説明

デュアルクラッチ式自動変速機

【課題】簡易な構成で確実にクッラチの断接ができるデュアルクラッチを備えた自動変速機を提供することを目的とする。
【解決手段】第1入力軸21に回転可能に支承され互いに連結されて原動機に連結された第1壁43a、第2壁43bを有し、原動機に向かう移動を規制されたクラッチフレーム43と、第1壁と第2壁との間に配置され軸線方向に移動可能に設けられた第1クラッチディスク44と、第1クラッチディスクと第2壁との間に移動可能に配置された第1プレッシャプレート45と、第1プレッシャプレートを移動させる第1作動機構46と、第2壁より原動機側に配置され軸線方向に移動可能に設けられた第2クラッチディスク47と、第2クラッチディスクと原動機との間に移動可能に配置された第2プレッシャプレート48と、第2プレッシャプレートを移動させる第2作動機構49と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はデュアルクラッチを備えた自動変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、同軸に設けられた2本の入力軸を適宜選択し、該2本の入力軸とエンジンとの断接をタイミングよく効果的に行うことにより変速段の切替えを高速で行なうことが可能なデュアルクラッチを備えた自動変速機がある。以降、この自動変速機をDCT(デュアルクラッチトランスミッション)と称す。
【0003】
例えば特許文献1が開示するDCTの技術では、エンジンの出力軸4にダンパを介して回転連結されたクラッチ装置1の中間押圧板26が一方の入力軸36にベアリング37を介して支持されている(特許文献1の図1参照)。中間押圧板26の両側には同軸に配置された2本の入力軸36、35にそれぞれ軸方向に移動可能に連結された各クラッチディスク29、40が配置されている。そして2本の入力軸36、35のいずれか1本が選択されると選択された入力軸に装架されるクラッチディスク29、またはクラッチディスク40が、軸方向に移動可能なプレッシャプレート28、またはプレッシャプレート39によって押圧されて中間押圧板26と回転連結し、入力軸36、または入力軸35に回転力が伝達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】EP出願公開第1632687A2号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示した技術においては1つの中間押圧板26のみが入力軸36に装架されエンジン側の出力を支持している。これにより中間押圧板26は支持強度が低くクラッチディスク29、またはクラッチディスク40が入力軸方向に中間押圧板26を押圧したときに撓んでしまう虞がある。またエンジンの振動の影響も受けやすく中間押圧板26に振れが発生する虞がある。これらのため、中間押圧板26と回転連結するクラッチディスク29、またはクラッチディスク40との間の連結は安定せず引き摺り等が発生し、クラッチディスクが偏摩耗したり、変速フィーリングが悪化する虞がある。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、簡易な構成で確実にクッラチの断接ができるデュアルクラッチを備えた自動変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、請求項1に係るデュアルクラッチ式自動変速機は、ケースに回転可能に支承された中空の第1入力軸と、前記第1入力軸を同一軸線上で貫通して前記ケースに支承された第2入力軸と、原動機の回転駆動力を前記第1入力軸または前記第2入力軸に選択的に伝達するデュアルクラッチと、を備えたデュアルクラッチ式自動変速機であり、前記デュアルクラッチは、前記第1入力軸の軸線方向に離間して前記第1入力軸に回転可能に支承され互いに連結されて前記原動機に連結された第1壁および第2壁を有し、前記原動機に向かう移動を規制されたクラッチフレームと、前記第1壁と第2壁との間に配置され軸線方向に移動可能に設けられた第1クラッチディスクと、前記第1クラッチディスクと前記第2壁との間に前記軸線方向に移動可能に配置された第1プレッシャプレートと、前記第1プレッシャプレートを前記第1壁に向かって移動させる第1作動機構と、前記第2壁より前記原動機側に配置され軸線方向に移動可能に設けられた第2クラッチディスクと、前記第2クラッチディスクと前記原動機との間に前記軸線方向に移動可能に配置された第2プレッシャプレートと、前記第2プレッシャプレートを前記第2壁に向かって移動させる第2作動機構と、を備えた。
