説明

ニオブ酸リチウム単結晶およびその製造方法

【課題】エッチングレートが速く、電気機械結合係数が大きいニオブ酸リチウム単結晶およびその製造方法を提供する。
【解決手段】GeO2、ZrO2、SnO2の少なくとも一種以上の添加物を含有しGeO2、ZrO2、SnO2の少なくとも一種以上の添加物の合計含有量が、0.1mol%以上で、3.0mol%以下のニオブ酸リチウム単結晶を製造し、該単結晶を温度50℃以上のフッ酸、硝酸及びそれらの混合液と水とを混合した溶液中に浸し、溶液を攪拌させながらウェットエッチングをおこなう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電単結晶およびその製造方法に関し、特に、アクチュエーター、フィルター、発振子、センサ、圧電トランス等に用いられる体積弾性波デバイス用振動子に好適なニオブ酸リチウム単結晶およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、パソコン、デジタルカメラなどの圧電デバイスが搭載される機器の小型化により、年々小型化が厳しく要求され、フィルター、発振子、圧電振動ジャイロ等の圧電デバイスは、小型化が最も重要なテーマの一つになっている。それ故に圧電デバイス用の圧電振動子にも小型化が厳しく要求されている。
【0003】
従来の圧電振動子は、角柱形状等の簡単な形状で、サイズも大きく、外周刃及び内周刃等で切断加工されてきた。しかし、最近の圧電振動子の小型化に伴い、圧電振動子の構造も複雑になり、かつ高精度の加工精度が要求され、機械加工での対応が限界になりつつある。
【0004】
微細な加工方法としてエッチング加工法がある。エッチング加工法は、機械加工と比較して加工精度が高精度で、加工歪が小さい。また、形状が一定の刃を使用する必要がないので、湾曲構造や穴あけ構造などの複雑な構造に容易に対応できる。現状のエッチング可能な材料に水晶がある。水晶のエッチングレートは、1.5μm/minと速いが、電気機械結合係数が10%以下と小さく、圧電応答の特性が小さいので、回路による増幅を必要とし、回路規模が大きくなるという問題点があった。
【0005】
ニオブ酸リチウムは、電気機械結合係数が大きく、圧電振動子に広く用いられる。しかしながら、その焦電性により温度変化で表面電荷を発生するので、エッチングレートが遅く、エッチング加工が困難であるという問題点があった。
【0006】
鉄、銅、マンガンなどの添加物をニオブ酸リチウムに加えることで、表面電荷を中和させる表面電荷の改善策が、特許文献1に開示されている。しかしながら、ニオブ酸リチウムのエッチングレートの改善策に関しての報告例はない。
【0007】
【特許文献1】特開2004−254114号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した問題点を解決すべくなされたもので、その技術課題は、エッチングレートが速く、電気機械結合係数が大きいニオブ酸リチウム単結晶およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための第1の発明は、ニオブ酸リチウム単結晶において、GeO2、ZrO2、TiO2、SnO2の少なくとも一種以上の添加物を含有し、前記GeO2、ZrO2、TiO2、SnO2の少なくとも一種以上の添加物の合計含有量が、0.1mol%以上で、3.0mol%以下であるニオブ酸リチウム単結晶である。
【0010】
上記目的を達成するための第2の発明は、温度50℃以上のフッ酸、硝酸及びそれらの混合液と水とを混合した溶液中に浸し、溶液を攪拌させるウェットエッチング方法によるエッチングレートが、0.19μm/min以上であるニオブ酸リチウム単結晶である。
【0011】
上記目的を達成するための第3の発明は、ニオブ酸リチウム単結晶の製造方法において、GeO2、ZrO2、TiO2、SnO2の少なくとも一種以上の添加物を含有し、前記GeO2、ZrO2、TiO2、SnO2の少なくとも一種以上の添加物の合計含有量が、0.1mol%以上で、5.0mol%以下である前記ニオブ酸リチウム単結晶の融液より、種結晶を用いて冷却して固化することで単結晶を成長させる工程を含むニオブ酸リチウム単結晶の製造方法である。
【0012】
