説明

トロイダル型無段変速機

【課題】パワーローラ軸受の外周部とトラニオンの内端面との間の隙間に伴うパワーローラの軸方向変位量の値とトラニオンの軸方向変位量の値との間のずれを補償して、正確な変速比制御を実現できるトロイダル型無段変速機を提供する。
【解決手段】このトロイダル型無段変速機は、カム・リンク機構を介した変速比制御弁120へのフィードバック機構と、パワーローラ11に加わるスラスト方向の荷重を支承しつつパワーローラ11の回転を許容する軸受24の外周部とトラニオン15の内端面との間の隙間寸法を監視するセンサ100と、センサ100の測定値に基づいて、パワーローラ11の軸方向変位量の値とトラニオン15の軸方向変位量の値との間のずれを補正して、所定の変速比に対応する制御信号を変速比制御弁120を駆動させるステッピングモータ130へ供給する演算部140とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や各種産業機械の変速機などに利用可能なトロイダル型無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車用変速機として用いるダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機は、図4および図5に示すように構成されている(図4に2つのキャビティ221,222が示される)。図4に示すように、ケーシング50の内側には入力軸(中心軸)1が回転自在に支持されており、この入力軸1の外周には、2つの入力側ディスク2,2と2つの出力側ディスク3,3とが取り付けられている。また、入力軸1の中間部の外周には出力歯車4が回転自在に支持されている。この出力歯車4の中心部に設けられた円筒状のフランジ部4a,4aには、出力側ディスク3,3がスプライン結合によって連結されている。
【0003】
入力軸1は、図中左側に位置する入力側ディスク2とカム板7との間に設けられたローディングカム式の押圧装置12を介して、駆動軸22により回転駆動されるようになっている。また、出力歯車4は、2つの部材の結合によって構成された仕切壁13を介してケーシング50内に支持されており、これにより、入力軸1の軸線Oを中心に回転できる一方で、軸線O方向の変位が阻止されている。
【0004】
出力側ディスク3,3は、入力軸1との間に介在されたニードル軸受5,5によって、入力軸1の軸線Oを中心に回転自在に支持されている。また、図中左側の入力側ディスク2は、入力軸1にボールスプライン6を介して支持され、図中右側の入力側ディスク2は、入力軸1にスプライン結合されており、これら入力側ディスク2は入力軸1と共に回転するようになっている。また、入力側ディスク2,2の内側面(凹面)2a,2aと出力側ディスク3,3の内側面(凹面;トラクション面とも言う)3a,3aとの間には、パワーローラ11(図5参照)が回転自在に挟持されている。
【0005】
図4中右側に位置する入力側ディスク2の内周面2cには、段差部2bが設けられ、この段差部2bに、入力軸1の外周面1aに設けられた段差部1bが突き当てられるとともに、入力側ディスク2の背面(図4の右面)がローディングナット9に突き当てられている。これによって、入力側ディスク2の入力軸1に対する軸線O方向の変位が実質的に阻止されている。また、カム板7と入力軸1の鍔部1dとの間には、皿ばね8が設けられており、この皿ばね8は、各ディスク2,2,3,3の凹面2a,2a,3a,3aとパワーローラ11,11の周面11a,11aとの当接部に押圧力を付与する。
【0006】
図5は、図4のA−A線に沿う断面図である。図5に示すように、ケーシング50の内側には、入力軸1に対し捻れの位置にある一対の枢軸14,14を中心として揺動する一対のトラニオン15,15が設けられている。なお、図5においては、入力軸1の図示は省略している。各トラニオン15,15は、パワーローラ11を支持する支持板部16の長手方向(図5の上下方向)の両端部に、この支持板部16の内側面側に折れ曲がる状態で形成された一対の折れ曲がり壁部20,20を有している。そして、この折れ曲がり壁部20,20によって、各トラニオン15,15には、パワーローラ11を収容するための凹状のポケット部Pが形成される。また、各折れ曲がり壁部20,20の外側面には、各枢軸14,14が互いに同心的に設けられている。
【0007】
