説明

ナノカーボンエミッタ及びその製造方法並びにそれを用いた面発光素子

【課題】電子放出能及びその均一性、安定性に優れたナノカーボンエミッタと、簡便で制御性が高いプロセスで作製可能なナノカーボンエミッタの作製方法と、このナノカーボンエミッタを適用し、高輝度、高均一、高信頼性を有する面発光素子とを提供する。
【解決手段】基体2と、基体2上に設けた導電層3と、ダイヤモンド微粒子5に直接又は金属若しくは金属化合物を介してナノ炭素材料6を形成してなるナノ炭素材料複合体4と、を含み、ナノ炭素材料複合体4を、10μm以上100μm以下の厚みで、導電層3を介して基体2上に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノカーボンエミッタとその製造方法、並びにこのナノカーボンエミッタを用いた面発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子ディスプレイデバイスとして陰極線管が広く用いられている。陰極線管は、電子銃のカソードから熱電子を放出させるためにエネルギー消費量が大きく、また、構造的に大きな容積を必要とするなどの課題があった。このため、熱電子ではなく冷電子を利用できるようにして、全体としてエネルギー消費量を低減させ、しかも、デバイス自体を小形化した平面型のディスプレイが求められており、更に近年では、そのような平面型ディスプレイに高速応答性と高解像度とを実現することも強く求められている。
【0003】
このような冷電子を利用する平面型ディスプレイの構造としては、高真空の平板セル中に、微小な電子放出素子をアレイ状に配したものが有望視されている。そのために使用する電子放出素子として、電界放射現象を利用した電界放射型の電子放出素子が注目されている。この電界放射型の電子放出素子は、物質に印加する電界の強度を上げると、その強度に応じて物質表面のエネルギー障壁の幅が次第に狭まり、電界強度が10V/cm以上の強電界となると、物質中の電子がトンネル効果によりそのエネルギー障壁を突破できるようになり、そのため物質から電子が放出されるという現象を利用している。この場合、電場がポアッソンの方程式に従うために、電子を放出する部材、即ちエミッタに電界が集中する部分を形成すると、比較的低い引き出し電圧で効率的に冷電子の放出を行うことができる。
【0004】
図8は従来の電界放射型の電子放出素子30の構造を模式的に示す斜視図である。なお電子放出素子30の図面上で手前側は一部切り欠いて断面としている。従来、電界放射型の電子放出素子30は、一般的には、例えば図8に示すように、先端が尖った円錐形を示す。この素子においては、絶縁性基板31上に導電層32、絶縁層33及びゲート電極34が順次積層されており、その絶縁層33及びゲート電極34には、導電層32に達する開口部36が形成されている。そして、その開口部36内の導電層32上には、少なくともゲート電極34に接触しないように、点状突起を有する円錐形状の電子放出部(エミッタ)35が形成されている。
【0005】
上記のエミッタに対し近年、エミッタ材料としてナノカーボン材料が注目されている。ナノカーボン材料の中で最も代表的なカーボンナノチューブは、炭素原子が規則的に配列したグラフェンシートを丸めた中空の円筒であり、その外径はnmオーダーで、長さは通常0.5〜数10μmの非常にアスペクト比の高い微小な物質である。そのため、先端部分には電界が集中しやすく高い電子放出能が期待される。また、カーボンナノチューブは、化学的、物理的安定性が高いという特徴を有するため、動作真空中の残留ガスの吸着や反応が生じ難く、イオン衝撃や電子放出に伴う発熱に対して損傷を受け難い特性を有している。
【0006】
このエミッタ材料として用いられる、カーボンナノチューブ等のナノ炭素材料の合成方法として、アーク放電法、レーザーアブレーション法、プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法等が知られている(非特許文献3,4参照)。これらの方法のうち、アーク放電法、レーザーアブレーション法やプラズマ化学気相成長法は非平衡反応であるため、非晶質成分を生成しやすいことから、一般的に生成するカーボンナノチューブの収率が低く、また、生成したカーボンナノチューブの直径や種類が一様でないことが知られている。
【0007】
カーボンナノチューブをエミッタとして利用する場合は、ペースト化し印刷法により基板上に塗布して用いられる場合が多い。例えば、特許文献1では、スクリーン印刷によるエミッタ形成法が開示されている。まず、カソード電極を基板上に所定ピッチでストライプ状に形成し、さらにカーボンナノチューブを含んだペーストをスクリーン印刷によりカソード電極上に四角形や円形などの形状に孤立した形でカソード電極と同じピッチに形成する。次いで、カーボンナノチューブを含んだ樹脂層の間に絶縁層をスクリーン印刷し、その後大気雰囲気中で焼成する。これにより、カーボンナノチューブを含む樹脂層の樹脂成分が分解し、カーボンナノチューブが露出して電子放出部が形成される。最後に、グリッド電極を絶縁層上に形成してエミッタを作製する。
