説明

ハイブリッド自動車

【課題】内燃機関を始動する際の振動の発生を抑制する。
【解決手段】エンジンを始動する際に、クランキングトルクTmbのトルクレートΔTmbが正の閾値A1よりも大きい状態が所定時間以上に亘って継続し且つ制振トルクTmvの位相とトルクレートΔTmbの符号とが共に正で一致しているときや、トルクレートΔTmbが負の閾値B1未満の状態が所定時間以上に亘って継続し且つ制振トルクTmvの位相とトルクレートΔTmbの符号とが共に負で一致しているときには、値0よりも大きく値1よりも小さい補正ゲインGA,GBを乗じて制振トルクTmvを補正し(S140〜S220)、クランキングトルクTmbと制振トルクTmvとの和のトルクをモータMG1から出力すべきトルク指令Tm1*に設定する(S240)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車軸に連結された駆動軸に動力を出力可能な内燃機関と、ねじれ要素を介して前記内燃機関の出力軸に接続され該内燃機関をクランキング可能な電動機と、前記内燃機関の始動が要求されたときに、該内燃機関の始動を開始してから完爆に至るまでの複数の期間のそれぞれで異なるトルクレートをもって該内燃機関をクランキングするためのクランキングトルクと該内燃機関の回転に伴って生じる振動を抑制するための制振トルクとを設定すると共に該設定したクランキングトルクと制振トルクとの和のトルクが前記電動機から出力されるよう該電動機を駆動制御する始動時制御手段とを備えるハイブリッド自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のハイブリッド自動車としては、エンジンと、第1モータと、第2モータと、サンギヤが第1モータの回転軸に接続されキャリアがエンジンの出力軸に接続されリングギヤが第2モータに接続された遊星歯車機構として構成された動力分割手段と、を備え、エンジンを始動するときには、エンジンの回転に起因する脈動トルクを抑制するための制振トルクを演算し、クランキングトルクに制振トルクを付加したトルクによりエンジンがクランキングされるよう第1モータを駆動制御するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−167908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述したハイブリッド自動車では、共振を生じさせる共振回転数帯を素早く通過させたり初爆のショックを抑制させたりするために、始動の開始から完爆に至るまでの各期間で異なるトルクレートをもってクランキングトルクを変化させることが好ましい。しかしながら、クランキングトルクが急変したときに、クランキングトルクと制振トルクの変化の方向が同期すると、却って振動が助長され、ショックが発生してしまう場合がある。
【0005】
本発明のハイブリッド自動車は、内燃機関を始動する際の振動の発生を抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のハイブリッド自動車は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明のハイブリッド自動車は、
車軸に連結された駆動軸に動力を出力可能な内燃機関と、ねじれ要素を介して前記内燃機関の出力軸に接続され該内燃機関をクランキング可能な電動機と、前記内燃機関の始動が要求されたときに、該内燃機関の始動を開始してから完爆に至るまでの複数の期間のそれぞれで異なるトルクレートをもって該内燃機関をクランキングするためのクランキングトルクと該内燃機関の回転に伴って生じる振動を抑制するための制振トルクとを設定すると共に該設定したクランキングトルクと制振トルクとの和のトルクが前記電動機から出力されるよう該電動機を駆動制御する始動時制御手段とを備えるハイブリッド自動車において、
前記始動時制御手段は、前記クランキングトルクのトルクレートの絶対値が所定値以上となる期間で、前記制振トルクとして前記クランキングトルクの変化の方向と同位相側の成分を逆位相側の成分よりも小さくしたトルクを設定する手段である
ことを要旨とする。
【0008】
この本発明のハイブリッド自動車では、内燃機関の始動が要求されたときに内燃機関の始動を開始してから完爆に至るまでの複数の期間のそれぞれで異なるトルクレートをもって内燃機関をクランキングするためのクランキングトルクと内燃機関の回転に伴って生じる振動を抑制するための制振トルクとを設定すると共に設定したクランキングトルクと制振トルクとの和のトルクが第1の電動機から出力されるよう第1の電動機を駆動制御する。そして、クランキングトルクのトルクレートの絶対値が所定値以上となる期間では、制振トルクとしてクランキングトルクの変化の方向と同位相側の成分を逆位相側の成分よりも小さくしたトルクを設定する。これにより、クランキングトルクに急変が生じても、これに同期する過剰な制振トルクが出力されることがなく、内燃機関を始動する際の振動の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】ハイブリッド用電子制御ユニット70により実行されるエンジン始動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図3】始動時のトルクマップの一例を示す説明図である。
