説明

トロリ線測定方法及び装置

【課題】トロリ線以外の構造物の影響を無くしトロリ線の摩耗量や偏位量を正確に測定する。
【解決手段】架線検測車屋根上にトロリ線へ投光する光を照射する投光ユニットを設け、トロリ線より反射した光を受光する受光ユニットを設ける。受光ユニットより受光した信号を二値化回路によってある閾値で二値化し、エッジ検出回路でパルス波形の立ち下がりから次の立ち上がりまでの距離に基づいて、剛体やイヤーなどのノイズ信号とトロリ線の信号を判別し、トロリ線摺面の検出信号を得る。エッジ検出回路から得られた検出信号は、演算装置によって前回の偏位データと今回の偏位データが比較され、前回のものと最も近い信号をトロリ線データとして検出し、トロリ線摩耗量(残存直径)に変換される。これによって、ノイズによる誤検出を低減させ、トロリ線の外形を正確に求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トロリ線の摩耗量や偏位量を測定するトロリ線測定方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の多眼式トロリ線摩耗偏位検出装置は、レール横断方向に配列された単色光光源複数個によりスリット状の投光光を生成して、トロリ線の摺面にその投光光を照射する投光ユニットを備えており、この投光ユニットを所定の周期でパルス駆動することで投光光をパルス状の光としてトロリ線の摺面に照射している。そして、この投光光が照射されたときとそうでないときのトロリ線からの反射光に対応した受光信号の差に基づいて摺動面についての検出信号を得るようにしたものが、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−243275号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の多眼式トロリ線摩耗偏位検出装置では、丸型トロリ線剛体電車線(剛体と呼ばれるT字型の導電材に丸型トロリ線を取り付けた電車線設備)区間は剛体やイヤー(トロリ線の溝に引っ掛けて剛体部で支持する金具)からのノイズが多いため、トロリ線の受光信号の検出が困難となる場合があることが判明した。すなわち、投光ユニットから投光光をトロリ線の摺面へ照射し、トロリ線の摺面の受光信号を検出する際に、トロリ線以外の剛体やイヤーなどが検出されることがある。そして、受光ユニットによって検出された受光信号を二値化したときに、剛体やイヤーから検出された信号がトロリ線の摺面幅データとして誤検出されるおそれがあった。
【0005】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、トロリ線以外の構造物の影響を無くしトロリ線の摩耗量や偏位量を正確に測定することのできるトロリ線測定方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るトロリ線測定方法の第1の特徴は、トロリ線に向けて光を投光するステップと、前記トロリ線に向けて投光した光の反射光を受光し、その受光に対応した受光信号を出力するステップと、前記受光信号を所定の閾値で二値化し、その二値化信号を出力するステップと、前記二値化信号を構成するパルス波形の隣接するもののエンドエッジとスタートエッジとの間のパルス間距離に基づいて、前記二値化信号から前記トロリ線の外形を求めるステップとを備えたことにある。トロリ線測定方法は、受光ユニットによって検出された受光信号を所定の閾値で二値化信号に変換し、その二値化された信号のパルス波形のエンドエッジ(立ち下がり時点)から次のパルス波形のスタートエッジ(立ち上がり時点)までの距離に基づいて、本来検出すべき摺面幅データを判別している。これによって、ノイズによる誤検出を低減させ、トロリ線の外形を正確に求めることができる。
【0007】
本発明に係るトロリ線測定方法の第2の特徴は、前記第1の特徴に記載のトロリ線測定方法において、前記二値化信号を構成するパルス波形の隣接するもののエンドエッジとスタートエッジとの間のパルス間距離が所定値以上ある場合は、前記エンドエッジを含むパルス波形の幅に基づいて摺面幅データ又はノイズデータとし、前記パルス間距離が前記所定値よりも小さい場合は、前記エンドエッジを含むパルス波形と前記スタートエッジを含むパルス波形を合成して新たなパルス波形とし、前記新たなパルス波形に隣接するパルス波形との間で同様の処理を行うことによって前記二値化信号を前記ノイズデータと前記摺面幅データに分類し、前記摺面幅データに分類された前記二値化信号に基づいて前記トロリ線の外形を求めることにある。これは、二値化信号のパルス波形のエンドエッジ(立ち下がり時点)から次のパルス波形のスタートエッジ(立ち上がり時点)までの距離を所定値と比較し、所定値以上の場合はエンドエッジを含むパルス波形をその幅に基づいて摺面幅データ又はノイズデータとし、所定値よりも小さい場合は両パルス波形を合成し新たなパルス波形として次のパルス波形との間で同様の処理を行い、二値化信号をノイズデータと摺面幅データに順次分類し、その分類結果に基づいてトロリ線の外形を求めるようにした。
