説明

バイオマス炭化・ガス化システムおよび炭化・ガス化方法

【課題】生成ガス発熱量の低下とタール分発生とを防ぎ、ガス化効率を高める。
【解決手段】バイオマス燃料1を加熱して炭化物4を生成する炭化装置2と、この炭化物4をガス化する高温ガス化部8および炭化物生成時に揮発したタールを含む可燃性熱分解ガス3の改質を行うガス改質部9からなる2段式のガス化炉7と、炭化装置2で生成された炭化物4をガス化炉7の高温ガス化部8に供給する炭化物供給手段13と、炭化装置2で生成された可燃性熱分解ガス3をガス化炉7のガス改質部9に送り込むための熱分解ガス流路12と、通常時は高温ガス化部8にガス化剤5を供給するとともにガス化炉7の出口温度が一定温度以下になる場合またはそのおそれがある場合にはガス改質部9に酸素を含んだガス化剤6を供給するガス化剤供給手段14とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオマス炭化・ガス化システムおよび炭化・ガス化方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、例えば農林・畜産・水産物資源およびその残さ物、建築廃材、食品廃棄物、汚泥等といった特に高含水率のバイオマスを炭化・ガス化し、得られた生成ガスを用いてガスエンジン等で高効率に発電する技術の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化・ガス化方式に関し、炭化装置にて生成された炭化物(炭化チャー)をガス化炉に投入し、空気、および水蒸気でガス化する技術が普及している(例えば、特許文献1参照)。この炭化・ガス化方式の場合、ガス化炉に投入される燃料が炭化処理され、バイオマス中の水分が除去されているとともに、炭化物中には適量の揮発分を含んでいることになるため、炭化装置からガス化炉への投入炭化物に対するガス化効率が高いという特長がある。
【0003】
また、炭化処理を行わず、バイオマスを直接ガス化炉にスクリューフィーダ等で供給してガス化するとともに、当該ガス化炉の後流に設けられた改質部に空気または酸素、水蒸気を投入し、ガス化炉で生成されるタールを分解するというシステムが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−35837号公報
【特許文献2】特開2003−326241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来例においては、炭化物の水分が除去されていることからすれば当該炭化物のガス化効率は高いと予想されるものの、炭化装置で副生される(つまり副次的に生成される)可燃性の熱分解ガスを利用していないために、炭化装置への燃料投入量の割にはガス化効率はそれほど高いわけではない。
【0006】
また、炭化処理をせずにバイオマスを直接ガス化炉に投入してガス化を行うと、含有水分が多いためにガス化炉内の温度は600〜1000℃程度にとどまり、多くの場合、タールが生成し、配管に固着するトラブルに見舞われる。そこでこれを防ぐ手段の一つとして、蒸気賦活することによりタール分を分解するという対策がとられる。ところが、様々な種類のバイオマスが混合している場合、400〜450℃程度の蒸気では生成したタール分を完全に分解することが困難である。よって、固着したタール分を別途の装置にて洗浄する必要性が生じ、そこに含まれる炭素や水素を系外に排出してしまうことになるため、結果的に生成ガスのトータル発熱量の低下につながっている。また、酸素にてタール分を分解する方式がとられることもあるが、この方法もまた、生成ガス発熱量の低下につながる。
【0007】
そこで、本発明は、生成ガス発熱量の低下とタール分発生とを防ぎ、ガス化効率を高めることのできるバイオマス炭化・ガス化システムおよび炭化・ガス化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するため、本発明者は種々の検討を行った。まず、ガス化性能予測計算ソフトを開発し(実施例1参照)、これを用いて炭化・ガス化技術の性能予測を行ったところ、以下の結果を得た。すなわち、炭化装置で生成される炭化物および可燃性熱分解ガス(揮発ガス)をガス化炉に投入する際の方式として、これらを一括してガス化炉に投入する「1段投入方式」と、高温ガス化部(コンバスタ)とガス改質部(リダクタ)の2段に分けられた2段式のガス化炉に各々を分けて投入する「2段投入方式」とが考えられるが、このうち、後者の2段投入方式は、炭化物を高温ガス化部へ、可燃性熱分解ガスをガス改質部へとそれぞれ投入し、ガス化剤(空気または酸素)を高温ガス化部のみに投入することで、全体酸素比を低く抑え、しかも高い熱効率でガス化を行うことができ、さらにはガス化剤の量も少なくて済むことが明らかになった。
【0009】
ただし、2段投入方式には、炭化装置における可燃性熱分解ガスの発生量によってガス化炉の出口(すなわちガス改質部の出口)の温度が変化するという特徴もある。例えば可燃性熱分解ガスの流量が多くなると出口温度の低下が起こり、これによってタールが発生するおそれが生じる。このようにしてタールが発生するのを抑えるという観点からすればガス化炉の出口温度は所定値以上に維持されていることが望ましい。
【0010】
以上のような状況下、本発明者は、炭化装置で分離される粉状の高品位チャー(炭化物)と熱分解ガスとを、タール分解とガス改質が可能な高温ガス化炉に投入する方式に関してガス化性能予測計算ソフトを用いて検討し、その結果、2段式投入方式の特長を損なうことなくタール発生という問題を解消することのできる技術を知見するに至った。本発明はかかる知見に基づくもので、請求項1記載の発明は、木質系バイオマス、都市ゴミ等の廃棄物系バイオマスおよびこれらの混合バイオマス等のバイオマス燃料を熱分解して炭化しさらにガス化するバイオマス炭化・ガス化システムにおいて、バイオマス燃料を加熱して炭化物を生成する炭化装置と、この炭化物をガス化する高温ガス化部および炭化物生成時に揮発したタールを含む可燃性熱分解ガスの改質を行うガス改質部からなる2段式のガス化炉と、炭化物をガス化炉の高温ガス化部に供給する炭化物供給手段と、炭化装置で生成された可燃性熱分解ガスをガス化炉のガス改質部に送り込むための熱分解ガス流路と、通常時は高温ガス化部にガス化剤を供給するとともにガス化炉の出口温度が一定温度以下になる場合またはそのおそれがある場合にはガス改質部に酸素を含んだガス化剤を供給するガス化剤供給手段とを備えることを特徴としている。