支持板部16の中央部には円孔21が形成され、この円孔21には変位軸23の基端部23aが支持されている。そして、各枢軸14,14を中心として各トラニオン15,15を揺動させることにより、これら各トラニオン15,15の中央部に支持された変位軸(軸部)23の傾斜角度を調節できるようになっている。また、各トラニオン15,15の内側面から突出する変位軸23の先端部23bの周囲には、ラジアルニードル軸受99を介して各パワーローラ11が回転自在に支持されており、各パワーローラ11,11は、各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の間に挟持されている。なお、各変位軸23,23の基端部23aと先端部23bとは、互いに偏心している。
【0008】
また、各トラニオン15,15の枢軸14,14はそれぞれ、一対のヨーク23A,23Bに対して揺動自在および軸方向(図5の上下方向)に変位自在に支持されており、各ヨーク23A,23Bにより、トラニオン15,15はその水平方向の移動を規制されている。各ヨーク23A,23Bは鋼等の金属のプレス加工あるいは鍛造加工により矩形状に形成されている。各ヨーク23A,23Bの四隅には円形の支持孔18が4つ設けられており、これら支持孔18にはそれぞれ、トラニオン15の両端部に設けた枢軸14がラジアルニードル軸受30を介して揺動自在に支持されている。また、ヨーク23A,23Bの幅方向(図4の左右方向)の中央部には、円形の係止孔19が設けられており、この係止孔19の内周面は円筒面として、球面ポスト64,68を内嵌している。すなわち、上側のヨーク23Aは、ケーシング50に固定部材52を介して支持されている球面ポスト64によって揺動自在に支持されており、下側のヨーク23Bは、球面ポスト68およびこれを支持する駆動シリンダ31の上側シリンダボディ61によって揺動自在に支持されている。
【0009】
なお、各トラニオン15,15に設けられた各変位軸23,23は、入力軸1に対し、互いに180度反対側の位置に設けられている。また、これらの各変位軸23,23の先端部23bが基端部23aに対して偏心している方向は、両ディスク2,2,3,3の回転方向に対して同方向(図5で上下逆方向)となっている。また、偏心方向は、入力軸1の配設方向に対して略直交する方向となっている。したがって、各パワーローラ11,11は、入力軸1の長手方向に若干変位できるように支持される。その結果、押圧装置12が発生するスラスト荷重に基づく各構成部材の弾性変形等に起因して、各パワーローラ11,11が入力軸1の軸方向に変位する傾向となった場合でも、各構成部材に無理な力が加わらず、この変位が吸収される。
【0010】
また、パワーローラ11の外側面とトラニオン15の支持板部16の内側面との間には、パワーローラ11の外側面の側から順に、スラスト転がり軸受であるスラスト玉軸受24と、スラストニードル軸受25とが設けられている。このうち、スラスト玉軸受24は、各パワーローラ11に加わるスラスト方向の荷重を支承しつつ、これら各パワーローラ11の回転を許容するものである。このようなスラスト玉軸受24はそれぞれ、複数個ずつの玉(以下、転動体という)26,26と、これら各転動体26,26を転動自在に保持する円環状の保持器27と、円環状の外輪28とから構成されている。また、各スラスト玉軸受24の内輪軌道は各パワーローラ11の外側面(大端面)に、外輪軌道は各外輪28の内側面にそれぞれ形成されている。
【0011】
また、スラストニードル軸受25は、トラニオン15の支持板部16の内側面と外輪28の外側面との間に挟持されている。このようなスラストニードル軸受25は、パワーローラ11から各外輪28に加わるスラスト荷重を支承しつつ、これらパワーローラ11および外輪28が各変位軸23の基端部23aを中心として揺動することを許容する。
【0012】
さらに、各トラニオン15,15の一端部(図5の下端部)にはそれぞれ駆動ロッド(トラニオン軸)29,29が設けられており、各駆動ロッド29,29の中間部外周面に駆動ピストン(油圧ピストン)33,33が固設されている。そして、これら各駆動ピストン33,33はそれぞれ、上側シリンダボディ61と下側シリンダボディ62とによって構成された駆動シリンダ31内に油密に嵌装されている。これら各駆動ピストン33,33と駆動シリンダ31とで、各トラニオン15,15を、これらトラニオン15,15の枢軸14,14の軸方向に変位させる駆動装置32を構成している。
【0013】
