説明

ナノチューブの配線方法とこれを用いた電子部品及び電子放出源

【課題】ナノチューブを配線する電極の組が複数組ある場合でも同時に配線作業を実行し、かつナノチューブを1本ごとに制御できる配線方法を提供すること。
【解決手段】複数本のナノチューブ11を分散させた溶媒10を電極1,2間に滴下する。配線する所望の電極間ごとに互いに相関のない異なる波形の信号電圧5,6を印加する。信号電圧によって溶媒中のナノチューブ11を泳動させて所望の電極間に配線させる。印加する信号電圧の波形は、M系列の擬似乱数ビット列から生成する。配線する電極間を流れる電流を検知したら信号電圧の印加を停止することで、各電極間には1本のナノチューブを配線する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノチューブの配線方法とこの方法を用いて作製した電子部品及び電子放出源に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素からなるナノチューブの産業応用が研究される中、微小なナノチューブの配線方法が問題となっている。例えば、ナノチューブを導線として利用した微細回路を作成するには、所望の電極の間にナノチューブを配線(配置)する必要がある。この要求に対して、現在は次のような各種技術が提案されている。
【0003】
ナノチューブを配置する第1の技術として、原子間力顕微鏡がある。これは、微細な探針の先でナノチューブをつまみ上げ、移動するものであり、原子の大きさ程度の精度でナノチューブを配置することができる。
【0004】
ナノチューブを配置する第2の技術として、リソグラフィーを用いた技術がある。この技術は、配線したい電極の上にナノチューブを散布し、所望の電極の間に位置するナノチューブのみをリソグラフィー技術を用いて固定するものである。この技術では、配線したい個所が複数ある場合でも、同時に配線することができるため効率が良い。
【0005】
ナノチューブを配置する第3の技術として、例えば特許文献1に開示される電気泳動法がある。この技術では、ナノチューブをコロイド状に分散させた溶媒を電極間に滴下し、この電極間に交流電圧を印加することによって電極間にナノチューブを配線するものである。この技術によれば、ナノチューブの配線を簡便かつ確実に行うことが可能とされている。
【0006】
また、ナノチューブの応用として、例えば特許文献2には、フィールドエミッションディスプレイ(FED)などの電子放出源への適用が提案されている。ここでは、例えばペースト状にしたナノチューブを印刷技術によって回路上に塗布してパターン形成する。ナノチューブの一部は、端部が基板面から空間に突出しており、このナノチューブの開放された先端を電子放出源とするものである。
【0007】
【特許文献1】特開2003−332266号公報
【特許文献2】特開2004−327208号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記第1の技術では、ナノチューブを1本ずつ移動させるため、多数の配線を行うには多大な時間が必要である。上記第2の技術では、電極の間には、通常、多数のナノチューブによって配線されることになり、1本のナノチューブのみで配線したい用途には向いていない。上記第3の技術として、特許文献1記載の方法では、交流電圧を印加する一対の電極ごとにナノチューブが1本ずつ配線される訳で、複数の電極対に複数のナノチューブを同時に配線することは困難である。
【0009】
また、ナノチューブを電子放出源に応用する場合、次の条件が求められる。
(1)ナノチューブの端部の高さが揃っていること。
(2)突出したナノチューブが、複数本集まって束にならずに、1本1本独立していること。
(3)形成した電子放出源ごとに、突出したナノチューブの数にばらつきがないこと。
【0010】
上記特許文献2では、カーボンナノチューブの向きと高さが揃っている配向性カーボンナノチューブを用いている。しかしながら、ナノチューブ1本ごとの制御は困難であり、電子放出源としての上記条件に応えるのは困難と予想される。
【0011】
本発明の目的は、上記した各技術の課題に鑑み、ナノチューブの効率的な配線方法を提供すること、すなわち配線する電極の組が複数組ある場合でも同時に配線作業を実行し、かつナノチューブを1本ごとに制御できる配線方法を提供し、またこれを用いて作製した電子部品及び電子放出源を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によるナノチューブの配線方法は、複数本のナノチューブを分散させた溶媒を電極間に滴下し、配線する所望の電極間ごとに互いに相関のない異なる波形の信号電圧を印加し、信号電圧によって溶媒中のナノチューブを泳動させて所望の電極間に配線させるものである。好ましくは、印加する信号電圧の波形は、M系列の擬似乱数ビット列から生成する。また、配線する電極間を流れる電流を検知したら、信号電圧の印加を停止し、各電極間には1本のナノチューブを配線する。
【0013】
本発明による電子部品は、基板上の電極の間をナノチューブにて配線する構成であって、複数組の電極間にそれぞれ1本のナノチューブを互いに略平行に配置したものである。
【0014】
本発明による電子放出源は、基板上の電極に接続して形成された複数本のナノチューブより電子を放出する構成であって、複数本のナノチューブは互いに略平行に配置され、かつ基板から各ナノチューブの先端までの高さは略均一としたものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ナノチューブを用いた電子部品を製造する場合、ナノチューブを配線する工程における製造効率と寸法精度が向上し、ひいては電子部品の性能向上に寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0017】