【0011】
上述したとおり検討を繰り返した結果、本発明者は、2段投入方式の特長を損なうことなくタール発生を効果的に防止するためには、可燃性熱分解ガス流量が多いときにはガス改質部にもガス化剤を投入し、可燃性熱分解ガスとの燃焼反応を起こしてガス温度の低下を防ぐ方法が有効であることを明らかにした。こうした場合には、ガス化炉のガス改質部内においていわば再燃あるいは追い焚き現象が起こり、温度が所定値よりも低くならずに維持されるようになる。
【0012】
また、タールが生成して配管に固着するというトラブルを回避する観点からすれば、ガス化炉出口の一定温度は、一例として、請求項2に記載のように1100℃に設定することができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の炭化・ガス化システムが、ガス化剤供給手段は分岐管を備え、高温ガス化部とガス改質部の両方に酸素を含んだガス化剤を供給可能な装置からなるというものである。この装置によれば、通常時(つまり炭化・ガス化システムの通常運転時)には高温ガス化部にのみガス化剤を供給し、ガス化炉の出口温度が一定温度以下になる場合またはそのおそれがある場合には高温ガス化部に加えてガス改質部にもガス化剤を供給するというように、炉内の状況に応じてガス化剤の供給状態が選択的に切り換えられる。
【0014】
また、請求項4に記載の発明は、木質系バイオマス、都市ゴミ等の廃棄物系バイオマスおよびこれらの混合バイオマス等のバイオマス燃料を熱分解して炭化しさらにガス化するバイオマス炭化・ガス化方法において、炭化装置にてバイオマス燃料を加熱して炭化物を生成し、該炭化物を2段式のガス化炉の高温ガス化部に供給してガス化する一方、炭化物生成時に揮発したタールを含む可燃性熱分解ガスをガス化炉のガス改質部に送り込んで改質し、さらに、通常時は高温ガス化部にガス化剤を供給することに加えガス化炉の出口温度が一定温度以下になる場合またはそのおそれがある場合にはガス改質部に酸素を含んだガス化剤を供給することを特徴とするものである。
【0015】
このバイオマス炭化・ガス化方法においては、炭化装置にて生成した炭化物(炭化チャー)をガス化炉の高温ガス化部(コンバスタ)に燃料として投入し、これと同時にガス化剤として空気または酸素を同じく高温ガス化部に投入してガス化を行う(図1参照)。この場合、炭化処理された炭化物は、バイオマス中の水分が除去された状態となっていることから、高温ガス化部中でタール分解温度である1100℃を超える1500℃以上の高温ガス雰囲気を作り出すことが可能である。さらに、炭化装置にて副生される水分を含んだ可燃性熱分解ガスは、ガス改質部(リダクタ)に投入され、炭化装置に投入されるバイオマス全量に対するガス化効率を高めてタール分のない高熱量の生成ガスが得られるようにする。
【0016】
ここで、バイオマス種によっては固定炭素が少なく、炭化装置において得られる炭化物の割合が少ない反面、副生される熱分解ガスの割合が多いというものがある。このとき、高温ガス化部からガス改質部へと流れる1500℃以上の高温ガスに対して、炭化装置からガス改質部に供給される400〜600℃の熱分解ガスの流量が多くなり、ガス改質部において急激な温度低下が生じ、タール分解温度である1100℃よりも低い温度となる。このような場合、あるいはこのように一定温度を下回るおそれがある場合には、それまで高温ガス化部にのみ投入されていたガス化剤(空気または酸素)をガス改質部にも投入する(図1参照)。こうした場合にガス改質部内で起こる燃焼はいわば再燃あるいは追い焚きであり、これによってガス改質部の温度が上昇する。
【発明の効果】
【0017】
請求項1記載のバイオマス炭化・ガス化システムによると、ガス化炉出口の温度が一定温度(タール発生が懸念される温度)を下回る場合またはそのおそれがある場合であっても、このタイミングに合わせて供給されるガス化剤がガス改質部内にて燃焼反応を生じさせて温度を上昇させる。これによればガス化炉出口の温度も上昇することとなるため、2段式投入方式の特長を損なうことなくガス化炉出口でタールが発生するのを効果的に抑制することができる。また、固着したタール分を別途の装置にて洗浄する必要性もなく、このことも生成ガス発熱量の低下防止に寄与することになる。加えて、酸素によるタール分解といったような、生成ガス発熱量の低下の一因となる分解方式を採用する必要もない。しかも、炭化装置で副生される可燃性の熱分解ガスを利用する構成となるため、そうでない従来の炭化・ガス化システム(つまり可燃性熱分解ガスを利用していないシステム)と比較して高いガス化効率を達成することができる。
【0018】
請求項2記載のバイオマス炭化・ガス化システムによると、ガス化出口がタール分解温度である1100℃よりも低い温度となるのを防ぎ、タールが発生して配管に付着するといったトラブルを回避することができる。
【0019】
請求項3記載のバイオマス炭化・ガス化システムによると、高温ガス化部とガス改質部の両方に対し、単一のガス化剤供給装置および分岐管によってガス化剤を供給することを可能としているためシステムの小型化やコスト削減といった点で有利である。
【0020】
