説明

テンタークリップ用転がり軸受

【課題】エステル油に接触してもシール部材の劣化を抑制することができ、信頼性や高温耐久性に優れたテンタークリップ用転がり軸受を提供する。
【解決手段】フィルム延伸装置のテンタークリップ15に使用され、外輪外周がエステル油で潤滑される転がり軸受18であって、該転がり軸受18は、内輪および外輪と、この内輪および外輪間に介在する複数の転動体と、上記内輪および外輪の軸方向両端開口部を覆うシール部材とが設けられ、該シール部材は、少なくともエステル油に接触する部位がフッ素ゴム成形体からなり、該フッ素ゴム成形体がテトラフルオロエチレン−プロピレン2元共重合体を含む加硫可能なフッ素ゴム組成物、および、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−プロピレン3元共重合体を含む加硫可能なフッ素組成物から選ばれた少なくとも1つのフッ素ゴム組成物の成形体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフィルム延伸装置に用いられるテンタークリップ用転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂の延伸フィルム成形装置の一例を図4および図5に示す。図4は樹脂の二軸延伸フィルム製造装置の一例を示す図である。図5は図4の横延伸装置のガイドレールを示す図である。図4および図5に示すように二軸延伸フィルム製造装置は、樹脂を溶融混練する押出機9と、溶融混練した樹脂を原反シートに賦形して押し出すダイヘッド(Tダイ)10と、原反シートを縦方向に延伸する縦延伸機11と、縦方向に延伸されたシートをシート幅方向に延伸する横延伸装置13と、縦、横方向に二軸延伸されたフィルムを引き巻き取る引巻取機14とから構成される。横延伸装置13は、一対の周回するガイドレール12と、該ガイドレール12上を一定の間隔をあけて周回する複数のテンタークリップ15と、シートを加熱する手段とを有する。
図5に示すように、縦延伸されたシートは横延伸装置13において、複数のテンタークリップ15に両端を連続的に挟まれた状態で、熱処理されながら、ガイドレール12の拡幅部12a、12bに沿ってシートの幅方向に延伸され、縦、横両方向に延伸された二軸延伸フィルムとなる。図4に示すように、二軸延伸フィルムは引巻取機14にて巻き取られる。
【0003】
テンタークリップ15に用いられる転がり軸受は、加熱処理を行なう横延伸装置13内において 200〜250℃にさらされるため、テンタークリップ用転がり軸受の潤滑剤としては耐熱性を考慮してフッ素グリースを封入するのが一般的である。
一方、ガイドレール12の潤滑にはエステル油がよく用いられる。このエステル油がフッ素グリース封入軸受に侵入すると、フッ素グリースとエステル油の金属との親和性の関係からフッ素グリースが軸受から漏れ出して軸受の耐熱性が低下するという問題がある。テンタークリップ用転がり軸受において、このフッ素グリースの漏洩を防止する方法として、エステル油とフッ素油との混合油を基油に用いる方法が知られている(特許文献1参照)。
エステル油とフッ素油との混合油を基油に用いる方法は、フッ素グリースの漏洩を防止する方法として有効であることは確かであるが、軸受の密封装置、例えば軸受のシール部材を適切にすればエステル油の侵入や、フッ素グリースの漏れを効果的に防ぐことも可能である。この場合、密封装置としてはゴム製の非接触または軽接触シール部材が適当であるが、雰囲気温度からゴム材質はフッ素ゴムを使用することが一般的である。従来、このような用途に使用されているフッ素ゴム組成物としては、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの2元共重合体(VDF−HFP)や、これにテトラフルオロエチレンを加えた3元共重合体(VDF−HFP−TFE)等のフッ化ビニリデン系ゴム(以下、FKMと記す)が一般的である。
【0004】
しかしながら、これらのフッ素ゴム組成物は、極性が強くエステル油との親和性が高いために、油との接触状態や温度によっては膨潤する場合がある。シール部材は金属板の芯金にゴムを複合させるのが一般的であるが、ゴム部が膨潤すると非接触シール部材のシール部が接触したり、軽接触ではシール部の緊迫力が増加して、軸受けの回転トルクが増加する不具合が生じるという問題がある。
また、延伸装置は高温で使用するため、ガイドレールの潤滑油であるエステル油の酸化劣化を防止するため、エステル油にはアミン化合物などの酸化防止剤が添加されるのが一般的である。FKMにアミンが接触すると、FKMのフッ化ビニリデン部分で架橋反応が起こり、ゴムが硬化劣化するという問題がある。