このように構成されたトロイダル型無段変速機の場合、入力軸1の回転は、押圧装置12を介して、各入力側ディスク2,2に伝えられる。そして、これら入力側ディスク2,2の回転が、一対のパワーローラ11,11を介して各出力側ディスク3,3に伝えられ、更にこれら各出力側ディスク3,3の回転が、出力歯車4より取り出される。
【0014】
入力軸1と出力歯車4との間の回転速度比を変える場合には、一対の駆動ピストン33,33を互いに逆方向に変位させる。これら各駆動ピストン33,33の変位に伴って、一対のトラニオン15,15が互いに逆方向に変位する。例えば、図5の左側のパワーローラ11が同図の下側に、同図の右側のパワーローラ11が同図の上側にそれぞれ変位する。その結果、これら各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の内側面2a,2a,3a,3aとの当接部に作用する接線方向の力の向きが変化する。そして、この力の向きの変化に伴って、各トラニオン15,15が、ヨーク23A,23Bに枢支された枢軸14,14を中心として、互いに逆方向に揺動(傾転)する。
【0015】
その結果、各パワーローラ11,11の周面(トラクション面)11a,11aと各内側面2a,3aとの当接位置が変化し、入力軸1と出力歯車4との間の変速比が変化する。また、これら入力軸1と出力歯車4との間で伝達するトルクが変動し、各構成部材の弾性変形量が変化すると、各パワーローラ11,11およびこれら各パワーローラ11,11に付属の外輪28,28が、各変位軸23,23の基端部23a、23aを中心として僅かに回動する。これら各外輪28,28の外側面と各トラニオン15,15を構成する支持板部16の内側面との間には、それぞれスラストニードル軸受25,25が存在するため、前記回動は円滑に行われる。したがって、前述のように各変位軸23,23の傾斜角度を変化させるための力が小さくて済む。
【0016】
ところで、以上のようなトロイダル型無段変速機の運転時には、パワーローラ11と各ディスク2,3との間で動力を伝達するためのトラクション接触部C1,C2にそれぞれ、図5および図6に示すような接線方向の力Ftが発生する。これら2点での力Ftを合わせた力2Ftは、スラスト玉軸受24を倒す方向の力Fr(図5参照)となるため、スラスト玉軸受24がラジアル方向に受ける圧縮力(この圧縮力によって内輪(上記構成ではパワーローラ11の一部)が楕円形に変形する傾向となる)の大きさにアンバランスを生じさせる。
【0017】
そして、このような力2Ftをトラニオン15の内端面で支持するトロイダル型無段変速機は、前述したように、変速制御に必要なパワーローラ11の軸方向変位と傾転角とをトラニオン15の軸方向変位と傾転角とで代用している。
【0018】
しかしながら、このような変位量の代用による変速制御では、1つの問題が生じる。すなわち、通常、パワーローラ外輪28の外周部とトラニオン15の内端面との間には、トラニオン15の変形を考慮して0.2mm程度の隙間G(図5参照)が設けられており、また、ラジアルニードル軸受99が存在するパワーローラ内輪11とパワーローラ外輪28との接続部にも設計上0.02mmの隙間が設けられているため、これらの隙間に起因して、実際のパワーローラ内輪11の軸方向変位量の値と代用しているトラニオン15の軸方向変位量の値との間にずれが生じ、それにより、変速比にずれが生じてしまっている(変速比のばらつきを発生させている)。また、この変速比のずれは、主に、トルクの方向が逆転するポイントで大きな影響を及ぼす。
【0019】
そのため、トラニオン15の支持板部16に凸部を設けると同時にパワーローラ外輪28に凹溝を設けることにより、この凹凸係合部で力2Ftを支持し、それにより、トラニオン15とパワーローラ11との接触状態を適正に保つ技術(例えば、特許文献1参照)や、変位センサを用いてパワーローラ11の軸方向の変位量を検出しようとする技術(例えば、特許文献2参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開2008−25821号公報
【特許文献2】特開2002−195393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかしながら、特許文献1で提案される技術では、依然として、前述した隙間に伴って変速比ずれが発生する可能性がある。これに対し、特許文献2に開示される技術では、変位センサを用いてパワーローラ11の軸方向変位量を検出するため、前述した隙間に伴う変位量のずれを補償できる可能性があるが、変位センサがトラニオン15の外部の固定部材に設けられ、すなわち、ケーシング50の内面に固定されているため、トラニオン15の変形時の変位センサ−トラニオン15間の干渉などの影響を考慮する必要がある。
