説明

ナノコンポジット磁石の製造方法

【課題】焼結時の結晶化により粗大結晶粒を生成させず、良好な磁気特性を備えたナノコンポジット磁石を製造する方法を提供する。
【解決手段】硬磁性相と軟磁性相とから成る急冷組織から成り、結晶組織が85重量%以上である急冷合金を、加圧下で急速昇温により結晶化温度以下の温度に昇温して焼結することを特徴とするナノコンポジット磁石の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬磁性ナノ粒子と軟磁性ナノ粒子とが複合化したナノコンポジット磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノコンポジット磁石は、硬磁性/軟磁性2相複合構造を備え、特に軟磁性相を数nmの極微細粒とすることにより、硬軟磁性相間に交換結合が働き、残留磁化および飽和磁化を大幅に増大できるという特性が注目されている。
【0003】
このようなナノ組織を備えたバルク体を製造する方法として、所定組成の溶融体を急冷した粉末あるいは薄帯を原料として用いる方法が行なわれている。
【0004】
すなわち、特許文献1には、非晶質急冷薄帯を用い、温間一軸変形(通電粉末圧延法)により、液相の存在下で直接異方性化する方法が提案されている。
【0005】
特許文献2には、非晶質急冷薄帯を用い、水素雰囲気中での加熱処理、放電プラズマ焼結を行なって交換スプリング磁石(ナノコンポジット磁石)を製造する方法が提案されている。
【0006】
特許文献3には、非晶質急冷薄帯を用い、その粉砕、放電プラズマ焼結を行なって交換スプリング磁石(ナノコンポジット磁石)を製造する方法が提案されている。
【0007】
特許文献4には、急冷薄帯を粉砕し、得られた粉末を形に充填し、所定の焼結圧力・焼結温度にて放電プラズマ焼結してバルク交換スプリング磁石を製造する方法が提案されている。特許文献5には、上記技術において、温度500〜650℃、圧力3.1〜6.0ton/cm2で放電プラズマ焼結を行なうことが提案されている。
【0008】
しかし、特許文献1〜5には、急冷組織を構成する非晶質/結晶質の割合については、開示がない。
【0009】
特許文献6には、ナノコンポジット磁石の原料粉末に含まれる非晶質の体積比率を50%以上とし、これを熱間成形してバルクのナノコンポジット磁石とする方法が提案されている。熱間成形するために塑性変形能が必要であり、そのために非晶質の割合を高めている。
【0010】
特許文献7にも、同様に非晶質の焼結原料を用い、20〜80MPaの加圧下で焼結する方法が開示されている。
【0011】
しかし、焼結密度を真密度に近づけるためには焼結温度を高める必要があり、非晶質の多い急冷粉末あるいは急冷薄帯を焼結すると、非晶質の部分が結晶化する際に微結晶組織とならず、粗大結晶粒が混在した組織となり、得られた焼結体の磁気特性(特に保磁力)が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2000−235909号公報
【特許文献2】特開2002−339018号公報
【特許文献3】特開2002−343659号公報
【特許文献4】特開2001−093723号公報
【特許文献5】特開2003−264115号公報
【特許文献6】特開2004−339527号公報
【特許文献7】特開2000−348919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、焼結時の結晶化により粗大結晶粒を生成させず、良好な磁気特性を備えたナノコンポジット磁石を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するために、本発明のナノコンポジット磁石の製造方法は、硬磁性相と軟磁性相とから成る急冷組織から成り、結晶組織が85重量%以上である急冷合金を、加圧下で急速昇温により結晶化温度以下の温度に昇温して焼結することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
結晶組織が85重量%以上の急冷合金を原料とし、急速昇温により結晶化温度以下で焼結するので、粗大結晶粒が生成せず、良好な磁気特性が確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、メルトスピニング法によって急冷薄帯を製造し、粗粉砕、焼結を行なう本発明による製造プロセスを示す模式図である。
【図2】図2は、実施例1で製造した急冷薄帯の(1)非晶質のもの、(2)結晶質のものについて、それぞれXRDチャートを示す模式図である。
【図3】図3は、急冷薄帯を非晶質のものと結晶質のものとに分離する方法を示す模式図である。
【図4】図4は、粗粉砕した急冷薄帯(リボン)を焼結する手順を示す模式図である。
【図5】図5は、焼結体と未焼結の急冷薄帯とについて磁化曲線を示すグラフである。