【特許文献1】特開2004−301167号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、ガイドレールの潤滑剤であるエステル油と接触してもシール部材の劣化を抑制することができ、信頼性や高温耐久性に優れたテンタークリップ用転がり軸受の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のテンタークリップ用転がり軸受は、内輪および外輪と、この内輪および外輪間に介在する複数の転動体と、前記内輪および外輪の軸方向両端開口部を覆うシール部材とが設けられたテンタークリップ用転がり軸受であって、上記シール部材がフッ素ゴム成形体からなり、該フッ素ゴム成形体が、テトラフルオロエチレン−プロピレン2元共重合体を含む加硫可能なフッ素ゴム組成物、および、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−プロピレン3元共重合体を含む加硫可能なフッ素ゴム組成物から選ばれた少なくとも1つのフッ素ゴム組成物の成形体であることを特徴とする。
【0007】
本発明のテンタークリップ用転がり軸受の他の態様は、内輪および外輪と、この内輪および外輪間に介在する複数の転動体と、上記内輪および外輪の軸方向両端開口部を覆うシール部材とが設けられ、上記外輪外周がエステル油で潤滑されるテンタークリップ用転がり軸受であって、上記シール部材は、少なくとも上記エステル油に接触する部位がフッ素ゴム成形体からなり、該フッ素ゴム成形体がテトラフルオロエチレン−プロピレン2元共重合体を含む加硫可能なフッ素ゴム組成物、および、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−プロピレン3元共重合体を含む加硫可能なフッ素ゴム組成物から選ばれた少なくとも1つのフッ素ゴム組成物の成形体であることを特徴とする。
また、上記エステル油は、アミン系添加剤を含むことを特徴とする。
【0008】
上記転がり軸受に封入されるグリースがフッ素グリース単独、または、フッ素油とエステル油との混合油である基油と、ジウレア化合物とポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと記す)樹脂粉末との混合物である増ちょう剤とからなるグリースであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のテンタークリップ用転がり軸受は、そのシール部材において外輪潤滑用のエステル油と接触する部位が、テトラフルオロエチレン−プロピレン2元共重合体を含む加硫可能なフッ素ゴム組成物、および、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−プロピレン3元共重合体を含む加硫可能なフッ素ゴム組成物から選ばれた少なくとも1つのフッ素ゴム組成物の成形体であるフッ素ゴム成形体からなるので、エステル油と接触しても膨潤による体積変化が少なく軸受回転トルクの増加を防止できる。また、異物の侵入を効果的に防止することができる。さらに、エステル油にアミン系添加剤が含まれる場合でも、ゴムの硬化劣化等が起こりにくい。以上の結果、樹脂フィルムの延伸装置で使用されるテンタークリップ用転がり軸受の高温耐久性および耐油性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のテンタークリップ用転がり軸受が使用されているテンタークリップの一例の断面図を図1に示す。図1に示すようにテンタークリップ15には、シートの片端16を把持する把持部17と、テンタークリップ本体15aがガイドレール12にガイドされつつ走行可能とするための複数のテンタークリップ用転がり軸受18とが設けられている。図5および図1に示すようにテンタークリップ15はガイドレール12に沿って横延伸装置13内を周回する。縦延伸されたシートはガイドレール入口12cでシートの片端16を把持部17で把持され、加熱処理されながらテンタークリップ15の走行によってガイドレール拡幅部12a、12bで横延伸される。この縦延伸かつ横延伸されたシートが二軸延伸フィルムとなる。ガイドレール出口12dにおいて、把持部17は把持状態を解除し、テンタークリップ15はガイドレール12に沿って横延伸装置13に入口に戻る。テンタークリップ用転がり軸受18は、横延伸装置13内の加熱処理やテンタークリップ15の走行補助のエステル油の噴霧にさらされる。延伸装置内での高温条件下等においてエステル油の酸化劣化を防止するため、エステル油にはアミン系添加剤が添加されており、軸受18の外輪とガイドレール12とは、このエステル油によって潤滑される。
【0011】
本発明のテンタークリップ用転がり軸受18の一例を図2に示す。図2は深溝玉軸受の断面図である。
図1に示すようにテンタークリップ用転がり軸受として利用される深溝玉軸受1は、外周面に内輪転走面2aを有する内輪2と内周面に外輪転走面3aを有する外輪3とが同心に配置され、内輪転走面2aと外輪転走面3aとの間に複数個の転動体4が配置される。少なくとも転動体4の周囲にグリース組成物7が封入される。複数個の転動体4を保持する保持器5および外輪3等に固定されるシール部材6が内輪2および外輪3の軸方向両端開口部8a、8bにそれぞれ設けられ、走行補助として噴霧されるエステル油の侵入や異物の混入を防止する。ここで、シール部材6は、少なくともエステル油に接触する部位が、テトラフルオロエチレン−プロピレン2元共重合体を含む加硫可能なフッ素ゴム組成物、および、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−プロピレン3元共重合体を含む加硫可能なフッ素ゴム組成物から選ばれた少なくとも1つのフッ素ゴム組成物の成形体から構成されている。