【0008】
本発明に係るトロリ線測定方法の第3の特徴は、前記第2の特徴に記載のトロリ線測定方法において、前記エンドエッジを含むパルス波形の幅がトロリ線として認識可能な値以上ある場合は、前記エンドエッジを含むパルス波形を前記摺面幅データとし、前記エンドエッジを含むパルス波形の幅がトロリ線として認識可能な値よりも大きい場合は、前記エンドエッジを含むパルス波形を前記ノイズデータとすることにある。これは、パルス波形をその幅に基づいて摺面幅データ又はノイズデータに分類する際に、パルス波形の幅がトロリ線として認識可能な値以下の場合は摺面幅データに、これよりも大きい場合はノイズデータに分類するようにした。
【0009】
本発明に係るトロリ線測定方法の第4の特徴は、前記第2又は第3の特徴に記載のトロリ線測定方法において、今回検出された摺面幅データと前回検出された摺面幅データとの偏位を比較し、前回の摺面幅データの偏位に最も近いものをトロリ線の外形とすることにある。これは、前回の摺面幅データに最も近いものを今回の摺面幅データとすることによってトロリ線の外形のみを出力するようにした。
【0010】
本発明に係るトロリ線測定装置の第1の特徴は、トロリ線に向けて光を投光する投光手段と、前記投光手段が前記トロリ線に向けて投光した光の反射光を受光し、その受光に対応した信号を出力する受光手段と、前記受光手段からの信号を所定の閾値で二値化し、その二値化信号を出力する二値化手段と、前記二値化手段からの前記二値化信号を構成するパルス波形の隣接するもののエンドエッジとスタートエッジとの間のパルス間距離に基づいて、前記二値化信号から前記トロリ線の外形を求める演算手段とを備えたことにある。これは、前記トロリ線測定方法の第1の特徴に記載に対応したトロリ線測定装置の発明である。
【0011】
本発明に係るトロリ線測定装置の第2の特徴は、前記第1の特徴に記載のトロリ線測定装置において、前記演算手段が、前記二値化信号を構成するパルス波形の隣接するもののエンドエッジとスタートエッジとの間のパルス間距離が所定値以上ある場合は、前記エンドエッジを含むパルス波形の幅に基づいて摺面幅データ又はノイズデータとし、前記パルス間距離が前記所定値よりも小さい場合は、前記エンドエッジを含むパルス波形と前記スタートエッジを含むパルス波形を合成して新たなパルス波形とし、前記新たなパルス波形に隣接するパルス波形との間で同様の処理を行うことによって前記二値化信号を前記ノイズデータと前記摺面幅データに分類し、前記摺面幅データに分類された前記二値化信号に基づいて前記トロリ線の外形を求めることにある。これは、前記トロリ線測定方法の第2の特徴に記載に対応したトロリ線測定装置の発明である。
【0012】
本発明に係るトロリ線測定装置の第3の特徴は、前記第2の特徴に記載のトロリ線測定装置において、前記演算手段が、前記エンドエッジを含むパルス波形の幅がトロリ線として認識可能な値以下ある場合は、前記エンドエッジを含むパルス波形を前記摺面幅データとし、前記エンドエッジを含むパルス波形の幅がトロリ線として認識可能な値よりも大きい場合は、前記エンドエッジを含むパルス波形を前記ノイズデータとすることにある。これは、前記トロリ線測定方法の第3の特徴に記載に対応したトロリ線測定装置の発明である。
【0013】
本発明に係るトロリ線測定装置の第4の特徴は、前記第2又は第3の特徴に記載のトロリ線測定装置において、前記演算手段が、今回検出された摺面幅データと前回検出された摺面幅データとの偏位を比較し、前回の摺面幅データの偏位に最も近いものをトロリ線の外形とすることにある。これは、前記トロリ線測定方法の第4の特徴に記載に対応したトロリ線測定装置の発明である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、トロリ線以外の構造物の影響を無くしトロリ線の摩耗量や偏位量を正確に測定することのできるトロリ線測定方法及び装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係るトロリ線測定装置の概略構成を示す図である。