【0022】
本発明は、前記事情に鑑みて為されたもので、パワーローラ軸受の外周部とトラニオンの内端面との間の隙間に伴うパワーローラの軸方向変位量の値とトラニオンの軸方向変位量の値との間のずれを補償して、正確な変速比制御を実現できるトロイダル型無段変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、それぞれの内側面同士を互いに対向させた状態で互いに同心的に且つ回転自在に支持された入力側ディスクおよび出力側ディスクと、前記入力側ディスクと前記出力側ディスクとの間に挟持されたパワーローラと、前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクの中心軸に対して捻れの位置にある枢軸を中心に傾転し且つ前記パワーローラを回転自在に支持するトラニオンとを備えているトロイダル型無段変速機であって、前記トラニオンを軸方向に変位させる駆動装置への圧油の給排を制御して無段変速機の無段変速を生起させる変速比制御弁を更に備え、該変速比制御弁は、ステッピングモータにより軸方向に変位させられるスリーブと、このスリーブ内に軸方向に変位自在に嵌装されるスプールとを有し、前記駆動装置の駆動ピストンを保持する駆動ロッドがカム・リンク機構を介して前記スプールに連結されることにより駆動ロッドの動きをスプールに伝達するフィードバック機構が構成されるトロイダル型無段変速機において、前記パワーローラに加わるスラスト方向の荷重を支承しつつパワーローラの回転を許容する軸受の外周部と前記トラニオンの内端面との間の隙間寸法を監視するセンサと、前記センサの測定値に基づいて、前記パワーローラの軸方向変位量の値と前記トラニオンの軸方向変位量の値との間のずれを補正して所定の変速比に対応する制御信号を前記ステッピングモータに供給する演算部とを備えていることを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、パワーローラに加わるスラスト方向の荷重を支承しつつパワーローラの回転を許容する軸受の外周部とトラニオンの内端面との間の隙間寸法を監視するセンサと、センサの測定値に基づいて、パワーローラの軸方向変位量の値とトラニオンの軸方向変位量の値との間のずれを補正して所定の変速比に対応する制御信号をステッピングモータに供給する演算部とを備えているので、パワーローラ軸受の外周部とトラニオンの内端面との間の隙間に伴うパワーローラの軸方向変位量の値とトラニオンの軸方向変位量の値との間のずれが補償され、正確な変速比制御を実現できる。一般に、パワーローラの軸方向変位と傾転角とをトラニオンの軸方向変位と傾転角とで代用する変速制御では、トラニオンの変形を考慮して形成されるパワーローラ軸受の外周部とトラニオンの内端面との間の隙間を厳密に加工する必要が生じるが、上記構成のように、パワーローラ軸受の変位量をトラニオンとは独立して計測できれば、前記隙間の加工上の精度も従来に比べて必要とされない。また、上記構成では、変速比制御のための変数(パワーローラの軸方向変位量および傾転角)の検出を、センサのみとせず、カム・リンク機構を介した変速比制御弁へのフィードバック機構と併せて行なっているので、センサが故障した場合でも制御を継続できる。
【0025】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記センサが前記トラニオンの内部に組み込まれることを特徴とする。
【0026】
この構成によれば、従来のようにセンサがトラニオンの外部の固定部材に設けられておらず、トラニオンの内部に組み込まれているので、トラニオンの変形時の変位センサ−トラニオン間の干渉などの影響を考慮する必要が少なくなる。
【発明の効果】
【0027】
本発明のトロイダル型無段変速機によれば、パワーローラに加わるスラスト方向の荷重を支承しつつパワーローラの回転を許容する軸受の外周部とトラニオンの内端面との間の隙間寸法を監視するセンサと、センサの測定値に基づいて、パワーローラの軸方向変位量の値とトラニオンの軸方向変位量の値との間のずれを補正して所定の変速比に対応する制御信号をステッピングモータに供給する演算部とを備えているので、パワーローラ軸受の外周部とトラニオンの内端面との間の隙間に伴うパワーローラの軸方向変位量の値とトラニオンの軸方向変位量の値との間のずれが補償され、正確な変速比制御を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】(a)は本発明の実施形態に係る要部断面図、(b)は(a)のX部の拡大図である。