【0008】
上述したようなエミッタの作製に用いるペーストは、一般的には、カーボンナノチューブに、溶剤、分散剤、接着剤としてのガラスフリット、フィラーなどを加え、これらの分布状態が均一になるように混合・分散する。混合後に濾過を行い、溶剤と樹脂とからなるビヒクル中に混ぜ込みペースト化する。このペーストをよく混合して分散状態を高めた後に濾過してカーボンナノチューブペーストとして完成する。上記プロセスで得られたカーボンナノチューブペーストを基板上に印刷し、乾燥・焼成によりビヒクルを酸化分解させることでカーボンナノチューブ膜が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−272517号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】C. A. Spindt : J. Appl. Phys., 39, 3504 (1968)
【非特許文献2】K. Betsui: Tech. Dig. IVMC., (1991) p26
【非特許文献3】独立行政法人産業技術研究所、ナノカーボン研究センター編「ナノカーボン料」、丸善株式会社、平成16年5月25日発行、p.187−191
【非特許文献4】独立行政法人産業技術研究所、ナノカーボン研究センター編「ナノカーボン料」、丸善株式会社、平成16年5月25日発行、p.191−192
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、図8に示す円錐形エミッタや半導体集積回路製造技術を応用したシリコンエミッタでは、いずれもエミッタ材料である金属、シリコン又はそれらの化合物は表面に酸化物を形成するため、電子放出能が低く、電子放出部であるエミッタ部への電界集中が必要不可欠であった。そのため、それらのエミッタ材料表面から電子を放出させるためには、電子放出部の曲率半径をできるだけ小さくする必要があり、電子放出部となるエミッタに極微細加工を施し、電子放出部の先端形状を円錐形にして、その先端の曲率半径を数nm以下とすることが必要であった。
【0012】
さらに、ディスプレイ用等の面電子源として利用するためには、上記のような極微細加工を施して得られる円錐形エミッタを多数作製しアレイ上に配置する必要がある。しかしながら、超精密加工が必要であるため、構造的欠陥が生じやすく、大面積に均一に作製することは容易ではなく、歩留まりが低下するうえ、欠陥検査等も不可欠となり製造コストが高くなるという課題がある。
【0013】
また、従来のナノ炭素材料をエミッタ材料として使用するためには、黒鉛粒子や不定形炭素等のナノ炭素材料以外の炭素不純物を含んだ反応生成物中からナノ炭素材料を精製したり、又は基板上に成長したカーボンナノチューブを掻き落とすことで、必要な量のカーボンナノチューブを収集することが必要であるため、低コストで大量に、かつ所望の構造を持ったナノ炭素材料を使用した部材を製造することができない、という課題がある。
【0014】
しかも、従来のナノ炭素材料では、個々は結晶性を持ち、繊維状の形態をもつ材料は得られているが、例えばグラム単位でみた集合体は無秩序な集まりであり、かつ密度の低いパウダー状あるいはクラスター状の固体である。このようなナノ炭素材料をエミッタ材料として利用する際には、ナノ炭素材料を所望の構造に制御してかつ均一に作製することが困難であるため、ロット間でバラツキの少ないかつ面内均一性の高いエミッタを得ることができない、という課題がある。
【0015】
上記課題に鑑み、本発明の第一の目的は、電子放出能およびその均一性、安定性に優れたナノカーボンエミッタを提供することにある。また、簡便で制御性が高いプロセスで作製可能なナノカーボンエミッタの作製方法を提供することを第二の目的とする。
さらに、本発明の第三の目的は、上記ナノカーボンエミッタを適用し、高輝度、高均一、高信頼性を有する面発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記第一の目的を達成するため、本発明のナノカーボンエミッタは、基体と、基体上に設けられた導電層と、ダイヤモンド微粒子に直接又は金属若しくは金属化合物を介してナノ炭素材料が形成されてなるナノ炭素材料複合体と、を含み、ナノ炭素材料複合体が、10μm以上100μm以下の厚みで、導電層を介して基体上に設けられていることを特徴とする。