【図2】多眼式トロリ線摩耗・偏位検出装置の検出部上部の天板、絶縁碍子及び舟体を取り外してその内部構造を示す図である。
【図3】エッジ検出回路が実行するエッジ検出方法の概要を示す図である。
【図4】エッジ検出回路が実行するエッジ検出方法におけるノイズ除去機能の概要を示す図である。
【図5】本発明に係る多眼式トロリ線摩耗・偏位検出装置を搭載する架線検測車の概略構成を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る多眼式トロリ線摩耗・偏位検出装置が架線検測車屋根上の測定用特殊パンタグラフ19に取り付けられた状態を示す図である。
【図7】図1、図2及び図5の摩耗・偏位検出処理部が行うトロリ線の摺面幅データ算出処理の一例を示す図である。
【図8】図7のエッジ検出処理の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基いて説明する。図1は、本発明に係るトロリ線測定装置の概略構成を示す図である。この実施の形態では、多眼式トロリ線摩耗・偏位検出装置からなるトロリ線測定装置について説明する。多眼式トロリ線摩耗・偏位検出装置は、検出部1と受光信号処理部12と測定装置18とから構成される。検出部1は、投光ユニット2と、反射ミラー3と、結像レンズ4と、受光ユニット5とからなる。受光信号処理部12は、摩耗・偏位検出処理部13と演算装置17とからなる。
【0017】
投光ユニット2は、赤外光の範囲にある特定の波長の単色の投光光L1をトロリ線7に照射する。トロリ線7に照射された光のうち、トロリ線7の下端部である摺動面からの反射光L2は反射ミラー3によって反射され、受光ユニット5に導かれる。反射ミラー3で反射した反射光L2は、結像レンズ4によって結像され、受光ユニット5に受光される。投光ユニット2の投光光である単色の投光光L1は、波長λが例えば850[nm]である。受光ユニット5は、CCDラインセンサからなる受光器であり、CCDの光感度特性の全光波長領域で反射光L2を受光する。その全光波長領域は、通常、300〜1000[nm]の範囲でゆるやかな山型のピーク特性を持ち、可視光領域をカバーし、赤外光領域に達する。
【0018】
受光信号処理部12は、摩耗・偏位検出処理部13と、演算装置17とから構成される。摩耗・偏位検出処理部13は、アンプ回路14と、二値化回路15、エッジ検出回路16から構成される。摩耗・偏位検出処理部13のアンプ回路14は、受光ユニット5から出力される映像信号を増幅して、二値化回路15に出力する。二値化回路15は、増幅された映像信号を所定の閾値に基づいて二値化する。エッジ検出回路16は、二値化された映像信号のパルス波形の立ち下がりエッジ部分と立ち上がりエッジ部分を検出し、両エッジ間の距離に基づいてノイズ信号とトロリ線信号とを区別(検出)して演算装置17に送出する。演算装置17は、エッジ検出回路16によって検出されたノイズ信号とトロリ線信号をトロリ線偏位追随処理にフィードバックすることでトロリ線摺面幅を算出し、測定装置18に出力する。測定装置18は、演算装置17からのトロリ線摺面幅に基づいてトロリ線摩耗量(残存径)を算出する。
【0019】
図2は、多眼式トロリ線摩耗・偏位検出装置の検出部上部の天板、絶縁碍子及び舟体を取り外してその内部構造を示す図である。投光ユニット2は、図2に示すように、レールの進行方向に対して横断する方向(紙面の横方向)に配列された赤外領域の単色の投光光を出射するn個の光源群(LED発光器)2a〜2nからなり、これらの光源群2a〜2nによってスリット状の投光光L1を断続的に生成して、上空のトロリ線7に向かって投光する。投光ユニット2の横断方向における幅は約700[mm]であり、これはトロリ線7への投光光L1がトロリ線7の偏位範囲をカバーすることのできる値である。投光ユニット2の各光源群2a〜2nから投光された光は、トロリ線7(図6では図示せず)に向かって照射される。
【0020】
多眼式トロリ線摩耗・偏位検出装置の検出部には、トロリ線7から反射された反射光L2を受光ユニット5へ導くための反射ミラー3a〜3dが設置されている。反射ミラー3a〜3dは、光源群2a〜2nのように、トロリ線7の横断方向に設置されている。また、これと同様に結像レンズ4a〜4d、受光ユニット5のラインセンサカメラ(受光器)5a〜5dがトロリ線7の横断方向に沿って設置されている。受光ユニット5は、結像レンズ4a〜4dとともに内蔵されたCCDラインセンサを有するラインセンサカメラ(受光器)5a〜5dから構成される。各受光器5a〜5dにおけるCCDラインセンサの配列ライン方向は、レールの進行方向に対して横断する方向(紙面に横方向)になっている。