【図4】エンジン22を始動する際のエンジン回転数Neと制振トルクTmvとクランキングトルクTmbの時間変化の様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0011】
図1は、本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、ガソリンや軽油などを燃料とするエンジン22と、エンジン22を燃料噴射制御や点火制御,吸入空気量制御などにより運転するエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)24と、エンジン22の出力軸としてのクランクシャフト26にねじれ要素としてのフライホイールダンパ(以下、ダンパという)28を介してキャリアが接続されると共に駆動輪63a,63bにデファレンシャルギヤ62を介して連結された駆動軸32にリングギヤが接続されたプラネタリギヤ30と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子がプラネタリギヤ30のサンギヤに接続されたモータMG1と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子が駆動軸32に接続されたモータMG2と、モータMG1,MG2を駆動するためのインバータ41,42と、インバータ41,42の図示しないスイッチング素子をスイッチング制御することによってモータMG1,MG2を駆動制御するモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという)40と、例えばリチウムイオン二次電池として構成されてインバータ41,42を介してモータMG1,MG2と電力をやりとりするバッテリ50と、バッテリ50を管理するバッテリ用電子制御ユニット(以下、バッテリECUという)52と、イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号やシフトレバーのポジションを検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジション,車速センサ88からの車速Vなどを入力すると共にエンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と通信して車両全体を制御するハイブリッド用電子制御ユニット70とを備える。なお、エンジンECU24は、クランクシャフト26に取り付けられたクランクポジションセンサ23により検出されたクランク角CAを入力すると共に入力したクランク角CAに基づいてクランクシャフト26の回転数即ちエンジン22の回転数Neも演算している。また、モータECU40は、モータMG1,MG2の回転位置を検出する回転位置検出センサからの信号に基づいてモータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2を演算している。さらに、バッテリECU52は、バッテリ50を管理するために電流センサにより検出された充放電電流の積算値に基づい残容量(SOC)を演算したり、演算した残容量(SOC)とバッテリ50の温度Tbとに基づいてバッテリ50を充放電してもよい最大許容電力である入出力制限Win,Woutを演算したりしている。
【0012】
こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20は、基本的には、ハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される以下に説明する駆動制御によって走行する。ハイブリッド用電子制御ユニット70は、まず、アクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accと車速センサ88からの車速Vとに応じて走行のために駆動軸32に要求される要求トルクTr*を設定し、要求トルクTr*に駆動軸32の回転数(例えば、モータMG2の回転数Nm2や車速Vに換算係数を乗じて得られる回転数)を乗じて走行に要求される走行用パワーPdrv*を計算する。続いて、バッテリ50の残容量(SOC)に基づいて設定されるバッテリ50を充放電するのに必要なパワーとしての充放電要求パワーPb*と走行用パワーPdrv*と損失Lossとの和としてエンジン22から出力すべき要求パワーPe*を計算する。そして、要求パワーPe*をエンジン22を始動したり停止したりするための始動停止閾値と比較し、エンジン22の運転を停止しているときに要求パワーPe*が始動停止閾値以上となったときにはエンジン22を始動し、エンジン22を運転しているときに要求パワーPe*が始動停止閾値未満となったときにはエンジン22の運転を停止する。
【0013】
