説明

バイオマス由来エポキシ樹脂組成物

【課題】植物性バイオマスを樹脂骨格に用いた、リサイクル可能なエポキシ樹脂組成物及びその硬化剤を用いた各種製品を提供する。
【解決手段】バイオマスのもつフェノール性水酸基やアルコール性水酸基と、酸無水物の有する酸クロを反応させバイオマス由来の酸無水物を新規に合成し、これを硬化剤に用いた。この硬化剤と各種エポキシ樹脂からバイオマス由来エポキシ樹脂組成物を作成した。その硬化物は、耐熱性に優れる。更にエステル構造のため、公知の常圧解重合法によりエポキシ樹脂硬化物は分解され、原料のバイオマスを回収することができる。又、このバイオマスはアルコール性及びフェノール性水酸基を有するため、これをエポキシ樹脂組成物の原料にリサイクルできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リサイクル可能なバイオマス由来エポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
国際的な地球温暖化対策が急務になってきており、脱二酸化炭素社会を目指し、各方面からカーボンニュートラルな製品やリサイクル可能な製品が期待されている。カーボンニュートラルな製品として、熱可塑性のポリ乳酸やバイオアルコールが検討されている。その一環として現在、有効利用されていないリグニンが注目されている。リグニンは木質の主要成分で、耐熱構造のポリフェノール骨格を有する。樹木の約25%存在する。木の約50%を占めるセルロースとIPN(Interpenetrating Polymer Network(相互侵入高分子網目))を構成している。リグニンは複雑に架橋した高分子量体であり分離が困難なため、セルロースの生産を妨げる邪魔な存在と見做され、現在は殆ど廃棄されている。それでもリグニンは植物性バイオマスの中で数少ない耐熱性構造を有するため、これを有効利用する目的で、リグニンを高収率で取り出す技術が種々検討され続け、低分子リグニンが開発され、エポキシ樹脂化して絶縁材料としての適用が検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、リサイクルに関しては古紙の回収率75%や、家電リサイクル法に基づく家電四品目から金属類はほぼ100%リサイクルしているものもある。しかし、樹脂に関しては家電リサイクル法で熱可塑性樹脂のみをペレット化してリサイクルしているが、エポキシ樹脂硬化物など熱硬化性樹脂は余り進んでいない。これは熱硬化性樹脂が不溶不融であるため、解重合に多くのエネルギを消費し、エネルギの収支バランスに問題があったからである。しかし、最近、エステル基を多く含む架橋性高分子を、常圧でアルカリ金属とアルコールでエステル交換し低分子量化する解重合方法が提案された(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
そこで、エステル基を多数有するバイオマス由来のエポキシ樹脂組成物を合成し、その硬化物を解重合すれば、原料のバイオマスが回収でき、更にこれを用いてエポキシ樹脂組成物の原料としてリサイクルできると考えた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−199209号公報
【特許文献2】特開2005−255835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、カーボンニュートラルな熱硬化性樹脂で、リサイクルの容易なバイオマス由来エポキシ樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のバイオマス由来エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、硬化剤とを含むバイオマス由来エポキシ樹脂組成物であって、前記硬化剤が、重量平均分子量が300〜5000のバイオマスに、エステル基を介して酸無水物を付加したバイオマス由来酸無水物であることを特徴する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、カーボンニュートラルな熱硬化性樹脂で、リサイクルの容易なバイオマス由来エポキシ樹脂組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】リグニン由来酸無水物の推定構造式。