【0021】
トロリ線7からの反射光L2は、トロリ線7の偏位位置によって反射ミラー3a〜3dのいずれかに受光する。例えば、トロリ線の偏位位置が反射ミラー3bに近ければ、トロリ線7からの反射光L2は反射ミラー3bに受光され、反射ミラー3bによって反射された光はレンズ4bを通り、ラインセンサカメラ5bに受光される。このように、トロリ線7の偏位位置によってトロリ線7からの反射光L2の光路が変わるため、レールの進行方向に対して横断する方向にLED発光器、反射ミラー、結像レンズ、ラインセンサカメラが設置されている。また、ラインセンサカメラは、一つのセンサが約140[mm]の偏位方向の測定幅をもち、互いにオーバーラップして測定不可能な点がないように設置されている。
【0022】
投光ユニット2の各光源群2a〜2nからの投光光L1は、昼間の太陽光の赤外領域の光強度より強い反射光を、トロリ線7の摺面7bに発生させるものである。通常、昼間の太陽光の赤外領域の光強度は大きくないので、トロリ線7と投光ユニット2の距離を1m〜1.5m程度とすれば、1W程度の比較的小さい出力の単色光LEDを用いることで可能になる。従って、このような光源群をレール(トロリ線)横断方向に配列しても多眼式トロリ線摩耗・偏位検出装置の占有面積はさほど大きくはならない。
【0023】
投光ユニット2がトロリ線7へ投光光L1を照射することによって、投光光L1の一部はトロリ線7の摺面7bで反射する。受光ユニット5はトロリ線7、剛体8又はイヤー9からの反射光L2を受光する。受光した信号には、トロリ線7の摺面と偏位に関する信号、及び剛体8やイヤー9などのノイズ信号を含んでおり、そのまま受光信号処理部12の摩耗・偏位検出処理部13へ送出される。摩耗・偏位検出処理部13のアンプ回路14は、受光ユニット5からの検出信号を増幅し、それを二値化回路15へ送出する。
【0024】
二値化回路15は、二値化判定レベル(信号を二値化するための閾値)に基づいて検出された信号を二値化する。即ち、二値化回路15は、二値化判定レベル以上の信号は“1”とし、二値化判定レベルより下の信号は“0”として、検出信号を二値化する。二値化された検出信号は複数のパルス波形として、エッジ検出回路16内のエッジ検出メモリに送出され、そこに一時的に記憶される。エッジ検出回路16は、エッジ検出メモリに記憶されている二値化検出信号(パルス波形群)に基づいてリアルタイムにそのパルス波形の立ち下がりエッジ部分と次のパルス波形の立ち上がりエッジ部分を検出し、エッジ部分の距離及びトロリ線直径に基づいてノイズとトロリ線摺面7bの信号とを判別する。
【0025】
トロリ線データがエッジ検出回路16に入力された時、トロリ線の摺面幅は下記の式(1)によって算出される。
摺面幅データ=(二値化判定END)−(二値化判定START)…(1)
しかし、この算出式が適用可能なのは、検出信号にノイズなどが混入していない場合である。通常はトロリ線の黒化箇所等の影響で、摩耗波形が乱れ摺面幅データが分割されて入力されてくることが多い。
【0026】
図3は、エッジ検出回路が実行するエッジ検出方法の概要を示す図である。図3に示すように、トロリ線7の摺面7bから反射した光は、受光ユニット5のCCDラインセンサによってCCD映像波形信号(検出信号)に変換され、二値化回路15に取り込まれる。CCD映像波形信号において、縦軸は明るさ(受光レベル)を示し、横軸はCCDラインセンサが配列されるライン方向(レール(トロリ線)の横断方向)を示す。図3のCCD映像波形信号に示すようなトロリ線7の検出信号が二値化回路15に入力した場合、その二値化信号は図のように3個のパルス波形群として認識される。
【0027】
エッジ検出回路16は、この二値化信号に基づいて、それぞれのパルス波形の立ち上がりエッジ部分と立ち下がりエッジ部分を、二値化判定1START、二値化判定1END、二値化判定2START、二値化判定2END、二値化判定3START、二値化判定3ENDとして検出する。演算装置17は、最初の二値化判定1STARTから立ち下がりエッジ部分(二値化判定1END、二値化判定2END、二値化判定3END)までの距離を測定し、その距離がトロリ線直径内に存在する場合は、それらの立ち下がりエッジ部分の信号は同一トロリ線における検出信号とみなす。従って、図3のCCD映像波形信号の場合、トロリ線摺面幅データは次の式(2)のようにして求められる。