【図2】本発明の実施形態に係るカム・リンク機構を介した変速比制御弁へのフィードバック機構を示す断面図である。
【図3】パワーローラ外輪の外周部とトラニオンの内端面との間の隙間に伴うパワーローラの軸方向変位量の値とトラニオンの軸方向変位量の値との間のずれを補償するための本発明の一実施形態に係る概略構成図である。
【図4】従来から知られているハーフトロイダル型無段変速機の具体的構造の一例を示す断面図である。
【図5】図4のA−A線に沿う断面図である。
【図6】ディスクとパワーローラとの位置関係を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
なお、本発明の特徴は、パワーローラの回転を許容する軸受の外輪の外周部とトラニオンの内端面との間の隙間情報に基づく変速比制御形態にあり、その他の構成および作用は前述した従来の構成および作用と同様であるため、以下においては、本発明の特徴部分についてのみ言及し、それ以外の部分については、図4および図5と同一の符号を付して簡潔に説明するに留める。
【0030】
図1〜図3には、本発明の実施形態に係るトロイダル型無段変速機の要部構成が示されている。図1に示すように、本実施形態では、パワーローラ11に加わるスラスト方向の荷重を支承しつつパワーローラ11の回転を許容するスラスト玉軸受(パワーローラ軸受)24の外周部(パワーローラ内輪の外周部)とトラニオン11の内端面との間の隙間Gの寸法を監視する非接触式の変位センサ100が、パワーローラ内輪の外周部と対向してトラニオン15の枢軸14の内部に組み込まれている。
【0031】
また、本実施形態において、駆動装置32への圧油の給排状態は、図2に示すような変速比制御弁120により行なわれ、トラニオン15の動きがこの変速比制御弁120にフィードバックされるようになっている。この変速比制御弁120は、ステッピングモータ130により軸方向に変位させられるスリーブ108と、このスリーブ108の内径側に軸方向に変位自在に嵌装されたスプール106とを有する。また、トラニオン15と各駆動装置32の駆動ピストン33とを連結する駆動ロッド29の端部にプリセスカム102が固定されており、このプリセスカム102とリンク腕104とを介して、駆動ロッド29の動き、すなわち、軸方向の変位量と回転方向の変位量との合成値がスプール106に伝達される、フィードバック機構が構成されている。
【0032】
変速状態を切り換える際には、ステッピングモータ130によりスリーブ108を所定量だけ変位させて、変速比制御弁120の流路を開く。この結果、各駆動装置32に圧油が所定方向に送り込まれて、これら各駆動装置32が各トラニオン15を所定方向に変位させる。すなわち、上記圧油の送り込みに伴ってこれら各トラニオン15が各枢軸14の軸方向に変位しつつ、これら各枢軸14を中心に揺動する。そして、トラニオン15の動き(軸方向および揺動変位)が、駆動ロッド29の端部に固定されたプリセスカム102とリンク腕104とを介してスプール106に伝達され、このスプール106を軸方向に変位させる。この結果、トラニオン15が所定量変位した状態で、変速比制御弁120の流路が閉じられ、各駆動装置32への圧油の給排が停止される。したがって、各トラニオン15の軸方向および揺動方向の変位量は、ステッピングモータ130によるスリーブ108の変位量に応じただけのものとなる。
【0033】
ここで、本実施形態では、図3に示すように、変位センサ100からの測定値信号と、走行状態等により決まる目標変速比を設定供給する制御部150からの信号とが演算部140に送られるようになっており、演算部140は、これらの信号に基づいて、パワーローラ11の軸方向変位量の値とトラニオン15の軸方向変位量の値との間のずれを補正して、所定の変速比に対応する制御信号をステッピングモータ130に供給するようになっている。すなわち、演算部140は、変位センサ100からの値を従来用いていたトラニオン15から検出した軸方向移動量に対する補正値とし、この補正値を用いて、トラニオン15の軸方向移動量と傾転角に対して演算処理を行った後、変速制御を行なうステッピングモータ130にフィードバックすることにより、正確な変速比を実現する。
【0034】