【図2】実施例12で用いたFC−BGAの模式断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、バイオマスに多く存在するフェノール性水酸基とアルコール性水酸基に着目し、これと酸無水物を有する酸クロやカルボキシル基と反応させることにより、エステル結合を介したバイオマス由来酸無水物を得ることを見出した。
【0011】
この酸無水物とエポキシ樹脂と硬化させることにより、エステル基の豊富なエポキシ樹脂硬化物を得ることができる。バイオマスを原料にすると高耐熱性を示す。又、このエポキシ樹脂硬化物は豊富なエステル基のため、上記法で解重合が可能で、分解物から原料のバイオマスを回収することができる。その結果、回収したバイオマスをエポキシ樹脂組成物の硬化物やエポキシ樹脂としてリサイクルできることを見出し、本発明に達した。
【0012】
一般に、バイオマスをエポキシ樹脂骨格に用いると、高耐熱や高分解温度といった特徴がある。しかし、これらのエポキシ樹脂硬化物は易解重合性ではない。それは硬化物の化学構造中に易分解の結合がないからである。本発明のバイオマス由来酸無水物が好適である。本発明の硬化剤以外には、高耐熱を示すバイオマス由来の酸無水物が見当たらない。理由として、バイオマス由来の高耐熱性酸無水物は、バイオマスの有するアルコールを利用し、アルコールの酸化反応でカルボン酸に変性し、更に脱水して、酸無水物を得るが、アルコールの種類が二種類あり、アルコールの酸化反応時にフェノール性水酸基も酸化されるため、目的物を得るのが難しいためである。
【0013】
本発明によれば、バイオマス原料からエステル基を介して新規な酸無水物系硬化剤を合成でき、これを用いたバイオマス由来エポキシ樹脂硬化物はガラス転移温度が180℃以上を示す。これはモータやプリント基板,成形材料の絶縁層に、また、塗料の主剤などに用いることができる。
【0014】
これらバイオマス由来エポキシ樹脂硬化物を用いた製品が不用物,廃棄物になった場合、解重合により、容易に絶縁層から原料のバイオマスを回収できる。硬化剤からバイオマスが回収でき、エポキシ樹脂からは末端ジオールのバイオマスが回収される。
【0015】
回収したバイオマスはフェノール性水酸基とアルコール性水酸基を有するため再度、エポキシ樹脂組成物を作成するためのエポキシ樹脂や硬化剤の原料になる。
【0016】
本発明によれば、バイオマスの水酸基と酸無水物のカルボキシルや酸クロからエステルを介して付加したものを硬化剤とし、これを用いて高耐熱性のエポキシ樹脂硬化物を得ることがでる。硬化物にはエステル結合を多く有するため、従来法により容易に解重合することができる。硬化物に含まれるエステル結合の数は多いほど解重合には有利である。
【0017】
酸無水物系エポキシ樹脂硬化物のエポキシ樹脂へのリサイクルの例として、非特許文献(カオ ミン タイ、エポキシ樹脂技術協会研究委員会、リサイクル委員会特別講演要旨(2000))がある。
【0018】
これは石油由来の化合物を用いたもので、酸無水物硬化系エポキシ樹脂硬化物とキシレンジアミンを加え200℃/1hで硬化物を可溶化し、解重合するものである。これはキシレンジアミンが特異的に可溶化剤として働き、分解物はジアミンとポリオールとキシレンジアミンであるが、原料は得られない。
【0019】
一方、バイオマス由来の化合物としてコハク酸やグルタル酸などが知られている。これらを脱水すれば、無水コハク酸や無水グルタル酸になり、これらはエポキシ樹脂の硬化剤としての働きを有する。この構造はエチル基の両末端にジカルボン酸から脱水したが無水コハク酸で、プロピル基のものが無水グルタル酸である。しかし、これらは本発明の無水トリメリット酸のように環状基を持たないため、例えば、無水グルタル酸を硬化剤に用いた硬化物はガラス転移温度が低いという問題があり、耐熱性を要求される製品分野には適用できなかった。
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0021】
本発明は、バイオマスにエステル結合を介して酸無水物を導入したバイオマス由来酸無水物を硬化剤に用いたリサイクル可能なエポキシ樹脂組成物及びその硬化物である。
【0022】
本発明のバイオマス由来酸無水物は、環状基(芳香環や環状脂肪族基)を有する酸無水物で、バイオマスの水酸基とエステル基を介した酸無水物で硬化剤に用いた。エステル基を合成するには、酸無水物にカルボン酸誘導体であることが好ましく、特に、酸クロが好ましい。具体的には無水トリメリット酸クロライドがある。無論、無水トリメリット酸のようにカルボン酸と水酸基から脱水反応でもエステル基を得ることができる。