摺面幅データ=(二値化判定3END−二値化判定1START)<トロリ線直径…(2)
多眼式トロリ線摩耗・偏位検出装置は、このようにして得られた摺面幅データを1チャネルの摩耗偏位データとし、最大8チャネル分の検出を行う。
【0028】
図4は、エッジ検出回路が実行するエッジ検出方法におけるノイズ除去機能の概要を示す図である。図3に示すように、二値化信号のエッジとトロリ線の直径に基づいて摺面幅を算出することができるのは、剛体8やイヤー9などからの反射光、すなわちノイズ信号が検出信号に混入していない場合である。しかしながら、実際の検出信号には、図4の二値化信号に示すようにトロリ線を示すデータの近傍にノイズ(剛体やイヤーなどからの反射光)を示す二値化信号B0,B4,B5,B9がデータとして混入している。そのため、図4に示すような二値化信号を上述の式(1),(2)に基づいてトロリ線摺面幅データを得たとしても、それは図4に示すような誤検出摺面幅データとなり、本来検出されるべき摺面幅データのような正確なトロリ線直径を検出することはできない。
【0029】
そこで、この実施の形態では、ノイズ対策として二値化信号の立ち下がりエッジ部分から次の立ち上がりエッジ部分までの距離、すなわちエッジ間の離が2.0[mm]以上離れている場合には、別のトロリ線又はノイズ信号と認識することによって、ノイズによる誤検出を低減させるようにした。なお、この2.0[mm]という値は一例であり、検出状態に応じて適宜変更することが可能である。
【0030】
図4の誤検出摺面幅データにおいて、二値化信号B0の立ち下がりエッジ部分から二値化信号B2の立ち下がりエッジ部分までの距離はトロリ線直径以内であるが、二値化信号B0の立ち下がりエッジ部分から二値化信号B1の立ち上がりエッジ部分までの距離ES01は、2.0[mm]以上あるので、別のトロリ線と判定される。同様にして、二値化信号B3の立ち下がりエッジ部分から二値化信号B4の立ち上がりエッジ部分までの距離ES34、二値化信号B5の立ち下がりエッジ部分から二値化信号B6の立ち上がりエッジ部分までの距離ES56、二値化信号B8の立ち下がりエッジ部分から二値化信号B9の立ち上がりエッジ部分までの距離ES89は、全て2.0[mm]以上であるので別のトロリ線と判定される。上述の判定の結果、図4に示すような本来検出されるべき摺面幅データが検出され、正確なトロリ線直径を検出することが可能となる。
【0031】
演算装置17は、エッジ検出回路16によって検出された摺面幅データをトロリ線偏位追随処理にフィードバックすることにより、今回検出された摺面幅データと前回検出された摺面幅データとの偏位を比較し、前回の摺面幅データの偏位に最も近いものを偏位データ、すなわちトロリ線摺面幅データとして出力する。演算装置17は、検出されたトロリ線摺面幅データをデジタル値に変換して測定装置18へ出力する。測定装置18は、内部にMPU、メモリ等を有していて、MPUによりメモリに記憶された所定の処理プログラムを実行し、演算装置17から入力したトロリ線摺面幅データのデジタル値に基づいてトロリ線摩耗量(残存径)を算出し、それを測定値として出力する。測定装置18は、後述する電柱位置検出器及び距離パルス発生器によって検出された信号を基に条件化し、測定値をその条件に基づいてデータ処理を行い、測定データとして外部に出力する。
【0032】
図5は、本発明に係る多眼式トロリ線摩耗・偏位検出装置を搭載する架線検測車の概略構成を示す図である。図6は、本発明の実施の形態に係る多眼式トロリ線摩耗・偏位検出装置が架線検測車屋根上の測定用特殊パンタグラフ19に取り付けられた状態を示す図である。架線検測車23は、屋根上に測定用特殊パンタグラフ19と高さ検出器21と電柱位置検出器20とを搭載し、車輪の軸箱には距離パルス発生器22を備えている。測定用特殊パンタグラフ19は架線検測車23の屋根上に搭載されている。多眼式トロリ線摩耗・偏位検出装置の検出部1は、測定用特殊パンタグラフ19に組み込まれている。検出部1の上側には絶縁碍子11と舟体10が設置されている。測定用特殊パンタグラフ19の主軸には、高さ検出器21が組み込まれている。
【0033】