エンジン22の運転を継続しているときやエンジン22を始動した後は、要求パワーPe*を効率よくエンジン22から出力することができるエンジン22の回転数とトルクとの関係としての動作ライン(例えば燃費最適動作ライン)を用いてエンジン22の目標回転数と目標トルクとを設定し、バッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内で、エンジン22の回転数Neが目標回転数となるようにするための回転数フィードバック制御によりモータMG1から出力すべきトルクとしてのトルク指令を設定する。次に、要求トルクTr*からモータMG1をトルク指令で駆動したときにプラネタリギヤ30を介して駆動軸32に作用するトルクを減じて得られるトルクをモータMG2のトルク指令として設定する。そして、設定したエンジン22の目標回転数と目標トルクとについてはエンジンECU24に送信し、モータMG1,MG2のトルク指令についてはモータECU40に送信する。目標回転数と目標トルクとを受信したエンジンECU24は、目標回転数と目標トルクとによってエンジン22が運転されるようエンジン22の吸入空気量制御や燃料噴射制御,点火制御などを実行し、モータMG1,MG2のトルク指令を受信したモータECU40は、モータMG1,MG2がトルク指令で駆動されるようインバータ41,42のスイッチング素子をスイッチング制御する。これにより、アクセル開度Accに対応する走行用パワーPdrv*を出力して要求トルクTr*により走行すること(以下、ハイブリッド走行という)ができる。
【0014】
一方、エンジン22の運転停止を継続しているときやエンジン22の運転を停止した後は、モータMG1のトルク指令に値0を設定すると共にバッテリ50の入出力制限の範囲内で要求トルクTr*をモータMG2のトルク指令に設定し、設定したモータMG1,MG2のトルク指令をモータECU40に送信する。モータMG1,MG2のトルク指令を受信したモータECU40は、モータMG1,MG2がトルク指令で駆動されるようインバータ41,42のスイッチング素子をスイッチング制御する。これにより、エンジン22の運転を停止してモータMG2からの動力のみを用いて要求トルクTr*により走行すること(以下、モータ走行という)ができる。実施例のハイブリッド自動車20は、こうした制御により、エンジン22の間欠運転を伴ってバッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内でバッテリ50を充放電しながらアクセル開度Accに対応する走行用パワーPdrv*を駆動軸32に出力して要求トルクTr*により走行する。
【0015】
次に、こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20の動作、特に、エンジン22を始動する際の動作について説明する。図2は、ハイブリッド用電子制御ユニット70により実行されるエンジン始動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、前述したように、要求パワーPe*が始動閾値以上となったときに実行される。
【0016】
エンジン始動制御ルーチンが実行されると、ハイブリッド用電子制御ユニット70のCPU72は、まず、エンジン22のクランク角CAや回転数NeをエンジンECU24から通信により入力し(ステップS100)、図3に例示する始動時のトルクマップとエンジン22の始動開始からの経過時間tとに基づいてクランキングトルクTmbを設定する(ステップS110)。図3のトルクマップでは、図示するように、エンジン22の始動指示がなされた時刻t1の直後からレート処理を用いて迅速に比較的大きなトルクをクランキングトルクに設定してエンジン22の回転数Neを迅速に増加させる。続いて、エンジン22の回転数Neが共振回転数帯を通過したか共振回転数帯を通過するのに必要な時間以降の時刻t3に、エンジン22を安定して所定回転数Nref(燃料噴射制御や点火制御を開始する回転数)以上でモータリングすることができるトルク(クランキングトルクTmb)にまでレート処理を用いて減少させ、電力消費や駆動軸32における反力を小さくする。そして、エンジン22の回転数Neが所定回転数Nrefに至った時刻t5からレート処理を用いて迅速にクランキングトルクTmbを値0とし、エンジン22の完爆が判定された時刻t6に終了する。このようにエンジン22の始動指示がなされた直後に大きなトルクをクランキングトルクTmbに設定してエンジン22をモータリングすることにより、迅速にエンジン22を所定回転数Nref以上に回転させて始動させることができる。
【0017】
クランキングトルクTmbを設定すると、次に、エンジン22の回転に伴って生じるトルク脈動を抑制するための制振トルクTmvを設定する(ステップS120)。ここで、制振トルクTmvは、エンジン22の回転に伴って生じるトルク脈動に対してモータMG1から出力する逆位相のトルクとして設定されるものであり、実施例では、クランク角CAと制振トルクTmvとの関係を予め実験などにより定めてマップとしてROMに記憶しておき、クランク角CAが与えられるとマップから対応する制振トルクTmvを導出して設定するものとした。
【0018】