上記の構成において、ダイヤモンド微粒子は、好ましくは、1μmより小さい粒径を有する。ナノ炭素材料は、好ましくは、カーボンナノファイバーである。
【0017】
本発明の第一の構成によれば、エミッタ材料として、ダイヤモンド微粒子とナノ炭素材料とを一体化した複合体が用いられ、ダイヤモンド微粒子を核として、同オーダーの径を有する主に粒状集合体が均一に形成されているため、電子放出特性、即ち電子放出能並びに均一性、信頼性が向上する。ここで、ダイヤモンド微粒子は、ナノ炭素材料を束ねる核として機能するが、ダイヤモンドは化学的に非常に安定な物質であるため、様々なプロセスにおいても高い耐性を持つことから、実用用途における特性に悪影響を及ぼすことはない。ナノ炭素材料複合体の厚みが10μm以上100μm以下の範囲である場合には、特に適度な材料密度となり、低電圧で、かつ、安定な電子放出特性を得ることができる。
ダイヤモンド微粒子をナノダイヤモンド粒子で構成することで、ナノ炭素材料と同オーダーの粒径を持つため、ダイヤモンドとナノ炭素材料との結合を形成でき核として十分な機能を果たすと共に、核がナノサイズの微小粒子であるため、物性的にダイヤモンドの影響はなくナノ炭素材料の機能を最大限生かすことができる。
ナノ炭素材料をカーボンナノファイバーとすることにより、最も一般的なナノ炭素材料であるカーボンナノチューブと異なり、中空構造を持たず構造的に密であるため、より高性能かつ高信頼性の電子放出特性を得ることができる。
【0018】
上記第二の目的を達成するため、本発明のナノカーボンエミッタの製造方法は、基体に導電層を形成する工程と、ダイヤモンド微粒子に直接又は金属若しくは金属化合物を介してナノ炭素材料が形成されてなるナノ炭素材料複合体とバインダー材料と溶剤とを混合してなるナノカーボンペーストを、導電層上にスクリーン印刷を用いて塗布することで、導電層上にナノ炭素材料複合体を配置する工程とを含むことを特徴とする。
上記構成において、好ましくは、前記スクリーン印刷による印刷回数を1回刷り以上3回刷り以下で行う。
スクリーン印刷法によりナノ炭素材料複合体を基体上に塗布することで、均一な高さ、つまり膜厚を得ることが可能となり、安定な電子放出特性を得ることができる。また、パターン化も容易となる。
【0019】
また、上記第三の目的を達成するため、本発明の面発光素子は、本発明のナノカーボンエミッタと蛍光体が形成されたアノード電極とが対向して設けられ、ナノカーボンエミッタとアノード電極との間隙が真空に保持されてなることを特徴とする。
好ましくは、ナノカーボンエミッタが任意のパターン形状を有している。
【0020】
上記構成によれば、高性能、高歩留まりでかつロット間並びに面内バラツキのない本発明のエミッタを用いることにより、対向側に蛍光体を配した、簡便な、いわゆる2極管の真空パネルを構成することによっても、輝度が高くかつ面内バラツキのない、高品質の面発光素子を得ることができる。また、所定のパターンを有することにより、容易にインフォメーションボード等の表示器を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のナノカーボンエミッタによれば、ナノ炭素材料複合体としてダイヤモンド微粒子とナノ炭素材料とが一体化した複合体構造を持つ。この高純度で均一な組成のナノ炭素材料は制御性が高くかつ均一に合成できる材料であり、これをエミッタ材料として適用することにより、また、厚みを10μmから100μmに保つことにより、高電子放出能でかつロット間でのバラツキ並びに面内バラツキのない特性を持つ。また特に、ナノダイヤモンド粒子を核とし、ナノ炭素材料としてカーボンナノファイバーを用いることで、高性能、高信頼性のエミッタを得ることができる。
【0022】
本発明のナノカーボンエミッタの製造方法によれば、スクリーン印刷によりナノ炭素材料複合体を塗布し、特にその回数を制御することで、所定の膜厚に均一に形成することが可能となり、なおかつ、所望のパターンを形成することも容易となる。
【0023】
本発明の面発光素子は、本発明のナノカーボンエミッタを搭載しているので、簡便な2極間構造においても、輝度が高く、かつ面内バラツキもない高品質の素子が得られる。また、文字などの所望のパターンを容易に表示することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のナノカーボンエミッタの構成を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の面発光素子を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明のナノカーボンエミッタの製造方法を示す断面図である。