高さ検出器21は、測定用特殊パンタグラフ19の主軸に連結されたポテンショメータから構成される。このポテンショメータの両端に直流電圧を与え、測定用特殊パンタグラフ19がトロリ線の高さの変化に応じた上下運動を行うことにより主軸が回転するので、この主軸の回転角度に応じた電気信号をポテンショメータから取り出し、それを高さ信号として利用する。なお、この種のポテンションメータを用いて回動アームの角度すなわちトロリ線の高さを検出する高さ検出器については、特開平7−120228号等に記載されているので、ここではその説明は省略する。
【0034】
電柱位置検出器20は、限定距離反射型ビームセンサで支持物(ビーム等)を検出する機器である。電柱位置検出用限定距離反射型ビームセンサは、赤外LED光を投光部から信号光として照射し、検出物体(支持物等)によって反射する光を受光部で検出し電気信号に変換後出力する。電柱位置検出器20は検測車23の左右に各1台設置されており、処理回路では、いずれか一方でも検出されれば支持物有りとみなす(特開平8−210810参照)。
【0035】
距離パルス発生器22は、車輪の軸箱に取り付けられているものであり、車軸の回転に応じて回転するスリット板のスリット間にセンサ(光電センサ又は磁気センサ)を有し、車軸の回転数に対応した電気パルスを出力する。距離パルス発生器22から出力される電気パルスは、基本単位パルス(距離パルス)として、演算装置17に取り込まれる。演算装置17はこの基本単位パルス(距離パルス)の間隔で各検出器から得た信号を処理し、測定装置18へ出力する。測定装置18は、モニター等の外部媒体へ距離パルスの間隔で測定データを出力する。すなわち、測定装置18は、電柱位置検出器20によって検出された電柱の信号を電柱区間としてデータ処理し、距離パルス発生器22から入力した基本単位パルス(距離パルス)と電柱区間データとを測定条件データとして、各検出器から出力された信号を測定条件データに基づいて測定データとして出力する。
【0036】
投光ユニット2は、単色発光の多数のLED発光器2a〜2nをレール24の横断方向(トロリ線7の横断方向)に配列している。投光ユニット2の横断方向における幅は約700[mm]であり、これはトロリ線7への投光光L1がトロリ線7の偏位範囲をカバーすることのできる値である。投光ユニット2の各LED発光器2a〜2nから投光された光はトロリ線7(図6では図示せず)に向かって照射される。多眼式トロリ線摩耗・偏位検出装置6は、トロリ線7から反射された反射光L2を受光ユニット5へ導くための反射ミラー3が設置されている。反射ミラー3は、LED発光器2a,2b,…2nのように、レール23の横断方向に反射ミラー3a,3b,3c,3dが設置され、これと同様に結像レンズ4は結像レンズ4a,4b,4c,4d,受光ユニット5はラインセンサカメラ5a,5b,5c,5dがレール23の横断方向に設置されている。トロリ線7からの反射光L2は、トロリ線の偏位位置によって反射ミラー3a,3b,3c,3dのいずれかに受光する。例えば、トロリ線の偏位位置が反射ミラー3bに近ければ反射ミラー3bが受光し、反射ミラー3bより反射した光はレンズ4cを通り、ラインセンサカメラ5bに受光する。このように、トロリ線の偏位位置によってトロリ線の反射光L2の光路が変わるため、レール23の横断方向にLED発光器、反射ミラー、結像レンズ、ラインセンサカメラが設置されている。また、ラインセンサカメラは、一つのセンサが140[mm]の偏位方向の測定幅をもち、互いにオーバーラップして測定不可能な点がないように設置されている。
【0037】
図7は、図1、図2及び図5の摩耗・偏位検出処理部が行うトロリ線の摺面幅データ算出処理の一例を示す図である。
ステップS71では、エッジ検出回路16がエッジ検出メモリに記憶されているn個のパルスデータに基づいて、それぞれのパルスデータの立ち上がりエッジ部分と立ち下がりエッジ部分の位置を検出する。
図8は、図7のエッジ検出処理の一例を示す図である。
ステップS81では、エッジ検出メモリに記憶されているパルスデータを順次読み込む。
【0038】
ステップS82では、読み込まれたパルスデータは立ち上がりエッジ部分か否かを判定し、yesの場合は次のステップS83に進み、noの場合はステップS84にジャンプする。
ステップS83では、パルスデータの立ち上がりエッジ部分の位置をスタートエッジとして検出する。
ステップS84では、読み込まれたパルスデータは立ち下がりエッジ部分か否かを判定し、yesの場合は次のステップS85に進み、noの場合はステップS86にジャンプする。
ステップS85では、パルスデータの立ち下がりエッジ部分の位置をエンドエッジとして検出する。
【0039】