また、請求項4記載のバイオマス炭化・ガス化方法によると、ガス化炉出口の温度が一定温度(タール発生が懸念される温度)を下回る場合またはそのおそれがある場合であっても、このタイミングに合わせてガス化剤を供給することによりガス改質部内にて燃焼反応を生じさせ、温度を上昇させることができる。これによればガス化炉出口の温度も上昇することとなるため、2段式投入方式の特長を損なうことなくガス化炉出口でタールが発生するのを効果的に抑制することができる。また、固着したタール分を別途の装置で洗浄したり酸素によって分解したりといった必要がないため、その分だけ生成ガス発熱量の低下防止に寄与することになる。しかも、炭化装置で副生される可燃性の熱分解ガスを利用することになるため、そうでない従来の炭化・ガス化方法(つまり可燃性熱分解ガスを利用しない炭化・ガス化方法)と比較して高いガス化効率を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係るバイオマス炭化・ガス化システムの構成を示す概念図である。
【図2】オリマルジョンガス化試験結果との比較(酸素比0.40)を行った際の実験値と計算値とを示すグラフである。
【図3】酸素吹き1段噴流床炉のガス化性能予測(ガス化剤投入温度50℃)を示すグラフで、酸素比が変化した場合の炭素転換率とガス化炉出口温度の変化を表している。
【図4】酸素吹き1段噴流床炉のガス化性能予測(ガス化剤投入温度50℃)を示すグラフで、酸素比が変化した場合の生成ガス割合と冷ガス効率の変化を表している。
【図5】空気吹き1段噴流床炉のガス化性能予測(空気投入温度250℃)を示すグラフで、酸素比が変化した場合の炭素転換率とガス化炉出口温度の変化を表している。
【図6】酸素吹き1段投入方式のガス化性能予測を示すグラフで、酸素比が変化した場合の炭素転換率とガス化炉出口温度の変化を表している。
【図7】酸素吹き1段投入方式のガス化性能予測を示すグラフで、酸素比が変化した場合の生成ガス割合と冷ガス効率の変化を表している。
【図8】空気吹き1段投入方式のガス化性能予測を示すグラフで、酸素比が変化した場合の炭素転換率とガス化炉出口温度の変化を表している。
【図9】空気吹き1段投入方式のガス化性能予測を示すグラフで、酸素比が変化した場合の生成ガス割合と冷ガス効率の変化を表している。
【図10】空気吹き2段投入方式のガス化性能予測を示すグラフで、酸素比が変化した場合の炭素転換率、コンバスタ出口温度、およびガス化炉出口温度の変化を表している。
【図11】空気吹き2段投入方式のガス化性能予測を示すグラフで、酸素比が変化した場合の生成ガス割合と冷ガス効率の変化を表している。
【図12】ガス改質部への空気投入方式のガス化性能予測(コンバスタ酸素比:0.64)を示すグラフで、酸素比が変化した場合の炭素転換率、コンバスタ出口温度、およびガス化炉出口温度の変化を表している。
【図13】コンバスタ酸素比のガス化性能への影響(全体酸素比:0.20)を示すグラフで、コンバスタ酸素比が変化した場合の炭素転換率、コンバスタ出口温度、およびガス化炉出口温度の変化を表している。
【図14】コンバスタ酸素比のガス化性能への影響(全体酸素比:0.20)を示すグラフで、コンバスタ酸素比が変化した場合の生成ガス割合と冷ガス効率の変化を表している。
【図15】廃棄物の2段投入方式のガス化性能予測を示すグラフで、酸素比が変化した場合の炭素転換率、コンバスタ出口温度、およびガス化炉出口温度の変化を表している。
【図16】廃棄物の2段投入方式のガス化性能予測を示すグラフで、酸素比が変化した場合の生成ガス割合と冷ガス効率の変化を表している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態に基づいて詳細に説明する。
【0023】
図1に本発明の一実施形態を示す。本発明にかかるバイオマス炭化・ガス化システムは、木質系バイオマス、都市ゴミ等の廃棄物系バイオマスおよびこれらの混合バイオマス等のバイオマス燃料1を熱分解して炭化しさらにガス化するためのシステムである。本実施形態のバイオマス炭化・ガス化システムは、バイオマス燃料1を加熱して炭化物4を生成する炭化装置2と、この炭化物4をガス化する高温ガス化部8および炭化物生成時に揮発したタールを含む可燃性熱分解ガス3の改質を行うガス改質部9からなる2段式のガス化炉7と、炭化装置2で生成された炭化物4をガス化炉7の高温ガス化部8に供給する炭化物供給手段13と、炭化装置2で生成された可燃性熱分解ガス3をガス化炉7のガス改質部9に送り込むための熱分解ガス流路12と、通常時は高温ガス化部8にガス化剤5を供給するとともにガス化炉7の出口温度が一定温度以下になる場合またはそのおそれがある場合にはガス改質部9に酸素を含んだガス化剤6を供給するガス化剤供給手段14とを備えた構成となっている(図1参照)。
【0024】
バイオマス燃料1は燃料中の含有水分が高く、また粉砕性が悪いため、噴流床ガス化炉7を用いてガス化を行うには効果的な前処理方式の導入が不可欠である。そこで、本実施形態においては、炭化装置2において、バイオマス燃料1中の水分および揮発分を含んだ可燃性熱分解ガス(揮発ガス)3と、固定炭素や灰分を主成分とした炭化物4とに分離してからガス化炉7に投入するという炭化・ガス化方式を採用している(図1参照)。このように炭化処理とガス化処理とを分離したシステムの場合、ガス化炉7の後段の装置(特に図示はしていないが、例えばガスエンジン、ガスタービン、燃料電池など、供給された生成ガス(図1中では符号10で示している)を利用して発電するとともに当該作動時に排熱を伴う装置)が排出するシステム排熱の供給を受けこれを利用することができる。本実施形態における炭化装置2は、バイオマス燃料1を熱分解し炭化する内側部分と、この内側部分を囲繞するジャケット部(外側部分)2aとからなる二層構造であり(図1参照)、例えば600℃程度の温度である高温排ガス11をジャケット部2aに送り込むことによってこの排熱を利用し、バイオマス燃料1を外側から間接的に加熱し、外気から遮断された無酸素状態の中で水分の蒸発と有機物の熱分解反応により炭化を行う。水分および可燃性熱分解ガス3は連続的に装置外に排出され、炭化物4は底部に残る(図1参照)。
【0025】