【0023】
バイオマス由来エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂と硬化剤と硬化促進剤を含む。場合によっては溶媒,難燃剤,無機充填材,染料,着色剤,レベリング剤,消泡剤などを必要に応じて配合することができる。
【0024】
本発明では、バイオマスとは、現生生物体構成物質起源の有機性資源をいい、動物性と植物性がある。本発明では植物性のバイオマスが好ましく、木材やそのチップ,各種の草や稲わらなどが挙げられる。これらには種類によって構成は異なるが、セルロース,リグニン,ヘミセルロースが含まれている。特に、耐熱構造のポリフェノール骨格を有するリグニンが、石油由来の樹脂に変わる可能性があると期待されている。
【0025】
本発明では植物バイオマスとしてリグニンを用いた。具体的には廃材を水蒸気爆砕し、アルコールで抽出した低分子リグニン(以下、Lと略称する)やリグニンにクレゾールを付加したリグノフェノール(以下、LPと略称する)を用いた。LやLPポリスチレン換算値において、重量平均分子量(以下、MWと略称する)350〜5000が好ましい。
【0026】
MW5000を超えると融点が180℃以上になり、これをエポキシ樹脂組成物に適用した場合、一般的な硬化温度(100〜200℃では)で融点または溶融粘度が高くなり、硬化性や成形性に問題が発生する。Mw350以下では水酸基が一官能性となりやすく、耐熱性に優れたエポキシ樹脂硬化物が得られない。
【0027】
これらにはフェノール性水酸基やアルコール性水酸基を有し、Lの水酸基当量(以下、HEと略称する)は107g/eq、LPのHEは160g/eqである。
【0028】
エポキシ樹脂は、バイオマス由来のエポキシ樹脂例えば、エポキシ化リグニン(以下、ELと略称する)は特願2008−326634号公報に従い合成した。又、LPを用いて同様にエポキシ化リグノフェノール(以下、ELPと略称する)も合成した。又、従来の石油由来エポキシ樹脂も使用できる。
【0029】
石油由来のエポキシ樹脂としては分子内にエポキシ基を有するものであれば、特に限定されない。例えば、EL,ELP,ビスフェノールA型,ビスフェノールFグリシジルエーテル型,ビスフェノールSグリシジルエーテル型,ビスフェノールADグリシジルエーテル型,フェノールノボラック型,クレゾールノボラック型,3,3′,5,5′−テトラメチル−4,4′−ジヒドロキシビフェニルグリシジルエーテル型などがある。
【0030】
硬化剤には、本発明の酸無水物を有する酸クロとバイオマスがエステル基と介した硬化剤が好ましい。酸無水物を有する酸クロはカルボン酸と塩素化剤の反応により得られる。塩素化剤には塩化チオニール,五塩化リン,三塩化リンがあるが、その中で、塩化チオニールが好ましい。酸無水物には無水トリメリット酸や無水ピロメリット酸が好ましく、特に無水トリメリット酸が好ましい。酸クロの合成は酸無水物と塩化チオニールを室温で攪拌することにより、得られる。過剰の塩化チオニールは減圧蒸留により除去できる。又、カルボン酸とバイオマスの水酸基との脱水反応により、エステル化できる。それには無水トリメリット酸などがある。
【0031】
硬化促進剤は、本発明のエポキシ樹脂組成物に、一般的に使用されている公知の硬化促進剤を、単体或いは二種類以上を組み合わせて、必要に応じて配合することができる。この硬化促進剤としては、三級アミン化合物,イミダゾール類,有機スルフィン類,リン化合物,テトラフェニルボロン塩及びこれらの誘導体等を挙げることができる。硬化促進剤の配合量は、硬化促進効果が達成される量であれば特に限定されない。
【0032】
樹脂ワニスを作成するための溶媒には、トルエン,キシレン,ベンゼン,N−メチルピロリドン,ジメチルホルイムアミド,γ−ブチロラクトン,塩化メチレン,四塩化炭素,クロロホルム,メチルエチルケトン,メチルイソブチルケトン,2−メトキシエタノール,ジエチルエーテル,エチレングリコールモノメチルエーテル,シクロヘキサノン,ジメチルホルムアミド,アセトニトリル,酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸ブチル,アセトン,テトラヒドリフランなどがある。これらを単独或いは二種類以上を組み合わせて配合することができる。
【0033】