ステップS86では、エッジ検出メモリに格納されている全てのパルスデータ(n個)を読み込んだか否かを判定し、yesの場合は次のステップS87に進み、noの場合はステップS81にリターンする。
ステップS87では、エッジ検出メモリに格納されている全てのパルスデータのエッジ検出が終了したので、それを各パルスデータ毎に格納して、図7のステップS72に進む。上述の処理によって、図4のようなノイズ信号B0,B4,B5,B9を含む二値化信号が抽出される。
【0040】
ステップS72では、各パルスデータのスタートエッジ及びエンドエッジを上述の式(1)に代入して摺面幅データを算出する。
ステップS73では、エッジ検出メモリに格納されている全てのパルスデータ(n個)に対して摺面幅データを算出したか否かを判定し、yesの場合は次のステップS74に進み、noの場合はステップS72にリターンし、全てのパルスデータ(n個)に対して摺面幅データの算出処理を行う。図4に示すようにトロリ線を示すデータの近傍にノイズ(剛体やイヤーなどからの反射光)を示す二値化信号B0,B4,B5,B9がデータとして混入しているので、これらのノイズ信号を除去する必要がある。
【0041】
ステップS74では、パルスデータのエンドエッジから次のパルスデータのスタートエッジまでの距離(パルス間距離)が所定値X[mm]以上であるか否かの判定を行い、noの場合はステップS75に進み、yesの場合はステップS78に進み、なお、この実施の形態では、X=2[mm]とする。
ステップS75では、前のステップS74でパルスデータのパルス間距離が所定値X[mm]よりも小さいと判定されたので、両パルスデータを合成したものを新たな摺面幅データとして登録し、次の判定処理に使用する。
ステップS76では、パルスデータの摺面幅データがトロリ線データとして認識可能な値Y[mm]以下であるか否かの判定を行い、yesの場合はステップS77に進み、noの場合はステップS78に進む。なお、この実施の形態では、Yは新品のトロリ線直径として、Y=10[mm]とする。
ステップS77では、ステップS74でパルスデータのパルス間距離が所定値X[mm]以上であると判定され、ステップS76で摺面幅データが所定値Y[mm]以下であると判定されたので、そのパルスデータをトロリ線データとして登録する。
ステップS78では、ステップS74でパルスデータのパルス間距離が所定値X[mm]以上であると判定されたが、ステップS76で摺面幅データが所定値Y[mm]より大きいと判定されたので、そのパルスデータをノイズデータとして登録する。
ステップS79では、全てのパルスデータ(n個)に対してステップS74〜ステップS78の処理を行ったか否かを判定し、noの場合はステップS74にリターンし、全てのパルスデータ(n個)をトロリ線データ又はノイズデータとして登録する処理を繰り返し、yesの場合は摺面幅データ算出処理を終了する。上述の処理によって、図4のような本来検出されるべき摺面幅データの中からノイズ信号B0,B4,B5,B9を含む摺面幅データは除去され、トロリ線の直径を示す摺面幅データのみが抽出される。
【0042】
上述の実施の形態によれば、投光ユニットより投光光をトロリ線の摺面へ照射し、トロリ線からの反射光を受光ユニットで受光したときに、剛体やイヤーからのノイズの影響無くトロリ線摩耗偏位を検測できる。また、丸型トロリ線剛体電車線のトロリ線偏位位置及び摺面幅がきまることによりノイズの影響による誤検出が少なくなり、剛体トロリ線の検測の信頼性が向上される。これによって、丸型トロリ線剛体電車線のトロリ線摩耗偏位検測を正確に行うことができる。
【符号の説明】
【0043】
1…検出部、
10…舟体、
11…絶縁碍子、
12…受光信号処理部、
13…摩耗・偏位検出処理部、
14…アンプ回路、
15…二値化回路、
16…エッジ検出回路、
17…演算装置、
18…測定装置、
19…測定用特殊パンタグラフ、
2…投光ユニット、
20…電柱位置検出器、
21…高さ検出器、
22…距離パルス発生器、
23…レール、
23…架線検測車、
23…検測車、
24…レール、
2a〜2n…光源群(LED発光器)、
3,3a,3b,3c,3d…反射ミラー、
4,4a,4b,4c,4d…結像レンズ、
5…受光ユニット、
5a,5b,5c,5d…受光器(ラインセンサカメラ)、
6…多眼式トロリ線摩耗・偏位検出装置、
7…トロリ線、
7b…摺面、
8…剛体、
9…イヤー、
L1…投光光、
L2…反射光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トロリ線に向けて光を投光するステップと、
