密着力の評価を行う方法を説明する。図1を参照して、レーザー発振部3から発振されたレーザー8は反射鏡5により向きが変えられ、集光レンズ6を通過してレーザー8の径が絞られる。そして、ある程度径が絞られたレーザー8はレーザー照射部4にあたり、再度向きが変えられる。レーザー照射部4は自在に向きを変えられる構造になっており、レーザー8はこのレーザー照射部4からステージ2上のダイヤモンド膜被覆部材1に照射される。レーザー照射部4でレーザー8の向きが自在に変えられることにより、ダイヤモンド膜被覆部材1上のある一定の面積のダイヤモンド膜1aが除去され、ダイヤモンド膜1aの密着力が弱いものでは、レーザー8が照射された以外の部分も剥離が進行し除去される。このようにして、ダイヤモンド膜1aが除去された部分の面積は、膜密着力の強さによって比例的に変化するので、ダイヤモンド膜1aが除去された面積を面積測定装置7により測定することで、膜密着力を定量的に評価することができる。
【実施例】
【0022】
膜密着力の異なるダイヤモンド膜被覆部材として試験片1および試験片2を製作し、上記0020および0021で説明した本発明の膜密着力評価方法および評価装置により比較の評価を行った。基材として、WCの粒径が1μmでCo含有量が10wt%、大きさが14mm×14mm×5mmの超硬合金を2つ用意し、膜密着力の向上を主な目的として超硬合金表面の処理を行った。処理の方法は、熱処理→除煤→熱処理→除煤の順で行った。熱処理条件は、熱フィラメントCVD装置を使い、雰囲気は1%メタンを含む水素ガス、圧力は100Torr、温度900℃、熱処理時間は3hrである。除煤は、綿棒で基材表面に生じた煤をぬぐいとる方法で行った。この処理を行った後、試験片1はその表面に膜厚3μmのダイヤモンド膜を成膜し、試験片2はその表面に厚みが約0.5μmの炭素膜を蒸着した後、膜厚3μmのダイヤモンド膜を成膜した。これらの試験片を本発明の評価装置のステージに固定し、YAGレーザーを照射してダイヤモンド膜の一部を除去した。YAGレーザーの照射は、出力が31.2W、Qスイッチパルスが4.0kHzの条件で行った。
【0023】
YAGレーザーを照射した後の試験片1および試験片2のダイヤモンド膜表面を図4および図5に示す。これらの図で白くなっている部分が、ダイヤモンドが除去された部分である。図4は試験片1すなわち基材を処理した後、ダイヤモンド膜を成膜したものであり、レーザーを照射した部分のみがリング状にダイヤモンド膜が除去されており、その他の部分は除去されていないことが分かる。図5は試験片2すなわち基材を処理した後、0.5μm以下の炭素膜を蒸着し、その後ダイヤモンド膜を成膜したものであり、膜密着力が弱いため、レーザーを照射した部分すなわちリング状になった部分が除去される以外にその周辺部も大きく剥離していることが分かる。この剥離した面積が多いほど膜密着力は低いことになり、この面積を測定することで膜密着力を容易に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の膜密着力評価装置の概略を示す図。
【図2】従来の膜密着力の評価方法の例を示す図。
【図3】従来の膜密着力の評価方法の別の例を示す図。
【図4】本発明の膜密着力評価方法によりレーザーを照射した試験片の状態を示す写真。
【図5】本発明の膜密着力評価方法によりレーザーを照射した試験片の状態を示す写真。
【符号の説明】
【0025】
1 ダイヤモンド膜被覆部材
1a ダイヤモンド膜
1b 基材
2 ステージ
3 レーザー発振部
4 レーザー照射部
5 反射鏡
6 集光レンズ
7 面積測定装置
8 レーザー
11 膜被覆部材
11a 膜
11b 基材
12 棒
13 接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面にダイヤモンド膜が被覆されたダイヤモンド膜被覆部材における前記ダイヤモンド膜の密着力を評価する方法であって、
前記ダイヤモンド膜表面の一部にレーザーを照射し、前記ダイヤモンド膜の一部を除去した後、前記ダイヤモンド膜が除去された部分の面積を測定し、前記面積の値を元に密着力を評価することを特徴とするダイヤモンド膜被覆部材の膜密着力評価方法。
【請求項2】
前記基材は、超硬合金であることを特徴とする請求項1に記載のダイヤモンド膜被覆部材の膜密着力評価方法。
【請求項3】
基材の表面にダイヤモンド膜が被覆されたダイヤモンド膜被覆部材における前記ダイヤモンド膜の密着力を評価する装置であって、
前記ダイヤモンド膜被覆部材を設置するステージと、レーザーを発振するレーザー発振部と、前記ダイヤモンド膜表面に向けてレーザーを照射するレーザー照射部と、前記レーザーが照射されてダイヤモンド膜が除去された部分の面積を測定する面積測定装置を有することを特徴とするダイヤモンド膜被覆部材の膜密着力評価装置。
【請求項4】
前記レーザー発振部は、Qスイッチ機構を有することを特徴とする請求項3に記載のダイヤモンド膜被覆部材の膜密着力評価装置。
【請求項5】
前記ダイヤモンド膜が除去された面積の値を元に演算処理するための演算処理装置を有することを特徴とする請求項3または4に記載のダイヤモンド膜被覆部材の膜密着力評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−248454(P2007−248454A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−28639(P2007−28639)
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(000220103)株式会社アライドマテリアル (192)
【Fターム(参考)】