炭化装置2で生成される水分および可燃性の熱分解ガス3は連続的に装置外に排出され、熱分解ガス流路12を通じてガス改質部9に送り込まれる(図1参照)。また、炭化装置2の底部に残った炭化物4は、炭化物供給手段13によってガス化炉7の高温ガス化部8に送り込まれる。特に詳しく図示していないが、炭化物供給手段13は例えば炭化物4を送り出すためのスクリューフィーダや流路等によって構成される(図1参照)。
【0026】
ガス化炉7は、炭化装置2から供給される炭化物4、および水分および揮発分を含んだ可燃性熱分解ガス3をガス化反応させ、可燃性ガスであるCO(一酸化炭素)、H(水素)を生成する。
【0027】
ガス化剤供給手段14は、高温ガス化部8へのガス化剤供給状態、あるいはこの高温ガス化部8とガス改質部9の両方へのガス化剤供給状態を選択的に切り換え可能にした手段である。本実施形態のバイオマス炭化・ガス化システムにおいては、このガス化剤供給手段14によって空気または酸素を供給し、高温ガス化部8において、場合によってはこの高温ガス化部8とガス改質部9の両方において燃焼反応を起こさせることとしている(図1参照)。実際のガス化剤供給手段14は例えば空気を送り込む装置や配管などで構成されている。なお、図1においては、高温ガス化部8にガス化剤5を供給するガス化剤供給手段14と、ガス改質部9にガス化剤(空気または酸素)6を供給するガス化剤供給手段14とを便宜的に分けて記載し、さらにガス化剤についても高温ガス化部8に供給される方には符号5、ガス改質部9に供給される方には符号6を付して示しているが、実際に設置されるガス化剤供給手段14はこれには限らない。つまり、ガス化剤供給手段14は図のとおり高温ガス化部8とガス改質部9のそれぞれに設置されていても構わないし、1台の装置だけが設置される態様としても構わない。要するに、通常時は高温ガス化部8にガス化剤5を供給するとともに、必要時にはガス改質部9にもガス化剤(空気または酸素)6を供給できる仕組みになっていれば足りる。例えば、後者のように1台の装置のみ設置する場合には特に図示していないが分岐管を設け、高温ガス化部8へのガス化剤供給状態、あるいはこの高温ガス化部8とガス改質部9の両方へのガス化剤供給状態を選択的に切り換えられるようにすればよい。このように供給管を分岐させるなどして高温ガス化部8とガス改質部9の両方に投入できる構成とした場合、ガス化剤投入を単一の装置で受け持つことができるから、システム小型化やコスト低廉といった利点がある。
【0028】
このようなバイオマス炭化・ガス化システムにおいては、まず、炭化装置2に供給されたバイオマス燃料1が、当該装置内で例えば600℃程度の温度で十分に時間を費やして間接的に熱分解されて炭化される。この場合、炭化に必要な熱量は、ガス化炉7の後段の発電装置(ガスエンジン等)の高温排ガス11が有するシステム排熱を利用してまかなうことができる。こうした場合、高い排熱を利用してバイオマス燃料1が含有している水分を十分に除去することができるのみならず、バイオマス燃料1を利用した発電システム全体としてエネルギーを有効活用して高効率なシステムを構築することが可能となる。バイオマス燃料1が炭化する際、水分および揮発分は炭化装置2の上部より装置外へと排出され、熱分解ガス流路12を通じてガス改質部9へと送り込まれる。ここで、バイオマス燃料1を熱分解するのに要する時間は原料の種類および含水率によるが、一例を挙げれば、上述した600℃程度の温度とした場合、30分から1時間程度で炭化することが可能である。十分に炭化が実施された後の炭化装置2内には、固定炭素、灰および若干の揮発分を含んだ炭化物4が残る。このように、炭化装置2では炭化物4と揮発ガスとが異なる系統から後段のガス化炉7に供給される(図1参照)。
【0029】
ガス化炉7の下部にあたる高温ガス化部8では、送り込まれた炭化物4を燃料とし、さらにガス化剤5を投入して燃焼・ガス化を行う。この場合における炭化物4はバイオマス中の水分が除去された状態となっているため1500℃以上の高温ガスを発生させることが可能となっている。また、ガス化炉7の上部にあたるガス改質部9では、この高温ガスを熱源として、炭化装置2から送り込まれた熱分解ガス3中に含まれるタール分を分解し、ガス改質を行う。このとき、システム内における炭化物4の流量に対して可燃性熱分解ガス(およそ400〜600℃)3の流量がきわめて多い場合、高温ガス化部8の1500℃以上の高温ガスがガス改質部9において急減に温度低下し、タール分解温度である1100℃よりも低い温度となる場合がある。そこで、このような場合あるいはこのようなおそれのある場合には、空気または酸素(を含んだガス化剤)6をこの可燃性熱分解ガス3とともにガス改質部9に投入し、熱分解ガス3の一部を燃焼させることでタールを分解可能な1100℃以上にする(図1参照)。
【0030】
ここで、ガス化炉7内における反応の様子を化学式を用いて簡単に表すと以下のようになる。すなわち、高温ガス化部8における燃焼反応として
[化1]
CO+1/2O2 → CO2
[化2]
H2+1/2O2 → H2O
という反応をし、さらにガス化反応として
[化3]
C+CO2 → 2CO
[化4]
C+H2O → CO+H2
という反応をする。このような反応の後、CO、CO2、H2、H2O、N2、固定炭素、灰分が高温ガス化部8からガス改質部9へと移動する。その後、このガス改質部9においては
[化5]
CO+H2O ←→ CO2+H2
というシフト反応が生じることになる。
【0031】
高温ガス化部8にて燃焼反応とガス化反応が行われる結果生じる灰分は、溶融スラグとなってガス化炉7の底部から取り出される(図1参照)。
【0032】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば上述した実施形態においては、単一の炭化装置2を含む炭化・ガス化システムとして説明したが、実際には、炭化に要する時間に応じて炭化装置2を複数個(あるいは複数系統)配置し、各炭化装置2の運転サイクルに時間差を設けてローテーションで作動させ、ガス化炉7への炭化物4および可燃性熱分解ガス3の供給を連続的に行うことも好ましい。炭化装置2内での炭化プロセスには気化量等においてある程度の変動が伴うが、このように複数の装置でローテーションを組むことによってこの変動を緩和することが可能となる。