図1は、本発明によるナノチューブの配線方法の一実施例を示すもので、ナノチューブ溶媒の概観と信号回路構成を示す図である。本実施例では、ナノチューブをコロイド状に分散させた溶媒を電極間に滴下し、この電極間に信号電圧を印加することによって電極間にナノチューブを配線する電気泳動法を採用している。
【0018】
11はナノチューブで、溶媒10中にコロイド状に分散させている。1a,1b,1c,2a,2b,2cは電極であり、本実施例では、ナノチューブを3組の電極、すなわち電極1a,2aの間、電極1b,2bの間、および電極1c,2cの間に配線するものとする。
【0019】
電圧印加回路として、3台の信号発生源A(符号3a),B(符号3b),C(符号3c)を用いる。各信号発生源A,B,Cは、例えばM系列の擬似乱数ビット列に基づき所定電圧の正負極性の信号(交番電圧)を発生する。M系列(maximum length code)とは「0」と「1」をランダムに並べた乱数のことであり、例えば、シフトレジスタと排他的論理和(EXOR)ゲートを用いて作成される。ここで、各信号発生源におけるビット列は互いに相関がなく、よって発生する信号波形も相関がない。5a,5b,5cは各信号発生源A,B,Cの発生する信号の波形の一例を示し、それぞれ上記電極1a,1b,1cに印加される。また反転回路A(4a),B(4b),C(4c)は、各信号発生源A,B,Cからの信号波形の極性を反転する回路である。6a,6b,6cは各反転回路A,B,C通過後の信号波形の一例を示し、それぞれ上記電極2a,2b,2cに印加される。
【0020】
このような電圧印加法によれば、電極1aと2aには、同じ波形で互いに極性が逆の電圧が印加される。電極1bと2bにも、同じ波形で極性が逆の電圧が印加される。電極1cと2cにも、同じ波形で極性が逆の電圧が印加される。すなわち、電極1aと2aの間、電極1bと2bの間、電極1cと2cの間には常に所定強度の電界(交番電界)が発生する。しかし、電極1a,1b,1c間、あるいは電極2a,2b,2c間に印加される電圧には互いに相関がないので、電極1aから見て、電極2a以外の全ての電極(1b、1c、2b、2c)との間の電界は、時間平均すると小さな値になる。電極1b、電極1cについても同様で、それぞれ電極2b、電極2c以外の電極との間の電界は、時間平均すると小さな値になる。
【0021】
上記のような電界を受けると、溶媒10に分散したナノチューブ11は、強い電界の発生している電極の間に泳動する。図2は、ナノチューブ11が電極間に泳動して配線を完了した状態を示す図である。すなわち、電極の近傍に存在したナノチューブは、最も電界の強い電極1aと2aの間、電極1bと2bの間、および電極1cと2cの間に優先的に泳動し、各電極に接触する。その際ナノチューブと電極とは、ファンデルワールス力によって強固に付着する。このようにして所望の電極間をナノチューブにて配線することができる。
【0022】
電極間がナノチューブによって配線されたことは、電極の間を流れる電流として検知できる。所望の電極が配線されたことを検知したならば、直ちに対応する信号発生源からの電圧供給を停止する。このようにして、所望の電極間を、1本のナノチューブが配線された時点で配線動作を停止する。また、配線対象外の電極間に対してはナノチューブが泳動中であっても、途中でその動作を停止させて配線されることを阻止する。所望の電極が全て配線されたならば、溶媒10を洗い流すことでナノチューブの配線を終了する。
【0023】
以上の動作により、配線を所望する電極の組が複数組ある場合においても、電極を選択して、ナノチューブを同時にかつ1本ずつ配線することができる。
【0024】
上記図1、図2では、配線を所望する複数組の電極が互いに略平行に配置された場合を示したが、これに限らず非平行であってもよい。さらには、立体的に交差して配線する場合でもよい。
【実施例2】
【0025】
次に、図3〜図7は、本発明のナノチューブの配線方法を用いて発光素子(FED)の電子放出源を製造する工程の一実施例を示す図である。本実施例では、ナノチューブを冷陰極ディスプレイなどの電子放出源として使用するために、ナノチューブの一端を開放した構成で実現させるものである。
【0026】
図3は、ナノチューブを電極に配線する工程(第1工程)を示す。基板20の上には複数組の電極1と電極2が平行に配置されている。実施例1で述べた電気泳動法と信号電圧印加法を用いて、互いに対向する電極間にナノチューブを配線する。その結果、基板20の上には、ナノチューブ11が電極1、電極2と同じ間隔で1本ずつ略平行に配線される。このとき、対向する電極の対向面に先鋭部を持つ形状とすることで電界を集中させ、ナノチューブを電極の先鋭部に位置決めして配線させることができる。その結果、配線されるナノチューブの平行度が良くなる。
【0027】
図4は、保護層を形成する工程(第2工程)を示す。ナノチューブ11を配線した基板20表面全体に保護層21を形成して、それ以後の加工工程に対してナノチューブ11を強度的に保護する。
【0028】
図5は、基板20を切断する工程(第3工程)を示す。配線したナノチューブ11の長手方向中間位置を、ダイヤモンドカッター等で切断する。基板材料が結晶性のものであれば基板をへき開する方法でもよい。必要に応じて切断面を研磨し、ナノチューブの端部の高さを揃える。