【0008】
請求項2に係るデュアルクラッチ式自動変速機は、請求項1において、前記クラッチフレームは、振動吸収機構を介して前記原動機に連結されている。
【0009】
請求項3に係るデュアルクラッチ式自動変速機は、請求項1または2において、前記クラッチフレームの第1壁および第2壁は、前記第1入力軸に前記原動機に向かう前記軸線方向の相対移動を規制して回転可能に支承されている。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明によれば、原動機に連結されたクラッチフレームが大径で曲げ剛性の高い第1入力軸に支承されている。またクラッチフレームは第1壁と第2壁とが連結されて形成されているのでクラッチフレーム自体の剛性が高くなっている。これらにより原動機の振れをクラッチフレーム、及び第1入力軸が受けてもクラッチフレーム、及び第1入力軸の振れ(撓み)は効果的に抑制される。また、第1クラッチディスク、または第2クラッチディスクが、第1壁、または第2壁を押圧して回転連結したとき、第1壁または第2壁は剛性の高いクラッチフレーム、及び曲げ剛性の高い第1入力軸によって押圧力を効果的に受けることができ第1壁、または第2壁が撓む虞はない。これにより第1壁または第2壁と第1クラッチディスク、または第2クラッチディスクとの間の係合が不安定になり係合面に摩耗が生じる虞はなく、効果的に原動機の回転力を各入力軸に伝達できる。
【0011】
請求項2に係る発明によれば、クラッチフレームは、振動吸収機構を介して原動機に連結されているので、原動機の振れ(振動)は抑制され第1壁、または第2壁に振動が伝達されることはない。これによりデュアルクラッチはさらに効果的に原動機の回転力を各入力軸に伝達できる。
【0012】
請求項3に係る発明によれば、第1入力軸に支承されるクラッチフレームの第1壁および第2壁は、原動機に向かう軸線方向の相対移動が分担されて規制される。これにより第1クラッチディスク、または第2クラッチディスクが第1壁または第2壁を押圧しても第1壁または第2壁が押圧された方向に移動してしまい第1クラッチディスク、または第2クラッチディスクとの間の係合が不安定になることはない。よって係合面に摩耗が生じる虞はなく、信頼性がさらに向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態に係るDCT1の全体構造を示すスケルトン図である。
【図2】本実施形態に係るDCT1のデュアルクラッチ及び振動吸収機構(ダンパ)の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を具体化した実施形態に係るデュアルクラッチ式の自動変速機であるDCT(デュアルクラッチトランスミッション)1について、図1、図2を参照し説明する(デュアルクラッチ式の自動変速機を以降DCTと称す)。
【0015】
DCT1は、図1に示すように、ケース10内に、第1入力軸21、第2入力軸22、第1出力軸31、及び第2出力軸32を備えている。またケース10内には、本発明に係るデュアルクラッチ40、各変速段の駆動ギヤ51〜57、最終減速駆動ギヤ58、68、各変速段の従動ギヤ61〜67、後進ギヤ70、及びリングギヤ80を備えている。
【0016】
図1に示すように、ケース10はミッションケース11とクラッチハウジング12とを有する。ミッションケース11は、図1に示す軸受23〜25により各軸を支承している。クラッチハウジング12は、ミッションケース11の端面と対向し、ミッションケース11と図略のボルトにより締結固定されている。このクラッチハウジング12は、図1に示す軸受26〜28により各軸を支承するとともに、内部にデュアルクラッチ40を収容している。
【0017】
第1入力軸21は、中空軸状に形成されており、第2入力軸22の一部の外周にニードルベアリングである軸受33〜35を介して回転可能に支承され、且つ、ボールベアリングである軸受26によりクラッチハウジング12に対して回転可能に支承されている。また、第1入力軸21の外周面には、軸受けを支持する部位と複数の外歯歯車が形成されている。第1入力軸21には、2速駆動ギヤ52および大径の4速駆動ギヤ54および6側駆動ギヤ56が形成されている。また、第1入力軸21には、デュアルクラッチ40の第1クラッチディスク44に連結される連結部がスプライン(図略)によって形成されている。