【0012】
シール部材6は、上述のフッ素ゴム成形体を少なくとも含むゴム成形体のみから構成されてもよく、あるいはゴム成形体と金属板、プラスチック板、セラミック板等との複合体であってもよい。耐久性、固着の容易さからゴム成形体と金属板との複合体が好ましい。
ゴム成形体と金属板との複合体からなるシール部材6の一例を図3に示す。シール部材6は鋼板などの金属板6aにゴム成形体6bを固着して得られる。固着方法としては、機械的固着、化学的固着のいずれの方法であってもよい。好ましい固着方法としては、ゴム成形体を加硫時に、加硫型内に金属板を配置し、成形および加硫を同時に行ない固着する方法が挙げられる。
【0013】
シール部材6の装着方法としては、(1)シール部材6の一端6cを外輪3に固定し、他端6dは内輪2のシール面のV溝に沿ってラビリンス隙間を形成する、(2)シール部材6の一端6cを外輪3に固定し、他端6dは内輪2のシール面のV溝側面に接触させる、(3)シール部材6の一端6cを外輪3に固定し、他端6dは内輪2のシール面のV溝側面に接触させるが、接触するリップ部に吸着防止のスリットなどを設けて低トルク構造とするなどがある。
上記いずれの装着方法においても、周囲にあるエステル油がシール部材6を構成するゴム成形体6bと接触する。ゴム成形体6bは少なくともエステル油と接触する部位が、上述したフッ素ゴム成形体で形成されていればよい。例えば、ゴム成形体6bをフッ素ゴム成形体単独としてもよく、また、エステル油と接触する部分をフッ素ゴム成形体として、その背面に従来のゴム成形体を積層した積層体としてもよい。
なお、軸受封入グリースとして、ウレア系グリース等のFKM製フッ素ゴムシールを劣化させるようなグリースを使用する場合には、該グリースと接触する部位も上述したフッ素ゴム成形体で形成しておくことが好ましい。
【0014】
本発明で使用できるテトラフルオロエチレン−プロピレン2元共重合体は、化1に示される、繰り返し単位(1−1)と、繰り返し単位(1−2)とを分子内に含む重合体である。
【化1】

繰り返し単位(1−1)はテトラフルオロエチレンモノマーから形成される繰り返し単位であり、繰り返し単位(1−2)はプロピレンモノマーから形成される繰り返し単位である。2元共重合体全体に対して、繰り返し単位(1−1)は 20〜80 モル%、好ましくは 40〜60 モル%、繰り返し単位(1−2)は 20〜80 モル%、好ましくは 40〜60 モル%である。
本発明に使用できるテトラフルオロエチレン−プロピレン2元共重合体の市販品としては、旭硝子社製、アフラス150シリーズ、アフラス100シリーズ等が挙げられる。
【0015】
本発明で使用できるフッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−プロピレン3元共重合体は、化2に示される、繰り返し単位(2−1)と、繰り返し単位(2−2)と、繰り返し単位(2−3)とを分子内に含む重合体である。
【化2】

繰り返し単位(2−1)はフッ化ビニリデンモノマーから形成される繰り返し単位であり、繰り返し単位(2−2)はテトラフルオロエチレンモノマーから形成される繰り返し単位であり、繰り返し単位(2−3)はプロピレンモノマーから形成される繰り返し単位である。3元共重合体全体に対して、繰り返し単位(2−1)は、1〜70 モル%、好ましくは 2〜65 モル%、繰り返し単位(2−2)は、1〜70 モル%、好ましくは 20〜60 モル%、繰り返し単位(2−3)は、1〜70 モル%、好ましくは 10〜45 モル%である。
本発明に使用できるフッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−プロピレン3元共重合体の市販品としては、住友スリーエム社製、BRE LJ 298005、旭硝子社製、アフラスSP、アフラスMZ201等が挙げられる。
【0016】
上記テトラフルオロエチレン−プロピレン2元共重合体およびフッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−プロピレン3元共重合体(以下、両者を併せて、フッ素系重合体と記す)はトリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレートなどの加硫助剤とともに、α、α−ビス−t−ブチルパーオキシ−ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルパーオキシヘキサンなどの有機過酸化物を用いて加硫され、ゴム弾性を示す。