【図6】図6は、焼結原料を構成する結晶質の割合と、結晶質急冷薄帯に対する特性の比との関係を示すグラフである。
【図7】図7は、実施例2において焼結原料として用いた結晶質薄帯の透過電子顕微鏡(TEM)像を示す写真である。
【図8】図8は、種々の温度で焼結した焼結体と未焼結の急冷リボンの透過電子顕微鏡(TEM)像を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の方法は、結晶質85重量%以上の焼結原料を用いたことにより、結晶質急冷薄帯と同等の優れた磁気特性が達成され、急冷薄帯に比べて保磁力Hcの低下は10%以内、残留磁束密度Brの低下は5%以内である。特に、結晶質100重量%の焼結原料を用いると、Hc、Br共に結晶質急冷薄帯に対して5%以内の低下の優れた磁気特性が得られる。
【0018】
本発明の方法により、急冷によって作製された希土類合金磁石の粉末または薄帯が樹脂を介さずに結合したバインダーフリー磁石が得られる。バインダーを用いないため、磁気特性が良好であり、高温でも使用可能である。
【0019】
焼結原料としての急冷合金の作製方法として、メルトスピニングやアトマイズなどの液体急冷法は、単磁区粒子化を伴う微細組織化が達成できるので望ましい。この急冷合金の結晶粒径は、主相としての硬磁性相が10nm〜200nm、軟磁性相が1nm〜100nmであることが望ましい。
【0020】
液体急冷法により得られた急冷薄帯を粗粉砕して焼結に用いる。一般に粒度200μm以下とすることが望ましい。
【0021】
焼結法としては、ホットプレス法、放電プラズマ法、通電焼結法などの急速昇温が望ましい。焼結は、加圧下で加熱保持して行なう。
【0022】
焼結は、温度500〜650℃、圧力200MPa以上で行なうことが望ましい。
【0023】
本発明の方法を適用する急冷合金すなわち焼結原料の代表的な組成は、一般式R100−x−y−zで表され、R、Q、M、Tは、
R:一種以上の希土類金属、
Q:BおよびCの少なくとも一種、
M:Ti、Al、Si、V、Mn、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、Hf、Ta、W、Pt、Au、Pbから成る群から選択された少なくとも一種、
T:FeまたはFeの一部をCoおよびNiの少なくとも一種で置換したもの、
であり、上記x、y、zは、
2≦x≦11.8、
1≦y≦22、
0≦z≦10
を満たし、
主相としての硬磁性相はR14Mであり、軟磁性相はαFeまたはFeとBまたはCとの化合物である。
【実施例】
【0024】
〔実施例1〕
本発明により、下記組成のナノコンポジット磁石を製造した。
【0025】
硬磁性相:(NdFe14B)0.99Ga0.01
軟磁性相:αFe
硬磁性相:軟磁性相=8:2
<急冷薄帯の作製>
上記組成に対応させてNd、Fe、FeB、Gaを秤量し、アーク溶解炉にて合金インゴットを作製した。
【0026】
50kPa以下に減圧したArガス雰囲気の炉中で、図1(1)に示すように、単ロールによるメルトスピニング法にて、合金インゴットを高周波溶解し、溶湯を銅ロールに噴射して急冷薄帯を作製した。なお、図1には、(1)急冷薄帯作製→(2)粗粉砕→(3)焼結の全工程を併せて示した。
【0027】
急冷薄帯(急冷リボン)を回収し、XRDにて結晶構造を解析し、VSMにて磁気特性を評価し、TEMにより結晶組織を観察した。
【0028】
図2にXRDチャートの一例を示す。急冷リボンは個々に非晶質のものと結晶質のものがあった。図2(1)に示すように、急冷リボンが非晶質の場合は、ブロードなパターンが表れるが、図2(2)に示すように、急冷リボンが結晶質(この場合、多結晶体)である場合には、硬磁性相の構成相NdFe14Bと軟磁性相αFeのピークが明瞭に現れている。
【0029】
<分離>
図3に示すように、弱磁石を用いて、急冷薄帯を結晶質のものと非晶質のものとに分離する。すなわち、急冷薄帯(1)のうち、非晶質急冷薄帯は弱磁石で磁化されるので落下せず(2)、結晶質急冷薄帯は弱磁石で磁化されないので落下する(3)。
【0030】
このようにして、分離した結晶質/非晶質の急冷薄帯を用い、重量比で(A)結晶質100%、(B)結晶質:非晶質=65:35、(C)結晶質:非晶質=50:50のサンプルを用意した。
【0031】
<焼結>
急冷薄帯のサンプルA、B、Cを粒度200μm以上に粗粉砕し、図4(1)のように超硬ダイス(内径10φ)内に充填し、超硬パンチにより300MPaで加圧した。図4(2)に示すように、加圧を維持した状態で超硬パンチを介して加圧方向に電流を流し、通電加熱した。通電加熱中、超硬パンチの変位をモニターした。圧縮方向への変位が止まった時点で通電を停止し、自然放熱により室温まで冷却した。
【0032】
表1にサンプルA、B、Cを原料とする焼結体A、B、Cについて、結晶質割合(重量%)、焼結圧力(MPa)、焼結温度(℃)をまとめて示す。
【0033】
【表1】