【0018】
第2入力軸22は、中実に形成されて、ボールベアリングである軸受23によりミッションケース11に対して回転可能に支承されている。つまり、第2入力軸22は、第1入力軸21に対して同一軸線上で貫通し相対回転可能に配置されている。第2入力軸22の外周面には、軸受けを支持する部位と複数の外歯スプラインが形成されている。そして、第2入力軸22には、1速駆動ギヤ51および大径の3速駆動ギヤ53が直接形成されている。5速駆動ギヤ55および7速駆動ギヤ57は、第2入力軸22の外周面に形成された外歯スプラインにスプライン嵌合により圧入されている。また、第2入力軸22の端部には、デュアルクラッチ40の第2クラッチディスク47に連結される連結部がスプライン(図略)によって形成されている。なお、第2入力軸22は、中空に形成してもよい。
【0019】
第1出力軸31は、軸受24、27によりミッションケース11およびクラッチハウジング12に対して回転可能に支承され、ミッションケース11内において第2入力軸22に平行に配置されている。また、第1出力軸31の外周面には、最終減速駆動ギヤ68が形成されるとともに、軸受けを支持する部位と複数の外歯スプラインが形成されている。第1出力軸31の外歯スプラインには、シフトクラッチ102、104の各ハブ201がスプライン嵌合により圧入されている。最終減速駆動ギヤ68は、ディファレンシャルのリングギヤ80に噛合している。さらに、第1出力軸31には、2速従動ギヤ62、5速従動ギヤ65、6速従動ギヤ66、7速従動ギヤ67、を遊転可能に支持する支持部が形成されている。
【0020】
第2出力軸32は、軸受25、28によりミッションケース11およびクラッチハウジング12に対して回転可能に支承され、ミッションケース11内において第2入力軸22に平行に配置されている。また、第2出力軸32の外周面には、最終減速駆動ギヤ58が形成されるとともに、軸受けを支持する部位と複数の外歯スプラインが形成されている。第2出力軸32の外歯スプラインには、シフトクラッチ101、103の各ハブ201がスプライン嵌合により圧入されている。最終減速駆動ギヤ58は、ディファレンシャル(差動機構)のリングギヤ80に噛合している。さらに、第2出力軸32には、1速従動ギヤ61、3速従動ギヤ63、4速従動ギヤ64、後進ギヤ70を遊転可能に支持する支持部が形成されている。
【0021】
後進ギヤ70は、第2出力軸32に形成された後進ギヤ70の支持部に遊転可能に設けられている。また、本実施形態において、後進ギヤ70は、2速従動ギヤ62に一体的に形成された小径ギヤ62aに常に噛合している。
【0022】
各シフトクラッチ101、102、103、104は、それぞれ、ハブ201と、スリーブ202とを備える。ハブ201は、内歯スプラインおよび外歯スプラインが形成された中空円盤状をなし、第1出力軸31または第2出力軸32の外歯スプラインにスプライン嵌合により圧入されている。スリーブ202は、ハブ201に対して軸方向にスライド可能となるようにハブ201の外歯スプラインに噛合し、スライドした際に変速段の従動ギヤ61〜67または後進ギヤ70のシンクロギヤ部に噛合可能となる。つまり、スリーブ202は軸方向にスライドすることにより、変速段の従動ギヤ61〜67および後進ギヤ70に設けられた図略のシンクロギヤとの噛合状態、非噛合状態とを切り替え、従動ギヤ61〜67または後進ギヤ70と第1出力軸31、第2出力軸32とを選択的に連結する役割を有する。
【0023】
リングギヤ80は、図1に示すように、最終減速駆動ギヤ58および最終減速駆動ギヤ68に噛合されることで、第1出力軸31および第2出力軸32に常時回転連結されている。リングギヤ80は、ケース10に軸支される軸体としての回転軸80a及び差動機構(図示せず)を介して駆動輪に連結されている。つまり、ディファレンシャルのリングギヤ80は、変速機におけるファイナルギヤとして構成されている。
【0024】
次に本発明に係るデュアルクラッチ40について図1、図2に基づいて詳細に説明する。デュアルクラッチ40は、乾式クラッチであって、クラッチフレーム43と、第1クラッチディスク44と、第1プレッシャプレート45と、第1作動機構46と、第2クラッチディスク47と、第2プレッシャプレート48と、第2作動機構49と、を有している。第1クラッチディスク44は内燃機関E/G(本発明の「原動機」に相当する)の回転駆動力を第1入力軸21に伝達し、第2クラッチディスク47は内燃機関E/Gの駆動力を第2入力軸22に伝達する。