上記目的を達成するための第4の発明は、温度50℃以上のフッ酸、硝酸及びそれらの混合液と水とを混合した溶液中に前記ニオブ酸リチウム単結晶を浸し、前記溶液を攪拌するウェットエッチング工程を含むニオブ酸リチウム単結晶のエッチング方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ニオブ酸リチウム単結晶において、GeO2、ZrO2、TiO2、SnO2の少なくとも一種以上の添加物を含有し、GeO2、ZrO2、TiO2、SnO2の少なくとも一種以上の添加物の合計含有量が、0.1mol%以上で、3.0mol%以下のニオブ酸リチウム単結晶にすることで、ニオブ酸リチウムのBサイト元素のNb5+のイオン半径に近い添加物GeO2、ZrO2、TiO2、SnO2の陽イオンを、+4価の価数をとってBサイトに位置に配置させる。その結果、Aサイト、Bサイトの原子数の不一致による原子空孔またはBサイトイオンの価数不一致による価数バランスの悪化により、ニオブ酸リチウム単結晶に元素間の結合力が弱まる場所を発生させる。ニオブ酸リチウム単結晶の元素間の結合力が弱まる場所は、エッチングが容易で、規定された添加量のGeO2、ZrO2、TiO2、SnO2により増大し、エッチングが容易になる。また、温度50℃以上のフッ酸、硝酸及びそれらの混合液と水とを混合した溶液中に浸し、溶液を攪拌させるウェットエッチング工程をニオブ酸リチウム単結晶に施すことで、0.19μm/min以上の高速なエッチングレートを実現でき、ニオブ酸リチウム単結晶の製造工程の時間短縮を可能にできる。
【0014】
その結果、エッチングレートが速く、電気機械結合係数が大きいニオブ酸リチウム単結晶およびその製造方法の提供が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明を実施するための最良の形態に係るニオブ酸リチウム単結晶およびその製造方法を、以下に詳細に説明する。
【0016】
本発明を実施するための最良の形態におけるニオブ酸リチウム単結晶では、純度99.99%のLi2CO3、Nb25、GeO2、ZrO2、TiO2、SnO2粉末を秤量し、乳鉢で混合する。ここでは、GeO2、ZrO2、TiO2、SnO2の少なくとも一種以上の添加物を含有し、前記GeO2、ZrO2、TiO2、SnO2の少なくとも一種以上の添加物の合計含有量が、0.1mol%以上で、5.0mol%以下で秤量する(この秤量組成が、融液の組成に相当する)。次に、これらの混合粉はプレスしてペレット状にし、高温炉を用いて保持温度1000℃で、20時間保持して仮焼を行なう。仮焼後は、ペレットを粉砕し、原料粉末にする。
【0017】
ニオブ酸リチウム単結晶は、高周波加熱式のマイクロ引き下げ法で結晶成長させる。結晶成長用坩堝のノズル形状は、長さ10mmで、幅1mmである。結晶成長は、成長速度6mm/hの条件で行なう。また、コングルエント組成のニオブ酸リチウムを種結晶に用いる。結晶成長方位は、成長方向がX方位で、面方向がZ方向になるように設定する。結晶成長の雰囲気は、アルゴン雰囲気にする。得られる典型的な結晶は、薄橙色透明で約30mmの長さである。
【0018】
本発明では、融液からの成長法であるマイクロ引下げ法を用いたが、固相反応を利用した単結晶育成では空孔が発生する等の問題があり、高品質の結晶を育成することは困難である。
【0019】
なお、得られた結晶の添加物の含有率は、どの添加物に対しても原料に混合した秤量時の添加物量より減少し、添加量が多い範囲では良好な結晶が得られない。このように、添加物の違いにより含有量の差が生じるのは、それぞれのニオブ酸リチウムに対する偏析係数が異なるためである。
【0020】
本発明のニオブ酸リチウム単結晶は、GeO2、ZrO2、TiO2、SnO2の少なくとも一種以上の添加物を含有し、GeO2、ZrO2、TiO2、SnO2の少なくとも一種以上の添加物の合計含有量が、0.1mol%以上で、3.0mol%以下である場合に、電気機械結合係数k31が20%以上の良好な特性が得られ、エッチングが容易になる。
【0021】
得られたニオブ酸リチウム単結晶は、切断加工および研磨加工を施し、板状試料に加工する。典型的な板状試料のサイズは、2.0×0.5×6.0mmである。この板状試料に対してエッチングレートと電気機械結合係数の測定を行なう。
【0022】
硝酸水溶液(硝酸:水=1:1)を70℃に保ち、硝酸水溶液中に鏡面研磨したニオブ酸リチウム単結晶の板状試料を浸し、攪拌することでエッチングを行なう。エッチング2時間である。なお、エッチングレートは、エッチング前後のZ軸方向の試料厚み変化から計算する。
【0023】
電気機械結合係数は、インピーダンスアナライザーを用い、共振―反共振法で測定する。ニオブ酸リチウム単結晶の板状試料における板面の上下に金を蒸着し、測定試料にする。測定する振動モードは、長さ方向振動で、電界印加がZ軸方向で、振動方向がX軸方向である。電気機械結合係数のモードは、k31である。治具電極ピンを用い、極力弱い力でニオブ酸リチウム単結晶の板状試料の電極面中央部を挟んで支持する。
【実施例】
【0024】
実施例により表を用いて本発明の効果を以下に説明する。
【0025】
(実施例1)
表1は、ニオブ酸リチウムの融液内の添加物原料量と単結晶が含有する添加物含有量との関係を示す表である。なお、表1の単結晶が含有する添加物含有量は、添加物原料量に対して、それぞれの添加物を単独で添加した場合の添加物含有量を示している。
【0026】
【表1】