【0033】
また、本実施形態におけるガス化炉7は高温ガス化部8とガス改質部9からなるという2段式のものであったが、本明細書でいう「2段式」というのはこのように高温ガス化部(コンバスタ)8とガス改質部(リダクタ)9の2段に分け、炭化物4および可燃性熱分解ガス3をそれぞれ分けて投入する方式のことであって、高温ガス化部8とガス改質部9の両者が2つの室に仕切られていることまでは必要としていない。したがって、例えば両者が1室に設けられているようなガス化炉7、あるいは両者の境界付近にくびれは設けられているが仕切りは明瞭でないようなガス化炉7であっても本発明の適用は妨げられることがない。
【実施例1】
【0034】
本発明者は、木質系等のバイオマス、および廃棄物系のバイオマス(以下単に「廃棄物」と記す場合もある)のガス化方式を検討するため、燃料性状、および実測したガス化反応速度からガス化性能を簡便に予測する手法を確立し、各種燃料に対するガス化方式、ならびに高効率、かつ安定運転に向けた目標運転条件範囲の検討を行った。以下、実施例としてその内容を説明する。
【0035】
1.検討手法
1.1 検討の基本的な考え方
本件出願人たる財団法人電力中央研究所(以下、当所という)で開発した石炭ガス化炉、および超重質油ガス化炉を対象とした高精度な数値解析技術は、ガス化炉内の粒子挙動、ガス性状、およびガス温度分布など、ガス化炉7における各種性能の詳細な結果を導くため、計算格子の作成に時間を要するとともに、一つの条件を計算するのに数時間を必要とする。そこで、当所では、ガス化方式、最適運転条件の検討などを簡単に行うことを可能にするため、対象とする燃料種の性状、およびガス化反応速度から、炭素転換率、冷ガス効率、ガス温度などの各種ガス化性能を、簡便に予測可能な計算手法を確立した。この計算では、炉壁のふく射や粒子挙動、炉形状などは考慮しておらず、ガス化、および気相反応速度を基に、ガス化炉7内に投入された燃料が、経過時間後にどの程度反応が進行しているかを把握することが可能である。
【0036】
1.2 ガス化性能予測計算手法
確立した計算手法の概略を以下に述べる。ガス化炉7内に投入する燃料は、性状分析値で求められる固定炭素をガス化反応の対象となるコークスとし、揮発分はガス化炉7内に投入後、熱分解によって瞬時にガス(気体)になるとした。水分はH2Oとしてそのままガス化炉7に投入され、水性ガス反応、およびシフト反応に関与することとした。
【0037】
揮発分であるC、H、Oはガスとして投入することとし、化学式6に示す平衡定数(シフト平衡定数Ks)を基にしたシフト平衡状態(CO+H2O=CO2+H2)になることを基本とするが、燃料中のC、H、Oの割合を基にCO、CO2、H2、H2Oの割合を決定しようとすると、ほとんどの場合Oが不足する。このように、シフト平衡状態が実現不可能なときは、OはすべてCと結合してCOとし、さらにCに対して Oが不足するときはガス化剤中のOを用いた。このとき、HについてはすべてH2とした。
【0038】
初期温度は、燃料、およびガス化剤(空気、酸素)の顕熱、および揮発分がCOなどに変換される際の発熱量を基に決定した。各種ガスの平均定圧比熱Cpiについては、ガス温度の6次多項式(下記の化学式7)で近似して算出した。
[化6]
Ks=([CO2]×[H2])÷([CO]×[H2O])
=0.0265×exp(3956÷(T+273)) (T:[℃])
[化7]
Cpi=Ai+BiT+CiT2+DiT3+EiT4+FiT5+GiT6
【0039】
ガス化炉7内では、以下に示す化学式8〜11の4つの気相反応を考慮し、メタン、および硫黄、その他の微量成分に関する反応は考慮していない。それぞれの気相反応の計算に用いた反応速度定数を表1に示す。
[化8]
CO+1/2O2 → CO2
[化9]
H2+1/2O2 → H2O
[化10]
CO+H2O → CO2+H2
[化11]
CO2+H2 → CO+H2O
【0040】
【表1】

【0041】
コークスのガス化反応は、以下に示す化学式13〜15の3つの反応を考慮した。ガス化反応速度定数は、当所の熱天秤、およびPDTF(超高温・加圧型燃料反応実験設備)を用いて測定した値を採用した。コークスのガス化反応速度モデルには、温度、および圧力の影響を考慮した化学式12に示すアレニウス型のn次反応速度式を採用した。表2にガス化反応速度定数の一例として杉バークの値を示す。約1100℃以上の高温領域では、ガス化反応が律速になることが当所でのこれまでの研究でわかっている。そこで、化学式14のCO2によるガス化反応では、表2に示すとおり、低温領域と高温領域でのガス化反応速度を比較し、値の低い方を採用している。また化学式15のH2Oによるガス化反応は、当所でのこれまでの研究でCO2によるガス化反応よりも速いことがわかっており、ここでは、1.5倍速いこととした。
[化12]
dx/dt=A0Pinexp(−EAi/RT)
[化13]
C+1/2O2 → CO
[化14]
C+CO2 → 2CO
[化15]
C+H2O → CO+H2
【0042】
【表2】

【0043】
ガス化炉7は耐火材構造とし、ガス化炉7の炉壁への熱損失割合は当所の新種液体燃料ガス化研究炉において、オリマルジョン、および残渣油のガス化試験を行った際に求めた数式1,2に示すガス化炉7の出口ガス温度と入熱量に対する熱損失割合との関係を用いて求めた。1370℃以下ではオリマルジョンガス化試験に基づいて得られた数式1を用い、1370℃以上では残渣油ガス化試験において得られた数式2を用いた。これらの式からガス化炉7の出口温度に基づいて熱損失割合を決定し、さらに、投入熱量に対するガス化炉7の壁表面積の割合を考慮して、補正を行った。これによって、ガス化炉7のスケールアップによる影響を考慮することが可能である。
[数1]
1370℃以下:熱損失割合(%)