【0025】
このデュアルクラッチ40は、図1の右側においてクラッチハウジング12内に収容され、第1入力軸21および第2入力軸22に対して回転軸が同軸に設けられている。第1クラッチディスク44は、第1入力軸21の連結軸部に回転方向を規制され軸方向に移動可能にスプライン嵌合されている。第2クラッチディスク47は、第2入力軸22の連結軸部に回転方向を規制され軸方向に移動可能にスプライン嵌合されている。そして、車両の制御指令に基づき第1、第2入力軸21、22に対し、第1、第2クラッチディスク44、47を後述する方法によって順次作動させ内燃機関E/Gとの連結を切り換えることにより、高速のシフト変更を可能としている。
【0026】
クラッチフレーム43は、第1入力軸21上に回転可能に装架され、内燃機関E/Gと回転方向を規制されて回転連結されている。これによりクラッチフレーム43は、内燃機関E/Gと一体回転している。クラッチフレーム43は、互いに連結された第1壁43a、及び第2壁43bを有している。第1壁43a、及び第2壁43bは円板状に形成されて第2壁43bが第1壁43aよりも第1入力軸21上で軸線方向に所定量だけ離間されて内燃機関E/G側に配置されている。第1壁43aおよび第2壁43bは各内周部をボールベアリングである軸受41、42によって回転可能に支承されている。
【0027】
軸受41、42の内燃機関E/G側の端面は、本発明にかかる停止板81、82によって第1入力軸21の軸線方向の一方向である内燃機関E/Gに向かう相対移動を確実に規制されている。停止板81、82は第1入力軸21の外周面に刻設された溝に嵌入された例えばCリングである。なお、本実施形態においては停止板81、82を軸受41、42のいずれにも設けたが、これに限らず停止板82だけを設けてもよく、これによっても充分な効果が得られる。また停止板81だけでもよい。
【0028】
第1壁43a、及び第2壁43bの外周部同士は連結部43cによって連結され、一体的に形成されることによって箱状の構造体を形成し高い剛性を有している。
【0029】
第1クラッチディスク44は、円板状に形成された摩擦板である。第1クラッチディスク44は、クラッチフレーム43が有する第1壁43aの内燃機関E/G側の平面に押圧されて第1壁43aと摩擦力によって係合し第1壁43aと一体回転する。第1クラッチディスク44は、第1壁43aと第2壁43bとの間に配置されている。第1クラッチディスク44の内周部44aにはスプライン(図略)が形成され、前述の第1入力軸21の外周面に形成されたスプライン(図略)と係合することによって回転を規制され軸線方向に移動可能に装架される。このように第1クラッチディスク44が第1壁43a(クラッチフレーム43)と係合し一体回転することによって、内燃機関E/Gの回転力がクラッチフレーム43を介して第1クラッチディスク44に伝達され、第1クラッチディスク44から第1入力軸21に伝達される。
【0030】
第1プレッシャプレート45は第1クラッチディスク44を第1壁43aに係合させるために第1クラッチディスク44を第1壁43a方向に押圧する部材である。よって第1プレッシャプレート45は第1クラッチディスク44と第2壁43bとの間に軸線方向に移動可能に配置されている。第1プレッシャプレート45は円板状に形成され、後述する第1作動機構46の作用によって第1クラッチディスク44を第1壁43a方向に押圧し第1壁43aとの間で第1クラッチディスク44を挟持する。また第1プレッシャプレート45は第1作動機構46に支持されている。
【0031】
第1作動機構46は前述のとおり第1クラッチディスク44を第1プレッシャプレート45を介して第1壁43a方向に押圧し進退移動させるための機構である。第1作動機構46はリンク部71とシリンダ部72とを有している。リンク部71は梃子機構を有し、レバー71aと、連結レバー71dと、凸部77とを有している。
【0032】
梃子を構成するレバー71aの支点71eを支持する凸部77は第1壁43aの変速機側の壁面上に形成されている。そして梃子の作用点となるレバー71aの作用点部71bが第1プレッシャプレート45と連結レバー71dによって連結され、梃子の力点となるレバー71aの力点部71cにシリンダ部72が有するシリンダ72aのシリンダピストン72b先端が離接可能となっている。連結レバー71dは第1壁43aに軸線方向は移動可能で、かつ回転方向は規制する図略の板状のばね材によって支持されている。これにより連結レバー71dを有するリンク部71、及び連結レバー71dに連結される第1プレッシャプレート45は第1壁43aと一体回転される。