又、本発明のエポキシ樹脂組成物に、公知のカップリング剤を、単体或いは二種類以上を組み合わせて、必要に応じて配合することができる。このカップリング材としては、エポキシシラン,アミノシラン,ウレイドシラン,ビニルシラン,アルキルシラン,有機チタネート,アルミニウムアルキレート等を挙げることができる。
【0034】
又、難燃剤として、赤燐,燐酸,燐酸エステル,メラミン,メラミン誘導体,トリアジン環を有する化合物,シアヌル酸誘導体,イソシアヌル酸誘導体の窒素含有化合物,シクロホスファゼン等の燐窒素含有化合物,酸化亜鉛,酸化鉄,酸化モリブデン,フェロセン等の金属化合物,三酸化アンチモン,四酸化アンチモン,五酸化アンチモン等の酸化アンチモン,ブロム化エポキシ樹脂等を、単独或いは二種類以上を組み合わせて配合することができる。
【0035】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、一般的に用いられる無機充填材を混合してもよい。無機充填材は、吸湿性,熱伝導性及び強度の向上,熱膨張係数の低減のために配合されるものである。具体的には、溶融シリカ,結晶シリカ,アルミナ,ジルコン,珪酸カルシウム,炭酸カルシウム,チタン酸カリウム,炭化珪素,窒化珪素,窒化アルミ,窒化ホウ素,ベリリア,ジルコニア,ジルコン,フォステライト,ステアライト,スピレル,ムライト,チタニア等の粉体、又、これらを球形化したビーズ,ガラス繊維等が挙げられる。
【0036】
さらに、難燃効果のある無機充填剤としては、水酸化アルミニウム,水酸化マグネシウム,珪酸亜鉛,モリブデン酸亜鉛などが挙げられる。これらの無機充填材は単体でも二種類以上組み合わせてもよい。さらに、エポキシ樹脂組成物には、必要に応じて、他の樹脂を加えてもよい。
【0037】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、電子機器の耐湿性,高温放置特性(耐熱性)を向上させるためのイオントラッパー剤も配合することできる。イオントラッパー剤の種類に特に制限はなく、公知の物質を使用できる。具体的には、ハイドロタルサイト類,マグネシウム,アルミニウム,チタン,ジルコニウム,ビスマス等の元素の含水酸化物などが挙げられる。単体でも二種類以上組み合わせてもよい。
【0038】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、混合した構成要素(材料)を均一に分散混合できる手段であれば、いかなる手段を用いて混合してもよい。一般的には、所定量を秤量した後、混錬ロール,ボールミル,三本ロールミル,真空雷潰機,ポットミル,ハイブリッドミキサー等を用いて分散混合を行う。
【0039】
以上のような構成成分からなるエポキシ樹脂組成物を任意の方法で硬化させることにより、本発明のバイオマス由来エポキシ樹脂硬化物を得ることできる。硬化条件は例えば50〜250℃の範囲で硬化させることが好ましい。
酸無水物系エポキシ樹脂硬化物の解重合は、特開2005−255835号公報に準拠して行った。
【0040】
アルカリ金属化合物と有機溶媒を含む処理液を用い、加熱してバイオマス由来エポキシ樹脂硬化物を分解する。処理液はアルカリ金属化合物としてリチウム,ナトリウム,カリウム,セシウム等のアルカリ金属を含む化合物やリチウム,ナトリウム,カリウム,セシウム等の水素化物,水酸化物,塩化物等がある。処理液の溶媒は、アミド系,アルコール系,エーテル系,エステル系などあるが、その中でアルコール系溶媒はエステル交換により分解作用が高く、好ましい。速振動試料粉砕機(TI−100型、HEIKO社製)で粒径約100μmφ以下の硬化物10gに対し、アルカリ金属化合物1.0当量に対し、溶媒を1000gからなる処理液を加え激しく攪拌しながら、常圧で処理温度100〜250℃、処理時間は6〜46h行い、硬化物を解重合した。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の実施例を説明する。実施例に用いた材料の略号又は商品名とその内容を示す。
ATMC=無水トリメリット酸クロライド(和光純薬社製)
NMP=N−メチルピロリドン、沸点203℃(和光純薬社製)
AG=無水グルタル酸、融点52℃(和光純薬製)
ESCN=o−クレゾールノボラックエポキシ樹脂 商品名:ESCN−190 エポキシ当量(以下、EEWと略称する)195g/eq(住友化学社製)
Bis A=ビスフェノールA型エポキシ樹脂 商品名:jER828 EEW195g/eq(ジャパンエポキシレジン社製)
Bis F=ビスフェノールF型エポキシ樹脂 商品名:RE404S、EEW165g/eq、(日本化薬社製)