以上説明したように、本実施形態にあっては、パワーローラ11に加わるスラスト方向の荷重を支承しつつパワーローラ11の回転を許容する軸受24の外周部とトラニオン15の内端面との間の隙間Gの寸法を監視する変位センサ100と、変位センサ100の測定値に基づいて、パワーローラ11の軸方向変位量の値とトラニオン15の軸方向変位量の値との間のずれを補正して所定の変速比に対応する制御信号をステッピングモータ130に供給する演算部140とを備えているので、パワーローラ軸受24の外周部とトラニオン15の内端面との間の隙間Gに伴うパワーローラ11の軸方向変位量の値とトラニオン15の軸方向変位量の値との間のずれが補償され、正確な変速比制御を実現できる。一般に、パワーローラ11の軸方向変位と傾転角とをトラニオン15の軸方向変位と傾転角とで代用する変速制御では、トラニオン15の変形を考慮して形成されるパワーローラ軸受24の外周部とトラニオン15の内端面との間の隙間Gを厳密に加工する必要が生じるが、本実施形態の構成のように、パワーローラ軸受24の変位量をトラニオン15とは独立して計測できれば、隙間Gの加工上の精度も従来に比べて必要とされない。また、本実施形態の構成では、変速比制御のための変数(パワーローラの軸方向変位量および傾転角)の検出を、変位センサ100のみとせず、カム・リンク機構を介した変速比制御弁120へのフィードバック機構と併せて行なっているので、変位センサ100が故障した場合でも制御を継続できる。
【0035】
また、変位センサ100がトラニオン15の外部の固定部材に設けられておらず、トラニオン15の内部に組み込まれているので、トラニオン15の変形時の変位センサ100−トラニオン15間の干渉などの影響を考慮する必要が少なくなる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、シングルキャビティ型やダブルキャビティ型などの様々なハーフトロイダル型無段変速機に適用できる。
【符号の説明】
【0037】
2 入力側ディスク
3 出力側ディスク
11 パワーローラ
14 枢軸
15 トラニオン
16 支持板部
32 駆動装置
100 変位センサ
102 プリンセスカム
104 リンク腕
106 スプール
108 スリーブ
120 変速比制御弁
130 ステッピングモータ
140 演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれの内側面同士を互いに対向させた状態で互いに同心的に且つ回転自在に支持された入力側ディスクおよび出力側ディスクと、前記入力側ディスクと前記出力側ディスクとの間に挟持されたパワーローラと、前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクの中心軸に対して捻れの位置にある枢軸を中心に傾転し且つ前記パワーローラを回転自在に支持するトラニオンとを備えているトロイダル型無段変速機であって、前記トラニオンを軸方向に変位させる駆動装置への圧油の給排を制御して無段変速機の無段変速を生起させる変速比制御弁を更に備え、該変速比制御弁は、ステッピングモータにより軸方向に変位させられるスリーブと、このスリーブ内に軸方向に変位自在に嵌装されるスプールとを有し、前記駆動装置の駆動ピストンを保持する駆動ロッドがカム・リンク機構を介して前記スプールに連結されることにより駆動ロッドの動きをスプールに伝達するフィードバック機構が構成されるトロイダル型無段変速機において、
前記パワーローラに加わるスラスト方向の荷重を支承しつつパワーローラの回転を許容する軸受の外周部と前記トラニオンの内端面との間の隙間寸法を監視するセンサと、
前記センサの測定値に基づいて、前記パワーローラの軸方向変位量の値と前記トラニオンの軸方向変位量の値との間のずれを補正して所定の変速比に対応する制御信号を前記ステッピングモータに供給する演算部と、
を備えていることを特徴とするトロイダル型無段変速機。
【請求項2】
前記センサが前記トラニオンの内部に組み込まれることを特徴とする請求項1に記載のトロイダル型無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−24310(P2013−24310A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158828(P2011−158828)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】