【0033】
シリンダ部72はクラッチハウジング12に支持される図略の電動モータ、及びシリンダ72aを有している。電動モータは回転を直動に変換されシリンダ72aのシリンダピストン72b先端を進退させる。そしてレバー71aの力点部71cをシリンダピストン72b先端によって内燃機関E/G側に押すことによって、第1プレッシャプレート45を第1壁43a方向に移動させ第1クラッチディスク44を軸線方向に押動し第1クラッチディスク44と第1壁43aとを係合させるものである。
【0034】
第2クラッチディスク47は、円板状に形成された摩擦板である。第2クラッチディスク47は、クラッチフレーム43が有する第2壁43bの内燃機関E/G側の平面に押圧されて第2壁43bと摩擦力によって係合し第2壁43bと一体回転する。第2クラッチディスク47は、第2壁43bより内燃機関E/G側に配置されている。第2クラッチディスク47の内周部47aにはスプライン(図略)が形成され、前述の第2入力軸22の外周面に形成されたスプライン(図略)と係合することによって回転を規制され軸線方向に移動可能に装架される。このように第2クラッチディスク47が第2壁43b(クラッチフレーム43)と係合し一体回転することによって、内燃機関E/Gの回転力がクラッチフレーム43を介して第2クラッチディスク47に伝達され、第2クラッチディスク47から第2入力軸22に伝達される。
【0035】
第2プレッシャプレート48は第2クラッチディスク47を第2壁43bに係合させるために第2クラッチディスク47を第2壁43b方向に押圧する部材である。よって第2プレッシャプレート48は第2クラッチディスク47の内燃機関E/G側に軸線方向に移動可能に配置されている。第2プレッシャプレート48は円板状に形成され、後述する第2作動機構49の作用によって第2クラッチディスク47を第2壁43b方向に押圧し、第2壁43bとの間で第2クラッチディスク47を挟持する。また第2プレッシャプレート48は第2作動機構49に支持されている。
【0036】
第2作動機構49は前述のとおり第2クラッチディスク47を第2プレッシャプレート48を介して第2壁43b方向に押圧し進退移動させるための機構である。第2作動機構49はリンク部73とシリンダ部74とを有している。リンク部73は梃子機構を有し、レバー73aと、連結レバー73dと、凸部78とを有している。
【0037】
梃子を構成するレバー73aの支点73eを支持する凸部78も凸部77と同様に第2壁43bの変速機側の壁面上に形成されている。そして梃子の作用点となるレバー73aの作用点部73bが第2プレッシャプレート48と連結レバー73dによって連結され、梃子の力点となるレバー73aの力点部73cにシリンダ部74が有するシリンダ74aのシリンダピストン74b先端が離接可能となっている。連結レバー73dは第2壁43bに軸線方向は移動可能で、かつ回転方向は規制する図略の板状のばね材によって支持されている。これにより連結レバー73dを有するリンク部73、及び連結レバー73dに連結される第2プレッシャプレート48は第2壁43bと一体回転される。
【0038】
シリンダ部74はクラッチハウジング12に支持される図略の電動モータ、及びシリンダ74aを有している。電動モータは回転を直動に変換されシリンダ74aのシリンダピストン74b先端を進退させる。そしてレバー73aの力点部73cをシリンダピストン74b先端によって内燃機関E/G側に押すことによって、第2プレッシャプレート48を第2壁43b方向に移動させ第2クラッチディスク47を軸線方向に押動し第2クラッチディスク47と第2壁43bとを係合させる。
【0039】
クラッチフレーム43は、内燃機関E/Gの出力軸13とフライホイール74、本発明に係る振動吸収機構であるダンパ75、及び連結腕76を介して連結されている。図2に示すようにダンパ75は内燃機関E/Gの出力軸に対して軸方向、及び直交方向の振動が吸収できるように連結腕76とフライホイール74との間に介在している。ダンパ75にはコイルばね75aが縮接されており、コイルばね75aの反発力によってクラッチフレーム43側の中立位置が維持されている。そして内燃機関E/Gからの回転方向の振動が生じたときにはコイルばね75aが圧縮されて振動を吸収し、振動が収束した後にコイルばね75aがもとに戻り、再びクラッチフレーム43側を中立状態に復元する。また回転軸方向の振動が生じたときには、ダンパ75の組付けの遊び分によって振動を吸収する。これにより内燃機関E/Gに軸方向、及び直交方向の振動が生じても、ダンパ75によって吸収されるので、クラッチフレーム43は影響を受けにくく、クラッチフレーム43の第1壁43a、及び第2壁43にも振動は発生しない。そのため第1壁43a、及び第2壁43と第1クラッチディスク44、及び第2クラッチディスク47との間は振れることなく良好に係合することができる。