制振トルクTmvを設定すると、今回設定したクランキングトルクTmbから前回このルーチンで設定したクランキングトルク(前回Tmb)を減じてトルクレートΔTmbを演算し(ステップS130)、演算したトルクレートΔTmbが閾値A1よりも大きいか否かを判定し(ステップS140)、トルクレートΔTmbが閾値A1よりも大きいときにはその状態が所定時間(例えば、数十msec)以上に亘って継続しているか否かを判定する(ステップS150)。ここで、閾値A1は、クランキングトルクTmbの急増を判定するための正の閾値であり、図3の例では、時刻t1〜時刻t2の期間でトルクレートΔTmbが閾値A1よりも大きくなる。トルクレートΔTmbが閾値A1よりも大きく且つその状態が所定時間以上に亘って継続しているときには、制振トルクTmvが閾値A2よりも大きいか否かを判定する(ステップS160)。ここで、閾値A2は、制振トルクTmvの位相の符号とトルクレートΔTmbの符号とが共に正で一致しているか否かを判定するための閾値であり、値0や値0よりも若干大きい値として予め定められている。制振トルクTmvが閾値A2よりも大きいときには、値0よりも大きく値1よりも小さい所定値GAを補正ゲインGadjに設定し(ステップS170)、ステップS120で設定した制振トルクTmvに補正ゲインGadjを乗じることにより制振トルクTmvを補正する(ステップS180)。なお、トルクレートΔTmbが閾値A1よりも大きいがその状態が所定時間以上に亘って継続していないときや、制振トルクTmvが閾値A2以下のときには、上述した制振トルクTmvの補正を行なうことなく、次の処理に進む。
【0019】
一方、ステップS140でトルクレートΔTmbが閾値A1以下と判定されたときには、トルクレートΔTmbが閾値B1未満であるか否かを判定し(ステップS190)、トルクレートΔTmbが閾値B1未満のときにはその状態が所定時間(例えば、数十msec)以上に亘って継続しているか否かを判定する(ステップS200)。ここで、閾値B1は、クランキングトルクTmbの急減を判定するための負の閾値であり、図3の例では、時刻t3〜t4の期間でトルクレートΔTmbが閾値B1未満となる。トルクレートΔTmbが閾値B1未満で且つその状態が所定時間以上に亘って継続しているときには、制振トルクTmvが閾値B2未満か否かを判定する(ステップS210)。ここで、閾値B2は、制振トルクTmvの位相の符号とトルクレートΔTmbの符号が共に負で一致しているか否かを判定するための閾値であり、値0や値0よりも若干小さい値として予め定められている。制振トルクTmvが閾値B2未満のときには、値0よりも大きく値1よりも小さい所定値GBを補正ゲインGadjに設定し(ステップS220)、ステップS120で設定した制振トルクTmvに補正ゲインGadjを乗じることにより制振トルクTmvを補正する(ステップS180)。なお、トルクレートΔTmbが閾値B1以上のときや、トルクレートΔTmbが閾値B1未満であるがその状態が所定時間以上に亘って継続していないとき、制振トルクTmvが閾値B2以上のときには、制振トルクTmvの補正を行なうことなく、次の処理に進む。
【0020】
こうして制振トルクTmvが確定すると、クランキングトルクTmbと制振トルクTmvとの和をモータMG1から出力すべきトルク指令Tm1*に設定し(ステップS230)、設定したトルク指令Tm1*をモータECU40に送信する(ステップS240)。これにより、トルク指令Tm1*を受信したモータECU40は、モータMG1がトルク指令Tm1*で駆動されるようインバータ41のスイッチング素子をスイッチング制御する。なお、図示しないが、モータMG2については、モータMG1をトルク指令Tm1*で駆動したときにプラネタリギヤ30を介して駆動軸32に作用するトルクをキャンセルするトルクをモータMG2のトルク指令Tm2*として設定し、モータMG2が設定したトルク指令Tm2*で駆動されるようインバータ42のスイッチング素子をスイッチング制御する。そして、エンジン22の回転数Neが所定回転数Nref以上か否かを判定する(ステップS250)。エンジン22の回転数Neが所定回転数Nref未満のときには、ステップS110に戻ってステップS110〜S250の処理を繰り返し実行し、エンジン22の回転数Neが所定回転数Nref以上のときには、燃焼噴射制御と点火制御とが開始されるようエンジンECU24に指令信号を送信する(ステップS260)。エンジン22の燃料噴射制御と点火制御とが開始されると、エンジン22が完爆したと判定されるまで(ステップS270)、ステップS110に戻ってステップS110〜S260の処理を繰り返し実行し、エンジン22が完爆すると、これで本ルーチンを終了する。
【0021】
図4は、エンジン22を始動する際のエンジン回転数Neと制振トルクTmvとクランキングトルクTmbの時間変化の様子を示す説明図である。図示するように、時刻t3〜t4の期間では、エンジン22の回転数Neが共振回転数帯を通過しているため、クランキングトルクTmbをエンジン22を安定回転させるために必要なトルクにまでレート処理で急減させる。このとき、制振トルクTmvが負の位相側(負の値)に振れていると、クランキングトルクTmbと制振トルクTmvとの和のトルクとして設定されるモータMG1のトルク指令Tm1*は、クランキングトルクTmbの急減よりも大きなレートをもって急減する結果となり、却ってショックが発生する場合がある。実施例では、クランキングトルクTmbが急変する期間(図3の例では、時刻t1〜t2の期間や時刻t3〜t4の期間)では、制振トルクTmvを、クランキングトルクTmbの変化の方向(トルクレートΔTmbの符号)と同位相の成分が逆位相の成分よりも小さくるよう補正ゲインGadjを用いて補正するから、モータMG1のトルク指令Tm1*の過剰な変化を抑制しつつ、より適切に制振制御を実行することができる。