また、これらのフッ素系重合体にカーボンブラック、シリカ、珪酸、珪藻土などの無機充填剤、酸化亜鉛、酸化マグネシウムなどの金属酸化物、オクチル化ジフェニルアミン、N−フェニル−1−ナフチルアミン等の老化防止剤などの添加剤を必要に応じて配合して加硫できる。
【0017】
本発明におけるフッ素ゴム成形体を形成するためのフッ素ゴム組成物としては、上記の各フッ素系重合体を含む加硫可能なフッ素ゴム組成物をそれぞれ単独で、あるいは混合して使用できる。加硫条件を考慮するとそれぞれ単独で用いることが好ましい。
これらの組成物を混合、または成形する方法は一般のゴム加工に用いるプロセスを採用することができ、オープンロール、バンバリーミキサー、ニーダ、各種密封式ミキサーなどにより混練した後、プレス成形(プレス加硫)、押し出し成形、射出成形などに供すればよい。また、特性を向上させるため、成形後には2次加硫を行なうことが好ましく、これはオーブン中で十分加熱(例えば 200℃、24 時間)することにより行なう。この成形および加硫の工程を経て、上記フッ素ゴム成形体が得られる。
【0018】
本発明のテンタークリップ用転がり軸受に封入されるグリースは、加熱処理を行なう横延伸装置内における耐熱性を考慮し、パーフルオロポリエーテル(以下、PFPEと記す)油等のフッ素油を基油に、PTFE樹脂粉末を増ちょう剤としたフッ素グリース単独、または、フッ素油とエステル油との混合油である基油に、ジウレア化合物とPTFE樹脂粉末との混合物を増ちょう剤としたグリースであることが好ましい。
【0019】
増ちょう剤として配合されるウレア化合物は分子中にウレア結合(−NHCONH−)を含むものでありジウレア、トリウレア、テトラウレア、ウレアウレタン等が挙げられる。好ましいウレア化合物はウレア結合を分子内に 2 個有するジウレアであり、以下の化3で示される。R2 は炭素数 6〜15 の2価の芳香族炭化水素基であり、具体的には以下の化4で示される。
【化3】

【化4】

また、R1 およびR3 は、1価の脂肪族基、脂環族基または芳香族基をそれぞれ表す。特に、R1およびR3 が脂肪族基である脂肪族ジウレアを増ちょう剤とするウレア系グリースがフッ素グリースと容易に混合するので好ましい。なお、ウレア化合物の製造方法の一例としては、ジイソシアナート化合物にイソシアナート基当量のアミン化合物を反応させる方法が挙げられる。
【0020】
エステル油としては、ジエステル油、ポリオールエステル油またはこれらのコンプレックスエステル油、芳香族エステル油などが使用できる。
エステル油の具体例としては、例えば、炭素数 7〜22 の1価アルコールと芳香族多価カルボン酸、またはその誘導体とのエステル、および炭素数 7〜22 の1価カルボン酸と脂肪族多価アルコールとのエステルから選ばれた少なくとも1つのエステル油が挙げられる。1価アルコールおよび1価カルボン酸において、炭素数 7 未満および炭素数 22 をこえると潤滑性が劣る。
【0021】
炭素数 7〜22 の1価アルコールとしては、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ラウリルアルコール、オレイルアルコール、ステアリルアルコール、フェノール、メチルフェノール、オクチルフェノールなどのアルキルフェノール等が挙げられる。
また、炭素数 7〜22 の1価カルボン酸は、上記脂肪族の1価アルコールの−CH2OHを−COOHに代えた1価カルボン酸、または、上記芳香族の1価アルコールの−OHを−COOHに代えた1価カルボン酸が挙げられる。
芳香族多価カルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ジフェニルテトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸などが挙げられる。
脂肪族多価アルコールとしては、1,3 ブチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコール、ペンタジオール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトールなどが挙げられる。
【0022】
ウレアを増ちょう剤として含有するグリースが高温でFKM製フッ素ゴムシールに接触すると、ウレアや未反応のアミンがFKMのフッ化ビニリデン部分を架橋し、ゴムの硬化や劣化が進むという問題があるが、本発明のテンタークリップ用転がり軸受に用いられるフッ素ゴム成形体はウレアやアミンへの耐性にも優れるため、このような不具合も生じないという利点がある。
【実施例】
【0023】
各実施例および比較例に用いたフッ素ゴム組成物を以下に示す。
表1に示す配合組成でロール温度 50℃にてオープンロールを用いて混練することにより、未加硫フッ素ゴム組成物を得た。表1に用いた各材料を以下に示す。
(1)フッ素ゴム1:旭硝子社製、アフラス150
(2)フッ素ゴム2:デュポン・ダウ・エラストマー社製、A32J
(3)酸化マグネシウム:協和化学工業社製、キョウワマグ150
(4)水酸化カルシウム:近江化学工業社製、カルビット
(5)カーボン:エンジニアード社製、N990