【0040】
次に、上述の実施形態の構成における動作、作用について説明する。DCT1が始動されると、制御装置は、アクセル開度、エンジン回転速度、車速などの車両の作動状態に応じて、デュアルクラッチ40の第1及び第2クラッチディスク44、47並びに各シフトクラッチ101〜104を作動させる。なお、不作動状態ではデュアルクラッチ40の第1及び第2クラッチディスク44、47はともに解除されており、各シフトクラッチ101〜104は中立位置にある。
【0041】
まず、停車状態において内燃機関E/Gを起動させてDCT1のシフトレバー(図示省略)を前進位置とすれば、制御装置は、シフトクラッチ101が有するスリーブ202をスライドさせ、変速段の従動ギヤ61のシンクロギヤ部に噛合させ、その他の各クラッチが中立位置となるようにして第1速段を形成する。アクセル開度が増大して内燃機関E/Gが所定の回転速度を越えれば、制御装置はアクセル開度に合わせてデュアルクラッチ40の第2クラッチディスク47を作動させて係合力を徐々に増加させ、第1速ギヤ列51、61を有する第2入力軸22、及び第2出力軸32に回転連結する。
【0042】
このとき制御装置は第2クラッチディスク47を作動させるために、第2作動機構49の電動モータを作動させ、シリンダ部74のシリンダピストン74bを内燃機関E/G方向に前進させる。そしてシリンダピストン74bの先端をリンク部73のレバー73aの力点部73cに当接させるとともにさらに前進させる。力点部73cを内燃機関E/G方向に押されたレバー73aは第1壁43aに設けられた支点78を回転中心として回転し作用点部73bが第1壁43aから離間する方向に移動する。作用点部73bは第2プレッシャプレート48と連結レバー73dによって連結されているので第2プレッシャプレート48を第2壁43b方向に移動させ、第2プレッシャプレート48は第2クラッチディスク47を第2壁43b側に押動する。さらにシリンダピストン74bを前進させると第2クラッチディスク47は第2壁43bに押圧され第2プレッシャプレート48と第2壁43bとの間に挟持されて一体回転される。そして第2クラッチディスク47が回転連結される第2入力軸22に内燃機関E/Gの回転力が伝達される。
【0043】
このとき第2クラッチディスク47が押圧する第2壁43bは第1壁43aに一体的に連結されてクラッチフレーム43を形成し高い剛性を有するとともに、第2入力軸22よりも太く剛性の高い第1入力軸21に、第1壁43aとともに軸受42、41を介して装架されている。これにより第2壁43bは第2クラッチディスク47に押圧されても、クラッチフレーム43、及び第1入力軸21は撓むことなく安定して第2壁43bを支持するので第2クラッチディスク47と第2壁43bとの係合が不安定になり片当たりなどして摩耗する虞はない。
【0044】
このようにして内燃機関E/Gの駆動力は、第2壁43b(クラッチフレーム43)から第2クラッチディスク47、第2入力軸22、第1速ギヤ列61、シフトクラッチ101、第2出力軸32、最終減速駆動ギヤ58を介してディファレンシャルのリングギヤ80に伝達され、車両は第1速で走行する。
【0045】
次に、アクセル開度が増大するなどして車両の作動状態が第2速走行に適した状態となれば、制御装置は、先ずシフトクラッチ102が有するスリーブ202をスライドさせ、変速段の従動ギヤ62のシンクロギヤ部に噛合させて第2速段を形成してから、デュアルクラッチ40を第1クラッチディスク44側に切り換えて第2速走行に切り換え、次いでシフトクラッチ101のスリーブ202を離脱させる。
【0046】