【0022】
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20によれば、エンジン22を始動する際に、クランキングトルクTmbのトルクレートΔTmbが正の閾値A1よりも大きい状態が所定時間以上に亘って継続し且つ制振トルクTmvの位相とトルクレートΔTmbの符号とが共に正で一致しているときや、トルクレートΔTmbが負の閾値B1未満の状態が所定時間以上に亘って継続し且つ制振トルクTmvの位相とトルクレートΔTmbの符号とが共に負で一致しているときには、値0よりも大きく値1よりも小さい補正ゲインGA,GBを乗じて制振トルクTmvを補正し、クランキングトルクTmbと制振トルクTmvとの和のトルクをモータMG1から出力すべきトルク指令Tm1*に設定するから、モータMG1のトルク指令Tm1*の過剰な変化を抑制しつつ、より適切に制振制御を実行することができる。この結果、エンジン22を始動する際のエンジン22の回転により生じるトルク脈動をより適切に抑制することができる。
【0023】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、エンジン22が「内燃機関」に相当し、モータMG1が「電動機」に相当し、エンジン22を始動する際に、クランキングトルクTmbのトルクレートΔTmbが正の閾値A1よりも大きい状態が所定時間以上に亘って継続し且つ制振トルクTmvの位相とトルクレートΔTmbの符号とが共に正で一致しているときや、トルクレートΔTmbが負の閾値B1未満の状態が所定時間以上に亘って継続し且つ制振トルクTmvの位相とトルクレートΔTmbの符号とが共に負で一致しているときには、それぞれ値0よりも大きく値1よりも小さい補正ゲインGA,GBを乗じて制振トルクTmvを補正し、クランキングトルクTmbと制振トルクTmvとの和のトルクをモータMG1から出力すべきトルク指令Tm1*に設定してモータECU40に送信し、エンジン22の回転数Neが所定回転数Nrefに至ったときに燃料噴射制御と点火制御とを開始するようエンジンECU24に指令信号を送信する図2のエンジン始動制御ルーチンを実行するハイブリッド用電子制御ユニット70とトルク指令Tm1*を受信したモータECU40がトルク指令Tm1*でモータMG1を制御するモータECU40と燃料噴射制御と点火制御とを実行するエンジンECU24とが「始動時制御手段」に相当する。
【0024】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0025】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、ハイブリッド自動車の製造産業に利用可能である。
【符号の説明】
【0027】
20 ハイブリッド自動車、22 エンジン、23 クランクポジションセンサ、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、26 クランクシャフト、28 フライホールダンパ(ダンパ)、30 プラネタリギヤ、32 駆動軸、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41,42 インバータ、50 バッテリ、62 デファレンシャルギヤ、63a,63b 駆動輪、70 ハイブリッド用電子制御ユニット、80 イグニッションスイッチ、82 シフトポジションセンサ、84 アクセルペダルポジションセンサ、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、MG1,MG2 モータ。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
車軸に連結された駆動軸に動力を出力可能な内燃機関と、ねじれ要素を介して前記内燃機関の出力軸に接続され該内燃機関をクランキング可能な電動機と、前記内燃機関の始動が要求されたときに、該内燃機関の始動を開始してから完爆に至るまでの複数の期間のそれぞれで異なるトルクレートをもって該内燃機関をクランキングするためのクランキングトルクと該内燃機関の回転に伴って生じる振動を抑制するための制振トルクとを設定すると共に該設定したクランキングトルクと制振トルクとの和のトルクが前記電動機から出力されるよう該電動機を駆動制御する始動時制御手段とを備えるハイブリッド自動車において、
前記始動時制御手段は、前記クランキングトルクのトルクレートの絶対値が所定値以上となる期間で、前記制振トルクとして前記クランキングトルクの変化の方向と同位相側の成分を逆位相側の成分よりも小さくしたトルクを設定する手段であることを特徴とする
ハイブリッド自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−171448(P2012−171448A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34256(P2011−34256)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】