(6)共架橋剤:日本化成社製、TAIC
(7)加硫剤:化薬アクゾ社製、パーカドックス14
フッ素ゴム1はテトラフルオロエチレン−プロピレン系のゴムであり、フッ素ゴム2はフッ化ビニリデンゴムである。
【0024】
実施例1、比較例1
上記未加硫フッ素ゴム組成物を用いて加硫プレス機にて加硫成形物を得た。金型実温度を 170℃に保ち、12 分間、1次加硫を行なった。次いで加硫成形物を恒温槽内に移し、 200℃で 24 時間、2次加硫を行なった。
得られた加硫成形物をJIS K 6251 3号試験片の形状に打ち抜き試験片を作製した。試験片をエステル油(新日鉄化学社製、ハトコールH2362 [ 40℃における動粘度 70 mm2/sec] にアミン系酸化防止剤 [ アルキル化ジフェニルアミン] を 2 重量%添加 )に 170℃×500 時間の条件で浸漬して、浸漬前後の体積を測定し、体積変化率を算出した。体積はJIS K 6258に準じて測定した。体積変化率は次式にしたがって算出した。結果を表1に併記する。
体積変化率(%)=100×(浸漬後体積−浸漬前体積)/浸漬前体積
【0025】
【表1】

実施例1は、長時間の浸漬でも劣化が軽微であり、エステル油に対して優れた耐性を有していた。
比較例1は、エステル油に浸漬された場合の体積変化が著しい。浸漬後、500 時間では、試験片の表面に溶解がみられた。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明のテンタークリップ用転がり軸受は、優れたエステル油耐性を有するので、エステル油と接触する条件下で使用される転がり軸受に好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】テンタークリップの一例を示す図である。
【図2】テンタークリップ用転がり軸受の断面図である。
【図3】テンタークリップ用転がり軸受シール部材の断面図である。
【図4】樹脂の二軸延伸フィルム製造装置の一例を示す図である。
【図5】図4の横延伸装置のガイドレールを示す図である。
【符号の説明】
【0028】
1 深溝玉軸受
2 内輪
3 外輪
4 転動体
5 保持器
6 シール部材
7 グリース組成物
8a 開口部
8b 開口部
9 押出機
10 Tダイ
11 縦延伸機
12 ガイドレール
13 横延伸装置
14 引巻取機
15 テンタークリップ
15a テンタークリップ本体
16 シートの片端
17 把持部
18 テンタークリップ用転がり軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪および外輪と、この内輪および外輪間に介在する複数の転動体と、前記内輪および外輪の軸方向両端開口部を覆うシール部材とが設けられたテンタークリップ用転がり軸受であって、
前記シール部材がフッ素ゴム成形体からなり、該フッ素ゴム成形体が、テトラフルオロエチレン−プロピレン2元共重合体を含む加硫可能なフッ素ゴム組成物、および、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−プロピレン3元共重合体を含む加硫可能なフッ素ゴム組成物から選ばれた少なくとも1つのフッ素ゴム組成物の成形体であることを特徴とするテンタークリップ用転がり軸受。
【請求項2】
内輪および外輪と、この内輪および外輪間に介在する複数の転動体と、前記内輪および外輪の軸方向両端開口部を覆うシール部材とが設けられ、前記外輪外周がエステル油で潤滑されるテンタークリップ用転がり軸受であって、
前記シール部材は、少なくとも前記エステル油に接触する部位がフッ素ゴム成形体からなり、該フッ素ゴム成形体が、テトラフルオロエチレン−プロピレン2元共重合体を含む加硫可能なフッ素ゴム組成物、および、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−プロピレン3元共重合体を含む加硫可能なフッ素ゴム組成物から選ばれた少なくとも1つのフッ素ゴム組成物の成形体であることを特徴とする請求項1記載のテンタークリップ用転がり軸受。
【請求項3】
前記エステル油は、アミン系添加剤を含むことを特徴とする請求項1または請求項2記載のテンタークリップ用転がり軸受。
【請求項4】
前記転がり軸受に封入されるグリースが、フッ素グリース単独、または、フッ素油とエステル油との混合油である基油と、ジウレア化合物とポリテトラフルオロエチレン樹脂粉末との混合物である増ちょう剤とからなるグリースであることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載のテンタークリップ用転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−203506(P2007−203506A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−22547(P2006−22547)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】