このとき制御装置は第1クラッチディスク44側に切り換えるために、第1作動機構46の電動モータを作動させ、シリンダ部72のシリンダピストン72bを内燃機関E/G方向に前進させる。そしてシリンダピストン72bの先端をリンク部71のレバー71aの力点部71cに当接させるとともにさらに前進させる。力点部71cを内燃機関E/G方向に押されたレバー71aは第1壁43aに設けられた支点77を回転中心として回転し作用点部71bが第1壁43aから離間する方向に移動する。このとき作用点部71bは第1プレッシャプレート45と連結レバー71dによって連結されているので、第1プレッシャプレート45を第1壁43a方向に移動させ、第1プレッシャプレート45は第1クラッチディスク44を第1壁43a側に押動する。さらにシリンダピストン72bを前進させると第1クラッチディスク44は第1壁43aに押圧され第1プレッシャプレート45と第1壁43aとの間に挟持されて一体回転される。そして第1クラッチディスク44が回転連結される第1入力軸21に内燃機関E/Gの回転力が伝達される。
【0047】
このときも前述した第2クラッチディスク47と同様に、第1壁43aが第1クラッチディスク44に押圧されても、クラッチフレーム43、及び第1入力軸21は撓むことなく安定して第1壁43aを支持するので第1クラッチディスク44と第1壁43aとの係合が不安定になり片当たりなどして摩耗する虞はない。
【0048】
このようにして、内燃機関E/Gの駆動力は第1壁43a(クラッチフレーム43)から第1クラッチディスク44、第1入力軸21、第2速ギヤ列52,62、シフトクラッチ102、第1出力軸31、最終減速駆動ギヤ68を介してディファレンシャルのリングギヤ80に伝達され、車両は第2速で走行する。
【0049】
また同様にして制御装置は、第3速〜第7速では、車両の作動状態に応じた変速段を順次選択するとともに第1クラッチディスク44と第2クラッチディスク47とを交互に選択して、その状態に適した変速段での走行が行われるようにする。
【0050】
さらに、エンジンE/Gを起動させた停車状態においてDCT1のシフトレバーを後進位置とすれば、制御装置はそれを検出してシフトクラッチ103が有するスリーブ202をスライドさせ、後進ギヤ70のシンクロギヤ部に噛合させ、その他の各クラッチが中立位置となるようにして後進段を形成する。このとき後進ギヤ70は、変速段の従動ギヤ62と一体的に形成された小径ギヤ62aと常時噛合されている。そして上述したように第1クラッチディスク44を選択して第1入力軸21に接続する。これによって内燃機関E/Gの駆動力は第1壁43a(クラッチフレーム43)から第1クラッチディスク44、第1入力軸21、第2速ギヤ列52、62、62a、後進ギヤ70、シフトクラッチ103、第2出力軸32、最終減速駆動ギヤ58を介してディファレンシャルのリングギヤ80に伝達され、車両は後進を開始する。
【0051】
上述の説明から明らかなように、本実施形態においては、原動機である内燃機関E/Gに回転連結されたクラッチフレーム43が大径で曲げ剛性の高い第1入力軸21に支承されている。またクラッチフレーム43は第1壁43aと第2壁43bとが連結されて形成されているのでクラッチフレーム自体の剛性が高くなっている。これらにより内燃機関E/Gの振れをクラッチフレーム43、及び第1入力軸21が受けてもクラッチフレーム43、及び第1入力軸21の振れ(撓み)は効果的に抑制される。また、第1クラッチディスク44、または第2クラッチディスク47が、第1壁43a、または第2壁43bを押圧して回転連結したとき、第1壁43aまたは第2壁43bは剛性の高いクラッチフレーム43、及び曲げ剛性の高い第1入力軸21によって押圧力を効果的に受けることができ第1壁43a、または第2壁43bが撓む虞はない。これにより第1壁43aと第1クラッチディスク44、または第2壁43bと第2クラッチディスク47との間の係合が不安定になり係合面に摩耗が生じる虞はなく、効果的に内燃機関E/Gの回転力を各入力軸21、22に伝達できる。
【0052】
また本実施形態においては、クラッチフレーム43は、振動吸収機構であるダンパ75を介して内燃機関E/Gに回転連結されているので、内燃機関E/Gの振動は抑制されて第1壁、または第2壁に伝達されることはない。これによりデュアルクラッチ40はさらに効果的に内燃機関E/Gの回転力を各入力軸21、22に伝達できる。
【0053】
また本実施形態においては、第1入力軸21に支承されるクラッチフレーム43の第1壁43aおよび第2壁43bは、内燃機関E/Gに向かう軸線方向の相対移動が分担されてそれぞれ規制される。これにより第1クラッチディスク44、または第2クラッチディスク47が第1壁43aまたは第2壁43bを押圧しても第1壁43aまたは第2壁43bが押圧された方向に移動してしまい第1クラッチディスク44、または第2クラッチディスク47との間の係合が不安定になることはない。よって係合面に摩耗が生じる虞はなく、信頼性がさらに向上する。