P200=イミダゾール系硬化促進剤 軟化温度97℃(ジャパンエポキシレジン社製)
AL=L由来の酸無水物/LとATMCから得た酸無水物(推定構造第一図) Mw1450
ALP=LP由来の酸無水物/LPとATMCから得た酸無水物 Mw2600
L′=硬化物を解重合して得たL(Mw3200)
LP′=硬化物を解重合して得たLP Mw4600
MEK=メチルエチルケトン(和光純薬社製)
MOE=2−メトキシエタノール(和光純薬社製)
BA=ベンジルアルコール(和光純薬社製)
KBM403=γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製)
【0042】
ガラス転移温度は、硬化物フィルムを動的粘弾性測定装置(DMA)で貯蔵弾性率(E′)及び損失弾性率(E″)を測定(昇温速度5℃/min)し、その比であるtanδのピーク温度から求めた。
【0043】
体積抵抗率は、作製した銅張積層板を用いてJIA K6911法に従い測定した。
【0044】
〔実施例1〕
(1)リグニン由来酸無水物の合成
乾燥した無水トリメリット酸クロライド3.0g(0.0143mol)とNMP10gをフラスコに入れ攪拌した。これに乾燥したL2.0g(HE 107g/eq,0.019mol)を加え溶解後、ピリジン1.2g(0.015mol)を20分かけて加える。滴下終了後、液温20℃で8時間攪拌した。その後、減圧ろ過して、ピリジン塩酸塩を除き、酸無水物はエステルを介して付加したL(以下、ALと略称する)を得た。推定構造式を図1に示す。
(2)エポキシ樹脂組成物の硬化
エポキシ樹脂としてEL(EEW380g/eq)を2gと実施例1で得たALを化学量論比で配合し、硬化促進剤P200を樹脂分の2wt%加え樹脂ワニスを作製し、ポリイミドフィルム上に塗布して、熱硬化し厚さ100〜200μmのエポキシ樹脂硬化フィルムを得た。硬化条件は60℃/1h+120℃/1h/160℃/1h+200℃/1hであった。
【0045】
その組成と硬化物の耐熱性を示すガラス転移温度を表1に示す。ガラス転移温度は200℃であった。
【0046】
【表1】

【0047】
〔実施例2〜実施例8〕
実施例1に準拠して作成した、実施例2〜実施例8の硬化物のガラス転移温度を測定した。なお、実施例7と実施例8のエポキシ樹脂は二成分混合系であり、これらは等モルの配合である。その結果を表1に併記するようにガラス転移温度は210〜185℃であった。
【0048】
〔実施例9〜実施例10〕
実施例9は実施例1で用いたエポキシ樹脂硬化物を処理液で分解し、原料のLを得た。
【0049】
実施例1で用いたエポキシ樹脂硬化物1gに処理液としては苛性ソーダ4gにベンジルアルコール100gを加えた溶液を100℃〜200℃/5〜20hに加熱し、解重合した。更に水を2g加え100℃で30分加熱した。分解液を室温に冷却後、酢酸を加えてpH4〜pH7にしたのち、析出物をろ過した。その析出物を温イソプロピルアルコール(80℃)で洗浄し、更に温水で洗浄して原料のLを回収した。そのHEは97g/eq、Mw1500であった。これを硬化剤に用い、実施例9のエポキシ樹脂組成物からなる硬化物を得た。そのガラス転移温度は180℃であった。
【0050】
〔実施例10〕
実施例9に準拠してLPを得た。そのHEは180g/eq、Mw4500であった。これを硬化剤に用い、実施例10のエポキシ樹脂組成物及び硬化物を得た。そのガラス展温度は175℃であった。本発明のバイオマス由来酸無水物を用いたエポキシ樹脂硬化物を解重合して得たバイオマスを硬化剤に用いることができることが分かった。
【0051】
〔比較例1〜4〕
バイオマス由来の酸無水物であるAGを硬化剤に用いた場合のエポキシ樹脂組成物及びその硬化物のガラス転移温度を表1に併記した。ガラス転移温度は130〜153℃であり、本発明のバイオマス由来の酸無水物である、実施例で示したALやALPを用いた硬化物に比べ、ガラス転移温度は低いことが明らかである。
【0052】
〔実施例11〕(積層板の作成)
表1に示す実施例1の組成物にMEK/MOE(溶媒量等量)を加えNV(固形分濃度)50%のワニスを得た。
【0053】
ワニスをガラス不織布(30cm角)に含浸させた後、温風乾燥機(125℃/9分)中で溶媒を除去してB−ステージ状態のプリプレグを得た。得られたプリプレグ7枚を重ね、上下に厚さ35μm銅箔を介して油圧真空加熱プレス機で、鏡面板,クッション紙,離形紙を用い、面圧:4MPa、室温〜200℃(昇温速度:5℃/min)200℃/1hで硬化し、銅張積層板を得た。そのガラス転移温度は202℃であった。体積抵抗率は>1×1015(Ω・cm)であった。