【0027】
表1には、得られたニオブ酸リチウム単結晶の添加物の含有率をEPMAにて測定した結果が示され、主成分の一致溶融組成のニオブ酸リチウム(Li2O=48.6mol% 、Nb25 =51.2mol%)に対してのGeO2、ZrO2、TiO2、SnO2を0.1mol%〜6mol%添加した秤量組成(融液の組成に相当)と得られたニオブ酸リチウム単結晶との関係が示されている。表1から、3.0mol%の添加物を含有するニオブ酸リチウム単結晶を得るために3.0mol%より多い5.0mol%以下の添加物含有量が原料融液内になければならないことがわかる。
【0028】
表2は、GeO2を添加したニオブ酸リチウム単結晶におけるエッチングレートと電気機械結合係数k31を示す表である。
【0029】
【表2】

【0030】
表3は、ZrO2を添加したニオブ酸リチウム単結晶におけるエッチングレートと電気機械結合係数k31を示す表である。
【0031】
【表3】

【0032】
表4は、TiO2を添加したニオブ酸リチウム単結晶におけるエッチングレートと電気機械結合係数k31を示す表である。
【0033】
【表4】

【0034】
表5は、SnO2を添加したニオブ酸リチウム単結晶のエッチングレートと電気機械結合係数k31を示す表である。
【0035】
【表5】

【0036】
表2、表3、表4、表5に示された結果より、どの添加物においても同様な傾向が見られた。0.1mol%の添加物の添加でも、エッチングレートは非常に大きな値を示した。また、添加物の添加量の増加に対してエッチングレートは増加した。どの添加物においても3.0mol%を超えた添加量では、電気機械結合係数k31が20%未満になり、どの添加物の添加量に対しても電気機械結合係数k31の減少幅も大きくなった。
【0037】
添加物GeO2、ZrO2、TiO2、SnO2の陽イオンは、ニオブ酸リチウムのBサイト元素のNb5+のイオン半径に近く、ニオブ酸リチウムのBサイトに位置し、+4価の価数をとる。これらの添加物の陽イオンにより、ニオブ酸リチウム単結晶のAサイト、Bサイトの原子数の不一致による原子空孔またはBサイトイオンの価数の不一致により、価数バランスが悪化し、ニオブ酸リチウム単結晶に元素間の結合力が弱まる場所が発生する。ニオブ酸リチウム単結晶に元素間の結合力が弱まる場所は、添加量を増やすことで、エッチングが容易で、エッチングレートも増大する。
【0038】
実施例1により、GeO2、ZrO2、TiO2、SnO2の少なくとも一種以上の添加物を含有し、GeO2、ZrO2、TiO2、SnO2の少なくとも一種以上の添加物の合計含有量が、0.1mol%以上で、3.0mol%以下であるニオブ酸リチウム単結晶の場合に、電気機械結合係数k31が20%以上の良好な特性が得られ、エッチングが容易になることがわかる。また、上記の良好なニオブ酸リチウム単結晶を融液成長させるために、原料融液中の添加物量が0.1mol%以上で、5.0mol%以下にする必要があることがわかる。
【0039】
上述の工程を、ニオブ酸リチウム単結晶の製造方法の工程に含めることで0.19μm/min以上の高速なエッチングレートを実現し、工程時間の短縮が可能となる。
【0040】
(実施例2)
実施例2により表を用いて本発明の効果を以下に説明する。表6は、GeO2を3mol%添加したニオブ酸リチウム単結晶のエッチング液とその温度に対するエッチングレートを示す表である。
【0041】
【表6】