【0054】
なお、本実施形態においては第1クラッチディスク44、及び第2クラッチディスク47は単板の摩擦板とした。しかしこれに限らず多板の摩擦板であるいわゆる多板クラッチにも適用可能である。つまり複数の第1クラッチディスクがそれぞれ対応する複数の第1プレッシャプレートを有し、第1クラッチディスクと第1プレッシャプレートの組み合わせの間に複数の第1壁、または第2壁を設ける構成とすればよい。これによっても同様の効果が得られる。
【0055】
また、本実施形態においては、原動機は内燃機関E/Gとしたが、これに限らず電動機でもよい。
【0056】
また、本実施形態においては、第1クラッチディスク44、及び第2クラッチディスク47を作動させるためのシリンダ部72、74の駆動を電動モータによって実施した。しかしこれに限らず、空気圧を利用したモータや、電動直動式のモータによって駆動してもよい。
【0057】
さらに、本実施形態においては、車両用(自動車用)のデュアルクラッチ式自動変速機について説明したが、これに限らず船舶、鉄道用車両、及び航空機等にも適用可能である。
【符号の説明】
【0058】
1・・・デュアルクラッチ式自動変速機(DCT)、10・・・ケース、11・・・ミッションケース、12・・・クラッチハウジング、21・・・第1入力軸、22・・・第2入力軸、31・・・第1出力軸、32・・・第2出力軸、40・・・デュアルクラッチ、41、42・・・軸受、43・・・クラッチフレーム、43a・・・第1壁、43b・・・第2壁、43c・・・連結部、44・・・第1クラッチディスク、45・・・第1プレッシャプレート、46・・・第1作動機構、47・・・第2クラッチディスク、48・・・第2プレッシャプレート、49・・・第2作動機構、51〜57・・・変速段の駆動ギヤ、58、68・・・最終減速駆動ギヤ、61〜67・・・変速段の従動ギヤ、62a・・・小径ギヤ、70・・・後進ギヤ、71、73・・・リンク部、72、74・・・シリンダ部、75・・・振動吸収機構(ダンパ)、77、78・・・凸部、80・・・リングギヤ、81、82・・・停止板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースに回転可能に支承された中空の第1入力軸と、
前記第1入力軸を同一軸線上で貫通して前記ケースに支承された第2入力軸と、
原動機の回転駆動力を前記第1入力軸または前記第2入力軸に選択的に伝達するデュアルクラッチと、を備えたデュアルクラッチ式自動変速機であり、
前記デュアルクラッチは、
前記第1入力軸の軸線方向に離間して前記第1入力軸に回転可能に支承され互いに連結されて前記原動機に連結された第1壁および第2壁を有し、前記原動機に向かう移動を規制されたクラッチフレームと、
前記第1壁と第2壁との間に配置され軸線方向に移動可能に設けられた第1クラッチディスクと、
前記第1クラッチディスクと前記第2壁との間に前記軸線方向に移動可能に配置された第1プレッシャプレートと、
前記第1プレッシャプレートを前記第1壁に向かって移動させる第1作動機構と、
前記第2壁より前記原動機側に配置され軸線方向に移動可能に設けられた第2クラッチディスクと、
前記第2クラッチディスクと前記原動機との間に前記軸線方向に移動可能に配置された第2プレッシャプレートと、
前記第2プレッシャプレートを前記第2壁に向かって移動させる第2作動機構と、
を備えたデュアルクラッチ式自動変速機。
【請求項2】
請求項1において、
前記クラッチフレームは、振動吸収機構を介して前記原動機に連結されているデュアルクラッチ式自動変速機。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記クラッチフレームの第1壁および第2壁は、前記第1入力軸に前記原動機に向かう前記軸線方向の相対移動を規制して回転可能に支承されているデュアルクラッチ式自動変速機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−97852(P2012−97852A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246881(P2010−246881)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(000149033)株式会社エクセディ (270)
【Fターム(参考)】