【0054】
〔実施例12〕
Bis F 80gと、ELを20gと、硬化剤としてAL 40gにカップリング材としてKBM403を4.2gとフィラー:高純度球状フィラーである次の3種類(混合比a/0.6:b/0.3:c/0.1)を用い、混合物を上記樹脂に対して50v%加えた。
a:SP−4B、平均粒径5.1μm(扶桑化学社製)
s:QS4F2、平均粒径4.6μm、SO25R(三菱レーヨン社製)
c:SO25R、平均粒径0.68μm(龍森社製)。
【0055】
又、イオントラッパー:IWE500(東亜合成社製)を4.2g加えた。
【0056】
上記混合物を三本ロールにより混合した後、さらに真空雷潰機により混合し、樹脂封止材を作製した。上記の樹脂封止材を、図2に示すFC−BGA(フリップチップ型ボールグリッドアレイ)に使用した。基板とチップの接続は半田バンプ,ギャップが100μm、バンプピッチが150μmである。これに上記の樹脂封止材をキャピラリーフロー法で封止した。封入温度は195℃であった。
【0057】
このように、半導体用の樹脂封止材としても本発明のALを好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 配線回路基板
2 金メッキ
3 金バンプ
4 半導体素子
5 はんだボール
6 エポキシ樹脂硬化物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と、硬化剤とを含むバイオマス由来エポキシ樹脂組成物であって、前記硬化剤が、重量平均分子量が300〜5000のバイオマスに、エステル基を介して酸無水物を付加したバイオマス由来酸無水物であることを特徴するバイオマス由来エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記バイオマスが、低分子リグニン,リグノフェノール,タンニン及びクラフトリグニンから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載のバイオマス由来エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記酸無水物が、酸クロやカルボキシルを有することを特徴とする請求項1または2記載のバイオマス由来エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂が、バイオマスにエポキシ基を付加したバイオマス由来エポキシ樹脂,石油由来エポキシ樹脂の少なくとも一方であることを特徴とする請求項1に記載のバイオマス由来エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
硬化後のガラス転移温度が、150℃以上であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のバイオマス由来エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1記載のバイオマス由来エポキシ樹脂組成物と、このエポキシ樹脂組成物を溶解するための溶媒とを含み、そのエポキシ樹脂組成物の濃度が0.5〜95%であることを特徴とするワニス。
【請求項7】
請求項6に記載のワニスを基材に含浸させ、乾燥して作製したことを特徴とするプリプレグ。
【請求項8】
請求項7記載のプリプレグを用いたことを特徴とするプリント配線板。
【請求項9】
請求項7記載のプリプレグを用いたことを特徴とする電子機器。
【請求項10】
請求項7記載のプリプレグを用いたことを特徴とする回転電機。
【請求項11】
請求項5記載のバイオマス由来エポキシ樹脂組成物の硬化物を解重合し、回収したバイオマスを再度、硬化剤及び/またはエポキシ樹脂に変性することを特徴とするバイオマス由来エポキシ樹脂組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−26483(P2011−26483A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−174885(P2009−174885)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】