【図4】実施例で得られた生成物の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。
【図5】実施例で得られた生成物の透過型電子顕微鏡(TEM)像を示す図である。
【図6】実施例で得られたナノカーボンエミッタ1のSEM像であり、(A)は1回刷りの場合のSEM像を、(B)は(A)の拡大像を、(C)は3回刷りの場合のSEM像を、(D)は(C)の拡大像を示す。
【図7】実施例で作製したナノカーボンエミッタの電子放出特性を示す図である。
【図8】従来の電界放射型の電子放出素子の構造を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明のナノカーボンエミッタ1の構成を模式的に示す断面図である。
本発明のナノカーボンエミッタ1は、例えば0.1〜10(V・μm−1)の強電界により電子を放出する素子であり、基体2と、基体2上に形成された導電層3と、接着性を有する導電層3上に配設されたナノ炭素材料複合体4とからなる。即ち、ナノカーボンエミッタ1は、基体2上に形成された接着性導電層3上に、ナノ炭素材料複合体4を配して構成される。ここで、ナノ炭素材料複合体4は、ダイヤモンド微粒子5を核とし、核の周囲にナノ炭素材料6が形成されてなる。即ち、図1に示すように、核となるダイヤモンド微粒子5に直接ナノ炭素材料6が形成されてもよいし、ダイヤモンド微粒子5に金属又は酸化物をはじめとする金属化合物を介してナノ炭素材料6が形成されても良い。
【0026】
本発明のナノカーボンエミッタ1においては、電子放出部となるナノ炭素材料複合体4の厚みは、10μm以上100μm以下である。ナノ炭素材料複合体4の厚みがこの範囲であれば、適正な粒子密度となり、低電圧かつ安定な電子放出特性を得ることができる。
【0027】
また、導電層3上には、ダイヤモンド微粒子5を核として、同オーダーの径を有する粒状集合体が均一に配置されることで、電子放出特性、即ち、電子放出能及び均一性、信頼性が向上する。ダイヤモンド微粒子5はナノ炭素材料6を束ねる核として機能するが、ダイヤモンドは化学的に非常に安定な物質であるため、実用用途における特性に悪影響を及ぼさない。
ダイヤモンド微粒子5は、粒径が1μmより小さいナノ粒子とすることで、ナノ炭素材料と同オーダーの粒径を持つため、ダイヤモンドとナノ炭素材料との結合を形成し核として十分機能を果たす。また核がナノサイズの微粒子であるため、物性的にもダイヤモンドの影響はなく、ナノ炭素材料の機能を最大限生かすことができる。即ち、粒径が1μmより小さいナノサイズのダイヤモンド微粒子5を用いることで、ナノ炭素材料複合体4の核として、より小さな容積で、効率的に機能することができる。なお、ダイヤモンド微粒子5としては、市販されている研磨用のダイヤモンドパウダーを用いてもよい。
【0028】
ナノ炭素材料6は、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンナノフィラメント、カーボンナノコイル等であってもよい。特に、ナノ炭素材料6がカーボンナノファイバーである場合には、最も一般的なナノ炭素材料であるカーボンナノチューブとは異なり、中空構造を持たず構造的に密であるため、より劣化の少ない、より高性能かつ信頼性の高い電子放出特性を得ることができる。
【0029】
なお、基体2はどのような材料からなっていても良く、例えば、シリコン基板などの半導体基板、ガラス基板、セラミックス基板などが使用でき、基体2の表面が熱酸化されたシリコン基板や薄膜を積層した基板であってもよい。
導電層3は、電子を放出するナノ炭素材料複合体4に電子を供給するための電極層として作用する。導電層3は、金属などの金属薄膜や銀ペーストなどの厚膜を用いたり、表裏面に接着剤が塗布されたカーボンテープなどを用いることができる。
導電層3上に図示しない導電性接着層を設け、その導電性接着層の上にナノ炭素材料複合体4を設けるようにしてもよい。
【0030】
図2は本発明の面発光素子20を模式的に示す図である。本発明の面発光素子20は、図2に示すように、本発明に係るナノカーボンエミッタ1と蛍光体23が形成されたアノード電極21とを対向させ、ナノカーボンエミッタ1とアノード電極21との電極間隔を保つためのスペーサー22を介在させ、ナノカーボンエミッタ1とアノード電極21とスペーサー22とで囲まれた間隙が真空に保持されてなる。前述したようにナノカーボンエミッタ1は、基体2上に形成された導電層3又は導電性接着層(図示せず)上にナノ炭素材料複合体4を固着してなるので、アノード電極21は、ナノ炭素材料複合体4の上方に設けられる。ナノカーボンエミッタ1の導電層3とアノード電極21との間に電圧を印加することで、強電界によりナノ炭素材料複合体4のナノ炭素材料から電子が放出され、この放出された電子が蛍光体23に到達することで蛍光を発する。