【0029】
図6は、ナノチューブ11の端部を突出させる工程(第4工程)を示す。まず保護層21を除去し、次にリソグラフィー等により基板20の端面20aを除去し、ナノチューブ11の先端部11aを基板20の外に突出(開放)させる。また、各電極1の間にアルミニウム等の導電材12を蒸着して各電極を連結させる。
【0030】
図7は、上記の工程を経て製造した電子放出源の構造の一例を示す図である。前記第4工程で、各電極1に接続して形成された複数本のナノチューブ11よりなる基板20を得る。電子放出源40は、基板20を底面とし、その近傍に絶縁体30を介してゲート電極31を配置した構造である。基板20に負の電圧を印加し、ゲート電極31に正の電圧を印加すると、基板20上に配置したナノチューブ11に電界が集中し、印加する電圧が所定の値を越えるとナノチューブ11から電子が放出される。放出された電子は、上方に設けた蛍光板(図示せず)に衝突して発光表示する。絶縁体30は、ナノチューブ11とゲート電極30の間隔を固定する役目がある。
【0031】
本実施例の電子放出源では、電子放出源として用いられるナノチューブの数を各電極に1本ずつ配置することで、その数を一定に保つことができる。そして、各ナノチューブは束にならずに1本1本略平行に配置し、基板から各ナノチューブの先端までの高さを略均一に揃えることができる。よって、FED用の理想的な電子放出源を実現することができ、その性能向上に寄与する。
【0032】
次に図8は、ナノチューブを利用して製造した電子放出源の構造の他の例を示す図である。この電子放出源41では、前記第4工程(図6)で得られた基板20を山型に傾けて配置し、その近傍に絶縁体30を介してゲート電極31を配置する。図7の場合と同様に、基板20に負の電圧を印加し、ゲート電極31に正の電圧を印加すると、基板20上に配置したナノチューブ11に電界が集中し、印加する電圧が所定の値を越えるとナノチューブ11から電子が放出される。
【0033】
この構造によれば、基板20を山型に傾けることにより、各ナノチューブ11の先端部からゲート電極31まで距離はほぼ一様になる。よって、各ナノチューブ11からの電子放出特性は場所(中央部と周辺部)に依らず均一化できる効果がある。
【0034】
上記実施例では、ナノチューブを電子放出源に利用する場合、多数のナノチューブの配置を個別に制御しそれらの特性を揃えることができるので、FED等の冷陰極ディスプレイの優れた電子放出源を提供することができる。本発明のナノチューブの配線方法は、これに限らず、微細な電子回路やセンサー類に適用することができ、それらの製造効率と寸法精度の向上、ひいては性能向上に寄与するものである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明によるナノチューブの配線方法の一実施例を示す図。
【図2】ナノチューブによる配線を完了した状態を示す図。
【図3】ナノチューブを用いて電子放出源を製造する第1工程を示す図。
【図4】ナノチューブを用いて電子放出源を製造する第2工程を示す図。
【図5】ナノチューブを用いて電子放出源を製造する第3工程を示す図。
【図6】ナノチューブを用いて電子放出源を製造する第4工程を示す図。
【図7】製造した電子放出源の構造の一例を示す図。
【図8】製造した電子放出源の構造の他の例を示す図。
【符号の説明】
【0036】
1(1a〜1c),2(2a〜2c)…電極、
3a〜3c…信号発生源A,B,C、
4a〜4c…反転回路A,B,C、
5a〜5c,6a〜6c…信号波形、
10…溶媒、
11…ナノチューブ、
20…基板、
21…保護層、
30…絶縁体、
31…ゲート電極、
40,41…電子放出源。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数組の電極間にナノチューブを配線するナノチューブの配線方法において、
複数本のナノチューブを分散させた溶媒を上記電極間に滴下し、
配線する電極間ごとに互いに相関のない異なる波形の信号電圧を印加し、
該信号電圧によって上記溶媒中のナノチューブを泳動させて前記電極間に配線させることを特徴とするナノチューブの配線方法。
【請求項2】
請求項1記載のナノチューブの配線方法において、
前記印加する信号電圧の波形は、M系列の擬似乱数ビット列から生成することを特徴とするナノチューブの配線方法。
【請求項3】
請求項1記載のナノチューブの配線方法において、
前記配線する電極間を流れる電流を検知したら、前記信号電圧の印加を停止し、前記電極間に1本のナノチューブを配線することを特徴とするナノチューブの配線方法。
【請求項4】
基板上の電極の間をナノチューブにて配線する構成の電子部品において、
複数組の電極間にそれぞれ1本のナノチューブを互いに略平行に配置したことを特徴とする電子部品。
【請求項5】
基板上の電極に接続して形成された複数本のナノチューブより電子を放出する電子放出源において、
該複数本のナノチューブは互いに略平行に配置され、かつ上記基板から該ナノチューブの先端までの高さは略均一であることを特徴とする電子放出源。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−160483(P2007−160483A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−362964(P2005−362964)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】