=3.7666×10-34×ガス化炉出口温度(℃)10.836
[数2]
1370℃以上:熱損失割合(%)
=−2.97×10-5×ガス化炉出口温度(℃)2
+9.545×10-2×ガス化炉出口温度(℃)−71.35
【0044】
1.3 計算結果の精度
本計算手法の精度を確認するため、当所で実施したオリマルジョンガス化試験結果との比較を行った。実験においてガス化反応がほぼ終了していると判断された炉内滞留時間約5秒での、酸素比(λ)0.40における実験値と計算値との比較を図2に示す。ガス化反応速度定数は、当所のDTFで測定した値を採用した。
【0045】
図2では、生成ガス発熱量(HHV:Higher heating value)、炭素転換率(CCE:Carbon conversion efficiency)、冷ガス効率(CGE:Cold gas efficiency)の各種ガス化性能は、ほぼ一致した値となった。各種ガス性状については、わずかに差が見られるが、可燃性成分であるCOとH2をあわせた濃度がほぼ実験値と一致しているため、冷ガス効率はほぼ一致した値となっている。これは、燃料中揮発分のCのほとんどを、ガス化炉7への投入直後にCOとしているため、CO濃度が若干高く計算されるためと思われる。
【0046】
このように、CO濃度が若干高めに、その他の成分が若干低めに計算されるが、ガス化効率を示す炭素転換率、および冷ガス効率はガス化性能を予測する上で、満足した値になることがわかった。
【0047】
2.検討結果
確立した計算手法を用いて、バイオマスの一例として杉チップを高効率でガス化する方式を検討した。検討にあたっては、以下の点に留意した。
・高温ガス化部(コンバスタ)8の出口ガス温度(2段式ガス化炉の場合)
…コンバスタ壁の耐熱(2000℃以下)、および灰の溶融排出(1600℃以上)の観点から考慮
・ガス化炉7の出口ガス温度
…タール生成(1100℃以上)の観点から考慮
・炭素転換率
…リサイクル設備無しでの燃料高効率利用(99.5%以上:冷ガス効率75%以上)の観点から考慮
【0048】
検討に用いた杉チップの性状を表3に示す。杉チップ中の灰分は0.09%と極微量であるため、灰をガス化炉7内でスラグ化して溶融排出するのではなく、そのまま飛灰として後流に流すこととした。ガス化反応速度は、表2に示した杉バークの値を用いた。
【0049】
【表3】

【0050】
2.1 1段噴流床方式
まず最初に、構造が簡単である1段噴流床方式において、酸素吹き、空気吹きそれぞれについて、最適運転条件の検討を行った。タールの発生を抑制するためガス化炉出口温度1100℃以上、ガス化効率の観点から炭素転換率99.5%以上となる条件を求めた。検討は以下の条件で行った。
・ガス化炉内圧力は大気圧、ガス化炉容量は100t/d。
・ガス化炉内の滞留時間は、計算上ガス化反応がほとんど終了していると判断された5秒。
【0051】
2.1.1 酸素吹き1段噴流床方式
酸素吹きで検討した結果を図3、図4に示す。酸素製造装置からの酸素濃度は95%が一般的であるため、ガス化剤中酸素濃度を95%とし、残りの5%の不純物は窒素とした。ガス化剤投入温度は50℃とした。計算結果から、酸素比0.58を超える範囲で炭素転換率99.5%以上となる高効率運転が可能であると予測された。一般にバイオマスは燃料中のOの割合が多く、発熱量が化石燃料と比較して低い。そのため、ガス化炉7内の温度を十分に高める運転を行うには、酸素吹きにもかかわらず0.5を超える高い酸素比での運転が必要と計算された。このとき、もう一つの高効率運転の指標である冷ガス効率は58.9%であり、生成ガスの発熱量は約1000kcal/m3Nと低い値となる。
【0052】
2.1.2 空気吹き1段噴流床方式
空気吹きで検討した場合の炭素転換率、およびガス化炉出口温度の計算結果を図5に示す。空気の投入温度は250℃とした。酸素吹きと比較すると、同じ酸素比運転では窒素の投入量が約70倍になるため(ガス化剤中窒素割合5%→79%)、同一酸素比運転において、炭素転換率、ガス温度とも低下する。そのため、酸素比0.80でも99%を超える炭素転換率を達成することができず、1段噴流床方式において空気吹きでのガス化を行うことは難しいと考えられた。
【0053】
2.2 炭化・ガス化方式
水分を多く含んだバイオマスなどを高効率でガス化するために、前処理方式として炭化機と呼ばれる燃料の炭化を行う装置2にて、固定炭素を主成分とした炭化物4と、水分、および燃料中揮発分を含んだ熱分解ガス(揮発ガス)3とに分解してガス化炉7に投入するシステムの検討を行った(図1参照)。本方式は炭化装置2とガス化炉7とを組み合わせたガス化方式であるため、本明細書ではこれを炭化・ガス化方式と呼んでいる。
【0054】
バイオマスなど燃料は炭化装置2に供給され、十分に時間をかけて600℃で炭化される。その際に必要な高温ガスはガス化炉7の後流の高温排ガスを用いることが可能である。炭化の際、水分、および揮発分は炭化装置2の上部より機外に排出され、十分に炭化された後、炭化装置2内には固定炭素、灰、および若干の揮発分とを含んだ炭化物4が残る。このように、炭化装置2では炭化物4と熱分解ガス(揮発ガス)3とが異なる系統から後流のガス化炉7に供給されるため、ガス化する際の最適運転条件の検討を行うには、炭化物4と熱分解ガス3をどのようにガス化炉7に供給するかを検討する必要がある。
【0055】
最適方式の検討を行うにあたり、炭化装置2において検討対象である杉チップ中の揮発分がどの程度揮発するのかを決定するため、当所の熱天秤で揮発特性を測定した。その結果、600℃では揮発分中の92.6%が揮発することがわかった。そこで炭化物4には固定炭素、灰分に加えて、揮発分中の各組成の7.4%が含まれているものとした。
【0056】
2.2.1 1段投入方式
はじめに、炭化装置2で分離された炭化物4、および熱分解ガス(揮発ガス)3を高温ガス化部(コンバスタ)8のみに投入する1段投入方式について検討を行った。ここでは、炭化装置2を除いたガス化炉単体の効率について検討する。1段噴流床方式の検討と同様に、ガス化炉内圧力は大気圧、ガス化炉容量は100t/d、滞留時間を5秒とし、ガス化剤中酸素濃度は95%とした。計算結果を図6、図7に示す。