【0042】
エッチングレートとエッチング液の組成、温度の関係を調査したところ、エッチングレートは、高温にするほど高くなるので、エッチングが良好である温度の下限温度を実験で決定した。この実験方法を以下に説明する。
【0043】
フッ酸と硝酸、およびそれぞれを同量混合した溶液と水を1対1の割合で希釈した溶液をエッチング液として用いた。温度は40℃から70℃まで10℃単位で行った。エッチング液を各温度に保ち、その中に本発明の実施するための最良の形態で示したニオブ酸リチウム単結晶の板状試料を浸し、攪拌することでエッチングを行なった。エッチング時間は2時間である。エッチングレートは、エッチング前後のZ軸方向の試料厚み変化から計算した。
【0044】
ニオブ酸リチウム単結晶の温度40℃と50℃でのエッチング液の違いによるエッチングレートが表6に示されている。どのエッチング溶液においても、40℃ではエッチングレートは、0.05μm/min以下と非常に小さいのに対し、50℃ではエッチングレートが急激に大きくなった。50℃以上の温度ではさらにエッチングレートが増大した。
【0045】
なお、ここでは表に結果を示していないが、他のZrO2、TiO2、SnO2の添加物を添加したニオブ酸リチウム単結晶でも同様な効果を奏した。
【0046】
実施例2より、温度50℃以上のフッ酸、硝酸及びそれらの混合液と水とを混合した溶液中に上述のニオブ酸リチウム単結晶を浸し、溶液を攪拌することで大きなエッチングレートが得られることがわかる。
【0047】
上述の工程を、ニオブ酸リチウム単結晶の製造方法の工程に含めることで0.19μm/min以上の高速なエッチングレートを実現し、工程時間の短縮が可能になる。
【0048】
以上に示したように、本発明により、エッチングレートが速く、電気機械結合係数が大きいニオブ酸リチウム単結晶およびその製造方法の提供が可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニオブ酸リチウム単結晶において、GeO2、ZrO2、TiO2、SnO2の少なくとも一種以上の添加物を含有し、前記GeO2、ZrO2、TiO2、SnO2の少なくとも一種以上の添加物の合計含有量が、0.1mol%以上で、3.0mol%以下であることを特徴とするニオブ酸リチウム単結晶。
【請求項2】
温度50℃以上のフッ酸、硝酸及びそれらの混合液と水とを混合した溶液中に浸し、溶液を攪拌させるウェットエッチング方法によるエッチングレートが、0.19μm/min以上であることを特徴とする請求項1記載のニオブ酸リチウム単結晶。
【請求項3】
ニオブ酸リチウム単結晶の製造方法において、GeO2、ZrO2、TiO2、SnO2の少なくとも一種以上の添加物を含有し、前記GeO2、ZrO2、TiO2、SnO2の少なくとも一種以上の添加物の合計含有量が、0.1mol%以上で、5.0mol%以下である前記ニオブ酸リチウム単結晶の融液より、種結晶を用いて冷却して固化することで単結晶を成長させる工程を含むことを特徴とするニオブ酸リチウム単結晶の製造方法。
【請求項4】
温度50℃以上のフッ酸、硝酸及びそれらの混合液と水とを混合した溶液中に前記ニオブ酸リチウム単結晶を浸し、前記溶液を攪拌するウェットエッチング工程を含むことを特徴とする請求項3記載のニオブ酸リチウム単結晶のエッチング方法。

【公開番号】特開2007−169074(P2007−169074A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−364261(P2005−364261)
【出願日】平成17年12月19日(2005.12.19)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】