【0034】
冷却後に焼結体を取り出し、焼結体表面を研磨した後、磁気特性を測定した。測定結果を表2にまとめて示す。比較のため、焼結しない結晶質急冷薄帯の結果を併せて示す。
【0035】
【表2】

【0036】
図5に、焼結体A(結晶質100%)と焼結体B(結晶質50%)の磁化曲線を、未焼結の結晶質急冷薄帯の磁化曲線と比較して示す。
【0037】
図6に、焼結原料の結晶質割合と、未焼結の結晶質急冷薄帯に対する特性比との関係を示す。
【0038】
これらの結果から、結晶質急冷薄帯100%を用いた焼結体Aは、未焼結の急冷薄帯に比べて、残留磁束密度Br、保磁力Hcともに2%程度の低下であったが、焼結原料の結晶質割合の低下に伴って急速に低下することが分かる。図6から、未焼結の結晶質急冷薄帯に対して磁気特性の低下を10%以内にするためには、焼結原料中の結晶質急冷薄帯の割合を85%以上とする必要がある。
【0039】
〔実施例2〕
実施例1と同じ組成のナノコンポジット磁石を製造した。
【0040】
<急冷薄帯の作製>
実施例1と同様の手順および条件にて、アーク炉溶解によりインゴットを作製し、単ロール(銅ロール)によるメルトスピニング法にて急冷薄帯を作製した。
【0041】
<分離>
実施例1と同様に弱磁石による結晶質/非晶質の分離を行い、結晶質急冷薄帯のみを用いた。
【0042】
用いた急冷薄帯のXRDによる結晶構造解析の結果、実施例1において図2(2)に示したのと同様に、硬磁性相の構成相NdFe14Bと軟磁性相αFeのピークが明瞭に現れていることを確認した。
【0043】
図7に、用いた急冷薄帯の透過電子顕微鏡(TEM)組織を示す。粒径が約20nmの主相(NdFe14B)と軟磁性相αFeが析出していることが分かる。
【0044】
これらの結果から、液体急冷法によって薄帯形状の急冷組織が形成され、NdFe14B/Feのナノコンポジット磁石が得られたことを確認した。
【0045】
<焼結>
実施例1と同様に焼結を行なった。ただし、焼結圧力は200MPaと300MPaの2水準とした。焼結条件を表1に示す。得られた焼結体の密度および磁気特性を測定した。
【0046】
表3に、焼結体の密度および相対密度(*1)を従来例(*2)と共に示す。表4に、焼結体の磁気特性を、未焼結の急冷薄帯および従来例(*2)と共に示す。
【表3】

【表4】

【0047】
(*1)真密度7.65g/cmに対する比
(*2)従来例:出典 T. Saito et al., J. Mater. Res., 19, 2730(2004); 組成NdFe77.5B18.5
【0048】
表1に示すように、本発明による焼結体1〜4は、焼結密度として真密度に近い値が得られており、特に焼結体1は相対密度97%、焼結体2は相対密度99%が得られ、焼結圧力200MPa以上で高密度化することが分かる。その結果、表2に示すように、本発明による焼結体1〜4は、磁気特性も良好な値が得られている。
【0049】
それに比べて従来例1、2は、焼結圧力が低いため(50MPa)、表1に示すように焼結温度600℃では低密度であり、高密度化するには焼結温度を700℃に上げる必要があるが、表2に示すように、焼結温度700℃(従来例2)にすると磁気特性が大きく低下してしまう。
【0050】
図8に、焼結圧力300MPa(一定)としたときの焼結温度による透過電子顕微鏡(TEM)組織の変化を示す。焼結温度600℃の焼結体2と比較すると、焼結温度700℃の焼結体4は、αFe粒径が大きくなっており(100nm程度)、磁気特性も低下している。したがって、焼結温度は650℃以下が望ましいことが分かる。一方、焼結温度500℃の焼結体3の組織は最も微細であるが、密度は7.11g/cmと相対的に低い。ただし、これはバルク体としては十分な密度である。これから、焼結温度の下限は500℃とすることが望ましい。
【0051】
本実施例の結果から、焼結圧力200MPa以上、焼結温度500℃〜650℃とすることで、焼結密度7.11g/cm以上が得られることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、焼結時の結晶化により粗大結晶粒を生成させず、良好な磁気特性を備えたナノコンポジット磁石を製造する方法が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬磁性相と軟磁性相とから成る急冷組織から成り、結晶組織が85重量%以上である急冷合金を、加圧下で急速昇温により結晶化温度以下の温度に昇温して焼結することを特徴とするナノコンポジット磁石の製造方法。
【請求項2】
上記焼結は、温度500〜650℃、圧力200MPa以上で行なうことを特徴とする請求項1記載のナノコンポジット磁石の製造方法。
【請求項3】
前記急冷合金の組成が一般式R100−x−y−zで表され、R、Q、M、Tは、
R:一種以上の希土類金属、
Q:BおよびCの少なくとも一種、
M:Ti、Al、Si、V、Mn、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、Hf、Ta、W、Pt、Au、Pbから成る群から選択された少なくとも一種、
T:FeまたはFeの一部をCoおよびNiの少なくとも一種で置換したもの、
であり、上記x、y、zは、
2≦x≦11.8、
1≦y≦22、
0≦z≦10
を満たし、
主相としての上記硬磁性相はR14Mであり、上記軟磁性相はαFeまたはFeとBまたはCとの化合物
であることを特徴とするナノコンポジット磁石の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−100881(P2011−100881A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−255140(P2009−255140)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】