【0031】
次に、本発明のナノカーボンエミッタ1の製造方法について説明する。
図3は、本発明のナノカーボンエミッタ1の製造方法を示す断面図である。
先ず、図3(a)に示す基体2上に、図3(b)に示すように導電層3を成膜する。導電層3が薄膜の場合には、蒸着、スパッタ、イオンプレーティングなどの方法で基体2上に成膜する。その際、必要に応じてリソグラフィー法などを用いることにより所定形状にパターニングする工程を挿入してもよい。一方、導電層3が厚膜の場合には、印刷法などで基体2上に塗布する。所定のパターン形状となるよう同時に成形してもよい。
【0032】
次に、図3(b)に示す導電層3上に、エミッタ材料となるナノ炭素材料複合体4を配置する(図3(c)参照)。このナノ炭素材料複合体4は、スクリーン印刷法により、導電層3上に塗布することができる。このとき、ナノ炭素材料複合体4は均一で分散性が良いため、スクリーン印刷法で、面内均一性よく、導電層3上に塗布することができる。
【0033】
なお、図1に示すナノカーボンエミッタ1の製造方法では、スクリーン印刷を1回から3回刷りの範囲で行うことができる。この範囲で印刷することにより、均一な厚みでナノ炭素材料複合体4を塗布することができ、かつ、均一な膜厚と適切な粒子密度で形成することができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例に基いて本発明をさらに詳細に説明する。
粒径が5〜30nmのダイヤモンド微粒子を担体として、それらに触媒成分としてのニッケルを金属として5wt%含む触媒0.1gを小型の固定床流通系反応管に充填し、触媒層を575℃で一定に保ち、原料ガスとしてメタンを20cm/分の流速で60分間流して反応を行った。反応終了後に生成物を回収した。回収した生成物を走査型電子顕微鏡(SEM)及び透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した。
【0035】
次に、基体2としてのガラス基板上に導電層3としてのクロム層をスパッタ法により100nm厚で成膜した。続いて、回収した生成物を粘度40cPのエチルセルロースをカルビトール、具体的にはブチルカルビトールに溶かしてバインダーとし、このバインダーに上記反応で得た生成物を入れて十分混練し、ペースト化し、スクリーン印刷により基板上に印刷形成した。スクリーン印刷の際、200メッシュのスクリーン印刷機を用い、1回刷りと3回刷りのものをそれぞれ作製した。印刷後、大気中で420℃により1時間熱処理し、バインダーを除去し、カーボンナノエミッタ1を作製した。
【0036】
この作製したナノカーボンエミッタ1を高真空チャンバー中に設置し、ナノカーボンエミッタ1に対向するようにアノード電極21として透明電極(インジュウム・スズ・酸化膜)付きガラス基板を配置し、導電層3と透明電極との間に電圧を印加して、その間に流れる電流を測定して電子放出特性を求めた。なお、素子面積は3mm×3mm、電極間隔(ギャップ)は0.3mmである。
【0037】
図4は実施例で得られた生成物の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。図4から明らかなように、生成物は直径が20〜50nmの繊維状のカーボンナノファイバーであることが判明した。
【0038】
図5は、実施例で得られた生成物の透過型電子顕微鏡(TEM)像である。図5から明らかなように、生成したカーボンナノファイバーは直径20〜50nmの詰まった構造であることが分かる。なお、図5において黒の塊は、カーボンナノファイバーの先端に付いている触媒金属微粒子である。透過型電子顕微鏡像から、グラフェンシートが積層した構造を持ち、結晶性を有することが判明した。
【0039】
図6は、実施例で得られたナノカーボンエミッタ1のSEM像であり、(A)は1回刷りの場合のSEM像を、(B)は(A)の拡大像を、(C)は3回刷りの場合のSEM像を、(D)は(C)の拡大像を示す。膜厚計測の結果、1回刷りでは、膜厚範囲は27μm〜46μmであり、平均膜厚は36.5μmであった。3回刷りでは、膜厚範囲は52μm〜76μmであり、平均膜厚は64μmであった。
【0040】