前記トロリ線に向けて投光した光の反射光を受光し、その受光に対応した受光信号を出力するステップと、
前記受光信号を所定の閾値で二値化し、その二値化信号を出力するステップと、
前記二値化信号を構成するパルス波形の隣接するもののエンドエッジとスタートエッジとの間のパルス間距離に基づいて、前記二値化信号から前記トロリ線の外形を求めるステップと
を備えたことを特徴とするトロリ線測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載のトロリ線測定方法において、前記二値化信号を構成するパルス波形の隣接するもののエンドエッジとスタートエッジとの間のパルス間距離が所定値以上ある場合は、前記エンドエッジを含むパルス波形の幅に基づいて摺面幅データ又はノイズデータとし、前記パルス間距離が前記所定値よりも小さい場合は、前記エンドエッジを含むパルス波形と前記スタートエッジを含むパルス波形を合成して新たなパルス波形とし、前記新たなパルス波形に隣接するパルス波形との間で同様の処理を行うことによって前記二値化信号を前記ノイズデータと前記摺面幅データに分類し、前記摺面幅データに分類された前記二値化信号に基づいて前記トロリ線の外形を求めることを特徴とするトロリ線測定方法。
【請求項3】
請求項2に記載のトロリ線測定方法において、前記エンドエッジを含むパルス波形の幅がトロリ線として認識可能な値以下ある場合は、前記エンドエッジを含むパルス波形を前記摺面幅データとし、前記エンドエッジを含むパルス波形の幅がトロリ線として認識可能な値よりも大きい場合は、前記エンドエッジを含むパルス波形を前記ノイズデータとすることを特徴とするトロリ線測定方法。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のトロリ線測定方法において、今回検出された摺面幅データと前回検出された摺面幅データとの偏位を比較し、前回の摺面幅データの偏位に最も近いものをトロリ線の外形とすることを特徴とするトロリ線測定方法。
【請求項5】
トロリ線に向けて光を投光する投光手段と、
前記投光手段が前記トロリ線に向けて投光した光の反射光を受光し、その受光に対応した信号を出力する受光手段と、
前記受光手段からの信号を所定の閾値で二値化し、その二値化信号を出力する二値化手段と、
前記二値化手段からの前記二値化信号を構成するパルス波形の隣接するもののエンドエッジとスタートエッジとの間のパルス間距離に基づいて、前記二値化信号から前記トロリ線の外形を求める演算手段と
を備えたことを特徴とするトロリ線測定装置
【請求項6】
請求項5に記載のトロリ線測定装置において、前記演算手段が、前記二値化信号を構成するパルス波形の隣接するもののエンドエッジとスタートエッジとの間のパルス間距離が所定値以上ある場合は、前記エンドエッジを含むパルス波形の幅に基づいて摺面幅データ又はノイズデータとし、前記パルス間距離が前記所定値よりも小さい場合は、前記エンドエッジを含むパルス波形と前記スタートエッジを含むパルス波形を合成して新たなパルス波形とし、前記新たなパルス波形に隣接するパルス波形との間で同様の処理を行うことによって前記二値化信号を前記ノイズデータと前記摺面幅データに分類し、前記摺面幅データに分類された前記二値化信号に基づいて前記トロリ線の外形を求めることを特徴とするトロリ線測定装置。
【請求項7】
請求項6に記載のトロリ線測定装置において、前記演算手段が、前記エンドエッジを含むパルス波形の幅がトロリ線として認識可能な値以下ある場合は、前記エンドエッジを含むパルス波形を前記摺面幅データとし、前記エンドエッジを含むパルス波形の幅がトロリ線として認識可能な値よりも大きい場合は、前記エンドエッジを含むパルス波形を前記ノイズデータとすることを特徴とするトロリ線測定装置。
【請求項8】
請求項6又は7に記載のトロリ線測定装置において、前記演算手段が、今回検出された摺面幅データと前回検出された摺面幅データとの偏位を比較し、前回の摺面幅データの偏位に最も近いものをトロリ線の外形とすることを特徴とするトロリ線測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−215414(P2012−215414A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79514(P2011−79514)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】