【0057】
この場合、1段噴流床方式(図3、図4参照)と比較して、バイオマス燃料1が炭化装置2にて前処理されているため投入温度が600℃に上昇すること、水分が蒸気として供給されるため潜熱がなくなることからガス化炉7内のガス温度が上昇し、同一酸素比で比較すると、炭素転換率、冷ガス効率などのガス化性能が上昇する。計算からは、酸素比が0.27を超える範囲で炭素転換率99.5%以上となり、その際の冷ガス効率は85%を超える高い値となった。
【0058】
次に空気吹きについて検討を行った。1段噴流床方式と比較するため、空気投入温度は250℃とした。図8、図9に結果を示す。酸素吹きと同様に1段噴流床方式と比較すると、同一酸素比運転においてガス化炉内ガス温度の上昇に伴い、炭素転換率、冷ガス効率が上昇し、空気吹きでも高効率運転が可能となる。計算からは、酸素比0.43以上で炭素転換率99.5%以上の高効率運転が可能であるとの結果を得た。ただし、このとき冷ガス効率は67.8%であり、生成ガス発熱量は約840kcal/m3Nと低いものになってしまう。
【0059】
2.2.2 2段投入方式
次に、炭化装置2で分離された炭化物4を高温ガス化部(コンバスタ)8へ、熱分解ガス3をガス改質部9へ投入する2段投入方式について検討を行った。このとき、ガス化剤5は高温ガス化部8のみに投入することとし、高温ガス化部8においては、炭化物4とガス化剤5との反応によって高温燃焼場が形成され、ガス改質部9においては、水分、揮発分が投入されることで、シフト反応を主としたガスの改質反応が行われる。計算結果を図10、図11に示す。滞留時間は高温ガス化部8で3秒、ガス改質部9で1秒とした。ここでは、以下の理由により、酸素吹きでの運転は困難であると考えられるため、検討は空気吹きのみ行った。
・高温ガス化部8が3000℃を超える高温燃焼場となる。
・高温ガス化部8からガス改質部9へのガス流量に対して炭化装置2から供給される揮発ガス量が多いため、ガス改質部9の温度が急激に下がり、ガス化炉出口温度を1100℃以上に保つことができない。
【0060】
図10、図11から酸素比0.14の超低酸素比運転において、すでに炭素転換率が99.5%を超える高効率運転が実現可能と予想された。このときの高温ガス化部単独の酸素比は0.56である。しかし、ガス化炉出口温度は約900℃であり、タールの生成が懸念される温度である。一方、ガス化炉出口温度が1100℃となる酸素比は0.20であり、このとき高温ガス化部8の出口温度は2200℃以上と計算され、炉壁の耐熱を考慮すると運転不可能な酸素比条件と考えられる。
【0061】
計算からは、酸素比0.17において高温ガス化部8の出口温度が2000℃を超えると予想され、このときのガス化炉出口温度は1030℃であり、安定運転の目安としている1100℃に満たない。これは、高温ガス化部出口のガス流量が約2300m3N/hであるのに対して、ガス改質部9に供給されるガス流量(炭化装置2からの揮発ガス)が2.5倍近い約5400m3N/hあり、約2000℃の高温ガス化部8からのガス温度が急激に下げられてしまうためである。よって、高温ガス化部8、およびガス化炉7出口温度を考慮した安定運転の実現は、この方式においては難しいと考えられた。
【0062】
2.2.3 ガス改質部(リダクタ)への空気投入方式
2段投入方式では、1段噴流床方式、および1段投入方式と比較して低酸素比運転で高い炭素転換率を得られるため、高効率運転の実現を考えた場合、有効な方式であると考えられる。そこで、高温ガス化部8の出口温度を2000℃以下に保ったまま、ガス化炉7の出口温度を1100℃以上に高めるために、ガス改質部9に空気6を投入して、高温ガス化部8からの可燃性ガスであるCO、およびH2を燃焼させ、ガス改質部9のガス温度を高める方式について検討を行った。図10に示したとおり、高温ガス化部(コンバスタ)出口温度を2000℃以下にするためには、酸素比0.16以下(コンバスタ酸素比0.64以下)で運転する必要があるため、コンバスタ酸素比を0.64で固定して、全体酸素比を高めていくこととした。炭素転換率、およびガス温度の計算結果を図12に示す。
【0063】
計算からは、全体酸素比0.20以上でガス化炉出口温度を1100℃以上にすることが可能との結果を得た。図6、図7に示した1段投入方式と比較すると、さらに低酸素比で高効率運転が可能になることが明らかになった。このとき、炭素転換率は99.8%、冷ガス効率は85%を超える高い値が得られた。
【0064】
杉チップを炭化・ガス化方式に用いるには、炭化装置2からの炭化物4を高温ガス化部8へ、熱分解ガス(揮発ガス)3をガス改質部9へ投入し、高温ガス化部8の炉壁への熱負荷を可能な限り低くするためコンバスタ酸素比を低く設定し、さらにガス化炉7の出口温度を適温(1100℃以上)にするようガス改質部9に空気6を投入する方式が適していることがわかった。
【0065】
次にコンバスタ酸素比の影響を検討するため、全体酸素比を0.20一定としてガス化性能の変化を求めた。図13、図14に結果を示す。全体酸素比を変化させずにコンバスタ酸素比を低くすると、ガス化炉出口温度にほとんど変化は見られず、一方、コンバスタ出口温度、および炭素転換率は低下する傾向が見られる。炉壁への熱負荷を考慮すると可能な限りコンバスタ酸素比は低い方が望ましく、図13、図14からは、コンバスタ酸素比0.56以上で高効率運転の目安である炭素転換率99.5%以上のガス化性能を得られると予想された。
【0066】
以上の結果から、杉チップを燃料とした場合、コンバスタ内のガス温度を可能な限り低くでき、かつ高効率運転が可能な酸素比であるコンバスタ酸素比0.56、全体酸素比0.20が最適運転条件であると予想された。
【0067】
2.3 廃棄物のガス化方式の検討