図7は、実施例で作製したナノカーボンエミッタ1の電子放出特性を示す図である。図7の横軸は電界強度(V・μm−1)であり、縦軸は電流密度(A・cm−2)である。●(黒丸)プロットが1回刷りの場合であり、□(白四角)プロットが3回刷りの場合である。図7から明らかなように、本実施例のナノカーボンエミッタ1の電子放出特性では、電界強度が約2〜3(V・μm−1)で急に立ち上がっていることが分かる。1回刷りで作製したナノカーボンエミッタ1では約2.8V・μm−1で電子放出を開始したのに対し、3回刷りで作製したナノカーボンエミッタ1では約3.5V・cm−1で電子放出を開始した。即ち、1回刷りで作製したナノカーボンエミッタ1の方が3回刷りで作製したナノカーボンエミッタ1より低電圧で電子放出を開始することが分かった。作製したナノカーボンエミッタ1の表面を観察したところ、1回刷りではナノ炭素材料複合体4同士の間隔が広く、各ナノ炭素材料複合体4が孤立しているのに対し、3回刷りではナノ炭素材料複合体4の密度が高く、膜状に形成していることが分かった。
【0041】
また、作製したナノカーボンエミッタ1に対し、スペーサー22を介在させ、透明電極上に蛍光体23を塗布したアノード電極21を対向させて真空封止することで、パネルを作製した。
ナノカーボンエミッタ1の導電層3と透明電極との間に電圧を印加したところ、蛍光体23が50×50mmで均一に発光した。
【0042】
以上の実施例では、触媒成分としてニッケルを使用したが、コバルトを触媒成分として使用しても同様に、ナノカーボンファイバーを生成でき、同様にナノカーボンエミッタを作製したところ、同様の特性を得た。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のナノカーボンエミッタは、強電界によって電子を放出する電界放射型の電子放出素子(フィールドエミッタ)として利用が期待できる。
より詳しくは、光プリンタ、電子顕微鏡、電子ビーム露光装置などの電子発生源や電子銃として、照明ランプの超小型照明源として、さらには、平面ディスプレイを構成するアレイ状のフィールドエミッタアレイの面電子源などとして有用である。さらに、このナノカーボンエミッタを電子源として用い、ディスプレイ、バックライト、照明などに利用される面発光素子としての利用が期待できる。
なお、上記の用途に本発明のナノカーボンエミッタの用途は限定されるものではない。
【符号の説明】
【0044】
1:ナノカーボンエミッタ
2:基体
3:導電層
4:ナノ炭素材料複合体
5:ダイヤモンド微粒子
6:ナノ炭素材料
20:面発光素子
21:アノード電極
22:スペーサー
23:蛍光体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、該基体上に設けられた導電層と、ダイヤモンド微粒子に直接又は金属若しくは金属化合物を介してナノ炭素材料が形成されてなるナノ炭素材料複合体と、を含み、該ナノ炭素材料複合体が、10μm以上100μm以下の厚みで、上記導電層を介して上記基体上に設けられている、ナノカーボンエミッタ。
【請求項2】
前記ダイヤモンド微粒子は1μmより小さい粒径を有する、請求項1に記載のナノカーボンエミッタ。
【請求項3】
前記ナノ炭素材料はカーボンナノファイバーである、請求項1に記載のナノカーボンエミッタ。
【請求項4】
基体に導電層を形成する工程と、
ダイヤモンド微粒子に直接又は金属若しくは金属化合物を介してナノ炭素材料が形成されてなるナノ炭素材料複合体とバインダー材料と溶剤とを混合してなるナノカーボンペーストを、上記導電層上にスクリーン印刷を用いて塗布することで、上記導電層上に上記ナノ炭素材料複合体を配置する工程と、
を含む、ナノカーボンエミッタの製造方法。
【請求項5】
前記スクリーン印刷による前記ナノカーボンペーストの印刷回数が1回刷り以上3回刷り以下である、請求項4に記載のナノカーボンエミッタの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3の何れかに記載のナノカーボンエミッタと蛍光体が形成されたアノード電極とが対向して設けられ、上記ナノカーボンエミッタと上記アノード電極との間隙が真空に保持されてなる、面発光素子。
【請求項7】
前記ナノカーボンエミッタが任意のパターン形状を有している、請求項6に記載の面発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図7】
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【図8】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−218773(P2010−218773A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61980(P2009−61980)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年3月2日 社団法人表面技術協会発行の「第119回講演大会 講演要旨集」に発表
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】