杉チップ以外の燃料として、廃棄物の高効率ガス化方式についての検討を行った。検討した廃棄物は典型的な都市ゴミで、性状を表4に示す。ここまで検討してきた杉チップと異なり、廃棄物中には灰分が数%含まれているため、この灰分をガス化炉7内で溶融させ、スラグとして排出することを前提に検討を行う。灰の溶流点については、測定データがないため、1600℃と仮定した。
【0068】
【表4】

【0069】
杉チップでの検討から、炭化・ガス化方式で炭化物4を高温ガス化部8へ、熱分解ガス(揮発ガス)3をガス改質部9へ投入する方式が高効率運転が可能であるとの結果を得たので、まずはガス化剤5である空気を高温ガス化部8のみに投入する場合を検討した。図15、図16に計算結果を示す。燃料処理量は杉チップの検討時と同様に100t/dとした。ただし、炭化装置2での揮発割合については、実際に炭化装置機メーカである株式会社オカドラにて炭化を行った場合の実測値を用い、炭化物4と熱分解ガス3の重量割合を40:60とした。
【0070】
杉チップの場合(図10、図11参照)と比較すると、炭化装置2での揮発割合が減ったため、ガス改質部9での急激なガス温度の低下が見られない。また、高温ガス化部(コンバスタ)8への炭化物4の投入量が増加したため、全体酸素比に対するコンバスタ酸素比が低くなった。これらのことから、高温ガス化部8にて超高温領域が形成されず、安定運転範囲としているコンバスタ温度2000℃以下、およびガス化炉出口温度1100℃以上の酸素比条件が存在するとの結果を得た。計算からは、全体酸素比0.32以上で炭素転換率が99.5%以上になると予想された。このとき、冷ガス効率も目標値である75%を超える値が得られた。
【0071】
また、酸素比0.32以上では、高温ガス化部8の出口温度が1600℃以上になっていることから、本実施例にて検討に用いた廃棄物の灰を高温ガス化部8から溶融排出することが十分可能であると考えられる。
【0072】
3.まとめ
燃料性状、および当所の熱天秤、PDTFを用いて求めたガス化反応速度に基づくガス化性能予測計算手法を確立し、バイオマス(水分40%の杉チップ)、廃棄物(典型的な都市ゴミ性状)に適したガス化方式、ならびに高効率・安定運転条件の検討を行い、以下の結果を得た。
・杉チップは、燃料を直接ガス化炉7に投入する空気吹き1段ガス化では高効率運転が困難であるが、炭化装置2を用いて炭化物4と水分を含む熱分解ガス3とに分解してガス化炉7に2段で投入する炭化・ガス化方式とすれば、高効率、かつ安定した運転が可能である。
・炭化・ガス化方式では、杉チップのように揮発割合が高い場合、ガス化炉7の出口温度をタール発生抑制温度(1100℃以上)に維持するため、ガス改質部9への空気または酸素6の投入が不可欠である。
・廃棄物は灰分を多く含むため、環境面から灰を溶融排出(スラグ化)する必要がある。廃棄物は揮発割合が低いため、2段ガス化炉において高温ガス化部8のみに空気を投入する方法で、高効率、かつ灰溶融排出運転が可能である。
【符号の説明】
【0073】
1 バイオマス燃料
2 炭化装置
3 (水分を含んだ可燃性の)熱分解ガス
4 炭化物
5 ガス化剤
6 空気または酸素(酸素を含んだガス化剤)
7 ガス化炉
8 高温ガス化部
9 ガス改質部
12 熱分解ガス流路
13 炭化物供給手段
14 ガス化剤供給手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質系バイオマス、都市ゴミ等の廃棄物系バイオマスおよびこれらの混合バイオマス等のバイオマス燃料を熱分解して炭化しさらにガス化するバイオマス炭化・ガス化システムにおいて、前記バイオマス燃料を加熱して炭化物を生成する炭化装置と、この炭化物をガス化する高温ガス化部および炭化物生成時に揮発したタールを含む可燃性熱分解ガスの改質を行うガス改質部からなる2段式のガス化炉と、前記炭化物を前記ガス化炉の高温ガス化部に供給する炭化物供給手段と、前記炭化装置で生成された可燃性熱分解ガスを前記ガス化炉のガス改質部に送り込むための熱分解ガス流路と、通常時は前記高温ガス化部にガス化剤を供給するとともに前記ガス化炉の出口温度が一定温度以下になる場合またはそのおそれがある場合には前記ガス改質部に酸素を含んだガス化剤を供給するガス化剤供給手段とを備えることを特徴とするバイオマス炭化・ガス化システム。
【請求項2】
前記一定温度を1100℃に設定していることを特徴とする請求項1記載のバイオマス炭化・ガス化システム。
【請求項3】
前記ガス化剤供給手段は分岐管を備え、前記高温ガス化部と前記ガス改質部の両方に酸素を含んだガス化剤を供給可能な装置からなることを特徴とする請求項1記載のバイオマス炭化・ガス化システム。
【請求項4】
木質系バイオマス、都市ゴミ等の廃棄物系バイオマスおよびこれらの混合バイオマス等のバイオマス燃料を熱分解して炭化しさらにガス化するバイオマス炭化・ガス化方法において、炭化装置にて前記バイオマス燃料を加熱して炭化物を生成し、該炭化物を2段式のガス化炉の高温ガス化部に供給してガス化する一方、炭化物生成時に揮発したタールを含む可燃性熱分解ガスを前記ガス化炉のガス改質部に送り込んで改質し、さらに、通常時は前記高温ガス化部にガス化剤を供給することに加え前記ガス化炉の出口温度が一定温度以下になる場合またはそのおそれがある場合には前記ガス改質部に酸素を含んだガス化剤を供給することを特徴とするバイオマス炭化・ガス化方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2011−68893(P2011−68893A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227389(P2010−227389)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【分割の表示】特願2004−180122(P2004−180122)の分割
【原出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】